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【事件名】“薬剤便覧”の編集著作物性事件
【年月日】平成24年8月31日
 東京地裁 平成20年(ワ)第29705号 出版差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年6月1日)

判決
原告 株式会社南江堂
訴訟代理人弁護士 藤原宏高
同 九石拓也
訴訟復代理人弁護士 関口尚久
同 板倉 陽一郎
同 吉鹿央子
同 井茂喜之
同 山田康成
同 葛山弘輝
同 武田昇平
被告 株式会社じほう
訴訟代理人弁護士 三村量一
同 大野聖二
同 井上義隆
同 平津慎副


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、5536万円及び内金4536万円に対する平成20年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、別紙書籍目録1記載の書籍(以下「原告書籍」という。)を発行した原告が、同目録2記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を発行した被告に対し、被告書籍の薬剤便覧部分は、素材を薬剤又は薬剤情報とする原告書籍の編集著作物を複製又は翻案したものであり、被告が被告書籍を印刷及び販売する行為は上記編集著作物について原告が保有する著作権(複製権及び譲渡権(いずれも著作権法28条に基づくものを含む。以下同じ。))の共有持分の侵害に当たる旨主張し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、図書雑誌の出版並びに輸入販売及び受託販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、日刊新聞の発行・書籍その他刊行物の出版・販売及び情報提供サービス等を目的とする株式会社である。
(2) 原告書籍
ア 原告書籍は、医師、薬剤師等の医療従事者向けに、薬剤を分類し、薬剤情報を掲載した薬剤便覧及び分類された薬剤群の解説を掲載した書籍である(甲1)。
 原告は、昭和52年8月1日に「今日の治療薬 解説と便覧」と題する書籍(以下「今日の治療薬」という。)の初版を発行し、その後改訂を重ね、昭和57年以降は毎年改訂を行っており、その「2007年度版」である原告書籍は、平成19年2月15日に改訂第29版として発行された。
イ 原告書籍(本文の総頁数1140頁)は、便覧部分において、漢方薬を除く薬剤(以下「一般薬」という。)については「薬剤名」、「組成・剤形・容量」、「用量」、「備考」の四つの項目欄を設け、漢方薬については「薬剤名」、「組成・容量・〔1日用量〕」、「備考」の三つの項目欄を設け、各薬剤について一覧表形式により薬剤情報を掲載している(以下、一般薬に係る掲載部分を「原告書籍一般薬便覧部分」、漢方薬(一部生薬を含む。)に係る掲載部分(1035頁ないし1061頁)を「原告書籍漢方薬便覧部分」といい、これらを併せて「原告書籍便覧部分」と総称する。)。
 原告書籍一般薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、別表1−1のとおりであり、その具体的な掲載例は、別紙1−1のとおりである(甲1、54)。
 また、原告書籍漢方薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、別表1−2のとおりであり、その具体的な掲載例は、別紙1−2のとおりである(甲1)。
ウ 原告書籍の編集作業は、聖マリアンナ医科大学名誉教授A(以下「A教授」という。)とともに、原告の発意に基づき原告の業務に従事する者が職務上行ったものであり、原告書籍は、A教授及び原告の著作名義の下に公表されたものである(甲1、3)。
 A教授は、平成20年5月7日に死亡したが、原告とA教授は、A教授の生前、原告書籍に係る著作権の共有持分割合について原告を10分の9、A教授を10分の1とする旨の合意をした(甲43の1、62、弁論の全趣旨)。
(3) 被告書籍
ア 被告は、平成20年1月25日、医師、薬剤師等の医療従事者向けに、薬剤を分類し、薬剤情報を記載した薬剤便覧及び分類された薬剤群に関する説明を掲載した被告書籍を発行した(甲2)。
イ 被告書籍(本文の総頁数1382頁)は、一般薬及び漢方薬の各薬剤について、「品名、規格単位」、「適応、用法・用量」、「警告、禁忌、副作用等」の三つの項目欄と適宜「臨床情報」の項目欄を設け、各薬剤について一覧表形式により薬剤情報を掲載している(以下、一般薬に係る掲載部分を「被告書籍一般薬便覧部分」、漢方薬に係る掲載部分を「被告書籍漢方薬便覧部分」といい、これらを併せて「被告書籍便覧部分」と総称する。)。
 被告書籍一般薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、別表2−1のとおりであり(ただし、平成19年9月以降に薬価収載された「新薬」の分類項目に分類された薬剤を除く。)、その具体的な掲載例は、別紙2−1のとおりである(甲2、55)。
また、被告書籍漢方薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、別表2−2のとおりであり、その具体的な掲載例は、別紙2−2のとおりである(甲2、18)。
3 争点
 本件の争点は、原告書籍便覧部分の編集著作物性及び被告による著作権侵害の有無(争点1)、原告の損害額(争点2)である。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告書籍便覧部分の編集著作物性及び被告による著作権侵害の有無)について
(1) 原告の主張
ア 原告書籍便覧部分の編集著作物性
 原告書籍便覧部分は、個々の具体的な「薬剤」、漢方薬の処方名(一般名)(以下「漢方処方名」という。)又は漢方薬薬剤情報を素材とし、原告書籍一般薬便覧部分については、素材である個々の具体的な薬剤の選択及びその配列に創作性を有し、原告書籍漢方薬便覧部分については、素材である個々の具体的な薬剤の選択、素材である漢方処方名の配列、素材である漢方薬薬剤情報の選択及び配列にそれぞれ創作性を有する編集著作物(著作権法12条1項)である。
(ア) 原告書籍一般薬便覧部分における「薬剤」の選択の創作性
a 原告書籍一般薬便覧部分は、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている全ての薬剤を母集団とし、原告独自の5層の分類体系(13の大大分類、68の大分類、592の中分類、148の小分類及び一般名の計5層の分類体系。以下、この分類体系を「本件分類体系」という。)に関連付けて薬剤の取捨選択を行い、かつ、選択された薬剤について、その重要度や使用頻度等に応じて、赤丸表記とするもの、小文字表記とするものを決定し、これにより素材である個々の具体的な「薬剤」の選択がされている。
 本件分類体系は、@薬剤の効能、作用部位及び用途等の観点からなる13の「大大分類」(具体的には、「病原微生物に対する薬剤」、「抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬」、「炎症、アレルギーに作用する薬剤」、「糖尿病治療薬、高脂血症治療薬、痛風・高尿酸血症治療薬」、「ホルモン剤、骨・カルシウム代謝薬」、「ビタミン製剤、輸液・栄養製剤」、「血液製剤、血液に作用する薬剤」、「循環器系に作用する薬剤」、「呼吸器系に作用する薬剤」、「消化器系に作用する薬剤」、「神経系に作用する薬剤」、「感覚器官用剤」及び「その他」とする分類)、A「大大分類」を、薬剤の特徴的な効能、作用部位及び用途等の観点から細分化した68の「大分類」、B「大分類」を、化学的な組成、作用及び用途等の観点から細分化した592の「中分類」、C「中分類」のうち、臨床現場で薬剤を選択する上で更に有効な区分けが必要なものについて細分化した148の「小分類」、D商品名とは別に有効薬効成分に付けられた名称である薬剤の「一般名」による分類の5層の階層的な構造を有している。
 そして、多数ある個々の具体的な「薬剤」の全てに関し、重要性等の評価基準が複数の編集者で完全に一致することはあり得ない以上、分類体系に関連付けた上で、多数ある薬剤の中から掲載すべき薬剤として何を選択し、かつ、何を重要度の高いものとして赤丸表記とすべきかという点は必ずしも一義的に定まるものではなく、編集者の学識、経験等に基づき、個性を発揮する余地がある。特に、原告書籍便覧部分では、利用者の検索の便宜を考慮して、本件分類体系に基づき個々の具体的な「薬剤」が分類されており、ゆえに、薬剤の選択も、本件分類体系を前提とし、当該薬剤が本件分類体系のいずれに分類されるかという観点を考慮して行われている。本件分類体系は、我が国における薬剤の公式な薬効分類である日本標準商品分類や他の類書で採用されている分類体系など既存の薬剤分類体系などと異なり、独自性を有するものであるから、本件分類体系に従って薬剤を選択する場合には、既存の分類体系に従って薬剤を選択した場合と自ずと結果が異なったものとなるはずであり、分類体系の創作性は、素材である個々の具体的な「薬剤」の選択に実質的な影響を及ぼしているといえるから、その選択の創作性を基礎付けるものとして斟酌されるべきである。
 原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な「薬剤」の選択は、 例えば、別紙1−1の(1)の「サイレース」には、錠剤と注射剤があり、それぞれの添付文書によれば、錠剤の効果効能は不眠症及び麻酔前投薬である一方で、注射剤の効果効能は全身麻酔の導入及び局所麻酔時の鎮静であるから(甲16の2ないし5)、錠剤は原告書籍の大分類の項目「抗不安薬、睡眠薬」に、注射剤は原告書籍の大分類の項目「麻酔薬」に掲載されるべきところ、原告は、「サイレース」の薬剤が最も用いられる方法や分野を考慮して、大分類の項目「抗不安薬、睡眠薬」に一括して掲載するよう分類した上で、臨床現場での重要性や使用頻度に鑑みて、エーザイ株式会社(以下「エーザイ」という。)の製造販売に係る商品名「サイレース」の「1mg錠」、「2mg錠」及び「注」(「錠」は錠剤の略称記号、「注」は注射剤の略称記号)という具体的な3種類の薬剤(別表1−1の「通し番号」7858ないし7860)を選択している。
 このように原告書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤、さらにその中でより重要度の高いものとされた薬剤(赤丸表記されたもの)は、原告書籍独自の本件分類体系を前提とし、これに関連付けて分類をされた上で、臨床現場での重要性や使用頻度、原告書籍の執筆者の学識や経験等に基づく意向、読者の要望等の基準に従って選択されたものであり、誰が選択をしても一義的に定まるものではないから、原告書籍一般薬便覧部分は、素材である個々の具体的な「薬剤」の選択において創作性を有する編集著作物に該当する。
b この点に関し、被告は、後記のとおり、原告書籍一般薬便覧部分は、一般薬について、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている薬剤のほぼ全てを選択したものであり、その選択において創作性はない、原告主張の本件分類体系への関連付けは、個々の薬剤を具体的に選択した後における本件分類体系への当てはめにすぎず、素材の選択の創作性とは無関係であり、原告は、本件分類体系というアイデアの保護を求めているにすぎないなどと主張する。
 しかしながら、原告は、厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている薬剤のほぼ全てを選択しているものではないし、個々の薬剤を選択した後に本件分類体系への当てはめを行っているものでもない。また、編集方針や編集方法の創作性は素材の選択又は配列の創作性の一内容をなすものであるのに、被告の上記主張は、原告書籍一般薬便覧部分において現に行われている原告書籍独自の本件分類体系に基づく薬剤の選択という一連一体の行為を、本件分類体系そのものと、本件分類体系を排除した薬剤の選択とに分断した上で、薬剤の選択の創作性については、本件分類体系は一切考慮することはできないとするものであり、失当である。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告書籍一般薬便覧部分における「薬剤」の配列の創作性
a 編集著作物における素材の配列の創作性は、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という個々の素材相互の空間的又は物理的な順序の創作性をいう。
 原告は、@一覧表形式の原告書籍独自のフォーマット、A原告書籍独自の本件分類体系、B本件分類体系に基づいてその一部(大大分類、大分類、中分類)を取り込んで作成された原告書籍独自の目次部分、C本件分類体系と関連付けるように大分類の略語を併記するなど検索の利便性のために表記方法を工夫した原告書籍独自の索引部分をそれぞれ組み合わせ、臨床現場での使用頻度や重要性を踏まえ、原告書籍一般薬便覧部分において、本件分類体系に基づいて、上記フォーマットに従って、素材である個々の具体的な「薬剤」を配列している(各薬剤の配列順序は、別表1−1の「商品名」欄及び「剤形」欄参照)。
 原告書籍一般薬便覧部分における具体的な薬剤の配列(甲1)は、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的かつ物理的な順序において、他の類書と顕著に異なる原告独自の配列態様になっていることは一見して明らかであり、原告書籍一般薬便覧部分は、素材である個々の具体的な「薬剤」の配列において創作性を有する編集著作物に該当する。
b この点に関し、被告は、後記のとおり、本件分類体系及びフォーマットはアイデアにすぎない、目次や索引部分は、原告が編集著作物としての保護を求める対象としている便覧部分ではなく、無関係であるなどと主張する。
 しかしながら、薬剤及び薬剤情報を分類する場合には、薬剤の特性による内在的制約が存することはもちろん、医療従事者が臨床の現場で必要とする情報を効率的に検索できるようにするという編集物の目的、性質からも、薬剤の分類の仕方はある程度制約を受けることになるので、薬剤情報の提供を目的とした編集物において標準的に採用されるべき分類基準を作成したにすぎない場合には、当該基準の創作をもって素材の配列の創作性があるものと判断することはできないのに対し、本件分類体系は、大大分類から一般名による分類に至るまでの最大5層の階層構造を有し、その内容は、我が国における薬剤の公式な薬効分類である日本標準商品分類と異なるものであり、また、他の類書とも異なるものであって、その結果、各薬剤の具体的な分類の仕方も異なったものとなっている。
 そして、それ自体は編集著作物として保護されない編集方針や編集方法であっても、素材の選択又は配列行為と具体的な関わりを有し、その内容に実質的な影響を与えているものについては、その創作性を素材の選択又は配列の創作性として斟酌すべきであるところ、原告は、本件分類体系、フォーマット、目次や索引部分自体の保護を求めているのではなく、これらは、原告書籍一般薬便覧部分における素材である個々の具体的な「薬剤」の配列内容に実質的な影響を与えるものであるから、これらの創作性を斟酌すべきであると主張するものである。
 また、被告の上記主張は、原告書籍一般薬便覧部分において現に行われている原告書籍独自の本件分類体系に基づく薬剤の配列という一連一体の行為を、本件分類体系そのものと、本件分類体系を排除した薬剤の選択とに分断した上で、薬剤の配列の創作性については、本件分類体系は一切考慮することはできないとするものであり、失当である。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(ウ) 原告書籍漢方薬便覧部分における「薬剤」の選択の創作性
a 原告書籍漢方薬便覧部分は、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている784個の漢方薬及び1627個の生薬(日本標準商品分類の薬効分類(甲5の2)の「51 生薬」に含まれる1615個と同分類「59 その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品」に含まれる生薬の医薬品エキス12個の合計)を母集団とし、様々な臨床事例、臨床現場における声、臨床現場での重要性及び使用頻度等を踏まえて、@漢方処方名ごとに株式会社ツムラ(以下「ツムラ」という。)、カネボウ株式会社(現商号「クラシエ薬品株式会社」。以下、「カネボウ」、「カネボウ(現クラシエ)」又は「クラシエ」という。)及び小太郎漢方製薬株式会社(以下「小太郎」という。)の3社(以下「漢方3社」と総称する。)が製造販売する当該漢方処方名に属する薬剤を全て選択する、A漢方3社が製造販売していない漢方処方名に属する薬剤であっても、漢方専門医が臨床で使用する重要度の高い薬剤を選択するという編集方針の下に、原告書籍漢方薬便覧部分に掲載しない薬剤と掲載する薬剤とを取捨選択し、これにより素材である個々の具体的な「薬剤」の選択がされている。
