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【事件名】サムスン vs アップル特許侵害事件
【年月日】平成24年8月31日
 東京地裁 平成23年(ワ)第27941号 損害賠償請求事件

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して、1億円及びこれに対する平成23年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、名称を「メディアプレーヤーのためのインテリジェントなシンクロ操作」とする発明についての特許権(特許第4204977号)を有する原告が、被告らが別紙被告製品目録記載1ないし8の各製品を輸入、販売等する行為が同特許権の間接侵害(特許法101条5号)に当たると主張して、被告らに対し、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の一部請求として、連帯して1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成23年9月1日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 争いのない事実等(証拠等〈略〉を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告
 原告は、アメリカ合衆国カリフォルニア州法を準拠法として設立された法人であり、コンピュータ、家庭用電子機器、オペレーティングシステム(OS)及びアプリケーションソフトウェアの開発等を業とする企業である。
イ 被告ら
 被告日本サムスン株式会社(以下「被告日本サムスン」という。)は、家庭用及び産業用電気機械器具、通信機器並びにそれらの関連機器と部品、コンピュータ及び同周辺機器製品、コンピュータプログラム等の売買、輸出入等を業とする株式会社であり、被告サムスン電子ジャパン株式会社(同被告は、本件訴訟係属中の平成24年1月1日付けで「サムスンテレコムジャパン株式会社」から現商号に商号変更した。以下、商号変更の前後を通じて「被告サムスン電子ジャパン」という。)は、電子応用通信機器、コンピュータ及び周辺機器・端末機器とその部品、並びに有線、無線通信機器及び関連機器とその部品等の製作、輸出入販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の有する特許権
 原告は、次の内容の特許権の特許権者である(以下、この特許権を「本件特許権」といい、同特許権に係る特許を「本件特許」という。また、本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書等」といい、その内容は別紙特許公報写し〈略〉のとおりである。)。
 特許番号 第4204977号
 発明の名称 メディアプレーヤーのためのインテリジェントなシンクロ操作
 出願日 平成14年10月17日
 出願番号 特願2003−538957
 登録日 平成20年10月24日
(3) 本件特許に係る発明の内容
 本件特許の特許請求の範囲請求項11、13及び14の記載はそれぞれ次のとおりである(以下、請求項11、13及び14記載の特許発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)。
ア 本件発明1
 メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって、前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し、前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており、前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており、前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名、アーチスト名および品質上の特徴を備えており、該品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており、前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し、両者が不一致の場合に、両者が一致するように、前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。
イ 本件発明2
 メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロするの方法であって、前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し、前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており、前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており、前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再生可能なメデイアコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの少なくともタイトル名およびアーチスト名を含む属性および品質上の特徴を備えており、当該プレーヤーメディア情報と当該ホストメディア情報とを比較し、両者の一致または不一致を示す比較情報に基づいて、前記メディアプレーヤーと前記ホストコンピュータとの間でメディアコンテンツのシンクロを行ない、更に当該シンクロの処理は、前記比較情報が両メディア情報の不一致を示しているとき、前記プレーヤーメディア情報には含まれ前記ホストメディア情報には含まれない前記メディアアイテムを、前記メディアプレーヤーから削除されるべきメディアアイテムとして特定すること、および前記特定されたメディアアイテムを前記メディアプレーヤーから削除することを含む方法。
ウ 本件発明3
 請求項13に記載の方法であって、前記品質上の特徴は、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つを含む方法。
(4) 本件発明の構成要件
ア 本件発明1の構成要件
 本件発明1を構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、それぞれの記号に従い「構成要件A1」などという。)。
A1 メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって、
B1 前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し、
C1 前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており、
D1 前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており、
E1 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名、アーチスト名および品質上の特徴を備えており、
F1 該品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており、
G1 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し、両者が不一致の場合に、両者が一致するように、前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。
イ 本件発明2の構成要件
 本件発明2を構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、それぞれの記号に従い「構成要件A2」などという。)。
A2 メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロするの方法であって、
B2 前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し、
C2 前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており、
D2 前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており、
E2 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再生可能なメデイアコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの少なくともタイトル名およびアーチスト名を含む属性および品質上の特徴を備えており、
G2 当該プレーヤーメディア情報と当該ホストメディア情報とを比較し、両者の一致または不一致を示す比較情報に基づいて、前記メディアプレーヤーと前記ホストコンピュータとの間でメディアコンテンツのシンクロを行ない、
H2 更に当該シンクロの処理は、前記比較情報が両メディア情報の不一致を示しているとき、前記プレーヤーメディア情報には含まれ前記ホストメディア情報には含まれない前記メディアアイテムを、前記メディアプレーヤーから削除されるべきメディアアイテムとして特定すること、および前記特定されたメディアアイテムを前記メディアプレーヤーから削除することを含む方法。
ウ 本件発明3の構成要件
 本件発明3を構成要件に分説すると、次のとおりである。
F2 請求項13に記載の方法であって、前記品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つを含む方法。(以下「構成要件F2」という。)
(5) 被告製品及び被告らの行為
ア 被告らのうち少なくとも被告サムスン電子ジャパンは、業として、別紙被告製品目録記載1ないし8の各製品(以下、それぞれ同目録記載の番号に従い「被告製品1」などといい、これらを総称して「被告各製品」という。)を輸入、販売等している(なお、被告日本サムスンが被告各製品を輸入、販売等しているか否かについては、当事者間に争いがある。)。
イ 被告各製品は、「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で、保存してある楽曲ファイルの同期動作(以下「シンクロ」という。)を行う(以下、被告各製品及びパーソナルコンピュータがこのシンクロを行う方法を「被告方法」という。)。
ウ 被告方法は、本件発明の構成要件のうち、構成要件A1ないしD1及び構成要件A2ないしD2を充足する。
3 争点
(1) 被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か
ア 構成要件E1及びE2の充足性
イ 構成要件F1の充足性
ウ 構成要件G1及びG2の充足性
エ 構成要件H2の充足性
オ 構成要件F2の充足性
(2) 被告各製品を輸入、販売等する行為が特許法101条5号の間接侵害に該当するか否か
(3) 被告日本サムスンが被告各製品を輸入、販売等しているか否か
(4) 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(構成要件E1及びE2の充足性)について
〔原告の主張〕
