判例全文 line
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【事件名】カード決済プログラムの著作権侵害事件
【年月日】平成24年3月23日
 東京地裁 平成22年(ワ)第30222号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年2月8日)

判決
原告 エス・ティ・アイ株式会社
同訴訟代理人弁護士 松坂祐輔
同 小倉秀夫
同 桑島良太郎
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋元弘
同 末吉亙
被告 アイエヌエス・ソリューション株式会社
同訴訟代理人弁護士 朝比奈 秀一
被告 株式会社ジー・ピー・ネット
同訴訟代理人弁護士 木下博
同 志摩美聡
同 木下真由美
同 佐藤正章


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 第1次〜第4次請求
 被告らは、原告に対し、各自15億円及びこれに対する平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第5次請求
(1) 被告エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社は、原告に対し、6億2288万円及びこれに対する平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告株式会社ジー・ピー・ネットは、原告に対し、8億7712万円及びこれに対する平成22年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告らの構築するクレジットカード決済システム(DSL回線対応クレジットカード決済システム)の製品評価、機能評価のために一時的に使用させる目的で、被告エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「被告NTTコム」という。)が運営するデータセンター内のサーバ(ターミナルゲートウェイ〈T−GW〉サーバ)用コンピュータ(以下「本件サーバ」という。)2台にプログラム(サーバとクレジットカードの決済端末の認証を行い、TCP/IPプロトコル対応の決済端末からDSL回線経由で送られてきた暗号化された電文を復号化し、既存のレガシーシステムが電文を受け付けられるようにソケット変換して、決済認証用のホストコンピュータに送信するアプリケーションソフト。以下「本件プログラム」という。)をインストールしたにもかかわらず、被告NTTコムが被告株式会社ジー・ピー・ネット(以下「被告GPネット」という。)に本件プログラムがインストールされた本件サーバ2台を無許諾で譲渡し(被告アイエヌエス・ソリューション株式会社〈以下「被告INSソリューション」という。〉は、これを知りながら原告に告知せず、当該譲渡を幇助した。)、被告らにおいて上記目的が終了した後(平成20年9月4日以降)も本件プログラムを継続的に使用していることが不法行為、債務不履行又は不当利得に該当すると主張して、被告らに対し、次の請求をする事案である。
(1) 第1次請求
 本件サーバの譲渡(被告NTTコムから被告GPネットへの譲渡)が本件プログラムに係る著作権(譲渡権)を侵害するものであるとして、原告が、被告らに対し、不法行為(上記譲渡権侵害)による損害賠償請求として、連帯して15億円(15億5720万円の一部)及びこれに対する平成22年9月3日(被告らに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(2) 第2次請求
 被告らは、DSL回線対応クレジットカード決済システムのために本件プログラムを正式採用しないことを決定した後(平成20年9月4日以降)、本件プログラムを使用してはならず、本件サーバから本件プログラムを直ちに削除する契約上ないし条理上の義務を負ったにもかかわらず、その後も本件プログラムの使用を継続したとして、原告が、被告らに対し、債務不履行による損害賠償請求として、連帯して15億円(15億5720万円の一部)及びこれに対する上記平成22年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(3) 第3次請求
 被告らが本件プログラムの使用を中止し、これを本件サーバから削除する義務を負っているにもかかわらず、現に本件プログラムが本件サーバにインストールされた状態にあることを奇貨としてその使用を継続することは、「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物」を、その事情を知りながら業務上使用するものとして、著作権法113条2項又はその類推適用により、本件プログラムに係る著作権を侵害するものとみなされるとして、原告が、被告らに対し、不法行為(著作権侵害)による損害賠償請求として、連帯して15億円(15億5720万円の一部)及びこれに対する上記平成22年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(4) 第4次請求
 被告らが実際には本件プログラムを後記2(4)の本件協業スキームに用いる意思などなく、初めから本件協業スキームとは全く関係なしに被告GPネットに本件プログラムを使用させる意思であったにもかかわらず、原告にはこれを秘匿し、本件協業スキームの商用化に向けた実験試行に用いる旨の虚偽の事実を告知して、原告をして、本件サーバに本件プログラムをインストールさせ、更に各種設定、試験、改変等をさせたこと(詐欺による不法行為)に基づく損害賠償請求として、原告が、被告らに対し、連帯して15億円(26億6912万3973円の一部)及びこれに対する上記平成22年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(5) 第5次請求
 被告らが本件プログラムを正式採用しない旨の決定を行った後(平成20年9月4日以降)、被告NTTコム及び被告GPネットが本件プログラムを継続的に使用し、法律上の原因なく利益を得た(原告が損失を被った)として、原告が、不当利得返還請求として、被告NTTコムに対し、6億2288万円及びこれに対する上記平成22年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、被告GPネットに対し、8億7712万円(168億1575万円の一部)及びこれに対する同平成22年9月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
2 前提となる事実(証拠を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、平成16年5月28日に設立された、通信機器の開発、製造、販売を主たる業務とする株式会社である。(甲33、39、72)
イ 被告NTTコムは、電気通信事業等を営む株式会社である。
ウ 被告INSソリューションは、情報処理システムのコンサルティング、システム開発、システム構築及びコンピュータセンターの保守、運用等を目的とする株式会社である。(甲20)
エ 被告GPネットは、クレジットカード決済用端末(CCT端末。「CCT」は、Credit Center Terminal の略称である。以下「決済端末」という。)を介して加盟店から送られてくる信用照会データや売上げデータを、独自のネットワーク網を利用して、国内外のカード会社、金融機関に対して中継、配信することを主たる業務とする株式会社である。
(2) クレジットカード決済の仕組み
ア 飲食店や小売店等のクレジットカード加盟店(以下「加盟店」という。)においてクレジットカードを用いて決済を行う場合、加盟店は、まず決済端末で決済処理を行う。
 決済端末を用いてクレジットカードで決済を行うと、決済端末から回線を通じて、更に「クレジットカード情報処理センター」を経由して、「カード発行会社」(「イシュア」と言われる。)のホストコンピュータにはクレジットオーソリデータ(クレジットカードの有効期限の確認、不正カードではないかの照合、利用限度額の確認のためのデータ)が、「加盟店契約カード会社」(「アクワイアラ」と言われる。)のホストコンピュータには売上げデータが送信されるなどして、決済が完了する。
 「カード発行会社」とは、クレジットカードを発行する企業のことをいい、「加盟店契約カード会社」とは、加盟店から売上伝票を取得し、クレジットカード会員に代わって代金を支払うカード会社(例えば、VISAカードであれば、三井住友カード株式会社〈以下「三井住友カード」という。〉、ユーシーカード株式会社〈以下「UCカード」という。〉等がこれに当たる。)のことをいうが、カード発行会社が加盟店契約カード会社と異なる場合には、加盟店契約カード会社が加盟店に対して支払った代金をカード発行会社に請求し、さらに、カード発行会社がカード利用者に対して代金の支払を請求することになる。
 決済端末で決済するクレジットカードは、単一の加盟店契約カード会社のブランドのもの、又は、単一のカード発行会社のものとは限らないため、決済端末から送られるデータを適切に処理し、対応するブランドの加盟店契約カード会社のホストコンピュータに対しては売上げデータを、カード発行会社のホストコンピュータに対してはクレジットオーソリデータを送信しなければならない。また、クレジットオーソリデータに関しては、カード会社からのカード取引承認の可否に関する回答データを再度決済端末に送り返す必要がある。このようにデータの振り分け等の中継処理を行う設備が「クレジットカード情報処理センター」(以下「中継処理センター」という。)であり、被告GPネットは、かかる設備を用いたデータの中継サービス(以下「中継サービス」という。)を行い、被告NTTコムは、平成12年頃から、被告GPネットの中継サービスに用いる設備及びネットワークの一部の構築・保守等を行っている。
