判例全文 line
line
【事件名】弁護士 vs 行政書士 ブログ事件
【年月日】平成24年12月6日
 東京地裁 平成24年(ワ)第11119号 信用毀損行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年9月20日)

判決
原告 A
被告 B


主文
1 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ(PC用URL(URLは省略)、モバイル用URL(URLは省略))その他のブログ、電子掲示板等に別紙記事目録の主文欄記載の記事を掲載してはならない。
2 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ(PC用URL(URLは省略)、モバイル用URL(URLは省略))に掲載している別紙記事目録の主文欄記載の記事を削除せよ。
3 被告は、原告に対し、50万円及びこれに対する平成24年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ(PC用URL(URLは省略)、モバイル用URL(URLは省略))その他のブログ、電子掲示板等に別紙記事目録の請求欄記載の記事を掲載してはならない。
2 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ(PC用URL(URLは省略)、モバイル用URL(URLは省略))に掲載している別紙記事目録の請求欄記載の記事を削除せよ。
3 被告は、原告に対し、744万円及びこれに対する平成24年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、弁護士である原告が、行政書士である被告において、虚偽の記事を自己のブログに掲載して原告の営業上の利益を侵害しているとして、不正競争防止法2条1項14号、3条に基づき、上記記事の掲載の禁止と削除を求めるとともに、同法4条に基づき、744万円及びこれに対する不正競争行為の後の日である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、東京都千代田区内で「神田のカメさん法律事務所」を開設している弁護士であり、インターネット上でブログ「ヲタク弁護士OHオタクんの日常を綴った痛いブログ」及びウェブサイト「神田のカメさん法律事務所」(以下「原告ブログ等」という。)を公開している。
 (甲1、12、乙5、11ないし13、15)
イ 被告は、東京都清瀬市内で「かなめ行政書士事務所」を開設している行政書士であり、インターネット上でブログ「かなめ行政書士事務所」(PC用URL(URLは省略)、モバイル用URL(URLは省略)。以下「本件ブログ」という。)を公開している。
(2) 被告による本件ブログへの記事の掲載と原告による削除の要請等ア 被告は、平成23年6月9日、本件ブログに「南洋株式会社」と題する記事(以下「本件第1先行記事」という。)を掲載し、「社債詐欺の被害者の方から、いただいたパンフレットの一つに、「南洋株式会社」があります。この会社も社債を募集してますが、どうなんでしょう?」などと記載した。
 被告は、同年9月16日にも、本件ブログに「南洋株式会社についてお問い合わせいただきました。」と題する記事(以下「本件第2先行記事」という。本件第1先行記事と併せて、以下「本件各先行記事」という。)を掲載し、南洋株式会社の有価証券を購入すれば、これを担保にして先物取引で被った損失を取り戻せる旨の電話を受けたという相談者への回答として、「被害回復型の詐欺だと思います。…損失を取り戻すと言って釣っておいて、南洋株式会社の社債を買わせようとしているんだと思います。」などと記載した。
 (甲7、乙1)
イ 原告は、平成23年10月1日、南洋株式会社ことNANYO CO.,LTD.(以下「南洋」という。)から本件各先行記事の削除を依頼されて受任し、同月4日付け内容証明郵便で、被告に対し、具体的な理由は示さずに、本件各先行記事の内容が事実に反し、南洋の名誉や信用を著しく害するとして、本件各先行記事の削除を求めるとともに、応じない場合は法的措置をとる旨警告した。
 被告は、同月11日付け内容証明郵便で、原告に対し、事実に反する部分を示すよう求め、これに対し、原告は、同月13日、被告方に電話を掛け、事実に反する部分は示さずに、本件各先行記事を削除するかどうかだけを確認したところ、被告はこれを拒否した。
