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【事件名】類似“カスタマイズドール”事件 【年月日】平成24年11月29日 東京地裁 平成23年(ワ)第6621号 不正競争行為差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成24年9月11日) 判決 原告 株式会社オビツ製作所 訴訟代理人弁護士 四宮隆史 被告 株式会社ボークス 訴訟代理人弁護士 伊原友己 同 加古尊温 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙被告商品目録1及び2記載の各商品を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。 2 被告は、その占有に係る前項記載の各商品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、4020万円及びこれに対する平成23年3月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、別紙原告商品目録1ないし4記載の各商品(以下「原告各商品」といい、それぞれを「原告商品1」、「原告商品2」、「原告商品3」、「原告商品4」という。)を製造及び販売する原告が、別紙被告商品目録1及び2記載の各商品(以下「被告各商品」といい、それぞれを「被告商品1」、「被告商品2」という。)を製造及び販売する被告に対し、@原告各商品に共通する形態は、原告の周知又は著名な「商品等表示」であり、被告各商品の形態は上記形態と類似するから、被告による被告各商品の製造及び販売は、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当する、A被告各商品は、原告商品4の形態を模倣した商品であるから、被告による被告各商品の販売は、同項3号の不正競争行為に該当する、B原告各商品は、美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当するところ、被告による被告各商品の製造は、原告各商品について原告が有する著作権(複製権(同法21条)又は翻案権(同法27条))の侵害行為に当たる、C被告による被告各商品の製造、販売等の一連の行為は、原告の法的保護に値する営業上の利益を侵害する一般不法行為を構成する旨主張して、被告に対し、不正競争防止法3条1項(同法2条1項1号又は2号)、2項、著作権法112条1項、2項に基づき、被告各商品の製造、販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不正競争防止法4条(同法2条1項1号、2号又は3号)、民法709条に基づき、損害賠償を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。) (1) 当事者 ア 原告は、玩具、かつらの製造、販売及びリース業務等を目的とする株式会社である。 イ 被告は、各種模型及び玩具の企画、開発、製造、卸し・小売り販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告による原告各商品の製造及び販売 ア 原告は、平成15年6月から原告商品1を、平成16年1月から原告商品2を、平成17年11月から原告商品3を、平成20年5月から原告商品4をそれぞれ製造し、販売している。 イ 原告各商品は、カスタマイズドール用ボディ素体(素体)である。いわゆる「カスタマイズドール」とは、頭部、胴体及び四肢部分で構成された人の裸体の外観形態を模写したヌードボディである「素体」(頭部を除くヌードボディ単体のものも含む。以下同じ。)に、自らの好みにあわせ、ウィッグ(かつら)、衣類等を組み合わせたり、彩色(アイペイント、メイク等)、加工、改造等をすることにより作り上げる人形をいう。 原告各商品は、別紙原告商品目録1ないし4の各別添の各写真に示された形態を有している(検甲1ないし4)。 (3) 被告による被告各商品の製造及び販売 ア 被告は、平成22年9月ころから、被告各商品を製造し、販売している。 イ 被告各商品は、カスタマイズドール(女性)用ボディ素体(名称・「ドルフィードリームシスター(DDS)」。ただし、頭部は存在しない。)を使用した人形(カスタマイズドール)であり、被告各商品には、人形本体(頭部を含む。以下同じ。)のほか、ウィッグ、衣類等がセットされている(乙1、2、検甲6、7)。 被告各商品の人形本体(以下、特に断りのない限り、単に「被告各商品」という。)は、別紙被告商品目録1及び2の各別添の各写真に示された形態を有している(検甲6、7)。 なお、被告商品1(人形本体)と被告商品2(人形本体)は、頭部以外の形態が同一である(検甲6、7、弁論の全趣旨)。 2 争点 本件の争点は、次のとおりである。 (1) 不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為の成否(争点1) ア 原告各商品に共通する形態が原告の周知又は著名な「商品等表示」に該当するか(争点1−1)。 イ 被告各商品の形態が原告各商品に共通する形態に類似するか、また、被告各商品の製造及び販売が原告各商品との混同を生じさせる行為に当たるか(争点1−2)。 (2) 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否(争点2) ア 被告各商品は原告商品4の形態を模倣したものか(争点2−1)。 イ 被告各商品の販売について、不正競争防止法19条1項5号イにより同法2条1項3号の適用が除外されるか(争点2−2)。 (3) 著作権侵害の成否(争点3) ア 原告各商品が著作物といえるか(争点3−1)。 イ 被告による被告各商品の製造が原告の著作権(複製権又は翻案権)の侵害行為に当たるか(争点3−2)。 (4) 被告各商品の製造、販売等の一連の行為についての一般不法行為の成否(争点4) (5) 原告の損害額(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為の成否)について (1) 原告の主張 ア 争点1−1(周知又は著名な「商品等表示」該当性)について (ア) 原告各商品に共通する形態の「商品等表示」該当性 a 原告各商品(検甲1ないし4)は、次の諸点において共通する形態(以下「原告商品共通形態」という。)を有している。 (a) 外皮の色及び質感 外皮が、スラッシュ成形により成形されたソフトビニル(中空のポリ塩化ビニル)製で、弾力のある柔らかい質感があり、やや赤みを帯びた淡黄色の人肌に限りなく近い色である点(以下「形態A」という。)。 (b) パーティングラインの不存在 外皮にパーティングライン(成型物上に現れる2面の成形型の合わせ目の線状痕(つなぎ目))が存在しない点(以下「形態B」という。)。 (c) 各部位の割合(プロポーション) 頭部、股下及び身長の割合が、8頭身ないし9頭身に相当する1:4.4ないし4.5:8.4ないし8.5である点(以下「形態C」という。)。 (d) 腹部のくびれ 腹部が、胸郭部や骨盤部よりも極端に細く成形され、「くびれ」の形状が強調されている点(以下「形態D」という。)。 (e) 多様なポーズを維持して自立可能な骨格構造 可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質プラスチック製骨格構造とを有し、これにより多様なポーズを維持したままの状態で自立させることが可能であり、また、足裏の磁石により「バランスを崩すようなポーズ」(例えば、フィギュアスケートの「イナバウアー」等)であっても自立させることが可能である点(以下「形態E」という。)。 b 原告商品共通形態(形態AないしE)は、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、@スラッシュ成形によって実現したパーティングラインの発生しないソフトビニルで覆われた外皮で表現された、女性らしい柔らかな肌艶のあるボディラインである点、Aトップモデルないしはスーパーモデルのような美しく、理想的なボディバランスを併せ持つ、全高約50pないし60pの体型である点、B可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質骨格構造を備えているため女性らしいポーズを維持させた状態で自立させて鑑賞できる点で、形態上の独自の特徴を有する。 そして、原告商品1の販売が開始された平成15年6月の時点で、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーの市場において、原告商品共通形態を有する商品が存在せず、原告商品共通形態は斬新なものであったことから、平成16年後半には、原告商品共通形態は、原告の商品の出所を他の商品の出所と識別させる出所識別機能を獲得するに至った。 c この点に関し、被告は、後記のとおり、原告商品1の販売開始前から、「ソフトビニル外皮」及び「骨格構造」を備えたカスタマイズドール(女性)用ボディ素体の商品が存在していた旨主張するが、被告の指摘する商品(「フルアクションドールシリーズ」等)は、全高が30p前後の小型サイズのボディ素体であり、大型サイズのものではないから、原告商品共通形態の独自性、形態の自他識別力を論ずる上で意味がなく、また、被告の指摘する商品の具体的形態は、原告各商品の形態とは全く異なるものであり(甲38の1ないし3等)、被告の上記主張は失当である。 (イ) 周知性又は著名性 a 以下のとおり、原告商品1の販売開始前からその形態の斬新さが需要者の間で話題になっていたこと、原告商品1及び2が多数の新聞、雑誌等のメディアで紹介されたことなどから、原告商品1及び2は、取引業者や需要者の間で口コミ等により評判になり、独自性の高い形態上の特徴を有する商品であると認知され、平成16年12月ころには、原告商品共通形態は、原告の商品等表示として需要者の間で広く認識され、周知となり、又は著名となるに至った。 (a) 原告商品1の販売開始前の平成15年4月27日に開催された「ドールショウ10」に関し、需要者が、ウェブサイトのブログで、「今回のドールショウで凄く気になっていたのがオビツ60という、新しい60p級ドールです」と発言するなど(甲4の1、45)、原告商品1の販売開始前から、需要者の間で、その形態の斬新さが認識され、期待度が高まっていた。 (b) 原告商品1及び2は、平成16年3月30日発行の日刊工業新聞(甲5の4)及び同年5月11日発行の日刊工業新聞(甲5の6)で紹介され、また、平成16年1月から11月にかけて、「月刊電撃ホビーマガジン1月号」(同年1月発行。甲5の5)、「ハイパーホビー2月号」(同年2月発行。甲4の3)、「ホビージャパン3月号」(同年3月発行。甲4の2)、「ホビーライフVol.01」(同年6月発行。甲5の7)、「Newtype THE LIVE 特撮ニュータイプ7月号」(同年7月発行。甲5の8)、「月刊電撃ホビーマガジン8月号」(同年8月発行。甲5の9)、「Newtype THE LIVE 特撮ニュータイプ9月号」(同年9月発行。