 例えば、別紙1−2記載の「安中散〈アンチユウサン〉」(甲1の1035頁)についてみると、これには漢方3社が製造販売する薬剤が存在することから、原告は、その全ての薬剤を選択し、原告書籍漢方薬便覧部分において、製造販売会社と剤形及び製品番号を併せて略記したものとして、「ツムラ顆粒(5)、コタロー細粒(N5)、カプセル(NC5)、カネボウ細粒(KB−5、EK−5)」という表記をしている(例えば、「ツムラ顆粒(5)」とは、ツムラが製造販売する正式名称「ツムラ安中散エキス顆粒(医療用)」、製品番号「5」の漢方薬の略記である。乙25)。一方で、漢方3社が製造販売していない漢方処方名に属する薬剤については、漢方専門医が臨床で使用する重要度の高さに鑑みて、@三和「黄◆(くさかんむりに今)湯〈オウゴントウ〉細粒」(甲1の1036頁)、A三和「葛根加朮附湯〈カツコンカジユツブトウ〉」細粒(同1037頁)、B太虎堂「◆(くさかんむりに弓)帰調血飲〈キユウキチヨウケツイン〉」顆粒(同1038頁)、C東洋「桂枝加黄耆湯〈ケイシカオウキトウ〉」細粒(同1039頁)、D 東洋「桂枝加葛根湯〈ケイシカカツコントウ〉」細粒( 同1039頁)、E東洋「桂枝加厚朴杏仁湯〈ケイシカコウボクキヨウニントウ〉」細粒(同1039頁)、F三和「桂芍知母湯〈ケイシヤクチモトウ〉」細粒(同1041頁)、G東洋「桂麻各半湯〈ケイマカクハントウ〉」細粒(同1041頁)、H三和「芍薬甘草附子湯〈シヤクヤクカンゾウブシトウ〉」細粒(同1047頁)、I大杉「四苓湯〈シレイトウ〉」細粒(同1049頁)、J三和「当帰芍薬散加附子〈トウキシヤクヤクサンカブシ〉」細粒(同1054頁)、K三和「附子理中湯〈ブシリチユウトウ〉」細粒(同1057頁)といった薬剤を選択している。
 このように原告書籍漢方薬便覧部分に掲載された個々の薬剤は、上記編集方針に従って選択されたもので、その選択には、原告の個性が表れている。
 また、原告書籍漢方薬便覧部分は、厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている1627個の生薬の中から、「ヨクイニンエキス」1個のみを、臨床現場での重要性や使用頻度に基づき、通常分類される大分類「皮膚科用剤」ではなく、大分類「漢方薬」に分類するものとして選択しており、この点にも原告の個性が表れている。このことは、大分類「漢方薬」に分類するものとして「ヨクイニンエキス」のみを選択している類書は「ポケット版臨床医薬品集 2008」(乙9)だけである事実からも、明らかである。
 したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である個々の具体的な薬剤の選択において創作性を有する編集著作物に該当する。
b この点に関し、被告は、後記のとおり、@約99.5パーセントのシェアを占める漢方3社の製造販売に係る薬剤を選択することはありふれている、A漢方3社以外の薬剤は、各漢方処方名に1個のみであり、他に選択の余地がない、B「ヨクイニンエキス」は、4個の生薬から小太郎が製造販売する生薬を選択したにすぎない旨主張する。
 しかしながら、上記@の点については、漢方薬は、それ以外の薬剤と異なり、同じ漢方処方名であっても製造会社ごとに剤形、組成、容量が異なる場合が多く(例えば、漢方3社の賦形剤をみると、ツムラは乳糖を使用して顆粒に、カネボウ(現クラシエ)は澱粉末を使用して細粒にしているが、小太郎はこれら2社とは異なる賦形剤を採用している。)、その効果にも違いが生じるので、個々の患者に適合した漢方薬を処方することが不可欠であり、臨床現場では、製造会社ごとの差異は重要であって、漢方3社以外の市場シェアの小さい会社の商品であってもこれを軽視することはできないという実情がある。例えば、漢方3社以外の他社が販売している各薬剤(前記a@ないしK)は、いずれも製造会社のオリジナル色が強い薬剤であり、一般臨床医が使用することは少ないものの、漢方専門医であれば必ず臨床で使用する場面のある薬剤であるといえる。このように市場シェアに着目しただけでは漢方薬の臨床現場の必要性を充足することはできないという実情があるため、漢方薬の臨床現場では、薬剤の市場シェアは必ずしも重視されるものではなく、臨床現場で使用する薬剤便覧に掲載する漢方薬の選択に際しても、単に市場シェアに着目して掲載薬剤を選択するという編集方針を採用することは、通常考えられない。
 また、臨床現場で使用する薬剤便覧に掲載する薬剤の選択は、編集者が臨床現場での知識、経験等に基づいて行うものであり、各編集者により臨床現場での知識、経験等が千差万別である以上、処方名ごとにどの範囲の薬剤を選択するのかについても自ずと異なるのが当然であり、漢方3社の漢方薬が被告のいう約99.5%の市場シェアを占めるとしても、多数ある製造会社の中から、漢方3社の薬剤を選択することは、決してありふれた選択とはなりえない。原告書籍では、漢方薬の臨床現場の上記のような実情を踏まえ、単に売上高やシェアに着目するのではなく、多数ある製造販売会社が製造する薬剤の中から、様々な臨床事例、臨床現場における声、臨床現場での重要性、使用頻度等を踏まえて、上記のような薬剤の選択を行ったものである。
 したがって、上記@の点についての被告の主張は、理由がない。次に、上記Aの点についての被告の主張は、「日本医薬品集に記載された全ての漢方処方名を掲載することを前提として、漢方商品名の選択においては、ツムラ・クラシエ(現カネボウ)・小太郎の漢方3社を優先した」との被告の独自の見解を前提にしたものであるが、原告の薬剤の選択基準は前記aのとおり異なるものであるから、その前提を欠くものであって、理由がない(なお、漢方3社以外の製造販売に係る薬剤については、「今日の治療薬」の2006年版までは掲載がなかったものの、読者の要望を契機として、漢方専門医の意見も踏まえて2007年版(原告書籍)から掲載することとなったものであり、これにより結果的に全ての処方名に係る漢方薬を掲載することになったが、そのような読者の要望や漢方専門医の意見を踏まえる過程に創作性があることは明らかである。)。
 さらに、上記Bの点については、前述のとおり、約1600個の生薬の中から選択したのであって、前提が誤っているし、また、臨床現場での重要性や使用頻度に基づき、「ヨクイニンエキス」のみを、通常分類される「皮膚科用剤」ではなく大分類「漢方薬」に分類するものとして選択したのであって、その選択に創作性が認められることは明らかである。
 したがって、上記Bの点についての被告の主張も、理由がない。
(エ) 原告書籍漢方薬便覧部分における「漢方処方名」の配列の創作性漢方薬においては、個々の具体的な薬剤の薬剤名と処方名は、処方名が薬剤名の一部であるという密接不可分の関係にあることから、その処方名(漢方処方名)も、選択又は配列の対象としての素材と捉え得るものである。
 原告は、一覧表形式の原告書籍独自のフォーマット、原告書籍独自の本件分類体系において、大大分類「その他」の中の大分類「漢方薬」に配置されるとともに、漢方薬の特殊性に鑑みて中分類及び小分類を設けず、「処方名」も含めて3層とした分類体系、本件分類体系と関連付けるように大分類の略語を併記するなど検索の利便性のために表記方法を工夫した原告書籍独自の索引部分をそれぞれ組み合わせ、原告書籍漢方薬便覧部分において、上記フォーマットに従って、素材である「処方名」(漢方処方名)を、原則として50音順にし、例外的に4箇所においてのみ50音順を崩して配列している(各漢方処方名の配列順序は、別表1−2の「処方名(一般名)」欄参照)。
 上記例外的な4 箇所の配列とは、@「桂枝加竜骨牡蛎湯〈ケイシカリユウコツボレイトウ〉」−「桂枝加朮附湯〈ケイシカジユツブトウ〉」−「桂枝加苓朮附湯〈ケイシカリヨウジユツブトウ〉」の配列(別表1−2の通し番号32ないし34)、A「葛根湯〈カツコントウ〉」−「葛根加朮附湯〈カツコンカジユツブトウ〉」−「葛根湯加川◆(くさかんむりに弓)辛夷〈カツコントウカセンチユウシンイ〉」の配列(別表1−2の通し番号13ないし15)、B「桔梗湯〈キキヨウトウ〉」−「桔梗石膏〈キキヨウセツコウ〉」の配列(別表1−2の通し番号20及び21)、C「ヨクイニンエキス」を最後にした配列(別表1−2の通し番号149)であり、上記@は、備考欄にある適応症、相互作用、副作用が共通しているので、省スペースの観点から、上記A及びBは、処方名の基礎となるものを優先するという観点から、上記Cは、元来、生薬に含まれる「ヨクイニンエキス」を漢方薬に分類することに鑑みて、いずれも50音順の配列の原則を崩したものである。
 原告書籍漢方薬便覧部分における具体的な漢方処方名の配列は、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的かつ物理的な順序において、他の類書と顕著に異なる原告独自の配列態様になっていることは一見して明らかである。
 したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方処方名」の配列において創作性を有する編集著作物に該当する。
(オ) 原告書籍漢方薬便覧部分における「漢方薬薬剤情報」の選択の創作性
a 原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」について、臨床現場での便宜を考慮して、膨大な薬剤情報の中から、必要かつ十分な情報をコンパクトに掲載するため(スペースを省略するため)に、漢方薬薬剤に関する添付文書情報及び添付文書外情報から、「剤形」、「製品番号及び製造会社略号」、「組成」、「容量」、「一日の用量」、「証」、「適応症(疾患・症状)」、「相互作用」、「重大な副作用」、「その他の副作用」を適宜選択するとともに、主にツムラの製造販売に係る薬剤の薬剤情報を選択し、必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報を追加的に選択したものであり、このような選択行為には、高度の創作性が認められる。
 また、原告書籍では、漢方薬薬剤情報の中から、素材の一つとして「製造番号」を選択し、原告書籍漢方薬便覧部分の筆頭に製品番号順一覧表を付け、番号から処方名を探してその頁にたどれるように番号順索引とし(甲1の1033頁)、原告書籍漢方薬便覧部分においても原告書籍を使用する医師や看護師、薬剤師等が、日常の臨床現場で漢方薬薬剤及び処方名を正確に把握できるよう薬剤の添付文書の表記にしたがって「製品番号及び製造会社略号」というひとまとまりの薬剤情報を選択している。このように「製品番号及び製造会社略号」というひとまとまりの薬剤情報を選択している点において、他の類書にみられない選択がされている。
 さらに、原告書籍漢方薬便覧部分においては、スペース省略のためツムラの製造販売に係る薬剤の組成・容量をメインに選択し、小太郎及びカネボウ(現クラシエ)と組成の異なる成分のみ選択し、会社略号を入れて記載し(小太郎は「コ」、カネボウ(現クラシエ)は「カ」)、また、容量記載については、小数点一桁まで記載するものとして選択し、添付文書にある「g」の単位は省略しており、これらは、限られた少ないスペースの中で、薬剤便覧として掲載すべき多くの薬剤情報を選択したものとして、高い創作性が認められるものである。
 したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」の選択において創作性を有する編集著作物に該当する。
b この点に関し、被告は、後記のとおり、@コンパクト化が求められる臨床現場用の薬剤便覧において、添付文書に記載された情報及びそれ以外の情報から、臨床現場で必要となる情報を選択することは至極当然のことである、Aその中で、漢方処方名全148のうち87%に当たる129の処方名を占めるツムラの製造販売に係る商品の薬剤情報を優先的に選択することもありふれたことである旨を主張する。
 しかしながら、薬剤情報のうち、少なくとも「製品番号及び製造会社略号」をひとまとまりの薬剤情報として選択する行為は他の類書に例をみないものであるし、白文舎発行の「ポケット医薬品集(2008年版)」(乙3)が小太郎の製造販売に係る商品の薬剤情報を掲載していることからしても、主としてツムラの製造販売に係る薬剤の薬剤情報を選択することがありふれたものでないことは明らかであるから、被告の上記主張は、いずれも理由がない。
(カ) 原告書籍漢方薬便覧部分における「漢方薬薬剤情報」の配列の創作性
a 原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」について、一般的には、添付文書における配列順序のとおり「症状」、「疾患」の順に配列されているところ、臨床現場において漢方薬を処方する医師、薬剤師、看護師にとってはまず疾患の情報を確認することが多く、また、医師が保険適用内で漢方薬を処方する際、処方箋には疾患名を記載しなければならないことから、「症状」の情報よりも「疾患」の情報を参照しやすい方が便利であり、「疾患」、「症状」の順に適応症を記載する方法が実務的に非常に役立つものであることに鑑み、添付文書と配列順序を変え、「疾患」、「症状」の順に配列しており、この配列には、高度の創作性が認められる。
 したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」の配列において創作性を有する編集著作物に該当する。
b この点に関し、被告は、後記のとおり、@「漢方薬薬剤情報」の「適応症」の中で「症状」がない漢方薬もあり、表記上統一性をもたせるために「疾患」、「症状」の順に配列することは単なる配列上の工夫にすぎず、ありふれている、A「症状」、「疾患」の順か、あるいは「疾患」、「症状」の順の二つに一つしか配列の仕方がなく、創作性がない旨を主張する。
 しかしながら、原告書籍の類書(株式会社医学書院発行の「治療薬マニュアル2008」(乙4)、白文舎発行の「ポケット医薬品集(2008年版)」(乙3)、株式会社メディカルレビュー社発行の「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)、株式会社薬事日報社(以下「薬事日報社」という。)発行の「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)、被告発行の「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)等)が、いずれも「症状」、「疾患」の順に配列していることからすると、これと逆の配列に創作性があることは明らかであるから、被告の上記主張は、いずれも理由がない。
イ 被告による著作権侵害
 被告書籍便覧部分は、次のとおり、編集著作物である原告書籍便覧部分の複製物又は翻案物であり、被告が被告書籍を印刷及び販売する行為は、上記編集著作物について原告が保有する著作権(複製権及び譲渡権)の共有持分を侵害するものである。
(ア) 類似性
a 個々の具体的な「薬剤」の選択について
 被告書籍は、2007年(平成19年)12月時点において「日本国内で使用が認可されている医療用医薬品」のうち、日常診療で汎用されている薬剤を掲載した書籍である(被告書籍の「序文」参照)。「日本国内で使用が認可されている医療用医薬品」とは、厚生労働大臣による承認を受けて製造販売されている薬剤と同義であるから、被告書籍一般薬便覧部分の素材である個々の具体的な薬剤は、原告書籍一般薬便覧部分の素材である個々の具体的な薬剤と同一性を有する。
 そして、原告訴訟代理人作成の「商品名対比表」(甲40、45ないし47(いずれも枝番を含む。))及び「具体的薬剤同一性判定表」(甲53)の各判定欄の判定結果が示すとおり、原告書籍一般薬便覧部分において本件分類体系に関連付けられて選択されている個々の具体的な薬剤の大部分が、被告書籍一般薬便覧部分において、本件分類体系と類似する5層の分類体系に関連付けられて選択されている。
 したがって、被告書籍一般薬便覧部分においては、原告書籍一般薬便覧部分において選択された個々の具体的な薬剤の大部分が、本件分類体系と顕著に類似した分類基準に基づき選択されたことは明らかであり、被告書籍一般薬便覧部分と原告書籍一般薬便覧部分は、個々の具体的な薬剤の選択において同一性を有する。
b 個々の具体的な「薬剤」の配列について
(a) 原告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の掲載順序(物理的な配列の順序)は、別表1−1のとおりであり、被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の掲載順序(物理的な配列の順序)は、別表2−1のとおりである。
 ところで、編集方針や編集方法が素材の選択又は配列の創作性の一内容をなすものとして編集著作物性の根拠となる以上、そのような編集方針や編集方法と一体となった具体的な配列の表現の類似性が問題とされる場合においては、編集方針や編集方法とこれに基づく具体的な配列の表現全体をみて、その表現上の本質的な特徴が直接感得できるか否かが問題とされるべきである。
