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【事件名】風景写真のブログ掲載事件
【年月日】平成24年12月21日
 東京地裁 平成23年(ワ)第32584号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年10月26日)

判決
原告 A(以下「原告A」という。)
原告 ハワイアン・アート・ネットワーク有限責任会社(Hawaiian Art Network L.L.C.)(以下「原告会社」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 井奈波朋子
同 山田雄介
同 永田玲子
被告 PことB


主文
1 被告は、原告Aに対し、金7万8704円及びこれに対する平成23年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告会社に対し、金7万2176円及びこれに対する平成23年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告Aに生じた費用の4分の1と原告会社に生じた費用の6分の1を被告の負担、被告に生じた費用の10分の3を原告Aの負担、被告に生じた費用の2分の1を原告会社の負担とし、その余は各自の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告Aに対し、金30万1731円及びこれに対する平成23年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告会社に対し、金44万6332円及びこれに対する平成23年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、別紙原告著作物(1)及び(2)(以下、順に「本件写真(1)」「本件写真(2)」といい、併せて「本件写真」という。)について、原告Aが著作権を、原告会社が独占的利用許諾権をそれぞれ有していることを前提として、被告は、その運営するブログに無許諾で本件写真を掲載し、著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したなどと主張し、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、原告Aにつき30万1731円及び原告会社につき44万6332円(いずれも附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。
1 前提事実(後掲の証拠等により認められる。)
(1) 当事者
ア 原告A
 原告Aは、職業写真家であり、ハワイ州に居住するアメリカ合衆国の国民である。(枝番号を含めて甲33、35)
イ 原告会社
 原告会社は、ハワイの芸術品・美術品の販売のほか、写真のライセンス事業を業務とするハワイ州の法律に基づき設立された有限責任会社である。(枝番号を含めて甲1、2、32、弁論の全趣旨)
ウ 被告
 被告は、「P」の名称で旅行業を営む者である。
(弁論の全趣旨)
(2) 本件写真
 本件写真(1)は、「夕暮れのナパリ海岸(Napali Coast At Sunset)」との題名が付された、夕焼け空、波、岸壁等を被写体として撮影された写真である。本件写真(2)は、「たそがれ時のサーファー(Picture Of Surfer At Twilight)」との題名が付された、夕焼け空、波、砂浜、サーフボードを抱えた人物を被写体として撮影された写真である。本件写真はアメリカ合衆国で最初に発行された。(枝番号を含めて甲3、35、37、弁論の全趣旨)
(3) 原告会社の独占的利用許諾権
 原告Aと原告会社とは、平成17年(2005年)以前に、原告Aが、その撮影した写真について、原告会社に対し、非独占的利用許諾権を与えることを内容とする非独占的代理店契約を締結した。これに加え、原告Aは、平成22年(2010年)9月14日、アメリカ合衆国ハワイ州公証人の面前において自ら署名した宣誓供述書をもって、本件写真につき原告会社を独占的代理店に指定し、原告会社に対し、独占的利用許諾権(以下「本件独占的利用許諾権」という。)を付与した。(枝番号を含めて甲22〜28、32〜36)
(4) 被告運営ブログにおける本件写真の掲載
 被告は、 平成2 3 年1 月1 0 日、 その運営する「旅の料理人“ 旬の味”“世界旬の旅”」と題するブログに、その頃インターネットからダウンロードした本件写真(2)をアップロードして掲載した。また、被告は、同年2月4日、その運営する「旅の料理人 お勧め極楽・極上・極秘旅」と題するブログに、その頃インターネットからダウンロードした本件写真(1)をアップロードして掲載した。(甲6、7、被告本人、弁論の全趣旨)