 被告各製品に記憶されるメディアプレーヤー側の属性情報と、パーソナルコンピュータに記憶される同コンピュータ側の属性情報は、被告各製品で再生可能なデジタルコンテンツである音楽データに関していえば、1曲ずつ、アーチスト名、タイトル名、アルバム名及び総時間等を備えているから、「前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名、アーチスト名および品質上の特徴を備えており」(構成要件E1)、「前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再生可能なメデイアコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの少なくともタイトル名およびアーチスト名を含む属性および品質上の特徴を備えて」いる(構成要件E2)といえる。
 よって、被告方法は構成要件E1及びE2を充足する。
〔被告らの主張〕
 本件発明において比較及びシンクロを行うための「メディア情報」は、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴という三つの情報を最低限備えるものでなければならず、それらの全ての情報が比較の対象となり、それらのいずれか一つ、例えばタイトル名が異なる場合に、メディアプレーヤーの「メディア情報」とホストコンピュータの「メディア情報」とが一致するようなシンクロを行ったり、削除すべきメディアアイテムを特定してメディアプレーヤーから削除するようなシンクロを行ったりするものであるが、被告各製品及びパーソナルコンピュータでは、少なくともタイトル名が不一致である場合であっても、「メディア情報」を一致させるようなシンクロやメディアアイテムの削除は行われない。よって、被告方法は、構成要件E1及びE2を充足しない。
2 争点(1)イ(構成要件F1の充足性)について
〔原告の主張〕
 被告各製品に記憶されるメディアプレーヤー側の属性情報と、パーソナルコンピュータに記憶される同コンピュータ側の属性情報は、音楽データに関していえば、少なくとも曲ごとの総時間を含むものである。よって、「該品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つが含まれて」いることは明らかであり、被告方法は構成要件F1を充足する。
〔被告らの主張〕
 本件発明において比較及びシンクロを行うための「メディア情報」は、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての情報を最低限備えるものでなければならず、また、その品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定及び総時間の少なくとも一つが含まれている。本件発明では、それらの全ての情報が比較の対象となり、それらのいずれか一つ、例えばタイトル名が異なる場合に、メディアプレーヤーの「メディア情報」とホストコンピュータの「メディア情報」とが一致するようなシンクロを行うものであるが、被告各製品及びパーソナルコンピュータでは、少なくとも、タイトル名が不一致である場合であっても、「メディア情報」を一致させるようなシンクロは行われない。
 したがって、被告方法は、構成要件F1を充足しない。
3 争点(1)ウ(構成要件G1及びG2の充足性)について
〔原告の主張〕
(1) 「総時間」による比較について
 被告各製品においては、パーソナルコンピュータの同コンピュータ側の属性情報に含まれる品質上の特徴である「総時間」と、被告各製品のメディアプレーヤー側の属性情報に含まれる品質上の特徴である「総時間」とを比較して両者の一致・不一致が判定され、両者が不一致の場合には、両者が一致するようにパーソナルコンピュータのデジタルコンテンツと被告各製品のデジタルコンテンツとのシンクロが行われる。
 よって、被告各製品においては、「前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し、両者が不一致の場合に、両者が一致するように、前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法」(構成要件G1)、「当該プレーヤーメディア情報と当該ホストメディア情報とを比較し、両者の一致または不一致を示す比較情報に基づいて、前記メディアプレーヤーと前記ホストコンピュータとの間でメディアコンテンツのシンクロを行な」う方法(構成要件G2)が用いられていることは明らかであるから、被告方法は構成要件G1及びG2を充足する。
(2) 「ファイルサイズ」による比較について
 被告らは、被告各製品においては、総時間の比較に基づくシンクロは行っていないが、ファイルサイズの比較に基づいてシンクロを行っていることを認めているところ、本件発明は、「メディア情報」の比較に基づいてメディアアイテムをシンクロする方法であって、この「メディア情報」には、当然に「ファイルサイズ」が含まれる。すなわち、本件明細書等には、「メディア情報は、メディアアイテムの特徴または属性に関する」(段落【0040】)、「メディア情報データは、対応するメディアアイテムの属性または特徴に関する」(段落【0055】)、「メディアアイテムは、曲についてのメディアファイルに関しえ」る(段落【0010】)と記載されているところ、「ファイルサイズ」がメディアアイテムの属性又は特徴であること及びメディアファイルがメディアアイテムに含まれることは明らかであるから、本件明細書等は、「ファイルサイズ」が「メディア情報」の一種に当たることを明確に示している。
 この点、本件明細書等には、シンクロのために比較され得る「メディア情報」の例として、「タイトル、アルバム、トラック、アーチスト、作曲家およびジャンル」並びに「ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップおよび総時間」が挙げられている(段落【0021】)が、この列挙されたメディア情報は、あくまでも、シンクロのために比較され得る「メディア情報」の「例」にすぎないとされており(段落【0021】)、列挙されたメディア情報以外のものについても、当然に、「メディア情報」に含まれ得るのである。
 また、「ファイルサイズ」は、「メディア情報」の例として本件明細書等に明示されている総時間及びビットレートに、密接かつ直接に関係する情報である。すなわち、原則として、他の要素が同じであれば、音楽ファイルの総時間が長いほど、また、ビットレートが高いほど、ファイルサイズは大きくなる。音楽ファイルのビットレート(単位はビット毎秒)は、音楽ファイル1秒当たりのビット数であるから、総時間(単位は秒数)とビットレートを積算することにより、音楽ファイル全体のファイルサイズが導かれるのであり、音楽ファイルのファイルサイズは総時間及びビットレートの積にほぼ等しいといえる。このように、ファイルサイズが、「メディア情報」である総時間及びビットレートと密接に関係していることから、音楽ファイルのファイルサイズも「メディア情報」に該当することは明白である。
 なお、技術的に見ても、シンクロのためにファイルサイズを比較することは、総時間を比較することと違いがない。
 加えて、被告ら及びその親会社である三星電子株式会社(以下「三星電子」という。)は、メディアファイルのファイルサイズが「メディア情報」であることを認めている。例えば、被告製品1では、「メディア情報」という表題の下に、音楽ファイルについてのその他の属性(タイトル名、総時間等)とともに、その音楽ファイルのファイルサイズを記載している。また、被告らの親会社である三星電子は、自らが行った特許出願の明細書(特開2007−299382号公報、米国対応特許第7930329号)において、ファイルサイズが、「曲の長さ、歌手、・・・アルバムの題名など」と同じく、音楽ファイルの「基本メタデータ」であると述べているのであるから、ファイルサイズが、本件明細書等において「メディア情報」として例示されている総時間、アーチスト名、アルバム名と同様に、「メディア情報」に当たることを認めている。
(3) 構成要件G1及びG2において比較されるべき「メディア情報」の範囲について
 本件発明のシンクロの方法においては、シンクロされる音楽ファイルの「メディア情報」が比較される(段落【0021】並びに構成要件G1及びG2参照)。すなわち、本件明細書等には、シンクロのために比較され得る「メディア情報」の例として、「タイトル、アルバム、トラック、アーチスト、作曲家およびジャンル」並びに「ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップおよび総時間」が挙げられている(段落【0021】)が、シンクロの処理において、必ずしも全ての利用可能なメディア情報が比較される必要はないということも述べられている(段落【0020】及び【0021】)。
 このように、本件発明は、あくまで「メディア情報」の比較を求めているものであって、「メディア情報」のうち、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての情報を比較することを求めているものではない。構成要件G1及びG2は、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全てを比較することが必要であると規定しておらず、その示唆すらしていないのであり、構成要件G1及びG2は、シンクロを行うべきか否かを判断するために比較されるべきメディア情報の内容について制限を課すものではない。
 このことは、本件特許の特許請求の範囲請求項1(以下「本件請求項1」という。)と請求項11、13及び14(本件発明)の記載の相違点からも明らかである。すなわち、本件請求項1は、「前記メディアプレーヤーおよび前記ホストコンピュータの間でメディアコンテンツをシンクロさせる処理・・・は、・・・該プレーヤーメディア情報のうち少なくともタイトル名およびアーチスト名と、前記ホストコンピュータ上に設けられた前記第2メディアデータベースから取り出した前記ホストメディア情報に含まれるタイトル名およびアーチスト名との比較、および前記各メディアアイテムの品質上の特徴の比較とを行ない、」と規定し、構成要件G1及びG2と異なり、比較される必要がある特定の種類のメディア情報、すなわち、「タイトル名およびアーチスト名との比較」及び「品質上の特徴の比較」を明記しているのに対し、構成要件G1及びG2は、「前記(当該)プレーヤーメディア情報と前記(当該)ホストメディア情報とを比較し」として、単にメディア情報の比較を求めるのみであって、具体的にいかなる種類のメディア情報が比較されるかについては何らの記載もない。当業者であれば、請求項の文言におけるこの相違点を認識した上で、本件請求項1とは異なり、請求項11、13及び14(本件発明)においては、単にメディア情報が比較対象となることが規定されているのであって、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全てを比較対象とすることを求めているものではなく、そもそも、いかなる具体的な属性の比較をも求めているものではないと容易に理解できるものである。
 したがって、被告らが認めるファイルサイズの比較は、この「メディア情報」の比較にほかならず、構成要件G1及びG2を充足する。
(4) 被告らの主張に対する反論
ア 「ファイルサイズ」による比較について
 被告らは、本件発明における「メディア情報」が、メディアアイテムに特有の情報であり、ワードファイルやエクセルファイル等の通常のデータファイルにおいても備わっている一般的なファイル情報はこれに含まれないと解して、「ファイルサイズ」が「メディア情報」に含まれないと主張する。しかし、「メディア情報」がメディアファイルに特有の情報でなくてはならず、通常のデータファイルについて存在してはならないとする被告らの主張に関する裏付けは、本件特許の特許請求の範囲にも本件明細書等にも存在しない。
