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【事件名】カラオケ「冬のソナタ」事件(2) 【年月日】平成24年2月14日 知財高裁 平成22年(ネ)第10024号 損害賠償請求控訴事件 (以下、一審原告控訴に係る事件をA事件、一審被告控訴に係る事件をB事件という。) (原審・東京地裁平成16年(ワ)第18443号) (口頭弁論終結日 平成23年9月26日) 判決 A事件控訴人・B事件被控訴人(一審原告) 株式会社アジア著作協会 訴訟代理人弁護士 水戸重之 同 古西桜子 同 加藤恭子 同 森安博行 同 松尾和廣 A事件被控訴人・B事件控訴人(一審被告) 株式会社第一興商 訴訟代理人弁護士 原秋彦 同 野宮拓 同 中川直政 主文 1 A事件につき 一審原告の控訴を棄却する。 2 B事件につき 一審被告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。 (1) 一審被告は、一審原告に対し、642万6464円及びこれに対する平成16年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 一審原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを100分し、その99を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とする。 4 この判決は、第2項(1)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 A事件につき(控訴人株式会社アジア著作協会) (1) 原判決中、一審原告の敗訴部分を取り消す。 (2) 一審被告は、一審原告に対し、2億2500万5495円及びこれに対する平成16年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも、一審被告の負担とする。 (4) 仮執行宣言 2 B事件につき(控訴人株式会社第一興商) (1) 原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。 (2)ア(主位的) 一審原告の訴えを却下する。 イ(予備的) 一審原告の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも、一審原告の負担とする。 第2 事案の概要(略号は原判決の例による。) 1 本件は、平成14年4月15日に設立され同年6月28日に文化庁長官から著作権等管理事業者の登録を受けた一審原告が、日本において通信カラオケ業を営む一審被告に対し、原著作権者(以下「原権利者」という。)である韓国内の作詞家・作曲家・音楽出版社等が権利を有する音楽著作物に関し、韓国法人である「株式会社ザ・ミュージックアジア」(日本語訳)・「The Music Asia」(英語訳)(以下「TMA社」という。ただし、平成18年10月4日に解散決議がなされ、平成19年3月28日に清算結了登記済み)を通じ又は原権利者から直接に、著作権の信託譲渡を受けた等として、平成14年6月28日から平成16年7月31日までの著作権(複製権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償金又は不当利得金9億7578万6000円及びこれに対する平成16年9月9日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 これに対し一審被告は、一審原告が譲り受けた楽曲の範囲を争うほか、韓国法人で原権利者から信託譲渡を受けて更に一審原告に上記信託譲渡をしたTMA社は本件訴訟係属中の平成18年7月に一審原告に対する信託譲渡契約を解除し、平成18年10月4日に解散決議をして平成19年3月28日に清算結了登記もしているから、一審原告は本件訴訟を追行する権限を有しない等と、争った。 2 平成22年2月10日になされた原判決(一審判決)は、原権利者らが一審原告に対し信託の清算事務として訴訟を追行することを認めるとの意思を表明している場合に限って一審原告の原告適格が認められる等として、その表明をしない原権利者に係る請求部分につき訴えを却下し、本件訴訟係属中の平成19年4月から6月にかけて書面(確認書B)によりその表明がなされた部分及び直接契約に係る部分に関しては、JASRAC規程の個別課金方式によって一審原告の損害額を算定して、一審被告に対し2300万5495円及び遅延損害金の支払を命じたものである(詳細は原判決のとおり)。 3 当事者双方は、上記一審判決にいずれも不服であったため、本件各控訴(A事件、B事件)を提起した。ただし、一審原告のなした控訴は、本訴請求の一部である2億2500万5495円と遅延損害金の支払を求める限度でなした一部控訴である。 なお、一審原告は、当審係属中の平成22年7月6日に至り、前記確認書Bと同様の趣旨で別の原権利者からの確認書D(甲145の1の1等)を提出した。 第3 当事者の主張 当事者双方の主張は、以下のとおり付加するほか、原判決(被告楽曲目録等を含む。)記載のとおりであるから、これを引用する。 1 当審における一審原告の主張 (1) 本件著作権は一審原告に帰属していること ア TMA社・原告契約の終了による管理権限(被告楽曲目録7)について (ア) 一審被告は、法定信託は信託財産を帰属権利者に移転するまでの間信託が存続しているとみなす制度にすぎないので、法定信託の存続は、信託財産が返還されているか否かで判断すべきであり、信託財産について訴訟が係属中であるかどうかという事情や原権利者の意思を問うべきではないとした上で、本件においては、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求権も信託財産であるから著作権と同様に帰属権利者に返還されているはずであると主張するが、失当である。 原権利者の信託行為時及び信託契約解除時の合理的意思解釈に照らすと、原権利者・TMA契約において、信託収益たる著作権使用料相当損害金については、信託の清算事務の内容として、単に損害賠償請求権を帰属させるだけでは足りず、受託者によって現実に回収することが含まれていたと解すべきであり、本件訴訟追行が清算事務に含まれることは明らかである。 (イ) 本件における法定信託は「原信託の延長」である まず、「法定信託が、信託財産を帰属権利者に移転するまでの間信託が存続しているとみなす制度にすぎない」というのは「復帰信託」の場合であり、本件のような「原信託の延長」の場合には妥当しない。すなわち、旧信託法63条が規定する信託終了時の法定信託には、「復帰信託」のほか、「原信託の延長」も含まれるのであり、「信託行為ニ定メタル信託財産ノ帰属権利者」が存在する場合には「原信託の延長」に当たる(乙11、353頁(3)(ア)、351頁(1)(ア)(a))。 また、旧信託法の改正が検討された法制審議会信託法部会においても法定信託の性質が審議され、その結果、旧信託法63条を引き継いで現行法において法定信託を規定する現信託法176条が「原信託の延長」であることが明確化されている。(甲116ないし甲118)。 本件では、残存信託財産中に未収財産のある原信託の受益者が帰属権利者に該当するから(原判決67頁及び68頁)、本件の各信託契約が終了した後の法定信託は「復帰信託」ではなく「原信託の延長」となる。 したがって、「信託財産を帰属権利者に移転するまでの間信託が存続しているとみなす制度にすぎない」との一審被告の主張は、「原信託の延長」の概念を無視するものであり、不当である。 また、原判決は、残存信託財産中に未収財産のある帰属権利者が存在することをもって、法定信託の存続を判断しており、訴訟が係属中であることを要件としていない。 (ウ) 原権利者の意思を尊重すべきである 「原信託の延長」の場合、受託者の職務権限は、「残務の処理、信託財産の受益者への移転、対抗要件の具備、それらの完了するまで信託財産を保存し適当に収益を上げること」にまで及び(乙11、353頁)、その職務権限は、通常の信託契約とほぼ同様である。 そこで、信託の趣旨を検討すると、信託とは、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的達成のために必要な行為をすべきものとすることをいい(現行信託法2条1項参照)、当該目的達成のためには、委託者及び帰属権利者の意思を尊重するのが当然の前提である。そして、本件においては、残存信託財産中に未収財産のある原信託の受益者が帰属権利者に該当するから、その意思が尊重されるべきことは当然であり、訴訟提起時から約6年も経過していることに鑑みれば、原権利者が、一刻も早く、自己の著作物の使用料相当額を回収したいとの意思を有していることも当然である。 なお、一審被告は、TMA・原告契約につき、TMA社は本件訴訟が係属中であることを知りながら解約権を行使していることから(乙7の2)、TMA社の意思を尊重すべき旨主張するが、仮にTMA社の意思を尊重しても、原権利者の意思を尊重すべきであるという結論は異ならない。 すなわち、上記乙7の2には、清算事務について何ら触れられておらず、TMA社の代表であった P1 の陳述書(甲100)には、「過去に発生した使用料についてはACA(判決注:一審原告)が信託受託者として引き続き回収・分配を行うことを意図していました。」と明記されている。一審被告は、P1の陳述書の信用性は皆無であるなどと主張するが、根拠のない言いがかりである。 一審原告は、後記イのとおり、確認書D(甲145(枝番を含む))を多数取得しており、TMA社の元代表である P1 自身からも確認書D(甲145の1の1)を取得した。 P1 は、確認書Dにおいて、一審原告に対し、本件訴訟における使用料相当額の損害賠償請求権を行使すること及び訴訟を追行することを認めている。確認書Dは、P1が、TMA社の代表者としてではなく、一作家として署名・押印したものであるが、陳述書(甲100)の記載を改めて確認したことにほかならず、このことに照らしても、TMA社が一審原告に、受託者の清算事務として、本件損害賠償請求権を行使することを期待していたことが明らかである。 (エ) 法定信託は、復帰的に物権変動しないことを前提とした制度である 一審被告は、信託契約の終了原因が解除であるときは、信託財産は原権利者に物権的に帰属すると解されているとして、本件損害賠償請求権も原権利者に返還されるべきであると主張する。 しかし、法が法定信託の存続を認めたのは、信託財産が物権的に帰属しないことを前提とするものであるから、大原則として帰属権利者への帰属は物権的に生じないとされており(乙11、352頁12行目ないし14行目)、その上で、例外として、解除の場合には「原則として」物権的に帰属すると解釈してもよいとされているにすぎない。裏を返せば、解除の場合にも、大原則に立ち返って物権的に帰属しないと解すべき場合があることを認めているのである。 本件において、本件損害賠償請求権が帰属権利者に返還されるとすると、帰属権利者には、外国(日本)で一審被告に対して損害賠償を請求するために、新たな訴訟提起をしなければならないという著しい不利益が及ぶので、帰属権利者の保護のためには、大原則に従い、法定信託が存続すると解釈せざるを得ない。 (オ) 一審被告は使用料相当損害金の支払を免れようとしている 一審被告は、一審原告のみならず、楽曲の作曲者及び作詞家(原権利者)から著作権使用料の支払請求があった場合にもその支払に応じていない(事件番号:東京地裁平成21年(ワ)第28388号等)。一審被告は、原権利者に本件損害賠償請求権を復帰させることにより、原権利者が、外国(日本)における訴訟提起をあきらめ、著作物の使用料相当損害金の支払を免れようとしているにすぎない。 (カ) 原判決に従えば、原権利者に著しい不利益を強いることになり、何ら原権利者の利益につながらない 原判決は、TMA社が既に解散していること及びTMA社が原権利者と容易に連絡を取れなくなっていることをもって、円滑な清算事務が期待できないとする。しかし、確認書B(甲80(枝番を含む))の宛名がいずれも「株式会社アジア著作協会」とされているとおり、確認書Bは、一審原告が原権利者からそれぞれ取得したものであり、一審原告はTMA社を経由せずとも原権利者と容易に連絡が取れるのである。 したがって、一審原告は、損害賠償金を回収し、原権利者に対する分配が完了するまで円滑に清算事務を遂行することができるのであるから、帰属権利者に不利益はない。 また、原判決は、本件において、既発生の損害賠償請求権についても、原権利者にその回収方法を検討する機会を与えることが、原権利者の利益保護の観点から相当であるなどとする(原判決70頁)。 しかし、原権利者は、韓国その他の地域に居住しているため、一審被告によって楽曲に関する著作権が日本国内にてどのように侵害されたのかを知ることは容易でなく、同訴訟の提起には著しく困難を伴い、原権利者に著しい不利益を伴うことは明白である。また、原権利者が、一刻も早くその使用料相当額を回収したい意思を有していることは明らかであり、その意思を実現できるのは、まさに本訴訟を追行している一審原告以外には存在しない。 イ 確認書Dにより、原判決における却下理由が存在しなくなった等 (ア) 確認書Dの提出 確認書D(甲145(枝番を含む。))