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【事件名】レンタルサーバー付随プログラムの無断使用事件(2)
【年月日】平成24年2月29日
 知財高裁 平成23年(ネ)第10063号 プログラム著作権使用料等請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成23年(ワ)第6526号)
 (口頭弁論終結日 平成24年1月25日)

判決
控訴人 株式会社RNI
被控訴人 BAHATI株式会社


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、60万円及びこれに対する平成22年5月28日から支払済みまで年14.5%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要(略称は、原判決に従う。)
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件プログラムの著作権を侵害されたとして、@著作権法112条1項に基づき、本件プログラムの複製物の譲渡及び公衆送信の差止めを求めるとともに、A不法行為に基づき、70万円の損害賠償及びこれに対する最初の不法行為の後である平成22年5月28日から支払済みまで本件契約所定の年14.5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、@被控訴人が本件プログラムに係る控訴人の著作権を侵害するおそれがあると認められるとして、本件プログラムの複製物の譲渡及び公衆送信の差止請求を認容するとともに、A不法行為に基づく損害賠償請求については、10万円並びにうち5万円に対する平成22年5月28日から及びうち5万円に対する平成23年3月28日から各支払済みまで年5%の割合による金員の限度で認容したが、その余を棄却したことから、控訴人は、これを不服として控訴した。
2 本件請求に対する判断の前提となる事実は、次のとおりであって、当事者間に争いがないか、括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる。
(1) 控訴人は、インターネットでのサーバの設置及びその管理等を目的とする会社である。
 被控訴人は、インターネットサーバのレンタル、ホームページ制作・開発及び各種商品の販売などを目的とする会社である。
(2) 控訴人は、平成18年3月頃、本件プログラムを作成した。
(3) 控訴人は、被控訴人との間で、平成18年5月28日、大要、次の内容で、本件契約を締結した(甲1)。
ア 被控訴人が専有的に使用することができるサーバマシン1台を、控訴人が運用するサーバルームに設置する。
イ 控訴人は、被控訴人に対し、上記サーバマシンを維持管理する等の役務を提供する。
ウ 本件契約の契約期間は1年とし、契約期間満了日前の1か月前までに控訴人又は被控訴人から申出がない場合は、1年間の自動更新とする。
エ 控訴人は、被控訴人に対し、本件契約期間内において、本件プログラムの利用を許諾する。
オ 被控訴人又は控訴人が、本件契約により生ずる金銭債務の弁済を怠ったときは、相手方に対し、支払期日の翌日から完済の日まで、年14.5%と弁済期における消費者契約法9条2号に定められた上限年利とを比較して、高くない方の割合の遅延損害金を支払う。
(4) 本件契約は、平成22年5月21日、控訴人による解除により終了した。
(5) 控訴人は、本件契約が終了した後の平成22年5月28日頃、被控訴人が運営するインターネットホームページにおいて、無断で本件プログラムが利用されていることを発見した。
 そこで、控訴人が、被控訴人に対し、同日、本件プログラムの利用中止又は利用を継続する場合には利用料の支払を求める旨の通告をしたところ、被控訴人は、同年6月頃、同ホームページ上から本件プログラムを削除した。
(6) 控訴人は、平成23年3月28日頃、再度、被控訴人が運営するインターネットホームページにおいて、無断で本件プログラムが利用されていることを発見した。
 そこで、控訴人が、被控訴人に対し、同月29日、本件プログラムの利用中止又は利用を継続する場合には利用料の支払を求める旨の通告をしたところ、被控訴人は、同年4月7日までに同ホームページ上から本件プログラムを削除した。
3 本件訴訟の争点
 当審における争点は、専ら損害の額である。
第3 当事者の主張
1 原審における当事者の主張は、原判決4頁11行目から5頁3行目に摘示のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の主張
(1) 本件プログラムは、控訴人が自社向けに開発したものであるが、被控訴人から申出があったため、本件契約を締結し、本件プログラムの使用を特別に許諾したものである。被控訴人は、控訴人のこのような配慮を無視して著作権侵害に及んだものであり、控訴人は財産的にも精神的にも多大な損害を受けた。かかる経緯を考慮すれば、損害額が70万円を下回ることはない。
(2) また、被控訴人の平成22年度の売上額は、2億9651万9200円であり、このうち、本件プログラムを使用したことによる売上増加分を1%とみなしても、その額は296万5192万円となる。この不当利得は、控訴人の受けた損害ともいえるから、損害額は70万円を下回るものではない。
(3) 原判決は、本件プログラムと同様の機能を有する他のプログラムがインターネットで無料配布されたり、相当低廉な価額で提供されたりしていると認定し、これを根拠に控訴人の損害額を低く認定しているが、被控訴人は、本件プログラムが初心者でも容易に設置でき、改造もしやすく、頻繁に変更される上位ドメイン管理データベースに追随しやすく設計されたものであるからこそ、高額の使用料を支払ってこれを使用していたものであり、無料若しくは安価な同種プログラムが本件プログラムと同様の機能を有しているものではない。原判決の損害額の認定は不当である。
第4 当裁判所の判断
1 プログラムに著作物性があるというためには、プログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現でなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要するところ、本件証拠上、本件プログラムが著作物性を備えるものであるといえるかについては疑義がある。
 しかし、前記のとおり、当審における争点は、専ら損害の額であるので、本件プログラムに著作物性があることを前提として、損害の額について検討すると、本件プログラムは、平成18年以前に作製されたものであること(甲1)、本件契約に基づく本件プログラムの利用料等は、1か月2万8380円であったこと、本件プログラムと同様の機能を有する他のプログラムについて、インターネットで無料配布されたり、相当低廉な価格で提供されるものもあること(弁論の全趣旨)、被控訴人が同社のインターネットホームページ上で本件プログラムを利用したのは、平成22年5月28日頃から同年6月頃までと平成23年3月28日頃から同年4月7日までの比較的短期間であることなどからすれば、本件で控訴人が被った損害の額は、原判決が認容した合計10万円を超えるものとは認められない。
 この点に関し、控訴人は、本件プログラムは無料若しくは安価である同様のプログラムにはない、初心者でも容易に設置でき、改造もしやすく、頻繁に変更される上位ドメイン管理データベースに追随しやすく設計されているという特徴があると主張するが、無料若しくは安価である同様のプログラムに比して、本件プログラムが控訴人が主張する優位性を備えていると認めるに足りる客観的な証拠はない。また、被控訴人の申出により本件契約が締結され、本件プログラムの使用が特別に許諾されたという控訴人主張の事実は、損害の額に係る上記認定を左右するに足りるものではないし、本件での控訴人の損害の額が、被控訴人の平成22年度の売上額の1%に相当するとみるべき根拠もない。
 また、控訴人は、本件契約所定の年14.5%の割合による遅延損害金の支払を求めているが、不法行為の遅延損害金の法定利率は年5分であり(民法404条)、控訴人と被控訴人との間でその利率を年14.5%とする合意があったとみるべき事情はないから、控訴人の主張は採用することができない。
2 結論
 以上の次第であるから、本件控訴は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 滝澤孝臣
 裁判官 部眞規子
 裁判官 齋藤巌
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日本ユニ著作権センター
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