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【事件名】類似ルーペの不正競争事件(2) 【年月日】平成24年12月26日 知財高裁 平成24年(ネ)第10069号 不正競争行為差止請求控訴事件 (原審・東京地裁平成22年(ワ)第42141号) (口頭弁論終結日 平成24年12月5日) 判決 控訴人 プリヴェAG株式会社 同訴訟代理人弁護士 大野聖二 同 井上義隆 同 小林英了 被控訴人 株式会社サクサン 被控訴人 有限会社リバティフィールド 上記両名訴訟代理人弁護士 長谷川純 同 金谷良 同補佐人弁理士 鹿又弘子 同 奥野貴男 同 岡田貴子 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは、原判決別紙被告商品目録記載の物件を製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供してはならない。 3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要(略称は、審級による読替えをするほか、原判決に従う。) 1 本件は、控訴人が、被控訴人らに対し、被控訴人らが原判決別紙被告商品目録記載の商品(被控訴人商品)を販売する行為は、控訴人が販売する原判決別紙原告商品目録記載1ないし3の商品(控訴人商品)との混同を生じさせるものであり、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、同法3条1項に基づき、被控訴人商品の製造、販売等の差止めを求める事案である。 2 原判決は、控訴人商品の共通形態が不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示に該当するとはいえないとして、控訴人の請求を棄却した。 3 前提事実及び争点は、原判決「事実及び理由」の第2の1及び2記載のとおりであるから、これを引用する。 第3 当事者の主張 1 当事者の主張は、後記2に付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における主張(争点1について) 〔控訴人の主張〕 (1) 控訴人商品の形態について ア 控訴人商品は、@耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであり(特徴@)、Aそのレンズ部分は眼鏡の重ね掛けができる程度に十分大きい一対のレンズを並べた略長方形状の形態(特徴A)という共通形態を備えている。 本件訴訟において、控訴人が製造等の差止めを求める被控訴人商品の形態は、原判決別紙被告商品写真目録のとおり、上記共通形態を備えるものである。 イ 原判決は、控訴人商品2及び3が「略長方形状とはいい難い」と判示した。 しかし、控訴人は、控訴人商品のレンズ部分の形状が厳格に「長方形」であると主張するものではなく、若干の丸みや切り欠き等が存することを前提として、「略長方形状」すなわち“おおよそ長方形”であると主張するものであり、控訴人商品が全てこれに該当することは明白である。 原判決の認定は、控訴人の主張を正解せずにされたものである。また、控訴人商品のレンズ部分の形状が略長方形状であることは、当事者間に争いのない事実であり、さらには、同種業者における共通の認識であるにもかかわらず、細部の形状を殊更に強調し、「おおよそ長方形」であることも否定した原判決は、明白な誤りを犯している。 さらに、甲6には、一対のレンズからなるルーペについて、長方形、半円形状やひょうたん型の横面を直線状に切り取ったような形状等が開示されているところ、控訴人商品のレンズ部分の形状が半円形状やひょうたん型の横面を直線状に切り取ったような形状に該当する余地がないことは明らかである。 ウ なお、原判決は、控訴人商品1と控訴人商品2及び3との間で、レンズ部分とつる取付け部分とを併せた部分の形状は大きく異なるとし、つる取付け部分を除いたレンズ部分の形状が控訴人商品の共通形態と捉えて、商品等表示性を検討するのは相当ではないと判示した。 しかし、つる取付け部分とレンズ部分とは、段差が設けられていることによって視覚上明確に区別することができ、また、つる取付け部分は像を拡大する機能を有していない点で機能上も大きな違いが存在しているのであるから、一般消費者は、控訴人商品の形態を認識するにあたり、つる取付け部分とレンズ部分とを一体的に捉えるものではない。 よって、原判決の上記判示部分は控訴人商品の共通形態及びその商品等表示性を判断するに際しては全くの無意味な事項である。 