には、以下の@ないしDの一部又は全部が記載され、原権利者が署名・押印をしている。また、確認書Dには、原権利者本人によって作成されたことを担保するため、印鑑証明書、自動車運転免許証及びパスポート等が添付されている。 このように、確認書Dにおいては、原判決の却下理由に対応する事項が記載され、かつ、原権利者本人が署名・押印をしているため、上記原判決の却下理由はもはや存在せず、確認書Dを提出した原権利者については、一審原告に本件損害賠償請求権が帰属することは明らかである。 なお、(略)については、原権利者・TMA契約及び確認書のいずれについても成立の真正に争いはなく(原判決171頁)、単独で作曲した楽曲については認容されたが、共作楽曲については、他の共有者の同意がないとして却下された(原判決202頁)。そのため、 (略)作成に係る確認書D(甲145の61(枝番を含む))には、(略)(権利者管理番号0012)との共作楽曲である「はじめから今まで」という楽曲に関する著作権について、共有者である(略)がその持分を譲渡することに同意したこと、及びDが記載されている。 @ 原権利者が、自らの意思に基づき、株式会社ザ・ミュージック・アジア(TMA)との間で、音楽著作権譲渡契約を締結したこと A 確認書Dに添付された確認書A又は(及び)確認書Bは、自ら署名したか、又はTMA社に代筆を依頼したものであり、いずれも原権利者本人の意思に基づいて作成されたものであること B 原権利者が、その有する著作権に関連して発生した日本国での著作権使用料及び関連する一切の費用等について、一審原告が、著作権の信託受託者として徴収及び分配等の管理を行うため、当事者として訴訟を追行する権限を有することを認めること C 原権利者が作詞家又は作曲家となっている共作の楽曲に関する著作権について、他の共有者がその持分を譲渡することに同意したこと D 原権利者が作詞家又は作曲家となっている共作の楽曲について、韓国では、共有にかかる楽曲について、各々の持分の処分について、相手方は包括的な同意をしていて、個別の同意を必要としないのが通常であること (イ) 確認書Dの取得態様は正当なものである 一審被告は、一審原告が作家に対して虚偽の事実を織り交ぜて不当な利益誘導を行うことにより盲目的な署名をするように仕向けて確認書Dを取得したこと等を理由として、確認書Dの証拠価値がないなどと主張するが、同主張は失当というほかない。 まず、一審原告は、「御依頼書」(乙79)の2頁において、本件訴訟の原審である東京地裁が、確認書を提出した作家について楽曲の使用料相当額の損害賠償請求を認めたという事実を、原審の判断内容のとおり記載するとともに、控訴審で一審原告に当該損害賠償請求権が帰属すると認定され、控訴審判決が確定した場合には、一審原告が一審被告から回収した使用料相当額の金員を作家に分配できる見込みであるという当然のことを記載したにすぎない。 また、一審原告は、確認書案を作家に郵送するに当たって、「確認書の記載内容を変更されたい場合には、確認書への署名前に弊社にご連絡ください。」と記載(乙79、4頁)して、作家が一審原告から受領した確認書案の記載内容を修正したいという意思を有している際には、確認書案の内容を個別に修正して当該作家の意思が正確に確認書Dに反映されるよう最大限に配慮していた。 次に、一審被告は、「追加説明、返送住所」と題する書面(乙80)において、一審原告が、虚偽の事実を織り交ぜつつ作家を誤導したなどと主張する。しかし、同書面(乙80)は、一審原告の一従業員(韓国国籍の者)によって日本の事情を理解しやすいようにという配慮から個人的な説明が追加されたにすぎず、法的手続に関する詳細な説明は、日本語と韓国語が併記されて一審原告代表取締役名義の「御依頼書」(乙79)においてなされている。 また、同書面(乙80)は、確認書Dを提出した作家全てに対して送付されたものではなく、原審で認容された楽曲に係る作家に対してのみ送付された書面である。一審原告の従業員は、原判決で却下された作家に対しては、別の書面(甲162)を併せて送付していたのであり、虚偽の事実を織り交ぜて説明したものとはいえない。 このように、一審原告は、作家からの確認書Dの取得に際し、何ら利益誘導を行っていないことは明らかである。確認書Dは、作家がその内容を十分に理解して署名・押印した上、作成者の印鑑証明書、運転免許証、パスポート等の複数の身分証明書が添付されているのであるから、むしろ「御依頼書」(乙79)によっても、極めて高い証拠価値を有することは明らかである。利益誘導により確認書Dを取得したとの一審被告の主張は、言いがかりにすぎない。 (ウ) 「確認書Bの提出は現時点では何ら効果がないこと」に対し 一審被告は、信託終了原因が発生した平成19年3月31日から約3年も経過しているから、確認書B(あるいはこれに類似した書面)を一審原告が提出したとしても、法的安定性を欠くから、一審原告に本件損害賠償請求権は帰属しないと解すべきであるなどと主張する。 しかし、法は、法的安定性に対し、時効という制度により配慮しているのであり、時効が成立しないにもかかわらず、権利者の権利行使の方法の選択を妨げることこそ、むしろ法秩序を害するものである。 既発生の本件損害賠償請求権について、権利者が自ら直接権利を行使するか、又は、他人に依頼して権利を行使するかを選択できないとする法的根拠は一切存在しない上、権利者の権利行使の方法の選択を妨げることは法秩序を害するものであるから、一審被告の主張は失当である。 また、一審被告は、現時点(控訴審係属段階)で確認書Bが提出されていなかった原作家については、本件損害賠償請求権を一審原告に帰属させ清算事務を継続させる意思がないということを強く推認させるから、控訴審で確認書Bが提出されたとしても、意味がないなどと主張する。 この点、一審原告は、控訴審において確認書Dを証拠として提出しているが、確認書Dの存在自体によって、原作家の現在の意思が確認できるのであるから、今までの状況によって意思を推認する必要は全くない。一審被告の主張は、実際に意思を表明している権利者に対して、意思の表明がないと強く推認されるなどと主張するもので、荒唐無稽である。 また、原判決は、TMA・原告契約が終了した平成19年3月31日から「まもないうち」に原権利者から一審原告に対して意思表明がされない限り清算事務は完了しているなどとは一切判示していないのであって、この点に関する一審被告の主張は独自の見解というほかない。 (エ) 訴訟信託禁止に対し 訴訟信託を規定した現行信託法10条の趣旨は、民法90条により公序良俗違反の法律行為が無効とされるのに準じ、訴訟信託に現れる反公序良俗性(不法性)にある。したがって、この趣旨に反しない場合、例えば、信託受託者が信託財産の管理・処分の必要上から訴訟行為をすることは、何ら同条に規定する訴訟信託に該当しない(甲146、甲147)。 そして、原判決が認定するとおり(68頁)、本件損害賠償請求権は残存信託財産中に存する未収財産であるから、一審原告から当該未収財産の分配を受けるために原権利者が確認書を作成・交付することは、何ら訴訟信託に該当するものではない。 また、「確認書」という表題からも明らかなとおり、原権利者は、確認書Dにおいて、過去の事実を確認しているにすぎず、新たな信託行為を行っているものでないことはいうまでもない。 ウ 契約期間満了楽曲(被告楽曲目録3)について (ア) 直接契約の更新条件充足 一審被告の契約期間満了楽曲(被告楽曲目録3)に関する主張(一審被告の原審における平成21年9月16日付け準備書面(12)18頁)は、その記載からみて「注意喚起」という類のものではなく、新たな攻撃防御方法であることは明らかであり、仮に注意喚起にすぎないとすれば、同記載の当否について裁判所が判断するまでもない。 なお、直接契約が更新されたことについては、確認書Bの存在等から訴訟上明らかであり、時機に後れた攻撃防御方法として却下されなかったとしても、一審被告の主張は認められないものである。 (イ) 原判決の採用する法定信託の論理は契約期間満了楽曲にも適用される 前述のとおり、本件で、原権利者は、著作権使用料の分配を未だ受けておらず、「信託行為ニ定メタル信託財産ノ帰属権利者」に該当するから、本件の各信託契約が終了した後の法定信託は、「復帰信託」ではなく「原信託の延長」となる。原判決も、残存信託財産中に、未収財産のある原信託の受益者が、帰属権利者に該当すると認定しており、訴訟の係属を法定信託の存続の条件としているわけではない。 なお、(略)(権利者管理番号0186)については平成18年3月8日に、(略)(権利者管理番号0187)については同年2月13日に、それぞれTMA社との音楽著作権譲渡契約が合意解約されたのであるから(甲79の129、甲79の130)、同日までは同契約が有効に存続していたのであり、訴状送達日に既に契約が終了していたとの一審被告の主張はそもそも誤りである。 エ 原権利者との権利連鎖不存在楽曲(被告楽曲目録6)について 前述のとおり、本件においては帰属権利者たる原信託の受益者が存在することから、法定信託は存続しており、原判決の論理構成に誤りはない。 なお、一審被告が主張するような契約上の地位の譲渡等は存在しないから、権利連鎖不存在楽曲なるものはそもそも存在しない。 (略) (権利者管理番号0200)については、一審被告から契約上の地位譲渡契約書(乙6の4)が提出されているが、原判決が認定するとおり(87頁)、一審原告が当該契約書の成立の真正を争っているところ、一審被告による当該契約書の成立の真正に関する立証は何らなされていないから、この点に関する一審被告の主張は明らかに失当である。なお、(略)の地位譲渡契約書については、同人の承諾を経ずに(略)が作成したことが、(略)の陳述書(甲76)により明らかである。また、(略)本人に、地位譲渡契約締結の意思がなかったことは、(略)と(略)の連名の陳述書(甲39の1、甲39の2)及び確認書D(甲145の61の1)により明らかである。 オ JASRAC管理楽曲(被告楽曲目録1)について (ア) 一審被告は、JASRACの管理状況を立証する証拠として、JASRAC作成の回答書(乙75の3)(以下「JASRAC回答書」という。)を提出したが、JASRAC回答書は、請求対象期間の末日である平成16年7月31日時点における請求対象楽曲の管理状況を示したものにすぎず、その余の請求対象期間の管理状況を示すものではない。そして、実際に、一審原告が、請求対象期間当時、プリントアウトし、辛うじて手元に残っていた「作品データベース検索サービス(JWID)」(JASRACが作成した楽曲の各権利に関する管理状況等を示すデータベース)の画面(甲149の1〜152)によれば、「JASRAC回答書」に「管理」と記載された楽曲の半数近くについて、請求対象期間当時の通信カラオケに関する支分権の欄には、JASRACが管理していなかったことを示す「♯」が記載されており、JASRACが通信カラオケに関する支分権を有していなかったことが判明した。 このように、JASRAC回答書は、信用性が疑われるものであるといえるし、少なくとも、請求対象期間全体においてJASRACが管理していたと認めることは到底できないことが明らかである。 なお、一審原告が、JASRACに対し、契約書の確認や権利者本人への確認を行っているか否かを確認したところ、JASRACが、国内作品については著作者へ定期的に照会を行っているものの、海外作品については出版社に保証をさせるだけであると回答したことからも(甲89の1)、海外作品に関するJASRACの管理が正確になされているわけではないことが明らかである。 また、平成16年7月31日において一審原告が管理していなかった楽曲については、JASRACの回答と一審原告の主張とは何ら矛盾せず、このような楽曲に対しては、そもそも一審被告の反論は妥当しない。 さらに、一審被告は、JASRACから「非管理」と回答された楽曲についても「管理」楽曲に含めて表を作成している。 (イ) 債権の準占有者に対する弁済の抗弁は時機に後れた攻撃防御方法である 一審被告は、 P2の証人尋問により初めて明らかになった事実に基づき、上記主張を行ったと主張するが、一審被告の原審における平成21年9月16日付け準備書面(12)(14頁ないし16頁)によれば、一審被告は、債権の準占有者に対する弁済の抗弁について、P2証言以外にも様々な証拠(甲8、甲16、乙34等)を挙げて主張しているのであり、一審被告が、P2の証人尋問以前から、債権の準占有者に対する弁済の抗弁を主張することができたことは明らかであるから、同抗弁は、まさに時機に後れた攻撃防御方法に当たる。 なお、JASRACが債権の準占有者であることを立証する証拠は存在せず、その事実もないから、仮に、一審被告の主張が時機に後れたものとして却下されなかったとしても、到底認められないものである。 カ 原判決には、「原権利者・TMA契約」及び「TMA・原告契約」の認定につき、誤りはない (ア) 一審被告は、一審被告が積極的に認めた楽曲がない以上、本件損害賠償請求権が一審原告に帰属すると認定するには、「原権利者・TMA契約」及び「TMA・原告契約」の提出がなければならないなどと主張するが、同主張は、原審の経過を踏まえておらず、時機に後れた失当なものである。 すなわち、原審裁判所は、一審被告に対して、一審原告への本件損害賠償請求権の帰属を争う楽曲については、全てリスト化して提出するように求め、それを受けて、一審被告から平成19年にリストが提出された。