 しかるところ、被告書籍一般薬便覧部分では、具体的な個々の薬剤を配列する一覧表形式のフォーマットとして、原告書籍一般薬便覧部分における原告書籍独自のフォーマットと類似するフォーマットを採用し、原告書籍独自の本件分類体系と類似する5層の分類体系に基づいて、具体的な個々の薬剤を配列している。また、被告書籍一般薬便覧部分は、配列する個々の薬剤の正式名称をそのまま記載することをせず、「商品名」、「剤形」、「容量」及び「製造販売会社名」から特定される薬剤を、呼称である「商品名」を用いてまとめた上で配列している点などにおいて被告書籍一般薬便覧部分と類似し、さらには、被告書籍の目次部分及び索引部分は、被告書籍一般薬便覧部分に配置された個々の具体的な薬剤との関連付けにおいて、原告書籍の目次部分及び索引部分と類似している。
 もっとも、別表1−1及び2−1に示すとおり、原告書籍一般薬便覧部分と被告書籍一般薬便覧部分の「薬剤」の物理的な配列の順序には相違がある。
 しかしながら、かかる相違は、原告書籍一般薬便覧部分及び被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列の類似性を否定する根拠とはならない。
 すなわち、原告訴訟代理人作成の「具体的薬剤配列対比表」(甲56)は、被告書籍における冒頭頁からの具体的薬剤の並び順を軸として、原告書籍における具体的薬剤の並び順がどのように入れ替えられたかを対比した表であるところ、この対比表に示すとおり、被告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列と原告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列は、@掲載薬剤が同一の分類基準に紐付けされた上で一致するもので、薬剤の配列が同一であるもの(判定「1」)、A掲載薬剤が分類されている大分類が形式上異なるが、大分類を変えたことに創作性がなく、したがって、単なる編集著作物の複製にすぎないと判断できるもの(判定「3(1)」)がほとんどであることから、被告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列は、原告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列に顕著に類似している。
 結局のところ、原告書籍一般薬便覧部分と被告書籍一般薬便覧部分の「薬剤」の物理的な配列の順序の上記相違は、被告書籍一般薬便覧部分において、原告書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の配列の創作性の一内容をなす原告独自の本件分類体系を前提として、各分類内部の分類項目の配列順序を入れ替えたために生じた些細な相違にすぎず、かかる入替えは原告書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列に依拠して行われた極めてありふれた変更にとどまり、分類項目の入替えを元に戻せば、原告書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列と酷似した薬剤の配列になるのであるから、被告書籍一般薬便覧部分における分類体系と一体となった具体的薬剤の配列は、原告書籍一般薬便覧部分における原告独自の本件分類体系に関連付けられた具体的な薬剤の配列の本質的な特徴を直接感得できる程度に類似しているというべきである。
 また、仮に被告書籍一般薬便覧部分における分類項目の配列順序の入替え及びこれに伴う薬剤の配列順序の変更に何らかの創作性が認められるとしても、被告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列は、原告書籍独自の本件分類体系と酷似した分類体系に基づいてされており、分類体系の同一性は維持されていることから、原告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列の翻案となるにすぎない。
(b) 以上によれば、被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は、原告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列の本質的な特徴の全てにおいて類似しているといえるから、被告書籍一般薬便覧部分と原告書籍一般薬便覧部分は、個々の具体的な薬剤の配列において同一性を有する。
c 漢方薬に係る個々の具体的な「薬剤」の選択について
 原告書籍漢方薬便覧部分においては、784個の漢方薬及び1627個の生薬の中から、307個の漢方薬及び1個の生薬が選択されている。
 一方、被告書籍漢方薬便覧部分においても、原告書籍漢方薬便覧部分で選択された上記漢方薬及び生薬がそのまま選択されている(甲42、別表1−2及び2−2の各「商品名等」欄参照)。
 したがって、被告書籍漢方薬便覧部分と原告書籍漢方薬便覧部分は、個々の具体的な薬剤の選択において完全に一致する。
d 「漢方処方名」の配列について
 被告書籍漢方薬便覧部分に掲載された149の「処方名」の配列は、原告書籍漢方薬便覧部分に掲載された同数の「処方名」の配列と、50音順を崩した4箇所を含め、完全に一致する(甲42、別表1−2及び2−2の各「処方名」欄参照)。
e 「漢方薬薬剤情報」の選択について
 被告書籍漢方薬便覧部分は、「漢方薬薬剤情報」として、「剤形」、「製品番号及び製造会社略号」、「組成」、「容量」、「一日の用量」、「適応症(疾患・症状)」、「併用注意」、「重大な副作用」が選択されている。このうち「併用注意」は、添付文書において「相互作用」の一部として記載されているものであり、原告書籍漢方薬便覧部分において「漢方薬薬剤情報」として選択された「相互作用」の記載と同一であるから、被告書籍漢方薬便覧部分において選択された「漢方薬薬剤情報」の項目は、原告書籍漢方薬便覧部分において選択された「漢方薬薬剤情報」の項目と極めて類似するものといえる。
 また、被告書籍漢方薬便覧部分は、原告書籍漢方薬便覧部分と同様に、主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の「組成」、「容量」、「適応症(疾患・症状)」を選択し、必要に応じて、ツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報を追加的に選択しており、この点においても類似する。
 したがって、被告書籍一般薬便覧部分と原告書籍一般薬便覧部分は、「漢方薬薬剤情報」の選択において同一性を有する。
f 「漢方薬薬剤情報」の配列について
 被告書籍漢方薬便覧部分の「漢方薬薬剤情報」の配列において、適応症について、「疾患」、「症状」の順に配列し、原告書籍漢方薬便覧部分もこれと同じ順序の配列をしている。
 したがって、被告書籍一般薬便覧部分と原告書籍一般薬便覧部分は、「漢方薬薬剤情報」の配列において同一性を有する。
(イ) 依拠
 @前記(ア)のとおり、被告書籍便覧部分における素材である個々の具体的な「薬剤」の選択又は配列、「漢方処方名」の配列、「漢方薬薬剤情報」の選択又は配列における表現が、原告書籍便覧部分におけるそれらの創作的表現と類似していること、A原告書籍と被告書籍は、臨床現場での薬剤選択に必要な情報を薬効に基づき体系的かつコンパクトに便覧形式で収録するという基本的なコンセプトを同一にし、使用される場面や読者層をも同一にするものであり、市場において完全に競合する同種の薬剤便覧であること、原告書籍は、その初版の発行から30年にわたり、医療従事者の圧倒的な支持を受けて改訂を重ねてきた薬剤便覧のベストセラーであることからすると、被告が被告書籍便覧部分を作成するに当たり、原告書籍を入手し、その便覧部分を参考にしなかったとは、およそ考えられないこと、B被告書籍一般薬便覧部分における薬剤の一般名の配列が、実際に発行された被告書籍では50音順となっているが、被告書籍の内容見本段階(甲20)では、原告書籍一般薬便覧部分における薬剤の一般名の配列と同様であったこと、C解説部分に付された分類図表、目次部分、索引部分、「ステロイド外用薬」の臨床効果分類の位置等の便覧部分以外の箇所においても、被告書籍には、原告書籍の記載と類似した記載ぶりが多数存在することなどによれば、被告が被告書籍便覧部分を編集するに当たり、原告書籍便覧部分に依拠したことは明らかである。
(ウ) まとめ
 以上を総合すると、被告は、原告書籍便覧部分に依拠して、その素材の選択又は配列に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる被告書籍便覧部分を作成することによって、原告書籍便覧部分の編集著作物を複製又は翻案したものといえる。
 したがって、被告が被告書籍便覧部分を含む被告書籍を印刷及び販売した行為は、原告書籍便覧部分の編集著作物について原告が保有する著作権(複製権及び譲渡権)の共有持分の侵害に該当する。
(2) 被告の主張
ア 原告書籍便覧部分に編集著作物としての創作性がないこと
(ア) 「薬剤」の選択の創作性の主張に対し
a 原告書籍一般薬便覧部分では、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている全ての薬剤を母集団とし、そのほぼ全ての薬剤を掲載するという選択が行われたにすぎず、そのような薬剤の選択に創作性が認められる余地はない。
b この点に関し、原告は、原告書籍一般薬便覧部分に掲載する個々の具体的な薬剤の選択について、原告書籍独自の本件分類体系を前提として、これに関連付けて薬剤の取捨選択を行い、かつ、選択された薬剤について、その重要度や使用頻度等に応じて、赤丸表記とするもの、小文字表記とするものを決定している旨主張する。
 しかしながら、原告主張の本件分類体系への関連付けは、原告書籍一般薬便覧部分に掲載する具体的な薬剤が選択された後における本件分類体系への当てはめをいうにすぎないものと解され、素材の選択の創作性とは無関係であるといわざるを得ない。この点、原告が一例として挙げるエーザイ販売に係る「サイレース錠1mg」、「サイレース錠2mg」及び「サイレース静注2mg」を選択した場合、本件分類体系としては、大大分類「神経系に作用する薬剤」−大分類「抗不安薬、睡眠薬」−中分類「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」−小分類「中間型」−一般名「フルニトラゼパム」に属する薬剤として「選択」されること、換言すれば、他の分類である、大大分類「(同上)」−大分類「(同上)」−中分類「(同上)」−小分類「(同上)」−一般名「ニメタゼパム」に属する薬剤として「選択」されないことは自明であり、本件分類体系に関連付けて個々の具体的な薬剤を選択したという原告の主張が意味するところは不明である。また、原告の主張を前提とすれば、「選択」が行われた時点において、赤丸表記とする薬剤、小文字表記とする薬剤は確定しているのであり、これを「その重要度や使用頻度等に応じて…決定している」との主張が意味するところも不明である。
 この点を措くとしても、原告書籍のような臨床現場で用いる薬剤便覧において、個々の具体的な薬剤の分類項目は極めて限定されており(薬効薬理、組成構造、使用用途等)、おおよそ似通ったものとならざるをえず、5層ないし4層の分類体系を設けることは他の類書(「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)、「ポケット医薬品集(2008年版)」(乙3)、「治療薬マニュアル2008」(乙4)、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)等)でも行われていることであり、原告主張の本件分類体系は、ありふれており、何らの創作性は認められない。結局のところ、原告は、編集著作物(「素材の選択」)というフィルターを通すことによって、著作権法上保護を受けられない本件分類体系というアイデアの保護を求めているにすぎない。
 したがって、原告の上記主張は、理由がない。
(イ) 「薬剤」の配列についての創作性の主張に対し
 原告は、原告書籍独自のフォーマット、本件分類体系、目次部分及び索引部分をそれぞれ組み合わせて行われた原告書籍一般薬便覧部分における具体的な「薬剤」の配列は、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的かつ物理的な順序において、他の類書と顕著に異なる原告独自の配列態様になっていることは一見して明らかであり、原告書籍一般薬便覧部分は、素材である個々の具体的な「薬剤」の配列において創作性を有する旨主張する。
 しかしながら、原告が主張する原告書籍独自のフォーマットは、臨床現場用の薬剤便覧の読者が当然に必要とする情報を誌面に割り付ける際の方針、すなわち、アイデアにすぎず、表現それ自体ではなく、また、本件分類体系も、具体的な表現を離れた、単なるありふれたアイデアにすぎず、いずれも著作権法上の保護の対象となるものではない。
 さらに、目次部分及び索引部分は、原告書籍一般薬便覧部分とは全く別の箇所にまとめられており、原告書籍一般薬便覧部分において「人間が直接知覚できる情報の物理的な順序」とはいえない以上、原告書籍一般薬便覧部分における「薬剤」の配列の創作性を基礎付けることはできない。
 したがって、原告の上記主張は、理由がない。
(ウ) 漢方薬に係る「薬剤」の選択の創作性の主張に対し
a まず、原告主張の原告書籍漢方薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の選択基準は、臨床現場で使用される社会医療保険償還対象となっている全ての漢方処方名(全148)に属する薬剤を掲載するという編集方針の下に、漢方処方名ごとの具体的な薬剤の選択においては、医療用漢方薬の市場シェアの約99.5%を占める漢方3社の製造販売に係る商品を選択し、漢方3社が製造販売していない一部の漢方処方名に属する薬剤については漢方3社以外の商品を選択したというものにすぎないのであり、以下に述べるとおり、このようなありふれた選択には、何らの創作性も認められない。
(a) 全ての漢方処方名の掲載
 原告主張に係る全ての漢方処方名を掲載するという編集方針自体、素材の選択を行う余地がないから、全く創作性を欠いている。また、全ての漢方処方名を掲載することは、1988年から、被告発行の書籍である「日本医薬品集」(乙6は、その2008年版)において行われていることであり、「最新治療薬リスト平成18年版」(乙11)、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)等の他の書籍でも採用されている、ありふれた編集方針である。
(b) 漢方3社が製造販売する商品の優先的選択
 ツムラは全148の漢方処方名のうち129の漢方薬を取り扱う漢方薬最大手であり、国内医療用漢方薬シェア(2008年度3月期)が82.4%(乙17)、第2位のカネボウ(現クラシエ)のシェアが10.1%(乙17)、第3位の小太郎のシェアが約7%程度(乙18)である。これら漢方3社のシェアを合計すると約99.5%にも及び、国内医療用漢方薬の市場をほぼ完全に網羅する。
 このように漢方3社で国内医療用漢方薬の市場をほぼ完全に網羅できることに照らせば、コンパクトを信条とする漢方薬の薬剤便覧を作成する者にとって、漢方3社が製造販売する商品を優先的に選択することはありふれたアイデアにすぎず、現に、被告書籍以外でも、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)において漢方3社の商品が優先して選択されており、さらには、「治療薬マニュアル2008」(乙4)においては、漢方商品名の配列に関して漢方3社の商品が優先して取り扱われている。
 また、独立行政法人国立病院機構(以下「国立病院機構」という。)が運営する145病院の実績(乙56の1、2)、他の書籍や記事(乙57の1ないし8)においても、漢方3社の製造販売する商品を別異にする扱いが多数散見される。
 したがって、漢方処方名ごとの具体的な薬剤の選択において漢方3社の製造販売に係る商品(薬剤)を優先して選択することに何らの創作性も認められない。
(c) 漢方3社以外の商品の選択
 原告書籍漢方薬便覧部分では、9の漢方処方名について、漢方3社以外の製造販売に係る商品を掲載している。しかし、当該漢方処方名については、漢方3社の製造販売に係る商品は存在しないことから、現実に販売されている唯一の商品(9薬剤)の名称を掲載したものである(@漢方処方名「黄◆(くさかんむりに今)湯〈オウゴントウ〉」につき「三和細粒(S−35)」、A漢方処方名「葛根加朮附湯〈カツコンカジユツブトウ〉」につき「三和細粒(SG−141)」、B漢方処方名「桂枝加黄耆湯〈ケイシカオウキトウ〉」につき「東洋細粒(TY−026)」、C漢方処方名「桂枝加葛根湯〈ケイシカカツコントウ〉」につき「東洋細粒(TY−027)」、D漢方処方名「桂枝加厚朴杏仁湯〈ケイシカコウボクキヨウニントウ〉」につき「東洋細粒(TY−028)」、E漢方処方名「桂麻各半湯〈ケイマカクハントウ〉」につき「東洋細粒(TY−037)」、F漢方処方名「芍薬甘草附子湯〈シヤクヤクカンゾウブシトウ〉」につき「三和細粒(S−05)」、G漢方処方名「四苓湯〈シレイトウ〉」につき「大杉細粒(SG−140)」、H漢方処方名「当帰芍薬散加附子〈トウキシヤクヤクサンカブシ〉」につき「三和細粒(S−29)」。なお、漢方処方名「◆(くさかんむりに弓)帰調血飲〈キユウキチヨウケツイン〉」(別表1−2の通し番号24)、「桂芍知母湯〈ケイシヤクチモトウ〉」(同通し番号39)、「附子理中湯〈ブシリチユウトウ〉」(同通し番号128)の商品はいずれもカネボウが販売しているから、漢方3社が製造販売する商品に含まれるものであり、これらの漢方処方名に属する商品を漢方3社が製造販売していないとの原告の主張(前記(1)ア(ウ)aのB、F及びK)は失当である。)。
