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【事件名】不動産物件情報プログラムの複製権侵害事件 【年月日】平成24年11月30日 東京地裁 平成24年(ワ)第15034号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成24年9月24日) 判決 原告 XことY 被告 有限会社光商事 同訴訟代理人弁護士 鈴木修 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨 (1) 被告は、原告に対し、280万円及びこれに対する平成21年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (本案前の答弁) 本件訴えを却下する。 (本案の答弁) (1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 事案の概要 本件は、プログラムの著作物の著作権を有すると主張する原告が、被告に対し、主位的には複製権侵害及びプログラム著作物の著作権侵害とみなされる行為に基づき、予備的には一般不法行為に基づき、原告が被った損害1120万円の一部請求として280万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年7月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 原告の主張 (1) 当事者 ア 原告は、「X」の名称を使用して、ウェブサイト制作の請負等を業とする者である。 イ 被告は、不動産業を営む(特例)有限会社である。 (2) 本件プログラムの制作 ア 原告は、平成20年12月24日に被告から不動産物件表示プログラム(以下「本件プログラム」という。)の制作を請け負ったと考え、その後、本件プログラムを制作し、原告の管理するサーバ(以下「本件サーバ」という。)にアップロードした。 イ 本件プログラムには創作性があり、「プログラムの著作物」に当たる。 ウ プログラムの著作物の創作行為とは、著作権法(以下、単に「法」という。)10条3項3号に規定された解法すなわちアルゴリズムをコーディングすることをいい、コーディングとはソースコードを書くことである。本件プログラムのソースコードを書いたのは原告であるから、原告が本件プログラムに係るプログラムの著作物の著作権者である。 本件プログラムのソースコードに「Copyright © 2007 P. All Rights Reserved.」とあるのは、ウェブページを完成させるために必要な画像として「Free CSS Templates」という団体から提供されたものを使用し、この団体との間の使用契約によって、画像の著作権者を明示する必要があったためである。上記表示は画像の著作権者を示しているのであって、本件プログラムの著作権者を示しているのではない。 (3) 平成21年1月16日のアクセスについて ア 原告は、平成21年1月16日、被告の事務所において、被告の保有するパソコンに、本件プログラムが記録されている本件サーバのURL(アドレス)を入力し、被告の専務取締役であるZに上記パソコンを操作させ、上記URLを用いて、本件プログラムにアクセスさせた。 イ その後、原告は、被告に対して請負契約に基づく代金を請求したが、被告は、請負契約の成立を否定し、原告の支払請求に応じなかった。 原告は、平成21年5月31日、被告に対し、本件プログラムの制作に関する請負契約が成立していないのであれば、平成21年1月16日に本件プログラムにアクセスした行為は非公開のページへの不正アクセスとなる旨などを記載した書面(甲4)を送付した。 (4) 平成21年6月11日、同年7月17日及び同月18日のアクセス(以下「本件各アクセス」という。)による複製権侵害について ア 本件各アクセスが複製に当たること (ア) 被告は、平成21年6月11日、同年7月17日及び同月18日、原告の承諾なく、本件プログラムが記録されている本件サーバにアクセスし、本件プログラムを被告のコンピュータにダウンロードした上で、本件プログラムを被告のコンピュータ上で使用(入力、演算及び出力)し、モニタの画面に情報を表示させ、その表示された情報を閲覧した。 (イ) ブラウザを使って本件プログラムにアクセスすると、自動的に本件プログラムが被告のコンピュータのメモリにコピーすなわち複製される。 (ウ) また、ハードディスクにはブラウザキャッシュとして本件プログラムの複製物が作成される。 (エ) 被告のコンピュータで本件プログラムを使用(入力、演算及び出力)すると、上記(イ)のメモリ上の複製物を使用して演算が行われる。 (オ) 上記(エ)の演算過程で、本件プログラムは、被告のコンピュータのメモリ、CPUのレジスタ及びI/Oのレジスタに複製される。 (カ) 上記(イ)(ウ)(オ)のとおり、本件各アクセスにより、本件プログラムの複製物は被告のコンピュータの@メモリ、ACPU、BI/O及びCハードディスクに保存されるが、これら4つの部品に複製物が保存されることが、法2条1項15号の「複製」に当たることは明らかである。 (キ) また、上記(エ)のとおり、被告は本件プログラムの複製物を使用したところ、被告は、上記(3)イで今後の本件プログラムへのアクセスは不正アクセスとなる旨の通知を受けたにもかかわらず、本件プログラムに業務上の確認目的で不正アクセスし、違法複製物を生成し、この違法複製物を用いて被告のコンピュータで業務使用(入力、演算及び出力)したのであるから、プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を、業務上、情を知って電子計算機において使用したものであり、法113条2項によりみなし侵害行為を構成する。 イ 被告には法47条の8の抗弁は成立しない。 (ア) 法47条の8は、平成21年法律第53号によって加えられた条文であり、同改正の施行日は平成22年1月1日であるのに対して、本件各アクセスは平成21年6月11日、同年7月17日及び同月18日であるから、法47条の8の抗弁が成立する余地はない。 (イ) ハードディスク上に作成されたブラウザキャッシュは演算過程で作られた複製物ではないから、法47条の8の抗弁が成立する余地はない。すなわち、法47条の8は、複製物をさらに複製した場合の規定であり、ユーザがインターネットを通じてサーバにあるプログラムを初めてユーザのパソコンのメモリにダウンロードする場合は、同条の規定対象ではない。 また、ブラウザキャッシュはコンピュータの情報処理に必要な複製ではないから、法47条の8の適用を受けることはない。 (ウ) 法47条の8は「これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。」と規定しているところ、被告による本件各アクセス及びその際の複製物の使用は法113条2項のみなし侵害行為を構成するから、法47条の8は適用されない。 営利を目的とする法人である被告が、原告から不動産物件情報公開を目的とするプログラムの提案を受けて、それが、本件各アクセスの時点においてどのような状態になっているかを確認するために本件プログラムに無断アクセスしたというのであるから、この行為が業務であることは明らかである。 (5) 別件乙3の印刷による複製権侵害 ア 被告は、平成21年8月11日、原被告間の別件訴訟(当庁平成21年(ワ)第19307号。以下「別件訴訟」という。)において、「光商事物件の検索はこちら」と題する書証(甲1の1、乙2。別件訴訟における乙3。以下「別件乙3」という。)を提出した。 イ 別件乙3を作成する目的で、被告は、ブラウザを用いて本件サーバに記録されていた本件プログラムに無断でアクセスし、これを被告のコンピュータのメモリ上にダウンロードして複製した上で、被告のコンピュータで当該複製物を使用し、情報をパソコンのモニタの画面に表示させた。そして、その表示された情報のスクリーンショットを撮り、当該画像ファイルを紙である別件乙3にプリントアウトして複製した。モニタに表示された情報は本件プログラムの一部であるから、これを紙に印刷することは、本件プログラムを複製したことを意味する。 ウ 被告が上記イのような経緯を経て別件乙3を作成したとき、被告は本件プログラムの複製について原告の許可を得ていなかった。被告が原告の許可を得ることなく複製をしたということは、被告が原告の複製権を侵害したことを意味する。 なお、被告が本件プログラムにアクセスする権限の有無と複製権の有無は無関係である。使用を許可された者が作成した複製物であっても、複製を特に許可されていなければ、それは複製権を侵害する違法複製物である。 エ 被告には法42条による抗弁も成立しない。 (ア) 被告は適法に本件プログラムの複製を入手してから紙に印刷したのではなく、本件サーバに不正アクセスして本件プログラムの複製を入手してから紙に印刷したのであるから、法42条の抗弁は成立しない。法42条が、証拠作成のために不正アクセスまでも許す趣旨でないことは明らかである。 (イ) 法42条1項ただし書きは、「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と定めるところ、本件プログラムは本件サーバで管理されていて非公開であり、使用許諾料280万円を払って初めて使えるものであることからすれば、裁判手続のために必要であるからといって無断使用を許せば、原告の利益が不当に害されることは明らかである。 (ウ) 被告が別件乙3を印刷した平成21年1月頃の時点では、別件訴訟は始まる前であるから、法42条の抗弁は成立しない。 (エ) 被告は、別件訴訟における別件乙3の証拠説明書に、別件乙3の作成者が「Y」(原告)であると記載しているが、原告が別件乙3の書面を作成した事実はないから、別件乙3は作成名義を偽った偽造証拠である。提出することが許されない証拠であるから、法42条の適用は受けない。 (6) 民法709条の権利侵害(予備的主張) 本件プログラムの著作物は、原告の開発用サーバに保管されており、原告には、このプログラムの著作物を誰からも無断使用されない権利がある。この権利は、民法709条の「法律上保護される利益」に該当する。 被告は、原告のサーバに記録されている本件プログラムの著作物にアクセスすることが不正アクセスになることを内容証明郵便によって原告から通知されていたにもかかわらず、本件プログラムの著作物に自らアクセスした上で、ダウンロードによって本件プログラムの著作物の違法複製物を取得して、これを業務使用した。この事実は、被告が民法709条の「法律上保護された利益」を侵害したことを意味する。 (7) 損害 ア 本件各アクセス及び別件乙3の印刷による複製権侵害によって原告に生じた損害は、民法709条、法114条3項により、本件プログラムの使用料相当額280万円の3つ分の840万円である。 イ 本件各アクセスの際に本件プログラムを動作させた行為は、違法複製物を違法取得した上で違法業務使用したものであるから、法113条2項のみなし侵害行為にあたる。 この侵害行為による損害は、民法709条、法114条3項により、本件プログラムの使用料相当額280万円である。 ウ また、民法709条の権利侵害行為によって被告に生じた損害も、同様に本件プログラムの著作物の使用料相当額280万円である。 エ 原告の損害は上記アないしウ(ウは予備的主張)の合計1120万円であるが、本件では、その一部である280万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年7月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告の主張 (1) 本案前の主張 本件訴訟は、同一事案について既に原告より被告に対する訴訟が提起され、1審及び2審の判決が確定して既判力が生じているのであるから(甲3の1・2)、一事不再理の原則からみても本件訴えは却下されるべきである。 (2) 本件プログラムが原告の創作によるプログラムであることは否認する。 本件プログラムのソースコード(甲6の1)の7頁の下から9行目には「<p id="legal">Copyright © 2007 P. All Rights Reserved.</p>」と記載されているので、このソースコードはP氏の創作したものである、また、本件プログラムの表示情報( 甲6 の2 )の下部には「Copyright (C) 2007 P. All Rights Reserved.」と記載されているから、P氏がこのソースコードの著作権者である。 (3) 本件各アクセスによる複製権侵害について 被告が本件各アクセスをしたことは認めるが、その日に改めてダウンロードしたことは否認する。 平成21年1月16日、原告は原告作成のウェブサイト及びプログラムを被告の取締役らに提示し、その機能を体験してもらうために被告の取締役に上記ウェブサイト等にアクセスしてもらい、物件の場所、価格などのデータを入力してもらい、画像をアップロードしてもらうなどした。これによって、被告はパソコンのメモリに初めて本件プログラムの複製物を入手した。これは法113条2項にいう「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物」とはいえない。 また、被告は本件プログラムを業務使用目的で使用したものではないから、本件各アクセスは法113条2項の「・・・・・・業務上・・・・・・使用する行為」ではなく、「情を知って」使用したものでもない。 (4) 別件乙3の印刷による複製権侵害について 被告が別件訴訟で別件乙3を提出したことは認め、それが偽造証拠であることは否認する。 法42条1項は、「著作物は、裁判手続のために必要と認められる場合・・・・・・その必要と認められる限度において、複製することができる、」と規定する。