判例全文 line
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【事件名】DeNA vs グリー 類似「ソーシャルゲーム」事件
【年月日】平成24年2月23日
 東京地裁 平成21年(ワ)第34012号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成23年11月10日)

判決
原告 グリー株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩倉正和
同 櫻庭信之
同 櫻井由章
同 洲桃麻由子
同 小西透
同 渡邊典和
同 齊藤怜香
同訴訟復代理人弁護士 星野大輔
同 緒方健太
同 稲垣弘則
被告 株式会社ディー・エヌ・エー
被告 株式会社ORSO
被告ら訴訟代理人弁護士 高橋元弘
同 佐藤久文
同 末吉亙


主文
1 被告らは、別紙ウェブサイト目録1記載のウェブサイトから、別紙対象目録記載の「釣りゲータウン2」と題するゲームの影像を抹消せよ。
2 被告らは、別紙対象目録記載の「釣りゲータウン2」と題するゲームの影像を記録したコンピュータ及びサーバー内の記録媒体並びにPCカード、CDロム及びフロッピーディスク等の電磁的記録の記録媒体から、当該影像に係る記録を抹消せよ。
3 被告らは、別紙対象目録記載の「釣りゲータウン2」と題するゲームの影像を複製又は公衆送信してはならない。
4 被告らは、原告に対し、連帯して、2億3460万円及びこれに対する平成23年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
7 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項ないし第3項と同旨
2 被告らは、別紙ウェブサイト目録1記載のウェブサイトから、別紙影像目録1記載の影像を抹消せよ。
3 被告株式会社ORSOは、別紙ウェブサイト目録2記載のウェブサイトから、別紙影像目録2記載の影像を抹消せよ。
4 被告らは、原告に対し、連帯して、9億4020万円及びこれに対する平成23年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告らは、別紙ウェブサイト目録1記載のウェブサイトのトップページに、別紙謝罪広告目録1 (一)記載の謝罪広告項目を、同(二)記載の掲載条件により30日間掲載せよ。
6 被告らは、別紙ウェブサイト目録1記載のウェブサイト内のウェブページに、別紙謝罪広告目録2 (一)記載の謝罪文を、同(二)記載の掲載条件により30日間掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告らに対し、(1) 被告らが共同で製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲームソフト「釣りゲータウン2」(以下「被告作品」という。)は、原告が製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲームソフト「釣り★スタ」(以下「原告作品」という。)と、魚を引き寄せる動作を行う画面の影像及びその変化の態様や、ユーザーがゲームを行う際に必ずたどる画面(主要画面)の選択及び配列並びに各主要画面での素材の選択及び配列の点等において類似するので、被告作品を製作してこれを公衆送信する行為は、原告の原告作品に係る著作権(翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する、(2) 被告らが、別紙影像目録1及び2記載の影像を被告らのウェブページに掲載し、被告作品の自他を識別する商品等表示として用いる行為は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の「混同惹起行為」に当たる、(3) 被告らが、原告に無断で原告作品に依拠して被告作品を製作し、これを配信した行為は、原告作品の価値にただ乗り(フリー・ライド)するものであり、原告の法的保護に値する利益を違法に侵害する(民法709条、719条1項)、と主張して、@著作権及び著作者人格権侵害を理由とする被告作品の公衆送信等の差止め及び被告作品の影像の抹消(上記請求1)、A不競法2条1項1号違反を理由とする別紙影像目録1及び2記載の影像の抹消(請求2、3)、B著作権侵害、不競法2条1項1号違反及び共同不法行為に基づく損害賠償として、被告作品の配信開始日である平成21年2月25日から本件第9回弁論準備手続期日である平成23年7月7日までの損害金9億4020万円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払(請求4)、及びC著作権法115条、不競法14条又は民法723条に基づく謝罪広告の掲載(請求5、6)を求める事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は、当事者間に争いのない事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は、インターネットを利用した各種情報提供サービス業並びにコンピュータに関するハードウェア・ソフトウェアの開発、製造、販売、リース及び保守サービス等を業とする株式会社である。
 原告は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(会員登録をしたユーザーが自己のプロフィールページを作り、日記を書き、テーマごとに設定された掲示板等を通じて、親しい友人とのコミュニケーションや、メンバーとの情報交換を楽しむことができるインターネット上のコミュニティ型サービス。以下「SNS」という。)を提供するインターネット・ウェブサイト「GREE」(以下「GREE」という。)を、携帯電話機向け及びパーソナル・コンピュータ(以下「パソコン」という。)向けに運営している。
イ 被告株式会社ディー・エヌ・エー(以下「被告ディー・エヌ・エー」という。)は、インターネットを利用した各種情報処理サービス及び情報提供サービス並びにソフトウェアの企画、開発、設計、製造、販売、賃貸、運用及びその代理業等を業とする株式会社である。
 被告ディー・エヌ・エーは、ポータルサイト・サービス兼SNSを提供するインターネット・ウェブサイト「モバゲータウン」(以下「モバゲータウン」という。)を、携帯電話機向け及びパソコン向けに運営している。
ウ 被告株式会社ORSO(以下「被告ORSO」という。)は、インターネット、コンピュータ、携帯電話、テレビゲーム機器等のシステム開発及びコンサルタント業務並びにゲームソフトの企画制作、製造、販売及び配給に関する業務等を業とする株式会社である。
(2) 原告作品の製作及び配信の開始
 原告は、平成19年ころ、釣りを題材とした携帯電話機用インターネット・ゲームソフトである原告作品を製作し、SNSのコミュニケーション機能と連動させたSNS連動型ゲームの第1弾として、平成19年5月24日から、携帯電話機向けGREEにおいて、その会員に対し、原告作品の公衆送信による配信を始めた(弁論の全趣旨)。
(3) 被告作品の製作及び配信の開始
 被告らは、平成20年ころ、原告作品と同じく釣りを題材とした携帯電話機用ゲームソフトである「釣りゲータウン」(以下「被告旧作品」という。)を共同製作し、同年8月20日ころ、携帯電話機向けモバゲータウンにおいて、その会員に対し、公衆送信による配信を開始した。なお、被告旧作品は、個々の画面の表現等について、原告作品との類似性は低いものであった。
 被告らは、被告旧作品の続編として被告作品を共同製作し、平成21年2月25日、携帯電話機向けモバゲータウンにおいて、その会員一般に対し、公衆送信による配信を開始した。
(4) 被告作品の魚の引き寄せ画面の影像の被告らのウェブページへの掲載
ア 携帯電話機向けモバゲータウンにおいて、被告作品で遊んだことのないユーザーが被告作品を検索すると、被告作品を紹介する画面(甲16・3頁。以下「被告作品紹介画面(モバゲータウン)」という。)が表示される。同画面には、別紙影像目録1記載のとおり、被告作品の魚の引き寄せ画面の影像(以下「被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)」という。)が掲載されている(甲16)。
イ 被告ORSOのホームページには、被告作品を紹介する画面(甲17。以下「被告作品紹介画面(被告ORSO)」という。)が存在する。同画面には、別紙影像目録2記載のとおり、被告作品の魚の引き寄せ画面の影像(以下「被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)」という。)が掲載されている(甲17)。
2 争点
(1) 被告作品を製作し公衆送信する行為は、原告の原告作品に係る著作権(翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するか(争点1)
ア 被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか(争点1−1)
イ 被告作品における主要画面の変遷は、原告作品における主要画面の変遷に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか(争点1−2)
(2) 被告らのウェブページに被告作品の魚の引き寄せ画面を掲載する行為は、他人の商品等表示として周知のものと同一又は類似の商品等表示を電気通信回線を通じて提供し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不競法2条1項1号)に当たるか(争点2)
(3) 被告作品を製作し公衆に送信する行為は、原告の法的保護に値する利益を侵害する不法行為に当たるか(争点3)
(4) 原告の損害(争点4)
(5) 被告らによる謝罪広告の要否(争点5)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1−1(被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
[原告の主張]
ア 釣りとは、釣糸の先に付けた鉤に掛けて魚を取ることをいい、単に魚を釣り針に掛けるだけではなく、釣り針に掛かって逃げようとする魚を引き寄せて釣り上げる過程を含むものである。
 釣りでは、単に釣り糸を巻くなどして魚を手元に引っ張れば魚を釣り上げることができるわけではなく、タイミングを見計らって釣り糸を巻くなどしないと魚に逃げられてしまい、釣り上げることはできない。このタイミングを見計らうことによって魚との駆け引きを楽しむことが、釣りの醍醐味の一つであり、釣り糸を巻くタイミングという要素は、釣りゲームの面白さを決定付ける重要な要素である。
イ この点につき、原告作品の「川の釣り場」の魚の引き寄せ画面と、被告作品の魚の引き寄せ画面とは、次のとおり、多くの共通点ないし類似点を有する。
【原告作品】 【被告作品】 (画像省略)
(ア) 原告作品及び被告作品の「魚の引き寄せ画面」は、上図のとおり、水面とその上の様子を画面より捨象し、水中のみを画像として水中の真横から水平方向の視点で描き、背景の水中を全体的に薄暗い青にしている上、ユーザー(ゲームプレイヤー)の視点が固定されている。
 釣り人は、釣りをする時、水中で釣り針に食いついた魚がどのような反応をしているか、どのように糸を引っ張っているか、水中での魚との格闘を想像しながら釣りをするが、普通、水底近くの水中に潜って魚を見ることはない。
 原告作品は、ユーザーの視点を水中に置くことで、まるでユーザーが水中に潜り込み、水底近くで、魚が釣り針から逃げようとしているのを目撃しながら、同心円を舞台として、魚と駆け引きをするような情景を描いている。本来、ユーザーの視点をわざわざ固定して、水中の真横から水平方向の視点で魚の引き寄せ場面を表現する必然性はないにもかかわらず、原告作品は、魚の引き寄せ場面をあえてそのように表現することを選択し、水面とその上の様子は魚の引き寄せ画面から除いて、水中のみを画像とした。
 これは、原告作品の公表以前に発表された他の携帯電話機用釣りゲーム(以下「他の釣りゲーム」という。)にはない特徴である。
(イ) 原告作品及び被告作品の「魚の引き寄せ画面」は、いずれも「同心円」を描いている。同心円は、中心からほぼ等間隔に見える三重から成っており、同心円の中心は、画面のほぼ中央に位置して見える。
 しかしながら、釣りゲームの魚の引き寄せ画面に三重の同心円を描く必然性はない。例えば、魚が岩陰のところにいるときに釣り糸を巻く等の操作行為をすれば魚が引き寄せられ、魚が何も障害のない海底付近や海草のところに移動したときに釣り糸を巻くなどの操作をすれば引き寄せに失敗する、という表現方法もあり得るものであり、円形を用いることに必然性はない。
 仮に、魚の引き寄せ画面に同心円を描くことを前提にするとしても、画面のほぼ中央を円の中心とすること、同心円を三重とすること、同心円の間隔をほぼ等間隔とすること、同心円の最も外側の円の大きさ(面積)を水中の影像の約半分とすること、のいずれをとっても、これらの表現に必然性はない。魚の引き寄せの成功・失敗を表現するのに、原告作品及び被告作品のように画面中央に円を置く必要はない。
 他の釣りゲームにおいて、三重の同心円は描いたものはもちろんのこと、およそ同心円を描いた作品は存在しない。
(ウ) 原告作品と被告作品とは、魚の姿を黒色の魚影とし、魚の口から影像上部に伸びる黒い直線の糸の影を描いている点で表現が共通する。
 原告作品は、水中の様子を描きつつ、釣り針に掛かった魚の姿を黒い魚影として、何の魚が餌に掛かったのかが分からないようにし、ゲーム中、ユーザーに逃げ回る魚を追いかけさせている。原告作品は、魚を釣り上げるまでの間、どんな魚が釣れるかユーザーには分からないことで、ユーザーの好奇心をかき立てるが、そのためには、例えば、水飛沫だけが見えるようにする表現方法や、魚影や水飛沫すら描かない方法もあるにもかかわらず、原告作品は、ユーザーの視点を水中に置きながら魚の姿を魚影で描写している点が非常に個性的である。
 また、魚の姿と釣り糸についても多彩な表現があり、原告作品のように魚の姿を黒い魚影とし釣り糸を黒に表現しなければならない必然性はない。他の釣りゲームで、水中の視点から水中の様子を描写したもので、魚を魚影で表わしているゲームは存在しない。
(エ) 原告作品と被告作品とは、背景が水の色を含め全体的に薄暗い青で、水底の左右両端付近に同心円に沿うような形で岩陰があり、水草、他の生物、気泡等が描かれていない点で共通する。
 水底の岩陰を同心円の両側下部に沿うような形で描くことは、同心円を引き立たせ、魚の動きを強く印象付けるものであり、水草や他の生物などがあえて描かれていないことも、ゲームの面白さを際立たせる表現である。
 他の釣りゲームを見ても、水を含めた背景に全体的に薄暗い青系統の色を用いるものや、魚等を引き立たせるように岩陰が描かれたものは存在しない。
(オ) 原告作品と被告作品とは、同心円や背景画像が静止していて、釣り針にかかった魚影のみが、他の釣りゲームに比べてより頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回る点が共通する。原告作品では、同心円を含む背景は静止しており、画面中央の同心円が、縦横無尽に動き回る魚の動きをより一層鮮明に感じさせる。
(カ) 原告作品と被告作品とは、静止した同心円と動き回る魚影の位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現している点で共通する。
 釣りゲームでは、魚が針に掛かった後、どれぐらい力を込めて釣り糸を巻くのかをどう描写するのかということに、ゲームの面白さがある。この点につき、他の釣りゲームでは、魚が針にかかった後の釣り人側の引きと魚の逃げる力は、魚の向きやテンションメーターの増減等の一次元の動きで表現し、それによりユーザーに釣り糸を巻くタイミングを判断させていた。
 これに対し、原告作品は、画面中央に静止した三重の同心円を表現し、終始移動する魚の位置が円の中にあるか、円から外れているか、という二次元の動きで、釣り糸を巻くタイミングをプレイヤーに判断させている。画面中央の円の内側と外側を魚が縦横無尽に動き回ることで、魚が逃げようとする様子を二次元的に描写しており、原告作品のオリジナリティが表れた表現である。
ウ 以上のとおり、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通部分の各要素は、それぞれ単独で表現上の創作性が見られるだけでなく、各要素が組み合わされることにより、高い表現上の創作性が認められる。また、上記(ア)ないし(カ)以外にも、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面には、別紙比較対照表1のとおり、多くの共通点が見られる。
 このように、被告作品の魚の引き寄せ画面は、原告作品の魚の引き寄せ画面のうち創作性の高い表現内容について類似しており、原告作品の創作性を有する表現上の本質的特徴を直接感得することができる。
 上記のような被告作品と原告作品の魚の引き寄せ画面の類似性に加え、被告らは、被告旧作品の試作版の配信翌日に、原告作品について尋ねるアンケートを実施していることを併せ考えると、被告作品が原告作品に依拠するものであることは明らかである。
 したがって、被告らは、原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の翻案権を侵害している。
エ 被告作品は、上記のとおり原告作品の翻案物であり、原告作品の二次的著作物であるから、原告作品の著作者である原告は、被告作品につき公衆送信権を専有する(著作権法23条1項、28条)。
 被告らは、原告に無断で被告作品を被告らのサーバーにアップロードして不特定多数の公衆からのアクセスを可能とし、もって被告作品を送信可能化し、被告作品の自動公衆送信を行っている。
 したがって、被告らは、原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の公衆送信権を侵害している。
オ 被告らは、上記アの改変行為により、原告が原告作品に関して有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。
[被告らの主張]
ア 魚の引き寄せ画面に関して原告が原告作品と被告作品とで同一性を有すると主張する部分は、次のとおり、単なるアイデアまたは平凡かつありふれた表現にすぎず、創作的表現とはいえない。
(ア) 水面及びその上の様子を画面より捨象して水中のみの画像とし、水中の真横から水平方向の視点で描いていることについて
 水中を描くに当たって、水面及びその上の様子を描くか否かや、水中の真横から水平方向の視点で描くか否かということは、表現以前のアイデアの領域であり、かつ極めてありふれたものであって、創作的表現とはいえない。
 また、釣りゲームにおける魚の引き寄せのルールとして、原告作品及び被告作品のように、動き回る魚を的の中でとらえるというルールを採用した場合、必然的に、その画面は水中を動き回る魚を描くことになり、想定し得る場面設定は限られている。
(イ) 画面中心の円について
a 原告作品の円の形状は、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)の1項(3)に記載のとおり、円とドーナツ形状との組み合わせであり、円の配色は、外側のドーナツ部分と中心の円形が水中を表現する青色よりも薄い色を用い、その間は、背景の水中画面がそのまま表示されている。
 円の大きさは、一定であり、横長の水中画面に対し、その画面の上下面に円形の上下部の外周がややはみ出して接し、円形外周と水中画面左右の端とは接していない。水中画面の横の大きさを8とすると、円形外周の直径は約5である。また、中心の円形の半径を4とすると、外側のドーナツ形状の内周部分の半径は約9、外周部分の半径は約14である。
 原告作品の円は、以上のような形状であるため、弓道の的のような印象を与えるものとなっている。
 さらに、原告作品の円の位置は、魚影と比較して奥に配置され、岩陰よりも奥に配置されている。
b 他方、被告作品は、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)の2項(2)Aに記載のとおり、水中を表す画面において表示される円は、3重の円が、その中心の円から放射状に伸びる5本の直線により11分割されて、各分割部分はパネル形状となっており、これらのパネルの組合せによって、全体として円が形作られている。被告作品の円の配色は、中心の円を除いた部分に緑色と赤色が配色され、その配色は、引き寄せ画面ごとに場所及び数に違いがある。なお、各パネルの仕切り部分は、背景と同じ青色である。
 また、被告作品の円の中心部分は、コインが回転するような動きをして図柄が変化するのが特徴であり、図柄は、緑色無地、銀色の背景に金色の釣り針、鮮やかな緑の背景に黄色の星マーク、金色の背景に銀色の銛、黒色の背景に赤字の×印の5種類である。
 被告作品における円の大きさは、一定のパラメータ値に応じて変化しており、その大きさは9段階に分かれている。円は、ほぼ正方形の水中画面の中央に描かれ、最も大きいときでも水中画面の上下左右の端に接することはない。中心の円の半径を3とすると、2層目の円の半径は約8、外周部分の半径は約13である。
 緑色無地
 コインが回転するような動き
 銀色地に金色の釣り針
 鮮やかな緑地に黄色の星
 金色地に銀色の銛
 黒地に赤色の×
 (以上、画像6点 省略)
 被告作品の円は、以上のような形状であるために、ダーツの的のような印象を与えるものとなっている。また、円の位置は、魚影と比較して手前であり、岩陰よりも手前である。
 このように、被告作品の魚の引き寄せ画面の最大の特徴は、的の形が画面ごとに異なることと、中心部分が回転して変化する5種類の図柄であることの2点であり、前者の点からすると、被告作品における的の形状は同心円ではないというべきである。また、この点において、被告作品は、表現の選択肢が限られた携帯電話機用ゲームにおける的の形状としては、極めて独自性の強いものとなっている。
 なお、被告作品の的の形(緑に発色したパネルの場所及び数)は画面ごとにランダムに変わり、更に同一画面内でも変化し、単に円の中に魚影があるときに決定キーを押せばいいというゲーム性ではない。これによって、釣り好きのユーザーに対しては、釣り上げるまでの難易度が毎回異なる実際の釣り同様の臨場感・緊張感を与え、ゲーム好きのユーザーに対しては、より高い遊技性を感じさせるものになっている。
 さらに、被告作品は、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)2項(2)Bのとおり、一本釣り、必殺金縛り、確変といったカットイン機能を搭載し、釣り上げるのが難しい魚を容易に釣り上げるチャンスを設けている。これにより、釣り好きのユーザーに対しては、実際の釣り同様に偶然性・意外性を感じさせ、ゲーム好きのユーザーに対しては、カットイン機能にアニメーション等を交えて表現することによって、全体として高次元の遊技性を印象付けるものになっている。
c 以上のとおり、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面における円は、その形状、色、大きさ、配置ともに異なっており、唯一共通するのは、三重円の線が存在するという点のみである。
 この点、三重円を描くこと自体は、表現以前のアイデアの領域であり、そうでなくても、円を分割する場合に通常用いられる平凡かつありふれた表現であって、創作性はない。
 仮に、原告作品の円の形状に何らかの創作性があったとしても、上記のとおり円の形状、色、大きさなどが相違することから、被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面を表現する固有の本質的特徴を看取することはできない。
d また、画面全体を素早くかつ不規則に動き回る対象物が、画面上に設けられた一定の枠(以下「的」という。)内にあるときに決定キーを押すことを「成功」とし、一定回数成功した場合等に当該ステージをクリアとすることは、ゲームのルールにほかならず、携帯電話のボタン一つをクリックすることでクリアするゲームでは、一般的なものである。このようなゲームのルールを採用した場合、的の形として想定されるのは円形が通常であり、画面が小さい携帯電話機の場合は更に表現の選択の幅は限られている。