しかも、原審裁判所は、平成19年5月30日の弁論準備手続期日において、一審被告に対し、「積極的な否認理由を付すことなく不知とされている楽曲について、裁判所としては認容できる楽曲であると考えているから、損害の算定を準備するように」と述べており、一審被告は、原審裁判所の当該心証開示及び要請を受け、精査に精査を重ねて、2年以上もの期間を費やして楽曲の認否リストを作成し、損害の算定方法を準備したという経緯がある。 上記のような経緯に基づき、原判決が、一審被告が積極的な理由を付して否認することができなかった楽曲について、一審原告に本件損害賠償請求権が帰属すると認定したことは極めて当然であり、その当時異を唱えなかった一審被告が、今に至って一審原告への本件損害賠償請求権の帰属を争うのは、時機に後れた攻撃にほかならず、到底認められない。 少なくとも(略)(権利者管理番号0006)、(略)(同2004)、(略)(同0120)及び(略)(同0200)の楽曲については、原判決に添付された楽曲目録11(不知楽曲)(一審被告が不知とした楽曲を一覧表にしたもの)のリストに載っており、一審被告が積極的な否認理由を付して争っていなかったことが明らかである。 また、(略)(権利者管理番号2004)は、一審原告と直接音楽著作権信託契約を締結している作家であり、そもそも確認書Bの存否は問題とならない。 さらに、 (略) (権利者管理番号0186)及び (略) (同0187)については、原判決も認定するとおり(72頁)、確認書Bの成立に何ら争いがなく、仮に確認書Aの成立に争いがあったとしても、一審原告への本件損害賠償請求権の帰属は否定されない。 (イ) 一審被告は、請求対象期間を網羅していないとの理由で、(略)及び(略)の確認書Aの成立の真正を争うところ、請求対象期間を網羅していないことは軽微な不備であり、これを理由として書証の成立の真正が否定されるものではない。 (ウ) 一審原告は、(略)(権利者管理番号0200)、(略)(権利者管理番号0034)、(略)(権利者管理番号0087)及び(略)(権利者管理番号0132)については、いずれも確認書Dを既に証拠として提出しており(それぞれ甲145の61、甲158、甲150、151(いずれも枝番を含む。))、一審被告の主張は失当である。 (エ) 一審被告は、韓国文化観光部長官の許可及び市民観念等を理由とし、(略)、(略)及び(略)ら3名の作家の(略)に対する委任行為が法律違反であるとして、上記3名の作家作成にかかる委任状の成立について争うが、文化観光部長官の著作権信託管理業許可の有無をもって当然に私法上の委任契約が影響を受けるかのような一審被告の主張は、両者の関係を混同したものであり、明らかに失当である。業法上の許可の有無にかかわらず、私人間において楽曲の著作権管理を委託することは、通常の市民の観念からしても何ら不自然なものではない。また、そもそも、一審被告は、単に法律違反であることを指摘するにとどまり、委任状の成立の真正に関する主張など一切していない。 さらに、一審被告は、甲82の1ないし3の(略)の印影は全て同じではなく異なっていると主張する。確かに、甲82の2の印影は、甲82の1及び甲82の3の印影とは異なるものの、これらの印影がいずれも(略)のものであることは明らかであって(甲82の2の印影は、「(略)」との記名に対応したものである。)、印影の違いのみを理由として委任状の成立の真正を争う一審被告の主張は失当である。 以上のとおり、一審被告は、上記3名の作家作成に係る委任状の成立の真正を争っておらず、この点に関する一審被告の主張は失当である。 なお、一審原告は、(略)(権利者管理番号0113)についても、確認書Dを証拠として提出しているから(甲152(枝番を含む。))、一審被告の主張は明らかに失当である。また、 (略) が代表を務めるサント音楽出版は、その会員である(略)(権利者管理番号0118)がアメリカに、(略)(権利者管理番号0115)がニュージーランドにそれぞれ滞在しており、確認書Dの取得が困難である旨(甲152の4)、各作家が現在もサント音楽出版の会員である旨を、それぞれ報告している。 また、(略)については、確認書Dを証拠として提出しているから、一審被告の主張は失当である(甲153(枝番を含む。))。 キ 筆跡の同一性に関する原判決の認定の誤りについて (ア) 代筆された確認書Aでは筆跡が問題とならない 一審原告は、原審において、(略)(確認書Aは甲79の6)、(略)(同甲79の11)、(略)(同甲79の14)、(略)(同甲79の16)、(略)(同甲79の19)、(略)(同甲79の41)、(略)(同甲79の50)、(略)(同甲79の60)、(略)(同甲79の61)、(略)(同甲79の62)、(略)(同甲79の67)、(略)(同甲79の72)、(略)(同甲79の78)、(略)(同甲79の88)、(略)(同甲79の96)、(略)(同甲79の105)及び (略)(同甲79の112)(以下、これらの作家を総称して「代筆作家」という。)に関する確認書Aは、いずれも、TMA社が原権利者からメールや電話で意思を確認して代筆したものであると主張している。そして、確認書Aが代筆である以上、原権利者・TMA契約書及び確認書Bと筆跡が異なることは自明であって、確認書Aと原権利者・TMA契約書及び確認書Bとの筆跡の同一性は問題とならない。それにもかかわらず、原判決は、確認書Aの筆跡を含めて原権利者・TMA契約書及び確認書Bの筆跡の同一性を検討し、当該文書の成立の真正を否定しており、事実認定の前提を明らかに誤っている。 また、(略)(同甲79の104)について、一審被告は、確認書目録Bにおいて、「原契約と確認書Bの原権利者による筆跡が異なる。」と主張するにすぎず、確認書Aの筆跡を争っていない。さらに、 (略)及び (略) については、そもそも確認書Aを証拠として提出しておらず、一審被告も、確認書目録Bにおいて、「原契約と確認書Bの原権利者による筆跡が異なる。」と主張するにすぎない。 それにもかかわらず、原判決は、これら3人の原権利者について、「被告は、被告作成の確認書B目録記載のとおり、原権利者・TMA契約書、確認書A、確認書Bの筆跡が異なるとして、各書証の成立を否認し」と認定しており(原判決75頁)、明らかに事実認定を誤っている。 (イ) 原権利者・TMA契約書と各確認書の筆跡との明白な同一性 a 代筆作家につき原権利者・TMA契約書と確認書Bの筆跡は明らかに同一である 代筆作家については、確認書A(甲79(枝番))が代筆である以上、確認書Aと原権利者・TMA契約書(甲83(枝番))及び確認書B(甲80(枝番))との筆跡の同一性は問題とはならない。そうすると、文書の成立の真正は、筆跡の対照によって証明することができるから(民事訴訟法229条1項)、原権利者・TMA契約書と確認書Bは、両書証の筆跡の同一性を検討し、その成立の真正を認定することになり、筆跡が書証の筆跡と同一と認められるときは、他に特別の事由がない限り、書証の成立が認められる(甲131)。そして、代筆作家の原権利者・TMA契約書(代筆作家の記載順に、それぞれ、甲83の8、14、20、22、29、57、70、84、85、86、92、97、104、127、142、154、163)と確認書B(代筆作家の記載順に、それぞれ、甲80の1、2、3、5、7、8、10、13、14、15、17、19、20、27、29、31、36)の筆跡を実際にみると、両筆跡は明らかに同一であって、両書証が真正に成立したことは疑いようがない。 なお、一審被告は、原審で証人となった(略) 、(略)及びP3作成に係る書証を除き、各作家が作成した各書証の成立の真正が否定されたのは当然であると主張する。 しかし、控訴審で確認書Dを提出した、(略)(権利者管理番号0008)(甲145の4の1)、(略)(同0014)(甲145の8の1)、(略)(同0085)(甲145の27の1)、(略)(同0086)(甲145の28の1)、(略)(同0097)(甲145の34の1)、(略)(同0104)(甲145の40の1)、(略)(同0127)(甲145の44の1)及び(略)(同0154)(甲145の52の1)については、当該確認書Dにおいて、印鑑証明等を添付し、原権利者・TMA契約と確認書Bの成立の真正を自ら確認しているから、一審被告の主張は明らかに失当である。 このほか、確認書Dを提出していない(略)(権利者管理番号0020)、(略)(同0022)、(略)(同0029)、(略)(同0057)、(略)(同0070)、(略) (同0084)、(略)(同0092)、(略)(同0142)及び (略)(同0163)については、原権利者・TMA契約書と確認書Bの筆跡を実際にみると、両筆跡は明らかに同一である。また、両書面には原権利者の署名・押印があるところ、原権利者・TMA契約書と確認書Bの双方とも名義人以外の同一人物が署名、押印することは考えられない。一審被告自身、原権利者・TMA契約書と確認書Bの成立の真正を争う理由として、筆跡の異なることを挙げているところ、その理由が存在しない以上、成立の真正を争う根拠は既にないというべきである。 そうすると、筆跡の同一性と相俟って、原権利者・TMA契約書と確認書Bの成立の真正は明らかである。 b 代筆作家以外についても、原権利者・TMA契約書と各確認書の筆跡が明らかに同一である 代筆作家ではない作家についても、以下のとおり、筆跡を実際にみると同一であることが明らかで、全ての書証が真正に成立したことに疑いの余地はない。 まず、 (略)について、原権利者・TMA契約(甲83の153)、確認書A(甲79の104)と確認書B(甲80の30)のそれぞれの筆跡は明らかに同一である。また、 (略) について、原権利者・TMA契約(甲83の155)と確認書B(甲80の32)の両筆跡は明らかに同一である。さらに、(略)について、原権利者・TMA契約(甲83の199、)、確認書B(甲80の43)と確認書C(甲81の11)のそれぞれの筆跡は明らかに同一である。 以上のとおり、原判決は、単に、一審被告が各書証の成立を否認しているとの理由のみをもって各書証の成立の真正を否定しており、各書証の筆跡の同一性を何ら考慮しておらず、極めて不当である。 c 原審では、鑑定及び十分な証人尋問が行われておらず、審理不尽及び適切な訴訟指揮を欠くものであって違法である 万一、原審が、原権利者・TMA契約書と各確認書の筆跡が明らかでないと考えたのであれば、原審は、鑑定や証人尋問等複数の証拠の証拠価値を総合判断して慎重に認定しなければならず、鑑定を命じなければならない(甲132ないし134)にもかかわらず、原審は、鑑定を一切行っていない。 また、一審原告は、原審において、原権利者・TMA契約書、確認書A及び確認書B等の成立の真正を立証すべく、韓国その他の地域に居住する多数の原権利者の証人尋問を行いたい旨原審に伝えた。これに対し、原審は、多数の原権利者を全員証人尋問するのは現実的でないとし、証人を(略)、(略)、P3及び(略)の4名に限定した。その結果、原審は、(略)、(略)及びP3の各楽曲については一審原告に損害賠償請求権が帰属するとしたが、証人尋問を行わなかった作家については、書証の成立に関する証人尋問等による立証がなされていないとして、一審原告への損害賠償請求権の帰属を認めなかった。 原権利者の証人尋問を行えば行うほど、一審原告に帰属する損害賠償請求権が増加したことが明らかであるところ、一審原告が、多数の原権利者の証人尋問を行いたい旨伝えたにもかかわらず、原審は、何らの合理的な理由なく、そのような証人尋問は現実的ではないとし、証人尋問を行わなかったもので、このような原審の訴訟指揮は、適切さを欠き違法であり、審理不尽の違法が存することは明白である。 ク 共作楽曲に関し他の共有者の同意は不要と解すべきである 我が国において、著作権の共有持分の譲渡について、民法上の共有と異なり、他の共有者全員の同意が必要とされる(著作権法65条1項)趣旨は、自己が好まない見ず知らずの第三者が共有者になることにより、著作権の円滑な行使が妨げられるおそれがあるからであり(甲135及び136)、この理は韓国法の下においても同様である。 これに対し、著作権等管理事業法における著作権の信託譲渡においては、受託者である著作権等管理事業者の主な役割は、著作権の使用料の徴収と権利者に対する分配であり、また、著作者人格権も譲渡できないことから、信託受託者が著作権の円滑な行使を妨げることは考えられない。このように、著作権等管理事業者への共有持分の信託譲渡には、他の共有者全員の同意が必要とされた著作権法65条1項の趣旨が妥当しないのであるから、他の共有者の同意は不要と解すべきである。そして、この理もまた、韓国法の下において同様と考えるべきである。 仮に、原判決のとおり、他の共有者の同意が必要であるとしても、上記の著作権等管理事業者の役割にかんがみれば、ある共有者が他の共有者の著作権等管理事業者に対する信託譲渡を阻害しようとの意図を持つことはあり得ないため、著作権等管理事業者への著作権の共有持分の信託譲渡について、他の共有者の黙示の同意があったと解すべきである。 ケ 「直接契約」に関する「請求対象楽曲」における本件損害賠償請求権の帰属について、原判決の認定に誤りはない。 (ア) 「確認条項」に反して提出された証拠の証拠能力 一審被告は、裁判所から指定された日までに提出できなかったP4(権利者管理番号2023)の証拠について、証拠能力は認められないなどと主張するが、民事訴訟において、原則として証拠能力が制限されないことは論を俟たない(甲148)。 