イ 決済端末は、通常、加盟店契約カード会社が購入し、加盟店に原則として無償で設置するもので、加盟店契約カード会社は、加盟店手数料収入により、決済端末の購入及び設置費用を回収する。そして、加盟店契約カード会社が決済端末を設置する際に、どの会社が提供する中継サービスを利用するかを決定する。したがって、被告GPネットのような中継サービスの提供会社にとっての顧客は加盟店契約カード会社ということになり、被告GPネットは、被告GPネットの中継サービスに利用することができる決済端末を加盟店契約カード会社を通じてより多くの加盟店に設置してもらうことにより、利益を得ることになる。
(3) IP通信対応のSSLサーバ構築の必要性
 従前、決済端末から被告GPネットの中継処理センターへの接続は、電話回線などによるダイヤルアップ方式で行われており、決済端末からネットワークを介して中継処理センターまでのデータ伝送は、アナログ方式であった。このような方式の場合、決済端末とネットワークとの接続に関する汎用性は極めて限定され、かかる決済端末に関する将来的な発展性は望みにくい状況であった。また、1回の決済ごとに、架電、呼出し、接続というプロセスを経ることから、決済処理までに時間がかかるという問題もあった。
 被告GPネットは、決済端末とより多くのネットワークとの接続可能性を飛躍的に増大させるためには中継サービス用のネットワーク環境(中継サービスに使用する決済端末とデータ処理用サーバ)をIP通信対応(TCP/IP規格)とする必要があったことから、IP通信に対応できるデータ処理サーバの構築を望んでいた。また、カード取引の中継ネットワークには高度なセキュリティが要求されるため、同ネットワークは、IP通信対応であると同時に、送受信の認証又はその電文の暗号化と復号化といった機能(例えばSSL方式など。「SSL」は、Secure Socket Layer の略称であり、Net scape Communication 社が開発したインターネット上で情報を暗号化して送受信するプロトコルである。甲23、乙イ10)を備える必要があった。
 そこで、被告NTTコムのチャネル営業本部ビジネスパートナー営業部(以下「BP部」という。)は、被告GPネットからIP通信化に伴う各種設備の構築の業務を請け負うことを企図し、平成15年6月頃、被告GPネットに対し、加盟店から中継処理センターへの接続回線をIP通信化することを提案し、平成17年4月には、被告NTTコムのシステムエンジニアリング部(以下「SE部」という。)に対し、SSLにより暗号化したIP通信を復号するサーバ(SSLサーバ)構築の検討を依頼した。(乙イ45)
(4) 加盟店契約カード会社との協業スキームとその終了
 被告NTTコム(経営企画部)は、平成16年6月から、当時子会社であった株式会社アッカ・ネットワークス(現在はイー・アクセス株式会社に吸収合併。以下「アッカ」という。)が提供するADSL回線の拡販のため、主に加盟店契約カード会社と協業を行い、決済端末のブロードバンド化とともに、「OCN」ブランドで提供していたADSL回線サービスを加盟店に提供するビジネスモデルを検討していた。これは、当時、クレジットカード業界においては、平成20年をめどに、従来の磁気カードから偽造されにくいICチップを組み込んだICカード化を行い、他方で加盟店の決済端末全てをICカード対応機に変更すべく、加盟店向けに通知を行い始めていたことから、決済端末の入替えに伴って、決済端末のブロードバンド化及び加盟店へのADSL回線サービスの販売を企図して、加盟店契約カード会社との協業を検討したものである(以下、この協業スキームを「本件協業スキーム」という。)。
 決済端末のブロードバンド化を実施するためには、決済端末製造会社のほか、中継サービスを提供するカード決済ネットワーク事業者の協力も必要であり、当初は、加盟店契約カード会社として三井住友カード、決済端末製造会社として株式会社日立製作所や日本インジェニコ株式会社(以下「日本インジェニコ」という。)を想定し、協議を行っていたほか、決済端末の設置工事業者として被告INSソリューションも検討に参加した。
 本件協業スキームには、最終的にはUCカードが加盟店契約カード会社として参加した。また、決済端末の供給メーカーとして協議に参加していた日本インジェニコが本件協業スキームから離脱したが、その後、被告INSソリューション及び岩通システムソリューション株式会社(以下「岩通SS」という。)から既に韓国において実用化されたIP通信に対応した決済端末(韓国法人である株式会社ケイディーイーコム〈ただし、現在の商号は「株式会社カラバンケイディーイー」。以下「KDE」という。〉製の端末)の売込みがあり、結局、本件協業スキームにおいては、被告INSソリューションが、岩通SSを通じて決済端末の供給を行うことになった。
 被告NTTコムとUCカードは、被告INSソリューション、被告GPネット及びアッカとともに、平成18年6月から平成19年3月まで、決済端末を用いたオンライン決済処理に関して、ADSLを用いたブロードバンドIP通信による高速化を実現し、業務の効率を高める仕組みをUCカードの加盟店に対して提供し、検証(テストマーケティング)を行った。
 被告NTTコムとUCカードは、かかるテストマーケティングを受け、被告INSソリューション、被告GPネット、アッカ、東京リース株式会社と連携して、平成19年7月から、ADSLを用いたブロードバンドIP通信による高速化を実現したオンライン決済処理サービス等を含む各種サービスをパッケージにした「OCNクレジット加盟店パック(U)」の販売を開始したが、上記6社は、平成20年9月3日、「OCNクレジット加盟店パック」の全体会議を開催し、本件協業スキームによるサービスが協業各社の事業採算ラインに達する可能性は極めて低いとの結論に達し、サービスの終了に向け、各社が協力することに合意した。
(5) 本件サーバの譲渡等
 原告は、平成17年8月22日、エヌ・ティ・ティ・データ・カスタマサービス株式会社(以下「NTT−DCS」という。)が調達した本件サーバ1台に本件プログラムをインストールした上、これを被告NTTコムのデータセンター(東京都千代田区大手町所在。以下「大手町データセンター」という。)内の被告GPネットのサーバラックに設置した。(乙イ35、乙イ44の3、乙イ45)
 また、同年10月25日、NTT−DCSが調達したもう1台の本件サーバが大手町データセンターに納入、設置されたが(なお、以上合計2台の本件サーバのうち、1台はバックアップ用である。)、原告は、このサーバについても、本件プログラムをインストールした(原告が本件サーバ2台に本件プログラムをインストールした動機、目的については、当事者間に争いがある。)。
 被告NTTコムは、これに先立つ同年10月21日、NTT−DCSから、本件プログラムをインストールした本件サーバ2台を代金合計639万4500円で購入した(乙イ7)上、被告GPネットとの間で締結した同年11月30日付け委託契約(本件サーバの構築に係る委託契約。乙ハ1)に基づき、平成18年3月1日、被告GPネットに対し、本件サーバ2台を引き渡した。(乙イ2)
3 争点
(1) 譲渡権侵害の成否
ア 本件プログラムの著作物性
イ 著作権(譲渡権)の帰属
ウ 被告NTTコムが被告GPネットに本件プログラムのインストールされた本件サーバを譲渡したことが本件プログラムに係る原告の著作権(譲渡権)を侵害するか
(2) 債務不履行の成否
(3) みなし著作権侵害(著作権法113条2項)の成否
(4) 詐欺による不法行為の成否
(5) 不当利得の成否
(6) 原告の損害ないし損失
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(譲渡権侵害の成否)について
ア 原告
(ア) 本件プログラムの著作物性
 本件プログラムは、サーバとクレジットカードの決済端末の認証を行い、TCP/IPプロトコル対応の決済端末からDSL回線経由で送られてきた暗号化された電文を復号化し、既存のレガシーシステムが電文を受け付けられるようにソケット変換して、決済認証用のホストコンピュータに送信するものである。
 本件プログラムは、VISAインターナショナルから高く評価されている韓国のIsaac Land Korea Co. Ltd(以下「ILK」という。)の技術者に開発させることによってようやく完成したものであり、同種の機能を有するプログラムは、被告らをもってしてもいまだに独自開発できないほど難易度の高いものである。
 上記の点に鑑みれば、ソースコードを開示するまでもなく本件プログラムには創作性があり、著作物に該当することは明らかである。
(イ) 著作権(譲渡権)の帰属
a KDEとILKは、2005年(平成17年)7月21日、「日本向きEFT POS用Gateway Server開発及び構築」に関する契約を締結した。
 同契約は、具体的には、KDEが2005年(平成17年)6月23日付けで原告と締結したEFT−POS Projectについて、既存PSTN網で構成されたLegacy systemがTCP/IP通信が可能となるようにGateway Server及びKDE用Terminal management system(サーバ及びクライアント)の開発及び構築を行うこと等を内容とするもので、同契約で行うPOSプロジェクト結果物について、所有権及び産出物はKDEに帰属するものとされている。
 この契約に基づいて開発されたのが、ISDN回線を使った被告らの時代遅れな決済システムで、TCP/IPプロトコルで送られてきた決済データを処理できるようにするネットワークノード及び端末管理システムであって、SSL暗号化モジュールを用いたもの(すなわち本件プログラム)のことであり、これについての「所有権」(本件プログラムに関する著作権を中核とする知的所有権全般)及び「産出物」(本件プログラムのソースコードやドキュメント類〈が記録された媒体〉)がKDEに帰属するものとされた。
