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【事件名】鉄道DVD無断編集・放送事件
【年月日】平成24年3月22日
 東京地裁 平成22年(ワ)第34705号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年1月24日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 三戸岡耕二
同 吉岡俊治
被告 株式会社オスカ
被告 株式会社オスカ企画
被告 B
上記被告3名訴訟代理人弁護士 桑野雄一郎


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、110万円及びこれに対する平成22年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを18分し、その17を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、各自2000万円及びこれに対する平成22年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、世界各地の蒸気機関車(SL)を撮影したビデオ映像の著作者及び著作権者である原告が、上記ビデオ映像が被告らによってテレビ放送用の番組に編集され、テレビ局に販売されてテレビで放映されたことにより、同ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権、頒布権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)が侵害されたと主張して、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償金の内金として、各自2000万円及びこれに対する不法行為の後である平成22年10月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は、当事者間に争いがない事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、主に鉄道紀行を中心として、各種メディアに自己の作品を発表するなどの活動をしている、紀行作家・写真家である。
イ 被告株式会社オスカ企画(以下「被告オスカ企画」という。)は、テレビ番組等の映像制作会社である。
 被告株式会社オスカ(以下「被告オスカ社」という。また、被告オスカ企画と併せて「被告2社」ということがある。)は、テレビ用映画フィルムの配給等を業とする会社である。
 被告Bは、被告2社の前代表取締役である。被告Bは、原告の撮影した上記ビデオ映像が、後記のとおり被告らによってテレビ番組に編集され、テレビ局に販売された当時、被告2社の代表取締役を務めていた。
(2) 原告によるビデオ映像の撮影(甲4、7、10、乙1、7、8)
ア 原告は、平成12年ころ、原告の父から、父の知人である被告Bを紹介された。
イ 原告は、被告Bから、被告オスカ企画の保有する業務用のデジタルビデオカメラ(以下「DVカメラ」という。)及びその付属機材一式を借り受け、平成12年ころから平成16年までの間に、数回にわたり、世界各地(グアテマラ、エルサルバドル、ベトナム、中華人民共和国(以下「中国」という。)、アメリカ合衆国コロラド州、同アラスカ州)を訪れ、現地のSLの様子を上記DVカメラで撮影した(以下、原告が撮影した上記映像を「本件ビデオ映像」という。)。
 原告は、上記撮影旅行に出発する都度、被告Bの自宅にあった被告オスカ企画の制作室を訪れ、被告BからDVカメラ等の機材一式を借り入れるとともに、撮影用のデジタルビデオテープ(以下「DVテープ」という。)の提供を受けた。また、原告は、撮影旅行から帰国すると、被告BにDVカメラ等を返還し、原告が撮影した映像を記録したDVテープを同被告に渡していた。
 原告が撮影した本件ビデオ映像を記録したDVテープ(以下「本件DVテープ」という。)は、合計15本であり、撮影時間は約25時間に及ぶ。
ウ 原告は、本件ビデオ映像について、その撮影者として、著作権及び著作者人格権を取得した。
(3) 本件テレビ番組の制作、販売及び放映(甲6、乙5〜8、乙9の1〜6、乙9の8〜15、乙10の1〜4)
ア 被告オスカ企画は、平成16年ころ、本件ビデオ映像を利用してSLをテーマとするテレビ番組を制作することを企画した。
 そこで、当時被告オスカ企画の専属映像ディレクターであったCは、本件ビデオ映像を編集し、映像のナレーションを作成するなどして、次のとおり、2本のテレビ番組を制作した。なお、上記番組の映像中、ニュージーランド及びハワイの映像(放映時間合計4分49秒)については、本件ビデオ映像ではなく、被告オスカ企画が独自に入手した映像が利用された。
@ タイトル SLが語る世界の車窓 その1
 放映時間 24分35秒(CM(コマーシャル)の時間を除く。)
 撮影地域 ニュージーランド、グアテマラ、エルサルバドル、アメリカ合衆国ハワイ州、ベトナム
 (以下「本件テレビ番組1」という。)
A タイトル SLが語る世界の車窓 その2
 放映時間 24分37秒(CMの時間を除く。)
 撮影地域 中国、アメリカ合衆国コロラド州、同アラスカ州
 (以下「本件テレビ番組2」といい、本件テレビ番組1と併せて「本件テレビ番組」という。)
イ 被告オスカ社は、本件テレビ番組を、別紙「本件テレビ番組販売先等一覧表」(以下「別紙一覧表」という。)の「販売先」欄記載のテレビ局に対し、同「販売価格」欄記載の価格で販売した。
 本件テレビ番組は、上記テレビ局において、別紙一覧表の「放送日」欄記載の日時に放送された。
ウ 本件テレビ番組には、撮影者である原告の氏名は表示されていない。
(4) 本件DVDの制作及び販売(甲1、4、10、乙8)
 被告オスカ社は、本件テレビ番組が上記のとおりテレビで放送された後、株式会社博美堂(以下「博美堂」という。)から、本件テレビ番組をDVDに収録して、株式会社大創産業(以下「大創産業」という。)向けの商品として販売したい旨の要望を受け、博美堂との間で、本件テレビ番組をDVDに収録して販売することを合意した(以下、本件テレビ番組を収録したDVDを「本件DVD」という。)。
 博美堂は、平成19年に、大創産業に対して本件DVDを販売し、大創産業は、同年10月ころから、その経営する100円ショップ「ダイソー」において本件DVDを販売した。
(5) 別件訴訟の結果(弁論の全趣旨)
ア 原告は、本件DVDの制作及び販売により本件ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)が侵害されたとして、東京地方裁判所に対し、大創産業を被告として、損害賠償金4950万円(財産的損害4000万円、精神的損害500万円及び弁護士費用450万円)の支払等を求める訴え(平成20年(ワ)第36380号。以下「別件訴訟」という。)を提起した。被告オスカ社は、大創産業の補助参加人として、別件訴訟に参加した。
イ 東京地方裁判所は、平成22年4月21日、本件DVDを制作する行為は本件ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)を侵害するものであると認め、大創産業に対し、損害賠償として307万5328円及び遅延損害金の支払を命じ、原告のその余の請求を棄却する判決(以下「別件訴訟第一審判決」という。)を言い渡した。上記認容額は、著作権法114条3項に基づく財産的損害210万5920円及び著作者人格権侵害の慰謝料100万円の合計310万5920円から、過失相殺として原告の過失1割を減額し、これに弁護士費用28万円を加えた金額である。
ウ 原告は、別件訴訟第一審判決を不服として、知的財産高等裁判所に控訴をした(平成22年(ネ)第10046号)。
 知的財産高等裁判所は、平成22年11月10日、別件訴訟第一審判決を変更し、大創産業に対して329万6800円及び遅延損害金の支払を命じる判決(以下「別件訴訟控訴審判決」という。)を言い渡した。上記認容額は、財産的損害199万6800円、慰謝料100万円及び弁護士費用30万円の合計額であり、大創産業側の主張した過失相殺は認められなかった。
