判例全文 line
line
【事件名】調理器具デザイン図面の著作物性事件(2)
【年月日】平成24年3月22日
 知財高裁 平成23年(ネ)第10062号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第46747号)
 (口頭弁論終結日 平成24年1月26日)

判決
控訴人(一審原告) X
訴訟代理人弁護士 杉田禎浩
同 大井法子
被控訴人(一審被告) 株式会社良品計画
訴訟代理人弁護士 橘高郁文
補佐人弁理士 峯唯夫


主文
1 本件控訴(当審で拡張した請求を含めて)を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し564万8000円及びこれに対する平成22年1月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 以下、略語については、原判決と同一のものを用いる。
1 原審における請求の内容
 控訴人(1審原告、以下「控訴人」という。)の被控訴人(1審被告、以下「被控訴人」という。)に対する請求の内容は、以下のとおりである。
(1) 請求(1)・・・本件三徳包丁等へのデザイン使用に関連した請求
ア 主位的請求
 控訴人は被控訴人に対し、被控訴人が控訴人の提案したデザインを使用した本件三徳包丁等を製造、販売した行為に関して、本件三徳包丁等が、控訴人及び被控訴人間で締結した本件商品化実施契約に係る対象商品に含まれると主張して、ロイヤルティ相当額である損害金364万8000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年1月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
イ 予備的請求
 控訴人は被控訴人に対し、本件三徳包丁等を製造、販売した被控訴人の行為は、本件デザイン1(片手鍋用のデザイン)について控訴人が有する複製権、翻案権(なお、控訴審では、譲渡権を追加した。)を侵害する行為であると主張して、ロイヤルティ相当額の損害金364万8000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年1月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた(判決注 商事法定利率の根拠は明らかではない。)。
(2) 請求(2)・・・デザイン賞応募についてのデザイナーの表示に関連した請求
ア 主位的請求
 被控訴人が、本件三徳包丁等のデザイナーとして、控訴人ではなく第三者(A)を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をしたことは、本件商品化実施契約の付随債務に違反すると主張して、損害金100万円及び上記同様の遅延損害金の支払を求めた。
イ 予備的主張
 被控訴人が、本件三徳包丁等のデザイナーとして、控訴人ではなく、第三者(A)を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をしたことは、本件デザイン1について控訴人が有する氏名表示権(著作権法19条)を侵害すると主張して、損害金100万円及び上記同様の遅延損害金の支払を求めた(判決注 上記と同様に商事法定利率の根拠は明らかではない。)。
(3) 請求(3)・・・コンテスト応募についてのデザイナーの表示に関連した請求
ア 主位的請求
 被控訴人が、控訴人提案のデザインを使用して商品化し販売した本件鍋シリーズについて、デザイナーとして控訴人及び被控訴人担当者(B)の両名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をしたことは、本件業務委託契約の付随債務の不履行に当たると主張して、損害金100万円及び上記同様の遅延損害金の支払を求めた。
イ 予備的主張
 被控訴人が、控訴人提案のデザインを使用して商品化し販売した本件鍋シリーズについて、デザイナーとして控訴人及び被控訴人担当者(B)の両名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をしたことは、本件デザイン1について控訴人が有する氏名表示権(著作権法19条)を侵害すると主張し、さらに、予備的に、控訴人の人格的利益を侵害する不法行為を構成すると主張して、損害金100万円及び上記同様の遅延損害金の支払を求めた(判決注 上記と同様に商事法定利率の根拠は明らかではない。)。
2 原判決の内容
 原判決は、控訴人の請求につき、@本件商品化実施契約の対象は「『鍋のハンドル』を使用した調理器具」であって、本件三徳包丁等を含まない、A本件鍋シリーズのデザインの創作者が控訴人のみであると認めることはできない、B本件デザイン1は著作権法による保護の対象とはならない等と判示し、控訴人の請求をいずれも棄却した。
