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【事件名】カード決済プログラムの著作権侵害事件(2)
【年月日】平成24年9月26日
 知財高裁 平成24年(ネ)第10039号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成22年(ワ)第30222号)
 (口頭弁論終結日 平成24年8月8日)

判決
控訴人 エス・ティ・アイ株式会社
同訴訟代理人弁護士 伊関正孝
被控訴人 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「被控訴人NTTコム」という。)
同訴訟代理人弁護士 高橋元弘
同 末吉亙
被控訴人 アイエヌエス・ソリューション株式会社(以下「被控訴人INSソリューション」という。)
同訴訟代理人弁護士 朝比奈秀一
被控訴人 株式会社ジー・ピー・ネット(以下「被控訴人GPネット」という。)
同訴訟代理人弁護士 木下博
同 木下真由美
同 佐藤正章


主文
1 控訴人の当審における追加請求をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 なお、原判決は、控訴人の訴えの交換的変更により、失効している。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨(当審における請求の交換的変更)
1 主位的請求
(1) 被控訴人NTTコムは、控訴人に対し、6億2288万円及びこれに対する平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人INSソリューション及び同GPネットは、控訴人に対し、連帯して8億7712万円及びこれに対する平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人NTTコム及び同GPネットは、別紙目録記載のサーバコンピュータ用ソフトウェアを使用してはならない。
(4) 訴訟費用は被控訴人らの負担とする。
(5) (1)ないし(3)項につき仮執行宣言
2 予備的請求
(1) 被控訴人NTTコムは、控訴人に対し、1億1840万円及びこれに対する平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人GPネットは、控訴人に対し、13億8160万円及びこれに対する平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、被控訴人NTTコム及び同GPネットの負担とする。
(4) (1)項及び(2)項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 前提となる事実(証拠を掲記したものを除き、当事者間に争いがない。)
(1) 控訴人は、平成16年5月28日に設立された、通信機器の開発、製造及び販売を主たる業務とする株式会社である(甲33、39、72)。
(2) 被控訴人NTTコムは、電気通信事業等を営む株式会社である。
 被控訴人INSソリューションは、情報処理システムのコンサルティング、システム開発、システム構築及びコンピュータセンターの保守、運用等を目的とする株式会社である(甲20)。
 被控訴人GPネットは、クレジットカード決済用端末(以下「決済端末」という。)を介して、飲食店や小売店等のクレジットカード加盟店(以下「加盟店」という。)から送られてくる信用照会データや売上げデータを、独自のネットワーク網を利用して、国内外のカード会社及び金融機関に対して中継・配信することを主たる業務とする株式会社である。ここにいう「カード会社」には、クレジットカードを発行する企業である「カード発行会社」(イシュア)及び加盟店から売上伝票を取得し、クレジットカード会員に代わって代金を支払う企業である「加盟店契約カード会社」(アクワイアラ。例えば、VISAカードであれば、三井住友カード株式会社やユーシーカード株式会社等がこれに当たる。)がある。
(3) 別紙目録記載のサーバコンピュータ用ソフトウェア(以下「本件プログラム」という。)は、韓国法人株式会社ケイディーイーコム(以下「KDE」という。現在の商号は、株式会社カラバンケイディーイー)らが開発したクレジットカード決済認証用のSSL/GWサーバ・アプリケーションソフトウェアである。
 控訴人は、平成17年8月22日及び10月25日、被控訴人NTTコムのデータセンターに設置されたターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバ用コンピュータ2台(以下「本件サーバ」という。)に、本件プログラムをインストールした(乙イ35、乙イ44の3、乙イ45)。
(4) 被控訴人NTTコムは、被控訴人GPネットに対し、平成17年11月30日付けの契約により本件サーバを譲渡し、平成18年3月1日、これを引き渡し(以下「本件譲渡」という。)、以後、上記被控訴人両名は、本件プログラムを使用していた。
2 控訴人の請求
(1) 原審における請求及び原判決の判断
ア 控訴人は、原審において、KDEから本件プログラムの著作権を譲り受けたものであると主張して、以下の請求をしたものである。
@ 被控訴人NTTコムが、平成17年11月30日、被控訴人GPネットに本件サーバを無許諾で譲渡し、被控訴人INSソリューションもこれを知りながら控訴人に告知せず、当該譲渡を幇助したことが本件プログラムに係る著作権(譲渡権)を侵害する不法行為であると主張して、被控訴人らに対し、その損害賠償として15億5720万円の一部である15億円の支払を請求した(第1次請求)。
A 被控訴人らにおいて、被控訴人らの構築するDSL回線対応クレジットカード決済システムの製品・機能評価のために一時的に本件プログラムを使用させるという目的が終了した平成20年9月4日以降も本件プログラムを継続的に使用していることが、同日以降、本件プログラムを使用してはならないとの契約上又は条理上の義務に違反する債務不履行であると主張して、被控訴人らに対し、その損害賠償として、前記@と同額の支払を請求した(第2次請求)。
B 前記Aに記載の義務があるにもかかわらず、本件プログラムが本件サーバにインストールされた状態にあることを奇貨としてその利用を継続することが、著作権法113条2項又はその類推適用により著作権侵害の不法行為に当たると主張して、被控訴人らに対し、その損害賠償として、前記@と同額の支払を請求した(第3次請求)。
C 被控訴人らが実際には本件プログラムを後記の本件協業スキームに用いる意思などなく、これとは関係なく被控訴人GPネットに本件プログラムを使用させる意思であったにもかかわらず、これを秘匿し、控訴人を欺罔して本件サーバに本件プログラムをインストールさせるなどしたことが、詐欺による不法行為に当たると主張して、被控訴人らに対し、その損害賠償として、上記@と同額の支払を請求した(第4次請求)。
D 被控訴人らが本件プログラムを正式採用しない旨の決定を行った後(平成20年9月4日以降)、被控訴人NTTコム及び同GPネットが本件プログラムを継続的に使用し、法律上の原因なく利益を得た(控訴人が損失を被った)ことが、不当利得に当たると主張して、被控訴人NTTコムに対して6億2288万円の支払を、被控訴人GPネットに対して8億7712万円(168億1575万円の一部)の支払を請求した(第5次請求)。
イ 原判決は、本件プログラムが著作物に該当するか否かを判断することなく、@第1次請求について、被控訴人NTTコムの被控訴人GPネットに対する本件サーバの譲渡が、公衆に提供する行為には該当せず、本件プログラムに係る譲渡権を侵害するものということはできない、A第2次請求、第3次請求及び第5次請求について、本件プログラムがDSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的で本件サーバにインストールされたことを認めることができないから、その前提を欠く、B第4次請求について、被控訴人GPネットが本件プログラムを独自の決済認証サービスに使用することができることは当然であり、そのことを控訴人に明示に説明したことがなかったからといって、これが控訴人に対する関係で詐欺に当たるということはできない、と判断して、控訴人の請求をいずれも棄却した。
(2) 当審における請求
 控訴人は、当審において、原審における第1次請求ないし第5次請求について、以下の不法行為に基づく損害賠償請求及び著作権に基づく差止請求並びに不当利得返還請求に、訴えを交換的に変更した。
ア 主位的請求
 控訴人は、本件プログラムについて、著作権者であったKDEから著作権及び損害賠償請求権を譲り受けたところ、@被控訴人NTTコムが、被控訴人らの構築する前記クレジットカード決済システムの製品・機能評価のための試験運用という範囲を超えて、平成17年11月30日、控訴人に無断で本件プログラムがインストールされた本件サーバを被控訴人GPネットに譲渡したことが、著作権者が他人に著作物の利用を許諾できるとする著作権法63条1項及び許諾に係る著作物を利用する権利が著作権者の承諾を得ない限り譲渡できないとする同条3項に違反する不法行為に該当すると主張して、同被控訴人に対し、同法114条2項により算出される損害賠償として合計6億2288万円の支払を求め、A被控訴人GPネットが、本件プログラムを使用する以上、これに権利制限がかかっていないかどうかを著作権者(KDE)に問い合わせて確認すべき商取引上の義務を負っていたのにこれを怠ったため、許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において著作物を利用することができるとする同法63条2項に違反する不法行為を行い、被控訴人INSソリューションが、当該譲渡に関して被控訴人GPネットに加担したことにより民法719条2項所定の共同不法行為を行ったと主張して、被控訴人GPネット及び同INSソリューションに対し、著作権法114条2項により算出される損害賠償として合計168億1575万円ないし171億2703万円の一部である8億7712万円の支払を請求するとともに、B被控訴人NTTコム及び同GPネットが本件プログラムの許諾を受けずに使用していると主張して、同被控訴人らに対し、本件プログラムに係る著作権に基づき、その使用の差止めを求める(著作権法112条1項)。
イ 予備的請求
 控訴人は、仮に、本件プログラムに係る著作権について被控訴人NTTコム及び同GPネットが利用許諾を受けているとしても、控訴人及び被控訴人NTTコムが、平成22年7月14日、被控訴人NTTコムが本件サーバを破壊して以後は本件プログラムを使用しないことを合意したのに、被控訴人NTTコム及び同GPネットが現在も本件プログラムの許諾を受けずに使用していると主張して、被控訴人NTTコム及び同GPネットが本件プログラムを使用して法律上の原因を欠く利益を得た(控訴人が当該利益に相当する額の損失を被った)と主張して、不当利得返還請求権に基づき、被控訴人NTTコムに対しては、被控訴人NTTコムが同GPネットから受領した報酬1億1840万円の支払を、被控訴人GPネットに対しては、本件プログラムを使用した利益合計31億9740万円ないし32億5660万円の一部である13億8160万円の支払を請求する。
3 争点
(1) 主位的請求について
ア 許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無(争点1)
イ 被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無(争点2)
ウ 控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備(争点3)
エ 損害額(争点4)
オ 本件プログラムの著作物性及び控訴人に対する本件プログラムに係る著作権の帰属(争点5)
カ 被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無(争点6)
(2) 予備的請求について
ア 不使用合意の有無(争点7)
イ 損失額(争点8)
第3 当事者の主張
1 控訴人の主張
(1) 争点1(許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無)について
ア クレジットカード業界においては、平成20年をめどにICカード化を行い、各加盟店の決済端末も全てICカード対応機に変更すべく加盟店向けに通知がされ始めていたことから、被控訴人NTTコム経営企画部は、決済端末の入替えに伴って、決済端末のブロードバンド化及び加盟店へのADSL回線サービスの販売を企図して、平成16年6月から、加盟店契約カード会社らとの協業スキームの検討を開始した(以下、この協業スキームを「本件協業スキーム」という。)。そして、控訴人は、本件協業スキームに関連して、平成17年5月25日、東京ソフト株式会社に対し、被控訴人NTTコムによる加盟店向けIP通信サービスの検証及び評価を目的とする試験運用のため、DSL回線対応決済端末10台を同日から3年間無償貸与する旨及びKDE製の決済端末1万台を売る契約を締結し、当該契約に基づいて、無償貸与に係る10台の決済端末を引き渡したほか、平成20年8月27日までに、当該決済端末6000台を引き渡し、その代金として合計3億7000万円の支払を受けた。