 同判決は、その後確定し、原告は、上記認容額の支払を受けた。
2 争点
(1) 原告は、被告らに対し、本件ビデオ映像を編集して放送番組を制作すること及びテレビ局を通じて同番組を放送することを黙示に許諾したか(争点1)
(2) 被告らは、本件テレビ番組に原告の氏名表示を省略すること(著作権法19条3項)ができるか(争点2)
(3) 被告らの故意又は過失の有無(争点3)
(4) 過失相殺の成否(争点4)
(5) 原告の損害(争点5)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(原告は、被告らに対し、本件ビデオ映像を編集して放送番組を制作すること及びテレビ局を通じて同番組を放送することを黙示に許諾したか)について
[被告らの主張]
ア 本件テレビ番組が制作され、テレビで放送されるまでの事実経過は、次のとおりである。
(ア) 被告Bは、平成12年ころ、原告の父から、当時カメラでSLの写真を撮影していた原告の身の振り方について相談を受け、カメラではなく動画を撮ることを勧めてみてはどうかと提案するとともに、原告に興味があるなら被告オスカ企画が保有する機材を貸与してもよい旨を話した。
 この話を聞いた原告は、被告Bの自宅にあった被告オスカ企画の制作室を訪れ、被告Bと相談した結果、原告が海外に出かける際に、被告オスカ企画から機材を借りて鉄道の映像を撮影し、撮影したDVテープは機材とともに被告オスカ企画に渡すこととした。なお、このDVテープは被告オスカ企画の資産であり、原告は、撮影旅行から帰ると、被告オスカ企画に本件DVテープを返却していた。
 このようにして撮影された本件ビデオ映像は、もともと、原告の趣味の一環として撮影されたものであって、被告2社において本件ビデオ映像を利用して放送番組等を制作することを予定して撮影されたものではなく、当初はその予定もなかった。
(イ) その後、原告が平成16年3月から5月まで中国に撮影旅行に出かけていたころ、被告オスカ企画において、本件ビデオ映像を利用して放送番組を制作するという企画が持ち上がった。
 ところが、原告は、中国から帰国した後、被告オスカ企画に機材を返却するに際し、返却日時の約束を一方的にキャンセルしたり、約束の訪問時間に遅れたりなどしたことについて、平成16年5月24日に被告オスカ企画を訪れた際に、被告Bから強く叱責されたため、以後、原告が被告Bと話をすることはなくなった。
(ウ) 原告は、平成16年5月28日、三脚を返却するために被告オスカ企画の制作室を訪れた。その際、Cは、原告に対し、本件ビデオ映像を利用して放送番組を制作する企画を考えていることを伝えるとともに、撮影された映像の国名や列車名、駅名等の情報を書いた説明書を作成することを依頼した。これに対し、原告から、本件ビデオ映像のコピーが欲しいとの要望があったため、Cは、本件ビデオ映像をDVテープからVHSテープにダビングし、これを、同年6月26日、原告に送付した。
 しかしながら、原告がなかなか上記依頼に係る説明書を作成しなかったため、Cは、原告に対し、電話や手紙等で何度か催促をした。原告は、平成17年正月にCに送った年賀状(乙4。以下「原告年賀状」という。)において、「ご連絡が遅くなりすみません。時間をみつけビデオ資料整理しますのでもう暫くお待ち下さい」と記載したものの、その後も説明書を作成しなかった。
 そのため、Cは、自分で資料等を調査して情報を収集し、映像のナレーション等を作成するとともに、本件ビデオ映像を編集して、本件テレビ番組を制作した。
イ 上記事実関係によれば、原告は、遅くとも、Cから本件ビデオ映像の説明書の作成を依頼された段階では、被告らにおいて本件ビデオ映像を利用した放送番組を制作するという企画があることを伝えられており、そのような放送番組を制作することも当然予想し得たにもかかわらず、これに異議を唱えず、むしろ、放送番組の制作に必要な本件ビデオ映像の説明書の作成の依頼を受諾したものである。
 したがって、原告は、本件ビデオ映像が編集されて放送番組が制作されること(複製及び改変)及び同番組がテレビ局を通じて放送されること(頒布、公衆送信及び公表)について、黙示の許諾を与えていたものと評価することができる。
ウ また、本件テレビ番組は、別紙一覧表のとおり、相対取引によりテレビ局9社に販売されたにとどまるものであり、販売先は特定かつ少数である。
 したがって、被告オスカ社が本件テレビ番組をこれらのテレビ局に販売した行為は、本件ビデオ映像に係る原告の著作権(頒布権)を侵害するものではない。
[原告の主張]
ア 被告らの主張を否認ないし争う。
 原告がCから本件ビデオ映像の説明書の作成を勧められるまでの事実経過は、次のとおりである。
(ア) 原告が被告Bと知り合った経緯
 原告が被告Bと面識を得た契機は、同被告が原告の父から原告の身の振り方について相談を受けたからではない。原告は、被告Bと面識を得る数年前から、鉄道紀行文を雑誌・書籍に連載するなど、職業紀行作家として進路を定めて歩み始めており、父の知人というだけで、それまで一面識もない被告Bに自分の身の振り方を相談するような状況にはなかった。
 当時、原告は、それまでに取材した世界の鉄道の中に、その後運行されなくなった路線や車両等があったことから、写真撮影による静止画像だけでなく、動画を精細な映像で記録したいと希望していた。その折に、原告の父から、放送用番組制作会社を営む被告Bを紹介されたことから、高精細動画撮影の説明を聞くために同被告と会うこととした。
(イ) 原告が被告Bに本件DVテープを預けた理由
 本件ビデオ映像は、原告の趣味の一環として撮影されたものではなく、既にプロの紀行作家として活動していた原告が、その活動の一環として、鉄道の動画を記録したものである。また、原告が、これらの貴重な映像が記録された本件DVテープを被告Bに預けたのは、同被告から、録画した映像が必要なときにはいつでもすぐ返還する旨の説明を受け、被告らの他の業務用動画素材とともに本件DVテープを安全に保管すると約束されたからである。
(ウ) 平成16年5月24日の被告B宅での出来事
 原告は、平成16年5月24日、中国での取材旅行中に使用したDVカメラ等の機材を返却するため、被告Bの自宅を訪れた。
 その際、原告は、被告Bから、本件ビデオ映像について製品化したい、版権を譲渡しないかとの提案を受けたものの、原告のライフワークである鉄道動画について版権を他人に譲渡することなど考えられなかったため、同提案を即座に断った。
 なお、当日は、原告が帰国後、機材の返却をなかなかすることができずに延び延びになっていたことや、当日の訪問が遅い時間になったこと、借り受けた機材のうち三脚を持参し忘れたことなどを理由に、被告Bが原告に対して激高し、大声を出したことがあった。原告は、初めて見る被告Bの豹変ぶりに驚き、以後、被告Bと直接話をすることはなくなった。
 原告は、その数日後、三脚を返却しに被告B宅を訪れ、応対したCに三脚を返却した。その際、Cから、本件ビデオ映像の商品化や版権譲渡等の話は出なかった。
(エ) Cからの提案
 その後しばらくしてから、原告は、Cから電話を受け、本件DVテープがかなり長時間のものとなったことから備忘としての説明書を作成しておいた方がよい旨、勧められた。
 原告は、上記提案はCが個人的な親切心から言ってくれているものと受け取ったが、テープの記録映像を見なければ説明文は作れない、今は被告B宅には行きたくない、と答えた。
 すると、その後、Cから、本件DVテープをダビングしたVHSテープが宅配便で送られてきた。原告は、この送付伝票(乙3)の発送元として、C個人の氏名が表記され、Cの自宅から発送された旨の表示がされていたことから、このテープはCが個人的好意により送ってくれたものと解釈した。
(オ) 原告年賀状の意味
 原告は、Cから上記提案を受けたものの、当面本件ビデオ映像を使用する予定はなく、直ちに本件ビデオ映像の説明書を作成する必要性もなかったことから、Cから勧められた説明書を作成せずにいた。
 その後、Cから原告に連絡があったものの、原告は、Cの配慮に礼を言い、実際に説明書を作成するにはまだ時間がかかる旨を述べ、Cも特に催促等はしなかった。
