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【事件名】DeNA vs グリー 類似「ソーシャルゲーム」事件(2)
【年月日】平成24年8月8日
 知財高裁 平成24年(ネ)第10027号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第34012号)
 (口頭弁論終結日 平成24年7月4日)

判決
控訴人兼被控訴人 グリー株式会社(以下「第1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 岩倉正和
同 櫻庭信之
同 洲桃麻由子
同 小西透
同 星野大輔
同 戸田順也
同 神谷圭佑
同 小川裕子
被控訴人兼控訴人 株式会社ディー・エヌ・エー(以下「第1審被告ディー・エヌ・エー」という。)
被控訴人兼控訴人 株式会社ORSO(以下「第1審被告ORSO」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 高橋元弘
同 佐藤久文
同 末吉亙


主文
1 第1審被告ディー・エヌ・エー及び第1審被告ORSOの控訴に基づき、
(1)原判決中、第1審被告ディー・エヌ・エー及び第1審被告ORSO敗訴部分を取り消す。
(2)上記部分につき、第1審原告の請求をいずれも棄却する。
2 第1審原告の本件控訴を棄却する。
3 第1審原告の当審における拡張請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、第1審原告の負担とする。

事実及び理由
第1 申立て
〔第1審原告〕
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中第1審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 第1審被告らは、原判決別紙ウェブサイト目録1記載のウェブサイトから、原判決別紙影像目録1記載の影像を抹消せよ。
(3) 第1審被告ORSOは、原判決別紙ウェブサイト目録2記載のウェブサイトから、原判決別紙影像目録2記載の影像を抹消せよ。
(4) 第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して、7億0560万円及びこれに対する平成23年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 第1審被告らは、原判決別紙ウェブサイト目録1記載のウェブサイトのトップページに、原判決別紙謝罪広告目録1(一)記載の謝罪広告項目を、同(二)記載の掲載条件により30日間掲載せよ。
(6) 第1審被告らは、原判決別紙ウェブサイト目録1記載のウェブサイト内のウェブページに、原判決別紙謝罪広告目録2 (一)記載の謝罪文を、同(二)記載の掲載条件により30日間掲載せよ。
2 当審における請求の拡張
 第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して、1億2865万円及びこれに対する平成24年4月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔第1審被告ら〕
 主文第1ないし第3項と同旨
第2 事案の概要(略称は、特に断らない限り、原判決に従う。)
1 事案の要旨
 本件は、第1審原告が、第1審被告らに対し、
(1) 第1審被告らが共同で製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲーム「釣りゲータウン2」(以下「被告作品」という。)を製作し公衆に送信する行為は、第1審原告が製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲーム「釣り★スタ」(以下「原告作品」という。)に係る第1審原告の著作権(翻案権、著作権法28条による公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張し、@著作権法112条に基づき、原判決別紙対象目録記載の被告作品に係るゲームの影像の複製及び公衆送信の差止め、ウェブサイトからの上記影像の抹消及び記録媒体からの上記影像に係る記録の抹消、A民法709条、719条に基づき、損害賠償金の支払、B著作権法115条に基づき、謝罪広告の掲載を求め、
(2) 第1審被告らが、原判決別紙影像目録1及び2記載の影像(以下「被告影像1」「被告影像2」という。)を第1審被告らのウェブページに掲載する行為は、不正競争防止法2条1項1号の「混同惹起行為」に当たると主張して、@同法3条に基づき、被告影像1の抹消及び第1審被告ORSOに対する被告影像2の抹消、A民法709条、719条に基づき、損害賠償金の支払、B不正競争防止法14条に基づき、謝罪広告の掲載を求め、
(3) 第1審被告らが、第1審原告に無断で原告作品に依拠して被告作品を製作し配信した行為は、第1審原告の法的保護に値する利益を違法に侵害し、不法行為に該当すると主張して、@民法709条、719条に基づき、損害賠償金の支払、A民法723条に基づき、謝罪広告の掲載を求める事案である。
 なお、第1審原告は、上記(1)A、(2)A及び(3)@の損害賠償(弁護士費用を含む。)として、被告作品の配信開始日である平成21年2月25日から平成23年7月7日までの期間の損害金合計9億4020万円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。そして、第1審原告は、上記(1)について、(@)被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害し、また、(A)被告作品における主要画面の変遷は、原告作品における主要画面の変遷に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害する旨主張した。
2 原判決
 原判決は、被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る第1審原告の著作権(翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとしたが、その余の著作権及び著作者人格権侵害の主張を認めず、また、第1審被告らの行為は不正競争防止法2条1項1号にも不法行為にも当たらないとして、前記1(1)@の全部並びに(1)Aのうち合計2億3460万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で、第1審原告の請求を認容し、その余の請求を全て棄却した。
 そこで、第1審原告が、これを不服として控訴するとともに、損害賠償請求を拡張し、平成23年7月8日から平成24年3月8日までの期間の損害金として、1億2865万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した。また、第1審被告らも、原判決を不服として控訴した。
3 前提となる事実(争いのない事実又は証拠によって容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 第1審原告
 第1審原告は、インターネットを利用した各種情報提供サービス業並びにコンピュータに関するハードウェア・ソフトウェアの開発、製造、販売、リース及び保守サービス等を業とする株式会社である。
 第1審原告は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS。会員登録をしたユーザーが自己のプロフィールページを作り、日記を書き、テーマごとに設定された掲示板等を通じて、親しい友人とのコミュニケーションや、メンバーとの情報交換を楽しむことができるインターネット上のコミュニティ型サービス)を提供するインターネット・ウェブサイト「GREE」を、携帯電話機向け及びパーソナルコンピュータ向けに運営している。
イ 第1審被告ディー・エヌ・エー
 第1審被告ディー・エヌ・エーは、インターネットを利用した各種情報処理サービス及び情報提供サービス並びにソフトウェアの企画、開発、設計、製造、販売、賃貸、運用及びその代理等を業とする株式会社である。
 第1審被告ディー・エヌ・エーは、ポータルサイト・サービス兼SNSを提供するインターネット・ウェブサイト「モバゲータウン」を、携帯電話機向け及びパーソナルコンピュータ向けに運営している。
ウ 第1審被告ORSO
 第1審被告ORSOは、インターネット、コンピュータ、携帯電話、テレビゲーム機器等のシステム開発及びコンサルタント業務並びにゲームソフトの企画制作、製造、販売及び配給等を業とする株式会社である。
(2) 原告作品について
ア 第1審原告は、平成19年ころ、釣りを題材とした携帯電話機用インターネット・ゲームである原告作品を製作し、SNSのコミュニケーション機能と連動させたSNS連動型ゲームの第1弾として、平成19年5月24日から、携帯電話機向けGREEにおいて、その会員に対し、原告作品の公衆送信による配信を開始した。
イ 原告作品には、トップ画面、釣り場選択画面、キャスティング画面、魚の引き寄せ画面及び釣果画面が存在する。
ウ 平成21年2月7日から、原判決別紙影像目録3記載の原告作品の魚の引き寄せ画面の影像(以下「原告影像」という。)を用いた広告が行われた。
(3) 第1審被告らの行為
ア 第1審被告らは、被告作品を共同製作し、平成21年2月25日、携帯電話機向けモバゲータウンにおいて、その会員一般に対し、公衆送信による配信を開始した。
イ 被告作品には、トップ画面、釣り場選択画面、キャスティング画面、魚の引き寄せ画面及び釣果画面が存在する。
ウ 携帯電話機向けモバゲータウンにおいて、被告作品で遊んだことのないユーザーが被告作品を検索すると、被告作品を紹介する画面が表示される。同画面には、被告作品の配信開始前から、被告作品の魚の引き寄せ画面の影像(被告影像1)が掲載されている(甲16、乙141)。
エ 第1審被告ORSOのホームページには、被告作品を紹介する画面が存在する。同画面には、被告作品の配信開始に近接して、被告作品の魚の引き寄せ画面の影像(被告影像2)が掲載されている(甲17)。
4 争点
(1) 著作権(翻案権、著作権法28条による公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害の成否
ア 被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか(争点1−1)
イ 被告作品における主要画面の変遷は、原告作品における主要画面の変遷に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか(争点1−2)
(2) 第1審被告らのウェブページに被告影像1及び2を掲載する行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか(争点2)
(3) 被告作品を製作し公衆に送信する行為は、第1審原告の法的保護に値する利益を侵害する不法行為に当たるか(争点3)
(4) 第1審原告の損害(争点4)
(5) 第1審被告らによる謝罪広告の要否(争点5)
第3 当事者の主張
1 原審における主張
 原審における当事者の主張は、以下のとおり訂正するほか、原判決の事実及び理由第3(原判決6頁23行目〜87頁5行目)のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決49頁7行目から10行目を、「(3) 争点2(第1審被告らのウェブページに被告影像1及び2を掲載する行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか)について」と改める。
(2) 原判決50頁6行目、10行目、52頁11行目、13行目、19行目、24行目及び53頁3行目の「被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)」を、「被告影像1」と改める。
(3) 原判決50頁14行目、19行目、53頁5行目及び9行目の「被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)」を、「被告影像2」と改める。
(4) 原判決52頁22行目の「縦一列にに並べられ」を、「縦一列に並べられ」と改める。
(5) 原判決53頁15行目から54頁1行目までを、以下のとおり改める。
 「第1審原告が多額の費用を投じて開発し、多数の広告宣伝を行ってきた原告作品の魚の引き寄せ画面は、同業の第1審被告らによって明白かつ悪質な意図をもって依拠され、第1審被告らは、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できる被告作品を、全国に配信して第1審原告に莫大な損害を与えた。被告作品の配信により、全国のユーザーに、第1審原告(原告作品)と第1審被告ディー・エヌ・エー(被告作品)が同一会社であると誤信させ、ゲームの製作元が同一と誤認され、どちらが真似したか理解されていないなど、第1審原告の社会的信用と営業上の信頼に深刻な被害が生じている。」
(6) 原判決78頁8行目の「被告」を、「第1審被告ら」と改める。
(7) 原判決80頁14行目の「原被告作品」を、「被告作品」と改める。
(8) 原判決83頁19行目の「一般不法行為による損害」を、「法的保護に値する利益の侵害による許諾料相当の損害(予備的主張)」と改める。
(9) 原判決83頁23行目の「侵害したもののであるから」を、「侵害したものであるから」と改める。
(10) 原判決84頁8行目の「被告作品の魚の引き寄せ画像」を、「被告影像1及び2」と改める。
(11) 原判決84頁26行目の「魚の引き寄せ画面(初回トップページ)」を、「被告影像1及び2」と改める。
(12) 原判決85頁3行目の「無形損害」を、「法的保護に値する利益の侵害による無形損害」と改める。
(13) 原判決85頁5行目から9行目の「また」までを、「前記争点3に係る第1審原告の主張のとおり、第1審被告らは、第1審原告の法的保護に値する利益を侵害し」と改める。
(14) 原判決別紙3頁5行目の「携帯電話用インターネット・ゲームソフト」を、「携帯電話機用インターネット・ゲーム」と改める。
2 当審における主張
〔第1審原告の主張〕
(1) 争点1−1(被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
ア 本質的な特徴
 原告作品の「魚の引き寄せ画面」は、@画面から水面及びその上の様子が捨象され、水中のみを画像として、水平方向の視点で描き、視点が固定されている点、A中心からほぼ等間隔である三重の同心円が描かれ、同心円の中心が画面のほぼ中央に位置し、最も外側の円の大きさは、水中の画像の約半分を占める点、B背景が全体的に薄暗い青で、水底の左右両端付近に、同心円に沿うような形で岩陰が描かれ、水草、他の生物等は描かれていない点、C一匹の黒色の魚影が描かれており、魚の口から画像上部に向かって黒い直線の糸の影が伸びている点、D背景画像は静止し、釣り針にかかった魚影のみが、頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回る点、E同心円と魚影の位置関係によって釣り糸を巻くタイミングが表現されている点に表現上の本質的な特徴があり、創作性がある。被告作品は、これらの表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、原告作品の魚の引き寄せ画面が有する表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。
イ 第1審被告らの主張について
 第1審原告が原告作品の魚の引き寄せ画面に関して著作権侵害を主張しているのは、あくまでも上記@ないしEと共通する特徴を有している被告作品の魚の引き寄せの影像である。著作権に基づく差止請求権ないし損害賠償請求権が訴訟物となるものであり、第1審原告が侵害されたとする著作権と侵害したとする侵害品を提示している以上、ごく一部のみを取り出して同一性を論じるような場合でない限り、あくまで第1審原告が設定した枠内での対比をすべきである。第1審被告らは、本件訴訟物の枠外の、無関係の画面を持ち出してきているといわなければならない。
 原告作品の「魚の引き寄せ画面」の影像が有する表現上の本質的な特徴は、被告作品の「魚の引き寄せ画面」の影像の中に同一性が維持され、原告作品の表現上の特徴が丸ごと残っている。第1審被告らが主張する相違点は瑣末であり、そうでなくとも、原告作品との同一性ある部分を埋没させるほどの相違になっておらず、相違点があっても、被告作品から原告作品の表現上の特徴を直接感得することを妨げるものとなっていない。
