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【事件名】研究論文の“共著”事件 【年月日】平成24年12月6日 東京地裁 平成23年(ワ)第15588号 著作権侵害差止等請求事件(第1事件)、 平成24年(ワ)第57号 共著名削除等請求事件(第2事件) (口頭弁論終結日 平成24年9月6日) 判決 原告 P1 同訴訟代理人弁護士 杉山義丈 第1事件 被告 国立大学法人九州工業大学(以下「被告大学」という。) 第2事件 被告 P2(以下「被告P2」という。) 第2事件 被告 P3(以下「被告P3」という。) 上記3名訴訟代理人弁護士 阿部哲茂 同 中西俊博 主文 1 原告の請求のうち第2事件の1予備的請求その2に係る訴えを却下する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 (1)第1事件 ア 被告大学は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成24年1月13日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 イ 被告大学は、別紙1(広告目録)記載の謝罪広告を、被告大学のウェブサイト(http://www.kyutech.ac.jp/) の最新情報において、表題部の文字サイズを大、その余の部分の文字サイズを中でもって、1回掲載せよ。 ウ 訴訟費用は被告大学の負担とする。 エ 仮執行宣言 (2)第2事件の1 ア 主位的請求 (ア)被告P2及び被告P3(以下、両被告を併せて呼ぶときは「被告2名」という。)は、CSREA Pressに対し、別紙2(論文目録1)記載Aの論文の共著者名からP3を削除する著者の変更手続をせよ。 (イ)被告2名は、シュプリンガーに対し、別紙2(論文目録1)記載Bの論文の共著者名からP3を削除する著者の変更手続をせよ。 (ウ)被告2名は、LAENGに対し、別紙2(論文目録1)記載Cの論文の共著者名から P3 を削除する著者の変更手続をせよ。 イ 予備的請求その1 (ア)被告2名は、CSREA Pressに対し、別紙2(論文目録1)記載Aの論文の共著者名からP3を削除する著者の変更手続に同意せよ。 (イ)被告2名は、シュプリンガーに対し、別紙2(論文目録1)記載Bの論文の共著者名からP3を削除する著者の変更手続に同意せよ。 (ウ)被告2名は、LAENGに対し、別紙2(論文目録1)記載Cの論文の共著者名からP3を削除する著者の変更手続に同意せよ。 ウ 予備的請求その2 被告2名は、別紙2(論文目録1)記載の各論文の共著者名からP3を削除せよ。 エ 予備的請求その3 (ア)被告2名は、別紙2(論文目録1)記載Aの論文の共著者名からP3を削除するため、別紙3(通知目録)記載1のとおり、通知せよ。 (イ)被告2名は、別紙2(論文目録1)記載Bの論文の共著者名からP3を削除するため、別紙3(通知目録)記載2のとおり、通知せよ。 (ウ)被告2名は、別紙2(論文目録1)記載Cの論文の共著者名からP3を削除するため、別紙3(通知目録)記載3のとおり、通知せよ。 (3)第2事件の2 被告2名は、原告に対し、各自100万円及びこれに対する平成24年1月28日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (4) 第2事件の3 ア 訴訟費用は被告2名の負担とする。 イ 仮執行宣言 2 被告ら (1)第1事件 ア 原告の請求をいずれも棄却する。 イ 訴訟費用は原告の負担とする。 (2)第2事件 (本案前の答弁) ア 第2事件の1に係る訴えを却下する。 (本案の答弁) イ 原告の請求をいずれも棄却する。 ウ 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1)当事者 ア 原告は、昭和63年3月、被告大学の工学部教授に就任し、平成21年3月、同大学を定年退職した。 同大学では、コンピュータの研究に従事していた。 イ 被告大学 被告大学は、文部科学省の設置する大学であったが、平成16年4月1日、国立大学法人として設立された(以下、法人として設立される前についても、便宜上、「被告大学」という。)。 ウ 被告P2 被告P2は、平成12年4月、被告大学に助手として採用され、平成19年4月、同大学の助教となった。 被告P2は、平成12年4月から、原告の指導を受けていた。 被告P2が、いつまで、原告の指導を受けていたかについては、当事者間に争いがある。 エ 被告P3 被告P3は、平成2年、被告大学の助手として採用され、平成12年、同大学の助教授に就任し、平成16年、同大学の教授に就任した。 被告P3は、被告大学の工学研究院・電気電子工学研究系・システムエレクトロニクス部門に所属している。 (2) 原告の研究活動歴 ア 原告は、被告大学において、コンピュータハードウェアに関する研究に従事し、「p1 Architecture」や「レジスタ指向設計」などに関する研究成果を上げていた。 また、原告は、これまで、上記成果に関する論文を多く発表してきた。 イ 原告は、被告大学において、後進の指導にも当たり、被告P2の博士論文の指導を行った。 (3) 論文@〜論文Bの作成 被告P2は、次のとおり、別紙4(論文目録2)記載@からBまでの各論文(以下、順に「論文@」から「論文B」という。)の作成に関与した。 上記各論文には、いずれも、共著者名として原告及び被告P2の氏名が記載されている(被告P3の氏名は記載されていない。)。 なお、原告は、別紙2、4の各論文の表記を次のとおり変遷させているが、本判決では、別紙2、4の符合に従って表示する。