 原告は、翌年(平成17年)の正月、C個人に対し、その自宅に宛てて年賀状(原告年賀状)を出し、謝意を表しつつ、まだ説明書を作成していない旨を連絡した。その後、被告BやCからの原告に対する連絡は、全くなくなった。
イ 以上のとおり、原告は、Cから本件DVテープの説明書の作成を勧められたことはあったが、被告らから、本件DVテープを利用して番組を制作する企画があると告げられたことはなく、番組制作に必要なものとして本件ビデオ映像の説明書の作成を依頼されたことも、そのような依頼を受諾したこともない。
 また、被告Bは、当時、本件ビデオ映像の著作権は被告らにあると信じていたものであり(乙7、8)、このような誤った認識に基づいて、本件テレビ番組及び本件DVDを制作し、販売したものであるから、そのような認識を有していた被告らが、原告に対して本件DVテープの利用の承諾を求めることはあり得ない。
 さらに、本件ビデオ映像の説明書の作成依頼を原告が受諾したとされる平成16年5月28日の時点では、前記のとおり、原告と被告Bとの間には決定的な感情的対立が生じていたものである。被告らが、このような感情的対立が生じている相手に対し、その相手が職業的に苦労して撮影した動画を使用して番組を制作し、販売するという話題を持ち出すことは、常識では考えられず、仮に持ち出されたとしても、原告が応じないことは明白である。
(2) 争点2(被告らは、本件テレビ番組に原告の氏名表示を省略すること(著作権法19条3項)ができるか)について
[被告らの主張]
 本件ビデオ映像は、映像としての具体的表現そのものにおける撮影者である原告の思想感情の表現というよりも、撮影対象であるSLの希少性に、その主たる価値があるものである。そして、本件テレビ番組は、被告オスカ企画(C)が、本件ビデオ映像のごく一部を、独自の編集方針の下で抽出して編集し、ナレーション等を加えて映像作品としてまとめ上げたものであり、結果的に、映像作品としては、本件ビデオ映像全体とはかなり質の異なる作品となっている。また、映像作品においては、放送時間の制約もあり、氏名表示についても一定の制約がある。
 これらの点に加え、前記のとおり、原告が、被告らから本件ビデオ映像の説明書の作成の依頼を受け、これを承諾したにもかかわらず、不当に上記説明書の作成を放置していたことからすれば、本件テレビ番組については、原告の氏名表示を省略したとしても、著作物の利用の目的及び態様に照らし、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがなく、公正な慣行にも反しない(著作権法19条3項)といえる。
 したがって、本件テレビ番組に原告の氏名が表示されていないことは、原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものではない。
[原告の主張]
 被告らの主張を否認ないし争う。
(3) 争点3(被告らの故意又は過失の有無)について
[原告の主張]
 被告オスカ企画による本件テレビ番組の制作、被告オスカ社による本件テレビ番組の販売及び販売先のテレビ局による本件テレビ番組の放送は、いずれも、原告の承諾を得ずに行われたものである。原告は、これらの行為により、本件ビデオ映像に係る原告の著作権(動画の複製を作出した行為につき複製権、制作した放送番組を放送局へ販売したことにつき頒布権、放送局を通じてテレビ放送がされたことにつき公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)を侵害された。
 また、上記行為がされた当時、被告2社は、被告Bの個人会社であり、上記行為は、実質的に全て、被告Bが直接行ったか、又は、被告Bの指揮の下で、専属プロデューサーであるCが業務として行った。
 したがって、被告らは、共同不法行為者として、又は、被告Bについては、被告2社の取締役として故意又は重大な過失によって原告に損害を与えたことについて会社法429条1項に基づき、原告に対して損害賠償責任を負う。
[被告らの主張]
 原告の主張を否認ないし争う。
(4) 争点4(過失相殺の成否)について
[被告らの主張]
 前記(1)[被告らの主張]のとおり、原告は、Cから本件ビデオ映像の説明書の作成を依頼された段階で、本件ビデオ映像を利用した放送番組を制作する企画があることを伝えられていたものである。
 したがって、原告は、この時点で、被告らが本件ビデオ映像を利用した放送番組を制作することを予想し得たにもかかわらず、被告らに対して何らの対応もとらなかった。
 よって、本件テレビ番組が制作ないし放送されたことについて、原告に過失が認められる。
[原告の主張]
 被告らの主張を否認ないし争う。
(5) 争点5(原告の損害)について
[原告の主張]
ア 著作権侵害による損害(著作権法114条3項による損害額)
(ア) 本件ビデオ映像は、世界の辺境などで稼働する鉄道の紀行映像であり、これまで日本の紀行映像で発表されたことのない、極めて珍しく貴重なものである。
 また、現在、テレビでは、鉄道専門チャンネルが開設され、それが広く一般紙の社会面で話題になるほど、鉄道コンテンツに対する経済的社会的価値が高くなっている。
 したがって、本件ビデオ映像の映像価値は、非常に高い。
(イ) 本件テレビ番組は、このように貴重な本件ビデオ映像の中の、見所(ハイライト部分)のみを編集したものである。また、このような映像は、いったん公表されてしまうと映像の価値が著しく下がるため、初めて公表する際には、取材費用及び撮影費用を十分反映した対価を著作料として算定する。
 テレビ番組の製作会社である株式会社TBSビジョン(以下「TBSビジョン社」という。)の取扱い(甲5。以下「TBSビジョン価格表」という。)では、同社の放送番組中に資料映像等として利用された映像を、第三者に対してテレビ番組として販売する場合の通常の価格は、基本料金5万円に映像1秒当たり3000円を加算した金額である。
 したがって、本件ビデオ映像をテレビ番組として販売する場合の通常の価格は、少なくとも、TBSビジョン価格表の金額を下回るものではない。
(ウ) 本件テレビ番組の中で本件ビデオ映像が使用されている部分は、本件テレビ番組1について19分46秒であり、本件テレビ番組2について24分37秒である。
 したがって、本件テレビ番組について原告が受領すべき金額は、本件テレビ番組1について360万8000円(50,000 円+1,186 秒×3,000 円)であり、 本件テレビ番組2について448 万10 00円(50,000 円+1,477 秒×3,000 円)である。
 本件テレビ番組は、別紙一覧表のとおり、本件テレビ番組1がテレビ局8社に販売され、本件テレビ番組2がテレビ局9社に販売されているから、これらの販売により原告が受けるべき金額は、6919万3000円(3,608,000×8=28,864,000 円+4,481,000×9=40,329,000円)となる。
 原告は、本件訴訟において、上記損害額の一部として1600万円を請求する。
イ 著作者人格権侵害による損害
 原告は、半生を紀行作家・写真家として打ち込んできたものであることから、単に映像そのもののみならず、作品のオリジナル性及び編集方法についても、重要な社会的、人格権的価値を保有している。
 原告は、信頼して本件DVテープを委託した被告Bに裏切られ、委託の趣旨に反して本件ビデオ映像を無断で編集され、勝手にテレビ局に販売されて放送されたものであり、これによって、本件ビデオ映像に係る原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)は著しく毀損された。原告の苦痛は甚大であり、この精神的苦痛を慰謝するための金額は、500万円を下らない。
 原告は、本件訴訟において、上記損害額の一部として300万円を請求する。
ウ 弁護士費用
 原告は、本件の解決のため、弁護士に依頼して交渉し、本件訴えを提起せざるを得なかった。その費用は、上記ア及びイの総損害額の1割を下らない。
 原告は、本件訴訟において、上記損害額の一部として100万円を請求する。
[被告らの主張]
ア 本件訴訟と別件訴訟との関係について
