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【事件名】商標“Balcony and Bed”侵害事件
【年月日】平成24年7月31日
 東京地裁 平成23年(ワ)第29563号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年6月14日)

判決
原告 株式会社フレーバ
訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 坂田洋一
補佐人弁理士 河野誠
同 河野生吾
被告 株式会社銀座マギー
訴訟代理人弁護士 大谷惣一


主文
1 被告は、原告に対し、38万1470円及びこれに対する平成23年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを60分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、2400万円及びこれに対する平成23年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告に対し、別紙商品目録1及び2記載の各婦人用被服(以下「被告各商品」と総称する。)を製造及び販売した被告の行為が、後記2(2)記載の原告の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を侵害するとともに、別紙デザイン目録記載の各デザイン(以下「本件各デザイン」と総称し、同目録記載の各デザインを「本件デザイン1−1」、「本件デザイン1−2」などという。)についての原告の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害する旨主張して、商標権侵害の不法行為又は著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(選択的請求)として2400万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、洋服、鞄、靴の商品企画、デザイン、製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、繊維製品、洋品雑貨類の販売及び加工並びにこれらの委託販売業等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の商標権
 原告は、次の商標権(本件商標権)の商標権者である。
 登録番号 商標登録第5145007号
 商品の区分 第25類
 指定商品 被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴
 出願日 平成19年11月14日
 登録日 平成20年6月27日
 登録商標 別紙商標目録のとおり
(3) 本件各デザインの作成等
 原告の取締役であるA(デザイナー名・野口アヤ。以下「野口アヤ」という。)は、平成23年2月上旬ころ、原告の発意に基づき、その職務の一環として、原告が販売する平成23年夏物婦人服用の図柄(デザイン)として本件各デザインを作成した。
 原告は、そのころから、本件各デザインをプリントした婦人用夏物トップス(青色及び赤色の2種類。以下「原告各商品」と総称する。)(検甲1、2)を製造及び販売している。
(4) 被告の行為
 被告は、平成23年6月12日から同年7月17日までの間、被告各商品(検甲3、4)を販売した。
 被告各商品の形態は、別紙商品目録1及び2記載の各写真のとおりである。被告各商品には、本件デザイン1−1、1−2、3、4−1及び4−2並びに本件デザイン2−1及び2−2の各一部がプリントされている(検甲3、4、弁論の全趣旨)。
 また、被告各商品には、別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)が前身頃の右脇付近から右上腕にかけて及び後ろ身頃の左脇付近から左上腕にかけての合計2か所(別紙商品目録1記載の写真E及び同目録2記載の写真E参照)にプリントされている(検甲3、4)。
3 争点
 本件の争点は、@被告による被告各商品の販売が、本件登録商標に類似する商標の使用として本件商標権の侵害とみなす行為(商標法37条1号)に該当するか(争点1)、A被告による被告各商品の製造及び販売が、本件各デザインについての原告の著作権(複製権、譲渡権)の侵害行為に該当するか(争点2)、B被告の著作権侵害行為についての過失の有無(争点3)、C被告が賠償すべき原告の損害額(争点4)である。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告の商標権侵害の有無)について
(1) 原告の主張
ア 被告標章と本件登録商標との類似性
(ア) 本件登録商標は、別紙商標目録のとおりであり、「バルコニー(洋風建築で、階上の室外に張り出した手すり付きの所、露台)」を意味する「Balcony」の文字と「寝台」を意味する「Bed」の文字とを、「and」の文字により結合した「Balcony and Bed」の欧文字と、これの表音たる「バルコニー アンド ベッド」の片仮名文字とから構成されている。
 本件登録商標から、「露台と寝台」ないしは「バルコニーとベッド」の観念及び「バルコニーアンドベッド」の称呼が生ずる。
(イ) 一方、被告標章は、別紙標章目録のとおり、「BALCONY AND“SUN”BED」の文字を書してなる。被告標章とその下の「CRUSING」の文字部分とは、これらが全体としてまとまった観念が生じ得るとか、全体の称呼が簡潔であるなど一体に捉えるべき合理的な根拠が存在しないので、一体のものではない。
 次に、被告標章は、その構成中の「SUN」の文字部分が、ダブルクォーテーションマークで囲まれていることにより、他の文字部分から独立抽出的に把握され得るものであるところ、当該他の文字部分である「BALCONY AND BED」の文字部分から、「露台と寝台」ないしは「バルコニーとベッド」の観念及び「バルコニーアンドベッド」の称呼が生ずる。なお、「SUN」を囲むダブルクォーテーションマークは、引用符であって、後続する「BED」の文字を強調的に形容ないし修飾するものではないから、「“SUN”BED」の文字部分から、「日光浴用ベッド」の観念が生ずることはない。
