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【事件名】商号“阪急”の不正競争事件
【年月日】平成24年9月13日
 大阪地裁 平成23年(ワ)第15990号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年7月20日)

判決
原告 阪急電鉄株式会社
同訴訟代理人弁護士 松村信夫
同 塩田千恵子
同 坂本優
同 小野昌延
被告 阪急住宅株式会社
同訴訟代理人弁護士 竹下義樹
同 新阜創太郎
同 佐野真太郎


主文
1 被告は、京都地方法務局昭和40年6月14日設立の商業登記中、「阪急住宅株式会社」の商号登記の抹消登記手続をせよ。
2 被告は、その営業上の施設又は活動において「阪急住宅株式会社」の表示を使用してはならない。
3 被告は、営業表示物件から「阪急住宅株式会社」の表示を抹消せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、2、3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)主文1ないし4項と同旨
(2)仮執行宣言
2 被告
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 前提事実(当事者間に争いがない。)
(1)当事者
 原告は、一般運輸業、その他娯楽施設の経営、不動産事業、駐車場の経営、物販店舗の経営管理等の事業を行う会社である。
 被告は、宅地建物取引業等を目的とする会社である。
(2)原告の営業表示
 原告は、「阪急」(以下「原告営業表示」という。)を営業表示として使用している。
(3)被告の行為
 被告は、昭和40年6月14日、設立され、設立当初から「阪急住宅株式会社」という商号(以下「被告商号」という。)であった。
 平成22年10月1日に、本店所在地を現住所地に移転し、被告商号を用いた看板、表示を掲げて営業活動を行っている。また、インターネットでホームページを開設し、被告商号を用いて、「日本の不動産を中国人に効果的且つ円滑に販売・仲介・管理します。」という内容の広告をし、「中国本土富裕層向け日本不動産販売と訪日中国人の京都観光拠点再生ビジネスを開始」という内容のプレスリリースをした。
 なお、上記ホームページに係るドメイン名(「HANKYU−JUTAKU.JP」)については、平成24年3月30日付けで日本知的財産仲裁センターから登録取消しを命ずる旨の裁定を受け、この裁定は確定した。
2 原告の請求
 原告は、被告の行為が不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項2号又は1号の不正競争に当たるとして、被告に対し、法3条に基づき、被告商号の抹消登記手続並びに営業表示としての被告商号について、使用差止め及び営業表示物件からの抹消を求めている。
3 争点
(1)被告商号は、原告営業表示と同一又は類似のものであるか (争点1)
(2)法2条1項2号(主位的請求原因)に関するその余の争点
 被告は、原告営業表示が著名になる前から被告商号を使用する者であるか (争点2)
(3)法2条1項1号(予備的請求原因)に関するその余の争点
ア 被告の行為は、原告の営業と混同を生じさせる行為であるか(争点3)
イ 被告は、原告営業表示が需要者の間に広く認識される前から被告商号を使用する者であるか (争点4)
(4)本件請求に権利失効の原則が適用されるか (争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告商号は、原告営業表示と同一又は類似のものであるか)について
【原告の主張】
 被告商号である「阪急住宅株式会社」のうち「株式会社」の部分は、会社の種類を示すものにすぎないし、「住宅」は住宅に関連する事業を扱う業種であることを示すものにすぎない。
 したがって、被告商号の要部は「阪急」であり、原告営業表示と同一又は類似のものである。
【被告の主張】
