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【事件名】ニンテンドーDS専用タッチペンの不正競争事件 【年月日】平成24年12月25日 東京地裁 平成23年(ワ)第36736号 不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成24年10月9日) 判決 静岡市葵区<以下略> 原告 株式会社キーズファクトリー 訴訟代理人弁護士 御宿哲也 同 福元陽子 同 竹川英辰 福岡市博多区<以下略> 被告 株式会社ゲームテック 訴訟代理人弁護士 石渡一史 同 三留和剛 主文 1 被告は、原告に対し、296万7416円及びこれに対する平成23年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、446万円及びこれに対する平成23年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、別紙原告商品目録1ないし3記載の各商品(以下「原告各商品」と総称し、それぞれを「原告商品1」、「原告商品2」、「原告商品3」という。)を販売する原告が、別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」という。)を販売する被告に対し、被告商品は原告各商品の形態を模倣した商品であるから、被告による被告商品の販売は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争行為に当たる旨主張して、同法4条に基づき、損害賠償を求めた事案である。 2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。) (1) 当事者 ア 原告は、子供用玩具の開発、製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。 イ 被告は、テレビゲーム機及びその関連機器類のハードウェア・ソフトウェアの企画、開発、販売及びその仲介並びに輸出入等を目的とする株式会社である。 (2) 原告各商品 ア 原告商品1(検甲1)は、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS Lite」専用のコイル状ストラップ付きタッチペン、原告商品2(検甲2)は、同「ニンテンドーDSi」専用のコイル状ストラップ付きタッチペン、原告商品3(検甲3)は、同「ニンテンドーDSi LL」専用のコイル状ストラップ付きタッチペンであり、いずれも任天堂株式会社(以下「任天堂」という。)のライセンス商品である。 原告各商品は、コイル状ストラップを付けたままで、上記各ゲーム機本体への収納が可能である。 イ 原告は、平成19年12月6日から原告商品1を、平成20年12月18日から原告商品2を、平成22年4月17日から原告商品3をそれぞれ販売している。 (3) 被告商品 ア 被告商品は、「ニンテンドーDSi」用及び「ニンテンドーDSi LL」用のコイル状ストラップ付きタッチペンである。 被告商品は、コイル状ストラップを付けたままで、上記各ゲーム機本体への収納が可能である。被告商品と原告商品2及び原告商品3とは、代替性があるが、被告商品と原告商品1とは、原告商品1が「ニンテンドーDS Lite」専用のタッチペンであるため代替性がない。 イ 被告は、平成22年6月12日から、被告商品を販売している。 (4) 原告各商品の形態と被告商品の形態との共通点及び相違点 原告商品1(検甲1)、原告商品2(検甲2)及び原告商品3(検甲3)の形態は、それぞれ別添写真1ないし3のとおりであり、被告商品(検甲4)の形態は、別添写真4のとおりである。 原告各商品の形態と被告商品の形態とを対比すると、次のとおりの共通点及び相違点がある(検甲1ないし4、弁論の全趣旨。各部位については、原告商品1の下記写真参照)。 (共通点) @ 全体がタッチペンとコイル状ストラップとからなる点。 A タッチペンは、ペン先とペン胴とペン尻で構成されている点。 B ペン先は、ペン胴側からペン先の先端に向けて次第に細くなった円錐形状部と、いわゆるタッチ操作の際にゲーム機本体の画面に接触するタッチ部とを備えている点。 C 円錐形状部の外面中央付近には、穴が二つ形成されており、この二つの穴は、円錐形状部の中心軸について軸対称に配置されている点。 D タッチ部は、円錐形状部の先端の直径より細い直径の円筒形であり、先端が半球形状である点。 E ペン胴は、一定の直径の棒状部であり、ペン胴の直径は、円錐形状部の基端側の直径と同じであり、ペン胴とペン先は滑らかに連なっている点。 F ペン胴の外周面に、滑り止め部がある点。 G ペン尻は、胴の外周面から外側に張り出した張出部と、張出部の裏側の薄板部と、張出部と薄板部の間の空間部を備えている点。 H 張出部は、タッチペンがゲーム機本体のタッチペン収納部に収納された状態であっても外部から見てとれる長方形の端面と、端面の両側にある側面とを備えている点。 I 薄板部は、張出部の裏側にあり、軸方向に延在する状態で配置されており、薄板部の横幅は、胴の直径よりも細く、また、薄板部には、小さな突起が形成されている点。 J 空間部は、薄板部の両側に貫通した空間である点。 K ストラップは、主マツバ紐と、コイル部と、タッチペンへの締結に用いられる従マツバ紐とで構成されている点。 L コイル部は、コイルと、コイルの両端に固定された二つの接合部を備えている点。 M コイルは、伸縮可能なコイル状の部材である点。 (以下においては、上記@ないしM記載の各共通点をその番号に応じて「共通点@」、「共通点A」などという。) (相違点) @ タッチペンの寸法が、原告商品1は全長87.5o、幅7.8o、径4.9o、原告商品2は全長92o、幅6.8o、径4.9o、原告商品3は全長96o、幅6.95o、径4.9oであるのに対し、被告商品は全長92o、幅6.2o、径4.9oである点。 A コイル部の長さが、原告商品1は72o、原告商品2は70o、原告商品3は125oであるのに対し、被告商品は92oである点。 B ペン胴の外周面に、原告商品1には「 NINTENDO DS Lite」及び「KEYSFACTORY TPL-001」との凸状に盛り上がった立体的な文字が、原告商品2には「KEYSFACTORY TPI-001 MADE IN CHINA」との凸状に盛り上がった立体的な文字が、原告商品3には「KEYSFACTORY TLL-001 MADE IN CHINA」との凸状に盛り上がった立体的な文字が表示されているのに対し、被告商品には文字が表示されていない点。 C 滑り止め部が、原告商品1では複数のディンプル形状の凹部を等間隔でペン軸方向(以下、単に「軸方向」という。)に並べられた凹部列を6列備え、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成され、原告商品2では鋳肌のような艶消し面が、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成され、原告商品3では複数の小判形状の凹部を軸方向に並べた凹部列を2列備え、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されているのに対し、被告商品では短冊形状の凹部を等間隔で軸方向に17個並べた凹部列を2列備え、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されている点。 D ペン尻の張出部が、原告各商品では、円弧形状にえぐれたえぐれ面と、えぐれ面に形成されたアーチ部と、えぐれ面及びアーチ部で囲まれた通し穴を備えているのに対し、被告商品では、張出部の端面のペン胴側の位置に、端面よりも一段低い小上がり状の上面が半円形の段差部があり、端面の大半の部分が、軸直角方向に延びる複数の溝(断面形状がV字形状)が等間隔で形成された状態で、縞模様になっており、ペン尻先端面は、靴の踵の裏面形状であり、張出部の端面の中央部とペン尻先端面の中央部には、それぞれ、四角形の開口がある点。 E ペン尻の薄板部の突起が、原告各商品では薄板部の外面の中央付近に形成されているのに対し、被告商品では薄板部の外面のペン尻端面寄りに形成されている点。 