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【事件名】テレビCMの著作権帰属事件(2)
【年月日】平成24年10月25日
 知財高裁 平成24年(ネ)第10008号 各損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第4753号、第39494号)
 (口頭弁論終結日 平成24年7月24日)

判決
控訴人 株式会社カーニバル
訴訟代理人弁護士 田原大三郎
同 田芳則
被控訴人 株式会社アドック
訴訟代理人弁護士 中西義徳
同 森本奈津子
被控訴人 Y
訴訟代理人弁護士 澤本淳


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人株式会社アドックは、控訴人に対し、904万8500円及び内金134万3000円に対する平成20年11月1日から、内金770万5500円に対する平成21年1月23日から、いずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人Yは、控訴人に対し、904万8500円及びこれに対する平成21年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の概要
 以下、控訴人(原審原告)を「原告」と、被控訴人(原審被告)株式会社アドックを「被告アドック」と、被控訴人(原審被告)Yを「被告Y」といい、原審において用いられた略語は、当審においてもそのまま用いる。
(1) 原告は、原審において、以下の請求をした。
ア 本件ケーズCM原版等に係る原告の被告アドックに対する請求
 原告は、被告アドックに対し、株式会社ケーズホールディングス(旧商号はギガスケーズデンキ株式会社。以下「デーズデンキ」という。)の新店舗告知の本件ケーズCM原版及びこれを使用した本件ケーズ旧CM原版を制作したことにより、本件ケーズCM原版の著作権を取得したと主張して、被告アドックの以下の行為、すなわち、本件ケーズCM原版を使用して新たに本件ケーズ新CM原版を制作し、そのプリント(CM原版のコピー)を作成した行為、及び本件ケーズ旧CM原版のプリントを作成した行為が、原告の有する著作権(複製権)を侵害するとして、不法行為に基づく損害賠償金604万5500円及びこれに対する内金134万3000円に対する不法行為の後の日である平成20年11月1日から、内金470万2500円に対する不法行為の後の日である平成21年1月23日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
イ 本件ブルボンCM原版に係る原告の被告アドックに対する請求
 原告は、被告アドックに対し、株式会社ブルボン(以下「ブルボン」という。)の商品告知の本件ブルボンCM原版を制作したことにより、その著作権を取得したと主張して、被告アドックの同CM原版のプリントを作成した行為が、原告の有する著作権(複製権)を侵害するとして、不法行為に基づく損害賠償金300万3000円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年1月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
ウ 原告の被告Yに対する請求
 原告は、原告の取締役であった被告Yに対し、被告アドックと共同して、上記ア及びイ記載の著作権侵害行為を行ったなどの理由で、不法行為又は債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義務違反)に基づく損害賠償金904万8500円及びこれに対する不法行為の後の日であり、訴状送達の日の翌日である平成21年11月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(2) 原審は、原告が本件各CM原版の著作権を有しないとして、原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも棄却し、また、被告Yに原告主張の善管注意義務・忠実義務違反があったとはいえないとして、被告Yに対する債務不履行に基づく損害賠償請求を棄却した。
 原告は、これを不服として、控訴を提起した。また、原告は、当審において、原告と株式会社電通(以下「電通」という。)間の黙示の合意又は慣習法に基づく原告の「プリント業務を独占的に受注できる権利」を被告らが不当に侵害した行為が被告らの不法行為及び被告Yの債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義務違反)に該当するとの主張を追加した。
2 前提事実及び争点
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」「1 前提事実」及び「2 争点」(原判決3頁8行目ないし5頁15行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点に関する当事者の主張
 次のとおり当審における主張を付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」「3 争点に関する当事者の主張」(原判決5頁16行目ないし18頁10行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決7頁12行目の「帰属」の後に「(その1)」を加える。