イ 被控訴人NTTコムは、本件協業スキームにKDE製の決済端末が選定されたものの、当該決済端末の試験をしてその評価をするために必要なサーバプログラムを準備することができなかったため、平成17年7月頃、控訴人に対し、協力を要請した。そこで、控訴人は、著作権者であるKDEから得た、被控訴人NTTコムが本件協業スキームのための情報端末マネジメントシステム(Information Appliance Management。以下「IAMS」という。)に対応したシステム構築までの試験運用のための利用許諾に基づき、被控訴人NTTコムに対し、その頃、被控訴人NTTコムがIAMSに対応したシステムを整えるまでの約1年間、上記試験期間に用いるサーバプログラムとして、被控訴人NTTコムに対して本件プログラムを提供する旨を返答した。ここに、控訴人と被控訴人NTTコムとの間で、本件協業スキームのためのIAMSに対応したシステム構築までの試験運用という範囲で使用する目的であるという条件を付した上で、本件プログラムの使用を許諾する旨の合意が成立した(以下「本件利用許諾」という。)。その際、ライセンス料については合意がされなかったが、それは、本件プログラムの提供が、あくまでも試験運用のための一時的な使用を目的としていたからである。
 本件利用許諾が、上記の条件付きのものであったことを基礎付ける事実は、次の(ア)ないし(オ)のとおりである。
(ア) 控訴人は、当時、本件プログラムの著作権者ではなく、本件プログラムについて無制限の利用許諾をし得る法的地位にはなかった。
(イ) 被控訴人INSソリューション、東京ソフト及び控訴人は、本件プログラムが本件協業スキームの試行に供することを目的として本件サーバに設定・構築されたものを確認する「確認書」を取り交わしている。
(ウ) 控訴人は、本件プログラムの本件サーバへのインストールに当たり、東京ソフトから「サーバソフト設定費用一式」として800万円余を受領している。しかし、東京ソフト作成の見積書には、「サーバソフト設定費用一式」としか記載されておらず、本件プログラムを制限なく使用し得ることを窺わせる記載がないばかりか、上記800万円余は、本件プログラムの利用許諾の対価の相場価格である5億円と比較しても全く合理性がない。
(エ) 本件プログラムの利用許諾に関するライセンス契約書が存在しない。
(オ) 本件利用許諾に基づく本件プログラムの本件サーバへのインストールは、無償での一時使用であることから、本件プログラムには、製品版とは異なり、平成20年7月25日をもって停止するプログラムコード(時限停止措置)が、本件プログラムの開発者及び著作権者である韓国法人イサックランドコリア株式会社(以下「ILK」という。)及びKDEにより組み込まれた(評価版)。控訴人は、平成19年10月8日、本件プログラムに関する一切の権利を取得した後に、東京ソフトを通じて被控訴人らに対して上記時限停止措置について説明したところ、被控訴人NTTコムは、控訴人に対し、当該時限停止措置を解除してもらいたい旨を要請した。しかし、本件プログラムがあくまでも評価版であったことから、控訴人は、平成20年11月30日に停止するよう期限設定を行うにとどめ、同年9月3日に本件協業スキームによるサービスの終了が合意された後の同年11月7日、被控訴人NTTコム及び同GPネットに対し、同月28日をもって上記時限停止措置を作動させる旨を通告した。しかるに、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、上記通告に抗議するなどせず、被控訴人NTTコムが検討のため1週間の時間がほしいとの文書を送付したにとどまった。
ウ 控訴人は、本件利用許諾に基づき、平成17年8月22日及び同年10月25日、被控訴人NTTコムの有する本件サーバ各1台に本件プログラムをインストールした。
 控訴人は、その際、東京ソフトから本件サーバの提供を受ける形で、本件プログラムをインストールしたが、東京ソフトは、岩通システムソリューション株式会社(以下「岩通SS」という。)から、岩通SSは、エヌ・ティ・ティ・データ・カスタマサービス株式会社(以下「NTT−DCS」という。)から、NTT−DCSは、被控訴人らから、それぞれサーバ用コンピュータの調達を依頼されていたものである。
エ 被控訴人NTTコムは、本件利用許諾に照らし、本件プログラムをその使用目的の範囲を超えて使用することは許されないことを当然認識しており、また、被控訴人GPネットに対して、本件プログラムの利用許諾がそのような条件付きのものであることを告知する義務があったにもかかわらず、控訴人に無断で、かつ、被控訴人GPネットに当該制限について告知することなく、平成17年11月30日付け契約に基づき、被控訴人GPネットに対し、本件プログラムがインストールされた本件サーバ2台を譲渡し、平成18年3月1日、これを引き渡した(本件譲渡)。
オ 被控訴人NTTコムは、本件譲渡により、著作権者が他人に著作物の利用を許諾できるとする著作権法63条1項及び許諾に係る著作物を利用する権利は著作権者の承諾を得ない限り譲渡することができないとする同条3項に違反したものであり、著作権侵害に基づく不法行為が成立する。
 仮に、原判決のように、本件プログラムについて控訴人→東京ソフト→岩通SS→被控訴人INSソリューション→NTT−DCS→被控訴人NTTコム→被控訴人GPネットと順次の利用許諾がされたとの常軌を逸した認定がされたとしても、著作権法63条1項及び3項に違反する上記不法行為は、成立する。
 さらに、被控訴人NTTコムと同GPネットとの間の本件譲渡に関する契約書には、被控訴人NTTコムが同GPネットに対して本件プログラムの著作権を売却する旨の条項(第12条)があるが、他方で、被控訴人らが作成した納入仕様書等には、本件プログラムの売買を前提としない記載がある。これは、本件では、事実上本件プログラムが盗用されたと同様の結果を招来し、控訴人の著作物が無断使用され、損害が発生することになったものといえる。
カ 被控訴人NTTコムは、平成18年7月頃、IAMSのシステム構築をすることができなかったため、控訴人に対し、本件プログラムを引き続き使用できるように要請した。そこで、控訴人は、KDEから、本件プログラムの利用許諾の期間を延長してもらい、被控訴人NTTコムに対してその旨を伝えた。
 なお、控訴人が本件プログラムに係る著作権の取得(平成19年10月8日)後も被控訴人NTTコムとの間でライセンス契約を締結しなかったのは、被控訴人NTTコムが、KDE製の決済端末の需要目標値として100万台近くを予定している旨を控訴人代表者であるAに伝えるなどして、KDE製の決済端末が「OCNクレジット加盟店パック(U)」のサービスに正式採用されれば、控訴人が負担した開発コスト(本件プログラムの取得に関わる費用やKDE製の決済端末の開発に投じた費用など)を容易に回収できることをほのめかしたため、控訴人が被控訴人NTTコムによる本件プログラムの無償利用を許諾してきたにすぎない。
(2) 争点2(被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無)について
ア 被控訴人GPネットは、自ら行うクレジットカードの決済代行サービスに本件プログラムを用いる以上、本件プログラムに何らかの権利制限がかかっていないかどうかを著作権者に問い合わせて確認すべき商取引上の義務を負っていた。ことに、被控訴人GPネットは、控訴人作成の本件プログラムの納入仕様書等に基づき、平成19年10月8日前後に、本件プログラムの著作権者がKDE又は控訴人であることを容易に認識することができた。
 しかるに、被控訴人GPネットは、漫然と本件プログラムをその使用目的の範囲を超えて使用したものであり、許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において著作物を利用することができる旨を規定する著作権法63条2項に違反したものであるから、著作権侵害に基づく不法行為が成立する。
イ 被控訴人INSソリューションは、本件プログラムを本来の使用目的を超えて利用することが許されないことを認識していたにもかかわらず、被控訴人GPネットが当該使用目的を超えて本件プログラムを使用することを容易にするという加担行為を行った。
 したがって、被控訴人INSソリューションは、被控訴人GPネットとの共同不法行為(民法719条2項)が成立する。
(3) 争点3(控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備)について 控訴人は、平成19年10月8日、KDEから、本件プログラムに関する一切の権利の譲渡を受けた。 
 したがって、控訴人は、KDEから、その時点で発生済みの本件プログラムに係る著作権侵害に基づく損害賠償請求権も含めて譲渡を受けたとみるのが当事者の意思に合致する。
(4) 争点4(損害額)について
ア 被控訴人らは、いずれも、本件プログラムに係る著作権侵害の行為により利益を受けているので、当該利益が、著作権者の損害の額と推定される(著作権法114条2項)。
 本件において、被控訴人GPネットの得た利益は、本件プログラムの使用により得た手数料収入から、被控訴人NTTコムに支払った報酬を差し引いた差額ということになる。
イ 被控訴人GPネットの平成17年12月期の売上げ17億2000万円のうち15億円は、決済認証による手数料収入であり、平成18年12月以降の売上げと平成17年12月期の売上げとの差額分は、全てDSL回線を介した決済認証サービスによる手数料収入であると推認される。
 したがって、被控訴人GPネットの決済認証サービスによる手数料収入は、以下のとおりである。
 平成17年12月期 15億0000万円
 平成18年12月期 18億6000万円
 平成19年12月期 23億4300万円
 平成20年12月期 25億9600万円
 平成21年12月期 27億0000万円
 平成22年12月期 33億7500万円
ウ 1回の決済認証で被控訴人GPネットが受け取る手数料の平均は、152円と228円の間であるから、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用回数は、前記イを当該152円及び228円で除した以下の回数となる(なお、処理件数が毎年着実に伸びていることから、平成23年12月期は、平成22年12月期を下回ることはないと推定した。以下同じ。)。
 平成17年12月期 約658万回〜約987万回
 平成18年12月期 約816万回〜約1224万回
 平成19年12月期 約1028万回〜約1541万回
 平成20年12月期 約1139万回〜約1708万回
 平成21年12月期 約1185万回〜約1777万回
 平成22年12月期 約1480万回〜約2220万回
 平成23年12月期 約1480万回〜約2220万回
エ 被控訴人GPネットが被控訴人NTTコムに支払った報酬は、決済1件当たり8円であるから、前記ウに8円を乗じた以下の額となる。
 平成17年12月期 約5264万円〜約7896万円
 平成18年12月期 約6528万円〜約9792万円
 平成19年12月期 約8240万円〜約1億2328万円
 平成20年12月期 約9112万円〜約1億3664万円
 平成21年12月期 約9480万円〜約1億4216万円
 平成22年12月期 約1億1840万円〜約1億7760万円
 平成23年12月期 約1億1840万円〜約1億7760万円
オ 被控訴人GPネットが得た利益は、各年度の前記イの手数料収入から前記エの被控訴人NTTコムに支払った報酬分を控除したものであるから、以下の額となる。
 平成17年12月期 約14億2104万円〜約14億4736万円
 平成18年12月期 約17億6208万円〜約17億9472万円
 平成19年12月期 約22億1972万円〜約22億6076万円
 平成20年12月期 約24億5936万円〜約25億0488万円
 平成21年12月期 約25億5875万円〜約26億0611万円
 平成22年12月期 約31億9740万円〜約32億5660万円
 平成23年12月期 約31億9740万円〜約32億5660万円
カ したがって、被控訴人NTTコムが得た利益は、前記エの合計である6億2288万円ないし9億3416万円(少なくとも6億2288万円)であり、被控訴人GPネットが得た利益は、前記オの合計である168億1575万円ないし171億2703万円(少なくとも168億1575万円)ということになり、これが著作権者の損失と推定される。
キ なお、この場合に損失を被るのは使用時の権利者であるから、KDEから控訴人に本件プログラムの著作権が譲渡されるまでの間の利用についてはKDEが、KDEから控訴人に本件プログラムの著作権が譲渡されて以降の使用については控訴人が、それぞれ不当利得返還請求権を取得することになるが、KDEが取得した損害賠償請求権は、前記に記載のとおり本件プログラムに関する著作権とともに控訴人に譲渡されたから、現在の権利者はいずれも控訴人ということになる。
ク よって、控訴人は、被控訴人NTTコムに対し、前記カの損害額の下限である6億2288万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め、被控訴人GPネット及び同INSソリューションに対しては、連帯して、前記カの損害額のうち8億7712万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める。
(5) 争点5(本件プログラムの著作物性及び控訴人に対する本件プログラムに係る著作権の帰属)について
ア KDE及びILKは、平成17年7月21日、KDEが同年6月23日付けで控訴人と締結したEFT−POSプロジェクトの結果物について、所有権及び産出物はKDEに帰属するものとする契約を締結した。