被告は別件訴訟において、被告の主張を証明するために必須の証拠として別件乙3を証拠として提出した。 したがって、別件乙3の印刷は複製権侵害に当たらない。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の主張について 被告は、同一事案について既に判決が確定しているから、一事不再理の原則からみても本件訴えは却下されるべきであると主張する。 しかし、別件訴訟は、原告が、被告に対し、主位的には、ウェブサイト制作作業等の請負代金等296万円及び遅延損害金の支払を、予備的には、被告が原告作成のウェブサイト等に不正にアクセスしたことによってウェブサイト制作費、コンサルティング料金等相当額である286万円を不当に利得したとして同額及び法定利息金の支払を求めたものである(甲3の1・2。なお、原告は、別件訴訟控訴審において、主位的請求及び予備的請求とも100万円及びこれに対する附帯請求の限度に請求を減縮した。)。 これに対し、本件訴訟は、原告が、被告に対し、本件プログラムの著作権(複製権)侵害(予備的に一般不法行為)に基づき、損害賠償金合計1120万円の一部請求として280万円の支払を求める事案である。 別件訴訟と本件訴訟とは当事者を同一にし、事実関係に重なるところがあるとはいえ、訴訟物も争点も異なるものであるから、本件訴えが一事不再理の原則により不適法であるとはいえない。 2 別件乙3の印刷による複製権侵害による不法行為について (1) 原告は、別件乙3の印刷物は、原告が著作権を有するプログラムの著作物である本件プログラムを紙に印刷して複製したものであり、複製権侵害であると主張するので、この点について検討する。 (2) 原告は、本件プログラムは原告が創作した「プログラムの著作物」(法10条1項9号)であると主張する。 プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法(法10条3項)に制約されつつ、コンピュータに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合わせ、どのような表現順序とするかなどについて、法により保護されるべき作成者の個性(創作性)が表れることになる。 したがって、プログラムに著作物性(法2条1項1号)があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、プログラム制作者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要する(知財高裁平成21年(ネ)第10024号平成24年1月25日判決・裁判所ウェブサイト)。 原告は、本件プログラムのソースコード(甲6の1。A4用紙7枚(1枚当たり36行。全部で232行)のもの。)を提出するものの、本件プログラムのうちどの部分が既存のソースコードを利用したもので、どの部分が原告の制作したものか、原告制作部分につき他に選択可能な表現が存在したか等は明らかでなく、原告制作部分が、選択の幅がある中から原告が選択したものであり、かつ、それがありふれた表現ではなく、原告の個性、すなわち表現上の創作性が発揮されているものといえるかも明らかでない。 (3) 仮に本件プログラムに原告の創作性が認められるとしても、以下に述べるとおり、原告の主張には理由がない。 原告は、被告がブラウザを用いて本件プログラムにアクセスし、その情報を被告のパソコンのモニタに表示させ、表示された情報のスクリーンショットを撮り、当該スクリーンショットの画像ファイルを紙である別件乙3(甲1の1、乙2)に印刷したことが、プログラムの著作物である本件プログラムの複製に当たると主張する。 法にいう「複製」とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうが(法2条1項15号)、著作物を有形的に再製したというためには、既存の著作物の創作性のある部分が再製物に再現されていることが必要である。 これを本件についてみると、紙である別件乙3(甲1の1、乙2)に記載されているのは画像であって、その画像からは本件プログラムの創作性のある部分(指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなる部分)を読み取ることはできず、本件プログラムの創作性のある部分が画像に再現されているということはできないから、別件乙3の印刷が本件プログラムの複製に当たるということはできない。 (4) したがって、別件乙3の印刷による複製権侵害は認められない。 