 本件訴訟と別件訴訟とは、訴訟物も当事者も完全に重複するわけではないから、原告が本件訴訟を提起すること自体が違法となるわけではない。
 しかしながら、本件訴訟と別件訴訟とは、主たる争点が共通し、侵害論に関する証拠も共通する。また、原告は、別件訴訟を提起した時点において、少なくとも、本件テレビ番組が制作されたことは知っており、別件訴訟係属中に、本件テレビ番組が地方テレビ局で放送されたことも明らかとなったのであるから、原告において、本件についても速やかに訴えを提起し、別件訴訟と併合審理を求めることが容易であったにもかかわらず、あえてこれをしなかったものである。
 このような事情を考慮すると、本件訴訟と別件訴訟とが併合審理されたと仮定した場合の認容額と、本件のように本件訴訟と別件訴訟とが別個に提起された場合の認容額の合計額とが齟齬することは、不合理である。本件訴訟における原告の損害額を算定するに当たっては、上記の事情を考慮する必要がある。
イ 著作権法114条3項に基づく損害額について
(ア) 別件訴訟控訴審判決は、本件DVDの販売に関する複製権侵害による損害額(著作権法114条3項)の認定に際し、本件DVDの販売価格(税込み315円)が、同DVDの内容や同種のDVD商品の販売価格に照らして相当程度低廉であることや、上記価格は、本件テレビ番組を利用して作成されたことから可能となったものであることを理由として、本件DVDの実際の販売価格ではなく、DVD1枚当たり4000円という価格に基づいて損害額を算出している。
 このことは、別件訴訟控訴審判決において上記損害額を算出する際、実質的に、本件テレビ番組が放送に供されたことによる利益(DVDの映像制作の原価がかかっていないという利益)についても勘案されていたと評価するべきである。
 また、別件訴訟控訴審判決は、DVD1枚当たりの価格を4000円としつつ、本件DVDの複製枚数については実際の複製枚数である9984枚として、損害額を算定している。しかしながら、本件DVDの価格が315円ではなく4000円であれば、当然、DVDの販売枚数及び複製枚数にも影響することからすると、販売価格のみを高額にし、複製枚数を実際の枚数とした上記判決の評価は、経験則に反するといえる。
 この点からも、別件訴訟控訴審判決では、実質的に、本件テレビ番組が放送使用されたことも含めて損害額が評価されており、原告はその支払を受けているといえる。
 したがって、原告は、既に損害の填補を受けており、もはや本件訴訟において著作権侵害による損害賠償を請求することはできないというべきである。
(イ) 仮に、原告が本件訴訟において著作権侵害による損害賠償を請求し得るとしても、次の事情を勘案すると、原告の請求額は過大である。
a 本件テレビ番組の販売価格
 本件テレビ番組の販売先は、いずれも地方のローカルテレビ局であり、その販売価格は、別紙一覧表のとおり、合計で110万3000円である。この販売価格は、キー局のようなネット放送を伴わない、地方のローカル局が自局だけで放送する場合の番組の販売価格としては、平均的かつ一般的なものであり、格別低廉なものではない。むしろ、年末年始の番組であるということを勘案すれば、平均的な販売価格よりは高額である。
b テレビ番組の販売価格を決める要素
 地方のローカル局が自局だけで放送する番組を外部から購入する場合、価格決定に際して重要なのは、放送時間という「枠」と、それに投入することのできる各放送局の予算であり、原告の強調するような番組内容の希少性ではない。
 また、地方のローカル局に対する番組販売の対価が放送数単位で設定されていることからすると、多額の制作費を投じた映像作品や、内容に希少性がある映像作品も、多くのローカル局で、多くの回数放送されることにより、放送1回当たりの対価がさほど高額でなくとも十分な利益を得ることができる。
 なお、本件テレビ番組は、本件DVDとして商品化されたため、その後放送局への販売が行われることはなかったが、仮に、本件DVDとしての商品化が行われていなかった場合、その後も地方のローカル局に対する販売が続けられ、相応の利益を上げていた可能性が十分ある。
c 本件テレビ番組の内容
 本件テレビ番組は、特別な鉄道マニアではなく、地方在住の一般の視聴者を対象とし、自宅に居ながらにして世界旅行の気分を味わってもらうための、年末年始向けの放送番組として制作されたものである。したがって、原告が強調するような、被写体となったSLの希少性などが番組の価値に与えた影響は、さほど大きいものではなく、ハワイやニュージーランドの映像、編集作業、ナレーション及び音楽等の要素も軽視し難いものがある。
 また、本件テレビ番組の内容や、実際の放送のされ方も、上記のような希少性を強調したものとはなっていない。むしろ、放送番組としての魅力や、一般の視聴者にとっての親しみ易さという、本件テレビ番組の商品価値は、被告らの行った編集作業により高められた側面が強い。
d 本件テレビ番組の制作費用
 本件テレビ番組の制作に要した費用は、次のとおり合計58万3304円である。
@ スタジオ代 10万5000円
A テープ代(撮影用) 2万9820円
B テープ代(編集用) 16万7692円
C テープ代(放送用) 2万1420円
D Cによる演出料 13万3332円
E ナレーション料 6万3000円
F 旅費(原告が中国に渡航した際のもの) 6万3040円
e TBSビジョン価格表について
 TBSビジョン価格表に記載されている金額は、テレビ局が制作した放送番組、すなわち、本件ビデオ映像のような素材となる映像に、編集、テロップ、BGM、ナレーション等の加工作業を経て、番組としての高い商品価値のあるものに仕上げた二次的著作物としての映像作品を、放送用に販売する際の価格である。このような基準を、そのままの状態では放送使用に供することのできない本件ビデオ映像に用いて著作権使用料相当額を計算することは、相当でない。
 また、原告は、本件ビデオ映像を撮影した当時、動画撮影の経験も、機材を扱った経験もなかったものであり、本件ビデオ映像は、被写体となったSLの資料的価値はともかく、映像作品としての品質は、プロのカメラマンが撮影した映像の比ではない。
ウ 著作者人格権侵害による損害について
(ア) 同一性保持権について
 原告は、別件訴訟においても同一性保持権侵害の主張をしており、別件訴訟控訴審判決において、「本件DVDは、…控訴人(判決注:原告)に無断で、本件ビデオ映像に編集を加えた上で、発売されたものであって、本件ビデオ映像の著作者である控訴人の著作者人格権…を侵害するものである」との判断に基づき、損害額が認定されている。
 このように、原告は、既に同一性保持権侵害について勝訴判決を得て、弁済も受けており、損害の填補を受けているのであるから、もはや本件訴訟において同一性保持権侵害に基づく損害賠償を請求することはできないというべきである。
 また、本件ビデオ映像は、著作物とはいっても、あるまとまった内容を有するものというよりは、資料的価値のあるSLの映像を集めた、いわば、編集用素材、中間成果物的色彩の強いものである。したがって、仮に、同一性保持権侵害が成立するとしても、ある一定のまとまった、著作物として完結したものが編集された場合と比べれば、それによる精神的損害の額は、著しく低廉な評価にとどまる。
(イ) 氏名表示権侵害について
 原告は、別件訴訟において、本件DVDに原告の氏名が表示されていないことを理由に氏名表示権侵害の主張をしており、別件訴訟控訴審判決において認容判決を得て、既に弁済を受けている。
 これに加えて、前記(2)[被告らの主張]で被告らが主張した点や、テレビで一時的に流れる映像への氏名表示と、商品として販売されたDVDへの氏名表示とでは、後者の方が、著作者の精神的苦痛の程度は圧倒的に重大であると考えられることなどを考慮すれば、原告は、別件訴訟において、放送についての氏名表示権侵害についても実質的に勝訴判決を得て、その弁済を受けることによって損害が填補されているといえる。
 したがって、原告は、もはや本件訴訟において氏名表示権侵害に基づく損害賠償を請求することはできないというべきである。
(ウ) 公表権侵害について
 原告は、別件訴訟において、本件DVDの販売について公表権侵害の主張をしており、別件訴訟控訴審判決において認容判決を得て、既に弁済を受けている。