イ 本件プログラムは、前記契約に基づいて開発されたものであるが、VISAインターナショナルから高く評価されているILKの技術者に開発させることによってようやく完成したものであり、同種の機能を有するプログラムは、被控訴人らをもってしてもいまだに独自開発できないほど難易度の高いものである。
 よって、本件プログラムは、ソースコードを開示するまでもなく創作性があり、著作物に該当することが明らかである。
 そして、本件プログラムについての「所有権」(本件プログラムに関する著作権を中核とする知的所有権全般)及び「産出物」(本件プログラムのソースコードやドキュメント類又はこれらが記録された媒体)は、前記契約により、KDEに帰属することとなった。
ウ 控訴人は、平成19年10月8日、控訴人が保有するKDEの全株式の譲渡及び控訴人従業員のKDE役員からの退任と引換えに、KDEから、KDEとILKが締結した前記契約に係る権利一切の譲渡を受けた。
 このように、控訴人は、上記契約に基づき、KDEからILKが開発した本件プログラムに係る著作権等の譲渡を受けたものであり、本件プログラムの著作権者であることが明らかである。
(6) 争点6(被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無)について
 被控訴人NTTコム及び同GPネットは、現時点でも、本件プログラムを使用しているが、前記のとおり、当該使用について許諾を受けていない。
 よって、控訴人は、被控訴人NTTコム及び同GPネットに対し、本件プログラムに係る著作権に基づき、その使用の差止めを求める(著作権法112条1項)。
(7) 争点7(不使用合意の有無)について
 仮に、被控訴人NTTコム及び同GPネットに対して本件プログラムに係る著作権の利用許諾が適法にされていたとしても、被控訴人NTTコムは、控訴人との間で、平成22年7月14日、本件プログラムがインストールされた本件サーバ2台を破壊し、以後は本件プログラムを使用しないことについて合意した(以下「本件不使用合意」という。)。
 しかるに、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、現時点でも、本件プログラムを使用している。
 よって、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、本件プログラムについて許諾を受けずに使用しているものであって、法律上の原因を欠く利益を得ている一方、控訴人は、当該利益に相当する額の損失を被ったから、不当利得返還請求権を有する。
(8) 争点8(損失額)について
 被控訴人NTTコム及び同GPネットが平成22年7月15日以降、本件プログラムを使用していなければ、控訴人は、本件プログラムを使用することにより、被控訴人NTTコム及び同GPネットが得た利益に相当する額を得ることが可能であった。そこで、前記 と同様の算定方法により控訴人の損失を算定することになるが、便宜上、平成22年7月15日より後である平成23年12月期(平成23年1月〜12月)に被控訴人NTTコムが被控訴人GPネットから得た利益に基づいて算出すると、被控訴人NTTコムには前記 エと同様に1億1840万円ないし1億7760万円の利得が、被控訴人GPネットには前記 オと同様に31億9740万円ないし32億5660万円の利得が、それぞれあったことになる。
 よって、控訴人は、被控訴人NTTコムに対しては、上記利得額の下限である1億1840万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め、被控訴人GPネットに対しては、上記利得額のうち13億8160万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める。
2 被控訴人NTTコムの主張
(2) 争点1(許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無)について
ア 本件プログラムについては、控訴人→東京ソフト→岩通SS→被控訴人INSソリューション→NTT−DCS→被控訴人NTTコム→被控訴人GPネットと順次の利用許諾がされ、それぞれ許諾の対価が支払われたものであり、本件プログラムがインストールされた本件サーバは、少なくとも控訴人の許諾を得て、NTT−DCSから被控訴人NTTコムに、被控訴人NTTコムから被控訴人GPネットに譲渡されたものである。したがって、被控訴人GPネットは、本件プログラムを適法に使用する権限がある。
 本件プログラム又はこれをインストールした本件サーバは、「DSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的」のものではなく、本件プログラムの使用条件として、控訴人が「試行運用目的」等の条件を付したことはない。このことは、控訴人から被控訴人GPネットまで順次交付された各納入仕様書にも使用目的の記載がないことからも明らかである。
 KDE作成の「GPnet様向けGateway Server仕様説明書」には、本件プログラムの費用、設置及び仕様に関する記載があり、KDEは、平成17年10月17日、被控訴人INSソリューション、岩通SS及び控訴人とともに、本件サーバと日立製(KDE製ではない。)決済端末の接続試験に立ち会っているから、KDE及び控訴人は、被控訴人GPネットが本件プログラムを使用することについて目的や期限の制限を受けないことを認識し、無期限の利用許諾をしていたものであって、控訴人が後になってから被控訴人らに対して著作権に基づく権利行使を行うことは、禁反言の原則に反する。
イ 被控訴人INSソリューション、東京ソフト及び控訴人の間で取り交わされた「確認書」は、本件の紛争の直前(平成20年11月6日)に作成されたものであるし、他の書面により、その内容が否定されている。また、上記順次の利用許諾に基づく対価の支払に関して作成された電子メールにいう「ソフト費用一式」は、「サーバ保守費用」と別に記載されているから、保守費用ではないことが明らかである。
本件プログラムは、被控訴人NTTコムが開発・構築できなかったのではなく、単に、既に導入実績のある既存のプログラムとして導入したにすぎず、開発費を最小限に抑える目的で利用されるオープンソフトウェアで主に構成されているから、その利用の対価が300万円であることは、適正な価格である。また、その仕様説明書には、「最少の費用」で本件プログラムが導入できる旨が記載されているから、控訴人が東京ソフトから受領したとされる800万円にライセンス料が含まれていることは、明らかであり、かつ、本件プログラムの対価が5億円を超えることは、あり得ない。
 本件プログラムに時限停止措置が組み込まれていたか否かは、不明であるばかりか、本件サーバの稼働停止を通告してきた控訴人に対して強硬な姿勢を貫くことが適切ではないことは、常識的に理解できることである。むしろ、控訴人は、平成20年7月23日、本件プログラムの期限を事実上の無期限である2949年12月31日とした旨の報告書を被控訴人らに提出し、追加のライセンス料はおろか、その設定作業について対価を請求していない。このことは、本件プログラムの利用条件は、無期限であったことを示すものである。
ウ 著作権法63条は、強行規定ではなく、これと異なる合意をすることは、可能であるし、契約自由の原則から、著作権者が著作物の利用を第三者に対して許諾することは自由であるから、同条1項は、当然のことを規定しているにすぎず、著作権者から再利用許諾権付きで利用許諾を得た者が著作物の利用を更に許諾することを禁止する規定ではない。また、同条3項は、民法の債権譲渡の特例として、著作物を利用する権利という債権の譲渡について著作権者の許諾を必要としたものであって、順次の利用許諾がされた本件のような場面に適用されるものではない。しかも、控訴人は、被控訴人NTTコムから本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡を受けた被控訴人GPネットがこれを使用していることを認識・了承していたのであるから、被控訴人GPネットに対する本件プログラムの利用許諾は、再利用許諾権付きのものが順次されたものというべきである。
エ なお、被控訴人NTTコムと同GPネットとの間の本件譲渡に関する契約第12条にはただし書があり、第三者が有していた著作権は、当該契約によって譲渡されるものではないから、控訴人の主張は、前提を欠く。
(2) 争点3(控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備)について
ア 仮に、本件譲渡により被控訴人らに対する本件プログラムに係る著作権侵害に基づく損害賠償請求権が発生しているとしても、KDEから控訴人に対して当該損害賠償請求権が譲渡されたことを示す証拠はない。控訴人がKDEとの間で作成した譲渡書には、単にKDEとILKとの間の契約上の権利を控訴人に譲渡するという記載があるのみであり、この契約上の権利に著作権侵害に基づく損害賠償請求権が含まれるとはいえない。
イ また、上記損害賠償請求権の譲渡について、譲渡人であるKDEから被控訴人らに対する通知はないから、控訴人は、当該損害賠償請求権の譲受けについて、被控訴人らに対抗することができない。
(3) 争点5(本件プログラムの著作物性及び控訴人に対する本件プログラムに係る著作権の帰属)について
ア 本件プログラムは、OpenSSLというオープンソースソフトウェアによって構成されているところ、控訴人は、本件プログラムのどの部分が創作性のあるプログラムであり、ILKないしKDEの著作権が発生しているのかという点について、主張を欠いている。
イ 仮に、本件プログラムが著作物であったとしても、被控訴人NTTコムは、被控訴人GPネットに対し、遅くとも平成18年3月1日に、その複製物がインストールされた本件サーバを譲渡した(本件譲渡)。
 他方、控訴人は、平成19年10月8日にKDEから本件プログラムに係る著作権の譲渡を受けたと主張しており、本件譲渡当時、本件プログラムの著作権者ではなかったのであるから、本件譲渡について著作権に基づく権利行使をする立場にはない。なお、被控訴人NTTコムは、控訴人が本件プログラムに係る著作権を取得したとの主張を否認する。
(4) 争点6(被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無)について
ア 被控訴人NTTコムは、平成20年11月7日付けの内容証明郵便により、東京ソフトから本件サーバの稼働停止及び返却要求を受け、更に、同月28日、控訴人から本件サーバを停止させるとの通知を受けたことから、平成21年2月20日、被控訴人GPネットから新たなSSLサーバの構築を受託し、同年5月25日、これを納品し、被控訴人GPネットは、現在に至るまで当該サーバを使用しているが、当該サーバ用アプリケーションは、本件プログラムとは全く別のプログラムであって、本件サーバ及び本件プログラムは、いずれも使用されていない。控訴人が提出する本件プログラムが現在も使用されているとの証拠は、いずれも、本件サーバにおいても使用されていた証明書等により、現在被控訴人GPネットが使用しているSSLサーバに認証できるということを示しているにすぎない。
イ プログラムの著作物の使用行為は、著作物の侵害に該当しないから、著作権法112条1項に基づく差止請求は、主張自体失当であるし、同法113条2項に基づく請求であると善解しても、前記のとおり、被控訴人GPネットは、控訴人から順次の利用許諾を受けているから、やはり主張自体失当である。
(5) 争点7(不使用合意の有無)について
 被控訴人NTTコムは、被控訴人GPネットに対して新たなSSLサーバを納入後、本件サーバの廃棄に当たって、その同一性について争いが生じる可能性があったことから、本件サーバをデータセンターで保管し、被控訴人NTTコムの代理人弁護士が立会いのもとでデータセンターから持ち出して封印した籠で運搬するとともに、廃棄場で開封し、当時の控訴人代理人弁護士に本件サーバのシリアル番号を確認してもらった上で廃棄した。
 このように、被控訴人NTTコムは、控訴人に対し、単に、本件サーバを廃棄する旨を通知し、かつ、現に廃棄したにすぎず、本件不使用合意などしていないし、本件サーバ及び本件プログラムは、使用されていない。
(6) 争点4(損害額)及び8(損失額)について
 いずれも争う。
3 被控訴人GPネットの主張
(1) 争点2(被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無)について
ア 著作権法63条は、著作権侵害に基づく差止請求権及び損害賠償請求権との関係では、抗弁に関する規定であって請求原因を規定したものではないから、同条に基づく控訴人の主張は、それ自体失当である。
イ 本件プログラムについては、控訴人→東京ソフト→岩通SS→被控訴人INSソリューション→NTT−DCS→被控訴人NTTコム→被控訴人GPネットと順次の利用許諾がされ、それぞれその対価が支払われたものであり、これらの利用許諾は、被控訴人GPネットによる本件プログラムの利用についての許諾権限付きで順次にされたものというべきであるから、著作権法63条3項の「承諾」は、明示的又は黙示的に存在していたというべきである。このように、利用許諾が順次にされている以上、被控訴人GPネットが本件プログラムに何らかの権利制限がかかっていないかどうかを確認すべき義務は、問題となり得ないし、システム設計の受託者である被控訴人NTTコムは、控訴人らとの間において権利関係についての確認を十分にとっていたことは、明らかである。