b 原告は、平成19年10月8日、原告が保有するKDEの全株式の譲渡及び原告従業員のKDE役員からの退任と引換えに、KDEから、KDEとILKが締結した上記aの契約に係る権利一切の譲渡を受けた(甲1の1、甲43)。
c 以上のとおり、KDEとの契約に基づきILKが開発した本件プログラムについて、同契約に基づき著作権等を取得したKDEから著作権等の譲渡を受けた原告が、本件プログラムの著作権を有していることは明らかである。
 なお、原告は、KDEの筆頭株主であり、KDEが代表取締役の交代に伴い本件事業から撤退しようとしていたことから、本件プログラムに関する一切の権利の譲渡を受けたのであり、上記権利譲渡の段階で発生済みの著作権侵害に基づく損害賠償請求権も含めて、上記譲渡契約によりKDEから原告に権利が譲渡されたとみるのが当事者の意思に合致する。したがって、仮に被告らが本件プログラムに関する譲渡権を侵害した当時の著作権者がKDEであったとしても、その時に発生した損害賠償請求権は原告に譲渡されているのであるから、原告が本件損害賠償請求を行うことに何ら支障はない。
(ウ) 被告NTTコムが被告GPネットに本件プログラムのインストールされた本件サーバを譲渡したことが本件プログラムに係る原告の著作権(譲渡権)を侵害するか
a 被告NTTコムは、本件プログラムの著作権者である原告の許諾なくして、本件プログラムの複製物である本件サーバを被告GPネットに譲渡した。被告GPネットも、本件プログラムの著作権者が原告であること及び試行用に本件プログラムが一時的にインストールされている本件サーバの譲渡を原告が許諾ないし承認していないことを知りつつ、本件サーバの譲渡を受けた。このようにして、被告NTTコムと被告GPネットは、共同して、本件プログラムに関する原告の譲渡権を侵害した。
 また、被告INSソリューションは、被告NTTコム及び被告GPネットが原告に正当な対価を支払うことなく本件サーバを継続して使用することを企てていたこと、その一環として本件サーバを被告NTTコムから被告GPネットに譲渡することを知っていたか又は容易に知ることができたのに、その旨を原告に通知することなく、原告をして本件プログラムを本件サーバにインストールさせ、これにより被告NTTコム及び被告GPネットによる譲渡権侵害を幇助した。
b 本件において、原告は、NTT−DCSが仕入れたサーバコンピュータに本件プログラムをインストールした上で、NTT−DCSがこれを被告NTTコムに販売したのではなく、NTT−DCSが被告NTTコムに販売したサーバコンピュータに原告が本件プログラムをインストールしたのである。したがって、本件サーバに本件プログラムがインストールされて以降、本件サーバが原告又はKDEの許諾の下で譲渡されたという事実はないから、本件においては、著作権法26条の2第2項1号又は4号の適用はない。
 また、被告NTTコムは、NTT−DCSから被告NTTコムに譲渡されたサーバに本件プログラムがインストールされることになっており、当該サーバに本件プログラムがインストールされて以降、第1譲渡が行われていないことを知っていた(少なくとも、NTT−DCSにおいて被告NTTコムに引き渡すべきサーバコンピュータを特定し、その所有権を被告NTTコムに移転させた後でなければ、原告はそのサーバコンピュータに本件プログラムをインストールすることはないということを被告NTTコムは容易に想像できたのであるから、本件プログラムをインストール後、原告の許諾又は同意の下で第1譲渡がされることがないことを被告NTTコムは容易に知り得たのであり、したがって、本件サーバが著作権法26条の2第2項1号又は4号に該当しないものであることを知らなかったことについて過失があった。)ものであるから、本件において、著作権法113条の2の適用はない。
c 原告は、本件プログラムをインストールした後、本件サーバを大手町データセンターに設置する過程で、本件サーバの所有権移転が行われるという認識はなかった。また、本件サーバは、本件プログラムが被告らにより正式採用されるまでは、飽くまでも本件プログラムの評価用の試行運転のために用いられるにすぎないものであったから、原告としては、試用期間中に本件サーバの所有権が第三者に移転するという事態を想定していなかった(なお、「Gpnet様向けGateway Server仕様説明書」と題する本件サーバに係る仕様説明書〈乙イ3〉は、何者かが偽造したものであり、原告はその作成〈邦訳〉に関与していない。)。
 このように、本件プログラムの複製物である本件サーバを第三者に譲渡することについて、原告は、何人にも許諾ないし承認していない。
イ 被告NTTコム
(ア) 本件プログラムの著作物性
 本件プログラムは、OpenSSLというオープンソースソフトウェアによって構成されており、本件プログラムのどの部分が創作性のあるプログラムであり、ILKないしKDEの著作権が発生しているのかという点について、原告はその主張を欠いている。
(イ) 著作権(譲渡権)の帰属
 本件プログラムがインストールされた本件サーバが大手町データセンターに設置されたのは平成17年のことであり、また、本件サーバは、遅くとも平成18年3月1日に、検査の完了と併せて、被告NTTコムから被告GPネットに引き渡されている。したがって、本件プログラムが著作物であったとしても、その複製物の譲渡があったのは遅くとも平成18年3月1日である。
 他方で、原告は、平成19年10月8日にKDEから本件プログラムに係る著作権の譲渡を受けたと主張している。
 したがって、原告は、被告NTTコムから被告GPネットに対する本件サーバの譲渡時、本件プログラムの著作権者ではなかったのであるから、原告に対する譲渡権侵害が成立しないことは明らかである。
 仮に被告らに対する損害賠償請求権が発生しているとしても、KDEから原告に対して損害賠償請求権が譲渡されたことを示す証拠は一切ない(原告がKDEとの間で作成した譲渡書〈甲1の1〉には、単にKDEとILKとの間の契約上の権利を原告に譲渡するという記載があるのみであり、この契約上の権利に著作権侵害に基づく損害賠償請求権が含まれるとはいえない。)。また、上記損害賠償請求権の譲渡について、譲渡人であるKDEから被告らに対する通知はないから、原告は、上記損害賠償請求権の譲受けについて、被告らに対抗することができない。
(ウ) 被告NTTコムが被告GPネットに本件プログラムのインストールされた本件サーバを譲渡したことが本件プログラムに係る原告の著作権
(譲渡権)を侵害するか
 本件プログラムがインストールされた本件サーバは、少なくとも原告の許諾を得て、NTT−DCSから被告NTTコムに、被告NTTコムから被告GPネットに譲渡されたものであり、原告はこれについての対価も得ているのであるから、譲渡権侵害が成立することはあり得ない。
 また、本件プログラムは、原告が自ら、又は原告から許諾を受けた者によりインストール(複製)されているのであるから、著作権法26条の2第2項1号又は4号の規定に基づき、譲渡権侵害は成立しない。
 仮に本件サーバの譲渡について原告の許諾がなかったとしても、少なくとも被告NTTコムは、著作権法26条の2第2項1号又は4号に該当しないことについて知らず、また、知らなかったことに過失はないから、同法113条の2の規定により、著作権侵害には当たらない。
ウ 被告INSソリューション
 本件サーバの導入については、原告も含めた会議の中で協議され、その中で、被告NTTコムのデータセンター内に設置するSSLサーバが被告GPネットの設備であることは共通の理解であった。よって、原告も、本件サーバが被告GPネットの所有となることを認識していた。
 また、本件サーバの保守に関して、平成19年12月28日、被告INSソリューションが原告に宛てた注文書(乙ロ1)には、その業務内容として「NTTコミュニケーションズ鰍ェ実施する鰍fPネット保有のSSLサーバ・アプリに対する年間保守に関する委託業務」と記載されているところ、原告は、これに応じて、同日、被告INSソリューションに対して請求書(乙ロ2)を発行し、被告INSソリューションから本件サーバの保守費を受領している(乙ロ3)。
 以上の事実に照らせば、原告は、本件プログラムがインストールされた本件サーバが被告GPネットに譲渡されていることを認識していたということができる。
 したがって、本件においては、本件プログラムに係る譲渡権侵害の事実は認められず、これに対する幇助行為などということもあり得ない。そもそも被告INSソリューションは、NTT−DCSから受けた業務(本件プログラムのインストール作業)を岩通SSに委託しただけであり、本件サーバが被告NTTコムから被告GPネットに譲渡されたことに何ら関与していない。
エ 被告GPネット
 譲渡権侵害は、著作物の複製物を譲渡により公衆に提供した者のみが対象となるのであって、単に譲り受けたにすぎない被告GPネットについては、そもそも譲渡権侵害は問題となり得ない。
 また、本件プログラムがインストールされた本件サーバは、サーバ構築に至る経緯や、その保守契約の締結の経緯に照らして、少なくとも原告の許諾を得て、NTT−DCSから被告NTTコムに、被告NTTコムから被告GPネットに、それぞれ対価を支払って譲渡されたものであることは明らかであり、譲渡権の侵害はない。
(2) 争点(2)(債務不履行の成否)について
ア 原告
 被告らは、試行用ということで、原告から本件サーバに本件プログラムのインストールを受けて、これを使用していたが(原告は、本件プログラムを正式に採用する場合にはKDE製決済端末を原告及び東京ソフト株式会社〈以下「東京ソフト」という。〉経由で大量受注することを条件に、試験施行に応じたものである。)、かかる試行運用の目的で本件プログラムを一時的に使用させることを中心とする一種の契約関係は、被告らと原告との間で直接的に成立していたものとみるべきである。そして、このような契約関係において、被告らは、その目的(製品評価、機能評価)の範囲内で本件プログラムを使用する義務を負うほか、その目的が終了した場合には、本件プログラムの使用を中止して、これを原告に返還(媒体自体の返却又は媒体から本件プログラムの不可逆的な削除)する付随的義務又は条理上の義務を負っていたというべきである。
