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【事件名】“プレゼン資料”等社内文書の無断複製事件 【年月日】平成24年3月28日 東京地裁 平成21年(ワ)第5848号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成24年2月24日) 判決 原告 株式会社イーグルワンエンタープライズ 原告 X2 上記両名訴訟代理人弁護士 栄枝明典 同 石井尚子 同 齋藤貴弘 同訴訟復代理人弁護士 辻壮一郎 被告 Y1 被告 Y2 上記両名訴訟代理人弁護士 高須順一 同 高林良男 同訴訟復代理人弁護士 関根恵 同 田村哲雄 被告 Y3 同訴訟代理人弁護士 池田竜一 被告 Y4 同訴訟代理人弁護士 中込一洋 被告 株式会社マネースクウェア・ジャパン 同訴訟代理人弁護士 伊藤真 同 西尾政行 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告Y1、被告Y4は、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、2635万7500円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Y1、被告株式会社マネースクウェア・ジャパンは、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、380万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告Y1、被告Y3、被告Y2、被告株式会社マネースクウェア・ジャパンは、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、1670万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告Y1、被告Y2は、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、130万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告Y1、被告Y3、被告Y4、被告株式会社マネースクウェア・ジャパンは、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、509万9000円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告らは、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、1413万2203円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 被告Y1、被告Y2、被告Y4は、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、2680万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 8 被告Y1は、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、338万7495円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 9 被告Y1、被告Y3、被告Y4は、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、1920万0250円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 10 被告Y1、被告Y3は、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、200万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 11 被告Y1、被告Y4、被告株式会社マネースクウェア・ジャパンは、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、20万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 12 被告Y1、被告Y3、被告Y4、被告Y2は、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、1375万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 13 被告Y1、被告Y4、被告Y2、被告株式会社マネースクウェア・ジャパンは、原告株式会社イーグルワンエンタープライズに対し、連帯して、1800万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 14 被告Y1、被告Y4は、原告X2に対し、連帯して、240万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 15 被告Y1、被告Y4、被告Y3は、原告X2に対し、連帯して、795万4000円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 16 被告Y1、被告Y4、被告Y3、被告株式会社マネースクウェア・ジャパンは、原告X2に対し、連帯して、200万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 17 被告Y1は、原告X2に対し、200万円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 18 被告株式会社マネースクウェア・ジャパンは、原告X2に対し、397万7000円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、被告らが、@不正競業、兼職、A横領、背任、B営業妨害、業務懈怠、C情報管理義務違反、D著作権侵害、E営業秘密の侵害、F原告らの被害回復に対する妨害行為、G契約の不当破棄に該当する行為を行ったとして、 (1) 原告らが、被告Y1(以下「被告Y1」という。)、被告Y3(以下「被告Y3」という。)、被告Y4(以下「被告Y4」という。)、被告マネースクウェア・ジャパン(以下「被告会社」という。)に対し、上記@、B、C、Fの行為が同被告らの共同不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償金、 (2) 原告イーグルワンエンタープライズ(以下「原告会社」という。)が、被告Y1、被告Y4に対し、上記Aの行為が同被告らの共同不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償金、 (3) 原告会社が、被告Y1、被告Y4に対し、上記@、A、B、C、Fの行為が債務不履行に当たるとして、債務不履行に基づく損害賠償金(この請求と上記(1)、(2)の被告Y1、被告Y4に対する請求は選択的併合の関係にある。)、 (4) 原告会社が、被告会社に対し、上記Gの行為が不法行為又は債務不履行に当たるとして、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償金(両請求は選択的併合の関係にある。)、 (5) 原告会社が、被告Y1、被告Y3、被告Y4、被告会社に対し、上記D、Eの行為が不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償金、 (6) 原告会社が、被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し、身元保証契約に基づく保証債務の履行としての損害賠償金、 及び上記(1)〜(6)の各損害賠償金に対する平成20年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である(各原告の各被告に対する請求内容の詳細は、別紙A−1〜A−7のとおりであり、原告らが請求する損害賠償の金額と請求の趣旨の対応関係は別紙A−2の下の表のとおりである。)。 2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。) (1) 原告会社は、企業の経営、リスクマネジメントに関するコンサルティング業務、探偵業等を目的とする株式会社であり、焼肉店「焼肉職人ベアーズ」を経営している。 原告X2(以下「原告X2」という。)は原告会社の代表取締役である。 (2) 被告Y1は、平成18年6月から平成20年6月まで、原告会社の業務に従事していた(平成19年12月21日頃に原告会社と雇用契約を締結したことは争いがないが、それ以前の契約形態については争いがある。)。 (3) 被告Y3は被告Y1の夫である。 (4) 被告Y2は被告Y1の父親であり、平成20年1月頃、原告会社との間で被告Y1に関する身元保証契約を締結した。(甲2) (5) 被告Y4は、平成18年5月から平成19年7月まで、原告会社が経営する焼肉店「焼肉職人ベアーズ」でアルバイトとして勤務していた。 (6) 被告会社は、外国為替取引業、外国為替取次業務等を行う株式会社である。被告会社は、平成19年12月、原告会社との間で、顧客管理に関する業務全般のコンサルティング、システム管理に関するコンサルティング、制作業務、宣伝、販促、広報、制作の支援及び受託、並びに業務の拡大、推進に伴う業務に関するコンサルティング等を委託業務とする業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。当該委託業務に係る原告会社の担当者は被告Y1であった。(甲1356、1363、1364、弁論の全趣旨) 第3 当事者の主張 1 原告らの主張 (1) 被告Y1、被告Y4の不正競業、兼職 ア 原告会社は、被告Y1を平成18年6月から契約社員として雇用し、平成19年12月21日からは正社員として雇用した。 原告会社は、被告Y4を、焼肉店「焼肉職人ベアーズ」のアルバイトとして雇用したが、平成18年12月21日以降、その業務内容に「制作業務」も含まれることになり、被告Y4は、原告会社の運営する飲食店の制作物やホームページ制作も行うことになった。 イ 原告会社は、平成18年6月初めに被告Y1との間で、平成18年末に被告Y4との間で、原告会社と競業してはならないこと、競業する業務は原告会社を通して受注し原告会社に入金しなければならないこと、原告会社の業務を行う上で知り得た個人情報、企業秘密を含む全ての事実につき第三者に漏洩しないことを合意した。ただし、被告Y1は、原告会社に雇用される以前からアルバイトをしていた株式会社J(以下「J」という。)において、原告会社の業務と無関係の業務である経理のアルバイトをすることのみ許されていた。 仮に上記合意が認められないとしても、被用者又は業務受託者は、使用者又は業務委託者が有していた文書、情報、ノウハウ等を利用して、密かに不正競業(兼職)を行い使用者又は業務委託者に損害を与えてはならない義務、業務上知り得た情報を漏洩してはならない義務を、雇用契約又は業務委託契約の付随義務として負う。 ウ 被告Y1、被告Y4は、計画的に、原告会社の業務において知った原告会社のノウハウ等(営業秘密、ノウハウ、アイデア、情報、著作物、文書、資料、データ等)を利用して、原告会社として受注することなく、自ら又は第三者の名前で業務を受注することにより、原告会社と競業し、兼職したのであるから、競業、兼職行為は、競業避止義務、兼職禁止義務、秘密保持義務に違反する不法行為又は債務不履行に該当する。 