 したがって、携帯電話機用ゲームにおいて的の形を円で表現すること自体は、著作権法の保護の対象となるものではない。
 さらに、的の形を同心円等の円で表現することは、射撃、アーチェリー、スポーツ吹き矢など実際のスポーツや、的当てゲーム、複数の釣りゲーム等でも採用されており(乙6)、極めてありふれたものであるから、創作性を欠いている。
(ウ) 魚の姿を黒色の魚影とし、魚の口から影像上部に伸びる黒い直線の糸の影を描いていることについて
 不特定の魚種の中からできるだけ多くの魚種を釣り上げることをゲームの目的とする釣りゲームにおいて、釣り上げに成功するまで掛かった魚の種類を明らかにせず、魚影で表現するということ自体は、アイデアの領域である。そして、掛かった魚を魚影で表現するというアイデアを採用した場合、魚影の色の選択肢は限られており、これを黒で表現すること自体は、著作権法の保護の対象外である。
 しかも、「影」は通常黒色であるから、掛かった魚を黒色の影で表すことは極めてありふれた選択であり、黒色の魚影で表現する以上、釣り糸も黒色の影で表現しなければ不自然である。したがって、掛かった魚を黒色の魚影で表すこと及び釣り糸を黒で表現することに創作性は認められない。
 また、原告作品では、側面からみた魚を表現し、あたかも画面の外にある程度固定された支点が存在するかのように、糸と魚が振子のような動きをしているのに対し、被告作品では、魚を正面から描き、遠方から手前に引き寄せられている様子を表現し、魚の動きにかかわらず、魚から伸びる糸が常に画面左上に伸びている。
 さらに、原告作品の魚影は、円盤状の胴体と三角形の尾びれの組み合わせにより側面から見た魚影を描いており、それ自体極めてありふれた形状であるのに対し、被告作品における魚影は、正面から描き、尾びれ、背びれ、胸びれを描写するとともに、尾びれを左右に動かすことによって、遠方から手前に引き寄せられている様子を表現している。
 このように、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面は、魚の具体的な表現において異なっており、被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面を表現する固有の本質的特徴を看取することはできない。
(エ) 水中の背景が全体的に薄暗い青系統の色で彩色され、画面下部にある水底の左右両端付近に岩陰があり、水草や他の生物等が描かれていないこと、同心円や背景画像が静止していて、釣り針に掛かった魚影のみが、他の釣りゲームに比べて頻繁に動く向きを変えながら水中を動き回ることについて
 水中を青で描くことや、水底に岩陰を描くこと、水草や他の生物等が描かれていないこと、同心円や背景画像が静止していて、釣り針に掛かった魚影のみが他の釣りゲームに比べて頻繁に動く向きを変えながら水中を動き回ることは、表現以前のアイデアの領域であり、そうでなくとも平凡かつありふれた表現であって、創作的表現とはいえない。
 また、原告作品の岩陰は、水中画面の左右端及び下端に接するように描かれ、画面の相当程度の面積を占め、魚よりも岩場が近い位置にあるように描かれているのに対し、被告作品の岩陰は、水中画面の右端及び下端には接しないように描かれており、画面に占める面積も小さく、魚は岩よりも手前の位置にいるように描かれている。
 さらに、原告作品は、側面からみた魚影が左右上下に方向を変えて動き回るといった魚の暴れ方を表現しているのに対し、被告作品は、魚影は終始正面を向いており、徐々に釣り人の方向に引き寄せられている様子を表現している。
【原告作品】(画像省略)
【被告作品】(画像省略)
 このように、魚の引き寄せ画面につき、原告作品と被告作品とは、岩陰や魚の動きの具体的な表現において異なっており、被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面を表現する固有の本質的特徴を看取することはできない。
(オ) 釣り糸を巻くタイミングについて
 静止した同心円と動き回る魚影の位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現することは、単なるゲームのルールであり、著作権の保護の対象となるものではない。
 また、原告作品では、中央の円に魚影がある際に決定キーを押した場合には「PERFECT」、中央の円とドーナツ形状との間に魚影がある際に押した場合には「GREAT」、ドーナツ形状内に魚影がある際に押した場合には「GOOD」、それ以外の場合には「BAD」とそれぞれ当該魚影の近くに表示され、外から中央に行くほど魚を引き寄せやすいという段階的なルールとしている。そして、背景の画面は終始変化しない。
 他方、被告作品は、11分割されたパネルのうち緑色で配色された部分に魚影がある際に決定キーを押した場合には画面上方に「Good」と表示され、パネルのうち赤色で配色された部分及び当該パネル以外の部分に魚影がある際に決定キーを押した場合には画面上部に「Out」と表示される。さらに、被告作品では、円の中心部分に魚影がある際に決定キーを押すと、円の中心部分の表示に応じて、「必殺金縛り」、「確変」、「一本釣りモード」などの表示がアニメーションとして表示され、その後の表示も異なる。
 このように、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の「釣り糸を巻くタイミング」に関する具体的表現は全く異なっており、被告作品に接する者が原告作品を表現する固有の本質的特徴を看取することはできない。
イ 原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面は、いずれも、携帯電話機向けゲームの一画面、特に、キャスティングから魚を釣るまでの一連の流れの一画面として存在する。
 この一連の流れについて原告作品と被告作品とを比較すると、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)記載のとおり、キャスティング画面におけるイラスト、キャストをする場所を示す矢印等、釣り竿が表示されるタイミング、キャストをしてから魚が餌等に食い付くまでの映像、魚が餌等に食い付いてから魚の引き寄せを行うまでに表示される映像、魚影の現れ方、魚の引き寄せ画面におけるゲージやゲージ上の魚等の表現、魚が釣れた際及び逃げられた際の表示について、多数の相違点が存在する。
 したがって、これらの一連のゲーム映像の中で魚の引き寄せ画面を見た時に、被告作品に接する者が原告作品を表現する固有の本質的特徴を看取することはできない。
[被告らの主張に対する原告の反論]
 被告らの主張する原告作品と被告作品との相違点は、被告作品から原告作品の表現上の特徴を直接感得することの妨げになっていない。その理由は、次のとおりである。
ア カットイン機能について
 被告作品における一本釣り・確変・必殺金縛りなどのカットインの場面は、魚を引き寄せるタイミングを演出する、水中の三重の同心円や魚影をそのままにしたトッピングである。このような場面を追加することは、ゲームの基本仕様がしっかりとしたものであれば、通常のゲーム製作者において、比較的容易なことである。水中のみを水平方向の視点で描くこと、黒い魚影、岩陰等の背景など、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面において共通する表現は、そのままである。
イ 同心円に乗せた赤色部分、中央の円の回転、放射線について
 被告作品では、三重の円を直線で分割して一部を赤く塗ったり、画面中央の最も小さな円が回転したりするが、これらは、ゲームの作り手であればたやすく思いつく、ささいな違いである。放射線も、上記赤色部分を作るためだけにあるものであって、三重の同心円の土台に乗せた放射線は、被告作品のゲームデザイン全体には影響を与えていない。
ウ 魚影と釣り糸の描き方の差違について
 原告作品と被告作品とで、魚影及び釣り糸の描き方について、わずかな違いは存在する。しかしながら、魚影を黒くし、遠くのものをかすんでみせる技法で背景の水底や岩を薄い色とすることによって奥行きを感じさせる点において、原告作品と被告作品とは共通する。
(2) 争点1−2(被告作品における主要画面の変遷は、原告作品における主要画面の変遷に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
[原告の主張]
ア 携帯電話機用ゲームを含むコンピュータ・ゲームが複数の画面の連続により構成される場合、画面と画面とをどのように遷移させるか(画面の選択と配列)によって、ゲームを行う際の見た目、ゲームの手順やストーリー等が大きく変わってくるものであり、画面の選択と配列は、ゲームの表現上の特徴を構成する重要な要素である。また、各画面につき、どのような情報を含む素材を選択し、どう配列するかということ(画面の素材の選択及び配列)も、それによって各画面の表現内容が変わってくることから、ゲームの表現上の特徴を構成する重要な要素である。これらは、いずれも、多くの選択肢がある中で作者が工夫を凝らすところであって、その創作性が発揮される。
 ゲームを構成する画面の中でも、特に、ユーザーがゲームを行う際に必ずたどる画面である主要画面は、ユーザーが必ず目にする表現であり、ゲームの作者は、ゲームで表現しようとするテーマや主たる内容を主要画面で表現しようとする。そのため、主要画面の選択と配列及び主要画面の素材の選択と配列には、ゲームの表現上の本質的特徴が表れる。
イ 被告作品の主要画面の構成は、次のとおり、原告作品の主要画面の構成に酷似する。
(ア) 主要画面の選択と配列の類似性
 原告作品や被告作品のようにウェブページを用いる携帯電話機用ゲームでは、各画面間の遷移は、各画面に配置されているハイパーリンクが貼られた素材(以下「ハイパーリンク」という。)をユーザーが選択し、携帯電話機の決定キーを押すことなどによって行われる。
 原告作品及び被告作品の、それぞれの主要画面の選択と配列は、別紙比較対照表2−1及び2−2のとおりであり、いずれも、「トップ画面」、「釣り場選択画面」、「キャスティング画面」、「魚の引き寄せ画面」、「釣果画面(釣り上げ成功時又は失敗時)」を主要画面として選択・配置している。
 原告作品及び被告作品の主要画面の選択と配列は、以下の2点を除き、各主要画面間の遷移を含めて共通する。
@ 原告作品は、トップ画面の次に、海釣り又は川釣りを選択する釣り場選択画面に遷移し、海釣りか川釣りかを選択した上で、釣り場を選択する釣り場選択画面へと遷移する。これに対し、被告作品は、トップ画面の次に、釣り場選択画面、決定キーを押す画面へと遷移する。
A 被告作品は、釣果画面からキャスティング画面に遷移する前に、決定キーを押す画面を遷移する。
 主要画面の選択と配列の共通点については、原告作品のようにする必然性はなく、例えば、トップ画面に続いてユーザーが使う釣り具を選択させる画面を挿入したり、ユーザーにトップ画面で釣り場を選択させ、釣り場選択画面を用いないなどの選択もあり得るが、原告は、あえて原告作品のような主要画面の選択と配列を選択し、遷移を個性的に表現したものである。
 なお、上記相違点@は、原告作品では川釣りと海釣りとを選択することができるところを、被告作品では単に省略したために生じたものである。また、決定キーを押す画面は、決定キーを押すと餌などが消費されることなどが説明されるだけで、ゲームの内容自体に影響を及ぼす画面ではなく、被告作品を特徴付けるものでもない。相違点Aも、決定キーを押す画面が挿入されていることから生じる差異であり、ささいなものである。
(イ) 素材の選択及び配列の類似性
 被告作品における主要画面の素材の選択及び配列は、次のとおり、原告作品に極めて類似する。
a トップ画面について
 原告作品と被告作品のトップ画面は、別紙トップ画面の比較検討報告書のとおり、共通点を有する。他の釣りゲームには、上記共通点をすべて備えるものはない。上記共通点のうち特徴的な部分は、次のとおりである。
(a) トップ画面のイラスト
【原告作品】【被告作品】(画像省略)
 原告作品と被告作品の「トップ画面」のイラストは、上図のとおり、いずれも遠方の海側からの視点で湾の形をした釣り場全体を描いている点、画面下部に海を描き、画面上部に山と晴れた空、雲、緑を描き、画面中央から放射状に線を引けるように、色調に違いを出している点で共通する。
(b) タイトルロゴとイラスト
 原告作品と被告作品は、いずれも、トップ画面にタイトルロゴとイラストの両方が別々に置かれている。
(c) 日誌画面・攻略法画面へのリンク
 原告作品と被告作品は、いずれも、トップ画面に日誌画面と攻略法画面へのリンクが隣接してひとまとまりで置かれている。
(d) 釣具画面・ショップ画面へのリンク
 原告作品と被告作品は、いずれも、トップ画面に釣具画面とショップ画面へのリンクが隣接してひとまとまりで置かれている。
(e) イベント等告知画面・特定のユーザーの紹介画面へのリンク
 原告作品と被告作品は、いずれも、トップ画面にイベント等告知画面へのリンクや特定のユーザーの紹介画面へのリンクを配置している。
(f) トップ画面の特徴
 原告作品と被告作品のトップ画面は、いずれも、白に近い無地の背景の上に、明るい色彩のイラストが多く描かれ、全体として明るい印象を与える点で共通する。
b 釣り場選択画面について
 原告作品と被告作品の釣り場選択画面は、別紙釣り場選択画面の比較検討報告書のとおり、共通点を有する。他の釣りゲームには、上記共通点をすべて備えるものはない。上記共通点のうち特徴的な部分は、次のとおりである。
(a) 釣り場のイラスト
【原告作品】【被告作品】(画像省略)
 原告作品と被告作品の釣り場選択画面のイラストは、いずれも、海の側から釣り場のある湾を上空からの視点で描き、画面下部に海、画面上部には緑のある山を描き、砂浜は白砂で、海面に白波を立たせ、灯台を置いているなどの点、画面左側の中央部と画面を4等分にした場合の右上部に赤色を用いてアクセントを置いている点で共通する。
(b) 釣り場全体のイラストに含まれる要素
 原告作品と被告作品の釣り場選択画面にある釣り場全体のイラスト内には、釣り場の名前が合計4つ配置されている。また、原告作品と被告作品では、ショップ画面などの非主要画面へのリンクはイラスト中に配置されていない。
(c) 釣り場のキャスティング画面へのリンクと名称表示
 原告作品と被告作品は、いずれも、釣り場全体のイラストのそばに、ユーザーが行ける各釣り場の名称に貼られた各釣り場のキャスティング画面へのリンクと、ユーザーが行けない釣り場の名称が、並べて配置されている。
(d) 釣り場情報
 原告作品と被告作品は、いずれも、画面上部にある釣り場全体のイラストと各釣り場の「キャスティング画面」へのリンクとは別に、「釣り場情報」として、各釣り場のイラスト・名称や、「キャスティング画面」へのリンク、その釣り場で大きい魚を釣ったユーザーのランキングを示す画面へのリンク、攻略・雑談掲示板の画面へのリンクなどがまとめて配置されている。ユーザーが行けない釣り場には、「今の称号ではまだ行けません」(原告作品)、「現在の階級では行けません」(被告作品)という、同趣旨の文章が表示される。
(e) 釣具画面・ショップ画面へのリンク
 原告作品と被告作品は、いずれも、釣具画面・ショップ画面へのリンクが、この順に隣接して配置されている。
(f) 釣り場の攻略掲示板と雑談掲示板
 原告作品と被告作品は、いずれも、攻略情報をユーザー間で交換する「攻略掲示板」と、雑談をユーザー間で行う「雑談掲示板」へのリンクが配置されている。
(g) 原告作品と被告作品は、いずれも、トップ画面のイラストに配置されていた、白波のある海面、陸、緑のある山、港、埠頭、桟橋、灯台、建物、白砂の砂浜などが、トップ画面から釣り場選択画面へ場面転換をした後の釣り場選択画面のイラストにも、同様に配置されている。このように場面転換の前後の景色に連続性があることにより、海を渡ってきたユーザーが釣り場を選びにきた印象を与えている点において、原告作品と被告作品は共通する。
c キャスティング画面について
(a) 原告作品と被告作品のキャスティング画面は、別紙キャスティング画面の比較検討報告書のとおり、@釣り人の姿は表現されない、A(原告作品では海の釣り場の場合、)釣り人の立つ側からやや斜めの目線で、画面の上段に空、中段に水面、下段に釣り人の立っている場所が表現されている、Bキャストする目標を指し示すマークが決まった動きをし、ユーザーが決定キーを押すと、釣り竿を振る動きがアニメーションで表現されるとともに、その箇所に釣り針がキャストされる、C(原告作品では川の釣り場の場合、)水面に小さな魚影がランダムで現れ、釣り針がキャストされると画面右上に浮きが表示され、魚が釣り針に食い付くと浮きが沈み、魚が釣り針に掛かると魚が釣り針に掛かった旨の文言が画面中央に大きく表示される点で、共通する。他の釣りゲームで上記共通点をすべて備えるものはない。
(b) 原告作品(海の釣り場を選択した場合)と被告作品とは、釣り場選択画面では釣り場をうかがわせる程度の遠景で入り江を描写していたものを、キャスティング画面では釣り場にいる視点に変え、陸地に入った釣り人が釣り場に立ち、獲物が泳いでいるであろう海を釣り人の目線から眺める場面に転換させていて、釣り人が釣り場へたどり着いた印象を与える。
 また、原告作品と被告作品は、いずれも、キャスティング画面に釣り場選択画面と同一のアイテムを配置して、場面転換の前後の画面が連続している印象を与える。
d 魚の引き寄せ画面について
(a) 原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通点については、前記(1)[原告の主張]のとおりである。
(b) 原告作品のキャスティング画面では、釣り人が釣り場で実際に釣り針を水中に投げ入れるのと同じような目線から描写されているのに対し、キャスティング画面から魚の引き寄せ画面に切り換わると、ユーザーの視点は、水中で頻繁に向きを変えて動き回る魚影を目前で見られる距離にまで接近し、画面中央に配置された同心円を舞台にして、影で描かれているために釣り上げるまで正体の分からない魚を釣り上げる戦いを体感する。このような場面転換は、被告作品でも同じである。
e 釣果画面(釣り上げ成功時)について
 原告作品と被告作品の釣果画面(釣り上げ成功時)は、別紙釣果画面(釣り上げ成功時)の比較検討報告書のとおり、共通点を有する。上記共通点のうち特徴的な部分は、次のとおりである。
(a) 釣り上げに成功した魚情報の要素
【原告作品】【被告作品】(画像省略)
 原告作品と被告作品は、画面最上部に、釣り上げた魚の情報及びユーザーの釣果記録として、釣り上げた魚のイラスト影像、名前、大きさ、評価を示す「☆」印、ユーザーが当該魚を釣ることによって獲得したポイント、ユーザーが今日獲得したポイント、ユーザーが今日獲得したポイントの順位兼ユーザーが今日獲得したポイントのランキングへのハイパーリンク、ユーザーが獲得したポイントの総数及びユーザーが獲得したポイントの総数の順位兼ユーザーが獲得したポイントの総数のランキングへのハイパーリンクの組合せが釣果画面に配置されている点で共通する。
 釣りゲームの釣果画面では、釣った魚の名前、釣った魚の長さ、釣った魚の重さを表示するなどの選択肢がある。原告作品の釣果画面では、釣った魚の名前とcm単位で示した釣った魚の長さやポイントを表示するが、重さは表示していない。被告作品は、あえて原告作品の釣果画面と同様、長さをcmで表示し、重さは表示せず、ポイントを表示しており、原告作品の表示と共通する。他の釣りゲームには、上記事項のすべてが表示されるものはない。
(b) 釣り上げに成功した魚情報の表示方法
 原告作品と被告作品は、いずれも、背景にイラストを置かず、画面の上部の背景を無地又は淡い地として、その中央に釣った魚のイラストを表示し、魚を引き立てるようにしている。
(c) 釣具画面・ショップ画面へのリンク
 原告作品と被告作品の釣果画面には、いずれも、釣具画面とショップ画面へのリンクが配置されている。
f 釣果画面(釣り上げ失敗時)について
(a) 原告作品と被告作品の釣果画面(釣り上げ失敗時)は、別紙釣果画面(釣り上げ失敗時)の比較検討報告書のとおり、@ 表題、「?」印を中央部に付した魚影の影像、釣り上げに失敗した魚の種類とおおよその大きさの表示が選択、配置されている点と、A ユーザーが直前まで釣りをしていた釣り場のキャスティング画面、釣り場選択画面、釣具、ショップ及び攻略法の画面へのハイパーリンクの組合せが選択、配置されている点以外は、釣果画面(釣り上げ成功時)と同様であり、極めて類似する。
【原告作品】【被告作品】(画像省略)
(b) 釣り上げられなかった魚の情報を表示する方法としては、具体的な長さを示さず「大きな□□」とだけ表示したり、「約○○グラムの□□」と表示すること、逃がした魚の名前だけを表示して大きさを表示しないことなど、多数の選択肢があるにもかかわらず、被告作品は、あえて原告作品と同じ「○cmぐらいの□□」と表示している。
g 上記のとおり、原告作品と被告作品は、主要画面に釣り人が現れないため、ユーザーが画面上に釣り人を見る三人称ではなく、ユーザー自身が釣りをしている印象を与える一人称のゲームの構成がとられている。
 また、主要画面でとられる縮尺は、「トップ画面」における湾の外、海側から陸を見る景色から出発し、「釣り場選択画面」を経て、釣り場にたどり着いて釣り針を投げ込む「キャスティング画面」において釣り人の目線まで近づいた後、ユーザーが水中の中央にある同心円を真横から見る視点で間近に魚影の動きを見る「魚の引き寄せ画面」に場面が転換する。そして、魚の釣り上げに成功又は失敗すると、釣り場や水中と切り離された無地又は淡いシンプルな下地を背景に魚が寝かされる「釣果画面」に切り換わる。
 こうして展開する主要画面のイラストは、同じ釣り場を描いたものであっても、ユーザーの視点などにそれぞれ大きな相違があるだけでなく、トップ画面、釣り場選択画面、キャスティング画面には、ユーザーが接近していく連続性がある。それが、魚の引き寄せ画面になると同心円のある水中場面に切り換わり、最後はそれまであった景色等と無関係な釣果画面が表示される。
 このように、遷移のたびに描かれた場面に大きな転換が起きるところに原告作品の表現上の特徴があり、このような遷移の流れにおいても、被告作品は原告作品と共通する。
(ウ) 原告作品と被告作品は、ゲームをプレイする際に通過することが必須ではない非主要画面においてすらも、次のとおり、極めて高い類似性がある。
a 魚図鑑画面
 原告作品と被告作品の魚図鑑画面には、いずれも、@ 一画面あたり合計8匹、原則として縦4行、横2列で魚影か魚のイラストがある、A ユーザーが釣り上げたことのない魚に、「?」印を中央に付した魚影と、魚影の下の魚の名称を表示すべき箇所に4つの「?」印が表示され、さらにその下に「☆」印が1個又は複数表示される、B ユーザーが釣り上げたことのある魚には、魚のイラストと、イラストの下に魚の名称が表示され、その名称の下に「☆」印が1個又は複数表示される、などの点が共通する。
b 日誌画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、ユーザー名、ユーザーのアバター、ユーザーが獲得したポイント、ユーザーの順位、段位、釣り上げた魚の種類数・総数等の、ユーザーに関する情報を表示する画面が存在する。
c 攻略法画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、短髪の女性キャラクターが特定の魚の釣り上げ方法等を説明する画面(攻略法画面)があり、同画面の下部には、各釣り場の攻略掲示板や雑談掲示板へのリンクが配置されている。
d 釣具画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、ユーザーが現在装備している釣具を表示する画面がある。釣具画面には、ユーザーが現在装備する釣具を手持ちの他の釣具に変更する画面へのリンクや、所持していない釣具を購入するためのショップに遷移できるリンクが配置されている。
e ショップ画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、釣具を購入する画面がある。