 本件において、被告らは、上記目的に反し、被告GPネットの独自事業のために本件プログラムを使用した上、平成20年9月3日に開かれた全体会議において本件プログラムを正式採用しない旨の決定を行った後も、本件サーバから本件プログラムを削除することなく、その使用を継続したもので、これは、被告らの上記契約上の付随的義務又は条理上の義務に違反したもの(債務不履行)である。
イ 被告NTTコム
 被告NTTコムと原告との間に契約関係はないのであるから、そもそも原告に対する関係で、被告NTTコムに付随的な義務や条理上の義務が発生するはずがない。
 また、本件プログラム又はこれをインストールした本件サーバは、「DSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的」のものではなく、本件プログラムの使用条件として、原告が「試行運用目的」等の条件を付したことはない。
ウ 被告INSソリューション
 本件において、原告と被告INSソリューションとの間に契約関係はなく、契約関係と同視すべき実質的な使用従属関係もない(被告INSソリューションは、端末機器に関する被告NTTコムの代理店でもない。)。したがって、被告INSソリューションが、原告に対し、契約に付随する義務や条理上の義務を負うことはない。
 また、本件プログラムは、「DSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的」のものではない。すなわち、本件プログラムの提供時に、原告から、本件サーバの設置が「接続試行」のみで、それ以外の使用が認められないものであるなどという条件が提示されたことはなく、関係当事者間においても、本件プログラムの導入が正式採用に向けての試行であるなどという目的が共有されたことはなかった。
 なお、原告は、被告NTTコムから「サーバ見積り」の依頼(甲19)を受ける前に、東京ソフトとの間で、2年以内に2万台の決済端末の受発注を予定することを合意し、実際に、東京ソフトから、「初年度期間発注分」として、1万台分の代金3億2550万円を受領している(甲8、乙ロ4)。したがって、決済端末の大量購入の保証を条件提示して本件プログラムを提供したという原告の主張は、論理的に矛盾している。
エ 被告GPネット
 被告GPネットは、原告とは契約関係にないのであるから、付随的な義務が発生するはずもなく、また、条理上の義務を負うこともない。
 そもそも被告GPネットは、本件サーバを譲り受けるに際し、その使用につき「試行用」であるなどといった条件を付されたことは一度もないのであるから、付随的又は条理上の義務が発生する前提を欠いている。
(3) 争点(3)(みなし著作権侵害〈著作権法113条2項〉の成否)について
ア 原告
 被告らは、本件協業スキームの終了により、同スキームの一環としてKDE製の決済端末を大量導入する見込みがなくなったことが明らかになった時点で、本件プログラムの使用を中止し、本件サーバからこれを削除する義務を負うに至ったにもかかわらず、現に本件プログラムが本件サーバにインストールされた状態にあることを奇貨として、これを削除することなく、その使用を継続しているが、これは、作為による複製と同視することができるものである(最高裁昭和33年9月9日第三小法廷判決・刑集12巻13号2882頁参照)。とりわけ、被告らは、本件において、本件プログラムに組み込まれていた時限停止ルーティンを回避することによって本件プログラムを継続して使用しており、「作為による複製」と同視すべき必要性は高い。
 したがって、上記削除義務にもかかわらず本件プログラムが削除されないまま放置されている本件サーバは、「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物」と同視することができるから、そのような事情を知りながら、被告らが本件プログラムを本件サーバにおいて業務上使用する行為は、本件プログラムに関する著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条2項の適用ないし類推適用)。
イ 被告ら
 否認ないし争う。
(4) 争点(4)(詐欺による不法行為の成否)について
ア 原告
 被告らは、実際には本件協業スキームと競合する被告GPネット独自の決済認証サービスに本件プログラムを使用する意思を有していたにもかかわらず、その意思を秘した上で、あたかも本件プログラムは本件協業スキームにおいてKDE製端末を大量導入する前提でその性能等を検証する目的で使用されるのであり、本件協業スキームが商用化された場合にはKDE製端末が被告INSソリューションや東京ソフトを介して被告NTTコムから原告に大量発注されるものと信じ込ませた。
 原告は、このような錯誤に基づいて、被告NTTコムが調達したサーバ用コンピュータに本件プログラムを「サーバソフト設定費用」のみでインストールしてしまった。また、被告らは、その後、本件プログラムを正式に採用する前提で、本件プログラムに関する様々な注文を行ってきたので、原告は、その注文に応じた作業を行うため、ILKの技術者を韓国から呼び寄せるなどして金銭的又は労務上の負担をしたほか、本件プログラムについて正式なライセンス契約を結べるよう、本件プログラムに関する権利を確保するための金銭的な負担を余儀なくされた。
イ 被告NTTコム
 被告NTTコムは、原告はもとより、被告INSソリューション、岩通SS、東京ソフトに対しても、本件プログラムが「実験試行」に用いられるものであるとか、「本件協業スキームが正式に採用された場合にはKDE製決済端末が大量に調達される」などと述べたことはない。
 また、本件プログラムの使用の対価については、被告GPネット→被告NTTコム→NTT−DCS→被告INSソリューション→岩通SS→東京ソフト→原告と順次支払われているのであるから、被告NTTコムが本件プログラムをだまし取ったかのような事実が存在しないことは明らかである。
ウ 被告INSソリューション
 平成17年6月、被告NTTコムにおける会議において、同会議に出席していた原告代表者A(以下「A」という。)から、被告NTTコムのデータセンター構築に関する議論の中で、SSLサーバ用ソフトウェア(本件プログラム)を提供する意思があることが示された。
 その後、被告NTTコムから原告に対し、直接、本件プログラムの仕様の確認があり、本件プログラムの購入費用及びサーバ構築費用等の見積りの依頼があったが、その際、被告NTTコムの担当者からは、被告GPネットの方針として、KDE製端末以外の他社製端末でも利用できることが前提である旨、原告に示され、原告もこれを了解して、本件プログラムを提供することになった。
 この間、被告NTTコム側から、本件プログラムについて、「製品評価・機能評価のために一時的に使用させてほしい」との依頼は一切なく、また、原告から「製品評価・機能評価のための一時的使用である」旨の条件も一切提示されなかった。
 原告と東京ソフトとの間の「カード決済端末事業基本契約書」(甲8)では、「DSL回線対応決済端末を含むクレジットカード加盟店向けIP通信サービス」の検証及び評価を目的する試行運用が実施されるとしているところ(第3条)、これは、原告が東京ソフトに対して無償貸与するカード決済端末(SG端末)10台の試行運用(検証)に関する規定であり、SSLサーバの試行運用に関するものではない。そして、原告は、決済端末の試行運用に先駆けて、上記契約締結後初年度期間発注分として、東京ソフトから、決済端末1万台の注文を受け(第6条)、実際にその代金3億2550万円が「前渡し金」として、東京ソフトから原告に支払われている。さらに、原告は、東京ソフトから、次年度には追加端末1万台の発注を受けることにもなっていた(第7条)。
 このように、原告は、本件プログラムとは無関係に、東京ソフトから大量に決済端末を買い入れてもらうことになっていたのであるから、決済端末の採用及び購入が本件プログラム使用の条件であるかのような原告の主張は失当である。
 なお、被告NTTコムと被告INSソリューションとの間では、被告NTTコムが被告INSソリューション以外の業者から決済端末を採用し調達することを妨げるものではないと定めており(甲6の2条2項、甲7の4条1項)、原告の販売する決済端末が必ずしも被告NTTコムによって採用されるものではないことは、原告自身、十分に認識していたものである。
エ 被告GPネット
 被告GPネットは、本件協業スキームとは無関係に、今後継続的に使用するものとして、IP通信対応で、かつ、多様な決済端末との接続が可能なSSLサーバの構築を被告NTTコムに委託し、同委託に基づいて、被告NTTコムから、本件サーバを譲り受けたのである。したがって、被告GPネットにおいて、試行用であるとか、有効期限付き等の条件が付されたSSLサーバを求めるはずがなく、実際に、原告、被告NTTコム、被告INSソリューションその他のいかなる者からも、本件プログラムが試行用であるとか、期限付きであるなどといった条件が示されたことは一切なかった。
 また、被告GPネットは、被告NTTコムから本件サーバの譲渡を受ける際、2187万9375円を支払っているが、この代金の中には、本件サーバにインストールされた本件プログラムの将来の使用対価も当然に含まれるものである。このように、被告GPネットは、対価を支払って本件サーバ(同サーバにインストールされた本件プログラムを含む。)の譲渡を受けているのであるから、第三者から何らの制約を受けることなく、本件サーバを被告GPネットの事業用途に使用することができる。