 被告らは、音楽ファイル等のメディアファイルのファイルサイズと、ワードファイルやエクセルファイル等の通常のデータファイルのファイルサイズを同一視し、メディアファイルのファイルサイズも、通常のデータファイルのファイルサイズと同じく「メディア情報」に当たらないものであると主張しているが、両ファイルは、ファイルの性質が根本的に異なるものであり、そのため両ファイルのファイルサイズも全く異なるものである。そして、音楽ファイルのファイルサイズは、その総時間とビットレートに密接に関連しているから、「メディア情報」を構成するのに対し、通常のデータファイルのファイルサイズは、楽曲の総時間及びビットレートとの関係性を欠いており、「メディア情報」を構成しないのである。このような、音楽ファイルのファイルサイズと、通常のデータファイルのファイルサイズとの根本的な相違点を前提とすれば、これらの異なる2種類のファイルのファイルサイズを同一視しようとする被告らの主張は、明らかに誤っている。
 また、音楽ファイルのファイルサイズと、音楽ファイルのファイル名及び変更日を同一視しようとする被告らの主張も、同様の理由により誤りである。音楽ファイルのファイルサイズと異なり、音楽ファイルのファイル名及び変更日は、総時間及びビットレートとは無関係である。このため、本件明細書等は、当然のことながら、ファイルサイズを、ファイル名及び変更日と異なるものとして扱っており、ファイル名及び変更日の比較については、信頼性が低いと評価しているものの、ファイルサイズの比較については信頼性が低いという評価はしていない。この点からも、音楽ファイルのファイルサイズと、音楽ファイルのファイル名及び変更日が同一視されるべきであるとする被告らの主張には理由がない。
イ 構成要件G1及びG2において比較されるべき「メディア情報」の範囲について
 本件発明において、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴という全ての情報の比較が必要であるという被告らの主張は、「メディア情報」として備える必要があるメディアファイルの属性(すなわち、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴)について規定する構成要件E1及びE2と、比較される必要があるメディアファイルの情報について規定する構成要件G1及びG2とを区別せずに論じているものであるため、誤りである。すなわち、構成要件E1及びE2は、ホストコンピュータ及びメディアプレーヤー上の「メディア情報」に、メディアコンテンツの特定の属性が備わっている必要があると規定しており、構成要件E1及びE2は、本件発明の主たる目的、つまり、ホストコンピュータ及びメディアプレーヤー間で、音楽ファイル及びその「メディア情報」をシンクロさせるという目的のために、ホストコンピュータ及びメディアプレーヤーに記憶された音楽ファイルの「メディア情報」について、少なくとも、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を備えることを求めている一方、構成要件G1及びG2は、シンクロを行うべきか否かを判断するために比較されるべきメディアファイルに関する情報について規定するものであり、構成要件G1及びG2は、本件発明のもう一つの主たる目的、すなわち、ファイル名及び変更日という、信頼性の乏しい比較対象に依拠していた先行技術のシンクロ方法を改善させるという目的のために、「メディア情報」を比較対象とすることを求めているのである。
 なお、シンクロにおいて比較すべき対象を定める構成要件G1及びG2が「前記(当該)プレーヤーメディア情報と前記(当該)ホストメディア情報とを比較し」と規定しているのは、構成要件E1及びE2の「プレーヤーメディア情報」と「ホストメディア情報」ではなく、構成要件C1及びC2の「プレーヤーメディア情報」と構成要件D1及びD2の「ホストメディア情報」を指しているのであり、このことからも、被告らのクレーム解釈には理由がない。
 また、被告らの主張と異なり、実際には、構成要件G1及びG2は、シンクロを行うべきか否かを判断するために比較されるべき「メディア情報」の内容について制限を課すものではない。本件明細書等の段落【0020】及び【0021】には、シンクロを行うべきか否かを判断するために、メディアファイルについて記憶された全ての情報が比較される必要がないことが明記されており、シンクロを行うべきか否かを判断する際に、メディアファイルに関する属性のいくつか(全てではない)が比較される実施態様について記載されている。本件明細書等のこのような記載を考慮すれば、当業者であれば、構成要件G1及びG2が、シンクロを行うか否かを判断するために、全ての「メディア情報」を比較することを求めていると解釈することはなく、むしろ、構成要件G1及びG2の文言のまま、すなわち、シンクロを行うか否かを判断するためには、いかなる「メディア情報」も比較できると解釈するはずである。そして、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全てを比較対象とすべきであるとする被告らの解釈は、本件明細書等に、シンクロを行うべきか否かを判断するに当たって品質上の特徴の比較を用いていない実施態様が開示されていることを看過するものである。よって、被告らの主張は、明らかに本件明細書等の記載と整合しないものである。
 さらに、被告らは、請求項11、13及び14(本件発明)においては、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴のうち、いずれか一つが異なれば、シンクロが行われるとの見解を示しているが、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴のいずれか一つが異なればシンクロするという解釈ならば、いずれか一つが異なることが判明した時点でシンクロ動作を行うことにすればよく、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全てを比較する必要はない。したがって、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴という3種類全てが比較されなくてはならないという被告らによる解釈は、技術的視点から見ても一貫性がない。
 加えて、被告らは、技術的な視点から、品質上の特徴のみの比較では正確なシンクロができないと主張し、その具体的な事例を挙げているが、被告らが作出した事例は意図的に作り上げた技巧的な事例にすぎないのであり、そもそも本件発明は、考え得る全ての事例についてシンクロ処理が正確になされるものであることを要求しているわけではないから、被告らの主張は理由がない。
〔被告らの主張〕
(1) 「総時間」による比較について
 被告各製品及び「Kies」をインストールしたコンピュータは、保存している楽曲ファイルのファイル名、ファイルサイズに変更があった場合にシンクロを行うものであり、タイトル名、アーチスト名、長さ(総時間)の情報の比較やこれらによる一致・不一致の判定は行っていない。このことは、パーソナルコンピュータと被告各製品に、アーチスト名、アルバム名、タイトル名、総時間等の情報を全く異にする楽曲ファイルが保存されている状態でシンクロを行なわせても、両者の楽曲ファイルが同一となることはなく、他方で、パーソナルコンピュータと被告各製品に、アーチスト名、アルバム名、タイトル名、総時間等の情報を全く同一とする楽曲ファイルが保存されている場合であっても、ファイル名又はファイルサイズが異なる場合には、楽曲ファイルを同一とするシンクロが行われることから明らかである。
 原告は、「総時間」が異なる場合に、パーソナルコンピュータと被告各製品との楽曲が同一となるようにシンクロが行われていると主張するが、そのような事実はない。
 したがって、被告方法が構成要件G1及びG2を充足しないことは明らかである。
(2) 「ファイルサイズ」による比較について
 原告は、ファイルサイズが「メディア情報」に含まれると主張するが、本件発明の「メディア情報」とは、「メディア」(アイテム)に特有の情報であり、ワードファイルやエクセルファイル等の通常のデータファイルにおいても備わっている一般的なファイル情報はこれに含まれるものではない。すなわち、本件明細書等の段落【0013】において「オーディオ、ビデオまたは画像のようなメディア」と記載されているとおり、本件発明の「メディア」とは、「オーディオ、ビデオまたは画像等」のメディアプレーヤー上でプレイすることのできるコンテンツである。そして、クレーム文言上、「ファイル情報」と規定することなく、「メディア情報」とあえて規定していることからして、「メディア情報」が、通常のデータファイルが備える一般的なファイル情報を規定したものでないことは明らかである。また、本件明細書等においても、かかる解釈が当然の前提とされており、例えば、段落【0021】には「メディア情報」が備える「メディアアイテムの属性」の例として、「ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップ及び総時間」、「タイトル、アルバム、トラック、アーチスト及び作家」が挙げられ、段落【0040】には、「タイトル、アルバム、トラック、アーチスト、作曲家およびジャンル」、「ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップ及び総時間」が挙げられており、これらの情報は全て、ワードファイルやエクセルファイル等の通常のデータファイルが備えることのない「メディア」(アイテム)に特有の情報である。加えて、本件明細書等には、その従来技術として、(ワードファイルやエクセルファイル等の通常のデータファイルが備える)「ファイルネーム及び更新日」ではシンクロを行う必要性についての信頼できる指標にはならない傾向があると記載されている(段落【0022】)。さらに、原告自ら、音楽ファイルについては通常のデータファイルのシンクロとは異なるより高度な課題が存在し、これを解決するものが本件発明である旨主張している。
 以上のとおり、本件発明の「メディア情報」とは、「メディア」(アイテム)に特有の情報であり、ワードファイルやエクセルファイル等の通常のデータファイルにおいても備わっている一般的なファイル情報はこれに含まれるものではないから、「ファイルサイズ」は「メディア情報」には当たらない。
 よって、楽曲ファイルのファイル名及びファイルサイズに変更があった場合にシンクロを行うという被告各製品及びパーソナルコンピュータの方法(被告方法)は、構成要件G1及びG2を充足するものではない。
(3) 構成要件G1及びG2において比較されるべき「メディア情報」の範囲について
 構成要件G1及びG2は、メディアプレーヤーの「メディア情報」とホストコンピュータの「メディア情報」を比較し、不一致の場合に、両者が一致するようにメディアコンテンツをシンクロすることを規定しているところ、「メディア情報」が最低限備えなければならない情報について、構成要件E1は、「タイトル名、アーチスト名および品質上の特徴を備えており」と規定しており、構成要件E2は、「タイトル名およびアーチスト名を含む属性および品質上の特徴」と規定していることから、本件発明において比較及びシンクロを行うための「メディア情報」は、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴という三つの情報を最低限備えるものでなければならない。
 したがって、構成要件G1及びG2における「メディア情報」の比較においても、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての情報が比較の対象となり、これらのいずれか一つ、例えばタイトル名が異なる場合に、メディアプレーヤーの「メディア情報」とホストコンピュータの「メディア情報」とが一致するようなシンクロを行うものである。これに対し、被告各製品及びパーソナルコンピュータでは、楽曲ファイルのファイル名及びファイルサイズに変更があった場合にシンクロを行うものであり、少なくとも、タイトル名が不一致である場合であっても、「メディア情報」を一致させるようなシンクロは行われないことから、構成要件G1及びG2を充足するものではない。
(4) 原告の主張に対する反論