 個々の要素がそれぞれバラバラでは表現上の創作性を有しない場合でも、複数の要素が全体として表現上の創作性を有することがある。創作性は著作物を全体的に観察して判断されるもので、一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して、パーツに分けて創作性の有無や、アイデアか表現かを判断することは妥当ではない。
 また、あたかも先行ゲームと後発ゲームとの間で表現上の本質的な特徴の共通点を有していながらこれを許容してゲームジャンルが形成発展されてきたかのような第1審被告らの主張は、前提自体誤っている。
ウ 類似釣りゲームの配信停止
 円を表示したゲームの中に、水中に同心円を配置した釣りゲームである「釣り★タウン」と「釣りコレDX」が含まれていた。そのため、第1審原告は両ゲームの配信元に配信停止を求めていたところ、「釣りコレDX」は平成22年8月13日に配信を停止し、「釣り★タウン」も、本件の第1審判決後の平成24年5月31日をもって配信を停止した。にもかかわらず、第1審被告らは、被告作品の配信を続けている。
 過去のゲーム業界は、開発者が工夫を重ねて面白いゲームを開発することで、新たなゲームが生まれ、発展してきた。更なるゲーム業界の発展のために求められるのは、このような開発者の創意工夫を正当に評価・保護し、かつ、安易な模倣行為を制約することである。ゲーム業界の発展のためには、被告作品のような模倣行為を放置すべきではない。
(2) 争点1−2(被告作品における主要画面の変遷は、原告作品における主要画面の変遷に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
ア 主要画面の遷移と相違点の存在
(ア) 相違点の存在
 原判決は、原告作品と被告作品との間に相違点が認められることを理由に挙げて原告作品の創作性を否定した。しかし、後発の被告作品と先行の原告作品との間に相違点があることは、両作品の共通性・類似性に関する論点には関係することがあっても、原告作品の創作性を否定する理由にはなり得ない。
 原判決が原告作品と被告作品との相違箇所として認定した、@船釣りの画面は、一時的に掲載されるだけの「トッピング」というべきものに留まるのであり、Aキャスティング画面に遷移する前に決定キーを押す画面は、機能をそのまま文字に書いた表示であり、B海釣り又は川釣りを選択する画面も、原告作品と被告作品との間の共通性・類似性を否定する根拠にはならず、些細な差である。また、原告作品と被告作品のそれぞれの具体的な表現が完全に一致していることまでは、著作権侵害の類似性の要件とはされていないのであり、相違点があるというだけでは著作権侵害を否定できない。
 本件においても、主要画面の要素の選択・配置及び主要画面の遷移について存する原告作品と被告作品との相違箇所は、印象を大きく異ならせるに足るほどのものではないし、原判決が相違点として認定した要素があっても、原告作品の一部を変えたものと容易に認識できる程度に、原告作品が有する主要画面の要素の選択・配置及び主要画面の遷移における特徴・個性的な表現が被告作品には再現されている。
(イ) 他の携帯電話機用釣りゲームに設けられている画面の状況
 原判決は、「主要画面の選択」だけを個別に取り出し、他の携帯電話機用釣りゲームにおいて設けられている画面の状況を根拠に、原告作品の主要画面の遷移の創作性を否定した。しかし、第1審原告は、ゲームをプレイする際に遷移する主要画面の選択・配列と、それぞれの主要画面中に描く素材の選択・配置の「全体」を創作性ある主要画面の遷移と主張しているのであって、上記の各主要画面の存在のみから創作性があると主張したのではない。
 携帯電話機用釣りゲームの主要画面となり得る画面は多種多彩にあり、主要画面とするにも画面の枚数には何ら制限がないのであり、ゲームをプレイする際に必ずたどる主要画面を、その作者には、どのように選択して配列するか多数の選択肢がある。さらに、各主要画面をそれぞれ見ても、1つの主要画面にどのような素材をどのように配置するかも多彩である。こうした多数ある選択肢の中から製作された原告作品の主要画面の遷移は全体として創作性を有している。
(ウ) 現実の釣り人の行動様式
 原判決は、携帯電話機用釣りゲームを製作するに当たって、原告作品において1つの画面を選択、配列したことに創作性は認められないとしたが、自然であることや現実の釣り人の行動様式であることは、原告作品の創作性を否定する理由にはならない。
 表現の対象が何であっても創作性は認められ得るし、原告作品の主要画面の遷移は、現実の釣りでは通常ない展開もある。
(エ) 容易性・利便性からの制約
 「ウェブページ閲覧機能」を用いた場合は、画面をスクロールさせることで縦長の画面を表示することができるのであり、原告作品以前に通常リリースされていた携帯電話機用釣りゲームと比較すると、むしろ選択・配置可能な要素は多い。また、携帯電話機用ゲームのレイアウトが限られているとしても、画面に表示する要素の選択と配列には多数の選択肢がある。SNSを利用するゲームであることと著作権法上の創作性の有無の問題とは全く別である。
イ 主要画面の遷移(要素の選択・配置)の創作性
(ア) 主要画面の要素の選択・配置と遷移の創作性
 携帯電話機用ゲームが、複数の画面の連続により構成される場合、数ある画面のうち、特にユーザーがゲームを行う際に必ずたどる画面(主要画面)は、ユーザーがゲームをするときに必ず目にする表現であり、ゲームの作者は、ユーザーに対してゲームで表現しようとするテーマや内容を主要画面において表現しようとする。まず、@ゲームを展開させる各主要画面の選択と配列(ゲームの骨格となる主要画面としてどのような画面を幾つ設け、どのように遷移させていくか)は、ゲームをプレイする全体の印象や、ゲームの手順・ストーリー等に大きく影響を与える。また、A主要画面1個に描く素材の選択と配列(展開する複数の主要画面の中の1つの主要画面だけを取り上げてみても、その1つの主要画面の中にどのような素材を選択してどう配置するか)も、それぞれの画面の表現内容と印象を左右し、ゲームの個性を特徴付ける。そのため、上記@Aとも、ゲームの表現上の特徴を構成する重要な要素となるもので、多くの選択肢の中で、ゲームの作者・デザイナーらが工夫を凝らし創作性が発揮される。こうした画面に依拠して類似する他社の作品は翻案権を侵害するものとなる。
(イ) 主要画面の遷移に関する著作権侵害の判断基準
 創作性は著作物を全体的に観察して判断されるもので、一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して、パーツに分けて創作性の有無や、アイデアか表現かを判断することは妥当ではない。
 また、素材の選択と配列に関する著作物の侵害の有無を判断するにおいては、「素材の選択又は配列」の近似度だけでなく、選択又は配置された素材まで似ている場合、アイデアにとどまらず表現までも模倣されているといえるから、アイデアと表現の区別が意図する「創作の自由」は確保されている。アイデアか表現かの区別を、素材の内容をも加味した素材の選択と配列の総体のレベルで吟味するのであるから、「総体」として創作的表現が共通していれば足り、個々の素材の近似度は必ずしもそれ自体として単独で創作的表現の共通性の程度にまで達している必要もない。
ウ 原告作品の主要画面の遷移と要素の選択・配置の創作性の分析的検討
 創作性は主要画面の遷移・要素の総体で判断されるべきであるが、個別分析的に見ても、以下のとおり、いずれも工夫を凝らした具体的な表現であり、原告作品の主要画面の遷移(要素の選択・配置)に創作性がある。
 @トップ画面から釣り場選択画面への遷移、A釣り場選択画面からキャスティング画面への遷移、Bキャスティング画面から魚の引き寄せ画面への遷移、C魚の引き寄せ画面から釣果画面への遷移のいずれも、原告作品の表現は、他の釣りゲームには見られなかったもので、リンクの配置も、他の釣りゲームには見られない表現である。
 原告作品の主要画面の遷移(要素の選択・配置)には、具体的な表現に他社ゲームには見られない、製作者の思想が具体的に表れており、原告作品の主要画面の遷移(要素の選択・配置)には創作性が認められる。
エ 「非主要画面」の素材の選択・配置の創作性について
 第1審原告が、原告作品の「展開する各画面の選択と配列」と「1個の画面中に描く素材の選択と配置」について創作性を主張してきたのは、原告作品の骨格をなしている、ユーザーがゲームを行う際に必ずたどる「主要画面」に関してのものである。非主要画面に仮に創作性がないとしても、原判決が、そのことによって創作性のある「主要画面」の要素選択・配置及び遷移の著作権侵害まで否定されるとしたのは背理である。
(3) 争点2(第1審被告らのウェブページに被告影像1及び2を掲載する行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか)について
ア 平成21年7月及び8月以前に商品等表示として周知性を獲得したこと
 ゲームの影像や動画は、それ自体が商品の出所表示を目的としていなくても、取引上二次的に商品の出所表示の機能を備える場合、商品等表示となる。原告影像には、際立った特徴と新規性があり、第1審原告は、平成19年5月24日の原告作品のリリース以降、これと酷似する被告作品がリリースされる平成21年2月25日までの約1年9か月間、顕著な特徴のある魚の引き寄せ画面を独占的に使用してきた。原告作品には、被告作品がリリースされた平成21年2月25日の時点で460万人の登録ユーザーが既に存在し、魚の引き寄せ画面の影像又はその影像を含む動画による広告宣伝においても、第1審原告のゲームであることが示されている。原告作品の魚の引き寄せ画面は、平成21年7月及び翌8月より以前に、第1審原告の出所表示機能を獲得し、原告作品の魚の引き寄せ画面は商品等表示として周知性を有するに至っている。
イ 複数の画面の一つであっても周知の商品等表示に該当し得ること
 ゲームは通常多くの画面から成るが、ユーザーは、最も個性的な特徴があり、新規性のある描写に着目してゲームの出所を認識するものである。原告作品の魚の引き寄せの画面は、最も個性的特徴的で新規性ある画面であり、ユーザーが魚の引き寄せ画面と同時に、その他複数の画面を目にすることになったとしても、魚の引き寄せ画面が持つ自他識別や出所表示の機能を失わせるものではない。
ウ 商品等表示の「使用」
 第1審被告らのホームページ中の被告作品紹介画面(甲16、17)では、ユーザーを被告作品に誘導する宣伝をしている。魚の引き寄せ画面の使用が、被告作品の内容を紹介するためのもので、自他識別機能以外の機能が併せ備わっていたとしても、自他識別機能が認められるのであれば、商品等表示の「使用」に当たる。
エ 混同のおそれ
 原告作品及び被告作品の取引の実情及び両表示の類似性に照らせば、携帯電話機用ゲームのユーザーが両表示を見たとき、両者を全体的に類似のものと受け取るおそれは十分あり、両表示は類似している。
 混同のおそれは、取引者、ユーザーを判断主体として判断されるが、原告作品及び被告作品のユーザーは、一般の消費者であり、更に携帯電話機用ゲームでは、若年者も有力な顧客となる。需要者が支払の際に払う注意の程度が他の商品と比べて低く、現実に混同が生じている。
オ 小括
 第1審被告らは、原告影像に類似する被告影像1及び2を、周知な商品等表示たる魚の引き寄せ画面の出所表示機能にフリーライドする態様で使用し、混同させるおそれを生じさせており、不正競争防止法2条1項1号に該当する。
(4) 争点3(被告作品を製作し公衆に送信する行為は、第1審原告の法的保護に値する利益を侵害する不法行為に当たるか)について
 必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益が違法に侵害された場合であれば不法行為が成立するが、第1審原告は、原告作品で展開される主要画面の選択・配列及び個別の主要画面の要素の選択・配置について時間・労力・費用を尽くして原告作品という傑作を開発し、リリース後の維持等の努力もあって経済的利益を受けているのであるから、法的保護に値する利益を有している。
 他方、第1審被告らは、原告作品に依拠して、原告作品に酷似している被告作品を、原告作品と同一の需要者層に向けて配信し、第1審原告が開発した成果物を不正に利用して利益を得ている。第1審被告らは、原告作品に依拠する明白な故意をもって原告作品を模倣し、原告作品と酷似した「魚の引き寄せ画面」及び「主要画面の遷移(要素の選択・配置)」を有する被告作品を製作・配信している。ユーザーを惹き込む原告作品の主要画面の遷移(要素の選択・配置)の魅力ある表現には多大な宣伝広告と維持管理等の費用が投じられ、その結果、携帯電話機用ゲームとして異例なほど全国的な人気を長期にわたって博している。それを、第1審被告らは第1審原告に無断で、営利の目的をもって反復継続して、違法に模倣した被告作品を配信して、原告作品と一致するユーザー層と第1審原告が得べかりし利益を違法に奪取している。第1審被告らが、故意をもっていることは明らかであり、その被害の規模、態様の悪質性等を考慮するなら、公正な競争として社会的に許容される限度を顕著に逸脱し、第1審原告の事業を不当に妨害するものということができ、不法行為(民法709条、719条1項)が成立する。
(5) 争点4(第1審原告の損害)について
ア 著作権法114条2項に基づく損害 8億2200万円
(ア) 第1審被告らは、第1審原告の著作権を侵害する被告作品を配信して利益を得ており、本来の著作権者が同じ利益を得られる蓋然性がある。そして、第1審被告らは、第1審原告と同様の方法で著作物を利用していた。さらに、原告作品と被告作品は市場が競合し、第1審原告に逸失利益が生じることは明らかであるから、著作権法114条2項が適用される。
(イ) 平成21年2月25日から平成23年7月7日までの被告作品の配信による第1審被告ディー・エヌ・エーの受けた利益の総額は、原判決が認定した7億1200万円である。
(ウ) 第1審被告らの著作権侵害行為は、平成23年7月8日から平成24年3月8日まで(8か月と1日)も継続している。平成23年7月7日までの被告作品の売上げは、3か月当たり5000万円であるから、同月8日から平成24年3月8日までの被告作品の売上げは、以下の計算式のとおり、1億3300万円であり、第1審原告の損害額は、それに限界利益率83%を乗じた1億1000万円である。
5000万円÷(3か月)×(8か月+1日)=1億3300万円
1億3300万円×0.83(限界利益率)=1億1000万円
(エ) よって、第1審被告らが、第1審原告の著作権を侵害する被告作品の配信により受けた利益の総額(著作権法114条2項)は、上記(イ)と(ウ)の合計8億2200万円となる。
(オ) 第1審被告らが、新たに提出した乙132は、裏付けとなる客観的証拠が添付されていないし、それ以外に主張を裏付ける追加の証拠はない。限界利益の算定に当たっては、変動費と追加投資が必要な場合の直接費用のみ控除が許されるものであるから、第1審原告が請求する損害額を全額認めるべきである。
(カ) 寄与率
 魚の引き寄せ画面は、正にゲームの核心であり、その寄与率は、100%であって、これを減殺すべき事情はない。魚の引き寄せ画面は、一般に携帯電話機用釣りゲームでは、ユーザーを吸引する最も魅力あるものとして表現されるのであり、他の画面と不可分一体になっている。原告作品及び被告作品に関していえば、ユーザーによる対価の支払を喚起しているのは魚の引き寄せ画面であり、魚の引き寄せ画面を中心に、ユーザーがゲームに引き込まれ、課金アイテムを購入してまで被告作品のプレイを継続しようとする。アイテム自体の魅力を理由に魚の引き寄せ画面の寄与率を減殺した原判決は、ユーザーには、釣りのプレイと離れてアイテム自体をコレクションする目的があるのではなく、魚の引き寄せ画面で魚をうまく釣り上げるためにアイテムを購入していることを看過している。
(キ) 著作権法114条の5
 仮に、性質上損害額の立証が困難であるとしても、著作権法114条の5により、8億2200万円をもって相当な損害額とされるべきである。
(ク) 法的保護に値する利益の侵害による許諾料相当の損害(予備的請求) 9970万円
 著作権侵害が認められないとしても、予備的に、第1審被告らの故意による共同不法行為に基づき、平成21年2月25日から平成24年3月8日までの被告作品の売上高合計9億9700万円の10%の9970万円を、使用許諾料相当損害金として請求する。仮にその立証が性質上困難であるとしても、民事訴訟法248条によって上記の損害賠償金が認められるべきである。
イ 不正競争防止法5条3項1号に基づく損害の額 4985万円
 第1審被告らは、不正競争防止法2条1項1号に該当する行為により、第1審原告の営業上の利益を侵害した。商品等表示の使用に対し第1審原告が受けるべき使用許諾料相当額は、被告作品の売上げの少なくとも5%を下らない。