 また、控訴人作成の納入仕様書には、本件プログラムの使用目的を限定する旨の記載がなく、平成19年7月25日に「OCNクレジット加盟店パック(U)」の商品化により「試験運用」期間が終了したにもかかわらず、控訴人は、本件プログラムの削除等を求めていない。さらに、被控訴人GPネットは、IP通信に対応し、かつ、SSL方式のセキュリティ機能を具備したデータ処理用サーバの構築を発注するに際し、それに関するプログラムが試行用又は有効期限付きであるといった条件が付されたものを求めるはずがなく、実際に、控訴人、被控訴人NTTコム及び同INSソリューションその他のいかなる者からも、本件プログラムが試行用であるとか、期限付きであるなどといった条件が示されたことは一切なかった。
ウ むしろ、被控訴人GPネットは、本件協業スキームとは無関係に、今後継続的に使用するものとして、IP通信対応で、かつ、多様な決済端末との接続が可能なSSLサーバの構築を被控訴人NTTコムに委託し、同委託に基づいて、被控訴人NTTコムから、本件サーバを譲り受けたのである。そして、被控訴人GPネットは、被控訴人NTTコムに対して、平成18年5月9日、本件譲渡について2187万9375円を支払っているが、この代金の中には、本件サーバにインストールされた本件プログラムの将来の利用対価も当然に含まれるものである。このように、被控訴人GPネットは、対価を支払って本件サーバ(同サーバにインストールされた本件プログラムを含む。)の譲渡を受けているのであるから、第三者から何らの制約を受けることなく、本件サーバを被控訴人GPネットの事業用途に使用することができる。
(2) 争点6(被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無)について
ア 被控訴人GPネットは、控訴人により本件サーバが停止されるというリスクに備えるべく、平成21年2月20日、被控訴NTTコムに新たなSSLサーバの構築を委託し、同年5月25日、その納品を受け、現在に至るまで当該サーバを使用しているが、当該サーバ用アプリケーションは、本件プログラムとは全く別のプログラムである。控訴人が提出する本件プログラムが現在も使用されているとの証拠は、いずれも、本件サーバにおいても使用されていた証明書等により、現在被控訴人GPネットが使用しているSSLサーバに認証できるということを示しているにすぎない。
イ 著作権には「使用権」という支分権はないから、プログラムの著作物の使用行為自体は、著作権侵害を構成せず、また、著作権法112条1項は、著作権侵害の停止又は予防のための差止請求権を認めているものであるから、同項に基づく「使用」差止請求は、主張自体失当である。
(3) 争点7(不使用合意の有無)について
 被控訴人NTTコムは、控訴人に対し、単に、本件サーバを廃棄する旨を通知し、かつ、現に廃棄したにすぎず、本件不使用合意などしていない。
(4) 争点4(損害額)及び8(損失額)について
 いずれも争う。
4 被控訴人INSソリューションの主張
(1) 争点2(被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無)について
ア 著作権法63条は、著作権侵害の根拠たり得ず、この点についての被控訴人NTTコムの主張を援用する。
イ 控訴人の主張する被控訴人INSソリューションによる「加担行為」は、その具体的内容が示されておらず、不法行為に基づく請求原因の要件事実を満たしていない。
 それを措くとしても、被控訴人INSソリューションは、NTT−DCSから受けた本件プログラムのインストール作業を岩通SSに委託しただけであり、岩通SSから更に委託を受けた東京ソフトが控訴人に対して、本件プログラムを本件サーバにインストールさせたのであるから、被控訴人NTTコムから被控訴人GPネットへの本件譲渡に、被控訴人INSソリューションは、何ら関与しておらず、「加担行為」を行っていない。また、本件プログラムについては、控訴人→東京ソフト→岩通SS→被控訴人INSソリューション→NTT−DCS→被控訴人NTTコム→被控訴人GPネットと順次の利用許諾がされ、それぞれその対価が支払われたものであるから、被控訴人GPネットは、本件プログラムを使用する正当な権利があり、これに対する「加担行為」も、あり得ない。
ウ 控訴人代表者であるAは、平成17年6月、被控訴人NTTコムのデータセンター構築に関する会議の議論の中で、本件プログラムを提供する意思があることを示した。
 その後、被控訴人NTTコムから控訴人に対し、直接、本件プログラムの仕様の確認があり、本件プログラムの購入費用及びサーバ構築費用等の見積りの依頼があったが、その際、被控訴人NTTコムの担当者からは、被控訴人GPネットの方針として、KDE製の決済端末以外の他社製の決済端末でも利用できることが前提である旨が控訴人に示され、控訴人も、これを了解して本件プログラムを提供することになった。
 この間、被控訴人NTTコム側から、本件プログラムについて、「製品評価・機能評価のために一時的に使用させてほしい」との依頼は一切なく、また、控訴人から「製品評価・機能評価のための一時的使用である」旨の条件も一切提示されなかった。
 むしろ、控訴人作成の納入仕様書には、本件プログラムの使用目的を限定する旨の記載がなく、平成19年7月25日に「OCNクレジット加盟店パック(U)」の商品化により「試験運用」期間が終了したにもかかわらず、控訴人は、本件プログラムの削除等を求めていない。
エ 控訴人と東京ソフトとの間の「カード決済端末事業基本契約書」では、「DSL回線対応決済端末を含むクレジットカード加盟店向けIP通信サービス」の検証及び評価を目的する試行運用が実施されるとしているところ(第3条)、これは、控訴人が東京ソフトに対して無償貸与するカード決済端末(SG端末)10台の試行運用(検証)に関する規定であり、SSLサーバの試行運用に関するものではない。そして、控訴人は、決済端末の試行運用に先駆けて、上記契約締結後初年度期間発注分として、東京ソフトから、決済端末1万台の注文を受け(第6条)、実際にその代金3億2550万円が「前渡し金」として、東京ソフトから控訴人に支払われている。さらに、控訴人は、東京ソフトから、次年度には追加端末1万台の発注を受けることにもなっていた(第7条)。
 このように、控訴人は、本件プログラムとは無関係に、東京ソフトから大量に決済端末を買い入れてもらうことになっていたのであるから、決済端末の採用及び購入が本件プログラム使用の条件であるかのような控訴人の主張は失当である。
 なお、被控訴人NTTコムと被控訴人INSソリューションとの間では、被控訴人NTTコムが被控訴人INSソリューション以外の業者から決済端末を採用し調達することを妨げるものではないと定めており、控訴人の販売する決済端末が必ずしも被控訴人NTTコムによって採用されるものではないことは、控訴人自身、十分に認識していたものである。
オ 以上のとおり、本件プログラムは、「DSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的」のものではない。本件サーバの導入は、控訴人も含めた会議の中で協議され、その中で、被控訴人NTTコムのデータセンター内に設置する本件サーバが被控訴人GPネットの設備であることは、共通の理解であり、控訴人も、本件サーバが被控訴人GPネットの所有となることを認識していた。
カ 本件サーバの保守に関して、平成19年12月28日、被控訴人INSソリューションが控訴人に宛てた注文書には、その業務内容として「NTTコミュニケーションズ(株)が実施する(株)GPネット保有のSSLサーバ・アプリに対する年間保守に関する委託業務」と記載されているところ、控訴人は、これに応じて、同日、被控訴人INSソリューションに対して請求書を発行し、被控訴人INSソリューションから本件サーバの保守費を受領している。
キ 以上の事実に照らせば、控訴人は、本件プログラムがインストールされた本件サーバの被控訴人GPネットに対する本件譲渡を認識していたということができる。
(2) 争点4(損害額)について
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 当事者間に争いのない事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1) クレジットカード決済の仕組み
ア クレジットカード加盟店は、クレジットカードを用いて決済を行う場合、まず決済端末で決済処理を行う。
 決済端末を用いてクレジットカードで決済を行うと、決済端末から回線を通じて、更に「クレジットカード情報処理センター」を経由して、カード発行会社のホストコンピュータにはクレジットオーソリデータ(クレジットカードの有効期限の確認、不正カードではないかの照合、利用限度額の確認のためのデータ)が、加盟店契約カード会社のホストコンピュータには売上げデータが送信されるなどして、決済が完了する。
 カード発行会社が加盟店契約カード会社と異なる場合には、加盟店契約カード会社が加盟店に対して支払った代金をカード発行会社に請求し、さらに、カード発行会社がカード利用者に対して代金の支払を請求することになる。
 決済端末で決済するクレジットカードは、単一の加盟店契約カード会社のブランドのもの又は単一のカード発行会社のものとは限らないため、決済端末から送られるデータを適切に処理し、対応するブランドの加盟店契約カード会社のホストコンピュータに対しては売上げデータを、カード発行会社のホストコンピュータに対してはクレジットオーソリデータを、送信する必要がある。また、クレジットオーソリデータに関しては、カード会社からのカード取引承認の可否に関する回答データを再度決済端末に送り返す必要がある。このようにデータの振り分け等の中継処理を行う設備が「クレジットカード情報処理センター」(以下「中継処理センター」という。)である。
イ 決済端末は、通常、加盟店契約カード会社が購入し、加盟店に原則として無償で設置するもので、加盟店契約カード会社は、加盟店手数料収入により、決済端末の購入及び設置費用を回収する。そして、加盟店契約カード会社は、決済端末を設置する際に、どの会社が提供する中継サービスを利用するかを決定する。したがって、被控訴人GPネットのような中継サービスの提供会社にとっての顧客は、加盟店契約カード会社ということになり、被控訴人GPネットは、その中継サービスに利用することができる決済端末を、加盟店契約カード会社を通じてより多くの加盟店に設置してもらうことにより、利益を得ることになる。
(2) IP通信対応のSSLサーバ構築の必要性
ア 従前、決済端末から被控訴人GPネットの中継処理センターへの接続は、電話回線などによるダイヤルアップ方式で行われており、決済端末からネットワークを介して中継処理センターまでのデータ伝送は、アナログ方式であった。このような方式の場合、決済端末とネットワークとの接続に関する汎用性は、極めて限定され、かかる決済端末に関する将来的な発展性は、望みにくい状況であった。また、既存の方法では、1回の決済ごとに、架電、呼出し及び接続というプロセスを経ることから、決済処理までに時間がかかるという問題もあった。
イ 被控訴人GPネットは、決済端末とより多くのネットワークとの接続可能性を飛躍的に増大させるためには中継サービス用のネットワーク環境(中継サービスに使用する決済端末とデータ処理用サーバ)をIP通信対応(TCP/IP規格)とする必要があったことから、IP通信に対応できるデータ処理サーバの構築を望んでいた。また、カード取引の中継ネットワークには高度なセキュリティが要求されるため、当該ネットワークは、IP通信対応であると同時に、送受信の認証又はその電文の暗号化と復号化といった機能(例えばSSL方式など。「SSL」は、Secure Socket Layerの略称であり、ネットスケープ・コミュニケーション社が開発したインターネット上で情報を暗号化して送受信するプロトコルである。甲23、乙イ10)を備える必要があった。
ウ 被控訴人NTTコムは、平成12年頃から、被控訴人GPネットが行っていたクレジットカードによる決済等に関するデータの中継サービスに用いる設備及びネットワークの一部の構築・保守等を行っていた。
被控訴人NTTコムのチャネル営業本部ビジネスパートナー営業部(以下「BP部」という。)は、決済端末から被控訴人GPネットの中継処理センターへの接続を従前のダイヤルアップ方式からIP通信化することで、それに伴う各種設備の構築の業務を請け負うことを企図して、平成15年6月頃から、被控訴人GPネットに対し、上記接続に係る回線をIP通信化することを提案するようになった(乙イ45、原審証人B)。
エ 他方で、クレジットカード業界においては、平成20年をめどにICカード化を行い、各加盟店の決済端末も全てICカード対応機に変更すべく加盟店向けに通知がされ始めていた。
(3) 本件協業スキームの構築
ア そこで、被控訴人NTTコム経営企画部は、決済端末の入替えに伴って、決済端末のブロードバンド化及び加盟店への株式会社アッカ・ネットワークス(被控訴人NTTコムの子会社。以下「アッカ」という。)によるADSL回線サービス(ブランド名「OCN」)の販売を企図して、平成16年6月から、ADSL回線サービス販売者(アッカ)、カード決済ネットワーク事業者、加盟店契約カード会社、決済端末製造会社及び決済端末の設置工事業者からなる協業スキームの検討を開始した(本件協業スキーム)。