F コイルの接合部が、原告各商品ではコルク栓のような円錐台形状であり、直径が小さい一方の端部にコイルの一端が固定され、他方の端部にマツバ紐の両端が固定されているのに対し、被告商品では樽形又は俵形であり、その一方の端部の角のRの方が、他方の端部の角のRよりも曲率半径が小さく、Rの曲率半径が小さい方の端部にコイルの一端が固定され、他方の端部にマツバ紐の両端が固定され、接合部の外周面の他方の端部寄りの位置に接合部を取り巻くように、1本の線が形成されている点。 (以下においては、上記@ないしF記載の各相違点をその番号に応じて「相違点@」、「相違点A」などという。) 3 争点 本件の争点は、被告による被告商品の販売が不競法2条1項3号の不正競争行為に該当するか(争点1)、被告が賠償すべき原告の損害額(争点2)である。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(不競法2条1項3号の不正競争行為該当性)について (1) 原告の主張 ア 形態の実質的同一性 (ア) 被告商品と原告各商品は、共通点@ないしMのとおりの基本的構成及び具体的構成において共通し、被告商品の形態と原告各商品の形態との差異は、いずれも微差にとどまり、その形態はほぼ一致している。 すなわち、被告商品と原告各商品の形態は、タッチペンの寸法、コイル部の長さ及び滑り止め部の具体的形態を除くと、その形態はほぼ一致している。 そして、まず、タッチペンの寸法については、原告各商品と被告商品との寸法の差異(相違点@)は形態の実質的同一性に影響を与えない微差である。 次に、コイル部の長さについては、被告商品は、原告商品1及び2に比べてやや長め、原告商品3に比べてやや短めといった程度の差異(相違点A)であって、形態の実質的同一性の範囲内にあるというべきである。 さらに、滑り止め部の具体的形態については、被告商品では、短冊形状の凹部を等間隔で軸方向に並べた凹部列を2列設けたものにすぎず(相違点C)、その滑り止め部の形態としてはありふれたものである。 したがって、上記差異を考慮しても、被告商品と原告各商品の形態は、実質的に同一であるというべきである。 (イ)a これに対し被告は、後記のとおり、原告各商品の形態は、「ありふれた形態」であって、不競法2条1項3号により保護される「商品の形態」に該当しない旨主張する。 しかしながら、被告の主張は、以下のとおり理由がない。 (a) 不競法2条1項3号の規定によって保護される「商品の形態」は、商品全体の形態であり、必ずしも独創的な形態である必要はなく、また、同号の規定による保護が及ばない「ありふれた形態」とは、単に同種の先行品の中に類似した形態があるというだけでは足りず、同種の商品であれば、一般的に有している形態であることを要するというべきである。 そして、「商品の形態」が「ありふれた形態」であるか否かは、商品を全体として観察して判断すべきであって、全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出して個別にそれがありふれたものかどうかを判断した上で、各形状を組み合わせることが容易かどうかを問題にするというような手法により判断すべきものではない。 (b) しかるところ、原告商品1が販売される前には、純正タッチペンやこれに類するタッチペンとコイル状ストラップを組み合わせた商品は市場になかったものであり、これらを組み合わせた原告各商品の形態がありふれているとはいえないし、また、いわゆる「ニンテンドーDSシリーズ」用のストラップ付きタッチペンであれば、純正タッチペンに類するタッチペンにコイル状ストラップを組み合わせた形態を一般的に有しているとはいえない。原告各商品は、発売以降、爆発的なヒットを記録し、商業上の成功を収めており、このことは、原告各商品の形態が同種の商品であれば一般的に有している形態ではなかったことを示すものにほかならない。 被告主張の「収納タッチペンセット」(検乙1)は、タッチペンとコイルをつなぐ小さな金属製フック(スモールパーツ)が用いられ、ペン先に純正タッチペンとは異なる素材が用いられている点、布製ストラップとタッチペンをつなぐ部分にコイルが使用されているものの、コイル状ストラップは使われていない点、コイルを装着した状態でタッチペンをゲーム機本体に完全に収納することはできない点、タッチペンに塗装がされている点などで原告各商品と相違し、原告各商品の形態がありふれた形態であることの根拠となるものではない。 (c) 前記(a)のとおり、「商品の形態」が「ありふれた形態」であるか否かは、商品を全体として観察して判断すべきであるから、原告各商品の形態中、純正タッチペンに類するタッチペン及びコイル状ストラップの各形状につき、これを個別に見た場合に、いずれかの形状を備えた商品が原告各商品の販売以前から存在していたとしても、そのことから、原告各商品の形態が「ありふれた形態」に該当するということはできない。 (d) したがって、原告各商品の形態が不競法2条1項3号の規定による保護が及ばない「ありふれた形態」であるとの被告の主張は、理由がない。 b また、被告は、後記のとおり、原告各商品の形態は、不競法2条1項3号の「商品の形態」から除外される同号括弧書きの「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」に該当する旨主張する。 しかしながら、原告各商品の機能は、タッチペンの紛失・落下を防止できること(「つながる」こと)、タッチペンがゲーム機本体に収納できること(「しまえる」こと)の2点であるところ(甲4の1ないし3)、コイル状ストラップはタッチペンとゲーム機本体をつなげるために技術的に採らざるを得ない必然の形態とはいえないから、原告各商品の形態は、上記各機能を確保するために不可欠な形態ではない。 したがって、被告の上記主張は、理由がない。 イ 依拠 @被告商品の形態と原告各商品の形態は、実質的に同一であり、しかも、被告商品と原告商品2及び3は、同じゲーム機を対象とし、全く同じ機能を有すること、A原告商品1の販売開始日から被告商品の販売開始日までおよそ2年6か月余りの期間が経過し、その間、原告各商品は、広く宣伝広告がされ、各小売店での店頭販売及びオンライン販売等により、累計55万6000本の販売実績を有し、市場において広く流通していたこと、B被告の業務内容がゲーム機のアクセサリー類の開発・販売という点で、原告の業務内容と競合する関係にあり、被告において原告各商品の形態を知ることは容易であったことなどからすれば、被告は、被告商品の開発時に原告各商品を認識し、その形態に依拠して被告商品を作り出したものといえる。 ウ まとめ 以上によれば、被告商品は原告各商品の形態に依拠して作り出された実質的に原告各商品と同一の形態の商品であるといえるから、被告商品は、原告各商品の形態を模倣した商品に該当するというべきである。 したがって、被告による被告商品の販売は、原告各商品の形態を模倣した商品の譲渡行為として、不競法2条1項3号の不正競争行為に該当する。 (2) 被告の主張 ア 原告商品1の形態模倣に係る不正競争行為の不成立 原告商品1は、「ニンテンドーDSLite」専用のタッチペンであり、被告商品と代替性がなく(前記争いのない事実等(3)ア)、被告商品が販売されたからといって、原告商品1の販売が阻害される関係にはない。 したがって、原告商品1と被告商品は市場において競争関係にないから、被告による被告商品の販売は、原告商品1の形態との関係で、不競法2条1項3号の不正競争行為に該当しない。 イ 形態の実質的同一性について (ア) ありふれた形態 原告各商品の形態は、「ニンテンドーDSシリーズ」のゲーム機本体に収納可能なタッチペンとコイル状ストラップを結合した形態である。 以下に述べるとおり、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させた商品は、原告商品1が発売される平成19年12月6日より前から、複数の同業他社により販売され、また、一般消費者も自ら製作してインターネット上で公表していたことからすると、原告各商品の形態は、市場において一般的に見受けられる同種の商品が通常有するところのごくありふれていて特段これといった特徴のない形態、いわゆる「ありふれた形態」であって、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当しない。 