 平成21年2月25日から平成23年7月7日までの被告作品の売上高が8億6400万円を下らないことは、当事者間に争いがなく、平成23年7月8日から平成24年3月8日までの被告作品の売上高は、上記アのとおり1億3300万円であるから、売上げ合計は9億9700万円である。第1審被告らが上記商品等表示を使用したことにより、不正競争防止法5条3項1号に基づき支払うべき使用許諾料相当損害金は、以下のとおり、4985万円である。
9億9700万円×0.05=4985万円
ウ 法的保護に値する利益の侵害による無形損害 1億円
 社会的信用ないし営業上の信頼は、全国の多数のユーザーに誤解が生じなければ毀損されないというものではない。原告作品が被告作品を真似たものとの誤解を抱いている者がいることは証拠上明らかであり、第1審原告の社会的信用、営業上の信頼は重大な毀損を被り、損失は甚大である。
 民事訴訟法248条に基づき、平成21年2月25日から平成24年3月8日までの間に第1審被告らの不法行為(民法709条、710条、719条)によって生じた無形損害を金銭に評価すると、少なくとも1億円が相当である。
エ 弁護士費用相当損害金 9700万円
 本件の難易、性質、請求額、内容等に照らせば、本件訴えの提起、追行のために第1審原告が要する弁護士費用のうち、相当因果関係のある第1審被告らの不法行為(民法709条、719条)に基づく損害額は、上記アイウの合計額である9億7185万円の10%の9700万円を下ることはない。
(6) 争点5(第1審被告らによる謝罪広告の要否)について
ア 配信差止め及び損害賠償金では回復し切れない被害の存在
 第1審原告は、これまでモバイルゲーム業界の成長・発展に寄与し、原告作品の登録ユーザー約1500万人を含むSNS「GREE」のユーザーへのサービスに尽くしてきた。ところが、第1審被告らの侵害行為の結果、第1審原告の方が被告作品を模倣したのではないかとユーザーに誤解されるなど、築き上げてきた第1審原告の社会的信用及び営業上の信用が著しく毀損され、ユーザーの間にも少なからず混乱を生じさせている。このような状態は、単に被告作品の配信停止や損害賠償金の支払などの措置によっては解消できず、被告作品の配信が差し止められた以降も第1審原告の被害を拡大させない観点からは、謝罪広告を行うべき必要性が非常に高い。
 以上のとおり、全国の多数のユーザーの誤信を解き、第1審原告の社会的信用及び営業上の信用や侵害された著作者人格権の原状を回復し、配信差止め後の被害拡大を防ぐには、第1審被告らによる謝罪広告が是非とも必要である。
イ 第1審被告らの行為態様
 第1審被告らは、明らかに模倣の意図をもって原告作品と酷似する被告作品を製作して配信を開始し、莫大な数のユーザーを獲得して、莫大な売上げを得た。その上、第1審被告らは、本訴提起前の交渉時に第1審原告が配信中止の警告を発したにもかかわらずこれを無視し、第1審原告の話合い・交渉での解決のための真摯な働きかけに対しても、交渉を決裂させ、被告作品の配信を継続している。また、第1審被告らは事実の隠蔽を図り、その態様は悪質である。
ウ 謝罪広告の切実な必要性
 第1審被告らは、依然として被告作品の配信を継続し、その不誠実な態度は強く批難されるべきである。第1審被告らの明白な模倣の意図、本件訴訟前及び第1審の訴訟手続における不誠実な態度、第1審原告が被った被害は被告作品の配信差止めや金銭面での補償によっても回復は十分ではないことなどに鑑みると、第1審被告らに対し、謝罪広告を命ずべき必要性は極めて大きい。
〔第1審被告らの主張〕
(1) 争点1−1(被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
ア 原判決について
 原判決は、単なるゲームのルールや表現手法の共通点を、それは単なるアイデア又は釣り針に掛かった魚の様子といった事実であるのに表現と誤って認定し、仮に表現であるとしても少なくともありふれた表現を創作性のある表現と誤って認定するとともに、何らの証拠に基づかず原告作品と被告作品との相違をゲームの製作者であれば比較的容易に思い付く演出にすぎないなどと誤った判断をした。その結果、これらのゲームのルールや表現手法といったアイデアや釣り針に掛かった魚の様子といった事実を保護することとなり、極めて長期間にわたって第1審原告以外の第三者が同一のアイデアや事実を含む創作活動ができないという結果を生む、極めて不当な判決である。
イ 共通点がアイデア又は事実にすぎないこと
 原判決は、原告作品と被告作品の極めて抽象的な範囲における共通点を理由として、原告作品の魚の引き寄せ画面についての創作性を認め、翻案権侵害を肯定した。
(ア) しかし、原判決が原告作品の魚の引き寄せ画面において創作性を認めた「水中の魚を黒い魚影で表示し、魚影が水中全体を動き回るようにした点」とは、魚の具体的な形状や動きとは無関係に、単純に魚を黒い魚影で描いていること及び魚が水中全体を動き回ることであり、また、「水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で統一し、水底と岩陰のみを配置した点」とは、岩陰の形状や位置、数とは無関係に何らかの岩陰が水底に描かれるという点ということになる。上記のような抽象的な共通点は、いずれもアイデアないし事実そのものにすぎない。
(イ) 原判決が原告作品の魚の引き寄せ画面の創作性を認めた「魚を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の一定の位置に来たときに決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点」は、単なるゲームのルールを述べているにすぎず、著作権の保護の対象外であることは明らかである。また、原判決が創作性を認めた「水中の中央に、三重の同心円を大きく描いている点」は、単に同心円を画面中央に配置しているという位置と、その大きさについて述べているにすぎないし、「魚影が水中全体を動き回るようにした点」についても、魚影の具体的な表現や他の対象物との位置と無関係に、単に抽象的に水中全体を動き回る点を示しているにすぎないから、これらも、単に釣りゲームにおいて比較的大きな同心円内にランダムに動く魚影が入ったときに決定ボタンをクリックすると魚を引き寄せやすくなるというゲームのルールの共通点を述べているにすぎない。
 これが表現と認められ、創作性を認めて著作権の保護の対象とすると、原告作品の魚の引き寄せ画面におけるゲームのルールや操作性、すなわち、ランダムに動き回る魚と円の位置によって魚の引き寄せやすさが異なるといったルールを採用した釣りゲームはいずれも著作権侵害となってしまい、本来保護の対象とはしてはならない「原作品によってヒントを得たとか着想を感じ取ったというにとどまる場合」についてまで、著作権の保護の対象としてしまう。
(ウ) 以上のとおり、原判決が認定する両作品の共通点は、単なるゲームのルール・表現手法といったアイデアや、実際の海中の様子・釣り針に掛かった魚の様子という事実又はかかる事実を釣りゲームに採用するというアイデアの共通点を述べているにすぎず、したがって翻案とはなり得ない。
ウ 仮に表現であるとしても創作性がないこと
(ア) 原告作品は、釣りゲームとしても、また、携帯電話機向けフラッシュゲームとしても、ありふれた表現やルールを採用したものにすぎない。
 原判決は、実質的には釣りゲームとしてありふれた水中影像に、同心円を用いて同心円の一定の位置に魚影がいるときにクリックすれば釣り上げやすくなるというルールの組合せに創作性を認めた。
(イ) しかし、同心円の的を除けば、原告作品の魚の引き寄せ画面の影像は、家庭用ゲーム機向けの釣りゲームをはじめとする多くの釣りゲームにおいて採用されている極めてありふれた表現である。
 また、同心円を用いて同心円の一定の位置に対象物がいるときにクリックをするという程度のルールや表現は、携帯電話機向けフラッシュゲームのみならずゲーム一般において広く採用されている極めてありふれたルールや表現である。携帯電話機向けのゲームを含めたコンピュータゲームでは、あるゲームのルールを異なるジャンルのゲームに応用することは極めてありふれた手法である。特に、1つのボタンしか利用しない携帯電話機向けフラッシュゲームでは、同心円を用いて同心円の一定の位置に対象物がいるときにクリックをするという程度の抽象化されたルールを採用した場合に採り得る表現上の選択肢は、極めて限られたものである。
(ウ) 携帯電話機向けフラッシュゲームにおいては、円を含む一定の範囲に対象物が入った場合に決定ボタンをクリックするというゲームは多数存在しており、原告作品の魚の引き寄せ画面は、このようなフラッシュゲームにおいてありふれたルールと表現を採用しているにすぎない。特に、ゲーム製作における「当たり判定」において、点と円の位置関係で「当たり」を判定する仕組みは極めて基本的かつ単純なものであって、かかるルールを釣りゲームに採用することや、かかるルールを採用した場合に同心円を用いることになることは誰がやっても同じになる程度のありふれた表現である。
 原告作品と被告作品は、従来存在していた釣りゲームにおけるファイト影像(魚の引き寄せ画面)における水中影像に、ゲーム一般に極めて一般的なルールを採用したという点において共通しているにすぎず、かかる共通点は、アイデアないし事実における共通点にすぎず、仮に、一部表現部分が含まれているとしても、ありふれたものであり創作性のない表現部分における共通点にすぎないから、翻案権侵害は成立し得ない。
エ 相違点から本質的な特徴を感得できないこと
(ア) 原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面とでは多数の相違点が存在しており、他方で、両作品の魚の引き寄せ画面の共通点は単なるアイデア部分、又は、従来の釣りゲームやフラッシュゲームでも採用された極めて創作性の低い表現にすぎないことから、被告作品に接する者が原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。とりわけ、原告作品にはない被告作品の特徴は、これまでの釣りゲームにはなかった第1審被告らの強い個性が表れたものであり、被告作品の魚の引き寄せ画面と原告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が画面全体から受ける印象を異にする。したがって、かかる観点からも翻案権侵害は否定される。
(イ) 仮に、原告作品の魚の引き寄せ画面において創作者の個性が発揮されているとしても、その表現部分は、@横長の長方形の水中画面中において水中画面の左右端及び下端に接するとともに、水中画面下中央部に向かって傾斜するなどの具体的な形状の岩陰、A水中・海底・岩の色よりも薄い青色の円とドーナツ形状部分の組合せからなる具体的な同心円の形状、Bユーザーからみて奥から、同心円、横向きの魚影、岩を順次配置することによって奥行きを表現すること、といった全ての具体的な表現を組み合わせた影像である。また、原告作品は的の中心部に近い位置に魚影が重なったときにクリックすればより引き上げやすくするというルールを理解させるために「PERFECT」、「GREAT」、「GOOD」及び「BAD」という4段階の表示をすることによってそのルールを表現している。このような具体的な表現を採用することによって、原告作品の魚の引き寄せ画面は、弓道の的を連想させる的をユーザーから見て最も奥に配置するとともに、ごつごつした岩場の奥で、釣り針に掛かった魚がユーザーから見て左右に方向を転換して暴れ回る様を表現するとともに、的の中心部に近い位置に魚影が重なったときにクリックすればより釣り上げやすくなるという印象を与えている。
 これに対し、被告作品の魚の引き寄せ画面では、上記のような原告作品の魚の引き寄せ画面の具体的表現と同一ないし類似の表現は採用されていない。しかも、被告作品の魚の引き寄せ画面は、@水中の色とは異なる、緑と赤の11枚のパネルからなるダーツの的を想起させるような視認性の高い円形の的を正方形の水中画面中央部に配置し、緑と赤のパネルをランダムに入れ替えることによって、運不運をユーザーに想起せしめ、遊技性が極めて高いゲームであることを印象づけると共に、A水中画面下方から離れた海底に配置された2つの岩陰(その形状は、原告作品のものと全く異なる)を配置し、B円形の的を魚影や岩陰よりもユーザーから見て手前に配置することによって奥行きを表現し、更には正面から見た魚影を表現している。そして、一本釣り、必殺金縛り及び確変といったカットイン機能を搭載し、これに対応する影像を表現している。さらに、被告作品は11枚のパネルからなる的のうち、緑のパネルに魚影が重なったときにクリックすれば引き寄せやすくなる、ひいては11枚のパネルからなる的の中でクリックすればよいというルールではないことを理解させるために「Good」及び「Out」という2段階の表示をすることによってそのルールを表現している。このような具体的な表現を採用することによって、被告作品の魚の引き寄せ画面は、ダーツの的を連想させる的をユーザーから見て最も手前に配置するとともに、水中の色とは異なる緑・赤の配色を施して、その形状や配色をユーザーに印象づけるとともに、魚影が遠方から手前に引き寄せられる印象を与え、更には、ランダムに入れ替わるパネルやカットイン機能によって運不運をユーザーに想起させている。このような表現は、原告作品の魚の引き寄せ画面はもとより、他の釣りゲームや携帯電話機向けフラッシュゲーム等において採用されていないものであって、第1審被告らの強い個性が表れている部分である。
 このように、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面は、共通する事実やアイデアについて、その具体的な表現が全く異なっており、しかも、被告作品には、上記のような創作性の高い表現がされている。そして、魚の引き寄せ画面を含む一連の流れにおいても、多数の相違点が存在していることも併せ考慮すると、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が画面全体から受ける印象を異にすることは明らかであって、被告作品の魚の引き寄せ画面から原告作品の魚の引き寄せ画面の本質的な特徴を直接感得することはできないから、被告作品の魚の引き寄せ画面は、もはや原告作品の魚の引き寄せ画面の複製ないし翻案ということはできない。
オ 原判決の結論の不当性
(ア) 原判決は、このように原告作品の魚の引き寄せ画面に採用された、特許登録も得られないような極めてありふれたルール(アイデア)にヒントを得たにとどまるような作品についても、著作権侵害としてしまい、ゲームにおけるジャンルの形成を阻害するだけではなく、釣りゲームという普遍的なゲームジャンルにおいて極めて簡単なゲームのルールさえ使用できなくなる結果を生み、ゲーム製作に対する甚だしい萎縮効果をもたらすものである。
(イ) 極めて単純なゲームである原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の翻案を検討するにあたっては、ゲーム製作に対する自由な創作を確保するという観点からも、ゲームのルールや操作性に関わる共通点についてはいずれもアイデアであり、また、具体的な表現を離れて抽象的に選択の幅が存在していたとしても、それらが釣りゲームやゲーム一般においてありふれた影像やルールの組合せにすぎないものは、やはりありふれた表現とみるべきであり、更には具体的な表現を比較してそれが相違する場合においては、本質的な特徴を直接感得できないと判断されるべきである。
カ 過剰差止め
 被告作品は、著作権侵害ではないとされた主要画面等のウェブページと、著作権侵害ではないとされるキャスティング画面と著作権侵害と認定された魚の引き寄せ画面からなるフラッシュファイルとで構成されており、このウェブページとフラッシュファイルとは分離可能である。原判決は、1つのサーバー内に1枚の著作権侵害をする画像が存在している場合に、そのサーバーに記録され公衆送信される他の分離可能な適法な画像等のコンテンツの配信までも差し止めたものであって、過剰差止めである。
(2) 争点1−2(被告作品における主要画面の変遷は、原告作品における主要画面の変遷に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
ア ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームであり、かつ釣りゲームである原告作品において、その創作性が認められる範囲を検討するに当たっては、以下の視点で検討する必要がある。
(ア) 釣りという普遍的なテーマをモチーフにしたゲームであることからの制約具体的には、釣り人の行動や常識をベースにしてゲーム化したものであることにより、ありふれた表現とならざるを得ない部分が多く存在すること
(イ) 携帯電話機用のウェブページであることからの制約
 具体的には、携帯電話機における制約や利用者の利便性向上の観点からの制約から、ありふれた表現とならざるを得ない部分が多く存在すること