(ウ) 原告は、平成17年ころから、「Balcony and Bed」をメインブランドの一つとして大きく事業展開し、同ブランドの商品は、各種ファッション雑誌や「ZOZOTOWN」、「ファッションウォーカー」などの著名な服飾専門の通販ウェブサイトなどで多数取り上げられ、また、同ブランドの商品だけでも年間平均5億円から7億円の売上げを上げており、本件登録商標と類似する「Balcony and Bed」は、服飾業界で広く知られたブランドである。
(エ) 以上のとおり、本件登録商標と被告標章とは、「Balcony」と「Bed」という二つの単語の特徴的な結びつきという点で共通し、しかも、観念及び称呼が共通していることなどからすると、被告標章が本件登録商標の指定商品に属する被服(被告各商品)に使用された場合、需要者においてその商品の出所を誤認混同するおそれがあるといえるから、被告標章は、本件登録商標に類似する。
イ 商標的使用
 被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」の文字列は、別紙商品目録1記載の写真E及び同目録2記載の写真Eに示すように、極めて目立つ特徴的なフォントで、その下の英文群の文字よりかなり大きな文字サイズで、周囲に飾り枠まで付された状態で、一見して需要者の目をひく態様で、被告各商品に付されている。
 また、「BALCONY AND“SUN”BED」は、極めて特徴的な単語が結びついてなる造語であって、続く英文群との内容の関連性は全くない。
 さらに、需要者の目をひく位置に、他に出所を表示するような機能を有する記載はない。
 したがって、被告標章は、商品出所表示機能を発揮しているといえるから、被告各商品における被告標章の使用は、商標的使用に該当する。
 なお、被告各商品のタグ(商品タグ)には「PREGA」との記載があるが、この記載によって被告標章の商品出所表示機能が阻害されることはない。
ウ まとめ
 以上によれば、被告が被告標章が付された被告各商品を販売する行為は、本件登録商標に類似する商標の使用(商標法37条1号)に当たり、本件商標権の侵害とみなす行為に該当する。
(2) 被告の主張
ア 被告標章と本件登録商標との類似性の主張に対し
(ア)a 被告標章は、「BALCONY AND“SUN”BED」との文字列と、その文字列のすぐ下に接着するように「CRUSING」との文字列とを、全く同じフォントで、2段組みで表記したものであって、各文字列は単に普通名詞を組み合わせたものにすぎず、いずれかの文字列を要部とすることはできないから、被告標章から、全体として「バルコニー アンド サンベッド クルージング」との呼称が生じる。この称呼は、本件登録商標から生じる「バルコニー アンド ベッド」とは、全く異なる。
 次に、被告標章は、2段組みとなっているほか、上段の「BALCONY AND“SUN”BED」の文字列の「AND」と「BED」の間に、「SUN」の文字が入っており、しかも、この「SUN」の文字が、ダブルクォーテーションマークにより囲われ、強調されており、外観においても、本件登録商標と全く異なる。
 さらに、「SUNBED」とは、日光浴用のベッドのことであるところ、被告標章においては、上記のとおり、「SUN」が強調される結果、被告標章から日光浴をするにふさわしい太陽光の強い南国リゾートのイメージが喚起され、また、下段の「CRUSING」の文字列が追加されることにより、一層、かかるイメージが強調されている。これは、単に、「BALCONY」と「BED」を結びつけただけの本件登録商標では生じ得ないものであって、被告標章は、本件登録商標とは観念の点においても全く異なる。
 なお、原告は、本件登録商標と類似する「Balcony and Bed」は、服飾業界で広く知られたブランドである旨主張するが、 被告は、「Balcony and Bed」なるブランドを知らない。
b 以上のとおり、被告標章と本件登録商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点においても異なるから、被告標章は、本件登録商標と類似しない。
(イ) 仮に被告標章の構成中の上段の「BALCONY AND“SUN”BED」の部分と本件登録商標とを対比したとしても、被告標章は、以下のとおり、本件登録商標と類似しない。
 まず、被告標章の上段の「BALCONY AND“SUN”BED」の部分を称呼する場合、「SUN」が明瞭に「サン」と発音され、「バルコニーアンドサンベッド」の称呼が生じるので、本件登録商標の「バルコニーアンドベッド」の称呼とは、明確に聴別できる。
 次に、前記(ア)aで述べたとおり、被告標章では、「SUN」の語が入るばかりか、この文字が、ダブルクォーテーションマークにより囲われ、強調されており、それにより被告標章の外観から受ける印象は、本件登録商標と相当異なるものとなっている。
 また、前記(ア)aで述べたとおり、被告標章から日光浴をするにふさわしい太陽光の強い南国リゾートのイメージが喚起されるのに対し、本件登録商標から、このようなイメージが生じ得ないから、被告標章は、本件登録商標とは観念の点においても全く異なる。
 したがって、被告標章の上段の「BALCONY AND“SUN”BED」の部分と本件登録商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点においても異なるから、被告標章は、本件登録商標と類似しない。
イ 商標的使用の主張に対し
 被告標章は、別紙商品目録1記載の写真E及び同目録2記載の写真Eに示すように、被告各商品において、飾り枠に“My airth and parentage 〜”と続く一群の英文(以下「本件英文群」という。)とともに納められており、かつ、本件英文群より文字のサイズは大きく、本件英文群を構成する文字と異なる縁取り文字となっていることからすると、被告標章の看者においては、被告標章は、本件英文群の題号・題名にすぎないと受け取るのが通常であり、そうでなくとも、少なくとも本件英文群と一体となって一つのデザイン(本件デザイン3)をなしていると捉えるのが通常である。
 加えて、被告標章は、被告各商品の右脇前面付近及び左脇前面付近に斜めにプリントされたものであって、さほど目立つものではないことや、被告各商品には、被告のブランド名である「PREGA」のタグ(商品タグ)が付されていること(乙9)をも考え合わせると、被告標章は、被告各商品において商品の出所を識別するものとして機能しているものとはいえず、被告各商品における被告標章の使用は、商標的使用に該当しない。
ウ まとめ
 以上のとおり、被告標章は本件登録商標に類似する商標に該当せず、また、被告各商品における被告標章の使用は商標的使用に該当しないから、被告による被告各商品の販売行為が本件商標権の侵害とみなす行為に該当するとの原告の主張は理由がない。