論文@は、論文の題名を「プログラマブルなロードストアユニットと演算部が協調する再構成プロセッサアーキテクチャ」とする日本語論文である。 論文@はC言語プログラムから論理合成ツールによるハードウェア生成のためのプロセッサ構造、このプロセッサ構造の使用に必要な論理合成ツールの概要、及び基礎実験により有用性を明らかにすることを目的とした研究論文で、共著者名として「P4、P2、P1」との表示がある。 論文@は、平成18年7月に投稿され、同年8月21日発行の第5回情報科学技術フォーラム講演論文集(電子情報通信学会)に掲載された。 イ 論文A(甲28) 論文Aは、論文の題名を「メモリアクセスを伴ったプログラムのFPGA実装に適したハードウェアアーキテクチャ」とする日本語論文である。 論文Aは、論文@の研究を発展させてC言語(高級言語)からハードウェア生成(論理合成)のプロセスを明確にし、暗号処理やフィルタ処理などに適用してプロセッサ構造(SPHW:Semi-Programmable Hard Ware)の新規性及び有用性を示した研究論文で、共著者名として「P2、P1」との表示がある。 論文Aは平成21年2月に投稿され、同年12月に電子情報通信学会論文誌Dに掲載された。 ウ 論文B(甲31) 論文Bは、論文の題名を「High-level Synthesis Method Using Semi-programmable Hardware for C program with Memory Access」とする英語論文である。 論文Bは、論文@及び論文Aで示したプロセッサ構造(SPHW)とSPHWの使用に必要な論理合成プロセスに対して、その論理合成プロセスの一部に、市販の論理合成ツールを利用して、SPHWの有用性を明らかにすることを目的とした研究論文であり、論文Bには、SPHW(Semi-Programmable Hard Ware:P1 architecture)と記載されている。また、共著者名として「P2 and P1」との表示がある。 なお、論文Bは、後記論文Cが受賞したことを契機に、作成されたものである。 (4) 論文A〜論文Cの作成(被告2名の行為) 被告P2は、第1著作者として、別紙2(論文目録1)記載AからCまでの各論文(以下、順に「論文A」から「論文C」という。)を作成したが、同論文には、いずれも、共著者名として原告及び被告P3の氏名が記載されている。 (5) 論文Cの受賞発表(被告大学の行為) ア 論文Cの受賞 論文Cは、2010年(平成22年)10月20日から22日にかけて、米国サンフランシスコで開催されたWorld Congress on Engineering and Computer Science 2010(WCECS2010)において、Certifcate of Merit for International Conference on Computer Science and Application 2010を受賞した。 イ 被告大学による受賞発表 (ア)平成22年12月14日掲載のもの 被告大学は、前記受賞について、平成22年12月14日、被告大学のウェブサイトにおいて、次の発表文を掲載した。 見出し:「本学教員がWCECS2010にて優秀論文賞を受賞!」 記事:「平成22年10月20日〜22日、米国サンフランシスコで開催されたWorld Congress on Engineering and Computer Science 2010(WCECS2010)において、電気電子工学研究系P2助教 P3教授の発表論文(タイトル:Introducing Semi-programmable Hardware to Real High-Level Synthesis Tool)がCertificate of Merit for International Conference on Computer Science and Applications2010を受賞しました。」(原告の表示なし) (イ)平成22年12月27日掲載のもの 被告大学は、平成22年12月27日、被告大学のウェブサイトにおいて、次の発表文(前記(ア)の発表文を訂正したもの)を掲載した。 見出し:「本学教員がWCECS2010にて優秀論文賞を受賞!」 記事:「平成22年10月20日〜22日、米国サンフランシスコで開催されたWorld Congress on Engineering and Computer Science 2010(WCECS2010)において、電気電子工学研究系P2助教 P3教授 P1元教授の発表論文(タイトル:Introducing Semi-programmable Hardware to Real High-Level Synthesis Tool)がCertificate of Merit for International Conference on Computer Science and Applications2010を受賞しました。」