3 本件各アクセスによる複製権侵害による不法行為について (1) 原告は、被告が平成21年6月11日、同年7月17日及び同月18日、原告の承諾なく、ブラウザを使って本件プログラムにアクセスし、本件プログラムの複製物を被告のコンピュータの@メモリ、ACPU、BI/O及びCハードディスクに保存したことは複製権侵害であり、また、本件プログラムを使用(入力、演算、出力)したことはみなし侵害であるから、不法行為が成立すると主張する。 (2) そこで検討するに、被告のコンピュータのブラウザを使って本件サーバに記録された本件プログラムにアクセスした場合において、本件プログラムの複製物が被告のコンピュータの@メモリ、ACPU、BI/O及びCハードディスクに保存される(弁論の全趣旨)。 ところで、上記のような複製は被告の電子計算機における情報処理過程で行われるものであるが、このような電子計算機における情報処理過程における記録については、平成21年法律第53号により追加された法47条の8では一定の要件のもとに複製権侵害とはならないものとされた。この改正の施行日は平成22年1月1日であり、本件各アクセスは、いずれも上記改正前の行為であるから、同条の適用はないが、その趣旨に鑑みれば、上記改正前の複製行為であって電子計算機の情報処理過程で生じるものの違法性の有無については、複製された著作物の内容、複製の態様、複製に至る経緯等を総合的に考慮して判断すべきである。そこで、以下においては、このような見地から被告の行為の違法性について判断する。 (3) 複製された著作物の内容 被告のコンピュータに複製された本件プログラムは、本件において書証として提出されているソースコード(甲6の1)による限り、A4用紙に7枚(全部で232行)からなるものであり、本件プログラムによって表示される画像としては、本件証拠上、「光商事物件の検索はこちら」と題する被告用のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)のトップ画面(甲6の2。以下「トップ画面」という。)のみである。 (4) 複製の態様 本件証拠上、本件各アクセスの際、被告が本件プログラムによって表示されるトップ画面を閲覧したほかに、顧客に対する営業活動等に本件プログラムを使用したり、本件ウェブサイトの閲覧のために一時的に行われる複製の範囲を超えて、長期的に使用するためにCD―ROM等の固定媒体にこれを固定し複製したような事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告のコンピュータへの本件プログラムの複製物の記録は一時的なものにとどまったものと認められる。 (5) 複製に至る経緯 被告が本件プログラムを複製するに至った経緯は次のとおりである(甲3の1・2、甲4、弁論の全趣旨)。 原告は、被告の依頼を受けて、本件プログラムを作成し、平成21年1月16日までに本件サーバにアップロードした。 原告は、平成21年1月16日、被告事務所において、被告の取締役であるZの面前で、被告のコンピュータのブラウザに、本件ウェブサイトのURLを入力し、Zは、上記URLを用いて、IDやパスワードによるアクセス制御の行われていない本件ウェブサイトにアクセスし、(被告のコンピュータのメモリに複製された)本件プログラムにより表示されるトップ画面を閲覧し、物件の場所、価格などのデータを入力し、画像をアップロードするなどした。 その後、原告は、被告に対し、請負代金の支払を求めたが、被告は契約は成立していないとしてその支払を拒絶した。 原告は、平成21年5月31日付けの内容証明郵便(甲4)を被告に送付し、同書面はその頃被告に到達したが、同書面には次のような記載がある。「これらのページは非公開であるため管理者である当方が許可した者しかアクセスすることが出来ないので、本契約が成立していないのであれば、貴殿には当方の制作した非公開ホームページにアクセスする権利がなかったことになります。つまり、貴殿はアクセスする権利を自ら法的に否定したことになります。・・・・・・本件の場合のようなIDもパスワードも設置していない非公開のページに不正アクセスするにはそのページのURLを盗み見るなどして不正に入手たり(ママ)、あるいは不正プログラムを使用して不正進入したりするほかはなく、IDとパスワードが設置してあるページの認証を不正にくぐり抜けてアクセスする場合よりも悪質です。従って、貴殿の行為は当然に不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(ママ)に違反するものであり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることとなります( 第8 条第1号)。