ア 「ファイルサイズ」による比較について
 原告は、音楽ファイルの総時間とビットレートを積算することにより音楽ファイル全体のファイルサイズが導かれるとして、ファイルサイズが、「メディア情報」である総時間及びビットレートと密接に関係していることから、音楽ファイルのファイルサイズも「メディア情報」に該当すると主張し、ファイルサイズが、ビットレート及び総時間と同様に、「メディア情報」に含まれるとの印象付けを試みている。しかし、ファイルサイズがビットレート及び総時間に関係するとはいっても、それはビットレートと総時間によってファイルサイズが確定するというような直接的な関係ではない。そのことは、原告自身が、原告の準備書面(8)11頁脚注7において、「音楽ファイルのファイルサイズは、タイトル名、アーチスト名等のメディア情報のデータ量が加わることによって、総時間及びビットレートの積算値よりも若干大きくなり得る。」と述べているとおりである。また、音楽ファイルのフォーマットには、MP3、WMA、AAC、ATRAC3/ATRAC3plus等があるところ、総時間及びビットレートが同一であっても、ファイルフォーマットが異なればファイルサイズは同一とはならない。
 原告の主張は、「メディア情報」に含まれない情報についても、これと何らかの関係が存する場合がありさえすれば「メディア情報」に該当するというものであり、成り立つ余地はなく、そのような解釈は単なる原告の願望にすぎない。
 なお、被告製品1において、「メディア情報」という表題の下にファイルサイズが表示されているから、ファイルサイズが「メディア情報」に含まれるという原告の主張は、「場所」(保存場所)も「メディア情報」に含まれるという帰結になってしまうことから、失当である。
 また、原告は、被告らの親会社である三星電子による特許出願に係る公開特許公報に記載された内容を根拠に、ファイルサイズが「メディア情報」の一つに該当する旨主張しているが、ファイルサイズが「基本メタデータ」となり得るという上記特許公報の記載が、直ちにファイルサイズが本件発明の「メディア情報」に該当するということにならないのは明らかであり、失当である。
イ 構成要件G1及びG2において比較されるべき「メディア情報」の範囲について
 原告は、本件発明の構成要件E1及びE2と構成要件G1及びG2との文言を区別することで、構成要件G1及びG2については、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を比較する必要がないと主張している。
 しかし、本件発明では、「メディア情報」を、「備えているべきメディア情報」と「比較されるべきメディア情報」とに使い分けることを示す記載は何ら見当たらず、むしろ、「メディア情報」の比較を規定する構成要件G1及びG2は、「前記(当該)プレーヤーメディア情報と前記(当該)ホストメディア情報とを比較し・・・」と規定しており、比較すべき「メディア情報」を新たに規定するのではなく、あえて「前記(当該)」との文言を用いているのであるから、構成要件E1及びE2の規定を受けたものである。よって、本件発明に係るシンクロ方法において、これらの情報の比較が行われるべきことは当然であり、本件発明の構成要件の文言を無視して展開される原告の上記主張が成り立つ余地はない。
 また、原告は、本件明細書等の段落【0021】の記載を根拠として、構成要件G1及びG2は、シンクロを行うべきか否かを判断するために比較されるべきメディア情報の属性を限定していないと主張するが、本件発明の技術的範囲は、特許請求の範囲(請求項11、13及び14)の記載により定まるものであり(特許法70条)、特許請求の範囲の記載を無視して、本件明細書等の記載によって、本件発明の技術的範囲を広げるような解釈は許されない。そもそも、本件明細書等の段落【0021】の記載は、シンクロを行うべきか否かを判断するために比較されるべき「メディア情報」には、タイトル、アルバム、アルバムアーチストなどの「メディア属性」が含まれることを前提とし、プラスアルファとして、当該「メディア情報」にビットレート、サンプルレート等の「さらなる属性または特徴」(「メディアアイテムのクオリティの特徴」)を含める構成、若しくは、これを含めない構成のいずれでも可能であることを述べているものである。そして、本件発明のシンクロ方法は、上記プラスアルファとして、ビットレート、サンプルレート等の「さらになる属性または特徴」(「メディアアイテムのクオリティの特徴」)を含める構成である。そうすると、同段落の記載は、原告の主張を何ら裏付けるものではない。
 このほか、本件請求項1の記載との対比により、請求項11、13及び14(本件発明)の技術的範囲が定まることを前提とする原告の主張は、仮に本件請求項1がない場合は、対比すべき請求項が存在しないことにより、原告主張のクレーム解釈の根拠が失われることになるのであって、ある請求項の有無によって、従属関係にない他の請求項の技術的範囲を変動させることと等しく、失当である。
 さらに、技術的視点からしても、例えばタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴のうち、品質上の特徴のみを比較する方法では、ある実施例においては、全くシンクロが実現できないことは明らかであるから、本件発明のシンクロが正しく行われない構成をもたらす原告の主張が成り立つ余地はない。
4 争点(1)エ(構成要件H2の充足性)について
〔原告の主張〕
 被告各製品においては、パーソナルコンピュータ側の属性情報と、被告各製品のメディアプレーヤー側の属性情報とを比較し、両者を比較した情報が不一致を示す場合には、被告各製品に記憶されている一方でパーソナルコンピュータには記憶されていない音楽データ等が、被告各製品から削除されるべき音楽データ等として特定され、その上で、特定された音楽データ等が被告各製品から削除されるところ、どのメディアファイルを削除するのかを判断する際に総時間又はファイルサイズが用いられており、しかもその総時間とファイルサイズが「メディア情報」に含まれることは、前記3〔原告の主張〕のとおりである。
 したがって、被告各製品は、当然に、「前記比較情報が両者の不一致を示しているとき、前記プレーヤーメディア情報には含まれ前記ホストメディア情報には含まれない前記メディアアイテムを、前記メディアプレーヤーから削除されるべきメディアアイテムとして特定すること、および前記特定されたメディアアイテムを前記メディアプレーヤーから削除することを含む方法」(構成要件H2)を実施している。
 よって、被告方法は、本件発明2の構成要件H2を充足する。
 なお、被告各製品においては、被告各製品に記憶された音楽ファイルのファイル名と、パーソナルコンピュータに記憶された音楽ファイルのファイル名が異なる場合に、シンクロが行われた結果、被告各製品に記憶された音楽ファイルが削除される場合があるが、本件発明2においては、ファイル名のようなメディア情報ではない情報について不一致が生じる場合に、被告各製品に記憶された音楽ファイルが削除されることがないとは記載されていないから、被告各製品において、ファイル名が異なる場合に音楽ファイルが削除される場合があるとしても、被告方法が構成要件H2を充足しないことにはならない。
〔被告らの主張〕
 被告各製品及びパーソナルコンピュータにおけるシンクロ方法(被告方法)は、保存している楽曲ファイルのファイル名、ファイルサイズに変更があった場合に、被告各製品及びパーソナルコンピュータ内の楽曲ファイルが一致するようにシンクロを行うものである。
 これに対して、本件発明2の構成要件H2は、メディアプレーヤーの「メディア情報」とホストコンピュータの「メディア情報」を比較し、不一致の場合にメディアコンテンツをシンクロする際に、メディアプレーヤーから不一致を示す「メディア情報」のメディアアイテムを削除することを規定しているところ、この「メディア情報」にファイルサイズが含まれないこと、及び本件発明2で求められる「メディア情報」の比較において、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての情報が比較の対象とされなければならないことは、いずれも前記3〔被告らの主張〕のとおりである。
 よって、被告方法は、構成要件H2を充足しない。
5 争点(1)オ(構成要件F2の充足性)について
〔原告の主張〕
 被告方法は、上記のとおり、本件発明2(請求項13)の各構成要件を充足し、しかも、メディアプレーヤーである被告各製品が記憶する属性情報と、被告各製品と接続されるパーソナルコンピュータが記憶する属性情報は、音楽データ等の品質上の特徴として、個々の音楽データ等の再生に要する時間の長さ、つまり「総時間」を含んでいるから、被告方法は構成要件F2を充足する。
〔被告らの主張〕
 本件発明3(請求項14)は、本件発明2(請求項13)の従属項であるところ、被告方法は本件発明2(請求項13)の構成要件の全てを充足していないのであるから、被告方法が構成要件F2を充足する旨の原告の主張は、失当である。
6 争点(2)(被告各製品を輸入、販売等する行為が特許法101条5号の間接侵害に該当するか否か)について
〔原告の主張〕
(1) 「その方法の使用に用いる物」
ア 被告方法は本件発明の構成要件を全て充足するところ、被告各製品は、パーソナルコンピュータに接続してシンクロさせることで被告方法の使用に用いられているから、被告各製品は本件発明に係る「方法の使用に用いる物」(特許法101条5号)に当たる。
イ この点に関し、被告らは、知的財産高等裁判所平成17年(ネ)第10040号・同年9月30日特別部判決に照らして、特許法101条5号所定の「その方法の使用に用いる物」とは、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施するものに限られ、その物の生産に用いられる物の製造等については、特許権侵害とみなされないから、被告各製品が「その方法の使用に用いる物」には該当しないと主張する。
 しかし、上記知財高裁特別部判決は、特許法101条5号所定の「その方法の使用に用いる物」とは、「その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」をいうとしており、「その物のみを利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」とするような狭い解釈は行っていない。したがって、「その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」には、@特許発明に係る方法の全工程を実施することができる装置だけでなく、A特許発明に係る方法の一部の工程を実施することができる装置や、B特許発明の構成要素である物も含まれると解すべきであり、このように解することが、特許権の実効性を実質的に確保するために認められた間接侵害の趣旨に合致するというべきである。
 本件発明は、メディアプレーヤー及びホストコンピュータ上のメディアコンテンツをシンクロさせる方法の発明であり、その構成要件は、構成要件D1及びD2を除き、全てメディアプレーヤーを含み、又は前提としているのであって、メディアプレーヤーなしでは、本件発明に係るシンクロ方法を実施することができない。そうすると、メディアプレーヤーである被告各製品は、明らかに、「A特許発明に係る方法の一部の工程を実施することができる装置」に当たり、また、「B特許発明の構成要素である物」にも当たる。
ウ よって、被告各製品は、「Kies」をインストールしたパーソナルコンピュータとともに本件発明に係る方法の実施に直接利用される物であり、本件発明に係る方法をその物自体を使用することによって実施し得るものであるから、前記知財高裁特別部判決に照らしても、特許法101条5号所定の「その方法の使用に用いる物」に該当し、間接侵害が認められることとなる。
(2) 「日本国内で広く一般に流通しているもの」