(5) 争点(5)(不当利得の成否)について
ア 原告
 原告は、本件協業スキームにKDE製端末を導入するかどうかを検証するための試験施行に必要だからということで、同スキームの検証のために用いられるサーバコンピュータに本件プログラムを一時的にインストールしたにもかかわらず、被告GPネットは、本件プログラムをインストールした本件サーバを、本件協業スキームとは独立した、独自の決済認証サービスのために利用した。さらに、被告GPネットは、本件協業スキームが終了し、少なくとも本件プログラムが本件サーバから削除されるべき事態となった後も、独自の決済認証サービスのために本件プログラムを利用し続け、これにより手数料収入を得た。
 また、被告NTTコムは、被告GPネットによる本件プログラムの使用に伴い、被告GPネットから報酬(1決済当たり8円)の支払を受けた。
 被告GPネット及び被告NTTコムが得た上記利益は、いずれも法律上の原因がないもので、これにより原告は損失を受けた。
イ 被告NTTコム
 本件プログラムの使用について原告の許諾があったことは明らかであり、法律上の原因が存在するから、不当利得返還請求は成り立たない。
 仮に本件プログラムの使用について原告の許諾がなかったとしても、著作権法26条の2第2項又は同法113条の2の規定に基づき適法に譲渡された本件プログラムを使用することは適法であり、また、プログラムの複製物を使用する権限を取得した時にプログラムの著作権を侵害する行為によって作成された複製物であることを知っていない限り、著作権侵害行為とはならないのであるから(著作権法113条2項)、法律上の原因が存在している。
 したがって、いずれにしても原告の不当利得返還請求は成り立たない。
ウ 被告GPネット
 被告GPネットは、被告NTTコムから、本件プログラムがインストールされた本件サーバの譲渡を受けている。その対価には本件プログラムの使用対価(一括使用料)が含まれており、これをもって使用料の支払を了している。被告GPネットと被告NTTコムとの間には、その後のランニング・ロイヤルティ、すなわち継続的な使用料の支払の合意など何ら存在しない。
 さらに、原告は、本件協業スキームとは関係なく、被告GPネットが本件プログラムを使用することについて許諾して、これを本件サーバにインストールしたのであるから、いずれにしても被告GPネットによる本件プログラムの使用については、法律上の原因が存在している。
(6) 争点(6)(原告の損害ないし損失)について
ア 原告
(ア) 第1次〜第3次請求に係る損害について
 被告GPネットの平成17年12月期の売上げ17億2000万円のうち15億円が決済認証による手数料収入であり、平成18年12月以降の売上げと平成17年12月期の売上げとの差額分は、全てDSL回線を介した決済認証サービスによる手数料収入であると推認される。したがって、被告GPネットの決済認証サービスによる手数料収入は、
 平成17年12月期  15億0000万円
 平成18年12月期  18億6000万円
 平成19年12月期  23億4300万円
 平成20年12月期  25億9600万円
 平成21年12月期  27億0000万円
 平成22年12月期  33億7500万円
である。
 1回の決済認証で被告GPネットが受け取る手数料の平均は152円〜228円の間であるから、被告GPネットによる本件プログラムの使用回数は、
 平成17年12月期  約658万回〜約987万回
 平成18年12月期  約816万回〜約1224万回
 平成19年12月期  約1028万回〜約1541万回
 平成20年12月期  約1139万回〜約1708万回
 平成21年12月期  約1185万回〜約1777万回
 平成22年12月期  約1480万回〜約2220万回
である。
 主位的請求及び予備的請求1、2に係る損害額は、結局のところ、被告GPネットの独自サービスのために本件プログラムが使用されたことによる使用料相当損害金ということになるところ、本件のようなプログラムの使用料の相場は、1決済当たり10円である。
 よって、被告らが賠償すべき原告の損害額は、
 平成17年12月期  約6580万円〜約9870万円
 平成18年12月期  約8160万円〜約1億2240万円
 平成19年12月期  約1億0280万円〜約1億5410万円
 平成20年12月期  約1億1390万円〜約1億7080万円
 平成21年12月期  約1億1850万円〜約1億7770万円
 平成22年12月期  約1億4800万円〜約2億2200万円
 平成23年12月期  約1億4800万円〜約2億2200万円
であり(なお、決済回数の順調な伸びに鑑みれば、平成23年12月期も、前年同月期の決済回数を下回ることはないと推定した。)、その合計(約15億5720万円〜約23億3540万円の範囲)は、少なくとも15億5720万円を下回らない。
(イ) 第4次請求(詐欺による不法行為)に係る損害について
a 原告は、被告らの詐欺により、被告NTTコムが調達した本件サーバに本件プログラムを「サーバソフト設定費用」のみでインストールさせられてしまった。
 上記詐欺による錯誤がなければ(すなわち、本件プログラムが被告GPネットによる独自の決済認証サービスにも使用されることを知った上で、原告が本件プログラムを本件サーバにインストールするとしたならば)、原告が被告NTTコムないし被告GPネットとの間の契約に基づき取得したであろう金額をもって、原告の損害額と評価するのが相当である(著作権法114条3項の類推適用)。
 本件プログラムの使用の対価として、被告GPネットが被告NTTコムに対し、1件当たり8円を支払っていることからすれば、原告が被告らとの間において、実績型でライセンス料を徴収する旨のライセンス契約を締結する場合、1決済当たり10円程度のライセンス料を設定することは十分に可能であった(本件プログラムと同種のソフトは日本国内になく、また、被告らが声をかけてもこれを開発してくれるベンダーはほかに見当たらなかったのであり、原告は価格交渉の上で優位に立っていたのであるから、本来ならもっと高い数値を提示することも可能であった。)。
 よって、被告らにより本件プログラムを詐取されたことによる原告の損害額は、従量制ライセンス料による場合、平成23年12月期の段階で、上記(アのとおり、23億3540万円になる。
b また、原告は、被告らが本件プログラムを正式に採用する前提で様々な注文を行ってきたことから、当該注文に応じた作業を行うため、ILKの技術者を韓国から呼び寄せるなどして、金銭的又は労務上の負担をするとともに、本件プログラムについて正式なライセンス契約を締結することができるように金銭的な負担をした。
 以下の支出(合計3億3372万3973円)は、被告らの欺罔行為により原告が被った損害である。
(a) 原告の第1期(平成16年5月28日〜平成17年3月31日まで)について
 原告の第1期においては、本件に関する事業活動は少なかったため、損害を計上しない。
(b) 原告の第2期(平成17年4月1日〜平成18年3月31日まで)について(甲65の1〜13)
 仕入高(端末機の製造原価)  1億2046万2022円
 給料手当  115万1660円
 旅費交通費  1410万0556円
 通信費  93万6666円
 接待交際費  247万4737円
 地代・家賃  145万5130円
 消耗品費  41万1900円
 運賃  155万4728円
 支払手数料  86万5540円
 会議費  85万5641円
 雑費  6万6000円
 支払利息割引料  415万9141円
 総合計  1億4849万3721円
(c) 原告の第3期(平成18年4月1日〜平成19年3月31日まで)について(甲66の1〜17)
 仕入高(端末機の製造原価)  2899万1697円
 前渡金(端末機の製造原価)  525万0000円
 仮払金  90万2378円
 車両運搬具  310万8210円
 給料手当  293万9621円
 法定福利費  10万9000円
 福利厚生費  73万1000円
 旅費交通費  1953万8093円
 通信費  155万8775円
 接待交際費  90万3923円
 地代・家賃  418万2645円
 運賃  23万4429円
 支払手数料  2579万1425円
 会議費  64万5762円
 雑費  82万8000円
 支払利息割引料  352万5264円
 総合計  9924万0222円
(d) 原告の第4期(平成19年4月1日〜平成20年3月31日まで)について
 給料手当  618万9600円
 旅費交通費  2650万4943円
 通信費  194万9065円
 接待交際費  15万8184円
 地代・家賃  464万7420円
 運賃  13万8396円
 会議費  72万8542円
 外注費  919万0393円
 支払利息割引料  221万3569円
 総合計  4977万1047円
(e) 原告の第5期(平成20年4月1日〜平成21年3月31日まで)について
 給料手当  618万9600円
 旅費交通費  1916万2220円
 通信費  95万6675円
 接待交際費  11万4500円
 地代・家賃  464万7420円
 運賃  22万8257円
 会議費  109万8944円
 支払利息割引料  382万1367円
 総合計  3621万8983円
(f) 本件による積極的な損害額
 上記(b)〜(e)の総合計額は、3億3372万3973円である。
c 上記a、bのとおり、被告らの詐欺(不法行為)による原告の損害額は、合計26億6912万3973円である。
(ウ) 第5次請求(不当利得)に係る損失について
 著作物の使用に関する不当利得については、著作権法114条2項の規定の準用により、著作物の使用により使用者が得た利益が、著作権者の受けた損害と推定される。
 本件において、被告GPネットの得た利益は、本件プログラムの利用により得た手数料収入から、被告NTTコムに支払った報酬を差し引いた差額ということになる。