2 争点2(被告の著作権侵害の有無)について
(1) 原告の主張
ア 本件各デザインの著作物性
 本件各デザインは、ファッション業界で特に若い女性に大変支持され、10年以上にわたり多くの実績を重ねてきたデザイナーである野口アヤの創作に係る作品であり、以下のとおり、いずれも、独立した美的鑑賞の対象となり得る芸術性を備えたものであり、著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当する。
(ア) 本件デザイン1−1及び1−2について
 本件デザイン1−1及び1−2は、別紙デザイン目録のとおり、南国風のヤシの木を背景に、釣り竿を背負った釣り人を描いた図柄である。本件デザイン1−1及び1−2は、単に対象を写実的に表現するものではなく、独特のタッチと、陰影をつけた表現により、あたかも印象派の絵画のような味わい深い雰囲気を醸し出しており、写実を超えて、表現者(デザイナー)の主観的意図が色濃く投影された作品である。
 また、本件デザイン1−1及び1−2は、人物の2倍以上の大きさのある進行方向を指し示す1枚看板と、ヤシの木、そして人物が奇妙なコントラストをなしており、構図にも工夫が見られ、見る者をひきつける作品である。
 このように本件デザイン1−1及び1−2は、単にTシャツ用のデザインという実用の用途を超えて、表現者の意図・個性が存分に発揮され、それぞれがそれ自体1枚の絵画と言っても差し支えない芸術性が見られる作品であり、著作権法により保護される美術の著作物に該当する。
(イ) 本件デザイン2−1及び2−2について
 本件デザイン2−1及び2−2は、別紙デザイン目録のとおり、アンティークな雰囲気を醸し出す周囲の飾りと、帆船、そして画面奥には、照りつける太陽が、それぞれ印象的なタッチで描かれている。また、帆船の前面には、小型船、そしてこれを操舵する人物が、力強く生き生きと描きこまれている。帆船の先端には、躍動感あふれる、鳥の姿も見られる。
 本件デザイン2−1及び2−2は、海上の男たち、鳥、そして風を受けて力強く前進する帆船といった、躍動感・生命力あふれる海上の対象物を1枚の絵画として生き生きと描き切り、切り取ったものである。
 このように本件デザイン2−1及び2−2は、それぞれがそれ自体1枚の絵画と言って差し支えないほど、細部まで徹底的に描きこまれた、見る者に生命の息吹さえ感じさせる、芸術性が見られる作品であり、著作権法により保護される美術の著作物に該当する。
(ウ) 本件デザイン3、本件デザイン4−1及び4−2について
 別紙デザイン目録のとおり、本件デザイン3は、蔓状植物の幹を左右両側に湾曲させてループとし、本件デザイン4−1及び4−2は、円形連結リング及びひょうたん型連結リングを組み合わせて独創性のある図形を構成しており、いずれも、他に例をみない独創的なデザインである。
 本件デザイン3、本件デザイン4−1及び4−2は、それぞれがそれ自体1枚の絵画として見てもおかしなものではなく、十分な芸術性を備えた作品であり、著作権法により保護される美術の著作物に該当する。
(エ) 小括
 以上のとおり、本件各デザインは、いずれも著作権法により保護される著作物に該当する。
 そして、本件各デザインは、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する野口アヤがその職務上作成し、原告の著作名義の下に公表されたものであるから、職務著作(著作権法15条1項)に該当し、その著作権は原告に帰属する。
イ 被告による複製権及び譲渡権の侵害
(ア) 被告各商品には、別紙商品目録1及び2記載の各写真のとおり、本件デザイン1−1、1−2、3、4−1及び1−2がそのままプリントされており、また、本件デザイン2−1及び2−2が、正面及び背の首回りに、一部が切れる形でプリントされている。
 本件各デザインは、いずれも他に類を見ない、極めて特徴的で芸術的なデザインであり、偶然、本件各デザインと全く同一のデザインが作成されることはあり得ないから、被告各商品における上記各プリントは、本件各デザインに依拠して作成されたものである。
 したがって、被告各商品における上記各プリントは、本件各デザインに依拠して、その創作的表現を有形的に再製したものであり、著作物である本件各デザインの複製に当たる。
(イ) 以上によれば、被告が本件各デザインをプリントした被告各商品を製造及び販売した行為は、原告が保有する本件各デザインの複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2第1項)の侵害行為に該当する。
(2) 被告の主張
ア 本件各デザインの著作物性の主張に対し
(ア) 本件各デザインは、衣類という実用品に用いられるものであるから、いわゆる応用美術に該当する。
 応用美術は、意匠法等の産業財産権制度との関係から、著作権法により著作物として保護されるのは、一般に、純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限られる。また、応用美術については、鑑賞の対象として認められる一品制作のものを除き、原則として著作物に含まれない。
 しかるところ、@本件各デザインは、いずれもありふれた表現である上(乙6の1ないし4、2の1ないし4、3の1、2、4の1ないし4)、色が2色しかないこと(青−黒、赤−黒)、A本件デザイン1−1、1−2及び3は、略側面側に斜めに小さくプリントされており(別紙商品目録1及び2記載の各写真BないしE)、鑑賞に適する配置及び大きさではないことを考え合わせると、本件各デザインは、一定の美的要素を備えることまでは否定しないものの、各々、独立して美的鑑賞の対象となるほどの美術性を備えるとまではいい難い。また、本件各デザインは、一品制作のものではなく、量産品に用いられている。
 したがって、本件各デザインは、著作物に該当しない。
(イ) なお、仮に本件各デザインが著作物に当たるとした場合、本件各デザインが原告主張の職務著作に該当することは争わない。
イ 被告による複製権及び譲渡権の侵害の主張に対し
 原告の主張は争う。被告は、被告各商品を被服メーカーの「BASE office」から購入して、被告のブランド品として販売したものであり、自ら被告各商品をデザイン及び製造したものではない。
3 争点3(被告の著作権侵害行為についての過失の有無)
(1) 原告の主張