 被告各製品は、上記(1)のとおり、「その方法の使用に用いる物」に当たるところ、その除外事由である「日本国内で広く一般に流通しているもの」には当たらない。すなわち、前記知財高裁特別部判決は、「日本国内で広く一般に流通しているもの」について、「典型的には、ねじ、釘、電球、トランジスター等のような、日本国内において広く普及している一般的な製品、すなわち、特注品ではなく、他の用途にも用いることができ、市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品を意味するものと解するのが相当である。」と判示しているところ、被告各製品には、本件発明に係る方法の使用にのみ用いる部分が含まれており、また、被告各製品は、日用品化されておらず、かつ、低価格な規格品、普及品でないことから、被告各製品は、「日本国内で広く一般に流通しているもの」には当たらない。
(3) 「課題の解決に不可欠なもの」
 本件発明は、「ホストコンピュータおよび/またはメディアプレーヤー上のメディアコンテンツをシンクロまたは管理するための改良されたアプローチのための改良された技術に対する要求」に応えるために(段落【0005】)、この課題を「さまざまなメディアアイテムのメディア属性を用いて」「プレーヤーメディア情報およびホストメディア情報の比較」を実行することにより解決した(段落【0020】及び【0021】)。このような、メディア属性を用いたプレーヤーメディア情報及びホストメディア情報の比較は、メディアプレーヤーである被告各製品をパーソナルコンピュータに接続することなしには実現されないのであるから、被告各製品は本件発明による「課題の解決に不可欠なもの」(特許法101条5号)に該当するというべきである。
(4) 被告らの悪意
 被告らは、遅くとも本件訴状の送達を受けた時から、本件発明が原告の特許発明であることを知っており、しかも、被告製品1ないし3については、遅くとも同訴状の送達を受けた時から、同各製品が本件発明の実施に用いられることを知っていた。さらに、被告製品1の販売開始日である平成22年10月28日から、同様の点について知っていた可能性が高い。また、被告らは、被告製品4ないし8については、遅くともそれぞれの販売開始日(被告製品4につき平成23年10月15日、同5につき同年11月24日、同6につき同年12月10日、同7につき平成24年1月20日、同8につき同年4月6日)から、同各製品が本件発明の実施に用いられることを知っていた。
(5) 小括
 よって、被告らは、本件発明の技術的範囲に属する被告方法の使用に用いる物であって本件発明による課題の解決に不可欠なものである被告各製品につき、本件発明が特許発明であること及び被告各製品が本件発明の実施に用いられることを知りながら、業として被告各製品の譲渡、輸入等を行っていることから、かかる被告らの行為は、本件特許権に対する間接侵害(特許法101条5号)に該当する。
〔被告らの主張〕
(1) 仮に被告各製品及び「Kies」をインストールしたパーソナルコンピュータが、本件発明の構成要件の全てを充足したとしても、被告各製品は、特許法101条5号所定の「その方法の使用に用いる物」に該当しないから、間接侵害は成立しない。
 すなわち、原告の指摘する前記知財高裁特別部判決は、特許法101条5号所定の「その方法の使用に用いる物」とは、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施するものに限られ、その物の生産に用いられる物の製造等については、特許権侵害とみなされないとした。
 本件において、本件発明に係る方法を実施するものは、「携帯電話及びKiesをインストールしたパーソナルコンピュータからなるシステム」であり、個々の携帯電話ないしパーソナルコンピュータは、それ自体で本件発明に係る方法を実施するものではなく、本件発明に係る方法を実施するシステムを構築(生産)するために用いられる物である。したがって、前記知財高裁特別部判決の判示に従えば、被告各製品は、本件発明に係る方法を実施するシステムを構築(生産)するために用いられる物に該当するにすぎず、特許法101条5号所定の「その方法の使用に用いる物」には該当しない。
(2) これに対して、原告は、「その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」には、他の物と組み合わせて使用することによって方法の実施に用いられる物、特許発明に係る方法の一部の工程を実施することができる装置及び特許発明の構成要素である物が含まれると主張するが、これらは、いわゆる間接の間接侵害であって、特許法101条5号所定の「その方法の使用に用いる物」に該当しないことは、前記知財高裁特別部判決が判示しているとおりである。
 よって、被告サムスン電子ジャパンが被告各製品を販売等する行為は、本件特許権の間接侵害(特許法101条5号)を構成しない。
7 争点(3)(被告日本サムスンが被告各製品を輸入、販売しているか否か)について
〔原告の主張〕
 被告らは、いずれも業として、被告方法に用いる被告各製品を輸入、販売等している。
〔被告らの主張〕
 被告サムスン電子ジャパンが被告各製品を輸入、販売等していることは認めるが、被告日本サムスンは被告各製品を輸入、販売等していない。
8 争点(4)(原告の損害額)について
〔原告の主張〕
(1) 被告各製品の売上高
 被告各製品の輸入・販売開始時点から本件訴訟提起又は各訴えの変更申立てまでの売上高は、その販売価格及び輸入・販売台数に基づくと、少なくとも以下のとおりであると考えられ、その合計売上高は、2086億円である。
 被告製品1(平成22年10月28日から平成23年8月23日)
  3万5000円×90万台=315億円
 被告製品2(平成22年11月26日から平成23年8月23日)
  4万5000円×24万台=108億円
 被告製品3(平成23年6月23日から同年8月23日)
  5万5000円×60万台=330億円
 被告製品4(平成23年10月15日から平成24年2月13日)
  6万5000円×15万台=97億5000万円
 被告製品5(平成23年11月24日から平成24年2月13日)
  5万5000円×110万台=605億円
 被告製品6(平成23年12月10日から平成24年2月13日)
  4万5000円×10万台=45億円
 被告製品7(平成24年1月20日から同年4月16日)
  4万5000円×120万台=540億円
 被告製品8(平成24年4月6日から同月16日)
  6万5000円×7万台=45億5000万円
(2) 損害額
 被告らは、本件特許権に対する侵害行為によって利益を受けているため、原告は、特許法102条2項に基づき算定される損害額について、被告らに対して損害賠償を請求するものであるところ、上記(1)の売上高に基づいて被告らが受ける利益が1億円を下回ることは考え難い。
 よって、原告は、この被告らの共同不法行為に基づく損害賠償につき、一部請求として1億円を請求する。
〔被告らの主張〕
 被告製品4ないし6の各販売日は認め、その余は否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 時機に後れた防御方法却下の申立てについて
 原告は、平成24年6月8日付け時機に後れた防御方法却下申立書及び同月20日付け時機に後れた防御方法却下申立書(2)において、被告らが提出した準備書面(7)、同(8)及び乙10ないし11の3につき、いずれも故意又は過失に基づく時機に後れた防御方法であって、本件訴訟の審理の完結を遅延させるものであることが明白であるから、民訴法157条1項により却下されるべきと申し立てた。
 そこで検討するに、被告らの上記各準備書面及び各書証は、いずれも平成24年4月17日の第5回弁論準備手続期日の終了後、同年6月22日の第6回弁論準備手続期日までの間に提出されたものであるところ、その時期は、本件訴えの提起から9か月程度が経過したにすぎない時期であったこと、原告は、これらの提出に対して、上記のとおり異議を申し立てたものの、同月14日付け準備書面(11)において、上記乙10ないし11の3の各書証にも触れながら、被告らの準備書面(7)に対する反論を述べ、同様に、同月21日付け準備書面(12)で、被告らの準備書面(8)に対する反論を述べ、これらの原告の各準備書面は、いずれも上記第6回弁論準備手続期日において陳述されたことは、当裁判所に顕著である。そして、当裁判所は、同弁論準備手続期日において、原被告双方に対し、本件訴訟の侵害論について追加すべき主張立証がないことを確認した上、弁論準備手続を終結し、同日、第2回口頭弁論期日において、弁論を終結した。
 以上によれば、被告らの上記各準備書面の陳述及び各書証の提出が時機に後れたとはいえず、それらの陳述及び各書証の提出によって、本件訴訟の完結が遅延したとの事情も認められないから、これらの防御方法を民訴法157条1項により却下すべきとの原告の主張を採用することはできない。
2 争点(1)ウ(構成要件G1及びG2の充足性)について
 本件の事案に鑑み、まず、被告方法が本件発明の構成要件G1及びG2を充足するか否かについて検討する。
(1) 本件発明の意義
ア 本件特許に係る特許公報には、次の記載がある。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲
 前記第2、2(3)ア、イ及びウ記載のとおり。
(イ) 発明の詳細な説明
【技術分野】
・「本発明は、メディアデバイスに関し、より具体的にはメディアデバイス上のメディアの同期または管理に関する。」(段落【0001】)
【背景技術】
・「シンクロ操作は、電子ファイルまたは他のリソースをシンクロさせるためにパーソナルディジタルアシスタント(PDA)およびホストコンピュータのような携帯デバイス間で従来から行われてきた。例えばこれらのファイルまたは他のリソースは、テキストファイル、データファイル、カレンダーアポイントメント、電子メール、トゥドゥリスト、電子住所録などに関する。しかしこのようなシンクロスキームは、ファイルネームおよび変更日を利用して、ファイルがデバイス間でコピーされるべきかを判断する傾向にある。これらのシンクロスキームは、大きくは自動化されえるが、それでも手動で始動されなければならない。」(段落【0002】)
【発明が解決しようとする課題】
・「よってホストコンピュータおよび/またはメディアプレーヤー上のメディアコンテンツをシンクロまたは管理するための改良されたアプローチのための改良された技術に対する要求がある。」(段落【0005】)
【発明を実施するための最良の形態】
・「・・・。例えばメディアアイテムは、曲についてのメディアファイルに関しえ、比較されるそれぞれのデータベースからのメディア情報は曲目、アルバム名およびアーチスト名を含みえる。その結果、シンクロプロセスは、よりインテリジェントに実行されえる。・・・」(段落【0010】)
・「ある実施形態においてメディアプレーヤーは、オーディオ、ビデオまたは画像のようなメディアを処理する専用の携帯コンピューティングデバイスである。例えばメディアプレーヤー102は、ミュージックプレーヤー(例えばMP3プレーヤー)、ゲームプレーヤー、ビデオプレーヤー、ビデオレコーダー、カメラ、画像ビューワーなどでありえる。・・・」(段落【0013】)
・「・・・。次にプレーヤーメディア情報は、ホストコンピュータ上のメディアデータベースからの第1メディア情報と比較される。このような比較は、プレーヤーメディア情報およびホストメディア情報の間の差に関する比較情報を生成する。・・・例えばメディアアイテム(例えば曲を表すオーディオファイル)は、曲目、アルバム名、および/またはアーチスト名のような、そのメディアアイテムの特徴または属性に関するメディア情報を用いて比較されえる。」(段落【0020】)