 上記(ア)のとおり、この間の処理件数は、
 平成17年12月期  約658万回〜約987万回
 平成18年12月期  約816万回〜約1224万回
 平成19年12月期  約1028万回〜約1541万回
 平成20年12月期  約1139万回〜約1708万回
 平成21年12月期  約1185万回〜約1777万回
 平成22年12月期  約1480万回〜約2220万回
 平成23年12月期  約1480万回〜約2220万回
である(なお、処理件数が毎年着実に伸びていることから、平成23年12月期は、平成22年12月期を下回ることはないと推定した。以下同じ。)。
 被告GPネットが被告NTTコムに支払った報酬は、決済1件当たり8円であるから、
 平成17年12月期  約5264万円〜約7896万円
 平成18年12月期  約6528万円〜約9792万円
 平成19年12月期  約8240万円〜約1億2328万円
 平成20年12月期  約9112万円〜約1億3664万円
 平成21年12月期  約9480万円〜約1億4216万円
 平成22年12月期  約1億1840万円〜約1億7760万円
 平成23年12月期  約1億1840万円〜約1億7760万円
となる。
 被告GPネットが得た利益は、各年度の手数料収入(上記(ア)から上記被告NTTコムに支払った報酬分を控除したものであるから、
 平成17年12月期  約14億2104万円〜約14億4736万円
 平成18年12月期  約17億6208万円〜約17億9472万円
 平成19年12月期  約22億1972万円〜約22億6076万円
 平成20年12月期  約24億5936万円〜約25億0488万円
 平成21年12月期  約25億5875万円〜約26億0611万円
 平成22年12月期  約31億9740万円〜約32億5660万円
 平成23年12月期  約31億9740万円〜約32億5660万円
となる。
 したがって、被告NTTコムが得た利益は、6億2288万円〜9億3416万円(少なくとも6億2288万円)、被告GPネットが得た利益は、168億1575万円〜171億2703万円(少なくとも168億1575万円)ということになり、これが著作権者の損失と推定される。
 なお、この場合に損失を被るのは使用時の権利者であるから、KDEから原告に本件プログラムの著作権が譲渡されるまでの間の使用についてはKDEが、KDEから原告に本件プログラムの著作権が譲渡されて以降の使用については原告が、それぞれ不当利得返還請求権を取得することになるが、KDEが取得した不当利得返還請求権は、本件プログラムに関する著作権とともに原告に譲渡されたから、現在の権利者はいずれも原告ということになる。
イ 被告ら
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 前記第2の2(前提となる事実)に加え、証拠(甲2の1〜3、甲3の1、2、甲4〜11、13、14、18〜22、28、33、58〜64、73、乙イ1〜7、9、11、19〜21、30、乙イ31の1、2、乙イ32、乙イ33の1〜3、乙イ34、35、38〜42、乙イ43の1、2、乙イ44の1〜3、乙イ45、乙ロ1〜7、11、12、乙ハ1、原告代表者、証人B)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 本件協業スキームにおけるKDE製端末の採用について
 被告NTTコムは、平成16年12月、本件協業スキームに使用する決済端末のメーカーとして日本インジェニコを選定し、平成17年1月には、被告NTTコムのほか、三井住友カード、被告GPネット、被告INSソリューション、アッカ及び日本インジェニコの6社で本件協業スキームに関する協議を続けていたが、日本インジェニコは、平成17年3月頃、本件協業スキームから撤退した。
 その後、被告INSソリューション及び岩通アイセック株式会社(平成17年4月1日に岩通SSに吸収合併し消滅)は、日本インジェニコ製端末に代わるものとして、韓国において既に実用化されていた決済端末(KDE製端末)を紹介し、協業各社で検討したところ、KDE製端末はブロードバンド対応、IP通信対応がされていたことから、本件協業スキームにおいて採用する決済端末はKDE製端末でよいということになった。そこで、被告NTTコム、被告INSソリューション及び岩通SSは、KDE製端末の仕様確認を行うことになり、このKDE製端末の供給に関する打合せの席に原告代表者のAも参加することになった。
 岩通SSは、平成17年5月には、KDE製端末の製造元や販売元とはならないという方針を決定したが、岩通SSが関与すること自体が被告NTTコムに対する信用補完の1つとなっていたことから、東京ソフトも交えて協議した結果、岩通SSは、KDE製端末の開発過程での技術的な協力や評価をする限度でKDE製端末の調達等に関与することになった。また、岩通SSにおいてKDE製端末の調達等に関与していた従業員を東京ソフトの子会社である株式会社ティ・エスコミュニケーションズ(以下「TSC」という。)に移籍させることとされたため、同年10月頃から、岩通SSの担当者が徐々にTSCに移籍した。その結果、KDE製端末については、原告→東京ソフト→TSC→被告INSソリューション→被告NTTコムという商流で取引されることとなった。
 この間、東京ソフトと原告は、平成17年5月25日付けで「カード決済端末事業基本契約書」(甲8)を締結し、原告が東京ソフトにKDE製端末を販売することに関する基本的条件を定めた。同基本契約書は、東京ソフトが原告に対して「本格運用開始後、2年以内に2万台の受発注を予定することに合意する」ことが明記されるとともに、代金が前払とされており、これに基づき、東京ソフトは、原告に対し、初年度分のKDE製端末1万台を発注し、同年7月6日、代金の前渡金3億2550万円を支払った。また、東京ソフトは、原告に対し、KDE製端末の開発に伴い、同年8月15日に1365万円(EMV認証費用)、同年9月15日に525万円(ブランド認証費用)、平成18年3月29日に1575万円(開発過程におけるコストアップ費用)を支払ったほか、既に発注しているKDE製端末1万台の追加費用として、平成20年7月22日に500万円、同年8月15日に1390万円、同月18日に2205万円、同月27日に2205万円をそれぞれ支払った。
 他方、被告NTTコムと被告INSソリューションは、平成17年10月21日付けで、本件協業スキームの商用化に向けた覚書(甲6)を作成した。同覚書(有効期間は平成18年3月31日まで)においては、本件協業スキームが商用化することとなった場合、被告NTTコムは、被告INSソリューションが提供するKDE製端末を調達することとし(1条2項)、また、同覚書3条1項に定める基本契約に基づいて被告NTTコムが被告INSソリューションからKDE製端末を調達する期間内は、被告NTTコムはKDE製端末に近似若しくは同一水準の機能仕様を有する決済端末を被告INSソリューション以外の業者から採用及び調達しないものとされたが(2条2項但書)、一方で、本件協業スキームは検討を通じて変更することを妨げないこと(1条1項)、被告NTTコムが被告INSソリューションからKDE製端末を調達する場合には別途基本契約(契約期間は1年間)を締結することとし(3条1項)、当該基本契約については更新を保証するものではないこと(3条2項)などが確認された。
 被告NTTコムとUCカードは、被告INSソリューション、被告GPネット、アッカ及び東京リース株式会社と連携して、平成19年7月から、ADSLを用いたブロードバンドIP通信による高速化を実現したオンライン決済処理サービス等を含む各種サービスをパッケージにした「OCNクレジット加盟店パック(U)」の販売を開始したが、平成20年9月3日、上記6社による「OCNクレジット加盟店パック」の全体会議が開催され、同会議において、本件協業スキームによるサービスが協業各社の事業採算ラインに達する可能性は極めて低いとの結論に達し、サービスの終了に向け、各社が協力することが合意された。
(2) 被告GPネットが本件サーバを導入した経緯
ア 前記第2の2(前提となる事実)(3)のとおり、被告GPネットは、IP通信に対応できるデータ処理サーバ(SSLサーバ)の構築を望んでいたが、上記(1)のとおり、被告NTTコムがKDE製端末の仕様確認を行う中で、既に韓国においてSSLサーバとして実績のあるソフトウェア(本件プログラム)が存在するとの情報が得られた。
 そこで、被告NTTコムBP部のB(旧姓「B」)(以下「B」という。)は、平成17年6月、本件プログラムの仕様の確認をするため、被告INSソリューションに打合せを依頼し、その後、被告NTTコム、原告及び被告INSソリューションらとの間で、本件プログラムの仕様確認や導入費用に関する打合せ等が行われるようになった。
イ 平成17年6月29日、被告NTTコムBP部のB、同SE部のC(以下「C」という。)、原告代表者のA及び被告INSソリューションのD(以下「D」という。)らとの間で、本件プログラムに関する打合せが行われたが、その際、Bは、Aらに対し、@構築するSSLサーバは、被告NTTコムの大手町データセンター内に設置するものであるが、被告GPネットの設備であること、A被告NTTコムが被告GPネットに提案するSSLサーバは、被告GPネットのSSLに関する標準仕様となるため、KDE製端末専用ではなく、今後IP通信化する決済端末や既にIP通信に対応している株式会社日立製作所製の決済端末(以下「日立製端末」という。)も接続することを伝えた上、B本件プログラムのライセンスとインストールに要する価格を提示するよう依頼した。