 一般に、服飾のデザイン(プリント柄)は、商品の売れ行きを決める生命線であり、服飾業者は、各シーズンの流行や消費者の好みをにらんで、そのデザインの開発に心血を注いでおり、多くの業者は、服飾のデザイン(プリント柄)の権利関係に注意を払い、コストもかけていることからすると、創業以来50年以上も婦人服の企画・販売を扱ってきたプロの業者である被告においては、被告が製造する服飾の商品に一定のデザインを採用し、あるいは一定のデザインを使用した商品を販売するに当たり、当該デザインの著作権等の権利関係について調査すべき義務を負うものというべきである。
 しかるところ、@本件各デザインを用いた原告各商品が、平成23年4月に発行された、発行部数数十万部のファッション専門誌「InRed」(甲4の6)及び「GLOW」(甲4の7)において、初夏シーズン向けの新商品として大きく取り上げられ、掲載されていたこと、A日本最大のファッション専門通販ウェブサイトである「ZOZOTOWN」にも、原告各商品が掲載されていたこと、B被告の後記主張によれば、被告は、末端の実績もない零細業者である「BASE office」(取引時に開業からわずか1年の個人事業主)から、被告各商品について、自ら創作したものではなく、韓国の市場で大量に市販されていた市販品であると聞かされて、これを仕入れたものであること、C原告は、平成17年ころから、「Balcony and Bed」をメインブランドの一つとして大きく事業展開し、「Balcony and Bed」は服飾業界で広く知られたブランドであるところ、被告各商品には、他者の権利保有を疑わせる商標「BALCONY AND“SUN”BED」がプリントされていることなどの諸事情に鑑みれば、被告は、被告各商品にプリントされている本件各デザインの著作権等の権利関係について調査すべき注意義務があったにもかかわらず、このような調査を全く行うことなく、上記注意義務に違反し、被告各商品を販売したものといえるから、被告には、前記2(1)イの譲渡権侵害の点について過失がある。
(2) 被告の主張
ア 本件各デザインには、例えば、バーバリーのチェック模様のような周知性ないし著名性がなく、これを目にしたとしても、原告その他第三者の著作権を侵害しているのではないかとの疑いを持つことは不可能である。
 また、原告が主張するように本件各デザインが「ZOZOTOWN」のウェブサイトや一部の雑誌で紹介されていたとしても、インターネット上では「ZOZOTOWN」のほかにも、服飾を扱う多数の通販サイトがあり、極めて多数のショップ、デザイナーが、極めて多数の服飾の販売を行っているのであって、自ら購入し販売しようとする服飾につき、これら既に発表済みのものと逐一照らし合わせて著作権侵害の有無を確認することは事実上不可能である。また、服飾が紹介されるファッション雑誌も、多数刊行されており、過去発刊されたものも含めると、雑誌で紹介されるデザインは数えきれず、それらと自ら購入し販売しようとする服飾とを逐一照らし合わせ、著作権侵害の有無を確認することも、事実上不可能である。
 したがって、服飾を第三者から購入して販売しようとする者が、ウェブサイト及び雑誌で発表済みのデザインと逐一照らし合わせ、著作権侵害の有無を確認すべき注意義務を負っているものとはいえない。
イ 被告は、BASE officeの代表者とは、同人が婦人服製造販売大手「株式会社グラン山貴」に入社し企画・営業に携わるようになった昭和60年ころから付き合いがあるが、これまで著作権侵害の問題を起こしたことはなかったこと、BASE officeが用いる生地は、各種布地等の市場として国際的にも注目され、国内外のバイヤーが利用する韓国の「東大門総合市場」で大量に市販されているものを使用していることから、被告において、BASE officeを信頼することができない事情がなかった。
ウ 被告は、平成23年7月16日到達の内容証明郵便(乙8)で、原告から著作権侵害の警告を受け、本件の問題を初めて認識し、その後、速やかに、被告の各店舗に配された被告各商品を本店に回収し、その販売を停止した。
エ 以上によれば、被告には、被告各商品にプリントされた本件各デザインに係る著作権について調査すべき注意義務違反があったとはいえず、原告主張の過失はない。
4 争点4(原告の損害額)について
(1) 原告の主張
ア 商標権侵害に基づく損害額
 被告は、故意又は過失により、本件登録商標と類似する被告標章が付された被告各商品を販売することにより原告の本件商標権を侵害したものであるから、民法709条に基づき、上記侵害行為により原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。
(ア) 商標法38条1項に基づく損害額
a 被告が本件訴えの提起日(平成23年9月7日)までの間に被告各商品を販売した数量は、2000着を下らない。
b 原告は、本件各デザインがプリントされた原告各商品を1着3万円で販売していること、その限界利益率は40%であることからすると、原告製品の販売により得られる1着当たりの利益額は、3万円の40%に相当する金額となる。
c そうすると、被告が被告各商品を販売して本件商標権を侵害したことにより商標法38条1項に基づいて算定される原告の損害額は、2400万円である。
【計算式】3万円×0.4×2000=2400万円
(イ) 商標法38条2項に基づく損害額(前記(ア)の予備的主張)
a 商標法38条2項によれば、被告が被告各商品を販売したことによって受けた利益の額は、原告が受けた損害額と推定される。
 しかるところ、被告は、平成23年6月12日から同年7月17日までの間に、被告各商品を合計67着販売し、その販売価格は5着分が1万1550円、62着分が8085円であること、被告各商品の仕入価格は2650円であること、被告は、仕入価格以外の変動経費の主張をしていないことからすると、被告が被告各商品を販売したことにより受けた利益の額は、38万1470円である。
【計算式】(1万1550円×5+8085円×62)−(2650円×67)=38万1470円
b そうすると、被告が被告各商品を販売して本件商標権を侵害したことにより受けた原告の損害額は、38万1470円である。
イ 著作権侵害に基づく損害額
 被告は、少なくとも過失により、本件各デザインがプリントされた被告各商品を販売することにより本件各デザインについての原告の著作権を侵害したものであるから、民法709条に基づき、上記侵害行為により原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。
(ア) 著作権法114条1項に基づく損害額
 被告が被告各商品を販売して本件各デザインについての著作権を侵害したことにより著作権法114条1項に基づいて算定される原告の損害額は、前記ア(ア)と同様の理由により、2400万円である。