a 事業者の商品 (a) 「収納タッチペンセット」 平成18年9月11日、株式会社コロンバスサークル(以下「コロンバスサークル」という。)が、「ニンテンドーDSLite」の純正タッチペンに形状が類似し、そのゲーム機本体に収納可能なタッチペンにコイル状ストラップを結合させた商品(商品名「収納タッチペンセット」)(検乙2)の販売を開始した(乙16、21。別紙写真目録1の写真参照)。 また、平成19年4月27日には、株式会社アクラス(以下「アクラス」という。)が、同じく、「収納タッチペンセット」の商品名で、「ニンテンドーDS Lite」に収納可能なタッチペンとコイル状ストラップを結合した商品の販売を開始した(乙17。別紙写真目録2の写真参照)。 (b) 「ニンテンドーDSシリーズ用伸びるストラップ付タッチペン」 平成19年4月17日、ロアス株式会社(以下「ロアス」という。)が、タッチペンとコイル状ストラップを結合した形態の商品(商品名「ニンテンドーDSシリーズ用伸びるストラップ付タッチペン」)(検乙3)の販売を開始した(乙2。別紙写真目録3の写真参照)。 (c) 「ストラップ付リトラクタブルミニスタイラス」 平成19年9月5日、「モバイルプラザ」は、店頭販売及びオンラインショップにおいて、携帯情報端末(PDA)やゲーム用として、「ストラップ付リトラクタブルミニスタイラス」の商品名で、タッチペンにコイル状ストラップが結合した形態の商品(検乙4)の販売を開始した(乙18ないし20。別紙写真目録4の写真参照)。上記商品は、「ニンテンドーDS」に収納可能である。 b 一般消費者の作品 (a) 平成18年2月12日に、100円ショップで販売されていた「ザ・携帯電話のび〜るストラップ」を利用した、携帯情報端末(W−ZERO3)に収納可能なスタイラス(ペン)にコイル状ストラップを結合させた形態の作品がインターネット上で公表されている(乙10。別紙写真目録5の写真参照)。 (b) 平成18年8月6日に、「ニンテンドーDS」用のタッチペンとスパイラルコードを結合させた形態の作品がインターネット上で公表されている(乙11。別紙写真目録6の写真参照)。 (c) 平成18年9月9日に、携帯情報端末(W−ZERO3)に使用するため、市販の「タッチペンDSロング」とコイル状ストラップを結合した形態の作品がインターネット上で公表されている(乙12。別紙写真目録7の写真参照)。「タッチペンDSロング」は、「ニンテンドーDS」に収納可能なタッチペンである。 (d) 平成18年9月20日に、PDA付属の収納可能なスタイラス(ペン)の端に穴を開け、100円ショップで購入した「のびるストラップ」と結合させた形態の作品がインターネット上で公表されている(乙13。別紙写真目録8の写真参照)。 (e) 平成18年11月5日に、スタイラス(ペン)と「カールコードストラップ」(コイル状ストラップ)を結合させた形態の作品がインターネット上で公表されている(乙14。別紙写真目録9の写真参照)。 (f) 平成19年10月28日に、市販の「サイバーガジェット製CYBER・メタルタッチペン(DSLite専用)」と市販の「のび〜るストラップ」とを結合した形態の作品がインターネット上で公表されている(乙15。別紙写真目録10の写真参照)。上記タッチペンは、「ニンテンドーDS Lite」に収納可能である。 (イ) 商品の機能を確保するために不可欠な形態 原告各商品の機能は、@タッチペンの紛失・落下を防止すること、Aストラップが操作の妨げにならないように伸縮すること、Bタッチペンがゲーム機本体に収納可能であることにある。 上記@の機能を確保するために「タッチペンにストラップを連結する形態」を採用すること、上記Aの機能を確保するために伸縮性のあるストラップとして「コイル状ストラップ」を採用することは、いずれも同種の商品の基本的な機能や効果を果たすために不可欠であるから、原告各商品の形態のうち、タッチペンとストラップを連結し、そのストラップにコイル状ストラップを採用した形態は、「商品の機能を確保するために不可欠な形態」(不競法2条1項3号括弧書き)である。 また、タッチペンを「ニンテンドーDS Lite」、「ニンテンドーDSi」又は「ニンテンドーDSi LL」に収納するためには、ゲーム機本体の収納孔の形状に合致させる必要があり、純正タッチペンと同様な形態を不可避的に採用せざるを得ないから、原告各商品の形態のうち、純正タッチペンに類するタッチペンの形態は、上記Bの機能を確保するために不可欠であり、「商品の機能を確保するために不可欠な形態」(不競法2条1項3号括弧書き)である。 以上によれば、原告各商品の形態は、不競法2条1項3号括弧書きの「商品の機能を確保するために不可欠な形態」であるから、同号の「商品の形態」に該当しない。 (ウ) 形態の実質的同一性の不存在 a 前記(ア)の「ありふれた形態」を除くと、原告各商品と被告商品の形態が共通する部分は、「ペン胴の外周面に、滑り止め部がある点」(共通点F)のみである。 そして、ペンを使用するときに指が滑らないようにするために、ペンの外周面に滑り止め部分を設けることは、極めて一般的なことであり、普通に想定される形態の中の選択肢の一つであるから、形態の実質的同一性の判断では評価すべきものではない。 そうすると、原告各商品と被告商品の形態には、共通点が全くないことになる。 b また、原告各商品と被告商品とは、タッチペンの寸法、コイル部の長さ、ペン胴の外周部の文字表示の有無、タッチペンの滑り止め部の形態、ペン尻の張出部の形態、ペン尻の薄板部の突起の位置及びコイル接合部の形態が異なり(相違点@ないしF)、これらの具体的な形態の相違から、異なる印象を与えている。 c 以上によれば、被告商品の形態は、原告各商品の形態と実質的に同一であるとはいえない。 ウ 依拠について (ア) 被告は、平成16年12月に「イージータッチペンD」を商品名とする「ニンテンドーDS」に収納可能なタッチペン(乙6、7。別紙写真目録11の写真参照)を、平成18年5月に「イージータッチペンDLite」を商品名とする「ニンテンドーDS Lite」に収納可能なタッチペン(乙8。別紙写真目録12の写真参照)を販売し、さらに平成19年7月には「指タッチペン」を商品名とする伸縮するコイル状ストラップ付きのタッチパネルを操作する商品(乙5。別紙写真目録13の写真参照)を販売していた。 「イージータッチペンD」及び「イージータッチペンD Lite」は、ストラップを通すための穴が設けられている。また、「指タッチペン」は、伸縮性のコイル状ストラップにより、「ニンテンドーDS」や「ニンテンドーDS Lite」のゲーム機本体と連結させて使用する商品である。 このように被告は、原告各商品の販売開始前から、「ゲーム機本体に収納可能なタッチペン」及び「コイル状ストラップを連結した商品」を開発して販売し、その商品開発の延長線上において、原告各商品の存在とは無関係に、その形態を参考とすることなく、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンに、コイル状ストラップを連結した商品として被告商品を開発したものである。 (イ) また、被告商品の販売が開始された平成22年6月ころには、多数の事業者が、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンとコイル状ストラップを連結した形態の商品を販売していた。 殊に、平成21年末に、株式会社大創産業(以下「ダイソー」という)が、全国展開している100円ショップで、「タッチペンのびるストラップ付き」を商品名とする「ニンテンドーDSi」、「ニンテンドーDS Lite」に収納可能なタッチペンとコイル状ストラップを連結した商品(別紙写真目録14の写真参照)の販売を開始している。 このように市場において、収納可能なタッチペンとコイル状ストラップを連結した形態の商品は、多数の事業者が販売し、同種商品の標準的な形態・一般的な形態として広く普及していたものであり、被告商品の形態は、同種商品の標準的な形態・一般的な形態にすぎず、原告各商品の形態に依拠して開発されたものでないことは明らかである。 (ウ) 以上のとおり、被告商品は、被告が原告各商品に依拠して作り出したものではない。 