そして、証拠の提出時期と証拠能力の有無は別個の問題であり、裁判所から指定された日までに提出できなかったからといって、証拠能力を欠くことになるものでないことは明らかである。 また、一審被告は、甲123のうち、最終頁以外の部分について、新たに作成した証拠である可能性が強いなどと主張するが、最終頁の提出が早まったのは、単に、当時、著作権信託契約書の原本を所持していた株式会社アジア著作協会コリアが、その最終頁の写しのみを一審原告に送付したからにすぎない。 (イ) 一審被告は、P5(権利者管理番号2024)及びP6(同2029)の楽曲に関し、一審原告が直接契約を証拠提出していないことをもって、これらの作家に係る楽曲についての著作権侵害に基づく本件損害賠償請求権が一審原告に帰属すると認定した原判決の事実認定が誤りであるなどと主張する。 しかし、前記カ(ア)のとおり、一審被告は、裁判所に否認理由を付して楽曲をまとめるように要請され、精査を重ねて楽曲の認否リストをまとめたという経緯があり、否認理由を明らかにすることができなかった楽曲につき、原判決が認容したのであるから、今の段階に至って、証拠提出を求めるのは、明らかに時機に後れた攻撃である。 もっとも、上記両名については、一審原告と締結した著作権信託契約を提出しているから(甲154及び甲155)、同権利者に対する一審被告の主張は失当である。 また、一審被告は、P7について直接契約は提出されていないとするが、「P7」は芸名で、「P8」が本名であるところ、直接契約(甲49)は、本名である「P8」名義で作成されており、P7(権利者管理番号2030)については、直接契約は提出されている。 一審被告は、「P8」を「P8」と読むことは不可能であるなどと主張するが、英語名ではない以上、正確に英語表記することには困難が伴うものであるし、どのように綴るかは本人の自由である。 (ウ) 一審被告は、P9(権利者管理番号2005)、P10(同2022)及び P11(同2032)について、確認書Cの成立の真正の立証がなされていないなどと主張する。 まず、P9(権利者管理番号2005)について、一審被告は、確認書C目録において、直接契約(甲47、甲85の5)と確認書C(甲81の41)の筆跡が異なるとして確認書Cの成立の真正を否認するが、両者の「2」や「9」等の数字をみれば、両者の筆跡が同一であることは明らかであるから、確認書Cの成立の真正についての立証がなされていることは明らかである。 次に、P10(同2022)について、一審被告は、確認書C目録において、直接契約(甲59)には締結日が未記入であるにもかかわらず、確認書Cには直接契約の締結日が記入されているなどとして、確認書Cの成立の真正を否認するが、P10は、確認書Cを作成する際、直接契約の締結日を確認してその旨記入したのであるから、確認書Cに直接契約の締結日が記入されていることが、確認書Cの成立の真正を妨げることになるはずがない。 さらに、P11(同2032)について、一審被告は、確認書C目録において、直接契約(甲50、甲85の32)と確認書C(甲81の44の1、甲81の44の2)の筆跡が異なるとして確認書Cの成立の真正を否認するが、両者の「4」の数字を見ると、上部が開いているといった特徴を有しており、このことからすれば、両者の筆跡が同一であることは明らかであるから、確認書Cの成立の真正についての立証がなされていることは明らかである。 また、一審被告は、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)に記載されているところのその他の直接契約にかかる作家について、確認書Cが提出されていないと主張するが、これは、直接契約の成立について当事者間に争いがないからである。 コ 原判決が、却下理由のない原権利者について訴えを却下したことは誤りである 原判決において、P12に関する楽曲につき一審原告に損害賠償請求権が帰属していると認定した楽曲がある一方(原判決165頁、172頁及び173頁)、帰属しないと認定した楽曲がある(裁判所楽曲目録−作曲(却下)216頁及び217頁)。原判決は、共作楽曲を除き、全て原権利者ごとに権利帰属の有無を判断しているから、原判決の上記認定が誤っていることは明らかである。 そもそも、一審被告は、一審原告とP12との間の著作権信託譲渡契約(甲66)の成立の真正を争っていない上、原権利者と一審原告間で直接著作権信託譲渡契約が締結された作家に関して、原判決が述べる却下の理由は、いずれもP12には該当しない。 以上のとおり、原判決は、P12につき、誤って却下している楽曲があり、明らかに事実認定を誤っている。 サ 権利濫用・禁反言の法理違反の主張は失当である 一審被告準備書面(4)及び同(12)に権利濫用・禁反言についての記載があることは認める。 一審被告は、甲16の「韓国の株式会社NS企画社の件」と題する項目において、一審原告が単に「準備期間中」と記載したことをもって、甲16の提出以前の期間にかかる著作権侵害を主張するのは禁反言の法理に反すると主張するようであるが、債権者が自らの債権を放棄する場合、その債権を特定して放棄を明記するのが通常であり、「準備期間中」との記載から、一審原告が甲16提出以前の期間にかかる本件損害賠償請求権を放棄する意図を読み取ることは不可能であって、一審被告の主張は、仮に時機に後れていないとしても、失当である。 (2) 損害論 ア 原告規程が採用されるべきであること (ア) 原告規程は法的な手続を履践して定められた 原判決は、大要、原告規程が、手続の点で利用者団体の意見聴取義務が十分に履行されたものとはいえず、内容の点で合理的と認めることはできないため、原告規程を使用料相当損害金の算定の基準として採用することはできないと認定した(原判決93頁及び94頁)。 a 一審原告は著作権等管理事業法に定める努力義務を実践しているまず、意見聴取の点について、原判決の判示は、著作権等管理事業法の趣旨に反するものであり、事実認定及び法適用の点で誤っている。 すなわち、同法は、使用料規程を定める場合において、JASRACのような指定管理事業者については協議義務(同法23条2項)を定めているのに対し、一審原告のような一般管理事業者に対しては、「利用者又はその団体からあらかじめ意見を聴取するよう努めなければならない」(13条2項)として、単に努力義務を定めるだけにとどめる。そして、たとえ努力義務が尽くされない場合にも、当該使用料規程の設定の法的効力が妨げられることはないとされる(甲93)。 このように、指定管理事業者と一般管理事業者とに異なる義務を定めたのは、著作権等管理事業法が、仲介事業法時代に独占的に著作権を管理していたJASRAC等の独占性を排除し、多様な管理事業者間の自由競争を促すことによって新規参入を推奨することを目的として制定された法律であり、規制緩和を設けることで、一審原告のような一般管理事業者の新規参入を容易にするという趣旨に基づくためである(甲119、甲137)。 本件において、原判決も認めるとおり、一審原告は、平成14年7月ころ、文化庁から、利用者又はその団体の意見を聴取するようにとの指導を受け、その後、約2週間をかけて利用者団体約100社を順次訪問し、原告規程等について説明を行った。また、一審原告の事務局長であった(略)は、同年8月1日、利用者団体である社団法人音楽電子事業協会(AMEI)を訪問し、一審原告の会社説明資料、管理委託契約約款及び原告規程を交付した上、質問及び意見があれば連絡をするように要請をしたのであるから、この時点で、まさに「利用者又はその団体からあらかじめ意見を聴取するよう努力した」ものといえる。しかも、一審原告は、平成15年7月9日以降、AMEIの要請に応じて、協議、資料の交付、質問に対する回答等を行ってきたものであり、意見を聴取するよう努力したことに疑念の余地はない。 したがって、一審原告は、著作権等管理事業法に定められた法的手続を履践したのであり、原告規程が有効な規程であることは明らかである。仮に、一審原告が、努力義務を超えた法的義務を負わなければならないとすれば、規制緩和をすることにより自由競争を促し、JASRACの独占性を排除するという著作権等管理事業法の趣旨を没却することとなり、同法の理念の達成を妨げるというべきである。 なお、一審被告は、著作権等管理事業法の趣旨に鑑みれば、同法13条2項を努力義務にとどまるかのように考えるのは形式的にすぎ、管理事業者が用いようとする使用料規程の利用者に対する影響の程度を踏まえて実質的に解釈されるべきであるなどと主張するが、同条項が努力義務を規定していることは条文上明らかであって、上記主張は明文に反する独自の解釈・見解にすぎず、明らかに失当である。 b 原判決は、AMEIが原告規程につき具体的な意見を述べるに至らなかったと認定したが、これはAMEIを構成する利用者団体の交渉戦術に由来しており、一審原告の努力が足りなかったためではない。 すなわち、業務用通信カラオケにおける著作物の利用は、平成5年ころから開始されたものであるが、AMEIを構成する業界団体は、業務用通信カラオケにおける著作物の利用について、JASRACに対して不払いを続け、平成8年の年末にようやく業界全体で約62億円の使用料をJASRACに対して支払ったとのことである(甲138)。また、AMEIは、著作権管理事業者である株式会社イーライセンスの使用料規程について、少なくとも2年半にわたり協議を行っているが、未だに合意に達していない(甲139ないし甲142)。 上記の事実から、AMEIを構成する利用者団体が、使用料を支払わずに使用料規程に関する交渉を長引かせて、自己に有利な結果を引き出そうとしていることが明らかである。 c 原告規程の内容は合理的である 著作権等管理事業法は、著作権等管理事業について、自由競争を促進することにより、権利者と利用者との適切な利用関係を構築するという趣旨に基づく法律である。仮に、著作物の利用者が、原告規程に基づく著作権使用料を高額であると感じるのであれば、一審原告の管理する楽曲を利用しなければ良いだけであり、それこそが自由競争である。自由競争の中では、安価な商品を大量に売ることも、高額な商品を少量売ることもでき、そのような競争の中で淘汰が生まれる。逆に、新規参入者が、その値段設定に当たり、従前の業者と同様の取決めをしなければならないとすれば、それはカルテルである。 そして、著作権等管理事業においては、自由競争の枠を超えるような場合、文化庁による業務改善命令(同法20条)が出されるのであり、この限度で、著作権等管理事業の自由競争には一定の歯止めがかけられている。 一審原告がこのような業務改善命令を一切受けていないことは、原告規程がその内容において、自由競争の範囲で合理的であったことを端的に裏付けるものである。また、一審原告は、AMEI以外の団体に対しても、原告規程の内容を説明するという努力義務を果たしたが、AMEI以外の団体・各利用者は、原告規程の内容について一切異議を述べず、原告規程が有効な規程であることを前提に、現在も使用料の支払を続けているのであり、このことからも原告規程の合理性は明らかであるといえる。さらに、原告規程の内容を具体的にみても、JASRAC規程と比べて安価に設定されており、不合理な点はない。 d 一審被告は、原告規程の内容を知りながら著作物(楽曲)の使用を継続した 一審被告は、AMEI発足当時から、歴代の代表取締役をAMEIの副会長に据えており、まさに、AMEIの中核メンバーとして活躍しているから(甲143)、遅くとも一審原告がAMEIに対して原告規程を配布した平成14年8月には原告規程を知り得たのであり、その時点で著作物(楽曲)の利用を中止することは極めて容易であった。それにもかかわらず、一審被告は、一審原告の管理する著作物(楽曲)の利用を継続したのであり、このような事業者について、原告規程の内容が不合理であるとの主張を認めるのは、信義誠実に反する。 なお、一審被告は、一審原告がAMEIにアプローチしてきたときの説明が虚偽であったと主張するが、一審原告は、誤って認識していた事実については、それが判明した時点でAMEI側に説明をしてきたもので、その説明の姿勢に偽りはない。 また、一審被告は、韓国楽曲数を誇示する宣伝広告をしていたのであるから(甲104)、韓国楽曲は知名度が低いなどという一審被告の主張は、自らの行動と矛盾する。一審被告は、原告規程を見て、その内容を検討した上で、いわゆる「冬のソナタ」の国民的大ブームに乗ることが、一審被告にとって利益になると判断したからこそ、一審原告の管理楽曲の利用を継続したというのが実態である。 e 使用料相当損害金は原告規程により算定されるべきである 以上のとおり、原告規程は、著作権等管理事業法に定められた手続を履践して定められたものであり、その内容も合理的であるから、原告規程が使用料相当損害金の算定基準として採用されるべきである。また、一審被告が、原告規程を知りながら、一審被告の管理にかかる著作物(楽曲)の使用を継続したという事情に照らせば、信義則上、原告規程以外の算定基準を用いるべきではない。 (イ) JASRAC規程のみを著作権法114条3項の基準とすることは、多様な自由競争を阻害するものである 仲介業務法時代には、JASRAC以外に音楽著作物の著作権を管理していた団体は存在しなかったから、JASRACが、当該著作権の大多数を管理していることは当然である。 