(原告の表示あり) 2 原告の請求 (第1事件) 原告は、被告大学が、論文Cの受賞を発表した行為(前記1(5))について、原告の名誉、声望を侵害する行為であるとして、被告大学に対し、不法行為に基づき、損害賠償100万円及びこれに対する遅延損害金の支払と、著作権法115条に基づき、ウェブサイトに謝罪広告を掲載するよう求め、 (第2事件) 原告は、被告2名が論文A〜論文Cの共著者に被告P3の氏名を記載した行為(前記1(4))が、原告の論文@及び論文Aに係る著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権及び公表権)を侵害する行為であるとして、被告2名に対し、著作権法112条に基づき、被告P3の氏名を共著者名から削除する手続等をするよう求め、不法行為に基づき、連帯して、損害賠償100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。 また、原告は、被告2名の上記行為が、一般不法行為に該当するとして、上記と同様の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めている。 3 争点 (1)第2事件の1に係る訴えの適法性(争点1) (2)論文@及び論文Aに係る著作権、著作者人格権の帰属(争点2) (3)論文A〜論文Cの共著者名の記載による、前記(2)に係る権利侵害の成否 ア 著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無(争点3−1) イ 著作者人格権侵害の有無(争点3−2) (4)論文Cの受賞発表による名誉、声望の侵害の成否(争点4) (5)損害 ア 第1事件における損害(争点5−1) イ 第2事件における損害(争点5−2) (6)謝罪広告の要否(争点6) (7)共著者名の削除手続を求めることの可否(争点7) (8)一般不法行為の成否(争点8) 第3 争点に関する当事者の主張 1 第2事件の1に係る訴えの適法性(争点1) 【被告2名の主張】 第2事件の1に係る訴えは、法的実現性のないものであるから、却下されるべきである。 【原告】 第2事件の1に係る訴えは、法的実現性に欠けるところはない。被告2名は、法的実現性がないことの具体的な理由を明らかにすべきであるのに、これをしない。 2 論文@及び論文Aに係る著作権、著作者人格権の帰属(争点2) 【原告の主張】 (1)原告は、「P1 Architecture」と「レジスタ指向設計」についての研究成果を有しているが、論文@及び論文Aは、これらの成果を記載したものであるから、原告は、これらの著作物について、著作権(複製権及び翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権及び公表権)を有している。 (2) 論文@作成の経緯 原告は、被告大学の当時の学長から、P4(以下「P4」という。)に博士学位を取らせるよう要請を受けたので、原告研究室(P1研究室)に所属する者に協力を頼んだ上、直接、設計メモ(CプログラムからFPGAへ:2005.10)や基本設計書を作成して研究室内で提示し、P4に対してこの設計メモや基本設計書に基づいてセミプログラマブル再構成可能プロセッサを製作して、簡単なデータを取って論文作成をするように指導した。 設計メモや基本設計書をもとに実際にプロセッサを製作したのは被告P2であり、被告P2は、論文作成にも全面的に協力した。 そして、論文@は、P4論文として発表された。 (3)論文A作成の経緯 論文Aは、Cプログラムからのハードウェア化にあたって、ロードストア部、再構成可能レジスタファイルおよび再構成可能データ処理部から構成されるセミプログラマブルハードウェア(SPHW)構成と位置づけを提案し、その有用性を実験によって示した論文である。 論文Aは、「セミプログラマブルハードウェアによる画像フィルタ用バッファリング手法の検討, 電子情報通信学会論文誌A,Vol.J92-A,No.3,pp.193-196/作成日:2009.3/作成者:被告P2、原告」(甲26。以下「甲26論文」という。)と「Cのハードウェア化に適したFPGAにおけるセミプログラマブルハードウェア、組込みシステムシンポジウム2008(ESS2008)論文集、pp.125-132/作成日:2008.10/作成者:被告P2、原告」(甲25。以下「甲25論文」という。)を再編集したものである。 また、これらの論文は、いずれも、原告の指導の下、原告研究室の学生とスタッフが研究した成果をまとめたものであり、被告P2が個人で行なった研究ではない。 【被告らの主張】 論文@及び論文Aを作成、発表したのは被告P2である。 原告が、被告P2とテーマを共有しながら研究を行ったのは平成16年3月までであり、上記各論文の作成に加わった事実はない。 原告は、上記各論文の共著者として表示されているに過ぎず、著作権法2条1項2号の著作者に当たらない。 3 著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無(争点3−1) 【原告の主張】 (1)論文A 論文Aは、論文Aの一部を英訳したものである。 