(5) 本件提起に至る経過
 原告Aの依頼を受けた永田玲子弁護士(以下「永田弁護士」という。)は、被告に対し、平成23年6月23日付けで、ブログから本件写真(1)の削除と損害金10万円の支払を求める旨を記載した警告書を送付した。被告は、永田弁護士との交渉の後、永田弁護士に対し、1万円を同封の上、同年7月15日付けで、10万円を支払う経営体力が不足している旨を記載した文書を送付した。永田弁護士は、被告に対し、同月20日付けで、1万円で和解に応じることはできない旨に加え、他のブログに掲載していることが判明した本件写真(2)の削除と損害金残額19万円の支払を求める旨を記載した警告書を発送したが、被告は当該警告書の受領を拒否した。原告らは、同年10月5日、当庁に対し、本件を提起した。(枝番号を含めて甲11〜21、当裁判所に顕著)
2 争点
(1) 本件写真の著作物性、著作者及び著作権者(争点1)
(2) 被告の過失の有無(争点2)
(3) 原告らの損害及び損害額(争点3)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 本件写真の著作物性、著作者及び著作権者(争点1)
(原告らの主張)
 原告Aは、本件写真を撮影した。
 本件写真(1)は、夕焼け空・波・岸壁等を被写体として、黒とオレンジ色のコントラストを際立たせて夕暮れ時の一瞬を写し取ったものである。また、本件写真(2)は、夕焼け空・波・砂浜・サーフボードを抱えた人物を被写体として、赤〜紫〜黒のグラデーションの色彩の中に夕焼けの黄色オレンジを一部に差し込ませ、極めて印象的な色彩に仕上げたものである。本件写真は、被写体の選択、レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード・絞りの選択、ライティング、構図・トリミング等により、原告Aの思想・感情が表現されているから、写真の著作物に該当する。
 本件写真の著作権は、いずれも撮影した原告Aが保有している。
(被告の主張)
 原告らの主張は否認する。
(2) 被告の過失の有無(争点2)
(原告らの主張)
ア 被告は、ヤフーの検索画面(http://www.yahoo.co.jp/)において「画像」を選択し、検索ワードとして「ハワイ」を入力して多数の画像を表示し(乙4)、そこに表示されていた本件写真を選択したのち、右クリックで「保存」しダウンロードしたものである。
 当該検索結果として表示された画像(乙4)は、検索結果として表示されているだけであって、どこにもフリー画像であるとか著作権者から使用許諾が与えられているとかの表示は存在しない。
 したがって、仮に被告がそこに表示された本件写真について権利者から許諾があったと誤解したとしても、そう信じることについて相当な理由がないこと、すなわち被告の過失は明白である。
イ 被告は、壁紙Linkから本件写真をダウンロードした旨主張するが、仮にこれが事実としても、被告は過失を免れない。
 壁紙Linkの注意書き(乙6)は、著作権者が写真の営業的使用を許諾したことを表示するものではない。当該注意書きは、せいぜい個人使用には私的複製として権利制限が及ぶことを意味するにすぎない。被告による本件写真の使用は、「個人のデスクトップピクチャーとして」の私的使用ではなく、被告の旅行業に使用する営業用の使用である(甲6の3枚目)。他方、「海外のショップでフリーの素材として販売していたもの」であっても、著作権者は、対価を支払って購入した者による使用を許諾するにすぎず、その利用には第三者に使用させる権利の許諾まで含むものではない。当該注意書き(乙6)には、「ホームページ素材としてもお使い下さい」との記述があるが、著作権者が「フリーの素材」として「販売」していたものは、購入者(壁紙Link)による公衆送信を許諾するものでも、第三者(被告)による公衆送信まで許諾するものではあり得ない。また、壁紙Linkに収集されたもののうち「海外のネット上で流通しているもの」は、著作権者の許諾を得て適法に流通しているものとも、著作権者の許諾なく違法に流通しているものとも、表示しておらず、当該流通に著作権者の許諾があるとは全く表示されていない。
 以上のとおり、壁紙Linkのいずれの記載・表示にも、壁紙Linkのユーザーが画像を自己の営業用サイトにアップすることについて「著作権者」が許諾していると解釈できるものや、壁紙Linkが著作権者であるとか「著作権者」からユーザーによる利用について再利用許諾を受けていると解釈できるものは存在しない。