甲5の10)、「キャラクターデザインバイブルvol.5 衣装デザイン」(同年10月発行。甲5の12)、「Yano Venture Report」(同年11月発行。甲5の13)などの玩具、人形、フィギュアのファンが数多く購読する代表的な雑誌において、毎月のように原告商品1及び2の特徴的な形態が大きく取り上げられた。 b なお、原告は、原告商品1の販売を開始した当時、被告の営業妨害を受けて、業界誌への商品の広告掲載依頼が拒否されている状況にあったことなどから、原告商品1及び2の十分な広告宣伝活動を行うことができなかったが、このことは、上記のとおり、原告商品共通形態が原告の商品等表示として周知又は著名となったことを左右するものではない。 (ウ) 小括 以上によれば、原告商品共通形態は、平成16年12月ころ、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、原告の周知の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)又は著名な商品等表示(同項2号)に該当するに至ったというべきである。 イ 争点1−2(形態の類似性等)について (ア) 形態の類似性 被告各商品は、全高約55pのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体であり、原告各商品と同じ商品カテゴリーに属する。 そして、被告各商品(検甲6、7)は、@外皮が、スラッシュ成形により成形されたソフトビニル(中空のポリ塩化ビニル)製で、弾力のある柔らかい質感があり、やや赤みを帯びた淡黄色であること、A外皮にパーティングラインが存在しないこと、B頭部、股下及び身長の割合が1:4.2:8.4ないし8.2であること、C腹部が、胸郭部や骨盤部よりも極端に細く成形され、「くびれ」の形状が強調されていること、D可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質プラスチック製骨格構造とを有し、これにより多様なポーズを維持したままの状態で自立することが可能であること(甲8)からすると、被告各商品の形態は、原告商品共通形態(形態AないしE)と酷似している。 したがって、被告各商品は、原告の周知又は著名な商品等表示である原告商品共通形態と類似の商品等表示を使用した商品に該当する。 (イ) 混同のおそれ(不正競争防止法2条1項1号関係) 上記のとおり、原告商品共通形態と被告各商品の形態は酷似しているから、需要者において、被告各商品を、原告が製造又は販売する商品、あるいは原告と被告が業務提携等の方法により緊密な営業上の関係を築いた上で製造又は販売する商品であると誤認するおそれがあり、被告による被告各商品の製造及び販売は、被告各商品と原告各商品との混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当する。 ウ まとめ 以上によれば、被告による被告各商品の製造及び販売は、原告の周知又は著名な商品等表示である原告商品共通形態と類似の商品等表示を使用する行為又はその商品等表示を使用した商品の譲渡行為として、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当する。 (2) 被告の主張 ア 争点1−1(周知又は著名な「商品等表示」該当性)について (ア) 商品等表示に該当しないこと 原告の主張する原告商品共通形態(形態AないしE)は、以下に述べるとおり、女性用ボディ素体が通常備える形態の域を出るものではなく、需要者に強い印象を与えるような独自の特徴を備え、その形態自体が出所識別力を有するものとはいえない。 a(a) 株式会社ツクダホビー(以下「ツクダホビー」という。)は、平成11年ころから、パーティングラインのないソフトビニル製の外皮、可動域の広い関節構造をもち、内部に硬質骨格構造を有し、バランスを取れば自立することができる、形態AないしEを備えた「フルアクションドールシリーズ」と称する人形商品群(乙5、7、検乙1)を販売していた。 このように原告商品1の販売開始前から形態AないしEを備えた商品が市場に存在していたのであるから、原告商品共通形態は、独自の特徴を有する形態であるとはいえない。 (b) これに対し原告は、「フルアクションドールシリーズ」は、全高が30p前後の小型サイズのボディ素体であり、原告各商品のような全高約50p以上の大型サイズのものではないから、原告商品共通形態の独自性、形態の自他識別力を論ずる上で意味がない旨主張する。 しかし、不正競争防止法2条1項1号は、商品等の出所の識別標識である「商品等表示」を問題にしているのであるから、その表示サイズ(人形の形態)の大小は関係がないというべきであり、原告の上記主張は、失当である。 b 次に、原告が指摘する原告商品共通形態の各特徴を個別にみても、形態A(外皮の色及び質感)については、ソフトビニル制作の伝統的手法であるスラッシュ成形で人間により近い肌色や質感の外皮の形成を行うことは、人形という商品の性質上、極々自然で当たり前のことであり、形態B(パーティングラインの不存在)についても同じである。例えば、平成11年の時点で、硬質性の骨格材に軟質材であるソフトビニル製の外皮を被せて、より自然な肌触り、質感を再現するという構成は、既に業界雑誌に掲載されて、一般的なものとなっており(乙13の菅原可動人形研究所オリジナル商品「柔乳」)、また、同年には、株式会社チェスナット(以下「チェスナット」という。)から、関節可動骨格構造内包の軟質性素材(シリコン)のシームレス外皮(つぎ目のない外皮構成)の女性人形が、平成12年には、被告から、「エレガントコレクション」と称する関節可動骨格構造内包のシームレス外皮の女性人形がそれぞれ発売されていた。 形態C(各部位の割合)及び形態D(腹部のくびれ)については、かかるプロポーションが女性の体型として理想的であるというのであれば、美しさを志向した女性の人形という商品の性質上、女性として理想的とされる体型を模するのは当たり前のことであり、このようなプロポーションの女性人形商品は、原告商品1の販売開始前のはるか昔から存在している。 形態E(多様なポーズを維持して自立可能な骨格構造)については、バランスを崩すようなポーズでなければ既存の人形商品も自立させることは可能であって、そのような人形商品は古来よりあまた存在する。また、平成11年ころには、つぎ目がなく、関節もより自然に曲げることができてポーズ決めも簡単な「ナチュラルボディ」という名称の女性人形商品が株式会社タカラから発売され(乙17、18)、平成13年1月発行の雑誌(乙19)にも、「チャーリーズエンジェル」シリーズの女性人形商品が紹介された。 このように硬質材の関節可動骨格構造に軟質材の外皮を被せて、より人間の女性らしい質感等を再現するというのは、人形の業界では、原告商品1の販売が開始された平成15年6月当時、既に極めてありふれた構造ないし技術であったものといえる。 結局、原告が原告の商品等表示であると主張する原告商品共通形態(形態AないしE)は、いずれも(女性)人形商品の一般的な特徴を羅列しているだけのものであり、かかる形態は特定の商品の出所を識別させる機能を果たし得るものではない。 c 以上によれば、原告商品共通形態が原告の商品等表示に該当するとの原告の主張は、理由がない。 (イ) 周知性及び著名性の欠如 仮に原告商品共通形態が商品等表示に該当するとしても、原告商品1及び2について原告商品共通形態を前面に押し出した需要者層に浸透するような広告宣伝が行われていないことからすると、平成16年12月ころに原告商品共通形態が原告の商品等表示として周知又は著名になった旨の原告の主張は理由がない。また、原告商品1及び2が取引業者や需要者の間の口コミ等で評判になり、原告商品共通形態が原告の商品等表示として周知性又は著名性を獲得した事実は存在しない。なお、原告は、原告が原告商品1及び2について広告宣伝を行わなかった原因があたかも被告が営業妨害をしたことにあるかの如き主張をしているが、被告による営業妨害の事実は存在しない。 (ウ) 小括 以上によれば、原告商品共通形態が原告の周知又は著名な商品等表示に該当するとの原告の主張は、理由がない。 イ 争点1−2(形態の類似性等)について (ア) 原告の主張する被告各商品の形態と原告商品共通形態との類似点は、この種の人形商品が通常備えるありふれた一般的・抽象的な特徴を被告各商品が備えているという程度の意味を超えるものではなく、個別・具体的に観察すれば、原告各商品の形態と被告各商品の形態とが類似しているとはいえない。 すなわち、原告各商品の具体的形態と被告各商品の形態とでは、首部と頭部との接合部、肩関節、肘関節、手首関節、股関節、膝関節及び足首関節等で形態上の顕著な相違点があり(乙6、8)、類似しているとはいえない。例えば、原告商品1ないし3は、それぞれ、肩関節、肘関節、手首関節の背面側に存在するネジ穴が際立って特徴的であり、人間の理想的な体型、肌の質感、美観という点においては、異質の特徴を有しているところ、被告各商品にはかかるネジ穴は存在しない点で相違する。また、原告各商品は、足裏(あるいは人形に履かせる靴の裏)にマグネットを取り付けており、これによって金属板の上に自立させるもののようであるが、被告各商品はそのような構造にはなっていない点で相違する。 原告は、原告各商品と被告各商品の上記具体的な相違点をすべて捨象して、被告各商品の形態が原告商品共通形態に類似すると主張するものであり、そのような一般的・抽象的な特徴についての形態を比較して類似性を認めるとすれば、原告に広範な形態の独占を認めることとなり、この種の人形商品市場の自由競争を阻害する結果を招来せしめることとなり、秩序ある自由競争を保護しようとする不正競争防止法の趣旨に反する。 (イ) したがって、原告の形態の類似性の主張(前記(1)イ(ア))は失当であり、また、これを前提とする混同のおそれの主張(前記(1)イ(イ))も失当である。 ウ まとめ 以上によれば、被告による被告各商品の製造及び販売が不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するとの原告の主張は、理由がない。 2 争点2(不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否)について (1) 争点2−1(模倣の有無)について ア 原告の主張 (ア) 原告商品4の形態 原告商品4は、原告商品共通形態(形態AないしE)を有し、各部位において次のような形態を有する。 a 各部位の形状 (a) 頭部 眼が極端に大きいのに対し、鼻及び口は極端に小さく、これら三つの部位が中央部に集中するように配置されている。 (b) 胸部 ソフトビニルで生成された乳房を主要部分として構成され、かつ、胸部と腹部が別パーツによって構成されるため、乳房の下部に、前面には逆V字状に近い境目ライン、背面には円弧状の境目ラインがある。 (c) 腹部、骨盤部、臀部 形態Dのとおり (d) 腕部 肘の関節部分は二重関節構造を採用し、肘を最大160度曲げた状態で保持することが可能である。手の平は、開いた状態で保持されている。肩、手首の関節部分は球状だが、当該球状を覆うように上腕の最上部が半球状に湾曲している。肘の関節部分の中央部に半球状の蓋が付されている。 (e) 脚部 大腿部、ふくらはぎが細く、通常人に比して極端に長く成形されている。膝の関節部分は、二重関節構造が採用されており、関節部分の中央部に半球状の蓋が付され、足首の関節部分は球状である。 b 各部位の寸法 原告商品4は、@全高約50p、A頭部(頭部の頂点から顎までの寸法。以下同じ。)約7p、B腕部(肩から手先までの寸法。以下同じ。)約19.3p、C股下(脚部の股の付根からかかとまでの寸法。以下同じ。)26.6p、D骨盤部周囲(臀部の最も膨らんでいる箇所の上を水平に通る周囲寸法。以下同じ。)約20p、E腹囲(腹部の最も凹んでいる箇所の上を水平に通る周囲寸法。以下同じ。)約13p、F胸囲(トップバスト)(乳房の最も膨らんでいる箇所の上を水平に通る周囲寸法。以下同じ。)約19p、G胸囲(アンダーバスト)(乳房のふくらみの直下の上を水平に通る周囲寸法。以下同じ。)約14pである。 (イ) 被告各商品の形態 被告各商品は、原告商品共通形態と酷似する形態を有し、各部位において次のような形態を有する。 a 各部位の形状 (a) 頭部 眼が極端に大きいのに対して、鼻及び口は極端に小さく、これら三つの部位が中央部に集中するように配置されている。眼部のパーツが装着され、眉毛、睫毛のデザインが施されている。 (b) 胸部 前記(ア)a(b)と同じ。 (c) 腹部、骨盤部、臀部 前記(ア)a(c)と同じ。 (d) 腕部 肘の関節部分は二重関節構造を採用し、肘を最大160度曲げた状態で保持することが可能であり、上腕の最上部が半球状に湾曲している。手は、親指以外の指は全て曲がっており、握った状態で固定されている。手首の関節部分が球状になっているが、肩の関節部分は球状ではなく、肩軸が内部フレームに嵌め込まれている。肘の関節部分の中央部に半球状の蓋が付されていない。 (e) 脚部 大腿部、ふくらはぎが細く、通常人に比して極端に長く成形されている。膝から下の臑部分パーツ上部に付された軸が、膝から上の大腿部パーツ下部に嵌め込まれた状態であり、膝の関節部分が大腿部パーツ下部によって覆われているため、正面からは膝の関節部分が見えない。足首の関節部分が球状になっている。 b 各部位の寸法 原告商品4は、@全高約55p、A頭部約8p、B腕部約19.3p、C股下約27.2p、D骨盤部周囲約23.5p、E腹囲約15.5p、F胸囲(トップバスト)約23p、G胸囲(アンダーバスト)約15pである。 (ウ) 原告商品4の形態と被告各商品の形態との共通点及び相違点原告商品4の形態と被告各商品の形態とを対比すると、次のとおりの共通点及び相違点がある。 (共通点) @外皮の質感(形態A)、A自立性(形態E)、Bパーティングラインの不存在(形態B)、C部位のバランス(形態C)、D頭部のうち、「眼が極端に大きいのに対して、鼻及び口は極端に小さく、これら三つの部位が中央部に集中して配置されている点」、E胸部、F腹部、骨盤部、臀部(形態D)、G腕部のうち、「肘を160度程度曲げた状態で保持することが可能である点」、「上腕の最上部が半球状に湾曲している点」、H脚部のうち、「大腿部、ふくらはぎが細く、通常人に比して極端に長く成形されている点」、「足首の関節部分が球状になっている点」、I腕部の長さがほぼ同一である点。 (相違点) a 外皮の色が、原告商品4では「淡黄色」であるのに対し、被告各商品では「黄褐色に近い茶色味を帯びた色」である点。 b 頭部の形状に関し、被告各商品では、眼部のパーツが装着され、眉毛、睫毛のデザインが施されているのに対し、原告商品4では、このような構成を有しない点。 c 腕部の形状に関し、原告商品4では、手は手の平が開いた状態で保持され、肩の関節部分は球状であり、当該球状を覆うように上腕の最上部が半球状に湾曲し、肘の関節部分は二重関節構造を採用し、肘の関節部分の中央部に半球状の蓋が付されているのに対し、被告各商品では、手は親指以外の指が全て曲がり、握った状態で固定され、肩の関節部分は球状ではなく、肩軸が内部フレームに嵌め込まれ、肘の関節部分の中央部に半球状の蓋が付されていない点。 d 脚部の形状に関し、原告商品4では、膝の関節部分の中央部に半球状の蓋が付されているのに対し、被告各商品では、膝から下の臑部分パーツ上部に付された軸が、膝から上の大腿部パーツ下部に嵌め込まれた状態であり、膝の関節部分が大腿部パーツ下部によって覆われているため、正面からは膝の関節部分が見えない点。 e 全高が、原告商品4は約50pであるのに対し、被告各商品は約55pである点。 f 腕部以外の各部位の寸法が、被告各商品の方が原告商品4よりも若干長い点。 (エ) 形態の実質的同一性 a 不正競争防止法2条1項3号の趣旨は、先行者の商品等の不当な模倣により、先行者から市場における先行の利益を奪うことを禁止することにあり、その立法の経緯に鑑みれば、「模倣」の意義は必ずしも、特許権、意匠権、著作権等で保護されるべき「権利」の侵害である必要はなく、一定の営業上の「利益」の侵害に該当するものであれば同号の保護の対象となると解すべきであるから、同号の「形態模倣」の成否の判断においては、物品の形状を、形式的、客観的に比較するだけではなく、形態の模倣によって先行者の一定の「営業上の利益」が侵害されたといえるか否かという実質的な意味での評価が必要になると解すべきである。 原告商品共通形態(形態AないしE)は、原告がソフトビニル外皮の骨格構造のある原告商品1の販売を開始した平成15年6月から5年以上にわたって原告商品2ないし4においても維持してきた独自性の高い形態上の特徴であり、かかる形態上の特徴には、保護されるべき「営業上の利益」があるといえる。 したがって、被告各商品が、原告商品共通形態と、原告商品4の「需要者に強い印象を与える部分」ないし「需要者の注意が惹き付けられる部分」の形態とほぼ同一と認められるような形態とを有するのであれば、「形態模倣」の成立を認めるべきである。 b しかるところ、全体的にみて、外観がいかに美しいか、多種多様なポーズを保持させることが可能かといった点に特に着目するカスタマイズドールの取引者、需要者にとって、原告商品4の胸部、腹部、骨盤部及び臀部は、「需要者に強い印象を与える部分」ないしは「需要者の注意が惹き付けられる部分」であるというべきところ、前記(ウ)の共通点のとおり、被告各商品は、原告商品共通形態に酷似する形態と原告商品4の胸部、腹部、骨盤部、臀部に係る形態と同一の形態とを有していることによれば、原告商品4と被告各商品は、商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一であるといえる。 もっとも、原告商品4と被告各商品には、前記(ウ)のとおりの相違点があるが、これらの相違点は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違にとどまるものといえるから、原告商品4と被告各商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではない。 (オ) 依拠 原告商品4と被告各商品は、カスタマイズドールという市場において顧客層がほぼ同じであること、原告商品4の販売が開始された平成20年5月から被告各商品の販売(予約販売)が開始された平成22年9月ころまでの間に、原告商品4の全部又は一部を使用した他のメーカー(アゾンインターナショナル、やまと)による50pサイズのカスタマイズドールが次々に発売されていたこと、原告商品4と被告各商品の形態が実質的に同一であることに鑑みれば、被告各商品は、原告商品4の形態に依拠して製造されたものというべきである。 (カ) まとめ 以上によれば、被告各商品は原告商品4に依拠して製造された実質的に原告商品4と同一の形態の商品であるといえるから、被告各商品は、原告商品4の形態を模倣した商品に該当するというべきである。 したがって、被告による被告各商品の販売は、原告商品4の形態を模倣した商品の譲渡行為として、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当する。 イ 被告の主張 (ア) 原告商品4の形態について 原告商品4の形態についての原告の主張は、原告商品4の客観的説明として適切とはいえないため、すべて争う。 原告の主張する原告商品4の形態は、原告各商品の具体的な形態的特徴をすべて包摂するような抽象的形態(抽象的特徴)であり、このような抽象的形態との関係で、実質的同一性を論じるべきではない。 (イ) 被告各商品の形態について 被告各商品の形態についての原告の主張のうち、被告各商品の肩、肘、膝の構造や外観が原告商品4と異なっていること、被告各商品にパーティングラインが存在しないこと、被告各商品の全高、腕部、股下、腹囲及び胸囲(トップバスト)の各寸法は認め、その余の主張は争う。被告各商品の頭部は約8.7pないし9p、胸囲(アンダーバスト)は約17.5pである。 (ウ) 原告商品4の形態と被告各商品の形態との共通点及び相違点、実質的同一性について 原告主張の原告商品4の形態と被告各商品の形態との共通点及び相違点、実質的同一性に関する主張は、いずれも争う。 微細な点にこだわりをみせるのが通常であるこの種の人形の愛好者(需要者)や取引者において、誰もその客観的な形態が大きく異なる原告商品4と被告各商品を同一の商品であるとは思わない。 (エ) 依拠について 被告各商品は、被告が平成16年12月に販売を開始した商品(商品名「ドルフィードリームU(DDU)」)の手足を少し短くした商品であり、胴体部については、上記商品と同じものである。 したがって、被告各商品の形態上の特徴は、平成16年時点のものといってよいものであるから、被告各商品が原告商品4に依拠して作成(製造)されたものでないことは明らかである。 (オ) まとめ 以上によれば、被告各商品は原告商品4の形態を模倣した商品に該当するものといえないから、被告による被告各商品の販売が不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するとの原告の主張は、理由がない。 (2) 争点2−2(不正競争防止法19条1項5号イによる適用除外の成否)について ア 被告の主張 原告は、被告各商品の形態が原告商品共通形態と同一であることを理由に、原告商品4の形態と被告各商品の形態が実質的に同一である旨主張するのであるから、「日本国内において最初に販売された日から起算して3年」(不正競争防止法19条1項5号イ)の保護期間の当該起算点は、原告が原告商品1の販売を開始した平成15年6月と解すべきである。 そして、被告による被告各商品の販売は、平成15年6月から3年を経過した後にされたのであるから、上記販売については、不正競争防止法19条1項5号イにより、同法2条1項3号の規定が適用されず、同号の不正競争行為が成立しない。 イ 原告の主張 被告の主張は争う。不正競争防止法19条1項5号イに定める「3年」の保護期間の起算点は、原告商品1の販売が開始された時点ではなく、原告商品4の販売が開始された平成20年5月と解すべきである。 3 争点3(著作権侵害の成否)について (1) 争点3−1(著作物性)について ア 原告の主張 (ア) 純粋美術又はこれと同視し得る応用美術であること a 原告各商品は、需要者が、ウィッグ(かつら)や人形用衣類等と組み合わせて自らがイメージする人形(カスタマイズドール)を作り出すためのボディ素体である。