 (甲4、7、11の1、12、乙3)
ウ 原告は、平成23年10月17日、東京都行政書士会会長に対し、被告が本件ブログに相談の内容や相手方の実名を公表するなどし、行政書士法12条に定める守秘義務等に違反する行為をしていると苦情を申告し、本件ブログの閉鎖や記事の削除等の指導や対応をとるよう求めた。
 被告も、同月31日、東京弁護士会に対し、原告を懲戒することを求めた。
 (乙16)
エ 南洋は、平成23年11月ころ、原告を代理人として、本件ブログが掲示された電子掲示板を管理するニフティ株式会社に対し、人格権に基づき、本件各先行記事等の削除を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立て(平成23年(ヨ)第3589号)、同年12月15日、本件第2先行記事の削除を命じる旨の決定を得た。
 (甲7、11の2)
オ 被告は、原告への懲戒請求手続において原告が提出した答弁書を本件ブログ及び他のブログに掲載した。これに対し、原告は、平成24年1月中旬ころ、ニフティ株式会社及び他のブログが掲示された電子掲示板を管理するヤフー株式会社に対し、著作権に基づき、上記答弁書の削除を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てた。
 (甲3の7A・B、乙13、15)
カ 原告は、平成23年10月17日から平成24年1月18日までの間に、原告ブログ等に「かなめくじ大量発生、一匹残らず直ちに殲滅せよ!!!」と題する記事(以下「本件かなめくじ記事」という。)や被告を明示して批判する記事等、6件の記事を掲載したが、平成23年12月ころ、前者の記事等を削除した。
 被告は、平成24年1月27日、原告に対し、上記記事が原告の名誉を毀損し、又は原告を侮辱するとして、不法行為に基づく損害賠償等を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(平成24年(ワ)第2135号)。
 (甲3の6A・B、12、乙5、11ないし13)
キ 被告は、平成23年10月17日から平成24年4月7日まで、別紙記事目録の投稿年月日欄記載の日に同目録の記事表題欄及び記事本文欄各記載の12件の記事(以下「本件各記事」といい、個別の記事を別紙記事目録の記事番号欄記載の番号に従い「本件第1記事」のようにいう。)を本件ブログに掲載し、現在に至っている。
2 争点及び当事者の主張
 本件の争点は、@原告と被告とが競争関係にあるか、A被告が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布しているか、B被告の責任及び損害である。
(1) 争点@(原告と被告とが競争関係にあるか)について
(原告の主張)
 弁護士法3条1項が弁護士の職務として定める「その他一般の法律事務」は、行政書士法1条の2が行政書士の業務として定める「権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」を含み、また、同法2条2号は、弁護士となる資格を有する者が行政書士となる資格を有することを定めているから、弁護士の職務は、行政書士の業務を包含する。実際、原告と被告のいずれもが督促状や示談書等といった権利義務又は事実証明に関する書類作成の役務を提供している。
 したがって、原告の提供する役務と被告の提供する役務は重複するから、原告と被告とは競争関係にある。
(被告の主張)
 原告と被告の提供する各役務は重複するが、不正競争防止法2条1項14号は、同項1ないし9号や13号に該当するような他人への信用毀損行為を前提とするから、原告と被告とは同法上の競争関係にあるとはいえない。
(2) 争点A(被告が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布しているか)について
(原告の主張)
