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【事件名】商品パッケージのイラスト事件
【年月日】平成24年9月27日
 東京地裁 平成22年(ワ)第36664号 著作権侵害差止等請求事件(第1事件)、
 平成23年(ワ)第976号 著作権侵害差止等請求事件(第2事件)
 (口頭弁論終結日 平成24年7月31日)

判決
第1事件・第2事件原告 A
訴訟代理人弁護士 三山裕三
同 小山哲
同 田中慎一
第1事件訴訟復代理人・第2事件訴訟代理人弁護士 津島一登
同 小島萌
第1事件被告 株式会社寿屋
訴訟代理人弁護士 岡崎士朗
同 鰺坂和浩
同 尾関孝彰
補佐人弁理士 上原空也
同 永露祥生
第2事件被告 日本紙パック株式会社
訴訟代理人弁護士 山田敏夫
同 馬場和佳
同 山木裕介


主文
1 第1事件被告は、別紙目録(1)の6記載のイラストを使用した商品包装を譲渡してはならない。
2 第1事件被告は、前項のイラストを使用した商品包装を廃棄せよ。
3 第1事件被告は、第1事件・第2事件原告に対し、89万9000円及びこれに対する平成22年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし、第4項の金員の限度で第2事件被告と連帯して)を支払え。
4 第2事件被告は、第1事件・第2事件原告に対し、第1事件被告と連帯して5万円及びこれに対する平成23年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 第1事件・第2事件原告の第1事件被告及び第2事件被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、第1事件・第2事件原告に生じた費用の14分の1と第1事件被告に生じた費用の7分の1を第1事件被告の負担とし、第1事件・第2事件原告に生じた費用の1600分の1と第2事件被告に生じた費用の800分の1を第2事件被告の負担とし、その余は第1事件・第2事件原告の負担とする。
7 この判決の第1項ないし第4項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1) 第1事件被告は、別紙目録(1)の1−1ないし5−2及び6記載の各イラストを使用した商品包装等を製作してはならない。
(2) 第1事件被告は、前項の各イラストを使用した商品包装等を頒布し、又は頒布のために展示してはならない。
(3) 第1事件被告は、第1項の各イラストを使用した商品包装等を複製し、第1事件被告のウェブサイトにアップロードし又は同ウェブサイトから送信してはならない。
(4) 第1事件被告は、別紙目録(1)の6記載のイラストを使用した商品包装等を廃棄せよ。
(5) 第1事件被告は、第1事件・第2事件原告に対し、3000万円及びこれに対する平成22年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(1) 第2事件被告は、別紙目録(1)の1−1ないし5−2記載の各イラストを使用した商品包装等を製作してはならない。
(2) 第2事件被告は、前項の各イラストを使用した商品包装等を頒布し、又は頒布のために展示してはならない。
(3) 第2事件被告は、第1事件・第2事件原告に対し、3000万円及びこれに対する平成23年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、別紙目録(1)の1−1ないし5−2及び6記載の各イラスト(以下「被告各イラスト」と総称し、それぞれのイラストを「被告イラスト1−1」、「被告イラスト1−2」などという。)の原画(ただし、モノクロのもの)のイラストの著作者である第1事件・第2事件原告(以下「原告」という。)が、@第1事件被告(以下「被告寿屋」という。)及び第2事件被告(以下「被告紙パック」という。)が被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として被告イラスト1−1ないし5−2が付された紙製のカートン(以下「本件各カートン」と総称し、それぞれのカートンを「本件カートン1−1」、「本件カートン1−2」などという。)を共同して製造し、本件各カートンを使用した餃子・焼売の商品を共同して販売する行為は、上記原画のイラストについて原告が保有する著作権(複製権、譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害行為に当たる、A被告寿屋が自己のウェブサイト上に被告イラスト1−1の画像を掲載する行為は、上記原画のイラストについて原告が保有する著作権(公衆送信権)の侵害行為に当たる、B被告寿屋が被告イラスト6が付されたポリエチレン製の手提げ袋(以下「本件ポリ袋」という。)を製造し、顧客に手渡す行為が、上記原画のイラストについて原告が保有する著作権(複製権、譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害行為に当たるとともに、著作者の名誉又は声望を害する方法による著作物の利用行為として著作者人格権のみなし侵害行為(著作権法113条6項)に当たるなどと主張して、被告寿屋に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告各イラストを使用した商品包装等の製作、頒布等の差止め及び被告イラスト6を使用した商品包装等の廃棄を求めるとともに、著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為(本件各カートンに係る分は共同不法行為)による損害賠償請求及び不当利得返還請求の一部請求として3000万円及び遅延損害金の支払を(第1事件)、被告紙パックに対し、同条1項に基づき、被告イラスト1−1ないし5−2を使用した商品包装等の製作、頒布等の差止めを求めるとともに、著作権侵害及び著作者人格権侵害の共同不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の一部請求として3000万円及び遅延損害金の支払を(第2事件)、それぞれ求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、絵本作家であり、代表作には絵本にっぽん賞を受賞した「とべバッタ」などがある。
イ 被告寿屋は、惣菜の製造販売等を目的とする株式会社である。
ウ 被告紙パック(旧商号は「十條セントラル株式会社」である。以下同じ。)は、紙製容器、その他包装用品の製造、印刷加工及び売買等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の著作物
 原告は、昭和52年ころ、株式会社電通(以下「電通」という。)の担当者から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され、墨一色で描いた5枚のイラスト(以下「本件各イラスト」という。)を制作し、それらの原画(以下「本件原画」という。)を電通に引き渡した(原告本人)。
 本件各イラストは、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、原告を著作者とする著作物である。
(3) 被告各イラスト
ア(ア) 被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1は、被告紙パックが、被告寿屋の依頼を受けて、本件原画を基に、別紙目録(1)に示すように、着色をし、「手づくりの味」、「餃子」、「焼売」等の文字を新たに配置するなどして制作したものであり、本件各イラストの複製物である。
(イ) 原告は、昭和52年ころ、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾した(原告本人)。
イ 被告イラスト1−2、2−2、4−2及び5−2は、被告紙パックが、被告寿屋の依頼を受けて、被告イラスト1−1、2−1、4−1及び5−1からそれぞれ「A1」のサインの表示を削除して制作したものであり、本件各イラストの複製物である。
ウ 被告イラスト6は、被告寿屋の依頼を受けた袋業者が、別紙目録(1)に示すように、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1に表示された図柄を組み合わせるなどして制作したものであり、本件各イラストの複製物である。
(4) 被告らの行為
ア(ア) 被告寿屋は、昭和52年ころ、被告紙パックに対し、被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1が付された紙製の各カートン(本件カートン1−1、2−1、3、4−1及び5−1)を発注し、これに基づいて被告紙パックが製作して納品した上記各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始した(丙7、16ないし19、弁論の全趣旨)。
 被告寿屋は、被告紙パックに依頼をして、平成22年4月ころ本件カートン5−1を本件カートン5−2に、同年6月ころ本件カートン2−1を本件カートン2−2に、同年7月ころ本件カートン1−1を本件カートン1−2に、同年10月ころ本件カートン4−1を本件カートン4−2にそれぞれ切り替え、以後は、上記切替え後の各カートン(いずれも「A1」のサインの表示を削除したもの)を餃子・焼売の商品の箱として使用するようになった(丙3ないし6、弁論の全趣旨)。
(イ) 被告寿屋は、平成23年3月末ころ、餃子・焼売の商品の箱として本件各カートンを使用することを中止し、そのころから、被告紙パックが被告寿屋の指示により制作した、被告各イラストとは異なるデザインのイラストが付された各カートンを上記商品の箱として使用するようになった(丙22ないし27、弁論の全趣旨)。
イ 被告寿屋は、平成17年7月ころから平成22年11月初めころまでの間、被告寿屋の商品を購入した顧客に対し、袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋を当該商品の包装用に配付した(甲18、弁論の全趣旨)。
ウ 被告寿屋は、平成22年2月、被告寿屋のウェブサイト(URL「http:〈以下略〉」。以下「本件ウェブサイト」という。)上に、「1977年」、「焼売・餃子のパッケージに童話作家 A氏のイラスト採用」と表示し、被告イラスト1−1の画像を掲載した(第1事件甲3)。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 被告らによる著作権及び著作者人格権の侵害
ア 複製権及び譲渡権の侵害
(ア) 被告イラスト1−1ないし5−2が、原告を著作者とする本件各イラストの著作物の複製物であることは、前記争いのない事実等のとおりである。
 被告らは、平成12年9月以降、被告イラスト1−1ないし5−2をカートンに印刷し、本件各カートンを共同して製造している。被告らのかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する複製権(著作権法21条)の侵害行為に当たる。
 被告寿屋の関与の点については、被告寿屋は、被告紙パックに対し、被告イラスト1−1ないし5−2を採用するか否かを指示する立場にあり、自社専用カートンとして本件各カートンを製造しているのであるから、規範的にみれば、被告寿屋も、複製行為の主体である。
(イ) 被告らは、平成12年9月以降、被告イラスト1−1ないし5−2を使用した本件各カートンに被告寿屋の餃子・焼売の商品を詰め、共同して被告寿屋の店舗に展示し、販売を行っている。被告らのかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する譲渡権(著作権法26条の2第1項)の侵害行為に当たる。
 被告紙パックの関与の点については、被告紙パックは、少なくとも被告寿屋が本件各カートンを使用した餃子・焼売の商品を現実に販売する行為を幇助しているものといえる。
イ 氏名表示権の侵害
 本件カートン1−2、2−2、4−2及び5ー2に、「A1」のサインの表示がないことは、前記争いのない事実等のとおりである。
 被告らは、共同して「A1」のサインの表示を削除した本件カートン1−2、2−2、4−2及び5ー2を使用し、被告寿屋の餃子・焼売の商品の販売を行っている。被告らのかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する氏名表示権(著作権法19条1項)の侵害行為に当たる。
(2) 被告寿屋による著作権及び著作者人格権の侵害
ア 公衆送信権の侵害
 被告寿屋が本件ウェブサイトにおいて被告イラスト1−1の画像を掲載したことは、前記争いのない事実等のとおりである。
 被告寿屋のかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害行為に当たる。
イ 本件ポリ袋に係る複製権及び譲渡権の侵害
 被告イラスト6が、原告を著作者とする本件各イラストの著作物の複製物であることは、前記争いのない事実等のとおりである。
 被告寿屋は、遅くとも平成15年11月から平成22年11月までの間、被告イラスト6を表示した本件ポリ袋を製造し、本件ポリ袋に被告寿屋の商品を入れて顧客に手渡し、本件ポリ袋を譲渡している。被告寿屋のかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する複製権(著作権法21条)及び譲渡権(著作権法26条の2第1項)の侵害行為に当たる。
ウ 本件ポリ袋に係る氏名表示権及び同一性保持権の侵害
(ア) 被告イラスト6を表示した本件ポリ袋には、原告の氏名の表示はない。
 被告寿屋による本件ポリ袋の製造及び譲渡は、本件各イラストについて原告が保有する氏名表示権(著作権法19条1項)の侵害行為に当たる。
(イ) 本件各イラストの原画(本件原画)は、原告の手元にないが、原告の記憶によれば、別紙目録(2)の1ないし5記載の各イラスト(以下「目録(2)の各イラスト」と総称する。)とほぼ同じ大きさで、色もほぼ同じ(黒色)である。