(ウ) ソーシャルゲームであることからの制約
 具体的には、ゲームにソーシャル性を持たせるためにランキングや掲示板を設置することが必要であり、これらを設置した上でリンクを配置した場合には誰がやっても同じようなありふれた配置とならざるを得ない部分が多く存在すること
(エ) 釣りゲームとしてのありふれたアイデア・表現であること
 具体的には、家庭用ゲーム機しか存在しなかった頃から、釣りゲームは、釣り場を選んで釣りをして、釣った魚によってお金やポイントを得て、新たな釣具を購入し、釣具を装備して、また釣りをするというサイクルによって成り立っており、また、一定のノルマをクリアすることによって新たな釣り場で釣りをすることができ、さらには、釣りの過程はキャスティング、アワセ、ファイトという3段階で構成されており、ファイトの影像として水中を描いたものが存在するのであり、これらのありふれたアイデアないしアイデアに基づいたありふれた表現に創作性が認められないこと
 以上(ア)ないし(エ)の視点の下、単なるアイデア部分及びありふれた表現を除いた部分において、原告作品と被告作品とが同一性を有するといえるのかを検討する必要がある。
イ 画面の遷移とリンクの配置の共通点はアイデアないしありふれた部分にすぎず、また、原告作品の特徴的表現を直接感得できない。
 携帯電話機向けウェブサイトのリンクの配置の常識や釣り人の行動や常識を釣りゲームに適用するという観点から、原告作品の画面遷移やリンクの配置は、アイデアないし極めてありふれたものであって、これらに創作性を認めることはできない。
 他方で、リンクの配置や画面遷移に関して、原告作品と被告作品とでは、多数の相違点が存在しており、かかる観点からも、被告作品が原告作品の著作権を侵害していることにはならないことは、明らかである。
ウ トップ画面、釣り場選択画面、キャスティング画面、魚の引き寄せ画面及び釣果画面という各画面の素材の選択・配列の共通点も、アイデアないしありふれた部分にすぎず、また、原告作品の特徴的表現を直接感得することができない。
(3) 争点2(第1審被告らのウェブページに被告影像1及び2を掲載する行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか)について
ア 周知な商品等表示とはなり得ないこと
 そもそも原告影像は、その性質上商品等表示とはなり得ない。特に、原告作品は携帯電話機向けのゲームであって、かかる性質からもゲーム影像が商品等表示として機能し得ないことは明らかである。原告影像が、「グリー」「釣り★スタ」という表示に代え、あるいはこれらの表示と同様に商品を表示するものとして用いられているわけではなく、到底、商品等表示として需要者から認識されているとはいえない。
 被告影像1は平成21年2月25日までに掲載され、被告影像2も被告作品の配信開始に近接した時期に掲載されたものであるところ、原告影像がそれ以前に周知に至ったとはいえない。
イ 商品等表示として使用していないこと
 被告影像1及び2は、いずれも単に被告作品の内容を紹介するための画像として使用されているものであって、商品等表示として使用されているものではない。
ウ 類似していないこと
 原告影像と被告影像1及び2とは類似しない。
エ 混同しないこと
 原告作品と被告作品とは、「グリー」「釣り★スタ」と「モバゲータウン」「釣りゲータウン2」といった表示によって識別されているものであって、混同することはあり得ない。
(4) 争点3(被告作品を製作し公衆に送信する行為は、第1審原告の法的保護に値する利益を侵害する不法行為に当たるか)について
 第1審原告の社会的信用と営業上の信頼に被害が生じたということはあり得ない。
(5) 争点4(第1審原告の損害)について
ア 著作権法114条2項を適用した誤り
(ア) 原告作品及び被告作品とも、無料で遊べるゲームであるために、原告作品の魚の引き寄せ画面の使用により得べかりし利益に相当する損害はなく、被告作品の魚の引き寄せ画面を使用することによる第1審被告らの利益もない。
 よって、仮に、被告作品の魚の引き寄せ画面を被告作品のユーザーがダウンロードすると、その分、原告作品の魚の引き寄せ画面をダウンロードするユーザーが減るという関係にあったとしても、第1審原告の利益が減少するということにはならないし、被告作品の魚の引き寄せ画面を使用したとしても、第1審被告らに利益が発生することにはならないから、「侵害の行為により利益を受けているとき」には当たらない。
(イ) 原告作品と被告作品とでは収益構造が全く異なっており、被告作品において利益が上がったとしても、原告作品における利益が下がるという関係にはない。
 よって、本件において、著作権法114条2項を適用する前提を欠く。
イ 限界利益について
(ア) 支払手数料を支出していることは第1審原告も認めており、支払手数料の割合は、売上げの13%である1億1232万円である(甲58の添付資料28)。
(イ) 公認会計士作成の意見書(乙132)に記載のとおり、平成21年2月から平成23年7月までの被告作品の製造原価及び変動費のうち、サーバー購入費用、労務費(乙72。第1審被告ORSO分)、サーバー機器保守料及びサーバーハウジング料は、合計1億8787万5900円である。
(ウ) 上記(ア)(イ)を売上げから控除しただけでも、被告作品の限界利益は、以下のとおり、5億6380万4100円となる。
8億6400万円−3億0019万5900円=5億6380万4100円
ウ 寄与率
(ア) 被告作品においてこれだけの売上げを達成するためには、モバゲータウンという著名なプラットフォームとしての寄与が不可欠である。モバゲータウンは、平成18年2月7日に、高品質のゲームが無料で楽しめる携帯電話機専用ゲームサイトとして本格的に開始し、継続的なコンテンツの配信や積極的な宣伝広告活動等から、爆発的な会員数の増加をみせ、被告作品が配信された当時である平成21年3月末日でモバゲータウンの会員数は1344万人に達していた。このように、1000万人を超えるモバゲータウンの既存の会員が存在していたからこそ、被告作品のユーザーが獲得でき、これらのユーザーが「モバコイン」によってアイテムを購入したのである。換言すれば、全く無名の業者が、被告作品を配信したとしても、これにユーザーが集まるはずはないし、集まったとしても、金銭を支払うということはあり得ない。
(イ) 被告作品はソーシャルゲームであり、そのソーシャル性があるからこそ、被告作品では収益を上げられる。ソーシャルゲームは、フラッシュで製作されるアクション部分(本件でいう魚の引き寄せ画面)が重要なのではなく、アクション後の成果についてソーシャル性を持たせることを重視しているゲームである。本件では、ソーシャルゲームである釣りゲームは、釣る過程を楽しむものではなく、釣った成果を楽しむゲームなのである。かかるソーシャルゲームの特性を見過ごすと、本件における魚の引き寄せ画面の寄与度の評価を誤ってしまう。
(ウ) ソーシャルゲームにおいてソーシャル性を有する部分は、魚の引き寄せ画面とは全く無関係の部分によるものである。具体的には、ランキングの設定、自己表現の場の設定、他者との協力の場の設定などの工夫を施すことによって、被告作品ではこのようなソーシャル性を備え、収益に結びつけている。
(エ) ソーシャルゲームである釣りゲームでは、釣る過程は重要視せず、むしろ簡単にしてしまっているため、ソーシャル性を持たせることが必須であるとともに、他方で、ユーザーに様々な目標を設定することが重要である。被告作品においては、釣りポイントの累積、段位を上げる、魚図鑑を埋める・コンプリートするなどの経験値システムや、更に短期的な目標設定という仕組みが用意されており、被告作品ではこれらの仕組みを採用した結果、ユーザーが継続してプレイをし、また、課金アイテムを購入しているのである。
(オ) ソーシャルゲームでは、配信開始後の開発が売上げに大きく影響する。すなわち、配信開始時に設定された目標はこれを達成してしまえば、ユーザーがこれ以上ソーシャルゲームをプレイするインセンティブがなくなってしまう可能性がある。
(カ) 以上のソーシャルゲームとしての特殊性を加味すれば、魚の引き寄せ画面の売上げに対する寄与度が30%という高い割合になるはずがない。原判決は、かかるソーシャルゲームの特殊性を全く無視して魚の引き寄せ画面の売上げに対する寄与度を認定したものであって、誤りである。
エ 平成23年7月8日以降の損害について
(ア) 平成23年7月から平成24年2月までの被告作品の売上げは、2273万2666円である(乙143)。
(イ) 平成23年8月から平成24年2月までの被告作品の製造原価・変動費は、1040万4908円である(乙144)。
(ウ) したがって、上記期間における被告作品の限界利益は、(ア)から(イ)を控除した1232万7758円である。
(エ) 上記期間の被告作品の売上げは、被告作品のイベントの寄与が大きく、魚の引き寄せ画面の寄与率は収益に結びついていない。
(6) 争点5(第1審被告らによる謝罪広告の要否)について
 第1審原告の名誉、声望及び信用を害した事実はなく、そもそも謝罪広告の必要性はない。
第4 当裁判所の判断
1 「魚の引き寄せ画面」に係る著作権及び著作者人格権の侵害の成否(争点1−1)について
(1) 翻案権及び同一性保持権について
 著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は、既存の著作物の翻案に当たらない(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 また、既存の著作物の著作者の意に反して、表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に変更、切除その他の改変を加えて、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは、著作権法20条2項に該当する場合を除き、同一性保持権の侵害に当たる(著作権法20条、最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。
(2) 認定事実
 第1審原告は、被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」の翻案に当たる旨主張する。そして、第1審原告は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」を原判決別紙比較対照表1の左欄記載の影像と特定し、被告作品における「魚の引き寄せ画面」を同表1の右欄記載の影像と特定して、著作権侵害を主張するのに対し、第1審被告らは、原判決別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ影像)1(3)及び2(2)のとおり主張するところ、以下、両作品の「魚の引き寄せ画面」を対比する。
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(なお、書証には枝番を含む。以下同じ)。
ア 原告作品における「魚の引き寄せ画面」
 原告作品における「魚の引き寄せ画面」の影像は、次のとおりである(甲4、乙1)。
(ア) ほぼ正方形の画面の上部約5分の1と下部約5分の1弱は黒地で、上部には引き寄せメーターが表示され、下部には「中央に来たらOKで引け!」という文字等が表示されることがある。水中の影像の輪郭は、画面全体のうち約5分の3を占める横長の長方形である。
(イ) 画面のうち水中の影像部分のほぼ中央部には円形の図形が配置され、水中の影像の上下面に円の外周の上下部がわずかにはみ出して接している。円形の図形は、中心からほぼ等間隔である三重の同心円である。
(ウ) 水中の画像は、水中を真横から水平方向の視点で描いたものであり、1匹の黒色の魚影が、魚影を側面から見た形で描かれており、魚の口から画像の上部に向かって紺色の直線の糸(釣り糸)が伸びている。魚影は、上記同心円よりも手前に配置されている。
(エ) 水中の画面の左右両端及び下端に接して、上記同心円に沿うような形で岩陰が描かれ、水草、他の生物、気泡等は描かれていない。岩陰は、上記同心円よりも手前に配置されている。
(オ) 水中の画像の色彩は、全体的に薄暗い青色であり、円の配色は、外側のドーナツ形状部分及び中心の円の部分には、水中を表現する青色よりも薄い色を用い、上記ドーナツ形状部分と中心の円部分の間には、背景の水中画面がそのまま表示され、岩陰がやや濃い青色である。
(カ) 魚影は、円盤状の胴体と三角形の尾びれの組合せにより黒く描かれており、釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回り、釣り糸と魚影は、振り子のような動きをする。その際、同心円や背景画像は静止している。
(キ) 画面の上部の黒地には、緑・黄色及び赤のグラデーションで配色された引き寄せメーター(ゲージ)が配置され、その左端上部に竿を持った白色の人が、その内部に黒色の魚影が、それぞれ表示されている。
(ク) 魚影が中央の円にある際にユーザーが決定キーを押すと、「PERFECT」との表示がされる。同様に、中央の円と外側のドーナツ形状部分との間に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GREAT」、上記ドーナツ形状部分の内側に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GOOD」、それ以外の時に決定キーを押した場合は「BAD」と表示される。上記文字は、魚影の近くに小さく表示される。
(ケ) そして、魚が釣れると、水中画像の中央にオレンジと黄色で配色された「GET!」の文字が画面いっぱいに拡大して表示され、上部の引き寄せメーターは消えて黒地となり下部の文字も「OK」のみとなり、魚を逃がすと、水中画像の中央に赤色の「Miss..」と白色の「逃げられた・・・」の文字が表示され、上部の引き寄せメーターは消えて黒地となり下部の文字も「OK」のみとなる。
イ 被告作品における「魚の引き寄せ画面」
 被告作品における「魚の引き寄せ画面」の影像は、次のとおりである(甲4、乙1)。
(ア) ほぼ正方形の画面の下部には、細長いゲージ(引き寄せメーター)が表示されるが、残りが水中の影像であり、水中の影像の輪郭はほぼ正方形である。
(イ) 画面のほぼ中央部には円形の図形が配置され、円形の図形は、大きさが変化するが、それが最も大きいときでも、画面の上下左右に接することはない。円形の図形は、中心からほぼ等間隔である三重の同心円で、その中心の円から放射状に伸びる5本の仕切り線により11個のパネルに分割されている。
(ウ) 水中の画像は、水中を真横から水平方向の視点で描いたものであり、1匹の黒色の魚影が、魚影を前面から見た形で描かれており、魚の口から画面の左上部に向かって薄青色の直線の糸(釣り糸)が伸びている。魚影は、上記同心円よりも奥に配置されている。
(エ) 水中の画面の左端及び右下側に、右端及び下端には接しない位置に岩陰が描かれ、水草、他の生物、気泡等は描かれていない。岩陰は、上記同心円よりも奥に配置されている。同心円が最も大きくなったときは、岩陰が同心円に重なる。
(オ) 水中の画像の色彩は、全体的に青色であり、円の配色は、放射状に仕切られた11個のパネルの、中心の円を除いた部分に、緑色と紫色が配色される。上記放射状の仕切り部分は、背景の水中画面がそのまま表示され、岩陰はやや濃い青色である。上記同心円の大きさは、一定のパラメータ値に応じて9段階に変化し、同心円の配色部分の数及び場所も、魚の引き寄せ画面ごとに異なり、同一画面内でも変化する。また、同心円の中央の円の部分は、コインが回転するような動きをし、緑色無地、銀色の背景に金色の釣り針、鮮やかな緑の背景に黄色の星マーク、金色の背景に銀色の銛、黒色の背景に赤字の×印の5種類に変化する(原判決別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ影像)2(2)Aのとおり)。
(カ) 魚影は、前面から見た形で、尾びれ、背びれ、胸びれを付けて黒く描かれている。釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回るが、釣り糸は魚の動きにかかわらず、常に画面の左上に向かって伸びている。その際、背景画像は静止しているが、同心円は大きさ等が変化する。
(キ) 画面の下部に、細長い凹型の白地を設け、青色のグラデーションで配色された引き寄せメーター(ゲージ)が配置され、その左端に黄色いリールが、その内部に青色の魚が、それぞれ表示される。