3 当審で追加された請求
 控訴人は、当審において、以下の請求を追加した。
(1) 請求(1)の第2次的予備的追加請求(いわゆる一般不法行為による請求) 第2次予備的請求として、控訴人が侵害を受けたと主張する権利・利益を、「控訴人が本件デザイン1につき有する法律上保護される利益」であるとし、これを侵害されたことによる損害金の支払いを求める請求を追加した。
(2) 請求(2)の第2次的予備的追加請求(いわゆる一般不法行為による請求)
 第2次予備的請求として、控訴人は、被控訴人に対して、「控訴人が、本件デザイン1につき有する法律上保護される利益」を侵害されたことによる損害金の支払いを求める請求を追加した。
(3) 請求(1)ないし(3)の各予備的請求についての請求原因の追加(著作権・著作者人格権侵害)
 控訴人は、控訴人が著作権等を侵害されたと主張する著作物について、控訴理由書において「控訴審において、著作物を主張する対象を、本件原立体図面及び本件原デザイン図面とする。」と主張し、平成24年1月18日付け準備書面(7)においては「本件デザイン1の製品化の経緯に照らし、侵害の客体となる著作物を、立体のデザインモデル及び平面の製作図面との両者の一方又は双方である」と主張した(判決注 デザインモデル及び平面の製作図面が、具体的に何を指すかは、必ずしも明確ではない。)。
 本判決では、便宜、控訴人が著作権等を侵害されたと主張する著作物について、「別紙原立体図面」(甲4の1添付の図面2枚目)、「別紙原デザイン図面」(甲4の1添付の図面1枚目)、「平面の製作図面」及び「立体のデザインモデル」を含むことを前提として判断する。
4 前提となる事実、争点及び争点に関する当事者の主張
 次のとおり付加、変更するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の「2 前提となる事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認められる事実)」及び「3 争点及び争点に関する当事者の主張」(原判決2頁25行目から9頁8行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決5頁26行目の「本件デザイン1は鍋の握り部のデザインであるところ、」を、「本件デザイン1は鍋の握り部のデザインであり、別紙原立体図面が主要な要素となっている別紙原デザイン図面に示された取付部と理解されるべきであるから、契約の対象をそのように理解した上で判断されるべきである。ところで、」と改める(判決注 控訴人は、本件デザイン1について、「理解されるべき」との表現をして、必ずしも、直接的な特定はしていない。)。
(2) 原判決8頁10行目の次に、行を改め、次のとおり付加する。
 「(5) 本件三徳包丁等へのデザイン使用行為が、控訴人が別紙原立体図面及び別紙原デザイン図面について有する複製権等を侵害するとの主張について
(控訴人の主張)
ア 別紙原立体図面
 控訴人は、平成7年1月24日ころ、別紙原立体図面を製作した。
 別紙原立体図面には、鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円)、手元側の断面について、縦長楕円(45度楕円)が描かれ、また、両楕円の円周上の点を結ぶ複数の直線が描かれている。同図面は、控訴人の思想感情が創作的に表現されているので、著作物に該当する。他方、本件三徳包丁等の握り部は、その手元側と他方が楕円面を有しており、楕円上の二点を結ぶ直線からできる曲面と端部楕円により構成された筒状からなるものであって、別紙原立体図面の創作的な部分が表現されているから、別紙原立体図面の複製物又は翻案物に該当する。
イ 別紙原デザイン図面
 控訴人は、平成7年1月31日ころ、別紙原デザイン図面を製作した。
 別紙原デザイン図面には、鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円)として、手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)として、それぞれ描かれ、また、楕円の円周上の二点を結ぶ直線等が描かれている。同図面は、控訴人の思想感情が創作的に表現されているので、著作物である。他方、本件三徳包丁等の握り手部分は、別紙原デザイン図面のうち、ジョイント部や握り部の鍋本体側下部の突起を除いた部分を、楕円の大きさを変更した上、立体化したものであって、別紙原デザイン図面の創作的な部分が表現されているから、別紙原デザイン図面の複製物又は翻案物に該当する。
 被控訴人が、本件三徳包丁等を製造した行為は、控訴人が別紙原立体図画及び別紙原デザイン図面について有する控訴人の著作権(複製権、翻案権及び譲渡権)を侵害する。
(被控訴人の反論)
