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【事件名】邦画3作品の格安DVD事件(2)
【年月日】平成24年5月9日
 知財高裁 平成24年(ネ)第10013号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (一審・東京地裁平成20年(ワ)第11220号、差戻し前二審・知財高裁平成21年(ネ)第10050号、
 三審・最高裁(三小)平成22年(受)第1884号)
 (口頭弁論終結日 平成24年4月25日)

判決
控訴人 株式会社コスモ・コーディネート
被控訴人 東宝株式会社
同訴訟代理人弁護士 中村稔
同 辻居幸一
同 相良由里子
同 小和田敦子
同 水沼淳


主文
1 原判決中、金銭請求に係る控訴人敗訴部分に関する本件控訴を棄却する。
2 上記部分についての控訴申立て以後に生じた訴訟費用は、全て控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、金銭請求に係る控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
3 上記部分についての訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人(以下「1審原告」という。)が、控訴人(以下「1審被告」という。)に対し、1審被告が原判決別紙被告商品目録記載の各商品(以下「本件商品」という。)を輸入し、頒布する行為について、別紙映画目録記載の各映画(以下、順に「本件映画1」などといい、本件映画1ないし3を「本件各映画」という。)の著作権を侵害すると主張して、@著作権法112条に基づき、本件商品の製造、輸入及び頒布の差止め並びに本件商品及びその原版の廃棄を求めるとともに、A民法709条、著作権法114条3項に基づき、損害賠償金1350万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 訴訟の経過
(1) 第1審は、上記1@の請求を認容し、上記1Aのうち、108万円及びこれに対する平成20年5月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、その余を棄却する旨の判決を言い渡した(東京地方裁判所平成20年(ワ)第11220号)。
(2) 1審被告がこれを不服として控訴したところ、差戻前控訴審は、上記1@に係る控訴を棄却し、上記1Aについては、1審被告に過失がないとして第1審判決を取り消し、上記部分に係る1審原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した(知的財産高等裁判所平成21年(ネ)第10050号)。
(3) 1審原告がこれを不服として上告受理を申し立てたところ、最高裁判所は、上告を受理した上、1審被告の上記行為について、1審被告が本件各映画の著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても、1審被告に少なくとも過失があったというほかはないとして、上記1Aに係る部分を破棄し、知的財産高等裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡した( 最高裁判所平成22年(受)第1884号)。
(4) 1審被告は、上記(2)の差戻前控訴審判決に対し上告又は上告受理申立てをしておらず、上記1@に係る部分は、上記(3)の最高裁判決の言渡しとともに確定したから、差戻審である当審の審理の対象は、上記1Aに係る部分(ただし、上記(1)の第1審判決が認容した金額が不服の限度)である。そして、上記(3)の最高裁判決は、本件商品を輸入し、頒布する1審被告の上記行為について、1審被告に少なくとも過失があったことを破棄の理由としているから、その旨の判断は当審を拘束する(民事訴訟法325条3項)。
3 本件の争点
 したがって、本件の争点は、1審原告の損害の有無及びその額であるところ、それに伴って、1審原告が有する本件各映画の著作権の割合も問題となる。
第3 争点に関する当事者の主張
1 1審原告が有する本件各映画の著作権の割合について
〔1審原告の主張〕
(1) 映画の著作物は、多額の資本を要し、資本がなければ、映画を製作することも、公開し、上映することも困難であることからすれば、映画の著作物の著作権は、原始的には監督等に帰属するが、映画の完成と同時に、映画製作に多額の投資を行う映画製作者に帰属させて、映画製作者による映画の著作物の円滑な利用を図るべきである。