このようなカスタマイズドールの需要者が鑑賞の対象とするのは、人形の大きさ、質感、頭部、脚部のような各部位の形状、バランス及びポージングの自由度が高い関節部分の可動領域の大きさといった、裸の状態のボディ素体の形状である。 すなわち、カスタマイズドールの需要者は、まず裸の状態のボディ素体の形状を鑑賞して好みのボディを選択し、その上で、好みのボディに、好みのアクセサリーを装着させ、自らの趣向でドールを完成させて鑑賞するという段階を踏むことからすると、ボディ素体自体を鑑賞目的で制作されたものと受け取る。 また、ボディ素体は、一品制作のものではないが、卓越した独自の技術を持つ職人が一体一体を丁寧に制作するものであるから、一体の価格が数万円と高額に及ぶことからも明らかなように、一品制作の美術作品と同等の美的創作性を備え得るものである。 b そして、原告商品1の販売が開始された平成15年6月当時、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」の市場において、下記の形態上の特徴を有するボディ素体は存在しなかったことからすると、その形態上の特徴は、原告の個性が表れ、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものということができるから、創作性を有する。 (a) 全高50p以上の大型のカスタマイズドール用ボディ素体である点。 (b) スラッシュ成形によって生成されるソフトビニルを外皮に使用することによって、外観上、弾力のある柔らかい質感があり、人肌に限りなく近い色合いを帯びている点 (c) パーティングラインが存在しない点。 (d) 人間の理想的な体型を意識した、いわゆる8頭身から9頭身に相当する頭部、胴部、脚部等の各部位の割合ないし比率を有する点。 (e) 腹部が、胸郭部や骨盤部よりも極端に細く成形され、いわゆる「くびれ」の形状が強調されている点 (f) 多様なポーズを維持して自立可能な形態上の特徴を有している点。 c したがって、原告各商品は、「純粋美術」として、著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当する。 また、仮に原告各商品が純粋美術に該当せず、鑑賞目的以外の目的で制作される「応用美術」であるとしても、ボディ素体は、漫画キャラクターのフィギュア等と異なり、既存の絵画、図面、キャラクターデザインを忠実に立体化したものではなく、原告がカスタマイズドールの需要者の鑑賞目的に堪えるよう独自にボディ素体用デザインを施して、前記bの創作的要素を具備するよう、原告の経験と技術を駆使して精巧に制作されたものであり、実用性や機能性とは別に独立して美術鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っているから、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備するものとして、著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当する。 (イ) まとめ 以上のとおり、原告各商品は、いずれも著作権法により保護される美術の著作物に該当する。 そして、原告各商品は、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する従業員がその職務上作成し、原告の著作名義の下に公表されたものであるから、職務著作(著作権法15条1項)に該当し、その著作権は原告に帰属する。 イ 被告の主張 (ア) 原告各商品が著作物に該当しないこと a 原告各商品は、カスタマイズドール用の素体であり、需要者である購入者が制作する人形のパーツとして位置づけられるものであるから、最終的に購入者が完成させた人形が鑑賞の対象となることがあったとしても、素体は、購入者が完成を目指す人形のパーツとしての形状や機能性で選択されるものにすぎず、美的鑑賞の対象ではない。 原告各商品における各関節部・可動部の外観を見ても、美術彫刻等とは明らかに美観が異なるし、眼球・眼窩の有無も含め、未だ美的鑑賞の対象たり得る状態に達していないし、外皮は量産されるソフトビニル成形品であって、それ自体として美的鑑賞に堪え得るようなものでもない。 人体をモチーフとした多くの美術品は、その姿態やポーズ、素材、作風等、様々な要素の統合体として、その作者の様々な思想や感情の機微を表現し得るものであるが、原告各商品のごとき素体は、姿態やポーズ自体が定まらない。 したがって、原告各商品は、それ自体独立して美的鑑賞の対象たり得る美術性を備える商品でないことは明らかである。 b 原告が創作的な表現であると主張する原告各商品の形態上の特徴は、商品の属性・機能、素材や製法選択に基づく当然の結果、人間の姿態としての当然の形態など抽象的な特徴であり、このような抽象的な特徴点は、著作権法上の創作的な表現に当たらない。 原告は、人形素体という商品の属性、構造、機能、材質などの種々の構造上のアイデアを含む商品特性と、著作権法上の思想又は感情の創作的な表現の問題とを混同している。 したがって、原告各商品が純粋美術あるいは著作権法上保護される応用美術であるとはいえない。 (イ) まとめ 以上によれば、原告各商品が「美術の著作物」に該当するとの原告の主張は、理由がない。 (2) 争点3−2(複製権又は翻案権の侵害の成否)について ア 原告の主張 (ア) 被告各商品は、前記2(1)ア(エ)bで述べたのと同様の理由により、原告各商品の創作性を有する形態上の特徴(前記ア(ア)b(a)ないし(f))と極めて類似した形態を有している。特に、被告各商品と原告商品4は、全高約50pという点で共通し、実質的に同一の形態である。 したがって、被告各商品から原告各商品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。 (イ) 被告は、前記2(1)ア(オ)で述べたのと同様の理由により、原告各商品の形態に依拠して被告各商品を作成(製造)したものである。 被告が原告各商品に依拠したことは、平成15年8月までに、需要者の間で原告商品1の斬新さが話題になっていたこと(甲4の1、45)、平成16年12月ころまでに、多数の新聞や雑誌等のメディアで原告商品1及び2が紹介されていたこと(甲4の2、3、5の1ないし13)からも明らかである。 (ウ) 以上を総合すると、被告は、原告各商品に依拠して、その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる被告各商品を作成(製造)することによって、原告各商品を複製又は翻案したものといえる。 したがって、被告による被告各商品の製造は、原告各商品について原告が保有する複製権(著作権法21条)又は翻案権(同法27条)の侵害行為に該当する。 イ 被告の主張 (ア) 原告各商品の形態と被告各商品の形態との間には、各関節部・接合部の形状をはじめとして、様々な形態上の相違点(乙6、8)があり、具体的に原告各商品のどの部分の表現と被告各商品のどの部分の表現とが類似し、あるいは実質的に同一であるというのか、原告の主張からは理解できない。 (イ) 被告各商品は、原告商品4よりも後に販売が開始された商品であるが、その形態的特徴は、少し脚部寸法を短くしたこと以外は、被告の先行商品である「ドルフィードリームU(DDU)」と同一であるから、被告各商品が、原告商品4に依拠したものでないことは明らかである。 (ウ) 以上によれば、被告各商品が原告各商品を複製又は翻案したものであるとの原告の主張は、理由がない。 したがって、被告による被告各商品の製造が原告各商品について原告が有する著作権(複製権又は翻案権)の侵害に当たるとの原告の主張は、理由がない。 4 争点4(一般不法行為の成否)について (1) 原告の主張 原告は、平成15年当時、全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体の商品としては、被告が製造販売していた、ウレタン樹脂からなる無垢の樹脂製で、関節構造がゴム紐のみのボディ素体(商品名「スーパードルフィー(SD)」)しか市場に存在しない中で、同年6月に、原告が世界初となるソフトビニル製の外皮で、骨格構造を備えた原告商品1の販売を開始したものであり、原告商品1の備える原告商品共通形態は、リスクを負いながら技術開発、商品開発を行った原告の事業努力が結実したもので、法的保護に値すると解すべきである。 しかるに、被告は、平成15年8月ころ、原告商品1と同じソフトビニル製の外皮を持つ大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体(商品名「ドルフィードリーム(DD)」)の販売を開始し、さらに、平成16年12月ころ、ソフトビニル製の外皮だけではなく、内部の骨格構造まで原告商品共通形態を模倣した「ドルフィードリームU(DDU)」の販売を開始し、その後平成20年5月に原告が全高約50pの原告商品4を販売したところ、そのわずか2年後の平成22年9月ころ、原告商品4と同じ全高約50pの被告各商品の販売を開始した。 一方で、原告は、原告商品1の販売を開始した当時、被告の営業妨害を受けて、業界誌への商品の広告掲載依頼が拒否されている状況にあったことなどから、原告商品1及び2の十分な広告宣伝活動を行うことができなかった。 以上によれば、被告は、平成15年から長年にわたり、原告各商品の後追いで原告商品共通形態を模倣した商品を製造及び販売することによって、自らが商品開発をする際に要する費用や労力の削減を図って、通常必要となる先行投資をすることもなく、リスクも低い状態で、不正な「ただ乗り」行為を行い、これにより原告の営業上の利益を侵害し、かつ、原告の営業上の信用を毀損したものというべきであるから、かかる被告の一連の行為は、公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法な行為として、原告に対する一般不法行為(民法709条)を構成する。 (2) 被告の主張 原告の主張は争う。 原告が指摘するソフトビニル製の外皮及び骨格構造を有する形態の人形商品としては、原告商品1の販売前にツクダホビーの「フルアクションドール」(乙5、7、検乙1)が存在し、原告商品1の販売の時点で、上記形態は、既に人形商品の取引者やユーザー間で周知となっていた一般的な人形構造であったから、被告各商品が上記形態と共通する形態を有することを理由に被告に不法行為が成立することなどあり得ない。 5 争点5(原告の損害額)について (1) 原告の主張 ア 不正競争防止法5条2項又は著作権法114条2項の損害額 被告は、故意又は過失により、不正競争行為(前記1(1)ウ及び2(1)ア(カ))及び著作権侵害行為(前記3(2)ア(ウ))を行ったものであるから、不正競争防止法4条及び民法709条に基づいて、原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。 被告は平成22年10月から平成23年2月までの間に被告各製品を販売し、その売上総額が5040万円を下らないこと、被告各製品の販売に係る利益率が50%を下らないことからすると、被告が被告各製品の上記販売により受けた利益は、2520万円を下らない。 