エ まとめ 以上によれば、被告商品は原告各商品の形態を模倣した商品に該当するものといえないから、被告による被告商品の販売が不競法2条1項3号の不正競争行為に該当するとの原告の主張は、理由がない。 2 争点2(原告の損害額)について (1) 原告の主張 ア 不競法5条1項の損害額 (ア) 被告は、故意又は過失により、前記1(1)の不正競争行為を行って原告の営業上の利益を侵害したから、不競法4条に基づいて、原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。 (イ) 被告は、平成22年6月12日から同年12月6日までの間に、被告商品を少なくとも3万本販売した。 (ウ) 原告商品2及び3は、被告商品と代替性があるから、「その侵害がなければ販売することができた物」(不競法5条1項)に該当する。 原告商品2及び3を販売した場合の1本当たりの利益額は、平均138.4円である。 したがって、被告の前記1(1)の不正競争行為により原告が受けた損害額は、不競法5条1項により、415万2000円となる。 (計算式 30、000本×138.4円) イ 弁護士費用 被告の前記1(1)の不正競争行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当の損害額は、50万円を下らない。 ウ まとめ 以上によれば、原告は、被告に対し、不競法4条に基づく損害賠償として446万円(前記ア及びイの合計額の一部)及びこれに対する平成23年9月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2) 被告の主張 原告の主張は争う。 被告商品の平成22年6月12日から同年12月6日までの間の販売数量は、1万9490本(乙26)であり、3万本ではない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(不競法2条1項3号の不正競争行為該当性)について (1) 原告商品1の形態模倣に係る損害賠償請求について 本件の原告の請求は、被告による被告商品の販売が原告各商品の形態模倣の不正競争行為(不競法2条1項3号)に該当し、これにより原告の営業上の利益を侵害したことを理由に、同法4条に基づいて、被告に対し、同法5条1項により算定される原告の損害額の損害賠償を求めるものである。 ところで、不競法5条1項は、同法2条1項1号から9号まで又は15号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された被侵害者が、その侵害の行為を組成した物の譲渡数量に、その侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じた額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、被侵害者が受けた損害の額とすることができる旨を規定したものであって、被侵害者において侵害の行為を組成した物の譲渡がなければ自己の物を販売することができたことによる得べかりし利益(逸失利益)の損害が発生していることを前提に、その損害額の算定方法を定めたものである。そうすると、侵害の行為を組成した物に該当すると主張する物と自己の物とが、市場において、代替性がなく、相互に補完する関係にないのであれば、上記得べかりし利益の損害が発生したものとはいえないから、不競法5条1項の規定を適用する余地はないものと解される。 しかるところ、原告商品1が被告商品と代替性がないことは、前記争いのない事実等(3)アのとおりであるから、原告は、原告商品1との関係では、被告に対し、原告主張の不競法5条1項に基づく損害額の損害賠償を求めることができないというべきである。 被告による被告商品の販売は、原告商品1の形態との関係で、不競法2条1項3号の不正競争行為に該当しないとの被告の主張は、上記と同様の趣旨をいうものと解される。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告商品1との関係では、原告の請求は理由がないというべきである。 そこで、以下においては、原告商品2及び3との関係において、被告による被告商品の販売が原告主張の不正競争行為に該当するかどうかについて判断することとする。 (2) 不競法2条1項3号の「商品の形態」該当性について ア 原告商品2及び3の形態 (ア) 原告商品2(検甲2。別添写真2参照)及び原告商品3(検甲3。別添写真3参照)は、それぞれ携帯ゲーム機「ニンテンドーDSi」専用のコイル状ストラップ付きタッチペン及び同「ニンテンドーDSiLL」専用のコイル状ストラップ付きタッチペンである。 前記争いのない事実等(4)と証拠(検甲2、3)によれば、以下の事実が認められる。 a 原告商品2及び3は、いずれも、全体がタッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとからなり、共通点@ないしMの形態を有し、さらには、ペン尻の張出部が、円弧形状にえぐれたえぐれ面と、えぐれ面に形成されたアーチ部と、えぐれ面及びアーチ部で囲まれた通し穴を備えている点、ペン尻の薄板部の突起が薄板部の外面の中央付近に形成されている点、コイルの接合部がコルク栓のような円錐台形状であり、直径が小さい一方の端部にコイルの一端が固定され、他方の端部にマツバ紐の両端が固定されている点において、形態が共通する(各部位については、前記争いのない事実等(4)記載の原告商品1の写真参照)。 b 原告商品2は、タッチペンが全長92o、幅6.8o、径4.9o、コイル部の長さが70oであり、タッチペンのペン胴の外周面に「KEYSFACTORY TPI-001 MADE IN CHINA」との凸状に盛り上がった立体的な文字が表示され、タッチペンの滑り止め部として鋳肌のような艶消し面がペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されている。 c 原告商品3は、タッチペンが全長96o、幅6.95o、径4.9o、コイル部の長さが125oであり、タッチペンのペン胴の外周面に「KEYSFACTORY TLL-001 MADE IN CHINA」との凸状に盛り上がった立体的な文字が表示され、タッチペンの滑り止め部が複数の小判形状の凹部を軸方向に並べた凹部列を2列備え、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されている。 (イ) 証拠(甲3ないし5(枝番のあるものは枝番を含む。)、検甲2、3)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品2及び3は、コイル状ストラップの主マツバ紐をゲーム機本体のストラップ穴に通してゲーム機本体に取り付けることが可能であり、また、コイル状ストラップを付けたままで、タッチペンをゲーム機本体のタッチペン収納部へ差し込むことによりタッチペン全体をゲーム機本体に収納することが可能であることが認められる。 イ ありふれた形態 被告は、原告商品2及び3の形態は、原告商品2及び3の販売開始前から、市場において一般的に見受けられる同種の商品が通常有するところのごくありふれていて特段これといった特徴のない形態、いわゆる「ありふれた形態」であって、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当しない旨主張する。 ところで、不競法2条1項3号の規定の趣旨は、他人が資金、労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらずことさら模倣した商品を、自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為は、模倣者においては商品化のための資金、労力や投資のリスクを軽減することができる一方で、先行者である他人の市場における利益を減少させるものであり、事業者間の競争上不正な行為として位置付けるべきものであるから、これを「不正競争」として規制することとしたものと解される。