 全ての漢方処方名(全148)に属する薬剤を掲載するという編集方針の下において、漢方3社が製造販売している商品の存在しない漢方処方名について、現実に販売されている唯一の商品(薬剤)を選択することに何らの創作性も認められない。
b 次に、原告は、原告書籍漢方薬便覧部分において、1627個の生薬の中から、「ヨクイニンエキス」1個のみを、臨床現場での重要性や使用頻度に基づき、通常分類される大分類「皮膚科用剤」ではなく、大分類「漢方薬」に分類するものとして選択した点に創作性がある旨主張する。
 しかしながら、原告は、選択の前提となる生薬の母集団の総数について、個々の商品を原告独自の方法でカウントして1627個と捉えながら、具体的に1個選択した「ヨクイニンエキス」についてはこれを処方名で捉えており(商品としては小太郎の製造販売する「ヨクイニンエキス錠」及び「ヨクイニンエキス散」の2個が存在する。)、結局のところ、原告が何を素材として何を選択したとするのかその基準がそもそも不明確であるといわざるを得ない。
 この点を措くとしても、生薬と漢方薬の関係としては、複数の生薬を調合することにより生成される製剤が漢方薬であり、漢方薬は、日本標準商品分類の薬効分類「52」に分類され、生薬は、薬効分類「51」に分類されている。もっとも、一部の生薬については、単独で用いられることが想定され、単独で用いられた場合でも効能・効果を有するものもあり、これらの生薬については、薬効分類「59 その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品」の「その他の生薬」に分類されているが、その数は漢方処方名で3種類(「ヨクイニンエキス」、「ブシ」、「ビスキンサン製剤」)、これらに属する商品名で4個(乙6の薬効別分類索引)にすぎない。このような単独で用いられた場合でも効能・効果を有する生薬を漢方薬の分類に掲載することや、上記生薬の中から、漢方3社の1社である小太郎が製造販売する商品(「ヨクイニンエキス錠」及び「ヨクイニンエキス散」)が存在する漢方処方名である「ヨクイニンエキス」を選択することは、ありふれたアイデアにすぎず、何らの創作性も認められない。このような選択は、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)や、「治療薬マニュアル(1995年版)」(乙71)、「ポケット医薬品集(1999年版)」(乙72)等の他の類書においても行われている。
 したがって、原告の上記主張は、理由がない。
(エ) 「漢方処方名」の配列の創作性の主張に対し
 原告は、原告書籍漢方薬便覧部分において、素材である個々の漢方処方名の配列について、原則として50音順にし、例外的に4箇所においてのみ50音順を崩して配列した点に創作性がある旨主張する。
 しかしながら、50音順をベースとした配列という点は、名称の配列を行う際に通常行われる極めてありふれた手法にすぎず、その点には何らの創作性も認められない。
 また、50音順を崩した配列が4箇所ある点についても、いずれもありふれた手法にすぎず、 創作性は認められない。具体的には、 @「桂枝加竜骨牡蛎湯〈ケイシカリユウコツボレイトウ〉」−「桂枝加朮附湯〈ケイシカジユツブトウ〉」−「桂枝加苓朮附湯〈ケイシカリヨウジユツブトウ〉」の配列(別表1−2の通し番号32ないし34)は、「備考」欄の記載事項が共通していることから、省スペース化を図るために配列を崩したにすぎないもの、A「葛根湯〈カツコントウ〉」−「葛根加朮附湯〈カツコンカジユツブトウ〉」−「葛根湯加川◆(くさかんむりに弓)辛夷〈カツコントウカセンチヨウシンイ〉」の配列(別表1− 2の通し番号13ないし15)及びB「桔梗湯〈キキヨウトウ〉」−「桔梗石膏〈キキヨウセツコウ〉」の配列(別表1−2の通し番号20及び21))は、関連する薬剤について基礎的な処方のものから応用的な処方のものへと配列したにすぎないもの、C「ヨクイニンエキス」の配列(別表1−2の通し番号149))は、本来は漢方薬に分類すべきものではない薬剤(生薬)を便宜上漢方薬の分類に含めてその最後尾に持ってきたにすぎないものであり、いずれも配列における工夫レベルのありふれた手法にすぎず、何らの創作性も認められない。
 したがって、原告の上記主張は、理由がない。
(オ) 「漢方薬薬剤情報」の選択の創作性の主張に対し
 原告は、原告書籍漢方薬便覧部分は、漢方薬薬剤に関する添付文書情報及び添付文書外情報から、掲載すべき薬剤情報項目を適宜選択し、主にツムラの製造販売に係る薬剤の薬剤情報を選択し、必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報を追加的に選択したことに創作性がある旨主張する。
 しかしながら、コンパクト化が求められる臨床現場用の薬剤便覧において、添付文書に記載された情報及びそれ以外の情報から、臨床現場で必要となる薬剤情報項目を適宜選択することは至極当然のことである。また、「製品番号」と「製造会社略号」をひとまとまりの薬剤情報としたといっても、それは元来ひとまとまりで存在するものであり、単に表記上の工夫をしたにすぎない。
 また、同一漢方処方名に複数の商品が存在する場合に、全148の漢方処方名のうちその87%に当たる129の処方名を製造販売するツムラの商品に着目して、その添付文書に記載された情報を優先的に選択することも、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)、「治療薬マニュアル2008」(乙4)、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)等の他の類書にみられるありふれたアイデアにすぎず、何らの創作性も認められない。
(カ) 「漢方薬薬剤情報」の配列の創作性の主張に対し
 「漢方薬薬剤情報」としての「適応症」については、「疾患」のみが添付文書に記載されている漢方薬(例えば、「甘草湯」の添付文書(乙27)、「桂枝加苓朮附湯」の添付文書(乙28)、「十味敗毒湯」の添付文書(乙29)等)と、「疾患」及び「症状」の両方が添付文書に記載されている漢方薬があるところ、統一性のある記載にするために「疾患」、「症状」の順に記載することは、配列上のありふれた工夫にすぎないから、原告書籍漢方薬便覧部分において、「疾患」、「症状」の順に配列した点に創作性があるとの原告の主張は、理由がない。
 この点を措くとしても、「症状」、「疾患」の順か、あるいは「疾患」、「症状」の順のわずか二通りしか選択の幅がないのであるから、いずれにせよ「疾患」、「症状」の順に配列した点に創作性を認めることはできないというべきである。
イ 被告による著作権侵害行為がないこと
(ア) 類似性の不存在
a 個々の具体的な「薬剤」の選択について
(a) 被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の選択は、平成19年12月時点において厚生労働大臣の承認を受けている薬剤について、被告の発行に係る「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)に掲載の全2080の一般名から、臨床上の有用性や使用頻度を基準とし、掲載する必要のない一般名253を除外し、1827の一般名を選択し、その一般名の分類を若干修正し(分割等)、最終的に2143の一般名を選択し(乙40、41)、当該一般名に属する個々の具体的な薬剤を原則的に全て掲載するという方法により選択したものであり、原告が主張する本件分類体系に類似する分類体系を前提としてそれに関連付けて個々の具体的な薬剤を選択したものではなく、原告書籍一般薬便覧部分が採用する編集方針や編集方法とは異なっている。
 また、前述のとおり、原告主張の本件分類体系は、臨床現場用の薬剤便覧としては、ありふれたものにすぎず、創作性が認められないものであり、このように創作性のない分類体系が類似するからといって、原告書籍一般薬便覧部分と被告書籍一般薬便覧部分が、個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が類似するとはいえない。
(b) 原告は、原告訴訟代理人作成の「商品名対比表」及び「具体的薬剤同一性判定表」の判定を根拠として、原告書籍一般薬便覧部分で選択された個々の具体的な薬剤の大部分が被告書籍一般薬便覧部分で選択されているので、原告書籍一般薬便覧部分と被告書籍一般薬便覧部分が、個々の具体的な薬剤の選択において類似する旨主張する。
 しかしながら、「商品名対比表」及び「具体的薬剤同一性判定表」における判定は、恣意的であり、そのような不正確な根拠を前提とする原告の主張は、失当である。
 例えば、「具体的薬剤同一性判定表」(甲53の番号143以下)では、原告書籍に掲載された薬剤商品名「センセファリン」、「カプセル125mg」、「カプセル250mg」、「シロップ用細粒10%」、「シロップ用細粒20%」という具体的薬剤は、被告書籍における薬剤商品名「センセファリン」との記載をもって、被告書籍で選択されている場合に当たるとして「○」判定を行っているが、原告書籍(甲1)の53頁(別紙1−1の(2)、別表1−1の通し番号205ないし208参照)には、一般名「セファレキシン」の薬剤に対応する商品として、「武田」の製造販売する「●センセファリン」、「カプセル125mg」、「250mg」、「シロップ用細粒10%」、「20%」という商品が具体的に記載されているのに対し、被告書籍(甲2)の1102及び1103頁(別紙2−1の(2)、別表2−1の通し番号8280参照)には、成分名「セファレキシン」の薬剤に対応するジェネリック医薬品として「センセファリン」という商品名しか記載されておらず、「カプセル125mg」等の記載はない。また、原告書籍(甲1)の53頁(別紙1−1の(2)、別表1−1の通し番号214参照)には、一般名「セファレキシン」の薬剤に対応する商品として、製造販売会社名や剤形等の表示なく「シンクル」と商品名のみが記載されているのに対し、被告書籍(甲2)の1102及び1103頁(別紙2−1の(2)、別表2−1の通し番号8272ないし8274参照)には、成分名「セファレキシン」の薬剤に対応する商品として、「旭化成ファーマ」が製造販売する「シンクル」、「250mg」、「250mg」、「シロップ用200mg/g(20%)」というように、商品名のみならず剤形等を含めた商品が具体的に記載されているにもかかわらず、「商品名対比表」(甲45の1の番号125)では、薬剤の選択が同一であると判定している。
 このように、原告書籍一般薬便覧部分と被告書籍一般薬便覧部分では、選択された薬剤の表現に差異がある部分が多く、一方で選択されている具体的な商品が、他方では具体的な剤形等を踏まえた商品のレベルまでは選択されていないにもかかわらず、その表現上の差異を無視して、両者の選択が同一であると原告は主張するものであり、結局のところ、原告は、何を素材として選択したのかという現実に表現された事実に関する問題を場面ごとに巧みに独自の評価を織り交ぜて曖昧にし、同一性を論じているにすぎない。
 このほか、「具体的薬剤同一性判定表」では、原告書籍一般薬便覧部分で掲載されている商品(薬剤)のうち、剤形・規格単位を区別して掲載している赤丸が付された商品(薬剤)についてのみ対比し、小活字掲載された商品(薬剤)を対比していないなど、恣意的な対比・判定を行っている。
b 個々の具体的な「薬剤」の配列について
 原告書籍一般薬便覧部分に実際に記載された薬剤の具体的な配列(別表1−1の「商品名」欄参照)と、被告書籍一般薬便覧部分に実際に記載された薬剤の具体的な配列(別表1−2の「商品名」欄参照)を対比すれば明らかなとおり、両者の配列は、その最初から最後まで全く別のものとなっており(例えば、原告書籍一般薬便覧部分では最初に「注射用ペニシリンGカリウム」(別表1−1の通し番号1)が配列され、一方、被告書籍一般薬便覧部分では最初に「セボフレン」(別表2−1の通し番号1)が配列されている。)、類似していないことは一目瞭然である。
c 漢方薬に係る個々の具体的な「薬剤」の選択について
 前述のとおり、原告書籍漢方薬便覧部分の個々の具体的な「薬剤」の選択の点に創作性がない以上、その選択の同一性をいう原告の主張は失当である。
d 「漢方処方名」の配列について
 前述のとおり、原告書籍漢方薬便覧部分の「漢方処方名」の配列の点に創作性がない以上、その配列の同一性をいう原告の主張は失当である。
e 「漢方薬薬剤情報」の選択について
 前述のとおり、原告書籍漢方薬便覧部分の「漢方薬薬剤情報」の選択の点に創作性がない以上、その選択の同一性をいう原告の主張は失当である。
 また、被告書籍漢方薬便覧部分は、原告書籍漢方薬便覧部分とは異なり、「その他の副作用」及び「証」を記載していないから、両便覧部分は、「漢方薬薬剤情報」の選択において類似するものではない。
f 「漢方薬薬剤情報」の配列について
 前述のとおり、原告書籍漢方薬便覧部分の「漢方薬薬剤情報」の配列の点に創作性がない以上、その配列の同一性をいう原告の主張は失当である。
(イ) 原告書籍便覧部分に依拠していないこと
a 被告書籍は、被告発行に係る「日本医薬品集」(乙6は、その2008年版)及び「薬効・薬理別 医薬品事典」(乙5は、その平成16年8月版)を参照して編集されたものである。
 「日本医薬品集」は、厚生労働省により医療用医薬品として承認され、製造販売の許可を得ている薬剤全約1万7500品目(同一薬剤商品名であっても、剤形・規格単位を区別してカウント)の添付文書情報を網羅的に掲載した書籍であり、被告書籍の編集に際しては、「日本医薬品集」のベースとなった添付文書自体についても必要に応じ参照した。また、「薬効・薬理別 医薬品辞典 平成16年8月版」(乙5)は、公的な機関が作成・公表した情報を、被告が書籍として発行したものである。
 被告が被告書籍便覧部分を編集するに当たり、自社書籍に依拠することなく、あえて原告書籍便覧部分に依拠する必要性は全く存在しない。
b 被告書籍一般薬便覧部分の編集作業に際しては、(a)前述のとおり、平成19年12月時点において厚生労働大臣の承認を受けている薬剤について、被告の発行に係る「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)に掲載の全2080の一般名(処方名)から、臨床上の有用性や使用頻度を基準とし、掲載する必要のない一般名を除外したり、一般名の分類を若干修正し(分割等)、最終的に2143の一般名を選択し(乙40、41)、当該一般名に属する薬剤商品名については全て選択する、(b)同一の一般名に属する薬剤商品名(薬剤)の配列に当たり、@先発品(ジェネリック医薬品ではない商品)を選択する(ただし、当該剤形を有する先発品が多数存在する場合には、被告発行の「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)の各薬剤情報の冒頭の一般名の直下に記載される「添付文書」欄に記載されたものを優先する。)、A上記選択に係る先発品の薬剤名称の剤形を全て抜き出し、これら剤形では存在しない剤形の薬剤(ジェネリック医薬品)を選択する、ただし、同基準に該当する先発品及びジェネリック医薬品が多数存在する場合には、乙6の各薬剤情報の冒頭の一般名の直下に記載される「添付文書」欄に記載されたものを優先する、B上記@及びAの選択において漏れた先発品ないしジェネリック医薬品であっても、臨床現場において特に重要と考えられる薬剤を選択するという基準を採り、そのようにして選択された薬剤を配列するに当たって、C50音順に配列する、ただし、読者の利便性の観点から、先発薬をジェネリック医薬品の上位に配列する、先発薬グループ・ジェネリック医薬品グループ内において、剤形(「剤形略称記号」(甲2のx頁)に記載のものに限定)の種類・規格単位の数が多いものを上位に配列する、有名製薬会社が製造販売する薬剤ないし著名な薬剤を上位に配列するとの修正を加えるという基準を採っており、原告書籍一般薬便覧部分に全く依拠するものではない。