 公表権は、未公表の著作物に加えて、同意を得ないで公表された著作物にも及ぶものではあるが、原告は、別件訴訟において、既に本件テレビ番組が放送された事実は知悉しながら、この点についての精神的苦痛に明確に言及せず、これを前提としつつも、本件DVDが突然廉価で販売されたことによる精神的苦痛を強調していた。
 別件訴訟では、このような原告の主張を踏まえて、本件テレビ番組が放送されたことを認定した上で、これを前提に、本件DVDの販売について公表権侵害の損害額を認定しているので、実質的には、放送についての公表権侵害による損害額も合わせて評価されたと見るのが自然である。
 したがって、原告は、もはや本件訴訟において公表権侵害による損害賠償を請求することはできないというべきである。
エ 弁護士費用について
 原告は、本件訴訟と別件訴訟を同時に提起することが極めて容易であったものであり、また、別件訴訟の提起前に、本件テレビ番組の制作及び放送について弁護士に依頼して交渉したという事実もないから、本件において弁護士費用が認められるべきではない。
[被告らの主張に対する原告の反論]
ア 本件訴訟と別件訴訟との関係について
 本件訴訟は、原告が、被告らによる違法な番組の制作及びこれをテレビ局に販売して放送したことについて、著作権及び著作者人格権侵害を主張するものである。これに対し、別件訴訟は、国内最大手の100円均一ショップである大創産業が、大量のDVDを廉価で販売したという事件であり、本件訴訟とは、当事者も、侵害の態様も、原告が侵害された利益も異なる。したがって、本件訴訟は、別件訴訟とは独立して、公正に判断されるべきである。
 別件訴訟第一審判決は、実際に大創産業が販売した本件DVDの価格が1枚315円であったところ、原告の損害額の算定においては、1枚4000円と算定して損害額を算出している。これは、本件ビデオ映像の評価として、他の同様のDVD商品の販売額等の証拠資料に基づき、客観的な見地から、適正妥当な金額を算定、評価したものである。この選定評価に、本件DVDの複製販売以外の著作権侵害行為に対する賠償を包含したと解する余地のないことは、民事訴訟の基本原則から明白である。
イ 本件テレビ番組の販売価格を基準とすることについて
 被告らの主張する本件テレビ番組の販売価格は、被告らにおいて本件ビデオ映像を不法かつ無償で使用して同番組を制作したために実現することのできた価格であり、本件ビデオ映像の価値からすると著しく低廉なものである。この販売価格では、本件ビデオ映像の企画、取材、撮影の実費すら回収することができず、大幅な赤字となってしまい、営業として成り立たない。
第3 争点に対する判断
1 争点1(原告は、被告らに対し、本件ビデオ映像を編集して放送番組を制作すること及びテレビ局を通じて同番組を放送することを黙示に許諾したか)について
(1) 認定事実
ア 前記争いのない事実等に加え、証拠(甲1、4、7、10、乙1〜8、11〜19)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、平成12年ころ、原告の父から、父の知人である被告Bを紹介された。
 原告は、当時、専らカメラでSLの写真を撮影しており、SLの動画を撮影した経験はなかったところ、被告Bから、原告が希望するのであれば、原告が鉄道の取材等で外国に行く際に、被告Bの経営する被告オスカ企画の保有する業務用のDVカメラ及びその付属機材一式を無償で貸し出してもよい旨を提案されたため、被告Bの厚意を受けることとした。
(イ) 原告は、平成12年ころから平成16年までの間、数回にわたり、世界各地を訪れ、被告Bから貸与されたDVカメラで現地のSLの様子を撮影し、これを、被告Bから提供を受けたDVテープに記録した。
 上記DVカメラ等及びDVテープは、原告が、上記撮影旅行に出発する都度、被告オスカ企画の制作室を訪れて貸出しを受け、撮影旅行から帰国する都度、これを被告オスカ企画に返却ないし引き渡していた。
 また、原告は、上記DVテープ等を被告オスカ企画に引き渡す際、本件ビデオ映像を被告BやCと一緒に見ることもあり、その際、被告BやCから、風景や人々の姿など、SLが走っている地域の風俗等が伝わる映像も撮った方がよい旨助言されたこともあった。
 なお、原告が上記撮影旅行に行く際の旅費等は、通常、原告自身が負担していたが、平成16年3月に中国に出かけた際の旅費については、原告が既に旅行会社に支払っていた金額を、被告オスカ企画が原告に対して支払った。
(ウ) 本件ビデオ映像の著作権の帰属について、被告B及びCは、本件ビデオ映像は、上記のとおり、被告オスカ企画が原告に無償で貸与したDVカメラによって撮影されたものであり、本件DVテープも被告オスカ企画が提供したものであったことから、その著作権は被告オスカ企画が有するものと認識していた。
 一方、原告は、被告Bが原告にDVカメラ等を提供してくれたのは同被告の厚意によるものであって、本件ビデオ映像の著作権は、当然に、撮影者である原告に帰属するものと認識していた。また、原告は、本件ビデオ映像の著作権について、被告B及びCが上記のような認識を有していることを知らなかった。
 もっとも、本件ビデオ映像は、もともと原告の趣味の一環として撮影されたものであり、原告において、同映像を使用して映像作品を制作することを意図して撮影したものではなかった。また、被告オスカ企画も、本件ビデオ映像を利用して放送番組等を制作することを想定していたわけではなく、当初はその予定もなかった。
(エ) その後、平成16年5月ころになって、被告オスカ企画において、本件ビデオ映像を利用してSLをテーマにした放送番組を制作するという企画が浮上した。もっとも、本件ビデオ映像は、上記のとおり、もともと同映像を使用して映像作品を制作することを意図して撮影されたものではなかったため、同映像を使用してテレビ番組を制作するためには、同映像を編集する必要があった。また、本件ビデオ映像の撮影地域ないし撮影対象は広範にわたり、撮影時間も長時間に及ぶものであったことから、これを編集するためには、撮影された映像の国名、列車名、駅名等といった情報が必要であり、そのために、撮影者である原告の協力を得る必要があった。
 ところが、原告と被告Bとは、原告が同年5月24日にDVカメラ等の機材を返却するために被告オスカ企画の制作室を訪れた際、被告Bから、原告が返却日時の約束を一方的にキャンセルしたことや、約束の訪問時間に遅れたこと、三脚を忘れたことなどについて強く叱責されたため、以後、互いに話をすることがない不仲な状態となっていた。
 そこで、原告と良好な関係を維持していたCは、同月28日、借りていた三脚を返却するために被告オスカ企画の制作室を訪れた原告に対し、被告らにおいて本件ビデオ映像を利用して放送番組を制作する企画を検討していること、制作に当たって、本件ビデオ映像中の映像の国名、列車名、駅名等の情報が必要であるため、同情報を書いた説明書(以下「本件説明書」という。)を作成してほしいこと、を伝えた。
 これに対し、原告から、本件説明書を作成するために本件ビデオ映像のコピーを渡して欲しいとの要望があったことから、Cは、これに応じ、被告オスカ企画の制作室において本件ビデオ映像をDVテープからVHSテープにダビングし、同年6月26日、原告に送付した。
(オ) ところが、原告は、上記のとおりVHSテープを受け取った後も、多忙であったこともあり、なかなか本件説明書を作成せず、Cから電話や手紙等で何度か催促を受けても、これに返答しなかった。
 原告は、平成17年の正月にCに送った原告年賀状に、「ご連絡が遅くなりすみません。時間をみつけビデオ資料整理しますのでもう暫くお待ち下さい」と記載したものの、その後も本件説明書を作成せず、Cに連絡することもなかった。
 Cは、このような原告の対応からすると、原告は本件説明書を作成するつもりがないのではないかと考え、やむを得ず、自分で資料を調査して、本件ビデオ映像中の映像の国名、列車名、駅名等といった情報を収集することとした。
