判例全文 line
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【事件名】DVD「中国の世界遺産」日本語版契約事件(2)
【年月日】平成24年2月28日
 知財高裁 平成23年(ネ)第10047号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第10932号)
 (平成23年12月12日 口頭弁論終結)

判決
控訴人兼被控訴人 中●(視の簡体字)●(伝の簡体字)媒股●(人偏に分)有限公司
訴訟代理人弁護士 逢坂哲也
被控訴人兼控訴人 株式会社小学館
訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 遠山友寛
同 升本喜郎
同 小坂準記


主文
1 控訴人兼被控訴人中●(視の簡体字)●(伝の簡体字)媒股●(人偏に分)有限公司の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人兼控訴人株式会社小学館は、控訴人兼被控訴人中●(視の簡体字)●(伝の簡体字)媒股●(人偏に分)有限公司に対し、1065万円及びうち10万5000円に対する平成18年8月17日から、うち1054万5000円に対する平成21年7月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人兼被控訴人中●(視の簡体字)●(伝の簡体字)媒股●(人偏に分)有限公司のその余の請求(当審において変更された請求を含む。)を棄却する。
2 被控訴人兼控訴人株式会社小学館の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを2分し、その1を控訴人兼被控訴人中●(視の簡体字)●(伝の簡体字)媒股●(人偏に分)有限公司の負担とし、その余を被控訴人兼控訴人株式会社小学館の負担とする。
4 この判決は、第1項の(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
 当事者の表記について、控訴人兼被控訴人中●(視の簡体字)●(伝の簡体字)媒股●(人偏に分)有限公司を「原告」と、被控訴人兼控訴人株式会社小学館を「被告」という。第1審において用いられた略語は、当審においてもそのまま用いる。
第1 請求
1 原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
 被告は、原告に対し、2500万円及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は、第1、2審とも被告の負担とする。
2 被告
(1) 原判決中、被告敗訴部分を取り消す。
(2) 原告の請求(当審において変更された請求を含む。)を棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも原告の負担とする。
第2 事案の概要及び当事者の主張等
1 事案の概要
 原審の経緯は、以下のとおりである。
 中華人民共和国の国営放送であるCCTV(中国中央電視台)のグループ会社で、同国法人である原告は、CCTVの放送用として制作された「中国世界自然文化遺産」と題する記録映画(本件各原版)の著作権を有していること、被告の製作・販売に係る「中国の世界遺産」と題する被告各DVDが上記記録映画を複製又は翻案したものであること等を主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した。これに対し、被告は、原告が本件各原版に係る著作権を有することを争うとともに、被告は原告から本件各原版の利用許諾を受けていたこと、損害賠償請求権の一部は時効消滅したことなどを主張した。
 原審は、@本件各原版に係る著作権は原告に帰属すると判断し、A被告各DVDは、本件各原版に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しており本件各原版の翻案に当たると判断し、B被告は、本件各原版の利用許諾を受けていたとは認められないと判断し、C原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の一部については、時効消滅したと判断して、D原告の損害賠償請求のうち10万5000円(弁護士費用相当額1万円を含む)の限度で認容し、その余の請求を棄却した。
 これに対し、原告及び被告は、原判決のうち各敗訴部分の取消しを求めて、それぞれ控訴を提起した。また、原告は、当審において、新たに不当利得返還請求権に基づく請求原因を追加的に主張した(なお、請求の趣旨に変更はない。)。
2 争いのない事実等及び争点
 次のとおり、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 前提事実」、「2 争点」(原判決2頁12行目ないし4頁26行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決4頁26行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「(6) 不当利得返還請求権の存否及び利得額」