また、JASRAC規程のみが実務上適用されているのは、利用者団体が、JASRAC以外の団体の使用料規程に関する交渉を長引かせて、使用料の支払いを拒絶しているからにほかならず、これらの事実がJASRAC規程の合理性を支える理由とはなり得ない。むしろ、著作権等管理事業法の趣旨が管理事業者間の自由競争を促進することにより、権利者と利用者との適切な利用関係を構築することにあることに照らせば、JASRAC規程のみを著作権法114条3項の基準とすることは、著作権等管理事業法の趣旨を著しく没却し、管理事業者間の多様な自由競争を阻害することは明らかである。したがって、原判決が、結論において、JASRAC規程のみを著作権法114条3項の基準としたのは、事実認定及び法適用のいずれにも誤りがあることは明白である。 (ウ) JASRAC個別規程の採用は不当である a 原判決は、一審原告の管理する楽曲数がJASRACの管理楽曲数よりも少ないことをもってJASRAC個別規程の採用を導いているが、論理の飛躍がある。 また、原判決は、JASRAC規程が実務上適用されている規程であることをJASRAC規程の合理性を支える理由として挙げているが、実際に原判決が採用したJASRAC個別規程は、実務上適用例のない規程であり(乙49の2)、JASRAC個別規程には、原判決の挙げる合理性も備わっていない。 以上のとおり、損害の算定について、JASRAC個別規程を採用する理由は見当たらず、JASRAC個別規程を採用した原判決の事実認定はその根拠を欠くものである。 b 一審被告は、カラオケ事業のビジネスモデルを引き合いに出して、個別課金方式の内容が不合理であると主張するが、そもそも通信カラオケ設置店舗の事情は、損害額の算定において何ら勘案されるべきではないし、一審被告は、自己に都合の良い説明を弄しているだけで、一審被告のビジネスの実態すら正しく説明していない。 すなわち、一審被告は、カラオケメーカーが、月額定額の「情報利用料」を収入源とすることがビジネスモデルとして確立しているとし、「情報利用料」の額が著作物使用料の額を常に上回るような仕組みでなければならないなどと主張する。しかし、一審被告をはじめとするカラオケメーカーは、カラオケ設置店舗からの情報利用料を毎月受領しているだけでなく、カラオケ設置店舗に対し、通信カラオケ端末機そのものを平均で約200万円程度、高いものは260万円もの高額な価額で販売している(甲102)。そして、このような通信カラオケ端末機は、10万曲に上る楽曲データが既にプレインストールで複製収録された状態でカラオケ設置店舗に販売されるというのであるから、当然、その高額な販売代金には、プレインストールされている楽曲データの複製についての著作権使用料を支出し得るに十分な楽曲利用の対価が含まれていることは明らかである。 c 原判決は、JASRAC個別規程を採用した上で、一審被告が提出した各楽曲のアクセス回数を基準として損害額を算定した(原判決95頁)が、以下のとおり、一審被告が、平成14年6月28日から平成16年7月末日まで(請求対象期間)において、アクセス回数を正確に把握することは技術的に不可能であったから、一審被告の提出にかかる各楽曲アクセス回数の信用性は欠如しており、このようなアクセス回数を損害の算定に用いた原判決の認定は不当である。 すなわち、一審被告は、平成15年に初めてブロードバンドに対応したセンターシステムの構築を行っており、それ以前はセンターと各店舗を「双方向で」結ぶシステムとネットワークを有していなかったとのことである(甲127、1頁)。よって、少なくとも平成15年以前においては、各店舗からアクセス回数のデータをセンターに集めることが技術的に不可能であったと考えられる。 また、平成15年にセンターシステムが構築された後も、ブロードバンド対応型のカラオケ通信機器が即時に普及したわけではなく、請求対象期間から3年が経過した平成19年時点においても、DAMの全稼働台数21万2000台のうち、ブロードバンド対応機種は、全体の40%にも満たないわずか8万4000台であったから(甲128、6頁)、平成15年以降についても、各店舗から正確なアクセス回数の集計をすることはほぼ不可能であったと解される。 さらに、一審被告は、JASRACに対して平成20年まではアクセス回数のサンプル報告しか行っていない(乙53の3)。これは、まさに、全アクセス数を把握できていなかったからにほかならず、これもまた、一審被告の提出にかかるアクセス回数のデータが適切に集計されていないことを端的に示す事実である。 一審被告が、全演奏ログ数を正確に把握していたことを立証するために提出した東芝作成書面(乙78の2)は、一審被告の提示する具体的な演奏ログ数の正確性を担保するものでも、演奏ログ数の集計にあたって実際に集信障害がなかったことを担保するものでもない。 また、一審被告が主張するアクセス数自体が信用性に乏しいものである。もっとも、現段階における演奏ログ数の提出は時機に後れた攻撃防御方法の提出であり、却下されるべきである。 このほか、一審被告は、仮にJASRAC規程の個別課金方式を基準として使用料相当損害金を算定する場合、楽曲ごとの演奏ログ数(アクセス回数)を正確にカウントして算定すべきとの主張をするところ、一審被告は、請求対象期間の演奏ログ数(アクセス回数)を正確に算定することが技術的に不可能であったのであるから、一審被告の上記主張はその前提を欠くもので、失当である。 (エ) 小括 以上のとおり、JASRAC個別規程を採用するとした原判決の判断には合理的な根拠が一切なく、また、その算定資料として用いた楽曲アクセス回数は信用性を欠くものであるから、原判決の判断には重大な事実誤認及び法適用の誤りが含まれている。 前述のとおり、原告規程は法的手続を履践して策定されたものであるから、原告規程を使用料相当損害金の算定の基準として利用すべきであり、損害額は合計9億1080万1232円となる。 イ 上記アが採用されないとしても、複製権侵害を基準とした損害額の算定方法を採用すべきである (ア) 複製権侵害を基準として損害額を算定するのが原則である 仮に、一審原告の包括規程を採用しない場合、原則に則り、複製権侵害(著作権法21条)を基準として損害額を算定すべきである。 すなわち、一審被告は、楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに記録することにより楽曲を複製し、また、新譜の楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに蓄積させるために、楽曲を公衆送信(送信可能にする行為を含む。)する(著作権法23条)ことにより、一審原告の著作権を侵害している。このように、一審原告の著作権は、一審被告が楽曲データの複製をした時点で侵害されているのであるから、両者の間に何らの合意もなく、著作権者(又は著作権管理事業者)の定める有効な規程がない場合には、複製権侵害を基準として損害を算定するのが当然である。 (イ) AMEIとJASRACは、複製権侵害を基準とした損害賠償の算定方法に合意した AMEIとJASRACは、業務用通信カラオケの音楽著作権使用料について、著作権利用団体が著作権使用料を支払っていなかったことから、JASRACの包括規程が定められる以前である平成8年6月30日、平成7年9月末日までの過去分の使用料の算定基準及びそれに基づく清算に関して合意した(甲144)。 同合意は、「管理著作物単価(5円5銭又は6円5銭)」に「端末機械台数」、「複製された著作物数」及び「当時の消費税」を乗じる内容であり、複製権侵害を基準として損害額が算定されたことが明らかである。 このように、AMEIは、著作権者(又は著作権管理事業者)と著作権利用者との間に何ら合意がなく、著作権者(又は著作権管理事業者)の有効な規程がない場合には、複製権侵害を基準として損害額を算定することを前提に、業務用通信カラオケの音楽著作権使用料の未払いについて清算を行ったものである。 そして、一審被告を含むAMEIとJASRACが複製権侵害を基準として合意をした際の事情・背景は、まさに本件においても妥当し、また、一審被告を含むAMEIは同合意に基づき実際に約62億円を支払ったものであるから、合意が暫定的であることは、同合意を損害の算定基準として用いるべきでないことの根拠にはならない。 その後、JASRACは、AMEIとの協議に基づき、AMEI案に歩み寄る形でJASRAC規程を定め、また、一審原告も、一審被告をはじめとする著作権利用者の利用実態等に配慮する趣旨で利用者団体と協議を行い、一審原告独自の規程を定めた。 このように、原則として著作権侵害においては複製権侵害を基準として損害額を算出すべきところ、一審原告は、一審被告をはじめとする著作権利用者に配慮する趣旨で原告規程を定めたものであるから、仮に、控訴審が、原告規程が有効でないと判断するのであれば、著作権侵害の原則に則り、複製権侵害に基づいて損害額を算定すべきである。 (ウ) 本件における複製権侵害を基準とした損害の具体的な算定方法複製権侵害を基準とした算定方法及び損害額は、以下のとおりである。 a 管理著作物1曲当たりの単価 一審原告は、カラオケ用ICメモリーカードに関する使用料金課金を行っており、その使用実績を有している(甲107)。この際、著作物1曲につき8円(歌詞・楽曲それぞれに4円)と定めているから、一審原告の管理する作詞・作曲のそれぞれの著作物1曲当たりの単価は4円である。この単価は、AMEIとJASRACとの前記合意の内容に照らしても妥当である。 また、JASRACにおける(市販用ではない)カラオケIC用メモリーカードに関する使用料算定方法(甲105)によれば、著作物1曲の使用料は、600円をカラオケ用ICメモリーカードの複製枚数で除して得た金額又は11円のいずれか多い額とするとのことである。このように、一審原告の著作物1曲につき8円という単価が安価で合理的であることは、JASRAC規程に照らしても明らかである。 b 端末機械台数 一審の和解の段階で一審被告が提示した「ACA社主張曲1540/JASRAC管理楽曲数」と題する表(甲92)によれば、一審被告は、平成16年7月時点において19万4229台の端末機械を管理していたとのことである。 c 複製された著作物数 一審被告が複製した著作物数は2594曲(作詞・作曲各1297曲)に上る。 (エ) 損害額 したがって、本件における複製権侵害を基準とした損害額は、作詞・作曲ごとの管理著作物単価4円×一審被告端末機械台数19万4229台×複製された著作物数2594曲(作詞・作曲各1297曲)×消費税1.05という数式により算出され、その損害額は21億1608万6109円となる。 仮に、原判決の認定どおり、一審原告に564曲(作詞につき289曲、作曲につき275曲)の楽曲についてのみ管理権限が認められるとした場合にも、一審原告の損害額は4億6008万9655円に上る。 ウ 上記ア・イが採用されないとしても、JASRACの包括規程をそのまま採用すべきである。 万一、一審原告の上記いずれの主張も容れられない場合、仲介事業法時代から実務上使用されている基準であるJASRACの包括規程を用いるべきであり、その場合、JASRACの包括規程は、JASRACとAMEIとの間で修正を加えずに用いられることを前提に合意されたものであるから、一切修正を加えるべきではない。 この点、一審被告が、演奏ログ数(アクセス回数)、管理楽曲数等に応じて、按分してJASRACの包括規程を使用すべきであると主張していたのに対し、原判決がこれを排斥したのは極めて妥当である。 エ 著作権等管理事業者の管理楽曲数又は現実の演奏楽曲数の割合に応じて按分すべきとの一審被告の主張に対し (ア) 一審被告は、使用料相当損害金を算定する際に、JASRACの包括規程につき、演奏ログ数(実際に演奏された回数)に応じて按分するか、著作権等管理事業者が管理する楽曲数に応じて按分すべきと主張する。 しかし、JASRAC規程は、基本使用料について、アクセスコード数(端末に複製した楽曲数)に応じて変動するものと定めているのであるから、仮に一審原告の使用料相当額がJASRACの包括規程により算出される場合にも、基本使用料によって、複製した楽曲数が考慮されれば足りる。また、代替性のない著作物については、個々の著作物の価値が重要となるのであるから、単に著作物の数に着目したにすぎない「按分比例」という算定方式によって損害額を計算することは本来的になじまない。加えて、JASRACの包括規程は、AMEIとJASRACとの間で、修正を加えずに用いられることを前提に合意されたものであるから、その適用において、一切修正は加えられるべきではなく、一審被告の主張はいずれも失当である。 なお、一審被告は、侵害楽曲数を3パターンに分けて使用料相当損害金を算定しているが、一審原告が控訴審において提出した確認書Dに記載された楽曲が一切考慮されておらず、出発点から誤りである上、「侵害楽曲」がどの楽曲を念頭において集計されたものか明らかでないため、別紙2記載の侵害楽曲数に基づく一審被告の主張はすべて争う。 (イ) 演奏ログ数による修正 演奏ログ数(アクセス回数)に応じた按分については、JASRACが管理している楽曲についても演奏ログ数(アクセス回数)が偏在することは当然予測されるところ、JASRACの包括規程は、演奏ログ数(アクセス回数)による修正が加えられずに適用されている。