・「ある実施形態によれば、プレーヤーメディア情報およびホストメディア情報の比較は、さまざまなメディアアイテムのメディア属性を用いて実行されえる。具体的には、もしそのメディア属性が充分に一致するなら、メディアプレーヤー上のメディアアイテムは、ホストコンピュータ上にあるものと同じメディアアイテムであるとみなされえる。メディア属性の例には、タイトル、アルバム、トラック、アーチスト、作曲家およびジャンルが含まれる。これらの属性は、特定のメディアアイテムについて特定である。さらに他のメディア属性は、メディアアイテムのクオリティの特徴(quality characteristics)に関しえる。そのようなメディア属性の例には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップおよび総時間が含まれる。したがってある実施形態においては、もし上述のメディアプレーヤー上のメディアアイテムに関するメディア属性(例えばタイトル、アルバム、トラック、アーチストおよび作曲家)が、ホストコンピュータ上のメディアアイテムに関する同じメディア属性に全て一致するなら、異なるデバイス上に記憶された2つのメディアアイテムは、さらなる属性または特徴がこれらのメディアアイテムが互いに完全な複製でないと判定されえるとしても、同一であるとみなされえる。・・・」(段落【0021】)
・「したがって本発明のシンクロ処理のインテリジェンスは、データ転送の量が比較的低いか最小限にされるよう適切に管理されるようにする。従来のアプローチはファイルをホストコンピュータから携帯デバイスへ転送することができるが、メディアアイテムを扱うとき、ファイルネームおよび更新日は、データが転送される(すなわちコピーされる)必要があるかの信頼できる指標にはならない傾向にある。その結果、メディアアイテムについての従来のデータ転送技術を用いることは、遅く非効率な操作になり、よってユーザが不満足する経験を生みがちである。」(段落【0022】)
・「メディア情報は、メディアアイテムの特徴または属性に関する。例えば、オーディオまたはオーディオビジュアルメディアの場合、メディア情報は、タイトル、アルバム、トラック、アーチスト、作曲家およびジャンルのうちの少なくとも1つが含まれえる。メディア情報のうちこれらのタイプは、特定のメディアアイテムに特定である。さらにメディア情報は、メディアアイテムのクオリティの特徴に関しえる。メディアアイテムのクオリティ特徴の例は、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップおよび総時間のうちの少なくとも1つが含まれえる。」(段落【0040】)
・「・・・。メディア情報データは、対応するメディアアイテムの属性または特徴に関する。・・・」(段落【0055】)
・「上述の実施形態のうちのいくつかはメディアアイテムとしてオーディオアイテム(例えばオーディオファイルまたは曲)であることが強調されたが、メディアアイテムはオーディオアイテムには限定されない。例えばメディアアイテムは代替として、ビデオ(例えば映画)または画像(例えば写真)に関するものでもよい。」(段落【0070】)
イ 上記記載によれば、本件発明は、従前のデータファイル等の一般的なファイルについて用いられていたファイル名や更新日などの情報の比較によるシンクロ方法には、シンクロが必要か否かの判定についての信頼性に課題があり、また、その処理が遅く非効率であったことから、特にメディアファイルについて、そのような課題を克服し、効率的でインテリジェントなシンクロを実現するために、上記のような一般的なファイルに備わるファイル情報ではなく、タイトル名、アーチスト名などの属性、あるいは、ビットレート、サンプルレート、総時間などの品質上の特徴という「メディア情報」に着目し、そのような「メディア情報」の比較に基づいて、メディアアイテムをシンクロする方法を採用した発明である、と認めることができる。
ウ 本件発明における「メディア情報」の意義
(ア) 本件発明の特許請求の範囲には、「メディア情報」に関し、メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの一つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を備えるものであること(構成要件E1及びE2)、その「品質上の特徴」には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定及び総時間のうちの少なくとも一つが含まれること(構成要件F1及びF2)、さらに、「メディアプレーヤー」は、プレーヤーの「メディア情報」を記憶し、「ホストコンピュータ」は、ホストコンピュータの「メディア情報」を記憶していること(構成要件C1、C2、D1及びD2)がそれぞれ記載されている。
 また、本件明細書等の発明の詳細な説明には、「メディア」ないし「メディアアイテム」について、「メディアアイテムは、曲についてのメディアファイルに関しえ」る(段落【0010】)、「オーディオ、ビデオまたは画像のようなメディア」(段落【0013】)、「メディアアイテムはオーディオアイテムには限定されない。例えばメディアアイテムは代替として、ビデオ(例えば映画)または画像(例えば写真)に関するものでもよい」(段落【0070】)との記載があり、「メディア情報」について、「メディア情報は、メディアアイテムの特徴または属性に関する」(段落【0040】)、「メディア情報データは、対応するメディアアイテムの属性または特徴に関する」(段落【0055】)との記載がある。
 これらの特許請求の範囲及び本件明細書等の記載からすると、本件発明における「メディア」ないし「メディアアイテム」とは、音楽、ビデオ、画像などのメディアプレーヤーで再生可能なコンテンツを意味し、「メディア情報」とは、そのようなメディアないしメディアアイテムの属性又は特徴をいい、そこに少なくともタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を備えるものをいうと解することができる。
 そして、本件明細書等において、上記メディアアイテムの属性又は特徴の例としては、「曲目、アルバム名、および/またはアーチスト名」(段落【0020】)、「タイトル、アルバム、トラック、アーチスト、作曲家およびジャンル」(段落【0021】及び【0040】)が挙げられており、「メディア情報」の一種である「品質上の特徴」の例としては、「ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップおよび総時間」(段落【0021】及び【0040】)が挙げられているところ、これらの記載からすれば、本件発明における「メディア情報」の例として挙げられている上記の種々の属性又は特徴は、メディアアイテムが例えば音楽ファイルである場合における、音楽ファイルに特有の情報を列挙したものと認められる。
 また、本件明細書等によれば、従来、「テキストファイル、データファイル、カレンダーアポイントメント、電子メール、トゥドゥリスト、電子住所録などに関する」「電子ファイルまたは他のリソース」については、携帯デバイス間のシンクロにおいて、「ファイルネームおよび変更日を利用して、ファイルがデバイス間でコピーされるべきかを判断する傾向」(段落【0002】)があったが、そのような「ファイルネームおよび更新日」は、シンクロが必要か否かを判定する上で、「信頼できる指標にならない傾向」があり、シンクロが「遅く非効率」で「ユーザが不満足する経験を生みがちであ」った(段落【0022】)ことから、このような課題を克服するため、本件発明は、「ホストコンピュータおよび/またはメディアプレーヤー上のメディアコンテンツをシンクロまたは管理するための改良されたアプローチのための改良された技術」(段落【0005】)として、メディアコンテンツのシンクロ処理において、ファイル名や更新日ではなく、「メディア情報」を比較することにより、シンクロを「データ転送の量が比較的低いか最小限にされるよう適切に管理されるよう」(段落【0022】)にし、「その結果、シンクロプロセスは、よりインテリジェントに実行されえる」(段落【0010】)ようにしたものであると認められる。
 さらに、本件特許の特許請求の範囲における文言上、「ファイル情報」と規定することなくあえて「メディア情報」と規定しているばかりか、本件明細書等においても、「メディアアイテムが有するファイル情報」などとの用語ではなく、あえて「メディア情報」の用語が用いられているのであって、しかも、その用語は、「メディア情報は、メディアアイテムの特徴または属性に関する」(段落【0040】)などと、メディアアイテムに関連付けて表現されていることが認められる。
(イ) そうすると、本件発明における「メディア情報」とは、一般的なファイル情報の全てを包含するものではなく、音楽、映像、画像等のメディアアイテムに関する種々の情報のうち、メディアアイテムに特有の情報を意味するものと解するのが相当である。
(2) 「総時間」による比較について
 原告は、被告各製品及びパーソナルコンピュータが、本件発明の「メディア情報」の一種である「品質上の特徴」に含まれる「総時間」を比較して、メディアアイテムのシンクロ処理をしているとして、被告方法は構成要件G1及びG2を充足すると主張する。
 しかし、前記第2、2(5)イ記載のとおり、被告各製品は「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で、保存してある楽曲ファイルのシンクロを行うもの(被告方法)であるところ、証拠(乙1ないし6、8及び9)によれば、被告各製品は、「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で音楽ファイルのシンクロを行うに当たり、ファイル名とファイルサイズを用いて、それぞれの音楽ファイルの一致・不一致を判定しているものであって、タイトル名、アーチスト名及び総時間の比較を行っておらず、音楽ファイルのタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴である総時間の全てが異なっても、ファイル名及びファイルサイズが同一である限り、音楽ファイルのシンクロが行われないことが認められる。
 この点に関して、甲10、11、19、26、30及び31に示されたテスト結果によれば、一見すると被告各製品が、パーソナルコンピュータとの間でシンクロを行う際、メディアアイテムのタイトル名、アーチスト名及び総時間を比較しているようにみえ、この点で、上記乙1ないし6、8及び9のテスト結果と矛盾する。しかし、上記各甲号証のテストで用いられたタイトル名、アーチスト名又は総時間が異なるメディアファイルについて、それぞれのファイルサイズが同一であることは何ら示されていない。そうである以上、上記各甲号証においては、ファイルサイズを比較することによって一致・不一致を判定している可能性も否定できないから、上記各甲号証を根拠として、被告各製品が、原告が主張するように、総時間を用いてメディアファイルの一致・不一致を判定していると認めることはできないというべきである。
 よって、被告方法において、「総時間」の比較によってメディアアイテムのシンクロがされているとの原告の主張は採用することができない。
(3) 「ファイルサイズ」による比較について
ア 「ファイルサイズ」の「メディア情報」該当性について
 原告は、本件発明の「メディア情報」には、当然に「ファイルサイズ」が含まれるから、被告方法は構成要件G1及びG2を充足すると主張する。
 しかし、前記(1)ウのとおり、本件発明における「メディア情報」は、音楽、映像、画像等のメディアアイテムに特有の情報を意味すると解すべきところ、証拠〈略〉によれば、楽曲ファイル、ワードファイル及びエクセルファイルにおいて、「ファイルサイズ」は、ファイル名や更新日時といった項目と同列に扱われている一方、楽曲ファイルにおいては、「ファイルサイズ」はアーチスト、アルバムのタイトル、トラック番号、ジャンル、タイトル、長さ、ビットレート、オーディオサンプルレートといった楽曲に特有の情報項目とは区別された項目として分類されていることが認められるから、「ファイルサイズ」は、ファイル名やファイル更新日と同様に、ワードファイルやエクセルファイルなどの通常のファイルに一般的に備わるものであって、音楽ファイル等のメディアアイテムに特有の情報とはいえないというべきである。