f チーム戦説明画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、チーム戦を説明する画面がある。
g 今日の獲得ポイント数ランキング1位のユーザーの日誌画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、今日の獲得ポイント数が1位のユーザーの情報が表示される画面がある。今日の獲得ポイント数ランキング1位のユーザーの日誌画面には、ユーザー名、ユーザーのアバター、当該ユーザーが獲得したポイント、ユーザーの順位、段位、釣り上げた魚の種類数・総数等が配置されている。
h 今日の獲得ポイント数ランキングの画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、今日の獲得ポイント数の上位者が表示されている画面があり、今日の獲得ポイント数が上位者のユーザー名、アバター、段位、獲得ポイント等が配置されている。
i ヘルプ画面
 原告作品と被告作品は、いずれも、釣りを行う際の操作方法を説明する画面がある。
j 釣り場別ランキング画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、大きい魚を釣り上げたユーザーが表示されている画面がある。釣り場別ランキング画面には、上位者のユーザー名、アバター、段位、釣り上げた魚の種類とその大きさが表示される。
k 攻略掲示板
 原告作品と被告作品には、いずれも、各釣り場について、ユーザー同士で攻略法について情報交換を行う掲示板があり、短髪の女性キャラクターによる説明に続いて、ユーザーの投稿が掲げられている。
l 雑談掲示板
 原告作品と被告作品には、いずれも、各釣り場について、ユーザー同士で攻略法以外の情報交換を行う掲示板があり、短髪の女性キャラクターによる説明に続き、ユーザーの投稿が掲げられている。
m 魚拓画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、釣り上げた魚の魚拓をとる画面がある。
n 魚別ランキング画面
 原告作品と被告作品には、いずれも、ある種類の魚について、大きい魚を釣り上げたユーザーが表示されている画面があり、上位者のユーザー名、アバター、段位、釣り上げた魚の大きさ等が表示される。
(エ) 以上のとおり、原告作品と被告作品とは、主要画面の遷移に共通性と創作性があり、主要画面に選択・配列された要素の共通部分にも創作性がある上、非主要画面にも共通性がある。このように、原告作品の著作物は、全体にわたって被告作品の中に再現されており、原告作品の表現上の本質的特徴が直接感得されることから、被告らは原告作品に係る原告の翻案権を侵害している。
ウ 被告作品は、上記のとおり原告作品の翻案物であり、原告作品の二次的著作物に該当するから、原告は被告作品につき公衆送信権を専有する。被告らは、被告作品を送信可能化し、被告作品の自動公衆送信を行っており、原告の公衆送信権を侵害している。
エ 被告らは、上記アの改変行為により、原告が原告作品に関して有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。
[被告らの主張]
ア 画面の選択と配列について
(ア) 原告は、「ユーザーがゲームを行う際に必ずたどる画面」を「主要画面」と定義し、被告作品は、この選択及び配列の翻案権を侵害していると主張する。
 しかしながら、原告が主要画面として挙げる画面は、ユーザーがゲームを行う際に必ずたどる画面ではなく、主要画面のうち原告が選択した一部の画面にすぎない。例えば、原告作品における海釣りは、疑似餌を用いたルアー釣りであることが最大の特徴であり、必ず、ルアーを動かして魚を誘う水中画面をたどるものであるから、同画面も主要画面であるにもかかわらず、原告は、同場面を主要場面に挙げていない。他方、被告作品はえさ釣りであり、えさを投入して魚のアタリをじっと待つ画面は、被告作品における主要画面である。
 原告の主張は、原告作品の主要画面の一部を捨象して、抽象的に原告作品と被告作品の一部の画面を比較したものであり、失当である。
(イ) 仮に、原告の主要画面の定義に則り原告作品と被告作品とを比較するとしても、トップ画面から、釣り場を選択し、キャスティングをして魚を引き寄せ、魚が釣れたか否かを判断し、その釣り場でそのまま釣るか、又は別の釣り場を選択するのか、という画面遷移は、複数の釣り場において釣りを行う行動パターンとして極めて自然な流れであり、平凡かつありふれたものである。
 したがって、このような画面遷移に創作性はない。
(ウ) 原告作品には「釣りショップ」というウェブページが、被告作品には「釣具屋フィッシュマン」というウェブページが、それぞれ用意されており、これによって、釣り具を購入することができる。そして、釣り人の常識からすれば、既に購入済みの釣り具を利用しようと思っていれば、釣りに行く前にあえて釣り具を購入する必要はなく、釣りゲームにおいても、釣り具を購入する画面を必ず経由して釣具を購入する必要はない。
 また、原告作品には「釣具えらび」というウェブページが、被告作品には「釣具箱」というウェブページが、それぞれ用意されており、これによって、釣りをする前に、原告作品ではサオ・リール・ルアーをそれぞれ選択し、被告作品では釣り竿・しかけ・えさをそれぞれ選択して釣りをすることができる。そして釣り人の常識からすれば、既に装備している釣り具があるのに、魚を釣る前にあえて釣り具を再度装備する必要はない。釣りゲームにおいても、釣り具を装備する画面を必ず経由して釣りをする必要はない。
 さらに、原告作品では「ナミの一言アドバイス」「魚の釣り方」というウェブページが、被告作品では「ミカのオススメ情報」「魚の釣り方」というウェブページがそれぞれ用意されており、原告作品では各釣り場の情報を収集することができ、被告作品では被告作品全般に関わる情報の収集が可能である。釣り人の常識からすれば、既に十分に釣り場の情報を得ている場合や、情報は不要と考える場合には、魚を釣る前にあえて情報を収集する必要はない。釣りゲームにおいても、釣りに関する情報を収集する画面を必ず経由して釣りをする必要はない。
 他方、船に乗る、釣った魚を保管する、釣った魚を自慢するなどの釣り人の行動は原告作品には存在しないのに対し、被告作品では、船釣りのウェブページ、釣った魚を水槽で保管するウェブページ、「日記に書く」というウェブページが用意されている。
(エ) 原告作品と被告作品の画面遷移には、次のとおり相違点が存在する。
a トップ画面から釣り場選択画面への遷移
 原告作品のトップ画面から釣り場選択画面への遷移は、トップ画面から、川で釣るか海で釣るかを選択する釣り場選択画面へと遷移し、更にそこから、川の釣り場選択画面又は海の釣り場選択画面へと遷移する。このような遷移は、被告作品には存在しない。
b 釣り場選択画面からキャスティング画面への遷移
 原告作品における釣り場選択画面からキャスティング画面への遷移は、海釣りの場合と川釣りの場合に分岐するのに対し、被告作品には、このような分岐はない。また、被告作品では、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)2項(1)@のとおり、釣り場の選択画面において特定の釣り場を選択すると、画面下に椰子の木が生えた島と波が表現されるとともに、「釣りゲータウン2」のロゴ、「準備ができました決定キーを押してください」「[0キー]竿バイブOFF」「スタートすると竿・餌・仕掛けが消費されます」の表示がされる。
c キャスティング画面から魚の引き寄せ画面への遷移
 原告作品の海の釣り場では、キャストがされた後、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)1項(1)B及びCのとおり、釣り人から見て側面から水中を水平に見る画像に切り替わり、ユーザーが決定キーを押すたびに、装備されたルアーが動き、魚をおびき寄せて魚をルアーに食い付かせる。魚がルアーに食い付くと、オレンジと黄色で配色された「HIT!」の文字が画面中央から現れ、魚の引き寄せ画面となる。また、原告作品の川の釣り場では、上記報告書1項(2)@ないしBのとおり、ユーザーから見て上方から川を眺める画像が表示され、キャストがされると、画面が切り替わることなく、縦長の枠内に縦長の浮きが表示され、浮きが下に動いた際にユーザーが決定キーを押すと、オレンジと黄色で配色された「HIT!」の文字が表示され、魚の引き寄せ画面となる。
 これに対し、被告作品では、上記のような画面遷移が行われず、全く異なる印象が生じる(前記(1)[被告らの主張]参照)。
d 魚の引き寄せ画面から釣果画面への遷移
 原告作品では、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)1項(3)Cのとおり、魚が釣れると、画面下から現れた「GET!」の文字が画面中央において拡大して表示され、魚を逃がすと、画面中央に「Miss.. 逃げられた・・・」と表示され、釣果画面に遷移する。他方、被告作品では、同報告書2項(2)Cのとおり、魚が釣れると、「釣れた!」の文字が画面上部から中央に向かって動いて表示され、魚を逃がすと、画面中央に「逃がした!」「決定キーを押してください」と表示され釣果画面に遷移する。
イ 画面の素材の選択と配列について
(ア) ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームの画面構成における様々な制約
a ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームでは、ディスプレイ上に表れる表示画面は常に一定ではなく、利用者が各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる表示画面(ウェブページ)に遷移し、これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっている。したがって、ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームの画面構成は、純粋なゲーム画面(本件ではキャスティング画面及び魚の引き寄せ画面)を除くと、情報告知画面とハイパーリンクの組合せによって構成される。
 そして、携帯電話機の場合には、ディスプレイが小さいため、利用者が一度に認識することができる情報量に制約があり、また、多くの情報を掲載する場合、画面を下方にスクロールしてその情報を見る必要がある。そこで、利用者の便宜のために、利用者が見たい情報、よく利用するページのリンクは、なるべくウェブページの上方にまとまりよく配置する必要があるとともに、文字情報については、長文や小さな文字を避けることが必要となる。また、ウェブページの閲覧においては、基本的に携帯電話機の上下キーと決定キーのみで操作する必要があるため、各リンクは、リンク先の重要度に応じてウェブページの上から順番に配置されるのが一般的である。
 さらに、携帯電話機用ウェブサイトでは、ウェブページを遷移するごとにパケット代が増加する仕組みとなっており、通信速度の問題も考慮しなければならないため、利用者が最短の順路で目的のウェブページにたどり着くことが必要である。携帯電話機向けウェブページのユーザーの多くは、はっきりした目的を持ってサイトにアクセスをする、休み時間や移動時間などわずかな時間を使ってアクセスをするという特徴を持っている。
 そこで、一般に、携帯電話機用のウェブサイトの表示画面は、利用者によるリンクの発見や閲覧の容易性、操作等の利便性の観点から、次のような方針で設計せざるを得ない。
(a) コンテンツ(各画面)のインデックス(索引)になるように、かつ、ユーザーが求めるコンテンツを上から順に並べる
 携帯電話機向けウェブページ、特にトップページに関しては、雑誌の目次のようなイメージで、コンテンツ全体のインデックスになるような作りにすることが要求される。また、携帯電話機向けウェブページは、スペースに限りのある小さな画面に表示するものである上、縦にスクロールして読ませていく構造であるため、レイアウトの基本原則は、ユーザーが重要だと思う情報をページの上から並べることにある。
(b) レイアウトのバリエーションが少ない
 携帯電話機向けウェブページは、携帯電話機のディスプレイという決められた幅の中で、縦にスクロールして読ませていく特徴があるため、パソコン向けウェブページと異なり、1つの画面を縦に分割するという考え方はなく、レイアウトのバリエーションは多くない。この部分のレイアウトパターンは、「並列型」(見出しの後にコンテンツ名などのテキストを並列で並べて配置する)、「階層型」(特集など幾つかのコンテンツをまとめる見出しの下に、各コンテンツ名を並べて配置する)、「回り込み型」(コンテンツを端的に表す画像を配置し、コンテンツを画像の左右等に回りこませる)の3つが典型的なデザインとなっており、それぞれ見出しのもとに共通の複数のコンテンツをまとめて配列する。
(c) ユーザーの動線を考え、目的のページに達するまでの画面遷移はなるべく少なくする
 携帯電話機向けウェブページの制作に当たっては、ユーザーの動きの道筋(動線)を考え、動線が明確で迷いにくいサイトを作る必要がある。動線を考えるには、ウェブページを訪れるユーザーの主な目的を挙げて考えることとなる。
 また、携帯電話機向けウェブページを訪れたユーザーがメインの目的を達するまでに必要なクリック数は、なるべく少なくし、3回程度に抑える必要がある。
(d) どのページからも目的のページに達することができるようにする携帯電話機向けウェブページのユーザーは、トップページを経由せずに各ページを訪れるケースが少なくない。そのため、ユーザーを迷わせないよう、フッター部分に各ページに移動するためのリンクを用意することは、携帯電話機向けウェブページ登場以来行われた基本である。また、トップページ以外のページを訪れるユーザーは、具体的な目的を持っており、少しでも早くその情報を手に入れたいと考えているため、いちいちトップページや上位ページに戻って別の情報を探さなければならないサイト構成だと、ユーザーに余計な手間とストレスを与えてしまう。
b ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームの場合、他のゲーム利用者と交流を求めてゲームを利用する者も多く、タイムリーな情報を共有したいとの要請も強い。したがって、提供する情報には、このような観点からの制約も存在する。
c 釣りゲームの場合、現実の釣りと同様、釣り場の選択、釣具の選択、釣った魚の内容等の表示は絶対に必要であり、ユーザーが知りたい情報や興味を抱くオプションも、基本的に大差はない。また、各画面で設定された状況(釣りに行く前、魚を釣り上げた後等)によって、ハイパーリンクの組合せが自然に決まってくるという側面もある。
 このように、釣りゲームという性質から来る制約も存在する。
d 以上のとおり、ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用釣りゲームについては、多様な制約が存在する。そのため、ゲームの作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は、極めて限定的なものとならざるを得ない。
(イ) トップ画面について
a トップ画面のイラストについて
 原告が共通点であると主張する点は、いずれも、アイデアである上、ありふれたものである。他の釣りゲームでも、海側(湖側)から陸を描いているものは多数存在する。
 また、原告作品のトップ画面のイラストは、単に、上空からの釣り場付近のイラストという印象以上のものは感じ取れないのに対し、被告作品のイラストは、「すずなみ島へようこそ」という文言のほか、島に向かう2隻のボート、きらきらと光る海面、鮮やかな緑色の山々、中央に架かる虹、飛び交うカモメを表現して、温暖なリゾートアイランド「すずなみ島」という島に向かっている様子を描いており、その視点や印象は原告作品と全く異なる。
b タイトルロゴ及びイラストについて
 原告の主張する共通点は、単なるアイデア部分にすぎない。また、被告作品のタイトルは、別紙報告書(主要画面の相違点)のとおり、イラストとの連続性があるのに対し、原告作品のタイトルはイラストと完全に分断されている(以下、原告作品と被告作品の相違点について別紙報告書(主要画面の相違点)を参照することにつき、同じ。)。
c 日誌、攻略法、釣り具、ショップのリンクの配置について
 釣りゲームにおけるユーザーの主要な動線としては、@釣り具を装備して釣りをすること、A釣り具を購入して(釣り具を装備して)釣りをすること、B釣りの記録(釣り記録・魚図鑑)を見ること、C釣りに関する情報(釣り方、攻略法)を知ること、伝えること、がある。これらの動線は、現実の釣り人の基本的な行動パターンと同じであり、釣り人にとっての基本的かつ重要な関心事である。
 したがって、「日誌」「攻略法」「釣具」「ショップ」のリンクを、携帯電話機向けウェブページのトップ画面に、しかも比較的上部にまとめて配置することは、平凡かつありふれたものであり、この点に創作性はない。
 また、原告作品と被告作品とは、各リンクの具体的な文言、図柄、配置のすべてにおいて異なっており、リンク先の画面も全く異なる。
d イベント告知、チームの詳細を説明する画面、お問い合わせ、ゴールド入手方法等のリンクについて
 イベントの告知や、チーム、その他のリンクをトップ画面に配置することは、携帯電話機向けウェブサイトのトップページをサイトのインデックスになるように配置しているにすぎず、平凡かつありふれたものであって、創作性はない。また、実際の表示についても、例えばチームのリンクについてみると、左に画像を配置し、右に説明文を掲載しているのは、上記基本レイアウトである「回り込み型」を採用しているにすぎない。
 また、原告作品と被告作品とは、イベント告知の具体的な表示(文言・図柄)・内容やチームの具体的な表示(文言・図柄)・内容等において全く異なる。
e 特定のユーザーの紹介画面へのリンクについて
 ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームのうち、特定のゲームを経て動物等の対象物を収集し、総合ポイントや対象物ごとの大きさなどを競う、いわゆるコレクションゲームにおいて、トップ画面に高得点を獲得したユーザーの紹介画面へのリンクを配置することは、ユーザー心理を刺激してゲームへの興味関心を高めさせるための手段であり、極めてありふれている。また、原告作品と被告作品とは、実際の特定のユーザー紹介の表示については、全く異なる表現がされている。
f その他の相違点について
 原告作品は、「ロゴ画像・ヘッダーイメージ」→「メニュー」→「イベント情報」という極めてオーソドックスなトップページの構成であり、ファーストビューにおけるロゴ画像・ヘッダーイメージの割合を大きくしているのに対し、被告作品は、ロゴ画像・ヘッダーイメージを横長とし、その下方に釣り場選択画面へのリンクを設置し、その下にメニューではなくイベント情報を掲載している。特に、イベント情報については、原告作品と異なり、1つではなく3つ掲載し、ファーストビューの大半をイベント情報にしている。
 原告作品と被告作品のトップ画面は、その他にも、別紙報告書(主要画面の相違点)のとおり、多数の相違点が存在する。
(ウ) 釣り場選択画面について
a 釣り場のイラスト
 原告作品と被告作品の釣り場選択画面におけるイラストが全く異なるものであることは、一目瞭然であり、共通点を見いだすとすれば、釣り場の鳥瞰図・案内図であるということだけである。
 釣り場選択画面のイラストとして釣り場の鳥瞰図・案内図を掲載すること自体は、アイデアにほかならず、また、複数の釣り場の中から特定の釣り場を選択して釣りをする釣りゲームにおいて、釣り場の鳥瞰図・案内図を表示することは、他の釣りゲームにおいても多数存在する、ありふれたものである。
 原告は、海、山、白砂、白波、灯台の存在を類似点として掲げるが、これらの対象物を海岸のイラストに置くこと自体は、いずれもアイデアであり、かつありふれたものである。原告は、右上部に赤色を用いてアクセントを置いている点も共通すると主張するが、原告作品は横長のイラストの右端に赤色の鉄橋を置いているのに対し、被告作品は縦長のイラストの中央寄りに赤色の屋根の建物を表現しており、全く異なる。
 また、原告は、釣り場のイラスト内に釣り場の名前が4つ配置されていることを共通点として主張する。しかしながら、イラスト内に釣り場の名前を載せるか否かはアイデアである上、実際の釣り場の名称も全く異なる。原告作品は、一般的な海釣りの釣り場のうち、港や防波堤、砂浜、小磯周り、河口の各釣り場を、ひめみ港、すさの浦、つるぎ岬、かがみ橋という4つの釣り場で表現しているのに対し、被告作品は、海釣り施設、港や防波堤、砂浜、小磯周りに対応する釣り場を、はまな公園、あさしお堤防、みかづき浜、しまかぜの磯という釣り場に対応させて設置している。これらの釣り場は、いずれも、海釣りの釣り場として一般的に想定される釣り場であり、釣りの経験を積むにしたがって、海釣り施設→防波堤→砂浜→磯へと、より難易度の高い釣り場にチャレンジしていくことは釣り人の常識であり、この釣り人の常識を反映したのが被告作品である。
 さらに、原告作品のイラストは、横長のフレーム上部にほぼ並行に5つの山を並べるとともに、山の手前には雑木林、その手前に港を描き、左手に浜辺、左下に岬、右中央部に鉄橋を描いているのに対し、被告作品のイラストは、縦長のフレームの上部に岩山、岩山の左下に湖、中央左に釣り公園の施設、中央右に浜辺と建物と椰子の木、左下に磯を描くとともに、各釣り場につながる道を描くなど、表現として全く異なる。
b 釣り場のキャスティング画面へのリンクの組み合わせ
 原告作品は、複数の釣り場において釣りをするゲームであるから、ユーザーの主要な動線は、「釣り場を選んで釣りをすること」の繰り返しにあり、かつ、携帯電話機向けウェブページのレイアウトの基本原則は、ユーザーが重要だと思う情報をページの上から並べることにある。
 したがって、キャスティング画面へのリンクを上部に配置することは、単なるアイデアであり、かつありふれたものであって、創作性はない。
 また、ユーザーが行くことのできない釣り場の名称を掲載するか否かということも、単なるアイデアであり、ありふれたものである。
c 釣具えらび、釣具を買う、攻略を見る、魚の釣り方のリンクの配置釣りゲームにおけるユーザーの主要な動線は、前記b(c)のとおりである。また、釣り具は釣り場や魚の種類によって異なってくること、釣り場によって釣れる魚が異なることは、釣り人の常識であるほか、トップページ以外のページを訪れるユーザーは、具体的な目的を持っており、少しでも早くその情報を手に入れたいと考えている。
 そのため、トップ画面以外にも、釣り具を装備する、釣り具を購入する、釣りの記録を見る、釣り方を知る、釣りの攻略法を知る・伝えるという目的を達するためのリンクを備えておき、ユーザーに余計な手間とストレスを与えないようにすることは、平凡かつありふれた配置である。
d 釣り場情報
 原告は、原告作品と被告作品の釣り場選択画面のうち、釣り場情報として掲載している各釣り場のイラスト・名称、キャスティング画面へのリンク、ランキングを示す画面へのリンク、攻略・雑談掲示板の画面へのリンクがまとめて配置されている点、を共通点として挙げる。
 しかしながら、原告が共通点と主張するものは、実際のイラストや釣り場の名称が異なっているなど、共通しているのは単なる配置方針であって、アイデアが類似しているにすぎない。
 また、原告作品及び被告作品は、いずれもSNSに組み込まれたゲームであり、SNSのようなコミュニティサイトでは、インターネット黎明期から提供されている掲示板機能を提供することが一般的であり、特定のトピックごとに掲示板を備え、トピックに興味関心を持ったユーザーが自由にコメントを書いていくことが一般的に行われている(乙9)。したがって、釣り場ごとに掲示板を設けること自体は、極めてありふれた発想である。さらに、攻略掲示板や雑談掲示板を設けること自体は、ゲームの攻略サイトや携帯電話機向けのウェブページ閲覧機能を用いるゲームでは一般的に行われているものであり(乙10)、このような観点からも、掲示板を設けること自体に創作性は認められない。
 釣り場別ランキングについても、このようなランキングを設けること自体はアイデアであり、また、コレクションゲームにおいてユーザーが収集を行う場所別のランキングを設けるものは複数存在し、ありふれている。