 そして、旧著作権法下では、監督等の映画の著作物の著作者は、映画の製作に参加する時点で、映画製作者に対し、著作権が映画製作者に帰属することについて同意又は了承していたものであり、映画の著作権は、著作者の明示又は黙示の意思表示により、映画完成と同時に、映画製作者に譲渡されるものである。このことは、映画製作者から、監督等に対し、創作行為に対する対価として報酬が支払われていることからも明らかである。
(2) また、1審原告又は新東宝株式会社が、本件各映画の完成と同時に、明示的又は黙示的に本件各映画の監督(以下「本件各監督」という。)の著作権を譲り受けたことは、次の事実からも明らかである。
ア @本件各映画は、当初から映画製作者である1審原告又は新東宝が自己の商品として公表することを前提に製作され、興行されたものであること、A1審原告は、映画製作者又は映画製作者である新東宝からの著作権の承継人として、本件各映画の原版を継続して保有し、これを利用していること、B映画製作者又は著作権の承継人である1審原告が、本件各映画を複製したビデオ及びDVD商品(以下「ビデオグラム」という。)を販売してきたこと、C1審原告は、株式会社衛星劇場に対して本件映画2及び3の、日本映画衛星放送株式会社に対して本件各映画の、CSテレビ放送への利用権を許諾したこと、D1審原告は、本件映画2及び3につき、共同映画株式会社等の第三者との間で劇場上映を許諾する契約を締結したこと、E1審原告は、本件映画1及び2につき、テレビ番組において、その映像を使用し、放送することを許諾したこと、F1審原告は、海外における本件各映画の上映についても、許諾したこと、G1審原告は、長年にわたり、上記のとおり著作権を行使してきたことに対して、監督や監督の遺族等の本件各映画の製作に関与した者から異議を受けたことはないこと等、1審原告は、本件各映画の著作権者として、平穏にその権利を行使してきた。
イ また、1審原告は、テレビ放送の利用許諾やビデオグラムを複製頒布して対価を得た場合、社団法人日本映画製作者連盟と協同組合日本映画監督協会との間の申合せに従い、著作権が映画製作者に帰属することを前提に、監督等に対し、追加報酬を支払っている。また、1審原告が著作権を有する映画についてテレビ放送を利用許諾した際又はビデオグラムの複製頒布をする際には、監督協会に対し、その旨を通知し、同協会は、監督等の組合員に対し、その旨を連絡している。そして、実際にテレビ放送がされ、ビデオグラムが販売されたにもかかわらず、1審原告は、監督又はその遺族を含む第三者から異議を受けたことはない。
(3) 仮に、本件各映画につき、本件各監督のほかに著作者がいるとしても、1審原告又は新東宝は、本件各映画の完成と同時に、これらの者が原始取得した本件各映画の著作権を承継取得している。
(4) そして、1審原告は、新東宝から、昭和38年4月20日付けで、本件映画1及び3の著作権を譲り受け、単独で著作権を有している。
〔1審被告の主張〕
 1審原告が本件各監督から本件各映画の著作権を承継取得したとの主張は、否認する。本件各監督の著作権が1審原告に譲渡されたことを裏付ける本件各監督やその遺族らとの合意は、認められない。現に、本件において、映画会社と監督自身や各スタッフとの譲渡契約書も提出されていない。
 本件各監督以外の他の著作者についても、同様である。また、本件各監督以外の者に対して、追加報酬の支払がされているか、されていないとすればそれはなぜかについて、1審原告の主張はない。
2 1審原告の損害の有無及び額
〔1審原告の主張〕
(1) 著作権法114条3項は、著作権者が受けるべき使用料相当額を損害賠償額として算定することができると規定する。
 そして、本件のように、1審被告が著作物の違法な複製物を通常の販売額より極めて低額で販売した場合には、1審原告が通常受領すべき金額を重視すべきであり、合理的使用料率の算定に当たっては、1審被告の実売価格ではなく、1審原告の標準小売価格をベースとすべきであるところ、1審原告の標準小売価格は、1本4500円(税込み)である。
(2) 本件各映画の合理的な使用料率は、1審原告の標準小売価格の20%は下らない(甲23〜25)。
(3) 1審被告は、本件商品を、少なくとも1作品につき5000本を輸入している。なお、原判決は、当事者間に争いのない、本件各映画につき1000本ずつという本数を基礎に損害額を算定したものである。
(4) したがって、1審被告の著作権侵害により1審原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、以下の計算式のとおり、1350万円であり、1審原告は同額の損害を受けた。