 被告寿屋は、本件各イラストが本来それぞれ別個独立のイラストであるにもかかわらず、本件各イラストを大幅に縮小し、色を緑色に変更した上、変更した各イラストを複数ランダムに同一平面上に並べるなどして改変し、被告イラスト6を制作している。
 被告寿屋のかかる行為は、原告の意に反して本件各イラストに改変を加えたものといえるから、本件各イラストについて原告が保有する同一性保持権(著作権法20条1項)の侵害行為に当たる。
エ 著作者人格権のみなし侵害
 被告寿屋は、本件各イラストを前記ウ(イ)の方法及び態様で改変し、被告イラスト6として本件ポリ袋に印刷している。
 被告寿屋のかかる行為は、以下に述べるとおり、本件各イラストの芸術的価値を著しく損ねるものであり、本件各イラストの著作者である原告の名誉又は声望を害する方法により本件各イラストを利用するものであるから、著作権法113条6項の著作者人格権のみなし侵害行為に当たる。
(ア) 被告イラスト6は、@本件各イラストを大幅に縮小した結果、太い線により、人物の表情や風貌、城の瓦や柱、動物の目等がつぶれて識別できなくなっている(別紙目録(2)の4記載のイラストに至っては、人物の顔が骸骨のようになっている。)、A線が一本の単一の線で描かれており、本件各イラストの特徴の一つである独特の筆のタッチが表現されていない、B色が緑色に変更されたことにより、見る者に安っぽい印象を与えている。
 上記のとおり、被告イラスト6は、本件各イラストを劣化させて使用するものであり、本件イラストの芸術的価値を著しく損ねている。
(イ) 被告イラスト6では、本件各イラストを同一平面上に同種異種混在させ、規則正しく縦横斜めに並べているが、これは、本来それぞれ別個独立のイラストである本件各イラストを、イラスト単体ではなく模様の一部として使用するものであり、かかる全体的利用により、本件各イラストの芸術的価値を著しく損ねている。
(ウ) 被告寿屋は、本件各イラストの複製物である被告イラスト6を本件ポリ袋に表示している。本件各イラストをポリ袋という、安っぽく、およそ芸術性を感じさせることのない素材に使用することは、本件各イラストの芸術的価値を著しく損ねるものである。
(3) 差止めの必要性
ア 被告ら両名に対する差止請求について
(ア) 被告らの前記(1)の行為は、本件各イラストについて原告が保有する著作権(複製権、譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害行為に当たるから、その侵害の停止又は予防(著作権法112条1項)のため、被告らによる被告イラスト1−1ないし5−2を使用した商品包装等の製作、頒布等の差止め(第1の1(1)及び(2)、2(1)及び(2)参照)の必要がある。
(イ) この点に関し、被告らは、後記のとおり、本件各イラストが付された本件各カートンの製造及び使用を中止したので、上記差止めの必要がない旨主張する。
 しかしながら、仮に本件各カートンの製造が現在中止されているとしても、被告らは、本件各イラストの著作権が原告に帰属することや被告らの行為が著作者人格権の侵害行為に当たることを争っていること、被告らが本件各カートンを30年以上使用してきた経緯及び本件各カートンの顧客誘引力からすれば、被告らにおいては、本件各カートンを再度製造し、使用するインセンティブが高く、その可能性も否定できない。また、本件各カートンを新たなデザインのカートンに切り替えたとしても、本件各カートンの印刷データがある限り、製造を再開することは容易である。
 したがって、被告らが、将来、本件各カートンの製造及び使用を再開するおそれがあるから、被告らの上記主張は、理由がない。
イ 被告寿屋に対する差止請求について
(ア) 被告寿屋の前記(2)の行為は、本件各イラストについて原告が保有する著作権(複製権、譲渡権、公衆送信権)の侵害行為、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害行為及び著作者人格権のみなし侵害行為(著作権法113条6項)に当たるから、その侵害の停止又は予防(著作権法112条1項)のため、被告寿屋による被告イラスト6を使用した商品包装等の製作、頒布等及び被告各イラストを使用した商品包装等の公衆送信の差止め(第1の1(1)ないし(3)参照)の必要がある。
 また、本件ポリ袋は、本件各イラストについて原告が保有する著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害行為によって作成された物であるから、その侵害の停止又は予防に必要な措置(著作権法112条2項)として、本件ポリ袋の廃棄(第1の1(4)参照)の必要がある。
(イ) この点に関し、被告寿屋は、後記のとおり、平成22年2月ころ、本件ウェブサイトから被告イラスト1−1の画像を削除した旨主張する。
 しかし、仮に被告寿屋が主張するように被告イラスト1−1の画像を削除したとしても、被告寿屋は、本件各イラストの著作権が原告に帰属することを争っており、本件ウェブサイトに再度画像を掲載するおそれがあるから、被告寿屋の上記主張は、理由がない。
(4) 被告らの損害賠償義務
ア 被告らの共同不法行為責任
(ア) 前記(1)アのとおり、被告らは、平成12年9月以降、共同して、被告各イラストが付された本件各カートンを製造し、本件各カートンに被告寿屋の餃子・焼売の商品を詰め、顧客に販売したことにより、本件各イラストについて原告が保有する著作権(複製権、譲渡権)を侵害したものである。
 もっとも、原告は、昭和52年ころ、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したが(前記争いのない事実等(3)ア(イ))、この承諾は、本件各イラストについての一定期間の使用許諾にすぎず、少なくとも平成12年9月以降の使用には及ばない。
 しかるに、他人の著作物の利用者は、その利用を開始するに当たり、当該著作物の著作権を侵害することのないよう十分に調査すべき義務を負うところ、被告らは、昭和52年ころ、原告の著作物である本件各イラストの利用を開始するに際し、原告に対し、本件各イラストの利用の内容及び条件について何ら確認をしておらず、上記調査義務を尽くしていないから、被告らには、少なくとも平成12年9月以降の本件各イラストの使用について過失がある。
 そして、被告らの上記侵害行為は、民法719条の共同不法行為を構成するから、被告らは、上記侵害行為により原告が被った損害を連帯して賠償すべき責任を負う。
(イ) 前記(1)イのとおり、被告らは、共同して「A1」のサインの表示を削除した本件カートン1−2、2−2、4−2及び5ー2を使用し、被告寿屋の餃子・焼売の商品を顧客に販売したことにより、本件各イラストについて原告が保有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものであり、被告寿屋には、「A1」のサインの表示を削除したことにつき、故意があるか、少なくとも過失がある。
 この点に関し、被告寿屋は、後記のとおり、原告から依頼を受けた著作権等管理事業者である株式会社メディアリンクス・ジャパン(以下「メディアリンクス」という。)の代表者であるB(以下「B」という。)からファクシミリ(甲15、第1事件甲7)で原告の名を使用しないことの示唆を受けたこと、Bから「A1」のサインを使用しないよう指示を受けたことから、上記削除を行った旨主張するが、上記ファクシミリの記載内容は「A1」のサインの削除を求めるものでないことは明らかであり、また、Bあるいは原告が上記のような指示をした事実は存在しない。
 したがって、被告寿屋がBから上記のような指示があったものと短絡的に誤解したのであれば、被告寿屋には、過失があるというほかない。
 また、被告紙パックは、被告寿屋の指示に従い、「A1」のサインを削除しているが、その際、原告又はBに対し、削除の可否を何ら確認せず、被告寿屋に切除の理由を尋ねることすらしていないから、被告紙パックにも、過失がある。
 そして、被告らの上記侵害行為は、民法719条の共同不法行為を構成するから、被告らは、上記侵害行為により原告が被った損害を連帯して賠償すべき責任を負う。
イ 被告寿屋の不法行為責任
(ア) 前記(2)イのとおり、被告寿屋は、被告イラスト6が付された本件ポリ袋を製造し、本件ポリ袋に商品を入れて顧客に交付したことにより、本件各イラストについて原告が保有する著作権(複製権、譲渡権)を侵害したものであり、被告寿屋には、上記侵害行為につき、故意があるか、少なくとも過失がある。
 他人の著作物の利用者は、その利用を開始するに当たり、当該著作物の著作権を侵害することのないよう十分に調査すべき義務があり、具体的には、著作者に確認をとることや、著作者との契約書の内容及び条件等を確認することが必要である。
 しかるところ、被告寿屋は、本件ポリ袋に本件各イラストを使用する際に、原告に著作権等の権利関係を確認せず、契約書の存在すら確認していないから、上記調査義務を尽していない。また、本件各カートンと本件ポリ袋とでは使用する素材も態様も異なるから、本件各カートンについての本件各イラストの使用許諾は、本件ポリ袋における本件各イラストの使用に及ぶものではない。
 したがって、被告寿屋には、過失があることは明らかである。
(イ) 前記(2)ウのとおり、被告寿屋は、被告イラスト6が付された本件ポリ袋を製造し、本件ポリ袋に商品を入れて顧客に交付したことにより、本件各イラストについて原告が保有する著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したものであり、被告寿屋には、上記侵害行為につき、故意があるか、少なくとも過失がある。
 他人の著作物の利用者は、その利用を開始するに当たり、当該著作物の著作者人格権を侵害することのないよう十分に調査すべき義務がある。
 しかるところ、被告寿屋は、本件ポリ袋に本件各イラストを使用する際に、著作者である原告に何ら確認をしていないから、上記調査義務を尽していない。本件カートン1−1、2−1、3、4−1及び5−1に「A1」のサインを表示することが原告の意思であることは明らかであり、また、被告イラスト6は本件各イラストを大幅に改変したものであり、その改変が原告の意に反することは明らかである。
 したがって、被告寿屋には、過失があることは明らかである。
(ウ) 前記(2)エのとおり、被告寿屋は、原告の名誉又は声望を害する方法により本件各イラストを利用し、著作者人格権のみなし侵害行為を行ったものであり、被告寿屋には、上記みなし侵害行為につき、故意があるか、少なくとも過失がある。
 他人の著作物の利用者においては、当該著作物の画質を劣化させて使用したり、模様の一部として使用したり、又は材質の異なる包装材に使用したりする場合、著作者人格権を侵害しないよう十分に調査すべき義務がある。
 しかるところ、被告寿屋は、本件ポリ袋に本件各イラストを使用する際に、著作者である原告に何ら確認をしていないから、上記調査義務を尽していない。
 したがって、被告寿屋には、過失があることは明らかである。
(エ) 以上によれば、被告寿屋の上記侵害行為(みなし侵害行為を含む。)は、不法行為を構成するから、被告寿屋は、上記侵害行為により原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。
(5) 原告の損害額等
ア 被告らの著作権侵害による損害額等
(ア) 著作権法114条2項に基づく損害額
a 被告らによる被告寿屋の餃子・焼売の商品の1年間の総売上額は9125万円(下記計算式参照)を下ることはなく、その限界利益は総売上額の40%を下回ることはないから、被告らが上記商品の販売によって1年間に得た利益は、3650万円を下らない。
【計算式】 500箱(1日当たりの販売数量)×500円(1箱当たりの平均小売価格)×365日
b 被告らの前記aの利益(3650万円)に対する本件各イラスト(被告各イラスト)の貢献度(寄与度)は、30%を下回ることはないから、被告らが本件各イラストについての原告の著作権(複製権、譲渡権)の侵害行為により受けた1年間の利益は1095万円となる。
 そして、著作権法114条2項により、被告らが受けた上記利益の額は、原告が受けた1年間の損害額と推定される。
 そうすると、平成19年9月28日から平成22年9月27日までの3年分の原告の損害額は、3285万円となる。
(イ) 著作権法114条3項に基づく損害額(前記(ア)の予備的主張)
 原告が著名な絵本作家であること、原告独特の力強く太い筆のタッチと素朴な雰囲気は他作品によって代替するのが困難なこと、30年以上もの長きにわたって本件各イラストの複製物である被告イラスト1−1ないし5−2の使用が継続されたのは、まさに本件各イラストの顧客吸引力が高かったことによることなどを勘案すれば、被告らによる本件各イラストについての原告の著作権(複製権、譲渡権)の侵害行為により、原告が被った「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(使用料相当額)の損害額(著作権法114条3項)は、被告寿屋の餃子・焼売の商品の小売価格の10%を下回ることはない。
 そして、被告らによる上記商品の1年間の総売上額は9125万円(前記(ア)a)であるから、原告の本件各イラストの使用料相当額の損害額は、年額912万5000円となる。
 そうすると、平成19年9月28日から平成22年9月27日までの3年分の原告の損害額は、2737万5000円となる。
(ウ) 被告らの不当利得額
a 被告らは、原告が著作権を保有する本件各イラストを使用して、被告寿屋の餃子・焼売の商品を販売し、1年間に3650万円を下回ることのない利益を上げ、一方、原告は、被告らの上記販売行為により上記利益の30%に相当する年額1095万円の損失を被った。
 そして、平成12年9月28日から平成19年9月27日までの7年分の原告の損失額は、7665万円となるから、被告らは、同額の不当利得を得たものといえる。
b 仮に原告が前記aの損失を被ったことが認められないとしても、被告らは、本来であれば、原告に対して、本件各イラストの使用料として最低でも年額912万5000円を支払うべきであったのに、使用料の支払を免れ、上記使用料相当額の利益を受けた。