なお、論文Aは、前記2【原告の主張】(3)のとおりの経過で作成されたものであり、甲26論文は、P5論文(甲23)及びP6論文(甲24)そのものである。更に遡れば、P6論文では、P4論文(論文@)や原告の産学連携研究紹介資料を引用しており、論文Aの源流は、原告が作成した設計メモや基本設計書の記載にある。 したがって、論文Aに独自の創作性はない。 (2) 論文B 論文Bは、論文Aを全体的にまとめ直して英訳したものである。 論文Bと論文Aとの差異は、章や節の分割及び併合又は削除がある程度のものである。論文Aの2.4と2.5を併合して、論文Bの2.4を構成し、論文Aの4.1と4.2を併合して論文Bの4.1を構成している。また、論文Aの5章(関連研究)を論文Bでは削除している。 そのほかの点について、論文Bは論文Aと同一であり、独自の創作性はない。 (3)論文C 論文Cは、原告の基本アイデア(SPHW:P1 architecture)及び論文@及び論文Aに、実験データを追加して発表したものである。 すなわち、論文Cは、論文@及び論文Aに依拠し、かつその表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、論文Aで明確化された論理合成プロセスにおけるデータ処理ハードウェアの生成を、市販のHandel-Cに置き換え、全体を英訳したものである。 なお、論文Cは、WCECS2010において優秀論文賞を受賞したが、受賞の栄誉により、論文Cを少し改訂した論文Bがジャーナル誌(Engineering Letters)に掲載された。論文Cは論文Bとほとんど変りなく論旨は同じである。然るに、ジャーナル誌(Engineering Letters)の論文Bの共著者には被告P3の名前は無い。これは、被告P3が論文Cにおける研究に貢献していない事実を端的に示すものである。 (4)複製権の侵害 原告は、論文A〜Cの執筆自体には全く関与しておらず、被告P2は、原告に無断で、これらの論文を執筆した。 論文A〜論文Cは、論文@及び論文Aに依拠して同一又は類似の表現を有形的に再製し、これを複製したものであり、被告2名による論文A〜論文Cの作成は、原告の保有する論文@及び論文Aに係る複製権(著作法21条)の侵害に当たる。 (5) 翻案権の侵害 論文Aは論文Aの一部を英文にまとめ直したものであり、論文Bは論文@及び論文Aに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、論文Aを全体的に英文にまとめ直したものである。論文Cは、論文@及び論文Aに依拠し、かつその表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、論文Aで明確化された論理合成プロセスにおけるデータ処理ハードウェアの生成を、市販のHandel-Cに置き換えたものであり、論文@及び論文Aと論文Cの読者は、追加された実験データ以外の部分についての酷似を容易に感得できる。 以上のとおり、被告2名による論文A〜論文Cの作成は、いずれも原告の保有する論文@及び論文Aに係る翻案権(著作権法27条)の侵害に当たる。 【被告らの主張】 (1)論文@及び論文Aの著作者 前記2【被告らの主張】のとおり、論文@及び論文Aを作成したのは被告P2のみであり、原告は、上記各論文の著作者ではない。 したがって、原告は、上記各論文について著作権を有しないので、その侵害もない。 (2)原告の氏名を共著者として表示した理由 被告P2は、被告大学の助手として研究を始めた当初、原告の指導を受けていた。そして、論文作成当時、原告が被告P2の所属する研究室の教授であったため、かかる教授に礼儀を尽くすという意味で、被告P2は、原告の名を論文に表示していた。また、本件のような理科系学術論文において、実際に論文を執筆した者以外に、その者の所属する研究室の教授の名前も共著者に挙げることが慣習化しており、被告P2は、かかる慣習に従い原告の名を共著者として表示したものである。 さらに、被告P2の執筆した論文の内容が、原告の過去に研究していた分野の応用であったこともあり、被告P2は、原告への感謝の気持ちを込め、原告の退職後も、原告を論文の共著者として表示していた。 (3)被告P3の氏名を共著者として表示した理由 平成21年3月に原告が被告大学を退職すると、被告P2は被告P3の研究グループに属するようになった。したがって、被告P2は、同グループに属するようになってからは、前記(2)と同じ理由で、研究室の教授である被告P3の名を表示するようになった。 4 著作者人格権侵害の有無(争点3−2) 【原告の主張】 (1)前記3【原告の主張】(1)〜(3)のとおり。 (2)著作者人格権の侵害 共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ行使することができないところ(著作権法64条1項)、被告2名が原告に無断で論文@及び論文Aを改変して、論文A〜論文Cを作成した行為は、論文@及び論文Aについての原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権及び公表権)の侵害に当たる。 