 また、同年7月4日、被告NTTコムSE部のCがAに対し、被告GPネットの方針として、本件プログラムは全決済端末で利用できることが前提であることを伝えた上で、原告及び被告INSソリューションを通じて提供される予定の決済端末(KDE製端末)以外の決済端末にインストールするSSLソフトについて問い合わせたところ、Aは、同月6日、本件プログラムは全決済端末において使用することができる旨の回答をした。
ウ 被告NTTコムSE部のCは、平成17年7月20日、原告、岩通SS及び被告INSソリューションに対し、本件プログラム及び環境構築等の費用に係る見積条件を電子メールで送付した。当該見積条件には、導入作業として、以下の記載がある。(甲19)
「■導入
【作業範囲】
 ・ハードウェア組み立て及びソフトウェアの事前インストールと設定を実施
  −OSインストール
  −追加パッケージ等ソフトウェアインストール(apache、SSLアプリ等)
  −セキュリティアップデート(OSセキュリティプログラムの最新版パッケージ適用)
 ・ハードウェアキッティング(オンサイト設置:平日・日中)
  ※DC内のサーバラックへマウントを実施
 ・導入試験
■完成図書
 ・サーバーOS設定情報
 ・導入試験手順書、試験成績書
■その他
 ・設置作業における都内移動の交通費を含むこと」
エ 岩通SSは、被告NTTコムからの上記見積依頼を受けて、平成17年7月25日、宛先を被告INSソリューションのD、CC(同時送信先)を原告代表者のAらとして、本件プログラムの費用及びシステム構築費用の概算について、以下のとおり電子メールで送信した。(乙イ19)
 「ソフト費用:300万円
  システム構築費用:200万円
    ハードウェア組立及びソフトウェア事前インストール費用
    追加パッケージ等インストール費用
    セキュリティアップデータ費用
    ハードウェアキッティング費用
    導入試験費用
    ドキュメント製作費用
      サーバーOS設定書
      導入試験手順書
      試験成績書
    交通費」
 なお、上記のソフト費用及びシステム構築費用の概算が記載された電子メールは、同日、被告INSソリューションのDから被告NTTコムSE部のCらに対して転送された。(乙イ19)
 また、平成17年8月8日、被告INSソリューションから被告NTTコムに対し、本件サーバの正式な見積りが電子メールで提示された(乙イ20)。当該電子メールでは、ソフト費用一式が300万円(消費税別途)とされ、その内訳として、Webサーバ(サーブレット、SSL支援)50万円、メッセージ・コンバータ200万円、モニタリング・システム50万円がそれぞれ記載されている。このほか、見積りの内容としては、HP社製サーバ一式208万9500円(消費税込み)、システム構築費用110万円(消費税別)であり、ソフト費用一式を含め、合計639万4500円(消費税込み)となっている。
 本件サーバの保守については、被告NTTコムから被告INSソリューションに対し、365日24時間の保守対応が可能なことを要望していたが(甲19)、被告INSソリューションも岩通SSもそのような保守を行う態勢がなかったこと、本件サーバの調達をNTT−DCSから行うことに加え、同社であれば365日24時間の保守対応が可能であったことから、本件サーバの提供と保守のいずれもNTT−DCSで統一することにし、本件サーバに関する契約に当たっては、被告INSソリューションとNTT−DCSの契約及びNTT−DCSと被告NTTコムの契約とすることとした。そのため、平成17年8月9日、NTT−DCSから被告NTTコムに対し、本件サーバの構築及び保守の見積書が電子メールで送付されたが(乙イ43の1〜3)、同見積りは、被告INSソリューションから被告NTTコムに対して提示された見積りと同一の内容であった。
オ 本件プログラムをインストールするためのサーバ(ハードウェア)は、NTT−DCSが購入したものが事前に岩通SSに納入され、原告及びKDEらが事前に本件プログラムをインストールした上で、平成17年8月22日、1台が先行して大手町データセンターに納入された。
カ Aは、平成17年8月25日、被告NTTコムSE部のCに対し、電子メールで、同時点での「Gpnet様向けGateway Server仕様説明書」(乙イ3)を送付した(乙イ9)。この仕様説明書(乙イ3)は、本件プログラムの仕様概要が記載されたもので、KDEが韓国語で作成したものをAが邦訳したものであるが、その説明文中には、「最少の費用と簡単な設置で既存のシステムをインターネット対応のシステムにアップグレード」、「今後、Gpnet様の全ての端末にSSL基盤を簡単に適用可能」などの記載がある。
 また、Aは、同年10月11日、宛先を岩通SSのE、CC(同時送信先)を岩通SSのF、被告INSソリューションのDとして、ILKが作成した本件プログラムの技術仕様書を邦訳し、これを電子メールで送信した(乙イ31の1、2。この電子メールは、被告NTTコムに対しても、同月13日に転送された。)。このILK作成(原告邦訳)に係る技術仕様書(乙イ31の2)には、本件プログラムのメリットとして、「最少の費用と容易な設置で既存のシステムをインターネット対応にアップグレード出来る。」、「今後、Gpnet で使われる全ての端末機にSSL基盤を容易に適用出来る。」などの記載がある(4/41頁)。
キ 被告INSソリューション、岩通SS、原告(Aを含む。)及びKDEは、平成17年10月17日、被告NTTコムからの依頼で、本件サーバと日立製端末の接続試験に立ち会った。
ク 被告NTTコムは、平成17年10月21日、NTT−DCSとの間で本件プログラムをインストールしたサーバ用コンピュータ(本件サーバ)2台を目的物とする売買契約を締結した(乙イ7)。代金の合計は639万4500円(消費税込み)であり、物品の内訳は、サーバ本体等のほか、アプリケーションとして、「Webサーバ(サーブレット、SSL支援)」、「メッセージ・コンバータ」、「モニタリング・システム」とされている。
ケ 平成17年10月25日、本件サーバ1台が大手町データセンターに納入され、合計2台の本件サーバ(1台はバックアップ用)が設置された。同サーバについても、本件プログラムをインストールする作業が行われたが、この作業を行ったのは、原告及びKDEらである。
コ 岩通SSは、平成17年10月26日、被告INSソリューションに対し、本件プログラムに関するサーバソフト設定費用一式として合計346万5000円(消費税込み)の見積書を示した(甲3の1)。同見積書には、サーバソフト設定費用一式の内訳として、「Webサーバ(サーブレット・SSL)」、「メッセージコンバータ構築」、「モニタリングシステム」、「ソフトフェアインストール設定費用」、「ドキュメント作成費用」が記載されている。
 被告INSソリューションは、同月28日、NTT−DCSに対して、本件プログラムに関するサーバソフト設定費用一式として合計367万5000円(消費税込み)の見積書を示した(甲2の1)。同見積書には、サーバソフト設定費用一式の内訳として、「Webサーバ(サーブレット・SSL)」、「メッセージコンバータ構築」、「モニタリングシステム」、「ソフトフェアインストール設定費用」、「ドキュメント作成費用」が記載されている。
サ 上記見積りに基づき、NTT−DCSは、被告INSソリューションに対し、本件サーバの構築・設定業務等を代金367万5000円(消費税込み)で委託した(甲2の2)。
 また、被告INSソリューションは、平成17年10月27日、岩通SSに対し、品名を「サーバソフト設定費用一式」とする仮注文書(金額は消費税込みで346万5000円)を発行し(甲3の2)、岩通SSも、同様に、同年10月31日、東京ソフトに対し、品名・仕様を「サーバソフト設定費用1式」とする仮注文書(金額は消費税込みで315万円)を発行した(甲4)。
 原告は、東京ソフトから「サーバソフト設定費用一式」として800万円を超える金銭を受領した(原告代表者)。
シ 被告NTTコムは、平成17年11月30日、被告GPネットとの間で、本件サーバのほか、ルータ等のネットワーク機器及び設定も含めた「SSL−VPNサーバセグメント設計・建設委託」に関する委託契約を締結した(乙ハ1)。
ス 本件サーバは、平成18年3月1日、検査を完了し、被告NTTコムから被告GPネットに対して引き渡された(乙イ2)。
セ 原告は、平成19年3月、TSCに対し、「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバーアプリケーションソフトウェア納入仕様書」(甲5)を交付した。当該仕様書には、本件プログラムが、「新規に設置される2台セットのサーバ機器(判決注:被告NTTコムのデータセンターに設置された上記2台の本件サーバをいうものと認められる。)のみを対象とし、使用許諾され」るとの記載がある。
 また、TSCは、被告INSソリューションに対して、本件プログラムに関する平成19年3月19日付け「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバー納入仕様書」(乙イ4、32)を交付し、被告INSソリューションは、NTT−DCSに対し、平成19年4月27日付け「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバー納入仕様書」(乙イ5)を交付し、被告INSソリューションからNTT−DCSに対して交付された「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバー納入仕様書」(乙イ5)に被告NTTコムが承認をして、被告INSソリューションに対して交付した。さらに、被告NTTコムは、被告GPネットに対し、平成19年8月付け「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバー納入仕様書」(乙イ6)を交付した。これらの納入仕様書には、本件プログラムが、大手町データセンターに設置された上記2台の本件SSLサーバのみを対象とし使用許諾される旨の記載があり、さらに、TSCが被告INSソリューションに対して交付した納入仕様書(乙イ32)には、「最少の費用と容易な設置で、既存のシステムをインターネット対応にアップグレード出来る」、「今後、GPnetで使われる全ての端末機にSSL基盤を容易に適用出来る」などの記載がある(5頁)。