3 争点に対する当事者の主張
 次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「3 争点に関する当事者の主張」(原判決5頁1行目ないし17頁17行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決7頁7行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「エ 以下のとおり、本件各原版に係る著作権は、遅くとも2003年(平成15年)8月13日までに、北京元純影視文化伝播有限公司(以下「元純社」という。)に帰属しており、原告は、本件各原版に係る著作権を有していない。
 すなわち、@卓倫社は、2003年(平成15年)8月12日、GMGに対し、本件各原版に係る著作権が元純社に帰属したことから本件意向協議書の履行が困難になったとして、本件意向協議書に係る合意の解除を求めた。A元純社は、2003年(平成15年)8月13日、GMGに対し、本件各原版に係る著作権を有している旨説明して、本件各原版の利用許諾を行った。B中華人民共和国において、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズが、「世界遺産在中国」として元純社名義で著作権登録がされた。C元純社は、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズに関する製作資料を作成し、GMGに提供した。D本件各原版は、元純社が保有しており、原告は保有していない。E原告の親会社であり、中国国営放送局であるCCTVは、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズの著作権が元純社に帰属していることを認めている。F原告は、株式会社中国物語(以下「中国物語」という。)が、本件各原版を素材として「中国・世界自然文化遺産」を制作し、テレビ大阪がこれを「中国世界遺産ものがたり」としてテレビ放映しているにもかかわらず、中国物語及びテレビ大阪に対しては、本件各原版が無許諾で複製等されたことを理由とする法的責任の追及をしていない。
 以上の事実を総合すれば、本件各原版に係る著作権は、原告ないし卓倫社ではなく、元純社に帰属していると解するのが相当である。」
(2) 原判決7頁22行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「被告は、本件各原版に係る著作権は、遅くとも2003年(平成15年)8月13日までには元純社に帰属しており、原告は本件各原版に関する著作権を有していないと主張する。しかし、被告の上記主張は失当である。
 すなわち、著作権登録に関する調査報告書(乙23ないし25)に記載された著作物は、本件各原版と名称が異なり、地名のみが記載され、その内容も判然としない。仮に、上記報告書に記載された著作物が本件各原版と同一のものであるとしても、中華人民共和国においては、著作権に関しては無方式主義が採用され、著作権の登録がされたからといって、直ちに著作権者が法的に確定されるものではない。しかも、元純社は、原告が被告に対して告知書を送付するなどして、本件紛争が顕在化した2006年(平成18年)2月21日以降になって、著作権登録申請をしている事情等を総合すれば、本件紛争を被告側に有利に進行させる目的で登録申請されたことがうかがわれる。
 また、CCTVの中央電視台新影製作中心及びCCTVの副台長の「中国世界遺産プロジェクト」の共同製作に関する書面(乙26〜28、29の1)は、いずれもCCTVが権利関係を定めた正式な書面ではなく、これをもって本件各原版の著作権が元純社にあるとはいえない。さらに、原告は、テレビ大阪の「中国世界遺産ものがたり」の放映期間が短く、本件各原版のごく一部を断片的に数回放映したものであること、中国物語は元純社及びGMGの分身と認められることから、被告とは異なる法的対応をしたのであり、これをもって、原告に本件各原版についての著作権が帰属していない根拠とすることはできない。
 そして、@元純社が設立された2003年(平成15年)7月25日ころには、本件各原版は完成し、CCTVの定期番組(「探索・発現」)として放送され、九寨溝や黄龍はDVD化されて市販されているところ、そこでは制作が卓倫社、出品が原告及びCCTVとされていること、AGMG(代表者A)は、2004年(平成16年)3月、原告に対し、本件各原版の利用に関して再度、契約を申し入れ、原告から本件各原版のコピーを持ち出す際、同月5日付け保証書を差し入れた上、同月9日、予約金8400ドルを原告の銀行口座に振り込んでいること、B上記保証書において、元純社も連帯保証人として署名していること、CGMGは、2005年(平成17年)7月14日、本件各原版の著作権が原告に帰属することが明記された終了協議書に同意していること、D被告各DVDでは、いずれも北京語版作成スタッフクレジットの表示において、出品者として原告が、承制者として卓倫社が明示されており、元純社は表示されていない等の諸事情を総合すると、本件各原版に係る著作権が元純社に帰属していると解することはできない。」