そして、不正競争防止法5条2項又は著作権法114条2項の規定により、被告が受けた上記利益額と同額が原告の損害額と推定される。 イ 営業上の信用毀損による損害額 原告は、被告の一連の一般不法行為(前記4(1))によって、原告の営業上の信用を著しく毀損され、社会的評価の低下に伴う無形的損害を被ったところ、その損害額を金銭に換算すると1000万円を下らない。 ウ 弁護士費用相当の損害額 被告の不正競争行為、著作権侵害行為及び一般不法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当の損害額は、500万円を下らない。 エ まとめ 以上によれば、原告は、被告に対し、不正競争防止法4条(同法2条1項1号、2号又は3号)、民法709条(著作権侵害及び一般不法行為)に基づく損害賠償として4020万円(前記アないしウの合計額)及びこれに対する平成23年3月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2) 被告の主張 原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為の成否)について (1) 争点1−1(周知又は著名な「商品等表示」該当性)について 原告は、原告商品1の販売が開始された平成15年6月の時点で、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーの市場において、原告商品共通形態(形態AないしE)を有する商品が存在せず、原告商品共通形態は斬新なものであり、独自の形態上の特徴を有していたことから、平成16年後半には、原告商品共通形態は、原告の商品の出所を他の商品の出所と識別させる出所識別機能を獲得するに至り、さらには、同年12月ころには、原告の商品等表示として周知又は著名となったことから、原告商品共通形態は、そのころ、上記商品カテゴリーにおいて、原告の周知又は著名な「商品等表示」に該当するに至った旨主張する。 ア 原告各商品に共通する形態について (ア) 前記争いのない事実等と証拠(検甲1ないし4、乙6)によれば、以下の事実が認められる。 a 原告は、平成15年6月から原告商品1を、平成16年1月から原告商品2を、平成17年11月から原告商品3を、平成20年5月から原告商品4をそれぞれ製造し、販売している。 原告各商品は、別紙原告商品目録1ないし4の各別添の各写真に示された形態を有するカスタマイズドール用ボディ素体(素体)であり、その全高は、原告商品1ないし3(検甲2ないし4)が約60p、原告商品4(検甲1)が約50pである。 b 原告各商品は、いずれも、@外皮が、スラッシュ成形により成形されたソフトビニル(中空のポリ塩化ビニル)製で、弾力のある柔らかい質感があり、やや赤みを帯びた淡黄色の人肌に近い色である点(以下「形態A’」という。)、A外皮にパーティングラインが存在しない点(形態B)、B頭部、股下及び身長の割合が、8頭身ないし9頭身に相当する1:4.4ないし4.5:8.4ないし8.5である点(形態C)、C腹部が、胸郭部や骨盤部よりも極端に細く成形され、「くびれ」の形状が強調されている点(形態D)、D可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質プラスチック製骨格構造とを有しており、一定のポーズを維持したままの状態で自立させることが可能であり、また、足裏の磁石により「バランスを崩すようなポーズ」(例えば、フィギュアスケートの「イナバウアー」等)であっても自立させることが可能である点(以下「形態E’」という。)で、形態が共通する。 これらの形態は、原告各商品の具体的な形態から共通する要素を抽出した形態であり、各形態の原告各商品における具体的構成態様は、必ずしも同一ではない(例えば、形態E’の「可動域の広い関節構造」についてみると、別紙原告商品目録1ないし4の各別添の各写真に示すように、原告商品1と原告商品3とでは、肘関節及び膝関節の形状が異なり、また、原告商品1ないし3には、肩関節及び手首関節の背面側にネジ穴が存在するのに対し、原告商品4には、上記各関節にネジ穴が存在しない。)。 (イ) 以上のとおり、原告各商品は、全高約50p又は約60pのカスタマイズドール用ボディ素体(素体)であり、形態A’、BないしD、E’という共通の形態(以下「本件原告商品形態」という。)を有する。 なお、形態A’は、原告主張の原告商品共通形態の形態Aをより客観的に表現するため、形態A中の「やや赤みを帯びた淡黄色の人肌に限りなく近い色」の文言から「限りなく」の文言部分を削除したものであり、また、形態E’は、同様の観点から、原告商品共通形態の形態E中の「多様なポーズ」の文言を「一定のポーズ」の文言に改めたものであり、本件原告商品形態は、原告主張の原告商品共通形態と実質的に同一の形態を意味する。 イ 本件原告商品形態の商品等表示性について 商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品の形態が、他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、その形態が長期間継続的・独占的に使用され、又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果、出所識別機能を獲得した場合には、当該形態は、不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するものと解される。 そこで、本件原告商品形態が、原告主張の平成16年後半あるいは同年12月ころに、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、原告の「商品等表示」に該当するに至ったかどうかについて検討する。 (ア) 原告商品1の販売開始前に販売されていたカスタマイズドールの形態等 a 証拠(甲38の1ないし3、乙5ないし7、検乙1)及び弁論の全趣旨によれば、@ツクダホビーは、平成11年2月当時から、フルアクションドールシリーズ(「センチメンタルジャーニーシリーズ」)というシリーズ名の女性型関節可動人形を販売していたこと、A人形本体(「フルアクションドール」)(検乙1。商品名「山本るりか」)は、サイズが「1/5スケール」(全高約31.5p)で、うすい赤黄色の人肌に近い色であり、硬質樹脂性の骨格構造(ただし、金属スプリングで、首・肩部、胸部、腹部及び腰部を連接している。)と、胴体部及び脚部に被せたパーティングラインの存在しないソフトビニル製の外皮とを備え、頭部、股下及び身長の割合が、おおよそ1:4:8(約4p:約16p:約31.5p)の8頭身で、腹部には「くびれ」が存在すること、B胴体部及び脚部の外皮は、弾力のある柔らかい質感があり、頭部、上腕関節、肘関節、手首関節、股関節、膝関節などを可動させて様々なポーズをとらせることができ、また、一定のポーズを維持した状態で自立させることができること、C自らの好みにあわせ、人形本体に衣類等を組み合わせることができることが認められる。 上記認定事実によれば、平成11年2月当時販売されていた「フルアクションドール」は、本件原告商品形態(形態A’、BないしD、E’)と同内容の形態(ただし、足裏の磁石の構成を除く。)を備えていたことが認められる。 b 証拠(乙9ないし11、17、18)及び弁論の全趣旨によれば、@平成11年当時、チェスナットが販売していた人形(商品名「The Virgin Doll Jane」)(乙9)は、サイズが「1/4スケール」で、間接可動骨格構造と、パーティングラインの存在しない軟質性素材(シリコン)のシームレス外皮を備え、関節を可動させて様々なポーズをとらせたり、自らの好みにあわせ、人形本体に衣類等を組み合わせることができたこと、A同年10月、タカラが販売していた人形素体(商品名「NB21」)(乙17)は、腰や腕の付け根にパーティングラインの存在しない樹脂による一体成形、金属線内臓の関節可動素体であり、自らの好みにあわせ、衣類等を組み合わせることができたこと、B平成12年ころ、被告が販売していた人形素体(商品名「エレガントコレクション」)(乙10、11)は、サイズが「1/6スケール」で、関節可動骨格構造とシームレス外皮を備えたカスタマイズドール(女性)用ボディ素体であり、関節を可動させて様々なポーズをとらせたり、自らの好みにあわせ、衣類等を組み合わせることができたこと、C@ないしBの人形又は人形素体は、腹部に「くびれ」が存在し、均整のとれたプロボーションを有し、一定のポーズで自立させることが可能であり、また、A及びBの人形素体の外皮は、人肌に近い色であったことが認められる。 上記認定事実と証拠(乙5、13)及び弁論の全趣旨を総合すれば、カスタマイズドール又はカスタマイズドール(女性)用ボディ素体において、硬質材の関節骨格構造に、パーティングラインの存在しない軟質材(シリコン、ソフトビニル)の外皮を被せる形態とし、様々なポーズをとらせたり、一定のポーズで自立させることができるようにすることや、外皮を人肌に近い色とし、腹部に「くびれ」が存在し、均整のとれたプロボーションを有する形態とすることは、原告が原告商品1の販売を開始した平成15年6月当時、特に目新しいものではなかったことが認められる。 c 証拠(甲9、乙6)及び弁論の全趣旨によれば、平成11年2月ころ、被告が販売を開始したカスタマイズドール(女性)用ボディ素体(商品名「スーパードルフィー(SD)」)は、全高約60pであり、ウレタン樹脂から成る無垢の樹脂製(レジンキャスト製)で関節をゴム紐で連結する構造であったことが認められる。 上記認定事実によれば、平成11年2月ころから、全高約60pの大きさのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体が市場に存在していたことが認められる。 (イ) 原告商品1及び2に関する新聞、雑誌の記事等 a ウェブサイトのブログ記事 証拠(甲4の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成15年4月27日に東京都立貿易センタービルで開催された「ドールショウ10」に、原告商品1(「オビツ60」)を出品したこと、上記ドールショウ10を訪れた一般来場者のウェブサイトのブログには、原告商品1について、「今回のドールショウで凄く気になっていたのがオビツ60という、新しい60p級ドールです。」、「ヘッドの大きさが違うので、SDとのヘッドの互換性は無さそうな気配ですね。」(判決注・「SD」は、被告製の「スーパードルフィー(SD)」を指す。)、「見た雰囲気では、軽そうだし、関節が良く動きそうだし、好みが判れるところかもしれませんがプロポーションも綺麗だと思います。コレが発売されると60p級のお人形さんの世界にも大きな変化が訪れるのでしょう。」などの記載があることが認められる。 b 新聞及び雑誌 (a) 平成16年1月発行の「月刊電撃ホビーマガジン1月号」(甲5の5)には、アゾンインターナショナルの発売する「サアラ60」という着せ替え人形に関する記事中に、「27センチサイズで、着せ替えドールの世界を開拓してきたアゾン。