 本件第1記事は、原告が被告に対して内容証明郵便や電話で具体的な理由を示さずに本件各先行記事の削除を求めたことに関し、南洋が初めから法的手段を望んでいたならば、原告が南洋の意思を無視して内容証明郵便を送付するという弁護過誤を犯したか、内容証明郵便の作成料を余計に稼ごうとしたものであり、逆に、南洋が初めからは法的手段を望んでいなかったならば、原告が具体的な理由を示さない内容証明郵便を送付するという手抜きをしたか、わざと交渉を決裂させるなどして報酬を余計に稼ごうとしたとの事実を摘示している。本件第2記事も、原告が被告に対して本件各先行記事の削除を求めるに当たり、具体的な理由を示さないという弁護過誤を犯したとの事実を摘示している。しかし、原告は、南洋と協議して、被告に必要以上の情報を与えるべきでないと判断し、まずは任意の削除に期待して、具体的な理由を示さない内容証明郵便を送付したのであり、南洋からは被告との交渉を受任していなかったから、具体的な理由を示さなくても、手抜きではなく、本件第1及び第2記事は虚偽である。
 本件第3ないし第12記事は、原告が、南洋からの依頼を受け、内容証明郵便や仮処分命令の申立て等により被告やニフティ株式会社等に対して本件各先行記事等の削除を求めたことに関し、原告は、違法、不正行為に手を貸したりする詐欺的取引の助長や謝罪すべき行為、嫌がらせとしてのスラップ、批判者の口封じをしたとの事実を摘示している。しかし、原告は、被告に対して南洋をひぼう中傷する本件各先行記事等の削除を求め、被告以外の者に対して3件の仮処分命令の申立てをしただけであって、詐欺的取引の助長や謝罪すべき行為、スラップ、批判者の口封じをしていないから、本件第3ないし第12記事も虚偽である。
 そして、本件各記事が摘示する事実は、いずれも原告の営業上の信用を害するものであるから、被告は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布している。
(被告の主張)
 原告は、南洋から被告との交渉をも受任し、被告に対して本件各先行記事の削除を求める具体的な理由を説明すべきであったのに、内容証明郵便と電話のいずれでも具体的な理由を示さず、交渉を無意味なものにしたのであって、手抜きの弁護過誤を犯したか、わざと交渉を決裂させたとの事実を摘示する本件第1及び第2記事は真実であるとともに、正当な批判である。
 南洋は、青森県や同県漁業協同組合連合会(以下「青森県漁連」という。)と業務提携しているかのように装うなどして被害回復型の詐欺を行った末、いわゆる振り込め詐欺救済法によって預貯金口座の取引が停止され、代表取締役らが逮捕された。原告は、そのような南洋を批判した本件各先行記事等の削除を求め、ニフティ株式会社等のブログ運営会社2社や本件ブログを紹介した第三者2名に対して次々と仮処分命令の申立てをしたのであり、詐欺的取引の助長や謝罪すべき行為、スラップ、批判者の口封じをしたとの事実を摘示する本件第3ないし第12記事は真実であるとともに、正当な論評である。
 したがって、被告は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布していない。
(3) 争点B(被告の責任及び損害)について
(原告の主張)
ア 被告は、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布したから、不正競争防止法2条1項14号、4条により、原告に対する損害賠償責任を負う。
イ 原告は、テレビコマーシャルや各種動画、イベントブースの出展、雑誌広告等で広告や宣伝を展開し、これらと連動したインターネット上のホームページを検索して閲覧させることにより、顧客を獲得しているところ、被告の前記信用毀損行為により、本件各記事がインターネット上の検索サイトで相当上位に表示されるようになって、弁護士としての営業上の信用を著しく毀損された。本件各記事が検索サイトで上位に表示されることを防いだり、営業上の損失を調べたりするための費用として約744万円を要すること等を考慮すると、原告の無形損害は744万円を下らない。
(被告の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点@(原告と被告とが競争関係にあるか)について
 不正競争防止法2条1項14号の「競争関係」とは、事業者間の公正な競争を確保するという同法の目的に照らすと(同法1条)、現実の市場における競合が存在しなくとも、市場における競合が生じるおそれがあれば足りると解するのが相当である。
 弁護士法3条1項が弁護士の職務として定める「その他一般の法律事務」とは、法律に関する事務全般をいい、行政書士法1条の2第1項が行政書士の業務として定める「権利義務…に関する書類…を作成すること」を含むものであり、前記の前提事実に証拠(甲1、2、11の1・2)を総合すれば、現実に、原告と被告のいずれもが東京都において示談書等の権利義務に関する書類を作成する役務を提供していることが認められる。