 そして、平成12年9月28日から平成19年9月27日までの7年分の本件各イラストの使用料相当額は、6387万5000円となるから、被告らは、同額の不当利得を得たものといえる。
イ 被告らの著作者人格権侵害による損害額(慰謝料額)
 被告らによる著作者人格権侵害(氏名表示権侵害)によって原告が被った精神的損害を慰謝するための慰謝料の額は、合計100万円(イラスト1点当たり各25万円)を下らない。
ウ 被告寿屋の著作権侵害による損害額等
(ア) 著作権法114条3項に基づく損害額
a 被告寿屋による本件各イラストについての原告の著作権(複製権、譲渡権)の侵害行為により、原告が被った使用料相当額の損害額(著作権法114条3項)は、被告寿屋の餃子・焼売の商品の小売価格の10%(イラスト1点当たり各2%)が相当である。
 そして、被告寿屋の上記商品の1箱当たりの平均小売価格は500円、平成19年9月から平成22年9月までの本件ポリ袋の納入数量は合計60万枚であるから、平成19年9月28日から平成22年9月27日までの分の原告の本件各イラストの使用料相当額の損害額は、3000万円となる。
【計算式】 60万枚×(500円×0.1)
b 仮に前記aの原告の損害額が認められないとしても、原告が被った使用料相当額の損害額(著作権法114条3項)は、本件ポリ袋の単価2.7円を下回ることはない。
 そうすると、平成19年9月28日から平成22年9月27日までの分の原告の本件イラストの使用料相当額の損害額は、162万円となる。
【計算式】 60万枚×2.7円
(イ) 被告寿屋の不当利得額
a 被告寿屋は、原告が著作権を保有する本件各イラストを本件ポリ袋に使用し、本件各イラストの使用料相当額の利益を受けた。
 そして、平成17年7月から平成19年8月までの本件ポリ袋の納入数量は合計49万8000枚であること、平成15年11月から平成17年6月までの20か月分の本件ポリ袋の納入数量は30万枚と推定されることからすると、平成15年11月から平成19年9月27日までの分の本件各イラストの使用料相当額は、前記(ア)aと同様の算定方法により、3990万円となる。
 したがって、被告寿屋は、同額の不当利得を得たものといえる。
【計算式】 (49万8000枚+30万枚)×(500円×0.1)b 仮に前記aが認められないとしても、平成15年11月から平成19年9月27日までの分の本件各イラストの使用料相当額は、前記(ア)bと同様の算定方法により、215万4600円となる。
 したがって、被告寿屋は、同額の不当利得を得たものといえる。
【計算式】 (49万8000枚+30万枚)×2.7円
エ 被告寿屋の著作者人格権侵害による損害額(慰謝料額)
 被告寿屋による著作者人格権侵害によって原告が被った精神的損害を慰謝するための慰謝料の額は、氏名表示権侵害について100万円、同一性保持権侵害について1500万円、著作者人格権のみなし侵害について200万円(合計1800万円)を下らない。
(6) まとめ
 よって、原告は、@被告寿屋に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告各イラストを使用した商品包装等の製作、頒布等の差止め及び被告イラスト6を使用した商品包装等の廃棄を求めるとともに、著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為(本件各カートンに係る分は共同不法行為)による損害賠償請求及び不当利得返還請求の一部請求(内訳は、別表参照)として3000万円及びこれに対する平成22年10月16日(第1事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、A被告紙パックに対し、著作権法112条1項に基づき、被告イラスト1−1ないし5−2を使用した商品包装等の製作、頒布等の差止めを求めるとともに、著作権侵害及び著作者人格権侵害の共同不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の一部請求(内訳は、別表参照)として3000万円及びこれに対する平成23年2月3日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(ただし、本件各カートンに係る分の損害賠償債務及び不当利得返還債務は、被告ら両名の連帯債務となる。)。
2 請求原因に対する認否
(1) 被告寿屋の認否
ア 請求原因(1)は争う。
(ア) 原告は、後記3(1)ないし(3)のとおり、本件各イラストの著作権を喪失し、あるいは永続的な使用許諾を行っているから、原告の複製権侵害及び譲渡権侵害の主張(請求原因(1)ア)は理由がない。
 また、被告寿屋は、被告紙パックから提案された本件各カートンを購入しているのみで、本件各カートンを製造しておらず、本件各イラストの複製行為を行っていないから、原告の複製権侵害の主張(請求原因(1)ア(ア))は理由がない。
(イ) 本件カートン1−2、2−2、4−2及び5ー2において、「A1」のサインの表示を削除したのは、後記3(4)のとおり、原告の指示によるものであるから、原告の氏名表示権侵害の主張(請求原因(1)イ)は理由がない。
イ 請求原因(2)は争う。
(ア) 原告は、後記3(1)ないし(3)のとおり、本件各イラストの著作権を喪失し、あるいは永続的な使用許諾を行っているから、原告の公衆送信権侵害、複製権侵害及び譲渡権侵害の主張(請求原因(2)ア及びイ)は、理由がない。
(イ) 本件ポリ袋には、原告の氏名を表示していないものの、本件各カートンに原告の著作者名(「A1」のサイン)を表示している以上、本件ポリ袋のイラストの著作者も自ずと明らかであるから、被告寿屋には、本件ポリ袋にも著作者名を表示する義務はないし、そもそも、一般に包装紙などには、著作者の氏名の表示がなく(乙10、11、丙14、15)、包装紙などに氏名を表示すると、かえって商標と混同を生ずるおそれもあり、氏名を表示しないことは、少なくとも包装紙などについては慣行となっているから、原告の氏名表示権侵害の主張(請求原因(2)ウ(ア))は理由がない。
(ウ) 原告の著作物である本件各イラストは、墨一色であることからすると、本件ポリ袋の一色の暗い色の絵は、本件各カートンのデザインよりも、むしろ本件各イラストを忠実に再現したものであり、また、本件原画は、一枚の紙にランダムに数種の絵が描かれたものであるから、本件ポリ袋に本件各イラストの図柄をランダムに表示したことも、むしろ本件各イラストに忠実な表現といえる。さらには、本件各イラストは、商業デザインであるところ、包装の種類によっては、その絵の大きさ等に変更があるのは当然であるから、本件ポリ袋における程度の変更は、原告の意に反するとまではいえない。
 したがって、被告イラスト6は、本件各イラストのデザインの同一性の範囲を逸脱するものではなく、原告の同一性保持権侵害の主張(請求原因(2)ウ(イ))は理由がない。
ウ 請求原因(3)は争う。
 被告寿屋は、平成22年2月ころ、本件ウェブサイトから、被告イラスト1−1の画像を削除し、以後、本件ウェブサイト上に同画像の掲載を行っていない。
 また、被告寿屋は、同年11月初めに、本件ポリ袋の使用を中止している。
 さらに、被告寿屋は、平成23年3月ころ、新たなパッケージデザインを採用し、本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージにすることを中止した。被告紙パックは、本件各カートンの製造販売を中止しており、残存していた本件各カートンを廃棄している。
 したがって、原告主張の差止請求の必要性はない。
エ 請求原因(4)は争う。
オ 請求原因(5)は争う。
 本件ポリ袋は無償で顧客に配るものだから、本件ポリ袋の配付によって、被告寿屋は利益を受けておらず、原告に損害は発生していない。
 また、仮に原告に損害が発生したとしても、本件各イラストは、商業デザインであり、しかも、本件ポリ袋は本件各カートンと同様に一回の使用によって廃棄されるもので、永続性のあるものではないから、その損害額の算定の基礎とすべき使用料相当額は、本件ポリ袋の購入総額の3%にも満たないというべきである。そして、被告寿屋が袋業者から納入を受けた本件ポリ袋の数量は合計109万8000枚、ポリ袋1枚当たりの単価は2.7円であるから、原告の損害額は8万8938円を上回ることはない。
 さらに、原告には、本件各イラストの著作権の使用許諾をする際に、使用対象の範囲を明確にしなかった過失があるから、本件ポリ袋の著作権侵害に係る原告の損害額の算定に当たっては、これを斟酌して過失相殺すべきである。
(2) 被告紙パックの認否
ア 請求原因(1)は争う。
(ア) 原告は、後記3(1)及び(3)のとおり、本件各イラストの著作権を喪失し、あるいは永続的な使用許諾を行っているから、原告の複製権侵害及び譲渡権侵害の主張(請求原因(1)ア)は理由がない。
 また、被告紙パックは、被告寿屋に対し、被告イラスト1−1ないし5−2が印刷された本件各カートンを販売しているだけであり、被告寿屋が本件各カートンに餃子・焼売の商品を詰めて販売している行為は、あくまで被告寿屋の事業であって、被告紙パックが共同して上記商品の販売を行っているわけではないから、原告の譲渡権侵害の主張(請求原因(1)ア(イ))は理由がない。
(イ) 本件カートン1−2、2−2、4−2及び5ー2において、「A1」のサインの表示を削除したのは、後記3(4)のとおり、原告の指示によるものであるから、原告の氏名表示権侵害の主張(請求原因(1)イ)は理由がない。
イ 請求原因(3)ア、(4)ア、(5)ア及びイは、いずれも争う。
3 被告らの抗弁
(1) 著作権譲渡
ア 被告寿屋の主張
(ア) 原告は、昭和52年ころ、電通を介して、被告紙パックとの間で、原告が被告紙パックに対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の譲渡契約を締結した。
 この譲渡契約により、原告は、本件各イラストの著作権を喪失した。
(イ) したがって、原告の被告らによる著作権侵害の主張(請求原因(1)ア)及び被告寿屋による著作権侵害の主張(同(2)ア及びイ)は、いずれも理由がない。
イ 被告紙パックの主張
(ア) 原告は、昭和52年ころ、電通から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージ用のイラスト制作の依頼を受けて、本件各イラストを制作してその原画(本件原画)を電通に提供し、電通から報酬を受領していること、原告は、その際、被告寿屋が上記商品のパッケージに本件各イラストを印刷して販売することを承認し、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1の校正刷りを確認していることからすれば、原告と電通との間で、昭和52年ころ、原告が電通に対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の譲渡契約が成立したといういうべきである。
 この譲渡契約により、原告は、本件各イラストの著作権を喪失した。
(イ) 仮に前記(ア)が認められないとしても、本件各イラストは、被告寿屋の商品のパッケージに利用する目的であることが契約当時においても明らかであったのだから、原告と電通との間で、昭和52年ころ、原告が被告寿屋に対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の契約(第三者のためにする契約)が成立したというべきである。
 被告寿屋が商品のパッケージに本件各イラストの使用を開始したことで上記契約の受益の意思表示をし、これにより、原告は、本件各イラストの著作権を喪失した。
(ウ) したがって、原告の被告らによる著作権侵害の主張(請求原因(1))は理由がない。
(2) 複製権及び譲渡権の取得時効(被告寿屋の主張)
ア(ア) 被告寿屋は、著作権の譲渡契約を原因として、昭和52年初めころから平成22年3月ころまで本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用し続けた。
 このように被告紙パック又は被告寿屋は、自己のためにする意思をもって、平穏かつ公然に著作物である本件各イラストについて継続して複製権及び譲渡権を行使した。
(イ) 被告寿屋は、昭和52年初めに本件各イラストの使用を開始した当時、本件各イラストの複製権及び譲渡権が原告に帰属することについて善意かつ無過失であったから、上記使用開始時から10年を経過した昭和62年初めころ本件各イラストの複製権及び譲渡権の取得時効が完成した。
 また、仮に被告寿屋に過失があったとしても、上記使用開始時から20年を経過した平成9年初めころ本件各イラストの複製権及び譲渡権の取得時効が完成した。
(ウ) 被告寿屋は、本訴において、上記取得時効を援用する。
イ したがって、原告の被告らによる著作権侵害の主張(請求原因(1)ア)及び被告寿屋による著作権侵害の主張(同(2)ア及びイ)は、いずれも理由がない。
(3) 使用許諾
ア 被告寿屋の主張
(ア) 原告は、昭和52年ころ、電通を介して、被告紙パック又は被告寿屋との間で、原告が被告らに対し、使用期間を制限することなく、あるいは被告寿屋が本件各イラストの著作権を使用し続ける限り、その著作権を使用許諾する旨の使用許諾契約を締結した。
 原告は、上記使用許諾の対象を限定していないから、本件各カートンのみならず、本件ポリ袋に本件各イラストを使用することも許諾の対象に含まれる。また、仮に原告が上記使用許諾契約によって包装・包装紙に限定して著作権の使用を許諾したとしても、本件ポリ袋は、包装紙の範疇にあるから、許諾の範囲に含まれる。
(イ) したがって、原告の被告らによる著作権侵害の主張(請求原因(1)ア)及び被告寿屋による著作権侵害の主張(同(2)ア及びイ)は、いずれも理由がない。
イ 被告紙パックの主張
(ア) 前記(1)イ(ア)の事実関係によれば、原告と電通との間で、昭和52年ころ、原告が電通に対し使用期間を制限することなく本件各イラストの著作権を使用許諾する旨の使用許諾契約が成立したといういうべきである。
