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【事件名】韓流スターDVD販売事件
【年月日】平成24年7月11日
 東京地裁 平成22年(ワ)第44305号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年4月25日)

判決
原告 株式会社CRABTE
同訴訟代理人弁護士 濱田広道
同 黒澤圭子
同 菅野典浩
同 横手聡
被告 株式会社ポニーキャニオン
同訴訟代理人弁護士 加藤君人
同 片岡朋行
同 大川原紀之


主文
1 被告は、別紙物件目録記載1ないし4の商品を販売、頒布してはならない。
2 被告は、原告に対し、24万2545円及びこれに対する平成23年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを5分し、その3を原告の負担とし、その2を被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項に同旨
2 被告は、原告に対し、679万2500円及びこれに対する平成23年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、別紙物件目録記載1ないし4のDVD商品(以下、パッケージを含めたDVD商品全体を「本件商品1」のようにいい、本件商品1ないし4を合わせて「本件商品」という。)の映像(本件商品のDVDに固定された一連の映像であり、音声・音楽・字幕を含む。以下「本件映像」という。)の著作権を有すると主張する原告が、被告に対し、著作権法112条1項に基づき、本件商品の販売、頒布の差止めを求めるとともに、民法709条、著作権法114条2項又は3項に基づき、損害617万5000円及び弁護士費用61万7500円の合計679万2500円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成23年6月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提となる事実(争いのない事実以外は、証拠等を項目の末尾に記載する。書証番号は枝番を含む。)
(1) 当事者
 原告は、大韓民国(以下「韓国」という。)において設立された株式会社であり、映像物製造等を業としている(弁論の全趣旨)。
 被告は、映像・音楽ソフトメーカーであり、各種パッケージソフト(CD、DVD等)及びデジタルコンテンツの企画、制作、販売等を業としている。
(2) 本件商品の製作
 原告は、平成19年6月7日、株式会社MBCプロダクション(以下「MBC」という。)との間で、韓国の俳優・女優(いわゆる韓流スター)が出演した韓国のトーク番組である「パク・サンウォンの美しいTV顔」と題するテレビプログラム(以下「本件プログラム」という。)を利用したDVD映像を製作、販売する契約(以下「本件プログラム利用契約」という。)を締結した。
 本件プログラム利用契約により、MBCは、原告に対し、本件プログラムを利用して本件映像を製作、複製し、日本国内で頒布する権利を独占的に利用許諾した(甲31)。
 原告は、上記契約に基づき、本件映像及びそれを収録した本件商品を製作した。
(3) 本件販売契約
 原告は、株式会社ジャパンコンテンツイニシアティブ(現商号:株式会社ラルクコーポレーション。以下「JCI」という。)との間で、平成19年9月6日、本件商品を1枚当たり1480円、最低購入保証額5920万円(4万枚分)で販売する旨の販売契約(以下「本件販売契約」という。)を締結した(甲5)。
 本件販売契約により、原告は、JCIに対し、本件商品を日本国内で独占的に頒布すること及びJCIが被告に対し独占的頒布を再許諾することを許諾した(甲5)。
(4) 本件頒布契約
 被告は、本件販売契約に先立ち、JCIとの間で、平成19年8月31日、本件商品の頒布契約(以下「本件頒布契約」という。)を締結した。
 本件頒布契約により、JCIは、被告に対し、本件商品を日本国内で独占的に頒布することを許諾した(甲4)。
(5) 本件販売契約の解除
 原告は、JCIに対し、平成20年4月17日にJCIに到達した同月16日付け書面をもって、本件販売契約を解除する旨の意思表示をした(以下「本件解除」という。)。同書面と同一内容の書面が、被告にも参照送付され、同月17日に被告に到達した。(甲16、17、32)
(6) 被告による本件商品の販売
 被告は、平成20年2月20日以降、JCIを通じて購入した本件商品を販売している。
3 争点
(1) 原告の著作権の有無
(2) 本件解除の有効性
(3) 原告の頒布権は消尽しているか。