(イ) 著作権法114条2項に基づく損害額
 被告が被告各商品を販売して本件各デザインについての著作権を侵害したことにより著作権法114条2項に基づいて推定される原告の損害額は、前記ア(イ)と同様の理由により、38万1470円である。
ウ まとめ
 以上によれば、原告は、被告に対し、商標権侵害の不法行為又は著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(選択的請求)として2400万円及びこれに対する平成23年9月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の主張
ア 商標権侵害に基づく損害額の主張に対し
(ア) 商標法38条1項に基づく損害額について
 原告の主張のうち、被告による被告各商品の販売数量が2000着を下らないとの事実は否認し、その余は争う。
 被告は、BASE officeから、平成23年6月12日及び同月21日に被告各商品を合計85着購入し、同月12日から同年7月17日までの間に、合計67着販売し、その余の15着をBASE officeに返品しており、被告各商品の販売数量は合計67着である。
(イ) 商標法38条2項に基づく損害額について
 原告主張のとおり、被告が被告各商品を合計67着販売し、その販売価格は5着分が1万1550円、62着分が8085円であること、被告各商品の仕入価格は2650円であることは、認める。
 ただし、被告各商品の上記販売価格には、被告が顧客から受領した消費税額分が含まれている。
 そして、消費税の負担者は消費者であり、事業者としては、これを売上時に消費者より預かり国に納付するべきものであって、事業者にとって、消費税額分は通過勘定にほかならず、事業者の「利益」にならないから、被告各商品の上記販売価格のうち、消費税額分は、被告の受けた利益の算定の基礎とすべきではない。
 そうすると、被告が被告各商品67着を販売したことにより受けた利益の額は、35万4850円である。
【計算式】(1万1000円×5+7700円×62)−(2650円×67)=35万4850円
イ 著作権侵害に基づく損害額の主張に対し
 原告の主張は、いずれも争う。
 前記アのとおり、被告による被告各商品の販売数量は67着であり、被告が被告各商品の販売により受けた利益の額は、35万4850円である。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告の商標権侵害の有無)について
(1) 被告標章と本件登録商標との類似性
 被告標章は、別紙標章目録記載のとおり、上段の「(標章イメージ省略)」の構成部分(以下「「BALCONY AND“SUN”BED」部分」という。)と下段の「(標章イメージ省略)」の構成部分(以下「「CRUSING」部分」という。)とを組み合わせた結合商標である。
 ところで、商標法37条1号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ、その商標を使用した商品又は役務につき出所を誤認混同するおそれがあるか否かによって全体として類似するかどうかを考察すべきものであり、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体を対比して類否を判断するのを原則とすべきものであるが、取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない商標は、必ずしも常にその構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念され、1個の商標から2個以上の称呼、観念が生ずることがあることに照らすならば、結合商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の構成部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合、さらには、各構成部分の結合の態様によって全体の構成中需要者の注意を強くひきやすい部分がある場合などには、当該構成部分の一部を要部として摘出し、この要部と他の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも許されるものと解するのが相当である。
そこで、まず、上記の観点から、被告標章の構成中、「BALCONY AND“SUN”BED」部分を要部として摘出して本件登録商標との対比を行うことにより商標そのものの類否を判断することの適否について検討し、その上で、被告標章と本件登録商標の類否について検討することとする。
ア 「BALCONY AND“SUN”BED」部分の要部該当性
(ア) 証拠(甲2、3、4の1ないし8、7、9ないし11)及び弁論の全趣旨によれば、@原告は、平成12年に設立され、「FiLLY O'LYNX」のブランド名の服飾の販売を開始した後、平成18年ころから、「バルコニー アンド ベッド」のブランド名で商品展開をし,原告の直営店「Balcony」(代官山本店、六本木ヒルズ店、渋谷パルコ店、横浜ジョイナス店、名古屋パルコ店、なんばパークス店、福岡パルコ店)やインターネットショッピングサイトの「ZOZOTOWN」等でそのブランド名の服飾を販売していること、A原告は、平成23年から、「バルコニー アンド ベッド」のサブブランド商品として、「バルコニーアンド “サン”ベッド」のブランド名の原告各商品等の服飾(甲4の6,7)を販売していること、B「バルコニー アンド ベッド」のブランド又はその商品は、その販売以来、デザイナー野口アヤが手掛けたブランド又はその商品として、雑誌「装苑」(2010年6月号)、雑誌「InRed」(2011年6月号)等の女性ファッション誌その他各種雑誌(甲3、4の1、3、5ないし8)で紹介されてきたこと、C「バルコニー アンド ベッド」のブランド商品の売上額は、年間5億円から7億円程度であること(甲11)が認められる。
 上記@ないしCの事実及び弁論の全趣旨を総合すると、「バルコニー アンド ベッド」は、平成23年当時には、原告が商品展開をしている服飾ブランドとして、ファッションに興味がある20代ないし40代の女性の需要者において相当程度知られていたことが認められる。
(イ)a 被告標章は、別紙標章目録記載のとおり、上段の「BALCONY AND“SUN”BED」部分と下段の「CRUSING」部分とが組み合わせて構成され、「BALCONY AND“SUN”BED」の文字列及び「CRUSING」の文字列は、いずれも、同一の大きさ及び書体の文字によって表記されている。