 その後、電通から被告寿屋に対し、本件各イラストの著作権の再使用許諾が行われ、原告は、これを承認した。
(イ) 仮に前記(ア)が認められないとしても、本件各イラストは、被告寿屋の商品のパッケージに利用する目的であることが契約当時においても明らかであったのだから、原告と電通との間で、昭和52年ころ、原告が被告寿屋に対し使用期間を制限することなく本件各イラストの著作権を使用許諾する旨の契約(第三者のためにする契約)が成立したというべきである。
 被告寿屋が商品のパッケージに本件各イラストの使用を開始したことで上記契約の受益の意思表示をした。
(ウ) したがって、原告の被告らによる著作権侵害の主張(請求原因(1)ア)は理由がない。
(4) 原告による著作者名を表示しないことの指示
ア 被告寿屋は、原告の著作権等管理事業者であるメディアリンクスの代表者であるBから平成22年2月16日付けファクシミリ(甲15、第1事件甲7)で、「焼売、餃子のパッケージに童話作家Aのイラスト使用」と堂々と自分の名前をホームページなどで長年無断で使われているのは、著作権(複製権、公衆送信権)や著作者人格権を侵害するのではないか」と原告の名を使用しないことの示唆を受け、その後、被告寿屋のC専務取締役(以下「C専務」という。)は、同年3月ころ、Bと面談をした際、Bから、原告は、「A1」のサインを使用しておらず、今はアルファベットの「A2」のサインを使用しているとの説明を受け、「A1」のサインを使用しないよう指示を受けた。
 このように原告から被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに「A1」のサインの表示をしないよう指示があったことに基づいて、被告らは、カートンに「A1」のサインの表示をしないようにしたものである。
イ したがって、原告の被告らによる著作者人格権侵害の主張(請求原因(1)イ)は理由がない。
(5) 権利の濫用(被告寿屋の主張)
 @原告が対価を受け取って本件各イラストの原画(本件原画)を被告紙パックに引き渡し、被告紙パックとの取引を開始したこと、A被告寿屋は、この取引に基づいて、本件各イラストを自由に利用し続けられると信じてその利用を開始したこと、B原告は、被告寿屋が本件各イラストが表示されたパッケージを使用しているのを知りながら、33年の長きにわたり、被告寿屋に利用権限を確認すべきことを通知しなかったこと、Cその結果、被告寿屋はパッケージの使用を継続し、一方、当時の事情を知る関係者も故人となり、証拠も散逸したことなどからすると、原告には、信義則上、早期に被告寿屋に本件各イラストの利用権限を確認するよう通知等をすべき義務があったにもかかわらず、原告は、上記通知等を行わずに、本件訴訟を提起したのであるから、原告の被告寿屋に対する本訴請求は、権利の濫用に当たり、許されない。
4 被告らの抗弁に対する原告の認否及び反論
(1) 著作権譲渡の主張(前記3(1))に対し
 被告ら主張の本件各イラストの著作権の譲渡契約の事実(前記3(1)ア及びイ)は、いずれも否認する。
 原告は、本件各イラストを制作した当時、電通から、被告寿屋が餃子のパッケージに本件各イラストを使用することについては聞いていたが、著作権の譲渡という話は一切出ていなかった。
 また、原告は、当時、被告寿屋が餃子や焼売のパッケージに本件各イラストを使用することを許諾したが、永続的な使用許諾や長期間の使用許諾をしたことはなく、原告と電通との間で使用期間に関する話は一切出なかった。原告としては、@都会の老舗の有名店が使用するのではなく、地方の無名の餃子屋が使用すること、Aライフサイクルの短い食品パッケージ、その中でも特にライフサイクルが短い惣菜のパッケージであること、B原告の絵が個性的であること等から、本件各イラストの使用は一定期間(長くて5年、通常は2、3年、短ければ1年以内)で終了すると考えていた。また、電通から契約書等の書面作成の働きかけがなかったことからすると、電通としても短期間の使用であることを認識し、了解していたというべきである。なお、本件各イラストについては、電通側から原告に対し、餃子等の商品包装紙に使用するイラストを制作して欲しい旨の依頼があったものであり、電通は、原告の代理人ではない。
 さらに、原告は、本件各イラストの原画(本件原画)の返還を受けていないが、ポスターなどの一時的な使用に止まるイラストの原画については絵本ほどこだわりがなく、返還を受けていない作品があり、原告が本件原画の返還を受けていないことは、著作権の譲渡に積極的に結びつく事実ではない。
 上記のとおり、原告は、本件各イラストを制作した当時、本件各イラストを被告寿屋の餃子のパッケージに一定期間に限り使用することを許諾していたが、著作権を譲渡する意思は一切なく、原告が、被告ら又は電通に対し、本件各イラストの著作権を譲渡した事実は存在しない。
(2) 複製権及び譲渡権の取得時効の主張(前記3(2))に対し
 複製権を時効取得する要件としての継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につき外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要する。
 この点に関し、被告寿屋は、被告紙パック又は被告寿屋が、「著作権の譲渡契約を原因として」、昭和52年初めころから、本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用し続けた旨主張するが、原告は、被告らとの間で本件各イラストの著作権の譲渡契約を締結したことはなく、被告紙パック又は被告寿屋が「著作権の譲渡契約を原因として」本件各イラストを使用し続けた事実は存在しない。
 被告寿屋が、自己のためにする意思のある権原に基づいて複製権及び譲渡権を行使していたということはできないし、また、被告寿屋は、被告紙パックに依頼して本件各カートンを製造しているだけで、本件各イラストに対する原告又は他者の利用を排除する行為をしていない。
 したがって、被告寿屋の取得時効の主張は、理由がない。
(3) 使用許諾の主張(前記3(3))に対し
ア 被告ら主張の本件各イラストの著作権の使用許諾契約の事実(前記3(3)ア及びイ)は、いずれも否認する。
 前記(1)のとおり、原告は、本件各イラストを制作した当時、被告寿屋が餃子や焼売のパッケージに本件各イラストを一定期間(長くて5年、通常は2、3年、短ければ1年以内)に限り使用することを許諾したが、永続的な使用許諾や長期間の使用許諾をしたことはない。
 原告は、一定期間経過後に、電通や被告らに対し、自ら積極的に本件イラストの使用中止や継続に関する問い合わせをしていないが、これは被告らの使用を黙認していたからではない。そもそも、権利者が利用者に期間満了時に今後の意向確認をする義務などないが、原告としては、一定期間が経過すれば当然に必ず使用されなくなると考えており、本件各イラストのことを特に気にかけていなかっただけのことである。
 もっとも、原告が、平成13年ころに被告らによる本件各イラストの継続使用を知った後、平成22年2月に、Bを通じて被告らに説明を求めるまでの間、約8年ないし9年の期間があいているが、このように期間があいた理由は、@絵本作家としての仕事が極めて忙しかったこと、A日の出町の一般廃棄物処分場に対する反対運動が忙しかったこと、B平成10年に胃ガンの治療のために胃の摘出手術を受けたが、手術後に体力が著しく衰え、平成13年ころも回復していなかったこと、C手術後の療養のために伊豆高原へ引っ越したこと等の事情から、原告が本件各イラストについて考える時間や余裕がなかったことによるものである。
 上記のとおり、原告が権利を主張するまでに期間があいたのは、著作権の永続的な使用許諾とは一切関係がない。
イ 次に、本件ポリ袋について、原告は、本件ポリ袋に本件各イラストを使用することを認めたことは一切ない。
 原告は、餃子の商品パッケージに用いるイラストとして、本件各イラストの制作依頼を受け、その後、本件各カートンの校正刷りを確認しているのであるから、原告が、本件各イラストについて本件各カートンへの使用しか認めていないことは明らかである。
 実際にも、本件ポリ袋が製造されるまでは、本件各カートン以外に本件各イラストが使用されたことはないから、本件各イラストを他の包装材に使用することが予定されていないのは明らかである。
(4) 原告による著作者名を表示しないことの指示の主張(前記3(4))に対し
 被告らが主張するBあるいは原告がカートンに「A1」のサインの表示をしないよう指示をしたとの事実は否認する。Bが送信したファクシミリの記載内容(甲15、第1事件甲7)は、そのような指示の事実の根拠となるものではない。
(5) 権利の濫用の主張(前記3(5))に対し
 被告寿屋の主張は争う。
 原告が、被告らの本件各イラストの使用開始から一定期間経過後、平成22年2月まで、本件各イラストの使用継続に関し、被告らに通知していなかったとしても、権利の濫用にはならない。
第4 当裁判所の判断
1 前提事実
 前記争いのない事実と証拠(第1事件甲1ないし7、第2事件甲1ないし8、甲10、15ないし18、乙1ないし6、8、9、12ないし14、丙1ないし11、16ないし27(枝番のあるものは枝番を含む。)、証人B、証人D、証人E、原告本人、被告寿屋代表者C)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件の経緯等として、以下の事実が認められる。
(1)ア 被告寿屋は、昭和29年12月の設立以来、名古屋市内において、餃子・焼売等の惣菜の製造販売を業として行っている。
 被告寿屋は、昭和48年当時、被告紙パックから、餃子・焼売の商品を詰めるステッチ留めの箱を購入していたが、その箱の組立ては手作業であった。
 被告寿屋は、昭和50年ころ、被告紙パックの勧めにより、製函の作業時間を短縮するために、自動で箱の組立てが可能な製函機(グロロック式製函機)を被告紙パックから購入し、その製函機に使用する専用のカートンを被告紙パックから納入を受けるようになった。
イ 被告紙パックは、昭和51年ころ、被告寿屋から、餃子・焼売の商品の販売価格の改定を機に、カートンデザインを変更したい旨の申出を受け、社内でデザインの検討を始めた。
 一方で、被告紙パックは、同年5月ころ、グロロック式製函機の競合品であるクリックロック式製函機を販売する凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」という。)が、有名画家に被告寿屋の商品のカートンデザインの制作を依頼し、そのデザインを被告寿屋に提案する旨の情報に接したことから、凸版印刷との対抗上、デザインの制作を有名画家に依頼することとした。
 被告紙パックは、同年6月ころ、画家のF(以下「F」という。)に対し、被告寿屋の餃子・焼売用のカートンデザイン3点をデザイン料60万円(丙2)で発注し、これを受けたFは、そのころ、上記カートン用のイラストを制作した。
(2)ア 原告は、昭和52年ころ、電通の担当者から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され、墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を制作し、それらの原画(本件原画)を電通に引き渡した。
 原告は、その際、電通から、少なくとも10万円を超える報酬を受け取った。
イ 被告寿屋は、昭和52年ころ、被告紙パックの担当者から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストのデザインとして、本件原画とFが制作したイラストを紹介され、本件原画を採用した。
 被告紙パックは、そのころ、本件原画を基に、着色をし、「手づくりの味」、「餃子」、「焼売」等の文字を新たに配置するなどして、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1(別紙目録(1)参照)を制作した。
ウ 原告は、昭和52年ころ、電通の担当者から、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1の校正刷りを示され、色等の仕上がりを確認し、これらのイラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾した。
(3)ア 被告寿屋は、昭和52年ころ、被告紙パックに対し、被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1が付された紙製の各カートン(本件カートン1−1、2−1、3、4−1及び5−1)を発注し、これに基づいて被告紙パックが製作して納品した上記各カートン(丙7、16ないし19)に箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始した。
イ 被告寿屋と被告紙パックは、昭和52年4月25日、本件カートン1−1、2−1、4−1及び5−1に係る各意匠について、共同で意匠登録出願をする旨の覚書(乙13)を締結し、同年6月29日、意匠の創作者を「原告」、意匠に係る物品を「包装用箱」とし、上記各意匠(ただし、商品名、A1のサイン等を削除したもの)(乙12)について、共同で意匠登録出願をし、昭和54年5月31日、その意匠登録(意匠登録番号第511330号ないし第511333号)を受けた。
(4)ア 原告は、昭和55年ころ、名古屋市内の被告寿屋の店舗で、被告寿屋の餃子・焼売の商品を購入した後、知人のGに対し、上記商品の箱を示して、「ねぇ、君も食べようよ。実はこのパッケージの絵、僕が描いているんだ。」(乙5の2頁)などと述べた。
イ 原告は、平成13年ころ、名古屋市内の被告寿屋の店舗で、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1又は5−1が付されたカートンを使用した餃子・焼売の商品が販売のため展示されていることを確認したが、被告寿屋に対し、上記使用が問題であることを指摘したり、抗議等をすることはなかった。