被告Y1、被告Y4による不正な競業行為、兼職行為の具体的な内容は、別紙B記載のとおりであり、各被告に対する請求の原因となる具体的な不正競業、兼職は、別紙A−1〜A−7記載のとおりである(以下、別紙B記載の各事実については、同別紙の「番号」欄記載の番号により、「別紙B1番の事実」などという。また、各別紙において「被告甲」とあるのは「被告Y1」を示す。なお、別紙「各別紙説明書」は、別紙A−1〜A−7、別紙B、別紙1〜5、別紙α、別紙β、別紙γ、別紙C、別紙Dの記載内容を原告らが説明したものである。)。 別紙Bの「番号」欄記載の各不正競業、兼職につき、別紙A―1、別紙A―2の「責任者」欄記載の各被告が損害賠償責任を負うものであるが、被告Y1の責任は、直接の実行行為者としての責任(ただし、被告Y4が主導的に行った行為については同人に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任)、被告Y4の責任は、被告Y1の行為について同人に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任(ただし、被告Y4が主導的に行った行為については実行行為者としての責任)、被告Y3の責任は、被告Y1又は被告Y4に対し積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任であり、被告会社の責任は、被告会社の社員又は代表取締役が被告Y1に対して積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任に基づく民法715条又は会社法350条による責任、被告Y2の責任は、身元保証契約に基づく責任である。 エ 上記ウの各不正競業行為、兼職行為の概要は以下のとおりである。 (ア) Jについて 被告Y1は、Jの社長室長であることを隠して、原告会社の文書及びノウハウを無断で利用し、Jのたこ焼き事業を支援する不正な競業行為を行った。 被告Y4と被告Y3は、被告Y1の行為に積極的に協力加担し、原告会社の文書及びノウハウを直接無断で利用することもあった。 (イ) Kについて 被告Y1は、原告会社の営業秘密、ノウハウ、著作物を利用する計画で、原告会社と競業する「K(K’)」(以下「K」という。)のホームページ制作業務、原告会社から原告会社の業務のために指導を受けたディレクトリ登録業務、相互リンク業務、制作業務全般などを、Kより密かに個人的に受注して利益を得た。 被告Y4は、被告Y1の行為に積極的に協力加担し、原告会社の文書及びノウハウを直接無断で利用することもあった。 (ウ) Lについて 被告Y1は、原告会社の業務で知り得た事実やノウハウと原告会社の営業実績を基に、原告会社名で業務をしていたにもかかわらず、有限責任事業組合Pより、L新橋店について、継続的に原告会社の業務の競業行為となるショップカード、販促カード、ポスター、カード式チラシの制作業務などを密かに個人的に受注して利益を得た。 被告Y4は、被告Y1の行為に積極的に協力加担し、原告会社の文書及びノウハウを直接無断で利用することもあった。被告Y3は、被告Y1の行為に積極的に協力加担した。 (エ) Mについて 被告Y1と被告Y4は、原告会社の業務として活動していたにもかかわらず、原告会社宛てに依頼が来たMのホームページなどの制作業務を密かに個人的に受注して利益を得た。 (オ) N事業協同組合について 被告Y1と被告Y4は、原告会社の業務として活動していたにもかかわらず、三谷産業グループのA氏より、N事業協同組合に関するホームページなどの制作業務を密かに個人的に受注して利益を得た。 (カ) Oについて 被告Y1は、原告会社の名前で営業していたにもかかわらず、原告会社の営業秘密、ノウハウ、著作物を無断で利用して、ホームページに関するアクセスアップコンサルティング業務などをO協会から密かに個人的に受注して利益を得た。 (キ) 被告会社について 被告Y1と被告Y4は、被告会社のB(以下「B」という。)に対し、原告会社の業務で得た営業秘密、ノウハウ、著作物を提供し、ホームページなどの制作業務を密かに個人的に受注して利益を得た。 被告会社は、被告Y1が原告会社の正社員となり、原告会社と被告会社が本件業務委託契約を締結した平成19年12月以降も、被告会社の利益のために、原告会社に無断で被告Y1に背任行為、兼職行為を行わせ、原告会社の営業を妨害し、原告会社の営業秘密、ノウハウ、著作物などを不正に取得した。 被告会社は、原告会社の営業秘密、ノウハウを基に、原告会社と競合する業務について、被告Y1を担当者として競業他社に依頼、発注し、原告会社の営業を妨害した。 被告Y3は被告Y1の計画が確実に実行できるように指導し、計画の進行を支配した。 オ 上記ウ、エの各不正競業行為、兼業行為とこれにより原告らが被った各損害額(原告会社の損害額は取引の機会を喪失したことによる損害の額)の対応関係は、別紙A−1、A−2、別紙γ記載のとおりである。 (2) 被告Y1、被告Y4の横領、背任 ア 被告Y4は、原告会社が受領した金員を領得し、横領背任行為を行ったものであり、被告Y1はこの被告Y4の行動を支配したものであるから、被告Y1、被告Y4の行為は、原告会社に対する不法行為又は債務不履行に該当する。 イ 被告Y1、被告Y4による横領背任行為の具体的な内容は、別紙B18番、153番記載のとおりであり、各被告に対する請求の原因となる具体的な横領背任行為は、別紙A−3〜A−5記載のとおりである。 被告Y1、被告Y4の責任は、直接の実行行為者としての責任、被告Y2の責任は、身元保証契約に基づく責任である。 ウ 上記横領背任行為とこれにより原告らが被った損害額の対応関係は、別紙A−1、A−2、別紙γ記載のとおりである。 (3) 被告Y1、被告Y4の営業妨害、業務懈怠 ア 被告Y1、被告Y4は、上記(1)の不正競業(兼職)行為を行うため、原告会社から給料又は受託料をもらいながら、原告会社の業務を行わず、意図的積極的に原告会社の業務を妨害した。被告Y1、被告Y4の営業妨害、業務懈怠は、原告会社に対する不法行為又は債務不履行に該当する。 イ 被告Y1、被告Y4による営業妨害、業務懈怠行為の具体的な内容は、別紙1〜5、別紙B、別紙α記載のとおりであり、各被告に対する請求の原因となる具体的な営業妨害、業務懈怠行為は、別紙A−1〜A−7記載のとおりである。 上記各営業妨害、業務懈怠につき、別紙A―1、A―2の「責任者」欄記載の各被告が損害賠償責任を負うものであるが、被告Y1の責任は、直接の実行行為者としての責任、被告Y4、被告Y3の責任は、被告Y1の行為について積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任(ただし、被告Y4が主導的に行った行為についての被告Y4の責任は実行行為者としての責任)、被告会社の責任は、被告会社の社員又は代表取締役が被告Y1の行為に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任に基づく民法715条又は会社法350条による責任、被告Y2の責任は、身元保証契約に基づく責任である。 ウ 上記各営業妨害、業務懈怠とこれにより原告らが被った各損害額の対応関係は、別紙A−1、A−2、別紙γ記載のとおりである。営業妨害、業務懈怠を原因とする原告会社の損害は、原告会社において行うべきことを行わず、積極的に業務を妨害したことにより原告会社が受けた損害である。 (4) 情報管理義務違反 ア 原告会社は、顧客情報、個人情報の管理の厳守を、被告Y1、被告Y4ら従業員に厳しく義務付けてきた。原告会社は、個人情報保護を厳しく指導されている探偵業認可の会社でもあるから、個人情報保護を従業員に周知徹底させてきた。被告Y1は、原告会社における個人情報の管理責任者の一人でもあり、原告会社の定めたセキュリティーポリシーを遵守し、原告会社内の情報、秘密を保全し、漏洩を防止する義務があった。 原告会社では、被告Y1や被告Y4を含む従業員に対し、特に、以下のことを遵守するよう義務付けてきた。 @社外に添付書類を送るときはネットワーク管理者である原告X2の了承を得ること A社外から添付書類を受け取る可能性があるときは、相手先を原告X2に確認し、ウィルスセキュリティー調査の上、了承が出てから受領すること Bメモリースティックなどの外部機器の使用禁止 Cメールアドレスの転送禁止、個人情報記載のファイルの保存禁止(原告X2PCのみでの管理) イ 被告Y1、被告Y4は、原告会社の指示に反して、密かに原告会社のメールアドレス宛のメールを自宅へ自動転送し、原告会社のノウハウ、著作物、個人情報を外部に流出させ、これを不正競業に利用し、上記アの情報管理義務に違反した。被告Y3、被告会社は被告Y1、被告Y4の行為に積極的に協力加担した。 また、被告Y1は、原告会社のコンピュータに施されているセキュリティーの状況を被告Y4に漏洩し、原告会社のマーケティングによって作成された社外秘で、複製・出力禁止の文書を無断で被告Y3に漏洩した。 上記の被告Y1、被告Y4の行為は、不正競業そのものではなく(不正競業に該当するものは不正競業に分類した)、被告Y1、被告Y4が負う情報管理義務に反する行為であるから、原告会社に対する不法行為又は債務不履行に該当し、原告会社は、情報管理がされなかったことによる損害を被った(別紙β)。 ウ 被告Y1、被告Y4による情報管理義務違反に該当する行為の具体的な内容は、別紙B記載のとおりであり、各被告に対する請求の原因となる具体的な行為は、別紙A−3〜A−7記載のとおりである。 上記各情報管理義務違反につき、別紙A―1、A―2の「責任者」欄記載の各被告が損害賠償責任を負うものであるが、被告Y1、被告Y4の責任は、直接の実行行為者としての責任、被告Y3の責任は、被告Y1の行為に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任、被告会社の責任は、被告会社の社員又は代表取締役が被告Y1の行為に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任に基づく民法715条又は会社法350条による責任、被告Y2の責任は、身元保証契約に基づく責任である。 エ 上記各情報管理義務違反とこれにより原告らが被った各損害額の対応関係は、別紙A−1、A−2、別紙β、γ記載のとおりである。 (5) 著作権侵害 ア 被告Y1、被告Y4が、上記(1)の競業行為の際に、原告会社に無断で原告会社の著作物を使用した場合には、原告会社に対する著作権侵害の不法行為となる。 被告Y1、被告Y4は、原告会社に無断で、自らの取引を進めるため、原告会社の著作物を複製し、又は送信して複製し、自らの顧客等に提供して著作権(複製権、翻案権)を侵害した。なお、社内教育用資料は内部資料であり、外部に出してはならないことを被告Y1に再三指導していた。 イ 被告Y1、被告Y4による著作権侵害行為の具体的な内容は、別紙C記載のとおりであり(以下、別紙Cの著作権侵害1〜12をそれぞれ「著作権侵害1」などという。)、各被告に対する請求の原因となる具体的な行為は、別紙A−3〜A−7記載のとおりである。 上記各著作権侵害行為につき、別紙A―1、A―2の「責任者」欄記載の各被告が損害賠償責任を負うものであるが、被告Y1の責任は、直接の実行行為者としての責任、被告Y4の責任は、被告Y1の行為については同人に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任(ただし、被告Y4が主導的に行った行為については実行行為者としての責任)、被告Y3の責任は、被告Y1又は被告Y4の行為に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任、被告会社の責任は、被告会社の社員又は代表取締役が被告Y1の行為に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任に基づく民法715条又は会社法350条による責任、被告Y2の責任は、身元保証契約に基づく責任である。 