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【事件名】アニメDVDの請負契約事件
【年月日】平成24年12月25日
 東京地裁 平成22年(ワ)第15634号、第46782号 損害賠償等、同反訴請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成24年10月2日)

判決
原告・反訴被告(以下「原告」という。) 有限会社伽藍
同訴訟代理人弁護士 片岡朋行
被告・反訴原告(以下「被告」という。) A
同訴訟代理人弁護士 小池純一


主文
1 被告は、原告に対し、437万3250円及びこれに対する平成21年12月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを10分し、その7を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
 被告は、原告に対し、853万2654円及びこれに対する平成21年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
 原告は、被告に対し、535万2000円及びこれに対する平成23年2月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本訴は、原告が、被告に対し、オリジナルビデオアニメーション作品の制作に関する請負契約に基づき、請負代金853万2654円及びこれに対する目的物の引渡しの日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり、反訴は、被告が、原告に対し、上記請負契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、535万2000円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は、アニメーションの制作等を目的とする特例有限会社であり、被告は、アニメーションの演出、企画等に関わった経験を有する個人である。
(甲18、乙6、16)
(2) 被告は、平成21年1月ころ、かつて自主制作したボイスドラマについて、低予算でオリジナルビデオアニメーション(以下「OVA」という。)として自主制作し、これを即売会や同人ショップで販売することを企画した。(乙6、16)
(3) 原告と被告は、原告を請負人とし、被告を注文者として、別紙作品目録記載のオリジナルビデオアニメーション作品(以下「本件作品」という。)の制作を目的とする請負契約(以下「本件請負契約」という。なお、その成立時期及び業務の内容については、当事者間に争いがある。)を締結した。
(4) 本件作品のDVDマスターは、平成21年12月下旬に完成した。本件作品のDVD商品は、同月30日までに500部製造されて、被告に納品され、そのうちの400部が株式会社虎の穴(以下「虎の穴」という。)に納品された(虎の穴は、このうち200部を買い取り、200部を委託販売とすることにした。)。(甲15、17ないし19、28、乙6)
2 争点
(1) 本訴
ア 本件請負契約の成立時期及びその内容
イ 本件請負契約の仕事の完成及び目的物の引渡しの有無
(2) 反訴
 原告の債務不履行の有無
3 争点についての当事者の主張
(1) 本訴
ア 本件請負契約の成立時期及びその内容について
(原告の主張)
(ア) 原告と被告は、平成21年10月31日に、次の内容で本件請負契約を締結した。
@ 仕事の内容
 本件作品の完全パッケージメディア(本件作品の映像としての完成版)の制作、本件作品のDVDマスターの制作及びオーサリング、本件作品のDVD商品500部の製造、本件作品のポスターの制作及び印刷並びに上記完全パッケージメディア、DVDマスター、DVD商品500部及びポスターの引渡し
A 請負代金額
 上記請負業務の完成に要した費用を実費精算する。
B 納期
 平成21年12月末に開催されるコミックマーケット(以下「コミケ」という。)に間に合うように制作する。
(イ) 原告は、本件請負契約の業務を完成させるために、別紙「各項目についての主張対比表」(以下「別紙対比表」という。)の1ないし30の各「項目」欄記載の業務について、それぞれに対応する「原告主張」欄の「金額」欄記載の金額(合計812万6338円)を必要とし、これに消費税相当額40万6316円を加えた853万2654円が本件請負契約の請負代金額となる。なお、上記各金額に係る個別の主張は、別紙対比表の「原告反論」欄の「具体的主張内容」欄記載のとおりである。
(被告の主張)
(ア) 原告と被告は、原告が作成した実行予算案(乙1。以下「予算案1」という。)を前提に低予算で本件作品を制作することとして、遅くとも平成21年6月24日までに、次の内容で本件請負契約を締結した。
@ 仕事の内容
 色彩設計、作画監督、レイアウト、原画、動画、動検、色指定、セル検、彩色、特効、制作進行、材料費、背景、撮影、オフライン、オンライン、タレント費、スタジオ使用費、ディレクター、コピー費、車両費
A 請負代金額
155万5000円
B 納期
平成21年12月上旬
(イ) 仮に請負業務の完成に要した費用を実費精算するものであるとしても、別紙対比表1ないし30の各「項目」欄に記載の業務について、それぞれに対応する「被告主張」欄の「金額」欄記載の金額(合計152万6423円)を必要としたにすぎないから、これに消費税相当額7万6321円を加えた160万2744円が本件請負契約の請負代金額となる。なお、上記各金額に係る個別の主張は、別紙対比表の「被告主張」欄の「具体的主張内容」欄記載のとおりである。