イ 決済端末のブロードバンド化を実施するための本件協業スキームには、まず、カード決済ネットワーク事業者として、被控訴人GPネットが選定された。そこで、被控訴人NTTコム経営企画部は、被控訴人GPネットとの間の窓口となっていた被控訴人NTTコムBP部に対して協力を要請し、被控訴人GPネットも、本件協業スキームに参加することとなった。また、被控訴人GPネットは、平成16年10月頃、本件協業スキームとは無関係に、三井住友カードから日本インジェニコ株式会社(以下「インジェニコ」という。)製の決済端末についてIP通信を可能とすることができないかとの打診を受けたことから、被控訴人NTTコムらは、本件協業スキームの加盟店契約カード会社として三井住友カード、決済端末製造会社としてインジェニコをそれぞれ選定した。また、決済端末の設置工事業者として被控訴人INSソリューションも、検討に参加した。
 そのため、本件協業スキームの構成員は、平成17年1月頃、被控訴人NTTコム、アッカ(ADSL回線サービス販売者)、被控訴人GPネット(カード決済ネットワーク事業者)、三井住友カード(加盟店契約カード会社)、インジェニコ(決済端末製造会社)及び被控訴人INSソリューション(決済端末の設置工事業者)となった(乙イ45、原審証人B)。
ウ 本件協業スキームに決済端末の供給メーカーとして協議に参加していたインジェニコは、平成17年3月、決済端末の開発費の負担をめぐって本件協業スキームから撤退したため、決済端末を別途調達する必要が生じたところ、被控訴人INSソリューション代表者と面識のあった岩崎アイセック株式会社の担当者は、かねてよりKDE製の決済端末の開発及び調達に関して控訴人と事業を計画したこともあったので、被控訴人INSソリューション及び同NTTコムに対し、既に韓国で実用化されたIP通信に対応した決済端末として、KDE製の決済端末を紹介した。
 そこで、被控訴人NTTコムらは、本件協業スキームのため、平成17年4月1日に岩崎アイセックを吸収合併した岩通SSから、既に韓国において実用化されたIP通信に対応したKDE製の決済端末の売込みがあったことから、結局、本件協業スキームにおいては、被控訴人INSソリューションが、岩通SSを通じてKDE製の決済端末を調達する方向で検討することとし、岩通SSも、控訴人に対してKDE製の決済端末の開発及び調達を依頼した(甲33、乙イ45、弁論の全趣旨)。
 しかし、KDE製の決済端末を日本向けに開発する費用を捻出し、かつ、その製造単価を抑えるためには大量発注が必要と考えられたことから、岩通SSは、KDE製の決済端末の調達に当たり、資金力がある東京ソフトを関与させることとした(弁論の全趣旨)。
エ 東京ソフトは、控訴人との間で、平成17年5月25日、「カード決済端末事業基本契約書」(甲8)を作成し、控訴人が東京ソフトにKDE製の決済端末を販売することに関する基本契約を締結した。東京ソフト及び控訴人は、上記契約において、控訴人が東京ソフトに対して、本件協業スキームの試行運用で用いられる評価用決済端末10台を無償貸与することや、その本格運用開始後、2年以内に2万台の受発注を予定することについて合意した。
 東京ソフトは、上記契約に基づき、初年度分のKDE製の決済端末1万台を発注し、同年7月6日、控訴人に対し、その代金として3億2550万円を支払うなどした(甲8、33、乙イ45、乙ロ4、原審証人B、原審控訴人代表者、弁論の全趣旨)。
オ なお、三井住友カードは、平成17年9月、本件協業スキームから離脱したが、その代わりに、ユーシーカードが、本件協業スキームに加盟店契約カード会社として参画することになった(乙イ45)。
(4) 本件サーバ及び本件プログラムの開発
ア 被控訴人NTTコムBP部は、平成17年4月頃、被控訴人NTTコムのシステムエンジニア部(以下「SE部」という。)に対し、被控訴人GPネットが使用するものとして、SSLにより暗号化したIP通信を復号するサーバ(SSLサーバ)構築の検討を依頼した。
 被控訴人NTTコムBP部の担当者であるB(旧姓B。以下「B」という。)は、平成17年6月頃、KDE製の決済端末の仕様確認を行う中で、既に韓国においてSSLサーバとして実績のあるソフトウェアが存在するとの情報を得たことから、被控訴人INSソリューションに対して当該ソフトウェアの仕様を確認する打合せの依頼を行った。
 Bは、同月20日、控訴人、岩通SS及びKDEとの間で打合せを行ったが、控訴人、岩通SS及びKDEからは、上記ソフトウェアの概略の説明があるにとどまったので、具体的な提案を要請した(乙イ45、原審証人B)。
イ 控訴人及びKDEは、平成17年6月23日、日本向けのプロジェクトとして本件プログラム及びKDE製の決済端末の管理システムの開発及び構築について合意した(甲1の2、甲40)。
ウ 控訴人代表者であるA、被控訴人NTTコムBP部のB、同SE部のC及び被控訴人INSソリューションのDは、平成17年6月29日、本件プログラムに関する打合せを行った。
 ところで、被控訴人GPネットの中継処理センターへの接続回線がIP通信化された場合に各加盟店に設置される予定のIP通信に対応した決済端末は、各加盟店契約カード会社が購入し、加盟店に原則として無償で設置するものであるところ、被控訴人GPネットは、本件協業スキームの構成員である三井住友カード以外の加盟店契約カード会社のクレジットカード決済の中継処理もしていたから、本件協業スキームに併せて被控訴人GPネットの中継処理センターに新たに設置されるデータ処理サーバは、同社の標準仕様として、これらの各加盟店契約カード会社が購入した各種の決済端末に対応できるものであることが必要であった。
 そこで、被控訴人GPネットとの間の窓口の役割を担っていたBは、上記打合せの場において、Aらに対し、@構築するSSLサーバは、被控訴人NTTコムの大手町データセンター内に設置するものであるが、被控訴人GPネットの設備であること、A被控訴人NTTコムが被控訴人GPネットに提案するSSLサーバは、被控訴人GPネットのSSLに関する標準仕様となるため、KDE製の決済端末専用ではなく、今後IP通信化する決済端末や既にIP通信に対応している日立製の決済端末にも接続することを伝えた上、B本件プログラムのライセンスとインストールに要する価格を提示するよう依頼した(甲19、乙イ41、45、原審証人B)。
エ また、被控訴人NTTコムSE部の ( は、平成17年7月4日、控訴人代表者であるAに対し、電子メールにより、被控訴人GPネットの方針として、本件プログラムが全ての決済端末で利用できることが大前提であることを伝えた上で、控訴人及び被控訴人INSソリューションを通じて提供される予定のKDE製の決済端末以外の決済端末にインストールするSSLソフトについて問い合わせた。
 Aは、同月6日、Cに対し、電子メールにより、本件プログラムが全ての決済端末で利用できる旨を回答した(乙イ1、21)。
オ 被控訴人NTTコムSE部のCは、平成17年7月20日、控訴人、岩通SS及び被控訴人INSソリューションに対し、本件プログラム及び環境構築等の費用に係る見積条件を電子メールで送付し、併せて被控訴人INSソリューションに対し、サーバについて365日24時間の保守対応が可能であることを要望した(甲19)。
カ KDE及びILKは、平成17年7月21日、ILKが本件プログラム等を開発し、KDEがこれに対する代金を支払うことなどを定めた契約を締結したが、当該契約には、「本契約で行うPOSプロジェクト結果物につき所有権及び産出物は甲(KDE)に帰属される。」(第16条)との条項があった(甲1の2、甲16、17)。
(5) 本件サーバ及び本件プログラムに係る取引等
ア 岩通SSは、被控訴人NTTコムによる見積依頼を受けて、平成17年7月25日、宛先を被控訴人INSソリューションのD、CC(同時送信先)を控訴人代表者であるAらとして、サーバ費用(保守費用を含む。)のほか、本件プログラムの費用及びシステム構築費用の概算について電子メールで送信したが、当該電子メールは、同日、Dから被告NTTコムSE部のCらに対して転送された。
 なお、上記概算のうち、本件プログラムの費用及びシステム構築費用としては、@「ソフト費用:300万円」、A「システム構築費用:200万円」及び交通費が記載され、システム構築費用の内訳として、「ハードウェア組立及びソフトウェア事前インストール費用」、「追加パッケージ等インストール費用」、「セキュリティアップデータ費用」、「ハードウェアキッティング費用」、「導入試験費用」、「ドキュメント製作費用(さらにその内訳として、「サーバーOS設定書」、「導入試験手順書」及び「試験成績書」)」等が記載されていた(乙イ19)。
イ 被控訴人INSソリューションは、平成17年8月8日、被控訴人NTTコムに対し、本件サーバの正式な見積りを電子メールで提示した。当該電子メールでは、「ソフト費用一式」が300万円(消費税別途)とされ、その内訳として、「Webサーバ(サーブレット、SSL支援)」50万円、「メッセージ・コンバータ」200万円及び「モニタリング・システム」50万円がそれぞれ記載されていたほか、「システム構築費用」が110万円(消費税別途)とされ、その内訳として、「サーバ設置費用」10万円、「ソフトウェア事前インストール費用」50万円及び「ドキュメント製作費用」50万円がそれぞれ記載されていた(乙イ20)。
ウ 被控訴人INSソリューション及び岩通SSは、導入されるサーバの保守を行う体制がなかったことから、サーバの保守について実績のあるNTT−DCSが、被控訴人INSソリューションの提案に基づき、本件サーバの調達及び保守に当たることとなった。NTT−DCSは、平成17年8月9日、被控訴人NTTコムSE部の ( らに対し、本件サーバの構築及び保守の見積書を電子メールで送付した。本件サーバの構築に関する見積書には、本件サーバ(2台)の見積代金として199万円、「ソフト費用」の見積代金として合計300万円、「システム構築費用」の見積代金として合計110万円(消費税を加えた総額は、639万4500円)が、それぞれ記載されていたが、このうち「ソフト費用」及び「システム構築費用」の部分の記載及びその内訳は、被控訴人INSソリューションが被控訴人NTTコムに対して提示した見積りと同一の内容であった(乙イ42、43の1〜3、乙イ45)。
エ 控訴人代表者であるAは、平成17年8月25日、被控訴人NTTコムSE部のCに対し、電子メールにより、同時点での「GPnet様向けGateway Server仕様説明書」(乙イ3)を送付した。この仕様説明書は、本件プログラムの仕様概要が記載されたもので、KDEが韓国語で作成したものをAが邦訳したものであるが、その説明文中には、「最少の費用と簡単な設置で既存のシステムをインターネット対応のシステムにアップグレード」、「今後、GPnet様の全ての端末にSSL基盤を簡単に適用可能」などの記載がある(乙イ3、9)。
オ また、控訴人代表者であるAは、平成17年10月11日、電子メールにより、岩通SSに対し、ILKが作成した本件プログラムの技術仕様書を邦訳したものを送付し、併せて、被控訴人INSソリューションの ) にも同時に送信した(上記電子メールは、被控訴人NTTコムに対しても、同月13日に転送された。)。上記ILK作成に係る技術仕様書(4/41頁)には、本件プログラムのメリットとして、「最少の費用と容易な設置で既存のシステムをインターネット対応にアップグレード出来る。」、「今後、GPnetで使われる全ての端末機にSSL基盤を容易に適用出来る。」などの記載がある(乙イ31の1・2)。
カ 控訴人(Aを含む。)、被控訴人INSソリューション、岩通SS及びKDEは、平成17年10月17日、被控訴人NTTコムからの依頼で、本件サーバと日立製の決済端末の接続試験に立ち会った(乙イ38、原審証人B)。
キ 被控訴人NTTコムは、平成17年10月21日、NTT−DCSとの間で、本件プログラムをインストールしたサーバ用コンピュータ(本件サーバ)2台を代金合計639万4500円(消費税込み)で購入する契約を締結した。上記契約における物品の内訳は、サーバ本体等のほか、アプリケーションとして、「Webサーバ(サーブレット、SSL支援)」、「メッセージ・コンバータ」及び「モニタリング・システム」とされている(乙イ7)。
 また、被控訴人NTTコム及び同INSソリューションは、同日、本件協業スキームに関する検討に当たり、被控訴人NTTコムがそこで使用される決済端末を被控訴人INSソリューション以外の業者から調達しないことなどを定めた覚書を取り交わした(甲6)。
ク 岩通SSは、平成17年10月26日、被控訴人INSソリューションに対し、本件プログラムに関する「サーバソフト設定費用一式」として合計346万5000円(消費税込み)の見積書を示したが、そこには、「サーバソフト設定費用一式」の内訳として、「Webサーバ(サーブレット・SSL)」、「メッセージコンバータ構築」、「モニタリングシステム」(以上の見積額合計250万円)、「ソフトフェアインストール設定費用」及び「ドキュメント作成費用」が記載されている(甲3の1)。
 被控訴人INSソリューションは、同月28日、NTT−DCSに対し、本件プログラムに関する「サーバソフト設定費用一式」として合計367万5000円(消費税込み)の見積書を示したが、そこには、「サーバソフト設定費用一式」の内訳として、「Webサーバ(サーブレット・SSL)」、「メッセージコンバータ構築」、「モニタリングシステム」(以上の見積額合計250万円)、「ソフトフェアインストール設定費用」及び「ドキュメント作成費用」が記載されている(甲2の1)。
 また、被控訴人INSソリューションは、平成17年10月27日、岩通SSに対し、品名を「サーバソフト設定費用一式」とする仮注文書(金額は消費税込みで346万5000円)を発行し(甲3の2)、岩通SSも、同様に、同年10月31日、東京ソフトに対し、品名・仕様を「サーバソフト設定費用一式」とする仮注文書(金額は消費税込みで315万円)を発行した(甲4)。