ウ 上記各著作権侵害行為とこれにより原告会社が被った各損害額の対応関係は、別紙A−1、A−2記載のとおりである。 (6) 営業秘密の侵害 ア 被告Y1、被告Y4が、上記(1)の競業行為の際に、原告会社に無断で原告会社の営業秘密を使用した場合には、原告会社に対する営業秘密侵害の不法行為となる。 原告会社は、調査・探偵業務を行っていることから、社内の営業秘密、データ、文書類について、厳格な管理を行い秘密として管理してきた。被告Y1、被告Y4が、原告会社において知った営業秘密、データ、文書を不正に持ち出して利用し、開示した行為は、不正競争防止法2条1項4号の不正競争に該当し、持ち出し行為が正当であったとしても図利加害目的で当該営業秘密を使用、開示した行為は同項7号の不正競争に該当する。また、被告Y4が、被告Y1が原告会社の営業秘密を不正に取得したことにつき悪意、重過失で被告Y1から当該営業秘密を取得し、使用、開示した行為は同項8号の不正競争に該当し、被告会社が、遅くとも当該情報の取得後にそれが原告会社の営業秘密であることを知ってこれを利用した行為は同項9号の不正競争に該当する。 イ 被告Y1、被告Y4、被告会社による営業秘密侵害行為の具体的な内容は、別紙D記載のとおりであり、各被告に対する請求の原因となる具体的な行為は、別紙A−3〜A−7記載のとおりである。 上記各営業秘密侵害行為につき、別紙A―1、別紙A―2の「責任者」欄記載の各被告が損害賠償責任を負うものであるが、被告Y1の責任は、直接の実行行為者としての責任、被告Y4の責任は、被告Y1の行為については同人に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任(ただし、被告Y4が主導的に行った行為については実行行為者としての責任)、被告Y3の責任は、被告Y1又は被告Y4の行為に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任、被告会社の責任は、被告会社の社員又は代表取締役が被告Y1の行為に積極的に協力、加担した教唆者又は幇助者としての共同不法行為責任に基づく民法715条又は会社法350条による責任、被告Y2の責任は、身元保証契約に基づく責任である。 ウ 上記各営業秘密侵害行為とこれにより原告会社が被った各損害額の対応関係は、別紙A−1、A−2記載のとおりである。 (7) 被害回復に対する妨害行為 ア 本件の不正行為が発覚した後、被告Y1、被告Y4は、事実を素直に認めて謝罪し、被害弁償を行うことを約束した。また、被告Y4は、直ちに原告会社の著作物及び営業秘密を削除等することを約束した。ところが、被告Y1、被告Y4は、その後、弁護士を通じて事実と責任を否認する態度に変わった。 被告会社の代表取締役Cは、被告会社と被告Y1が原告会社の業務を混乱させたことを認め、「訴訟リスクは避けたいので、経済的な着地をお願いしたい」と頼んだが、その後、被告会社は「イーグルワンがマネースクウエア・ジャパンを愚弄しているので訴訟します」などと原告会社を脅迫し、被告会社の責任やこれまでの話合いの事実を否定した。 原告X2が、被告Y3に対して、原告会社と被告会社の間の契約を被告Y3が解除させようとしたことを抗議したところ、被告Y3は、原告X2に対し、「君が思っているようなことはない」、「君の頭はおかしい」などと述べ愚弄した。 イ このように、原告らは、速やかに被害を回復しようと真摯に行動したにもかかわらず、被告Y1、被告Y4、被告Y3、被告会社(被告Y1と被告Y4は当初認めていた態度を変えて)は事実を否定するのみならず、原告X2を愚弄して、被害回復を拒否した。これらの行為は不法行為に該当し、これにより原告らは訴訟を提起せざるを得ない負担を被った。 これにより原告らが被った損害は、@原告X2の精神的損害(慰謝料、別紙γ)、A本件訴訟のために莫大な時間を使って事実関係を分析することに要したために失った原告会社の逸失利益420万円(70万円×6か月)である。 ウ 被告Y1、被告Y4、被告Y3、被告会社による被害回復妨害行為の具体的な内容は、別紙B(188番、195番)、別紙γ記載のとおりであり、各被告に対する請求の原因となる具体的な被害回復妨害行為は、別紙A−3〜A−7記載のとおりである。 被告Y1、被告Y4、被告Y3の責任は、直接の実行行為者としての責任、被告会社の責任は、被告会社の社員又は代表取締役の直接の実行行為者としての責任に基づく民法715条又は会社法350条による責任である。 エ 上記被害回復妨害行為とこれより原告らが被った損害額の対応関係は、別紙A−1、A−2、別紙γ記載のとおりである。 (8) 契約の不当破棄 平成19年12月、原告会社と被告会社は本件業務委託契約を締結したが、被告会社は、合理的理由なく一方的に当該契約を打ち切った。この契約の不当破棄は原告会社に対する不法行為又は債務不履行に当たり、被告会社は原告会社が受けた損害を賠償する責任がある。 被告会社のBは、本件業務委託契約とは別途契約したソフトウェア開発委託契約に係る交渉の際に、本件業務委託契約につき被告Y1が原告会社を辞めた後も継続することに同意した。ところが、被告会社は、契約解除の通知をすることもなく、被告Y1が在籍していた期間も含めて平成20年6月以降、原告会社にコンサルティング費用を支払っておらず、本件業務委託契約は被告会社によって一方的に不当に破棄され、原告会社は損害を受けた(なお、原告らは、当該不当破棄によりどのような損害を受けたかについて明確な主張をしていない。)。 (9) 原告会社の無形損害 原告会社は、被告Y1、被告Y4、被告Y3、被告会社による別紙B記載の不法行為により、無形損害として合計300万円の損害を被った。被告Y2は身元保証契約に基づき責任を負う。 被告Y1、被告Y4、被告Y3、被告会社による不法行為の具体的な内容は、別紙A−1の「C.原告会社無形損害」欄、別紙B記載のとおりであり、各被告に対する請求の原因となる具体的な不法行為は、別紙A−3〜A−7記載のとおりである。 2 原告らの主張に対する被告Y1、被告Y2の認否、反論 原告らの被告Y1、被告Y2に関する主張はいずれも否認ないし争う。 (1) 各別紙に対する認否 原告作成の別紙B〜D、別紙1〜5、別紙α、β、γに対する認否は、別紙「認否目録(被告Y1、被告Y2)」、別紙「別紙Bに対する認否一覧表被告Y1ら」のとおりである。 (2) 被告Y1、被告Y2の主張 ア 不正競業、兼職について 被告Y1が不正競業、兼職を行ったとする原告らの主張は、被告Y1が原告会社に対し競業避止義務、兼職禁止義務を負っていたことを前提とするが、そもそも被告Y1は、平成19年12月頃までは原告会社と業務委託契約を締結していたにすぎず労働契約は締結しておらず、また、原告会社と労働契約を締結した以後も含め、競業避止義務、兼職禁止義務について特段の合意をしたわけでもないため、被告Y1が原告会社に対し競業避止義務、兼職禁止義務を負っていなかったことは明らかである。 また、原告らが不正競業、兼職に該当すると主張する各具体的事実(別紙A−3(請求整理表)に【@不正競業】として挙げられている別紙Bの各番号に記載の事実)は存在しないものがほとんどであり、原告らが主張する損害の発生、因果関係も認められない。 イ 横領背任について 原告らが横領背任に該当すると主張する具体的事実(別紙A−3(請求整理表)に【A横領背任】として挙げられている、別紙B153番の事実)は存在せず、横領背任に該当するものでもない。 原告らが主張する損害の発生、因果関係も認められない。 ウ 営業妨害、業務懈怠について 原告らが営業妨害、業務懈怠に該当すると主張する具体的事実(別紙A−3(請求整理表)に【B営業妨害・業務懈怠】として挙げられている、別紙Bの各番号に記載の事実、別紙1〜5記載の各事実)は、存在しない、又は営業妨害、業務懈怠と評価されるようなものではない。 原告らが主張する損害の発生、因果関係も認められない。 エ 情報管理義務違反について 原告らは、被告Y1が原告会社に対して特段の情報管理義務を負っていたこと、あるいは情報管理に関する具体的な規則を遵守する義務を負っていたことを前提として、被告Y1が各情報管理義務違反行為を行った旨主張する。しかし、そもそも被告Y1が、原告会社に対して特段の情報管理義務を負っていた事実はない。また、平成19年10月頃までは、原告会社において情報管理に関する具体的な規則が定められていたわけではないため、被告Y1がこれを遵守する義務を負っていたことはない。 また、原告らが情報管理義務違反に該当すると主張する各具体的事実(別紙A−3(請求整理表)に【C情報管理義務違反】として挙げられている、別紙Bの各番号に記載の事実)は、存在しない、又は不法行為ないし債務不履行に当たるようなものではなく、原告らに損害を生じさせるものでもない。 原告らが主張する損害の発生、因果関係も認められない。 オ 著作権侵害について 原告らは、著作権侵害として、別紙Cのとおり主張するが、いずれも著作物に当たるものではなく、かつ、被告Y1による著作権侵害行為は存在せず、因果関係のある損害もない。 カ 営業秘密侵害について 原告らは、営業秘密侵害として、別紙Dのとおり主張するが、いずれも、営業秘密に当たるものではなく、かつ、被告Y1による不正な行為は存在せず、因果関係のある損害もない。 キ 被害回復の妨害行為について 原告らは、被告Y1らの妨害行為により、被害回復のため多大な資料の分析をせざるを得ず、その間業務ができなかったなどと主張するものであるが、そのような事実は何ら立証されておらず、また、このことに関して、独立の債務不履行ないし不法行為が成立するものではない。 また、原告らが被害回復の妨害行為に該当すると主張する具体的事実(別紙A−3(請求整理表)に【F被害回復のために要した損害】の項目に挙げられている、別紙B188番、195番の事実)は、存在しない、又は不法行為ないし債務不履行に当たるようなものではなく、原告らに損害を生じさせるものでもない。 原告らが主張する損害の発生、因果関係も認められない。 ク 無形損害について 原告らが原告会社及び原告X2に無形損害を生じさせたものであると主張する具体的事実(別紙A−3(請求整理表)に【原告会社の無形損害】、【原告X2の無形損害】として挙げられている、別紙Bの各番号に記載の事実、別紙γの「違法行為」の欄に挙げられている各事実)は、存在しない、又は不法行為ないし債務不履行に当たるようなものではなく、原告らに損害を生じさせるものでもない。 原告らが主張する損害の発生、因果関係も認められない。 ケ 甲1646号証の謝罪文について 被告Y1は、平成20年6月7日、自らの非を認める内容の謝罪文のような文書(甲1646)を作成しているところ、当該文書は、被告Y1が何らかの不正な行為を行ったのではないかと疑わせる内容となっている。しかし、当該文書は、長時間にわたる身体拘束の中、原告X2から威迫を受けながら、原告X2が指示した内容をそのまま記載したものにすぎず、何ら証拠価値のないものである。 3 原告らの主張に対する被告Y3の認否、反論 原告らの被告Y3に関する主張はいずれも否認ないし争う。 (1) 各別紙に対する認否 原告作成の別紙B〜D、別紙1〜5、別紙α、β、γに対する認否は、別紙「認否目録(被告Y3)」のとおりである。 (2) 被告Y3の主張 ア 被告Y3は、原告らが主張する被告Y1が行ったとされる不正行為に協力、加担したり、被告Y1の計画を指導、支配したりしておらず、被告Y3自身も何ら不法行為、著作権侵害行為及び営業秘密侵害行為をしていないのであるから、被告Y3は原告らに対する不法行為責任その他一切の法的責任を負わない。 