(4) 被告は解除前の第三者として保護されるか。
(5) 被告の故意過失
(6) 損害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(原告の著作権の有無)について
(原告の主張)
ア 本件映像は映画の著作物であるところ、本件映像の企画・製作の経緯や本件映像のために多大な金銭・労力を負担したことに鑑みると、原告は本件映像の「全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条)として、本件映像の単独著作者である。
イ また、原告は、本件映像の「製作に発意と責任を有する者」であるから本件映像の映画製作者(著作権法2条1項10号)であり、原著作者であるMBCは、原告に対し映画の著作物である本件映像の製作に参加することを約束していたから、原告が本件映像につき単独著作権を有し、MBCは著作権を有しない(同法29条1項)。
ウ 仮に寄与割合を明らかにする必要があるとすれば、本件プログラムを原著作物とする二次的著作物である本件映像についてのMBCと原告の寄与割合は50対50である。
(被告の主張)
ア 本件プログラムは映画の著作物であるとしても、本件映像はこれと別個に「映画の著作物」性は認められない。
 本件映像は本件プログラムの単なる複製品にすぎず、二次的著作物として本件プログラムとは別に著作権の対象となるものではない。
イ 原告は、プロデューサー、監督、ディレクター等のいわゆる「モダン・オーサー」を念頭においた規定である「全体的形成に創作的に寄与した者」に当たらない。
 また、原告が本件映像製作のための経済的リスクを全て負担したとはいえないし、本件映像の権利義務の主体であるともいえないから、原告は「製作に発意と責任を有する者」にも当たらない。
ウ 本件映像に独自の著作物性がない以上、原告の寄与割合も存在しないが、原告に本件映像の創作に対する寄与部分が存在するとしても1パーセント未満である。
(2) 争点2(本件解除の有効性)について
(原告の主張)
ア 本件販売契約10条1項によれば、JCIが本件販売契約に定めた条項のいずれか一つにも違反した場合、原告は相当の期間を定めて催告後に本件販売契約を解除することができることとされていた。
イ 本件販売契約7条によれば、JCIは本件商品を最低5920万円分(4万枚分)購入し、契約締結後10営業日以内に1184万円、本件商品が全て納入されたことを確認した後、平成20年1月末日までに4736万円を原告に支払うこととされており、JCIは、平成19年9月21日、原告に1184万円を支払った。
ウ 原告とJCIは、平成19年12月7日、本件商品の発注枚数を4万枚から3万7000枚(5476万円)に変更する旨合意し、原告は、平成20年1月25日、本件商品3万7000枚をJCIに納品した。
エ よって、JCIは代金残額4292万円を平成20年1月末日までに支払うべきところ、JCIは、これを支払わず、同年2月8日、本件商品に不良品があると主張した。
オ そこで、原告は、JCIに対し、本件商品の不良品の数量の連絡を求め、不良品がある場合はその全部を交換する旨申し入れたが、JCIは、本件商品に不良品があることの資料を何ら示さないまま、原告に対して損害賠償を請求する旨を通知し、本件商品の代金を支払わない姿勢を明確にした。
カ 原告は、平成20年4月17日にJCIに到達した同月16日付け書面(甲16)をもって、JCIの残代金未払を理由として本件販売契約を解除する旨の意思表示をした。
 上記オのような状況においては、原告がJCIに相当期間を示して残代金の支払を催告してもJCIが履行する可能性はなかったといえるから、無催告での解除が可能な状態になっていたと解され、上記無催告解除は有効である。
 仮に催告が必要であったとしても、原告は、平成20年3月18日付け書面(甲14の2)をもって、JCIに対し、残代金の支払を求める催告をしており、本件解除は相当期間経過後の解除の意思表示であるともいえる。
 したがって、相当期間の経過を待たず、原告からJCIに対する解除の意思表示が到達した日である平成20年4月17日に解除の効力が発生し、被告は本件商品を販売する権限を遡及的に失い、解除の前後を問わず、被告による本件商品の頒布行為は原告の著作権を侵害することになる。
(被告の主張)
ア 原告が解除通知であると主張する書面(甲16)は本件販売契約終了の意思が明確に表示されているとは言い難く、解除の意思表示に当たらない。
イ 本件販売契約においては催告解除しか認められておらず、無催告解除は認められていない。
 また、JCIは原告の責任を指摘していたが、本件商品の代金を払わない姿勢を明確にしたとまではいえない。