 次に、被告書籍漢方薬便覧部分の編集作業に際しては、「日本医薬品集」(乙6)が規定する漢方処方名148(「薬効・薬理別 医薬品事典」(乙5)の「薬効別分類番号」の「52」に掲載されている一般名(処方名)148と同一である。)を全てそのまま掲載することとし、各処方名に関して掲載する商品名(薬剤)については、国内医療用漢方薬の市場をほぼ完全に占めている漢方3社の販売に係る商品を優先して掲載することとしたものであるが、このような編集方針は非常に理にかなったものであり、薬剤便覧の編集に携わる者であれば誰でも容易に思いつく極めてありふれたものであるから、被告がこのような編集方針を採用したことについては、何らの不自然な点はない。また、上記「52」に記載のもの以外からも一般名(処方名)「ヨクイニンエキス」を選択して掲載したが、これは、漢方薬部分の総説執筆者より、「ヨクイニンエキスは上記「52」に該当しないものの、漢方薬を使用する立場からすれば、これだけは同じ分類として扱って掲載した方が適切」との意見があったため、それに従って掲載することにしたものであり、原告書籍漢方薬便覧部分に依拠して選択がされたものではない。
c 以上のとおり、被告書籍便覧部分は、原告書籍便覧部分に依拠して編集されたものではない。
(ウ) まとめ
 以上のとおり、被告書籍便覧部分における素材の選択及び配列は、原告書籍便覧部分における素材の選択及び配列と全く異なるし、類似する部分は、他に選択の余地がなく選択に創作性の及ばない部分であったり、極めてありふれた抽象的なアイデア(編集方針)でしかなく、またそもそも被告書籍便覧部分は、原告書籍便覧部分に依拠して編集されたものではないから、被告書籍便覧部分は、原告書籍便覧部分を複製又は翻案したものでないことは明らかである。
 したがって、被告が、被告書籍を印刷及び販売する行為は、原告の原告書籍便覧部分に係る複製権及び譲渡権を侵害するものでない。
2 争点2(原告の損害額)について
(1) 原告の主張
 前記1(1)のとおり、被告が被告書籍を印刷及び販売する行為は、編集著作物である原告書籍便覧部分について原告が保有する著作権の共有持分の侵害行為に当たり、被告の上記侵害行為は、原告に対する不法行為を構成するから、被告は、原告が上記侵害行為により被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。
ア 著作権法114条2項に基づく損害額
(ア)a 被告は、被告書籍の発行日(平成20年1月25日)から本訴提起時(平成20年10月20日)まで、少なくとも5万部の被告書籍を本体価格4200円で販売している。被告書籍1冊当たりの被告の利益率は、本体価格の50%を下らない。
b 原告書籍及び被告書籍の購買層は医療従事者がほとんどであって、もともと薬剤について専門的な知識を有する医療従事者は、薬剤の基本的な説明よりも症状や疾病ごとに薬剤を一覧化した便覧部分に主に着目して、これらの書籍を購入し利用している。
 したがって、被告書籍に占める被告書籍便覧部分の割合は全体の80%を下回るものではない。
c(a) 被告書籍一般薬便覧部分は、臨床現場で医療従事者が被告書籍を使用する際に最も価値を有する部分であるから、被告書籍の全体に占める寄与度は、50%を下らない。
(b) 被告書籍漢方薬便覧部分は、被告書籍の総頁数1382頁のうち44頁にすぎないが、被告書籍のコンセプトの中核をなす部分の一部であり、被告書籍を特徴付ける内容となっている部分の一部を構成するものであるから、被告書籍の全体に占める寄与度は、その総頁数に占める割合を大きく上回り、少なくとも全体の20%に及ぶと考えるべきである。
d 原告が保有する原告書籍に係る著作権の共有持分割合は、10分の9である。
(イ) 以上を総合すると、被告が被告書籍を販売し、原告の著作権の共有持分を侵害したことにより受けた利益の額は、4536万円を下らない。
 したがって、著作権法114条2項により推定される原告の損害額は、4536万円を下らないものと認められる。
【計算式 4200円×5万部×0.5×0.8×(0.5+0.2)×0.9】
イ 著作権法114条3項に基づく損害額(前記アの予備的主張)
 乙78によれば、被告書籍の総印刷部数は2万7000部、そのうち初刷りが2万2000部、増刷が5000部であるところ、@原告書籍の著作権使用料が初刷りについては本体価格(4600円)の10%、以後の単純増刷については本体価格の12%であること(甲65)、A被告書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択は原告書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択のデッドコピーであるなど被告による侵害行為の態様が悪質であること、B被告は原告の同業者であり、被告書籍は原告書籍の類書であることから、原告が被告に対して原告書籍の著作権の使用を許諾することは通常想定し難いことを考慮すれば、原告が著作権法114条3項所定の「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」は、原告書籍の通常の著作権使用料の2倍の2318万4000円を下らないというべきである。
【計算式】(本体価格4600円×0.1×2万2000部×原告共有持分割合0.9)+(本体価格4600円×0.12×5000部×原告共有持分割合0.9)
ウ 弁護士費用
 被告の著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損害は、1000万円を下回るものではない。
エ まとめ
 以上によれば、原告は、被告に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として5536万円(前記ア及びウの合計額)及び内金4536万円に対する平成20年11月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の主張
ア 著作権法114条2項に基づく損害額の主張に対し
 原告の主張のうち、被告書籍の本体価格が4200円であることは認めるが、原告が原告書籍の著作権について10分の9の共有持分を有していることは不知、その余は争う。
 なお、被告が被告書籍の販売により受けた利益(被告書籍本体価格×利益率×販売部数)は、乙61記載のとおり、●(省略)●である。
イ 著作権法114条3項に基づく損害額及び弁護士費用の主張に対し
 原告の主張はいずれも争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告書籍便覧部分の編集著作物性及び被告による著作権侵害の有無)について
(1) 原告書籍一般薬便覧部分について
ア 原告書籍の発行の経緯及びその編集方針等
 前記争いのない事実等と証拠(甲1、3ないし5、8、11、14、25、30ないし32、48、59、60、乙1(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告とA教授は、昭和52年当時、医療の臨床現場において、薬剤の特徴、副作用、使い方等を調べるには、膨大な添付文書を確認したり、各分野の薬剤の解説書を参照しなければならないという状況にあったことを踏まえ、臨床現場の医師、薬剤師、看護師等の医療従事者が、ハンディーな1冊で、迅速に必要かつ十分な薬剤情報を得られるようにすることを目的とした薬剤便覧を作成して出版することを企画した。
 原告とA教授は、そのような薬剤便覧の作成、編集に当たり、@「日常よく使用される医家向け薬剤は、最近市販されたものも含めてすべて便覧」に掲載する(甲1の4頁「初版序」参照)、A掲載する薬剤の分類・配列については、臨床現場で必要な薬剤情報を迅速に参照できるようにするため、「日本標準商品分類」(統計調査の結果を商品別に表示する場合の統計基準。昭和25年3月設定・平成2年6月最終改定、総務省統計局所管)(乙1)の分類・配列、分類項目名称に準拠するのではなく、臨床で広く使われる抗菌薬を筆頭に置くなど、分類項目名称をはじめ、薬剤の効能・種類を独自の臨床視点から分類・配列することとし、具体的には、薬剤の効能ごとに分類した13の「大大分類」、大大分類をさらに効能ごとに細分化した「大分類」、大分類をさらに薬剤の組成や効能で細分化した「中分類」、中分類を必要に応じてさらに特徴等から細分化した「小分類」をそれぞれ設け、この分類体系に従って個々え得るだけの情報量を盛り込むための工夫として、「大分類」の薬剤群ごとに冒頭に解説を載せ、必要な図表を添付し、各薬剤の特徴、効能、副作用、使い方等は、「組成・剤形・容量」、「用量」、「備考」の各欄に分けて、添付文書の内容のうち必要かつ十分なものを厳選してマーク等を用いて便覧形式で掲載するなどの編集方針を採用した。
 なお、「日本標準商品分類」は、大分類、中分類、小分類等の順に標準分類番号を配列し(基本コードは中分類番号)、商品を類似するものごとに集約し、商品群として表示しているものであり、薬剤については、大分類8「生活・文化用品」の中分類87「医薬品及び関連製品」において、その使用目的により、@神経系及び感覚器官用医薬品、A個々の器官系用医薬品、B代謝性医薬品、C組織細胞機能用医薬品、D生薬及び漢方処方に基づく医薬品、E病原生物に対する医薬品、F治療を主目的としない医薬品、G麻薬、H動物に使用する医薬品及び関連製品という9項目(「871」ないし「879」)の小分類(いわゆる薬効分類)が設けられている。
(イ) 原告及びA教授は、上記のような編集方針の下に、「今日の治療薬」の初版を作成、編集し、同書籍は、原告によって、昭和52年8月1日に発行された。
 その後、「今日の治療薬」は、初版出版後に発売になった新しい薬剤の追加、発売停止になった薬剤の消去等や解説を医学の進歩に即したものにするなどの改訂を重ね、昭和57年以降は、毎年改訂されてきた。
 例えば、掲載する薬剤については、1981年版(改訂増補第3版)から初版には掲載されていなかった漢方薬を、1984年版(改訂第6版)からジェネリック医薬品を掲載するよう改訂した。また、分類体系については、特に、2003年版(改訂第25版)において全面的な見直しがされ、多くの大大分類、大分類で、分類の細分化、統合、組替え、分類項目の名称変更等が行われた(一例を挙げると、それまでは大大分類「血液に作用する薬剤」の中に大分類「抗高脂血症薬」を設けていたが、これを大分類「高脂血症治療薬」と分類項目の名称を変更した上で、代謝系分類として大大分類「糖尿病治療薬」の中に設けることとした。)。
 上記各改訂に際し、原告においては、原告内部の意見やアンケートによる読者の要望、厚生労働省の医薬情報及び各種医療ガイドライン、医薬品メーカーからの添付文書変更情報を基に改善点を指摘し、A教授においては、医学的・薬学的見地から意見を述べるなどして、臨床現場での使用頻度や重要性を踏まえ、掲載する薬剤及びその表記方法、分類項目の名称及び内容、分類項目の順序立て、薬剤情報の記載内容等についての見直し、変更が行われた。
(ウ)a 原告は、平成19年2月15日、「今日の治療薬」の2007年版(改訂第29版)として、原告書籍を発行した。
 原告書籍便覧部分は、掲載する薬剤商品について、@薬剤の効能、作用部位及び用途等の観点から分類した13の「大大分類」(具体的な分類項目の名称及び掲載順序は、「病原微生物に対する薬剤」、「抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬」、「炎症、アレルギーに作用する薬剤」、「糖尿病治療薬、高脂血症治療薬、痛風・高尿酸血症治療薬」、「ホルモン剤、骨・カルシウム代謝薬」、「ビタミン製剤、輸液・栄養製剤」、「血液製剤、血液に作用する薬剤」、「循環器系に作用する薬剤」、「呼吸器系に作用する薬剤」、「消化器系に作用する薬剤」、「神経系に作用する薬剤」、「感覚器官用剤」及び「その他」)、A「大大分類」を薬剤の特徴的な効能、作用部位及び用途等の観点から細分化した68の「大分類」、B「大分類」を化学的な組成、作用及び用途等の観点から細分化した592の「中分類」、C「中分類」のうち臨床現場で薬剤を選択する上で更に有効な区分けが必要なものについて細分化した148の「小分類」、D商品名とは別に、有効薬効成分に付けられた名称である薬剤の「一般名」といった5層の分類体系(本件分類体系)に基づいて分類している。
 原告書籍便覧部分に掲載する個々の具体的な薬剤の選択については、「2007年1月現在市販されている医家向け薬剤(一部未発売を含む)のうち、日常よく使用されているもの、使用頻度は少ないが重要なものは全て含み」、一方、「市販されているものであっても、経過措置品、近い将来再評価などにより発売中止になる可能性のあるものは一部省略」するという方針で(甲1の5頁「本書の使い方」参照。なお、「経過措置品」とは、経過措置として保険診療に用いられることができる期限が定められている医薬品のことである。)、薬剤が選択されている。
 そして、選択された個々の具体的な薬剤は、本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され、その分類ごとに、「薬剤名」、「組成・剤形・容量」、「用量」、「備考」の四つの項目欄を設けた一覧表形式の原告書籍一般薬便覧部分において、原告及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されている。この「薬剤名」欄には、薬剤の一般名、先発・代表薬剤の商品名(赤丸付きで掲載)、製造販売会社名、代表的薬価、ジェネリック医薬品があるものにあってはその商品名(あるいは商品名及び会社名)等が記載されている。
 原告書籍一般薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、別表1−1のとおりであり、その具体的な掲載例は、別紙1−1のとおりである。例えば、一般名「フルニトラゼパム」に属する薬剤については、「薬剤名」欄に、@先発・代表薬剤の商品名「●サイレース」、製造販売会社名「エーザイ」、代表的薬価「1mg錠18.40」、「2mg錠26.40」、「注172」(「錠」は錠剤の略称記号、「注」は注射剤の略称記号。以下同じ。)、A先発・代表薬剤の商品名「●ロヒプノール」、製造販売会社名「中外」、代表的薬価「1mg錠17.10」、「2mg錠25.50」、「静注用159」、Bジェネリック医薬品の商品名あるいは商品名及び会社名「ビビットエース、フルトラース、フルニトラゼパム「アメル」」等の記載がされている(別紙1−1の(1)、別表1−1の通し番号7858ないし7866参照)。
b 原告書籍漢方薬便覧部分は、本件分類体系の大大分類「その他」の中の大分類「67.漢方薬」に分類される便覧部分であり、中分類及び小分類の分類項目を設けずに、掲載する薬剤を、大分類を細分化した処方名(一般名)により分類されている。
イ 原告書籍一般薬便覧部分における「薬剤」の選択の創作性等
(ア) 原告は、@原告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な「薬剤」の選択に当たり、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている全ての薬剤を母集団とし、本件分類体系を前提としてこれに関連付けて、当該薬剤が本件分類体系のいずれに分類されるかという観点を考慮し、臨床現場での重要性や使用頻度、原告書籍の執筆者の学識や経験等に基づく意向、読者の要望等の基準に従って選択を行い、かつ、選択された薬剤について、その重要度や使用頻度等に応じて、赤丸表記とするもの、小文字表記とするものを決定していること、Aこのように本件分類体系に関連付けて、多数ある薬剤の中から掲載すべき薬剤として何を選択し、かつ、何を重要度の高いものとして赤丸表記とすべきかという点は、編集者の学識、経験等に基づき個性が発揮されること、B本件分類体系は、既存の薬剤分類体系とは異なる独自性を有するものであり、本件分類体系の創作性は、「薬剤」の選択に実質的な影響を及ぼしているといえるから、その選択の創作性を基礎付けるものとして斟酌されるべきであることなどからすると、原告書籍一般薬便覧部分は、素材である個々の具体的な「薬剤」の選択において創作性を有する編集著作物に該当する、C原告訴訟代理人作成の「商品名対比表」(甲40、45ないし47(いずれも枝番を含む。))及び「具体的薬剤同一性判定表」(甲53)の判定欄が示すとおり、原告書籍一般薬便覧部分において本件分類体系に関連付けられて選択されている個々の具体的な薬剤の大部分が、被告書籍一般薬便覧部分において、本件分類体系と類似する5層の分類体系に関連付けられて選択されているから、被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の選択における表現は、原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現と類似する旨主張する。
 そこで検討するに、前記ア(ウ)a認定のとおり、原告書籍便覧部分に掲載する個々の具体的な薬剤の選択の方針は、「2007年1月現在市販されている医家向け薬剤(一部未発売を含む)のうち、日常よく使用されているもの、使用頻度は少ないが重要なものは全て含み」、一方、「市販されているものであっても、経過措置品、近い将来再評価などにより発売中止になる可能性のあるものは一部省略」するというものであり、要するに、市販されている薬剤の中から、日常よく使用されているもの及び使用頻度は少ないが重要なものと認めた薬剤を全て選択するというものであり、その方針自体は、臨床現場で有用な薬剤便覧を編集することを目的とするものである以上、ありふれたものである。