エ 以上のとおり、控訴人商品のレンズ部分の形状はいずれも略長方形状であるにもかかわらず、この点を否定し、単に「眼鏡の重ね掛けができる程度に十分に大きい一対のレンズを並べた形状」であるとして、その形状に商品等表示性を認めることができないとの結論を導いた原判決は、誤りである。 (2) 比較対照となる同種商品について ア 控訴人商品は、前記のとおり、特徴@及び特徴Aという共通形態を備えている。 ここで、かかる形態を備えるルーペが全く存在しない状況下において、控訴人は、眼鏡タイプのルーペというカテゴリに属する商品を、ほぼ独占的に販売するとともに、各種媒体を通じて控訴人商品を強力に宣伝広告してきたから、他の商品と識別し得る独特の特徴@及びAの共通形態を備える控訴人商品は、遅くとも平成21年4月末頃には、商品等表示性を獲得するに至った。 イ 「眼鏡タイプの形態」の意味 原判決は、控訴人商品の共通形態のうち、特徴@における「眼鏡タイプの形態」に関して、控訴人が控訴人商品の共通形態であると主張するものが、@市場において広く眼鏡タイプとされるルーペを含むものか、A通常の眼鏡の形態のものに限定するものかは、必ずしも明らかではないとして、この2つの場合を分けて検討している。 しかし、眼鏡に取り付けるクリップ状の形態からなるタイプ、レンズを取り付けたアーム部分がフレームから飛び出した特殊な形態からなるタイプ等は、控訴人商品の共通形態における「眼鏡タイプの形態」とは異なり、「眼鏡タイプの形態」とは通常の眼鏡の形態を意味しているから、そもそも、上記のような場合分けを行う必要はない。 したがって、以下においては、「眼鏡タイプの形態」を上記Aの通常の形態の眼鏡のものに限定した場合における原判決の認定が誤りであることについて、述べる。 ウ 比較対象となる商品はルーペであること 老眼鏡が比較対象の同種商品となる理由として、原判決は、@老眼鏡とルーペはいずれも高齢者が近くの小さい文字等が見にくい場合に用いるという点では機能上の共通点があること、Aネット上で同種商品として取り上げられていること及びB小売店等において近接した場所で販売している例が認められることを挙げている。 しかし、上記@は、高齢者が小さい文字等を見たいという使用場面における重なりであって、機能上の共通点ではない。老眼鏡を必要とする者がルーペだけで物を見ようとしても、程度の差こそあれ、単にぼけている像を拡大していることになることから、両者に機能上の共通点を見いだすことは不可能である。 次に、上記Aについては、そもそも控訴人商品は、パンフレット、チラシ、テレビショッピング、オンラインショッピングサイト、実店舗での販売態様等からルーペであることを強調した態様で販売されている。ネット上における一部の業者が控訴人商品を老眼鏡と同一のカテゴリーに分類し販売していることによって、控訴人商品の機能が老眼鏡に変遷することはあり得ない。また、控訴人商品を老眼鏡と同一のカテゴリーに分類しているネット上の一部業者においても、老眼鏡とは全く異なる態様でルーペとして控訴人商品の宣伝広告を行っているのであり、かかる実体を無視して、商品分類という極めて形式的な事柄にのみ着眼し、控訴人商品を老眼鏡と同種商品と解すべき理由はない。 上記Bについては、眼鏡タイプのルーペである控訴人商品が眼鏡エリアに近接して販売されることは、何ら不自然なことではなく、この点を捉えて控訴人商品が老眼鏡と同種商品となり得る余地はない。 さらに、控訴人商品が老眼鏡と同種商品とならないことは、控訴人商品は老眼鏡とは異なり、繰り返しテレビショッピングや通販雑誌等を通じた宣伝広告が行われているという事実、また、価格帯を異にしているという事実からも明確に裏付けられる。そもそも、「同種商品」とは、消費者が商品を選択する場合に、比較対象とする商品群を意味すると理解される。 控訴人商品は、通常の眼鏡型のルーペであり、かかる形態により、両手が使えるという点を特徴として、強力に宣伝広告してきており、この点が消費者に受け入れられてヒット商品となったものである。したがって、控訴人商品にとっての同種商品が老眼鏡であるとすると、控訴人商品が眼鏡型であり、両手が使えることは何らの特徴点になるものではなく、控訴人商品がこの点を強調して宣伝広告し、この点が消費者に受け入れられていたこととは全く相いれない認定である。 (3) 老眼鏡を比較対象とした場合であっても商品等表示性は肯定されること ア 原判決が、控訴人商品の商品等表示性を判断する際に、比較対象として老眼鏡を他の同種商品とした点は誤りであるが、老眼鏡を同種商品とした場合であっても、控訴人商品の商品等表示性を否定した原判決の認定は誤りである。 