 したがって、「ファイルサイズ」は、本件発明における「メディア情報」に該当しないと認めるのが相当である。
イ 原告の主張について
(ア) この点に関して、原告は、本件発明に係る請求項にも本件明細書等にも、「メディア情報」がメディアファイルに特有の情報でなくてはならず、ワード又はエクセルファイル等の通常のデータファイルについて存在してはならないとする裏付けはないと主張する。
 しかし、本件発明に係る請求項及び本件明細書等の各記載からすれば、むしろ「メディア情報」がメディアアイテムに特有の情報を意味すると解すべきことは、前記(1)ウのとおりである。
(イ) また、原告は、音楽ファイルのファイルサイズは、「メディア情報」に含まれる総時間とビットレートの積にほぼ等しく、総時間及びビットレートと密接に関係していることから、音楽ファイルのファイルサイズも「メディア情報」に該当すると主張する。
 確かに、音楽ファイルのファイルサイズが、一般的に総時間とビットレートに関係するものであり、総時間が長いほど、またビットレートが高いほど、ファイルサイズが大きくなることが想定されるが、だからといって、ファイルサイズは総時間とビットレートのみから一義的に定まるものではなく、総時間及びビットレートのほかに、当該ファイルが有する種々のファイル情報のデータ量によって変動するものと考えられ、しかも、証拠〈略〉によれば、音楽ファイルのフォーマットには、MP3、WMA、AAC、ATRAC3/ATRAC3plus等があるところ、総時間及びビットレートが同一の音楽ファイルであっても、そのファイルフォーマット形式によって、ファイルサイズが異なることが認められる。そうすると、総時間及びビットレートがいずれも「メディア情報」に含まれ、ファイルサイズが総時間及びビットレートと関連するからといって、当然に、ファイルサイズも「メディア情報」に含まれるとはいえないというべきである。
 なお、原告は、メディアファイルのファイルサイズは総時間とビットレートに密接に関連するものであるのに対し、通常のデータファイルのファイルサイズは総時間とビットレートとの関係性を欠いているから、両ファイルの性質が根本的に異なるとして、音楽ファイルのファイルサイズのみが「メディア情報」に該当するとも主張するが、そもそも通常のデータファイルには、総時間やビットレートのような属性が存在せず、そのファイルサイズが総時間やビットレートと関係性を有することはあり得ないのであるから、それを根拠に、メディアファイルのファイルサイズと通常のファイルのファイルサイズが別物であるとする原告の主張は採用することができない。
(ウ) 加えて、原告は、技術的に見て、シンクロのためにファイルサイズを比較することと総時間を比較することとは違いがないとも主張する。
 しかし、仮に技術的に相違がないとしても、前記アのとおり、ファイルサイズと総時間とは、前者が通常の情報ファイルに一般的に備わる情報項目であるのに対し、後者はメディアアイテムに特有の情報項目であるという、本件発明の意義に照らして有意な差異があるのであるから、単に技術的に相違がないことを理由としてファイルサイズと総時間とを同視できるわけではないことは明らかである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) さらに、原告は、音楽ファイルのファイル名及び変更日と、音楽ファイルのファイルサイズとを同一視するのは相当でないと主張する。
 確かに、本件明細書等においては、ファイル名及び変更日が、適切なシンクロのための信頼できる指標にならないと記載されている箇所がある(段落【0022】)ものの、ファイルサイズが同様に信頼できないとは記載されていない。しかし、同時に、本件明細書等には、本件発明が、適切なシンクロ処理のために、ファイル名や変更日に代えて採用した「メディア情報」の中に、ファイルサイズが含まれることを裏付け、又はこれを示唆する記載があるわけでもない。そして、前記(1)ウのとおり、「メディア情報」をメディアアイテムに特有の情報と解する限り、通常のデータファイルにも備わるファイルサイズは、ファイル名及び変更日と同様、「メディア情報」には含まれないと解することに何ら支障はないというべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。
(オ) このほか、原告は、被告製品1では、「メディア情報」の表題の下に、音楽ファイルについてのタイトル名、総時間などの属性とともに、ファイルサイズが記載されていることから、被告らが、ファイルサイズが「メディア情報」であることを認めていると主張する。
 確かに、証拠〈略〉によれば、被告製品1では、「メディア情報」という表題の下に、音楽ファイルについてのその他の属性(タイトル、アルバム、再生時間等)とともに、その音楽ファイルの「サイズ」が記載されていることが認められる。
 しかし、そもそも本件全証拠を精査しても、当業者において、「メディア情報」という用語が、技術常識あるいは定義に基づいて確定的な意味を有する用語として使用されていると認めるに足りる証拠はないから、たまたま被告製品1に関して、被告らが「メディア情報」との表題の下にその下位概念として「サイズ」を含めて用いていたとしても、それが必ずしも本件発明における「メディア情報」と同義であるということはできない。また、上記証拠によれば、被告製品1は、「メディア情報」の表題の下に、タイトル、アルバム、サイズなどのほかに、当該音楽ファイルが保存されている「場所」をも表示していることが認められるから、上記原告の論法によれば、ファイルの保存「場所」も本件発明における「メディア情報」に含まれることになるところ、原告の主張を前提としても「場所」が本件発明におけるメディアファイルの一致・不一致の判定のための比較対象とされることはないと考えられるから、原告の上記主張は採用することができない。
 次に、原告は、被告らの親会社である三星電子が出願した特許の公開特許公報(特開2007−299382号公報)において、ファイルサイズが、「曲の長さ、歌手、・・・アルバムの題名など」と同じく、音楽ファイルの「基本メタデータ」であると記載されていることを理由に、被告らの親会社も、ファイルサイズが本件発明の「メディア情報」に当たることを認めていると主張する。
 確かに、証拠〈略〉によれば、上記公開特許公報に、「基本メタデータ402はメディアコンテンツに対する基本情報を保存したものを意味し、例えば音楽ファイルの場合には基本メタデータ402として歌の題名、ファイルサイズ、曲の長さ、歌手、作曲家、製作者、アルバムの題名などとなり得る」(段落【0053】)との記載があることが認められる。
 しかし、たとえ被告らの親会社が出願した特許の公開特許公報において上記のような記載があったとしても、同公開特許公報における「基本メタデータ」が、本件発明における「メディア情報」と同義であると解すべき根拠はないから、この点に関する原告の主張も採用することはできない。
ウ 構成要件の充足性について
 以上のとおり、本件発明における「メディア情報」は、メディアアイテムに特有の情報を意味すると解され、通常のファイルに一般的に備わっている情報項目であるファイルサイズは、この「メディア情報」には該当しない。
 したがって、ファイルサイズを用いたシンクロ方法(被告方法)は、「メディア情報」を比較するものとはいえず、構成要件G1及びG2を充足するものと認めることはできない。
(4) 構成要件G1及びG2において比較されるべき「メディア情報」の範囲について
ア 比較されるべき「メディア情報」の意義
 この点に関して、原告は、本件請求項1とは異なり、請求項11、13及び14(本件発明)においては、単に「メディア情報」が比較対象となることが規定されているのであって、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全てを比較対象とすることを求めているものではなく、そもそもいかなる具体的な属性の比較をも求めているものではないと容易に理解できるから、「ファイルサイズ」の比較は、この「メディア情報」の比較にほかならず、被告方法は構成要件G1及びG2を充足すると主張する。
 しかし、構成要件E1及びE2は、それぞれ「前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、・・・、メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名、アーチスト名および品質上の特徴を備えており」、「前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、・・・、メディアアイテムの少なくともタイトル名およびアーチスト名を含む属性および品質上の特徴を備えており」と規定しているのであるから、「メディア情報」には、少なくともタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴が含まれることが明らかであるところ、構成要件G1及びG2は、それぞれ構成要件E1及びE2に続いて、「前記プレーヤーメディア情報」「前記ホストメディア情報」又は「当該プレーヤーメディア情報」「当該ホストメディア情報」と、いずれも「前記」又は「当該」の用語を用いていることからすれば、構成要件G1及びG2の「メディア情報」は、構成要件E1及びE2の「メディア情報」と同様に、少なくともタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を含むものと解するのが相当である。
 そして、構成要件G1及びG2の記載によれば、そのようにタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を含む「メディア情報」について、メディアプレーヤーに記憶されるプレーヤーメディア情報(構成要件C1及びC2)とホストコンピュータに記憶されるホストメディア情報(構成要件D1及びD2)との比較を行って、「両者の一致・不一致を判定し」(構成要件G1)、又は、「両者の一致または不一致を示す比較情報」(構成要件G2)を得ることになるから、ここで比較されるべき「メディア情報」には、構成要件E1及びE2と同様に、少なくともタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴が含まれるものと解される。
 また、技術的に見ても、上記のとおり、構成要件G1及びG2は、メディアプレーヤーに記憶されるプレーヤーメディア情報とホストコンピュータに記憶されるホストメディア情報との比較を行って、「両者の一致・不一致を判定し」(構成要件G1)、又は、「両者の一致または不一致を示す比較情報」(構成要件G2)を得ることを規定しているところ、広辞苑(新村出編、株式会社岩波書店2008年1月11日発行、第6版第1刷)によれば、「一致」とは、「@二つ以上のものが、くいちがいなく一つになること。合一。」のことであり、その意義は明確であるところ、プレーヤーメディア情報とホストメディア情報が「一致」するというためには、それぞれに含まれる情報の全てを比較し、それらに食い違いがないことが確認されなければならないことは明らかであるから、比較される二つの「メディア情報」について、情報の一部を比較した段階で、両者が不一致と判定されることはあり得るものの、最終的に「一致」の判定をするためには、二つの「メディア情報」に含まれる情報の全てを比較しなければ、その結論を得ることはできないはずである。