 Cは、平成17年の夏ころまでに、上記調査を行い、その調査結果を基に、本件ビデオ映像中の映像を解説するナレーションを作成した。そして、Cは、合計約25時間の長さに及ぶ本件ビデオ映像の一部を適宜取捨選択し、これに解説のナレーションや音楽等を挿入した上で、放映時間各25分程度のテレビ番組に編集し、本件テレビ番組を制作した。なお、C及び被告Bは、上記(ウ)のとおり、本件ビデオ映像の著作権は被告オスカ企画が有するものと認識していたため、上記編集作業を行うに当たって、原告に報告したり、原告の許諾を求めたりすることはなかった。
(カ) 本件テレビ番組は、別紙一覧表記載のとおり、平成17年12月29日から平成19年1月2日までの間に、新潟放送、秋田放送等の地方テレビ局において合計17回放送された。
 一方、原告は、被告らから、本件テレビ番組を制作したこと、同番組をテレビ局に販売したこと及び同番組がテレビで放送されたことについて、何らの報告も受けておらず、これらの行為について許諾を求められたこともなかった。
 そのため、原告は、本件テレビ番組が上記のとおり放送された当時は、その事実を認識しておらず、本件テレビ番組が制作されたことや同番組がテレビで放送されたことなどを知ったのは、平成20年以降のことであった。
イ 原告は、@ 原告は、平成16年5月24日に被告Bの自宅を訪れた際、被告Bから、本件ビデオ映像について製品化したいのでその版権を譲渡しないかという提案を受けたのに対し、これを即座に断った、A 原告は、その数日後、三脚を返却するために被告B宅を訪れ、応対したCに三脚を返却したことはあるものの、その際、Cから本件DVテープの商品化や版権譲渡等の話はなかった、B 原告は、その後しばらくして、Cから電話を受け、Cの個人的好意により、本件DVテープがかなり長時間のものとなったことから、原告のために備忘としての説明書を作成しておいた方がよいと勧められた、C 原告は、被告らから、本件DVテープを利用して番組を制作する企画があると告げられたことはなく、番組制作に必要なものとして本件ビデオ映像の説明書の作成を依頼されたことも、そのような依頼を受諾したこともない、と主張し、原告本人の陳述書及び別件訴訟における原告本人の尋問調書(甲4、7、10。以下「原告本人の陳述書等」という。)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、本件テレビ番組を制作した当時、被告B及びCにおいて、本件ビデオ映像の著作権は被告オスカ企画にあると認識していたことについては、前記認定のとおりである。また、それ故に、被告B及びCは、本件ビデオ映像を編集して本件テレビ番組を制作したり、本件テレビ番組を本件DVDにして販売するに当たって、著作権者である原告の許諾を得ることをせず、その事実を原告に告げることすらしなかったものといえる。
 したがって、当時このような認識を有していた被告Bが、原告に対し、本件ビデオ映像の著作権が原告にあることを前提として、本件ビデオ映像の製品化のためにその版権を譲渡するよう求めるということは、およそ考え難いというべきである。
 また、前記認定事実によれば、原告は、単に、Cから本件説明書の作成の話を一度だけ聞いたというにとどまらず、その後も、Cから、本件説明書を作成するよう電話や手紙で何度も催促を受け、原告の方からも、Cに対し、平成17年の正月に送付した原告年賀状の中で、Cへの連絡が遅れたことを謝罪するとともに、本件説明書の作成のために時間的な猶予を求める文言を記載していることからすれば、本件ビデオ映像の説明書は、Cが、単に、原告個人の備忘のために作成を勧めたにすぎないものではなく、本件ビデオ映像を利用した放送番組制作の企画のために必要なものとして、原告にその作成を依頼したものと認めるのが相当である。
 したがって、前記アの認定に反する原告本人の陳述書等は採用することができない。
 なお、Cは、本件ビデオ映像をダビングしたVHSテープを原告に送付する際、宅配便の伝票の依頼主の欄に、被告オスカ企画ではなくC個人の氏名を記載していることが認められる(乙3)。しかしながら、前記認定事実によれば、当時、Cは、本件ビデオ映像の著作権は被告オスカ企画にあると認識していたものであり、上記ダビングも被告オスカ企画の制作室で行っていることなどからすると、上記伝票記載の事実からただちに、上記テープの送付が被告オスカ企画の業務と無関係にされたものであったということはできない。また、当時、原告と被告Bが、互いに話もしないような不仲な関係となっていたことからすれば、Cが、両者のこのような関係に配慮してCの個人名義でVHSテープを送付することも、あながち不自然であるとはいえない。したがって、C個人の名前でVHSテープが送付された事実は、前記アの認定を左右するものではない。
ウ 原告は、原告と被告Bとの間には決定的な感情的対立が生じていたものであり、そのような状況下において、被告らが原告に対して本件ビデオ映像を利用して番組を制作するという話題を持ち出したり、原告がこれに応じたりすることは、常識では考えられないと主張する。
 しかしながら、前記認定のとおり、@ 原告と被告Bとが不仲な関係となった後に、本件ビデオ映像の件につき原告と専ら話をしていたのは、Cであり、当時、Cと原告とは良好な関係にあったこと、A 本件ビデオ映像は、もともと原告の趣味の一環として撮影されたものであり、原告において、同映像を使用して映像作品を制作することを意図したものではなく、平成16年当時はその予定もなかったこと、B 原告は、本件ビデオ映像を撮影するに当たって、被告Bの厚意により、被告オスカ企画の保有するDVカメラの貸与やDVテープの提供を無償で受けていたほか、被告BやCから、動画の撮影の仕方について助言を受けたり、渡航費用の援助を受けたりしたこともあったこと、などの事情を考慮すると、不仲となっていた被告Bではなく、良好な関係を維持していたCから、本件説明書の作成を依頼するという形で上記検討中の企画への協力を求められた原告が、これに特段異議を述べることなく、Cに対し、本件説明書の作成に必要であるとして本件ビデオ映像のコピーを渡してくれるよう求めたとしても、格別不自然なこととはいえないというべきである。原告の上記主張は、採用することができない。
(2) 上記事実関係によれば、原告は、平成16年5月28日にCから本件ビデオ映像の説明書の作成を依頼された際、被告らにおいて本件ビデオ映像を利用した放送番組を制作するという企画を検討中であることも伝えられていたものであり、その時点では、同企画及び本件説明書を作成することについて特段異議を述べず、むしろ、Cに対し、本件説明書を作成するために必要であるとして本件ビデオ映像のコピーを渡して欲しいと求めるなど、本件説明書の作成に応じるかのような対応をとっていたことが認められる。
 そして、被告らは、このような事実をもって、原告は、本件ビデオ映像が編集されて放送番組が制作されること及び同番組がテレビ局を通じて放送されることについて黙示の許諾を与えていたものと評価することができると主張する。
 しかしながら、証拠(乙5〜8)及び弁論の全趣旨によれば、Cが原告に対し本件ビデオ映像を利用した放送番組制作の企画を検討していることを伝えた段階では、本件ビデオ映像を使用して実際に放送番組を制作することができるか否かは、まだ判断ができない状態であって、当該企画自体が明確に確定していたわけではなく、当然、被告らにおいて、どのような方針で本件ビデオ映像を編集し、具体的にどのような内容の番組を制作するのかという点や、制作された番組を誰に対してどのような条件で販売し、いつどのような形で放送されるのかという点についても、確定していなかったものであり、これらの事項について、被告らから原告に対して説明したり、原告の許諾を求めたりしたことはなく、原告においてこれらの事項を認識していたものでもなかったこと、その後、別件訴訟が提起されるまでの間に、被告らが、これらの事項を原告に説明するなどして許諾を求めたことはないこと、が認められる。
 そうすると、原告が、Cから、本件ビデオ映像を利用した放送番組制作の企画があること及びそのために本件説明書を作成する必要があることを伝えられ、そのことに特段異議を述べず、むしろ、Cに対して本件説明書の作成に応じるかのような態度をとっていたとしても、そのことだけをもって、原告が、被告らに対し、本件ビデオ映像を編集して放送番組を制作し、これをテレビ局に販売することや、同番組をテレビで放送することについて、黙示に許諾していたものと認めることはできない。