イ 本件請負契約の仕事の完成及び目的物の引渡しの有無について
(原告の主張)
 原告は、平成21年12月29日ころまでに、仕事を完成させ、目的物を被告に引き渡した。完成した本件作品の質は、少なくとも一般の商業作品の水準を満たしていた。
(被告の主張)
 原告が本件請負契約の業務を著しく遅滞したために、本件作品の出来栄えを確認する時間がほとんどなく、カットを修正することもほとんどできなかった上、原告が必要とされるリテイク作業をしなかったので、本件作品の完成度は極めて低いものとなった。そして、原告は、本件請負契約で制作した本件作品のカットの原本一式を被告に引き渡していない。
(2) 反訴
ア 原告がリテイク作業をしなかったことについて
(被告の主張)
 原告は、本件請負契約の内容として、作成した原画及び動画を確認する機会を被告に与え、必要なリテイク作業をする義務を負っていた。しかしながら、原告は、本件請負契約の業務を長期間にわたって放置し、被告に原画及び動画を確認する機会をほとんど与えなかった。具体的には、被告が確認した原画はわずか31カットで、被告が原画の存在のみを確認したものが12カットであり、残りの155カットは全く確認していないし、また、撮影素材は、本件作品全体について撮影済みの素材を基に確認し、修正点についてリテイクを行った上で本撮影を行うという通常の過程を経ていないのである。その結果、各カットに描写されたキャラクターが確定したデザインと大幅に異なり、各カットの背景などの絵がレイアウトの指示と全く異なったり他のカットとの整合性を欠いているなど、本件作品の仕上がりは極めて質の低いものとなったが、原告は、これらの問題を修正するために必要なリテイク作業をしない。
 本件作品に必要とされるリテイク作業を外注する場合の費用は、150万円を下らないから、被告は、同額の損害を被った。
(原告の主張)
 原告は、作成した原画及び動画を確認する機会を被告に与え、必要なリテイク作業をするとの義務を負っていない。そして、原告は、制作した本件作品の全ての原画のカットを被告に送付して、確認する機会を被告に与えているところ、被告は、そのうちの十数カットについてリテイクを指示し、原告はこれらについて適切にリテイク作業をしているし、また、原告は、平成21年12月16日ころ、撮影済みの素材を確認する機会を被告に与え、被告から指摘があった部分全てについてリテイク作業をしている。
イ 原告が本件請負契約の業務を適切に履行しなかったことについて
(被告の主張)
 原告は、本件請負契約の業務を著しく遅滞した。被告は、本件作品のDVD商品を2000部以上製造することが可能な予算を確保していたが(納品までの期間に余裕があれば、DVDを製造する単価は安くなる。)、原告が業務を遅滞したことにより、500部しか製造することができなかった。また、虎の穴の担当者は、本件作品のDVD商品を2000部以上買い取ることを約束していたが、原告が本件請負契約の業務を遅滞したことにより、本件作品のDVD商品を買取りで200部、委託販売で200部しか虎の穴に納品することができなかったのである。その結果、被告は、本件作品に関して、虎の穴の買取分の代金44万2000円及びイベント販売による代金11万6000円の合計55万8000円しか売上げを得ることができなかった。
 原告が本件請負契約の業務を適切に履行していれば、被告は、虎の穴に対して本件作品のDVD商品2000部を販売し、441万円(卸値2100円×2000部+消費税)の売上げを得ることができたから、被告は、これから売上げ55万8000円を控除した385万2000円の損害を被った。
(原告の主張)
 被告が本件作品のDVD商品を500部しか製造することができなかったのは被告に資金がなかったからであって、被告は、2000部以上の製造が可能な予算を確保していなかったし、虎の穴は、本件作品のDVD商品を2000部買い取ることを約束していなかった。
第3 当裁判所の判断
1 前提となる事実に、証拠(甲1、2の1及び2、3ないし23、26ないし28、29の2、3及び6、30の4及び6、31、33、35、乙1、2の1、3の1及び2、5、6、15ないし17、18の1、20、21の1ないし3、26、29)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、平成21年1月ころ、かつて自主制作したボイスドラマである「ENGAGE」について、低予算でOVAとして自主制作し、これを即売会や同人ショップで販売することを企画した。
 被告は、同年2月ころ、原告の代表者であるB(以下「原告代表者」という。)に上記企画があることを伝え、低予算でOVAを制作する場合にどのような予算が考えられるかを尋ねた。原告代表者は、知合いに頼む場合の特別な価格による参考として、予算案1(乙1)を作成し、被告に交付した。
(2) 被告は、原告代表者に、平成21年2月17日に本件作品のシナリオの第1稿を、同月26日にシナリオの第2稿を送付した。
 被告は、同年3月ころから、本件作品の絵コンテの制作やキャラクターのデザインの検討を始め、同月12日、原告代表者にキャラクターの原案を送付した。