 そうであれば、原告と被告とは、権利義務に関する書類を作成する業務において、市場における競合が生じるおそれがあるということができる。被告は、不正競争防止法2条1項14号が同項1ないし9号や13号に該当するような他人への信用毀損行為を前提としている旨主張するが、そのように解すべき根拠はない。
 したがって、原告と被告とは、競争関係にあるというべきである。
2 争点A(被告が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布しているか)について
(1) 本件各記事のうち原告が削除を求める部分は、直接的に特定の事実を摘示するものの外、意見ないし論評を表明するものがある。しかしながら、意見ないし論評の表明に当たるかのような語を用いている場合であっても、一般の閲覧者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の文脈や記事の公開当時に閲覧者が有していた知識ないし経験等を考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な原告に関する特定の事項を主張するものと理解されるときは、上記事項についての事実の摘示を含むというべきである。そして、その特定の事実若しくは事項が虚偽であって、原告の営業上の社会的評価を低下させるものであれば、信用毀損が成立するものである。
(2) そこで、本件各記事について検討する。
ア 本件第1記事について
 本件第1記事のうち原告が削除を求める部分は、推論の結果として、南洋が初めから法的手段を望んでいたにもかかわらず、原告が、被告の利益に配慮したり内容証明郵便の作成料を余計に稼ごうとした結果、南洋の意思を無視して内容証明郵便を送付したとの事実や、南洋が初めからは法的手段を望んでいなかったにもかかわらず、原告が、弁護士の肩書きと「法的手段」とさえ記載すれば被告は恐れて本件各先行記事を削除するだろうと考えたりわざと交渉を決裂させて報酬を余計に稼ごうとした結果、内容証明郵便でも電話でも具体的な理由を示さなかったとの事実を摘示して、前者の場合であれば弁護過誤であり、後者の場合であればごう慢、手抜きであるなどと被告の意見を表明するものである。
 前記前提事実(2)イに証拠(甲11の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、平成23年10月1日ころ、南洋から本件各先行記事の削除を依頼され、南洋と協議して、被告に必要以上の情報を与えるべきでないと判断し、南洋との間で、まずは任意の削除に期待して、具体的な理由を示さない内容証明郵便を被告に送付し、任意に削除されないときには、直ちに本件各先行記事の削除を求める仮処分命令の申立てをすることを合意したことが認められる。
 そうとすれば、本件第1記事のうち原告が削除を求める部分は、直接的に特定の事実を摘示するものであって、かつ、前記認定の事実に照らすと、その特定の事実は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実であると認められる。
イ 本件第2記事について
 本件第2記事のうち原告が削除を求める部分は、原告が被告に対して具体的な理由を示さずに本件各先行記事の削除を求めたとの事実や、南洋が被告に対して法的手段をとろうとしているとの事実を摘示して、原告の行動は弁護士として正しいものとはいえないなどと被告の意見を表明するものである。
 そうとすれば、本件第2記事のうち原告が削除を求める部分は、直接的に特定の事実を摘示するものであるが、前記前提事実(2)イに照らすと、その特定の事実は虚偽のものとはいえない。
ウ 本件第3記事について