 一方で、「日常よく使用されているもの」あるいは「使用頻度は少ないが重要なもの」に該当するかどうかを判定するには、編者によって「重要」の捉え方が必ずしも一様ではないなど選択の幅があり、上記方針に従ってされた個々の具体的な薬剤の選択結果においては、編者の個性が表れていると認めることができる場合があるものといえる。
 また、臨床現場で迅速に必要かつ十分な薬剤情報を得られることを目的とし、個々の具体的な薬剤を分類体系に従って分類して掲載する薬剤便覧においては、コンパクト化の要請と薬剤情報の網羅性の要請を踏まえ、分類体系の分類項目を前提に、その項目ごとに該当する薬剤を選択し、それらを配列することになるので、掲載する薬剤を検討することと分類体系とは密接な関係にあるといえる。そのため、薬剤便覧の分類体系自体の独自性は、薬剤の配列のみならず、薬剤の選択においても影響を及ぼし得るものであり、また、その分類体系に従って行われた個々の具体的な薬剤の選択結果において、編者の個性が表れていると認めることができる場合があるものといえる。もっとも、分類体系の分類項目が定まれば当該分類項目に掲載される薬剤が機械的にあるいは一義的に定まるのであれば格別、当該分類項目を前提に諸要素を考慮して個々の具体的な薬剤が選択されるのであれば、分類体系が同一又は類似するものであっても、その分類体系に従って行われた個々の具体的な薬剤の選択結果が異なるものとなり、その選択結果において薬剤の選択における表現の創作性がそもそも認められない場合や、複数の選択結果同士においてその表現が類似するものと認められない場合も当然あり得るものといえるものであり、このような意味において、薬剤便覧の分類体系の独自性がその分類体系に従って選択された薬剤の選択の創作性に及ぼし得る影響は、限定的なものといわざるを得ない。
 しかるところ、原告の上記主張によれば、原告書籍一般薬便覧部分においては、本件分類体系を前提としてこれに関連付けて、当該薬剤が本件分類体系のいずれに分類されるかという観点を考慮し、臨床現場での重要性や使用頻度、原告書籍の執筆者の学識や経験等に基づく意向、読者の要望等の基準に従って選択を行い、かつ、選択された薬剤を配列したというものであるから、原告書籍一般薬便覧部分において掲載された個々の具体的な薬剤の選択は、分類項目ごとに機械的にあるいは一義的に定められたものではないといえる。
 そうすると、仮に原告が主張するように被告書籍一般薬便覧部分に掲載された個々の薬剤が原告書籍一般薬便覧部分の本件分類体系と類似する5層の分類体系に関連付けられて選択されているとしても、そのことから直ちに原告主張の類似性が認められるものではなく、原告書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果と被告書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果とを対比し、原告が主張する原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が被告書籍一般薬便覧部分において利用されているかどうかを検討する必要がある。
(イ) この点に関し、原告は、上記(ア)Cのとおり、原告訴訟代理人作成の「商品名対比表」(甲40、45ないし47(いずれも枝番を含む。))及び「具体的薬剤同一性判定表」(甲53)の各判定欄の判定結果が示すとおり、原告書籍一般薬便覧部分において選択されている個々の具体的な薬剤の大部分が、被告書籍一般薬便覧部分において選択されている旨主張する。
 しかしながら、上記「具体的薬剤同一性判定表」では、被告が指摘するように、原告書籍一般薬便覧部分で掲載されている商品(薬剤)のうち、剤形・規格単位を区別して掲載している赤丸が付された商品(薬剤)についてのみ対比し、小活字掲載された商品(薬剤)を対比していないのであるから、上記「具体的薬剤同一性判定表」の判定結果から直ちに原告が主張する原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が被告書籍一般薬便覧部分において利用されているものと認めることはできない。また、上記「商品名対比表」においては、被告が指摘するように、被告書籍一般薬便覧部分で選択されている具体的な商品(薬剤)が、原告書籍一般薬便覧部分では具体的な剤形等を踏まえた商品(薬剤)のレベルまでは選択されていないにもかかわらず、両者の選択が同一であると判定するなど(例えば、甲45の1の番号125(「シンクル」(別表1−1の通し番号214と別表2−1の通し番号8272ないし8274)参照)、その判定内容に正確性を欠く部分があり、上記「商品名対比表」から直ちに原告が主張する原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が被告書籍一般薬便覧部分において利用されているものと認めることはできない。
 他に原告が主張する原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が被告書籍一般薬便覧部分において利用されているものと認めるに足りる証拠はない(かえって、別表1−1に示すように、原告書籍一般薬便覧部分に掲載された具体的な薬剤数は、「9992」個であるのに対し、別表2−1に示すように、被告書籍一般薬便覧部分に掲載された具体的な薬剤数(ただし、「新薬」の分類項目に分類された薬剤数(平成19年9月以降に薬価収載されたもの)を除く。)は、「9646」個であって、その差が「346」あり、選択の対比の対象となる薬剤数においても一致していない。)。
 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
(ウ) 以上のとおり、仮に原告が主張するように原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択において創作性が認められるとしても、被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の選択における表現は、原告書籍一般薬便覧部分の創作的表現と類似しているものと認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告書籍一般薬便覧部分が素材である個々の具体的な薬剤の選択に創作性を有する編集著作物である原告書籍一般薬便覧部分を複製又は翻案したものと認めることはできない。
ウ  原告書籍一般薬便覧部分における「薬剤」の配列の創作性等
(ア) 原告は、@原告書籍独自のフォーマット、原告書籍独自の本件分類体系、原告書籍独自の目次部分及び原告書籍独自の索引部分をそれぞれ組み合わせて行われた原告書籍一般薬便覧部分における具体的な「薬剤」の配列は、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的かつ物理的な順序において、他の類書と顕著に異なる原告独自の配列態様になっていることは一見して明らかであり、原告書籍一般薬便覧部分は、素材である個々の具体的な「薬剤」の配列において創作性を有する編集著作物に該当する、A被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は、原告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列の本質的な特徴の全てにおいて類似し、その表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列における表現は、原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の配列における創作的表現と類似する旨主張する。
a 前記ア(ウ)a認定のとおり、原告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は、選択された薬剤が、本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され、その分類(分類項目)ごとに原告及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されたものであり、原告書籍一般薬便覧部分に掲載の薬剤の具体的な掲載順序は、別表1−1の「通し番号」の順のとおりである。
b 証拠(甲2、乙38ないし41)及び弁論の全趣旨によれば、@被告書籍は、「2007年12月時点で薬価収載されている医療用医薬品のうち、日常診療で汎用されている薬剤」を「一部の経過措置品目など」を除き掲載するという方針で薬剤を掲載したこと(甲2のx頁の「本書収載医薬品」参照)、A被告書籍一般薬便覧部分に掲載された個々の具体的な薬剤は、被告の発行に係る「日本医薬品集 医療薬2008年版」(乙6)に掲載の全2080の一般名(処方名)から、臨床現場で使用する薬剤便覧としてのコンパクト化の要請と薬剤情報の網羅性の要請を踏まえ、臨床上の有用性や使用頻度を考慮し、掲載する必要がないと判断した一般名を除外したり、一般名の分類を若干修正するなどして、最終的に2143の一般名を選択し、当該一般名に属する薬剤について、被告が作成した分類体系を前提に、臨床現場での重要度とコンパクト化を考慮して掲載する個々の具体的な薬剤を選択したこと、B被告書籍の上記分類体系は、13の「大大分類」(具体的な分類項目の名称及び掲載順序は、「精神・神経系」、「感覚器系」、「循環器系」、「呼吸器系」、「消化器系」、「内分泌・代謝系」、「腎臓・泌尿器系」、「ビタミン・栄養・輸液・電解質製剤」、「血液用薬・血液製剤」、「抗悪性腫瘍薬・免疫抑制薬」、「鎮痛、抗炎症、抗アレルギー系薬」、「病原微生物用薬」及び「その他」)、「大大分類」を細分化した71の「大分類」、「大分類」を細分化した「中分類」、「中分類」を必要に応じてさらに細分化した「小分類」及び薬剤の一般名」といった5層から構成されていること、C被告書籍一般薬便覧部分では、上記Aにより選択された薬剤について、分類項目(一般名)ごとに、先発薬のグループの薬剤を先にして、ジェネリック医薬品のグループの薬剤を後にして、それぞれのグループ内では、原則として50音順になるように配列しており、その具体的な掲載順序は、別表2−1の「通し番号」の順のとおりであること(ただし、「新薬」の分類項目に属する薬剤を除く。)が認められる。
c 以上を前提に、原告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列と被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列とを対比すると、両者は、個々の具体的な薬剤が5層(「大大分類」、「大分類」、「中分類」、「小分類」及び「一般名」)の分類体系に従って分類されている点及び「大大分類」の分類項目数が13である点では共通するが、「大大分類」を始め各層の分類項目の配列が異なる上(甲1、2)、個々の具体的な薬剤の配列は、原告書籍一般薬便覧部分では、「小分類」又は「一般名」の分類項目ごとに原告及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列したものであるのに対し、被告書籍一般薬便覧部分では、「一般名」の分類項目ごとに、先発薬のグループの薬剤を先にして、ジェネリック医薬品のグループの薬剤を後にして、それぞれのグループ内では、原則として50音順になるように配列したものであり、その具体的な配列結果としての薬剤の配列順序(掲載順序)は、別表1−1及び2−1に示すとおり、明らかに相違していること(例えば、原告書籍一般薬便覧部分で最初に配列された薬剤は「注射用ペニシリンGカリウム」(別表1−1の通し番号1)であるのに対し、被告書籍一般薬便覧部分で最初に配列された薬剤は「セボフレン」(別表2−1の通し番号1)である。)が認められる。
 このように原告書籍一般薬便覧部分と被告書籍一般薬便覧部分は、掲載された薬剤の具体的な配列順序(掲載順序)が明らかに相違するものであるから、仮に原告が主張するように原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の配列において創作性が認められるとしても、その創作的表現が被告書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列に利用されているものと認めることはできない。
(イ) これに対し、原告は、@別表1−1及び2−1に示すとおり、原告書籍一般薬便覧部分と被告書籍一般薬便覧部分の「薬剤」の物理的な配列の順序に相違があるものの、原告訴訟代理人作成の「具体的薬剤配列対比表」(甲56)の判定結果が示すように、かかる相違は、被告書籍一般薬便覧部分において、原告書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の配列の創作性の一内容をなす原告独自の本件分類体系を前提として、各分類内部の分類項目の配列順序を入れ替えたために生じた些細な相違にすぎず、かかる入替えは原告書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列に依拠して行われた極めてありふれた変更にとどまり、分類項目の入替えを元に戻せば、原告書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列と酷似した薬剤の配列になるのであるから、被告書籍一般薬便覧部分における分類体系と一体となった具体的薬剤の配列は、原告書籍一般薬便覧部分における原告独自の本件分類体系に関連付けられた具体的な薬剤の配列の本質的な特徴を直接感得できる程度に類似している、A仮に被告書籍一般薬便覧部分における分類項目の配列順序の入替え及びこれに伴う薬剤の配列順序の変更に何らかの創作性が認められるとしても、被告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列は、原告書籍独自の本件分類体系と酷似した分類体系に基づいてされており、分類体系の同一性は維持されていることから、原告書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列の翻案となるにすぎない旨主張する。
 しかしながら、上記@の点については、被告書籍を使用する読者が被告書籍一般薬便覧部分の個々の薬剤の具体的な配列順序及び配置から原告が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を知覚することは著しく困難であり、原告の主張は、被告書籍一般薬便覧部分に具現された薬剤の配列の表現に基づくものとはいえず、失当である。
 次に、上記Aの点については、原告書籍一般薬便覧部分及び被告書籍一般薬便覧部分のいずれにおいても、分類体系の分類項目ごとに、諸要素を考慮して当該分類項目に掲載すべき薬剤を選択し、そのように選択された薬剤群の中で異なる配列基準に従って個々の具体的な薬剤が配列されているものであって、その配列が分類項目ごとに機械的にあるいは一義的に定められたものではないから、原告が主張するように原告書籍及び被告書籍の分類体系が類似するからといって個々の薬剤の配列における具体的な表現が類似するとはいえないし、薬剤の配列の本質的な特徴を直接感得できるものでもない。原告の主張は、結局のところ、著作権法上保護の対象となる表現それ自体ではない、本件分類体系に従って薬剤を分類するという原告書籍の編集方針、すなわちアイデアの保護を求めるものというほかなく、失当である。
 したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
(ウ) 以上のとおり、仮に原告が主張するように原告書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の配列において創作性が認められるとしても、被告書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列における表現は、原告書籍一般薬便覧部分の創作的表現と類似しているものと認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告書籍一般薬便覧部分が素材である個々の具体的な薬剤の配列に創作性を有する編集著作物である原告書籍一般薬便覧部分を複製又は翻案したものと認めることはできない。
(2) 原告書籍漢方薬便覧部分について
ア 前提事実
 前記(1)アの認定事実と証拠(甲1、3ないし5、30ないし32、乙2、4、17、18、55ないし57(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(ア)a 原告書籍漢方薬便覧部分は、本件分類体系の大大分類「その他」の中の大分類「67.漢方薬」に分類される便覧部分であり、掲載する薬剤は、大分類を細分化した処方名(一般名)により分類されている。これらの薬剤は、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている薬剤の中から選択されている。