 被告は、昭和33年、京都市において、被告商号と実質的に同一である「阪急住宅社」の名称で不動産仲介業を開始し、昭和40年6月14日には法人登記をして、それ以降も一貫して被告商号を使用して営業活動を継続してきた。
 このような被告の営業実態からすれば、被告商号の要部は「阪急住宅」であり、原告営業表示と同一又は類似のものではない。
2 争点2(被告は、原告営業表示が著名になる前から被告商号を使用する者であるか)について
【被告の主張】
 以下のとおり、被告は、原告営業表示が著名になる前から被告商号を使用する者であり、被告の行為は、被告の商号を不正の目的でなく使用する行為であるから、法19条1項4号により法3条は適用されない。
(1)前記1【被告の主張】のとおり、被告は、昭和33年から被告商号と実質的に同一である「阪急住宅社」の名称を使用し、昭和40年6月14日からは被告商号を使用してきた。
(2)原告営業表示が原告の商号の略称であること及び、現在、全国的に著名であることは認める。しかし、昭和33年当時、以下の状況からすれば、京都市においては著名でなかった。
ア 原告は、「京阪神急行電鉄株式会社」と称しており、原告営業表示を使用していなかった。
イ 阪急百貨店の商品は全国的に流通していなかったし、京都市内において「阪急」の名を冠した商業施設や宿泊施設もなかった。
ウ テレビは普及しておらず、テレビの野球中継も巨人や阪神の所属するセントラルリーグが中心であり、それ以前に阪急ブレーブスが優勝したこともなかった。
エ 当時、京都市の繁華街は四条河原町付近であり、原告の運営する京都本線は大宮までの路線しかなかったから、原告の運営する鉄道は京都市民により日常的に使用されてはいなかった。また、原告の運営する鉄道は、「阪急」ではなく、「地下鉄」と呼ばれていた。
【原告の主張】
 以下のとおり、被告は、原告営業表示が著名になる前から被告商号を使用する者ではない。原告は、戦前から多方面にわたって事業を展開しており、原告営業表示は、原告及びその事業を表す表示として広く使用されていたものであって、昭和33年当時の京都市においても著名なものであった。
(1)原告は、明治40年、設立された。当初の商号は「箕面有馬電気軌道株式会社」であったが、大正7年2月、「阪神急行電鉄株式会社」に、昭和18年、「京阪神急行電鉄株式会社」に、昭和48年4月、「阪急電鉄株式会社」に、それぞれ変更した。
 原告営業表示は、大正7年2月以降、原告の略称として一般に使用されるようになったものである。
(2)原告は、大正9年、原告の運営する鉄道の始発駅である梅田駅上(現在のJR大阪駅前)に「阪急ビルディング」の名称で高層ビルを建設し、同ビル2階において「阪急直営食堂」の名称で食堂事業を開始した。大正14年、同ビル2階及び3階において「阪急マーケット」の名称で百貨店事業も開始した。
 昭和4年、現在の阪急百貨店(梅田店)の所在地に「梅田阪急ビルディング」の名称で高層ビルを建設し、同ビルにおいて「阪急百貨店」の名称で百貨店事業を開始し、上記「阪急マーケット」の営業を継承させた。
 これらの事実は、当時の新聞でも大きく報道され、すでに著名となっていた原告営業表示で表示される原告の運営する事業の多角性を世間に知らしめた。なお、上記百貨店事業は、昭和22年に設立された株式会社阪急百貨店(現株式会社阪急阪神百貨店)に継承され、東京、福岡等全国各地に支店及び営業所が設けられ、その商品は全国に流通している。
(3)原告は、昭和11年、当時は「職業野球」と称せられたプロ野球の球団として「大阪阪急野球協会」を結成した。
 同球団は、結成当初から「阪急」と称しており、戦前から全国紙でも「阪急」と表記されていた。その後「阪急ブレーブス」に名称を変更した後も長くプロ野球パシフィックリーグの球団として活躍し、複数回にわたりリーグ及び全国優勝を果たしており、その活躍は新聞・テレビ・ラジオ等を通じて広く全国に報道されていた。
(4)原告は、戦前から、関西圏において原告営業表示を付した数多くの宣伝広告を行っていた。
3 争点3(被告の行為は、原告の営業と混同を生じさせる行為であるか)について
【原告の主張】