 一方、原告作品と被告作品は、イラストの内容や釣り場の名称が異なり、リンク先であるキャスティング画面、掲示板の画面、ランキングの画面も異なっているなどの相違点が存在する。
(エ) キャスティング画面について
 原告は、原告作品と被告作品のキャスティング画面は、釣り人が立つ側からの目線で画面の上段に空、中段に水面、下段に釣り人の立っている場所が描かれている点、釣り人の姿が描かれていない点が共通すると主張する。
 しかしながら、釣り人の目線で釣り場を描くこと自体はアイデアのレベルであり、その場合に、釣り人が立つ側からの目線で画面の上段に空、中段に水面、下段に釣り人の立っている場所を描き、釣り人の姿は描かないことは、ありふれた表現であり、他の釣りゲームにおいても多数存在する。
 また、原告は、原告作品と被告作品のキャスティング画面の共通点として、@キャストをする目標を指し示すマークが動くこと、A釣り竿を振るアニメーションがあること、Bその場所にキャストされることも挙げる。しかしながら、これらの点は、いずれも、釣り人の行動を忠実に再現する場合には当然共通する事柄であり、その点に創作性はない。
 原告作品と被告作品のキャスティング画面とは、前記(1)[被告らの主張]のとおり、その表現が全く異なるものであり、被告作品のキャスティング画面から原告作品のキャスティング画面の特徴的表現を直接感得することはできない。
(オ) 魚の引き寄せ画面について
 原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面は、アイデア等表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎず、被告作品の魚の引き寄せ画面から原告作品の魚の引き寄せ画面の本質的特徴を直接感得することはできないことについては、前記(1)[被告らの主張]のとおりである。
 また、原告は、キャスティング画面から魚の引き寄せ画面への切替りについても主張するが、この点はアイデアに属するものである上、同様の切替りをする釣りゲームは他の釣りゲームにも存在し、ありふれている。
(カ) 釣果画面(釣り上げ成功時)について
a 釣り上げ成功時の魚情報の要素について
 原告が原告作品と被告作品の共通点として主張するものは、いずれもアイデアにすぎない。実際の魚のイラスト・種類・大きさ・ポイント、魚を釣ったユーザーの獲得ポイント・順位、ランキングは、原告作品と被告作品とで明らかに相違する。
 また、釣り上げた魚のイラスト、名前、大きさ、ユーザーが当該魚を釣ることによって獲得したポイントの全部又は一部を表示することは、他の釣りゲームでも多数存在する。
 ユーザーにとって、自分が獲得したポイント数や順位、ランキングは重大な関心事であり、これらの情報を釣果画面において表示し、リンクを配置すること自体は、ありふれている。
(b) 釣り具、ショップ、攻略法、日誌のリンクの配置
 トップ画面以外にも、釣り具を装備する、釣り具を購入する、釣りの記録を見る、釣り方を知る、釣りの攻略法を知る・伝えるという目的を達するためのリンクを備えておくことは、前記(ア)のとおり、ありふれたものであって、創作性はない。
 また、原告作品と被告作品とは、文言等の具体的な表現において異なるほか、原告作品では「日誌」(釣り記録)のリンクを配置しているのに対し被告作品では存在せず、被告作品では「日記に書く」のリンクを配置しているのに対し原告作品では存在しないなど、まとめて表示しているリンクの種類も異なり、リンク先の画面も全く異なる。
(キ) 釣果画面(釣り上げ失敗時)について
 原告が原告作品と被告作品の共通点として挙げるものは、単なる配置方針であって、アイデアが類似しているにすぎない。原告作品と被告作品における実際の魚影の影像、魚の名前、大きさは、明らかに相違する。また、原告作品の釣果画面(釣り上げ失敗時)の魚の影像は、魚の影像としては極めてありふれた形状に、はてなマークが表示されているにすぎず、このような単純な影像に創作性はない。
 いわゆるコレクションゲームでは、収集に失敗した対象物の名称、おおよその大きさ、対象物の影像や、「?」を表示するものが存在する。実際の釣りでも、釣り人は、釣り上げに失敗した場合、魚の引き寄せのやりとり(引きの強さや暴れ度合い、水上から見える魚影など)から、逃げた魚の種類や大きさを想像して悔しがるものである。そこで、釣りゲームにおける釣り上げ失敗時の釣果画面において、逃げた魚の種類とおおよその大きさを表示することは、釣り人の行動を反映したありふれたものであり、単なるアイデアであるといえる。
(ク) 非主要画面について
 原告が非主要画面において類似性があると主張するいずれの画面においても、掲載されている情報(例えば、魚のイラストやユーザーの情報)は、原告作品と被告作品とで全く異なる。項目やレイアウトの共通点を指摘する原告の主張は、単なる配列方針というアイデアの共通性を述べているにすぎない。
(3) 争点2(被告らのウェブページに被告作品の魚の引き寄せ画面を掲載する行為は、他人の商品等表示として周知のものと同一又は類似の商品等表示を電気通信回線を通じて提供し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不競法2条1項1号)に当たるか)について
[原告の主張]
ア 原告作品の魚の引き寄せ画面の商品等表示性
 ゲームソフトウェアの影像及び影像の変化の態様は、それ自体商品の出所を表示することを目的としなくても「商品等表示」となり得るものである。
 原告作品の魚の引き寄せ画面が商品等表示としての周知性を有するかを判断する際には、テレビコマーシャル等による広告宣伝活動のみならず、当該表示の新規性・特殊性とユーザー数も考慮される。
 原告作品については、別紙影像目録3記載のとおり、魚の引き寄せ画面を用いた広告が、電車内、テレビ、雑誌、新聞等において広くかつ繰り返し行われた。例えば、平成21年2月には、428回のテレビコマーシャルを行っている。また、原告作品の魚を引き寄せる際の影像とその変化の態様を見ると、これらの特徴を兼ね備えたものは、原告作品以前の他の釣りゲームには存在せず、新規性と特殊性を有している。原告作品のユーザー数も、被告作品の配信が開始される月の前月である平成21年1月末日時点では、登録ユーザー数が434万2211人に達している。
 したがって、被告らが被告作品の配信を開始した平成21年2月25日の時点では、別紙影像目録3記載の原告作品の魚の引き寄せ画面は周知性を獲得していたことが明らかである。
イ 被告らによる被告作品の魚の引き寄せ画面の商品等表示としての使用
(ア) 被告作品紹介画面(モバゲータウン)には、前記1(4)アのとおり、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)が掲載されている。
 そして、被告作品紹介画面(モバゲータウン)において、「釣りゲータウン2を始める」というハイパーリンクを選択すると、被告作品のトップ画面に移動する。
 したがって、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は、新規のユーザーを被告作品に誘導するための宣伝に用いられているといえ、被告らは、同画面を被告作品の自他を識別する商品等表示として使用している。
(イ) 被告作品紹介画面(被告ORSO)には、前記1(4)イのとおり、被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)が掲載されている。
 そして、被告作品紹介画面(被告ORSO)も、モバゲータウンのアドレス(URL)を紹介するなど、これを見た者を被告作品に誘導するための宣伝に用いられている。
 したがって、被告ORSOは、被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)を被告作品の自他を識別する商品等表示として使用している。
ウ 原告作品と被告作品の「混同を生じさせる行為」
(ア) 不競法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」に当たるか否かは、取引者、需要者を判断主体として判断される。原告作品及び被告作品の需要者は、一般の消費者であり、携帯電話機用ゲームでは若年層が顧客層の多くを占めている。
 また、原告作品や被告作品において、一つ一つのアイテムは比較的安価である上、携帯電話機用ゲーム特有の課金体系(翌月の携帯電話の通信料に上乗せされて請求されるため、すぐその場で支払う必要がない。)を利用して対価を支払う場合が多いことから、需要者が代金を支払う際に払う注意の程度は、他の商品と比べて低い。ゲームのような娯楽性を追求した商品の場合、ユーザーが重視するのは、「どんなゲームか」、「どのような面白さを備えたゲームか」ということであり、配信元やゲームの名称に払われる注意は、ゲームの特徴に対する注意より低くなる。
(イ) 原告作品の魚の引き寄せ画面は、原告の商品等表示であるが、原告作品においてその面白さが最も表れている特徴の一つは魚の引き寄せ画面であり、ユーザーは、原告作品の商品名や営業主体名ではなく、原告作品の魚の引き寄せ画面によって原告作品を選択する傾向が強い。
(ウ) 商品等表示が表示する対象である両商品が酷似する場合は、当然、混同のおそれは増大する。この点について、原告作品と被告作品とは、全く同じジャンルの商品の携帯電話機用釣りゲームであり、前記(1)及び(2)の[原告の主張]のとおり、魚の引き寄せ画面だけでなく主要画面の構成等でも酷似しているため、混同のおそれは更に強くなる。実際、インターネット上では、原告と被告らとの間に少なくともグループ会社など密接な営業上の関係が存在するとユーザーが誤信していることを示す書き込みや、被告作品が原告作品の「パクリ」であるなど他の需要者(潜在的なユーザー)が同様の誤信をするおそれがあることを示す書き込みが複数見られる。
(エ) 以上の点からすると、被告らの行為は、需要者に対し、被告作品が原告の業務に係る商品であるかのような印象を与え、又は、原告と被告らとの間に密接な営業上の関係又は同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させ、その出所の誤認混同を生ずるおそれが極めて強いといえ、不競法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」に該当する。
[被告らの主張]
ア 原告作品の魚の引き寄せ画面は商品等表示として使用されていないこと
 原告作品の魚の引き寄せ画面は、ゲームの画面であり、ゲームをして初めて目にするものであって、商品等表示とはなり得ないものである。需要者は、「グリー」、「GREE」といった表示によって商品を識別しているのであり、原告作品の魚の引き寄せ画面によって商品を識別するものではない。
 原告の行っている広告宣伝を見ても、原告作品の魚の引き寄せ画面を、単なるゲーム画面という以上に識別表示として需要者に印象付けるような広告を行っているものはない。
イ 被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は商品等表示として使用されていないこと
 被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は、被告作品のユーザーとなっていないモバゲータウンの会員が被告作品のウェブページにアクセスした際に表示される初回トップページ(被告作品紹介画面(モバゲータウン))にのみ表示されるものである上、極めて不鮮明で小さな画像が掲載されているにすぎない。
 また、被告作品の紹介画面(モバゲータウン)には、その最上段に、「釣りゲータウン2」の文字とイラストが大きく表示されている。被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は、上記イラストの5分の1以下の大きさで、被告作品の紹介画面(モバゲータウン)の左脇に、他のゲームの画像と同一の大きさで縦一列にに並べられ、各画像の右欄には、当該画像に対応するゲームの説明の文章が掲載されている。
 このように、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は、単にゲーム(被告作品)の説明として使われているものであって、商品等表示として使用されているものではない。
 モバゲータウンの会員は、被告作品紹介画面(モバゲータウン)を見たときに、同ゲームの出所を「釣りゲータウン2」という名前で識別し、他方で、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は単にゲームの一内容を示しているにすぎないと認識するものである。
ウ 被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)は商品等表示として使用されていないこと
 被告ORSOのホームページには、ゲームに限らずコンテンツの制作を行う会社である被告ORSOの情報が掲載されている。
 被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)は、被告ORSOのホームページ内に、被告ORSOのゲーム制作事例の紹介として掲載されているものであり、商品等表示として使用されているものではない。
(4) 争点3(被告作品を製作し公衆に送信する行為は、原告の法的保護に値する利益を侵害する不法行為に当たるか)について
[原告の主張]
 著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益が違法に侵害された場合であれば、不法行為が成立する。原告は、労力と費用をかけて原告作品を開発及び維持しており、これを配信することによって経済的利益を受けていることから、法的保護に値する利益を有する。
 他方、被告らは、原告作品に依拠して、原告作品に酷似する被告作品を製作し、これを原告作品と同一の需要者層に向けて配信し、原告が開発した成果物を不正に利用して利益を得た。被告らの行為は、原告作品の価値にフリー・ライドするものであり、原告の事業を不当に妨害するものである。また、原告作品と被告作品の需要者層は一致しているため、被告作品の配信により、原告が原告作品より受ける収益が減少している。
 したがって、被告らの行為は、公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものであり、不法行為責任が生じる。
[被告らの主張]
 著作権法及び不競法上の保護を受けないようなものは、原告がその独占的利用を主張し得る筋合いのものではなく、被告作品の使用は、自由競争の範囲を逸脱したものと認められる特段の事情がある場合を除き、違法性を帯びるものではない。
 被告作品と原告作品との非類似性等を勘案すれば、被告作品の使用が自由競争の範囲を逸脱したという事情は存在せず、被告らに不法行為は成立しない。
(5) 争点4(原告の損害)について
ア 著作権法114条2項に基づく損害の額
[原告の主張]
(ア) 被告作品の売上げ
 被告作品の配信が開始された平成21年2月25日から平成23年7月7日(本件第9回弁論準備手続期日)までの被告作品の配信による被告ディー・エヌ・エーの売上げは、8億6400万円を下らない。
(イ) 被告作品の限界利益率
 著作権法114条2項の「侵害者が侵害の行為により受けた利益」とは、被告作品の売上げから被告作品の製造販売のための変動費を控除したものである。
 原告の事業に関する変動費用は、サーバーコンピュータの借入れに要する賃借料、開発人員に要する労務費を含む売上原価、及び携帯電話事業会社に支払う手数料であり、これらの変動費用を売上げから控除して限界利益率を算定すると、原告の平成21年6月期の限界利益率は83.6%であり、平成22年6月期の限界利益率は83.2%である。
 したがって、被告ディー・エヌ・エーが複数の事業を営んでいることなどを勘案しても、被告作品の限界利益率は83%を下らない。
(ウ) よって、被告らが被告作品の配信により受けた利益の額(著作権法1 1 4 条2 項) は、 7 億1 2 0 0 万円( 864,000,000 円× 0.83 ≒712,000,000 円)を下らない。仮に、性質上損害額の立証が困難であるとしても、著作権法114条の5により、7億1200万円をもって相当な損害額と認定されるべきである。
[被告らの主張]
(ア) 平成21年2月25日から平成23年7月7日までの被告作品の配信による被告ディー・エヌ・エーの売上げが8億6400万円であることは認める。
 被告作品の限界利益について、被告作品における製造原価としてサーバーにかかる費用及び開発人員に要する労務費が含まれること、変動費として、携帯電話事業者に支払う手数料が含まれることは認め、その余は否認する。
 本件に著作権法114条2項が適用されることについては争う。
(イ) 本件に著作権法114条2項は適用されないこと
a 著作権法114条2項は、損害の額を推定する規定であり、損害の発生自体を推定するものではない。ここにいう損害とは、販売利益の減少による損害であり、本件に即していえば、原告は、ユーザーが原告作品の魚の引き寄せ画面をダウンロードする回数が減少したことによって原告の販売利益が減少したことを立証しなければならない。
 しかしながら、原告作品は、「無料で遊べる」携帯電話向け釣りゲームであり、原告作品をプレイするユーザーが原告作品のユーザーとなった時点においても、また、原告作品の魚の引き寄せ画面を携帯電話にダウンロードした時点においても、原告には何らの利益も発生しない。
 また、著作権法114条2項に基づく損害額が推定されるためには、原告において、著作権侵害行為によって被告に利益が発生していることを立証しなければならないが、被告作品も、原告作品と同様の無料で遊べる携帯電話向けゲームであり、被告作品のユーザーが被告作品のユーザーとなった時点においても、被告作品の魚の引き寄せ画面を携帯電話にダウンロードした時点においても、被告らには何らの利益も発生しない。
 したがって、本件において著作権法114条2項は適用されない。
b(a) 著作権法114条2項による推定規定の適用を受けるための「損害の発生」の要件については、権利者において、侵害者が侵害行為により得ている利益と対比され得るような同種同質の利益を現実に失ったという損害が発生していることを要する。
(b) 被告ディー・エヌ・エーが運営するウェブサイト「Mobage」(以下「モバゲータウン」という。)では、「モバコイン」という名称の電子マネー(資金決済に関する法律3条1項の「前払式支払手段」)を発行しており、ユーザーがモバゲータウン内でモバコインを購入し、これを用いて被告作品のアイテムを購入することによって被告ディー・エヌ・エーに売上げが生じる。
 一方、原告作品では、ユーザーが原告作品のアイテムを取得するためには、ユーザーが保有する「ポイント」又は「ゴールド」と交換する必要がある。
 「ポイント」とは、ユーザーが、原告作品において魚を釣ると取得することができるものである。一方、ユーザーが「ゴールド」を取得することができるのは、@友だちを招待する場合、Aきせかえプレミアムを購入する場合、Bプラスコースに加入する場合、Cスポンサーサイトに登録する場合、Dミュージックコーナーにおいて(省略)に登録する場合、Eくじを引いた場合、Fアバタープレミアム(PC)を購入した場合であり、ゴールドだけを購入することはできない。
 上記@、C、D及びEの場合、ユーザーは、原告に対して対価を支払わない。他方、上記A、B及びFの場合、ユーザーは原告に対して対価を支払うが、これはゴールドの対価ではなく、A、B及びFの各有料サービスに対する対価であり、原告作品内においてアイテムを購入することによる売上げではない。ゴールドは上記サービスを購入等する際に、その「おまけ」として付与されるものにすぎず、「ゴールド」自体の価値は0円である。原告は、デジタルコンテンツや追加機能等のサービスに価値を見いだし、上記コンテンツやサービスの販売を行っており、ユーザーも「きせかえプレミアム」というデジタルコンテンツや「プラスコース」という追加機能等のサービスに価値を見いだし、これらを欲して購入している。
(c) このように、被告作品における売上げは、被告作品のユーザーが被告作品におけるアイテムを、「前払式支払手段」たる「モバコイン」によって購入した場合に発生するものであるのに対し、原告作品においては、ユーザーが「ゴールド」によってアイテムを取得したとしても、「ゴールド」の価値は0円であるため、原告に売上げは生じない。
 したがって、仮に、被告作品のユーザーが被告作品におけるアイテムを購入したことで、原告作品のユーザーが原告作品におけるアイテムを「ゴールド」と交換せず、原告の上記有料サービスの販売による売上げが下げるという関係があったとしても、これらの売上げが同種同質のものであるとはいえず、著作権法114条2項を適用する前提を欠く。
(d) なお、原告は、実際に同一の方法で著作物を利用していなくても、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる「蓋然性」があれば著作権法114条2項の適用は肯定されると主張し、平成23年7月20日以降原告作品において「前払式支払手段」たる「コイン」を用いてアイテムを購入できるようになったことをもって、上記「蓋然性」が認められるとも主張する。
 しかしながら、著作権法114条2項は、損害の額を推定する規定であって、損害の発生自体を推定するものではなく、この損害とは、販売利益の減少による損害である。
 したがって、原告作品では、本件における損害算定の対象となる期間において「前払式支払手段」によるアイテムの購入ができなかった以上、被告作品の売上げによって原告作品における同種の売上げが減少したことにはならず、「損害の発生」はない。
(e) 仮に、実際に同一の方法で著作物を利用していなくても、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる「蓋然性」があれば著作権法114条2項の適用は肯定されると解するとしても、本件では、著作権法114条2項の適用はない。
 すなわち、本件では、課金アイテムの販売利益が問題となっているところ、課金アイテムである釣り竿、仕掛け及びエサは、使用回数が定まっており、定められた回数分使用すると消費される。魚拓セットも、同様に使用回数の制限がされている。このように、課金アイテムは、繰り返し購入することを前提とした商品であり、例えば、あるユーザーが、平成23年6月に課金アイテムである釣り竿を購入したからといって、同年7月に再び釣り竿を購入しないということにはならない。
 したがって、仮に、原告が被告らと同様の方法で著作物を利用して利益を得られる「蓋然性」があったとしても、課金アイテムという商品の性質上、被告らが平成23年6月以前に課金アイテムを販売することによって原告の平成23年7月以降の課金アイテムによる売上げが下がる蓋然性はなく、著作権法114条2項の適用の基礎を欠くものである。
(ウ) 被告作品の限界利益について
 被告作品に要する製造原価及び変動費は、以下のとおりである。
a サーバー関連の購入代金(乙70、乙71の1〜43)
 被告作品のサーバーにかかる費用は、リースは行っていないため、リース料ではなくサーバー関連機器の購入代金となる。
b 開発人員に要する労務費(乙70、乙72の1〜29、乙73の1〜49、乙74)
 被告作品の開発は被告らの共同開発であるが、その役割分担として、被告ORSOは、被告作品及びその配信システムの開発、運用及び保守等を行い、被告ディー・エヌ・エーは、被告作品とモバゲータウン・モバコイン運用システムとの連携部分の開発、被告作品の配信用ページの製作、ユーザーサポート業務等を行ったものであり、その作業内容は異なる。
 被告ORSOは、被告作品の開発に当たって、最も工数を要する被告作品及びその配信システムの開発・運用及び保守を行っているため、労務費も、被告ディー・エヌ・エーより圧倒的に多くなる。
c サーバー関連費用(乙70、乙71の1〜43、乙75の1〜27)
 被告作品の売上げに係る変動費としては、サーバー機器保守料、サーバーハウジング料、回線費用(サーバーのインターネット接続費用)が含まれる。
d 支払手数料(乙70、甲58)
 被告ディー・エヌ・エーが携帯電話事業会社等に支払う「支払手数料」は、売上げの13%(甲58・添付資料28)である。
e 宣伝広告費(乙70、乙51)