イ 原判決が羅列した証拠に記載されている老眼鏡のレンズ形状は、通常の眼鏡と異なるものではなく、眼鏡の重ね掛けができる程度に十分大きい一対のレンズを並べた特徴Aの略長方形状の形態を備えた老眼鏡は、一切開示されていない。 さらに、レンズ部分が「略長方形状」であることを控訴人商品の共通形態であることを否定したとしても、眼鏡の重ね掛けができる程度に十分大きい一対のレンズを並べた形態の老眼鏡は、上記証拠上一切開示されていない。 したがって、控訴人商品の商品等表示性を判断する際に、比較対象として老眼鏡を他の同種商品とする原判決の認定に従ったとしても、特徴Aの形態を備える控訴人商品は、他の同種商品である老眼鏡と識別し得る独特の特徴を有する。 (4) 小括 以上のとおり、原判決は、@控訴人商品のレンズ部分の形状がいずれも略長方形状であるにもかかわらず、これを否定した点、A控訴人商品の商品等表示性を判断する際には、ルーペを比較対象となる他の同種商品とすべきであるにもかかわらず、老眼鏡を他の同種商品とし、控訴人商品の商品等表示性を否定した点、B仮に、老眼鏡を比較対象となる他の同種商品とした場合であっても、控訴人商品の共通形態を備えた老眼鏡が存在していないにもかかわらず、控訴人商品が他の同種商品(老眼鏡)と識別し得る独特の特徴を有していることを否定した点において、誤っている。 〔被控訴人らの主張〕 (1) 控訴人商品の形態について ア 段差が設けられているとの控訴人の主張に対する反論 控訴人は、レンズ部分とつる取付け部分が同じ素材で作られており、両者が一体と見られるという原判決に対し、「段差が設けられている」と主張をしている。 しかし、控訴人商品はレンズ部分とつる取付け部分が一体になっていること、控訴人商品のレンズ部分とつる取付け部分は同じ表面上に存在しているため控訴人商品を観察する場合にはレンズ部分とつる取付け部分が必ず両方目に入ること及びレンズ部分とつる取付け部分は同じ素材であり色もほぼ同一であることから、需要者は、控訴人商品の形状に着目する場合には、当然レンズ部分とつる取付け部分を一体としてみることとなる。 以上のような控訴人商品のレンズ部分とつる取付け部分の状態に鑑みれば、レンズ部分とつる取付け部分との間に段差があるからといって、需要者が控訴人商品のレンズ部分のみを着目するとは考え難いのであり、「段差が設けられている」との反論は、反論になっていない。 イ つる取付け部分の機能に関する控訴人の主張に対する反論 控訴人は、つる取付け部分が像を拡大する機能を有していないと主張する。 しかし、商品の出所表示機能を判断する際の商品の形態とは、当然、外形的な形態を意味するのであるから、商品の形態を判断する際、商品の機能は考慮されない。そのため、控訴人商品の形態に関する問題に、機能が異なるとの主張をしても全く無意味であり、控訴人の主張は失当である。 ウ レンズ部分のみを見ても略長方形状に当たらないこと 控訴人商品2のレンズ部分の形状は、上辺部分と下辺部分にはある程度の長さの直線部分が認められるが、左辺及び右辺には、ほとんど直線部分が認められない。そして、左辺及び右辺は、その長さの中央部分から緩く弧を描いて下辺とつながっている。かかる控訴人商品2のレンズの形状は、左辺及び右辺から下辺にかけて、四分円の形状をしているものと評価できる。このように、左辺及び右辺から下辺にかけて四分円の形状をしているものは、全体としてみて、略長方形とは評価し得ない。 また、控訴人商品3のレンズ部分の形状は、下辺の中央部分にはっきりと凹みがあるため、全体として略長方形とは評価し得ない。 したがって、控訴人商品2及び3のレンズ部分の形状は、全体としてみて略長方形に当たらない。 (2) 控訴人商品の形態は商品等表示性を有しないこと 以下のとおり、控訴人商品は、一般消費者から老眼鏡と同種商品として認識されている。 ア 控訴人商品は、多数のインターネットショッピングサイトにおいて「老眼鏡」「リーディンググラス」又は「眼鏡」として分類されている。 また、楽天市場において、控訴人商品は、「老眼鏡」として販売されている。ドリームコンタクトヤフー店においては、控訴人商品は、「拡大鏡」「メガネタイプ」「ハズキ」「老眼鏡[シニアグラス]」「AG」の検索によって表示されるよう設定されているため、一般消費者は、「拡大鏡」と「老眼鏡」とを明確に区別していない。 SeeSaaBLOGの「老眼鏡お得な情報館」において、控訴人商品が紹介されている。したがって、一般消費者は、控訴人商品を老眼鏡の一種と捉えていることが明らかである。 