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【事件名】読売西部本社名誉毀損事件(3)
【年月日】平成24年3月23日
 最高裁(二小) 平成22年(受)第1529号 損害賠償等請求事件

判決


主文
 原判決を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由
 上告代理人升本喜郎ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は、上告人らが、インターネット上のウェブサイトに被上告人が掲載した記事により名誉を毀損されたと主張して、被上告人に対し、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) X1(以下「上告人会社」という。)は、九州地区を中心として日刊新聞の発行、販売を行っている会社である。X2、X3及びX4(以下「X2ら」という。)は、いずれも上告人会社の従業員で、X2は法務室長の地位にあり、X3及びX4は販売局に勤務している。
(2) 被上告人は、フリーのジャーナリストであり、インターネット上に自ら開設した誰でも閲覧可能なウェブサイト(以下「本件サイト」という。)等において、新聞社の新聞販売店への対応や新聞業界の体質を批判的に報道している。
(3) 被上告人が平成20年3月1日に本件サイトに掲載した「臨時ニュース」と題する記事(以下「本件記事」という。)には、「X1は1日、福岡県久留米市にあるA販売店のB所長に対して、明日2日から新聞の商取引を中止すると通告した。現地の関係者からの情報によると、1日の午後4時ごろ、X1のX2法務室長、X3担当、X4担当の3名が事前の連絡なしに同店を訪問し、B所長に取引の中止を伝えたという。」との記載に続いて、「その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。これは窃盗に該当し、刑事告訴の対象になる。」との記載(以下「本件記載部分」という。)がある。
(4) 平成20年3月1日にX2らがA販売店(以下「本件販売店」という。)を訪問して取引中止を伝えた事実はあるが、その後に本件販売店から翌日の朝刊に折り込む予定であったチラシ類(以下「折込チラシ」という。)を持ち帰ったのは、X2らではなく、新聞折込広告代理業を営むC社(以下「訴外会社」という。)の従業員であり、同従業員は、本件販売店の所長の了解を得た上で、これを持ち帰ったものであった。
(5) 上告人らは、本件記載部分が上告人らの社会的評価を低下させる事実を摘示するものであると主張するのに対し、被上告人はこれを争っている。
3 原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判断して、上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 本件記載部分のうち、第1文である「その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。」という部分は、本件販売店を訪れて取引中止を伝えたX2らが退出する際に店内にあった折込チラシを持ち帰った旨の事実を摘示するものであり、第2文である「これは窃盗に該当し、刑事告訴の対象になる。」という部分は、第1文で摘示した事実関係を前提とした被上告人の法的見解を表明するもので、本件記事を閲読した一般の閲覧者は、被上告人が突然の取引中止の通告等を批判する趣旨で殊更に誇張した法的評価を加えていると受け止めるのが自然であって、直ちにX2らが現に「窃盗」に該当する行為を行ったものと理解する可能性は乏しかったから、本件記載部分によって上告人らの社会的評価が低下したということはできない。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
 前記事実関係によれば、本件記事は、インターネット上のウェブサイトに掲載されたものであるが、それ自体として、一般の閲覧者がおよそ信用性を有しないと認識し、評価するようなものであるとはいえず、本件記載部分は、第1文と第2文があいまって、上告人会社の業務の一環として本件販売店を訪問したX2らが、本件販売店の所長が所持していた折込チラシを同人の了解なくして持ち去った旨の事実を摘示するものと理解されるのが通常であるから、本件記事は、上告人らの社会的評価を低下させることが明らかである。
(2) そして、前記事実関係によれば、本件販売店の所長が所持していた折込チラシは、訴外会社の従業員が本件販売店の所長の了解を得た上で持ち帰ったというのであるから、本件記載部分において摘示された事実は真実ではないことが明らかであり、また、被上告人は、上告人会社と訴訟で争うなど対立関係にあったという第三者からの情報を信用して本件サイトに本件記事を掲載したと主張するのみで、本件記載部分において摘示した事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があったというに足りる事実を主張していない。
(3) そうすると、被上告人が本件サイトに本件記事を掲載したことは、上告人らの名誉を毀損するものとして不法行為を構成するというべきである。
5 以上と異なる見解の下に、本件記事について、不法行為を構成することを否定し、上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上告人らの被った損害について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
 裁判長裁判官 古田佑紀
 裁判官 竹内行夫
 裁判官 須藤正彦
 裁判官 千葉勝美
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