このような不競法2条1項3号の規定の趣旨に照らすならば、同号によって保護される「商品の形態」とは、商品全体の形態をいい、その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが、他方で、商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には、特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから、このようなありふれた形態は、同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解すべきである。そして、商品の形態が、不競法2条1項3号による保護の及ばないありふれた形態であるか否かは、商品を全体として観察して判断すべきであり、全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断し、その上で、ありふれたものとされた各形状を組み合わせることが容易かどうかによって判断することは相当ではない。 以上を前提に、被告の主張について具体的に検討することとする。 (ア) 被告は、原告商品2及び3の形態がありふれた形態であることの根拠として、原告商品2及び3の販売開始前から、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させた商品が複数の同業他社により販売されていた旨を主張する。 a 「収納タッチペンセット」について 乙16によれば、コロンバスサークルが、平成18年9月11日から、「収納タッチペンセット」の商品名の商品を販売していることが認められる。 しかし、コロンバスサークルが販売する「収納タッチペンセット」(検乙2、甲12)は、別添写真目録1の写真に示すように、タッチペンとコイルとを金属製のフック及び環状の金具で連結し、ゲーム機本体との接続は、バンドタイプの布製ストラップを介しているものであるから、バンドタイプの布製ストラップの構成を有せず、かつ、タッチペンとコイル状ストラップとをマツバ紐で連結している原告商品2及び3とは、全体としての形態が相違する。 また、甲13及び弁論の全趣旨によれば、アクラスが「収納タッチペンセット」の商品名の商品を販売し、その形態は、別添写真目録2の写真に示すように、タッチペンの色が異なる点を除き、コロンバスサークルが販売する「収納タッチペンセット」と同一であることが認められる。 したがって、上記と同様、アクラスが販売する「収納タッチペンセット」は、原告商品2及び3と全体としての形態が相違する。 b 「ニンテンドーDSシリーズ用伸びるストラップ付タッチペン」について 乙2によれば、ロアスが、平成19年4月17日から、「ニンテンドーDSシリーズ用伸びるストラップ付タッチペン」の商品名の商品を販売していることが認められる。 しかし、「ニンテンドーDSシリーズ用伸びるストラップ付タッチペン」(検乙3)は、タッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとから構成されているが、別添写真目録3の写真に示すように、タッチペンの寸法並びにそのペン胴及びペン尻の形態が原告商品2及び3と明らかに異なっており、また、コイル部の接合部は透明な材質で構成され、コイルの端部及びマツバ紐の端部を透視できる点において、原告商品2及び3と異なっており、原告商品2及び3と全体としての形態が相違する。 c 「ストラップ付リトラクタブルミニスタイラス」について 乙19によれば、株式会社ピーワーク(「モバイルプラザ」)が、平成19年9月5日から、「ストラップ付リトラクタブルミニスタイラス」を販売していることが認められる。 しかし、「ストラップ付リトラクタブルミニスタイラス」(検乙4)は、タッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとから構成されているが、別添写真目録4の写真に示すように、タッチペンのペン胴が金属製である上、ペン胴が伸縮可能な構成となっており、ペン胴がプラスチック製で、かつ、伸縮しない原告商品2及び3のタッチペンとは形態が異なり、また、コイル部の接合部が金属製の材質で光沢がある点においても原告商品2及び3と異なっており、原告商品2及び3と全体としての形態が相違する。 d 小結 以上によれば、被告が挙げる同業他社の各商品(前記aないしc)の形態は、いずれも原告商品2及び3の形態と全体としての形態が相違するものであるから、上記各商品が原告商品2及び3の販売開始前から市場に存在していたからといって、原告商品2及び3の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であることの根拠となるものではないというべきである。 (イ) また、被告は、原告商品2及び3の形態がありふれた形態であることの根拠として、原告商品2及び3の販売開始前から、一般消費者がゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させた作品(乙10ないし15)を自ら製作してインターネット上で公表していた旨を主張する。 a 乙10の作品について 乙10によれば、一般消費者が、平成18年2月12日ころ、別紙写真目録5記載のタッチペンの作品を製作し、インターネット上のウェブサイトに上記作品の写真及び製作方法を掲載していたことが認められる。 しかし、上記写真及び製作方法によれば、当該タッチペンは、接着剤でペンとストラップの紐とを接合させたものであるから、マツバ紐をペンの通し穴に通して連結している原告商品2及び3とは形態が異なり、また、コイル部の接合部が金属製の材質で光沢がある点においても、ペン胴がプラスチック製の原告商品2及び3と異なっており、原告商品2及び3と全体としての形態が相違する。 b 乙11の作品について 乙11によれば、一般消費者が、平成18年8月6日ころ、別紙写真目録6記載のタッチペンの作品を製作し、インターネット上のウェブサイトに上記作品の写真及び製作方法を掲載していたことが認められる。 しかし、当該タッチペンは、タッチペンとハード本体との接続は、バンドタイプの布製ストラップを介しているものであるから、バンドタイプの布製ストラップの構造を有せず、かつ、タッチペンとコイル状ストラップとをマツバ紐で連結している原告商品2及び3とは、全体としての形態が相違する。 c 乙12の作品について 乙12によれば、一般消費者が、平成18年9月9日ころ、別紙写真目録7記載のタッチペンの作品を製作し、インターネット上のウェブサイトに上記作品の写真及び製作方法を掲載していたことが認められる。 しかし、上記写真から、当該タッチペンは、ペン胴が伸縮可能な構成となっていることがうかがわれ、タッチペンのペン胴が伸縮しない原告商品2及び3とは、全体としての形態が相違する。 d 乙13の作品について 乙13によれば、一般消費者が、平成18年9月20日ころ、別紙写真目録8記載のタッチペンの作品を製作し、インターネット上のウェブサイトに上記作品の写真及び製作方法を掲載していたことが認められる。 しかし、上記製作方法によれば、当該タッチペンは、ペン尻にハンドドリルで穴を開けており、ペン尻に張出部、薄板部及び空間部を備えていないことがうかがわれ、ペン尻に張出部、薄板部及び空間部を備える原告商品2及び3とは、全体としての形態が相違する。 e 乙14の作品について 乙14によれば、一般消費者が、平成18年11月5日ころ、別紙写真目録9記載のタッチペンの作品を製作し、インターネット上のウェブサイトに上記作品の写真及び製作方法を掲載していたことが認められる。 しかし、上記写真及び製作方法によれば、当該タッチペンは、接着剤でペンとストラップの紐とを接合させたものであるから、マツバ紐をペンの通し穴に通して連結している原告商品2及び3とは形態が異なり、また、コイル部の接合部が金属製の材質で光沢がある点においても、ペン胴がプラスチック製の原告商品2及び3と異なっており、原告商品2及び3と全体としての形態が相違する。 f 乙15の作品について 乙15によれば、一般消費者が、平成19年10月28日ころ、別紙写真目録10記載のタッチペンの作品を製作し、インターネット上のウェブサイトに上記作品の写真及び製作方法を掲載していたことが認められる。 しかし、上記写真及び製作方法によれば、当該タッチペンは、タッチペンのペン胴が金属製である上、ペン胴が伸縮可能な構成となっており、ペン胴がプラスチック製で、かつ、伸縮しない原告商品2及び3のタッチペンとは形態が異なり、また、コイル部の接合部が金属製の材質で光沢がある点においても原告商品2及び3と異なっており、原告商品2及び3と全体としての形態が相違する。 