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【事件名】パチンコ「CR桃太郎侍」事件
【年月日】平成24年7月19日
 東京地裁 平成23年(ワ)第35541号 許諾料返還請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年6月5日)

判決
原告 株式会社平和
同訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 大友良浩
同 隈部泰正
同 和氣満美子
同 森山航洋
被告 株式会社PTS
同訴訟代理人弁護士 向田誠宏
同 国枝俊宏
同 中島崇行


主文
1 被告は、原告に対し、1億6600万円及びうち1億5200万円に対する平成22年6月12日から、うち1400万円に対する平成23年11月10日から、各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、パチンコ遊技機等の開発、製造、販売に利用するための漫画・劇画(以下「プロパティ」という。)のライセンス契約4件を被告と締結した原告が、被告に対し、被告はライセンス対象のプロパティの利用を原告に許諾する全ての権原を有する旨保証しながら、これを有していなかったため、(1) うち3件のライセンス契約については、これを催告の上解除したと主張して、解除に基づく原状回復として、支払済みの許諾料合計1億5200万円及びこれに対する返還期限の翌日である平成22年6月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め、(2) その余のライセンス契約1件については、原告が別途プロパティの利用許諾料の支出を余儀なくされて同額の損害を被ったと主張して、債務不履行に基づく損害賠償として、1400万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年11月10日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。被告は、被告の有する漫画「桃太郎侍」の独占的商品化権侵害に係る損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁を主張して、原告の請求を争っている。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
(1) 当事者
ア 原告は、各種遊戯機械の開発、製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、漫画、劇画、アニメーション及びそのキャラクター等の著作物に関する商品化権の取得、利用、企画、開発、使用許諾、管理及び譲渡並びにこれらの仲介等を目的とする株式会社である。
(2) ライセンス契約の締結
 原告は、被告との間で、原告がプロパティをパチンコ遊技機等の開発、製造、販売に利用するために、以下の要旨で4件のライセンス契約(以下「本件各契約」といい、それぞれは、以下の順序に従い「本件契約1」のようにいう。)を締結し、被告から利用許諾を受けた。本件各契約において、被告は、原告に対し、契約期間中、契約に定める範囲で当該プロパティの利用を原告に許諾する正当な全ての権原を有しており、第三者の権利を一切侵害していないこと、原作者及び作画者等当該プロパティの著作者が著作者人格権を行使しないことをそれぞれ保証する旨約した。
 記
ア 「修羅雪姫」(原作者:A、作画者:B、C)
(ア) 契約締結日
 原契約 平成19年2月14日
 延長契約 平成21年4月10日
(イ) 対象遊技機
 原契約 パチンコ遊技機及び回胴式遊技機
 延長契約 パチンコ遊技機
(ウ) 利用許諾料及び支払期限
 原契約 平成19年3月末日限り6500万円
 延長契約 平成21年5月末日限り1300万円
(エ) 契約期間
 原契約 締結日から3年間
 延長契約 平成23年2月13日まで
イ 「子連れ狼」(原作者:A、作画者:D)
(ア) 契約締結日
 原契約 平成19年2月14日
 独占的利用許諾への変更契約(以下「変更契約」という。) 平成19年9月28日
 延長契約 平成21年4月10日
(イ) 対象遊技機
 原契約及び変更契約 パチンコ遊技機及び回胴式遊技機
 延長契約 パチンコ遊技機
(ウ) 利用許諾料及び支払期限
 原契約及び変更契約 平成19年3月末日限り4000万円、同年10月末日限り4000万円
(エ) 契約期間
 原契約及び変更契約 平成19年9月1日から3年間
 延長契約 平成24年2月末日まで
ウ 「花平バズーカ」(原作者:A、作画者:E)
(ア) 契約締結日
 平成19年6月18日
(イ) 対象遊技機
 パチンコ遊技機
(ウ) 利用許諾料及び支払期限
 平成19年7月6日限り3200万円
(エ) 契約期間
 契約締結日から3年間
エ 「弐十手物語」(原作者:A、作画者:F)
(ア) 契約締結日
 平成19年6月18日
(イ) 対象遊技機
 パチンコ遊技機
(ウ) 利用許諾料及び支払期限
 平成19年7月6日限り4000万円
(エ) 契約期間
 契約締結日から3年間
(3) 利用許諾料の支払
 原告は、被告に対し、本件各契約に係る利用許諾料を各支払期限までに支払った。
(4) 被告の債務不履行
 被告は、本件各契約に係る各プロパティの作画者から何らの許諾も得ていなかった。
(5) 本件契約2ないし4の催告解除