イ 不正競業、兼職について 被告Y1は、平成19年12月までは原告会社との業務委託契約に基づく受託者の立場にあり、他の会社からも業務委託契約に基づく仕事を受託しており、J、L、被告会社の仕事は原告会社とは関係のないものであり、原告X2も被告Y1がJの仕事をすることを了解していた。したがって、被告Y1は不正な競業、兼職行為を行なっておらず、被告Y3が被告Y1の不正な競業、兼職行為に加担したということはあり得ない。 しかも、被告会社については、被告Y1が被告会社の仕事をしており、被告Y1の存在を抜きにして被告会社が原告会社との間で業務委託契約を締結することはあり得なかったという状況下で、被告Y1が被告会社において常勤に近い形で業務を継続することを前提に、被告会社と原告会社との間で本件業務委託契約が締結され、被告会社から原告会社に報酬が支払われていたことからすれば、被告Y1が不正な競業、兼職行為を行なっていなかったことは明らかであり、被告Y3が被告Y1の不正な競業、兼職行為に加担したということはあり得ない。 ウ 営業妨害、業務懈怠について 被告Y1及び被告Y4が不正競業(兼職行為)を行うために、原告会社の業務を行わず、意図的積極的に原告会社の業務を妨害したとの事実はなく、被告Y3が原告会社の営業妨害や被告Y1、被告Y4の業務懈怠に積極的に協力、加担したということはない。 被告Y3によるメール送信は、原告会社の営業妨害や被告Y1、被告Y4の業務懈怠に直接結び付くものではなく、メールのやり取りについても原告会社の営業妨害や被告Y1、被告Y4の業務懈怠となるほどの回数とはいえない。 平成19年10月30日、被告Y3が原告会社が経営する飲食店で食事をした際に不当なクレームを付けて飲食代金を不正取得したなどと原告らは主張するが、誤りである。当該飲食店の店員の会計ミスにより過払いとなったものであり、被告Y3が原告会社の営業を妨害した事実はない。 エ 情報管理義務違反について 被告Y3は、原告会社のノウハウ、著作物、個人情報を継続的な流出の危機にさらしたことはなく、原告会社の探偵業としての情報や調査手法の営業秘密、ノウハウを被告Y1から聞き出したこともない。原告会社において知り得た飲食店経営戦略などの機密事項や原告会社と他社(某大手飲食店)との守秘義務事項、原告X2が土日を費やしてマーケティングして作成したとする社外秘、複製禁止、出力禁止の文書や社内講義の文書がそもそも何を指しているのか不明であるが、被告Y3が被告Y1からこれらの事項や文書を受け取ったことはない。 オ 著作権侵害について 原告らが著作権侵害1〜12において主張する著作物はいずれも著作物性を有しない。仮に著作物性を有し原告会社に著作権が帰属する文書ないしデータがあるとしても、被告Y1、被告Y4には著作権侵害行為は認められず、被告Y3にも責任はない。 カ 営業秘密侵害について 原告らが別紙Dの営業秘密侵害1〜3において主張する内容は、いずれも営業秘密には該当しない。したがって、被告Y1、被告Y4には営業秘密侵害行為は認められず、被告Y3にも責任はない。 4 原告らの主張に対する被告Y4の認否、反論 原告らの被告Y4に関する主張はいずれも否認ないし争う。 (1) 各別紙に対する認否 原告作成の別紙B〜D、別紙1〜5、別紙α、β、γに対する認否は、別紙「認否目録(被告Y4)」のとおりである。 (2) 被告Y4の主張 ア 被告Y4は、株式会社スリーディ.コム(平成14年6月〜平成15年11月)、有限会社コインシデンス・インターナショナル(平成16年1月〜同年6月)、株式会社フォーデジット(平成17年2月〜同年9月)及び株式会社ユーリス(平成17年10月〜平成18年4月)において、従業員としてホームページの企画、制作、管理、印刷物デザイン等を経験し、平成17年10月から現在まで、個人事業(屋号「MK WorkShop」)として、上記の経験を活かしてフリーで制作の仕事(ホームページの企画、制作、管理、印刷物デザイン、デジタル画像加工・デザインなど)を行っている(以下、この仕事を「フリーランス活動」ということがある。)。 イ 被告Y4は、平成18年5月から平成19年7月まで、原告会社が経営する焼肉店「焼肉職人ベアーズ」で、ホールとキッチンの補助を業務内容とするアルバイトをした。アルバイトの業務内容にホームページ制作等は含まれておらず、また、原告X2及び原告会社から格別の「教育と指導」を受けたこともない。 上記アルバイトの面接を受けた際、被告Y4は、店長に対して、個人事業として自らの経験を活かしてフリーランス活動(ホームページ制作、印刷物デザイン、デジタル画像加工・デザインなど)をしていることを話しており、原告X2にもそのことを当初から報告し、理解を得ていた。 被告Y4は、原告会社との間の上記アルバイト契約に伴って、「競業禁止」、「兼職禁止」、「秘密保持」について合意していない。被告Y4の関係では甲1、2のような書面(身元保証書・誓約書)が作成されていないことからも明らかである。 ウ 被告Y4は、原告会社から「焼肉職人ベアーズ」用のデザイン制作業務等を個別に受注したことがあるが、これは被告Y4が独立したフリーランスの業務として原告会社との間で請負契約を締結して個別受注したものであり、原告会社に送付した請求書に応じて報酬の請負代金の支払がされてきた。その際、被告Y4は自らの専門知識により業務を行い、原告らから格別の「教育と指導」を受けたことはない。また、被告Y4は、受注した作業に必要な限度において、原告らの著作物の利用を認められていた。 被告Y4は、自宅で行なった「焼肉職人ベアーズ」用のデザイン制作業務について、原告会社からアルバイト時間を上乗せした形で計算した報酬を受領したことがあるが、これは制作業務の対価について、便宜的にアルバイト時給計算を用いたものであり、アルバイトの業務内容に制作業務が含まれていたものではない。 被告Y4は、原告会社からの上記請負業務の受注の際に、「競業禁止」、「兼職禁止」、「秘密保持」について合意していない。そもそも独立した個人事業者が請負契約を締結する際に、「競業禁止」、「兼職禁止」を合意することは通常あり得ないし、それを合理化するような対価の支払合意もなかった。すなわち、平成19年6月〜平成20年8月までの15か月の間に原告会社から被告Y4に支払われた請負代金の合計額は60万0750円(月平均4万0050円)であり、収入がない月(平成19年8月、10月、11月、平成20年1月)や、5000円の月(平成20年3月、4月、7月)もあることから、「競業禁止、兼職禁止」の合意がなかったことは明らかである。また、「秘密保持」については格別の説明もなかった。これらの合意がないことは、被告Y4との関係において甲1、2のような書面(身元保証書・誓約書)が作成されていないことからも明らかである。 5 原告らの主張に対する被告会社の認否、反論 原告らの被告会社に関する主張はいずれも否認ないし争う。 (1) 各別紙に対する認否 原告作成の別紙B〜D、別紙1〜5、別紙α、β、γに対する認否は、別紙「認否目録(被告会社)」のとおりである。 (2) 被告会社の主張 ア 不正競業、兼職について 原告らが主張する被告Y1の不正競業行為は認められず、仮に被告Y1に原告会社に対する何らかの不正競業行為が認められたとしても、被告会社がこれに協力、加担した事実は一切ないから、原告らの主張は認められない。 (ア) 別紙B102番について 原告らが原告会社が作成したと主張する「ディレクトリ登録一覧表」(甲1735。甲1106と同一のもの)は、原告会社作成のものか否か明らかでなく、また、上記文書は、単なるホームページの羅列にすぎず何らの創作性も存しないし、「電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」ではないためデータベースの著作物たり得るものでもない。 仮に上記文書が原告会社作成のものであったとしても、被告会社は、上記文書が原告会社作成のものであることを全く認識せずに被告Y1から受領したものであり、かつ、そのことについて何らの過失もなかったのであるから、被告Y1の上記行為に「積極的に協力加担した」とはいえない。確かに、甲1735をよく見れば、原告会社の名前が記載されているが、同文書には膨大な情報が含まれており、原告会社の名前が出てくるのはそのごく一部にすぎず、指摘されなければその部分を探すのも容易ではなく、被告会社が被告Y1から上記文書を受け取ったからといって、同文書が原告会社の作成に係るものであることを認識できたとはいえない。 したがって、被告会社が被告Y1から上記文書を受領したことについて、被告会社は、原告会社に対して何ら損害賠償責任を負うものではない。 (イ) 別紙B117番について 原告らは、被告会社が原告会社の競業他社(株式会社DYM)に業務を発注したと主張するが、被告会社は同社に対して業務発注をしておらず、そもそも被告会社において原告会社の競業他社に業務発注してはならないという法的義務もないから、同請求原因に基づく被告会社に対する請求は理由がない。 (ウ) 別紙B120番について 原告らは、被告会社がヘルムート社に発注した業務を原告会社が受注していれば500万円以上の利益を上げることができたと主張するが、被告会社がある業務をどの会社に発注するかは被告会社が自由に決することができることはいうまでもないことであり、被告会社には原告会社に対して上記業務を発注すべき法的義務はないから、原告らの上記主張は失当である。 (エ) 別紙B140番について 原告らは、被告会社が、被告Y1が原告会社において謹慎処分となったことを知った途端、原告会社の営業秘密、ノウハウ、著作物などを利用し尽くしたため、原告会社との間の本件業務委託契約を平成20年5月末をもって一方的に解除したと主張する。 しかし、被告会社が「原告会社の営業秘密、ノウハウ、著作物などを利用し尽くした」などという事実は一切ない。被告会社は、いわゆるFX取引を主たる業務とする会社であり、原告会社とは全く業態が異なるため、原告会社の営業秘密やノウハウ等を取得する動機自体がない。また、被告会社は、平成19年12月以降、原告会社からシステム管理業務やこれに関する制作業務、宣伝や販促等についての助言や資料提供を受けたことはあるが、それらはいずれも原告会社との本件業務委託契約(甲1356)に基づくものであって、何ら法的に問題とされるべきものではない。 被告会社は、本件業務委託契約を解消するに際して、担当取締役のBが原告X2に対して十分な説明をしており、一方的な解除ではない。 被告会社は、被告Y1に対してHPリニューアル作業やWebマーケティングに関するアドバイザリー業務を委託していたところ、被告Y1が被告会社におけるWebマーケティング業務に欠かせない存在となったため、被告会社は、平成19年11月頃から、被告Y1に対し、被告会社の常勤の正社員となることを打診していたが、被告Y1から、被告会社が原告会社とコンサルティング契約を締結し、被告Y1は原告会社のスタッフとして被告会社の業務を行うという形態が提案されたことから、被告会社は原告会社と本件業務委託契約を締結したものであり、このような経緯からすれば、被告会社にとって、原告会社との本件業務委託契約は、被告Y1に被告会社の業務に専念してもらうための方策だったのであり、被告Y1が被告会社の業務を行うとの前提がなければ、原告会社とのコンサルティング契約の締結はあり得なかったものであり、原告会社も上記の事情を十分に認識した上で本件業務委託契約を締結したのであるから、被告Y1の被告会社における業務遂行が不可能になったことを受けて、被告会社が本件業務委託契約を解消したことにつき法的に非難されることはない。また、本件業務委託契約を継続させたくとも、原告会社は、被告Y1と同程度に被告会社における業務ができる人材を用意することができなかった。 (オ) 別紙B145番、197番について 原告らは、被告会社のBが、原告会社の営業秘密、ノウハウ等を利用し尽くしたため、原告X2に対し、真実を言うと被告会社と原告会社の間の業務がなくなる旨脅迫したと主張し、本来なら300万円以上の利益が1年に2〜3回得られたことを前提に損害賠償を請求する。 