(2) 原判決8頁1行目の「帰属する。」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「エ 映画の著作物の著作権の帰属(その2)
(ア) 原告は、本件ケーズCM原版の制作に当たり、Aを監督とした。Aは、本件ケーズCM原版の具体的な映像表現の形成過程の全体に寄与しており、本件ケーズCM原版の著作者である。
 また、原告は、本件ブルボンCM原版の制作に当たっては、その一部についてはBを、残りについてはCを監督とした。BとCは、本件ブルボンCM原版の具体的な映像表現の形成過程の全体に寄与しており、本件ブルボンCM原版の著作者である。
(イ) 広告映像に関しては、以下のとおり、著作権法29条1項を適用する基礎を欠いており、同規定の適用は排除される。
 映画の著作物に関する規定は、その沿革から、劇場用映画を念頭に規定されたものであり、その立法趣旨は、@従来から、映画の著作物の利用に関しては、映画製作者と著作者との間の契約によって、映画製作者に委ねられていたという実態があること、A映画製作者が自己のリスクの下に巨額の製作費を投資していること、B多数の著作者全てに著作権行使を認めると映画の円滑な利用が阻害されることにあった。
 これに対して、映像広告であるテレビCMの業界においては、映画業界とは異なり、少なくとも複製権に係る利用、権利行使について、広告主又は広告会社と制作会社との間で契約をすることによって、広告主又は広告会社に委ねられてきた実態はない。従来から、テレビCMの著作権が、広告主、広告会社、制作会社のいずれに帰属するか、又は共有であるのかについて、業界内で統一的な見解が存在しなかったため、社団法人全日本シーエム放送連盟(ACC)が、平成4年に、CM著作権運用指針「CM(映像広告)の使用について」を取りまとめ、「CMは広告主・広告会社・制作会社の協力によって創られる映画の著作物とする」という基本認識を明らかにしている。このような事情に照らすならば、広告映像において、上記立法趣旨@が前提とする状況は存在しなかった。
 テレビCMの製作費は、興行を想定した一般的な劇場用映画の製作費と比べると、その数十分の1ないし数百分の1程度であるから、同法29条1項が予定するほどの巨額な金額が費やされる実態はない。また、テレビCMの目的は、商品やサービスを視聴者に分かり易く魅力的に伝達することであるから、劇場用映画における映画製作者とは異なり、広告主は、著作物であるテレビCM自体から投下資本を回収することは予定しておらず、CM制作に対する投下資本を回収できないリスクを負って製作費を投資するという実態も存在しない。したがって、上記立法趣旨Aが前提とする状況は、広告映像において存在しなかった。
 さらに、テレビCMの場合、広告主の企業宣伝活動のために、放送期間、放送地域などの利用方法が決められており、二次的利用により投下資本を回収することは想定されておらず、多数の著作権者を認めても、特段の不都合はない。したがって、上記立法趣旨Bは、広告映像には妥当しない。
 また、同法29条1項を適用して、広告主又は広告会社に著作権の帰属を認めると、次のような弊害が生じる。CM業界では、制作会社は、CM原版を複製する際のプリント業務を受注し、その収益により制作費の不足分を補うという商慣習が確立している。ところが、同規定を適用して、広告主又は広告会社に全ての著作権が帰属するとなると、広告主又は広告会社は、制作会社に何らの対価を払うことなく、複製権を含む全ての著作権を取得し、その結果、任意にプリント業務を発注することができることになってしまう。
 以上のとおり、広告映像に同法29条1項を適用することに合理性はなく、原則どおり、著作者が著作権者となる。
(ウ) 以上によると、本件ケーズCM原版については、著作者であるAが著作権者であり、本件ブルボンCM原版については、著作者であるBとCが著作権者である。
 原告とA、B及びCとの間には、それぞれ著作権を原告に譲渡する旨の黙示の合意があるから、本件各CM原版の完成と同時に、それらの著作権は原告に譲渡されており、現在の著作権(複製権)者は原告である。
 なお、原告が取得した本件各CM原版の著作権は、その後、CM制作を内容とする請負契約の趣旨に基づき、複製権のみを原告が留保し、複製権を除く著作権は、広告会社、広告主へと順次移転している。」
(3) 原判決9頁25行目の「帰属」の後に「(その1)」を加える。
(4) 原判決11頁19行目から20行目にかけての「(同法29条)。」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「オ 映画の著作物の著作権の帰属(その2)について
(ア) CMコンセプトの決定やそれに付随する出演タレントの選択は、広告映像制作の重要な要素であり、「全体的形成に創作的に寄与した」(著作権法16条本文)といえるためには、少なくともこの過程に参加していなければならない。
 この過程に参加しておらず、その後のコンセプトの具体的な映像化の部分にしか参加していない者は、本件各CM原版の著作者とはいえない。原告は、本件ケーズCM原版についてはAが、本件ブルボンCM原版についてはB及びCが、それぞれ著作者であると主張するが、AやB、Cは、Dが決定したコンセプトに沿って、撮影を行ったにすぎず、「全体的形成」に対する寄与があったとはいえない。