今回そのノウハウを全て投入し、新たなカテゴリーである60センチサイズを発表しました。」、「ボディは27センチサイズでも定評のあるOBITSU60を使用。ソフビ製のボディは大きさのわりに軽く、確かな関節の可動(範囲も広い)もあり、27センチと変わらないプレイバリューを誇ります。」などの記載があり、着衣の人形の写真が掲載されている。 (b) 平成16年2月発行の「ハイパーホビー2月号」(甲4の3)には、「新発売! 60pオビツボディ」との見出しの下に、「60pオビツボディはABS樹脂、POM樹脂製の内部骨格とソフトビニール製の感触の良い表皮から出来ています。球体&二重関節構造と足裏の強力マグネットにより、付属のスチール盤上に自出来ます。」などと記載した原告の広告記事が掲載されている。 (c) 平成16年3月発行の「ホビージャパン3月号」(甲4の2)には、「オビツワールドへようこそ!」との見出しの下に、「60pオビツボディはABS樹脂、POM樹脂製の内部骨格とソフトビニール製の感触の良い表皮からなる新しいタイプの大型フル可動素体です。球体&二重関節構造と足裏の強力マグネット内蔵により、付属のスチール盤上に自立できます。この新しいオビツボディがあなたを無限のオビツワールドに誘い出すことでしょう。」などの記載があり、原告商品1及び2の各写真を掲載した原告の広告記事が掲載されている。 また、平成16年3月30日付け日刊工業新聞(甲5の4)及び同年5月11日付け日刊工業新聞(甲5の6)には、原告が、「第16回 中小企業優秀新技術・新製品賞」の「技術・製品部門」において、「関節が自由にポーズをとれる人形「オビツボディ」」で「奨励賞」を受賞したことが掲載されている。 (d) 平成16年6月発行の「ホビーライフVol.01」(甲5の7)には、「カスタマイズに最適!オビツボディパーフェクトガイド」との見出しの下に、「1/6以外にも60センチの女性素体も発売されている。このサイズに合うソフビはないので、手軽にソフビ着せ改造というわけにはいかないが、他にないスケールの素体なので、腕に覚えのある人は是非挑戦してみてほしい。」、「ちゃんと自立する」などの記載があり、原告商品1及び2の各写真、「1/6サイズ」の男性及び女性の人形素体の写真などが掲載されている。 (e) 平成16年7月発行の「Newtype THE LIVE 特撮ニュータイプ7月号」(甲5の8)には、「新企画 今まで見たことないフィギュアを創ろうプロジェクト(仮題)」の見出しの記事中に、「今回のプロジェクトが発案される”きっかけ”ともなった、オビツ製作所製品「60cmオビツボディ(女)」(2万1000円/発売中)。CD(直径12cm)と比較するとその大きさがわかることと思う。骨格も、球状の関節や2つのジョイントで構成された関節によってかなり自由に動かせる。しかし、大きめな頭部と小さな肩幅、バストや細い腰などは女性特有のものなので、このままでは「特撮ヒーロー」の素体にはなりえない」などの記載があり、原告商品2の写真が掲載されている。 (f) 平成16年8月発行の「月刊電撃ホビーマガジン8月号」(甲5の9)には、ダイキ工業が販売する完成品ドール「メイドのみずきちゃん(仮)」に関する記事中に、「こちらはオビツ60素体を使用したカスタムドール」、「可動範囲の広さと確実な保持力で定評のあるオビツ60素体は、様々なポージングが可能。」などの記載があり、着衣の人形写真、原告商品1及び2(いずれも頭部を除く。)の各写真が掲載されている。 (g) 平成16年10月25日発行の「キャラクターデザインバイブルvol.5 衣装デザイン」(甲5の12)には、「オビツ製作所噂のカスタムドールを徹底解剖!」との見出しの下に、「そんなオビツのオリジナル製品の中で、ドールファンから愛されているのが、カスタムユーザーのために作られた改造自由なカスタムドール「オビツボディ」である。現在、60cm(女性)用2種類、27cm(男女)用10種類の基本ボディが販売されており、ヘッドやアイ、ウィッグといった別売りのカスタムパーツ類のバリエーションも充実している。」、「オビツボディの最大の特徴は、補助スタンドなしで自立する堅牢なボディだ。外側は、スラッシュ成型を生かした弾力性のあるソフビで、中にはプラスチックの骨格が入っている。この、スラッシュ成型と骨格のジョイントにより、関節が自由に動く人形が完成した。」などの記載があり、原告商品1及び2の写真が小さく掲載されている。 (h) 平成16年11月発行の「ヤノ・ベンチャー・レポート 2004.11」(甲5の13)には、「ベンチャー企業経営者に聞くvol.108」、「下町メーカーが世界のマニアを惹きつける」との見出しの下に原告会社の紹介記事が掲載されており、同記事中には、「「オビツボディ」は、インジェクション成形による硬質樹脂製の骨格に、スラッシュ成形による軟質樹脂製の表皮をまとわせたボディ人形。骨格には、球体関節・二重関節構造を採用しているため、各関節がスムーズに可動する。肘関節が180度以上、膝関節が90度以上、股関節が180度以上可動し、人体に近い動きを自在に表現することができる。また、足裏に強力マグネットを内臓していることから、付属のスチール盤上に補助スタンドなしで自立することができる、世界初の人形である。一本足でも立てるだけでなく、映画「マトリックス」の主人公のように、身体をのけぞらせる動きも、倒れることなく再現できる。」、「60pサイズのオビツボディの価格は2万円。」(以上、6頁)などの記載がある。 (ウ) 平成16年までの原告商品1及び2の販売数 証拠(甲1、6)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品1の平成15年の販売数(OEM分を含む。以下同じ。)は1168体、平成16年の販売数は493体であったこと(以上、合計1661体)、原告商品2の平成16年の販売数は669体であったことが認められる。 (エ) 検討 a 原告は、本件原告商品形態(原告商品共通形態)が平成16年後半あるいは同年12月ころに原告の商品等表示に該当するに至ったことの根拠として、本件原告商品形態は、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、@スラッシュ成形によって実現したパーティングラインの発生しないソフトビニルで覆われた外皮で表現された、女性らしい柔らかな肌艶のあるボディラインである点、Aトップモデルないしはスーパーモデルのような美しく、理想的なボディバランスを併せ持つ、全高約50pないし60pの体型である点、B可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質骨格構造を備えているため女性らしいポーズを維持させた状態で自立させて鑑賞できる点で、形態上の独自の特徴を有し、原告商品1の販売が開始された平成15年6月の時点で、本件原告商品形態を有する商品が存在せず、本件原告商品形態は斬新なものであった旨主張する。 しかしながら、平成11年2月当時販売されていた「フルアクションドール」は、サイズが「1/5スケール」(全高約31.5p)ではあるが、本件原告商品形態(形態A’、BないしD、E’)と同内容の形態(ただし、足裏の磁石の構成を除く。)を備えていたこと(前記(ア)a)、カスタマイズドール又はカスタマイズドール(女性)用ボディ素体において、硬質材の関節骨格構造に、パーティングラインの存在しない軟質材(シリコン、ソフトビニル)の外皮を被せる形態とし、様々なポーズをとらせたり、一定のポーズで自立させることができるようにすることや、外皮を人肌に近い色とし、腹部に「くびれ」が存在し、均整のとれたプロボーションを有する形態とすることは、平成15年6月当時、特に目新しいものではなかったこと(前記(ア)b)に照らすならば、原告が指摘する上記@及びBの点は、平成15年6月当時、カスタマイズドール(女性)用ボディ素体において、需要者に強い印象を与えるような独自の形態上の特徴であったものと認めることはできない。 また、平成11年2月ころから、全高約60pの大きさのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体が市場に存在していたこと(前記(ア)c)に照らすならば、カスタマイズドール(女性)用ボディ素体において、全高約50pないし60pという大きさ自体に独自性があるということはできず、原告が指摘する上記Aの点が、需要者に強い印象を与えるような独自の形態上の特徴であったものと認めることもできない。 さらに、平成15年4月から平成16年11月までの原告商品1及び2に関する新聞、雑誌の記事等(前記(イ)a及びb)をみても、球体関節・二重関節構造を採用した骨格構造により、可動域が広く自由にポーズを採らせることができたり、足裏の磁石により付属のスチール盤上にバランスを崩すようなポーズでも自立させることができる点については原告商品1及び2の特徴として強調されているが、他方で、原告商品1及び2が、本件原告商品形態を構成する各形態をすべて備える点で、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて形態上の独自の特徴を有することを述べた記載やこれをうかがわせる記載は存在しない。 以上によれば、平成15年6月の時点で、本件原告商品形態を構成する各形態をすべて備えた全高約50pないし60pのサイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体の商品が、原告商品1以外に存在しなかったとしても、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、同月時点において、本件原告商品形態が斬新な形態であったということはできないことはもとより、形態上の独自性を有していたということもできない。 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。 b 前記aの認定事実に加えて、原告商品1の平成15年の販売数は1168体、平成16年の販売数は493体(以上、合計1661体)であり、原告商品2の平成16年の販売数は669体であったこと(前記(ウ))、平成15年4月から平成16年11月までの原告商品1及び2に関する新聞、雑誌の記事等の掲載態様及びその内容(前記(イ)b)に鑑みると、平成16年後半あるいは同年12月ころの時点において、本件原告商品形態が原告において長期間継続的・独占的に使用されたということはできないし、また、原告商品1及び2についてそれぞれの販売開始時(平成15年6月及び平成16年1月)から上記時点までに効果的な宣伝広告がされたということもできないから、カスタマイズドールの愛好者、取引者等の需要者において、本件原告商品形態が、上記時点までに、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて、特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得したものと認めることはできない。 したがって、原告商品共通形態が、平成16年後半あるいは同年12月ころの時点において、原告の「商品等表示」に該当するに至ったものということはできない。 