(3) 原判決14頁13行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「また、以下のとおり、被告は、GMGないしプレシャス社が利用許諾権限を有していることについて、必要十分な確認を行っている。すなわち、@CCTVにおける『世界自然文化遺産』の制作主任(すなわち本件各原版の制作主任を意味する)Bは、被告各DVDの販売促進の激励のため、被告を表敬訪問した。A被告各DVDは、CCTVによって製作されたものとして、社団法人日中友好協会の推薦を受けた。B被告は、Aから本件各原版の撮影状況を記載した『中国世界遺産渡航明細書』と題する書面を受領していた。C被告は、GMGから、CCTVや元純社作成のレターを受領し、これを確認していた。
 以上のとおり、被告は、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していることについて、必要十分な確認を行っており、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していなかったとしても、そのことについて過失はない。」
(4) 原判決16頁11行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「エ 被告は、平成20年8月14日付け回答書(甲8)において、『平成19年8月、上記DVDの販売を終了する旨決定し、現在一切販売を行っておりません』と回答しており、被告各DVDの販売を平成19年8月まで継続していたことを自ら認めていた。実際、被告各DVDは、平成22年7月時点でも紀伊国屋書店通販やアマゾンで販売されていた。上記のとおり、被告の株式会社ポニーキャニオン(以下「ポニーキャニオン社」という。)に対する被告各DVDの販売契約は、再販特約を前提とする販売委託であり、被告の継続的不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は早くても平成19年8月1日である。また、原告は、上記回答書を受けて、被告各DVDの継続的な販売が平成19年8月まで行われたと認識し、被告がAらを含めた一体的解決を申し出たことから、被告の対応を待っていたのであって、被告が本件告知書の作成日付(平成18年2月21日)を起算点とする消滅時効を援用することは権利の濫用に当たり許されない。」
(5) 原判決16頁21行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「ウ 被告は、平成18年8月17日までに被告各DVDの販売を終了していたところ、平成19年8月、GMGとの間で、平成16年3月15日付け『中国の世界遺産ビデオグラム用原版供給契約』が合意解除されていることを確認する合意書を締結したにすぎない。原告は、遅くとも平成18年2月21日までには、被告に対する損害賠償請求が可能であったものであり、被告が原告に対して消滅時効を援用することが権利濫用に当たるような事情はない。」
(6) 原判決17頁9行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「原告は、被告とプレシャス社との間で締結された原版供給契約に記載された使用料等をもって、原告の『受けるべき金銭の額に相当する額』が算定されるべきであると主張するが、以下のとおり、失当である。すなわち、」
(7) 原判決17頁17行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「(6) 不当利得返還請求権の存否及び利得額(争点(6))について
(原告の主張)
ア 損失、利得及び因果関係
 被告は、無権限者であるプレシャス社との間で、本件原版供給契約を締結し、本件マスターテープ(本件各原版の複製物であるNTSC方式のテープ。以下同じ)の供給対価及びDVD、VHSビデオパッケージを複製・頒布するための許諾契約金として、合計2100万円(税抜)を支払う旨合意した(乙8・8条)。
 また、被告は、プレシャス社との間で、本件マスターテープを複製・頒布する場合、プレシャス社に対し、『小売価格(税抜)×10%×実販売本数』で計算した複製使用料(消費税別)(以下「本件複製使用料」という。)を支払う旨合意した(乙8・9条1項)。被告各DVDの小売価格は3800円であり、実販売本数は合計1万1200部(被告第1巻1900部、被告第2巻1800部、被告第3巻〜第7巻各1500部)である。
 したがって、被告は、本件各原版の著作権者である原告に対し、供給対価及び許諾契約金2100万円と本件複製使用料425万6000円(3800円×10%×1万1200部=425万6000円)の合計2525万6000円を支払うことなく、本件各原版を複製、販売して、同金額相当の利得を受け、原告は同金額相当の損失を被った。
 また、仮に、本件原版供給契約で合意した金額(上記供給対価、許諾契約金及び本件複製使用料)が利得及び損失として認められないとしても、被告は、本件各原版の著作権者である原告に対し、使用料相当額1064万円(3800円×25%×1万1200部=1064万円)を支払うことなく、本件各原版を複製、販売して同金額相当の利得を受け、原告は同金額相当の損失を被った。