(イ) 広告映像は著作権法2条3項で定める映画の著作物であるから、著作権法上の映画の著作物に関する全ての規定の適用を受ける。広告映像につき、映画の著作物の著作権者を定める同法16条本文の適用があるとしながら、その著作権の帰属を定める同法29条1項は適用されないという運用はあり得ない。
 原告は、同法29条1項の立法趣旨を3点挙げ、それらが広告映像には妥当しないため、広告映像にはこの規定の適用はないと主張する。しかし、劇場用映画の製作費は個別の作品ごとに異なること、広告映像の製作費は広告主が負担していることなどの実態に照らすならば、広告映像には同法29条1項の適用がないとする原告の主張は、失当である。
(ウ) A、B、Cはいずれも本件各CM原版の著作者ではなく、原告とA、B、Cとの間に、著作権を譲渡する旨の合意は存在しない。仮にA、B、Cがそれぞれ著作者であるとしても、原告とA、B、Cとの間に著作権を譲渡する旨の黙示の合意があったとの主張は、根拠がない。さらに、その著作権のうち複製権のみを原告が留保し、複製権を除く著作権は広告会社、広告主に順次移転したとの原告の主張も、根拠がない。」
(5) 原判決12頁4行目の「帰属」の後に「(その1)」を加える。
(6) 原判決12頁5行目の「同じ。」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「オ 映画の著作物の著作権の帰属(その2)について
(ア) 映画の著作物においては、多数の著作者が想定し得るのであって、本件において、作品の全体的形成に創作的に寄与した著作者としては、クリエイティブ・ディレクターであるD、監督であるA、B及びC、プロデューサーである被告Y、カメラマンなどが考えられる。したがって、監督である上記3名のみが著作者であるとする原告の主張は、誤りである。
(イ) 広告映像には著作権法29条1項が適用されないという原告の主張は、以下のとおり、誤りである。
 広告映像については、従来から、広告主が自己の企業活動のために、自己の権利としてこれを利用しているという実態がある。
 広告映像においても、巨額の製作費が支払われている。広告主が製作費等を負担するのは、商品の売上げの上昇を期待するためであるが、その反面、商品の売上げの上昇がなく、巨額な製作費が回収できないリスクも負担している。
 広告映像は、創作後の複製、上映、公衆送信、展示という著作権行使が必須不可欠な著作物であり、その行使を巡る権利関係の整備は不可欠である。広告映像の著作物にも多数の著作者が存在するのであり、多数の著作者がそれぞれ著作権を有するとすると、権利の円滑な行使を妨げるおそれがあるという点では、劇場用映画と変わらない。
(ウ) 原告は、本件各CM原版の著作権は著作者から原告に譲渡され、そのうち複製権のみは原告が留保し、複製権を除く著作権は、広告会社、広告主へと順次移転したと主張する。しかし、著作権の主要な要素である複製権が譲渡されない限り、広告主は、円滑な著作権の行使をすることはできないのであるから、不合理な複製権以外の権利のみの譲渡契約をすることは、取引通念上考えられない。」
(7) 原判決13頁6行目の「侵害する。」の後に、改行して、次のとおり加える。
 「(ウ) 黙示の合意又は慣習法に基づく権利の侵害(ケーズデンキ関係、ブルボン関係)
 プリント業務は当該CMを制作した制作会社に発注するのが、CM業界の一般的な慣習である。電通では、特段の事情のない限り、プリント業務は制作会社に発注することになっており、電通と原告は、本件各CM原版の制作に関する契約においても、プリント業務は原告に発注することを黙示に合意していた。仮に、個別の合意が認められないとしても、原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在している。
 したがって、原告は、電通との間の合意又は慣習法により、電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していた。しかるに、被告アドックは、電通ないし電通の部長であるE及び被告Yと共謀して、電通からプリント業務を受注し、よって、原告の上記権利を侵害した。この行為は、共同不法行為に該当する。」
(8) 原判決13頁7行目の「(ウ)」を「(エ)」に訂正する。
(9) 原判決13頁25行目の「(ア)及び(イ)」を「(ア)ないし(ウ)」に訂正する。
(10) 原判決13頁25行目の「否認する。」の後に、改行して、次のとおり加える。
 「原告に本件各CM原版の著作権はなく、これに対する侵害行為もない。
 原告と電通は直接の請負契約関係にはないから、原告と電通との間に、本件各CM原版のプリント業務は原告が請け負うとの黙示の合意は存在しない。また、仮に、制作会社がプリント業務も行うことが業界の通例であるとしても、そのような慣習法は存在しない。したがって、原告に「本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注する権利」はなく、これに対する侵害行為もない。」
(11) 原判決16頁2行目の「同じ。」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「(イ) 黙示の合意又は慣習法による権利の侵害
 上記ア(原告の主張)(ウ)と同じ。」
(12) 原判決16頁3行目の「(イ)」を「(ウ)」に訂正する。