ソ 被告INSソリューションは、平成19年12月17日、原告及びTSCとの間で、本件サーバに関する保守マニュアルを制作するとともに、同月28日付けで、原告に対し、当該保守マニュアルに基づく本件プログラムの保守を委託した(乙ロ1)。原告は、これを受けて、同日、被告INSソリューションに対して請求書(金額は消費税込みで26万2500円。乙ロ2)を発行し、被告INSソリューションは、同額の金員を原告の指定する銀行口座に振り込んだ(乙ロ3)。
 被告INSソリューションから原告に対する本件プログラムの保守に係る注文書(乙ロ1)には、原告が行う業務内容として「NTTコミュニケーションズ鰍ェ実施する鰍fPネット保有のSSLサーバ・アプリに対する年間保守に関する委託業務」という記載がある。
2 争点(1)(譲渡権侵害の成否)について
(1) 原告は、被告NTTコムが被告GPネットに対し、本件プログラムがインストールされた本件サーバ2台を譲渡したことが、本件プログラムに係る原告又はKDEの譲渡権(著作権法26条の2第1項)を侵害する旨主張する。
 しかしながら、譲渡権は、著作物(映画の著作物を除く。)をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利をいい、「公衆」には「特定かつ多数の者」も含まれるが(同法2条5項)、特定少数の者に対する譲渡について譲渡権は及ばない。
 本件において、被告NTTコムは、本件プログラムがインストールされた本件サーバを被告GPネットに譲渡したにすぎないのであるから、同譲渡は公衆に提供する行為には該当せず、本件プログラムに係る譲渡権を侵害するものということはできない。
(2) また、上記1の認定事実によれば、KDEが作成し、原告が邦訳して被告NTTコムに送付した本件サーバに係る仕様説明書(乙イ3)には「Gpnet様向けGateway Server」という記載や、「最少の費用と簡単な設置で既存システムをインターネット対応のシステムにアップグレード」、「今後、Gpnet様の全ての端末にSSL基盤を簡単に適用可能」との記載があり、これらの記載は、原告において、本件サーバが被告GPネットに納品され、被告GPネットが本件プログラムを使用することをあらかじめ認識していたことを示すものである(この点、原告は、上記仕様説明書〈乙イ3〉について、何者かが偽造したものである〈原告が邦訳したものではない〉などと主張するが、上記仕様説明書は、原告代表者Aが被告NTTコムSE部のCに対し、平成17年8月25日に送信した電子メールに添付されていたものと認められ〈乙イ9〉、原告の上記主張は採用することができない。)。
 これに加え、上記1(2)ソのとおり、被告INSソリューションが原告に交付した「SSLサーバ・アプリ年間保守(業務委託)」に係る注文書(乙ロ1)には、原告が行う業務内容として、「NTTコミュニケーションズ鰍ェ実施する鰍fPネット保有のSSLサーバ・アプリに対する年間保守に関する委託業務」という記載があったことも併せ考慮すると、原告は、被告NTTコムから被告GPネットに対して本件プログラムがインストールされた本件サーバが譲渡され、被告GPネットにおいて使用していることを認識し、これを了承していたことが認められる。
(3) さらに、原告は、本件プログラムに関連して、東京ソフトから「サーバソフト設定費用一式」として800万円を超える金銭を受領しているが、この「サーバソフト設定費用」は、被告NTTコムSE部のCが当初、見積りを依頼した「サーバソフト」(本件プログラム)に対応する費用であり、環境構築という作業に対応する費用(システム構築費用)とは別項目とされていること(甲19、乙イ19、20)、「サーバソフト設定費用」の内訳(「Webサーバ(サーブレット、SSL支援)」、「メッセージ・コンバータ」、「モニタリング・システム」)がNTT−DCSの被告NTTコムに対する見積り(乙イ43の2)や物品売買契約書(乙イ7)別紙の物品内訳書の項目と一致しているだけではなく、被告INSソリューションのNTT−DCSに対する見積書(甲2の1)や岩通SSの被告INSソリューションに対する見積書(甲3の1)の「サーバーソフト設定費用一式」の項目とも一致していることからすると、本件プログラムを使用することの対価がこれに含まれていたものと認めるのが相当である。
 したがって、NTT−DCSと被告INSソリューションとの契約(甲2の2)、被告INSソリューションと岩通SSとの契約(甲3の2)のみならず、岩通SSと東京ソフトの契約(甲4)及び東京ソフトと原告との契約における「サーバーソフト設定費用一式」には、本件プログラムの使用の対価が含まれていたということができるから、本件においては、原告→東京ソフト→岩通SS→被告INSソリューション→NTT−DCS→被告NTTコム→被告GPネットと順次本件プログラムの使用許諾がなされ、それぞれ使用許諾の対価が支払われていたものと認められる。
(4) 上記(2)、(3)のとおり、原告は、本件サーバが被告GPネットに対して譲渡され、被告GPネットが本件サーバを使用することについて、対価を得た上でこれを許諾していたことが認められるから、いずれにしても、本件プログラムに係る譲渡権侵害を認めることはできない。
3 争点(2)、(3)、(5)について
 原告は、争点(2)(債務不履行の成否)、(3)(みなし著作権侵害〈著作権法113条2項〉の成否)、(5)(不当利得の成否)において、いずれも本件プログラムが「DSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的」で、本件サーバにインストールされたことを前提とする主張をしている。
 しかしながら、上記1の認定事実によれば、被告NTTコムが原告らに対し、本件プログラムの使用許諾の対価に関する見積りを依頼したところ、被告INSソリューションから本件プログラムの使用の対価として300万円の提示がされたものの、使用条件の制限等に関する事項については、何ら提示されていない。
 また、上記1のとおり、「ターミナルゲートウェイ(T−GW)サーバー納入仕様書」が、原告から被告GPネットまで、関係者間で順次交付されており(甲5、乙イ4〜6)、当該納入仕様書には、それぞれ被告NTTコムの大手町データセンター内に設置された2台の本件サーバにおいて本件プログラムを使用することが許諾されているところ、かかる納入仕様書においても、その使用目的を制限するような記載は一切存在しない。
 その他、本件全証拠を検討しても、本件において、本件プログラムが「DSL回線対応クレジットカード決済システムの製品評価・機能評価のために一時的に使用させる目的」で本件サーバにインストールされたことを認めることはできず、争点(2)、(3)、(5)に関する原告の主張は、いずれもその前提を欠くものとして、理由がないというべきである。
4 争点(4)(詐欺による不法行為の成否)について
 原告は、被告らが実際には被告GPネット独自の決済認証サービスに本件プログラムを使用する意思を有していたにもかかわらず、その意思を秘匿し、あたかも本件プログラムが本件協業スキームにおいてKDE製端末を大量導入する前提でその性能等を検証する目的で使用されるものであり、本件協業スキームが商用化された場合にはKDE製端末が被告INSソリューションや東京ソフトを介して被告NTTコムから原告に大量発注されるものとだました旨主張する。
 しかしながら、本件プログラムは、KDE製端末を使用した決済システムの製品評価・機能評価のために本件サーバにインストールされたものではなく、被告GPネットが本件プログラムを使用することについて、目的や期限の制限を受けるものではないことは、前示3のとおりである。そして、原告自身も、本件プログラムがKDE製端末以外の決済端末にも接続されることについてはこれを了解し(上記1(2)イ、カ)、実際、本件サーバと日立製端末の接続試験に立ち会うなどしているのであるから(上記1(2)キ)、上記の点については十分に理解していたものと認められる。
 また、上記1(1)のとおり、東京ソフトは、平成17年5月25日、原告との間において、市場動向等の変化によって見直しをするという留保もせず、2年以内にKDE製端末2万台の受発注を予定することを合意した上、原告に対し、同年7月6日、そのうち1万台分の代金3億2550万円を前払いしたほか、同年8月15日にEMV認証費用として1365万円、同年9月15日にブランド認証費用として525万円、平成18年3月29日に開発過程におけるコストアップ費用として1575万円を支払うなどしている。このように、原告は、東京ソフトから、KDE製端末の販売の対価のほか、同端末に関連して多額の金員を取得しているのであり、それにもかかわらず、被告NTTコムがKDE製端末を大量発注することを本件プログラム使用の条件としていた旨の原告の主張は不自然というほかなく、これを採用することはできない。
 以上のとおり、本件において、被告GPネットが本件プログラムを独自の決済認証サービスに使用することができることは当然のことであり、そのことを原告に明示に説明したことがなかったからといって、これが原告に対する関係で詐欺に当たるということはできない。
 したがって、争点(4)に関する原告の主張も理由がない。
5 結論
 以上検討したところによれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 岡本岳
 裁判官 鈴木和典
 裁判官 坂本康博
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