(5)ア 被告寿屋は、平成17年7月ころから、被告寿屋の商品を購入した顧客に対し、袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋(甲18)を当該商品の包装用に配付するようになった。
 被告イラスト6は、別紙目録(1)に示すように、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1に表示された図柄を組み合わせるなどして制作されたものである。
イ 被告寿屋は、平成22年2月当時、被告寿屋の本件ウェブサイト上に、「1977年」、「焼売・餃子のパッケージに童話作家 A氏のイラスト採用」と表示(第1事件甲3)し、被告イラスト1−1の画像を掲載していた。
(6)ア 原告は、平成21年12月ころ、原告の著作権等の管理委託をしていた著作権等管理事業者であるメディアリンクスの代表者のBに対し、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに原告の著作物が未だに使用されているので、調査して欲しい旨の依頼をした。
 Bは、平成22年2月16日、被告寿屋に対し、原告の著作物の利用関係に関する問い合わせのファックス(甲15)を送信した。
 上記ファックス添付のメール文書(第1事件甲7)には、@「A先生のお話ですと、30年以上前に広告代理店の電通を通じて、包装紙のデザインとしてイラスト製作の依頼を受けたことがあり、そのとき一度だけ製作費として電通から対価が支払われているそうです。ただし、その場合も、貴社に対して作品の著作権譲渡をしたつもりは無く、その後も、貴社から著作物の利用にあたっての使用期間、対価などについても全くご連絡もないまま、貴社による宣伝の一環として「焼売、餃子のパッケージに童話作家 Aのイラスト使用」と堂々と自分の名前をホームページなどで長年無断で使われているのは、著作権(複製権、公衆送信権)や著作者人格権を侵害するのではないか、とのことでした。」、A「一般的に申しますと、著作権というのは譲渡可能ですが、その場合は(後日の行き違いを避けるため、)通常、譲渡契約を締結しますし、また、この契約は所得税、印紙税などの課税対象となっています。」、B「譲渡金額も、一回限りの使用を前提にしたデザイン料や雑誌掲載料などと違い、高額となるのが普通です。」、「また保護対象著作物の、第三者へのホームページへの無断利用は、著作権侵害に該当すると考えられます。」、C「管理事業を行う弊社といたしましては、まず事実関係を把握いたしたく、ご多用中、大変お手数をおかけいたしますが、ご回答のほど、どうぞ宜しくお願い申し上げます。」などの記載がある。
イ 被告寿屋は、平成22年2月ころ、本件ウェブサイトから、被告イラスト1−1の画像を削除した。
ウ Bは、平成22年3月5日、被告寿屋のC専務及び被告紙パックのE(以下「E」という。)と面談をした。
 Bは、その面談の際、C専務及びEに対し、@原告は、被告寿屋及び被告紙パックとこれまで一度も直接接触したことはなく、あくまで電通からの依頼でイラストを制作したにすぎないこと、A仮に原告の著作権が譲渡されたというのであれば、その証明は被告らがしなければならないこと、B現在も原告の著作物を利用しているのが事実であれば、著作権の使用契約を結ぶべきであり、その使用料の算定の基礎となる数字(当該商品の販売額、販売量等)を開示して欲しいこと、C被告寿屋の商品のカートンに表示された「A1」というサインは、原告が1980年(昭和55年)以前に使っていた漢字のサインであり、それ以降はアルファベットのサインを使っているので、上記カートンに表示されたイラストは原告の著作物であることの根拠となることなどを述べた。
エ 被告寿屋は、被告紙パックに依頼をして、平成22年4月ころ本件カートン5−1を本件カートン5−2に、同年6月ころ本件カートン2−1を本件カートン2−2に、同年7月ころ本件カートン1−1を本件カートン1−2に、同年10月ころ本件カートン4−1を本件カートン4−2にそれぞれ切り替え、以後は、上記切替え後の各カートン(いずれも「A1」のサインの表示を削除したもの)(丙3ないし6)を餃子・焼売の商品の箱として使用するようになった。
オ 原告は、平成22年9月28日、被告寿屋に対し、第1事件の訴えを提起し、平成23年1月14日、被告紙パックに対し、第2事件の訴えを提起した。
カ 被告寿屋は、平成22年11月初めころ、本件ポリ袋の使用を中止した。
 その後、被告寿屋は、平成23年3月末ころ、餃子・焼売の商品の箱として本件各カートンを使用することを中止し、そのころから、被告紙パックが被告寿屋の指示により制作した、被告各イラスト(本件各イラスト)とは異なるデザインのイラストが付された各カートン(丙22ないし26)を上記商品の箱として使用するようになった。また、被告紙パックは、同年4月27日までに、本件各カートンの在庫の破棄処分をした。
2 被告らによる著作権侵害(請求原因(1)ア)の成否について
 原告は、被告らは、平成12年9月以降、本件各イラストの複製物である被告イラスト1−1ないし5−2をカートンに印刷し、本件各カートンを共同して製造し、本件各カートンに被告寿屋の餃子・焼売の商品を詰め、共同して被告寿屋の店舗で販売を行っており、被告らのかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する複製権及び譲渡権の侵害行為に当たる旨主張する。
 これに対し被告らは、被告寿屋においては本件各イラストの複製の事実を、被告紙パックにおいては本件各カートンを使用した被告寿屋の餃子・焼売の商品の共同販売の事実を争うとともに、原告の本件各イラストの著作権の喪失及び原告による使用許諾を抗弁(前記第3の3(1)ないし(3))として主張する。
 そこで、本件の事案に鑑み、まず、被告ら主張の上記抗弁から順次判断することとする。
(1) 著作権譲渡について
ア 被告寿屋は、原告は、昭和52年ころ、電通を介して、被告紙パックとの間で、原告が被告紙パックに対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の譲渡契約を締結した旨(前記第3の3(1)ア)主張する。
 しかしながら、被告寿屋の上記譲渡契約の締結の事実をうかがわせる契約書その他の客観的な証拠は提出されていないのみならず、原告は、本人尋問において、原告が被告紙パックに対し本件各イラストの著作権を譲渡したことを明確に否定する供述をし、また、前記1認定の本件の経緯等に照らしても、上記譲渡契約の締結の事実をうかがわせる事情は認められない。
 結局、本件全証拠によっても、被告寿屋の上記譲渡契約の締結の事実を認めるに足りない。
 したがって、被告寿屋の上記主張は、理由がない。
イ 被告紙パックは、@原告は、昭和52年ころ、電通から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージ用のイラスト制作の依頼を受けて、本件各イラストを制作してその原画(本件原画)を電通に提供し、電通から報酬を受領していること、原告は、その際、被告寿屋が上記商品のパッケージに本件各イラストを印刷して販売することを承認し、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1の校正刷りを確認していることからすれば、原告と電通との間で、昭和52年ころ、原告が電通に対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の譲渡契約が成立した、A仮に@が認められないとしても、本件各イラストは、被告寿屋の商品のパッケージに利用する目的であることが契約当時においても明らかであったのだから、原告と電通との間で、昭和52年ころ、原告が被告寿屋に対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の契約(第三者のためにする契約)が成立した旨(前記第3の3(1)イ)主張する。
(ア) そこで、前記@の譲渡契約について検討するに、原告が、昭和52年ころ、電通の担当者から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され、墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を制作し、それらの原画(本件原画)を電通に引き渡し、その際、電通から、少なくとも10万円を超える報酬を受け取ったこと、原告が、同年ころ、電通の担当者から、本件原画を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1の校正刷りを示され、色等の仕上がりを確認し、これらのイラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことは、前記1(2)認定のとおりである。
 しかしながら、原告が電通に対して上記報酬の支払を受けて本件各イラストの原作品である本件原画を引き渡したことは、本件原画の所有権の譲渡の事実をうかがわせる事情には当たるものの、著作物の原作品の所有権と当該著作物の著作権とは別個の権利であり、原作品の所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないから、著作物の原作品の所有権が譲渡されたからといって直ちに著作権が譲渡されたことになるものではなく、原告が電通に対し本件各イラストの著作権を譲渡したことを直ちに裏付けることにはならない。また、原告が電通から支払を受けた具体的な報酬額は本件証拠上明らかではなく、その報酬額から本件各イラストの著作権譲渡の事実を推認することもできない。
 さらには、原告が、本件原画を基に制作された被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことは、原告が電通に対し本件各イラストの著作権を譲渡したことの根拠となるものではない。このほか、被告らが、昭和52年6月29日、本件カートン1−1、2−1、4−1及び5−1に係る各意匠について、意匠の創作者を「原告」、意匠に係る物品を「包装用箱」とする意匠登録出願を共同で行い、昭和54年5月31日にその意匠登録を受けた事実はあるが(前記1(3)イ)、原告が被告らによる上記意匠登録出願の事実を認識していたことや、上記意匠登録出願について承諾していたことについては本件証拠上不明であり、上記意匠登録出願及び意匠登録の事実は、原告が電通に対し本件各イラストの著作権を譲渡したことをうかがわせる事情となるものではない。かえって、原告は、本人尋問において、原告が被告ら又は電通に対し本件各イラストの著作権を譲渡したことを明確に否定する供述をしている。
 他に被告紙パック主張の前記@の譲渡契約が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 次に、前記Aの譲渡契約について検討するに、前記(ア)で説示したのと同様の理由により、被告紙パックが主張する諸事情は、原告と電通との間で、昭和52年ころ、原告が被告寿屋に対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の契約(第三者のためにする契約)が成立したことの根拠となるものではない。
 他に被告紙パック主張の前記Aの譲渡契約が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 以上によれば、被告紙パックの前記@及びAの主張は、いずれも理由がない。
(2) 複製権及び譲渡権の取得時効について
 被告寿屋は、被告寿屋が、著作権の譲渡契約を原因として、昭和52年初めころから平成22年3月ころまで本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用し、自己のためにする意思をもって、平穏かつ公然に著作物である本件各イラストについて継続して複製権及び譲渡権を行使したから、上記使用開始時から10年を経過した昭和62年初めころ又は20年を経過した平成9年初めころ、上記複製権及び譲渡権の取得時効が成立した旨(前記第3の3(2))主張する。
 ところで、複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2第1項)は、民法163条にいう「所有権以外の財産権」に含まれるから、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と著作物の全部又は一部につき継続して複製権又は譲渡権を行使する者は、複製権又は譲渡権を時効により取得することができるものと解されるが、時効取得の要件としての複製権又は譲渡権の継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利又は譲渡する権利を専有する状態、すなわち外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要するものというべきであり、また、民法163条にいう「自己のためにする意思」は、財産権の行使の原因たる事実によって外形的客観的に定められるものであって、準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使しているときは、その財産権の行使は「自己のためにする意思」を欠くものというべきである(複製権につき、最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。
 以上を前提に検討するに、被告寿屋は、被告紙パック又は被告寿屋が、「著作権の譲渡契約を原因として」、本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用した旨主張するが、前記(1)認定のとおり、原告が本件各イラストの著作権について譲渡契約を締結したことは認められないから、被告紙パック又は被告寿屋が、「著作権の譲渡契約を原因として」、本件各イラストの使用を開始し、これを継続したものということはできない。かえって、被告寿屋は、原告が、本件各イラストの原画(本件原画)を基に制作された被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことに基づいて、被告紙パックから納品を受けた上記各イラストが付された本件カートン1−1、2−1、3、4−1及び5−1に箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始し、これを継続したものであるから(前記1(2)ウ、(3)ア)、被告寿屋においては、その性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権(複製権又は譲渡権)を行使したものであり、「自己のためにする意思」を欠くものといえる。