ウ 小括 以上によれば、原告主張の周知性及び著名性について検討するまでもなく、本件原告商品形態(原告商品共通形態)が平成16年12月ころ「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」という商品カテゴリーにおいて原告の周知又は著名な「商品等表示」に該当するに至ったとの原告の主張は、理由がない。 (2) まとめ 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告による被告各商品の製造及び販売が不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するとの原告の主張は、理由がない。 2 争点2(不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否)について (1) 争点2−1(模倣の有無)について ア 形態の実質的同一性の有無について 原告は、被告各商品が、原告商品共通形態に酷似する形態と、原告商品4の「需要者に強い印象を与える部分」ないし「需要者の注意が惹き付けられる部分」である胸部、腹部、骨盤部、臀部に係る形態と同一の形態とを有していることによれば、原告商品4と被告各商品は、商品全体の形態が酷似し、その形態が実質的に同一である旨主張する。 (ア) 原告商品4の形態 前記1(1)ア認定のとおり、原告商品4(検甲1)は、別紙原告商品目録4の別添の各写真に示された形態を有するカスタマイズドール用ボディ素体(素体)であり、その全高は約50pであり、@外皮が、スラッシュ成形により成形されたソフトビニル(中空のポリ塩化ビニル)製で、弾力のある柔らかい質感があり、やや赤みを帯びた淡黄色の人肌に近い色である点(形態A’)、A外皮にパーティングラインが存在しない点(形態B)、B頭部、股下及び身長の割合が、8頭身ないし9頭身に相当する1:4.4ないし4.5:8.4ないし8.5である点(形態C)、C腹部が、胸郭部や骨盤部よりも極端に細く成形され、「くびれ」の形状が強調されている点(形態D)、D可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質プラスチック製骨格構造とを有しており、一定のポーズを維持したままの状態で自立させることが可能であり、また、足裏の磁石により「バランスを崩すようなポーズ」(例えば、フィギュアスケートの「イナバウアー」等)であっても自立させることが可能である点(形態E’)で、原告商品1ないし3と形態が共通する。 そして、証拠(検甲1)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品4は、@頭部が約7p、腕部が約19.3p、股下が約26.6p、骨盤部周囲が約20p、腹囲が約13p、胸囲(トップバスト)が約19p、胸囲(アンダーバスト)が約14pであること、A頭部は、顔の輪郭がおおむね卵型で、顔面に眼孔はあるが、眼球パーツが装着されていないこと、B胸部には、ソフトビニル製の乳房があり、胸部と腹部が別パーツによって構成され、乳房の下部に、前面にはなだらかな山形の境目ライン、背面には円弧状の境目ラインが存在すること、C腕部は、手の平が開いた状態で固定され、肩、手首の関節部分が球状で、露出しており、当該球状の肩の関節部分を覆うように上腕の最上部が半球状に湾曲し、二重関節構造の肘の関節部分の外側に半球状の蓋が付されていること、D脚部は、大腿部、ふくらはぎが細く、二重関節構造の膝の関節部分が露出し、露出した膝頭の中央部に半球状の蓋が付され、足首の関節部分は球状であることが認められる。 (イ) 被告各商品の形態 被告各商品(検甲6、7)は、別紙被告商品目録1及び2の各別添の各写真に示された形態を有するカスタマイズドール用ボディ素体(素体)を使用した人形である。 そして、証拠(検甲6、7)及び弁論の全趣旨によれば、被告各商品は、@全高が約55p、頭部が8.7pないし9p、腕部が約19.3p、股下が約27.2p、骨盤部周囲が約23.5p、腹囲が約15.5p、胸囲(トップバスト)が約23p、胸囲(アンダーバスト)が約17.5pであること、A外皮が、スラッシュ成形により成形されたソフトビニル(中空のポリ塩化ビニル)製で、弾力のある柔らかい質感があり、やや黄褐色に近い茶色味を帯びた人肌に近い色であること、B外皮にパーティングラインが存在しないこと、C頭部、股下及び身長の割合が、1:3ないし3.1:6.1ないし6.3であること、D腹部が、胸郭部や骨盤部よりも極端に細く成形され、くびれており、みぞおちからへそにかけて皮膚の縦じわを示すラインが1本存在すること、E可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質プラスチック製骨格構造とを有しており、一定のポーズを維持したままの状態で自立させることが可能であること、F頭部は、顔の輪郭が丸型で、後頭部がやや張り出し、顔面に眼部のパーツが装着され、眉毛、睫毛のデザインが施されていること(なお、このデザインは、被告商品1と被告商品2とで異なっている。)、G胸部には、ソフトビニル製の乳房があり、胸部と腹部が別パーツによって構成され、乳房の下部に、前面には頂上部がなだらかな山形の境目ライン、背面には円弧状の境目ラインが存在すること、H腕部は、手は親指以外の指が全て曲がり、握った状態で固定され、上腕の最上部が半球状に湾曲し、手首の関節部分は球状であるが、肩の関節部分は球状ではなく、肩軸が内部フレームに嵌め込まれ、肘の関節部分の中央部に半球状の蓋が付されていないこと、I脚部は、大腿部、ふくらはぎが細く、膝から上の大腿部パーツ下部が膝の関節部分を覆い、膝頭が見えず、足首の関節部分が球状になっており、また、足裏に磁石が付されていないことが認められる。 (ウ) 検討 a 以上を前提に、原告商品4(検甲1)の形態と被告各商品(検甲6、7)の形態とを対比すると、両者は、外皮が、スラッシュ成形により成形されたソフトビニル(中空のポリ塩化ビニル)製で、パーティングラインが存在せず、弾力のある柔らかい質感があり、可動域の広い関節構造とボディ内部に硬質プラスチック製骨格構造とを有しており、一定のポーズを維持したままの状態で自立させることが可能であるという基本的な構成において共通し、具体的構成においても、腹部が、胸郭部や骨盤部よりも極端に細く成形され、くびれている点、胸部には、ソフトビニル製の乳房があり、胸部と腹部が別パーツによって構成され、乳房の下部に、なだらかな山形又は円弧状の境目ラインが存在する点、上腕の最上部が半球状に湾曲し、手首の関節部分が球状である点、脚部は、大腿部、ふくらはぎが細く、足首の関節部分が球状である点などで共通している。 しかしながら、他方で、@原告商品4の頭部は、顔の輪郭がおおむね卵型で、顔面に眼孔はあるが、眼球パーツが装着されていないのに対し、被告各商品の頭部は、顔の輪郭が丸型で、後頭部がやや張り出し、顔面に眼部のパーツが装着され、眉毛、睫毛のデザインが施されている点、A原告商品4の胸部は、トップバストが約19p、アンダーバストが約14pであるのに対し、被告各商品の胸部は、トップバストが約23p、アンダーバストが約17.5pである点、B原告商品4の腕部は、肩の関節部分が球状で、肘の関節部分に外側に半球状の蓋が付され、手の平を開いた状態で固定されているのに対し、被告各商品の腕部は、肩の関節部分は球状ではなく、肘の関節部分に蓋が付されておらず、親指以外の指が全て曲がり、手を握った状態で固定されている点、C被告各商品のみぞおちからへそにかけて皮膚の縦じわを示すラインが1本存在するのに対し、原告商品4には、このようなラインが存在しない点、D原告商品4では、膝の関節部分が露出し、露出した膝頭の中央部に半球状の蓋が付されているのに対し、被告各商品では、膝から上の大腿部パーツ下部が膝の関節部分を覆い、膝頭が見えない点、E原告商品4の足裏には磁石が付されているのに対し、被告各商品の足裏には、磁石が付されていない点、F原告商品4は、全高が約50pであって、その頭部、股下及び身長の割合が8頭身ないし9頭身に相当するのに対し、被告各商品は、全高が約55pであって、その頭部、股下及び身長の割合は1:3ないし3.1:6.1ないし6.3であり、8頭身ないし9頭身に相当するとはいえない点において、外観上明らかな相違がみられ、これらの相違点により原告商品4及び被告各商品の全体から受ける印象は異なるものとなっている。 したがって、原告商品4と被告各商品は、商品全体の形態が酷似しているとはいえず、その形態が実質的に同一であると認めることはできない。 b これに対し原告は、原告商品4と被告各商品の形態の相違点は、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違にとどまるものといえるから、原告商品4と被告各商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではない旨主張する。 しかしながら、前記a認定の相違点は、被告各商品が原告商品4とは異なる相応の形態的特徴を有することを示すものであって、商品全体からみて些細な相違にとどまるものということはできないから、原告の上記主張は、採用することができない。 イ 小括 以上のとおり、被告各商品は原告商品4と実質的に同一の形態の商品であるものと認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告各商品は、原告商品4を模倣した商品に該当するものと認めることはできない。 (2) まとめ 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告による被告各商品の販売が不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するとの原告の主張は、理由がない。 3 争点3(著作権侵害の成否)について (1) 争点3−1(著作物性)について 原告は、@カスタマイズドールの需要者は、まず裸の状態のボディ素体の形状を鑑賞して好みのボディを選択し、その上で、好みのボディに、好みのアクセサリーを装着させ、自らの趣向でドールを完成させて鑑賞するという段階を踏むことからすると、ボディ素体自体を鑑賞目的で制作されたものと受け取ること、Aボディ素体は、一品制作のものではないが、卓越した独自の技術を持つ職人が一体一体を丁寧に制作するものであるから、一品制作の美術作品と同等の美的創作性を備え得ること、B原告商品1の販売が開始された平成15年6月当時、「全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」の市場において、原告各商品の形態上の特徴を有するボディ素体は存在しなかったことからすると、その形態上の特徴は、原告の個性が表れ、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものということができることを理由に、原告各商品は、「純粋美術」又はこれと同視し得る程度の美的創作性を具備する「応用美術」として、著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当する旨主張する。 