これは、JASRACの包括規程による使用料の算定に当たって、演奏ログ数(アクセス回数)を考慮しないことがJASRACと利用者団体との間の合意の前提となっているためであって、演奏ログ数(アクセス回数)により修正すべきとの一審被告の主張に理由がないことは明らかである。 また、そもそも本件で問題となっているのは複製権侵害であり、演奏権の侵害が問題とされているわけではないから、複製権の侵害における損害の算定において、演奏権の回数を基準として採用することは、複製権と演奏権の違いを無視するもので妥当でない。現に、JASRACとAMEIは、平成8年6月30日、複製権侵害に基づいた基準により、損害賠償の算定を行っており、演奏ログ数を加味して清算していない。 さらに、一審被告は、カラオケ店舗の売上収入に対する寄与貢献度の観点から演奏ログ数(アクセス回数)に応じた按分をすべきであるなどと主張するが、そのような寄与貢献度は著作権侵害行為によって生じた損害額の算定には一切関係がない。 なお、前述のとおり、一審被告は、請求対象となっている全ての期間の演奏ログ数(アクセス回数)を正確に把握するシステムを有しておらず、適切に集計していないから、演奏ログ数(アクセス回数)に応じて按分することはそもそも不可能であり、不適当である。 (ウ) 著作権等管理事業者の管理楽曲数による修正 一審被告をはじめとするカラオケ事業者は、著作権等管理事業者の管理楽曲数全てを利用しているわけではなく、管理楽曲数で按分する根拠が不明である。むしろ、一審被告は、自らの収録楽曲により集客し、利益を上げていたのであるから、収録楽曲以外の楽曲をも含む管理楽曲数により按分すべきでないことは当然である。 なお、一審被告は、一審原告が、本件訴訟の請求対象楽曲のほかに管理楽曲を保有しているとの具体的な主張立証をしたことはないと主張するが、本件訴訟においては、一審原告の一審被告に対する著作権侵害を理由とする損害賠償請求権の当否が問題となっているので、一審原告は、一審被告が著作権を侵害した楽曲を管理していたことを主張立証すれば足り、本件訴訟において一審原告の管理楽曲数の具体的な主張は不要である。付言するに、一審原告は、本件訴訟の請求対象楽曲のほかにも、複数の管理楽曲を有している。 (エ) 小括 以上のとおり、使用料相当損害金の算定は、原告規程又は複製権侵害に基づき算定されるべきであるが、万が一、JASRACの包括規程により算出される場合には、規程の内容は一切修正されるべきでない。 オ 韓国の作家が現在受領している使用料を参考にすべきとの一審被告の主張は根拠がない 一審被告は、平成19年以降、JASRACとKOMCAとの間に相互管理契約が締結されたこと、及び楽曲の業務用通信カラオケにおける使用の態様やカラオケ店舗からカラオケメーカーへの収入構造の実態が変わらないことなどを理由として、著作権等管理事業者に変動があった場合にも作家が受領すべき使用料は不変であるべきで、作家が現在分配を受けている使用料の総額を目安にすべきであるとの持論を展開するが、失当である。 まず、一審被告が主張するカラオケビジネスの収入構造の実態は、カラオケ端末機の販売等の収入ルートを明らかにしておらず、正確でない上、使用料相当損害金の算定には一切関係がない。一審被告は、原告規程の内容を知りながら、あえてその管理著作物の利用を長期間にわたって続けていたものであり、後になってカラオケビジネスに合うように減額してほしいなどと主張するのは極めて不合理である。 また、一審被告の主張は、徴収段階と分配段階とを混同して捉えるもので、およそ採用できない。すなわち、本件訴訟における使用料相当損害金の算定は、あくまでもカラオケ事業者から管理事業者である一審原告が使用料を「徴収」する段階での損害相当額が問題となっているのであって、一審原告と権利者間の「分配」に関する事情とは何ら関係がない。 現在と請求対象期間とでは原権利者の契約締結の相手方が異なる以上、当該契約の内容に応じて原権利者が受領する著作物の使用料が異なるのはむしろ当然である。 したがって、使用料相当損害金の具体的な金額の目安として、韓国の作家らが相互管理契約に基づき受領している使用料を参考にすべきとの一審被告の主張は不合理であり、採用されるべきではない。 また、ここでも、一審原告が控訴審において提出した確認書Dに記載された楽曲が一切考慮されておらず、出発点から誤りである上、侵害楽曲数がどの楽曲を念頭において集計されたかすら不明であり、別紙2記載の侵害楽曲数に基づく一審被告の主張はすべて争う。 カ 予備的主張 (ア) 一審原告の損害につき、原告規程、複製権侵害を基準とした算定方法、JASRACの包括規程のいずれの算定基準をも排斥する場合には、以下のとおり、JASRACの包括規程を、端末収録楽曲数で按分すべきである。すなわち、一審被告は、楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに記録することにより楽曲を複製し、また、新譜の楽曲データをカラオケ端末機のハードディスクに蓄積させるために、楽曲を公衆送信することにより、一審原告の著作権を侵害しているのであるから、「収録」に着目して按分すべきであり、それ以外の按分については絶対に採用されるべきではない。また、JASRACの包括規程の基本使用料については、収録数に応じて定められたものであるから、収録楽曲数に応じた按分は、包括規程の基準に最もなじむ按分方法であるといえる。 (イ) JASRAC包括規程を、端末楽曲数に応じて按分して採用する場合の計算方法は以下のとおりである。 a 基本使用料 前述のとおり、JASRAC包括規程の基本使用料は、楽曲の収録数に応じて定められたものであるから、基本使用料を算定する場合、JASRACの包括規程をそのまま適用すれば足り、基本使用料についてJASRAC包括規程は修正されるべきではない。 b 利用単位使用料 万一、利用単位使用料を按分する場合には、収録楽曲数に応じて按分すべきである。利用単位使用料について、一審原告は以下の計算式に従って、利用単位使用料を計算した。 一審原告の利用単位使用料=JASRACの利用単位使用料×一審被告の端末機械における一審原告の収録楽曲数/一審被告の端末機械におけるJASRACの収録楽曲数×一審被告端末機械台数 なお、一審被告は、甲92(一審被告作成の「ACA社主張曲1540/JASRAC管理楽曲数」と題する書面)につき、JASRACが管理する楽曲が収載されている端末台数を記載したものにすぎず、一審原告の管理する楽曲の収載数を記載したものではない旨主張するが、甲92は、一審被告が、一審係属中の和解交渉の際に作成したものであり、甲92において、一審被告は、「累積台数」を基に基本使用料と情報利用単位料を算定している。一審被告が、一審原告の楽曲が収録されていない端末を、和解金額の算定根拠に利用するとは解されず、一審被告の同主張は到底信用できない。 また、一審被告は、端末収録楽曲数につき、別紙4記載の「侵害楽曲」を収載した端末機の「請求対象期間」における月毎の台数に基づき主張するが、そもそも「侵害楽曲」の詳細及び根拠は不明である。 c 端末収録楽曲数で按分した場合の損害額 端末収録楽曲数で按分した場合、その損害額の算定に当たっては、一審原告が、請求対象としている全楽曲数により按分されるべきであるが、少なくとも791曲が基準とされるべきである。すなわち、791曲は、原判決で認められた楽曲及び当審で一審原告が確認書Dを提出した総楽曲数から、一審原告が作曲と作詞の双方を管理している楽曲数を引いて算出したものである(なお、別紙1の右上に記載された「作詞管理楽曲」とは、一審原告が作詞管理を行っていて、かつ原判決で認められた楽曲数に確認書Dを提出した楽曲数を足した総数が685曲であることを示すものである。また、「作曲管理楽曲」とは、一審原告が作曲のみを管理していて、かつ、原判決で認められた楽曲数に確認書Dを提出した楽曲数を足した総数が106曲であることを示すものである。)。 なお、一審原告は、TMA社との契約とは無関係に、平成14年(2002年)10月17日以前に作家と直接著作権信託契約を締結し、同契約に基づき楽曲を管理しており、これらの楽曲が請求対象楽曲となっていることは明らかである。 (a) 基本使用料 別紙1著作物使用料月別計算書の「基本使用料金」の行に記載のとおり、請求対象期間における基本使用料の合計は240万円である。 (b) 利用単位使用料 別紙1著作物使用料月別計算書の「利用単位使用料」の行に記載のとおり、請求対象期間における利用単位使用料の合計は1億0484万0680円である。 上記計算式に基づき、平成14年10月の計算方法を例にとってみると、一審被告の端末機械における一審原告の収録楽曲数である791を一審被告の端末機械におけるJASRAC収録楽曲数である3万4994(甲92)で除し、一審被告の端末機械台数である15万5043(甲92)を乗じ、JASRACの利用単位使用料である1500(これは、1万8000円、1万5000円及び1万2000円の情報料の平均額である1万5000円に100分の10を乗じた金額である。)を乗じると525万6859円となり、これが平成14年10月における一審原告の利用単位使用料となる。 そして、毎月これと同じように計算して算出された額を全て足すと1億0484万0680円となり、これが請求対象期間における一審原告の利用単位使用料となる。 (c) 合計 別紙1著作物使用料月別計算書の「総合計」に記載のとおり、請求対象期間における基本使用料及び利用単位使用料の合計は1億0724万0680円である。 2 当審における一審被告の主張 (1) 本件著作権は一審原告に帰属していることに対し ア 「TMA・原告契約」の終了による管理権限の不存在(被告楽曲目録7) (ア) 原判決の論理は破綻している 原判決は、著作権については「返還のために特段の手続を取ることを必要とせず、帰属権利者に返還され」たと判断する一方で、著作権に基づき発生した損害賠償請求権については、「返還のために特段の手続を取ることを必要としない」にもかかわらず、「本件訴訟を提起し、訴訟追行をしてきており、いまだに損害金の現実の回収・分配が完了したものではないこと」を理由に、著作権と同じようには扱わず、別途帰属権利者が損害賠償請求権を行使することや訴訟追行を認める旨の意思表明をしているか否かによって、その返還の有無を判断する。 しかし、法定信託は信託財産を帰属権利者に移転するまでの間、信託が存続しているとみなす制度にすぎず、法定信託が存続するか否かについては、あくまでも信託財産が返還されているか否かで判断すべきであって、受託者において信託財産について現に訴訟が係属中であるか否かや「原権利者」の意思は、本来関係なく、原判決の論理は破綻している。 本件における著作権侵害に基づく損害賠償請求権も信託財産の1つにほかならないのであるから、損害賠償請求権が「原権利者」に返還され復帰したか否かについても著作権と扱いを異にする理由はない。 しかも、原判決は、結局、「原権利者」が確認書Bの提出により訴訟追行の意思表明をしていない楽曲に係る損害賠償請求権については、帰属権利者に返還され復帰していることを認めている。そうすると、原判決自身も、損害賠償請求権につき著作権と同様に「返還のために特段の手続を取ることを必要としない」ことを前提にするものであり、損害賠償請求権も、「原権利者」による確認書Bの提出の有無にかかわらず、著作権とともに帰属権利者に返還され復帰していると解すべきである。 そもそも、「信託の残務の整理」というときに、受託者において訴訟係属中の損害賠償請求権について「現実の回収・分配」を当然の前提とする必要はなく、原判決はかかる点において価値判断を誤っている。信託が終了した場合には、信託財産を帰属権利者に移転することが受託者の第一義的な義務であって、法定信託の受託者として認められる管理権限は信託財産を帰属権利者に移転するまでの間、副次的に認められるものにすぎない。かかる観点からは、信託契約において特段の規定がない限りは、損害賠償請求権そのものを帰属権利者に現物交付して信託を清算することがむしろ一般的というべきである。 また、信託終了時に信託財産が帰属権利者に物権的にではなく債権的に帰属すると通説が解するのは、「特別の意思表示がないのに物権変動を生ずるとすると、物権変動の時期が不明確になるおそれがある」からであり、意思表示がされる解除の場合には、帰属権利者に信託財産が物権的に帰属すると解されている。しかるに、「TMA・原告契約」はTMA社による解除権の行使により終了しているのであるから(乙7の2)、同契約の信託財産は解除の効力発生日である平成19年3月31日にTMA社に物権的に帰属しており、法定信託が成立する余地はない。 なお、一審原告は、法定信託の性質が原信託の延長であることをことさらに強調するが、ここでの争点は法定信託の法的性質ではない。 また、一次委託者たる原権利者は、訴訟承継制度によって継続して訴訟を追行することができるので、訴訟追行の継続を一審原告の清算事務の内容に含めるべきではない。 ちなみに、韓国の作曲家及び作詞家は、日本において著作物使用料の請求に関する訴訟提起を現に行っている。 (イ) 著作権侵害に基づく損害賠償請求権は著作権の信託終了後直ちに「原権利者」に復帰すると解すべきである 一審原告は、法定信託について原判決の定立した規範を前提とした上で、@一審原告が「原権利者」から確認書Bを直接取得していることを根拠に、一次的受託者たるTMA社を経由しなくとも二次的受託者たる一審原告が「原権利者」と容易に連絡が取れるため一審原告において円滑な清算事務が遂行でき、A「原権利者」は一刻も早く自己の著作物の使用料相当額を回収したい意思を有し、これを実現できるのは一審原告以外に存在しないとして、原判決の当てはめが誤っている旨主張する。 