ケ NTT−DCSは、平成18年1月16日、前記見積りに基づき、被控訴人INSソリューションに対し、本件サーバの構築・設定業務等(期間は、平成17年11月14日から同年12月31日までとされている。)を代金367万5000円(消費税込み)で委託する旨の注文書を発行し(甲2の2)、被控訴人INSソリューションは、同月19日、NTT−DCSに対して「サーバソフト設定費用」の代金367万5000円の請求書を発行し、NTT−DCSは、同年2月28日、これを支払った(甲2の3)。
コ 他方、被控訴人INSソリューションは、平成18年1月17日、岩通SSに対し、品名を「サーバソフト設定費用一式」とする注文書(金額は消費税込みで346万5000円)を発行し(乙ロ5)、岩通SSは、同年3月8日、被控訴人INSソリューションに対して売掛金残高として同額を請求したところ、被控訴人INSソリューションは、同月31日、これを支払った(乙ロ6)。
サ なお、岩通SSと東京ソフト又は控訴人との間の決済に関する証拠は提出されていないが、控訴人は、平成18年3月1日、東京ソフトに対し、件名を「サーバ監視ソフト一式」とし、その詳細を「T/W対応費用」につき150万円、「検証確認費用」につき50万円、そして「現地設定費用」につき50万円(消費税込みの合計額262万5000円)を請求し、東京ソフトは、同月頃、これを支払った(乙ロ7)。
(6) 本件プログラムの使用
ア 本件サーバは、NTT−DCSが購入したものが事前に岩通SSに納入され、控訴人及びKDEらが事前に本件プログラムをインストールした上で、平成17年8月22日、1台が先行して大手町データセンターに納入された(甲33、乙イ35、44の1の1〜44の3、乙イ45、原審証人B)。
イ 本件サーバのうちのもう1台は、平成17年10月25日、大手町データセンターに納入され、同所には、合計2台の本件サーバ(1台はバックアップ用)が設置された。控訴人及びKDEは、上記サーバについても、本件プログラムをインストールする作業を行った(甲33)。
ウ 被控訴人GPネットは、平成17年11月30日、被控訴人NTTコムとの間で「SSL−VPNサーバセグメント設計・建設委託契約書」(乙ハ1)を締結し、代金2187万9375円(消費税込み)を支払うこととなったほか、本件プログラムがインストールされた本件サーバ2台を譲り受けた。なお、上記契約書第12条には、「乙(被控訴人NTTコム)は、甲(被控訴人GPネット)に対し、契約ソフトウェアの全ての著作権…を第5条に定める引渡し完了日をもって譲渡するものとする。ただし、乙及び第三者に帰属する同種のソフトウェアに共通して利用するルーチン、モジュール並びに発注を受ける前から乙又は第三者が有していた著作権については、乙又は当該第三者に留保されるものとする。」との記載がある。
エ 被控訴人GPネットは、平成17年12月15日に日立製の決済端末を本件サーバに接続して商用利用を開始することを予定していたことからその最終チェックを行っていたところ、同月12日、通信エラーが発生したため、同月13日、被控訴人NTTコムBP部のBに連絡し、Bは、同日、被控訴人INSソリューションに対して連絡した。そこで、この連絡を受けた控訴人代表者であるA、KDEの技術者及び岩通SSの担当者らは、同月14日、大手町データセンターに入館して緊急に検証作業を行い、被控訴人GPネットは、同月末には日立製の決済端末の接続による本件サーバの商業的利用を開始した(乙イ33の1〜3の2、乙イ45、原審証人B)。
オ 本件サーバは、平成18年3月1日、検査を完了し、被控訴人NTTコムから被控訴人GPネットに対して引き渡された(乙イ2)。
カ 控訴人は、平成18年3月頃及び平成19年3月19日、東京ソフトの子会社であり、岩通SSの本件協業スキーム担当者の移籍先でもあった株式会社ティ・エスコミュニケーションズ(以下「TSC」という。)に対し、「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバーアプリケーションソフトウェア納入仕様書」(甲5)を交付し、TSCは、被控訴人INSソリューションに対し、本件プログラムに関する平成19年3月19日付け「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバー納入仕様書」(乙イ4、32)を交付した。また、被控訴INSソリューションは、NTT−DCSに対し、平成19年4月27日付けで表題を同じくする納入仕様書を交付し、被控訴人NTTコムの担当者は、これに承認印を押捺した(乙イ5。なお、この納入仕様書は、同年8月3日、TSCから控訴人に写しが送付されている。)。さらに、被控訴人NTTコムは、被控訴人GPネットに対し、平成19年8月付けで表題を同じくする納入仕様書(乙イ6、11)を交付した。
 これらの各納入仕様書には、いずれも、本件プログラムが、本件サーバのみを対象として使用許諾される旨の記載がある(甲5、20、84、乙イ4〜6、11、32、乙ロ12)。
キ 被控訴人INSソリューションは、平成19年12月17日、控訴人及びTSCとの間で、本件サーバに関する保守マニュアル(乙ロ11)を制作するとともに、同月28日付けで、控訴人に対し、当該保守マニュアルに基づく本件プログラムの保守を委託した(乙ロ1)。控訴人は、これを受けて、同日、被控訴人INSソリューションに対して請求書(金額は消費税込みで26万2500円。乙ロ2)を発行し、被控訴人INSソリューションは、同額の金員を控訴人の指定する銀行口座に振り込んだ(乙ロ3)。被控訴人INSソリューションから控訴人に対する本件プログラムの保守に係る注文書(乙ロ1)には、控訴人が行う業務内容として「NTTコミュニケーションズ(株)が実施する(株)GPネット保有のSSLサーバ・アプリに対する年間保守に関する委託業務」という記載がある。
(7) 控訴人の本件プログラム等に関する権利の取得
 KDEは、平成19年10月8日、控訴人に対し、KDEとILKとの間の平成17年7月21日付け契約(前記(4)カ参照)の権利一切を譲渡した(甲1の2、甲16、17)。
(8) 本件協業スキームの終了
ア 被控訴人NTTコム及びユーシーカードは、被控訴人INSソリューション、同GPネット及びアッカとともに、平成18年6月から平成19年3月まで、決済端末を用いたオンライン決済処理に関して、ADSLを用いたブロードバンドIP通信による高速化を実現し、業務の効率を高める仕組みをユーシーカードの加盟店に対して提供し、検証(テストマーケティング)を行った。
 被控訴人NTTコムとユーシーカードは、かかるテストマーケティングを受け、被控訴人INSソリューション、同GPネット、アッカ及び東京リース株式会社と連携して、平成19年7月から、ADSLを用いたブロードバンドIP通信による高速化を実現したオンライン決済処理サービス等を含む各種サービスをパッケージにした「OCNクレジット加盟店パック(U)」の販売を開始した(甲13、58〜64、69の1・2、甲70、乙イ39、45)。
イ 被控訴人らは、平成20年7月11日、控訴人から、本件プログラムの有効期限が同月25日に設定されている旨を知らされたことから、検討の上で、同月18日頃、控訴人に対し、有効期限の設定を削除するよう求めた。そこで、控訴人(Aを含む。)及びILKの技術者は、同月23日、大手町データセンターに入館して有効期限の設定を削除する作業を開始したが、技術的理由から、被控訴人GPネットの同意を得て、当該削除をせずに有効期限を2949年12月31日に再設定した(甲33、36、78、乙イ8、36の1〜10、乙イ46、原審控訴人代表者)。
ウ 本件協業スキームに参画する6社は、平成20年9月3日、本件協業スキームが各社の事業採算ラインに達する可能性が極めて低いとの結論に達し、サービスの終了に向け、各社が協力することに合意した(乙イ45)。
エ 被控訴人INSソリューションは、本件協業スキームの終了に関連して、控訴人及び東京ソフトから、本件サーバの位置付けについて整理したいとの申入れを受け、平成20年11月6日、本件プログラムが本件協業スキームの試行に供することを目的に、被控訴人INSソリューションが岩通SSに発注し、岩通SSが東京ソフトに発注したKDE製の決済端末の接続試行に供することを目的として設定・構築したものであるとの記載のある確認書を作成した(甲9)。
オ 東京ソフトは、平成20年11月7日付け内容証明郵便により、被控訴人NTTコム、同GPネット及び同INSソリューションらに対し、本件プログラムは控訴人が1年間の市場評価の目的で無償供与したものであり、本件協業スキームを終了させる旨の合意がされた以上、控訴人が本件プログラムの即時返却を求め、本件サーバの稼働停止を求めている旨を通知した(甲33、乙イ46、乙ハ2)。
 被控訴人NTTコムは、控訴人に対し、本件プログラムの停止を1週間猶予するよう求める書面(甲12)を交付し、東京ソフトを通じて控訴人と交渉をしたところ、控訴人は、同月28日、本件サーバの稼働停止を2日間延長する旨を連絡した。控訴人NTTコムは、本件プログラムのシステム時刻を遅らせることで、有効期限の到来による本件プログラムの停止可能性に対処し、本件プログラムは、同月30日以降も稼働を続けた(甲10〜12、29、33、乙イ46)。
カ しかし、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、本件プログラムに有効期限が設定されているか、あるいは外部から設定を変更される可能性を危惧した。そこで、被控訴人GPネットは、平成21年2月20日、被控訴人NTTコムに対して新たなSSLサーバの構築を委託し、同年5月25日、これを受領して、以後、本件プログラムの利用を停止し、新たなサーバ及びソフトウェアに基づく中継処理サービスを開始して現在に至っている。なお、被控訴人NTTコムは、上記新たなSSLサーバの導入を急いだため、SSL認証に用いる証明書等については、本件サーバで使用されていたものを引き継ぐこととした(乙イ22〜25、46)。
キ 当時の控訴人代理人E弁護士と被控訴人NTTコム代理人末吉亙弁護士及び高橋元弘弁護士とは、平成21年8月頃から、本件プログラムの処理について断続的に交渉した結果、本件サーバは、平成22年7月14日、E弁護士及び高橋元弘弁護士が立会いの下、本件サーバの製品番号が確認された上で、そこにインストールされたデータが消去され、破壊された(甲30、31、33、47、乙イ26の1〜10、乙イ27の1〜4)。
2 争点1(許諾に付された条件の有無及び被控訴人NTTコムによる著作権法63条違反の有無)について
(1) 本件プログラムに関する利用許諾の有無について
ア 本件プログラムの本件サーバへの提供とその対価について
(ア) 控訴人は、被控訴人NTTコムの依頼に基づいて本件プログラムを調達し、平成17年8月22日、本件プログラムを本件サーバのうち1台にインストールして被控訴人NTTコムの大手町データセンターに納入し(前記1(6)ア)、同年10月25日、本件プログラムを大手町データセンターにおいて本件サーバのうちもう1台にインストールしたものである(前記1(6)イ)。
(イ) しかるところ、控訴人による本件プログラムの被控訴人が管理する本件サーバへの提供に関しては、その利用許諾及びこれに対する対価について、前記インストール以前には契約書等が何ら作成されておらず、被控訴人NTTコムから見積依頼を受けた岩通SSが、平成17年7月25日、被控訴人INSソリューション及び控訴人代表者であるAらに対して「ソフト費用」などとして300万円の見積りを記載した電子メールを送信し、これが同日中に被控訴人NTTコムSE部のCに転送され、さらに、被控訴人INSソリューションが、同年8月8日、被控訴人NTTコムに対し、電子メールで「ソフト費用一式」として300万円の見積りを記載した電子メールを送付した(前記1(5)ア及びイ)ほか、その間に本件サーバの導入等に参画することになったNTT−DCSが、同月9日、被控訴人NTTコムに対し、同内容の見積りを送付した(前記1(5)ウ)にとどまる。
(ウ) また、本件プログラムの本件サーバへの提供及びインストールに関連する費用も、当該インストール前には決済されておらず、@被控訴人NTTコムは、上記インストール後の平成17年10月21日、NTT−DCSから、本件プログラムがインストールされた本件サーバ(2台)を、見積金額と同じ代金合計639万4500円で購入したものである。そして、上記見積りによれば、上記代金のうち「ソフト費用」は、300万円である(前記1(5)ウ及びキ)。上記インストールに関与したNTT−DCS、被控訴人INSソリューション及び岩通SSは、その頃、サーバソフト設定費用一式(本件プログラムの内訳である「Webサーバ」、「メッセージ・コンバータ」及び「モニタリング・システム」の対価250万円及び本件プログラムのインストール費用等を含む。)として、ANTT−DCSと被控訴人INSソリューションとの間の代金を367万5000円とする見積書及び仮注文書、B被控訴人INSソリューションと岩通SSとの間の代金を346万5000円とする見積書及び仮注文書を取り交わし、平成18年1月から2月にかけて、これをいずれも決済している。以上に加えて、C岩通SSは、平成17年10月31日、東京ソフトに対し、サーバソフト設定費用一式の代金を315万円とする仮注文書を発行し、D控訴人も、平成18年3月頃、東京ソフトから、「サーバ監視ソフト一式」の代金262万5000円の支払を受けている(前記1(5)ク〜サ)。