 一般に、設計図等では、その性質上主として線を用い、これに当業者間で共通に使用されている記号や数値を付加して二次元的に表現するが、その表現形式の選択の余地は多くなく、特定の対象を設計図として表現するときは、その表現手法は限定され、個性の発揮はない場合が多い。別紙原立体図面及び別紙原デザイン図面は、ありふれた作図上の表現のみから構成されており、著作物性は否定されるべきである。
 仮に、別紙原立体図面及び別紙原デザイン図面に著作物性が認められるとしても、本件において、本件三徳包丁等を製造する行為は、控訴人の図面における創作的表現を再製する行為には該当しないから、別紙原立体図面及び別紙原デザイン図面について控訴人が有する著作権(複製権、翻案権)を侵害していない。
(6) 本件三徳包丁等へのデザイン使用行為が、控訴人が立体のデザインモデル及び平面の製作図面について有する複製権等を侵害するとの主張について
(控訴人の主張)
 控訴人は、本件デザイン1を訴外会社が製品化するための雛形として、原寸で製品と同じ外観、色を持つモックアップ(原寸模型)デザインモデルを制作し、これと製作図面とを、訴外会社に交付し、また、控訴人は、同図面と同一の図面を、被控訴人による製造のために交付した。被控訴人の製造、販売に係る本件三徳包丁等は、「立体のデザインモデル」と「平面の製作図面」のいずれか一方又は双方に依拠したものである。以上の経緯に照らすならば、本件三徳包丁等は、「立体のデザインモデル」及び「平面の製作図面」の複製物又は翻案物である。
(被控訴人の反論)
 控訴人が著作権を侵害されたと主張する「立体のデザインモデル」については、特定されていない。また、仮に特定されたとしても、それは、実用品である「鍋のハンドル」のデザインであって、「美術の著作物」とはいえず、著作物性を有しない。
 控訴人が著作権を侵害されたと主張する「平面の製作図面」については、同図面と「本件原立体図面」との関係が不明であり、特定されていない。また、仮に特定されたとしても、同図面が、著作物性を有するか否かは、「図面」の表現態様の創作性の有無によって判断されるべきであるところ、「図面」の表現態様は、控訴人の個性の発揮された思想・感情の表現であるとはいえないから、著作物性を有しない。
(7) 本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が不法行為を構成するとの主張について
(控訴人の主張)
 仮に、本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が債務不履行又は著作権等の侵害に該当しないとしても、控訴人の法的保護に値する利益を侵害したと評価できるから、上記使用行為は、不法行為を構成する。すなわち、控訴人は、本件デザイン1について、法的保護に値する利益を有している。そして、被控訴人は、本件デザイン1と酷似した持ち手部の形状を呈した本件三徳包丁等の製造販売をしているから、被控訴人の上記行為は、控訴人が本件デザイン1について有する法的保護に値する利益を侵害した。被控訴人の上記行為によって、控訴人は、少なくとも、本来許諾契約を締結していたなら得られたであろうロイヤリティー相当額である364万8000円の損害を被った。
 また、控訴人は、本件三徳包丁等が被控訴人のオリジナル商品であるかのように告知されたことにより、控訴人が本来得られるべき評価を得られなかった損害が生じた。その損害は、100万円を下回らない。
 さらに、控訴人は、本件鍋シリーズにおいて、取付部のデザインをしたにもかかわらず、デザイナーとして、第三者と並列的に表記されることにより、控訴人は評価を得られなかったこと等の損害を生じた。その損害額は、100万円を下回らない。
(被控訴人の反論)
 知的財産権の登録(例えば、意匠登録)がされておらず、不正競争防止法にも違反しない場合に不法行為が成立するのは、専ら控訴人に損害を与えることを目的として控訴人商品に酷似した商品を販売するなどの特段の事情がある場合に限られる。本件デザイン1ないし別紙原立体図面及び別紙原デザイン図面記載のデザインについては、意匠登録がされておらず、被控訴人が、本件三徳包丁等を製造した行為は、不正競争防止法違反にも該当せず、本件商品化実施契約にも違反しないのであるから、不法行為は成立しない。」
(3) 原判決8頁11行目の「(5)」を、「(8)」と改める。
第3 当裁判所の判断
(1) 本件商品化実施契約に基づく請求[前記第2の1(1)ア及び(2)アの各請求]について
 原判決の9頁10行目から13頁13行目記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決13頁12行目の「(前記第2の1(1)@及びAの主位的請求原因に係る請求)」を、「(前記第2の1(1)ア及び(2)アの各請求)」と改める。