イ 法律上の原因の不存在
 プレシャス社ないしGMGには、本件各原版の著作権者である原告に代理して本件原版供給契約を締結する権限はなく、被告は、無権限で本件各原版を複製し、これを販売したものであるから、上記利得を受領する法律上の原因が存在しない。
ウ 悪意又は重過失
 プレシャス社の代表者Cは、被告OBの依頼で本件原版供給契約を締結し、GMGの代表者Aとも面識がなかったことなどからすれば、被告は、本件原版供給契約締結当時、プレシャス社やGMGが原告から本件各原版の利用許諾を受けていないことを知っており、知らなかったとしても重大な過失がある。
エ よって、原告は、被告に対し、不当利得に基づき、利得金2525万6000円の内金として2500万円及びこれに対する本件原版供給契約が締結された平成16年3月15日の翌月初日である同年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求める。
(被告の反論)
 被告が、プレシャス社との間で、本件マスターテープ供給等の対価として2100万円(税抜)、印税・複製使用料として『小売価額(税抜)×10%×実販売本数』を支払う旨合意したこと、被告各DVDの実販売本数が1万1200本であることは認め、その余は否認ないし争う。
 被告は、プレシャス社ないしGMGに対し、本件マスターテープ供給等の対価、印税・複製使用料を支払っていることからすれば、被告の利得は、法律上の原因がある利得であり、原告の被告に対する不当利得返還請求は認められない。
 また、上記のとおり、被告は、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していることについて、必要十分な確認を行っていた。すなわち、@被告各DVDの製作・編集作業には、CCTVの名刺を有しているDが立ち会った。AGMGないしプレシャス社は、原版である本件マスターテープを所持しており、被告は、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有しているものと信じた。BCCTVにおける『世界自然文化遺産』の制作主任(すなわち本件各原版の制作主任を意味する)Bが、被告各DVDの販売促進の激励のため、被告を表敬訪問した。C被告各DVDは、CCTVによって製作されたものとして、社団法人日中友好協会の推薦を受けた。D被告は、Aから本件各原版の撮影状況を記載した『中国世界遺産渡航明細書』と題する書面を受領した。E被告は、GMGから、CCTVや元純社作成のレターを受領し、確認した。上記によれば、被告は、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していることについて、必要十分な確認を行っていたといえ、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していなかったとしても、そのことについて悪意又は重大な過失はない。」
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、原告の控訴は一部につき理由があり、被告の控訴は理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 「著作権法による保護と準拠法」、「本件各原版の著作権の帰属(争点(1))」、「本件各原版の利用許諾の有無(争点(2))」、「被告の過失の有無(争点(3))」、「消滅時効の成否(争点(4))」、「原告の損害額(争点(5))」について
 次のとおり付加訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」(原判決17頁19行目ないし34頁17行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決18頁12行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「不当利得返還請求については、本件において、原告が被告により本件各原版が複製され、被告各DVDが販売されたと主張するのは我が国であるから、『その原因となる事実が発生した地』(法の適用に関する通則法14条)として、日本法が準拠法となる。もっとも、不法行為に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権に係る準拠法が、日本法であることについて、当事者間に争いはない。」
(2) 原判決20頁25行目ないし26行目を削除する。
(3) 原判決22頁25行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「また、被告は、本件各原版に係る著作権は、遅くとも2003年(平成15年)8月13日までには元純社に帰属しており、原告は本件各原版に関する著作権を有していないと主張する。しかし、被告の上記主張は、以下のとおり、失当である。