 被告ディー・エヌ・エーでは、平成21年4月1日から平成23年3月31日までの2年間の売上高に占める販促費・広告費の割合は15.4%に及ぶ。被告ディー・エヌ・エーは、モバゲータウンを含むポータル・マーケティング事業のほか、コマース事業等の事業も行っているが、上記の売上げ及び販促費・広告費のほとんどは、モバゲータウンに要するものである。
 上記販促費・広告費は、被告作品を直接宣伝広告することに費やされたものではないが、被告作品がモバゲータウンというウェブサイト内のゲームであり、被告ディー・エヌ・エーが販促費・広告費を支出することによって被告作品の売上げにも寄与していることからすれば、被告作品の売上げのうち15.4%に相当する部分は、被告作品における変動費たる販促費・広告費と見るべきである。
 仮に、販促費・広告費を費用として控除しないとしても、このような費用を費やしていることは、後記の寄与率の算定において考慮されるべきである。通常は販促費・広告費を費やした場合に、これに要した費用以上の売上げが見込まれることも考慮すれば、被告作品の売上げのうち15.4%分は、被告ディー・エヌ・エーが販促費・広告費を支出したことによるものであるといえる。
f 上記aないしeの製造原価及び変動費の合計額は、別紙集計表記載のとおり、合計4億7973万8330円である。
 したがって、被告作品の売上げである8億6400万円から上記製造原価等を差し引いた被告作品にかかる限界利益は、3億8426万1670円である。
(エ) 魚の引き寄せ画面の寄与度について
 被告作品における売上げは、ユーザーがモバコインで課金アイテムを購入することによって発生する。そして、被告作品においてユーザーが課金アイテムを購入するためには、@モバゲータウンの会員となり、A被告作品のユーザーとなり、B被告作品を継続してプレイし、Cその上で、被告作品において課金アイテムを購入したいと思うことが必要である。
 しかしながら、次のとおり、上記@ないしCの各場面において魚の引き寄せ画面は全く寄与していない。
a モバゲータウンの会員となる理由(モバゲータウンの魅力)
(a) モバゲータウンの特徴、著名性、信用力
 モバゲータウンは、平成18年2月7日、高品質のゲームが無料で楽しめる携帯電話専用ゲームサイトとして、本格的に開始した。モバゲータウンの会員は、メール、チャット、日記、掲示板、サークル機能(同一の趣味等を有するコミュニティ)など、SNSやブログと同様のコンテンツも無料で楽しむことができ、より密度の高い会員間のコミュニケーションを提供する点において、他の公式モバイルゲームサイトや無料モバイルゲームサイトとは異なる大きな特徴を持っていた。また、モバゲータウンでは、会員は、ゲームや掲示板において、自分の分身となるアバターとして表現され、好みの服を選んでおしゃれをしたり、アバターとして自身を表現しながら、他の会員とより深いコミュニケーションをとることができる。
 モバゲータウンは、被告ディー・エヌ・エーにより様々なコンテンツ・機能の提供、積極的な宣伝広告活動、青少年の健全育成に向けた取組みの強化等の営業努力がされたことにより、信用性と著名性が培われ、平成20年4月9日には、会員数が1000万人を突破し、1日のページビュー数は6億回を超えた。また、被告作品の配信が開始されたころである平成21年3月末日時点でのモバゲータウンの会員数は、1344万人であった。
 被告ディー・エヌ・エーによるモバゲータウンの宣伝広告活動は、現在でも積極的に行われており、平成21年4月1日から平成23年3月31日までの2年間の売上高(1608億3300万円)に占める販促費・広告費(247億3200万円)の割合は15.4%に及ぶ。被告ディー・エヌ・エーは、モバゲータウンを含むポータル・マーケティング事業のほか、コマース事業等の事業も行っているが、上記の売上げ及び販促費・広告費のほとんどはモバゲータウンにかかるものである。
 このように、被告ディー・エヌ・エーの営業努力等によって培われた著名性や信用力があってこそ、モバゲータウンに会員が集まるものであり、被告作品に魚の引き寄せ画面があるからモバゲータウンの会員となるわけではない。
(b) モバコインという課金システムの存在
 被告ディー・エヌ・エーは、平成20年5月から「モバコイン」の発行を開始し、モバゲータウン内のソーシャルゲームのアイテム等をモバコインで購入することのできる仕組みを提供している。
 独自の電子マネーの流通・管理には、携帯キャリア決済やクレジットカードなどの支払い手段の整備で終わるというものではなく、継続的な運営とノウハウが必要である。また、「モバコイン」という電子マネーの存在は、課金システムの大きな要素である。アイテムを購入するたびに、100円、200円と現金を支払う動作を入れてしまうと、ユーザーは興冷めしてしまうところ、これを「モバコイン」という電子マネーを用いることで、その抵抗を低減している。
 被告作品では、被告ディー・エヌ・エーの継続的な運営とノウハウに基づき、電子マネー「モバコイン」を流通・管理しているからこそ、売上げを上げることができるものであって、モバゲータウンの課金システムの寄与は極めて大きい。
 さらに、被告作品を配信する以前からモバコインによるアイテムの購入がされていたという実績も、大きく寄与している。モバゲータウンのユーザーはいわゆる「課金慣れ」しているため、アイテムを購入することに抵抗感が少ない。
 これに加えて、モバコインを金銭と交換する際の決済方法に関しても、モバゲータウンというプラットフォームの優位性がある。モバゲータウンにおいては、平成19年3月から収納代行サービスを提供しており、豊富な決済方法を有しているため、キャリアに頼らず、あらゆるユーザー層に対応し、高額決済を可能としている。
 このような決済方法の豊富さによって、多くのユーザーがより多くのモバコインと金銭とを交換し、被告作品を始めとするモバゲータウン内のソーシャルゲームの課金アイテムを購入することができる。
(c) モバゲータウンというプラットフォームの魅力は、会員数だけではなく、その膨大なページビュー数にある。GREEとモバゲータウンとは、会員数こそほぼ同じであるが、そのページビュー数は、圧倒的にモバゲータウンが上回っている。モバゲータウンの月間ページビュー数は700億回を超えており、日本の携帯電話による総トラフィックの10%以上を占めている。
 このような驚異的なページビュー数を誇るモバゲータウン内において配信されるソーシャルゲームである被告作品であるからこそ、ユーザーの増加、ひいては被告作品の売上げに結び付いている。
b 被告作品のユーザーとなる理由
(a) 被告ディー・エヌ・エーは、平成20年4月16日、被告ORSOらと共同して、モバゲータウンにおいて、ゲーム専用の通貨であるモバコインを用いて各ゲーム内で販売されるアイテム(武器や道具など)を購入することが可能となるゲームの配信を開始した。これらのゲームのうちの一つが被告旧作品であり、被告旧作品のユーザー数は、平成21年2月には約160万人となった。
 被告作品は、その続編として制作されたものであり、被告旧作品の約160万人のユーザーは被告作品に引き継がれている。被告旧作品には被告作品の魚の引き寄せ画面が存在しないから、この約160万人は、被告作品の魚の引き寄せ画面とは無関係に被告作品のユーザーとなった者である。
 平成23年4月末時点での被告作品のユーザー数は約479万人であり、被告旧作品から引き継がれたユーザーは、被告作品のユーザー全体の約3分の1に上る。
(b) モバゲータウンのユーザーが被告作品のユーザーとなるためには、次の行程をたどることになる。
@モバゲータウントップページの「ゲーム」をクリック
A「ゲーム」ページの、「アクション・タイミング」をクリック
B「アクション・タイミング」のページの、「スポーツ・レース」をクリック
C「アクション・タイミング>スポーツ・レース」ページの4頁目まで遷移して、「釣りゲータウン2」をクリック
D「釣りゲータウン2」の初回トップページにおいて、「釣りゲータウン2を始める」をクリック
 このように、ユーザーは、アクション・タイミングのゲームをやりたい、スポーツのゲームをしたい、釣りゲームをしたいという目的があって、被告作品のユーザー登録を行うものであり、被告作品のユーザーとなる時点において、被告らの魚の引き寄せ画面は寄与していない。
 また、被告作品の配信を開始した平成21年3月から同年12月までの間に被告作品のユーザーが増加した最大の理由は、モバゲータウンのトップページやゲームページ等のモバゲータウンのユーザーが最も訪れるページに被告作品のバナーを貼り、モバゲータウンの多数の会員を直接被告作品に誘導したことに起因する。
c ユーザーが被告作品を継続してプレイする理由
 被告作品は、基本的に無料でプレイできるゲームであるため、一度プレイした程度では、課金アイテムを購入することには結び付かない。少なくとも、ユーザーに継続してプレイしてもらうことが必要である。
 この点、ソーシャルゲームは、フラッシュで制作されるアクション部分(本件でいう魚の引き寄せ画面)が重要なのではなく、アクション後の成果についてソーシャル性を持たせることを重視しているゲームである。本件に即していえば、ソーシャルゲームである釣りゲームは、釣る過程を楽しむものではなく、釣った成果を楽しむゲームである。
 すなわち、原告作品も被告作品も、魚の引き寄せ画面というアクション部分は、一つのボタンをクリックするだけの単純なゲームであり、これまでのテレビゲームとは異なり、際だったアクションもなければ、テクニックや攻略という要素は皆無に等しく、比較的簡単に魚を釣り上げられるようになっている。魚の引き寄せ画面については、複雑なゲーム性は一切取り入れていないため、同画面のみでは、ユーザーにはすぐに飽きられてしまい、魚の引き寄せ画面の具体的な表現の違いが収益に結び付くことなどない。
 被告作品のユーザーが被告作品を継続してプレイするのは、以下のとおり、魚の引き寄せ画面とは無関係な工夫が存在するからである。
(a) 継続性のある楽しみの提供とSNSとの連携
 いかなるゲームにおいても、必ずアクションとリアクションの関係性が存在する。ユーザーが何らかのアクションを行うと、何らかの結果(リアクション)が得られる。被告作品であれば、キャスティング画面及び魚の引き寄せ画面を含むフラッシュにより作成されたゲームにおいて魚を釣り上げると、魚に対応したポイントが付与される。
 しかしながら、このアクションとリアクションの気持ちよさは瞬間的なものであるため、ユーザーがゲームを繰り返しプレイするためには、継続性のある楽しみが必要である。このために、ほとんどのゲームにおいて、経験値(プレイを始めてから継続的に蓄積される数値)システムを採用している。
 家庭用ゲーム機やオンラインゲームにおいても経験値システムは一般的なものであるが、SNSを利用したゲームにおいて特徴的なのは、他のユーザーとの比較があることである。ソーシャルゲームは複数の友達が同じゲームをプレイしている状況が多いため、「○○さんに負けたくない」というライバル心をあおることがユーザーにプレイを続けてもらう要因となる。さらに、経験値を上げるモチベーションを高めるため、多くのゲームでは、レベルという短期目標を設定している。
 被告作品に関して、ユーザーが継続してプレイする仕掛けとしては、@釣りポイントの累積とランキング表示、A段位を上げる、B魚図鑑を埋める、コンプリートする(全部揃える)、C日記との連動による釣り自慢の仕組みなどがある。これらは、いずれも魚の引き寄せ画面以外の部分での工夫である。例えば、被告作品でも、「魚の最大サイズランキング」(大きい魚ほど釣り上げ難いため、より攻撃力の高い竿が必要になる。)、「ポイントランキング」(ポイントは、ポイントアイテムと交換するとなくなってしまうため、「総合釣ポランキング」で上位に入るためには、ポイントアイテムを消費しないように課金アイテムで魚を釣る必要がある。)が準備されており、ユーザーの競争心を醸成し、その結果、被告作品を継続してプレイさせ、更には、課金アイテムを購入する動機付けをしている。
 また、被告作品におけるランキングに関する仕組みは、上位者のみが表示されるランキングだけではなく、「日誌画面」から「マイランキング画面」へ遷移すると、「デイリー」「トータル」「日替わり釣り場ランキング」「週間魚種ランキング」「巨大魚ランキング」「魚種ランキング」においてユーザー自身がどの位置にいるのかを表示させる仕組みも存在し、このようなランキングを一覧させる仕組みによっても、ユーザーの競争心を醸成している。被告作品において、最大サイズランキング上位100人のユーザーの平均課金率は88%であり、ポイントランキング上位100人のユーザーの平均課金率は81%であって、被告作品の全ユーザーの平均課金率を大幅に上回っていることからも、ランキングを設けることで課金アイテムを購入するという因果関係を裏付けている。
(b) ソーシャルゲーム内の友人関係の形成と維持
 ソーシャルゲームでは、「友人関係を維持するために1つのゲームを続ける」というように、ゲームを継続してプレイする動機となるコミュニティ効果が強く表れる。そのソーシャルゲームでしか会えないという状況にあるからこそ、ゲーム世界に対して執着が生まれるのである。
 この点、被告作品には、「チーム」という仕組みがある。これは、複数のユーザーがお互いを誘いあってチームを結成し、1つの船を所有して、その船にポイントで交換できる馬力を注ぎ込むことで船を成長させていくというものである。
 このチームのメンバーは、被告作品でしか会えない「友人」であり、このようなチームを作ることで、継続して被告作品をプレイする動機となっている。被告作品のチームランキング1位のチームに所属しているユーザー28人中22人が課金アイテムを購入していることからも、このことが裏付けられる。
(c) 継続的なイベントの開催
 ソーシャルゲームでは、リリース前の開発よりも、運用後の開発が重要となる。運用後の開発として重要なものが「イベント」であり、イベントを定期的に行わないとユーザーが離れていく。
 この点、被告作品においては、平成21年3月から平成23年5月までの間に、全126回、合計675日間に及びイベントを行い、これらのイベントは、ユーザーが継続して被告作品においてプレイすることに大きく寄与した。
 また、イベントが課金アイテムの購入に多大な寄与をしていることは、イベントの目的である特定の魚種を釣り上げたユーザー5030人のうち、課金アイテムを購入したユーザーが76.7%であるという事実からも、裏付けられる。
(d) サポート体制の充実
 ソーシャルゲームでも、他のインターネットサービスと同様に、使い方やトラブルに関するユーザーからの問合せがある。このような問合せに対して真摯に対応することは、ユーザーを増やし、ユーザーが継続してゲームをプレイすることにもつながる。他方、対応が悪い場合には、掲示板などで悪評が立ち、ユーザーが当該ゲームから離れていく。
 被告ディー・エヌ・エーは、モバゲータウンのカスタマーサポートセンターを設置し、合計400人超の人員によるサポートを行っており、このような対応をすることによって、ユーザーが被告作品を継続してプレイすることに大きく寄与している。
d ユーザーが課金アイテムを購入する理由
 被告作品では、魚を釣ると「経験値」と「ポイント」を獲得することができる。経験値は段位を上げるために必要となり、ポイントはゲーム内でアイテムと交換するために必要となる。被告作品は、基本的には無料で遊べるゲームであり、「魚を釣る→ポイントを貯める→ポイントで装備を手に入れる→まだ釣ったことのない魚を狙う、又はさらにポイントを貯める」、というサイクルでゲームを進めていく。
 このように無料でも遊べるソーシャルゲームにおいて、ユーザーが課金アイテムを購入するのは、ソーシャルゲームは「他人の目」があるからこそ「自己表現したいという欲求」や「競争心」が生まれ、このような自己表現や競争心を発生させる仕組みやこれらを満たすアイテムを用意しているからである。また、ソーシャルゲームにおいて設定されている目標などを達成するための時間を短縮したいという目的も、当然にアイテムを購入する理由となる。
 被告作品でも、次のとおり、課金アイテムの購入動機を引き起こす仕組みを採用している。
(a) 目的を達成するまでの時間を短縮する
 課金アイテムを購入せずに、ポイントシステムのサイクルのみを利用して、段位を上げる、図鑑を完成するといった目的を達成するには、課金アイテムを使用した場合に比べてより多くの時間が必要となる。これは、以下の理由による。
@ 必要な装備を手に入れるためのポイントを貯めるには、複数の魚を釣らなければならない。
A ポイントにより交換する釣り竿は課金アイテムである釣り竿に比べて攻撃力が低いので、魚に逃げられてしまう可能性が高い。
B ポイントにより交換するえさと仕掛けは、「珍しい魚がHITする確率」が、課金アイテムであるえさと仕掛けに比べて低いので、目的の魚をHITするまでに必要なキャスト回数が平均して多くなる。
 そこで、ユーザーは、この時間を短縮するために課金アイテムを購入する。例えば、被告作品の魚図鑑(全368種類)を完成している被告作品のユーザー50人のうち、課金アイテムを購入しているユーザーは40人(80%)に及ぶ。被告作品において「モバコイン」を使ってアイテムを購入しているユーザーはわずか2.5%から5%程度にすぎない中で、極めて高い課金アイテム購入率を示している。
(b) 制限時間内に目的を達成する
 ユーザーが課金アイテムを購入する別の理由として、「制限時間内に達成しなければならない」目的を達成するために購入する、というものがある。
 被告作品には、時間制限のある昇段試験が初段から10段までに10回あり、それ以上は、毎月「名人試験」が開催されている。これらの昇段試験や名人試験には時間制限があり、制限時間内に試験をクリアするために課金アイテムを購入する。例えば「名人試験」を14回以上クリアしているユーザー(約1万人)のうち、課金アイテムを購入しているユーザーは70.6%に及ぶ。更に名人試験を25回以上クリアしているユーザー(718名)中、課金アイテムを購入しているユーザーは76.9%である。
 また、被告作品では、定期的に「制限期間内にクリアするべきイベント」を開催しており、このようなイベントの制限期間内にクリアをするために、課金アイテムを購入する。例えば、被告作品において平成22年9月に開催されたイベント「皇帝ゴブリンシャーク」において、イベントをクリアしたユーザー(5030名)中、課金アイテムを購入しているユーザーは76.7%であった。
(c) 他のユーザーとの競争に勝つ
 被告作品はソーシャルゲームであり、ユーザーがゲームを楽しむ動機は、他のユーザーとの交わりによるところが大きい。その一つが、他のユーザーとのランキング競争に勝つという目的である。
 例えば、魚の最大サイズランキングの上位100人のユーザーのうち、課金アイテムを購入しているユーザーは88人に上り、ポイントランキングの上位100人のユーザーのうち、課金アイテムを購入しているユーザーは81人である。
(d) 自分の成果を自慢する
 自分の釣った魚を他のユーザーに自慢するということも、課金アイテムを購入する動機となる。
 被告作品では、釣った魚を「魚拓」にとったり「水槽」に入れたりすることで、自分のページに飾って他のユーザーに見てもらったり、モバゲータウン内の日記に貼りつけることで、他のユーザーに自慢したりすることができるようになっており、そのための課金アイテムである「魚拓」や「水槽」をユーザーは購入する。
(e) 協力する、迷惑を掛けないようにする
 被告作品には、前記のとおり「チーム」という仕組みがあり、ユーザーは、チーム内の他のユーザーと協力して多くのポイントを集め、船を早く成長させて行くことを目指す。そこには、「他のユーザーが頑張っているから協力する」、「他の頑張っているユーザーに迷惑を掛けないように自分も頑張る」という心理が存在し、そのために課金アイテムを購入することとなる。例えば、被告作品のチームランキング1位のチームの構成員28名中、課金アイテムを購入しているユーザーは22名である。
e その他、魚の引き寄せ画面の寄与が低い理由
 上記aないしdのとおり、被告作品の売上げに対して魚の引き寄せ画面は全く寄与していない。
 さらに、以下の事情も加味すれば、魚の引き寄せ画面の寄与がないことはより一層明らかである。
(a) 被告作品の魚の引き寄せ画面における創作的な部分の存在
 被告作品の魚の引き寄せ画面には、前記(1)[被告らの主張]のとおり、原告の魚の引き寄せ画面にはない創作的な部分が多数存在する。仮に、被告作品の魚の引き寄せ画面が被告作品の売上げに何らかの寄与をしているとしても、それは、このような被告作品特有の創作的部分の寄与によるものである。
(b) 原告作品の魚の引き寄せ画面の創作性の低さ
 原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通点は、原告の主張によっても、@水中のみの影像を水平の視点で描いていること、A三重の同心円、B黒色の魚影と黒色の糸、C水中の背景が薄暗い青系統で色彩され、岩陰が描かれていること、D魚影のみが水中全体を動き回ること、といった内容であり、一つ一つを取り出せば、明らかに創作性のないものである。したがって、これらの要素が組み合わされたとしてもその創作性などなく、仮にあったとしても極めて低い。
 このことは、被告旧作品と被告作品の「魚の引き寄せ」画面が全く異なるにもかかわらず、両作品の月別課金アイテム購入率がほぼ同じであるという事実や、平成23年8月に被告作品内で行われたイベントにおいて、魚の引き寄せ画面の的の形状を五角形に変更して配信した際にも、ユーザー数や課金アイテムを使用するユーザー数が減少しなかったことにより明らかである。
(c) 課金アイテムごとの性質
 被告作品において販売されている課金アイテムは、釣り竿、仕掛け、餌、水槽、魚拓及び乗船券である。
 釣り竿は、より簡単に魚を釣り上げるという、ゲーム性に関わる変更を行うものであり、また、釣り上げにくい魚を釣るという、釣果に関わるものであって、魚の引き寄せ画面とは関係がない。
 仕掛けと餌は、その組合せによって釣り上げられる魚の種類が異なるというものであり、関連するのは釣果に関する部分である。被告作品のユーザーが特定の魚種を釣り上げようと考えるのは、前記のとおり、被告作品において複数の魚種が用意されており、また、釣り場ごとに魚図鑑が備えられ、これらを完成したい、完成して自慢したいという動機を醸成させ、また、珍しい魚を釣り上げることでより高い釣りポイントを獲得したいという動機を醸成させ、さらには、段位を上げるためのイベントとして特定の魚種を制限時間内に釣り上げるという目的を設定しているなど、釣果に関する事項によってアイテム全般の需要を喚起しているためである。また、仕掛けや餌というアイテムについて、ユーザーがポイントアイテムではなく課金アイテムを購入するのは、ポイントを貯めるという時間を短縮する目的、ポイントアイテムと比較して特定の魚種を釣り上げる確率が高いこと、期間限定イベントにおいて制限時間内に目的を達成するためなどである。
 水槽と魚拓は、ユーザーが、釣った魚を他のユーザーに自慢する目的で購入するものである。具体的には、様々な魚の種類の存在、他のユーザーに自慢したくなる希少な魚の存在、水槽に魚を入れて鑑賞することができる仕組みがあること、魚拓にとって鑑賞することができる仕組みがあること、水槽や魚拓をモバゲータウン会員の日記に掲載することができること、水槽には様々な種類の装飾が施されたものが存在することなどによって、需要が喚起されるものであり、単に魚を釣る行為を行うだけの魚の引き寄せ画面によって需要が喚起されるものではない。
 乗船券は、船釣りをするために必要とされるアイテムであり、魚の引き寄せ画面とは無関係である。
(d) 魚の引き寄せ画面の閲覧数
 魚の引き寄せ画面及びキャスティング画面を含むフラッシュ影像は、魚の引き寄せ画面及びキャスティング画面のほか、準備画面や、魚が画面を横切り画面奥へと移動する画面も含まれている。このフラッシュ影像を、魚の引き寄せ画面とキャスティング画面の2つの画面から成るものとして換算した上で、被告作品における全ページビュー数中の魚の引き寄せ画面の表示回数の月別の割合を算出したとしても、魚の引き寄せ画面の表示割合は、全体の15%ないし20%程度であった。これは、フラッシュ影像を2つの画面として少なく見積もった結果であるので、魚の引き寄せ画面の表示回数の月別の割合は、多く見積もったとしても15%ないし20%程度であるといえる。