イ したがって、一般消費者は、控訴人商品を「老眼鏡」「リーディンググラス」又は「眼鏡」に分類される商品の中の一商品と捉えており、老眼鏡とルーペとを明確に区別していない。 ウ 控訴人は、老眼鏡を必要とする者がルーペだけで物を見ようとしても、程度の差こそあれ、単にぼけている像を拡大していることになるから、両者に機能上の共通点を見いだすことは不可能であると主張する。 しかし、まず、老眼鏡ないしルーペの使用者は、小さい文字や物を見やすくすることを目的として用いるところ、視力に合わせた老眼鏡を用いると、ぼけて見えている小さい文字や物がはっきり見えるようになる結果、使用者の目的を達成できることとなる。一方、ルーペを用いた場合にも、ぼけて見えている小さい文字や物が大きく見えるようになる結果、やはり使用者の目的を達成できる。したがって、視力に合わせた老眼鏡とルーペとでは、機能上の共通点がある。 また、老眼鏡には、薬事法の適用を受ける老眼鏡と、薬事法の適用を受けない老眼鏡の2種類のものがあるが、薬事法の適用を受けない老眼鏡は、医師の処方箋によって個々人の視力に合わせて調整される老眼鏡であり、その販売は購入者の健康を害するおそれがないために、薬事法の適用を受けない。一方、薬事法の適用を受ける老眼鏡は、出来合いの老眼鏡で、医師の処方箋なしに、作成、販売される老眼鏡であるが、これは、個々人の視力に合わせて調整することができないので、像を拡大する機能しか有しない。したがって、薬事法の適用を受ける老眼鏡は、像を拡大する機能しか有しないのであり、ルーペと全く同一の機能を有するのである。 エ 以上のように、一般消費者は老眼鏡とルーペを明確に区別せず、そもそも老眼鏡とルーペを同種商品として捉えている。そして、多数のインターネットショッピングにおける分類や販売状況等に鑑みると、控訴人商品は、一般消費者に老眼鏡と同種の商品として認識されていることが明白である。 (3) 老眼鏡と比較した場合に控訴人商品の形態は独特の特徴を有しないこと ア 控訴人の主張する控訴人商品の形態の特徴のうち、略長方形状の形態が認められないことは、原判決が正当に判示したとおりである。 イ また、被控訴人らは、控訴人が主張する控訴人商品の形態の特徴のうち、「一対のレンズを並べた」点についてもこれを争うものであるが、仮にこの点について控訴人の主張を前提にしても、控訴人商品の形態の特徴は、正に典型的な老眼鏡の形態そのものである。 ウ したがって、老眼鏡と比較した場合、控訴人商品の形態は独特の特徴を有しない。 (4) 小括 以上のように、一般消費者は控訴人商品を老眼鏡と同種の商品として認識している。そして、控訴人が主張する控訴人商品の特徴は、典型的な老眼鏡の形態そのものであり、独特の特徴を有しない。 したがって、控訴人商品の形態には、出所表示機能がなく、商品等表示性は認められない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 後掲証拠(証拠には枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1) 控訴人商品の種類及び形態について ア 控訴人商品の種類 控訴人商品は、いずれも、「ペアルーペ」という名称の商品であり、控訴人は、平成2年頃から控訴人商品1を、平成10年頃から控訴人商品2を、平成22年2月頃から控訴人商品3を販売している。 「ペアルーペ」には、控訴人商品とは別に、ポケットタイプ(携帯用のもの)、デスクタイプ(持ちやすい柄のついた卓上用のもの)等のシリーズがあるが、控訴人商品は、「フレームタイプ」であり、両手が使え、メガネの上からも使用できるものである。なお、控訴人商品2及び3には、無色(クリア)、パープル及びブラウンの3種類のカラーのものがある(甲2〜4、49〜52)。 イ 控訴人商品の形態 控訴人商品は、レンズ部分の左右に、耳に掛けて使用するためのつる(テンプル)を取り付けるための部分(つる取付け部分)を有し、つる取付け部分に、折り畳み自在に連結された銀色のつる(テンプル)が取り付けられており、さらに、レンズ部分の上部中央に、鼻パッド保持部材を介して、鼻に掛けて使用するための透明の鼻パッドが取り付けられている。レンズ部分は、いずれも、1枚のレンズではあるが、その中央に線状のスジとして看取される縦方向の谷状の窪みを有し、上記窪みを挟んで、その左右に、表面を凸状、裏面を凹状とするレンズがそれぞれ形成されている。レンズ部分の左右のつる取付け部分は、いずれも、レンズ部分と同じ透明の素材で形成されている(甲2〜4)。 ウ 控訴人商品1について 控訴人商品1は、透明のレンズの材質がメチルメタクリル(表面硬化コーティング)であり、フレームの材質はニッケルシルバー・クロームメッキである。