(計算式)4500円×0.2×5000本×3作品=1350万円
(5) よって、1審原告は、1審被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償金1350万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔1審被告の主張〕
(1) 1審被告の販売価格は、本件商品1及び3については1枚当たり330円、本件商品2については、1枚当たり90円である。
(2) 使用料率を20%とする1審原告の主張の根拠は曖昧であり、1審原告が実際にDVDを販売した場合の使用料率は、20%よりも低い。
(3) 1審被告の本件商品の製造枚数は、本件各映画それぞれにつき1000枚である。
(4) 1審被告は、忘れられた古い映画を世の中に提供して、公共の財産として役立たせるために、無償で原版映像を提供し続けており、「シェーン」や「ローマの休日」など300以上の映画の原版映像を、パブリックドメインとして世の中に提供しており、本件各映画もその一部である。そして、1審被告は、実費を除き、無償で本件各映画の映像を提供しただけで、自ら本件商品の商品化や販売をしておらず、現在、これらの行為から全く利益を得ていない。そうであるのに、単なる憶測による枚数を設定し、損害金として1審被告に課すことは認められない。
第4 当裁判所の判断
1 1審原告の著作権
(1) 証拠(枝番を含む)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 本件映画1の製作
(ア) 本件各映画は、当初から映画製作者である新東宝が自己の作品として公表することを前提に製作され、興行された(甲26、乙14)。
(イ) 本件映画1は、新東宝が制作したものであるところ、そのオープニングでは、冒頭部分において、新東宝の標章とともに「新東宝映画」との表示がされ、その後、題号、製作スタッフ、出演者等の表示がされ、最後に「監督 谷口千吉」との表示がされている(乙14)。
 また、本件映画1のポスターにおいては、新東宝の標章及び「新東宝興業株式会社配給」との記載とともに「監督・谷口千吉」との記載がされている(甲26)。
(ウ) 本件映画1においては、谷口が、監督をつとめたほか、脚本も担当し、制作、原作は谷口以外の者が行った(乙14)。
(エ) 谷口は、戦後を代表する監督の一人であり、その代表作として、本件映画1が挙げられ、本件映画1は、谷口の軍隊経験に基づく反軍、反戦思想を具体化したものである(甲28、32、106、112)。
イ 本件映画2の製作
(ア) 本件映画2は、当初から映画製作者である1審原告が自己の作品として公表することを前提に製作され、興行された(甲39、乙15)。
(イ) 本件映画2は、1審原告が制作したものであるところ、そのオープニングでは、冒頭部分において、1審原告の標章とともに「東宝株式会社」との表示がされ、その後、題号、製作スタッフ、出演者等の表示がされ、最後に「演出 今井正」との表示がされている(乙15)。
 また、本件映画2のポスターにおいては、「東宝株式会社製作・配給」との記載とともに「今井正監督作品」との記載がされている(甲39)。
(ウ) 本件映画2においては、今井が監督をつとめ、制作、脚本は今井以外の者が行った(甲37、乙15)。
(エ) 今井は、戦後民主主義の思潮を代表する監督であり、その代表作として、本件映画2が挙げられ、本件映画2は、今井の抱いていた映画のイメージを具体的に表現したものである(甲29、32、33、108、112)。
ウ 本件映画3について
(ア) 本件映画3は、当初から映画製作者である新東宝が自己の作品として公表することを前提に製作され、興行された(甲40、乙16)。
(イ) 本件映画3は、新東宝が制作したものであるところ、そのオープニングでは、冒頭部分において、新東宝の標章とともに「新東宝映画」との表示がされ、その後、題号、製作スタッフ、出演者等の表示がされ、最後に「監督 成瀬巳喜男」との表示がされている(乙16)。
 また、本件映画3のポスターにおいては、新東宝の標章及び「新東宝の良心特作」との記載とともに「監督成瀬巳喜男」との記載がされている(甲40)。
(ウ) 本件映画3においては、成瀬が監督をつとめ、制作、原作、脚本は、成瀬以外の者が行った(乙16)。
(エ) 成瀬は、女の生きる哀しさを描いた日本の代表的監督と評され、本件映画3は、成瀬作品の傑作と呼ばれ、成瀬の個性が発揮された作品である(甲30、33、34、38、109、110、112)。