 他方で、「BALCONY AND“SUN”BED」部分と「CRUSING」部分とは、上下2段に分かれているほか、「CRUSING」の文字列の左右及び下部には、「(標章イメージ省略)」のように、「CRUSING」の文字列を囲む飾りが付されており、両構成部分は外観上明瞭に区別される。
 また、 「BALCONY AND“SUN”BED 」部分は、「BALCONY」、「AND」、「SUN」、「BED」という四つの平易な英単語から構成され、一連表記されていることから、「バルコニー アンド サン ベッド」の称呼が自然に生じるのに対し、「CRUSING」部分の「CRUSING」の文字列は、造語であり、特段の観念を生じさせるものではないが、「船旅、クルージング」などの意味の英単語の「cruising」ないし「CRUISING」とスペルが1字違いであることもあり、その外観から、「クルージング」の称呼が生じ得るといえなくもない。
 さらに、 上記のとおり、 「CRUSING 」の文字列は造語であり、「BALCONY AND“SUN”BED」部分と「CRUSING」部分とは、両者の観念の間に特段の結びつきはない。
 以上を総合すると、被告標章を構成する「BALCONY AND“SUN”BED」部分及び「CRUSING」部分は、両構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。
b そして、@前記(ア)認定のとおり、「バルコニー アンド ベッド」は、平成23年当時には、原告が商品展開をしている服飾ブランドとして、ファッションに興味がある20代ないし40代の女性の需要者において相当程度知られていたこと、A原告は、平成23年から、「バルコニー アンド ベッド」のサブブランド商品として、「バルコニー アンド “サン”ベッド」のブランド名の原告各商品等の服飾を販売していること(前記(ア)A)、B「CRUSING」部分の「CRUSING」の文字列は、造語であり、特段の観念を生じさせるものではないこと(前記a)、C被告標章における「BALCONY AND“SUN”BED」部分と「CRUSING」部分との配置、間隔等の結合態様を総合考慮すれば、被告標章においては、「BALCONY AND“SUN”BED」部分が全体の構成中需要者の注意を強くひきやすい部分であり、これを要部と認めるのが相当である。
(ウ) これに対し被告は、被告標章は、「BALCONY AND“SUN”BED」との文字列と、その文字列のすぐ下に接着するように「CRUSING」との文字列とを、全く同じフォントで、2段組みで表記したものであって、各文字列は単に普通名詞を組み合わせたものにすぎず、いずれかの文字列を要部とすることはできない旨主張する。
 しかしながら、前記( イ) で述べたように、被告標章を構成する「BALCONY AND“SUN”BED」部分及び「CRUSING」部分は、両構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではなく、その結合態様によれば、被告標章においては、「BALCONY AND“SUN”BED」部分が全体の構成中需要者の注意を強くひきやすい部分であり、これを要部と認めるのが相当であるといえるから、被告の上記主張は、採用することができない。
イ 被告標章と本件登録商標との対比
(ア)a 本件登録商標は、別紙商標目録のとおり、「(標章イメージ省略)」というものであり、上段に「バルコニー アンド ベッド」の片仮名文字と、下段に「Balcony and Bed」の欧文字を書してなる。
 上段と下段の各文字の大きさ、配置等からみて、上段の「バルコニー アンド ベッド」は、下段の「Balcony and Bed」の欧文字の表音の片仮名表記と認められるから、本件登録商標から全体として「バルコニー アンド ベッド」の称呼が生じる。
b 本件登録商標の「Balcony and Bed 」の構成部分は、「Balcony」、「and」、「Bed」の三つの英単語から構成され、「Balcony」の語と「Bed」の語が接続詞である「and」で結合されている。
 「Balcony」は、普通名詞の「balcony」の頭文字が大文字で表記されたものであり、「バルコニー」、すなわち、「西洋建築で、室外へ張り出して作った、屋根のない手すり付きの台。露台。」(広辞苑第六版)を意味する。
 「Bed」は、普通名詞の「bed」の頭文字が大文字で表記されたものであり、「ベッド」、すなわち、「寝台」(広辞苑第六版)を意味する。
 これらの各単語の意味及び本件登録商標の称呼によれば、本件登録商標から「バルコニーとベッド」の観念が生じる。また、前記ア(ア)認定のとおり、「バルコニー アンド ベッド」が、平成23年当時には、原告が商品展開をしている服飾ブランドとして、ファッションに興味がある20代ないし40代の女性の需要者において相当程度知られていたことからすると、本件登録商標が指定商品の「被服」に含まれる婦人用被服に使用された場合には、同ブランドを連想させるものと認められる。
(イ)a 被告標章の要部である「BALCONY AND“SUN”BED」部分は、別紙標章目録記載のとおり、「(標章イメージ省略)」というものである。
 本件登録商標と被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分との外観を対比すると、「balcony」、「and」、「bed」の三つの英単語が使用されている点で共通するものの、「BALCONY AND“SUN”BED」部分は、各欧文字に装飾が施され、いずれもが大文字であることや、「SUN」の単語を構成に含む上、同単語に引用符号である「“」、「”」のダブルクォーテーションマークが付されていることなどからすると、両者は外観において同一又は実質的に同一であるとはいえない。
 しかし、他方で、両者の称呼を対比すると、本件登録商標から「バルコニー アンド ベッド」の11音の称呼が生じるのに対し、BALCONY部分から「バルコニー アンド サン ベッド」の13音の称呼が生じるものと認められるところ、中間に「サン」の2音の称呼が生じるかどうかの違いがあるものの、両者を一連のものとして称呼した場合、全体としては類似するといえる。