 被告は、同年4月ころ、原告代表者に本件作品の絵コンテを見せたところ、原告代表者から、この絵コンテでは本件作品が売れるのか疑問があるとの感想が述べられたので、被告は、原告代表者に本件作品の絵コンテの制作についてのアドバイスを求め、絵コンテを書き直して、同年5月ころ、これを完成させた。
(3) 被告は、平成21年5月ころ、株式会社Acca effe(以下「アッカエッフェ」という。)の代表取締役であるCに、本件作品に係る企画があることを伝えて、キャラクターデザイナーの紹介を依頼した。Cは、被告にDを紹介し、被告は、Dに本件作品のキャラクターのデザインを依頼した。
(4) 被告は、平成21年7月ころ、原告代表者に、同年12月末に開催されるコミケで本件作品の本編を販売する予定であるが、同年8月のお盆の時期に開催されるコミケで本件作品の予告編(以下「本件0巻」という。)を販売したいのでその制作に協力して欲しいと伝えた。
 被告は、同年7月10日及び同年8月7日に、原告代表者にDの制作した主要なキャラクターのラフデザイン等を送付した。原告は、同月中旬ころまでに、本件0巻のためのカットを止め絵として制作し、被告に納品した。被告は、原告が制作したカットや自作の素材を用いて、本件0巻を完成させ、同月15日、これをコミケで販売した。
(5) 被告は、平成21年10月上旬ころ、原告代表者に、同月24日に予定している本件作品のアフレコ(声優の声の録音のこと)に用いるための線撮(未完成の作画の素材を撮影すること)とその編集を依頼した。原告代表者は、被告に株式会社ファルコン(以下「ファルコン」という。)を紹介し、ファルコンが線撮とその編集のための代金として20万円程度の金額を提示したので、被告は、これを了承して、ファルコンに線撮とその編集を依頼した。ファルコンは、本件作品の線撮とその編集の作業を同月21日ころに終え、同月24日には、線撮された映像を基に本件作品のアフレコが行われた。
(6) 被告は、平成21年10月31日、原告代表者及びCに、本件作品の制作進行の担当者としてEを紹介した。その際、被告は、資金がないから、本件作品をDVDにプレスするための費用が払えない、Eを雇うこともできない、ファルコンでの線撮やその編集にかかった代金も払えない、このままでは本件作品を自主制作で同年12月末のコミケに間に合わせることができないなどと述べ、原告代表者及びCに助けを求めた。原告代表者は、自らがプロデューサーとなり、原告が本件作品を完成させ、皆で協力してできるだけ多くの売上げを上げ、その売上げから各所への支払をするしかないと述べた。そこで、被告は、原告代表者に、同年12月末のコミケに間に合うように原告が本件作品を制作することを依頼し、原告代表者はこれを引き受けた。また、このとき、本件作品に係る経理及び広報の業務は、原告から委託を受けたアッカエッフェが担当することが原告代表者、被告及びCの間で合意された。
 原告は、同年11月初旬ころ、本件作品の制作進行をEに委託し、本件作品の制作業務の一部をFが代表者を務める株式会社I&Sファクトリー(以下「I&S」という。)に委託した。また、被告は、このころ、原告に本件作品の戦闘シーンの3カットのレイアウトの制作を委託し、原告はこの作業をGに委託した。
(7) 原告代表者、被告、F及びEは、平成21年11月10日ころ、本件作品の美術監督、背景、撮影及び編集の担当者の選定について打合せをした。このとき、原告と被告は、韓国の会社であるTeam’s Art(以下「チームズアート」という。)に本件作品の美術監督及び背景の作成を委託し、ファルコンに本件作品の撮影と編集を委託することにした。
(8) 原告代表者は、平成21年11月19日、今後本件作品の完成までに必要とされる各業務にかかる金額を見積もった予算案(乙2の1。以下「予算案2」という。)を作成し、これをCに送付した。
 原告代表者は、同月下旬、被告、C及びFに予算案2を見せた。このとき、被告は、自分で行うとしていたオーサリングの作業をすることができないとして、これを原告に委託した。
(9) 原告代表者、被告、C及びFは、平成21年11月24日、本件作品のダビングの作業のスケジュールについて打合せをした。このとき、被告は、自分で行うとしていた音響効果の作業ができないと述べ、これを原告に委託した。そして、同年12月5日、NEKスタジオにおいて、原告が音響効果の作業を委託したH及びIによって、本件作品のダビングの作業が行われた。
(10) 平成21年11月28日、Cが手配した本件作品の宣伝のためのウェブラジオの番組の収録が行われ、被告はこの番組に出演した。
 また、Cは、同月30日、本件作品に係る金銭を管理するために、「株式会社Acca effe Engage口」という名称の銀行口座を開設した。
(11) 原告が本件作品の作画、仕上げ及び背景の各業務を委託した各担当者は、次のとおり、各業務を行った。
ア 原告が委託した作画監督(以下「本件作画監督」という。)は、被告が作成した本件作品のレイアウトに問題があったので、平成21年11月14日から同年12月5日にかけてレイアウトの修正をした。また、Gは、同年11月26日から同年12月1日にかけて、本件作品の戦闘シーンの3カットのレイアウトを制作した。
イ 原告が本件作品の原画の制作を委託した各担当者は、同年11月14日から同年12月7日までに原画を制作し、本件作画監督は、同年11月16日から同年12月10日にかけて、これらの原画を修正した。
ウ 原告は、本件作品の動画の制作を同年11月17日から順次各担当者に発注し、同日から同年12月11日までに本件作品の動画の納入を受けた。