ア そこで検討するに、「カスタマイズドール」は、頭部、胴体及び四肢部分で構成された人の裸体の外観形態を模写したヌードボディである「素体」に、自らの好みにあわせ、ウィッグ(かつら)、衣類等を組み合わせたり、彩色(アイペイント、メイク等)、加工、改造等をすることにより作り上げる人形であること(前記争いのない事実等(2)イ)に照らすならば、原告各商品のようなカスタマイズドール用素体を購入する通常の需要者においては、自らの好みにあわせて作り上げた人形本体(カスタマイズドール)を鑑賞の対象とすることはあっても、その素材である素体自体を鑑賞の対象とするものとは考え難く、また、原告が主張するような素体を選択する際に当該素体を見ることは、鑑賞に当たるものということはできない。 また、そもそも、原告各商品は、販売目的で量産される商品であって、一品制作の美術品とは異なるものである。 以上によれば、原告各商品が「純粋美術」として美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当するとの原告の主張は、採用することができない。 イ 次に、原告が原告の思想又は感情が創作的に表現されたものであると主張する原告各商品の形態上の特徴は、原告商品共通形態と同内容のものであるところ(前記第3の3(1)ア(ア)b)、原告商品共通形態(本件原告商品形態)は、前記1(1)イ(エ)aで認定したように、形態上の独自性を認めることはできず、カスタマイズドール用素体としてありふれたものといわざるを得ないものであり、また、全高約50pないし60pという原告各商品の大きさ自体に創作性があるものと認めることもできない。 したがって、原告各商品が純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備しているとの原告の主張は、採用することができない。 ウ 以上によれば、原告各商品が「純粋美術」又はこれと同視し得る程度の美的創作性を具備する「応用美術」として著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当するとの原告の主張は、理由がない。 (2) まとめ 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告による被告各商品の製造が原告各商品について原告が保有する著作権の侵害行為に該当するとの原告の主張は、理由がない。 4 争点4(一般不法行為の成否)について 原告は、@平成15年当時、全高約50p以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体の商品としては、被告が製造販売していた、ウレタン樹脂からなる無垢の樹脂製で、関節構造がゴム紐のみのボディ素体(商品名「スーパードルフィー(SD)」)しか市場に存在しない中で、同年6月に、原告が世界初となるソフトビニル製の外皮で、骨格構造を備えた原告商品1の販売を開始したものであり、原告商品1の備える原告商品共通形態は、リスクを負いながら技術開発、商品開発を行った原告の事業努力が結実したものとして、法的保護に値すると解すべきであること、A被告は、平成15年8月ころ、原告商品1と同じソフトビニル製の外皮を持つ大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体(商品名「ドルフィードリーム(DD)」)の販売を開始し、さらに、平成16年12月ころ、ソフトビニル製の外皮だけではなく、内部の骨格構造まで原告商品共通形態を模倣した「ドルフィードリームU(DDU)」の販売を開始し、その後平成20年5月に原告が全高約50pの原告商品4を販売したところ、そのわずか2年後の平成22年9月ころ、原告商品4と同じ全高約50pの被告各商品の販売を開始したこと、B一方で、原告は、原告商品1の販売を開始した当時、被告の営業妨害を受けて、業界誌への商品の広告掲載依頼が拒否されている状況にあったことなどから、原告商品1及び2の十分な広告宣伝活動を行うことができなかったことによれば、被告は、平成15年から長年にわたり、原告各商品の後追いで原告商品共通形態を模倣した商品を製造及び販売することによって、自らが商品開発をする際に要する費用や労力の削減を図って、通常必要となる先行投資をすることもなく、リスクも低い状態で、不正な「ただ乗り」行為を行い、これにより原告の営業上の利益を侵害し、かつ、原告の営業上の信用を毀損したものというべきであるから、かかる被告の一連の行為は、公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法な行為として、原告に対する一般不法行為(民法709条)を構成する旨主張する。 (1) 前提事実 前記争いのない事実等(2)及び(3)、前記1(1)イ(ア)cの事実、証拠(甲7ないし9、25、乙3の1、2、4、6)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 ア(ア) 被告は、平成11年2月ころ、カスタマイズドール(女性)用ボディ素体(商品名「スーパードルフィー(SD)」)の販売を開始した。 「スーパードルフィー(SD)」は、全高約60pで、外皮はウレタン樹脂から成る無垢の樹脂製(レジンキャスト製)で、骨格構造はなく、関節をゴム紐で連結する構造であった。 (イ) 原告は、平成15年6月、全高約60pの原告商品1の販売を開始した。 (ウ) 被告は、平成15年8月ころ、カスタマイズドール(女性)用ボディ素体(商品名「ドルフィードリーム(DD)」)の販売を開始した。 「ドルフィードリーム(DD)」は、全高50pないし60pで、外皮はソフトビニル製で、骨格構造はなく、関節をゴム紐で連結する構造であった。 (エ) 原告は、平成16年1月、全高約60pの原告商品2の販売を開始した。 (オ) 被告は、平成16年12月ころ、カスタマイズドール(女性)用ボディ素体(商品名「ドルフィードリームU(DDU)」)の販売を開始した。 「ドルフィードリームU(DDU)」は、全高50pないし60pで、 ソフトビニル製の外皮と内部の骨格構造を備える構造であった。 (カ) 原告は、平成17年11月、全高約60pの原告商品3の販売を開始した。 (キ) 原告は、平成20年5月、全高約50pの原告商品4の販売を開始した。 (ク) 被告は、平成22年9月ころ、全高約55pの被告各商品の販売を開始した。 イ 原告は、原告商品1の販売開始前の平成14年、被告の取締役が、業務の過程で、原告の取引先の社員に対して、原告が製造販売する27pサイズの人形商品(商品名「オビツボディ 女性バージョン スタンダード」等)が被告の27pサイズの人形商品(商品名「NEW−EBボディ」等)に類似するので、原告及び原告と取引している者を訴えると告知した行為が、不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たる旨主張して、被告に対し、損害賠償、営業誹謗行為の差止め等を求める訴訟(東京地方裁判所平成14年(ワ)第22433号事件)を提起した。その後、被告は、平成15年、被告の上記人形商品の形態が被告の周知の商品等表示に該当し、これと類似する形態の原告の上記人形商品を原告が製造及び販売する行為が、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たる旨主張して、原告に対し、原告の上記人形商品の製造等の差止め及び損害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所平成15年(ワ)第4564号事件)を提起した。 上記両事件(以下「別件訴訟」という。)は併合審理され、東京地方裁判所は、平成16年11月24日、原告の請求を一部認容(損害賠償請求に係る部分の一部)し、被告の請求を棄却する旨の判決(乙3の1、2)を言い渡した。 これに対して被告が控訴をし、原告が附帯控訴をした後(知的財産高等裁判所平成17年(ネ)第10060号、同第10064号事件)、知的財産高等裁判所は、平成18年1月25日、上記一審判決について、原告の請求の認容額を減額変更し、その余の控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する旨の判決(乙4)を言い渡した。 (2) 検討 ア 上記認定事実によれば、被告は、原告が原告商品1の販売を開始した後に、「ドルフィードリーム(DD)」、「ドルフィードリームU(DDU)」及び被告各商品の販売を順次開始したものであり、これらの商品は、全高約50p以上のカスタマイズドール(女性)用ボディ素体という商品のカテゴリーにおいて、本件原告商品形態(原告商品共通形態)を備える原告各商品のいずれかの後行商品に当たるものといえる。 しかし、他方で、@本件原告商品形態(原告商品共通形態)は、原告商品1の販売が開始された平成15年6月の時点で、形態上の独自性を有していたものではなく、その後、出所識別機能を獲得して原告の商品等表示に該当するに至ったものでもないこと(前記1(1)イ(エ))、A被告による被告各商品の販売が、原告主張の原告商品4の形態を模倣する不正競争行為(不正競争防止法2条1項3号)に該当しないこと(前記2(2))、B本件原告商品形態には、著作権法上保護される表現上の創作性は認められず、原告各商品は美術の著作物に該当しないこと(前記3(1)イ、ウ)に照らすならば、本件原告商品形態が原告の法的保護に値する利益であるものと認めることはできないし、被告において、本件原告商品形態を備えた商品を開発し、製造及び販売する行為が、原告主張の不正な「ただ乗り」行為に当たるということも、公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法な行為に当たるということもできない。 また、本件全証拠によっても、被告が原告による原告商品1及び2の広告宣伝活動を妨害するような営業妨害行為を行ったことを認めるに足りない。もっとも、原告と被告間の別件訴訟において、前記(1)イで認定したように、原告が主張する被告の不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為の成立を認め、原告の請求を一部認容する判決(乙3の1、2、4)がされているが、別件訴訟で問題とされた商品は、27pサイズの原告の人形商品であって、原告各商品のような全高約50p以上のカスタマイズドール(女性)用ボディ素体という商品のカテゴリーのものではないし、また、別件訴訟の判決文中に、被告が原告商品1及び2に関し営業妨害を行ったことをうかがわせる記載は存在せず、別件訴訟の判決の存在が原告主張の被告の営業妨害の事実を裏付ける事情になるものではない。 イ 以上によれば、被告による「ドルフィードリーム(DD)」、「ドルフィードリームU(DDU)」及び被告各商品の製造及び販売が原告に対する不法行為を構成するものと認めることはできない。 (3) まとめ 以上の次第であるから、原告の主張する被告の一般不法行為の成立は認められない。 5 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 橋彩 裁判官 石神有吾 |
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