 前記2【原告の主張】のとおり、原告及びその企業グループが多角的な事業を行っており、その表示も戦前から全国紙に職業野球団のチーム名として掲載され、全国的に知られていたことなどから、原告営業表示は、周知著名なものである。最近は、阪急交通社等の中国進出により中華人民共和国国家工商行政管理総局商標局においても、原告営業表示である「阪急」が「一定の影響力のある商標」であると認められている(甲9)。
 加えて、前記1【原告の主張】のとおり、被告商号が原告営業表示と同一又は類似のものであることからすれば、被告が、被告商号を使用して営業を行うことは、日本の事情に疎い中国顧客又は日本国内における取引者若しくは需要者に、原告の営業と混同を生じさせるものである。少なくとも、被告が原告又はその企業グループと何らかの関係があるのではないかという混同を生じさせるおそれがある。
【被告の主張】
 否認ないし争う。
4 争点4(被告は、原告営業表示が需要者の間に広く認識される前から被告商号を使用する者であるか)について
【被告の主張】
 前記2【被告の主張】のとおり、原告営業表示は、昭和33年当時、京都市において需要者の間に広く認識されてはいなかった。
 したがって、被告は、原告営業表示が需要者の間に広く認識される前から被告商号を使用する者であり、被告の行為は、被告の商号を不正の目的でなく使用する行為であるから、法19条1項3号により法3条は適用されない。
【原告の主張】
 前記2【原告の主張】のとおり、原告営業表示は、昭和33年当時、京都市においても需要者の間に広く認識されていたものである。
 したがって、被告は、原告営業表示が需要者の間に広く認識される前から被告商号を使用する者ではない。
5 争点5(本件請求に権利失効の原則が適用されるか)について
【被告の主張】
 以下のとおり、被告は、本件訴えが提起された時点において、原告から本件請求をされないことについて正当な信頼を有していたから、本件請求には権利失効の原則が適用される。
(1)前記1【被告の主張】のとおり、被告は、昭和33年から被告商号と実質的に同一である「阪急住宅社」の名称を使用し、昭和40年6月14日からは被告商号を使用して、一貫して営業活動を継続してきた。
(2)被告は、昭和43年又は44年ころ、原告に委任された弁護士から被告商号を買い取る旨の申出をされた。その後40年以上にわたり、原告から被告商号の使用に関する何らかの申入れを受けたり、何らかの法的措置を執られたりしたことはなかった。
【原告の主張】
 以下のとおり、本件請求に権利失効の原則は適用されない。
(1)被告は、昭和50年以降、長期間にわたり、宅地建物取引業を営んでおらず、平成23年になって宅地建物取引業の免許を取得して営業を開始し又は再取得して営業を再開したものである。
(2)原告が、被告に対し、昭和43年又は44年ころ、被告商号を買い取る旨の申出をしたとか、その後に放置したという事実はない。原告は、平成22年11月22日、テレビ番組の担当者から問い合わせを受けて、初めて被告の存在を認識したものである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告商号は、原告営業表示と同一又は類似のものであるか)について
(1)特定の営業表示が法2条1項1号又は2号にいう他人の営業表示と類似のものか否かを判断するに当たっては、取引の実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である。
(2)被告商号である「阪急住宅株式会社」のうち「住宅株式会社」の部分は、宅地建物取引業等を目的とする被告の事業内容を一般的な名称で表現したものにすぎず、営業の出所識別標識として取引者、需要者の注意を惹く部分であるとは認められない。
 これに対し、「阪急」の部分は、被告も認めるとおり、原告の商号の略称である固有名詞であって、原告の営業表示として著名なものであるから、営業の出所識別標識として取引者、需要者の注意を特に惹き付ける部分であることが認められる。
 そうすると、被告商号の要部は「阪急」であり、原告営業表示と外観、称呼及び観念において同一のものであるから、被告商号は、原告営業表示と類似のものである。
2 法2条1項2号に関するその余の争点(争点2:被告は、原告営業表示が著名になる前から被告商号を使用する者であるか)について