エ 原告は、同年11月18日から、仕上げ(彩色)の作業を各担当者に委託し、各担当者は、同年12月13日までにその作業を終えた。
オ 原告は、同年12月10日から同月16日にかけて、チームズアートから本件作品の背景の納入を受けた。
(12) ファルコンは、平成21年12月10日から同月16日にかけて、本件作品の撮影をした。ファルコンは、同日、本件作品の編集の作業を行い、これに立ち会った原告代表者及び被告は、不具合があるカットについてリテイクの指示をし、ファルコンは、それらについて撮影をやり直した。本件作品の編集は同月17日に完了し、その後、ファルコンは、オーサリングの作業をして、本件作品のDVDマスターを完成させ、これを被告に引き渡した。
(13) 原告代表者、被告、C及びFは、平成21年12月15日、本件作品について打合せをした。Cは、打合せの前にDVDをプレスする工場とプレスする日程について調整をし、被告に対し、本件作品のDVDマスターを同月19日必着で工場に送るように指示をした。被告は、ファルコンから、本件作品のDVDマスターを受領した後、これを宅配便で工場に送付した。
(14) 本件作品のDVD商品は、500部製造され、平成21年12月30日までに、被告に納品された。
 被告は、同日、コミケで本件作品のDVD商品を販売した。
(15) 被告とCは、平成21年12月19日、虎の穴を訪問し、本件作品のプロモーションを行った。本件作品のDVD商品のうち400部は、同月31日、虎の穴に納品され、虎の穴は、そのうち200部を買い取り、残りの200部を委託販売することとした。
(16) 原告代表者、被告、C及びFは、平成22年1月4日、本件作品について打合せをし、このとき、平成21年12月30日のコミケにおける本件作品のDVD商品の売上げが11万4000円であったことが報告された。この売上げは「株式会社Acca effe Engage口」の銀行口座に入金された。
(17) 被告は、平成22年3月18日、原告に対し、本件作品についての請求書及びこれを査定するための資料の送付を求める書面を送付し、これに対し、原告は、同月31日ころ、被告に対し、本件請負契約の請負代金として853万2654円を請求する書面を送付した。
 また、被告は、同年5月14日、原告に本件請負契約の業務の債務不履行があるとして、原告に対し、債務不履行に基づく損害賠償の一部として689万7256円を請求する書面を送付した。
(18) 原告は、平成22年4月27日に本訴を提起し、被告は、同年12月20日に反訴を提起した。
2 本訴について
(1) 本件請負契約の成立時期及び内容について
ア 本件請負契約の成立時期について
 前記1認定の事実によれば、被告は、平成21年10月31日、原告代表者に、原告が本件作品を制作することを依頼し、原告代表者はこれを引き受けて、本件作品の制作に関する作業を進めているのであるから、原告と被告は、遅くともこのときまでには本件請負契約を締結したと認められる。
 被告は、原告と被告は平成21年6月24日までに本件請負契約を締結したと主張する。しかしながら、このことを認めるに足りる的確な証拠がない上、前記1認定の事実によれば、原告は、同年8月中旬ころまでに本件0巻のためのカットを被告に納品したが、その後、同年10月上旬まで本件作品の制作に係る作業をしていないのであって、このことを考えると、原告と被告が同年6月24日までに本件請負契約を締結したと認めることはできない。
イ 本件請負契約の内容について
(ア) 仕事の内容について
 別紙対比表3ないし13、15ないし19、21、23ないし25、27及び28の各「項目」欄記載の事項が本件請負契約の仕事であったことは当事者間に争いがない。そこで、以下、別紙対比表1、2、14、20、22、26、29及び30の各「項目」欄記載の事項が本件請負契約の仕事であったか否かについて検討する。
a プロデューサー(別紙対比表1)
 前記1認定の事実によれば、原告代表者は、平成21年10月31日に被告から助けを求められた際に自らがプロデューサーとなって原告が本件作品を完成させると述べ、被告は、これを受けて、原告代表者に、原告が本件作品を制作することを依頼しているのであるから、プロデューサーの業務は、本件請負契約の仕事であると認められる。
b 制作プロデューサー(別紙対比表2)
 原告は、Fが制作プロデューサーに係る業務を担当していたと主張するところ、前記1認定の事実によれば、Fが本件作品の制作に関わっていたことは認められるものの、原告と被告が、Fが制作プロデューサーとしての業務を担当することを合意したことやFが制作プロデューサーに係る業務を実際に担当したことを認めるに足りる的確な証拠はない。そうであるから、制作プロデューサーの業務は、本件請負契約の仕事であると認めることはできない。
c 美術監督(別紙対比表14)
 前記1認定の事実によれば、原告と被告は、平成21年11月10日ころ、本件作品の美術監督をチームズアートに委託することを合意しているのであるから、美術監督の業務は、本件請負契約の仕事であると認められる。
d 音響効果(別紙対比表20)
 前記1認定の事実によれば、被告は、平成21年11月24日、音響効果の作業ができないとして、これを原告に委託しているのであるから、音響効果の業務は、本件請負契約の仕事であると認められる。
e ポスター彩色1巻(別紙対比表22)
 被告が本件作品の第1巻のポスターの彩色の業務を原告に委託したことを認めるに足りる的確な証拠はなく、この業務が本件請負契約の仕事であると認めることはでない。