【被告らの主張】 (1)前記3【被告らの主張】と同じ。 (2)侵害行為の不存在 被告P2は、自ら単独で作成した論文に、その著者として原告や被告P3の氏名を表示していたが、かかる共著者の表示が、直ちに著作権法の著作者を表しているわけではない。 5 論文Cの受賞発表による名誉、声望の侵害の成否(争点4) 【原告の主張】 前記2〜4のとおり、被告2名による論文Cの作成等は、原告の論文@及び論文Aについての著作権及び著作者人格権を侵害する行為であるが、被告大学が、同論文の受賞を発表するに当たり、被告P3の氏名を共著者として表示したことは、改めて原告の名誉、声望を侵害するものである。 【被告大学の主張】 前記2【被告らの主張】のとおり、原告は、論文@及び論文Aについて、著作権及び著作者人格権を有しておらず、論文Cの受賞発表による侵害もない。 仮に、原告に著作権及び著作者人格権が発生していたとしても、被告大学は、論文Cについて、共著者の表示に被告P3が表示されていたことから、これを単にホームページ上に掲載したまでであり、原告に対し責任を負うことはない。 6 第1事件における損害(争点5−1) 【原告の主張】 前記5のとおり、被告大学が、論文Cの受賞を発表するに当たり、被告P3の氏名を共著者として表示したことは、改めて原告の名誉、声望を侵害するものである。 原告が被告大学の上記行為によって被った精神的損害の慰謝料は80万円が相当であり、弁護士費用は20万円が相当である(合計100万円)。 【被告大学の主張】 争う。 前記5【被告大学の主張】のとおり。 7 第2事件における損害(争点5−2) 【原告の主張】 前記3及び4のとおり、被告2名の行為(前提事実(4))は、論文@及び論文Aの著作権及び著作者人格権を侵害する行為であり、上記行為によって被った精神的損害の慰謝料は80万円が相当であり、弁護士費用は20万円が相当である(合計100万円)。 【被告2名の主張】 争う。 前記3及び4の各【被告らの主張】のとおり。 8 謝罪広告の要否(争点6) 【原告の主張】 原告は、被告大学の行為(前提事実(5))によって、論文@及び論文Aに係る著作権及び著作者人格権を侵害され、名誉を傷つけられた。 したがって、原告は、被告大学に対し、名誉回復の措置として、別紙1記載の謝罪広告を掲載するよう求める。 【被告大学の主張】 争う。 前記5【被告大学の主張】のとおり。 9 共著者名の削除手続を求めることの可否(争点7) 【原告の主張】 被告2名の行為(前提事実(4))により、論文@及び論文Aについて原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権及び公表権)が侵害されている状況が継続しているので、原告には、著作権法117条及び112条に基づき、共著者名から、被告P3の氏名を削除する措置を求める必要性が存在する。 よって、原告は、被告2名に対し、著作権法112条に基づき、論文A〜論文Cの共著者名から、被告P3の氏名を削除することを求める。 【被告2名の主張】 前記2【被告らの主張】のとおり、原告が、論文@及び論文Aについて、著作権及び著作者人格権を取得することはないので、被告2名に対し、同権利に基づいて、共著者名の削除手続等を求めることはできない。 10 一般不法行為の成否(争点8) 【原告の主張】 論文A〜論文Cは、P1研究室のチームが、原告を中心として作成した論文を複数に分解し、結合させたり、英訳したりしたもので、そこに新規性、創造性は全くない。被告P2は、P1研究室の成果を論文として発表するに当たり、たまたま論文作成の役割を分担したにすぎず、研究成果を無断で発表したものである。 被告2名の行為(前提事実4)は、著作権法上の問題と同時に、P1研究室の研究成果を剽窃しているという側面を有する。 また、被告2名の行為は、原告が、論文A〜論文Cのコレスポンディングオーサーとして有する名誉・信用等の一般的人格権を侵害する。 上記被告2名の行為により原告の受けた損害は100万円を下ることはない。 よって、原告は、被告2名に対し、不法行為に基づく損害賠償として100万円の支払を求める。 【被告2名の主張】 争う。 第4 当裁判所の判断 1 第2事件の1に係る訴えの適法性(争点1)について 被告2名は、第2事件の1に係る訴えについて、法的実現性がないから不適法であり、却下されるべきであると主張する。 第2事件の1予備的請求その2に係る訴え(前記第1の12ウ)は、被告2名において負担すべき給付の内容が不特定であるといわざるを得ない。原告は、この点に関する裁判所からの求釈明に対し、第2事件の1に係るその余の請求(前記第1の1(2)ア、イ及びエ)を追加したものであるが、これらの請求から明らかなとおり、共著者名から被告P3の氏名を削除することができるのは、あくまで出版社であり、被告2名が負担すべき給付の内容は出版社に対する申請又は申請への同意にすぎない。 そうすると、予備的請求その2は、被告2名において負担すべき給付の内容が不特定である上、第三者の行為が介在せざるを得ず、被告2名に対する判決のみでは実現することができない給付を求めるものであって、不適法であるというほかない。 第2事件の1のその他の請求については、被告2名において負担すべき給付の内容が特定されており、法的実現性がないということはできないと考える。 