 また、魚の引き寄せ画面をユーザーが見るのは、魚を釣り上げるために必ずたどる画面であるからという理由であり、著作物としての魚の引き寄せ画面に吸引されているからではない。
(e) 原告は、後記[被告らの主張に対する原告の反論]のとおり、モバゲータウンの集客力、プラットフォームでの寄与、被告作品におけるイベントの実施は、GREEや原告作品でも同様であると主張する。
 しかしながら、原告の上記主張は、原告作品においても、原告作品の魚の引き寄せ画面以外の要素、すなわち、GREEの集客力や原告作品の工夫により原告作品のユーザーとなったり、ユーザーが継続して原告作品をプレイしていることを示しているにすぎず、モバゲータウンの集客力や被告作品における工夫等が被告作品の売上げに寄与していることを否定することにはならない。
[被告らの主張に対する原告の反論]
(ア) 本件に著作権法114条2項が適用されること
a 著作権法114条2項の立法趣旨は、逸失利益の立証の困難を救済するため、これに代えて、現実に著作権の侵害に当たる利用行為をした侵害者が侵害行為により得た利益の額を著作権者の逸失利益と推定することにあり、著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上、本来の著作権者が同じ利益を得られる蓋然性があるとの推定を認めている。
 本件において、原告は、魚の引き寄せ画面を含む原告作品を配信して自らの著作権を行使し、被告らは、原告の著作権を侵害する魚の引き寄せ画面を配信して利益を得ている。また、原告と被告らは、いずれも、それぞれの作品によりユーザーにアイテムを買うための仮想通貨を欲しいと思わせることを通じて、ユーザーに対価の支払を促す方法を用いて利益を得ている点で共通し、原告作品と被告作品は市場で競合しており、被告らが被告作品により利益を得ることで原告が原告作品を通じて利益を得る機会を失い、原告に損害が発生している。
 したがって、被告作品の配信により原告は損害を被る関係にあり、著作権法114条2項が適用される。
b 原告作品も被告作品も、ゲームのユーザーが釣り具等のアイテムを入手してそれを使えば、アイテムを使わない場合と比べて魚の引き寄せでゲームを有利に進めることができ、また、釣り上げた後、魚の記録を保存することができるなどの点で共通しており、「魚の引き寄せ」画面がアイテム購入の意欲を引き出す契機を作り出している。
 原告作品も被告作品も、ユーザーがアイテムを入手するには、ゲーム中で魚を釣り上げて貯めたポイントと引き換える方法と、仮想通貨と引き換えに購入する方法の2つがあるが、魚を釣り上げるのにより効果的で、すぐアイテムを入手できるのは仮想通貨を使う方法である。そのため、仮想通貨(原告作品では「ゴールド」、被告作品では「モバコイン」。)を入手してアイテムを購入するのが主流になっている。
 原告作品のユーザーがゴールドを獲得する主な方法には、@原告の商品・サービスを利用する方法と、AGREE内に置かれた他社広告を通じて他社サービスに登録する方法とがある。
 @の場合、ユーザーは、原告が提供する商品・サービスに金銭を支払い、これによりユーザーはゴールドを得ることができ、その支払は原告の利益になる。
 Aの場合、ユーザーがGREE内の他社広告を通じて他社のサービスに登録すると、ユーザーはゴールドをもらうことができ、原告も、広告主から広告料を得て収益となる。他社サービスの提供を受けたい消費者は、通常なら、GREEを通じてではなく、インターネット検索エンジンでサービスの内容や他社の社名を直接入力・検索し、原告作品とは無関係に他社のサイトに直接アクセスしてサービス登録をする。これに対し、上記Aの場合は、GREEのサイトにいったん立ち寄り、その広告を通じてサービス登録したユーザーのみがゴールドを得ることができるものであり、GREEのゲームが、ユーザーにゴールドが欲しいと思わせる強い動機となっている。
 一方、被告らは、被告ディー・エヌ・エーが発行している仮想通貨のモバコインを、ユーザがモバゲータウン内で購入して取得し、これを用いて被告作品のアイテムを購入することによって利益を得ている。
 このように、原告作品と被告作品とは、直接仮想通貨を購入するか、商品・サービスの購入・他社登録を介在させるかの差異はあれ、魚の引き寄せ画面でのプレイが誘因となってユーザーにアイテム購入の意欲を湧かせ、原告ないし被告らに利益をもたらしている点で共通する。
c また、あるゲームに振り分けられたユーザーの限られた「金銭」と「時間」は、他のゲームに振り分けることはできず、一度費やされたユーザーの金銭・時間は、他のゲームに振り分けて費やす機会は失われる。
 ゲームの内容とタイプを見ると、原告作品と被告作品とは、数ある携帯電話機用ゲームの中でも全く同一の「釣り」のジャンルのゲームであり、デザインや主要画面の遷移、操作方法、遊びのメインとなる「魚の引き寄せ」画面等々もそっくりであり、ターゲットとするユーザー層も完全に同一であり、ユーザー層に差別化できる要素はない。
 ユーザーの実際の利用形態を見ても、特に、携帯電話機用ゲームの場合は一々パソコンを立ち上げたり、自宅のテレビを前にしなくてもプレイすることができ、限られた短時間で手軽に遊べるところに大きな特徴がある。
 これらの諸要素に照らすと、代替性のある商品として原告作品と被告作品とは完全に「市場が競合」しており、プレイに当てることのできる限られた時間を互いに奪い合う関係にあることは明らかであって、必然的に、アイテム購入等、ユーザーの消費にも影響する。被告作品の配信は、原告の有料商品・サービスの売上げと、他社のサービスへの登録による広告料(アフィリエイト収入)を得る機会を失わせ、原告に損害を生じさせている。
d なお、著作権法114条2項は、当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上、著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があるという前提に基づき、侵害者が侵害行為により得た利益の額をもって著作権者の逸失利益と推定する規定である。そのため、実際に同一の方法で著作物を利用していなくても、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる「蓋然性」があれば、同項の適用は肯定される。
 この点につき、原告は、現在、仮装通貨である「コイン」を導入しており、コインの導入には法律上、技術上困難な点もないから、原告が被告と同様の方法で著作物を利用し、同様の利益が得られる蓋然性がある。したがって、本件には著作権法114条2項が適用される。
(イ) 被告作品の限界利益について
a サーバー関連の購入代金について
 被告らがサーバー関連機器の購入代金を裏付ける証拠として提出した請求書(乙71の1〜43)のうち、被告作品との関連性が明示されている請求書は2通のみ(乙71の12、14)であり、他の請求書と被告作品とが関連することを認めさせる客観的な証拠はない。また、被告ORSOが購入したサーバーが被告作品以外に利用することができないことを裏付ける証拠もない。むしろ、サーバーの性質上、サーバーの使用が被告作品の配信に限定されるということはあり得ないから、サーバーの購入費用は売上げから一切控除することができない。
 仮に、サーバーの購入費用が変動費に当たるとしても、サーバー関連機器は、「減価償却資産」に該当する「器具及び備品」であるから(法人税法2条23号、同法施行令13条7号)。当該機器の取得価額が10万円以上である限り(同施行令133条)、費用と認められるのは機器の「購入費用」ではなく、機器の「減価償却費」である。
b 労務費について
 被告らの主張する労務費は、被告作品に関して派遣社員に支払った労務費の証拠とされている請求書(乙73の1〜49)に、当該派遣社員がいかなる業務に従事していたかが明示されておらず、被告作品との関連性を示す記載が一切見られなかったり、被告作品が被告らの共同製作のゲームであるにもかかわらず、被告ORSOの開発人員数が被告ディー・エヌ・エーの開発人員数の20倍近くに上り不合理に多いなど、いずれも客観的な裏付けを欠く。
c サーバー関連費用について
 被告らの主張するサーバー関連費用には、請求書の裏付けのない数値や、被告らが無関係であることを自認している数値まで混在しており、信用性を欠く。
 また、被告らの主張する回線費用は、被告ORSOの事業一般に用いることが可能であり、被告作品以外のゲームの配信のための回線費用をも含むものである。これらの回線費用は、事業拡大とあわせて増加する変動費ではなく、事業規模がよほど拡大しない限り増加しない固定費であるといえ、限界利益の算定にあたり考慮されない。
d 支払手数料について
 被告ディー・エヌ・エーの平成23年3月期の決算説明会資料によれば、同期の第4四半期におけるゲームの売上高のうち支払手数料の占める割合は約8.7%であり、第3四半期における同割合は約5.3%である。
 甲第58号証の添付資料28に記載された「13%」とは、オープンプラットフォームで被告ディー・エヌ・エー以外のゲーム製作会社が配信する場合に、当該他のゲーム製作会社から被告ディー・エヌ・エーが受け取る手数料率である。
e 宣伝広告費について
 限界利益の算定の際に控除することのできる宣伝広告費は、被告作品の宣伝広告に用いられたものに限られる。被告らが主張する宣伝広告費は、被告作品の宣伝広告に用いられたものではないから、この費用を控除することはできない。
(ウ) 魚の引き寄せ画面の寄与度について
a 釣りゲームでは、魚を釣り上げようとする際の魚との駆け引きをどう表現するかがユーザーをゲームに惹き付けるための決め手となるものであり、魚の引き寄せ画面はゲームの核心である。原告作品では、前記のとおり、水中に三重の同心円のある魚の引き寄せ画面が、他の釣りゲームと差別化される表現上の顕著な特徴である。ユーザーは、被告作品で遊ぶ場合、必ず魚の引き寄せ画面に入って魚と格闘して釣り上げようとしてキーを操作するが、魚の引き寄せ画面は、一般に携帯電話機用釣りゲームでは、ユーザーを吸引する最も魅力あるものとして表現されるのであり、原被告作品の魚の引き寄せ画面以外の画面にあっても、ゲームの核となる魚の引き寄せ画面と切り離しては成り立ち得ず、魚の引き寄せ画面とは不可分一体になっている。
 魚の引き寄せ画面は、シルエットの魚影が三重の同心円がある水の中を右往左往することにより、“ストレスと快感”の絶妙なバランスが表現され、水中が気になるユーザーの好奇心がかき立てられて、ユーザーはゲームに引き込まれ、課金アイテムを購入してまで被告作品のプレイを継続しようとするのである。被告作品をプレイするユーザーは、魚の引き寄せ画面で魚をうまく釣り上げるために釣り具や餌等を購入し、魚の引き寄せ画面で釣り上げた魚の記録を残すために、魚拓や水槽等を購入する。このように、釣り具・魚拓・水槽等の課金アイテムは、魚の引き寄せ画面での釣り遊びの「手段」となるものであったり、魚の引き寄せ画面で魚を釣り上げた「成果」を残すものとして、ユーザーは購入している。
 以上のとおり、被告作品の売上実績は魚の引き寄せ画面に起因しており、魚の引き寄せ画面の寄与率は100%である。
b また、著作権法114条2項の規定は、著作権侵害の場合に、侵害者の資本、宣伝、流通手段、経験、度量、知名度等の事情によって売上げが異なることから、売上げの減少や価格の引下げと侵害行為との間の因果関係の立証困難を容易にすることを立法趣旨とする推定規定である。
 したがって、寄与率の算定に当たり、原告に対し実態として売上げ向上に影響した要素を逐一挙げさせることは、立証困難を救済する著作権法114条2項の立法趣旨に照らし、不合理である。被告らが主張するモバゲータウンの集客力、被告作品における工夫、モバゲータウンの課金システム等は、「寄与率」の算定に当たり考慮される要素ではない。
 さらに、これらの要素は、原告作品にも共通するSNS配信のソーシャルゲームの一般的な要素であるか、又は原告作品にも共通する要素であるから、魚の引き寄せ画面の寄与率が減殺される理由にはなり得ない。その理由は、次のとおりである。
(a) モバゲータウンの集客力について
 SNS配信のソーシャルゲームを1000万人規模のユーザーがいるSNSで展開すれば集客の手間を大幅に省くことができることは、モバゲータウンに限ったことではなく、GREEにも同じことがいえる。平成23年3月のGREEのユーザー数は2506万人であるから、モバゲータウンの集客力がGREEに比べてより大きく売上げに寄与したとはいえない。
(b) ゲーム内の仮装通貨について
  課金システムの存在は、オンラインゲームでは一般的なものである。オンラインゲームでは、課金アイテムを実店舗を介して購入したり受け取ったりしないのであるから、課金アイテムの決済のためには課金システムを利用しなければならない。
 このように、売上げを得るために必要で一般的な手段を使っていることを理由に、寄与率名目で利益を減額するのは不合理である。
(c) 継続性のある楽しみであることについて
 ランキングやチーム制の導入によるSNSとゲームの連動、イベントの開催、課金アイテムの購入によるゲーム内の目的達成までの時間短縮などは、原告作品にも備わっている工夫であり、ソーシャルゲームで広く使われている要素である。カスタマーサポートも、原告でも採用している仕組みである。
 このように、上記の工夫ないし仕組みは、モバゲータウンに限った特徴ではなく、被告作品の売上げに寄与する事情ではない。
(d) 宣伝広告費
 被告ディー・エヌ・エーの支出した宣伝広告費は、被告作品以外の作品ないしモバゲータウンに関するものであり、これらの宣伝広告が被告作品の売上げに貢献したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、このような費用は、寄与率の算定の際に考慮されない。
(e) ソーシャルゲームであることについて
 どのような著作物でもソーシャルネットワークの中に入れさえすれば、多数のユーザーが群がるわけではなく、ソーシャルゲームであってもユーザーが寄り付かない、はずれのゲームも非常に多数存在する。原告作品を侵害した被告作品が多大の売上げを得た理由は、顧客吸引力があるからであり、ソーシャルゲームが特殊であるからではない。
 ゲームに興じて仲間同士がコミュニケーションをとってワイワイ楽しみ、それが更にうわさになってユーザーが増加し金銭が消費されていく現象は、ソーシャルゲームに限ったことではない。本件では、モバゲータウンの集客力がGREEの集客力と比較して格別に被告作品の売上げに貢献しているといえる証拠はない。したがって、仮に、ソーシャルゲームに被告らが主張するような特殊性があるとしても、ソーシャルゲームであることを被告作品の売上げに対する寄与率を減殺する理由として持ち出すことはできない。
(f) イベントの存在について
 被告らが主張するイベントの実施等、作品の配信開始後の継続的な開発は、原告においても等しく実施していることであり、被告作品に特有の事情ではなく、寄与率を低くする根拠とはならない。
(g) プラットフォームの存在について
 被告らが挙げる決済方法等は、ソーシャルゲームを配信するプラットフォームには通常具備されており、原告作品にもこれらの条件は共通する。上記要素は、被告作品の売上げを格別押し上げていない。
イ 一般不法行為による損害
[原告の主張]
 仮に、原告作品の主要画面の構成(配置・選択)及び遷移の表現に関して被告らに著作権侵害が成立しないとしても、被告らは、前記(4)[原告の主張]のとおり、原告の法的保護に値する利益を違法に侵害したもののであるから、本裁判に現れたすべての事情を勘案し、被告らが原告に支払うべき使用許諾料相当損害金は、 被告作品の売上高の1 0 % に相当する8 6 4 0 万円(864,000,000 円×0.1)を下らない。
 使用許諾料相当損害金の立証が性質上困難であるとしても、民事訴訟法248条によって上記程度の損害賠償金は認められるべきである。
[被告らの主張]
 被告らに不法行為が成立しないことは、前記(4)[被告らの主張]のとおりである。したがって、一般不法行為に基づく損害は認められない。
ウ 不競法2条1項1号違反による損害
[原告の主張]
 被告らは、被告作品の魚の引き寄せ画像を故意に商品等表示として使用し、需要者の間で広く認識されている原告作品の魚の引き寄せ画像との混同を生じさせて、原告に帰属すべき市場機会を奪い原告の営業上の利益を侵害した。
 原告作品の登録ユーザー数は、平成22年12月末日時点で1494万3681人であり、他の著名ゲームと比較しても非常に多い。また、原告作品及び被告作品のユーザーの需要の喚起は、最も個性的で特徴のある魚の引き寄せ画面に起因しており、魚の引き寄せの画像の宣伝効果と顧客吸引力は極めて大きい。
 携帯電話機用ゲームの業界では、原告と被告ディー・エヌ・エーは、株式会社ミクシィと並んで業界のトップ3に入る競合会社であり、本件訴訟提起後に本裁判に顕出された一切の事情に鑑みるならば、商品等表示の使用に対し原告が受けるべき使用許諾料相当額は、被告作品の売上げの5%を下ることはない。
 したがって、被告らが、被告作品の配信を開始してから平成23年7月7日までの間、上記商品等表示を使用したことにより、原告に支払うべき使用許諾料相当損害金(不競法5条3項1号)は、4320万円(864,000,000円×0.05)を下らない。
[被告らの主張]
 魚の引き寄せ画面(初回トップページ)には、何らの顧客吸引力も認められず、被告らの被告作品の売上げにも全く寄与していない。したがって、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていない。
エ 無形損害
[原告の主張]
 原告が多額の費用を投じて開発し、多数の広告・宣伝を行ってきた原告作品の魚の引き寄せ画面は、原告と同業の被告らによって明白かつ悪質な意図をもって依拠され、被告らは、原告作品の表現上の本質的特徴を直接感得できる被告作品を全国に大々的に配信して、原告に多大な損害を与えた。
 また、被告らが被告作品を配信したことで、全国の多数のユーザーに、原告作品(又は原告)と被告作品(又は被告ディー・エヌ・エー)とが同一であると誤認させ、ゲームの製作元を同一と誤認させ、原告作品と被告作品のどちらが真似をしたかが理解されていないなど、原告の社会的信用と営業上の信頼に深刻な被害が生じている。
 そこで、民事訴訟法248条に基づき、被告作品の配信開始日から平成23年7月7日までの間に被告らの不法行為によって生じた上記無形損害を金銭に評価すると、1億円が相当である。
[被告らの主張]
 単に原告作品と被告作品との誤認混同を生じさせただけで、原告の主張するような信用毀損に基づく損害が発生するものではない。例えば、侵害者によって販売された製品が粗悪品である場合において、信用毀損に基づく損害が認められるのである。
 原告の主張は、SNSサイトの国内シェアトップ3に入る大手サイトを運営する被告ディー・エヌ・エーや、これまで有名な携帯電話機向けフラッシュゲームの制作・プロデュースを行ったAを代表取締役として設立された被告ORSOと混同されているというものであり、かつ、被告作品の内容、品質は、原告作品に勝ることはあっても劣ることはない。
 したがって、被告らの行為によって原告の社会的信用と営業上の信頼に被害が生じたということはない。
オ 弁護士費用
[原告の主張]
 原告は、被告らによる原告作品の模倣行為によって本件訴えを提起することを余儀なくされた。本件の難易、性質、請求額、内容等に照らすと、本件訴えの提起、追行のために原告が要する弁護士費用のうち被告らの不法行為に基づく損害額は、8500万円を下らない。
[被告らの主張]
 原告の主張を否認し争う。
(6) 争点5(被告らによる謝罪広告の要否)について
[原告の主張]
 被告らは、明らかに模倣の意図をもって原告作品と酷似する被告作品を製作して配信を開始し、本件訴訟提起前の交渉時に原告が配信中止の警告を発したにもかかわらず、これを無視して配信を継続し、多数のユーザーを獲得して被告作品を広めるなど、極めて悪質な行動をしてきた。
 しかも、原告と被告ディー・エヌ・エーとは、ともに携帯電話機用SNS事業や携帯電話機用ゲームソフトウェアの製作、配信等を営む、活動領域が共通の同業者である。携帯電話機用ゲームの場合、ユーザーが、対面販売や店頭販売のように供給者から直接商品の説明を受ける機会がないため、被告作品の公衆送信の差止めや影像の抹消だけでは、全国の多数のユーザーの間に既に生じている誤解を解消することはできず、ユーザーの認識を変えるための被告らによる積極的な意思表明が必要である。
 原告は、被告らに対し被告作品の公衆送信の差止めや損害賠償等を請求しているが、これらの措置だけでは原告の救済として不十分であり、被告らに対して謝罪広告(著作権法115条、不競法14条、民法723条)を命ずべき必要性は極めて大きい。
[被告らの主張]
 原告の主張を争う。
 被告らが原告の名誉、声望、信用を害した事実はなく、謝罪広告の必要性はない。
第3 争点に対する判断
1 争点1−1(被告作品における「魚の引き寄せ画面」は、原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
(1) 前記争いのない事実等に加え、証拠(甲4、55、乙1、43、44の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告作品における魚の引き寄せ画面
(ア) 原告は、平成19年ころ、原告作品を製作し、同年5月24日から、携帯電話機向けGREEにおいて、その会員に対し、原告作品の公衆送信による配信を始めた。
(イ) 原告作品では、別紙比較対照表2−1のとおり、トップ画面の次に、海釣り又は川釣りを選択する釣り場選択画面に遷移し、ユーザーが海釣りか川釣りかを選択した上で、海釣り(又は川釣り)における釣り場を選択する釣り場選択画面へと遷移し、ユーザーが釣り場を選択すると、その釣り場のキャスティング画面に遷移する。
(ウ) ユーザーは、キャスティング画面において、釣り竿で魚のキャストをし、魚がルアー(海釣りの場合)又は餌(川釣りの場合)に食い付くと、魚の引き寄せ画面に遷移する。
(エ) 原告作品における魚の引き寄せ画面の影像は、次のとおりである。
a 水面及びその上の様子は画面から捨象され、水中のみが、真横から水平方向の視点で描かれている。
b 水中の画像には、中心からほぼ等間隔である三重の同心円が描かれ、同心円の中心は、画面のほぼ中央に位置する。最も外側の円の大きさ(面積)は、水中の画像の約半分を占める。
  円の配色は、外側のドーナツ部分及び中心の円の部分には、水中を表現する青色よりも薄い色を用い、上記ドーナツ部分と中心の円部分の間には、背景の水中画面がそのまま表示される。
c 水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に薄暗い青で、水底の左右両端付近に、上記同心円に沿うような形で岩陰が描かれ、水草、他の生物、気泡等は描かれていない。岩陰は、上記同心円よりも手前に配置されている。
d 水中の画像には、一匹の黒色の魚影が、魚影を側面から見た形で円盤状の胴体と三角形の尾びれの組合せにより描かれており、魚の口から画像の上部に向かって黒い直線の糸(釣り糸)が伸びている。魚影は、上記同心円よりも手前に配置されている。
e 釣り針にかかった魚影は、頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回り、釣り糸と魚影は、振り子のような動きをする。その際、同心円や背景画像は静止しており、ユーザーの視点は固定されている。
f 原告作品では、魚影が同心円の中心部に近ければ近いほど、釣り竿で魚を引き寄せやすくなっており、魚影が中央の円にある際にユーザーが決定キーを押すと、「PERFECT」との表示がされる。同様に、中央の円とドーナツ形状との間に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GREAT」、ドーナツ形状の内側に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GOOD」、それ以外の時に決定キーを押した場合は「BAD」と表示される。
イ 被告作品における魚の引き寄せ画面
(ア) 被告らは、平成21年ころ、被告作品を共同製作し、同年2月25日、携帯電話機向けモバゲータウンにおいて、その会員一般に対し、被告作品の公衆送信による配信を始めた。