 万一壁紙Linkがそのような表示を行ったとしても、それを信ずるのが相当かどうかが問題となる状況である。ところが、そのような表示がない状況において、被告が、壁紙Linkが著作権者であるとか「著作権者」からユーザーによる利用について再利用許諾を受けており、壁紙Linkのユーザーが画像を自己の営業用サイトにアップすることについて「著作権者」が許諾していると誤解したとしても、そう信ずるについて相当な理由はないこと、すなわち被告の過失は明らかである。
ウ 以上のとおり、被告は、過失により、本件写真の著作権侵害(複製権、公衆送信権)を侵害した。
(被告の主張)
ア 原告らの主張は否認する。被告に過失はない。
イ 被告は、ヤフーサイトで「画像ハワイ」と入力して検索し、検索結果の画面(乙4)が出てきたので、NO PICTUREや著作権者のサインの記載があるものを除き、2枚の写真(本件写真)を選択した(乙5の1及び2)。その出展元は、壁紙Linkの「世界遺産と世界の風景デザイナーズ壁紙」というカテゴリーであり、その中には「サイトで海外のショップでフリーの素材として販売していたもの、及び、海外のネット上で流通しているものを独自に収集したものです。無料でダウンロードした壁紙は、デスクトップピクチャーとして、あなたの生活に憩いを与えてくれるでしょう。また、ホームページ素材としてお使いください。」(乙6)との記載があった。
ウ 被告が本件写真をブログに掲載した手順は、以下のとおりである。
 ヤフーハワイ検索から本件写真をピックアップする(乙25、26)。その中の1つの写真を画面上でクリックすると写真が現れる(乙27、28)。下のリンクをクリックすると写真が現れる(乙29)。出典元の確認をするため画面(写真の上で)をクリックすると写真が現れる(乙30)。この壁紙Linkで消費者の被告がフリー素材であると「誤認」するような記載があった。次に、写真の上にカーソルを合わせ、名前を付けて画像を保存した(乙32)。最後に、自分のブログに画像をアップした(乙33)。
(3) 原告らの損害及び損害額(争点3)
(原告らの主張)
ア 本件写真の正規ライセンス料
 本件写真をインターネット上のホームページ等で使用する場合におけるライセンス料は、別紙ライセンス料一覧表のとおりである。
 被告がブログに掲載した本件写真のサイズはいずれも1024×768ピクセルであり、画面に占める割合はブログ記事の横幅フルサイズ、かつクリックで高解像度(1024×768ピクセル100%)のものが画面全体に拡大して表示される。
 別紙ライセンス料一覧表によれば、被告による本件写真の利用は、いずれもノーマル使用のうち「クリックで高解像度化、または複数ページ」での利用に該当するから、原告会社から正規の許諾を得た場合に請求されるライセンス料は、本件写真それぞれにつき2376米ドルである。
イ 原告Aの損害
 原告Aの逸失利益は、本件写真の正規ライセンス料各2376米ドルから原告会社の手数料20%を差し引いた金額となる。そして、被告による本件写真(1)の掲載は平成23年2月4日、本件写真(2)の掲載は同年1月10日であり、その頃の為替相場は81〜83円で推移していることに照らし、1米ドルあたり82円で換算すると、原告Aの逸失利益は、31万1731円となる(3801.6米ドル)。
 (計算式)2376米ドル×80%×2=3801.6米ドル
 この金額から既に被告が支払った1万円を差し引くと、原告Aの逸失利益の残額は、30万1731円となる。
ウ 原告会社の損害
(ア) 逸失利益
 本件写真の正規ライセンス料は各2376米ドル、原告会社の手数料は20%であるから、原告会社の逸失利益は7万7932円となる(950.4米ドル、82円換算)。
 (計算式)2376米ドル×20%×2=950.4米ドル
(イ) 積極損害
 本件の積極損害は、別紙積極損害一覧のとおり、合計36万8400円である。
 甲36号証の契約書の「COPYRIGHT PROTECTION SERVICE(著作権保護サービス)」条項によれば、原告会社が不正使用をした侵害者から損害賠償として徴収した金額につき、「net revenue(純収入)」の50%を原告Aに支払うことになっている。「net revenue(純収入)」とは必要経費・費用を差し引いた金額を指すから、当該条項を合理的に解釈すれば、損害賠償の請求及び徴収に要する必要経費・費用を負担するのは原告会社である。
 別紙積極損害一覧記載の費用は、本件写真にかかる不正使用の侵害者に対する損害賠償の請求及び徴収に要する必要経費・費用であるから、原告会社の負担となる。したがって、積極損害の全額が原告会社の損害となる。