 本件販売契約の解除には事前に催告が必要であるところ、本件においてはこれが行われていないから、本件解除は無効である。
(3) 争点3(原告の頒布権は消尽しているか)について
(原告の主張)
ア 最高裁判所平成14年4月25日第一小法廷判決(中古ゲームソフト事件判決)は、公衆に提示することを目的としない映画の著作物の頒布権は、需要者の購入(公衆への譲渡)があった段階で消尽するとしているのであって、著作権者が「著作権者から頒布の許諾を得た者」に譲渡することによって消尽すると判示しているわけではない。
イ 本件商品がJCI、被告に譲渡されただけでは当然に公衆が購入することにはならないので、原告の頒布権について消尽を認めないとしても、取引の安全ないし市場の円滑な流通確保を害することにはならない。
ウ JCIが本件商品代金の一部を支払わず、本件販売契約が解除されたことにより、原告は譲渡の適正な対価を取得していないので、原告が頒布権を行使しても二重に利得を得ることにはならず、かかる場合にまで消尽を認めることは著作権者の保護に欠け、実質的に不合理な結論となる。
 本件商品の取引全体の実態を踏まえると、消尽論の根拠となる著作権保護と社会公共の利益(取引の安全、市場の円滑な流通確保など)との調和という趣旨は妥当せず、原告からJCIへの譲渡によって原告の頒布権が消尽するものではない。
エ JCIは債務不履行という違法な状態を引き起こしていたのであるから、原告からJCIに対して適法に譲渡がされたとはいえない。
(被告の主張)
 仮に、原告が映画の著作物たる本件映像の複製物について頒布権を有していたとしても、原告の頒布権は、原告からJCIに対する本件商品の譲渡により消尽している。最高裁平成14年判決は、映画の著作物の複製物の頒布権消尽の要件として、「いったん適法に譲渡されたこと」を要求するのみで、「公衆への譲渡」まで要求していない。
(4) 争点4(被告は解除前の第三者として保護されるか)について
(原告の主張)
ア 本件商品の企画・販売において、JCIは実質的には被告の窓口としての役割を果たしていたにすぎず、被告はJCIと別個の新たな権利関係を取得した者とはいえず、民法545条1項ただし書の「第三者」に当たらない。
イ 原告とJCIとの間の本件販売契約は、被告に対し独占的頒布権を付与する限度において「第三者のためにする契約」であったのであり、原告はJCIに対する抗弁をもって被告に対抗することができる(民法539条)。
ウ 被告は、原告に対する債権的な権利(本件映像に対する著作権を行使しないように要求する権利)を取得していたにすぎないから、民法545条1項ただし書の「第三者」にあたらない。
(被告の主張)
 被告は、解除前に、本件販売契約の目的物である本件商品についてJCIと本件頒布契約を締結し、本件商品の引渡しを受けているから、民法545条1項ただし書の「第三者」に当たり、原告は本件解除により被告の権利を害することはできず、原告の被告に対する損害賠償請求は認められない。
(5) 争点5(被告の故意過失)について
(原告の主張)
 被告には原告の著作権を侵害したことにつき故意又は過失がある。
(被告の主張)
 本件解除前に被告が本件商品を頒布した行為については、被告に権利侵害についての故意過失が存在しない。
(6) 争点6(損害)について
(原告の主張)
ア 被告の得た利益による推定(著作権法114条2項)
 被告はJCIから1枚1880円で仕入れた本件商品を1枚3800円(消費税込み3990円)で販売していたから、定価と仕入額の差額は1枚当たり1920円である。被告が本件商品を販売したことによる1枚当たりの利益は、定価3800円の5パーセントに相当する190円を下回らない。
 被告がJCIから引渡しを受けた本件商品は合計3万2500枚であるから、3万2500枚全てを売却したとすれば、被告の受けた利益の額は617万5000円となり、同額が原告の損害と推定される。
イ 使用料相当額による推定(著作権法114条3項)
 本件映像に対する著作権を行使させるにつき受けるべき金銭の額は、1枚当たり本件商品の定価3800円の5パーセントに相当する190円を下らない。
 被告が3万2500枚全てを頒布したとすれば、原告の受けるべき使用料相当額は617万5000円を下らず、同額が原告の損害と推定される。
ウ 弁護士費用
 弁護士費用は損害額の1割である61万7500円である。
エ 遅延損害金の起算点
 被告は、平成23年6月27日時点において本件商品の在庫はほとんどないことを認めていたのであるから、被告は、遅くとも平成23年6月27日までに、本件商品3万2500枚のうちほぼ全てを販売し、利益を上げたといえ、遅延損害金の起算日は、被告が本件商品の販売によって利益を上げた日の後の日である平成23年6月27日である。