(イ) 被告作品では、別紙比較対照表2−2のとおり、トップ画面の次に釣り場選択画面に遷移し、ユーザーが釣り場を選択すると、決定キーを押す画面を経た上で、その釣り場面でのキャスティング画面に遷移する。
(ウ) ユーザーは、キャスティング画面において、釣り竿で魚のキャストをし、魚が餌に食い付くと、魚の引き寄せ画面に遷移する。
(エ) 被告作品における魚の引き寄せ画面の影像は、次のとおりである。
a 魚の引き寄せ画面に移ると、別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ映像)のとおり、水中の画面を魚影が右から左へ移動し、更に画面奥に移動した後、後記同心円が表示され、魚影が奥から手前へ向かってくる。
 水面及びその上の様子は画面から捨象され、水中のみが、真横から水平方向の視点で描かれている。
b 水中の画像には、中心からほぼ等間隔である三重の同心円が描かれ、同心円の中心は、画面のほぼ中央に位置する。最も外側の円の大きさ(面積)は、水中の画像の約半分を占める。
 同心円は、その中心の円から放射状に伸びる5本の直線により11個に分割され、中心の円を除いた部分に、緑色と赤色が配色される。上記放射線による仕切り部分は、背景と同じ青色である。
c 水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に薄暗い青で、水底の左右両端付近に、上記同心円に沿うような形で岩陰が描かれ、水草、他の生物、気泡等は描かれていない。岩陰は、上記同心円よりも奥に配置されている。
d 水中の画像には、一匹の黒色の魚影が、正面から見た形で、尾びれ、背びれ、胸びれを付けて描かれており、魚の口から画像上部に向かって黒い直線の糸(釣り糸)が伸びている。魚影は、上記同心円よりも奥に配置されている。
e 釣り針にかかった魚影は、頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回り、釣り糸は画面の左上に向かって伸びている。その際、上記同心円を除く背景画像は静止しており、ユーザーの視点は固定されている。
 他方、上記同心円の大きさは、一定のパラメータ値に応じて9段階に変化し、同心円の配色部分の数及び場所も、魚の引き寄せ画面ごとに異なり、同一画面内でも変化する。また、同心円の中央の円の部分は、コインが回転するような動きをし、緑色無地、銀色の背景に金色の釣り針、鮮やかな緑の背景に黄色の星マーク、金色の背景に銀色の銛、黒色の背景に赤字の×印の5種類に変化する。
f 被告作品では、魚影が同心円の一定の位置にある時に魚を釣り竿で引き寄せやすくなっており、同心円の緑色で配色された部分に魚影がある際に決定キーを押すと、画面上方に「Good」と表示される。同様に、同心円の赤色で配色された部分及び同心円以外の部分に魚影がある際に決定キーを押すと、画面上部に「Out」と表示される。また、中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと、中央の円の部分の表示に応じて、「必殺金縛り」、「確変」、「一本釣りモード」などの表示がアニメーションとして表示され、その後の表示も異なってくる。
(2) 原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面とを対比すると、両者は、@ 水面及びその上の様子は画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向の視点で描かれている点、A 水中の画像には、中心からほぼ等間隔である三重の同心円が描かれ、同心円の中心が画面のほぼ中央に位置し、最も外側の円の大きさは、水中の画像の約半分を占める点、B 水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に薄暗い青で、水底の左右両端付近に、上記同心円に沿うような形で岩陰が描かれ、水草、他の生物、気泡等は描かれていない点、C水中の画像には、一匹の黒色の魚影が描かれており、魚の口から画像上部に向かって黒い直線の糸(釣り糸)が伸びている点、D 釣り針にかかった魚影は、頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回り、その際、背景画像は静止しており(ただし、被告作品では、同心円の大きさや配色、中心の円の画像が変化する。)、ユーザーの視点は固定されている点、E 上記同心円中の一定の位置に魚影がある場合にユーザーが決定キーを押すと、魚を引き寄せやすくなっている点、などにおいて共通することが認められる。また、証拠(甲3)によれば、原告作品以前に公表された携帯電話機用釣りゲームにおいて、上記共通点をいずれも備えるゲームは存在しなかったことが認められる。
(3) 他方、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面とは、@被告作品では、同心円が表示される前に、水中の画面を魚影が移動する場面が存在する点、A同心円の配色、B魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係、C魚影が動き回っている間、被告作品では、同心円の大きさ、配色及び中央の円の部分の画像が変化する点、D同心円のどの位置に魚影がある際に決定キーを押すと魚を引き寄せやすくなっているのかという点、E被告作品では、中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと、円の中心部分の表示に応じてアニメーションが表示され、その後の表示も異なってくる点、などにおいて相違することが認められる。
(4) 携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面は、釣り針に掛かった魚をユーザーが釣り糸を巻くなどの操作をして引き寄せる過程を、影像的に表現した部分であり、この画面の描き方については、@水面より上や水面、水面下のうちどの部分を、どのような視点から描くか、A仮に、水面下のみを描くこととした場合、魚の姿や魚の背景をどのように描くか、B魚が釣り針に掛かった時から、魚が釣り上げられる又は魚に逃げられるまでの間、魚にどのような動きをさせ、どのような場合に魚を引き寄せやすいようにするか(ユーザーが釣り糸を巻くタイミングをどのように表現するか)などの点において、様々な選択肢が考えられる。
 原告作品は、この魚の引き寄せ画面について、上記(2)ア(エ)のような具体的表現を採用したものであり、特に、水中に三重の同心円を大きく描き、釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ、魚を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表した点は、原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり(甲3)、この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。
 他方、被告作品の魚の引き寄せ画面は、上記のとおり原告作品との相違点を有するものの、原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴といえる、「水面上を捨象して、水中のみを真横から水平方向の視点で描いている点」、「水中の中央に、三重の同心円を大きく描いている点」、「水中の魚を黒い魚影で表示し、魚影が水中全体を動き回るようにし、水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で統一し、水底と岩陰のみを配置した点」、「魚を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の一定の位置に来たときに決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点」についての同一性は、被告作品の中に維持されている。
 したがって、被告作品の魚の引き寄せ画面は、原告作品の魚の引き寄せ画面との同一性を維持しながら、同心円の配色や、魚影が同心円上のどの位置にある時に魚を引き寄せやすくするかという点等に変更を加えて、新たに被告作品の製作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり、これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。また、これらの事実に加えて、被告作品の製作された時期は原告作品の製作された時期の約2年後であること、被告らは被告作品を製作する際に原告作品の存在及びその内容を知っていたこと(甲1の1、2)を考慮すると、被告作品の魚の引き寄せ画面は、原告作品の魚の引き寄せ画面に依拠して作成されたものといえ、原告作品の魚の引き寄せ画面を翻案したものであると認められる。
(5) これに対し、被告らは、原告が魚の引き寄せ画面に関して原告作品と被告作品とで同一性を有すると主張する部分は、いずれも、単なるアイデア又は平凡かつありふれた表現にすぎず、創作的表現とはいえないと主張する。
 しかしながら、原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通点は、単に、「水面上を捨象して水中のみを表示する」、「水中に三重の同心円を表示する」、「魚の姿を魚影で表す」などといったアイデアにとどまるものではなく、「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」、「同心円の背景や水中の魚の姿をどのように描き」、「魚にどのような動きをさせ」、「同心円やその背景及び魚との関係で釣り糸を巻くタイミングをどのように表すか」などの点において多数の選択の幅がある中で、上記の具体的な表現を採用したものであるから、これらの共通点が単なるアイデアにすぎないとはいえない。
 また、原告作品が配信される以前にも携帯電話機用釣りゲームは多数配信されていたが、上記共通点をすべて備えたゲームや、原告作品の製作者の個性が強く表れている、水中に三重の同心円を描いて魚影と同心円との位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現しているゲームは一つも存在しなかったと認められることについては、上記認定のとおりである。したがって、上記共通部分が平凡かつありふれたものであって創作性を欠くともいえない。
(6) 被告らは、原告作品と被告作品には上記のような相違点が存在することから、被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面を表現する固有の本質的特徴を看取することはできないとも主張する。
 しかしながら、上記相違点は、いずれも、短時間の特定の場面を付加したにすぎないもの(相違点@)、表現上のささいな違いにとどまるもの(相違点A)、ゲームの製作者であれば比較的容易に思い付く演出にすぎないもの(相違点B〜E)であり、これらの相違点を総合的に検討しても、被告作品の魚の引き寄せ画面は原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものといえるから、被告作品の魚の引き寄せ画面に接した者は、上記の相違点にかかわらず、原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的特徴を感得することができるというべきである。
(7) 上記のとおり、被告らは、被告作品を共同製作して公衆に送信しており、これらの行為は、原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の著作権(翻案権、公衆送信権)を侵害するものであると認められる。
 また、被告らは、原告作品の魚の引き寄せ画面を改変することにより被告作品の魚の引き寄せ画面を作成したものであり、これが原告の意に反するものであることは明らかであるから、被告らの行為は、原告が原告作品に対して有する同一性保持権を侵害するものであると認められる。
 そして、被告らは、原告から本件訴えが提起された後も、被告作品の公衆送信を続け、本件訴訟においても著作権侵害の有無を争っていることが認められる。そうである以上、原告は、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告作品の複製及び公衆送信の差止めを求めることができる。
 さらに、被告作品が原告作品の翻案物と認められることから、被告作品を記録した記録媒体は、原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の翻案権の侵害行為によって作成された物といえる。したがって、原告は、被告らに対し、著作権法112条2項に基づき、被告作品を記録した記憶媒体の廃棄を求めることができる。
2 争点1−2(被告作品における主要画面の変遷は、原告作品における主要画面の変遷に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものか)について
(1) 原告は、原告作品と被告作品とは、主要画面の遷移(画面の選択と配列)や、主要画面に用いられた素材の選択・配列において類似している上、非主要画面においても類似点が多数存在しているため、被告作品の中に原告作品の著作物が全体にわたって再現されているということができ、被告作品に接した者は、原告作品の表現上の本質的特徴を直接感得することができるから、被告作品は原告作品の翻案物に当たると主張する。
(2) 原告作品と被告作品における画面の遷移について
ア 前記1(1)に掲記した各証拠によれば、原告作品と被告作品は、別紙比較対照表2−1及び2−2のとおり、いずれも、@ 「トップ画面」、「釣り場選択画面」、「キャスティング画面」、「魚の引き寄せ画面」、「釣果画面(釣り上げ成功時)」及び「釣果画面(釣り上げ失敗時)」を備えること、A これらの画面は、ユーザーの操作に従い、「トップ画面」→「釣り場選択画面」→「キャスティング画面」→「魚の引き寄せ画面」→「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」の順に遷移すること、B ゲームを繰り返し行いたいと考えるユーザーは、「トップ画面」に戻らなくとも、「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」から「釣り場選択画面」ないし「キャスティング画面」(被告作品の場合は「キャスティング画面」の前に「決定画面」)に戻ることにより、ゲームを繰り返すことができること、が認められる。
イ 他方、前掲証拠によれば、原告作品や被告作品中には、原告作品には存在するが被告作品には存在しない画面(海釣り又は川釣りを選択する画面、川釣りの釣り場を選択する画面等)や、被告作品には存在するが原告作品には存在しない画面(釣果画面からキャスティング画面に遷移する前に決定キーを押す画面、船釣りの画面等)が存在することが認められる。
 また、証拠(甲23、乙16〜23)及び弁論の全趣旨によれば、@ 携帯電話機用釣りゲームは、一般に、ユーザーが携帯電話の画面上において釣り竿を用いて水中の魚を釣り上げようと試みることを楽しむものであり、釣り竿を上げるタイミングなどによって釣り上げに成功するか失敗するかが決まり、その結果(釣り上げに成功したか否か)が画面上に表示されるものであること、A そのため、原告作品以前に配信された携帯電話機用釣りゲームの大半は、「トップ画面」、「キャスティング画面」、「釣果画面(釣り上げ成功時)」、「釣果画面(釣り上げ失敗時)」を備えており、ゲームの遊戯性を高めるために「魚の引き寄せ画面」を備えているものも多いこと、B 現実の釣りでは、釣りを行うことが可能な場所は必ずしも1か所に限定されるものではなく、海釣り施設、港や防波堤、砂浜、小磯周りなど様々な場所が想定され、携帯電話機用釣りゲームでも、複数の釣り場の中からユーザーに釣り場を選択させる画面を設けるものが少なからず存在すること、が認められる。
 さらに、これらの画面を、「トップ画面」→「釣り場選択画面」→「キャスティング画面」→「魚の引き寄せ画面」→「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」の順に配列し、かつ、トップ画面に戻らなくてもゲームを継続することができるようにすることは、複数の釣り場において釣りを行う場合の釣り人の通常の行動を時系列に並べたものと一致し、ごく自然な流れであるといえる。
ウ 以上のとおり、原告作品と被告作品とは、画面の選択において、少なからず相違点が認められる上、他の携帯電話機用釣りゲームにおいて設けられている画面の状況や、現実の釣り人の行動様式等を考慮すると、携帯電話機用釣りゲームを製作するに当たって上記アの5つの場面を設け、これを上記アのとおり配列すること自体は、ありふれたものであって、原告作品においてこれらの画面を選択、配列したことに創作性は認められず、被告作品がこのように創作性の認められない画面の選択と配列において類似していることは、被告作品が原告作品の翻案物であることを何ら根拠付けるものではないというべきである。
(3) 原告作品と被告作品の画面の素材の選択及び配列について
ア 原告は、原告作品と被告作品とは、前記第2の3(2)[原告の主張]のとおり、主要画面に用いられた素材の選択・配列において類似している上、非主要画面においても類似点が多数存在するものであり、主要画面の遷移の共通性とあいまって、被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、被告作品は原告作品の翻案物であると主張する。
イ 主要画面の素材の選択・配列について
(ア) 証拠(甲6〜10、乙2、41)及び弁論の全趣旨によれば、原告作品と被告作品とは、原告が主要画面であると主張する「トップ画面」、「釣り場選択画面」、「キャスティング画面」、「魚の引き寄せ画面」、「釣果画面(釣り上げ成功時)」及び「釣果画面(釣り上げ失敗時)」に掲載されている情報やリンクの配置の仕方等について、次のような類似点が存在することが認められる(別紙比較対照表2−1、2−2、別紙キャスティング画面の比較検討報告書参照)。
a トップ画面について
(a) トップ画面のイラストは、湾の形をした釣り場全体を描き、画面下部に海を描き、画面上部に山と晴れた空、雲、緑を描いている。
(b) 日誌画面と攻略法画面へのリンクが隣接してひとまとまりで置かれている。
(c) 釣具画面とショップ画面へのリンクが隣接してひとまとまりで置かれている。
(d) イベント等告知画面へのリンクや特定のユーザーの紹介画面へのリンクを配置している。
b 釣り場選択画面について
(a) 釣り場選択画面のイラストは、海の側から釣り場のある湾を上空からの視点で描き、画面下部に海、画面上部には緑のある山を描き、砂浜は白砂で、海面に白波を立たせ、灯台を置いている。
(b) 上記イラストには、釣り場の名前が合計4つ配置されている。
(c) 釣り場全体のイラストのそばに、ユーザーが行ける各釣り場の名称に貼られた各釣り場のキャスティング画面へのリンクと、ユーザーが行けない釣り場の名称が、並べて配置されている。
(d) 画面上部にある釣り場全体のイラストと各釣り場の「キャスティング画面」へのリンクとは別に、「釣り場情報」として、各釣り場のイラスト・名称や、「キャスティング画面」へのリンク、その釣り場で大きい魚を釣ったユーザーのランキングを示す画面へのリンク、攻略・雑談掲示板の画面へのリンクなどがまとめて配置されている。ユーザーが行けない釣り場には、今の称号(階級)では行くことができない旨の文章が表示されている。
(e) 釣具画面・ショップ画面へのリンクが、隣接して配置されている。
(f) 攻略情報をユーザー間で交換する「攻略掲示板」と、雑談をユーザー間で行う「雑談掲示板」へのリンクが配置されている。
c キャスティング画面について
(a) 釣り人の姿は表示されない。
(b) (原告作品では海の釣り場の場合、)釣り人からの目線で、画面の上段に空、中段に水面、下段に釣り人の立っている場所が表現されている。
(c) キャストする目標を指し示すマークが決まった動きをし、ユーザーが決定キーを押すと、釣り竿を振る動きがアニメーションで表現されるとともに、その箇所に釣り針がキャストされる。
(d) 原告作品では川の釣り場の場合、)水面に小さな魚影がランダムで現れ、釣り針がキャストされると画面右上に浮きが表示され、魚が釣り針に食い付くと浮きが沈み、魚が釣り針に掛かると魚が釣り針に掛かった旨の文言が画面中央に大きく表示される。
d 魚の引き寄せ画面について
 原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面における類似点は、前記(1)に認定したとおりである。
e 釣果画面(釣り上げ成功時)について
(a) 画面最上部に、釣り上げた魚の情報及びユーザーの釣果記録として、釣り上げた魚のイラスト影像、名前、大きさ、評価を示す「☆」印、ユーザーが当該魚を釣ることによって獲得したポイント、ユーザーが今日獲得したポイント、ユーザーが今日獲得したポイントの順位兼ユーザーが今日獲得したポイントのランキングへのハイパーリンク、ユーザーが獲得したポイントの総数及びユーザーが獲得したポイントの総数の順位兼ユーザーが獲得したポイントの総数のランキングへのハイパーリンクが配置されている。
(b) 背景にイラストを置かず、画面の上部の背景を無地又は淡い地として、その中央に釣った魚のイラストを表示している。
(c) 釣具画面とショップ画面へのリンクが配置されている。
f 釣果画面(釣り上げ失敗時)についいて
(a) 表題、「?」印を中央部に付した魚影の影像、釣り上げに失敗した魚の種類とおおよその大きさを表示している。
(b) ユーザーが直前まで釣りをしていた釣り場のキャスティング画面、釣り場選択画面、釣り具、ショップ及び攻略法の画面へのハイパーリンクを配置している。
(イ) しかしながら、上記類似点の中には、特定の画面に所定の画面へのリンクを配置すること、複数のリンクを隣接して配置すること、釣果画面に掲載する情報などという、表現ではなくアイデアにすぎないものが、多く含まれている。また、釣果画面に、釣り上げた魚のイラスト影像や名前、大きさを掲載することなどは、原告作品以前に配信された他の携帯電話機用釣りゲームでもしばしばみられた、ありふれたものである(甲3)。
 また、証拠(乙4、7〜10、30、31、37〜39)及び弁論の全趣旨によれば、ウェブページ閲覧機能を用いた携帯電話機用ゲームを製作する場合、前記第2の3(2)[被告らの主張]のとおり、利用者によるリンクの発見や閲覧の容易性、操作等の利便性の観点から、リンクの貼り方等の画面構成に様々な制約が存在すること、SNSに組み込まれたゲームでは、多数のユーザーで順位を競い合ったり、ユーザー同士でゲームの攻略法等の情報を交換したり、ユーザー同士がチームを組んでゲームに参加することができるようにすることは、比較的ありふれたものであること、などが認められ、これらの事実に照らすと、上記類似点として挙げられるリンクの選択や配置方法等は、ありふれたものであり、この点の表現に創作性を認めることはできない。
 さらに、原告作品と被告作品とは、原告が主要画面であると主張する上記「トップ画面」等に掲載された個々のイラスト(画像)、文章、名称等の表現についてみると、別紙報告書(主要画面の相違点)記載のとおり、原告作品と被告作品とで表現においてかなり相違するものが多数存在し、リンクの配置の仕方についても、多数の相違点が存在することが認められる。
(エ) 以上の点を考慮すると、主要画面の素材の選択・配列について、原告作品と被告作品とは、アイデアないし表現上の創作性のない部分において類似しているというにすぎないといえる。
ウ 非主要画面について
 原告は、前記第2の3(2)[原告の主張]イ(ウ)のとおり、原告作品と被告作品は、ゲームをプレイする際に通過することが必須ではない非主要画面においてすらも、魚図鑑画面、日誌画面、攻略法画面等多くの画面において高い類似性が認められると主張する。
 しかしながら、原告が上記非主要画面において類似点であると主張する点も、上記イにおいて主要画面の類似点として挙げられたものと同様、単なるアイデアであったり、ありふれたもので創作性のない部分であるといえることは上記イで説示したところと同様であるから、非主要画面の素材の選択と配列についても、原告作品と被告作品とは、アイデアないし表現上の創作性のない部分において類似しているにすぎないといえる。