(ク) 同心円の緑色で配色された部分に魚影がある際に決定キーを押すと、画面上方に「Good」と緑色で表示される。同様に、同心円の紫色で配色された部分及び同心円以外の部分に魚影がある際に決定キーを押すと、画面上部に「Out」と赤色で表示される。上記文字は、画面上方に大きく表示される。また、中心の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと、中央の円の部分の表示に応じて、「必殺金縛り」、「確変」及び「一本釣りモード」などの表示がアニメーションとして表示される(原判決別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ影像)2(2)Bのとおり)。
(ケ) そして、魚が釣れると、同心円が消えて「釣れた!」の黄色の文字が画面上部から中央に向かって動いて表示され、魚を逃がすと、同心円及びゲージが消えて画面中央に白色で「逃がした!」「決定キーを押してください」と表示される。
(コ) なお、被告作品の魚の引き寄せ画面の冒頭には、前記(イ)の同心円が現れる前に、まず、水中の画面を魚影が右から左へ移動し、更に画面奥に移動する画面があり、その後に、同心円が表示され、魚影が奥から手前へ向かってくる画面がある(原判決別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ影像)2(2)@のとおり)。
ウ その他の釣りゲームの影像
(ア) 釣りバカ気分
 平成15年12月に配信が開始された携帯電話機向けゲームアプリ「釣りバカ気分 Second Stage」の魚の引き寄せ画面は、水中の魚が、釣り上げるまで魚種が分からないように黒い魚影で表示され、魚影が画面中をランダムに動き回るものであり、数字キーを連打することにより、魚を引き寄せ釣り上げるゲームである(乙5、乙112)。
(イ) ぬし釣りシリーズ
 平成16年8月に配信された携帯電話機向けゲームアプリ「川のぬし釣り」、平成18年1月に配信された「海のぬし釣り」及び同年12月に配信された「新・川のぬし釣り」は、いずれも、魚の釣り上げの過程がキャスティング、アワセ及びファイトの3つの場面に分かれ、ファイト画面(魚の引き寄せ画面)では、水中の影像は水面上を捨象して、水中のみが真横から水平方向の視点で描かれ、水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で描かれ、海底と岩陰のみを配置した影像が描かれている。これらのゲームでは、魚の引き寄せのルールは、魚の動きに合わせてボタンを押し、水中全体を動き回る魚の動きが止まったときにボタンを押すと引き寄せやすくなるというものである(乙107)。
 なお、上記各ゲームを含む「ぬし釣りシリーズ」の釣りゲームは、平成2年8月以降家庭用ゲーム機向けゲームソフト等として16作品が発売されたが、魚の釣り上げの過程はキャスティング、アワセ及びファイトの3つの場面に分かれ、ファイト画面(魚の引き寄せ画面)では、水中の影像は水面上を捨象して、水中のみが真横から水平方向に描かれ、水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で描かれ、海底と岩陰のみを配置した影像が描かれているものがあった。これらのゲームでは、魚の引き寄せのルールも、上記と同様のものである(乙107、108)。
(ウ) フィッシュアイズ
 家庭用テレビゲーム「フィッシュアイズ」のシリーズにおいても、魚の釣り上げの過程はキャスティング、アワセ及びファイトの3段階に分かれ、ファイト画面(魚の引き寄せ画面)では水中の視点で魚を引き寄せている(乙110)。
(エ) その他の携帯電話機向け釣りゲーム
 水中のみを描き、水平方向からの視点で水面及びその上を描写しない釣りゲームは、原告作品及び被告作品以外に、「川のぬし釣り」及び「海のぬし釣り」のほか、「THE バス釣り」、「川釣りパラダイス」及び「バス釣り支店河口湖」等が存在し(甲3)、アワセを行った後に水中の影像に移行するゲームも多数存在し、魚の引き寄せの影像が魚を水中から見る視点での影像となっているものもある(乙109)。
 また、水中の背景を、水を含め、全体的に青系統の色を使って描いているものは多く、例えば、「THE バス釣り」、「THEマグロの一本釣り」及び「バス釣り支店河口湖」等が存在する(甲3)。
 さらに、釣り上げに成功するまでの魚の姿を魚影で描き、釣り糸も描いているゲームとして、原告作品及び被告作品以外に、「川釣りマスター」、「GOGO!フィッシング2」及び「海釣りマスター」等があるが、これらは、水上からの視点で、水中にあるものの様子として魚影を描いたものである(甲3)。
 釣り人と魚の距離を表す引き寄せメーターのある魚釣りゲームとして、原告作品及び被告作品以外に、「THEマグロの一本釣り」及び「バス★フィッシング」等が存在する(甲3)。
 釣りゲームでは、逃げようとする魚の動きを表す影像変化にそれぞれ差違があるが、逃げようとする魚の動きを、向きを変えながら左右方向を往復する魚の姿で現す「EX FISHING DAYS」及び「THE バス釣り」や、釣り針の周りで向きを変える魚の姿により表現する「バス釣りにいこう」及び「ポケットフィッシング3D」が存在する(甲3)。
(オ) 原告作品配信後の類似ゲーム
 なお、三重の同心円を描く釣りゲームは、原告作品配信前にはなく、原告作品配信後に、水中に同心円を配置した「釣り★タウン」及び「釣りコレDX」等が配信された。これらの釣りゲームは、三重の同心円のほか、黒い魚影、釣り糸及び引き寄せメーター等、原告作品と類似する点が多い(乙6)。
 第1審原告が、両ゲームの配信元に配信停止を求めていたところ、「釣りコレDX」は平成22年8月13日に配信を停止し、当時は配信を停止していなかった「釣り★タウン」も、平成24年5月31日をもって配信を停止した(甲45、46、86)。
 その他、「NEO釣り倶楽部」及び「釣りとも」でも、同心円を採用している(乙6)。
エ 当たりを判定するフラッシュゲーム
 「当たり判定」とは、シューティングゲームや対戦型格闘ゲームなどのアクションゲームで、ディスプレイ上に表示された自キャラクターや敵キャラクターにおいて攻撃を受け付ける範囲、又はショットなどの攻撃においてそれが対象物に命中したとみなされる範囲の大きさのことをいうゲーム用語であり(乙115)、原告作品の魚の引き寄せ画面では、同心円内に魚影の頭の部分がある時に決定キーを押すと「当たり」となるルールが採用されている。
 点と円など、対象物が一定の範囲に入った場合に「当たり」と判定する携帯電話機向けフラッシュゲームは、弓道をモチーフにした「弓道正射必中」、アーチェリーをモチーフにした「ラウスポアーチェリー」及び「ケータイアーチェリーVer2」、射撃をモチーフにした「狙撃の凡人」、ダーツをモチーフにした「DARTS!」などがあり、それらのゲームにおいては、同心円の的を用いたものも存在している。また、現実には存在しない仮想の円を描いたゲームとして、「ハエたたキング」、「THE昆虫採集」及び「ゴーストゲッター」といった的当てゲームがある(乙6、119、121)。
 フラッシュゲームにおいて、タイミングを計ってボタンをクリックするというゲームのルールがあり、一定の範囲に対象物が入った場合にクリックすることは、上記ルールのうち、ある対象物と他の対象物が重なるようにタイミングを計ってクリックするパターンで、一方の対象物が固定で他方の対象物が移動するパターンに属するルールである(乙42、121)。
(3) 翻案の成否
ア 原告作品と被告作品とは、いずれも携帯電話機向けに配信されるソーシャルネットワークシステムの釣りゲームであり、両作品の魚の引き寄せ画面は、水面より上の様子が画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向に描かれている点、水中の画像には、画面のほぼ中央に、中心からほぼ等間隔である三重の同心円と、黒色の魚影及び釣り糸が描かれ、水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に青色で、下方に岩陰が描かれている点、釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回るが、背景の画像は静止している点において、共通する。
イ しかしながら、そもそも、釣りゲームにおいて、まず、水中のみを描くことや、水中の画像に魚影、釣り糸及び岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは、前記(2)ウのとおり、他の釣りゲームにも存在するものである上、実際の水中の影像と比較しても、ありふれた表現といわざるを得ない。
 次に、水中を真横から水平方向に描き、魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは、原告作品の特徴の1つでもあるが、このような手法で水中の様子を描くこと自体は、アイデアというべきものである。
 また、三重の同心円を採用することは、従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが、弓道、射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって、釣りゲームに同心円を採用すること自体は、アイデアの範疇に属するものである。そして、同心円の態様は、いずれも画面のほぼ中央に描かれ、中心からほぼ等間隔の三重の同心円であるという点においては、共通するものの、両者の画面における水中の影像が占める部分が、原告作品では全体の約5分の3にすぎない横長の長方形で、そのために同心円が上下両端にややはみ出して接しており、大きさ等も変化がないのに対し、被告作品においては、水中の影像が画面全体のほぼ全部を占める略正方形で、大きさが変化する同心円が最大になった場合であっても両端に接することはなく、魚影が動き回っている間の同心円の大きさ、配色及び中央の円の部分の画像が変化するといった具体的表現において、相違する。しかも、原告作品における同心円の配色が、最も外側のドーナツ形状部分及び中心の円の部分には、水中を表現する青色よりも薄い色を用い、上記ドーナツ形状部分と中心の円部分の間の部分には、背景の水中画面がそのまま表示されているために、同心円が強調されているものではないのに対し、被告作品においては、放射状に仕切られた11個のパネルの、中心の円を除いた部分に、緑色と紫色が配色され、同心円の存在が強調されている点、同心円のパネルの配色部分の数及び場所も、魚の引き寄せ画面ごとに異なり、同一画面内でも変化する点、また、同心円の中心の円の部分は、コインが回転するような動きをし、緑色無地、銀色の背景に金色の釣り針、鮮やかな緑の背景に黄色の星マーク、金色の背景に銀色の銛、黒色の背景に赤字の×印の5種類に変化する点等において、相違する。そのため、原告作品及び被告作品ともに、「三重の同心円」が表示されるといっても、具体的表現が異なることから、これに接する者の印象は必ずしも同一のものとはいえない。
 さらに、黒色の魚影と釣り糸を表現している点についても、釣り上げに成功するまでの魚の姿を魚影で描き、釣り糸も描いているゲームは、前記(2)ウのとおり、従前から存在していたものであり、ありふれた表現というべきである。しかも、その具体的表現も、原告作品の魚影は魚を側面からみたものであるのに対し、被告作品の魚影は前面からみたものである点等において、異なる。
ウ 以上のとおり、抽象的にいえば、原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面とは、水面より上の様子が画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向に描かれている点、水中の画像には、画面のほぼ中央に、中心からほぼ等間隔である三重の同心円と、黒色の魚影及び釣り糸が描かれ、水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に青色で、下方に岩陰が描かれている点、釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回るが、背景の画像は静止している点において共通するとはいうものの、上記共通する部分は、表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、また、その具体的表現においても異なるものである。
 そして、原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の全体について、同心円が表示された以降の画面をみても、被告作品においては、まず、水中が描かれる部分が、画面下の細い部分を除くほぼ全体を占める略正方形であって、横長の長方形である原告作品の水中が描かれた部分とは輪郭が異なり、そのため、同心円が占める大きさや位置関係が異なる。また、被告作品においては、同心円が両端に接することはない上、魚影が動き回っている間の同心円の大きさ、パネルの配色及び中心の円の部分の図柄が変化するため、同心円が画面の上下端に接して大きさ等が変わることもない原告作品のものとは異なる。さらに、被告作品において、引き寄せメーターの位置及び態様、魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係や、中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと、円の中心部分の表示に応じてアニメーションが表示され、その後の表示も異なってくるなどの点において、原告作品と相違するものである。その他、後記エ(カ)のとおり、同心円と魚影の位置関係に応じて決定キーを押した際の具体的表現においても相違する。なお、被告作品においては、同心円が表示される前に、水中の画面を魚影が移動する場面が存在する。
 以上のような原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると、被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が、その全体から受ける印象を異にし、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない。
エ 第1審原告の主張について
(ア) 第1審原告は、原告作品には、水中のみを画像として水中の真横から水平方向の視点で描き、視点が固定されている点に表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
 しかしながら、前記のとおり、水中のみを描き、水平方向からの視点で水面及びその上を描写しない釣りゲームは、原告作品及び被告作品以外に少なくとも5作品は存在するのであるから(甲3)、上記のように水中を描くことは、ありふれたものということができる。
(イ) 第1審原告は、原告作品は、中心からほぼ等間隔である三重の同心円が描かれ、同心円の中心が画面のほぼ中央に位置し、最も外側の円の大きさは、水中の画像の約半分を占める点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
 上記のうち、三重の同心円を描くことは、従前の釣りゲームにおいて見られない特徴であり(甲3)、被告作品においても、三重の同心円を採用したことから、第1審被告らは、この点につき原告作品からヒントを得たものであると推測される。しかしながら、釣りゲームに三重の同心円を採用することは、アイデアというべきものであり、同心円の具体的態様は、前記イのとおり、表現が異なる。よって、同心円を採用したことが共通することの一事をもって、表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。なお、被告作品における同心円は、大きさが9段階に変化し、常に、水中の画像の約半分を占めるわけではない。
(ウ) 第1審原告は、原告作品には、背景の水中の色が全体的に薄暗い青で、水底の左右両端付近に同心円に沿うような形で岩陰があり、水草、他の生物、気泡等が描かれていない点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
 しかし、釣りを描く上において、海や川の水の色が青系の色で表現されることや、水中の背景に岩陰を描くことは、ありふれた表現である(乙108、110)。しかも、原告作品の青色に比べ、被告作品の青色は、やや明るい色調であり、同一の青色を用いているわけではないし、両作品において岩陰の具体的な描き方及びその位置も必ずしも同一とはいえない。
(エ) 第1審原告は、原告作品は、魚の姿を黒色の魚影とし、魚の口から影像上部に伸びる黒い直線の糸の影を描いている点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