ア まず、被告は、@「卓倫社は、2003年(平成15年)8月12日、GMGに対し、本件各原版に係る著作権が元純社に帰属したことから本件意向協議書の履行が困難になったとして、本件意向協議書に係る合意の解除を求めたこと」、A「元純社は、同月13日、GMGに対し、本件各原版に係る著作権を有している旨説明して、本件各原版の利用許諾を行ったこと」等の事実があったと主張し、その証拠として、元純社のGMGに対する授権書(乙32)、GMGの代表者Aの陳述書(乙33)、元純社とGMGとの間の「番組放映権の発行販売の授権に関する協議書」(乙34)等を提出する。
 しかし、被告の上記主張は採用することができない。すなわち、被告が提出する上記証拠は、いずれも元純社ないしGMG作成に係るものであり、これをもって直ちに本件各原版の著作権が元純社に帰属すると認めることはできない。むしろ、GMG(代表者A)は、2004年(平成16年)3月ころ、原告に対し、本件各原版の利用を申し入れるとともに、同月5日付け保証書を差し入れ、同月9日、予約金8400ドルを原告の銀行口座に振り込んでいること(甲37、38)、上記保証書において、元純社も連帯保証人として署名していること(甲37)、2005年(平成17年)7月14日ころ、原告、卓倫社及びGMGとの間で締結された本件終了協議書においても、本件各原版に係る著作権が原告に帰属するとされていること(乙6)からすれば、本件各原版の著作権は原告に帰属するものと認められる。
イ 被告は、B中国において、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズが、『世界遺産在中国』として元純社名義で著作権登録されていることから、本件各原版に係る著作権は、遅くとも2003年(平成15年)8月13日までには元純社に帰属したと主張する。
 しかし、被告の上記主張も採用することができない。すなわち、著作権登録に関する調査報告書(乙23ないし25)に記載された著作物が、本件原版と同一のものか否かは判然としない。仮に、上記報告書に記載された著作物が本件各原版と同一のものであるとしても、上記著作権登録における証書発行日は、原告が被告に対して本件告知書を送付するなどして、本件紛争が顕在化した後の2009年(平成21年)5月19日であること等の事情にかんがみれば、無方式主義を採用する中華人民共和国において、上記の著作権登録がされたことをもって、直ちに元純社に本件各原版の著作権が帰属したと認めることはできない(甲33、乙23)。
 以上のとおり、中国において、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズが、『世界遺産在中国』として元純社名義で著作権登録されている事実の有無にかかわらず、本件各原版に係る著作権が、2003年(平成15年)8月13日までに元純社に帰属したと認めることはできない。
ウ 被告は、C元純社は、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズに関する製作資料を作成し、GMGに提供していること、D本件各原版は、元純社が保有しており、原告は保有していないこと、E原告の親会社であり、中国国営放送局であるCCTVは、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズの著作権が元純社に帰属していることを認めていることから、本件各原版に係る著作権は、遅くとも2003年(平成15年)8月13日までには元純社に帰属したと主張する。
 しかし、被告の上記主張は採用することができない。すなわち、被告が、本件各原版を含む中国世界遺産シリーズに関する製作資料と主張する証拠(乙37、38)は、その作成経緯等が判然とせず、これをもって、本件各原版に係る著作権が、2003年(平成15年)8月13日までに元純社に帰属したと認めることはできない。また、本件全証拠によるも、元純社が本件各原版を保有していると認めるに足りる証拠は存在しない。さらに、被告が、CCTVも本件各原版を含む中国世界遺産シリーズの著作権が元純社に帰属していることを認めている裏付けとなる資料であると主張して提出した証拠(乙26〜28、29の2)は、CCTVの一部署である中央電視台新影製作中心又はCCTVの副台長作成に係る『中国世界遺産プロジェクト』の製作に関する書面等であって、いずれもCCTVが本件各原版の権利関係を認めた書面とは解されず(中央電視台新影製作中心もこれを否定している。甲34)、上記証拠をもって本件各原版に係る著作権が元純社に帰属するとはいえない。
 したがって、被告の上記主張は失当である。
エ 被告は、中国物語が、本件各原版を素材として『中国・世界自然文化遺産』を制作し、テレビ大阪がこれを『中国世界遺産ものがたり』としてテレビ放映しているにもかかわらず、原告は中国物語及びテレビ大阪に対して法的責任を追及していないと主張する。しかし、原告の中国物語及びテレビ大阪に対する対処が被告に対する対処と異なるとしても、これをもって、本件各原版に係る著作権が、2003年(平成15年)8月13日までに元純社に帰属したことを推認させるものではない。
オ 以上のとおり、本件各原版に係る著作権が、2003年(平成15年)8月13日までに元純社に帰属したと認めることはできず、被告の上記主張は、採用することができない。」