 原告書籍漢方薬便覧部分に掲載する個々の具体的な薬剤の選択は、臨床現場における声、臨床現場での使用頻度や重要性等を踏まえ、@平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている漢方薬の148の処方名(漢方処方名)の全てを掲載し、漢方3社(ツムラ、カネボウ及び小太郎の3社)が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については、漢方3社以外の他社が製造販売する薬剤を選択する、A生薬の中から「ヨクイニンエキス」を大分類「漢方薬」に分類するものとして選択することとし、別表1−2の「商品名等」欄記載の各薬剤を選択している。このうち、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名について選択された薬剤は、処方名「黄◆(くさかんむりに今)湯〈オウゴントウ〉」について「三和細粒(S−35)」(別表1−2の通し番号9)、処方名「葛根加朮附湯〈カツコンカジユツブトウ〉」について「三和細粒(SG−141)」(通し番号14)、処方名「桂枝加黄耆湯〈ケイシカオウキトウ〉」について「東洋細粒(TY−026)」(通し番号27)、処方名「桂枝加葛根湯〈ケイシカカツコントウ〉」について「東洋細粒(TY−027)」(通し番号28)、処方名「桂枝加厚朴杏仁湯〈ケイシカコウボクキヨウニントウ〉」について「東洋細粒(TY−028)」(通し番号29)、処方名「桂麻各半湯〈ケイマカクハントウ〉」について「東洋細粒(TY−037)」(通し番号41)、処方名「芍薬甘草附子湯〈シヤクヤクカンゾウブシトウ〉」について「三和細粒(S−05)」(通し番号69)、処方名「四苓湯〈シレイトウ〉」について「大杉細粒(SG−140)」(通し番号80)、処方名「当帰芍薬散加附子〈トウキシヤクヤクサンカブシ〉」について「三和細粒(S−29)」(通し番号112)の9薬剤である。これらの9薬剤は、それぞれの処方名で販売されている唯一の薬剤である。
b 原告書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は、別表1−2の「処方名」欄記載のとおり、全148の漢方処方名を、原則として50音順で配列し、その最後に、生薬である処方名「ヨクイニンエキス」を配列している。また、例外的に50音順を崩して配列した箇所は、4箇所(別表1−2の通し番号13ないし15、20及び21、32ないし34、149)である。
c 前記aのとおり選択された個々の具体的な薬剤の薬剤情報(漢方薬薬剤情報)は、「薬剤名」、「組成・容量・〔1日用量〕」、「備考」の3項目欄を設けた一覧表形式の原告書籍漢方薬便覧部分に掲載されている。これらの薬剤情報は、漢方薬薬剤に関する添付文書情報及び添付文書外情報から、「剤形」、「製品番号及び製造会社略号」、「組成」、「容量」、「一日の用量」、「証」(疾病が生体に与えている状況の総合。患者が現時点で呈している病状を陰陽・虚実、気血水、五臓等の漢方医学のカテゴリーで総合的にとらえた診断であり、治療の指示)、「適応症(疾患・症状)」、「相互作用」、「重大な副作用」、「その他の副作用」が適宜選択されるととともに、主にツムラの製造販売に係る薬剤の薬剤情報が選択され、必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報が追加的に選択されている。
 原告書籍漢方薬便覧部分に掲載の薬剤の具体的な掲載例は、別紙1−2のとおりである。例えば、処方名「安中散〈アンチユウサン〉」に属する薬剤については、「薬剤名」欄に、上記処方名として「安中散」、商品名(製造販売会社、剤形及び各会社における製品番号を略記したもの)として「ツムラ顆粒(5)、コタロー細粒(N5)、カプセル(NC5)、カネボウ細粒(KB−5、EK−5)」等の記載がされており、「組成・容量・〔1日用量〕」欄に「ケイヒ4.0 エンゴサク3.0 ボレイ3.0 ウイキョウ1.5 カンゾウ1.0 シュクシャ1.0 リョウキョウ0.5 〔(ツ)7.5g、(コ)6g又は6cap、(カ)6g〕」(「(ツ)」はツムラ、「(コ)」は小太郎、「(カ)」はカネボウの略称記号)の記載が、「備考」欄に「(証)陰、虚」(「(証)」は「証」を意味する記号)、「(適)神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー〔やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛又は腹痛があって、ときに胸やけ、げっぷ、食欲不振、吐き気などを伴う諸症〕」(「(適)」は「適応症」の略称記号)、「(相)カンゾウ・グリチルリチン酸製剤(偽アルドステロン症、ミオパシー)」(「(相)」は「相互作用」の略称記号)、「(副)重大偽アルドステロン症、ミオパシーその他発疹、発赤、そう痒など」((副)重大その他は「重大な副作用」と「その他の副作用」の略称記号)等の記載がされている。
(イ)a 日本国内で医療用漢方薬を製造販売する製薬会社は、ツムラ、カネボウ(現クラシエ)、小太郎、三和生薬株式会社(以下「三和」という。)、伸和製薬株式会社、帝国漢方製薬株式会社、本草製薬株式会社、株式会社東洋薬行、株式会社阪本漢法製薬、大杉製薬株式会社(以下「大杉」という。)、太虎精堂株式会社、ホノミ漢方製剤(剤盛堂薬品)、ジェイドルフ株式会社、株式会社カーヤ(天津)の合計14社(乙4の1996頁)である。
 このうち、ツムラは、漢方薬の全処方名148のうち129に属する薬剤を製造販売している。
 平成19年当時の国内医療用漢方薬のシェアをみると、第1位のツムラが82.4%を占め、次いで、第2位のカネボウ(現クラシエ)が10.1%、第3位の小太郎が約7%程度を占めており、これら漢方3社でシェア全体の約99%を占めている。
b また、国立病院機構が平成21年3月13日に公表した平成19年度購入実績ベースに係る資料(乙56の1、2)によると、同機構が運営する全145の病院において、実際に取扱いを行っている漢方薬の数は、処方名で捉えた場合、ツムラの製品が94、クラシエの製品が30、小太郎の製品が15であり、4番目に取扱数の多い大杉の製品が4、5番目である三和の製品が1であり、その他の漢方薬メーカーが製造する薬剤についての取扱実績はない。
c さらに、漢方3社が製造販売する商品は、他の商品と別異の取扱いがされている。例えば、B(東京大学大学院薬学系研究科・医薬経済学)ほかの作成に係る日本の漢方薬の「ランダム化比較試験」等を収集したデータベース(2002年作成のもの)は、「主要漢方薬メーカーのMR(ツムラ、カネボウ、小太郎漢方)」を通して情報収集している(乙57の3)ほか、クリニックや薬局の運営するウェブサイトでも、漢方3社を特に取り上げて記載しているものが存在する(具体的には、假野クリニックのウェブサイト上の「コタロー、ツムラ、クラシエ(旧カネボウ)は歴史的に漢方エキス御三家といえます」との記載(乙57の4)、富士堂漢方薬局のウェブサイト上の「日本の代表的な漢方エキス剤メーカー ツムラクラシエコタロー各社の製品は全て取り揃えております。」との記載(乙57の5)、中国漢方小島薬局のウェブサイト上の「ツムラ、コタロー、クラシエの3大メーカーをはじめ、多くの漢方メーカーが発売しています。」等の記載(乙57の6)、牛久東洋医学クリニックのウェブサイト上の「ツムラ、クラシエ(旧カネボウ)、コタロー等を中心に、医療用漢方を全て取り扱っています。」との記載(乙57の7)、株式会社中屋彦十郎薬舗のウェブサイト上の「特にカネボウ薬品の取り扱いが多く、ツムラ、小太郎漢方などのほか」との記載(乙57の8)がある。)。
イ 原告書籍漢方薬便覧部分における「薬剤」の選択の創作性等
(ア) 原告は、@原告書籍漢方薬便覧部分は、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている784個の漢方薬及び1627個の生薬(日本標準商品分類の薬効分類(甲5の2)の「51 生薬」に含まれる1615個と同分類「59 その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品」に含まれる生薬の医薬品エキス12個の合計)を母集団とし、様々な臨床事例、臨床現場における声、臨床現場での重要性及び使用頻度等を踏まえて、漢方処方名ごとに漢方3社が製造販売する当該漢方処方名に属する薬剤を全て選択し、漢方3社が製造販売していない漢方処方名に属する薬剤であっても、漢方専門医が臨床で使用する重要度の高い薬剤を選択するという編集方針の下に、素材である個々の具体的な「薬剤」の選択をし、また、厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている1627個の生薬の中から、「ヨクイニンエキス」1個のみを、臨床現場での重要性や使用頻度に基づき、通常分類される大分類「皮膚科用剤」ではなく、大分類「漢方薬」に分類するものとして選択し、これらの薬剤の選択に原告の個性が表れているから、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である個々の具体的な薬剤の選択において創作性を有する編集著作物に該当する、A被告書籍漢方薬便覧部分は、原告書籍漢方薬便覧部分で選択された上記漢方薬及び生薬がそのまま選択されているから、被告書籍漢方薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の選択における表現は、原告書籍漢方薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現と類似する旨主張する。
a 前記ア(ア)の認定事実によれば、原告書籍漢方薬便覧部分においては、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている漢方薬の148の処方名(漢方処方名)の全てについて、それぞれの処方名ごとに当該処方名に属する薬剤を選択して掲載したものであり、個々の具体的な薬剤の選択は、漢方3社(ツムラ、クラシエ及び小太郎)が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については、漢方3社以外の他社が製造販売する薬剤を選択したことが認められる。
 そこで検討するに、厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている漢方薬の148の処方名(漢方処方名)の全てを掲載し、それぞれの処方名ごとに当該処方名に属する薬剤を選択して掲載するという方針自体は、臨床現場で有用な薬剤便覧を編集することを目的とするものである以上、ありふれたものである。
 次に、原告書籍漢方薬便覧部分では、各処方名ごとの薬剤の選択に際しては、漢方3社が製造販売する薬剤を優先して選択している。
 しかるところ、前記ア(イ)a認定のとおり、日本国内で医療用漢方薬を製造販売する製薬会社は合計14社であることからすると、これらの各社が製造販売する薬剤のいずれを選択して掲載するかについては、いろいろな組合せを考え得るものであり、その意味では選択の幅があるといえる。
 一方で、原告書籍のような臨床現場で使用する薬剤便覧においては、コンパクト化の要請と薬剤情報の網羅性の要請を満たす必要があるところ、@平成19年当時の国内医療用漢方薬のシェアをみると、シェア順で第1位から第3位に位置する漢方3社は、シェア全体の約99%を占めており、また、シェア第1位のツムラは、漢方薬の全処方名148のうち129に属する薬剤を製造販売していること(前記ア(イ)a)、A国立病院機構が運営する全145病院の平成19年度購入実績ベースによると、これらの病院が実際に取扱いを行っている漢方薬の処方名の数は、ツムラの製品が94、クラシエの製品が30、小太郎の製品が15であり、4番目に取扱数の多い大杉の製品が4、5番目である三和の製品が1であり、その他の漢方薬メーカーが製造する薬剤についての取扱実績はないこと(前記ア(イ)b)、BB(東京大学大学院薬学系研究科・医薬経済学)ほかの作成に係る日本の漢方薬の「ランダム化比較試験」等を収集したデータベース(2002年作成のもの)では、「主要漢方薬メーカーのMR(ツムラ、カネボウ、小太郎漢方)」(漢方3社)を通して情報収集していることなど(前記ア(イ)c)に鑑みると、各処方名ごとの薬剤(漢方薬)の選択に際し、漢方3社が製造販売する薬剤を優先すること、すなわち、漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については、漢方3社以外の他社が製造販売する薬剤を選択することは、臨床現場で使用する薬剤便覧を作成する者にとってありふれたものであるといわざるを得ない。
 現に、原告書籍の発行後のものではあるが、薬事日報社が平成20年3月31日に発行した「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)においても、「医療用漢方製剤」の分類項目において、漢方薬の各処方名ごとの薬剤の選択に際し、漢方3社が製造販売する薬剤を優先し、漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については、漢方3社以外の他社が製造販売する薬剤を選択して掲載している(なお、乙9には、処方名「葛根湯加川??辛夷」に属する薬剤について、「小太郎」等会社名を直接的に表す記載はないものの、小太郎の商品であることを示す商品番号「N2」(952頁)との記載があり(「N」とは小太郎を示す記号であり、「2」は薬剤の製品番号である。948頁)、小太郎の商品が選択されて記載されている。)。
 さらに、漢方3社が製造販売していない処方名に属する薬剤の選択についてみると、前記ア(ア)aのとおり、原告書籍漢方薬便覧部分では、漢方3社が製造販売していない処方名に属する薬剤として、9の漢方処方名についてそれぞれ1個の薬剤が掲載されているが、これらの薬剤は、それぞれの処方名で販売されている唯一の薬剤であったことからすると、他に選択の余地がなかったものといえる。
b 以上を総合すると、原告書籍漢方薬便覧部分において、前記aのとおり、平成19年1月現在で厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている漢方薬の148の処方名(漢方処方名)の全てについて、それぞれの処方名ごとに当該処方名に属する薬剤を選択して掲載するという方針の下に、個々の具体的な薬剤の選択は、漢方3社の薬剤を優先して選択したことは、ありふれたものであって、素材である個々の薬剤の選択における創作性を認めることはできない。
c これに対し原告は、漢方薬は、それ以外の薬剤と異なり、同じ漢方処方名であっても製造会社ごとに剤形、組成、容量が異なる場合が多く、その効果にも違いが生じるので、個々の患者に適合した漢方薬を処方することが不可欠であり、臨床現場では、製造会社ごとの差異は重要であって、漢方3社以外の市場シェアの小さい会社の商品であってもこれを軽視することはできないという実情があるから、漢方薬の臨床現場では、薬剤の市場シェアは必ずしも重視されるものではなく、臨床現場で使用する薬剤便覧に掲載する漢方薬の選択に際しても、単に市場シェアに着目して掲載薬剤を選択するという編集方針を採用することは、通常考えられない旨主張する。
 しかしながら、原告書籍漢方薬便覧部分においても、漢方薬の148の処方名のうち、137については、シェア全体の約99%を占める漢方3社が製造販売する薬剤のみが選択されており、漢方3社以外の薬剤は選択されていないが(前記ア(ア)a)、これらの137の処方名について漢方3社以外の薬剤を選択しなかった理由について具体的な説明がされていないことに照らすならば、原告が主張するように漢方3社以外の市場シェアの小さい会社の商品であっても軽視することはできないという実情があるとしても、そのような事情が薬剤便覧に掲載する漢方薬の選択に際し市場シェアに着目して掲載薬剤を選択するという編集方針を採用することが通常考えられないことを裏付ける根拠となるものとは認められない。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。
(イ) 次に、原告は、原告書籍漢方薬便覧部分では、厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている1627個の生薬(日本標準商品分類の薬効分類の「51 生薬」に含まれる1615個と同分類「59 その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品」に含まれる生薬の医薬品エキス12個の合計)の中から、「ヨクイニンエキス」1個のみを、臨床現場での重要性や使用頻度に基づき、通常分類される大分類「皮膚科用剤」ではなく、大分類「漢方薬」に分類するものとして選択したことについて、原告の個性が表れている旨主張する。