エ 著作権の譲渡
 新東宝は、昭和38年4月20日、1審原告に対し、本件映画1及び3の著作権を譲渡した(甲15、16)。
オ 著作権の行使及び利用
 1審原告は、本件各映画の原版を保管し、これを、以下のとおりビデオグラムの作成、テレビ放映、上映等に利用している。
(ア) 1審原告は、本件映画1及び2を複製したビデオグラム(ビデオ及びDVD)並びに本件映画3を複製したビデオを販売してきた(甲36〜38、41、77)。
(イ) 1審原告は、株式会社衛星劇場に対し、本件映画2及び3をCS放送に利用する権利を許諾した(甲43、45〜48、76)。
(ウ) 1審原告は、日本映画衛星放送株式会社に対し、本件各映画を放送することを許諾した(甲43、49〜54、76)。
(エ) 1審原告は、本件映画2につき共同映画株式会社及び有限会社日本教育映像に対し、本件映画3につき東京テアトル株式会社に対し、それぞれ劇場上映を許諾する旨の契約を締結した(甲55〜59、76)。
(オ) 1審原告は、本件映画1及び2の一部につき、テレビ番組において、その映像を使用することを許諾した(甲60〜63、76)。
(カ) 1審原告の関連会社である東宝国際株式会社は、海外での本件各映画の上映を許諾してきた(甲69〜72、弁論の全趣旨)。
カ 著作権の行使に対する対価の取扱
(ア) 1審原告は社団法人日本映画製作者連盟の会員であり、本件各監督は協同組合日本映画監督協会の組合員であったところ、1審原告は、テレビ放送への利用許諾やビデオグラムの複製頒布をして対価を得た場合、社団法人日本映画製作者連盟と協同組合日本映画監督協会との間の申合せに従い、監督等に対し、追加報酬を支払い、また、1審原告が著作権を有する映画について放送への利用を許諾した際又はビデオグラムの複製頒布をする際には、協同組合日本映画監督協会に対し、その旨を通知し、同協会は、組合員に対し、その旨を連絡している(甲64〜68、73〜79)。
(イ) 1審原告は、長年にわたり、上記オのとおり本件各映画の著作権を行使してきたが、この間、これに対して、本件各映画の制作に関与した本件各監督以外の者から、自己が著作者であるとの主張がされた形跡はなく、また、本件各監督のほか本件各映画の制作に関与した者やそれらの遺族等から、何らかの異議が述べられた形跡もない(甲76、77)。
(2) 著作権の帰属
ア 前記(1)認定のとおり、本件各映画には、本件各監督の個性が発揮され、本件各監督が、それぞれ本件各映画の制作に、監督として相当程度関与し、本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者ということができる。
 そして、本件各監督と1審原告との間に著作権譲渡についての契約書はないが、上記(1)カ(ア)認定のとおり、1審原告が本件各映画の利用許諾等による対価を得た場合、本件各監督に対し追加報酬を支払い、また、1審原告が放送への利用許諾等をした際には、協同組合日本映画監督協会を通じて本件各監督等に対しその旨を連絡していることに照らすと、1審原告は本件各監督を本件各映画の著作者(の1人)として処遇し、遅くとも本件各映画が公開された頃までには、本件各監督が1審原告又は新東宝に対し、自己に生じた著作権を譲渡したものと推認することができる。
イ なお、前記(1)カ(イ)のとおり、長年にわたる1審原告の本件各映画の著作権の行使に対し、本件各映画の制作に関与した本件各監督以外の者から、自己が著作者であるとの主張がされた形跡がなく、また、本件各監督のほか本件各映画の制作に関与した者やそれらの遺族等から、何らかの異議が述べられた形跡もないことに照らすと、仮に、本件各監督のほかに本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者が存在したとしても、これらの者についても、遅くとも本件各映画が公開された頃までには、映画製作者である1審原告又は新東宝に対し、黙示的に本件各映画の著作権を譲渡したものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。
(3) 1審原告の著作権
 したがって、遅くとも本件各映画が公開された頃には、新東宝は、本件映画1及び3の著作権を、1審原告は、本件映画2の著作権を、それぞれ単独で有していたものと認められる。
 そして、新東宝は、1審原告に対し、昭和38年4月20日、本件映画1及び3の著作権を譲渡したから(甲15、16)、1審原告は、本件各映画の著作権を単独で有しているものと認められる。
 なお、本件各監督が本件各映画の著作者であったのであるから、本件各映画の保護期間は、未だ満了していない。