控訴人商品1のレンズ部分は、上下辺が直線状、左右辺が曲線状の長方形に近い形状であり、その大きさは縦約47o、横約106oである。レンズ部分の左右のつる取付け部分は、レンズ部分とほぼ同一の幅をもって、そのまま横方向に伸びるようにして形成されており、レンズ部分とつる取付け部分は、全体として、ほぼ長方形状となっている(甲2)。 エ 控訴人商品2について 控訴人商品2は、透明のレンズ(ただし、パープル及びブラウンのタイプについては、レンズが淡い紫色又は茶色に着色されている。)の材質がメチルメタクリル(表面硬化コーティング)であり、フレームの材質がニッケル銅合金、パラジウムメッキである。控訴人商品2のレンズ部分は、左右下隅部分が丸みを帯びるよう角を切り落としたような形状となって、丸みを帯びた左右辺につながっている。その大きさは、縦約41o、横約106oである。レンズ左右のつる取付け部分は、レンズ部分の左右辺の上隅部に、左右に凸状に形成されている(甲3)。 オ 控訴人商品3について 控訴人商品3は、透明のレンズ(ただし、パープル及びブラウンのタイプについては、レンズが淡い紫色又は茶色に着色されている。)の材質がメチルメタクリル(アクリル樹脂)であり、フレームの材質はチタンである。控訴人商品3のレンズ部分は、下辺中央部分が浅い半円状に切り欠かれた形状となっており、下辺部分は、上記切欠き部分から左右に向けてやや斜め上方向に持ち上がっており、左右下隅はやや丸みを帯びた形状となって、丸みを帯びた左右辺につながっている。その大きさは、縦約42o、横約106oである。レンズ左右のつる取付け部分は、レンズ部分の左右辺の上側に、左右に凸状に形成されている(甲4)。 カ 控訴人商品の使用方法 控訴人商品は、いずれも、左右のつる(テンプル)を耳に掛け、鼻パッドを鼻に掛けて使用することができる。控訴人商品を掛けて使用すると、右眼及び左眼は、左右の各レンズ部分を通じ、物を拡大して見ることが可能となる。また、控訴人商品は、鼻パッドが鼻の先端付近に当たるよう下にずらして使用することにより、眼鏡の上に重ね掛けすることが可能なものとされている。 (2) 控訴人商品(ペアルーペ)の宣伝広告及び販売状況について ア 控訴人は、控訴人商品について、「今までのルーペとは違う」「ルーペの大革命」「拡大率1.6倍 ワイドな視野の拡大鏡」「こんなに便利なルーペ」「2枚のメガネ型レンズを組み合わせた、革命的な双眼拡大鏡」「生理工学を応用した設計により、広い視野と自然な双眼鏡を実現し、長時間の使用にも眼が疲れない、快適なルーペ」であるなどとして、販売している(甲2〜4)。 イ また、テレビショッピングでは、控訴人商品について、「らくらく拡大鏡」「両手が自由に!アイデアルーペ」「めがねの上からかけることができ、両手が自由に使えるルーペ」などとして宣伝されていた(甲7〜9、26〜28、68、69)。 ウ 通信販売カタログやポスターにおいて、控訴人商品は、「眼鏡型のルーペ」「こんなルーペが欲しかった」「かけられるルーペ」などとして掲載されている(甲14〜18、20、21、24、29、30、34、35)。 エ オンラインショッピングサイト等において、控訴人商品は、ルーペのカテゴリーに分類されているもの(甲71〜73)、商品型番に老眼鏡として掲載されているもの(乙3〜5、36)、「老眼鏡」「リーディンググラス」「眼鏡」として分類されているもの(甲41〜43、乙5、13〜17、21、37)があるほか、「老眼鏡お得な情報館」というホームページ(乙38)においても紹介されている。なお、「楽天市場」においては、老眼鏡とルーペは同じ「老眼鏡・ルーペ部門」として分類されている(乙22)。 他方、オンラインショッピングサイト等において、控訴人商品について、「ペアルーペは2枚の眼鏡型レンズを組み合わせた、革命的な拡大鏡です。」「快適なルーペ」(乙3〜5、14)、「老眼鏡(シニアグラス)タイプの拡大鏡ルーペ」(乙16)など、控訴人商品のルーペとしての性質を明らかにして説明しているものや、大きな文字で、「老眼鏡ではありません!ルーペです!!」と記載しているものもある(甲74)。 オ 丸善新宿京王店及びれんず屋神保町店においては、控訴人商品はルーペのコーナーに陳列され、丸善日本橋店及び東急ハンズ銀座店においては、控訴人商品が文房具売場に陳列されている。他方、西武百貨店池袋店及び東武百貨店池袋店においては、控訴人商品はメガネサロンの前に陳列され、眼鏡専門店において控訴人商品を取り扱っている例も多い(甲53、乙18)。 