しかし、被告会社が、「原告会社の営業秘密、ノウハウ、著作物などを利用し尽くした」という事実はなく、被告会社には動機がなく、Bは、原告X2に対し、原告らが主張するような脅迫的言動をしていない。また、被告会社は、原告会社が「300万円以上の利益が1年に2〜3回得られ」るような業務を原告会社に発注すべき法的義務は一切ない。 イ 営業妨害、業務懈怠について 仮に原告らが主張する被告Y1の営業妨害行為、業務懈怠行為が認められたとしても、被告会社がこれに協力、加担した事実は一切ないから、原告らの主張は認められない。 被告会社は、平成19年11月頃、被告Y1に対し、被告会社の常勤の正社員となって欲しい旨打診したことがあるが、これにより原告会社の営業が妨害されたことはない。むしろ、被告Y1の提案で原告会社は被告会社とコンサルティング契約を締結することになり、原告会社の業務は拡大し、利益を得られるようになったといえる。 (ア) 別紙B59番、157番、205番について 原告らは、平成19年4月から同年7月にかけて、「ぐるなび社」や、「L新橋店」等の件につき、被告Y1に営業妨害行為や業務懈怠行為があったと主張するが、被告Y1の上記業務懈怠等の有無自体が明らかでなく、仮に何らかの業務懈怠があったとしても、これに被告会社が協力加担した事実は一切ない。 (イ) 別紙1について 原告らは、平成19年12月から同20年5月にかけて、被告Y1がベトナム人料理人の招聘に関する業務を怠った等と主張するが、被告Y1の上記業務懈怠の有無自体が明らかでなく、仮に何らかの業務懈怠があったとしても、これに被告会社が協力加担した事実は一切ない。 (ウ) 別紙B209番、別紙2について 原告らは、平成19年12月から同20年2月にかけて、被告Y1が新飲食店の開店に関して被告Y4に対する管理業務を怠った等と主張するが、被告Y1の上記業務懈怠の有無自体が明らかでなく、仮に何らかの業務懈怠があったとしても、これに被告会社が協力加担した事実は一切ない。 (エ) 別紙B202番、203番、206番、210〜221番、227番、235番、236番、239番、240番、別紙3、別紙5、別紙αについて 原告らは、被告Y1が原告会社で使用していたパソコンについてウイルスチェックを怠ったこと、被告Y1が原告会社における「ディレクトリ登録」業務や「相互リンク」業務を怠ったと主張するが、被告Y1の上記各業務懈怠行為の有無自体が明らかではなく、仮に何らかの業務懈怠があったとしても、これに被告会社が協力加担した事実は一切ない。 ウ 情報管理義務違反について 原告らは、被告Y1が原告会社から課せられている情報管理義務に違反したと主張するが、被告Y1の情報管理義務違反の有無自体が明らかではなく、仮に何らかの違反行為があったとしても、これに被告会社が協力加担した事実は一切ない。 エ 著作権侵害について 原告らは、別紙Cにおいて主張する文書を被告Y1が無断使用して原告会社の著作権を侵害したと主張するが、別紙Cにおいて挙げる文書はいずれも著作物性を欠くものであり著作権侵害行為はない。 仮に、いずれかの文書に著作物性が認められ、かつ、被告Y1に何らかの著作権侵害行為があったとしても、被告会社が当該侵害行為に協力加担した事実はない。 また、被告会社が原告会社と本件業務委託契約を締結した平成19年12月以降に被告Y1から受領した資料などは、本件業務委託契約の履行として受領したもの、又はWebサイトリニューアル業務に関するプレゼン資料等として受領したものにすぎず、被告会社がこれらの文書を受領、利用することに何ら問題はなく、著作権侵害行為とはならない。 オ 営業秘密侵害について (ア) 原告らは、被告Y1が別紙Dにおいて主張する文書を不正に使用したと主張するが、別紙Dにおいて挙げる文書はいずれも営業秘密性を欠くものである。仮に、いずれかの文書に営業秘密性が認められ、かつ、被告Y1に何らかの営業秘密侵害行為があったとしても、被告会社が当該侵害行為に協力加担した事実は一切ない。 (イ) 仮に、被告会社が被告Y1に業務を依頼するようになった平成19年8月以降、被告会社が被告Y1から受領した資料などに原告らの営業秘密に該当する資料で、かつ、不正取得行為若しくは不正開示行為が介在したものが含まれていたとしても、被告会社の行為は不正競争防止法19条1項6号に該当するものであり、不正競争となる余地はない。 また、被告会社が原告会社と本件業務委託契約を締結した平成19年12月以降に被告Y1から受領した資料などは、原告との業務委託契約の履行として受領したもの、又はWebサイトリニューアル業務に関するプレゼン資料等として受領したものにすぎないため、その中に、原告らの営業秘密に該当する資料で被告会社に開示すべきではないものを、被告Y1が不正に取得し開示したものが含まれていたとしても、被告会社の行為は不正競争防止法19条1項6号に該当するものであり、不正競争となる余地はない。 カ 無形損害について 原告会社は別紙B155番〜201番の事実により信用、名誉を毀損さ れた、原告X2は別紙B161番〜201番の事実により精神的損害を被ったと主張する。 しかし、原告らが主張する事実関係のうち、被告会社の担当者以外の者(被告Y1や被告Y4等)の言動については、その事実の有無を問わず、被告会社が原告らに対して責任を負う根拠はない。 原告らが主張する事実関係のうち、被告会社のB、代表取締役D、同Cの言動(別紙B190番〜193番、196番〜201番)については、別紙認否目録(被告会社)記載のとおり、何ら原告会社や原告X2に対する名誉毀損や信用毀損に当たるような言動ではない。 キ 被害回復のために要した費用について 原告会社は、別紙B188番、195番の事実に基づき、被告会社に対し、被害回復のために要した費用を請求するが、原告会社にそのような損害が生じたとは認められず、仮に別紙B188番、195番の事実の一部が認められるとしても、これについて被告会社が責任を負うべきいわれは全くない。そもそも、被告会社は、原告らに対して何ら損害賠償責任を負わないから、仮に原告会社に何らかの「被害回復のために要した費用」が発生していたとしても、それについて被告会社が支払義務を負う理由はない。 第4 当裁判所の判断 1 不正競業、兼職について (1) 原告らは、平成18年6月初めに原告会社と被告Y1との間で、平成18年末に原告会社と被告Y4との間で、それぞれ、原告会社と競業してはならないこと、競業する業務は原告会社を通して受注し原告会社に入金しなければならないこと、原告会社の業務を行う上で知り得た個人情報、企業秘密を含む全ての事実につき第三者に漏洩しないことを合意したと主張し、原告X2は、原告本人兼原告代表者尋問においてその旨供述する。 (2) 被告Y1が、原告会社との間で、平成18年6月頃、労働又は社内空間において知り得た全ての事実、個人情報、企業機密を第三者に漏洩しないことを合意したこと(以下「本件秘密保持の合意」という。)は認められるものの(甲1、乙イ3)、本件全証拠によるも、その他の上記原告らの主張を認めるに足りる的確な証拠はない。 被告Y1は、平成18年6月頃から原告会社の業務に関与していたが、平成19年12月21日頃に原告会社と雇用契約を締結するまでは、原告会社との業務委託契約に基づき、個人事業主として、原告会社から委託を受けた業務を行っていたものであり、原告会社以外の業務(原告会社の業務と関連するものを含む)にも従事していたことが認められる(乙イ3、乙ニ8、被告Y1本人)。したがって、平成19年12月21日頃までの被告Y1の上記業務形態からすると、被告Y1が、平成18年6月頃に、原告会社と競業する業務をしてはならない旨、兼職してはならない旨の合意をしたとは認め難く、原告ら主張の合意を認めることはできない。 被告Y1は、平成19年12月21日頃に原告会社と雇用契約を締結した以降は雇用契約の付随義務として競業避止義務、兼職禁止義務を負うが、同契約前は、原告会社との間で業務委託契約を締結していたものの雇用関係にはなかったのであるから、被告Y1が雇用契約の付随義務として競業避止義務、兼職禁止義務を負うと解することはできない。 したがって、被告Y1につき、@本件秘密保持の合意違反の有無が問題となるのは平成18年6月頃より後の行為であるが、A競業避止義務違反、兼職禁止義務違反の有無が問題となるのは、原告会社との雇用契約締結(平成19年12月21日頃)後の行為ということになる。 (3) 他方、被告Y4は、平成18年5月頃から、原告会社が経営する焼肉店でキッチン、ホールの補助を業務内容とするアルバイトをしていたものの、被告Y1の場合と異なり、甲1の誓約書のような書面は全く作成されていない。また、被告Y4は、それまでの複数の会社にけるホームページの企画、制作、管理、印刷物デザイン等の業務経験を踏まえ、遅くとも平成18年5月頃には、「MK Work Shop」の屋号で、ホームページの企画、制作、管理等の業務を個人事業として行ってきたこと、当該業務を引き続き行うため週末のみの勤務を希望することをアルバイトの採用面接の際に店長に伝えていること(甲1660、乙ハ1〜7の2、16の1〜19の2、21、被告Y4本人)からすると、被告Y4が、平成18年末に、原告らが主張する内容の合意をしたことはおよそ考え難く、同被告について原告ら主張の合意を認めることはできない。そして、上記アルバイトの勤務内容に照らせば、被告Y4が同契約の付随義務として競業避止義務、兼職禁止義務を負うものと解することもできない。被告Y4は、原告会社から、アルバイトをしていた焼肉店のコースメニューの制作やホームページの更新等の業務を個人事業として請け負い、その対価の支払を受けていたことが認められるが(甲107、112、1380、1465、1466、1470、1510、1550、1603の1、乙ハ8〜10の1、13〜15、20等)、これは上記アルバイトに係る業務とは別に、個別の請負契約に基づいて行われたものと認めるのが相当であるところ、同契約は競業避止義務や兼職禁止義務を負うべき内容の契約ということはできないから、同契約を根拠として被告Y4が競業避止義務、兼職禁止義務を負うと解することもできない。 したがって、被告Y4が、原告会社に対して競業避止義務、兼職禁止義務、秘密保持義務を負うと認めることはできず、原告らの被告Y4の不正競業行為、兼職行為に基づく請求は、いずれもその前提を欠き、理由がない。 (4) 以下、原告らが、被告Y1に対する不正競業、兼職に基づく請求に係る請求原因事実として主張する各事実(別紙A−3)について検討する。 ア 別紙B2番、4番、9番の2、10番、18番、26番、27番の1、34番、44番の1、2、51番の1、2、56番、58番、63番、65番、69番、77番、80番、86番、101番、103番の各事実については、いずれも、本件秘密保持の合意に違反する行為であることの具体的な主張立証はない。仮に上記各事実が認められたとしても、これらはいずれも被告Y1が原告会社と雇用契約を締結する以前の行為であるから、原告会社に対する競業避止義務、兼職禁止義務に違反する行為に当たるということはできない。上記各事実は、原告Y1が個人事業主として委託を受けた業務を行ったものにすぎず、原告会社に対する不法行為、債務不履行を構成するものということはできない。 別紙B27番の1には被告Y1が原告会社と雇用契約を締結した平成19年12月以降の事実が記載されているが、当該期間に係る原告らが根拠とする証拠(甲1505の1及び2、1562)によっても、被告Y1がKから業務を受注していたことを認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。 イ 別紙B35番について 原告らが別紙B35番の事実の根拠とする証拠(甲1562、1569、1571、1572)によっても、平成20年5月13日頃、被告Y1がKから業務を受注していたことを認めることはできない。