エ 以上のとおり、原告作品と被告作品の画面における素材の選択と配列について両作品が類似する点は、原告が主張画面であると主張する画面と非主要画面であると主張する画面のいずれも、アイデアないし表現上の創作性のない部分において類似するにすぎない。これに加えて、原告の主張する原告作品の主要画面の遷移には上記のとおり創作性が認められないことなどを併せ考えると、被告作品と原告作品における画面の選択と配列及び画面の素材の選択と配列に上記のような類似点があることは、被告作品が原告作品の翻案物であることを何ら根拠付けるものではないというべきである。
(4) 以上のとおりであるから、被告作品における主要画面の変遷が、原告作品における主要画面の変遷に係る原告の著作権ないし著作者人格権を侵害するとの原告の主張は理由がない。
3 争点2(被告らのウェブページに被告作品の魚の引き寄せ画面を掲載する行為は、他人の商品等表示として周知のものと同一又は類似の商品等表示を電気通信回線を通じて提供し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不競法2条1項1号)に当たるか)について
(1) 原告は、別紙影像目録3記載の原告作品の魚の引き寄せ画面は原告の商品等表示として周知性を有するものであり、被告らが被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)を被告作品紹介画面(モバゲータウン)に掲載したこと及び被告ORSOが被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)を被告作品紹介画面(被告ORSO)に掲載したことは、被告作品の魚の引き寄せ画面を商品等表示として用いたものであって、不競法2条1項1号の混同惹起行為に当たると主張する。
(2) しかしながら、被告作品紹介画面(モバゲータウン)が掲載されたと認められる平成21年7月(甲16)及び被告作品紹介画面(被告ORSO)が掲載されたと認められる平成21年8月(甲17)までに、原告作品の魚の引き寄せ画面が自他識別力を有する商品等表示として周知性を有していたと認めるに足る証拠はない。原告は、電車内広告やテレビコマーシャル、新聞、雑誌等での広告などにより強力な宣伝、広告活動がされたこと、原告の登録ユーザー数が多数に上る(甲15)と主張する。
 しかしながら、原告がその主張の根拠として挙げる電車内広告(甲12の1、2)やテレビコマーシャル(甲13の1、2)、新聞・雑誌(甲14の1〜3)等の宣伝広告においては、原告作品の魚の引き寄せ画面は、複数のゲーム画面の一つとして掲載されているにすぎず、これらの宣伝、広告によって魚の引き寄せ画面が、周知の商品等表示性を獲得したと認めることはできない。
 また、原告作品中には、魚の引き寄せ画面以外にも多数の画面があることは既に説示したところから明らかであることに照らすと、原告作品のユーザー数が多数に上ることをもって直ちに、魚の引き寄せ画面が商品等表示性を獲得したと認めることはできない。他に、これを認めるに足りる証拠はない。
(3) また、証拠(甲16、17)及び弁論の全趣旨によれば、被告作品紹介画面(モバゲータウン)における被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)及び被告作品紹介画面(被告ORSO)における被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)の掲載態様は、次のとおりであると認められる。
ア 被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)の掲載態様
(ア) 被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は、被告作品のユーザーとなっていないモバゲータウンの会員が被告作品のウェブページにアクセスした際に表示される初回トップページ(被告作品紹介画面(モバゲータウン))にのみ表示される。
(イ) 被告作品紹介画面(モバゲータウン)には、その最上段に、「釣りゲータウン2」の文字(ロゴ)と水中の魚を真横からの視点で描いた横長の長方形のイラストが表示されている。
 上記イラストのすぐ下部には、「無料で遊べる」、「釣りゲータウン2を始める」、「大好評の釣りゲータウンが2になって再登場」というハイパーリンクが貼られている。
 上記リンクの下部には、「ここが進化した釣りゲ2!!」という文字が記載された欄の下に、次のとおり、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)を含む4つの画像(大きさは、いずれも上記イラストの5分の1以下である。)が縦一列に並び、各画像の横に文章が掲載されている。
@ 一番上段の画像は、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)であり、その横に、「ゲームシステムが一新」、「確変システムを導入したドキドキのワンボタンゲームに進化!」という文章が掲載されている。
A 上から2番目の画像は、「アバターGET!」の文字と、太陽が輝く青空の下で拳を突き上げる3本の腕を描いたものであり、その横に、「釣ってポイントGET」、「釣った分だけ貯まる釣ポ<P>とアイテムが交換できる!」という文章が掲載されている。
B 上から3番目の画像は、「ポイントでGET!」の文字と釣り竿等のアイテムを描いたものであり、その横に、「魚の種類が増えた」、「幻の魚『リュウグウノヒメ』を含む全100種類にボリュームアップ」という文章が掲載されている。
C 一番下段の画像は、「全100種類!」の文字と複数の魚の姿を描いたものであり、その横に、「チームで楽しむ」、「30人のチームが組める!攻略情報を共有して目指せNo.1!!」という文章が掲載されている。
イ 被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)の掲載態様
(ア) 被告作品紹介画面(被告ORSO)は、被告ORSOのホームページに掲載されている。
(イ) 被告作品紹介画面(被告ORSO)には、その最上段に「アイテム課金型ゲーム『釣りゲータウン2』」という文字が掲載されている。
 被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)は、上記文字のすぐ下部に掲載されている。同画面の右横には、次のような文章が掲載されている。
 「ケータイ総合ポータルサイト『モバゲータウン』にて配信中」
 「“釣りゲータウン”とは、魚・漁場・道具をリアルに表現することによって、いままでのFlashRミニゲームにない、コレクション性やコミュニティ要素のある、アイテム課金型本格釣りゲームサイトです。」
 「ゲームの特徴として、『キレイ・カンタン・スグデキル』をコンセプトに、ライトユーザーでもすぐに楽しめる『釣り』の世界観を体感でき、ユーザー間でのコミュニケーションを促進するコンテンツとなっています。」
 「また、魚の行動や好物を推理し、道具を選んで仕掛けを作る攻略感や 大潮など季節に合わせたイベントや『クエスト』で提示されたノルマをクリアすることで、レアアイテムや次のクエストに進むことができるのも“釣りゲータウン”の特徴となっています。」
 被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)及び上記文章の下部には、「釣りゲータウン2」の文字(ロゴ)と水中の魚を真横からの視点で描いた横長の長方形のイラスト(上部に4枚の写真が掲載されている以外は、上記アのイラストに類似するもの)が被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)よりも大きなサイズで掲載され、その横には、「釣りゲータウン2」との文字や、モバゲータウンのアドレス(URL)、モバゲータウンを紹介する文章等が掲載されている。
 上記認定の被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)の掲載態様によれば、被告作品紹介画面(モバゲータウン)において被告作品を表示するものとして用いられているのは、同画面の最上段のイラストに掲載された「釣りゲータウン2」のロゴ及びその下のハイパーリンクの「釣りゲータウン2」という文字であり、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は、同画像の上下にこれと同一の大きさで並べられている画像と同様に、被告作品の内容を紹介するための画像として使用されているものであり、商品又は営業を表示し自他を識別するする商品等表示として使用されているものと認めることはできない。
 被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)についても、上記認定の同画面の掲載態様によれば、被告作品紹介画面(被告ORSO)において被告作品を表示するものとして用いられているのは、同画面の最上段の「釣りゲータウン2」という文字や同画面の下部のイラストに掲載された「釣りゲータウン2」のロゴであり、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)は、同画像の右側に掲載された文章とあわせて、被告作品の内容を紹介するための画像として使用されているものであり、商品又は営業を表示し自他を識別する商品等表示として使用されているものとは認められないというべきである。
 したがって、被告作品の魚の引き寄せ画面(モバゲータウン)及び被告作品の魚の引き寄せ画面(被告ORSO)が不競法2条1項1号の不正競争行為に当たるとの原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
4 争点3(被告作品を製作し公衆に送信する行為は、原告の法的保護に値する利益を侵害する不法行為に当たるか)について
(1) 原告は、被告らは原告作品に依拠して、原告作品と酷似する被告作品を製作し、これを原告作品と同一の需要者層に向けて配信して利益を得たものであり、これによって原告が原告作品より受ける収益が減少していることから、被告らの上記行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものであり、不法行為責任が生じると主張する。
(2) 被告らが、原告作品の魚の引き寄せ画面に依拠して被告作品の魚の引き寄せ画面を製作し、原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の著作権を侵害したと認められることについては、前記1で説示したとおりである。
 他方、被告作品のうち魚の引き寄せ画面を除く部分は、被告作品における画面の選択と配列や画面に用いられた素材の選択と配列につき、原告作品と表現を異にする部分が多数に上り、原告作品との類似点があったとしても、アイデアないし表現上の創作性のない部分において類似しているにすぎず、原告作品に係る原告の著作権を侵害するものとはいえないことについては、前記2で説示したとおりである。
 そうすると、仮に、被告らが、被告作品を制作するに当たって、原告作品の魚の引き寄せ画面以外の部分についても参考にした可能性があるとしても、上記著作権侵害が認められる部分を超えて、被告らの行為を自由競争の範囲を逸脱し原告の法的に保護された利益を侵害する違法な行為であるということはできないから、民法上の一般不法行為は成立しないというべきである。原告の主張は理由がない。
5 争点4(原告の損害)について
 以上のとおり、本件では、原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の著作権(翻案権、公衆送信権)が被告らにより侵害されたものと認められる。これによる原告の損害について、以下検討する。
(1) 著作権法114条2項による損害について
ア 著作権法114条2項の適用の可否について
(ア) 証拠(甲58、68、乙46、47、60、84、85)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 原告作品と被告作品は、いずれも、携帯電話機を利用する、いわゆる無料ゲームである。ユーザーは、これらの作品を無料でプレイすることができ、ユーザーがこれらの作品をプレイすることによって、当然に原告ないし被告らに売上げが生じるものではない。
b 原告作品と被告作品は、いずれも、ユーザーが魚の釣り上げを容易にする目的のためなどに使用することのできるアイテム(品目)をそろえている。ユーザーは、釣り具等のアイテムを入手してそれをゲームで使用した場合、アイテムを使用しない場合よりも有利に魚を引き寄せることなどができる。
c 原告作品がそろえているアイテムは、サオ(14種)、仕掛け(5種)、リール(5種)、えさ(7種)、ルアー(7種)、魚拓セット、おさかな金貨である。
 被告作品がそろえているアイテムは、釣り竿(計9種)、しかけ(計10種)、えさ(計8種)、水槽(5種以上)、魚拓セット(1種)のほか、期間限定のえさ、しかけなどである。
d 原告作品も被告作品も、ユーザーがアイテムを入手する方法としては、ゲーム中で魚を釣り上げて貯めたポイントと引き換える方法と、仮想通貨(原告作品では、原告の発行する「ゴールド」であり、被告作品では、被告ディー・エヌ・エーの発行する「モバコイン」である。)と引き換えに購入する方法の2つがある。魚を釣り上げるのにより効果的で、すぐにアイテムを入手することができるのは、仮想通貨を使う方法である。
e 原告作品のユーザーがゴールドを獲得する主な方法には、@原告の商品・サービスを利用する方法と、AGREE内に置かれた他社広告を通じて他社サービスに登録する方法とがある。
 @の場合、ユーザーは、原告が提供する商品・サービスに金銭を支払い、これによりユーザーはゴールドを得ることができ、その支払は原告の収益になる。
 Aの場合、ユーザーがGREE内の他社広告を通じて他社のサービスに登録すると、ユーザーはゴールドをもらうことができ、原告も、広告主から広告料を得て収益となる。
 原告の事業構造は、原告作品によるSNS連動型ゲームのラインナップを拡充し、ゴールドの利用を促すことで、上記@のような有料サービスの売上げや、上記Aのような成果報酬型広告、ユーザー数の拡大を牽引する事業構造となっている。
f 被告作品のユーザーがモバコインを獲得する方法は、モバゲータウン内で、被告ディー・エヌ・エーに対価(1モバコイン=1円)を支払って購入することによる。ユーザーがモバコインを用いて被告作品のアイテムを購入することにより、被告ディー・エヌ・エーの売上げとして計上される。
(イ) 上記認定事実によれば、原告作品と被告作品は、いずれも携帯電話機用ゲームであり、釣りのジャンルに属するものであるから、両作品は、市場において競合する商品である。
 また、被告らは、被告作品の配信を開始して以後、ユーザーがモバコインを用いて被告作品のアイテムを購入することにより、売上げを得ているものである。上記アイテムは、被告作品をプレイする際の魚の引き寄せを容易にしたり、被告作品をプレイして釣り上げた魚の魚拓をとったり水槽に入れたりすることに用いられるものであるから、アイテムを購入する者は、被告作品の魚の引き寄せ画面を見て被告作品をプレイしたり、同画面を見て被告作品をプレイして釣り上げた魚の魚拓をとる者であるといえる。
 したがって、被告らは、原告作品の魚の引き寄せ画面の翻案物である被告作品の魚の引き寄せ画面を製作し公衆送信するという著作権侵害の行為により、上記アイテムの売上げという「利益を受けている」(著作権法114条2項)と認められる。
 他方、原告は、原告作品のアイテムをユーザーから対価の支払を受けて販売しているものではない。原告は、ユーザーが原告作品のアイテムを入手するためのゴールドを求めるにあたって、ゴールドを入手するために原告の有料サービスを利用したり、GREE内に置かれた広告を通じて他社サービスを登録したりすることによって、上記サービスの代金や広告主からの広告料という収益を得ているものである。また、原告作品のアイテムを購入する者は、原告作品の魚の引き寄せ画面を見て原告作品をプレイしたり、同画面を見て原告作品をプレイして釣り上げた魚の魚拓をとる者であることについては、被告作品と同様である。
 そうすると、被告らがユーザーに被告作品のアイテムを使用させることにより利益を得る方法と、原告がユーザーに原告作品のアイテムを使用させることにより利益を得る方法とは、いずれも、それぞれの作品の魅力により、ユーザーにアイテムを取得するための仮想通貨を入手したいと思わせることを通じて、ユーザーに対価の支払を促し、これによって利益を得るものである点において、利益を得るための基本的な構造を同じくするものといえる。
 したがって、原告は、被告らが被告作品の魚の引き寄せ画面を製作しこれを公衆送信することによって、原告作品のアイテムを取得しようとする者が減少し、その結果、上記サービスの対価や広告収入等を失うという損害が生じているものといえ、この損害は著作権法114条2項の「損害」に当たるというべきである。
(ウ) 以上によれば、本件には、著作権法114条2項の適用が認められるというべきであり、これに反する被告らの主張は採用することができない。
イ 被告作品の配信による被告ディー・エヌ・エーの売上げについて
 被告作品の配信が開始された平成21年2月25日から平成23年7月7日までの被告作品の配信による被告ディー・エヌ・エーの売上げが8億6400万円を下らないことについては、当事者間に争いがない。
ウ 被告らの限界利益について
(ア) 被告らは、被告作品にかかる製造原価(サーバー購入費用、労務費)及び変動費(サーバー機器保守料、サーバーハウジング料、回線費用、支払手数料、広告宣伝費)は、別紙集計表記載のとおり合計4億7973万8330円であり、被告作品の売上げから上記金額を差し引いた限界利益は3億8426万1670円であると主張する。
(イ) しかしながら、被告らが被告作品にかかる製造原価(サーバー購入費用、労務費)及び変動費のうちサーバー機器保守料、サーバーハウジング料、回線費用及び支払手数料を支出したことの裏付けとして提出する証拠(乙71の1〜43、乙73の1〜49等)は、ごく一部(乙71の12、14)を除き、被告作品との関連性が明示されていないものであるから、これらの証拠をもって、被告らの主張する金額を被告作品にかかる製造原価及び変動費と認めることはできないというべきである。
 また、限界利益算定のために控除することのできる宣伝広告費は、当該商品の宣伝広告に用いられたものに限られるところ、被告らの主張する宣伝広告費が、被告作品の宣伝広告に用いられたものと認めるに足る証拠はない。
(ウ) 以上のとおり、被告作品にかかる製造原価及び変動費については、被告らの主張する金額を認めることはできず、本件証拠を精査しても、被被告作品にかかる製造原価及び変動費の合計額が原告の主張する金額(864,000,000 円−712,000,000 円)を上回ることを認めるに足りる証拠はない。
(エ) よって、被告作品の売上げによる被告らの限界利益の額は、7億1200万円と認めるのが相当である。
エ 魚の引き寄せ画面の寄与について
(ア) 本件において、被告作品の魚の引き寄せ画面が原告作品の魚の引き寄せ画面の翻案物であると認められ、被告作品の魚の引き寄せ画面を製作し配信する行為が原告の翻案権及び公衆送信権を侵害するものであることについては、前記1に説示したとおりである。また、携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面は、釣り針に掛かった魚をユーザーが釣り糸を巻くなどの操作をして引き寄せる過程を影像的に表現した部分であるから、釣りゲームをプレイする者が必ずたどる画面であり、原告作品においても不可欠かつ重要な画面であると認められる。
(イ) 他方、被告作品は、魚の引き寄せ画面のみによって構成されるものではなく、トップ画面、釣り場選択画面、キャスティング画面、釣果画面(釣り上げ成功時)、釣果画面(釣り上げ失敗時)などの画面も存在し、これらの画面も、ユーザーが被告作品をプレイする際には基本的にたどる場面であり、被告作品にとって不可欠で重要なものであると認められる。また、被告らは、これらの画面を製作するに当たって原告作品と異なる表現を用いているものであることについては、前記2で説示したとりである。
 また、前記(1)で認定したとおり、被告作品の配信による被告らの売上げは、被告作品をプレイすることにより当然に生じるものではなく、被告作品のアイテムの販売によるものであることからすると、被告作品の魚の引き寄せ画面を用いて被告製品をプレイすることの魅力のほかに、アイテム自体の魅力というものも一定程度寄与していることが認められる。
(ウ) これらの事情を総合的に考慮すると、被告製品の売上げに対する被告作品の魚の引き寄せ画面の寄与度は、30%とするのが相当である。
(エ) したがって、被告らが被告作品の配信により受けた利益の額(著作権法114条2項)は、2億1360万円(712,000,000 円×0.3)であると認められる。
(2) 無形損害について
 原告は、被告らが被告作品を配信したことで、全国の多数のユーザーに、原告作品(又は原告)と被告作品(又は被告ディー・エヌ・エー)とが同一であると誤認させ、ゲームの製作元を同一と誤認させ、原告作品と被告作品のどちらが真似をしたかが理解されていないなど、原告の社会的信用と営業上の信頼に深刻な被害が生じており、1億円の無形の損害が生じたと主張する。
 しかしながら、この点について原告の提出する証拠(甲18の1〜4、甲19等)によっても、被告作品及び原告作品のユーザーの一部に、原告作品と被告作品とを混同している者が存在することが認められるというにすぎず、原告の主張するように、被告らが被告作品を配信したことで、全国の多数のユーザーが原告作品(又は原告)と被告作品(又は被告ディー・エヌ・エー)とが同一であると誤認するなどして、原告の社会的信用と営業上の信頼に深刻な影響が出たということまで認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告の主張は理由がない。
(3) 弁護士費用について
 原告は、弁護士を選任して本件訴訟を追行しているものであり、本件事案の内容、認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は2100万円と認めるのが相当である。
(4) したがって、被告らは、原告に対し、上記(1)及び(2)の合計額である2億3460万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年7月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払う義務がある。
6 争点5(被告らによる謝罪広告の要否)について
(1) 原告は、被告らが被告作品を配信したことで、全国の多数のユーザーに、原告作品(又は原告)と被告作品(又は被告ディー・エヌ・エー)とが同一であると誤認させ、ゲームの製作元を同一と誤認させ、原告作品と被告作品のどちらがまねをしたかが理解されていないなどの誤解は、被告作品の公衆送信の差止めや影像の抹消だけでは解消することはできず、ユーザーの認識を変えるためには、被告らによる積極的な意思表明(謝罪広告)が必要であると主張する。
(2) しかしながら、本件に顕れた、被告らが被告作品を製作し配信したことによる、原告作品の魚の引き寄せ画面に係る原告の著作権の侵害の内容、態様等に照らすと、上記差止め及び損害に対する賠償金に加えて、原告の名誉、声望を回復するために適当な措置として、原告の請求する謝罪広告を掲載する必要性はないというべきである。
 したがって、原告の主張は理由がない。
7 以上によれば、原告の請求は主文第1項ないし第4項の限度で理由あるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、仮執行宣言については、主文第1 項ないし第3項については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 阿部正幸
 裁判官 山門優
 裁判官 志賀勝
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/