(3) 以上のとおりであるから、被告オスカ企画による本件テレビ番組の制作、被告オスカ社による本件テレビ番組の販売及び販売先のテレビ局による本件テレビ番組の放送につき、原告の許諾を得ていたと認めることはできない。また、前記認定のとおり、本件テレビ番組がテレビで放送された当時、本件ビデオ映像は、まだ公表されていなかったものであり、かつ、同番組には、撮影者である原告の氏名は表示されていなかったことが認められる。
 したがって、原告は、被告オスカ企画が、原告の意に反して本件ビデオ映像を編集し、本件ビデオ映像の一部を利用して本件テレビ番組を制作したことにより、本件ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害されたものと認められる。
 また、原告は、被告オスカ社が、本件テレビ番組がテレビで放送されることを目的として、同番組をテレビ局に販売し、その後同番組がテレビで放送されたことにより、本件ビデオ映像に係る原告の著作権(頒布権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び公表権)を侵害されたものと認められる。
 なお、被告らは、本件テレビ番組の販売先は特定かつ少数であるから、被告オスカ社が本件テレビ番組を販売した行為は原告の著作権(頒布権)を侵害するものではないと主張する。しかしながら、被告オスカ社が、本件テレビ番組がテレビで放送されること、すなわち、同番組を公衆に提示すること(著作権法2条1項19号)を目的として同番組をテレビ局に販売したことについては上記認定のとおりであるから、被告オスカ社の上記行為は原告の著作権(頒布権)を侵害するものといえる。
2 争点2(被告らは、本件テレビ番組に原告の氏名表示を省略すること(著作権法19条3項)ができるか)について
 被告らは、本件ビデオ映像は撮影対象であるSLの希少性に主たる価値があること、本件テレビ番組は被告オスカ企画が本件ビデオ映像のごく一部を抽出して編集したものであり、本件ビデオ映像の全体とは相当質の異なる作品となっていること、映像作品においては、放送時間の制約もあり、氏名表示についても一定の制約があることなどを挙げ、本件テレビ番組に原告の氏名の表示を省略したとしても、著作物の利用の目的及び態様に照らし、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがなく、公正な慣行にも反しない(著作権法19条3項)と主張する。
 しかしながら、著作権法は、著作者の人格的利益を保護するために、著作者人格権としての氏名表示権を認めており、同権利は、二次的著作物の公衆への提供等に際しての原著作物の著作者名の表示についても認められることに鑑みれば、仮に、本件ビデオ映像の価値や本件テレビ番組の編集方法について、被告らの主張する事実が認められるとしても、そのことのみをもって、本件ビデオ映像を撮影した原告の氏名を、同映像を素材として制作された本件テレビ番組に表示しないことが、原告が著作者であることを主張する利益を害するおそれがないものとも、公正な慣行に反しないものであるともいうことはできない。
 したがって、被告らの上記主張は理由がない。
3 争点3(被告らの故意又は過失の有無)について
 被告オスカ企画が本件テレビ番組を制作し、被告オスカ社が同番組をテレビ局に販売し、販売先のテレビ局が同番組をテレビで放送したことにより、本件ビデオ映像に係る原告の著作権及び著作者人格権が侵害されたことについては、前記1及び2で説示したとおりである。
 また、被告オスカ企画はテレビ番組の制作等を業とする者として、被告オスカ社はテレビ用映画フィルムの配給等を業とする者として、それぞれ、本件テレビ番組の制作ないし販売に当たり、本件ビデオ映像の著作権の帰属について十分な検討をするとともに、本件ビデオ映像の撮影者である原告の認識を確認するなどの調査を行えば、本件ビデオ映像の著作権が原告にあることを認識することが可能であったにもかかわらず、必要な検討及び調査を行うことなく、同映像の著作権を被告オスカ企画が有するものと安易に判断して、上記侵害行為を行ったものである。したがって、被告オスカ企画は本件テレビ番組を制作したことにつき、被告オスカ社は本件テレビ番組を販売したことにつき、少なくとも過失があったというべきである。
 さらに、証拠(乙5〜8)及び弁論の全趣旨によれば、被告オスカ社は、被告オスカ企画が制作した映像の販売等を行う会社であり、また、被告Bは、上記侵害行為がされた当時、被告2社の株式のすべてを保有し、両社の代表取締役を務めていた者であり、被告Bの自宅を被告オスカ企画の制作室として使用し、被告Bの意向により上記侵害行為が行われたものであることが認められる。
 このような、本件テレビ番組の制作及び販売における被告らの緊密な関係に鑑みると、本件テレビ番組の制作及び販売という一連の侵害行為について、これを全体的に考察すれば、被告らは共同して上記侵害行為を行ったものと認められる。
4 争点4(過失相殺の成否)について
 被告らは、原告はCから本件ビデオ映像の説明書を依頼された段階で、本件ビデオ映像を利用した放送番組を制作する企画があることを伝えられていたものであり、この時点で、被告らが本件ビデオ映像を利用した放送番組を制作することを予想し得たにもかかわらず、被告らに対して何らの対応もとらなかったものであるから、本件テレビ番組が制作ないし放送されたことについて原告に過失が認められるとして、過失相殺を主張する。
 しかしながら、Cが原告に本件説明書の作成を依頼した時点では、前記のとおり、上記企画は明確に確定していたわけではなく、その後に同企画が具体化した後も、本件ビデオ映像の著作権は被告オスカ企画にあると認識していた被告らは、原告に対し、本件ビデオ映像を編集して本件テレビ番組を制作することや、これをテレビ局に販売することを連絡しなかったものであり、原告においても、そのような事実を認識することがなかったものであって、原告が被告らに対し、被告らが本件ビデオ映像を編集して放送番組を制作すること及びテレビ局を通じて同番組を放送することを原告が許諾していると誤信させるような、積極的な言動を行った事実は認められない。
 また、仮に、本件説明書の作成依頼を受けた後の原告の対応に問題があったとしても、著作権者である原告の許諾を得ずに、その著作物である本件ビデオ映像を利用して放送番組を制作したり、テレビ局を通じて同番組を放送することは、本来、当然に著作権侵害及び著作者人格権侵害となる行為であり、被告らにおいても、この点を十分認識した上で、本件テレビ番組の制作及び販売に当たる必要があったにもかかわらず、前記のとおり必要な調査を怠り、原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことが認められる。
 以上のような事情を考慮すると、本件において、被告らによる著作権侵害及び著作者人格権侵害につき、原告に過失があったと認めることはできない。
5 争点5(原告の損害)について
(1) 著作権法114条3項による損害額について
ア 前記認定のとおり、本件ビデオ映像は、原告が、被告Bの厚意により、被告オスカ企画の保有するDVカメラ等機材一式を無償で借り受け、DVテープの提供を受けて撮影したものであり、原告は、上記撮影に当たって、被告B及びCから、SLの映像だけでなくSLが走っている地域の風俗等が伝わる映像も撮った方がよい旨の助言を受けたり、撮影旅行のために中国に渡航する際に、渡航費用の援助を受けたりしていた。
 また、本件ビデオ映像は、もともと原告の趣味の一環として撮影されたものであり、原告において、同映像を使用して映像作品を制作することを意図して撮影したものではなく、そのままの状態でテレビ番組に用いることのできるものではなかった。そのため、被告オスカ企画は、本件テレビ番組を制作するに当たり、撮影時間が約25時間にも及ぶ本件ビデオ映像を編集し、解説のナレーションや音楽等を挿入して、放映時間が各25分程度の本件テレビ番組を制作した(なお、本件テレビ番組の映像のうち、本件テレビ番組1の中のハワイ及びニュージーランドの映像(放映時間合計4分49秒)は、本件ビデオ映像ではなく、被告オスカ企画が独自に入手した映像が使用された)。