・・・・・・貴殿が当方制作の非公開のホームページと不動産物件表示プログラムを無断閲覧したことは、Xの企業秘密である企画、デザイン、構成、技術の著作権を不当に取得したことを意味します。従って、その著作権の対価1億円を不当利得返還請求(民法703条)として貴殿に請求する旨、東京地方裁判所に提訴申しあげます。・・・・・・貴殿が不正アクセスにより閲覧したプログラムは下記に示す通り、世界初の技術を含む特許申請準備中の高度な技術により構成されており、これら技術を中核として価格を算定した結果1億円となりました。 1.SEO対策技術 (ア)SEO対策としてタイトルタグに埋め込むテキストを自働設定するプログラム (イ)当方が双子と二重ドメインと呼んでいるURLを利用した世界初のSEO対策技術 2.データベースからデータを読み込んで自動的に物件の全覧ページと各件の詳細を示す個別ページの両方のHTMLページを自働作成する技術。 3.時間と費用がかかるウェブサイトの大掛かりなリニューアル作業をしなくてもウェブサイトを改良できるようにするために、領域設定をするタグ利用してウェブページを常時改善できるようにした技術。 4.データベースへの入力をエクセルで出来るようにして入力作業労働を軽減した技術。 5.ウェブマーケティングデータを蓄積することで使用感を向上させた顧客満足の高いコンテンツの配置とデザインとPHPプログラム。 6.写真を一度アップするだけで2種類の異なる画像が自働生成されるプログラム。 以上の理由により、当方は貴殿に1億円を請求するものであります。」その後、被告は、平成21年6月11日、同年7月17日及び同月18日の3回にわたり、原告が提案していた本件ウェブサイトないし本件プログラムが本件各アクセス時点においてどのような状態になっているかを確認してみたいと考えて、IDやパスワードによるアクセス制御が行われていない本件ウェブサイトに、同年1月16日に原告から提示されたURLを用いてアクセスし、(被告のコンピュータのメモリに複製された本件プログラムを用いて)本件ウェブサイトを閲覧した。 原告は、平成21年6月頃以降に、別件訴訟を提起し、被告は、平成21年8月11日頃、別件訴訟において別件乙3を書証として提出した。 (6) 以上に認定した複製された本件プログラムの内容、複製の態様及び複製の経緯に照らすと、本件プログラムは被告がその事業の用に供するためのウェブサイト用として作成されたものと認められるが、そのソースコードは比較的短いものであって、本件証拠上認定できる機能としては、トップ画面の画像を表示するというものにとどまる。 また、被告によるその利用態様も、本件ウェブサイトを閲覧したという、コンピュータによる情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該コンピュータの記録媒体に、被告による意図的な複製を目的とする特別の操作を伴うことなく、一時的に記録したものにすぎない。 なお、本件プログラムにアクセスできる本件ウェブサイトは、IDやパスワードによるアクセス制御は行われておらず、本件ウェブサイトのURLを知っている者は、特段のアクセス制御回避措置を講ずることなく、本件ウェブサイトを閲覧して本件プログラムにアクセスすることが可能であった。 さらに、被告が本件ウェブサイトに3回にわたってアクセスした時期は、原告から内容証明郵便が送付された後であって、別件訴訟の提起の前後の時期であり、別件訴訟において別件乙3が提出された前後の時期にアクセスしたものと認められ、別件訴訟における訴訟活動との関連がうかがわれるものである。 以上のとおりの、複製された本件プログラムの内容、複製の態様及び複製に至る経緯に照らせば、被告による本件各アクセスの際の複製行為をもって、違法な行為であると認めることはできない。 4 一般不法行為(予備的主張)について 前記のとおりの本件各アクセスの際に一時的に使用された本件プログラムの内容、本件プログラム使用の態様及び利用に至る経緯に照らせば、被告が本件各アクセスの際に本件プログラムの複製物を取得して使用した行為をもって、原告の法律上保護された利益を侵害する違法な行為と認めることはできない。 5 以上によれば、原告の請求はすべて理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋 裁判官 西村康夫 裁判官 森川さつき |
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