 以上によれば、@被控訴人NTTコムは、本件プログラム及び本件サーバを調達したNTT−DCSに対して本件サーバの取得代金(199万円)及び本件プログラムの提供の対価(300万円)を含む代金639万4500円を支払っており、ANTT−DCSは、自社を本件サーバの調達等に関与させた被控訴人INSソリューションに対して本件プログラムの提供の対価(250万円)を含む367万5000円を支払っており、B被控訴人INSソリューションは、かねてKDE製の決済端末の調達に当たってKDEらとの間の窓口となっていた岩通SSに対して本件プログラムの提供の対価(250万円)を含む346万5000円を支払っており、C岩通SSは、KDE製の決済端末の調達に当たって関与を求めた東京ソフトに対して本件プログラムの提供の対価を含む315万円を支払っているものと推認され、さらに、D東京ソフトは、KDE製の決済端末の購入相手である控訴人に対して本件プログラムの提供の対価を含む262万5000円を支払っていることが認められる。
(エ) そして、本件プログラムの提供の対価として実際に決済されたこれらの金額が本件プログラムの本件サーバへのインストール前に示されていた「ソフト費用」(300万円)との見積金額(前記1(5)ア〜ウ)である300万円におおむね近似することに照らすと、これらの関係者の間では、控訴人による当該インストールの時点において、おおむね300万円が、本件プログラムの提供の対価として被控訴人NTTコム→NTT−DCS→被控訴人INSソリューション→岩通SS→東京ソフト→控訴人との順番で支払われることについて合意が成立していたことが推認される。
(オ) また、本件プログラムの本件サーバへのインストールは、被控訴人NTTコムの依頼に基づき、本件プログラムを調達した控訴人によって、被控訴人NTTコムが大手町データセンター等において管理する本件サーバに対して行われたことに照らすと、上記のおおむね300万円は、本件プログラムの提供の対価として、被控訴人NTTコムから控訴人に対して給付されることが当初から予定されており、当該インストールに至る経緯から、上記のように順次の決済が行われることとされたものと認められる。
イ 本件プログラムの利用許諾料について
(ア) 次に、本件プログラムの提供に関する前記対価(おおむね300万円)が、本件プログラムの利用許諾料を含むものであったか否かについて検討すると、本件プログラムの本件サーバへのインストール前に作成された電子メールや、当該インストール後に作成された決済関係の書類には、いずれも、本件プログラムの利用許諾料について明示的に触れたものは存在しない一方、被控訴人NTTコムBP部のBは、平成17年6月29日の打合せの際、控訴人代表者であるAらに対し、本件プログラムの利用許諾とインストールに要する価格を提示するよう依頼したもので、上記300万円には利用許諾料が含まれている旨を供述する(乙イ45、原審証人B)。
(イ) そこで検討すると、@被控訴人NTTコム及び同GPネットは、自らが開発したものではない本件プログラムを利用するのであるから、その利用許諾料を支払うべきであるのに、前記アに説示の決済のほかに保守費用を除き、本件プログラムの本件サーバへの提供及び利用に関して金員の決済が行われていないこと、A岩通SSは、Bの上記の前記依頼に応じて、300万円との見積りを電子メールで送信し、これを控訴人代表者であるAにも同時送信していること(前記1(5)ア)、BAは、岩通SSによる上記見積りを認識した上で、本件プログラムを本件サーバにインストールしていること、CAが邦訳して被控訴人NTTコムらに提出したILK(乙イ31の2)及びKDE(乙イ3)が作成した本件プログラムの各仕様説明書には、いずれも本件プログラムが最少(最小)の費用で既存のシステムをグレードアップするものである旨の記載がある(前記1(5)エ及びオ)ところ、当該記載は、利用許諾料も低額であることを示唆するものといえること、D控訴人から東京ソフトの子会社であるTSC、被控訴人INSソリューション、NTT−DCS、被控訴人NTTコム及び同GPネットに事後に順次交付された本件プログラムの各納入仕様書には、いずれも、本件プログラムが本件サーバのみを対象として使用許諾される旨の記載があること(前記1(6)カ)に照らすと、Bの上記供述は、自然であり、かつ、裏付けがあるものとしてこれを信用することができる。
(ウ) したがって、上記本件プログラムの提供の対価(おおむね300万円)には、本件プログラムの使用に係る利用許諾料が含まれているものと認められる。
 以上によれば、被控訴人NTTコム、NTT−DCS、被控訴人INSソリューション、岩通SS、東京ソフト及び控訴人は、控訴人の被控訴人NTTコムに対する本件プログラムの本件サーバへのインストールの段階で、控訴人による本件プログラムの提供の対価としておおむね300万円の対価を前記記載の順番で支払うこと及び当該対価には本件プログラムの利用許諾料が含まれていることについて合意していたものと認められる。すなわち、控訴人は、被控訴人NTTコムとの間で、上記インストールの時点において、被控訴人NTTコムに対して本件プログラムの利用を有償で許諾する一方、その利用許諾料を含む対価(おおむね300万円)を、上記の各関係者の順番で決済して受領することに合意していたものということができる。
(2) 本件プログラムの利用許諾に係る条件の有無について
ア 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は、平成17年7月頃、被控訴人NTTコムとの間で、本件協業スキームのためのIAMSに対応したシステム構築までの試験運用という範囲で使用する目的であるという条件を付した上で、本件プログラムの利用を無償で許諾する旨の合意(本件利用許諾)が成立した旨を主張し、これに沿う陳述書等(甲9、33、35、37、53、54)及び原審における控訴人代表者尋問の結果が存在する。
(イ) まず、控訴人代表者であるAの供述(甲33、原審控訴人代表者)については、@本件プログラムについて利用を許諾すべき立場にあったKDEと控訴人との間で、本件プログラムについて控訴人主張に係るような条件を付した利用許諾がされたと認めるに足りる的確な客観的証拠が存在しないこと、A本件プログラムの価値を5億円であるとしながら、控訴人が被控訴人NTTコムに対して本件プログラムを無償で利用許諾すること自体、甚だ不自然であること、B本件利用許諾にいう試験運用の期間がいつまでであるのかが不明確であるばかりか、被控訴人NTTコムらが平成19年7月25日に「OCNクレジット加盟店パック(U)」の販売を開始してからも、本件協業スキームが終了するまで、控訴人が本件プログラムの使用について何らかの異議を申し立てた形跡がないこと、C控訴人が被控訴人らに対して本件プログラムの利用許諾が試験運用目的であったなどと主張するようになったのは、本件協業スキームの終了により東京ソフトを通じたKDE製の決済端末の受注見込みが完全になくなってからであること(前記1(8)エ及びオ)、D控訴人が作成した本件プログラムの納入仕様書(甲5、84)には、本件プログラムの利用が本件サーバに限って許諾される旨の記載があるだけで、許諾期間やこれを試験運用に限定するなどといったことについては何ら記載がないこと(前記1(6)カ)、E本件プログラムによって本件サーバが稼働するのであれば、被控訴人NTTコム及び同GPネットにはそれを後に別のソフトウェアに更新する必然性がなく、本件プログラムを提供する控訴人代表者であるAも、これを当然認識すべき立場にあったこと、との各点を指摘することができる。
 したがって、Aの上記供述は、それ自体不自然であり、かつ、裏付けを欠くものとしてこれを信用することができない。
(ウ) 次に、岩通SS役員であったF(甲35)及び東京ソフト代表者であるG(甲37)の各陳述書には、本件プログラムがKDE製の決済端末の接続試行を目的としていた旨の記載がある。
 しかしながら、上記各陳述書にはそれ以上の記載がなく、その記載も断片的であるばかりか、各作成者がそのような認識を有するに至った経緯等も不明である。ことに、東京ソフトは、控訴人と同様、本件協業スキームでの使用が予定されていたKDE製の決済端末を被控訴人らから受注することを強く欲する立場にあり(甲20、乙ロ13)、その限りで控訴人と利害を共通にする一方で、本件協業スキームを終了させた被控訴人らとは利害が対立している。したがって、上記各陳述書の記載は、直ちに信用することができない。
(エ) また、ILK代表者(甲53)及びKDE元役員(甲54)の各陳述書には、本件プログラムに係る著作権を他に譲渡したことはなく、本件プログラムをKDE製の決済端末と連動試験のために提供したものである旨の記載がある。
 しかしながら、本件では、本件プログラムに係る著作権が被控訴人らに譲渡されたか否かは争点となっておらず、上記各陳述書の作成者は、その作成に当たり、本件の事案及び争点の認識ないし前提を誤っていることが窺える。しかも、前記1(5)エ及びオに説示のとおり、ILK(乙イ31の2)及びKDE(乙イ3)が作成した本件プログラムの各仕様説明書のAによる邦訳には、いずれも本件プログラムが被控訴人GPネットの利用する全ての決済端末に適応可能である旨が記載されているから、上記各陳述書の記載は、これらの各仕様説明書の記載とも矛盾するものである。したがって、上記各陳述書の記載は、これを信用することができない。
(オ) さらに、被控訴人INSソリューション、東京ソフト及び控訴人は、本件プログラムがKDE製の決済端末の接続試行に供することを目的としていたことを確認する確認書(甲9)を作成している。
 しかしながら、上記確認書は、本件プログラムの本件サーバへのインストールから3年後に作成されたものであるばかりか、前記(ウ)に説示のとおり、東京ソフトは、控訴人と利害を共通にする部分があり、控訴人代表者であるAも、前記ILK及びKDE作成に係る本件プログラムの各仕様説明書の邦訳その他の機会から、上記確認書の記載とは異なり、本件プログラムがKDE製の決済端末専用ではないことを認識していたと認められる(後記イ)。したがって、上記確認書の記載も、これを信用することができない。
(カ) 以上によれば、本件利用許諾に試験運用という範囲で使用する目的であるという条件を付したとの控訴人の主張は、これを裏付けるに足りる証拠がないものというほかなく、これを採用することができない。
イ 被控訴人GPによる本件プログラムの利用等に関する控訴人の認識について
(ア) 控訴人は、被控訴人NTTコムが控訴人に無断で本件プログラムがインストールされた本件サーバを被控訴人GPネットに譲渡した(本件譲渡)旨を主張し、これに沿う控訴人代表者の供述(甲33、原審控訴人代表者)がある。
 しかしながら、@控訴人代表者であるAは、被控訴人NTTコムSE部のCから、被控訴人GPネットの方針として、本件プログラムが全ての決済端末で利用できることが大前提であることを伝える電子メールに対し、本件プログラムが全ての決済端末で利用できる旨を回答する電子メールを返信していること(前記1(4)エ)、AAが邦訳して被控訴人NTTコムらに提出したILK(乙イ31の2)及びKDE(乙イ3)が作成した本件プログラムの各仕様説明書には、いずれも被控訴人GPネットの利用する全ての決済端末に適応可能である旨が記載されていること(前記1(5)エ及びオ)、B控訴人は、平成17年10月の日立製の決済端末の接続試験(前記1(5)カ)や同年12月の日立製の決済端末の商用化準備の際のトラブル対処(前記1(6)エ)に当たっていること、C平成19年12月28日付けの本件プログラムの保守に係る注文書(乙ロ1)には、控訴人が行う業務内容として「NTTコミュニケーションズ(株)が実施する(株)GPネット保有のSSLサーバ・アプリに対する年間保守に関する委託業務」という記載があること(前記1(6)キ)、以上の客観的証拠に照らすと、Aの上記供述は、これらの証拠と矛盾ないし不整合を示しており、裏付けを欠くものとして信用できない。
(イ) 他方、被控訴人NTTコムBP部のBは、平成17年6月29日の打合せの際、Aらに対し、本件サーバが被控訴人GPネットの設備であり、その標準仕様となるため、KDE製の決済端末専用ではなく、日立製の決済端末にも接続することを伝えた旨を供述する(乙イ45、原審証人B)。
 Bの上記供述は、前記アの客観的証拠に整合しているほか、Bは、かねてより被控訴人GPネットとの窓口として対応しており、被控訴人GPネットの事業内容から、新たなSSLサーバの導入が本件協業スキームのみを視野に入れたものではないことを知るべき立場にあったから、Bの上記供述に係る発言は、それ自体自然であり、信用することができる。
(ウ) したがって、控訴人代表者であるAは、本件プログラムの本件サーバへのインストールに当たり、被控訴人GPネットが本件プログラムを利用するものであって、本件プログラムが全ての決済端末に対応できる被控訴人GPネットの標準仕様となることを認識しており、したがって、控訴人は、被控訴人GPネットによる本件プログラムの利用を許諾していた一方、その使用について期限や条件等を観念してはいなかったものと認められる。そうすると、控訴人NTTコムの被控訴人GPネットに対する本件サーバの譲渡(本件譲渡)が控訴人に無断でされたとの控訴人の前記主張は、根拠を欠くものとして採用できない。
(3) 小括