 なお、翻訳は、いずれも原告ら訴訟代理人の事務所が行い、翻訳費用として原告会社に請求しているため、その金額は同事務所の基準(翻訳後の文章における1単語につき40円)で算出し端数を切り捨てている。
(ウ) 合計
 原告会社の損害は、逸失利益(7万7932円)及び積極損害(36万8400円)の合計44万6332円である。
(被告の主張)
 原告らの主張は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 準拠法について
(1) 本件では、本件写真の著作物性、著作者及び著作権者について争いがあるが、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)によれば、著作物の保護の範囲は、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによるから、我が国における著作権の帰属や有無等については、我が国の著作権法を準拠法として判断すべきである。我が国とアメリカ合衆国は、ベルヌ条約の同盟国であるところ、本件写真は、アメリカ合衆国において最初に発行されたものと認められ(前提事実(2))、後記2のとおり、その著作物性と同国の国民である原告Aが著作者であることが認められるから、同国を本国とし、同国の法令の定めるところにより保護されるとともに(ベルヌ条約2条(1)、3条(1)、5条(3)(4))、我が国においても著作権法による保護を受ける(著作権法6条3号、ベルヌ条約5条(1))。
(2) また、本件では、原告Aは、原告会社に対し、本件独占的利用許諾権を付与した(前提事実(3))のであるから、このような利用許諾契約の成立及び効力については、当事者が契約当時に選択した地の法を準拠法とし(法の適用に関する通則法7条)、他方、選択がないときは、契約当時において契約に最も密接な関係がある地の法が準拠法である(法の適用に関する通則法8条1項)。そして、本件独占的利用許諾権の付与が譲渡と同じ法的性質であると解したとしても、譲渡の原因関係である債権行為については同様に解するのが相当である。
 そこで検討するに、本件独占的利用許諾権の付与は、原告Aがハワイ州公証人の面前において自ら署名した宣誓供述書をもって行ったものであり(前提事実(3))、その相手方である原告会社が同州に所在する会社であることも併せると、アメリカ合衆国ないしハワイ州の法を選択したものと解するのが相当である。
 そして、アメリカ合衆国著作権法101条は、「『著作権の移転』とは、著作権または著作権に含まれるいずれかの排他的権利の譲渡、モゲージ設定、独占的使用許諾その他の移転、譲与または担保契約をいい、その効力が時間的または地域的に制限されるか否かを問わないが、非独占的使用許諾は含まない。」と規定するから、本件独占的利用許諾権の付与は同条にいう「著作権の移転」に含まれる。また、同法204条(a)は、「著作権の移転は、法の作用によるものを除き、譲渡証書または移転の記録もしくは覚書が書面にて作成され、かつ、移転される権利の保有者またはその適法に授権された代理人が署名しなければ効力を有しない。」と規定するが、原告Aは、自ら署名した宣誓供述書をもって、本件独占的利用許諾権を付与したのであるから(前提事実(3))、本件独占的利用許諾権の付与は効力を有すると解される。
 加えて、原告Aは、本件独占的利用許諾権の付与以前に、原告会社との間で非独占的代理店契約を締結しており(前提事実(3))、前同様にアメリカ合衆国ないしハワイ州の法を選択したものと解されるが、これらの法に照らし、非独占的代理店契約の成立及び効力を否定する根拠は見当たらないから、本件独占的利用許諾権によって変更された非独占的利用許諾権以外の条項については、なお効力を有するものと解される。
(3) そして、著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法律関係の性質は、不法行為であるから、その準拠法は法の適用に関する通則法17条によるべきであり、「加害行為の結果が発生した地」は、我が国における著作権侵害による損害が問題とされているのであるから、我が国と解するのが相当である。
 そうすると、当該請求については、我が国の法律が準拠法である。
2 本件写真の著作物性、著作者及び著作権者(争点1)について