(被告の主張)
ア 被告は、JCIから本件商品3万2500枚を単価1880円で購入し、その仕入代金は合計6110万円である。
イ 被告は、平成20年2月20日から同年4月16日までに合計1万3517枚の本件商品を販売し、同日までに、うち67枚が返品された。
ウ 被告は、平成20年4月17日から平成23年11月20日までに合計4049枚の本件商品を販売し、同日までに1728枚が返品された。
エ 本件解除の翌日である平成20年4月17日から平成23年11月20日までの本件商品の売上は合計1158万8100円、返品金額が492万4800円であり、同期間の本件商品の正味の売上金額は666万3300円である。
オ 本件映像は、本件プログラムをほとんどそのままDVDとしたにすぎず、原告の創作に対する寄与度はほとんど無に等しいから、使用料相当額が5%という高率になることはあり得ない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の著作権の有無)について
(1) 準拠法
ア 原告は外国法人であるため、本件差止請求及び損害賠償請求の準拠法についてまず判断する。
イ 著作権に基づく差止請求については、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)により、「保護が要求される同盟国の法令」の定めるところによることとなり、我が国の著作権法が適用される。
ウ 著作権侵害に基づく損害賠償請求については、「法の適用に関する通則法」17条により、不法行為地すなわち被告が本件商品を頒布した地の法である日本法が適用される。
エ 上記各請求の先決問題としての本件解除の有効性については、「法の適用に関する通則法」7条により、当事者が契約当時に選択した地の法による。
 本件販売契約に準拠法の定めはないが、本件販売契約上、本件商品は原告が製造し独占的に日本国内に輸入し、被告に対して独占的に供給し、被告が被告の頒布ルートを通して日本国内において独占的に頒布することとされていたこと(甲5・1条)、専属的合意管轄裁判所として東京簡易裁判所又は東京地方裁判所が指定されていること(甲5・15条)、本件販売契約当時既に締結され、原告及びJCIもその内容を認識していたと認められる本件頒布契約においては、準拠法として「日本国著作権法並びにその他の日本法」が明示されていること(甲4・20条)などを総合すると、本件販売契約締結当時、原告及びJCIは、本件販売契約の準拠法を日本法とすることを黙示に選択していたものと認められる。
 したがって、本件解除の有効性についても、日本法が適用される。
(2) 本件映像の著作者には争いがあるが、その著作者がMBCであれ原告であれ、ベルヌ条約の同盟国である韓国の国民であるから、いずれにせよ、本件映像はベルヌ条約により我が国が保護の義務を負う著作物であり、著作権法6条3号により、著作権法の保護を受ける著作物である。
(3) 原告は、映画の著作物である本件映像についての著作権を主張し、映画の著作物に当たらない本件商品のパッケージについては著作権を主張していないものと解される。
 本件映像は、本件プログラムにつき、原告が、原告の費用において、日本語字幕を付け、音楽を差し替え、17名の韓国人俳優・女優の出演した回を選択し、本件映像に収録すべき場面を選択して編集し、DVD化したものである(甲5、33ないし36、39ないし43)。
 本件映像からは、MBCが著作権を有する本件プログラム、すなわち、韓国で放映されたトーク番組「パク・サンウォンの美しいTV顔」の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。
 そして、原告の行った作業には、日本語字幕の作成、差し替えた音楽の選択、収録回の選択、収録場面の選択などにおいて原告の思想が創作的に表現されていると認められるから、本件映像は、MBCが著作権を有する本件プログラムを原著作物とする二次的著作物と認められる。
 そうすると、本件プログラムの二次的著作物である本件映像につき、原告が本件プログラムに新たに加えた創作的部分については、映画の著作物である本件映像の映画製作者であると認められる原告が単独で著作権を有しているが、本件プログラムと共通しその実質を同じくする部分については、原告の著作権は及ばないというべきである。
(4) 原告は、@映画の著作物である本件映像の全体的形成に創作的に寄与した者は原告であるから、原告が本件映像の単独著作者である(著作権法16条)、A原告は本件映像の映画製作者であり、MBCは本件映像の製作に参加することを約束していたから、原告が単独著作権者である(同法29条1項)、などと主張するところ、原告の主張が、MBCが原著作物の著作権者として本件映像に有している権利を否定するものであれば、採用できない。