 そもそも、被告が昭和33年から被告商号に類似した「阪急住宅社」の名称で事業を開始したことを裏付ける客観的な証拠は全くない。
 この点は置くとしても、以下のとおり、原告営業表示は、戦前から全国的に著名な営業表示であったことが認められるほか、被告商号は、継続して使用されておらず、使用が再開された時点では、被告自身も認めるとおり、原告営業表示は全国的に著名となっていたから、この点に関する被告の主張には理由がない。
(1)前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によると次の事実を認めることができる。
ア 原告は、明治40年、設立された。当初の営業路線は、梅田・宝塚間と石橋・箕面間であったが、その後、神戸線を開業し、他の鉄道会社と合併するなどして、京都線(合併時には、天神橋・大宮間)を取得した。
 これに伴い、商号も、当初は「箕面有馬電気軌道株式会社」であったが、大正7年2月、「阪神急行電鉄株式会社」に、昭和18年、「京阪神急行電鉄株式会社」に、昭和48年4月、「阪急電鉄株式会社」に、それぞれ変更した。
 原告営業表示は、大正7年2月以降、原告の略称として一般に使用されるようになったものである。
イ 原告は、大正9年、原告の運営する鉄道の始発駅である梅田駅上(現在のJR大阪駅前)に、「阪急ビルディング」の名称で5階建てのビルを建設し、同ビル2階において「阪急直営食堂」の名称で食堂事業を開始した。
 大正14年、同ビル2階及び3階において「阪急マーケット」の名称で百貨店事業も開始した。
 昭和4年、現在の阪急百貨店(梅田店)の所在地において、「梅田阪急ビルディング」の名称で8階建てのビルを建設し、「阪急百貨店」の名称で百貨店事業を開始して、上記「阪急マーケット」の営業を継承させた。
 これらの事実は、当時の新聞でも大きく報道された。
 上記百貨店事業は、昭和22年に設立された株式会社阪急百貨店(現株式会社阪急阪神百貨店)に継承され、東京、福岡等全国各地に支店及び営業所が設けられた。
ウ 原告は、昭和11年、当時は「職業野球」と称せられたプロ野球の球団として「大阪阪急野球協会」を結成し、同球団は、結成当初から「阪急」と称し、戦前から全国紙においても「阪急」と表記されていた。その後、「阪急ブレーブス」に名称を変更し、プロ野球が2リーグに分裂した後は、パシフィックリーグに所属していた。
エ 原告は、戦前から、関西圏において、自らの鉄道事業及び百貨店事業等に関し、原告営業表示を付した数多くの新聞広告を行っていた(甲12)。
(2)上記(1)のとおり、原告が、昭和18年までに京都・大阪・神戸間を繋ぐ鉄道事業を行っていたこと、大正9年には大阪市内に高層ビルを建設して食堂事業を開始し、大正14年からは百貨店事業も広く行い、これらの事実が新聞等で広く報道されていたこと、昭和11年から原告営業表示を付したプロ野球球団を運営していたこと、戦前から関西圏において多数の宣伝広告を繰り返していたことからすれば、原告営業表示は、戦前から全国的に著名な営業表示であったと認められる。
(3)法制定附則3条1号について
 なお、法制定附則3条1号は、「3条‥‥の規定は、この法律の施行前(施行日:平成6年5月1日)に開始した次に掲げる行為を継続する行為については、適用しない。」とし、1号として「新法第2条第1項第2号に掲げる行為に該当するもの(同項第1号に掲げる行為に該当するものを除く。)」と規定している。
 したがって、被告の行為が、平成6年5月1日以前に開始されており、かつ、これが継続された行為である場合は、法3条の適用はない(法2条1項1号に該当する場合は除く。)。
 被告は、昭和33年から被告商号と実質的に同一の営業表示を用いて営業活動を継続してきた旨主張する。
 しかしながら、被告が自らの営業活動及び宣伝の状況を立証するものとして提出した京都新聞社発行の新聞広告(乙1ないし8)は、昭和43年から昭和50年までのものに限られている。被告代表者作成名義の買受証明書(乙9)、商談申込書(乙10)、取り纏め依頼書(乙11)及び経過報告書(乙12)と題する各書面についても、その作成経緯は不明であり、各書面に記載された日付も平成17年9月16日(乙9)、平成18年3月3日(乙10)、平成20年4月30日(乙11)、同年5月12日(乙12)というものであり、昭和51年から平成16年までの営業の継続を裏付けるものではない。