次に、本件登録商標から「バルコニーとベッド」の観念が生じ、本件登録商標が指定商品の「被服」に含まれる婦人用被服に使用された場合には、原告が商品展開をしている「バルコニー アンド ベッド」のブランドを連想させるものと認められる。一方、被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分からは、「sunbed」が「日光浴用のベッド」(研究社「新英和大辞典」第6版)の意味を有することから、「バルコニーと日光浴用のベッド」の観念が生じ得るが、「日光浴用のベッド」も「ベッド」の一種であるといえるから、この点において、両者は、観念において類似するものといえる。また、両者の称呼が類似することから、本件登録商標が指定商品の「被服」に含まれる婦人用被服に使用された場合には、原告が商品展開をしている「バルコニー アンド ベッド」のブランドを連想させるものと認められる。
b 以上を総合すると、本件登録商標と被告標章の要部とは、称呼及び観念において類似し、「バルコニー アンド ベッド」が、平成23年当時には、原告が商品展開をしている服飾ブランドとして、ファッションに興味がある20代ないし40代の女性の需要者において相当程度知られていたことなどの取引の実情の下においては、被告標章が本件登録商標の指定商品の「被服」に含まれる婦人用被服に使用された場合には、その商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるものといえるから、本件登録商標と被告標章とは全体として類似しているものと認められる。
(ウ) これに対し被告は、@被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分の称呼と本件登録商標の称呼は、明確に聴別できる、A被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分には、「SUN」の語が入るばかりか、この文字が、ダブルクォーテーションマークにより囲われ、強調されており、それにより被告標章の外観から受ける印象は、本件登録意匠と相当異なるものとなっている、B被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分から日光浴をするにふさわしい太陽光の強い南国リゾートのイメージが喚起されるのに対し、本件登録商標から、このようなイメージが生じ得ないから、被告標章は、本件登録商標とは観念の点においても全く異なるなどとして、被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分と本件登録商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点においても異なるから、被告標章は、本件登録商標と類似しない旨主張する。
 しかしながら、上記Bの点については、被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分から看者において直ちに日光浴をするにふさわしい太陽光の強い南国リゾートのイメージが喚起されたり、連想されるものとは認め難く、また、上記@及びAの点を勘案しても、前記(イ)bのとおり、本件登録商標と被告標章の「BALCONY AND“SUN”BED」部分(要部)とは、称呼及び観念において類似するものと認められ、被告標章が本件登録商標の指定商品の「被服」に含まれる婦人用被服に使用された場合には、その商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるものといえるから、被告の上記主張は、採用することができない。
(2) 商標的使用について
ア 被告各商品は、別紙商品目録1及び2記載のとおりの婦人用被服であるところ、被告各商品には、前身頃の右脇付近から右上腕にかけて及び後ろ身頃の左脇付近から左上腕にかけての合計2か所(別紙商品目録1記載の写真E及び同目録2記載の写真E参照)に被告標章がプリントされている(甲8、検甲3、4)。
 そして、被告各商品にプリントされた被告標章の大きさ、フォント及び位置、さらには、被告標章は、「バルコニー アンド ベッド」の称呼が生じる本件登録商標と類似し(前記(1)イ(イ)b)、「バルコニー アンド ベッド」が、平成23年当時には、原告が商品展開をしている服飾ブランドとして、ファッションに興味がある20代ないし40代の女性の需要者において相当程度知られていたこと(前記(1)ア(ア))を総合すると、被告各商品における被告標章の使用は、商品の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできるから、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たるというべきである。
イ これに対し被告は、@被告標章は、別紙商品目録1記載の写真E及び同目録2記載の写真Eに示すように、被告各商品において、飾り枠に“My airth and parentage〜”と続く一群の英文(本件英文群)とともに納められており、かつ、本件英文群より文字のサイズは大きく、本件英文群を構成する文字と異なる縁取り文字となっていることからすると、被告標章の看者においては、被告標章は、本件英文群の題号・題名にすぎないと受け取るのが通常であり、そうでなくとも、少なくとも本件英文群と一体となって一つのデザイン(本件デザイン3)をなしていると捉えるのが通常である、A被告標章は、被告各商品の右脇前面付近及び左脇前面付近に斜めにプリントされたものであって、さほど目立つものではないこと、B被告各商品には、被告のブランド名である「PREGA」のタグ(商品タグ)が付されていることを考え合わせると、被告標章は、被告各商品において商品の出所を識別するものとして機能しているものとはいえず、被告各商品における被告標章の使用は、商標的使用に該当しない旨主張する。
 しかしながら、被告標章がプリントされた被告各商品の前身頃の右脇付近から右上腕にかけて及び後ろ身頃の左脇付近から左上腕にかけての部分は、被告各商品において比較的目立つ位置にあり、被告標章は、その下部にある本件英文群よりも大きなサイズで表記されていること、被告標章から想起される「バルコニーとベッド」との観念は、本件英文群の記載内容と特段の関連性がないことに照らすならば、被告標章の看者において、被告標章は、本件英文群の題号・題名にすぎないと受け取るのが通常であるということはできない。
 また、被告標章は、その下部にある本件英文群、被告標章及び本件英文群を取り囲む枠状の図柄とで一つのデザイン(本件デザイン3)を構成しているということはできるが(別紙商品目録1記載の写真E及び同目録2記載の写真E、別紙デザイン目録記載の3)、被告標章はそれ自体が独立の標章として認識できるものであるから、本件デザイン3の一部を構成しているからといって被告標章が被告各商品において商品の出所表示機能・出所識別機能を有していることと相反するものではない。