(4) 原判決31頁14行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「また、被告は、@CCTVにおける『世界自然文化遺産』の制作主任(すなわち本件各原版の制作主任を意味する)Bが、被告各DVDの販売促進の激励のため、被告を表敬訪問したこと、A被告各DVDは、CCTVによって製作されたものとして、社団法人日中友好協会の推薦を受けていること、B被告は、Aから本件各原版の撮影状況を記載した『中国世界遺産渡航明細書』と題する書面を受領したこと、C被告は、GMGから、CCTVや元純社作成のレターを受領し、確認していたことから、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していることについて、必要十分な確認を行っており、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していなかったとしても、そのことについて過失はない、と主張する。
 しかし、被告の上記主張は失当である。すなわち、@及びAについては、仮に、そのような事実経緯が存在したとしても、GMG又はプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限が直ちに推認されるものではない。また、Bについては、『中国世界遺産渡航明細書』と題する書面(乙48)の作成経緯が判然としない上、これによりGMG又はプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限が推認されるものではない。さらに、Cについては、乙26ないし28、29の2は、CCTVの一部署である新影制作中心又は副台長名義で作成されたもの、乙30ないし32、34は、元純社ないしGMG名義で作成されたもの、乙38は、その作成経緯が判然としないものである上、上記各書面の内容からGMG又はプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限が直ちに推認されるものではない。
 したがって、被告の上記主張は失当であって、被告は、GMGないしプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限について、必要十分な確認を行ったとは認められず、そのことに過失があったと認められる。」
(5) 原判決33頁8行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「さらに、原告は、被告は平成20年8月14日付け回答書(甲8)において、平成19年8月まで被告各DVDの販売を継続していたことを自ら認めており、実際、平成22年7月時点でも被告各DVDが紀伊国屋書店通販やアマゾンで販売されていたことからすれば、被告のポニーキャニオン社に対する被告各DVDの販売契約は、再販特約を前提とする販売委託であり、被告の継続的不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は早くても平成19年8月1日である、と主張する。
 しかし、原告の上記主張は採用することができない。すなわち、被告は、原告に対し、平成20年8月14日付け回答書(甲8)において、『平成19年8月、上記DVDの販売を終了する旨決定し、現在一切販売を行っておりません』と回答していたことは認められるものの、これをもって直ちに、被告が平成19年8月まで被告各DVDの販売を継続していたと認めることはできない。また、被告各DVDが平成22年7月時点でも紀伊国屋書店通販やアマゾンで販売されていたとしても、そのことから直ちに、被告のポニーキャニオン社に対する被告各DVDの販売契約が再販特約を前提とする販売委託であったと認めることもできない。さらに、被告各DVDの販売行為が、継続的不法行為であるとする特段の事情も認められない。
 原告は、上記回答書を受けて、被告各DVDの継続的な販売が平成19年8月まで行われたと認識し、被告がAらを含めた一体的解決を申し出たことから、被告の対応を待っていたのであって、被告が本件告知書の日付(平成18年2月21日)を起算点とする消滅時効を援用することは権利の濫用に当たり許されない、と主張する。しかし、上記事情が認められるとしても、本件告知書作成当時、原告において、被告に対する損害賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度に『損害及び加害者』を知ったと認められることに変わりはなく、被告が上記消滅時効を援用することが権利の濫用に当たるとはいえない。」
2 不当利得返還請求権の存否及び利得額(争点(6))について
 本件各原版と被告各DVDとの類似性及び依拠性については、当事者間に争いがない。すなわち、@被告第1巻〜第4巻、第6巻及び第7巻は、本件第1巻〜第4巻、第6巻及び第7巻と動画映像・音楽・音声(ナレーションを除く。)について同一であり(ただし、オープニング映像、日本語のナレーションとテロップが付加されている。)、A被告第5巻は、本件第5巻にはない「鎮国寺」のシーン等が約2分30秒追加され(全体の約7%)、インタビューやガイドのシーン等が削除されるとともに、動画映像・音楽・音声の順番が4か所で入れ替えられ、エンディング部分では各部分の動画映像が編集されて使用されているほかは、本件第5巻と動画映像・音楽・音声(ナレーションを除く。)について同一である(ただし、オープニング映像、日本語のナレーションとテロップが付加されている。)点については、当事者間に争いはない。