 かえって、被告の商業登記簿謄本によれば、被告は、昭和53年9月29日京都地方裁判所において和議開始の決定を受けたことが認められ、証拠(甲13の1・2)によれば、被告は、平成2年11月26日、宅地建物取引業の免許を取得した後、平成13年10月29日、同免許を失効し、平成23年1月19日に再度免許を取得したことが認められる。
 そして、P1作成の陳述書(乙13)によっても、上記免許失効の前後から、P2が代表取締役に就任するまでの間、被告が営業活動を行った形跡は窺えない。また、平成6年から8年にかけても、P1は、営業活動を行うことができない状態にあり、他の誰が営業活動に携わっていたかも不明であり、営業に関する具体的な供述もない。
 以上によると、少なくとも上記の間、被告は、休眠状態にあり、被告商号を営業表示として使用することはなかったことが窺える。
 そうすると、被告は、平成6年5月1日以前から、被告商号を営業表示として使用することを継続していたとは認めることができず、原告営業表示が著名になる前から被告商号を使用する者であるともいえない。
3 法2条1項1号に関するその余の争点について
 前記2において、仮に、被告が平成6年5月1日以前から、被告商号を営業表示として使用することを継続していたとしても、次のとおり、被告の行為は、法2条1項1号に該当するということができる。
(1)原告営業表示の周知性、被告商号との類似性
 原告営業表示が、現在、需要者の間に広く認識されていることについては当事者間に争いがない。
 また、被告商号が、原告営業表示に類似していることは、前記1のとおりである。
(2)争点3(被告の行為は、原告の営業と混同を生じさせる行為であるか)
 証拠(甲1、2、3の2、5、6)及び弁論の全趣旨によると、原告及びその企業グループは、多角的な事業を行っていることが認められるから、被告が原告営業表示と類似する被告商号を使用して営業を行うことは、取引者又は需要者において、その営業間に混同を生じさせるおそれがある。少なくとも、被告が原告又はその企業グループと何らかの関係があるのではないかという混同を生じさせるおそれがあるといえる。
(3)争点4(被告は、原告営業表示が需要者の間に広く認識される前から被告商号を使用する者であるか)
 前記2のとおり、原告営業表示は、戦前から全国的に著名な営業表示であったと認めることができるから、被告が被告商号と同一であるという「阪急住宅社」の使用を開始した昭和33年ころには、既に、原告営業表示が需要者の間に広く認識されていたということができる。
(4)まとめ
 以上のとおり、被告の行為は、法2条1項1号に該当するということができるから、法3条が適用されるべきである。
4 争点5(本件請求に権利失効の原則が適用されるか)について
 いわゆる権利失効の原則の法理論としての当否はさておき、以下のとおり、この点に関する被告の主張は前提となる事実を欠いており、採用することができない。
(1)被告は、昭和43年又は44年ころ、原告に委任された弁護士から被告商号を買い取る旨の申出をされた旨主張するものの、これを裏付ける客観的な証拠は全くない。被告は、上記申出の事実について以前の被告代表者から聞いた旨の陳述書(乙13ないし15)を提出するにすぎず、これらは単なる伝聞を内容とするものであって、およそ採用できない。
(2)この点に関して、被告は、昭和33年から被告商号と実質的に同一の営業表示を用いて営業活動を継続してきた旨主張するものの、この主張に理由がないことは、前記2(3)で述べたとおりである。
5 結論
 以上によれば、本件請求には理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 松川充康
 裁判官 西田昌吾
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