甲1646(平成20年6月7日付け被告Y1作成の文書)には、「以下の行為につきまして、私が行った行為であると認めます。」、「以下の企業において業ムに活用し報酬を得た件…K’(判決注:Kのこと)」との記載がある。しかしながら、同文書は、平成20年6月7日に、原告X2が、被告Y1に対し、自らが不正行為であると疑っている被告Y1の行為について事実の有無、内容等を長時間にわたって問い詰め、原告X2が被告Y1の不正行為であると指摘する内容を被告Y1にメモさせ、それを手書きの文書にまとめるように指示したことに基づき作成され、これを確認した原告X2の指摘どおりに加筆修正されたものであり(甲1928、1930、1931)、その作成の経緯に照らし、被告Y1の認識を正確に反映して作成されたものとは認め難く、その信用性には疑問をいれざるを得ない。そして、ほかに別紙B35番の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 ウ 別紙B140番、145番、197番について 別紙B140番、145番、197番の各事実は被告Y1ではなく被告会社のBがした行為であるから、これらの事実は被告Y1の不正競業、兼職に基づく責任を根拠づけるものとはなり得ない。 エ 別紙B120番について 別紙B120番の事実については、被告Y1が具体的にどのような行為をしたのか不明であり、不法行為又は債務不履行を構成する具体的な事実が明らかではない。原告ら主張の事実を認めることはできない。 オ 別紙B102番、117番について 別紙B102番の事実については後記5(3)、6のとおり、別紙B117番の事実については後記6のとおり、いずれも原告らが主張する事実を認めることはできない。 カ 以上によれば、原告らが主張する被告Y1及び被告Y4の不正競業、兼職に基づく不法行為責任、債務不履行責任は、いずれもこれを認めることができない。 2 横領、背任について (1) 別紙B18番について 証拠(甲475、479、481、482)によれば、被告Y1が、平成19年1月31日から同年2月1日にかけて、原告会社が経営する焼肉店の名義で豆乳ダイエットクッキーを購入し、その代金5995円をクレジットカードで支払ったことは認められるが、当該クレジットカードが原告会社名義のものであることを認めるに足りる的確な証拠はなく、被告Y1の行為が横領、背任に当たると直ちに認めることはできず、原告らの主張は理由がない。 (2) 別紙B153番について 本件全証拠によるも、別紙B153番の事実を認めるに足りる証拠はなく、原告らの主張は理由がない。 3 営業妨害、業務懈怠について (1) 別紙B59番、157番、205番、別紙4について 原告らは、被告Y1が、原告会社が経営する飲食店が利用していた株式会社ぐるなび(以下「ぐるなび」という。)の上位検索PRキャンペーンについて、平成19年8月から同年10月にかけて利用を停止し、原告会社の営業を妨害したと主張する。 被告Y1は平成19年8月分につき上位検索PRをお休みする旨の電子メールをぐるなびの担当者に送信しているが(甲1056)、同時に同年9月から再開する旨も伝えており同年8月から10月にかけて利用を停止した旨の原告らの主張と整合しないことに加え、原告会社は、ぐるなびとの間で、平成19年2月から平成20年1月まで1年の期間で前年同様の契約(基本契約+上位検索PRキャンペーン)を締結したことが認められること(甲442、弁論の全趣旨)、被告Y1が平成19年4月25日にぐるなびの担当者に送信した電子メールにおける「上位PRを外す月は8月頃を予定しております」との記載は、被告Y1が個人事業として業務を受託していたJについてのものと認めるのが相当であること(甲742)、ぐるなびの担当者の退職により上位検索PRに不備があった可能性があったとしてぐるなびの担当者が原告会社に謝罪に来たこと(甲1302)からすると、平成19年8月分につき上位検索PRをお休みする旨の上記電子メールは、原告会社が経営する飲食店についてのものとは認めることができず、ほかに原告ら主張の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって、上記原告らの主張を認めることはできない。 (2) 別紙Bの76番について 原告らは、三谷産業グループが原告会社との業務委託契約につき減額、解除したのは、被告Y1が当該契約を破棄させる目的で電子メール(甲1615)を送信したからであると主張するが、当該電子メールには上記業務委託契約に関する記載は一切なく、原告ら主張の事実を認めることはできない。 (3) 別紙Bの83番、95番について 原告らは、Oに係る業務懈怠、営業妨害の前提として、平成19年12月に被告Y1がO協会の主任評価員の資格を取得した旨の虚偽を述べたと主張し、原告X2は、原告本人兼原告代表者尋問においてその旨供述するが、同供述を裏付ける的確な証拠は全くなく、採用することができない。したがって、原告らの主張の事実を認めることはできない。 (4) 別紙1について 原告らは、被告Y1が被告Y3との大量の私的な電子メールの交換、デート等を優先したために、ベトナム人調理人の招聘(入国ビザの取得)、来日に関する業務を懈怠したと主張するが、被告Y1が被告Y3との間で送受信した電子メールは業務時間外のものを含め1日当たり数通程度であり、業務の遂行に支障を生じさせるほどのものとは認められず(原告らがその主張の根拠とする証拠(別紙1記載)によっても、被告Y1と被告Y3が平成19年12月11日の業務時間中に電子メールを10回やり取りした事実を認めることはできず、仮にこの事実が認められたとしても業務の遂行に具体的な支障が生じたと直ちに認めることもできない。)、また、被告Y3との交際により被告Y1がベトナム人調理人の招聘に係る業務を懈怠したと認めるに足りる的確な証拠はない。 原告らは、ベトナム人調理人に係る招聘(就労ビザの申請)について、被告Y1が原告会社に不利益を与えることを意図して、調理人のほか、その妻についてもビザの申請をした、原告X2に見せた書類とは別の書類(一時招聘の申請の際に使用したもの)を別紙として添付して申請した、調理人とその妻の2名について就労ビザの申請をしたにもかかわらず調理人についてのみ申請を行いその妻の申請は行わなかったと虚偽の報告をしたと主張する。しかし、被告Y1はビザの申請事務を行うのは初めてのことであったにもかかわらず、原告X2から具体的かつ明確な指示があったものと認めることはできないこと、被告Y1が原告X2へ見せた書類と別の書類を東京入国管理局へ提出したことを認めるに足りる的確な証拠はないこと、被告Y1が提出した「招へい理由書」(甲1657)には査証申請人として「E…ほか1名」と記載されているものの、申請人が複数の場合に添付しなければならない申請人全員のリストは添付されておらず、また、別紙の「招聘理由書」には夫婦で来日したいとの意向が記載されているものの今回招聘を行うのは料理人1名である旨記載されていることからすると、被告Y1が平成20年1月15日に調理人のみの申請を行った旨を報告したことが直ちに虚偽の報告であったと認めることはできないことからすると(甲1410の2、乙イ3、弁論の全趣旨)、被告Y1が東京入国管理局に提出した申請書類に不備があったために就労ビザの発行が遅れたとしても、被告Y1に業務懈怠があったと認めることはできない。 その余の原告らの主張についてもこれを認めるに足りる的確な証拠はなく、原告らの主張は理由がない。 (5) 別紙Bの209番、別紙2について 原告らの主張は、被告Y1が制作物を作成する被告Y4の管理者の立場にあったことを前提とするが、証拠(甲1417の1、1418の2、1420、1421、1425、1427、1430の1、2、1431、1433、1426、1438、1439等)によれば、制作物の修正やスケジュールについて被告Y4に指示をしていたのは原告X2であったことが認められ、被告Y1が被告Y4の管理者の立場にあったと認めることはできない。したがって、被告Y1が被告Y4の制作物に係る管理業務を怠ったとする原告らの主張は、前提において理由がない。 被告Y1が原告会社の経営する飲食店のレジデータ管理等の業務を懈怠し他の従業員に押しつけたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、また、平成20年2月23日の新飲食店開店日における業務懈怠については、当該飲食店の開店について被告Y1が具体的にどのような業務を担当していたのかなどを認めるに足りる的確な証拠がないから、被告Y1が業務を懈怠したとの事実を認めることはできない。 その余の原告らの主張についてもこれを認めるに足りる的確な証拠はなく、原告らの主張は理由がない。 (6) 別紙B202番、203番、206番、210番〜221番、227番、235番、236番、239番、240番、別紙3、別紙5、別紙αについて ア 別紙3、別紙B221番について 原告らは、被告Y1が原告会社における不正アクセスなどの解析を行う管理者であったにもかかわらず、パソコンのセキュリティーを意図的に回避して不特定多数からの添付ファイルを受け取る等したことにより、人為的にコンピュータウイルスを呼び込み、使用する原告会社のパソコンをウイルスに感染させたと主張するが、原告会社において不正アクセス等の解析を行う管理者が被告Y1であったことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、証拠(甲362、613、708、725、1069、1070等)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y1は被告Y3等との間で私用の電子メールの送受信をしていたこと、被告Y1が原告会社のメールアドレスを使用して私書箱サービスを利用していたこと、被告Y1が原告会社のメールアドレス宛ての電子メールを被告Y1個人のメールアドレス宛てに転送していたこと、被告Y1が原告会社で使用していたパソコンがコンピュータウイルスに感染したことなどが認められるものの、被告Y1がパソコンのセキュリティーを意図的に回避して原告会社のパソコンをコンピュータウイルスに感染させたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、原告らの主張を認めることはできない。 イ 別紙5、別紙α、別紙B202番、203番、215番、217番、218番、220番について 原告らは、被告Y1が原告会社のパソコンを利用して業務時間中に被告Y3と電子メールをやり取りしたこと、仮病などにより、原告会社で行うべきであったディレクトリ登録業務、相互リンク業務、経理補助業務、その他の業務を意図的に懈怠したと主張するが、原告らが主張の根拠とする証拠(別紙B該当欄、別紙5記載)によれば、被告Y1が被告Y3と電子メールのやり取りを行っていたことは認められるものの、その数は1日当たり数通程度であり、被告Y1が仮病などにより具体的に原告会社の上記業務を懈怠し、又は原告会社の営業を妨害したとの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、原告らの主張を認めることはできない。 原告らが主張するその余の業務懈怠についてもこれを認めるに足りる的確な証拠はなく、原告らの主張は理由がない。 ウ 別紙B227番について 原告らが主張の根拠とする証拠(甲859〜861、1646)によれば、被告Y1は、被告Y4に対し、「社内セキュリティの問題もあり、下記同様にダウンロードがいいと思う。」と伝えたことが認められるが、本件全証拠によるも、原告会社のコンピュータに施されているセキュリティー状況を被告Y4に漏洩したとの事実を認めることはできず、原告らの主張は理由がない。 