 また、被告寿屋が、本件各イラストについて他者に利用許諾をして許諾料を得たり、他者による本件各イラストの利用の差止めを求めるなど、外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的、排他的に行使していたことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件各イラストの複製権及び譲渡権について取得時効が成立したとの被告寿屋の主張は、理由がない。
(3) 使用許諾について
ア 被告寿屋は、昭和52年ころ、電通を介して、被告紙パック又は被告寿屋との間で、原告が被告らに対し、使用期間を制限することなく、あるいは被告寿屋が本件各イラストの著作権を使用し続ける限り、その著作権を使用許諾する旨の使用許諾契約を締結した旨(前記第3の3(3)ア)主張する。
(ア) そこで検討するに、前記1の認定事実によれば、@原告は、昭和52年ころ、電通の担当者から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され、墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を制作し、それらの原画(本件原画)を電通に引き渡し、その際、電通から、少なくとも10万円を超える報酬を受け取ったこと、A原告は、同年ころ、電通の担当者から、本件原画を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1の校正刷りを示され、色等の仕上がりを確認し、これらのイラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したこと、B被告寿屋は、同年ころ、被告紙パックに対し、被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1が付された紙製の各カートン(本件カートン1−1、2−1、3、4−1及び5−1)を発注し、これに基づいて被告紙パックが製作して納品した上記各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始したこと、C原告は、昭和55年ころ、被告寿屋の店舗で、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1又は5−1が付されたカートンを使用した餃子・焼売の商品を購入し、さらには、平成13年ころ、被告寿屋の店舗で、上記カートンを使用した餃子・焼売の商品が販売のため展示されていることを確認したが、その後、平成22年2月16日、原告から依頼を受けたBが問い合わせのファックス(甲15)を送信するまでの間、被告寿屋に対し、被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を使用することが原告の本件各イラストの著作権及び著作者人格権侵害に当たる旨を指摘したり、抗議等をすることはなかったこと、D原告が上記Aの承諾をした後、上記Cのファックスが被告寿屋に送信されるまでの間、約33年が経過していることが認められる。
 上記@ないしDの事情に加えて、餃子・焼売などの食品のパッケージに使用される図柄等は、当該食品の販売が継続する限り使用されることやその使用が長期間に及ぶことがあることは、一般的なことであるといえること(丙13ないし15、弁論の全趣旨)、被告寿屋は、昭和29年12月の設立以来、餃子・焼売等の惣菜の製造販売を業として行っており、昭和52年当時において、餃子・焼売の商品は被告寿屋の主力商品であったこと(弁論の全趣旨)を総合考慮すると、原告は、昭和52年ころ、本件各イラストの原画(本件原画)を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することの承諾をすることにより、被告寿屋に対し、本件各イラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに使用することについて、期間の制限なく、許諾したものと認めるのが相当である。
(イ) これに対し原告は、本件各イラストを制作した当時、被告寿屋が餃子や焼売のパッケージに本件各イラストを一定期間(長くて5年、通常は2、3年、短ければ1年以内)に限り使用することを許諾したが、永続的な使用許諾や長期間の使用許諾をしたことはない旨主張する。
 この点について原告は、本人尋問において、原告は、本件各イラストに関し、電通から、被告寿屋の餃子・焼売の商品パッケージに使用するイラストの制作の依頼を受け、被告寿屋が電通を通じて原告に依頼しているものと思った、原告は、被告寿屋が餃子・焼売のパッケージに本件各イラストを印刷して餃子・焼売を販売することを承認し、本件各イラストの使用許諾をしたが、その使用許諾に関する契約書は作成しておらず、永遠にとか、長期間の使用許諾はしていない旨供述し、原告の陳述書(甲16)中にはこれと同旨の記載部分がある。一方で、原告は、本人尋問において、電通の担当者との間で使用期間に関する話をしたことは一切なく、原告の方から使用期間をおおむね5年とする旨述べたこともない、「僕の絵は個性的過ぎてかえって宣伝にならないだろうと。そういうことを言われ続けていたんで、僕の絵を使って餃子屋さんがパッケージにするということは、すごいうれしいけど、多分そんなに何十年も使われるわけではなくて、長くて二、三年、短ければ1年以内で使い終わるんではないかという印象でした。僕の絵がそういう内容であるし、食品のパッケージに向いているとは僕自身そんなに思わなかったんで、できたものはすごく楽しいものができてうれしかったんですが、長くは使われないという確信はありました。」などと供述している。これらの原告の供述を総合すると、原告が、被告寿屋が本件各イラストを使用することを許諾した際、原告の内心において、原告の絵が個性的であるため、本件各イラストが長く使われることはなく、自然に本件各イラストの使用が中止されるだろうと予想していたにすぎず、原告が使用期間を制限する旨の意思表示をしたものと認めることはできない。
 そうすると、原告の供述から、原告が被告寿屋に対し本件各イラストを一定期間(長くて5年、通常は2、3年、短ければ1年以内)に限り使用することを許諾したものと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
イ 以上によれば、原告と被告寿屋との間で、昭和52年ころ、電通を介して、原告が被告寿屋に対し、原告が保有する本件各イラストの著作権を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに使用することについて、期間の制限なく、許諾する旨の使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)が成立したものと認められる。被告寿屋の使用許諾の主張は、上記の限度において理由がある。
 また、被告紙パックは、被告寿屋の使用許諾の主張とは異なる法律構成で使用許諾の主張(前記第3の3(3)イ)をしているが、その法的効果として原告が被告寿屋に対して本件各イラストの著作権の使用許諾を行ったとする点では共通するから、被告寿屋の上記主張を黙示的に援用しているものと解される。
 そして、前記1認定の事実に照らすと、原告は、本件使用許諾契約が成立した当時、被告寿屋が自ら餃子・焼売の商品のカートンを製作するのではなく、その製作を業者に依頼して行うことを了解していたものと認められるから、本件使用許諾契約に基づいて、被告寿屋が被告紙パックに依頼して餃子・焼売の商品のカートンを製作することについても許諾したものと認められる。
(4) まとめ
 以上によれば、被告らが、平成12年9月以降において、本件各イラストの複製物である被告イラスト1−1ないし5−2をカートンに印刷し、本件各カートンを共同して製造し、被告寿屋が本件各カートンを使用した餃子・焼売の商品を販売することによって本件各カートンの譲渡を行うことについて、本件使用許諾契約に基づく原告の使用許諾があったものと認められるから、被告らのかかる行為が本件各イラストについて原告が保有する複製権及び譲渡権の侵害行為に当たる旨の原告の主張(請求原因(1)ア)は理由がない。
3 被告らによる著作者人格権侵害(請求原因(1)イ)の成否について
(1)ア 原告は、被告らは、共同して「A1」のサインの表示を削除した本件カートン1−2、2−2、4−2及び5ー2を使用し、被告寿屋の餃子・焼売の商品の販売を行っており、被告らのかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する氏名表示権の侵害行為に当たる旨主張する。
 前記1の認定事実によれば、被告寿屋は、平成22年4月ころから同年10月ころまでの間に、被告紙パックに対し、被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として、本件各イラストの複製物である被告イラスト1−2、2−2、4−2及び5−2が付されたカートン(本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2)を発注し、これに基づいて被告紙パックが製作して納品した各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始したことが認められるところ、原告が被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに使用することを承諾した被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1には「A1」のサインの表示があるのに対し、被告イラスト1−2、2−2、4−2及び5−2には「A1」のサインの表示がないことは争いがない。
 被告らの上記行為は、原告の著作者名を表示することなく、原告の著作物である本件各イラストについて公衆への提供又は提示を行ったものとして、原告の氏名表示権侵害行為に当たるものと認められる。
イ これに対し被告らは、@被告寿屋は、原告の著作権等管理事業者であるメディアリンクスの代表者であるBから平成22年2月16日付けのファクシミリ(甲15、第1事件甲7)で原告の名を使用しないことの示唆を受け、Aその後、被告寿屋のC専務は、同年3月ころ、Bと面談をした際、Bから、「A1」の表示を使用しないよう指示を受け、このように原告から被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに「A1」のサインの表示をしないよう指示があったことに基づいて、被告寿屋が、「A1」のサインの表示のないカートンを使用するようになったものであるから、被告らの行為は原告の氏名表示権の侵害行為に当たらない旨(前記第3の3(4))主張する。
 そこで検討するに、上記@の点については、Bが平成22年2月16日に被告寿屋に送信したファクシミリ(甲15、第1事件甲7)には、「A先生のお話ですと、…貴社に対して作品の著作権譲渡をしたつもりは無く、その後も、貴社から著作物の利用にあたっての使用期間、対価などについても全くご連絡もないまま、貴社による宣伝の一環として「焼売、餃子のパッケージに童話作家Aのイラスト使用」と堂々と自分の名前をホームページなどで長年無断で使われているのは、著作権(複製権、公衆送信権)や著作者人格権を侵害するのではないか、とのことでした。」との記載があるが、上記記載は、被告寿屋が本件各イラストを焼売、餃子のパッケージに使用すること自体及び被告寿屋のホームページで焼売、餃子のパッケージに原告のイラストを使用していることを宣伝することが原告の著作権及び著作者人格権の侵害に当たる旨を指摘するものであって、焼売、餃子のパッケージから「A1」のサインの表示を削除することを示唆するものでも、「A1」のサインの表示を削除すれば、本件各イラストの使用を認めることを示唆するものでもない。また、上記ファクシミリの記載内容を全体としてみても、Bが、被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに「A1」の表示を使用しないよう示唆をしたものと認めることはできない。
 次に、上記Aの点については、前記1(6)ウ認定のとおり、Bは、平成22年3月5日、被告寿屋のC専務及び被告紙パックのEと面談をした際、被告寿屋の商品のカートンに表示された「A1」というサインは、原告が1980年(昭和55年)以前に使っていた漢字のサインであり、それ以降はアルファベットのサインを使っているので、上記カートンに表示されたイラストは原告の著作物であることの根拠となることなどを述べたことは認められるものの、その面談の際、BがC専務に対し被告寿屋の商品のカートンに「A1」の表示を使用しないよう指示をしたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証人Bの供述中に、Bが上記のような指示をしたことを明確に否定する供述があるのみならず、上記面談に同席した証人Eの供述中にも、上記面談の際、Bが被告寿屋の商品のパッケージから「A1」のサインを削除してもらいたいと述べたことはなかった旨供述している。
 したがって、被告らの上記主張は、理由がない。
(2) 以上によれば、原告の被告らによる著作者人格権侵害(氏名表示権侵害)の主張(請求原因(1)イ)は、理由がある。
4 被告寿屋による著作権及び著作者人格権の侵害(請求原因(2))の成否について
(1) 公衆送信権侵害について