(2) 本件鍋シリーズに係るデザイナー表示に関連した請求[前記第2の1(3)の各請求]について
 原判決の13頁14行目ないし14頁16行目のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決14頁13行目から16行目を「そうすると、本件鍋シリーズにおける鍋本体のデザイン開発に関与した者は、原告ではなく、原告は、本件鍋シリーズの持ち手部分のデザイン開発を担当したのであるから、原告が単独で、本件鍋シリーズのデザインを担当したことを前提とする原告の請求は、その前提を欠くことになり、採用することができない。
 さらに、原告は、予備的に、控訴人及び被控訴人担当者(B)をデザイナーとして表示してデザイナー協会のコンテストに応募等をした行為が、控訴人の人格的利益を侵害する不法行為を構成するとも主張する。しかし、上記の事実経緯に照らすならば、デザイナーとして控訴人及び被控訴人担当者を表示した行為が、不法行為に該当するとはいえず、この点の控訴人の主張も、採用することはできない。
 以上のとおりであり、控訴人の前記第2の1(3)の各請求は、いずれも理由がない。」と改める。
(3) 著作権侵害に基づく請求[前記第2の1(1)イ、(2)イ及び(3)イ、並びに、3(3)の各請求]について
 要するに、上記各請求は、控訴人が被控訴人に対して、被控訴人の各行為(@本件三徳包丁等を製造、販売した行為、A本件三徳包丁等のデザイナーとして第三者の名を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をした行為、B本件鍋シリーズについて、デザイナーとして控訴人及び第三者の名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をした行為」が、原告の創作した@本件デザイン1、A「別紙原立体図面」(甲4の1添付の図面2枚目)、B「別紙原デザイン図面」(甲4の1添付の図面1枚目)、C「平面の製作図面」D「立体のデザインモデル」に係る著作権・著作者人格権(複製権、翻案権、譲渡権、氏名表示権)を侵害すると主張して、損害賠償を求める請求である。
 著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、・・・美術・・・の範囲に属するものをいう。」と規定するが、さらに「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と重ねて規定する(2条1項1号、2項)。また、意匠法は、「この法律で『意匠』とは、物品・・・の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」と規定する(2条1項)。上記の規定振りなどに照らすならば、産業上利用されることを予定して製作される商品等について、その形状、模様又は色彩の選択により、美的な価値を高める効果がある場合、そのような効果があるからといって、その形状、模様又は色彩の選択は、当然には、著作権法による保護の対象となる美術の著作物に当たると解すべきではなく、その製品の目的、性質等の諸要素を総合して、美術工芸品と同視できるような美的な効果を有する限りにおいて、著作権法の保護の対象となる美術の著作物となると解すべきである。
 この観点から、検討する。
ア 「本件デザイン1」、「立体のデザインモデル」を保護の対象とする著作権等侵害の請求について
 本件デザイン1について、控訴人は、「本件デザイン1の製品化の経緯に照らし、侵害の客体となる著作物を、立体のデザインモデル及び平面の製作図面との両者の一方又は双方である」と主張しているが、それが何を指すかは、必ずしも明らかでない。一応、立体的な物を念頭に置いた主張と平面的な図形を念頭に置いた主張がされていることを前提として、その両者の場合について、判断する。
 本件デザイン1は、実用品である鍋の持ち手のデザインであること、鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円)、手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)の二つの楕円を直線の集合からなる曲面で覆われていること、鍋本体に近接した部分に指止め部分が設けられていること、下方に折れ曲がったジョイント部があることなどの形態を呈したデザインであると推認される(甲1、甲4の1)。上記の形態からなるデザインは、美的な観点から選択された面もあるが、実用品である鍋等の取っ手としての持ちやすさ、安定性など、機能的な観点から選択されたものともいえる。そのような点を勘案すると、本件デザイン1は、美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとまではいえず、著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできない。したがって、本件デザイン1が著作権法による保護の対象となるとは認められない。