 しかし、釣りゲームにおいて、魚や釣り糸を表現すること自体は、ありふれたものというべきである。そして、魚を具体的な魚の絵ではなく、魚影をもって表現すること自体は、アイデアの領域というべきものであるし、従前から、魚を魚影により表現したゲームも存在したものである(甲3、乙112)。しかも、原告作品における魚影は、円盤状の胴体と三角形の尾びれとの組合せにより側面からみた魚であるのに対し、被告作品における魚影は、尾びれ、背びれ及び胸びれを描いた前面からみた魚である点において、具体的表現は異なっている。なお、釣り糸についても、原告作品では、魚と連動して動くのに対し、被告作品では、魚の動きにかかわらず、釣り糸が常に画面左上に伸びている点においても、その具体的表現が異なる。
(オ) 第1審原告は、原告作品には、同心円や背景画像は静止し、釣り針にかかった魚影のみが、頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回る点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
 しかしながら、被告作品においては、同心円は静止しているわけではなく、大きさやパネルの色等が変化するのであって、釣り針にかかった魚影のみが動き回るとはいえない点において、原告作品とは異なるものである。
(カ) 第1審原告は、原告作品には、静止した同心円と動き回る魚影の位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現している点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
 しかしながら、前記(2)エのとおり、フラッシュゲームにおいて、タイミングを計ってボタンをクリックするというゲームのルールがあり、一定の範囲に対象物が入った場合にクリックすることは、上記ルールのうち、ある対象物と他の対象物が重なるようにタイミングを計ってクリックするパターンで、一方の対象物が固定で他方の対象物が移動するパターンに属するルールである。すなわち、静止した同心円と動き回る魚影の位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現することは、ゲームのルールであり、画面全体を素早くかつ不規則に動き回る対象物が、画面上に設けられた一定の枠内にあるときに決定キーを押すことを成功とし、一定回数成功した場合等に当該ステージをクリアとすることは、ゲームのルールにほかならず、いずれもアイデアの範疇に属するものである。そして、前記(2)ア(ク)、イ(ク)のとおり、原告作品においては、中央の円に魚影がある際に決定キーを押した場合は「PERFECT」、中央の円と外側のドーナツ形状部分との間に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GREAT」、上記ドーナツ形状部分の内側に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GOOD」、それ以外の時に決定キーを押した場合は「BAD」と表示されるのに対し、被告作品においては、同心円の緑色で配色された部分に魚影がある際に決定キーを押した場合は「Good」、同心円の紫色で配色された部分及び同心円以外の部分に魚影がある際に決定キーを押した場合は「Out」と表示されるのであって、具体的な位置関係は異なっており、どの位置でタイミングを表現するかが共通するわけではない。
(キ) 第1審原告は、個々の要素がそれぞれバラバラでは表現上の創作性を有しない場合でも、複数の要素が全体として表現上の創作性を有することがあるから、一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して、パーツに分けて創作性の有無や、アイデアか表現かを判断することは妥当ではないと主張する。
 しかしながら、著作物の創作的表現は、様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから、原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に、その構成要素を分析し、それぞれについて、表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを検討することは、有益であり、かつ必要なことであって、その上で、作品全体又は侵害が主張されている部分全体について、表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを判断することは、正当な判断手法ということができる。
 本件において、魚の引き寄せ画面全体についてみると、被告作品においては原告作品にない画面やアニメーションの表示が存在することや、水中が描かれた部分の輪郭が異なり、そのため、同心円が占める大きさや位置関係が異なること、同心円の大きさ、配色及び中心の円の部分の図柄の変化、魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係等の具体的表現が異なっていることにより、これに接する者が魚の引き寄せ画面全体から受ける印象を異ならせるものである。
(ク) 第1審原告は、あくまで第1審原告が設定した枠内での対比をすべきであり、訴訟物の範囲外の、無関係の画面を持ち出すのは失当であると主張する。
 翻案権の侵害の成否が争われる訴訟において、著作権者である原告が、原告著作物の一部分が侵害されたと考える場合に、侵害されたと主張する部分を特定し、侵害したと主張するものと対比して主張立証すべきである。それがまとまりのある著作物といえる限り、当事者は、その範囲で侵害か非侵害かの主張立証を尽くす必要がある。
 しかし、本件において、第1審原告は、「魚の引き寄せ画面」についての翻案権侵害を主張するに際し、魚の引き寄せ画面は、同心円が表示された以降の画面をいい、魚の引き寄せ画面の冒頭の、同心円が現れる前に魚影が右から左へ移動し、更に画面奥に移動する等の画面は、これに含まれないと主張した上、被告作品の魚の引き寄せ画面に現に存在する、例えば、円の大きさやパネルの配色が変化することや、中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと、「必殺金縛り」、「確変」及び「一本釣りモード」などの表示がアニメーションとして表示される画面等を捨象して、原判決別紙比較対照表1における特定の画面のみを対比の対象として主張したものである。このように、著作権者が、まとまりのある著作物のうちから一部を捨象して特定の部分のみを対比の対象として主張した場合、相手方において、原判決別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ影像)1(3)及び2(2)のとおり、まとまりのある著作物のうち捨象された部分を含めて対比したときには、表現上の本質的な特徴を直接感得することができないと主張立証することは、魚の引き寄せ画面の範囲内のものである限り、訴訟物の観点からそれが許されないと解すべき理由はない。
 なお、本件訴訟の訴訟物は、原告作品に係る著作権に基づく差止請求権等であって、第1審原告の「魚の引き寄せ画面」に関する主張は、それを基礎付ける攻撃方法の1つにすぎないから、第1審被告らの上記防御方法が、訴訟物の範囲外のものであるということはできない。仮に、本件訴訟の訴訟物が原告作品のうちの「魚の引き寄せ画面」に係る著作権に基づく差止請求権等であると解するとしても、第1審被告らの上記防御方法は、上記訴訟物の範囲外のものであるということはできない。
オ まとめ
 以上のとおり、被告作品の魚の引き寄せ画面は、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品の魚の引き寄せ画面と同一性を有するにすぎないものというほかなく、これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから、翻案に当たらない。
(4) 小括
 被告作品の魚の引き寄せ画面の表現から、原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。よって、第1審被告らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことが、第1審原告の原告作品に係る翻案権を侵害するものとはいえず、これを配信したことが、著作権法28条による公衆送信権を侵害するということもできない。また、同様に、第1審被告らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことが、第1審原告の原告作品に係る同一性保持権を侵害するということもできない。
2 主要画面の変遷に係る著作権及び著作者人格権の侵害の成否(争点1−2)について
(1) 認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 原告作品について
(ア) 原告作品には、原判決別紙比較対照表2−1のとおり、@トップ画面、A釣り場選択画面、Bキャスティング画面及び魚の引き寄せ画面を含むゲーム画面、C釣果画面(釣り上げ成功時及び釣り上げ失敗時を含む)が存在する。なお、上記@、A及びCはウェブページであるのに対し、上記Bはフラッシュというプラットフォームを用いて作成されたゲーム影像である(甲5、乙40、104、弁論の全趣旨)。
(イ) 原告作品では、上記@の「トップ画面」の次に、上記Aの「釣り場選択画面」に遷移し、ユーザーがまず、海釣りか川釣りかを選択した上で、海釣り又は川釣りにおける釣り場を選択する。ユーザーが釣り場を選択すると、その釣り場の、上記Bの「キャスティング画面」に遷移し、キャスティング画面において、釣り竿で、海釣りの場合はルアーを、川釣りの場合は餌を投げ(キャストし)、魚がルアー又は餌に食い付くと、「魚の引き寄せ画面」に遷移する。そして、上記Cの「釣果画面」に遷移する(甲5、乙40、104、弁論の全趣旨)。
 ゲームを繰り返し行いたいと考えるユーザーは、上記@の「トップ画面」に戻らなくても、上記Cの「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」から上記Aの「釣り場選択画面」又は上記Bの「キャスティング画面」に戻ることにより、ゲームを繰り返すことができる。
(ウ) トップ画面には、最上部に「釣り★スタ!」のロゴが大きく記載され、その下にイベント等の告知が記載され、その下に「さあ、釣りにいこう!」の文言、イラスト及び「釣りに行く」というリンクが配置されている。上記イラストは、湾の形をした釣り場全体を描き、画面下部に海を描き、画面上部に山と晴れた空、雲、緑を描いたものである。その下に、「日誌」、「攻略法」、「釣具」及び「ショップ」が記載され、それぞれ日誌画面、攻略法画面、釣具画面及びショップ画面へのリンクが置かれ、更にイベント情報や特定のユーザーの紹介画面へのリンクを配置し、最下部に「お知らせ」、「釣りの手引き」、「対応機種」、「お問い合わせ」及び「ゴールドを貯めるには」へのリンクが設置され、主要ページへのリンクが設定されている(甲5、6、乙40、41)。
(エ) 釣り場選択画面(海の釣り場)には、最上部に「海の釣り場」の文字があり、その下にイラスト、「釣り場を選んでスタート」の文字及び4つの釣り場の名称が記載されている。上記イラストは、海の側から釣り場のある湾を上空から描き、画面下部に海、画面上部には緑のある山を描き、砂浜は白砂で、海面に白波を立たせ、灯台があるというものである。そのイラストの下に、「釣りの準備をする」として「釣具えらび」、「釣具を買う」、「魚の釣り方」及び「攻略をみる」との文言で、釣具画面、ショップ画面、ヘルプ画面及び攻略法画面へのリンクが配置されている。その下には、「釣り場情報」として、ユーザーが行ける釣り場(ひめみ港)に貼られた同釣り場のキャスティング画面へのリンクと、ユーザーが行けないそれ以外の釣り場の名称が、並べて配置されて、各釣り場のイラスト・名称や、「キャスティング画面」へのリンク(釣りに行く)、その釣り場で大きい魚を釣ったユーザーのランキングを示す画面へのリンク、「攻略」・「雑談」として、それぞれの掲示板の画面へのリンクなどがまとめて配置されている。ユーザーが行けない釣り場には、今の称号では行くことができない旨の文章が表示されている(甲5、7、乙40、41)。
(オ) キャスティング画面は、海の釣り場の場合、画面の上段に空、中段に水面、下段に地面が表現され、キャストする目標を指示する矢印が決まった動きをし、ユーザーが決定キーを押すと、釣り竿を振る動きがアニメーションで表現されるとともに、その箇所に釣り針がキャストされる。なお、川の釣り場の場合、水面に小さな魚影がランダムに現れ、釣り針がキャストされると画面右上に浮きが表示され、魚が釣り針に食い付くと浮きが沈み、いずれの場合も、魚が釣り針に掛かると「HIT!」というオレンジ色の文字が画面中央に大きく表示される(甲5、8、乙1、40)。
(カ) アワセの画面を経て、魚の引き寄せ画面に至るが、魚の引き寄せ画面は、前記1のとおりであり、画面上部の黒地に引き寄せメーター等が描かれ、画面下部の黒地に「中央に来たらOKで引け!」の文字が書かれ、中央部に薄暗い青色の水中画面が描かれ、三重の同心円、黒い魚影及び釣り糸が描かれている。
(キ) 釣果画面(釣り上げ成功時)は、画面最上部に「○○が釣れた!」と記載され、その下に、釣り上げた魚のイラストが大きく描かれ、魚の名前が記載されている。その下に魚の大きさ、評価を示す星印、当該魚を釣ることによって獲得したポイント、釣果記録としてポイントや順位が記載され、ランキングへのリンクが配置されている。その下に、「メニュー」があり、「もっと釣る!」「魚拓をとる」として、キャスティング画面に戻るリンクや魚拓画面へのリンクが配置されており、その下に「移動」、「釣具」、「ショップ」、「攻略法」及び「日誌」の各画面へのリンクが配置されている(甲5、9、乙40、41)。
(ク) 釣果画面(釣り上げ失敗時)は、「魚に逃げられた」との文字、「?」印を中央部に付した魚影の影像、釣り上げに失敗した魚の種類及びおよその大きさを表示している。その下のメニューには、「もっと釣る!」として、キャスティング画面に戻るリンクが配置されており、その下に「移動」、「釣具」、「ショップ」、「攻略法」及び「日誌」の各画面へのリンクが配置されている(甲5、10、乙40、41)。
イ 被告作品について
(ア) 被告作品には、原判決別紙比較対照表2−2のとおり、@トップ画面、A釣り場選択画面、Bキャスティング画面及び魚の引き寄せ画面を含むゲーム画面、C釣果画面(釣り上げ成功時及び釣り上げ失敗時を含む)が存在する。なお、上記@、A及びCはウェブページであるのに対し、上記Bはフラッシュというプラットフォームを用いて作成されたゲーム影像である(甲5、乙40、弁論の全趣旨)。
(イ) 被告作品では、上記@の「トップ画面」の次に、上記Aの「釣り場選択画面」に遷移し、ユーザーが釣り場を選択する。そして、「決定キーを押す画面」を経た上で、その釣り場での、上記Bの「キャスティング画面」に遷移する。ユーザーは、キャスティング画面において、釣り竿で仕掛けをキャストし、魚が餌に食い付くと、「魚の引き寄せ画面」に遷移するが、カットイン画面もある。最後に、上記Cの「釣果画面」に遷移する(甲5、乙40、弁論の全趣旨)。
 ゲームを繰り返し行いたいと考えるユーザーは、上記@の「トップ画面」に戻らなくても、上記Cの「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」から上記Aの「釣り場選択画面」又は上記Bの前の「決定キーを押す画面」に戻ることにより、ゲームを繰り返すことができる。
(ウ) トップ画面の最上部には、「サイトメンテナンスのお知らせ」及び「釣りゲータウン2」タイトルが大きく記載され、その下にイラストがあり、「すずなみ島へようこそ」「釣りに行こう!!」のリンクが配置されている。上記イラストには、湾の形をした釣り場全体を描き、画面下部に海を描き、画面上部に山と晴れた空、雲及び緑を描いている。その下に、「記録を見る」、「攻略を見る」、「そうび」及び「お店」が記載され、日誌画面、攻略法画面、釣具画面及びショップ画面へのリンクが置かれている。その下には、イベント情報や特定のユーザーの紹介画面へのリンクを配置している。トップ画面の最下部には、「マイゲーム登録」、「ご意見BOX」、「よくある質問」、「お問い合わせ」及び「モバコインを購入」へのリンクが設置され、主要ページへのリンクが設定されている(甲5、6、乙40、41)。