 原告は、平成22年4月23日、被告に対し、本件契約2ないし4の各作画者(D、E、F)から利用許諾を得て、同月末日までに利用許諾書を原告に持参するよう催告したが、被告がこれを履行しなかったので、同年6月4日、被告に対し、本件契約2ないし4を解除する旨の意思表示をするとともに、支払済みの利用許諾料合計1億5200万円を同月11日までに返還するよう求めた。
(6) 本件契約1の債務不履行に基づく損害の発生
 本件契約1に係るプロパティの作画者Bは昭和61年1月11日に死亡し、同人の著作権はその妻Gが承継していたが、被告がGから利用許諾を受けることができなかったので、原告は、平成22年7月20日にGから利用許諾を受け、同月30日、同人に利用許諾料1400万円を支払った。
(7) 被告は、後記2の4億2000万円の損害賠償請求権を有すると主張して、平成24年4月24日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、これを自働債権とし、原告の請求債権を受働債権として、対当額において相殺する旨の意思表示をした。
2 争点
 被告が、原告に対し、原告による漫画「桃太郎侍」の独占的商品化権の侵害に基づく損害賠償請求権を有するか否か。
(被告の主張)
(1) 小説「桃太郎侍」(以下「本件小説」という。)の著作権は、著作者であるHが有していたが、その死亡によりその子であるIが承継した。
(2) Iは、平成16年5月23日、本件小説を漫画化する権利をAに許諾した。
(3) Aは、本件小説を利用して漫画を原作し、作画者Jと共同して二次的著作物である漫画「桃太郎侍」(以下「本件漫画」という。)を制作した。
(4) 被告は、平成16年8月3日、Aから、同人の著作物をパチンコ等の分野で商品化することを独占的に許諾され、同年10月初めころには、Jから、本件漫画をパチンコ等の分野で商品化することを許諾された。
(5) 原告は、被告の許諾を得ることなく、パチンコ遊技機「CR桃太郎侍」(以下「本件パチンコ遊技機」という。)に本件漫画を使用して、本件漫画に関する被告の独占的商品化権若しくは独占的に商品化して得られる利益を侵害した。すなわち、本件パチンコ遊技機の液晶画面に表示される登場人物のうち、実写で構成されているのは約30%であり、漫画で構成されているのが約70%であるところ、漫画のキャラクターは、絵という静止的なものではなく、それ自体生命を持った活動的存在であって、この漫画のキャラクターの名前と図画(姿態)が重要なのであるから、「桃太郎侍」の名前で図画を利用して商品化することが問題であり、本件のように図画が本件漫画の図画と完全に違っていても、本件漫画の漫画キャラクターを侵害するものである。
(6) 原告は、本件パチンコ遊技機を、1台35万円で、少なくとも1万2000台販売した。被告の独占的商品化権のコミッションは10%であるから、被告は、原告の侵害行為により、4億2000万円の損害を被った。
(算式)
 350,000円×12,000台×10%=420,000,000円
(原告の認否・反論)
(1) (1)のうち、本件小説の著作権をその著作者Hが有していたこと及び同人が死亡したことは認め、その余の事実は知らない。(2)の事実は知らない。(3)の事実については特に争わない。(4)のうち、Jに関する部分は、本件漫画のキャラクター等をパチンコ等の商品に使用しても、著作権侵害とはならないという法的地位をJから認められたという趣旨であれば特に争わないが、その余の事実は知らない。(5)及び(6)の各事実は否認する。
(2) 被告が主張する商品化権は、そもそもその内容が明らかでないが、それが独占的なものであるか否かにかかわらず、単に被告が本件漫画に関するキャラクター等をパチンコ等の商品に利用することができる権原を作者らから付与され、これらを利用しても、作者らから著作権侵害の責任を問われないという法的地位、すなわち、被告と作者らとの利用許諾関係という債権関係に基づく権原を意味するに過ぎず、被告がこれに基づいて第三者に対して何らかの禁止権を有するなどということはない。
第3 当裁判所の判断
1 争点につき検討する。
(1) 被告は、原告が、本件パチンコ遊技機を製造販売することにより、本件漫画に関する被告の独占的商品化権若しくは独占的に商品化して得られる利益を侵害した旨主張する。かかる主張は、上記権利ないし利益の内容を含めて、その趣旨が判然としないが、これをもって、本件パチンコ遊技機の液晶画面の表示等が、本件小説の二次的著作物である本件漫画の著作権、特に複製権・翻案権を侵害しているという趣旨であると善解することができるとしても、被告は、本件パチンコ遊技機の液晶画面の表示等が本件漫画に依拠したものであることについて何ら具体的な主張立証をしないばかりか、本件漫画の表現と上記表示における表現とが完全に違っていることを自認しているから、本件パチンコ遊技機を製造販売することが本件漫画の複製権・翻案権を侵害するとは認められない。
(2) また、被告は、本件漫画に登場する「桃太郎侍」などのいわゆるキャラクターが著作物であるかのような主張もするが、本件漫画を離れ、キャラクター自体を著作物と認めることはできないというべきであるから(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)、被告の上記主張は失当というほかない。
(3) その他、本件全証拠によっても原告の被告に対する不法行為の成立を認めることはできない。
2 以上のとおり、被告が主張する自働債権の発生を認めることができないから、被告の相殺の抗弁は理由がない。
3 よって、原告の請求は全て理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 三井大有
 裁判官 志賀勝
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