 また、立体のデザインモデルについても、同様の理由により、著作権法による保護の対象となるとは認められない。
イ 別紙原立体図面、別紙原デザイン図面、平面の製作図面を保護の対象とする著作権等侵害の請求について
 控訴人は、別紙原立体図面は、鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円)、手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)として描かれているのに対し、本件三徳包丁等の握り部は、その手元側と他方が楕円面を有しており、楕円上の二点を結ぶ直線からできる曲面と端部楕円により構成された筒状からなる点において、共通するから、別紙原立体図面の複製物又は翻案物に該当すると主張する。
 しかし、控訴人の主張は、以下のとおり採用することはできない。すなわち、別紙原立体図面において、鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円)、手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)として描かれている手法は、ごく一般的な手法であって、この点に、表現上の個性の発揮と認められる点はない。また、別紙原立体図面により表現しようとした立体的な製品については、前記のとおり、美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとはいえないから、著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできない。以上のとおり、本件三徳包丁等を製造する行為は、控訴人の図面における創作的表現を再製するなどの行為には該当しないから、別紙原立体図面について控訴人が有する著作権(複製権、翻案権)を侵害しない。
 また、控訴人は、別紙原デザイン図面は、鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円)、手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)として描かれているのに対し、本件三徳包丁等の握り手部分は、ジョイント部や握り部の鍋本体側下部の突起を除いた部分を、楕円の大きさを変更した上、立体化したものである点において、共通するから、別紙原デザイン図面の複製物又は翻案物に該当すると主張する。しかし、控訴人の主張は、上記と同様の理由により失当であり、採用することはできない。
 さらに、控訴人は、平面の製作図面についても、同様の主張をする。しかし、控訴人の主張は、@平面の製作図面の内容は、明らかでなく、控訴人の主張は、採用できない。Aまた、仮に、平面の製作図面が、別紙原立体図面や別紙原デザイン図面と同一又は類似のものであったとの主張であったとしても、控訴人の主張は、上記と同様の理由により失当である。
ウ 小括
 以上によれば、控訴人の前記第2の1(1)イ、(2)イ及び(3)イ、並びに、3(3)の各請求は、いずれも、失当である(なお、前記第2の1(3)イの請求については、上記(2)の理由からも、失当である。)。
(4) 本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が不法行為を構成することを理由とする請求[前記第2の3(1)及び(2)の各請求]
 控訴人は、「被控訴人のした本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為」、及び「被控訴人のした、三徳包丁等のデザイナーとして第三者の名を表示した行為」がいわゆる一般不法行為を構成すると主張する。
 しかし、上記のとおり、本件デザイン1が、著作権の保護の対象となる著作物とはいえない以上、特段の事情のない限り、本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為及び本件三徳包丁等に関連して第三者の名を表示した行為が、不法行為を構成することはないといえる。特段の事情に関する主張、立証のない本件においては、控訴人の不法行為に該当するとの主張を採用することはできない。
第4 結論
 その他、控訴人は縷々主張するが、いずれも理由がない。以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がないから、本件控訴及び当審において追加された請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 池下朗
 裁判官 武宮英子
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/