(エ) 釣り場選択画面のイラストは、最上部に「釣り場を選ぼう」と記載され、その下にイラストが記載されている。上記イラストは、海の側から釣り場のある湾を上空から描き、画面下部に海、画面上部には緑のある山を描き、砂浜は白砂で、海面に白波を立たせ、灯台があるというものである。そのイラストの右に4つの釣り場の名称が記載され、ユーザーが行ける釣り場(はまな公園・あさしお堤防)に貼られた同釣り場のキャスティング画面へのリンクと、ユーザーが行けないそれ以外の釣り場の名称が、並べて配置されている。その下に、「釣りの準備をする」として、「そうび」、「魚の釣り方」、「お店」及び「攻略を見る」との文言で、釣具画面、ショップ画面、攻略法画面及びヘルプ画面へのリンクが配置されている。また、「釣り場情報」として、各釣り場のイラスト・名称や、「キャスティング画面」へのリンク(釣りに行く)、攻略情報をユーザー間で交換する「攻略」掲示板及び雑談をユーザー間で行う「雑談」掲示板へのリンク、釣り場別のランキングを示す画面へのリンクなどがまとめて配置されている。ユーザーが行けない釣り場には、現在の階級では行くことができない旨の文章が表示されている(甲5、7、乙40、41)。
(オ) 決定キーを押す画面を経て、キャスティング画面では、画面の上段に空、下段に水面が描かれ、最下段にわずかに地面が表現され、キャストする目標を指示する矢印が決まった動きをし、ユーザーが決定キーを押すと、釣り竿を振る動きがアニメーションで表現されるとともに、その箇所に釣り針がキャストされる(甲5、8、乙1、40)。
(カ) 魚の引き寄せ画面は、前記1のとおりである。冒頭に魚影が移動する画面を経て、画面下に細いゲージ(引き寄せメーター)等が描かれるほか、画面のほぼ全体が青色の水中画面であり、三重の同心円、黒い魚影及び釣り糸が描かれる、魚の引き寄せ画面となる。
(キ) 釣果画面(釣り上げ成功時)は、画面上部に、釣り上げた魚のイラスト影像が描かれ、その下に魚の名前、大きさ、レア度を示す星印が描かれ、画面下部に当該魚を釣ることによって獲得したポイントや順位が記載され、ランキングへのリンクが配置されている。また、「もう一度釣る」「他の釣り場に行く」として、釣り場選択画面や決定キーを押す画面に戻るリンクや、釣具、ショップ、攻略法及び日誌の各画面へのリンクが配置されている(甲5、9、乙40、41)。
(ク) 釣果画面(釣り上げ失敗時)は、「釣り失敗」との文字の下に、「?」印を中央部に付した魚影の影像が描かれ、画面下部に釣り上げに失敗した魚の種類とおよその大きさ等を表示している。また、「もう一度釣る」「他の釣り場に行く」として、釣り場選択画面やキャスティング画面に戻るリンクや、釣具、ショップ及び攻略法の各画面へのリンクが配置されている(甲5、10、乙40、41)。
ウ その他のゲームについて
(ア) 携帯電話機用釣りゲームは、ユーザーが携帯電話の画面上において釣り竿を用いて水中の魚を釣り上げようと試みることを楽しむもので、釣り竿を上げるタイミングなどによって釣り上げに成功するか失敗するかが決まり、釣り上げに成功したか否かの結果が画面上に表示されるものである。そのため、原告作品以前に配信された携帯電話機用釣りゲームの多くが、「トップ画面」、「キャスティング画面」、「釣果画面」を備えていた。複数の釣り場の中からユーザーに釣り場を選択させる「釣り場選択画面」を設けるものも、少なからず存在していた。また、従来から、ゲームの遊戯性を高めるために「魚の引き寄せ画面」を備えているものも多く、釣り上げ成功時にも釣り上げ失敗時にも、それぞれ「釣果画面」を設けるものが存在していた(甲3、23、乙111、134)。
(イ) 複数の釣り場の中から釣り場を選択して釣りをするゲームにおいて、釣り場のイラストを表示することや、釣り場に山、白砂、白波及び灯台を表すことは、他の釣りゲームにおいても多数存在する。
 また、釣果画面に、釣り上げた魚のイラスト、名前、大きさが表示されたり、ユーザーが当該魚を釣ることによって獲得したポイントや評価等が表示されたりすることは、他の釣りゲームや、原告作品以前に配信された他の携帯電話機用釣りゲームでも、みられたものである(甲3、23、乙107、111)。
 なお、「ぬし釣りシリーズ」では、釣り上げた魚のデータが記録されており、釣りに関する情報や遊び方、釣り方等について、周囲のキャラクターからその情報を聴くことができる(乙108、133)。
(ウ) 他の釣りゲームでも、トップ画面から釣り場選択画面への画面の転換があるもの、釣り場選択画面からキャスティング画面への画面の転換があるもの、キャスティング画面から魚の引き寄せ画面への画面の転換があるもの、魚の引き寄せ画面から釣果画面への画面の転換があるものは、複数存在していた。
 なお、「ぬし釣りシリーズ」のウキ釣りの場合の画面の遷移は、川や海を上方からみた画像においてキャスティングした後に、ウキが水面上に表示され、ウキが大きく沈んだときにボタンを押すことでアワセを行うものである。そして、アワセが成功すると画面が水中へと移行し、水中の影像は水面上を捨象して、水中のみが真横から水平方向に描かれる(甲23、乙107)。
(エ) コレクションゲームにおいては、ユーザーが収集した対象物のイラストや名前、大きさ、ポイントを表示するものや、収集を行う場所別のランキングを設けるものが、従来から複数存在していた。また、収集に失敗した対象物の名称、およその大きさ、対象物の影像や、「?」を表示するものが存在していた。さらに、ユーザーが行けない場所の文言として「レベルに達していないため行けません」「今の称号ではまだ行けません」と表示しているものも存在する(乙4、89、90、107、108)。
エ 携帯電話機用ゲームの特色
 ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームの画面構成においては、以下のような制約や特色がある。
(ア) ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームでは、ディスプレイ上に表れる表示画面は常に一定ではなく、利用者が各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる表示画面に遷移し、これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっている。したがって、上記携帯電話機用ゲームの画面構成は、純粋なゲーム画面(本件ではキャスティング画面及び魚の引き寄せ画面)を除くと、情報告知画面とリンクの組合せによって構成される。
 そして、携帯電話機の場合には、ディスプレイが小さく、利用者が一度に認識することができる情報量に制約があるため、多くの情報を掲載する場合、画面を下方にスクロールしてその情報を見る必要がある。そこで、利用者の便宜のために、一般的に、利用者が見たい情報やよく利用するページへのリンクは、なるべくウェブページの上方にまとまりよく配置するなど、配置の工夫が必要であり、文字情報も、短い言葉で表現することが必要である。
 また、ウェブページの閲覧においては、基本的に携帯電話機の上下キーと決定キーのみで操作する必要があるため、各リンクは、一般的に、リンク先の重要度に応じてウェブページの上から順番に配置される。
 したがって、特にトップページに関しては、全体のインデックスになるような画面にすることが要求される。また、レイアウトのバリエーションが少ないため、それぞれ見出しの下に共通の複数のコンテンツがまとめて配列されている。
 また、携帯電話機用ウェブサイトの利用者の多くは、休み時間や移動時間などわずかな時間を使ってアクセスをするといった時間の制約もある。そのため、利用者によるリンクの発見や閲覧の容易性、操作等の利便性の観点から、利用者が目的のページに達するまでの画面遷移や、それに必要なクリック数は、なるべく少なくする必要がある。さらに、どのページからも目的のページに達することができるようにすることも必要である(甲40、乙7、8、30、31)。
(イ) SNSのようなコミュニティサイトでは、掲示板機能を提供することが一般的である。特定のトピックごとに掲示板を備え、トピックに興味関心を持ったユーザーが自由にコメントを書いていくことが一般的に行われており、攻略掲示板や雑談掲示板を設けること自体は、ゲームの攻略サイトや携帯電話機向けのウェブページ閲覧機能を用いるゲームでは広く行われているものである(乙9、10)。
(2) 翻案の成否
ア 画面の選択と変遷について
 原告作品と被告作品とは、いずれも、「トップ画面」、「釣り場選択画面」、「キャスティング画面」、「魚の引き寄せ画面」及び「釣果画面(釣り上げ成功時又は釣り上げ失敗時)」が存在し、その画面が、ユーザーの操作に従い、@「トップ画面」→A「釣り場選択画面」→B「キャスティング画面」→「魚の引き寄せ画面」→C「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」の順に変遷し、上記C「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」から上記@の「トップ画面」に戻ることなくゲームを繰り返すことができる点において、共通する。
 しかし、原告作品及び被告作品は、いずれも携帯電話機用釣りゲームであり、釣り人の実際の行動という社会的事実に立脚し、釣りの準備のため釣り場の情報を収集し、目的の魚種に適した釣具を選んだり購入したりして装備を整え、釣り場に行って釣りを行い、釣果を確かめ、同じ釣り場で引き続き釣りをするかどうかを決め、違う獲物を狙う場合には装備を改めたり釣り場を変えたりするなど、基本的な釣り人の一連の行動を中心として、この社会的事実の多くを素材として取り込み、釣り人の一連の行動の順序に即して配列し構成したものである。
 前記(1)ウのとおり、上記のような画面を備えた釣りゲームが従前から存在していたことにも照らすと、釣りゲームである原告作品と被告作品の画面の選択及び順序が上記のとおりとなることは、釣り人の一連の行動の時間的順序から考えても、釣りゲームにおいてありふれた表現方法にすぎないものということができる。また、被告作品には、原告作品にはない決定キーを押す準備画面や魚が画面奥に移動する画面があり、逆に原告作品にある海釣りか川釣りかを選択する画面や魚をおびき寄せる画面がないなどの点においても異なること、原告作品と被告作品とはその他にも具体的相違点があることも併せ考えると、上記の画面の変遷に共通性があるからといって、表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。
イ トップ画面について
 原告作品と被告作品のトップ画面は、タイトルが記載されていること、湾の形をした釣り場全体を描いたイラストの下に釣り場選択画面へのリンクが貼られていること、日誌画面、攻略法画面、釣具画面及びショップ画面へのリンクが配置されていること、イベント等告知画面へのリンクや特定のユーザーの紹介画面へのリンクが配置されていること等の点において共通している。
 しかし、ゲームのトップ画面にタイトルやイラストが記載されることは、ありふれたものといわざるを得ないし、携帯電話機用釣りゲームにおいて、釣り場選択画面へのリンクが配置されるのも、釣りゲームの展開上、ありふれたものである。また、日誌画面、攻略法画面、釣具画面及びショップ画面へのリンクの配置についても、釣りゲームにおけるユーザーの主要な行動パターンとして、釣具を購入するなどして装備し釣りをすること、釣りの記録を見ること、釣りに関する情報(釣り方や攻略法)を知ること及び伝えることがあり、それが現実の釣り人の基本的な行動パターンと共通することに照らすと、上記「日誌」、「攻略法」、「釣具」及び「ショップ」へのリンクを、携帯電話機向けウェブページのトップ画面にまとめて配置することは、利用者がよく利用するページへのリンクを上方にまとまりよく配置するという利用者の便宜を考慮した、ありふれたものといわざるを得ない。なお、原告作品と被告作品とでは、上記タイトル、イラストや各リンクの具体的な文言、図柄、配置等が異なっているなど、具体的表現において多数の相違点が存在する。
ウ 釣り場選択画面について
 原告作品と被告作品の釣り場選択画面は、海の側から釣り場のある湾を上空からの視点で、海と山を描き、砂浜は白砂で、海面に白波を立たせ、灯台を置いたイラストに、釣り場の名前が合計4つ配置されていること、ユーザーが行ける各釣り場の名称に貼られた各釣り場のキャスティング画面へのリンクと、ユーザーが行けない釣り場の名称が、並べて配置されていること、「釣りの準備をする」として、釣具えらび、釣具を買う、攻略を見る及び魚の釣り方のリンクが配置されていること、「釣り場情報」として、各釣り場のイラスト・名称や、「キャスティング画面」へのリンク、その釣り場で大きい魚を釣ったユーザーのランキングを示す画面へのリンク、攻略・雑談掲示板の画面へのリンクなどが配置されていること等において共通する。
 しかしながら、釣り場をイラストにより掲載することはアイデアにほかならず、両作品の釣り場選択画面のイラスト自体は全く異なるものである。また、複数の釣り場の中から釣り場を選択して釣りをするゲームにおいて、釣り場のある湾を上空からみたイラストで表示することや、釣り場に山、白砂、白波及び灯台を表すことは、他の釣りゲームにおいても多数存在する、ありふれたものである。また、原告作品は、一般的な海釣りの釣り場のうち、港や防波堤、砂浜、小磯周り及び河口の各釣り場を、ひめみ港、すさの浦、つるぎ岬及びかがみ橋という4つの釣り場で表現しているのに対し、被告作品は、海釣り施設、港や防波堤、砂浜及び小磯周りに対応する釣り場を、はまな公園、あさしお堤防、みかづき浜及びしまかぜの磯という釣り場に対応させて設置しているところ、これらの釣り場は、いずれも、海釣りの釣り場として一般的に想定される釣り場であり(乙17、36)、釣りの経験を積むにしたがって、海釣り施設、防波堤、砂浜、そして磯へと、より難易度の高い釣り場にチャレンジしていくことは釣り人の常識である。
 また、釣具えらび、釣具を買う、攻略を見る及び魚の釣り方のリンクの配置も、釣りゲームにおけるユーザーの具体的な行動パターンに合致する、ありふれた配置である。
 SNSのようなコミュニティサイトにおいて、特定のトピックごとに掲示板を備え、トピックに興味関心を持ったユーザーが自由にコメントを書いていくことが一般的に行われ、攻略掲示板や雑談掲示板を設けること自体は、ゲームの攻略サイトや携帯電話機向けのウェブページ閲覧機能を用いるゲームでは一般的に行われているものであることは、前記(1)エ認定のとおりである。また、ランキングを設けること自体はアイデアであり、また、前記(1)ウ認定のとおり、コレクションゲームにおいてユーザーが収集を行う場所別のランキングを設けるものも複数存在する。これらのことからも、掲示板やランキングを設けることや、それらのリンクを配置することは、ありふれたものというべきであり、また、その具体的な掲示板の画面やランキングの画面の表現も、異なっている。
エ キャスティング画面について
 原告作品(海の釣り場の場合)と被告作品のキャスティング画面は、釣り人の姿は表示されないが、釣り人からの目線で、画面の上段に空、中段に水面、下段に釣り人の立っている場所が表現されていること、キャストする目標を指し示すマークが決まった動きをし、ユーザーが決定キーを押すと、釣り竿を振る動きがアニメーションで表現されるとともに、その箇所にルアー又は仕掛けがキャストされることにおいて、共通する。
 しかし、いかなる視点から画面を描くかはアイデアの範疇に属する上、釣り人の視点で釣り場を描いた釣りゲームも存在する(乙110、135)。また、その具体的表現には、イラスト、キャストする場所を示す矢印、釣り竿の表示及びキャストしてから魚が餌等に食いつくまでの影像、魚が釣り針にかかったことを示す文字の表示等、印象的な画面において多数の相違点が存在する。
オ 魚の引き寄せ画面について
 原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面については、前記1のとおりである。なお、原告作品のキャスティング画面から魚の引き寄せ画面への遷移は、従前の釣りゲームに同様のものが存在するのに対し、被告作品においては、魚影の現れ方等、具体的表現が異なる。
カ 釣果画面(釣り上げ成功時)について
 原告作品と被告作品の釣果画面(釣り上げ成功時)は、画面最上部に、釣り上げた魚のイラスト、名前、大きさ、評価を示す「☆」印、釣果記録のポイントが記載されていること、もう一度釣る画面へのリンクや釣具、ショップ、攻略法や日誌の各画面へのリンクが配置されていることにおいて共通する。
 しかしながら、釣り上げた魚のイラスト、名前、大きさ、ユーザーが当該魚を釣ることによって獲得したポイントの全部又は一部を表示することが、他の釣りゲームにも存在することは、前記(1)ウ認定のとおりであり、ありふれたものである。そして、両作品の具体的表現は異なっている。また、トップ画面以外にも、釣具の装備や購入、釣りの記録を見たり、釣り方を知り、釣りの攻略法を知り、伝えたりするといった目的を達するためのリンクを配置することは、利用者の便宜を考慮した、アイデアというべきものである。
キ 釣果画面(釣り上げ失敗時)について
 原告作品と被告作品の釣果画面(釣り上げ失敗時)は、「?」印を中央部に付した魚影の影像、釣り上げに失敗した魚の種類とおよその大きさを表示していること、キャスティング画面、釣り場選択画面、釣具、ショップ及び攻略法の画面へのリンクを配置していることにおいて共通する。