ア 被告寿屋が、平成22年2月当時、被告寿屋の本件ウェブサイト上に、「1977年」、「焼売・餃子のパッケージに童話作家 A氏のイラスト採用」と表示し、被告イラスト1−1の画像を掲載していたことは、前記1(5)イ認定のとおりである。
 原告は、被告寿屋の本件ウェブサイト上における上記掲載行為が本件各イラストについて原告が保有する公衆送信権の侵害に当たる旨主張する。
 これに対し被告寿屋は、本件各イラストの著作権譲渡、複製権及び譲渡権の取得時効を抗弁として主張するが、上記抗弁がいずれも理由がないことは、前記2(1)及び(2)のとおりである。
イ 以上によれば、原告の被告寿屋による公衆送信権侵害の主張(請求原因(2)ア)は、理由がある。
(2) 本件ポリ袋に係る複製権及び譲渡権の侵害について
ア 原告は、被告寿屋は、遅くとも平成15年11月から平成22年11月までの間、被告イラスト6を表示した本件ポリ袋を製造し、本件ポリ袋に被告寿屋の商品を入れて顧客に手渡し、本件ポリ袋を譲渡しており、被告寿屋のかかる行為は、本件各イラストについて原告が保有する複製権及び譲渡権の侵害行為に当たる旨主張する。
 前記1(5)アの認定事実によれば、被告寿屋は、平成17年7月ころから、被告寿屋の商品を購入した顧客に対し、袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋(甲18)を当該商品の包装用に配付するようになったこと、被告イラスト6は、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1に表示された図柄を組み合わせるなどして制作されたものであり、本件各イラストの複製物であることが認められる。なお、被告寿屋が平成17年7月ころよりも前に被告イラスト6が付された本件ポリ袋を使用していたことを認めるに足りる証拠はない。
 被告寿屋の上記行為は、原告の著作物である本件各イラストの複製及び譲渡に当たるものと認められる。
イ(ア) これに対し被告寿屋は、本件各イラストの著作権譲渡、複製権及び譲渡権の取得時効を抗弁として主張するが、上記抗弁がいずれも理由がないことは、前記2(1)及び(2)のとおりである。
(イ) 次に、被告寿屋は、原告と被告寿屋は昭和52年ころに本件各イラストの著作権の使用許諾契約を締結し、この使用許諾契約は、使用許諾の対象を限定していないから、本件各カートンのみならず、本件ポリ袋に本件各イラストを使用することも許諾の対象に含まれる、仮に原告が上記使用許諾契約によって包装・包装紙に限定して著作権の使用を許諾したとしても、本件ポリ袋は、包装紙の範疇にあるから、上記使用許諾契約の許諾の範囲に含まれる旨主張する。
 そこで検討するに、原告と被告寿屋との間で、昭和52年ころ、原告が保有する本件各イラストの著作権について、原告が被告寿屋に対し、被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに使用することについて、期間の制限なく、許諾する旨の本件使用許諾契約が成立したことは前記2(3)ア(ア)認定のとおりである。
 しかしながら、前記1(2)のとおり、原告は、昭和52年ころ、電通の担当者から、被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され、墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を制作し、これらの原画(本件原画)を電通に引き渡した後、電通の担当者から、本件原画を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1の校正刷りを示され、色等の仕上がりを確認し、これらのイラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾しているが、一方で、原告と電通との間において、本件各イラストを被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージ以外のものに使用することや、5枚のイラストの各図柄を組み合わせて使用することが話題となったことをうかがわせる証拠はなく、原告が、上記承諾をした際に、本件各イラストを上記のような態様で使用することを許諾したことを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、原告の本件使用許諾契約に基づく本件各イラストの使用の許諾が、被告寿屋が被告イラスト6を制作することや被告イラスト6が付された本件ポリ袋の譲渡に及ぶものと認めることはできないから、被告寿屋の上記主張は、採用することができない。
ウ 以上によれば、原告の被告寿屋による本件ポリ袋に係る複製権侵害及び譲渡権侵害の主張(請求原因(2)イ)は、理由がある。
(3) 本件ポリ袋に係る氏名表示権及び同一性保持権の侵害について
ア(ア) 本件各イラストの複製物である被告イラスト6が付された本件ポリ袋(甲18)に、原告の氏名の表示がないことは、争いがない。
 被告寿屋が被告寿屋の商品を購入した顧客に対し袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋を当該商品の包装用に配付する行為(前記(2)ア)は、原告の著作者名を表示することなく、原告の著作物である本件各イラストについて公衆への提供又は提示を行ったものと認められるから、原告が主張するように、本件各イラストについて原告が保有する氏名表示権の侵害行為に当たるものと認められる。
(イ) これに対し被告寿屋は、@本件各カートンに原告の著作者名(「A1」のサイン)を表示している以上、本件ポリ袋のイラストの著作者も自ずと明らかであるから、被告寿屋には、本件ポリ袋にも著作者名を表示する義務はなく、Aそもそも、一般に包装紙などには、著作者の氏名の表示がなく(乙10、11、丙14、15)、包装紙などに氏名を表示すると、かえって商標と混同を生ずるおそれもあり、氏名を表示しないことは、少なくとも包装紙などについては慣行となっているから、本件ポリ袋に原告の氏名の表示がないことは、原告の氏名表示権侵害に当たらない旨主張する。
 しかしながら、上記@の点については、本件各カートンと本件ポリ袋は、別個独立の有体物であり、本件各カートンに原告の著作者名の表示があるからといって、本件ポリ袋に付された被告イラスト6について原告の著作者名を表示したことにはならない。
 次に、上記Aの点については、被告寿屋の主張の法的位置づけが必ずしも明確であるとはいえないが、被告寿屋が根拠として挙げる証拠から直ちに、包装紙にイラスト等の著作物が表示されている場合に、その著作者名を当該包装紙に表示しないことが慣行であることを認めることはできないし、また、本件各イラストに原告が「A1」のサインを表示していること(原告本人)からすると、原告においては、本件各イラストに著作者名を表示する意思を有していたものであり、著作者名の表示をしないことは原告の意思に反することが認められる。
 したがって、被告寿屋の上記主張は、採用することができない。
(ウ) 以上によれば、原告の被告寿屋による氏名表示権侵害の主張(請求原因(2)ウ(ア))は、理由がある。
イ(ア) 原告は、被告寿屋が、本件各イラストが本来それぞれ別個独立のイラストであるにもかかわらず、本件各イラストを大幅に縮小し、色を黒色から緑色に変更した上、変更した各イラストを複数ランダムに同一平面上に並べるなどして改変し、被告イラスト6を制作しており、被告寿屋のかかる行為は、原告の意に反して本件各イラストに改変を加えたものといえるから、本件各イラストについて原告が保有する同一性保持権の侵害行為に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、本件において、本件各イラストの原画(本件原画)は、証拠として提出されていないが、被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1(別紙目録(1)参照)が、墨一色で描かれた本件原画を基に、着色をし、「手づくりの味」、「餃子」、「焼売」等の文字を新たに配置するなどして制作されたこと(前記1(2))からすると、本件各イラストは、五つの別個独立のイラストであって、目録(2)の各イラストとほぼ同じ色で、ほぼ同じ構成・態様で描かれたものであることが推認される。
 そして、本件各イラストと被告イラスト6(別紙目録(1)の6)を対比すると、被告イラスト6は、原告が主張するように、本件各イラストの図柄を縮小し、色を黒色から緑色に変更した上、変更した複数の各イラストを同一平面上に並べるなどして改変したものであるところ、原告本人の供述によれば、本件各イラストの上記改変が原告の意に反することは明らかである。
 したがって、被告寿屋による上記改変行為は、原告が主張するように、本件各イラストについて原告が保有する同一性保持権の侵害行為に当たるものと認められる。
(イ) これに対し被告寿屋は、被告イラストにおける上記改変は、原告の意に反するとまではいえない旨主張するが、これと反対の趣旨の原告本人の供述に照らし、上記主張は、採用することができない。
(ウ) 以上によれば、原告の被告寿屋による同一性保持権侵害の主張(請求原因(2)ウ(イ))は、理由がある。
(4) 著作者人格権のみなし侵害について
ア 原告は、被告寿屋が本件各イラストの複製物である被告イラスト6を本件ポリ袋に使用する行為は、本件各イラストを劣化させた上、イラスト単体ではなく模様の一部として使用し、ポリ袋という、安っぽく、およそ芸術性を感じさせることのない素材に使用するものであって、本件各イラストの芸術的価値を著しく損ねるものであり、原告の名誉又は声望を害する方法による本件各イラストの利用に当たるといえるから、著作者人格権のみなし侵害行為(著作権法113条6項)に該当する旨主張する。
 しかしながら、前記1の認定事実によれば、本件各イラストは、原告が、被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品を詰めて包装する紙の箱のパッケージ(カートン)に使用する目的で制作した商業的デザインであって、原告は、本件各イラストの複製物である被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージ(カートン)に印刷して使用することを承諾していたものであるところ、本件ポリ袋は、被告寿屋の商品を入れる包装袋として使用されており、カートンとは包装の形態は異なるが、被告寿屋の商品を包装するという点ではカートンと共通していること、本件ポリ袋(甲18)に付された被告イラスト6の構成態様等に照らすならば、被告寿屋が本件各イラストの複製物である被告イラスト6を本件ポリ袋に使用することによって、絵本作家である原告が社会から受ける客観的な評価の低下を来たし、その社会的名誉又は声望が毀損されたものとまで認めることはできない。
 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
イ 以上によれば、原告の被告寿屋による著作者人格権のみなし侵害の主張(請求原因(2)エ)は、理由がない。
5 差止めの必要性(請求原因(3))について
(1) 前記3及び4のとおり、原告主張の被告らによる本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2に係る氏名表示権侵害の事実(請求原因(1)イ)、被告寿屋による本件ウェブサイトに被告イラスト1−1を掲載したことによる公衆送信権侵害の事実(同(2)ア)、本件ポリ袋に係る複製権侵害及び譲渡権侵害の事実(同イ)、本件ポリ袋に係る氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害の事実(同ウ)が認められる。
 以上を前提に、原告主張の差止請求の必要性について順次判断する。
ア 被告両名に対する差止請求について
 前記1の認定事実によれば、@被告寿屋は、平成22年4月ころから同年10月ころまでの間に、被告紙パックに対し、被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として、本件各イラストの複製物である被告イラスト1−2、2−2、4−2及び5−2が付されたカートン(本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2)を発注し、これに基づいて被告紙パックが製作して納品した各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始したこと、A被告寿屋は、平成23年3月末ころ、餃子・焼売の商品の箱として本件各カートンを使用することを中止し、そのころから、被告紙パックが被告寿屋の指示により制作した、被告各イラストとは異なるデザインのイラストが付された各カートン(丙22ないし26)を上記商品の箱として使用するようになったこと、B被告紙パックは、同年4月27日までに、本件各カートン(本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2を含む。)の在庫の破棄処分をしたことが認められる。
 上記認定事実によれば、被告寿屋の餃子・焼売の商品のカートンデザインは、平成23年3月末ころ、本件各イラスト(被告各イラスト)とは異なるデザインに切り替えられ、同年4月27日までに、本件各カートンの在庫が廃棄されたのであるから、被告らは、遅くとも同日以降、被告寿屋の餃子・焼売の商品のカートンとして本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2を使用していないことが認められる。
 そして、上記のとおり、被告寿屋の餃子・焼売の商品のカートンのデザインが本件各イラスト(被告各イラスト)とは異なるデザインに切り替えられていること、「A1」のサインの表示のないの本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2が使用が開始されるに至った経過(前記1(6))等に照らすならば、被告らにおいて、本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2の使用を再開するおそれがあるものと認めることはできない。これに反する原告の主張は、採用することができない。