 本件プログラム利用契約の内容をみても、「『乙』(注:原告)が『商品』(注:本件商品)の制作のために『甲』(注:MBC)からの許諾を受けて別途に製作した動画及びオーディオファイルなど関連映像著作物に対する著作権及び著作隣接権は『甲』と『乙』にある(50:50)」(甲31・4条2項)、「『商品』の権利問題において『甲』は『プログラム』(注:本件プログラム)の著作権について責任を負い、『乙』は『商品』に使用された韓国外音楽に対して責任を負う。映像内肖像権は映像特例法に準じ、映像特例法を超過する範囲の肖像権問題が発生した時は『甲』と『乙』が共同で責任を負う」(同6条4項)などとされており、MBCは、本件映像にMBCの著作権が及ぶことを前提としていたものと考えられる。現に、原告も、本件商品にMBCの名称を表示している(甲40ないし43)。
(5) 他方、被告は、原告の行った作業に創作性はなく、本件映像は本件プログラムの単なる複製品であって原告は著作権を有しないと主張するが、原告の行った作業に創作性が認められることは前記のとおりであるから、被告の主張は採用できない。
(6) 本件映像は、MBCが著作権を有する本件プログラムを原著作物とし、原告がDVD化して翻案した二次的著作物であるところ、本件映像に対するMBCと原告の寄与割合は、本件映像におけるMBC寄与部分と原告寄与部分の割合、本件プログラム利用契約4条2項の規定(上記(4))などを考慮すると、50対50と認めるのが相当である。
2 争点2(本件解除の有効性)について
(1) 末尾に掲記した証拠によれば、次の各事実が認められる。
ア 本件販売契約によれば、JCIが本件販売契約に定めた条項のいずれか一つにも違反した場合、原告は相当の期間を定めて催告後に本件販売契約を解除することができることとされていた(甲5・10条1項)。
イ 本件販売契約によれば、JCIは本件商品を最低5920万円分(4万枚分)購入し、契約締結後10営業日以内に1184万円、本件商品が全て納入されたことを確認した後、平成20年1月末日までに4736万円を、原告に支払うこととされていた(甲5・7条)。
ウ JCIは、平成19年9月21日、原告に1184万円を支払った(弁論の全趣旨)。
エ 原告とJCIは、平成19年12月7日、本件商品の発注枚数を4万枚から3万7000枚(5476万円)に変更する旨合意した(甲7、弁論の全趣旨)。
オ 原告は、平成20年1月29日頃までに、本件商品3万7000枚をJCIに引き渡した(甲8、11、39)。
カ JCIは、平成20年2月8日、本件商品に「大量に不良品」がある旨原告側に連絡し、平成20年2月12日、「概算約1000枚」の不良品が出ている旨を原告に通知した(甲11、13)。
 原告側で確認したところ、本件商品を包んでいるビニール(シュリンク)が破損したものやパッケージに赤いゴミが混入していたものが3枚あったが、DVD自体に不良品はなかった(甲12、39)。
キ 原告は、平成20年3月12日、JCIに対し、本件商品の不良品の数量の連絡を求め、不良品がある場合はその全部を交換する旨通知した(甲14の1)。
 原告は、平成20年3月18日、JCIに対し、同月20日までに返事がなければMBCで直接本件商品に対する取引中止及び著作権破棄に関する手続を進行するようになる旨通知した(甲14の2)。
ク JCIは、平成20年3月28日、原告に対し、原告との「今後の取引が継続不可能」であること、原告に合計4452万0094円の賠償を求めること、「現在の返品数」は合計2860枚であることなどを通知した(甲15)。
ケ 原告は、JCIに対し、平成20年4月16日、「貴社ではDVDが販売されている現在まで弊社にDVD契約代金を支払っていないので弊社は貴社がこれ以上支払い意志がないことに見做してDVDの著作権及び肖像権一体を破棄するところです。」との内容を記載した同日付け書面を送付し、同書面は、同月17日、JCIに到達した(甲16、17、32)。
(2) 上記事実によれば、原告は、平成20年2月8日までに本件商品3万7000枚をJCIに引き渡しており、うち3枚のシュリンクやパッケージに瑕疵があったことは認められるが、それ以上に不良品が存在していたことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、JCIは、少なくとも債務の本旨に従った履行のあった3万6997枚に対応する残代金4291万5560円(1480円×3万6997枚−1184万円)を原告に支払うべき義務があったというべきである。