f DVDオーサリング(別紙対比表26)
 前記1認定の事実によれば、被告は、平成21年11月下旬、オーサリングの作業ができないとして、これを原告に委託しているのであるから、DVDオーサリングの業務は、本件請負契約の仕事であると認められる。
g 経理広報担当(別紙対比表29)
 前記1認定の事実によれば、原告と被告は、平成21年10月31日、原告から委託を受けたアッカエッフェが本件作品に係る経理及び広報の業務を担当することを合意しているのであるから、経理広報担当の業務は、本件請負契約の仕事であると認められる。
h 制作管理(別紙対比表30)
 前記1認定の事実によれば、被告は、平成21年10月31日、原告代表者に、原告が本件作品を制作することを依頼しているのであって、本件作品の制作管理の業務を原告に委託したということができるから、制作管理の業務は、本件請負契約の仕事であると認められる。
(イ) 請負代金額について
 本件請負契約の請負代金について、原告と被告が確定金額を合意したとか、本件請負契約の仕事の完成に要した費用を実費精算した額とするとの合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告と被告は、本件請負契約の請負代金として相当額とすることを合意したというほかはない。
ウ そうすると、原告と被告は、遅くとも平成21年10月31日までに本件請負契約を締結したものであり、その仕事の内容は、前記イ(ア)認定のとおりである。
(2) 本件請負契約の仕事の完成及び目的物の引渡しの有無について
 前記1認定の事実によれば、原告は、コミケが開催された平成21年12月30日までに、本件請負契約の仕事を完成して、本件作品のDVDマスター及び本件作品のDVD商品500部を被告に引き渡し、また、証拠(甲1、16、17)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、同日までに、本件作品のポスターを被告に引き渡していることが認められる。
 被告は、本件作品の完成度が極めて低いから、原告は本件請負契約の仕事を完成していないし、原告は、本件作品のカットの原本一式を被告に引き渡していないと主張する。しかしながら、後記3(1)のとおり、完成した本件作品のDVD商品の品質に問題があるとは認められないし、また、原告と被告が、本件請負契約において、本件作品のカットの原本一式を被告に引き渡すことを合意したことを認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上によれば、被告は、原告に対し、請負代金額として相当額を支払う義務がある。
 そこで、前記(1)イ(ア)で確定した本件請負契約の仕事について、それぞれ相当と認められる請負代金額を検討することとする。
ア プロデューサー
 証拠(甲1、17ないし20)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に当たり、原告代表者は、多くの時間と労力を費やしてプロデューサーとしての業務を行ったことが認められるが、前記1認定の事実によれば、原告代表者は、平成21年10月31日に被告から助けを求められた際に、自らがプロデューサーとなって本件作品を完成させ、皆で協力してできるだけ多くの売上げを上げ、その売上げから各所への支払をすることを想定していたのであって、このことに照らすと、原告代表者は、被告に十分な資金がないことを認識していたから、本件作品のプロデューサーの業務の対価として、高額な報酬を得ることは考えていなかったということができる。
 以上の事情を併せ考えると、プロデューサーの業務の対価は、30万円が相当であると認められる。
イ 作画監督
 前記1認定の事実によれば、本件作画監督は、本件作品のレイアウトや原画の修正をするなど、作画監督としての業務を行ったものであるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、作画監督の金額は15万円とされていることが認められるから、作画監督の業務の対価は、15万円が相当であると認められる。
ウ レイアウト
 前記1認定の事実によれば、Gは、本件作品の戦闘シーンの3カットのレイアウトを制作したものであるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、レイアウトの金額は1カット当たりの単価が3000円とされていることが認められるから、レイアウトの業務の対価は、9000円が相当であると認められる。
エ 原画(第二原画)
 前記1認定の事実によれば、本件作品の原画は、その業務を委託された各担当者が制作したが、証拠(甲1、4ないし8、17)によれば、本件作品において制作された原画の数は197カットであると認められる。そして、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、原画の金額は1カット当たりの単価が1500円とされていることが認められるから、原画(第二原画)の業務の対価は、29万5500円が相当であると認められる。
オ 動画
 前記1認定の事実によれば、本件作品の動画は、その業務を委託された各担当者が制作したが、証拠(甲1、4、9ないし11、17)によれば、本件作品において制作された動画の数は2219枚であると認められる。そして、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、動画の金額は1枚当たりの単価が180円とされていることが認められるから、動画の業務の対価は、39万9420円が相当であると認められる。