 したがって、原告主張の氏名表示権に基づく被告らによる被告イラスト1−2、2−2、4−2及び5−2を使用した商品包装等の製作、頒布等の差止め(第1の1(1)及び(2)、2(1)及び(2)参照)の必要は認められない。
イ 被告寿屋に対する差止請求について
(ア) 公衆送信権に基づく差止めの必要性
 前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告寿屋は、平成22年2月当時、被告寿屋の本件ウェブサイト上に、「1977年」、「焼売・餃子のパッケージに童話作家 A氏のイラスト採用」と表示(第1事件甲3)し、被告イラスト1−1の画像を掲載していたが、同月16日にBから送信された原告の著作物の利用関係に関する問い合わせのファックス(甲15)において、本件ウェブサイトにおける上記表示及び掲載が原告の著作権及び著作者人格権を侵害する旨の指摘を受け、同月ころ、本件ウェブサイトから被告イラスト1−1の画像を削除し、以後、被告各イラストのいずれの画像も掲載していないことが認められる。
 上記認定事実に加えて、被告寿屋の餃子・焼売の商品のカートンデザインは、平成23年3月末ころ、本件各イラスト(被告各イラスト)とは異なるデザインに切り替えられていること(前記ア)を併せ考慮すると、被告寿屋において、本件ウェブサイトに被告各イラストの画像を掲載するおそれがあるものと認めることはできない。これに反する原告の主張は、採用することができない。
 したがって、原告主張の公衆送信権に基づく被告寿屋に対する商品包装等の公衆送信等の差止め(第1の1(3)参照)の必要は認められない。
(イ) 本件ポリ袋に係る差止めの必要性
 前記1(5)の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告寿屋は、平成17年7月ころから平成22年11月初めころまでの間、被告寿屋の商品を購入した顧客に対し、袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋を当該商品の包装用に無償で配付したこと、被告寿屋は、平成17年7月から平成22年8月までの間に、袋業者から、本件ポリ袋を合計109万8000枚の納入を受けたこと(このうち、平成22年中の納入数量は同年4月及び8月に各5万枚の合計10万枚である。)が認められる。
 上記認定事実に加えて、本件においては、被告寿屋が納入を受けた本件ポリ袋を全部使用したことや、その在庫を廃棄したことをうかがわせる証拠は提出されていないことを併せ考慮すると、被告寿屋において、本件ポリ袋を被告寿屋の商品の包装用に配付することを再開するおそれがあるものと認められる。
 したがって、原告主張の本件ポリ袋に係る差止請求については、譲渡権及び氏名表示権に基づき、被告寿屋に対し、被告イラスト6を使用した商品包装の譲渡の差止め並びに同商品包装(本件ポリ袋)の廃棄を求める限度で必要があるものと認められる。
(ウ) 被告寿屋の権利濫用の抗弁(前記第3の3(5))
 被告寿屋は、原告には、信義則上、早期に被告寿屋に本件各イラストの利用権限を確認するよう通知等をすべき義務があったにもかかわらず、原告は、上記通知等を行わずに、本件訴訟を提起したのであるから、原告の被告寿屋に対する本訴請求は、権利の濫用に当たり、許されない旨主張する。
 しかしながら、前記1認定の本件の事実経緯等の下において、原告が被告寿屋に対し被告寿屋が主張する信義則上の通知等をすべき義務なるもの負うものと解することはできないから、原告の本訴請求が権利の濫用に当たるとの被告寿屋の主張は、採用することができない。
(2) 以上によれば、原告の被告ら両名及び被告寿屋に対する差止請求は、被告寿屋に対し、譲渡権及び氏名表示権に基づき、被告イラスト6を使用した商品包装の譲渡の差止め並びに同商品包装(本件ポリ袋)の廃棄を求める限度で必要があるが、その余の請求は理由がないというべきである。
6 被告らの損害賠償義務(請求原因(4))について
(1) 被告紙パックが被告寿屋の発注に基づいて「A1」のサインの表示のない本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2を製作し、被告寿屋が上記各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品を販売した行為が、原告の著作者名を表示することなく、原告の著作物である本件各イラストについて公衆への提供又は提示を行ったものとして、被告らによる氏名表示権の侵害行為に当たることは、前記3(1)認定のとおりである。
 そして、前記3(1)の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告寿屋は、Bを介して、原告から、被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに「A1」のサインの表示をしないよう指示された事実がないのに、これがあったものと誤解し、被告紙パックに対し、上記表示のないカートンを発注し、被告紙パックが本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2を製作したことが認められる。
 しかるところ、被告寿屋においては上記のような誤解をした点で過失があり、被告紙パックにおいては原告に対し「A1」のサインの表示をしないよう指示をしたかどうかについて調査確認をしていない点で過失があるものと認められる。
 したがって、被告らによる氏名表示権の侵害行為は、原告に対する共同不法行為(民法719条1項)を構成し、被告らは、上記侵害行為により原告が被った損害を連帯して賠償すべき責任を負うというべきである。
(2) 被告寿屋が被告寿屋の商品を購入した顧客に対し袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋を当該商品の包装用に配付する行為が、本件各イラストについて原告が保有する複製権、譲渡権、氏名表示権及び同一性保持権の侵害行為に当たることは、前記4(2)及び(3)認定のとおりである。
 そして、被告寿屋においては、被告イラスト6が付された本件ポリ袋を使用する際、原告に対し、その使用の許諾の有無について調査確認をしていない点で過失があるものと認められる。
 したがって、被告寿屋による上記侵害行為は、原告に対する不法行為を構成し、被告寿屋は、上記侵害行為により原告が被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。
7 原告の損害額等(請求原因(5))について
(1) 被告らのカートンに係る著作者人格権侵害による慰謝料額
 被告紙パックが被告寿屋の発注に基づいて「A1」のサインの表示のない本件カートン1−2、2−2、4−2及び5−2を製作し、被告寿屋が上記各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売をするに至った経緯(前記1(6))、被告寿屋が上記各カートンを使用した期間が平成22年4月ころから平成23年3月末ころまでの約1年間であること(前記1(6)エ、カ)、本件審理の経過、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、被告らによる著作者人格権(氏名表示権)の侵害行為(前記3(1))により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、5万円と認めるのが相当である。
(2) 被告寿屋の本件ポリ袋に係る著作権侵害による損害額等
ア 著作権法114条3項によれば、原告は、本件各イラストの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害した被告寿屋に対し、その著作権の行使につき受けるべき使用料に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
 そこで、本件ポリ袋に係る本件各イラストの著作権の使用料相当額について検討するに、@被告寿屋は、平成17年7月ころから平成22年11月初めころまでの間、被告寿屋の商品を購入した顧客に対し、袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋を当該商品の包装用に配付しているが(前記5(1)イ(イ))、本件ポリ袋は、被告寿屋の商品の包装用のポリ袋であって、餃子・焼売の商品の包装専用のものではなく、商品の購入後の顧客に配付されたものであり、その配付は無償であること、A被告寿屋は、平成17年7月から平成22年8月までの間に、袋業者から、本件ポリ袋を合計109万8000枚の納入を受け(前記5(1)イ(イ))、その1枚当たりの単価は2.7円であること(弁論の全趣旨)、B原告は、原告が制作した本件各イラストの複製物である被告イラスト1−1、2−1、3、4−1及び5−1を被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージ(カートン)に印刷して使用することについては承諾していること(前記2(3)ア(ア))、C原告は、本人尋問において、原告が本件各イラストの制作に関する報酬額として電通から受け取った金額について、具体的な金額は覚えていないが、10万円ちょっと超える程度くらいであった旨供述していること、D本件ポリ袋の使用期間が平成17年7月ころから平成22年11月初めころまでの約5年4か月であること、E被告寿屋が配付した本件ポリ袋の具体的な配付数量の立証がないこと、その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、上記使用料相当額は、本件ポリ袋の納入数量1枚当たり0.5円と認めるの相当である。
 また、原告主張の本件各イラストの著作権侵害の不当利得に係る被告寿屋の使用料相当の利益額は、上記と同様に、本件ポリ袋の納入数量1枚当たり0.5円と認めるの相当である。
 上記認定に反する原告の主張は、採用することができない。
イ(ア) 以上によれば、本件各イラストの平成17年7月ころから平成22年11月初めころまでの間の使用料相当額ないし使用料相当の利益額は、合計54万9000円となる。
【計算式】 109万8000枚×0.5円=54万9000円
(イ) この点に関し、被告寿屋は、原告には、本件各イラストの著作権の使用許諾をする際に、使用対象の範囲を明確にしなかった過失があるから、本件ポリ袋の著作権侵害に係る原告の損害額の算定に当たっては、これを斟酌して過失相殺すべきである旨主張する。
 しかし、前記1(2)認定の事実経過に照らすと、原告は、本件各イラストを被告寿屋の餃子・焼売の商品のカートン(紙の箱)に使用することを許諾したことは明らかであって、その許諾に係る使用対象の範囲が不明確であるとはいえないから、被告寿屋の上記過失相殺の主張は、採用することができない。
(3) 被告寿屋の本件ポリ袋に係る著作者人格権侵害による慰謝料額
 被告寿屋は、被告寿屋の商品を購入した顧客に対し、原告の著作者名を表示せずに、本件各イラストを改変した被告イラスト6が付された本件ポリ袋を当該商品の包装用に配付したものであり、その配付期間は、平成17年7月ころから平成22年11月ころまでの約5年4か月であること、本件各イラストの改変の態様、本件ポリ袋の納入数量、本件審理の経過、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、被告寿屋による被告の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害行為(前記4(3))により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円と認めるのが相当である。
(4) まとめ
 以上を総合すると、原告は、@被告寿屋に対し、カートンに係る著作者人格権侵害の共同不法行為による損害賠償請求権に基づき5万円(前記(1))、本件ポリ袋に係る著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権及び不当利得返還請求権に基づき54万9000円(前記(2))、本件ポリ袋に係る著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき30万円(前記(3))の合計89万9000円及びこれに対する平成22年10月16日(第1事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、A被告紙パックに対し、カートンに係る著作者人格権侵害の共同不法行為による損害賠償請求権に基づき5万円(前記(1))及びこれに対する平成23年2月3日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めることができる。
 なお、被告らのカートンに係る共同不法行為による損害賠償債務は、民法719条1項により、被告らの連帯債務となる。
8 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告寿屋に対し、被告イラスト6を使用した商品包装の譲渡の差止め及び同商品包装(本件ポリ袋)の廃棄並びに89万9000円及びこれに対する平成22年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を、被告紙パックに対し、5万円及びこれに対する平成23年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払(ただし、被告寿屋と連帯支払)を求める限度で、それぞれ理由があるから認容することとし、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 上田真史
 裁判官 石神有吾
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