2 論文@及び論文Aに係る著作権、著作者人格権の帰属(争点2)について (1)はじめに(論文の共著者の表示による推定) 前提事実(3)のとおり、論文@及び論文Aの共著者として、原告の氏名が表示されており、著作権法14条により、原告は、論文@及び論文Aの共著者と推定される。 しかし、後記(2)のとおり、原告は、上記各論文の執筆に直接関与していないことを自認しているというべきであり、後記(3)、(4)の事情も総合すると、上記推定は覆滅されているというべきである。 以下、詳述する。 (2)論文の執筆者 ア 論文@の執筆者 論文@の執筆者について、被告らは、被告P2であると主張するのに対し、原告は、P4であると主張するが、原告が執筆者であるとは主張していない(なお、第1著作者を筆頭にし、貢献度の高い順に共著者を記載するのが一般的であると認められるところ〔甲5の4枚目〕、論文@については、共著者名の筆頭はP4である。)。 原告は、それまでの原告の研究室における研究活動に原告が指導的役割を果たしてきたことを述べる。確かに、論文@の発表時期(平成18年)からすると、原告が論文の作成を指導していたことが窺えるが、原告がどのような指導をしたのか、また、原告の指導が論文@においてどのように反映されたかについての具体的な主張、立証はない。 イ 論文Aの執筆者 論文Aの執筆者が、被告P2であることについては、当事者間に争いがない。 また、原告が、論文Aの作成について、具体的にどのような指導をしていたかの主張、立証はなく、論文Aの発表時期(平成21年:原告は、同年3月に被告大学を定年退職している。)からしても、原告の関与の程度は不明である。 ウ 論文Bについて なお、論文Bは、招待論文であり、論文C(受賞論文)の後に作成、公表されたものであり、内容的には、論文Cとほぼ同一であることが認められる(弁論の全趣旨)。 その際、被告P2に対する原告の強い指示もあって、論文Cでは共著者として記載されていた被告P3の氏名は、論文Bの共著者として記載されなかった(甲4の1)。 原告は、以上の事実をもって、論文Cについて、被告P3が作成に関与していないことの理由とするものの、被告らの行為が、論文Bについての原告の権利を侵害したと主張するものではない。 (3)学術論文における共著者の記載のあり方 ところで、学術論文における共著者の記載のあり方について、次のとおり、東大大学院情報学環学際情報学府の学生(博士課程を含む)向けの解説がある(甲5)。 「修士論文や博士論文は著者が一名となる単著ですが、対外的に論文を発表する場合は、指導教員や共同で研究した研究者を共著者に含めることも多くなります。共著者は、主著者とともに共同で研究に貢献し、論文内容を説明でき、それに関する質問に応じることができる人です。また共著者も論文内容について責任を負うことになります。 単著以外の論文を投稿する時は、過不足なく適切に共著者を選定して、全ての共著者に投稿前に論文原稿案を見て頂き、共著者になる了承を得ておかなければなりません。共著に加えておけば喜んでもらえるだろうと勝手に判断することは慎むべきです。共著者も論文の内容に責任を負うため、了承を得ずに投稿することはあってはならないことです。また、学会誌によっては採録の際に著者全員の許諾(サインなど)を求める場合がありますので、事後に思わぬトラブルを産む原因となります。 なお、連名の場合の著者の順は、主著者を筆頭にし、貢献度の高い順に共著者を書くことが一般的です。単に組織上の地位を重視して配列するのはしてはいけないこととされています。」 上記記載からすると、当該論文の執筆(創作行為)自体に実質的な関与がなくても、指導教員や共同で研究した研究者を、当該論文の共著者として表記することがあり得ることを前提としていることが窺える。 (4)論文@及び論文Aの作成における実質的関与 著作権法上の著作者は、「著作物を創作する者」であり、創作行為に実質的に関与していなければならず、本件においても、論文@及び論文Aの著作者の認定については、論文の執筆(創作行為)に実質的に関与しているか否かという観点から検討すべきである。 しかし、論文@及び論文Aの執筆者の認定は前記(2)のとおりである。 原告は、前記第3の2【原告の主張】のとおり、論文@及び論文Aの基礎となった研究成果や、引用された論文があり、原告が、これらの研究成果の形成や論文の作成において、主導的な役割を果たしたことから、論文@及び論文Aについても、著作者の1人であると主張するものと解される。 これら、論文@及び論文Aの基礎となった研究成果や、引用された論文が、原告が被告大学を退職する以前、原告研究室に在籍する学生や研究者によって、形成されたり、作成されたりしたことから(弁論の全趣旨)、原告が、これらの研究成果の形成や、論文の作成について、主導的な役割を果たしたことは十分に窺える。そして、原告が被告大学を退職したのは平成21年3月であるところ、論文@の発表は平成18年に、論文Aの発表は平成21年に行われており、これらが原告の指導の下、作成された可能性は否定できない。 しかし、研究成果自体について著作権は成立しない。論文の引用は、著作権法32条の範囲で許されており、同条の範囲内の引用である限り、引用を理由に何らかの権利を取得するわけではない。 