 そして、本件テレビ番組は、別紙一覧表のとおり、被告オスカ社から地方のテレビ局8社ないし9社に対し、販売価格合計110万3000円で販売され、販売先の地方テレビ局により、延べ17回にわたって放11〜19)及び弁論の全趣旨によれば、被告オスカ企画は、本件テレビ番組を制作するに当たって、スタジオ代、テープ代、Cによる演出料、ナレーション料及び原告に支払った旅費として、少なくとも58万円余を支出したことが認められる。
 他方、証拠(甲4、7、10)及び弁論の全趣旨によれば、本件ビデオ映像は、原告が世界各地を訪れて、当地の貴重なSLを撮影したものであることが認められる。また、原告は、上記撮影旅行に行く際の旅費等の大半を自己負担している。
 以上のような、本件ビデオ映像の撮影及び本件テレビ番組の制作に至るまでの経緯、本件テレビ番組の販売価格、放送態様、放送回数及び放送地域、本件ビデオ映像中のSLの映像の貴重性等の事情を総合的に考慮すると、本件において、本件ビデオ映像の著作権者である原告が「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)は、50万円であると認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、本件ビデオ映像は世界の辺境などで稼働する鉄道の紀行映像であり、その映像価値は非常に高いものであって、同映像をテレビ番組として販売する場合の通常の価格は、少なくともTBSビジョン価格表の金額を下回るものではない、被告オスカ社が本件テレビ番組をテレビ局に販売した価格では、本件ビデオ映像の撮影等の実費を回収することができず、営業として成り立たない、と主張する。
 しかしながら、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、TBSビジョン価格表は、全国ネットのキー局であるTBSテレビで放送される番組等を制作する会社であるTBSビジョン社が、同社で撮影した映像の使用を第三者に許諾する場合の許諾料の基準であると認められる。これに対し、本件は、被告オスカ社が、地方テレビ局において一本の番組として放送されることを目的として、各テレビ局に対して本件テレビ番組を販売したという事案であるところ、TBSビジョン社が、同社の制作した映像を一本のテレビ番組として地方テレビ局に販売するに当たって、上記価格表に基づいてその販売価格を定めていることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、TBSビジョン価格表を、本件ビデオ映像のように、もともと原告の趣味の一環として撮影されたものであり、そのままの状態ではテレビ番組として使用することができない映像について、これを編集してテレビ番組を制作したり、その番組を地方テレビ局で放送したりすることを許諾する際の基準として用いることは、適切ではない。
ウ 他方、被告らは、別件訴訟控訴審判決が、本件DVDの販売に関する複製権侵害による損害額を認定するに際し、本件DVDの販売価格は本件テレビ番組を利用して作成されたことから可能となったと説示している事実をとらえて、別件訴訟控訴審判決では、実質的に、本件テレビ番組が放送使用されたことも含めて損害額が評価されており、原告はその支払を受けているから、原告は本件訴訟において著作権侵害による損害賠償を請求することはできないと主張する。
 しかしながら、別件訴訟控訴審判決の説示の内容をみるならば、同判決において、本件テレビ番組を利用して本件DVDが作成された点について言及がされたのは、本件DVDの販売価格が同DVDの内容や同種のDVD商品の販売価格に照らして相当程度低廉であることを認定する際、その要因の一つとして挙げたにすぎないものであると理解するのが相当である。したがって、別件訴訟控訴審判決において、本件テレビ番組が放送使用されたことも含めて損害額が評価されたものということはできない。
(2) 著作者人格権侵害による損害について
ア 既に説示したとおり、原告は、被告らによって、本件ビデオ映像に係る原告の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)を侵害されたものである。また、本件ビデオ映像は、原告が、約4年をかけて世界各地を訪れて、当地の貴重なSLを撮影したものであり、原告は、同映像に対する愛着を持っていることがうかがえる。
 原告は、このような映像を、原告に無断で改変されてテレビ番組に編集され、その番組に撮影者として原告の氏名を表示されず、延べ17回にわたって同番組を各地で放送されたものであるから、これらの行為によって精神的苦痛を被ったものと認められる。
 他方、原告は、本件テレビ番組をDVDにした本件DVDが制作、販売されたことにより、本件ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)が侵害されたと主張して、別件訴訟を提起し、別件訴訟控訴審判決において、著作者人格権侵害の慰謝料として100万円が認容され、その支払を受けている。
 これらの事情に加えて、前記(1)で説示した、本件ビデオ映像の撮影及び本件テレビ番組の制作に至るまでの経緯、本件テレビ番組の放送態様、放送回数及び放送地域等、本件に顕れた諸般の事情を総合的に考慮すれば、被告らが原告の著作者人格権を侵害したことに対する慰謝料の額は、50万円と認めるのが相当である。
イ これに対し、被告らは、原告は別件訴訟において、本件テレビ番組の制作についての同一性保持権や、同番組の放送についての氏名表示権及び公表権侵害についても、実質的に勝訴判決を得てその弁済を受けているといえるから、本件訴訟において著作者人格権侵害に基づく損害賠償を請求することはできないと主張する。
 確かに、別件訴訟において、その制作及び販売行為が原告の著作者人格権を侵害するものであると認定された本件DVDは、本件テレビ番組をDVDに収録したものであるから、別件訴訟控訴審判決において、本件DVDを制作及び販売したことについて著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)侵害が認定され、慰謝料請求が認容されて原告がその支払を受けている事実は、本件訴訟における著作者人格権侵害の慰謝料を算定するに当たっても、考慮すべき事情の一つとなり得るものといえる。
 他方、別件訴訟は、前記のとおり、原告が、本件DVDの制作、販売により著作者人格権を侵害されたことによる慰謝料の支払を求めたものであり、原告が、本件テレビ番組の制作及び放送による著作者人格権侵害に基づく慰謝料の支払を求めている本件訴訟とは、請求原因及び訴訟物を異にするものである。
 したがって、別件控訴審判決において著作者人格権侵害による慰謝料請求が認容されているからといって、直ちに、原告が、本件テレビ番組の制作についての同一性保持権や、同番組の放送についての氏名表示権及び公表権侵害についても、別件訴訟において実質的に勝訴判決を得てその弁済を受けているものと認めることはできないというべきである。被告らの上記主張は採用することができない。
(3) 弁護士費用について
 原告は、弁護士を選任して本件訴訟を追行しており、本件事案の内容、認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると、上記著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、それぞれ5万円(合計10万円)と認められる。
(4) 小括
 以上のとおり、被告らによる本件テレビ番組の制作、販売及び公衆送信と相当因果関係がある原告の損害額は、合計110万円及びこれに対する不法行為の後(被告2社に対する訴状送達の日、被告Bに対する訴状送達の日の3日後)である平成22年10月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金であると認められる。
6 よって、原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 山門優
 裁判官 志賀勝
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