2 1審被告の損害賠償責任について
 1審被告が本件各映画を複製した本件商品を輸入し、頒布する行為は、1審原告の著作権を侵害するものとみなされ(著作権法113条1項3号)、前記のとおり、1審被告に少なくとも過失があったというべきであるから、1審原告には、当該著作権の使用料相当額の損害が生じたものと認められる。
 したがって、1審被告は、1審原告に対し、著作権侵害による損害賠償を支払うべきである。
3 1審原告の損害額
(1) 損害の額について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 本件商品には、1本当たり1800円の価格が付されている(甲1〜3、弁論の全趣旨)。
(イ) 本件商品1本当たりの使用料相当額は、小売価格の約20%に相当する額である(甲23〜25、弁論の全趣旨)。
(ウ) 本件各映画に係る本件商品は、それぞれ1000本ずつ(合計3000本)輸入されたことは、1審被告において自認するところである(乙19〜22)。
イ 損害額
 したがって、本件各映画の使用料相当額は、以下のとおり、108万円となる。
(計算式)1800円×0.2×3000本=108万円
(2) 当事者の主張について
ア 1審原告の主張について
(ア) 1審原告は、本件商品は合計1万5000本(各5000本)輸入されたと主張するが、1審被告が自白した限度を超えて輸入されたことを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 1審原告は、違法な複製物を通常の販売額より極めて低額で販売している場合には、1審原告が通常受領すべき金額を重視すべきであるから、1審原告の標準小売価格である4500円を基準として使用料相当額を算定すべきであると主張する。
 しかしながら、本件商品の販売価格は、通常予想されるよりも極めて低額であるとまではいい難い。また、1審原告が本件各映画を複製したDVDの販売等を第三者に許諾した場合に、1本当たり4500円の標準小売価格を基準としてその許諾料を定めていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) なお、1審原告は、損害賠償請求部分について、控訴又は附帯控訴をしていない。
イ 1審被告の主張について
(ア) 1審被告は、本件商品の販売価格は、1枚当たり330円又は90円であると主張する。
 1審被告の主張を裏付ける証拠はないが、証拠(甲20、21)には、本件商品を1本当たり1000円又は1050円で販売する旨の広告がある。しかし、本件商品自体に記載された価格は、税込み1800円であり(甲1〜3)、仮に現実には定価を下回って販売されたとしても、著作権法114条3項にいう「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」を算定するに当たり、定価をもって算定の基礎にすることとする。
(イ) 1審被告は、使用料率は20%より低いと主張するが、20%を覆すに足りない。
(ウ) 1審被告は、現在本件商品の輸入販売行為から全く利益を得ていないと主張する。
 しかし、著作権法114条3項の規定は、利益の有無にかかわらず損害額として請求できるものであり、1審被告の主張は採用できない。
(3) 1審原告の損害の額
 以上によれば、1審被告の本件行為により本件各映画の著作権者に生じた損害の額は、108万円をもって相当と認め、前記1のとおり、本件各映画の著作権は、1審原告にその全部が帰属するから、1審原告の損害は、108万円である。
(4) 小括
 以上によれば、1審原告は、1審被告に対し、著作権侵害による損害賠償として、108万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求することができる。
4 結論
 以上の次第であるから、これと同旨の原判決は相当であって、金銭請求に係る控訴人敗訴部分に関する本件控訴は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 滝澤孝臣
 裁判官 部眞規子
 裁判官 齋藤巌


(別紙)映画目録
1 映画「暁の脱走」(監督:谷口千吉、映画製作者:新東宝株式会社、昭和25年公開)
2 映画「また逢う日まで」(監督:今井正、映画製作者:東宝株式会社、昭和25年公開)
3 映画「おかあさん」(監督:成瀬巳喜男、映画製作者:新東宝株式会社、昭和27年公開)
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