g 小結 以上によれば、被告が挙げる一般消費者の各作品(前記aないしf)の形態は、いずれも原告商品2及び3の形態と全体としての形態が相違するものであるから、上記各作品が原告商品2及び3の販売開始前からインターネット上で公表されていたからといって、原告商品2及び3の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であることの根拠となるものではないというべきである。 (ウ) 以上のとおり、被告が挙げる同業他社の各商品の形態及び一般消費者の各作品の形態から、原告商品2及び3の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であるものと認めることはできない。 また、前記(ア)aないしc、(イ)aないしfの認定事実と弁論の全趣旨によれば、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させたことを特徴とする商品には、タッチペンを構成するペン先、ペン胴及びペン尻、コイル状ストラップのコイル部を構成するコイル、接合部等の形状、材質等において多様な選択肢があり得るというべきであるから、上記特徴は、そもそも抽象的な特徴にすぎないものであって、不競法2条1項3号の規定により「商品の形態」として保護される商品の具体的な形態に当たらないものといわざるを得ない。 したがって、原告商品2及び3の形態が、「ありふれた形態」であって、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当しないとの被告の主張は、理由がない。 ウ 商品の機能を確保するために不可欠な形態 被告は、原告各商品の機能は、@タッチペンの紛失・落下を防止すること、Aストラップが操作の妨げにならないように伸縮すること、Bタッチペンがゲーム機本体に収納可能であることにあるところ、上記@の機能を確保するために「タッチペンにストラップを連結する形態」を、上記Aの機能を確保するために伸縮性のあるストラップとして「コイル状ストラップ」を、上記Bの機能を確保するために「純正タッチペンに類する形態」を採用することは不可欠であるから、原告各商品の形態は、不競法2条1項3号括弧書きの「商品の機能を確保するために不可欠な形態」であり、同号の「商品の形態」に該当しない旨主張する。 しかしながら、前記イ(ウ)で述べたとおり、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させたことを特徴とする商品には、タッチペンを構成するペン先、ペン胴及びペン尻、コイル状ストラップのコイル部を構成するコイル、接合部等の形状、材質等において多様な選択肢があり得るものであって、被告が主張するところの上記@ないしBの機能を確保するための具体的な形態として、原告各商品の形態を必然的に採用せざるを得ないものと認めることはできないから、被告の上記主張は、採用することができない。 エ まとめ 以上によれば、原告商品2及び3の形態は、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当するというべきである。 (3) 形態の実質的同一性の有無について ア 被告商品の形態 被告商品(検甲4。別添写真4参照)は、携帯ゲーム機「ニンテンドーDSi」用及び同「ニンテンドーDSi LL」用のコイル状ストラップ付きタッチペンである。 前記争いのない事実等(4)と証拠(検甲4)及び弁論の全趣旨によれば、@被告商品は、全体がタッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとからなり、タッチペンが全長92o、幅6.2o、径4.9o、コイル部の長さが92oであること、A被告商品は、コイル状ストラップの主マツバ紐をゲーム機本体のストラップ穴に通してゲーム機本体に取り付けることが可能であり、また、コイル状ストラップを付けたままで、タッチペンをゲーム機本体のタッチペン収納部へ差し込むことによりタッチペン全体をゲーム機本体に収納することが可能であることが認められる。 イ 原告商品2及び被告商品の形態の実質的同一性の有無 (ア) 原告商品2(検甲2。別添写真2参照)の形態と被告商品(検甲4。別添写真4参照)の形態とを対比すると、@両者は、全体がタッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとからなり、共通点@ないしMのとおりの構成態様を有する点で共通すること、Aタッチペンの寸法が、原告商品2は全長92o、幅6.8o、径4.9oであるのに対し、被告商品は全長92o、幅6.2o、径4.9oであり、被告商品の幅が0.6o狭いだけで(相違点@)、ほとんど同一であること、Bコイル状ストラップが、主マツバ紐と、コイル部と、従マツバ紐とで構成され、さらに、そのコイル部が、伸縮可能なコイルとその両端に固定された二つの接合部とで構成されているという具体的な構成において両者は共通し、その接合部の形態においても、原告商品2の接合部が円錐台形状であるのに対し、被告商品の接合部が外周面に1本の線が形成された樽形又は俵形であるという点で差異(相違点F)があるが、その差異は注意して観察しなければ気付かない程の微差であること、C上記@ないしBにより、原告商品2及び被告商品から受ける商品全体としての印象が共通することによれば、原告商品2と被告商品は、商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一であるものと認められる。 (イ) もっとも、原告商品2と被告商品は、上記(ア)A及びBで挙げた点のほかに、コイル部の長さ、ペン胴の外周部の文字表示の有無、タッチペンの滑り止め部の形態、ペン尻の張出部の形態及びペン尻の薄板部の突起の位置の各点(相違点AないしE)において相違するが、これらの相違は、以下に述べるとおり、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと評価すべきものであるから、原告商品2及び被告商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではない。 a コイル部の長さ(相違点A)について コイル部の長さが、原告商品2は70o、被告商品は92oであり、被告商品が22mm長い点で差異があるが、原告商品2及び被告商品のタッチペンの全長がいずれも92mmと同一であり、しかも、コイル部の具体的構成が共通すること(前記(ア)B)からすれば、上記の差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 b ペン胴の外周部の文字表示の有無(相違点B)について 原告商品2にはペン胴の外周部に「KEYSFACTORY TPI-001 MADE IN CHINA」との凸状に盛り上がった立体的な文字が表示されているのに対し、被告商品には文字が表示されていないが、原告商品2に表示された文字は、ペン胴と同色であって一見しただけでは気付かないような態様で表示されていることからすれば、文字の表示がない被告商品との差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 c タッチペンの滑り止め部の形態(相違点C)について タッチペンの滑り止めが、原告商品2では、鋳肌のような艶消し面が、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されているのに対し、被告商品では、短冊形状の凹部を等間隔で軸方向に17個並べた凹部列を2列備え、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されている点で差異があるが、いずれも特段目立つ形状でないことからすれば、上記の差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 d ペン尻の張出部の形態(相違点D)について 