(13) 原判決16頁11行目の「債務不履行責任がある。」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「被告Yは、電通と原告間の黙示の合意又は慣習法により、原告に本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利があることを知りながら、電通ないし電通の部長であるE及び被告アドックと共謀して、電通から被告アドックにプリント業務を発注させ、よって、原告の上記合意又は慣習法に基づく権利を侵害した。したがって、被告Yには、不法行為責任があり、取締役の善管注意義務・忠実義務に違反した債務不履行責任がある。」
(14) 原判決16頁17行目の(ウ)を(エ)に訂正する。
(15) 原判決16頁21行目の「(ア)及び(イ)」を「(ア)ないし(ウ)」に訂正する。
(16) 原判決16頁21行目の「否認する。」の後に、改行して、次のとおり加える。
 「広告映像の完成原版は、編集スタジオが保管しており、編集スタジオと直接の取引関係があるのは制作会社のみであるため、通常、広告主は広告会社を経由して制作会社にその複製を発注しているが、契約的拘束力のある合意が存在するわけでなく、慣習法が存在するわけでもない。
 さらに、本件では、被告アドックも元請けの制作会社であるから、原告の主張によっても、被告アドックもプリント代を受領する権限があったこととなる。
 したがって、被告Yは、不法行為の共謀もしておらず、取締役の義務にも違反していない。」
(17) 原判決17頁19行目の「損害」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「(ア) 著作権侵害による損害」
(18) 原判決17頁末行の「539万5500円である。」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「(イ) 黙示の合意又は慣習法に基づく権利侵害による損害
 原告は、黙示の合意又は慣習法に基づく権利に対する共同不法行為がなければ、電通から本件ケーズCM原版のプリント業務を受注し、合計604万5500円の利益を得ることができた。同利益相当額をもって原告に生じた損害額と評価されるべきである。」
(19) 原判決18頁1行目の「損害」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「(ア) 著作権侵害による損害」
(20) 原判決18頁4行目の「300万3000円である。」の後に、改行して、以下のとおり加える。
 「(イ) 黙示の合意又は慣習法に基づく権利侵害による損害
 原告は、黙示の合意又は慣習法による権利に対する共同不法行為がなければ、電通から本件ブルボンCM原版のプリント業務を受注し、合計300万3000円の利益を得ることができた。同利益相当額をもって原告に生じた損害額と評価されるべきである。」
第3 当裁判所の判断
1 次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」のうち原判決18頁11行目ないし30頁2行目に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決25頁3行目の「本件ケーズCM原版の著作者」を「少なくとも本件ケーズCM原版の著作者の一人」に訂正する。
(2) 原判決25頁6行目の「認められないから、」を「認められず、その他原告の業務に従事する者が本件ケーズCM原版の著作者であるとも認められないから、」に訂正する。
(3) 原判決26頁3行目冒頭から5行目末尾までを、以下のとおり改める。
 「(イ) これを本件についてみるに、本件ケーズCM原版について、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるケーズデンキであると認めるのが相当である。」
(4) 原判決27頁2行目の「できない。」の後に、改行して、次のとおり加える。
 「(ウ) 原告は、広告映像については、劇場用映画とは異なり、著作権法29条1項の適用は排除されるので、本件ケーズCM原版の著作者であるAがその著作権者であり、原告はAから同CM原版の著作権の譲渡を受けたと主張する。
 しかし、原告の主張は、以下のとおり、採用の限りでない。
 著作権法29条1項は、「映画の著作物・・・の著作権は、その著作者が映画制作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」と、また、同法2条3項は、「この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」旨規定する。
 本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上(当事者間に争いはない。)、その製作目的が、商品の販売促進等であることを理由として、同CM原版について同法29条1項の適用が排除されるとする原告の主張は、その主張自体失当であり、採用の余地はない。
 のみならず、以下のとおり、本件ケーズCM原版の具体的な製作目的、製作経緯等を検討してみても、本件ケーズCM原版について、映画の著作物の著作権に関して当該映画の製作者に帰属させる旨定めた同法29条1項の規定の適用を排除すべき格別の理由はない。