カ 色彩設計
 証拠(甲1、12、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に関し、色彩設計の業務が行われたことが認められるところ、証拠(乙1、2の1)によれば、色彩設計の金額は、予算案1では2万円とされ、予算案2では0円とされていることが認められるから、このことを併せ考えると、色彩設計の業務の対価は、2万円が相当であると認められる。
キ 色指定
 証拠(甲1、12、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に関し、色指定の業務が行われたことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、色指定の金額は3万円とされていることが認められるから、色指定の業務の対価は、3万円が相当であると認められる。
ク セル検査
 証拠(甲1、12、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に関し、セル検査の業務が行われたことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、セル検査の金額は3万円とされていることが認められるから、セル検査の業務の対価は、3万円が相当であると認められる。
ケ 彩色
 証拠(甲1、4、12、13、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に関し、彩色の業務が行われ、その数量は2308枚に及ぶことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、彩色の金額は、1枚当たりの単価が160円とされていることが認められるから、彩色の業務の対価は、36万9280円が相当であると認められる。
コ 特殊効果
 証拠(甲1、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に関し、特殊効果の業務が行われたことが認められる。ところで、原告がこの業務として具体的にどのような作業をしたのかは明らかでないが、証拠(乙1、2の1)によれば、特殊効果(特効)の金額は、予算案1では1万円とされ、予算案2では0円とされていることが認められるから、このことを併せ考えると、特殊効果の業務の対価は、1万円が相当であると認められる。
サ 制作進行
 証拠(甲1、9、17、18)及び弁論の全趣旨によれば、Eが制作進行の業務を行ったことが認められるところ、証拠(乙2の1、6)によれば、予算案2では、制作進行の金額は1万円とされているが、被告は、専任の制作担当者を10万円で雇ってはどうかとの提案を了承していたことが認められるから、制作進行の業務の対価は、10万円が相当であると認められる。
シ 材料費
 証拠(甲1、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に当たって材料費を要したことが認められるが、OVAの制作に当たっては、材料費を要するのが通常であると考えられるから、他の業務の中でこれを計上している可能性を否定することができないし、原告が具体的にどのような材料をどのように使ったのかは明らかでなく、証拠(乙1、2の1)によれば、材料費の金額は、予算案1では10万円とされているが、予算案2では0円とされていることが認められることを併せ考えると、材料費を独立して計上することは相当でないというべきである。
ス 美術監督
 証拠(甲1、14、17、18、乙7)及び弁論の全趣旨によれば、チームズアートは、美術監督の業務をしたが、レイアウトと齟齬する背景をいくつか制作し、被告がこれを修正する必要があったことが認められる。そして、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、美術監督の金額は5万円とされていることが認められるところ、このことを併せ考えると、美術監督の業務の対価は、4万円が相当であると認められる。
セ 背景
 証拠(甲1、14、17)によれば、チームズアートは、本件作品の背景を制作し、その数は201カットに及ぶことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、背景の金額は1カット当たりの単価が1800円とされていることが認められるから、背景の業務の対価は、36万1800円が相当であると認められる。
ソ 撮影(線撮込み)
 前記1認定の事実によれば、ファルコンは、本件作品の線撮とその編集のための代金として20万円程度の金額を提示し、被告がこれを了承して作業を依頼したので、平成21年10月21日ころまでに線撮とその編集作業を終えたが、被告は、この代金を支払うための資金がなかったので、原告代表者らに助けを求め、その結果、原告代表者に原告が本件作品を制作することを依頼し、原告代表者がこれを引き受けているのであり、証拠(乙2の1)によれば、予算案2には、「撮影(線撮込み)」との記載があることが認められるから、本件請負契約において、原告と被告は、ファルコンにおける線撮の業務をも本件請負契約の仕事に含めることを合意したものと認められる。