エ 別紙B206番、211番、212番、216番、219番、235番、236番、239番、240番について 原告らが主張の根拠とする全証拠(別紙B該当欄記載)によっても、別紙B206番、211番、212番、216番、219番、235番、236番、239番、240番の各事実を認めることはできない。原告らの主張は理由がない。 オ 別紙B210番、213番、214番について 原告らが主張する別紙B210番、213番、214番の各事実は、被告Y1が具体的にどのような行為をしたのか不明であり、不法行為又は債務不履行を構成する具体的な事実が明らかではない。原告らの主張は失当というほかない。 (7) 以上によれば、原告らが主張する被告Y1の営業妨害、業務懈怠に基づく不法行為責任、債務不履行責任は、いずれもこれを認めることはできない。また、上記1で説示したように、被告Y4には不正競業(兼職)行為が認められない以上、被告Y4が不正競業を行うことを前提とする営業妨害、業務懈怠に基づく責任も認めることはできない。 4 情報管理義務違反について (1) 原告らは、原告会社では、@社外に添付書類を送るときはネットワーク管理者である原告X2の了承を得ること、A社外から添付書類を受け取る可能性があるときは、相手先を原告X2に確認し、ウィルスセキュリティー調査の上、了承が出てから受領すること、Bメモリースティックなどの外部機器の使用禁止、Cメールアドレスの転送禁止、個人情報記載のファイルの保存禁止を遵守するよう従業員に義務付けてきたと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。 また、上記1で説示したように、被告Y4は原告会社に対して秘密保持義務を負うと認めることはできないから、情報管理義務違反に基づく被告Y4に対する請求は理由がない。 他方、上記1で説示したように、被告Y1は、原告会社との間で本件秘密保持の合意をしていることから、労働又は社内空間において知り得た全ての事実、個人情報、企業秘密を第三者に漏洩しない義務を負うことから、以下、被告Y1につき、当該義務違反の有無を検討する。 (2) 別紙B221番について 上記3(6)アのとおり、被告Y1が原告会社のメールアドレス宛ての電子メールを被告Y1個人のメールアドレス宛てに転送していた事実は認められるが、原告らが主張の根拠とする証拠(別紙B該当欄記載)によっても、転送設定を取引先に依頼していたこと、原告会社のメールアドレス宛ての電子メールを転送するなどして第三者に開示したことを認めることはできず、被告Y1に本件秘密保持の合意に反する行為があったということはできないから、原告らの主張に理由はない。 (3) 別紙B223番、229番について 証拠(甲151、964、1251)によれば、被告Y1が原告会社のウェブに関する管理IDとパスワードを被告Y4に教えたこと、被告Y1が原告会社の新飲食店の経営や契約に係る情報を被告Y3に教えたことが認められ、これらの行為は本件秘密保持の合意に反するものということができる。しかしながら、当該行為により原告会社に具体的な損害が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はないから、原告らの別紙B223番、229番に係る請求に理由はない。 (4) 別紙B225番、226番、231番、234番について 原告らが主張の根拠とする証拠(別紙B該当欄記載)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y1が原告会社のIDとパスワードを利用して私用のために宿泊施設の予約をしたことが認められるものの、上記ID等の利用行為が、それのみで第三者への漏洩に当たり本件秘密保持の合意に反する行為ということはできない上、当該行為により原告会社に具体的な損害が生じたことを認めるに足りる的確な証拠もない。したがって、原告らの別紙B225番、226番、231番、234番に係る請求に理由はない。 (5) 別紙B227番、239番について 上記3(6)ウ、エのとおり、別紙B227番、239番の各事実を認めることはできず、原告らの主張に理由はない。 (6) 別紙B228番、233番について 原告らが主張の根拠とする証拠(別紙B該当欄記載)によっても、別紙B228番、233番の各事実を認めることはできず、原告らの主張は理由がない。 (7) 別紙B232番、237番について 証拠(甲1423、1424、1534、1535)によれば、被告Y1が原告会社の業務に係る文書である「2008−2−2鹿島DM送付顧客リスト」、「業務委託契約書」の電磁データを被告Y1個人のメールアドレス宛てに送信したことが認められる。しかしながら、被告Y1がこれらの文書を第三者に開示したことを認めるに足りる証拠はなく、同被告に本件秘密保持の合意に反する行為があったということはできないから、原告らの主張に理由はない。 (8) 別紙B238番について 別紙B238番の事実は、被告Y1が株式を購入した行為が原告会社を危機にさらしたとするものであり、被告Y1の原告会社に対する情報管理義務違反とは関係のない事実であるから、原告らの主張は失当というほかない。また、当該行為により原告会社に具体的な損害が生じたことを認めるに足りる的確な証拠もない。 (9) その他、不正競業、営業妨害に関する事実と重複する事実については、上記1、3のとおりであり、いずれも理由はなく、被告Y1に、原告らが主張する情報管理義務に基づく不法行為責任、債務不履行責任を認めることはできない。 5 著作権侵害について (1) 著作権侵害1について 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料1、甲1731)の文書名(データ名)等を変えた文書(資料2、甲1732)の電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付して被告会社のパソコン及び被告Y1の自宅のパソコンへ送信した行為(甲1536、1537の1)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張する。 しかしながら、甲1731の文書は、本件業務委託契約に基づき、原告会社が被告会社のウェブサイトのリニューアル作業に係るプレゼン資料として作成し被告会社に提案したものであり、甲1732の文書は被告会社の担当者からの依頼を受け甲1731の文章を修正し、被告会社へ提案したものと認められること(甲1536、乙イ4、乙ニ10、弁論の全趣旨)からすると、甲1732の文書の作成、被告会社への提案は本件業務委託契約の受託業務の履行として行われたものといえ、被告Y1の上記各行為も、被告会社から受託した業務の履行として行われたものと認められる。そして、被告会社から受託した業務を履行するために、原告会社が著作権を有する文書を複製、翻案することについては、原告会社の包括的な許諾があったものと認めるのが相当であるから、被告Y1の上記各行為が原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害するということはできない。 (2) 著作権侵害2、3について 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料3、4、甲1733、1734)の文書名(データ名)のみを変えた文書(甲1733の2、1734の2)の電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付して被告会社のパソコンへ送信した行為(甲1537の2、3、4)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張する。 しかしながら、上記著作権侵害1と同様、甲1733、1734の文書は、本件業務委託契約に基づき、原告会社が被告会社のウェブサイトのリニューアル作業に係るプレゼン資料として作成し被告会社に提案したものであり、甲1733の2、1734の2の各文書は、保存の際に文書名を変えて保存し被告会社へ提案したものと認められること(甲1536、乙イ4、乙ニ10、弁論の全趣旨)からすると、甲1733の2、1734の2の各文書の保存、被告会社への提案は本件業務委託契約の受託業務の履行として行われたものといえる。したがって、被告Y1の上記各行為については、原告会社の包括的な許諾があったものと認めるのが相当であるから、原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害するということはできない。 (3) 著作権侵害4について 原告らは、被告Y1が、原告会社従業員が作成した文書(資料5、甲1735)の文書名(データ名)のみを変えた文書(甲1735の2)の電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付して被告会社のパソコンへ送信した行為(甲1105、1106)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張する。 しかしながら、甲1735の文書は、無料ディレクトリ登録サイト、携帯サイト向け検索エンジン、キーワード等をリスト化したものにすぎず、表現上の創作性を有するものとも、素材の選択、配列に創作性を有するものとも認めることはできないから、著作物性を認めることはできない。また、情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものということもできないため、データベースの著作物に当たるということもできない。したがって、原告らの著作権侵害の主張は理由がない。 (4) 著作権侵害5について 原告らは、被告Y1が、原告会社従業員が作成した文書(資料6、甲1736)の電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付して被告Y4のパソコンへ送信した行為(甲403、404)、被告Y4が当該文書の文書名(データ名)等を変えた文書(資料7、8、甲1737、1738)の電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付して被告Y1が使用する原告会社のパソコンへ送信した行為が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張する。 しかしながら、甲1736の文書も、上記(3)の甲1735の文書と同様に、無料ディレクトリ登録サイトをリスト化したものにすぎず、表現上の創 作性を有するものとも、素材の選択、配列に創作性を有するものとも認めることはできないから、著作物性を認めることはできない。また、情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものということもできないため、データベースの著作物に当たるということもできない。したがって、原告らの著作権侵害の主張は理由がない。 (5) 著作権侵害6について 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料9、甲1739)を基に一部を模倣した文書(資料10、11、甲1740、1741)を作成しその電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付してAのパソコンへ送信した行為(甲324、325、425、426)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張する。 