カ その他、情報誌、週刊誌等において、控訴人商品は、「メガネなしでも、メガネをしても、使用可能」と記載されている(甲31、32)。 キ 控訴人商品を含むペアルーペの平成15年4月から1年間の販売本数は3万3300本余、平成16年4月から1年間の販売本数は2万9600本余、平成17年4月から1年間の販売本数は1万7200本余、平成18年4月から1年間の販売本数は6400本余、平成19年4月から1年間の販売本数は9300本余、平成20年4月から1年間の販売本数は1万4500本余、平成21年4月から1年間の販売本数は4万8800本余、平成22年4月から7月までの販売本数は2万8700本余であり、その総数は18万9700本余である(甲5)。なお、平成20年度における老眼用眼鏡の出荷台数は、895万本余である(乙7)。 ク なお、控訴人商品は、テレビショッピングでは平成19年頃から取り上げられ、通信販売カタログでは平成18年頃から掲載され、電車内広告は平成21年に掲載された(甲7〜10、14〜18、24、弁論の全趣旨)。 (3) 眼鏡とルーペについて ア 前記(2)のとおり、控訴人商品を、老眼鏡と明示的に区別されたルーペとして販売しているものや、特に老眼鏡と関連付けずルーペとして販売しているものがある一方で、老眼鏡と同じ分類をして販売しているものがある。 イ なお、眼鏡は、不完全な視力を調整したり、強い光線を防ぐために目につけるレンズや色ガラスなどを用いた器具を意味し、老眼鏡は、老眼(水晶体の屈折能力が年を取るとともに衰え、近くのものが見えにくくなった目)を矯正するための凸レンズを用いた眼鏡をいう。これに対し、ルーペは、拡大鏡を意味するもので、ピントを合わせるものではない(甲44〜48、65)。 ウ ルーペには、眼鏡ルーペ、ヘッドルーペ、デスクルーペ(スタンドルーペ)、ハンドルーペ、アクセサリールーペ、ポケットルーペ、手芸用ルーペ(ネックルーペ)等、様々な種類のものがある。また、双眼メガネルーペは、メガネの感覚そのままで、両眼で見ることができる、便利で見やすいルーペであるところ、その中にも、クリップタイプのものやメガネタイプのもの等がある(甲6、39)。 (4) 他社製品 ア 池田レンズ工業株式会社(池田レンズ)は、平成16年頃から、双眼メガネルーペを販売していたが、その「メガネタイプ」は、@耳と鼻に掛ける眼鏡タイプのルーペであって、Aそのレンズ部分は一対のレンズを並べた略長方形状の形態を備えているが、「メガネ使用でない方に」と記載され、眼鏡の重ね掛けができるものではない。そのレンズは通常の眼鏡のレンズに比べ小さいものであるが、交換レンズとして大きいレンズも販売されている。 また、同社の双眼メガネルーペの「クリップタイプ」は、レンズが眼鏡型のフレームに直接取り付けられているものではなく、フレームから前方に突出したアームに取り付けられているものであるが、眼鏡にクリップで一対のレンズを取り付けることにより、眼鏡の上から重ね掛け可能なものとなっている(甲6)。 イ ドイツのエッシェンバッハ社は、平成20年4月の時点において、「ラボフレーム」という商品名のルーペを日本国内において販売していた。同商品において両眼レンズを備えた形態は、@耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであって、Aそのレンズ部分は一対のレンズを並べた略長方形状の形態であり、レンズの大きさは横約74o、縦約28oで、「ルーペ(眼鏡タイプ)」、「両手を自由に使うことができる眼鏡タイプのルーペ」として販売されており、眼鏡に重ねても使用可能なものとなっている。ただし、長さ約50oのアーム部がフレームから前方に突出しているが、アーム部はフレームから取り外して位置の調節ができるものである。 なお、同社は、当時「ラボクリップ」という商品名のルーペも販売していたところ、そのレンズは、眼鏡型のフレームから前方に突出したアームに取り付けられているものであるが、眼鏡にクリップで一対のレンズを取り付けることにより、眼鏡の上から重ね掛け可能なものとなっている。また、眼鏡タイプとして「マックスディテール」という商品名のルーペも販売していた(甲39、乙1、2)。 ウ 眼鏡タイプのルーペとして、以上のほか、種々の形態のものが販売されている。ルーペのレンズ部分についても、1枚のレンズからなる単眼のものと1対のレンズからなる双眼のものがあり、前者にも丸形、角形、楕円形のものがあり、後者にも長方形、半円状、ひょうたん型の一部を切り取った形状のものなど、様々な形状のものがあり、また、そのレンズの大きさも様々である(甲6、39、乙1、2)。 (5) 被控訴人商品について ア 被控訴人サクサンは、平成22年7月頃から、被控訴人リバティフィールドが運営するオンラインショッピングサイト「面白生活」を通じて、被控訴人商品を販売している。被控訴人商品の商品名は、当初「見えルーペ」であったが、その後、「見えグラス」に変更された(甲36)。 イ 被控訴人商品の形態は、原判決別紙被告商品写真目録のとおりであり、老眼拡大鏡として販売されている(甲36)。 2 争点1(控訴人商品の商品形態の商品等表示性の有無)について (1) 商品の形態と商品等表示性 不正競争防止法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ、その趣旨は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、事業者間の公正な競争を確保することにある。 同号にいう「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには、@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性)、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。 (2) 控訴人商品の共通形態 ア 控訴人は、控訴人商品は、@耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであり(特徴@)、Aそのレンズ部分は眼鏡の重ね掛けができる程度に十分大きい一対のレンズを並べた略長方形状の形態(特徴A)という共通形態を備えている旨主張する。 イ 前記1(1)に認定した控訴人商品の形態によれば、控訴人商品は、いずれも、@2本のつる(テンプル)と鼻パッドが設けられ、つる(テンプル)を耳に、鼻パッドを鼻に掛けて使用する眼鏡型の形態を有する、物を拡大して見るために使用される拡大鏡(ルーペ)であり、Aレンズ部分の中央の縦線状のスジ(窪み)の左右にレンズが設けられ、レンズ部分全体の大きさは、横約106o、縦約41〜47oで、眼鏡の上に重ね掛けして使用可能なものである。 したがって、控訴人商品は、控訴人が共通形態として主張する特徴@(耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであること)を備え、特徴Aのうち、そのレンズ部分が眼鏡の重ね掛けができる程度に十分に大きい一対のレンズを並べた形態であることをいずれも共通して備える形態であるということができる。 ウ そして、控訴人商品1は、レンズ部分が略長方形状の形態ということができ、控訴人商品2も、レンズ部分の左右下隅が丸みを有するものの略長方形状といえなくもないが、控訴人商品3は、レンズ部分の左右下隅が丸みを有する形状となっている上に、下辺中央部に半円状の切り欠き部分を有しており、略長方形状とはいい難いものである。いずれにせよ、控訴人商品1ないし3の共通形態として、レンズ部分が略長方形状の形態であるということは困難である。 エ 他方、被控訴人らは、控訴人商品のレンズは「一体成形」の方法で製造された1枚のレンズであるから、「一対のレンズを並べた」と表現することは不適切であると主張する。 しかし、控訴人商品のレンズ部分は、中央の縦線状のスジを挟んで、その左側部分は左眼用に、右側部分は右眼用に、各別にレンズとして形成されているのであるから、「一体成形」の方法で製造された1枚のレンズであるとしても、これを「一対のレンズを並べた」と表現することができる。 オ 以上のとおり、控訴人商品の共通形態は、「耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであり、そのレンズ部分は眼鏡の重ね掛けができる程度に十分大きい一対のレンズを並べた形態」であるということができる。 (3) 控訴人商品の共通形態の特別顕著性 ア 前記1(4)のとおり、眼鏡タイプのルーペは、種々の形態があるルーペの1つとして、控訴人以外の会社からも販売されており、@耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであり、A一対のレンズを並べて眼鏡と重ね掛けができるようにした商品も販売されている。 なお、控訴人は、眼鏡タイプのルーペのカテゴリーにおいて控訴人商品3がほぼ100%のシェアを有すると主張し、電話聞き取りの結果としてこれに沿う甲6(控訴人取締役 A の陳述書)を提出する。