 そこで検討するに、証拠(甲1、2、5の1、乙1、6、57の5、8、59)及び弁論の全趣旨によれば、@複数の生薬を調合することにより生成される製剤が漢方薬であるが、一部の生薬については、単独で用いられることが想定され、単独で用いられた場合でも効能・効果を有するものもあることから、日本標準商品分類では、これらの生薬が薬効分類「59 その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品」に分類されていること、A「日本医薬品集 2008年版」(乙6)には、上記「その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品」に属するものとして、処方名で「ヨクイニンエキス」、「ブシ」及び「ビスキンサン製剤」の三つ(このうち、「ヨクイニンエキス」には、「ヨクイニンエキス錠」及び「ヨクイニンエキス散」の二つの商品が属している。)が分類されていること、B「ヨクイニンエキス」が「漢方薬」として分類されている書籍としては、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)、「治療薬マニュアル1995」(乙71)、「ポケット医薬品集(1999年版)」(乙72)等が存在することが認められる。
 上記認定事実を総合すれば、薬効分類「59 その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品」に分類される処方名三つの中から、「漢方薬」の項目に分類するものとして、「ヨクイニンエキス」を選択することは、ありふれたものであるといえる。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 以上によれば、原告書籍漢方薬便覧部分における薬剤の選択は、ありふれたものであって、創作性を認めることができない。
 したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である個々の具体的な薬剤の選択において創作性を有する編集著作物に該当するものと認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告書籍漢方薬便覧部分が上記編集著作物である原告書籍漢方薬便覧部分を複製又は翻案したとの原告の主張は理由がない。
ウ 原告書籍漢方薬便覧部分における「漢方処方名」の配列の創作性等原告は、@原告書籍独自のフォーマット、原告書籍独自の本件分類体系において、中分類及び小分類を設けずに「処方名」も含めて3層とした分類体系及び原告書籍独自の索引部分を組み合わせ、原告書籍漢方薬便覧部分において、上記フォーマットに従って、「処方名」(漢方処方名)を原則として50音順とし、例外的に4箇所においてのみ50音順を崩して配列しており、その具体的な配列は、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的かつ物理的な順序において、他の類書と顕著に異なる原告独自の配列態様になっていることは一見して明らかであるから、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方処方名」の配列において創作性を有する編集著作物に該当する、A被告書籍漢方薬便覧部分に掲載された149の「処方名」の配列は、原告書籍漢方薬便覧部分に掲載された同数の「処方名」の配列と、50音順を崩した4箇所を含め、完全に一致するから、被告書籍漢方薬便覧部分における「漢方処方名」の選択における表現は、原告書籍漢方薬便覧部分の「漢方処方名」の選択における創作的表現と類似する旨主張する。
(ア) 原告書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は、別表1−2の「処方名」欄記載のとおり、全148の漢方処方名を、原則として50音順とし、その最後に、生薬である処方名「ヨクイニンエキス」を配列していること、例外的に50音順を崩して配列した箇所が4箇所あることは、前記ア(ア)b認定のとおりである。
 そこで検討するに、原告が主張する原告書籍のフォーマット、本件分類体系及び索引部分の独自性は、「処方名」(漢方処方名)を原則として50音順に配列し、例外的に4箇所においてのみ50音順を崩して配列したことに直接関わるものではなく、その配列における創作性を基礎付けるものではない。
 そして、薬剤の処方名(一般名)を50音順に配列すること自体は、極めてありふれた手法であり、50音順に従って配列された具体的表現に創作性は認められない。
 そこで、原告書籍漢方薬便覧部分が、「処方名」(漢方処方名)の配列を原則として50音順にし、例外的に4箇所においてのみ50音順を崩して配列している点について、漢方処方名の配列における創作性が認められるかどうか検討する。
a 原告は、 処方名「桂枝加竜骨牡蛎湯〈ケイシカリユウコツボレイトウ〉」−「桂枝加朮附湯〈ケイシカジユツブトウ〉」−「桂枝加苓朮附湯〈ケイシカリヨウジユツブトウ〉」の配列(別表1−2の通し番号32ないし34)は、備考欄にある適応症、相互作用、副作用が共通しているので、省スペースの観点から、50音順を崩した旨を主張する。
 しかしながら、「備考」欄に記載すべき事項は、薬剤情報の一部であり、「備考」欄に記載すべき事項が共通のものをまとめることにより原告書籍漢方薬便覧部分のコンパクト化(省スペース化)を図ることは、薬剤情報の配列における工夫の問題であって、そのことから薬剤の処方名の配列における創作性を見い出すことはできない。
b 原告は、処方名「葛根湯〈カツコントウ〉」−「葛根加朮附湯〈カツコンカジユツブトウ〉」−「葛根湯加川◆(くさかんむりに弓)辛夷〈カツコントウカセンチヨウシンイ〉」の配列(別表1−2の通し番号13ないし15)、及び処方名「桔梗湯〈キキヨウトウ〉」−「桔梗石膏〈キキヨウセツコウ〉」の配列(別表1−2の通し番号20及び21)は、処方名の基礎となるものを優先するという観点から、それぞれ50音順を崩した旨を主張する。
 しかしながら、関連する薬剤について基礎的な処方のものから応用的な処方のものへと配列すること自体は、特段創作性のある配列方法であるものとは認め難い。また、「桔梗湯」に関しては、その組成はカンゾウとキキョウの2種類の生薬の混合であり、原告書籍漢方薬便覧部分において「桔梗湯」に続いて記載されている「桔梗石膏」の組成はキキョウとセッコウの2種類の生薬の混合であるところ(甲1の1038頁)、これらの組成だけからは、一方が基礎的な処方であり他方が応用的な処方であるという関係にあることを直ちに認めることはできず、この点からも、「桔梗湯」と「桔梗石膏」との配列については、処方名の50音順の配列をあえて崩したことについて、処方名の配列における創作性を認めることはできない。
c 原告は、処方名「ヨクイニンエキス」について、元来、生薬に含まれる「ヨクイニンエキス」を漢方薬に分類することに鑑みて、50音順にとらわれず、大分類「漢方薬」の中の最後に配列した(別表2−1の通し番号149)旨を主張する。
 しかしながら、本来は漢方薬に分類すべきものではない薬剤である生薬を、便宜上漢方薬の分類に含めて薬剤便覧に記載するとすれば、最後尾にこれを持ってくるというのはありふれた配列上の工夫であって、この点に処方名の配列における創作性を認めることはできない。
 以上のとおりであるから、原告書籍漢方薬便覧部分は素材である「漢方処方名」の配列において創作性を有するとの原告の主張は、理由がない。
(イ) したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方処方名」の配列において創作性を有する編集著作物に該当するものと認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告書籍漢方薬便覧部分が上記編集著作物である原告書籍漢方薬便覧部分を複製又は翻案したとの原告の主張は理由がない。
エ 原告書籍漢方薬便覧部分における「漢方薬薬剤情報」の選択の創作性等
(ア) 原告は、@原告書籍漢方薬便覧部分が、臨床現場での便宜を考慮して、膨大な薬剤情報の中から、必要かつ十分な情報をコンパクトに掲載するために、漢方薬薬剤に関する添付文書情報及び添付文書外情報から、「剤形」、「製品番号及び製造会社略号」、「組成」、「容量」、「一日の用量」、「証」、「適応症(疾患・症状)」、「相互作用」、「重大な副作用」、「その他の副作用」を適宜選択するとともに、「組成」と「容量」について主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の薬剤情報を優先し、必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る漢方薬剤の薬剤情報を追加的に選択しており、このような選択には高い創作性が認められるから、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」の選択において創作性を有する編集著作物に該当する、A被告書籍漢方薬便覧部分は、選択された「漢方薬薬剤情報」の項目が原告書籍漢方薬便覧部分で選択された「漢方薬薬剤情報」の項目と極めて類似し、また、主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の薬剤情報を選択し、必要に応じて、ツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報を追加的に選択している点でも原告書籍漢方薬便覧部分と類似するから、被告書籍漢方薬便覧部分の「漢方薬薬剤情報」の選択における表現は、原告書籍漢方薬便覧部分の「漢方薬薬剤情報」の選択における創作的表現と類似する旨を主張する。
 そこで検討するに、厚生省薬務局通知平成9年4月25日薬発第606号(乙52の資料1)によれば、漢方薬を含む医療用医薬品の添付文書の記載項目は、20項目(「1.作成又は改訂年月」、「2.日本標準商品分類番号等」、「3.薬効分類名」、「4.規制区分」、「5.名称」、「6.警告」、「7.禁忌」、「8.組成・性状」、「9.効能又は効果」、「10.用法及び用量」、「11.使用上の注意」、「12.薬物動態」、「13.臨床成績」、「14.薬効薬理」、「15.有効成分に関する理化学的知見」、「16.取扱い上の注意」、「17.承認条件」、「18.包装」、「19.主要文献及び文献請求先」、「20.製造業者又は輸入販売業者の氏名又は名称及び住所」)とされていることからすると、これら各項目のうちのいずれの情報を選択するかについては、いろいろな組合せが考え得るものであり、その意味では選択の幅があるといえる。
 しかしながら、他方で、原告が原告書籍漢方薬便覧部分において添付文書情報から選択したと主張する薬剤情報に係る項目のうち、「剤形」、「製品番号及び製造会社略号」、「組成」、「容量」、「一日の用量」、「適応症(疾患・症状)」、「相互作用」、「重大な副作用」及び「その他の副作用」は、上記添付文書の記載項目のうち、臨床現場で漢方薬を用いる医療従事者にとっておよそ必要不可欠な情報に係る項目と重なる内容のものであって、実際に、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)は、薬剤情報として、剤形、製造販売会社名、製品番号、組成、一日の用量、適応症、副作用、禁忌、併用注意等を、「ポケット医薬品集2008年版」(乙3)は、製造販売会社名、組成、容量、適応症、副作用等を、「治療薬マニュアル2008」(乙4)は、剤形、製造販売会社名、製品番号、組成、一日の用量、適応症、副作用等を、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)は、剤形、製造販売会社名、製品番号、組成、容量、一日の用量、適応症、副作用、禁忌、併用注意等を添付文書から選択しており、臨床現場で用いるコンパクトな薬剤便覧に必要な情報を載せるに当たって、そのような各項目を適宜選択し、当該項目に係る薬剤情報を掲載することはありふれているといえる。原告は、特に「製品番号及び製造会社略号」をひとまとまりの情報として選択する行為が他の類書に例をみないものである旨を主張するが、それは単なる表記上の工夫にすぎず、「漢方薬薬剤情報」の選択の創作性に直接関係するものではない。
 また、原告書籍漢方薬便覧部分では、添付文書外の情報として、「証」(疾病が生体に与えている状況の総合。患者が現時点で呈している病状を陰陽・虚実、気血水、五臓等の漢方医学のカテゴリーで総合的にとらえた診断であり、治療の指示)を選択しているが、このような情報を掲載することは、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)、「ポケット医薬品集2008年版」(乙3)にもみられ、ありふれたものである。
 さらに、原告書籍漢方薬便覧部分では、「組成」及び「容量」について、主にツムラが製造販売する商品の添付文書に記載された情報を優先し、必要に応じてそれ以外の会社の製造販売する商品の添付文書に記載された情報を選択しているが、この点についても、ツムラが漢方薬の全処方名148のうち129に属する薬剤を製造販売し、平成19年当時の国内医療漢方薬のシェア第1位で、そのシェアは82.4%を占めていることや(前記ア(ア)a)、薬剤の「組成」等についてツムラの商品の情報を主に掲載する薬剤便覧として、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)、「治療薬マニュアル2008」(乙4)、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)が存在することなどからすると、ありふれたものである。
 以上によれば、原告書籍漢方薬便覧部分は素材である「漢方薬薬剤情報」の選択において創作性を有するとの原告の主張は理由がない。
(イ) したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」の選択において創作性を有する編集著作物に該当するものと認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告書籍漢方薬便覧部分が上記編集著作物としての原告書籍漢方薬便覧部分を複製又は翻案したとの原告の主張は理由がない。
オ 原告書籍漢方薬便覧部分における「漢方薬薬剤情報」の配列の創作性等(ア) 原告は、@「漢方薬薬剤情報」の「適応症」について、一般的には、添付文書における配列順序のとおり「症状」、「疾患」の順に配列されているが、臨床現場においては「症状」の情報よりも「疾患」の情報を参照しやすい方が便利であり、「疾患」、「症状」の順に適応症を記載する方法は実務的に非常に役立つものであることに鑑み、原告書籍漢方薬便覧部分では、添付文書と配列順序を変え、「疾患」、「症状」の順に配列しており、この配列には、高度の創作性が認められるから、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」の配列において創作性を有する編集著作物に該当する、A 被告書籍漢方薬便覧部分の「漢方薬薬剤情報」においては、原告書籍漢方薬便覧部分と同じ「疾患」、「症状」の順に配列をしているから、被告書籍漢方薬便覧部分における「漢方薬薬剤情報」の配列における表現は、原告書籍漢方薬便覧部分の「漢方薬薬剤情報」の配列における創作的表現と類似する旨主張する。
 しかしながら、「適応症」に係る情報は、「症状」についての情報と、「疾患」についての情報の二つからなるところ、その配列は、「症状」、「疾患」の順とするか、あるいは「疾患」、「症状」の順とするかの二者択一であることからすると、そのいずれの配列にも創作性を認めることはできない。
 以上のとおり、原告書籍漢方薬便覧部分は素材である「漢方薬薬剤情報」の配列において創作性を有するとの原告の主張は、理由がない。
(イ) したがって、原告書籍漢方薬便覧部分は、素材である「漢方薬薬剤情報」の配列において創作性を有する編集著作物に該当するものと認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告書籍漢方薬便覧部分が上記編集著作物としての原告書籍漢方薬便覧部分を複製又は翻案したとの原告の主張は理由がない。
(3) まとめ
 以上のとおり、被告書籍便覧部分は、原告主張の編集著作物としての原告書籍便覧部分を複製又は翻案したものとは認められない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告による被告書籍の印刷及び販売行為が原告主張の編集著作物の著作権(複製権及び譲渡権)の共有持分の侵害に当たるものと認めることはできない。
2 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 高橋彩
 裁判官 上田真史


(別紙) 書籍目録
1 書籍名 「今日の治療薬 解説と便覧 2007」
  編集者 A
  発行者 C
  発行所 原告
  2007年(平成19年)2月15日第29版第1刷発行
2 書籍名 「治療薬ハンドブック 2008 薬剤選択と処方のポイント」
  監修 D
  編集 E・F・G・H・I
  発行人 J
  発行所 被告
  平成20年1月25日発行
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