 本件第3記事で原告が削除を求める部分のうち、「そもそも弁護士は「詐欺的取引の助長」と「不当な事件の受任」をしてはならないと定められています(弁護士職務基本規程14、31条)。」から「代理人である以上、南洋(株)だけでなくA弁護士に対しても、責任追及を続けていかなければならないと、改めて思います。」まで(以下、本項において「前者の記事」という。)は、原告が、南洋による詐欺を認識していながら、南洋の代理人として、本件各先行記事の削除を求めているとの事実を摘示して、重大なことであって決して許されないなどと被告の意見を表明するものである。また、本件第3記事で原告が削除を求めるその余の部分(以下、本項において「後者の記事」という。)は、南洋が、青森県や青森県漁連と関係がないのに、これらの名称を無断で使用して投資を募ったり、預貯金口座が犯罪利用預金口座等である疑いがあると認められて取引の停止等の措置を受けたとの事実や、原告が、南洋から依頼を受け、南洋の名誉や信用を害するとして、本件各先行記事の削除を求めているとの事実を摘示して、原告は守るべきでない南洋の名誉や信用を守ろうとしているなどと被告の意見を表明するものである。
 証拠(甲3の3・4各A・B、乙6の1ないし3、7・8の各1・2、9、10の1)及び弁論の全趣旨によれば、南洋は、平成23年、「高級乾燥黒ナマコ生産プロジェクト」と称して、青森県や青森県漁連等と共同して香港にアンテナショップを開設する予定などなかったのに、そのような予定がある旨をパンフレットに記載して出資を募っていたこと、南洋は、複数の金融機関からその預貯金口座がいわゆる振り込め詐欺救済法上の犯罪利用預金口座等である疑いがあると認められて取引の停止等の措置を受け、同年7月以降、預金保険機構による債権消滅手続開始の公告が順次されたこと、もっとも、原告は、同年当時、南洋が詐欺を行っているとは認識していなかったため、被告やニフティ株式会社等に対して本件各先行記事の削除を求めたことが認められる。
 そうとすれば、本件第3記事で原告が削除を求める部分は、直接的に特定の事実を摘示するものであるが、前者の記事は、前記認定の事実に照らすと、その特定の事実は原告の営業上の信用を害する虚偽のものであると認められるのに対し、後者の記事は、前記前提事実(2)イないしエや前記認定の事実に照らすと、その特定の事実が虚偽のものとは認められない。
エ 本件第4及び第5記事について
 本件第4及び第5記事のうち原告が削除を求める部分は、いずれも直接的に特定の事実を摘示するものではないが、その前後の文脈や「自らの不明」、「過ちて」の各語義を考慮すると、南洋が青森県や青森県漁連と関係がないのにこれらの名称を無断で使用して投資を募っていたのに、原告がこれを見抜けなかったとの事項を主張して、原告は謝罪すべきであるなどと被告の意見を表明するものである。
 そうとすれば、本件第4及び第5記事のうち原告が削除を求める部分は、いずれも証拠等をもってその存否を決することが可能な原告に関する特定の事項を主張するものであるが、前記認定の事実に照らすと、その特定の事項は虚偽のものとは認められない。
オ 本件第6記事について
 本件第6記事で原告が削除を求める部分のうち、@「このA氏の記事だけ読むと誤解をされると思いますので、皆さんには正確なことをこれからお伝えします。」、A「言ってみれば、A弁護士の1勝9敗ということです。」から「C氏がA氏と私との争い「かなめくじウォーズ」を実名で詳細に書いたことなど、全て誹謗中傷にはあたらないという裁判所の判断になっています。」まで、B「ということで「かなめくじウォーズ」の第1ラウンド?は、私からみれば5勝1敗なんですが、これを皆さんはどうお感じになるでしょうか?」から「今年中に書類提出は間に合わないかもしれませんが、来年からガンガン行きますよ!!」まで及びC「誹謗中傷にあたらないとされた記事」から「「南洋(株)は振り込め詐欺で口座凍結されていた!!」」まで(以下、本項において「前者の記事」という。)は、その前後の文脈や「1勝9敗」、「誹謗中傷にはあたらないという裁判所の判断」等の語義を考慮すると、原告が南洋の代理人としてニフティ株式会社に対し本件ブログ上に掲載された本件各先行記事を含む記事6件とジャーナリストのCが公開するブログ「NEWS RAGTAG」に掲載された記事4件の削除を求める仮処分命令の申立てのうち、本件第2先行記事の削除を求める申立ては認容されたが、その余の9件の記事の削除を求める申立ては却下されたとの事実を摘示したり、「詐欺的取引の助長」という記載のある本件第3記事の投稿から3週間後に同じ記載のある本件第6記事が投稿されていることに照らすと、原告が南洋による詐欺を認識していたにもかかわらず、南洋の代理人として、本件各先行記事の削除を求めているとの事項を主張して、当該事項の方が上記事実よりも大きな問題であるなどと被告の意見を表明するものである。また、本件第6記事で原告が削除を求めるその余の部分(以下、本項において「後者の記事」という。)は、原告が上記仮処分命令の申立てについて本件第2先行記事だけの削除を命じる決定を得たとの事実や、原告が原告ブログ等から本件かなめくじ記事等を自主的に削除したとの事実を摘示するものである。