 前記(1)及び(2)を総合すると、控訴人は、被控訴人NTTコムとの間で、本件プログラムの本件サーバへのインストールの時点において、被控訴人NTTコムに対して本件プログラムの利用を有償で許諾する一方、その利用許諾料を含む対価(おおむね300万円)を、被控訴人NTTコム、NTT−DCS、被控訴人INSソリューション、岩通SS、東京ソフト及び控訴人の順番で決済して受領することに合意しており(前記(1))、かつ、その段階で、被控訴人GPネットが本件プログラムを利用するものであって、本件プログラムが全ての決済端末に対応できる被控訴人GPネットの標準仕様となることを認識しており、したがって、被控訴人GPネットによる本件プログラムの利用を許諾していた一方、本件プログラムの使用について期限や条件等を観念してはいなかったものと認められる(前記(2))。
 したがって、本件プログラムについて著作物性が認められるか否かにかかわらず、また、著作権法63条の解釈について論じるまでもなく、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用は、控訴人の利用許諾に基づくものであって、控訴人が主張する条件が付されていたとはいえないから、被控訴人NTTコムによる被控訴人GPネットに対する本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡(本件譲渡)も、何ら違法なものではないというべきである。
 よって、控訴人の被控訴人NTTコムに対する損害賠償請求は、理由がない。
(4) 控訴人の主張について
ア 以上に対して、控訴人は、本件プログラムの利用許諾の対価の相場価格が5億円である旨を主張し、原審における控訴人代表者尋問の結果は、これに沿うものである。
 しかしながら、控訴人は、上記相場価格について何ら客観的な証拠を提出していない。しかも、控訴人代表者であるAが邦訳して被控訴人NTTコムらに提出したILK(乙イ31の2)及びKDE(乙イ3)が作成した本件プログラムの各仕様説明書には、いずれも本件プログラムが最少(最小)の費用で既存のシステムをグレードアップするものである旨の記載がある(前記1(5)エ及びオ)ところ、この記載は、本件プログラムの利用許諾の対価が5億円という高額なものとなるとの主張と矛盾するものである。したがって、Aの上記供述は、これを信用できない。
 よって、控訴人の上記主張は、採用できない。
イ 控訴人は、本件プログラムのインストールに当たり、東京ソフトから800万円以上を受領した旨を主張し、原審における控訴人代表者尋問の結果及び東京ソフト代表者の陳述書(甲79)の記載は、これに沿うものである。
 しかしながら、これらの尋問の結果及び陳述書の記載には、いずれも具体的な裏付けがないばかりか、前記(1)ア(ウ)にも説示のとおり、NTT−DCSは、被控訴人INSソリューションに対して367万5000円を、被控訴人INSソリューションは、岩通SSに対して346万5000円を、岩通SSは、東京ソフトに対して315万円を支払っているものと認められるから、東京ソフトが控訴人に対してこれを超える金額を支払うことは、明らかに不合理であって、控訴人の主張に沿う上記証拠は、いずれも信用できない。
 むしろ、東京ソフトは、上記決済の時期に合わせて、控訴人に対して「サーバ監視ソフト一式」の代金として262万5000円を支払っているところ、その請求書明細(乙ロ7)の作成時期及び記載内容が他の関係者が作成した注文書や請求書等の記載とおおむね一致すること(前記1(5)ク〜サ)に鑑みると、これは、本件プログラムの提供の対価を含むものであると認められる。
 よって、控訴人の上記主張は、採用できない。
ウ 控訴人は、平成20年11月に本件プログラムの停止を通知したことに関連して、被控訴人NTTコム及び同GPネットが抗議するなどしなかったことから、本件利用許諾が認められる旨を主張する。
 しかしながら、被控訴人GPネットは、当時、本件プログラムを現実に使用していたのであるから、被控訴人NTTコム及び同GPネットが、上記通知に対して強硬に対応することが得策ではないと判断して控訴人に対して抗議などをしなかったことは、それ自体自然なことである。
 したがって、被控訴人NTTコム及び同GPネットが抗議などをしなかったからといって、本件利用許諾が認められるというものではなく、控訴人の上記主張は、採用できるものではない。
エ 控訴人は、被控訴人NTTコムが平成18年7月頃、控訴人に対して本件プログラムの利用許諾の期間を延長するよう求めた旨を主張する。
 しかしながら、上記主張を認めるに足りる証拠はなく、控訴人の当該主張は、採用できない。
オ 控訴人は、被控訴人NTTコムと同GPネットとの間の本件譲渡に関する契約書には、被控訴人NTTコムが同GPネットに対して本件プログラムの著作権を売却する旨の条項(第12条)があるが、他方で、被控訴人らが作成した納入仕様書等には、本件プログラムの売買を前提としない記載があるため、事実上本件プログラムが盗用されたと同様の結果を招来し、控訴人の著作物が無断使用され、損害が発生することになった旨を主張する。
 しかしながら、被控訴人NTTコムと同GPネットとの間の本件サーバの譲渡に係る契約書(乙ハ1)第12条ただし書には、「乙(被控訴人NTTコム)は、甲(被控訴人GPネット)に対し、契約ソフトウェアの全ての著作権…を第5条に定める引渡し完了日を以て譲渡するものとする。ただし、乙及び第三者に帰属する同種のソフトウェアに共通して利用するルーチン、モジュール並びに発注を受ける前から乙又は第三者が有していた著作権については、乙又は当該第三者に留保されるものとする。」との記載がある(前記1(6)ウ。したがって、仮に、本件プログラムに著作物性があり、本件プログラムに係る著作権が上記契約当時、KDEに帰属していたとしても、上記契約条項により、当該著作権は、KDEに維持されるのであって、被控訴人NTTコム及び同GPネットが、他人の著作権を売買したものということはできない。
 よって、控訴人の上記主張は、その根拠を欠くものである。
3 争点2(被控訴人GPネットによる確認義務違反の有無及び被控訴人INSソリューションによる加担行為の有無)について
 前記2(3)に説示のとおり、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用は、控訴人の利用許諾に基づくものであって、被控訴人NTTコムによる被控訴人GPネットに対する本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡(本件譲渡)も、何ら違法なものではないというべきであるから、被控訴人GPネットは、控訴人に対して何ら損害賠償義務を負わないし、被控訴人INSソリューションも、本件プログラムに関して何らかの違法行為に及んだと認めるに足りる証拠はないから、控訴人に対して何ら損害賠償義務を負うものではない。
 よって、控訴人の被控訴人GPネット及び同INSソリューションに対する損害賠償請求は、理由がない。
4 争点3(控訴人に対する損害賠償請求権の帰属及び対抗要件の具備)について
 控訴人は、平成19年10月8日、IKLが開発した本件プログラムに関する権利を、KDEを経て取得したものと認められる(前記1(4)カ、(7))。
 しかしながら、被控訴人らは、前記2及び3に説示のとおり、いずれも本件プログラムに関して何らの違法行為も行っていないから、KDEは、控訴人による上記権利取得以前に、被控訴人らに対して損害賠償請求権を有していたものとは認められない。
 仮に、KDEが被控訴人らに対して、本件プログラムに関して何らかの債権を取得しており、控訴人がその譲渡を受けていたとしても、KDEが被控訴人らに対して当該債権譲渡に関する通知等をしたと認めるに足りる証拠はない。
 よって、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求は、理由がない。
5 争点6(被控訴人NTTコム及び同GPネットによる現時点における本件プログラムの使用の有無)について
(1) 控訴人は、被控訴人NTTコム及び同GPネットが現時点でも本件プログラムを使用している旨を主張し、原審における控訴人代表者尋問の結果は、これに沿うものである。
(2) しかしながら、被控訴人NTTコムのHが作成した陳述書(乙イ46)には、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、平成20年11月、控訴人から本件プログラムの即時返却及び本件サーバの稼働停止を求められるなどしたことから、その後、新たなSSLサーバを導入して本件プログラムの使用を停止したが、その際、最速でSSLサーバを作り直すために加盟店に出回っている決済端末を新規のものに置き換えずサーバだけを入れ替えることとし、SSL認証に用いる証明書等も本件サーバにおいて使用されていたものを引き継ぐこととした旨が記載されている。そして、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、控訴人により停止される可能性を有する本件プログラムを使用し続ける理由がなく、新たなサーバを迅速に構築する必要があったことに加えて、被控訴人NTTコム及び同GPネットが新たなサーバを導入するなどしたことについては、これを裏付ける客観的な証拠が存在すること(乙イ22〜25)に照らすと、上記陳述書の記載は、これを自然なものとして信用できる(前記1(8)カ)。
 そして、控訴人が援用する甲23及び82は、いずれも本件サーバで使用されていた証明書等により被控訴人GPネットが現在使用しているSSLサーバに認証できることを明らかにしているものの、このことは、上記陳述書の記載と矛盾するものではないから、甲23及び82は、本件プログラムが現時点でも使用されていることを裏付けるものではない。
(3) したがって、被控訴人GPネットは、平成22年7月15日以降において本件プログラムを使用しておらず、現在、本件プログラムとは異なるソフトウェアを使用しているものと認められる一方、控訴人の主張に沿う原審における控訴人代表者尋問の結果は、裏付けを欠くものとして信用できず、控訴人の前記主張は、採用できない。
(4) 小括
 以上のとおり、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、現時点において本件プログラムを使用しておらず、これを使用するおそれも認め難い。
6 主位的請求についてのまとめ
(1) 以上のとおり、被控訴人GPネットによる本件プログラムの使用は、控訴人の利用許諾に基づくものであって、控訴人が主張する条件が付されていたとはいえないから、被控訴人NTTコムによる被控訴人GPネットに対する本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡(本件譲渡)も、何ら違法なものではなく、被控訴人INSソリューションも、本件プログラムに関して何らかの違法行為に及んだと認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人らは、控訴人に対して何ら損害賠償義務を負うものではない。
(2) また、被控訴人NTTコム及び同GPネットは、現在、本件プログラムを使用しているものとは認められず、これを使用するおそれも認め難いから、控訴人の被控訴人NTTコム及び同GPネットに対する差止請求は、理由がない。
7 予備的請求について
 控訴人は、予備的請求に関して、被控訴人NTTコムが控訴人との間で、平成22年7月14日、本件プログラムを使用しないことについて合意した(本件不使用合意)にもかかわらず、被控訴人NTTコム及び同GPネットが現時点でも本件プログラムを使用している旨を主張する。
 しかしながら、本件不使用合意を裏付けるに足りる的確な証拠はないばかりか、被控訴人NTTコム及び同GPネットが平成22年7月15日以降において本件プログラムを使用していないことは、前記5に説示のとおりである。
 よって、控訴人の上記主張は、これを採用できず、控訴人の予備的請求には理由がない。
8 結論
 以上の次第であるから、控訴人の当審における追加請求(不法行為による損害賠償請求、差止請求及び不当利得返還請求)は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これらをいずれも棄却すべきである。また、原判決は、控訴人の当審における訴えの交換的変更により、当然にその効力を失っているから、その旨を明らかにすることとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 井上泰人
 裁判官 荒井章光


別紙 目録
 被控訴人エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズが東京都千代田区大手町2−3−5  NTT大手町ビル内にて運営するデータセンターに設置されているターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバ用コンピュータであって固定IPアドレス●●●●●●●●●●●●●●●の割当てを受けているものにインストールされている、下記の構成から成るクレジットカード決済認証用のSSL/GWサーバ・アプリケーションソフトウェア。

 記
区分 環境
OS Red Hat Enterprise Linux 3.6(RHEL 3 update 6)
Architecture s86_64
Web Server(Https) Apache(2.0.46)
WAS Jakarta Tomcat 5.5.9
Language Java(1.5.0_04 64-bit), servlet/jsp
 以上
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