張出部が、原告商品2は、円弧形状にえぐれたえぐれ面と、えぐれ面に形成されたアーチ部と、えぐれ面及びアーチ部で囲まれた通し穴を備えているのに対し、被告商品では、張出部の端面のペン胴側の位置に、端面よりも一段低い小上がり状の上面が半円形の段差部があり、端面の大半の部分が、軸直角方向に延びる複数の溝(断面形状がV字形状)が等間隔で形成された状態で、縞模様になっており、ペン尻先端面は、靴の踵の裏面形状であり、張出部の端面の中央部とペン尻先端面の中央部には、それぞれ、四角形の開口がある点で差異があるが、原告商品2及び被告商品は、張出部が長方形の端面と端面の両側にある側面とを備える構成を有する点で共通(共通点H)し、しかも、張出部がペン尻に位置し、張出部の開口部(通し穴)にはマツバ紐(従マツバ紐)が締結されていることからすれば、上記の差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 e ペン尻の薄板部の突起の位置(相違点E)について ペン尻の薄板部の突起が、原告商品2では薄板部の外面の中央付近に形成されているのに対し、被告商品では薄板部の外面のペン尻端面寄りに形成されている点で差異があるが、その差異は、注意して観察しなければ気付かない程の微差であり、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 ウ 原告商品3及び被告商品の形態の実質的同一性の有無 (ア) 原告商品3(検甲3。別添写真3参照)の形態と被告商品(検甲4。別添写真4参照)の形態とを対比すると、@両者は、全体がタッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとからなり、共通点@ないしMのとおりの構成態様を有する点で共通すること、Aタッチペンの寸法が、原告商品3は全長96o、幅6.95o、径4.9oであるのに対し、被告商品は全長92o、幅6.2o、径4.9oであり、被告商品の全長が4o短く、幅が0.75o狭いが(相違点@)、その差異は微差にとどまること、Bコイル状ストラップが、主マツバ紐と、コイル部と、従マツバ紐とで構成され、さらに、そのコイル部が、伸縮可能なコイルとその両端に固定された二つの接合部とで構成されているという具体的な構成において両者は共通し、その接合部の形態においても、原告商品3の接合部が円錐台形状であるのに対し、被告商品の接合部が外周面に1本の線が形成された樽形又は俵形であるという点で差異(相違点F)があるが、その差異は注意して観察しなければ気付かない程の微差であること、C上記@ないしBにより、原告商品3及び被告商品から受ける商品全体としての印象が共通することによれば、原告商品3と被告商品は、商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一であるものと認められる。 (イ) もっとも、原告商品3と被告商品は、上記(ア)A及びBで挙げた点のほかに、コイル部の長さ、ペン胴の外周部の文字表示の有無、タッチペンの滑り止め部の形態、ペン尻の張出部の形態及びペン尻の薄板部の突起の位置の各点(相違点AないしE)において相違するが、これらの相違は、以下に述べるとおり、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと評価すべきものであるから、原告商品3及び被告商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではない。 a コイル部の長さ(相違点A)について コイル部の長さが、原告商品3は125o、被告商品は92oであり、被告商品が33mm短い点で差異があるが、タッチペンの全長がいずれも90mm台である点で共通し、しかも、コイル部の具体的構成が共通すること(前記(ア)B)からすれば、上記の差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 b ペン胴の外周部の文字表示の有無(相違点B)について 原告商品3にはペン胴の外周部に「KEYSFACTORY TLL-001 MADE IN CHINA」との凸状に盛り上がった立体的な文字が表示されているのに対し、被告商品には文字が表示されていないが、原告商品3に表示された文字は、ペン胴と同色であって一見しただけでは気付かないような態様で表示されていることからすれば、文字の表示がない被告商品との差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 c タッチペンの滑り止め部の形態(相違点C)について タッチペンの滑り止めが、原告商品3では、複数の小判形状の凹部を軸方向に並べた凹部列を2列備え、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されているのに対し、被告商品では、短冊形状の凹部を等間隔で軸方向に17個並べた凹部列を2列備え、ペン胴の外周面のうちペン先寄りのグリップ領域に形成されている点で差異があるが、いずれも特段目立つ形状でないことからすれば、上記の差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 d ペン尻の張出部の形態(相違点D)及びペン尻の薄板部の突起の位置(相違点E)について 前記イ(イ)d及びeと同様の理由により、原告商品3及び被告商品におけるペン尻の張出部の形態及びペン尻の薄板部の突起の位置の差異は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると、ささいな相違にとどまるものと認められる。 (4) 依拠の有無について ア 原告は、被告は、被告商品の開発時に原告商品2及び3の形態に依拠して被告商品を作り出した旨主張する。 そこで検討するに、@原告商品2及び3と被告商品の形態が実質的に同一であること(前記(3)イ及びウ)、A原告は、いずれも任天堂のライセンス商品として、平成19年12月6日から「ニンテンドーDS Lite」専用のコイル状ストラップ付きタッチペンである原告商品1を、平成20年12月18日から「ニンテンドーDSi」専用の同タッチペンである原告商品2を、平成22年4月17日から「ニンテンドーDSi LL」専用の同タッチペンである原告商品3をそれぞれ販売し(前記争いのない事実等(2))、また、原告のウェブサイト等において、その宣伝広告を行ってきたこと(甲2の1ないし3、4の1ないし3、弁論の全趣旨)、B原告商品1(検甲1。別添写真1参照)は、共通点@ないしMの形態、ペン尻の張出部の形態、ペン尻の薄板部の突起の位置及びコイルの接合部の形態において、原告商品2及び3の形態と共通すること(前記争いのない事実等(2)ア、(4))、C原告各商品は、被告商品の販売開始前の平成22年5月31日までの間に、累計55万6000本販売されており、そのうち、原告商品2及び3の販売数量は合計18万5694本に及ぶこと(甲11)、D被告の業務内容がゲーム機のアクセサリー類の開発・販売という点で、原告の業務内容と競合する関係にあること(弁論の全趣旨)を総合すると、被告は、「ニンテンドーDSi」用及び「ニンテンドーDSi LL」用のコイル状ストラップ付きタッチペンである被告商品(販売開始日・平成22年6月12日)の開発時において、原告のウェブサイト等や市場を通じて、被告商品と同種の任天堂のライセンス商品である原告商品2及び3に接することがあったものといえるから、被告は、原告商品2及び3の形態に依拠して被告商品を作り出したものと認めるのが相当である。 イ これに対し被告は、@原告各商品の販売開始前から、「ゲーム機本体に収納可能なタッチペン」及び「コイル状ストラップを連結した商品」を開発して販売し、その商品開発の延長線上において、原告各商品の存在とは無関係に、その形態を参考とすることなく、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンに、コイル状ストラップを連結した商品として被告商品を開発した、A被告商品の販売が開始された平成22年6月ころには、多数の事業者が、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンとコイル状ストラップを連結した形態の商品を販売し、市場において、収納可能なタッチペンとコイル状ストラップを連結した形態の商品は、多数の事業者が販売し、同種商品の標準的な形態・一般的な形態として広く普及していたなどとして、被告商品の形態は、同種商品の標準的な形態・一般的な形態にすぎず、原告商品2及び3の形態に依拠して開発されたものでない旨主張する。 