(3) 次に、本件販売契約においては、催告を要する解除事由と無催告での解除事由とが分けて定められており、本件販売契約上の義務違反は催告を要する解除事由となっている(甲5・10条1項、3項)。
 しかし、催告をしたとしても相手方が催告に応ずる意思のないことが明らかな場合には、催告をしないで直ちに契約を解除することができるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、JCIは、上記(1)クの通知において、原告との「今後の取引が継続不可能」であり、原告に合計4452万0094円の賠償を求める旨主張し、催告をしたとしても催告に応じて残代金を支払う意思はないことが明らかであったから、原告は、本件販売契約10条1項や民法541条の文言にかかわらず、催告なくして本件販売契約を解除することが可能であったというべきである。
(4) 上記(1)ケの書面には、「DVDの著作権及び肖像権一体を破棄する」旨記載されており、本件販売契約を終了させる、すなわち本件販売契約を解除する旨の意思表示であったと認められる。
(5) 上記(1)ケの書面が平成20年4月17日にJCIに到達したことは上記認定のとおりであるから、本件販売契約は、同日、原告の解除により無効となり、本件販売契約による原告からJCIへの頒布許諾も無効となったものである。
3 争点3(原告の頒布権は消尽しているか)について
 本件映像のように公衆に提示することを目的としない映画の著作物については、当該著作物の頒布権は、いったん適法に譲渡(以下「第一譲渡」という。)されるとその目的を達成したものとして消尽し、その後の再譲渡にはもはや著作権の効力は及ばないと解されているところ(最高裁判所平成14年4月25日第一小法廷判決・民集56巻4号808頁)、本件において、原告からJCIに対する本件販売契約が債務不履行により有効に解除されたことは前記のとおりであるから、適法な第一譲渡があったとはいえず、本件において消尽を論ずる余地はない。
4 争点4(被告は解除前の第三者として保護されるか)について
(1) 民法545条1項ただし書にいう「第三者」とは、解除前において契約の目的物につき別個の新たな権利関係を取得した者であって、対抗要件を備えた者をいうと解される。
(2) 被告は、解除前にJCIから頒布許諾を受けていたものではあるが、原告からJCIに対する頒布許諾と、JCIから被告に対する頒布許諾とは別個の債権的な法律関係であるから、被告が解除された本件販売契約の目的物につき新たな権利関係を取得した者ということはできず、また被告の権利は対抗力を備えたものでもないから、いずれにせよ被告が民法545条1項ただし書にいう「第三者」として保護される余地はない。なお、原告は、原告とJCIとの間の契約が、第三者(被告)のためにする契約であったと主張するが、甲4、5の各契約内容に照らし、採用することができない。
(3) したがって、被告は、本件解除によりJCIが頒布権原を失ったことにより、JCIからの利用許諾に基づく頒布権原を原告に対抗することができなくなり、被告は原告の著作物を無許諾で頒布したということになる。
5 争点5(被告の故意過失)について
(1) 本件販売契約が事後的に効力を失ったとしても、本件解除前に被告が本件商品を頒布した時点においては、本件販売契約及び本件頒布契約が有効に存在していたのであるから、被告が頒布権原を有するものと認識して本件商品を販売したことに落度はなく、本件解除前の頒布行為については被告に故意過失は認められない。
(2) 本件解除後の頒布行為については、被告は、平成20年4月17日、原告からJCIに対する本件解除の通知(甲16)の参照送付を受けていた(争いがない。)のであるから、被告は、同日、本件販売契約が解除されたことを認識し、少なくとも同通知により本件販売契約が解除された可能性があることを認識したというべきであり、その後の被告の頒布行為には少なくとも過失があったと認められる。
6 争点6(損害)について
(1) 著作権法114条2項に基づく推定について
ア 原告は自ら日本国内で頒布を行っていたものではないが、映画の著作物である本件映像の収録された本件商品をJCIに販売していたものであるから、著作権法114条2項適用の基礎がないとはいえない。
イ 被告の過失が認められる平成20年4月17日以降に被告が頒布した本件商品の枚数は、本件商品1につき468枚(売上960枚、返品492枚)、本件商品2につき625枚(売上1055枚、返品430枚)、本件商品3につき631枚(売上1060枚、返品429枚)、本件商品4につき597枚(売上974枚、返品377枚)の合計2321枚と認められる(乙13、14)。