 しかしながら、コレクションゲームにおいて、収集に失敗した対象物の名称、およその大きさ、対象物の影像や、「?」を表示するものが存在することは、前記(1)ウ認定のとおりであり、実際の釣りの場面での釣り人の行動を反映したありふれたものである。また、トップ画面以外にも、上記リンクを配置することは、アイデアというべきものである。
ク 本質的な特徴の直接感得について
 以上のとおり、被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列は、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品のそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく、また、具体的な表現においては相違するものであって、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
ケ 第1審原告の主張について
(ア) 第1審原告は、非主要画面においても類似点が多数存在するものであり、 主要画面の遷移の共通性とあいまって、被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる旨主張する。
 しかしながら、第1審原告は、他方において主要画面の共通性を強調しているのであり、それが翻案といえないことは、前記のとおりである。そして、第1審原告が上記非主要画面において類似点であると主張する点も、単なるアイデアであるか、又はありふれたもので創作性のない部分であり、非主要画面の素材の選択と配列についても、原告作品と被告作品とは、アイデアないし表現上の創作性のない部分において類似しているにすぎない。
(イ) 第1審原告は、創作性は著作物を全体的に観察して判断されるもので、一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して、パーツに分けて創作性の有無や、アイデアか表現かを判断することは妥当ではないとも主張する。
 しかしながら、著作物の創作的表現は、様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから、原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に、その構成要素を分析し、それぞれについて表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを検討することは、有益であり、かつ必要なことであって、その上で、作品全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを判断することが、正当な判断手法ということができることは、前記1のとおりである。
 なお、原告作品と被告作品との共通点それ自体がアイデアや創作性のないものにとどまる場合であっても、これらのアイデア等の組合せが作品の中で重要な役割を担っており、これらのアイデア等の組合せが共通することにより、被告作品に接する者が原告作品の表現上の本質的な特徴を感得することができるのであれば、翻案と認められることがあり得ないではないとしても、本件において、個々の画面は異なり、具体的な表現も異なるものであり、表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとまではいえない。
(ウ) 第1審原告は、原告作品の主要画面であるトップ画面から、釣り場選択画面、キャスティング画面、魚の引き寄せ画面及び釣果画面への遷移のいずれの表現も、他の釣りゲームには見られない表現であり、主要画面の選択と配列の共通点については、原告作品のようにする必然性はなく、他の選択もあり得るが、第1審原告は、あえて原告作品のような主要画面の選択と配列を選択し、遷移を個性的に表現したものであるところ、被告作品はこれと同様の画面の選択と配列をしたものであると主張する。
 表現に選択の余地がない場合には、その表現が共通するとしても著作権侵害とはいえないが、逆に、選択の余地があるからといって、必ずしも常にそれが著作権侵害といえるわけではない。そして、著作権法上、著作物として保護されるのは、そのような選択に関するアイデア自体ではなく、具体的表現である。したがって、画面の選択や配列に選択の余地があったとしても、実際に作成された表現がありふれたものである限り、それが共通することを理由として、翻案権侵害ということはできないし、具体的な表現が異なることにより、表現上の本質的な特徴が直接感得できなくなる場合がある。
 本件において、被告作品の画面の選択と配列から原告作品のそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。第1審原告が主張するような抽象化された視点やアングルに、表現上の本質的な特徴を認めることはできない。
コ まとめ
 以上のとおり、被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列は、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品のそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく、これに接する者が原告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから、翻案に当たらない。
(3) 小括
 被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現から、原告作品のそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。よって、第1審被告らが被告作品を製作したことが、第1審原告の原告作品に係る翻案権を侵害するものとはいえず、これを配信したことが、著作権法28条による公衆送信権を侵害するということもできない。また、同様に、第1審被告らが被告作品を製作したことが、第1審原告の原告作品に係る同一性保持権を侵害するということもできない。
3 不正競争防止法2条1項1号に係る不正競争行為の成否(争点2)について
(1) 原告影像の周知商品等表示性
 第1審原告は、原告影像が第1審原告の商品等表示として周知性を有するものである旨主張する。
ア ゲームの影像が他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり、かつ、そのような特徴を備えた影像が特定のゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されること等により、当該影像が需要者の間に広く知られているような場合には、当該影像が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあり得るものと解される。
 しかしながら、ゲームの影像は、通常は、需要者が当該ゲームを使用する段階になって初めてこれを目にするものである。本件において、第1審原告が周知商品等表示と主張する原告影像は、原告作品の冒頭に登場する画面ではなく、ゲームの途中で登場する一画面又はそれに類似する画面にすぎないものであり、ゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されるものではない。また、原告影像に係る画面は、原告作品の公式ガイドブックにおいても、表紙等に表示されておらず、しかも同書はビニールカバーに入った状態で販売されている(乙104、139)。
イ 第1審原告は、テレビコマーシャル(甲13)において宣伝広告を行ったが、原告影像は、多くの画面の中の1つとして宣伝されているにすぎず、15秒間のコマーシャルの中の約3秒程度放映されたにすぎない。さらに、第1審原告は、電車内広告(甲12)や新聞・雑誌(甲14)により宣伝広告を行ったが、原告影像は、複数のゲーム画面の一つとして宣伝に使用されているにすぎないし、影像が不鮮明なものもある。
 そのため、これらの宣伝広告によって、魚の引き寄せ画面に係る原告影像が、第1審原告を表示するものとして、周知の商品等表示性を獲得したと認めることはできない。なお、岩手、鹿児島、静岡及び北九州地区では平成21年2月7日からテレビコマーシャルが行われたものの、上記宣伝広告のほとんどが、被告影像1及び2の掲載後、すなわち被告作品が配信された同月25日より後に行われたものである。
ウ また、第1審原告代表者の紹介記事に付された写真(甲81)によっても、原告影像が周知の商品等表示性を獲得したと認めることはできない。
エ 以上のとおり、原告影像は、第1審原告を表示するものとして周知の商品等表示性を獲得したと認めるに足りない。
(2) 類似の商品等表示
ア 被告影像1について
(ア) 被告影像1の態様は、以下のとおりである(甲16、弁論の全趣旨)。
 被告影像1は、被告作品のユーザーとなっていないモバゲータウンの会員が、被告作品を検索し被告作品のウェブページにアクセスした際に表示される初回トップページにのみ表示される。
 被告影像1は、単独で表示されたものではなく、被告影像1を含む4つの画像が縦一列に並び、各画像の横に文章が掲載されている。その最上段に、「釣りゲータウン2」の文字(ロゴ)と水中の魚を水平から描いた横長の長方形のイラストが表示され、上記イラストのすぐ下部には、「無料で遊べる」、「釣りゲータウン2を始める」、「大好評の釣りゲータウンが2になって再登場」というリンクが貼られている。上記リンクの下部には、「ここが進化した釣りゲ2!!」という文字が記載された欄の下に、被告影像1を含む4つの画像が掲載されている。4つの画像の一番上段が被告影像1であり、その横に、「ゲームシステムが一新」、「確変システムを導入したドキドキのワンボタンゲームに進化!」という文章が掲載されている。
(イ) 上記認定のとおり、そもそも、被告影像1は、被告作品を検索して初めて表示されるものである上、その掲載態様によれば、被告作品を表示するものとして用いられているのは、同画面の最上段のイラストに掲載された「釣りゲータウン2」のロゴ及びその下のリンクの「釣りゲータウン2」という文字であり、被告影像1は、被告作品の内容を紹介するための画像の1つとして使用されているものにすぎない。よって、被告影像1が、商品又は営業を表示し自他を識別する商品等表示として使用されているものと認めることはできない。
(ウ) また、被告影像1は、携帯電話機の画面上、小さく表示される上、鮮明な画像ではないため、水色の背景に、緑色や紫色の円形のパネルが表示され、画面中央部に黄色く「ファイト!」と表示され、画面下部に緑色で「Good」と表示される程度にしか認識することができない。
 このため、原告影像と被告影像1とが類似するとはいい難い。
イ 被告影像2について
(ア) 被告影像2の態様は、以下のとおりである(甲17、弁論の全趣旨)。
 被告影像2は、第1審被告ORSOのホームページの被告作品紹介画面に掲載されているところ、その最上段に「アイテム課金型ゲーム「釣りゲータウン2」」という文字が掲載されている。
 被告影像2は、上記文字のすぐ下部に掲載され、その右横には、「携帯総合ポータルサイト「モバゲータウン」にて配信中」として、被告作品の特徴等を紹介する文章が掲載されている。
 被告影像2及び上記文章の下部には、「釣りゲータウン2」の文字(ロゴ)と水中の魚を水平から描いた横長の長方形のイラストが被告影像2よりも大きなサイズで掲載され、その横には、「釣りゲータウン2」との文字や、モバゲータウンのアドレス(URL)、モバゲータウンを紹介する文章等が掲載されている。
(イ) 上記認定の被告影像2の掲載態様によれば、被告作品を表示するものとして用いられているのは、同画面の最上段の「釣りゲータウン2」という文字や同画面の下部のイラストに掲載された「釣りゲータウン2」のロゴであり、被告影像2は、同画像の右側に掲載された文章とあわせて、被告作品の内容を紹介するための画像として使用されているものにすぎない。よって、被告影像2が、商品又は営業を表示し自他を識別する商品等表示として使用されているものとは認められない。
(ウ) また、被告影像2は、水色の背景の中央に大きな円が表示され、円の下部に青色のパネルが配置され、円の中央部に金色の背景に銀色の銛が表示されているが、必ずしもこれが三重の同心円に見えるわけではない。そして、画面上部に緑色で「Good」と表示され、画面下部に白色で「あとちょっと!」という文字が表示されている。
 そうすると、画面上部の引き寄せゲージ及び中央の三重の同心円と魚影が特徴的な原告影像と、上記の被告影像2とは、必ずしも類似のものとはいえない。
ウ したがって、被告影像1及び2は、いずれも商品等表示として使用されているとはいえないし、原告影像と類似のものということもできない。
(3) 小括
 以上のとおり、原告影像が第1審原告を表示するものとして周知な商品等表示であるとはいえないし、被告影像1及び2が商品等表示として使用されているとはいえないから、これを掲載することが類似の商品等表示を使用して混同を生じさせる行為に該当するということはできない。原告影像の周知商品等表示性を根拠に被告影像1及び2の掲載行為を対象とする第1審原告の不正競争防止法2条1項1号に係る主張は、理由がない。
4 法的保護に値する利益の侵害に係る不法行為の成否(争点3)について
(1) 第1審原告は、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、第1審被告らが、第1審原告が多額の費用を投じて開発し多数の広告宣伝を行ってきた原告作品に明白かつ悪質な意図をもって依拠し、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できる被告作品を全国に配信した行為は、第1審原告に莫大な損害を与え、第1審原告の信用を毀損したことから、法的保護に値する利益を侵害したものとして、不法行為を構成すると主張する。
 しかしながら、著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしている。また、不正競争防止法も、事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争行為の発生原因、内容、範囲等を定め、周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしている。ある行為が著作権侵害や不正競争行為に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利や商品等表示を独占的に利用する権利は、原則として法的保護の対象とはならないものと解される。したがって、著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
(2) 第1審被告らの被告作品の製作及び公衆への送信行為が、第1審原告の原告作品に係る著作権及び著作者人格権を侵害したとはいえないことは、前記1及び2に説示したとおりである。また、被告影像1及び2の掲載行為が、第1審原告の周知商品等表示と混同を生じさせる行為であるとはいえないことも、前記3に説示したとおりである。
 第1審原告は、第1審被告らの行為により、信用毀損が生じた旨主張する。しかし、第1審原告の提出する証拠(甲18、19等)によっても、被告作品及び原告作品のユーザーの一部に、両作品を混同している者が存在することが認められるというにすぎず、第1審原告の主張するように、第1審被告らが被告作品を配信したことで、全国の多数のユーザーが原告作品又は第1審原告と被告作品又は第1審被告ディー・エヌ・エーとが同一であると誤認するなどして、第1審原告の社会的信用と営業上の信頼に深刻な影響が出たということまで認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって、仮に、第1審被告らが、被告作品を製作するに当たって、原告作品を参考にしたとしても、第1審被告らの行為を自由競争の範囲を逸脱し第1審原告の法的に保護された利益を侵害する違法な行為であるということはできないから、民法上の不法行為は成立しないというべきである。
 第1審原告の上記主張は理由がない。
5 結論
 以上の次第で、第1審原告の請求はいずれも理由がなく、これを全部棄却すべきものである。これを一部認容した原判決は一部失当であり、第1審被告らの控訴は理由があるから、原判決中第1審被告ら敗訴部分を取り消した上、同部分に係る第1審原告の請求を棄却することとし、また、第1審原告の控訴及び当審における請求の拡張部分は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 井上泰人
 裁判官 荒井章光
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