また、前記(2)のとおり、論文@及び論文Aの実際の作成に当たって、原告がどのような関与をしたかについて、具体的な主張、立証はない。論文@及び論文Aの基礎となったとされる研究成果(論文)で、原告が共著者として挙げられている論文の多くにおいて、原告が著作者の1人であり、原告に著作権が帰属するものであることも、容易に推認することが可能であるものの、どの論文の複製、翻案が、論文@及び論文Aとなるのかは不明である。例えば、原告は、論文Aについて、甲25論文と甲26論文を再編集したものであり、甲26論文は、P5論文及びP6論文と同一であり、P6論文はP4論文(甲17:論文@)や原告の産学連携研究紹介資料(甲18)を引用していると主張し、これらの論文を証拠として提出しているが、それらの具体的な比較や、複製、翻案であることについての説明はしていない。 (5)小括 以上によると、原告は、論文@及び論文Aの共著者として記載されてはいるが、前記(2)から(4)までに述べた事情を総合すると、原告を論文@及び論文Aの共著者であるとの推定は、覆滅されたというべきである。 (6)原告の主張について 論文@及び論文Aの著作権に関する原告の主張は、論文@及び論文Aが、原告及び原告研究室における研究成果を踏まえている以上、当該論文の著作権が原告にも帰属するというものであると解される。 しかし、著作権法上の著作者というためには、前述したとおり、当該論文の執筆(創作行為)に、実質的に関与したか否かで判断すべきであり、原告の主張する事情のみをもって、当該論文の著作者であると認定することはできないというべきである。 また、原告は、論文@及び論文Aに係る著作権の侵害を請求の根拠としているが、その一方で、最終準備書面においては、論文Aについて、新たな知見の追加はなく、創作性はなく、著作物性を認めることはできないとまで述べるに至っている。このことは、要するに、原告や原告研究室における研究成果こそが、本件請求の根拠となるべきものとして主張するもののようであるが、著作物の特定自体が、曖昧になってしまっているといわざるを得ない。 3 著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無(争点3−1)について (1)著作権の帰属の有無 前記2のとおり、論文@及び論文Aについて、原告に著作権(共同著作権)が帰属することを認めることができず、被告2名の行為について、原告の著作権(複製権又は翻案権)の侵害を認めることはできない。 (2)被告2名の行為による著作権(複製権又は翻案権)の侵害の成否 仮に、何らかの著作権(共同著作権)が発生し、原告に帰属したとしても、被告2名の行為により、これらの権利が侵害されたことを根拠付ける具体的な主張、立証はない。 すなわち、原告は、論文A〜論文Cと、論文@及び論文Aとの比較をし、論文A〜論文Cについては、論文@及び論文Aを複製又は翻案したものであると主張している。 しかし、原告は、その論拠として、論文A〜論文Cが、論文@及び論文Aを英訳したものに過ぎないとか(なお、論文A〜論文Cは英語論文であり、論文@及び論文Aは日本語論文であるため、複製ということは考えられない。)、論文Cは、論文@及び論文Aに依拠し、かつその表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、論文Aで明確化された論理合成プロセスにおけるデータ処理ハードウェアの生成を、市販のHandel-Cに置き換え、全体を英訳したものであると主張するのみであり、それ以上に複製権又は翻案権を侵害することを根拠づける具体的な説明をしない。 4 著作者人格権侵害の有無(争点3−2)について (1)公表権侵害の有無 原告は、被告2名が、論文A〜論文Cの共著者名に、被告P3を入れたものを作成、公表したことが、論文@及び論文Aの公表権を侵害したと主張する。 しかし、前述したとおり(前記2)、原告が論文@及び論文Aについて、著作権を有しているとは認められず、また、論文A〜論文Cが論文@及び論文Aの複製又は翻案であることの主張立証もないので、原告の主張は、その前提を欠くというべきである。 なお、原告の上記主張は、論文@及び論文A自体の著作者人格権(公表権)の侵害があったとするものではなく、また、論文A〜論文Cに係る著作者人格権(公表権)の侵害があったというものでもない。 (2)氏名表示権侵害の有無 原告は、被告2名が、論文A〜論文Cの共著者名に、被告P3を入れたものを作成、公表したことが、論文@及び論文Aの氏名表示権を侵害したと主張する。 しかし、前記(1)と同様の理由により、論文@及び論文Aに係る氏名表示権の侵害の問題は生じないというべきである。 (3)同一性保持権侵害の有無 原告は、被告2名が、論文A〜論文Cの共著者名に、被告P3を入れたものを作成、公表したことが、論文@及び論文Aの同一性保持権を侵害したと主張する。 しかし、前記(1)と同様の理由により、論文@及び論文Aに係る氏名表示権の侵害の問題は生じないというべきである。 なお、原告の上記主張からしても、原告は、論文@及び論文Aの内容についての改変を問題にしているわけでなく、むしろ、論文の作成に関与していない被告P3の氏名を共著者として記載することを問題にしているものであるが、このことは、同一性保持権の侵害とは関係がないというべきである。 (4)原告の主張について 原告は、被告2名の行為が、論文@及び論文Aに係る原告の著作者人格権を侵害すると主張するに当たり、著作者人格権侵害であることの理由として、文部科学省のガイドライン(甲6)や、東大における学生向けの解説(甲5)などを引用する。 しかし、学術論文における共著者の表示が、必ずしも、著作権法上の著作者と同じ扱いがされているわけでないことは、前記2(3)のとおりであって、仮に、被告2名の行為が、上記ガイドラインや解説に反する点があるとしても、これが、直ちに、著作権法上の著作者人格権の侵害に該当するわけではない。 5 一般不法行為の成否 (1)成果の盗用 原告は、被告2名の行為が、原告や原告研究室の研究成果を剽窃するものであると主張する。 しかし、原告は、前記2(6)のとおり、原告及び原告研究室における、それまでの研究成果を踏襲したものであると主張するだけで、それ以上に、具体的な説明をしない。 そもそも、原告は、専ら、被告2名の行為について、被告P3が論文A〜論文Cの作成に関与していないにもかかわらず、共著者として記載されていることを問題にしているといえる。すなわち、本件訴訟において、原告は、被告P3の氏名の削除を求めているが(前記第1の1(2))、被告P2の氏名の削除を求めているわけではない(被告P2が研究成果を盗用したとまではいわず、被告P3の氏名を共著者として記載する以上、被告P3は、研究成果を盗用したのと同じであると主張する趣旨であると解することができる。)。また、上記各論文から原告自身の氏名の削除を求めているわけでもない。 したがって、論文A〜論文Cの作成、公表自体が、原告や原告研究室の研究成果を盗用するという主張は、被告P3の氏名を論文A〜論文Cの共著者として表示したことが不法行為となるという主張であると考えて、さらに検討することとする。 (2)論文A〜論文Cに関する人格権侵害の成否 原告は、被告2名の行為が、論文A〜論文Cのコレスポンディングオーサーとして、原告の有する名誉・信用等の一般的人格権を侵害すると主張する。 前記(1)のとおり、原告は、論文A〜論文Cの作成に関与していない被告P3の氏名を、上記各論文の共著者として表示することが不法行為となると主張しているが、これは上記人格権侵害の根拠としての主張と解することができる。 この点について、原告は、共著者の全員の同意がなければ、共著者として表示することは許されないにもかかわらず、被告P2が、原告の同意を得ることなく、被告P3の氏名を、論文A〜論文Cの共著者として表示したことが、原告の権利を侵害するものであると述べる。 確かに、証拠(甲12の1・2)及び弁論の全趣旨によると、被告P2は、論文A〜論文Cを作成、発表するに当たり、原告の承諾を得ることなく、被告P3の氏名や原告の氏名を共著者として記載したことが認められる。 このことは、文部科学省の科学技術・学術審議会の研究活動の不正行為に関する特別委員会作成の「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて−研究活動の不正に関する特別委員会報告書−」(甲6)や、前記2(2)で述べた解説(甲5)の記載に照らすと、不適切な行為であったといわざるを得ない。 しかし、原告は、前記(1)のとおり、論文A〜論文Cの共著者として、自らの氏名が記載されたこと自体を問題にしているわけではなく(むしろ、原告は、自らを、論文A〜論文Cについてのコレスポンディングオーサーであると述べている。)、もっぱら、被告P3の氏名が共著者として記載されていることを問題にしている。 上記ガイドラインや解説によると、共著者として氏名が記載されている場合、論文の内容について責任を負うことになるため、共著者として自己の氏名が記載されるか否かの決定権は尊重されなければならないことは明らかであるが、他の共著者の氏名が記載されるか否かについては、必ずしも、同様に論じることはできない。 すなわち、論文の第1著作者としては、共著者として予定される全員の承諾のもと、共著者として記載すべき氏名を確定することが望ましいといえるが(甲11)、論文A〜論文Cの第1著作者である被告P2が、共著者として被告P3の氏名を記載することを、同じく共著者としてその氏名を記載する予定である原告の同意を得なかったからといって、原告に、金銭による慰謝料の支払をもって慰謝しなければならない程度の人格権の侵害があったということは困難である(仮に原告の主張を前提とすると、被告P3が、当該論文の作成に実質的な関与を一部しているような場合にまで、原告に対し、許諾を得る必要があり、その許諾を得られない以上、被告P3の氏名を共著者として記載できないということになりかねないが、そのような事態は不合理というべきである。)。 6 結論 以上によると、原告の請求のうち第2事件の1予備的請求その2に係る訴えは不適法であるから却下し、その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 松川充康 裁判官 西田昌吾 (別紙1ないし別紙4省略) |
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