 前記前提事実(2)エに証拠(甲7、乙12)及び弁論の全趣旨を総合すれば、ニフティ株式会社が管理する電子掲示板には、本件ブログやジャーナリストのCが公開するブログ「NEWS RAGTAG」が掲示されていたところ、原告は、平成23年11月ころ、南洋の代理人として、ニフティ株式会社に対し本件ブログ上に掲載された本件各先行記事及びその関連記事4件並びにブログ「NEWS RAGTAG」上に掲載された関連記事4件という計10件の記事の削除を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てたが、本件第2先行記事を除く9件の記事の削除を求める申立てを取り下げ、同年12月15日、本件第2先行記事の削除を命じる決定を得たことが認められる。
 そうとすれば、本件第6記事で原告が削除を求める部分のうち、前者の記事は、直接的に特定の事実を摘示し、又は証拠等をもってその存否を決することが可能な原告に関する特定の事項を主張するものであって、前記認定の事実に照らすと、その特定の事実又は事項は原告の営業上の信用を害する虚偽のものであると認められるのに対し、後者の記事は、直接的に特定の事実を摘示するものであるが、前記前提事実(2)エ・カや前記認定の事実に照らすと、その特定の事実は虚偽のものとは認められない。
カ 本件第7記事について
 本件第7記事で原告が削除を求める部分のうち、@「神田のカメさんA弁護士の行為は、スラップ(SLAPP)以外の何ものでもありません。」から「「仮に原告が敗訴しても、主目的となるいやがらせは達成されることになる。」という部分なんか、ズバリその通りじゃないですか。」まで及びA「Bにブラフは通用しないというのを、ご理解いただけたのかもしれません(笑)」から「嫌がらせ目的・表現の自由を制限しようとするスラップを、モラルの欠如した弁護士が行う時、いかに社会に害悪を及ぼすかを皆さんに知っていただきたいと思います。」まで(以下、本項において「前者の記事」という。)は、その前後の文脈や「スラップ」の語義を考慮すると(甲3の7A・B)、原告が勝訴の見込みを抱いていないのに、嫌がらせの目的で仮処分命令の申立て等をしていたとの事実や、原告が被告を恐れているとの事実を摘示した上で、原告はモラルが欠如しているなどと被告の意見を表明するものである。また、本件第7記事で原告が削除を求めるその余の部分(以下、本項において「後者の記事」という。)は、原告が、東京都行政書士会会長に苦情を申告したものの、被告には処分がされなかったり、南洋の代理人として、ニフティ株式会社に対し10件の記事の削除を求める仮処分命令の申立てをしたものの、9件の記事の削除を求める申立てを取り下げ、1件の記事だけの削除を命じる決定を得たり、ニフティ株式会社とヤフー株式会社に対し被告のした懲戒請求手続において提出した答弁書の削除を求める仮処分命令の申立てをしたりしたが、本件第7記事が投稿された平成24年1月に至るまで被告に対しては法的手段や懲戒請求をとっていないとの事実や原告が上記答弁書に「かなめくじ」の着想経緯を記載したとの事実等を摘示して、ひんしゅくであるなどと被告の意見を表明するものである。
 前記前提事実(2)に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、被告を恐れていないし、勝訴の見込みを抱いて、仮処分命令の申立て等をしていたことが認められる。
 そうとすれば、本件第7記事で原告が削除を求める部分は、いずれも直接的に特定の事実を摘示するものであるが、前者の記事は、前記認定の事実に照らすと、その特定の事実が原告の営業上の信用を害する虚偽のものであると認められるのに対し、後者の記事は、前記前提事実(2)ウないしカや前記認定の事実に照らすと、その特定の事実が虚偽のものではないか、又は虚偽のものであるとは認められない。
キ 本件第8ないし第12記事について