しかしながら、被告の主張は、以下のとおり理由がない。 (ア) 上記@の主張について 確かに、証拠(乙5ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、@被告が、原告各商品の販売開始前から、「ニンテンドーDS」に収納可能なタッチペンとして「イージータッチペンD」(平成16年12月販売開始。別紙写真目録11の写真参照)を、「ニンテンドーDS Lite」に収納可能なタッチペンとして「イージータッチペンD Lite」(平成18年5月販売開始。別紙写真目録12の写真参照)を、伸縮性のコイル状ストラップに指輪状のシリコン素材を連結させた「指タッチペン」(平成19年7月販売開始。別紙写真目録13の写真参照)を販売していたこと、A「イージータッチペンD」及び「イージータッチペンD Lite」には、ストラップ装着用の穴が設けられていることが認められる。 しかしながら、被告が、原告各商品の販売開始前から、「ニンテンドーDS」等に収納可能なタッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとを組み合わせた商品を独自に開発していたことを裏付ける客観的な証拠はない。もっとも、被告従業員のA作成の陳述書(乙22)中には、被告商品の開発は、被告が「ゲーム機本体に収納可能なタッチペン」及び「コイル状ストラップを連結した商品」を開発して販売していたことの延長線上にあるものであって、原告各商品の形態を参考にして開発したものではない旨の記載部分があるが、上記記載部分は、被告が「ニンテンドーDS」シリーズのゲーム機本体に収納可能なタッチペンと伸縮可能なコイル状ストラップとを組み合わせた商品として被告商品の形態を最終的に採用するに至った開発の具体的な経過等について述べたものではなく、直ちに措信することはできない。 また、仮に被告が原告各商品の販売開始前から、上記のような形態の商品の開発を進めていたとしても、被告商品と同種の商品であり、かつ、任天堂のライセンス商品である原告商品2及び3が、被告商品の販売開始前の平成22年5月31日までの間に、合計18万5694本販売されており(前記ア)、既に市場において広く流通していたものと認められること、被告商品と原告商品2及び3の形態が実質的に同一であることに鑑みれば、被告は、被告商品の開発時において、原告のウェブサイト等や市場を通じて、原告商品2及び3に接することがあったものと認めるのが自然である。 したがって、被告の上記@の主張は、採用することができない。 (イ) 上記Aの主張について 原告商品2及び3の販売が開始された当時、原告商品2及び3の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であったものといえないことは、前記(2)イ(ウ)で認定したとおりである。 そして、前記(2)イ(ウ)で述べたとおり、ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させたことを特徴とする商品には、タッチペンを構成するペン先、ペン胴及びペン尻、コイル状ストラップのコイル部を構成するコイル、接合部等の形状、材質等において多様な選択肢があり得るものであって、原告商品2及び3の販売が開始された当時、原告商品2及び3の形態と実質的に同一な被告商品の形態が同種商品の標準的な形態・一般的な形態として広く普及していた事実を認めるに足りる証拠はない(なお、被告が挙げるダイソーの「タッチペンのびるストラップ付き」は、被告の主張を前提としても、少なくとも原告商品2の販売開始後に販売されていたものであり、上記事実を裏付けるものではない。)。 したがって、被告の上記Aの主張は、採用することができない。 (ウ) 小括 以上のとおり、被告の主張は、いずれも採用することができないものであって、理由がない。 (5) まとめ 以上によれば、被告商品は原告商品2及び3の形態に依拠して作り出された実質的に原告商品2及び3と同一の形態の商品であるといえるから、被告商品は、原告商品2及び3の形態を模倣した商品に該当するというべきである。 したがって、被告による被告商品の販売は、原告商品2及び3の形態を模倣した商品の譲渡行為として、不競法2条1項3号の不正競争行為に該当する。 2 争点2(原告の損害額)について (1) 不競法5条1項の損害額 前記1の認定事実によれば、被告は、故意又は少なくとも過失により、前記1の不正競争行為を行って、原告商品2及び3の販売による原告の得べかりし利益を喪失させ、原告の営業上の利益を侵害したものと認められるから、被告は、原告に対し、不競法4条に基づいて、原告が被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。 ア 被告商品の販売数量 原告は、被告は、平成22年6月12日から同年12月6日までの間に、被告商品を少なくとも3万本販売した旨主張する。 そこで検討するに、原告主張の上記期間中の被告商品の販売数量(譲渡数量)のうち、合計1万9490本の限度では争いがないが、被告が上記本数を超える被告商品を販売したことについては、これを認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の上記主張は、被告商品の販売数量が合計1万9490本であるとの限度で理由がある。 イ 原告商品2及び3の単位数量当たりの利益額 証拠(甲15の1ないし3、16)及び弁論の全趣旨によれば、@原告商品2及び3は、被告商品と代替性があり、被告の前記1の不正競争行為による原告の営業上の利益の侵害行為がなければ、原告が「販売することができた物」に該当すること、A原告が平成22年6月から同年12月までの7か月間に販売した原告商品2及び3の1本当たりの平均販売利益は、138.4円であることが認められ、これに反する証拠はない。 したがって、原告商品2及び3の単位数量当たりの利益額は、138.4円と認めるのが相当である。 ウ 小括 以上によれば、不競法5条1項により算出される原告の損害額は、被告商品の販売数量1万9490本(前記ア)に原告商品2及び3の単位数量当たりの利益額138.4円(前記イ)を乗じて得られた額である269万7416円となる。 (2) 弁護士費用 本件事案の性質、審理の経過等諸般の事情を総合考慮すると、被告の前記1の不正競争行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損害は、27万円と認めるのが相当である。 (3) まとめ 以上によれば、原告は、被告に対し、不競法4条に基づく損害賠償として296万7416円(前記(1)ウ及び(2)の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成23年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。 3 結論 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、296万7416円及びこれに対する平成23年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、これを認容することとし、その余の請求は、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 上田真史 裁判官 石神有吾 (別紙) 原告商品目録 1 商品名「DS Lite Touchpen Leash」(ディーエス・ライト・タッチペンリーシュ) ブラック、ホワイト、オレンジ、メロン、ミント、モンブラン及びピーチの全7色 2 商品名「Touchpen Leash DSi」(タッチペンリーシュ・ディーエス・アイ) ブラック、ホワイト、レッド、ピンク、ブルー及びライムグリーンの全6色 3 商品名「Touchpen Leash DSi LL」(タッチペンリーシュ・ディーエス・アイ・エルエル) ダークブラウン、ナチュラルホワイト及びワインレッドの全3色 (別紙) 被告商品目録 商品名「おトモタッチペン」 別添写真1〜4 別紙写真目録1〜14 |
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