 上記によれば、被告各DVDは、本件各原版に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しており、翻案に当たる。そうすると、被告は、本件各原版の著作権者である原告の利用許諾を受けずに、被告各DVDを製造、販売し、本件各原版の使用料相当額の利益を受け、原告に同額の損失を及ぼしたものと認められる。
 これに対し、被告は、プレシャス社ないしGMGに対し、本件マスターテープ供給等の対価、印税・複製使用料を支払っていることからすれば、被告の利得は、法律上の原因がある利得であり、原告の被告に対する不当利得返還請求は認められないと主張する。しかし、上記のとおり、プレシャス社ないしGMGが、本件各原版の利用許諾権限を有していない以上、被告が利用許諾権限を有していないプレシャス社ないしGMGに対し上記対価を支払ったことによって、被告の利得が法律上の原因がある利得になるとはいえないから、被告の上記主張は、主張自体失当である。
 また、本件原版供給契約(乙8)では、被告が、プレシャス社に対し、本件マスターテープ(本件各原版の複製物であるNTSC方式のテープ)の供給対価及びDVD、VHSビデオパッケージに複製・頒布するための許諾契約金として合計2100万円(税抜。1巻について300万円の7巻分)を支払うこと(8条)、被告が本件マスターテープを複製・頒布する場合、小売価格(税抜)の10%に実販売本数を乗じて算出した複製使用料を支払うこと(9条1項)が定められていたものと認められるところ、上記2100万円には利用許諾料以外の対価が一定程度含まれていたものと解される。
 以上の諸事情を考慮すると、本件各原版の使用料相当額は、被告各DVDの小売価格3800円(税抜)の25%に実販売本数を乗じた額と認めるのが相当であり、被告は上記使用料相当額の利得を得たと認められる(ただし、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる被告第2巻の平成18年8月17日販売分100部を除く。)。
 そして、被告は、ポニーキャニオン社に対し、平成16年9月20日から平成17年8月22日までの間に、被告第1巻1900部、被告第2巻(平成18年8月17日販売分100部を除く)1700部、被告第3巻〜第7巻各1500部をそれぞれ販売したことが認められる(乙16、17、20、22の1〜22の5)。
 なお、原告と被告との間には、卓倫社、元純社、GMG、プレシャス社及びその関係者等が介在するなど複雑な事実関係が存在したことなどに照らすと、被告は、本件原版供給契約締結時ないし被告各DVD販売時において、GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有しないことを知っていたことや、これを知らなかったことについて重過失があったことまでは認められないが、訴状(訴状における請求原因は、不法行為に基づく損害賠償請求権であるが、請求の基礎となる事実は、不当利得返還請求権に基づく請求原因と同一のものである。)の送達を受けた日である平成21年7月13日から悪意となったものと認められる。
 以上によれば、被告は、原告に対し、不当利得に基づき、以下に示すとおり、本件各原版の使用料相当額として1054万5000円及びこれに対する訴状送達の日である平成21年7月13日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払義務を負う。
 被告第1巻 1900部
 被告第2巻(平成18年8月17日販売分100部を除く) 1700部
 被告第3巻〜第7巻 各1500部
 合計1万1100部
 3800円×25%×1万1100部=1054万5000円
3 小括
 以上によれば、原告の被告に対する請求は、次の限度で認められる。
(1) 不法行為に基づく損害賠償請求
 損害金9万5000円、弁護士費用相当額1万円、合計10万5000円
 遅延損害金 上記損害金等に対する不法行為の日である平成18年8月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員
(2) 不当利得返還請求
 利得金1054万5000円
 利息 上記利得金に対する訴状送達の日である平成21年7月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員
(3) 不法行為に基づく損害賠償、弁護士費用相当額、不当利得の合計1065万円(9万5000円+1万円+1054万5000円=1065万円)
4 結論
 以上のとおり、原告の控訴は主文第1項の(1)の限度で理由があり、その余は当審で変更した分を含めて理由がなく、被告の控訴は理由がないので、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 知野明
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