 また、前記1認定の事実によれば、ファルコンは、本件作品の撮影(本撮影)も行っていて、証拠(甲1、17)によれば、その撮影の時間は1440秒であると認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、撮影の金額は1秒当たりの単価が400円とされていることが認められる。
 以上の事情を併せ考えると、線撮を含む本件作品の撮影の業務の対価は、80万円が相当であると認められる。
タ オフライン
 証拠(甲1、15、17、18)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に関し、ファルコンがオフラインの業務を行ったことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、オフラインの金額は8万円とされていることが認められるから、オフラインの業務の対価は、8万円が相当であると認められる。
チ オンライン
 証拠(甲1、15、17、18)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に関し、ファルコンがオンラインの業務を行ったことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、オンラインの金額は5万円とされていることが認められるから、オンラインの業務の対価は、5万円が相当であると認められる。
ツ ダビングスタジオ費
 証拠(甲1、16、17)によれば、本件作品のダビングの作業は、NEKスタジオにおいて行われたが、この作業に6時間を要したことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、ダビングスタジオ費(DBスタジオ費)の金額は1時間当たりの単価が1万5000円とされていることが認められるから、ダビングスタジオ費は、9万円が相当であると認められる。
テ 音響効果
 前記1認定の事実によれば、原告が音響効果の作業を委託したH及びIが本件作品のダビングの作業を行ったところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、音響効果の金額は10万円とされていることが認められるから、音響効果の業務の対価は、10万円が相当であると認められる。
ト ポスター彩色0巻
 証拠(甲1、12、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件0巻のポスターの彩色の業務が行われたことが認められるが、このポスターがどのようなものであったかが明らかではないから、これに要した費用を確定することはできない。しかしながら、被告は、本件0巻のポスターの彩色の業務の代金が2万円であると主張しているから、このことに照らすと、本件0巻のポスターの彩色の業務の対価は、2万円が相当であると認められる。
ナ ポスター印刷0巻
 証拠(甲1、16、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件0巻のポスターの印刷の業務が行われたことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、本件0巻のポスターの印刷(ポスター印刷(0巻))の金額は2万円とされていることが認められるから、本件0巻のポスターの印刷の業務の対価は、2万円が相当であると認められる。
ニ ポスター印刷1巻
 証拠(甲1、16、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の第1巻のポスターの印刷の業務が行われたことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、本件作品の第1巻のポスターの印刷(ポスター印刷(1巻))の金額は2万円とされていることが認められるから、本件作品の第1巻のポスターの印刷の業務の対価は、2万円が相当であると認められる。
ヌ DVDパッケージ
 証拠(甲1、16ないし19)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品のDVD商品のパッケージの制作の業務が行われたことが認められるところ、証拠(乙2の1)によれば、予算案2では、DVD商品のパッケージの金額は30万円とされていることが認められるから、本件作品のDVD商品のパッケージの制作の業務の対価は、30万円が相当であると認められる。
ネ DVDオーサリング
 前記1認定の事実によれば、ファルコンは、本件作品のオーサリングの業務を行ったものであるところ、証拠(甲15)によれば、ファルコンは、原告に対し、オーサリングの代金として30万円を請求していることが認められる。ところで、被告は、陳述書(乙28)において、低予算でできるだけ経費を抑える場合であっても、オーサリングの費用として10万円を要すると陳述しているから、このことを併せ考えると、本件作品のオーサリングの業務の対価は、20万円が相当であると認められる。
ノ コピー費
 証拠(甲1、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に当たってコピー費を要したことが認められるが、OVAの制作に当たっては、コピー費を要するのが通常であると考えられるから、他の業務の中でこれを計上している可能性を否定することができないし、具体的にどのようにコピー費を要したかは明らかでなく、証拠(乙1、2の1)によれば、コピー費の金額は、予算案1では3万円とされているが、予算案2では0円とされていることが認められることを併せ考えると、コピー費を独立して計上することは相当でないというべきである。