被告Y1は甲1739の文書を参考に甲1740、1741の文書を作成したものであるが、甲1739の文書は業務上の課題、改善事項等を一般的な表現で箇条書きしたものにすぎず、また、甲1740、1741の文書の表現が甲1739の文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「経営面」、「運営面」、「季節飾りつけ」、「ビラ撒きマニュアル」等の項目やタイトルなどであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。したがって、被告Y1の上記行為が上記文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると認めることはできない。 (6) 著作権侵害7について 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料12、甲1742)の電磁データを電子メールに添付して自宅のパソコンへ送信し、保存した行為が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権)を侵害すると主張するが、原告らが主張の根拠とする証拠(甲1759、1760)によっても、被告Y1の自宅のパソコンに保存されていた文書の表現が甲1742の文書と同一であると認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、原告ら主張の著作権侵害を認めることはできない。 (7) 著作権侵害8について 原告らは、被告Y1が、原告会社従業員が作成した文書(資料13、甲1743)の文書名(データ名)のみを変えた文書(資料14、甲1744)の電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付して被告Y4のパソコンへ送信した行為(甲610、611)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張する。 しかしながら、甲1743の文書は、上記(3)、(4)と同様に、無料ディレクトリ登録サイトをリスト化したものにすぎず、表現上の創作性を有するものとも、素材の選択、配列に創作性を有するものとも認めることはできないから、著作物性を認めることはできない。また、情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものということもできないため、データベースの著作物に当たるということもできない。したがって、原告らの著作権侵害の主張は理由がない。 (8) 著作権侵害9について 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料15、甲1745)の文書名(データ名)のみを変えた文書(資料16〜18、甲1746〜1748)の電磁データを複製保存した上で、電子メールに添付して被告Y4のパソコンへ送信した行為(甲275、276、419〜422)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると主張する。 被告Y1は甲1745の文書を参考に甲1746〜1748の文書を作成したものであるが、甲1745の文書は、ディレクトリ登録向けの単語、キーワード、キーワードを使用して一定の文字制限内でまとめられた一般的な紹介文案、対象店舗のURLやメールアドレスなどが一般的な表現で箇条書きされたものにすぎず、また、甲1746〜1748の文書の表現が甲1745の文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「タイトル」、「15文字まで」、「長文(150まで)〜中文(80文字)」、「キーワード」等の項目やタイトル、キーワードを使用して一定の文字制限内でまとめられた一般的な紹介文案などであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。したがって、被告Y1の上記行為が上記文書に係る原告会社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると認めることはできない。 (9) 著作権侵害10について 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料19、甲1749)の電磁データを電子メールに添付して自宅のパソコンへ送信し、保存した行為が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権)を侵害すると主張するが、原告らが主張の根拠とする証拠(甲1759、1760)によっても、被告Y1の自宅のパソコンに保存されていた文書の表現が甲1749の文書と同一であると認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、原告ら主張の著作権侵害を認めることはできない。 (10)著作権侵害11について 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料20、21、甲1750、1751)の電磁データを無断で複製し(資料22、23、甲1752、1753)、当該文書を電子メールに添付して自宅のパソコンへ送信し、保存した行為(甲1047、1048、1247、1249)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権)を侵害すると主張する。 しかしながら、甲1750、1751の文書は、銀行への融資のために作成された一般的な事業計画書にすぎず、表現上の創作性を有するものということはできない上、甲1752、1753の文書の表現が甲1750、1751の文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「基本事項」、「計画因子」、「客単価」、「売上」、「初期投資内訳」等の項目やタイトル、表の形式や書式などであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。したがって、被告Y1の上記行為が上記文書に係る原告会社の著作権(複製権)を侵害すると認めることはできない。 (11)著作権侵害12 原告らは、被告Y1が、原告X2が作成した文書(資料24、甲1754)の電磁データを無断で複製し(資料25、甲1755)、当該文書を電子メールに添付して自宅のパソコンへ送信し、保存した行為(甲1247、1248)が当該文書に係る原告会社の著作権(複製権)を侵害すると主張する。 しかしながら、甲1754の文書は、店舗の開業までにやるべきことを箇条書きでまとめた一般的なリストにすぎず、表現上の創作性を有するものということはできない上、甲1755の文書の表現が甲1754の文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「やること」、「コンセプト」、「メニュー確定」、「仕入先の選定」等の項目やタイトルの一部、店舗の所在地や営業時間のみであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。したがって、被告Y1の上記行為が上記文書に係る原告会社の著作権(複製権)を侵害すると認めることはできない。 (12)以上によれば、著作権侵害に基づく原告らの請求は、いずれも理由がない。 6 不正競争防止法2条1項4号、7号〜9号の不正競争について 原告らは、別紙D記載の各情報(別紙Dの営業秘密侵害1の秘密として保管されていた営業秘密内容が書かれた文書およびデータ(1)〜(5)、営業秘密侵害2の秘密として保管されていた営業秘密内容が書かれた文書およびデータ(1)〜(7)、営業秘密侵害3の秘密として保管されていた営業秘密内容が書かれた文書およびデータ(1))が原告の営業秘密であり、これを被告Y1、被告Y4が不正に取得した、又は図利加害目的で利用、開示したと主張する。 しかしながら、原告らは、当該各情報が原告会社においてどのように管理されていたのかについて何ら具体的な主張立証をしておらず、当該各情報が「秘密として管理されている」(不正競争防止法2条6項)情報であることを認めるに足りる的確な証拠はないから、当該各情報が同項の「営業秘密」であると認めることはできない。また、被告Y1、被告Y4が、当該各情報を「不正の手段により」取得したこと(同条1項4号)、「不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で」当該各情報を使用、開示したこと(同項7号)についてもこれを認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって、原告らが主張する行為が、不正競争防止法2条1項4号、7号、8号又は9号の不正競争に該当すると認めることはできず、原告らが主張する営業秘密侵害を認めることはできない。 7 被害回復に対する妨害行為について 原告らは、被告Y1、被告Y4、被告Y3、被告会社の代表者等が、被告らが行った不正行為に係る事実関係や責任を否定し、原告X2を愚弄して、原告らの被害回復を拒否したことが不法行為に当たると主張するが、不法行為責任や債務不履行責任を問われたものが、請求者の主張する事実関係や問われた責任を否定して争うこと自体には何ら違法性はなく、また、原告らが主張する被告らの発言は、いずれも直ちに違法というべき内容のものではない。したがって、原告らが主張する被告らの行為が不法行為を構成するということはできず、原告らの上記主張に理由はない。 8 契約の不当破棄について 原告らは、被告会社が本件業務委託契約を合理的な理由なく不当に破棄したため、被告会社はこの不当破棄によって原告会社が受けた損害を賠償する義務を負うと主張する。 しかしながら、平成19年11月、被告会社が被告Y1に対して被告会社の常勤の正社員になることを打診したところ、被告Y1から、原告会社との間で業務委託契約を締結し、被告Y1が原告会社のスタッフとして被告会社が原告会社に委託した業務を行うという形態での契約を提案されたため、被告会社は原告会社と本件業務委託契約を締結したこと、本件業務委託契約において被告会社が委託した業務を原告会社において担当していたのは被告Y1のみであったこと、平成20年6月、被告会社は、原告会社から、被告Y1が体調不良を理由に原告会社を退職するため本件業務委託契約に係る被告会社における業務は原告X2が担当するが、1週間に1度程度しか業務を行うことはできず、被告Y1が行っていたのと同質の業務を行うことはできない旨の報告を受けたこと、原告会社には被告Y1に代わる人材がいなかったこと(甲1622、1632、乙ニ10、証人B、原告X2、弁論の全趣旨)からすると、本件業務委託契約においては、当該業務を被告Y1が担当することが重要な内容となっていたものということができ、被告Y1の退職により原告会社が同様の業務を被告会社に提供することができなくなったものと認められるから、被告会社が、被告Y1が業務を担当することができなくなったことを理由に申し出た本件業務委託契約の解消には、正当な理由があるといえる。 したがって、原告らの上記主張には理由がない。 9 無形損害について 原告らが無形損害の請求原因であると主張する事実については、上記7等で説示したとおり、これを認めるに足りる的確な証拠がないから、原告らの無形損害に係る請求は、理由がない。 10 以上によれば、被告Y1及び被告Y4が原告ら主張の不法行為責任、債務不履行責任を負うものと認めることはできない。したがって、被告Y1又は被告Y4が責任を負うことを前提とする原告らの被告Y3、被告Y2、被告会社に対する各請求は、いずれも理由がない。 11 結論 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 坂本康博 裁判官 寺田利彦 |
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