 以上のとおり、構成要件G1及びG2に「両者の不一致」の判定のみならず、「両者の一致」の判定を得る場合が明記されている以上、構成要件G1及びG2における「メディア情報」の比較においては、「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全てが比較されることが当然の前提とされていると解するのが相当というべきである。
イ 原告の主張について
(ア) これに対して、原告は、構成要件E1及びE2が、「メディア情報」として備える必要があるメディアファイルの属性について規定するのに対し、構成要件G1及びG2が、比較される必要があるメディアファイルの情報について規定するとして、両規定の違いを主張する。
 しかし、上記アのとおり、構成要件G1及びG2は、それぞれ構成要件E1及びE2に続いて、「前記」又は「当該」の用語を用いていることからすれば、原告のいうように、「メディア情報」の用語を構成要件E1及びE2と構成要件G1及びG2とで異なるものと理解することは相当でない。
 同様に、原告が、構成要件G1及びG2の「前記(当該)プレーヤーメディア情報」と「前記(当該)ホストメディア情報」が、構成要件E1及びE2の「プレーヤーメディア情報」と「ホストメディア情報」ではなく、構成要件C1及びC2の「プレーヤーメディア情報」と構成要件D1及びD2の「ホストメディア情報」を指していると主張する点についても、上記と同様の理由により、相当とは認められない。
(イ) また、原告は、本件明細書等の段落【0020】及び【0021】には、シンクロを行うべきか否かを判断するためにメディアファイルについて記憶された全ての情報が比較される必要がないことが明記され、シンクロを行うべきか否かを判断する際に、メディアファイルに関する属性のいくつかが比較される実施態様について記載されているから、被告が主張するように「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全てが比較されることは前提とされていないと主張する。
 確かに、本件明細書等の段落【0020】には、「・・・プレーヤーメディア情報は、ホストコンピュータ上のメディアデータベースからの第1メディア情報と比較される。・・・例えばメディアアイテム(例えば曲を表すオーディオファイル)は、曲目、アルバム名、および/またはアーチスト名のような、そのメディアアイテムの特徴または属性に関するメディア情報を用いて比較されえる。」と記載され、「または」との文言が用いられており、また、段落【0021】には、「メディアプレーヤー上のメディアアイテムに関するメディア属性(例えばタイトル、アルバム、トラック、アーチストおよび作曲家)が、ホストコンピュータ上のメディアアイテムに関する同じメディア属性に全て一致するなら、異なるデバイス上に記憶された2つのメディアアイテムは、さらなる属性または特徴がこれらのメディアアイテムが互いに完全な複製でないと判定されえるとしても、同一であるとみなされえる。」と記載されており、特定のメディア属性が一致する場合に、他の属性又は特徴が一致せず、完全な複製でないと判定されるときでも、同一とみなされる(すなわち、シンクロされない)ことがあり得ることが示されている。
 しかし、上記アのとおり、本件発明の特許請求の範囲の記載からは、構成要件G1及びG2におけるメディア情報の比較は、「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての比較を要求していることが一義的に明らかであるから、原告が指摘するような本件明細書等の記載をもって、特許請求の範囲の文言を無視して、同文言を別異に解釈しなければならないものではない。
(ウ) さらに、原告は、本件請求項1が、比較される必要のある特定の種類のメディア情報として、「タイトル名およびアーチスト名との比較」及び「品質上の特徴の比較」を明記しているのに対して、請求項11、13及び14(本件発明)に関する構成要件G1及びG2には、そのような記載がないことから、当業者であれば、この相違を認識した上で、請求項11、13及び14(本件発明)が、いかなる具体的な属性の比較をも求めているものではないと容易に理解できると主張する。
 この点、本件請求項1は、「メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって、メディアプレーヤーの前記ホストコンピュータへの接続を検出する処理と、前記メディアプレーヤーおよび前記ホストコンピュータの間でメディアコンテンツをシンクロさせる処理とからなり、前記メディアプレーヤーは、該メディアプレーヤーにより再生可能なメディアコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、少なくともタイトル名およびアーチスト名を含むプレーヤーメディア情報を記憶する第1メディアデータベースを備え、前記ホストコンピュータは、メディアアイテム毎に、少なくともタイトル名およびアーチスト名を含むホストメディア情報を記憶する第2メディアデータベースを備え、前記シンクロさせる処理は、前記メディアプレーヤーの前記ホストコンピュータへの接続が検出されたとき、前記プレーヤーメディア情報を、前記メディアプレーヤー上に設けられた前記第1メディアデータベースから読み出す処理と、該プレーヤーメディア情報のうち少なくともタイトル名およびアーチスト名と、前記ホストコンピュータ上に設けられた前記第2メディアデータベースから取り出した前記ホストメディア情報に含まれるタイトル名およびアーチスト名との比較、および前記各メディアアイテムの品質上の特徴の比較とを行ない、前記第1メディアデータベース上のメデイアコンテンツについて、一致または不一致を示す比較情報を生成する処理と、前記比較情報によって、一致していないメディアアイテムが見い出されたとき、該メディアアイテムが前記メディアプレーヤーおよび前記ホストコンピュータの間でコピーされると判断する処理と、前記判断されたメディアアイテムをコピーすることにより、前記シンクロを実現する処理とを含み、前記品質上の特徴は、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つを含む方法。」というものであるが、本件請求項1の記載が、このように「第1メディアデータベース」、「第2メディアデータベース」に含まれる「メディア情報」のうち、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴という特定の種類の情報を比較すべきことを明記しているからといって、これとの対比から、当然に、請求項11、13及び14(本件発明)の記載について、原告主張の解釈が導かれるとはいい得ない。むしろ、本件請求項1が、「メディア情報」のうち比較されるべき特定の情報を限定して記載しており、請求項11、13及び14(本件発明)にはそのような限定的な記載がないことからすれば、原告の主張とは逆に、請求項11、13及び14(本件発明)においては、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を含むメディア情報の全ての比較が要求されていると解することも可能である。
ウ 以上によれば、構成要件G1及びG2においては、タイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を備える「メディア情報」の比較において、それらの全てを比較することが求められているものと解される。
 これに対し、前記(2)で認定したとおり、被告各製品は、「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で音楽ファイルのシンクロを行うに当たり、ファイル名とファイルサイズを用いて、それぞれの音楽ファイルの一致・不一致を判定しており、音楽ファイルのタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴である総時間の全てが異なっても、ファイル名及びファイルサイズが同一である限り、音楽ファイルのシンクロが行われないことが認められる。
 そうすると、この点においても、被告方法は、構成要件G1及びG2を充足しないと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する原告の主張、すなわち、本件発明においては、本件請求項1とは異なり、そもそもいかなる具体的な属性の比較をも求めているものではなく、「ファイルサイズ」の比較は、本件発明にいう「メディア情報」の比較にほかならず、構成要件G1及びG2を充足する旨の主張は採用することができない。
(5) 小括
 上記(1)ないし(4)によれば、被告方法は、本件発明1の構成要件G1及び本件発明2の構成要件G2をいずれも充足せず、したがって、本件発明1及び同2の技術的範囲に属するとは認められない。
3 争点(1)エ(構成要件H2の充足性)について
 前記2(2)で認定したとおり、被告各製品は、「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で音楽ファイルのシンクロを行うに当たり、ファイル名とファイルサイズを用いて、それぞれの音楽ファイルの一致・不一致を判定しており、音楽ファイルのタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴である総時間の全てが異なっても、ファイル名及びファイルサイズが同一である限り、音楽ファイルのシンクロは行われず、音楽ファイルが被告各製品から削除されることはない。
 そうすると、被告方法は、構成要件H2を充足せず、この点においても、本件発明2の技術的範囲に属するとは認められない。
4 争点(1)オ(構成要件F2の充足性)について
 原告は、被告方法が、本件発明2(請求項13)の各構成要件を充足し、かつ、被告各製品及びパーソナルコンピュータが記憶する属性情報には、音楽データ等の品質上の特徴として「総時間」が含まれるから、被告方法は構成要件F2を充足すると主張するが、上記2及び3のとおり、被告方法は、本件発明2(請求項13)の構成要件G2及びH2を充足せず、しかも、本件発明3(請求項14)は本件発明2(請求項13)の従属項であるから、結局、被告方法は、構成要件F2を充足しない。
 したがって、被告方法は、本件発明3の技術的範囲に属するとは認められない。
5 結論
 以上のとおり、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 田中孝一
 裁判官 足立拓人


別紙 当事者目録
原告 アップル インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 長沢幸男
同 矢倉千栄
同 永井秀人
同 金子晋輔
同訴訟復代理人弁護士 稲瀬雄一
同 石原尚子
同 蔵原慎一朗
同 片山英二
同 北原潤一
同 岡本尚美
同訴訟代理人弁理士 大塚康徳
同補佐人弁理士 大塚康弘
被告 日本サムスン株式会社
被告 サムスン電子ジャパン株式会社(旧商号 サムスンテレコムジャパン株式会社)
両名訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 市橋智峰
同 井上義隆
同 小林英了
同 三村量一
同 田中昌利
同 岡田紘明
同訴訟復代理人弁護士 飯塚暁夫
同訴訟代理人弁理士 鈴木守

別紙 被告製品目録
1 GALAXY S SC−02B
2 GALAXY Tab SC−01C
3 GALAXY S II SC−02C
4 GALAXY Tab 10.1 LTE SC−01D
5 GALAXY S II LTE SC−03D
6 GALAXY Tab 7.0 Plus SC−02D
7 GALAXY S II WiMAX ISW11SC
8 GALAXY Note SC−05D
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日本ユニ著作権センター
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