ハ 車両費
 証拠(甲1、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件作品の制作に当たって車両を使用したことが窺えるが、その費用を定額で計上することに合理性があるとは認め難いし、原告が具体的にどのように車両を使用したかは明らかでなく、証拠(乙1、2の1)によれば、車両費の金額は、予算案1では7万円とされているが、予算案2では0円とされていることが認められることを併せ考えると、車両費を独立して計上することは相当でないというべきである。
ヒ 経理広報担当
 前記1認定の事実によれば、本件作品に係る経理及び広報の業務は、アッカエッフェが担当し、同社の代表者であるCが実際の経理及び広報の業務を行っているところ、証拠(甲16)によれば、アッカエッフェは、原告に対し、「経理・広報プロデュース担当」の代金として40万円を請求し、その内訳として、声優のキャスティング、キャラクターのデザインを行ったDの手配、虎の穴やコミケとの交渉を挙げていることが認められるから、経理広報担当の業務の対価は、10万円が相当であると認められる。
フ 制作管理
 証拠(甲1、17ないし20)及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件作品の制作管理の業務を行ったところ、アニメの業界では、通常、制作費の合計額の10%が制作管理費として請求されることが認められるが、原告代表者は、被告に十分な資金がないことを認識して、自らがプロデューサーとなって本件作品を完成させ、皆で協力してできるだけ多くの売上げを上げ、その売上げから各所への支払をすることを想定していたのであるから、原告が通常どおりの制作管理費を請求するとは考え難いところである。そうであるから、制作管理の業務の対価は、27万円が相当であると認められる。
ヘ したがって、本件請負契約の請負代金額は、以上を合計した416万5000円に消費税相当額20万8250円を加えた437万3250円とするのが相当であると認められる。
(4) 以上のとおり、原告は、平成21年12月30日までに本件請負契約の仕事を完成して、被告に本件作品のDVDマスター、本件作品のDVD商品500部及び本件作品のポスターを引き渡していることが認められるから、被告は原告に対し、本件請負契約の請負代金437万3250円及びこれに対する上記各目的物の引渡しが完了した日の翌日である同月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
3 反訴について
(1) 原告がリテイク作業をしなかったことについて
 証拠(乙29)によれば、被告は、原告代表者が本件作品を制作することを引き受けた平成21年10月31日から本件作品の完成が求められる同年12月末のコミケまでの間に、少なくとも43カットの原画の確認をし、そのうちのいくつかについては修正の指示を出していることが認められ、また、前記1認定の事実によれば、被告は、ファルコンによる本件作品の編集の作業に立ち会い、不具合があるカットについてリテイクの指示をし、それらについてファルコンが撮影をやり直しているのであって、その後、本件作品は映像として完成し、被告は、本件作品のDVD商品の納品を受けて、平成21年12月30日のコミケでこれを販売している。そして、被告は、本件作品の完成した映像について、各カットに描写されたキャラクターが確定したデザインと大幅に異なり、また、各カットの背景などの絵がレイアウトの指示と全く異なったり、他のカットとの整合性を欠くなど、本件作品は極めて質の低い仕上がりになったと主張するところ、証拠(乙5、25ないし27)によれば、キャラクターのデザインは、確定したデザインと大きく異ならないことが認められるし、また、各カットの背景などの絵がレイアウトの指示と全く異なることや他のカットとの整合性を欠くことなどについては具体的な主張、立証がないのであって、乙5に徴しても、本件作品のDVD商品の品質に問題があるとは認められない。
 そうであれば、本件請負契約の内容として、原告に原画及び動画を確認する機会を被告に与えるとともに、必要なリテイク作業をする義務があるとしても、原告がこれを怠ったということはできない。
(2) 原告が本件請負契約の業務を適切に履行しなかったことについて
 前記1認定の事実によれば、原告は、平成21年12月末のコミケに間に合うように本件作品を制作することとして被告の依頼を引き受け、同月30日までに仕事を完成させ、その目的物を被告に引き渡しているのであるから、原告が本件請負契約の業務の履行を遅滞したということはできない。
(3) 以上のとおりであるから、被告の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
第4 結論
 よって、原告の本訴請求は、前記2(4)記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文とおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 三井大有
 裁判官 小川卓逸
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