しかし、電話聞き取りの相手方が全国の32の控訴人の取引先であり、控訴人商品を取り扱う膨大な数の店舗数に比べ、その割合が多いとはいえないし、現に甲6の別紙2には、他社の眼鏡タイプのルーペが掲載されていることからも、甲6を商品のシェアに係る控訴人の上記主張を裏付ける証拠として、直ちに採用することはできない。 イ 以上によれば、控訴人商品の共通形態のうち、耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであり、そのレンズ部分は一対のレンズを並べた形態であり、眼鏡に重ね掛けができるという点については、従前、他社製品にもみられたものであるということができ、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできない。 なお、控訴人商品の共通形態のうち、レンズ部分が「眼鏡の重ね掛けができる程度に十分に大きい」一対のレンズを並べた形態である点については、エッシェンバッハ社や池田レンズ等の他社製品であるルーペに、全く同一のものは見当たらない。しかし、前記1(4)のとおり、一対のレンズを眼鏡の上から重ね掛けするという発想の商品もみられるところであり、また、「眼鏡タイプのルーペ」として種々の形態のものが販売され、流通しており、そのレンズの大きさも様々であることに照らすと、控訴人商品のレンズが「眼鏡の重ね掛けができる程度に十分に大きい」一対のレンズを並べた形態であることによって、需要者において控訴人商品につき格段の強い印象が生じるものとはいえない。よって、上記レンズの大きさの点を理由として、控訴人商品の共通形態が、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有することになるということはできない。 ウ 控訴人は、同種商品はルーペであり、また、老眼鏡を同種商品とみた場合にも商品等表示性が肯定されると主張する。 前記1(2)に認定の市場における控訴人商品の取扱い状況によれば、控訴人は、控訴人商品を、ルーペとして販売し、宣伝しているものの、オンラインショッピングサイトでは、必ずしもルーペとしてではなく、老眼鏡に分類されて宣伝販売されているものもある。そして、多数の商品を不特定多数の者に対して広告するウェブサイト広告においては、広く同種商品を紹介する目的で、控訴人商品を老眼鏡と同種商品として取り上げている例があり、小売店等においては、眼鏡と控訴人商品を別の売場で販売しているところもあるものの、近接した場所で販売している例も多い。また、老眼鏡とルーペはいずれも高齢者が近くの小さい文字等が見にくい場合に用いるという点では機能上の共通点がある。これらの事情に照らせば、控訴人商品は、市場において、それが老眼鏡と同種商品ではなく、異なる種類の商品であることが明確に区別して販売されているとはいえず、需要者においても、老眼鏡と明確に区別して認識しているとはいえない。そうすると、控訴人商品が独特の形態的特徴を有するか否かを判断するについて、ルーペを原則としつつも、市場において同種商品とされることがある老眼鏡の形態との比較をすることも許されるというべきである。 そして、ルーペを同種商品とみた場合に、控訴人商品の共通形態が、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということができないことは、前記イのとおりであるし、老眼鏡を同種商品とみた場合にも、控訴人が控訴人商品の共通形態であると主張する特徴@及び特徴Aは、老眼鏡が有する形態(甲76、77、79、乙27)に類似し、これと客観的に異なる顕著な特徴を有しているということはできない。 したがって、控訴人商品の共通形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできない。 (4) 小括 以上のとおり、控訴人商品の共通形態は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできず、不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示に該当するということはできない。 3 結論 以上の次第であるから、その余の点について検討するまでもなく、控訴人の請求は理由がない。これと同旨の原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は棄却されるべきである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 部眞規子 裁判官 齋藤巌 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