 さらに、証拠(乙9、10の1、2、検甲3)及び弁論の全趣旨によれば、被告各商品は、被告が経営する「PREGA」の名称の店舗で販売されていたこと、被告各商品には、品番及び被告のブランド名の「PREGA」の表記がされた紙製の商品タグが付されていたことが認められるものの、上記商品タグは紙製で取り外し可能であり、被告各商品本体に直接「PREGA」の表記がされたものではないことなどに照らすならば、被告各商品が販売される際に上記商品タグが付されていたことが被告標章の被告各商品における商品の出所表示機能・出所識別機能を否定する事由になるものとはいえない。
 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
(3) まとめ
 以上によれば、被告が被告標章が付された被告各商品を販売した行為は、本件登録商標に類似する商標の使用(商標法37条1号)に当たり、本件商標権の侵害とみなす行為に該当するものと認められる。
2 争点4(原告の損害額)について
(1) 商標法38条1項に基づく損害額について
ア 前記1(3)認定のとおり、被告による被告標章が付された被告各商品の販売行為は本件商標権の侵害とみなす行為に該当するところ、被告にはその侵害行為について過失があったものと推定されること(商標法39条において準用する特許法103条)からすると、被告は、少なくとも過失により、本件商標権の侵害行為を行ったものと認められるから、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきである。
イ 原告は、被告は被告各商品を合計2000着販売したこと、被告各商品と競合する原告各商品の1着当たりの利益額は1万2000円であることからすると、被告が被告各商品を販売して本件商標権を侵害したことにより商標法39条1項に基づいて算定される原告の損害額は、2400万円である旨主張する。
 しかしながら、原告主張の被告各商品の販売数量については、被告が平成23年6月12日から同年7月17日までの間に販売したことを自認する合計67着を超える数量の被告各商品を販売したことを認めるに足りる証拠はない。
 また、原告主張の原告各商品の1着当たりの利益額については、原告はその利益額を裏付ける証拠を何ら提出していない。
 したがって、原告の上記主張は、理由がない。
(2) 商標法38条2項に基づく損害額(予備的主張)について
ア 原告は、被告は、平成23年6月12日から同年7月17日までの間に、被告各商品を合計67着販売し、その販売価格は5着分が1万1550円、62着分が8085円であること、被告各商品の仕入価格は2650円であること、被告は、仕入価格以外の変動経費の主張をしていないことからすると、被告が被告各商品を販売したことにより受けた利益の額は38万1470円であり、商標法38条2項により原告は同額の損害を被ったものと推定される旨主張する。
 これに対し被告は、原告主張の被告各商品の販売数量、販売価格及び仕入価格を認めた上で、被告各商品の販売価格には、消費税額分が含まれており、この消費税額分は、事業者である被告にとって、消費者から預かり、国に納付すべきものであって、「利益」とはいえないから、被告の受けた利益の算定の基礎とすべきではない旨主張する。
 そこで検討するに、消費税は、事業者が国内において行った資産の譲渡等を課税対象とするものであるところ(消費税法4条1項)、「無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」については、その実質が資産の譲渡等の対価に該当するものとして、消費税が課税され(消費税課税基本通達5−2−5(2))、商標権を侵害された者が侵害者から受ける損害賠償額についても消費税が課税されることに照らすならば、商標法38条2項により損害額の推定の基礎となる侵害者がその侵害行為によって受けた利益の額について消費税額分を控除すべきものとした場合、侵害された者の得べかりし利益について消費税が実質的に二重に課される結果となり、その二重に課される消費税相当分の損害の填補を受けられないことになるので、妥当ではない。
 また、仮に侵害者がその侵害行為によって受けた利益の額について消費税額分を控除すべきものと解する余地があるとしても、本件においては被告が被告各商品の販売に関して現実に納付した消費税額についての立証はない(なお、消費税法30条1項により、仕入れに係る消費税額(課税仕入れに係る消費税額)は売上げに係る消費税額(課税標準額に対する消費税額)から控除されるので、納付すべき消費税額は、商品の販売価格のみからは定まらない。)。
 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
イ そうすると、被告が被告各商品を販売したことにより受けた利益の額は、原告の主張するとおり、38万1470円であると認められる。
【計算式】(1万1550円×5+8085円×62)−(2650円×67)=38万1470円
(3) まとめ
 以上によれば、商標法38条2項により推定される原告の損害額は、38万1470円と認められる
 したがって、原告は、被告に対し、商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として38万1470円及びこれに対する平成23年9月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる(なお、仮に、本件において、原告の被告に対する著作権侵害に基づく損害賠償請求が認められるとしても、当該請求に係る原告の損害額が上記金額を上回るものでないことは、既に説示したところから、明らかである。)。
3 結論
 以上によれば、原告の請求は、38万1470円及びこれに対する平成23年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、これを認容することとし、上記認容額を超える部分に係るその余の請求(著作権侵害に基づく損害賠償請求を含む。)は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 上田真史
 裁判官 石神有吾
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