 本件第8ないし第12記事で原告が削除を求める部分のうち、@本件第8記事の「この一連の「かなめくじウォーズ」の本質は、虚偽記載をするような問題企業の代理人として批判者の口封じを図る弁護士との戦いです。」、A本件第9記事の「それはつまり、神田のカメさん法律事務所A弁護士が、「詐欺的取引の助長」をしていることにほかなりません。」から「南洋株式会社による詐欺的取引を助長したことは明らかですから、神田のカメさん法律事務所に対しては、懲戒請求の追加申立をする予定です。」まで、B本件第10記事の「これは、A弁護士が「詐欺的取引の助長」をしていたことの強い証拠になると思います。」、C本件第11記事の「刑事弁護の代理人でないとしてもこれまで、南洋株式会社を詐欺だと批判する探偵事務所などに対して、「事実に反し、名誉毀損だ」として、口封じをしてきたわけですから。」及びD本件第12記事の「詐欺で逮捕された南洋(株)E容疑者らと、その代理人として「批判者の口封じ」を行ってきた神田のカメさん法律事務所A弁護士との闘いの経緯が、ここにまとめられています。」(以下、本項において「前者の記事」という。)は、前後の文脈や「批判者の口封じ」、「詐欺的取引の助長」の語義を考慮すると、原告が南洋による詐欺等を認識していたにもかかわらず、本件各先行記事の削除を求める仮処分命令を申し立てるなどしているとの事実を摘示した上で、許されないなどと被告の意見を表明するものである。また、本件第8ないし第12記事で原告が削除を求めるその余の部分(以下、本項において「後者の記事」という。)は、原告が被告から名誉毀損を理由に訴えを提起されたとの事実や、南洋の代表者が逮捕されたにもかかわらず、原告が沈黙しているとの事実等を摘示するものである。
 そうとすれば、本件第8ないし第12記事のうち原告が削除を求める部分は、いずれも直接的に特定の事実を摘示するものであるが、前者の記事は、前記認定の事実に照らすと、その特定の事実が原告の営業上の信用を害する虚偽のものと認められるのに対し、後者の記事は、前記前提事実(2)カに照らすと、その特定の事実が虚偽のものではないか、又は虚偽のものとは認められない。
(3) 以上によれば、被告は、本件ブログに本件第1記事の全部及び本件第3、第6ないし第12記事の各一部を掲載することにより、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布したものと認められる。
3 争点B(被告の責任及び損害)について
(1) 前記2によれば、被告は、故意により、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布したものと認められるから、不正競争防止法2条1項14号、4条により、原告に対する損害賠償責任を負う。
(2) 前記前提事実に証拠(甲3の1ないし10各A・B、8、9の1ないし4)を総合すれば、原告は、テレビコマーシャルやインターネット上の動画、イベントブースへの出展等で広告・宣伝を行い、これらと連動したインターネット上のホームページを検索して閲覧させることにより、顧客の獲得に努めていたが、平成23年10月以降、原告のホームページを検索すると、検索結果として、原告の営業上の信用を害する前記9件の記事の一部が10位以内に表示されるようになり、閲覧者も相当数に及ぶことが認められ、これによれば、原告は、被告の信用毀損行為により、弁護士としての信用を毀損されたものと認められる。しかしながら、原告の売上高が減少するなどの実害が生じた形跡は格別窺えないし、被告は、南洋から投資の勧誘を受けた者からの相談に応じていて、原告が「手抜き」や「詐欺的取引の助長」、「スラップ」、「批判者の口封じ」をしているように見える面もあったものであり、原告自身も、原告ブログ等に本件かなめくじ記事等を投稿して、被告の感情を害していたのである。これらの事情に本件に顕れた諸般の事情を併せ考慮すれば、原告の信用毀損による損害額は50万円とするのが相当である。
4 結論
 よって、原告の請求は、本件ブログその他のブログ、電子掲示板等に別紙記事目録の主文欄記載の記事に係る掲載の禁止及びその削除並びに損害賠償金50万円及びこれに対する不正競争行為の後の日であり、訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成24年5月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 志賀勝
 裁判官 小川卓逸
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/