 すなわち、同法29条1項は、映画の著作物に関しては、映画製作者が自己のリスクの下に多大の製作費を投資する例が多いこと、多数の著作者全てに著作権行使を認めると、映画の著作物の円滑な利用が妨げられることなどの点を考慮して、立法されたものである。
 ところで、本件ケーズCM原版についてみると、同原版は、15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること(乙2、3、12)、他方、製作者たる広告主は、原告及び被告アドックに対し、約3000万円の制作費を支払っているのみならず、別途多額の出演料等も支払っていること、同広告映像により、期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは、専ら、製作者たる広告主において負担しており、製作者たる広告主において、著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮するならば、同CM原版について同法29条1項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が、劇場用映画とは、利用期間、利用方法等が異なるとしても、そのことから、広告映像につき同法29条1項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。
 原告は、本件のような広告映像の場合、制作会社が、CM原版のプリント(複製)を受注し、その収益により制作費の不足分を補うという商習慣が確立していることから、本件ケーズCM原版に係る複製権は原告に帰属すると解すべきである旨主張する。
 しかし、制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても(甲26、28、46)、本件において、原告が、当然に、そのプリント代で制作費の填補を受ける権利を有していると認定することはできない。
 以上のとおり、本件ケーズCM原版について同法29条1項の適用が排除されることを前提として、原告が本件ケーズCM原版の著作権(複製権)を取得したとする主張は、失当である。」
(5) 原判決27頁3行目の「(ウ)」を「(エ)」に訂正する。
(6) 原判決27頁21行目の「本件ブルボンCM原版の著作者」を「少なくとも本件ブルボンCM原版の著作者の一人」に訂正する。
(7) 原判決28頁3行目冒頭から5行目末尾までを、以下のとおり改める。
 「これを本件についてみるに、本件ブルボンCM原版について、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、製作者たる広告主であるブルボンであると認めるのが相当である。」
(8) 原判決28頁15行目の「いうことはできない。」の後に、改行して、次のとおり加える。
 「また、原告は、広告映像については著作権法29条1項の適用は排除されるので、本件ブルボンCM原版の著作者であるBとCがその著作権者であり、原告はBとCから同原版の著作権の譲渡を受けたと主張する。
 しかし、前記のとおり、映画の著作物である広告映像について同法29条1項の適用が排除されるべきであるとする理由はなく、これを前提とした原告の主張は、その主張自体失当である。」
(9) 原判決28頁21行目ないし23行目を、以下のとおり改める。
 「原告は本件各CM原版の著作権を有しないから、原告が著作権を有することを前提として、被告アドックの行為が不法行為を構成するとする原告の主張は、採用の限りでない。
 また、前記のとおり、制作会社が、CM原版のプリント(複製)をする例があったとしても(甲26、28、46)、本件において、電通と原告間に、本件各CM原版のプリント業務について、原告に独占的に発注する旨の黙示の合意が成立していたと認めるに足りる証拠はない。原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在すると認めるに足りる証拠もない。したがって、原告が電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたとは認められず、その余について判断するまでもなく、これを前提とした、被告アドックの不法行為も認められない。」
(10) 原判決29頁3行目の「著作権を有しないから、」を、「著作権を有しておらず、また、電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたとも認められないから、」に訂正する。
(11) 原判決29頁12行目の「前提とする主張」の後に、「及び、原告が電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたことを前提とする主張」と加える。
2 結論
 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。よって、これと同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないので、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 小田真治
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日本ユニ著作権センター
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