 まず、本件写真の著作物性について検討するに、本件写真(1)は、沈みゆく太陽、荒々しい波、険しい崖等を被写体として夕暮れ時の海岸における光景を撮影した写真であり、太陽を中心とするオレンジの色彩に対して崖等には黒の色彩が施されているものである。本件写真(2)は、夕焼け空、小さな波、砂浜、サーファーボードを抱えたサーファーを被写体として夕暮れ時の海岸における光景を撮影した写真であり、赤〜紫〜黒の色彩の中に夕焼けの黄色〜オレンジの色彩が施されているものである。このような本件写真の表現をみると、本件写真は、いずれも、夕暮れ時の太陽光によって照らし出される海岸の光景を、構図、カメラのアングル、シャッタースピード等を工夫して撮影したものと認められ、撮影者の個性が現れており、撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものであると認められるから、著作物であるというべきである。
 そして、証拠(甲33の1及び2)によれば、本件写真はいずれも原告Aが撮影したものであると認められ、原告Aは本件写真の創作者であるから著作者である。
 以上のとおり、本件写真は著作物性を有し、その著作者は原告Aであるから、原告Aが本件写真の著作権者である(著作権法17条1項)。
3 被告の過失の有無(争点2)について
(1) 被告は、本人尋問において、本件写真をダウンロードした経緯について、概ね次のとおり供述する。
 まず、インターネットの検索サイトであるYahoo!から「ハワイ」を入力して画像を検索し、その検索結果(乙25)から本件写真を選択した。本件写真(1)を選択すると、新しい画面(乙28)が表示されたので、その画面下部に記載された壁紙LinkのURLをクリックした。そうすると、壁紙Linkのサイトの画面(乙29)が表示され、その下部のURLをクリックすると、別の画面(乙30)が表示された。そして、その画面に表示された本件写真(1)をクリックすると、更に別の画面(乙31)が表示され、そこには「デザイナーズ壁紙は海外のショップでフリーの素材として販売していたものを収集したもの、及び、海外のネット上で流通しているものを収集したものです。無料ダウンロードした写真壁紙は個人のデスクトップピクチャーとしてお楽しみください。また、掲載の作品をホームページ素材として、お使いいただく場合にはリンクをお願い致します。」と記載されていたので、フリー素材、無料であると誤信した。本件写真(2)も同様の手順であり、上記の記載と同様の記載があった。
(2) しかしながら、被告は、本件提起前の永田弁護士との交渉において、永田弁護士に送付した文書には、「この写真の提供先は、ヤフーの画像からハワイと入力して、頂きました。写真には、名前のサインも入力されていないことを確認して『一期一会』のポエムにのせました」(甲13の1)、「ヤフーを検索し、画像から趣味のブログ更新の為、ハワイのキーワードを入力しました。画像も持ち主が写真家様と知らず、(サインの記入もなかった為)写真家様の画像との認識もないまま 軽率にも 趣味のブログにて写真家様の画像を掲載してしまった事を心から謝罪させて頂きます。」(甲19の1)、「私も2度とYahoo!画像から趣味のブログへの写真を掲載致しません。」(甲21)と記載しているのみであって、永田弁護士に対し、本件写真が壁紙Linkの記載からフリー素材であると誤信した旨を述べていない(被告本人)。
 そうすると、被告が上記(1)の手順で本件写真をダウンロードしたとは容易に認めることができないし、上記の各記載に照らすと、被告は、壁紙Linkの記載を閲覧することなく、Yahoo!の画像検索結果から本件写真をダウンロードした蓋然性が高いというべきである。
(3) もっとも、被告が上記(1)の手順で本件写真をダウンロードしたとしても、上記(1)の「海外のショップでフリーの素材として販売していたもの」あるいは「海外のネット上で流通しているもの」との記載は、一定程度の注意をもって読めば、壁紙Linkが本件写真の利用許諾を受けていないことについて理解ができるものである。
(4) そうすると、被告は、本件写真の利用について、その利用権原の有無についての確認を怠ったものであって、本件写真をダウンロードして複製したこと及びアップロードしてブログに掲載し公衆送信したこと(複製権及び公衆送信権の侵害)について、過失があると認められる。
4 原告らの損害及び損害額(争点3)について
(1) 原告Aの損害について
ア 証拠(枝番号を含めて甲32、36)によれば、原告会社は、原告Aの作品について、ウェブ使用目的でサイト内の複数ページで使用する場合やクリックで高解像度の写真が開く場合には、2年間で2376米ドルのライセンス料を設定していること、原告会社は、ライセンス料のうち、代理店手数料として20%を取得し、原告Aに対して残りの80%を支払っていることがそれぞれ認められる。