ウ 被告のJCIからの仕入額は1枚当たり1880円(消費税別)、売上金額は、消費者への直接販売については1枚当たり3800円(消費税別)、卸販売につき1枚当たり2850円(消費税別)と認められ(弁論の全趣旨)、粗利益は1枚当たり970円から1920円である。
 被告の変動経費は明らかでないが、被告の得た利益は、少なくとも原告の主張する1枚当たり190円を下らないと認めるのが相当である。
エ そうすると、本件解除後の頒布により被告が得た利益は、2321枚×190円=44万0990円である。
オ 本件映像は二次的著作物であり、原告の寄与は50パーセントと認められるから、原告の損害は、上記被告の得た利益の50パーセントである22万0495円と推定される。
(2) 著作権法114条3項に基づく推定について
ア 被告の過失が認められる平成20年4月17日以降に、被告が頒布した本件商品の枚数は、後に返品された分を含めると、合計4049枚である(乙13、14)。
イ 本件商品の頒布により被告が得た利益が1枚当たり190円と認められること、本件映像は二次的著作物であり、原告の寄与は50パーセントであることなど、本件に現れた諸事情を考慮すると、本件商品の頒布につき原告がその著作権の行使につき受けるべき使用料相当額は、1枚当たり50円を下らないと認めるのが相当である。
ウ そうすると、頒布時点で使用料相当額の損害が発生し、その後返品があっても損害は減少しないと考えたとしても、原告の受けるべき使用料相当額は、4049枚×50円=20万2450円と推定され、上記(1)の推定額を上回るものではない。
(3) 弁護士費用としては、上記損害の10パーセントに当たる2万2050円を相当と認める(損害額合計24万2545円)。
(4) 遅延損害金の始期について
ア 原告は、平成23年6月27日から遅延損害金を請求しているところ、平成23年11月度(平成23年11月20日締め分)まで本件商品の売上出庫は存在するから(乙13、14)、平成23年6月度(平成23年6月20日締め)までの売上によって生じた損害と、同年7月度から11月度までの売上によって生じた損害とに分けて、平成23年6月27日までに生じていた損害の額を検討することとする。
イ 平成20年4月17日から平成23年6月20日までに頒布された本件商品の枚数は、本件商品1につき527枚(売上957枚、返品430枚)、本件商品2につき671枚(売上1052枚、返品381枚)、本件商品3につき648枚(売上1058枚、返品410枚)、本件商品4につき614枚(売上964枚、返品350枚)の合計2460枚となり(乙13、14)、これに1枚当たりの利益190円、原告の寄与度50パーセントを乗じると、平成23年6月20日までに生じていた損害は23万3700円と推定される。
ウ 平成23年6月21日から同年11月20日までに頒布された本件商品の枚数は、本件商品1につきマイナス59枚(売上3枚、返品62枚)、本件商品2につきマイナス46枚(売上3枚、返品49枚)、本件商品3につきマイナス17枚(売上2枚、返品19枚)、本件商品4につきマイナス17枚(売上10枚、返品27枚)の合計マイナス139枚となり(乙13、14)、1枚当たりの利益190円、原告の寄与度50パーセントを乗じるとマイナス1万3205円となり、平成23年6月21日から同年11月20日までに生じた赤字により、被告の得た利益から1万3205円が減じられることになる。
エ そうすると、結局、上記(1)オで推定した22万0495円の損害は、すべて平成23年6月20日までに生じていたことになり、上記(3)で認めた弁護士費用相当額2万2050円の損害も同日までに生じていたものと認められる(侵害行為のうち18枚の売上は平成23年6月21日以降に行われているが、これらは最終的に損害に結びつかなかった、ということになる。)。
 したがって、損害額合計24万2545円については、すべて原告の請求する平成23年6月27日から遅延損害金が発生するものと認める。
7 原告は本件商品の販売・頒布の差止めを求めているところ、被告のもとには本件商品の在庫が存在し(乙10、11)、被告により販売・頒布され原告の頒布権が侵害されるおそれがあるから、原告は、著作権法112条1項に基づき、本件商品の販売・頒布の差止めを求めることができる。
8 以上によれば、原告の請求は、被告に対し販売・頒布の差止めを求め、損害額合計24万2545円及びこれに対する不法行為による損害発生の後の日である平成23年6月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 西村康夫
 裁判官 森川さつき
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