 また、前提事実(4)に加え、証拠(甲6〜8、13の1、甲46、被告本人)、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、被告は、平成23年2月4日本件写真(1)を、同年1月10日本件写真(2)をそれぞれブログにアップロードして掲載したこと、本件写真が被告のブログ上に掲載されていたときには、ブログ上の本件写真をクリックすると別の画面に本件写真が表示され、その大きさは1024×768ピクセルであったこと、被告は、同年7月1日頃本件写真(1)を、本件訴状が送達された同年10月15日頃本件写真(2)をそれぞれ削除したことがそれぞれ認められる。
 この点、被告は、本人尋問において、平成23年7月15日には本件写真(2)を削除した旨供述する。しかしながら、前提事実(5)に加え、証拠(甲7、46)によれば、被告は、永田弁護士が同月20日付けで本件写真(2)の削除を求めた警告書の受領を拒否していること、永田弁護士が同年8月10日被告のブログを閲覧した際には本件写真(2)が掲載されていたこと(甲7下部の印刷日時及び5、6枚目参照)がそれぞれ認められるから、被告の供述は採用できないのであって、被告は本件訴状が送達された同年10月15日頃本件写真(2)を削除したと認めるのが相当である。
イ 以上に基づいて、原告Aの損害(逸失利益)を算定するに、被告は、本件写真の複製権を侵害した上、本件写真(1)について約5か月、本件写真(2)について約9か月ブログに掲載することによって公衆送信権を侵害したのであるから、本件写真のライセンス料に照らすと、原告Aには、本件写真(1)について396米ドル(=2376×5/24×0.8)、本件写真(2)について712.8米ドル(=2376×9/24×0.8)の合計1108.8米ドルのライセンス収入相当額の損害が生じたものと認めるのが相当である。
 そして、証拠(甲5の1及び2、甲31)によれば、平成23年1月から同年10月までの為替レートとしては1米ドル80円と認めるのが相当であるから、1米ドル80円として日本円に換算すると、8万8704円となる。
 この点、原告会社代表者は、その陳述書(甲32の1及び2)において、不正使用の場合には2年間のライセンス料を変更することはない旨供述するけれども、正規ライセンスにおいては短いライセンス期間を設けることもある旨も供述するのであって(実際の例としては甲22、23)、侵害期間に応じた損害を認定する妨げにはならないというべきである。
ウ 以上のとおり、原告Aの損害額は8万8704円であるが、被告は原告Aに1万円を支払っているから(前提事実(5))、これを上記損害額から控除すると、7万8704円となる。
(2) 原告会社の損害について
ア まず、原告会社の逸失利益としては、上記(1)イに照らすと、原告会社には、本件写真(1)について99米ドル(=2376×5/24×0.2)、本件写真(2)について178.2米ドル(=2376×9/24×0.2)の合計277.2米ドルの手数料相当額の損害が生じたものと認めるのが相当である。
 そして、上記(1)イと同様に為替レート80円として、これを日本円に換算すると、2万2176円となる。
イ 続いて、原告会社の積極損害について検討するに、証拠(甲36の1及び2)によれば、原告会社は、非独占的代理店契約において、原告Aに対し、不正使用に対する損害賠償を徴収した純収入の50%を支払う旨を約していることが認められる。
 このように、原告会社が純収入の50%を取得する約定とされていることに照らすと、原告会社は、原告Aの作品に係る損害賠償請求において、弁護士費用等を含めた必要費用を負担するものと解される。
 ところで、原告会社は、別紙積極損害一覧表のとおり積極損害を主張するけれども、その内訳をみると弁護士費用相当額というべきものであるから、これらは併せて弁護士費用相当額として損害額を算定するのが相当である。
 そして、本件における請求内容、経過等の諸事情を併せて考慮すると、弁護士費用相当額としては5万円が相当である。
ウ 以上のとおり、原告会社の損害は、合計7万2176円である。
(3) まとめ
 したがって、原告らの請求は、不法行為に基づく損害賠償請求として、被告に対し、@原告Aにつき7万8704円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、A原告会社につき7万2176円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
5 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 西村康夫
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日本ユニ著作権センター
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