しかし、そもそも原判決は、確認書Bを提出した「原権利者」に限って、その創作に係る「請求対象楽曲」の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が一審原告に帰属することを認め得るとするのみで、全ての「原権利者」との間での一審原告との一般的な連絡の容易性を根拠としてそのような認定をしているものではなく、一審原告の主張は的を射ていない。また、上記Aについても、確認書Bを提出していない「原権利者」が前述のような意思を有するか否かは不明であり、何らの証拠の裏付けのない一審原告のこうした主張は、純然たる憶測にすぎず、失当である。 (ウ) 原判決の論理構成に従ったとしても、TMA社を飛び越えて「原権利者」の意思のみを問題とすることはできない 仮に、原判決の論理構成に従っても、「原権利者・TMA契約」と「TMA・原告契約」とは異なる信託契約であり、原権利者は、一次信託によってTMA社に著作権を信託しているにすぎず、「TMA・原告契約」に関して、一次委託者たる原権利者の意思は、「原権利者・TMA契約」の当事者たるTMA社を通じてのみ反映させることができると解すべきである。 そして、TMA社は、本件訴訟が係属していることを承知の上で、一審原告に対して本件訴訟をそのまま続行して欲しいなどの特段の留保をすることなく、「TMA・原告契約」を解約しており、乙7の2において「貴社との委託関係をこれ以上維持し難い事情が発生し」たと明記されている。また、TMA社の代表者であったP1自身が清算人として清算結了の登記申請を行っている(TMA社の閉鎖登記簿謄本、乙7の1)。 そのような当時の客観的事情に照らせば、TMA社は「TMA・原告契約」の解約後においては、一審原告が引き続き既発生の使用料を徴収・分配することを希望していなかったことが明白である。 かかる点を無視して、「原権利者」から一審原告に対して確認書Bが提出されていさえすれば、損害賠償請求権は一審原告に帰属すると解釈するのは極めて乱暴であるといわざるを得ない。 なお、一審原告は、P1の陳述書(甲100)を根拠として、TMA社はそのように望んでいたなどと反論するが、甲100は、一審原告の指導ないしは利益誘導により後付けで作成されたものであって、乙7の2による解除権行使時の事情を反映したものとはいえない。 イ 確認書B、Dの取扱いについて (ア) 確認書Bの提出は現時点では何ら効果がないこと 原審において提出された確認書Bは、信託終了原因発生の平成19年3月31日からさほど離れていない同年4月〜5月に取得されたもののようであるから、原判決の論理構成によった場合、これらの確認書Bを提出した「原権利者」についての損害賠償請求権が一審原告に帰属すると解することは、時系列でみる限り、あながち理解できなくもない。 しかし、信託終了原因が発生した平成19年3月31日から約3年も経過しているにもかかわらず、今ごろになって確認書B又はそれに類似した書面(確認書D)が一審原告から提出されたとしても、当該権利者の楽曲との関係では、「原権利者・TMA契約」も、「TMA・原告契約」も既に終了しており、当該書面の提出は、終了した信託契約に何ら影響を及ぼすことはないと解さなければ法的安定性を欠く。 原判決は、いつまでに確認書Bが提出されれば一審原告に損害賠償請求権が帰属するかについては明言していないものの、原判決(70頁)の表現からすれば、原審において確認書Bを提出しなかった「原権利者」にかかる損害賠償請求権は既に帰属権利者に移転されており、一審原告には帰属しないと解すべきである。 3年以上も確認書が提出されていない事実は、「原権利者」としては、一次的受託者たるTMA社が解散・清算したことを認識しながら、損害賠償請求権を直接の契約関係にない二次的受託者たる一審原告に帰属させ清算事務を継続させるという意思がないことを強く推認させる。 (イ) 訴訟信託禁止につき 原審において確認書Bが提出されなかった楽曲について、仮に控訴審において初めて確認書Bが提出された場合には、たとえ同確認書Bに「原権利者」がその損害賠償請求権を一審原告に帰属させ清算事務を継続させる意思がある旨記載されていたとしても、このような信託終了原因が発生して3年も経過してからの意思表示は、「原権利者」が一審原告に対して訴訟目的の信託を新たに行ったものと評価することができ、このような目的での確認書Bの作成・交付は、訴訟信託(新信託法10条)に該当する違法な意思表示であって、無効というべきである。 なお、確認書Bにより、既に終了原因の発生した信託契約が長期間経過した後も存続しているものと解されるかとの争点は、信託された権利の「帰属先」の問題であり、他方で、消滅時効制度は、権利行使のための法律上の障害がないにもかかわらず長期間権利を行使しないことにより権利そのものが消滅するとの権利の「存否」の問題であって、一審原告の時効に関する主張は、「法的安定性の保護」の要請と「時効制度」とを短絡的に結び付けただけの、およそ無意味な主張である。 (ウ) 確認書D(甲145)の提出は、時機に後れた攻撃防御方法であって却下されるべきである 一審原告は、平成22年7月6日に開かれた控訴審の第1回弁論準備期日において、甲145の1の1ないし145の62の3(以下総称して「甲145」という。)を提出した。一審原告の提出した各々の「甲145」には、以下の@からEのうち複数の事項が記載されている確認書Dと称される書面が含まれている(ただし、甲145の15の1には確認書Dが含まれていない)。 @ 各確認書Dの作成者である「原権利者」に係る「原権利者・TMA契約」又は確認書AないしCの作成名義が真正であること(なお、確認書Bの一部は、原審において提出に間に合わなかったとして、「甲145」に添付して新たに提出されている) A 「原権利者・TMA契約」又は確認書AないしCの内容に関する訂正事項 B 各確認書Dの作成者である「原権利者」が、自己の有する著作権に関連して発生した日本国における著作権使用料及び関連する一切の費用等について一審原告に訴訟追行権限を付与すること C 各確認書Dの作成者である「原権利者」が「原権利者・TMA契約」を解約している場合、当該解約によっても、解約以前に既に発生していた著作権使用料等の徴収・分配の信託まで解消する意思は有していないこと D 各確認書Dの作成者である「原権利者」が共作楽曲の作成者の一部である場合、当該共作楽曲に関する著作権の共有持分を他の共有者が譲渡することについて同意すること E 他の共有者と連絡が取れない共作楽曲について、当該他の共有者は各共有者が各自の持分を譲渡することに包括的に同意しているはずであること 上記の@からEの事項は、「甲145」に含まれている確認書Dの各作成者が原審において陳述することが十分可能であった事項ばかりであり、上記@からEのいずれかの事項を記載している各確認書Dは、控訴審において初めて提出が可能となったというものではなく、原審における審理経過にかんがみて、原審で提出することが十分期待できたはずのものであることは明らかであって、いずれの「甲145」も、時機に後れて提出されたものであることは明白である。 また、一審原告の「甲145」の提出が時機に後れた点に何ら合理的な理由が認められないから、一審原告には、これらの書証の提出が時機に後れたことについて、少なくとも重過失が認められる。 そして、仮に「甲145」が証拠として採用された場合、一審被告としては、「甲145」に含まれる確認書Dにおける各陳述内容を全て検証した上で、必要な反論及び反証活動を行っていく必要がある。 また、共作楽曲についての「韓国では、共有にかかる楽曲について、各々の持分の処分について、相手方は包括的な同意をしていて、個別の同意を必要としないのが通常である」旨の陳述は、確認書Dの作成者自身の個人的な事柄に関する陳述にとどまらず、韓国での著作権管理に関する通常の実務の一般的な説明に及ぶため、一審被告としては、韓国の関係各所への照会等の証拠収集等を行った上での反論が必要となる。 以上から、「甲145」を取り調べた場合の訴訟完結の時点は、これを却下した場合の訴訟完結の時点より著しく後の時点となる。 以上のとおり、一審原告が平成22年7月6日の弁論準備期日において提出した「甲145」は、「故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」であって、「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」ことが明らかであるから、民事訴訟法157条1項に基づき直ちに却下されるべきである。 (エ) 今さら確認書Dの提出をしても何の法的効果も生じ得ない 一審原告の提出した各々の「甲145」に含まれる確認書Dは、確認書Bと同様の内容を陳述する書面であるところ、前記(アのとおり、今さらそのような書面を提出しても何の法的効果も生じないと解すべきである。 (オ) 確認書Dの取得態様の悪質性 一審原告は、確認書Dを取得するに当たり、原権利者宛てに「御依頼書」(乙79)を送付した。「御依頼書」においては、原審は、確認書を提出した原権利者について、一審原告に損害賠償請求権が帰属する旨の判断をしたことを下線で強調し、なおかつ、控訴審で損害賠償請求権が一審原告に帰属すると認定されて判決が確定されれば、原権利者に対して使用料の分配を実施できる見込みであると述べた上で、同封の確認書のひな形に署名して返送することを求めている。 一審原告が控訴審において証拠提出した確認書Dは、このように、十分な説明をすることもなく、捺印して返送しさえすれば使用料の分配金を受けられる旨の利益誘導を行うことにより盲目的な署名をするように仕向けて取得されたもので、「TMA・原告契約」終了時の原権利者の意思を表しているとは考えられない。まして、原権利者が確認書に対して何らかの意見があっても、同意見は確認書とは別の白紙に記載するよう指示されていることからすれば、原権利者が確認書Dに署名をしていても、同時に別途確認書Dの内容について条件付けをしたり、相矛盾したり、又はその内容の信用性を減殺するような書面を一審原告に提出している蓋然性は否定できず、もはや確認書Dの証拠価値はおよそない。 さらに、一審原告は、確認書Dを取得するに当たり、上記の「御依頼書」に添付してその追加説明として韓国語のみで記載された書簡(乙80)も原権利者に送付した。同書簡には、「第一審において裁判所は、判決文で強調していた作家の意志が確認されれば容認されるべきという判決を下しました。控訴審の裁判所も同じ意見を表明しており」と記載されており、また、「裁判所は原告に対し、第一審の判決についての異議はないが、被告の主張に対し、原告は確認書Dに記載されているような意思を確実に表示しておいた方がいいのではないかという意見を表明しています」などと記載されている。しかし、まさに控訴審の審理中に、知財高裁が第一審判決と「同じ意見を表明」しているはずはなく、また、知財高裁が「第一審の判決についての異議はない」旨や、一審被告の主張に対して「確認書Dに記載されているような意思を確実に表示しておいた方がいい」などという「意見を表明」したこともない。このことは知財高裁に顕著な事実である。 以上から明らかなように、一審原告は、原権利者から確認書Dを取得するために、原権利者に対して上述のような数々の虚偽の事実を織り交ぜつつ、確認書Dに捺印して返送さえすれば、控訴審において勝訴する蓋然性が高く、ひいては使用料相当損害金の分配を確実に受けることができる旨誤導して、原権利者を不当に利益誘導したものである。 このように誤導的に取得された確認書Dが「TMA・原告契約」終了時の原権利者の意思を正確に表しているはずがなく、その証拠価値は皆無というべきである。 ウ 契約期間満了楽曲(被告楽曲目録3)について (ア) 直接契約の更新条件充足についての立証がされていない旨の一審被告の主張は時機に後れた攻撃防御方法とはいえない 直接契約には、更新条項(第6条)があるものの、無条件更新ではなく、所定の場合に該当しないことが条件となっているところ、一審原告は、各「直接契約」について当該条件が充足されていることを何ら主張立証していないため、各「直接契約」が更新されたとみることはできず、これらについても期間満了している旨の一審被告の主張につき、原判決は、時機に後れた攻撃防御方法に該当するとして職権で却下した(原判決85〜86頁)。 しかし、「直接契約」の更新条項の規定は、更新条件を定めていることからして自動更新条項とはいえず、「直接契約」が更新されたというからには一審原告が同条件の充足を主張立証しなければならないところ、一審被告は、一審原告が同主張立証責任を果たしていないことを注意喚起したにすぎず、これは「時機に後れた攻撃防御方法」ではない。 また、原判決は、一審被告の上記主張に関連して、「原告の主張に不足な点は見受けられない」とするが、条件充足については何ら立証されておらず、また、「著作物使用料等の分配実績が別に定める信託契約の期間に関する取扱基準に規定する額に満たない場合」については事実として充足しない可能性が高く、いずれにしろ、各「直接契約」は期間満了によって終了している。 (イ) 原判決の採用する法定信託の論理は契約期間満了楽曲には適用できない 原判決は、被告楽曲目録3(契約期間満了楽曲)記載の「請求対象楽曲」については、契約期間の満了により一審原告には著作権が帰属していない旨の一審被告の主張について、「原権利者・TMA契約」及び「TMA・原告契約」に関する楽曲のうち、確認書Bを提出していることにより一審原告に損害賠償請求権が帰属すると認められる楽曲については、法定信託が存続することを前提に、当該権利帰属が認められることを理由に採用できない旨判断する(原判決84〜85頁)。 しかし、原判決の法定信託に関する論理構成は、信託終了発生原因が生じた時点で本訴が既に提起され追行されていたことを前提とするところ、契約期間満了楽曲については、契約期間が満了した際には本訴が未だ係属していなかったものも存するから、訴訟係属を理由として損害賠償請求権の現実の回収・分配までが受託者としての清算事務に含まれるとする裁判所の論理は妥当しないはずである。むしろ、契約期間満了時に本訴が未だ係属していなかった楽曲については、著作権と同様に、既発生の損害賠償請求権についても、帰属権利者への返還に特段の手続を要しないため、いずれも帰属権利者に返還されていると解すべきである。 なお、「TMA・原告契約」は、「原権利者・TMA契約」の信託関係を前提とする再信託であるから、「原権利者・TMA契約」が期間満了により終了すれば、再信託である「TMA・原告契約」も当然に終了するものであって、契約期間満了楽曲にかかる既発生の損害賠償請求権は、一審原告に帰属しないこととなる。 以上からすれば、本訴係属(訴状が一審被告に送達された平成16年9月8日)以前に契約期間が終了した作家((略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略))に係る楽曲の著作権に基づく損害賠償請求権は、一審原告に帰属しない。 なお、一審原告は、確認書A(甲79の129、130)を根拠に、(略)の「原権利者・TMA契約」が平成18年3月8日に合意解約され、(略)の「原権利者・TMA契約」が平成18年2月13日に合意解約されたと主張するが、上記日付は各確認書Aの作成日にすぎず、各「原権利者・TMA契約」の解約日ではない。 (ウ) 契約期間満了時に本訴が既に係属しているものについても法定信託は存続しておらず、損害賠償請求権は「原権利者」に返還されている 被告楽曲目録3記載の楽曲のうち、契約期間満了時に既に本訴が係属しているものについても、前述のとおり「原権利者」による確認書Bの提出の有無によって法定信託が存続しているか否かを判断する原判決の論理構成は誤りであり、損害賠償請求権は一審原告に帰属しない。 エ 原権利者との権利連鎖不存在楽曲(被告楽曲目録6)について (ア) 原判決は、被告楽曲目録6記載の楽曲につき、「原権利者・TMA契約」が解除され、契約関係が終了したとしても、確認書Bが提出されている「原権利者」にかかる楽曲の損害賠償請求権については法定信託が存続し、一審原告に権利帰属する旨判断する(原判決87頁)。 しかし、前述のとおり、「原権利者」による確認書Bの提出の有無によって法定信託が存続しているか否かを判断する原判決の論理構成は誤りであり、上記楽曲にかかる損害賠償請求権は一審原告に帰属しない。 (イ) また、原判決は、(略)については、契約上の地位譲渡契約書(乙6の4)の成立が一審原告によって争われており、この点についての立証がされていないとして、契約上の地位が譲渡されて権利の連鎖が切断された旨の一審被告の主張を認めなかった(原判決87頁)。 しかし、成立に争いがない甲39の1、2における (略) の印影と乙6の4の同人の捺印欄に押されている印影とが明らかに同一と認められるため、同捺印は同人によって押捺され、乙6の4は同人の意思に基づいて作成されたものと推認されるので、(略)に関する乙6の4の契約上の地位譲渡契約書は真正に成立している。 以上からすれば、原判決の上記認定は明らかに誤りである。 オ JASRAC管理楽曲(被告楽曲目録1)について (ア) 「請求対象期間」におけるJASRAC管理楽曲リストの再提出 a 一審被告は、JASRACから、「請求対象期間」の最終日である平成16年7月31日時点におけるJASRACによる「請求対象楽曲」の著作権の管理状況についての調査結果に関する報告書を受領した(乙75の3、乙76)。 「請求対象期間」の末日における管理状況は、特段の反証がない限り、「請求対象期間」全体におけるJASRACによる管理状況と同一であるものと推認される。したがって、乙75の3を踏まえ、「請求対象期間」においてJASRACが管理していた楽曲を示す被告楽曲目録1を更新して提出する(別紙7、8参照)。 b 一審原告は、JASRACが「非管理」と回答した楽曲についても一審被告が「管理」としていると主張する。 確かに、JASRACの平成22年9月24日付け回答書(乙75の3)においては、別紙【作曲】記載の668番の楽曲に係る著作権は「非管理」と記載されている。しかし、この点に関して、改めてJASRACに照会をしたところ(乙81の1)、別紙【作曲】記載の668番の楽曲の著作権については「管理」が正しく、1021番の楽曲に係る著作権は「非管理」が正しいことが判明した(乙81の2)。 JASRACによれば、平成22年9月24日付け回答書(乙75の3)の668番及び1021番の「JASRAC管理(作曲)」欄の記載は誤記である。誤記の原因は、「イニョン」(日本語訳「因縁」)という名称を持つ別の楽曲が668番、702番、1021番と3曲あったところ、当該回答書作成の過程において、JASRACが668番と1021番の楽曲を取り違えた事務作業上のミスに起因するとのことである(乙81の2)。JASRACの乙81の2による回答の訂正は、元の「非管理」との回答を「管理」と訂正するだけでなく、「管理」としていた回答を「非管理」とも訂正するものであって、何ら恣意的な訂正ではない上、かかる説明は十分合理的なものであるから、当該誤記は乙75の3全体の証明力を失わせるものではない。 c なお、JASRACからの説明(乙59の2、乙82の1及び2)から明らかなように、「J−WID」画面におけるある楽曲の「通カラ」欄に「○」記号がついている場合は、たとえ権利者ごとの欄に「#」記号がついていようとも、当該楽曲の業務用通信カラオケによる使用に関する権利についてはJASRACが管理又は一部管理していたことを示している。 したがって、「#」記号に関する一審原告の主張は誤りであって、一審原告により証拠提出された「J−WID」画面の印刷物(甲149の1ないし152)をもって、JASRAC作成に係る平成22年9月24日付け「回答書」(乙75の3)の信用性が減殺されることはない。 (イ) 債権の準占有者に対する弁済の抗弁は時機に後れた抗弁でない 被告楽曲目録1記載の楽曲に係る著作権の「原権利者」からJASRACへの権利の連鎖が何らかの理由で切断されていても、一審被告はJASRACとの平成12年10月20日付け「業務用通信カラオケによる管理著作物利用に関する契約書」(乙26)に基づき正当に利用許諾を得たと信じて使用料を支払い続けてきたため、民法478条が適用又は類推適用されるべきである旨の一審被告の主張につき、原判決は、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)であるとして却下した。 しかし、一審被告のかかる主張は、P2の証人尋問により初めて明らかになった事実を基になされている。然るに、一審被告は、同証人尋問終了後に唯一与えられた準備書面提出の機会において、債権の準占有者に対する弁済の抗弁を提出したものであり、「時機に後れた」と評価することはできない。また、既に法廷においてなされた証言内容を根拠とする主張である以上、この点を審理することが訴訟の完結を遅延させることになるものでもない。 したがって、一審被告の債権の準占有者に対する弁済の抗弁の主張を取り上げなかった原判決の判断には違法があり、控訴審においてはかかる主張についても審理し、実体判断がなされるべきである。 カ 原判決には、「原権利者・TMA契約」及び「TMA・原告契約」の「請求対象楽曲」に関する損害賠償請求権の帰属につき、誤りがある (ア) 「原権利者・TMA契約」及び確認書Bが証拠提出されていないにもかかわらず、一審原告に損害賠償請求権が帰属するとの事実認定は明らかに誤りである 原判決の法定信託に関する論理構成からすれば、ある作家が創作した楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が一審原告に帰属するためには、当該作家についての「原権利者・TMA契約」及び確認書Bの存在が当然の前提となるはずである。 しかるに、一審被告が、一審原告の著作権管理権限を積極的に認めた「請求対象楽曲」が1曲もない以上、全ての「原権利者・TMA契約」の契約書(訴訟外において文書の成立に争いがない場合を含む。)が本件訴訟において証拠提出されてなければならないはずである。なお、一審被告は、被告楽曲目録1〜14(ただし4、9ないし12を除く。)所定の各「請求対象楽曲」に係る著作権の一審原告への帰属を否認し、同請求目録11所定の楽曲につき不知と認否している。 確認書Bについても、一審被告がその内容について積極的に認めたものは一切存在しない。一審被告が確認書Bの作成名義の真正を争わなくても、その内容について積極的に認めていない以上、一審原告による確認書Bの内容についての立証活動が不要になるものではない。 そして、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)記載の作家のうち、作詞につき、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)及び(略)、作曲につき、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)及び(略)((略)についても、後記(エ)記載の理由により同様である。)については、「原権利者・TMA契約」と確認書Bのいずれも証拠提出されていない。 また、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)記載の作家のうち、(略)及び(略)については、「原権利者・TMA契約」は証拠提出されているものの、確認書Bは証拠提出されていない((略)及び(略)についても、後記(エ)記載の理由により同様である。)。 よって、以上の作家の創作楽曲に係る著作権侵害に基づく損害賠償請求権は一審原告に帰属せず、原判決の事実認定は誤りである。 (イ) 確認書Bが存在せず、又は「原権利者・TMA契約」の成立について何ら立証がされていないにもかかわらず、一審原告に損害賠償請求権の帰属を認めるのは不当である 裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)において、契約書欄又は確認書欄に「*」が付されているものは、文書の成立に争いがないものとして整理されているが、ここには契約書又は確認書がそもそも存在していない場合も含まれており、かような整理の仕方は、あたかも当該契約書又は確認書が存在し、かつ、一審被告がその成立を争っていないかのような誤解を与える。 実際、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)記載の作家のうち、作詞につき、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)及び(略)、作曲につき、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)、(略)及び(略)については、確認書Bは存在せず、これらの作家については、原判決の法定信託に関する論理構成に従えば法定信託を認める余地は皆無である。 また、一審被告は、確認書目録A、B及びCにおいて、文書の成立を否認する場合は、否認の対象は確認書のみならず原契約も含まれる旨を明らかにしており、そのような整理は、第35回弁論準備手続において裁判所によっても確認されている。したがって、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)記載の作家のうち、契約書欄に「*」が付されている作家(作詞につき(略)、(略)、作曲につき(略))に係る「原権利者・TMA契約」の成立については一審被告が争っており、一審原告が何ら立証活動を行っていない以上、これらの作家の創作に係る楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が一審原告に帰属するとした原審の事実認定は誤りである。 また、一審被告は、 (略) 証言を受けて、全ての「原権利者・TMA契約」の成立を争うことを改めて明確にしているため、一審原告は、「原権利者・TMA契約」の全てについて文書の成立を立証する必要があるが、かかる立証活動は、原審において証人尋問が行われた作家3名以外については行われていない。したがって、当該作家3名以外の作家の創作に係る楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求権も一審原告に帰属するとした原審の事実認定が誤りであることは明白である。 (ウ) (略)及び(略)に係る書証の成立について一審被告は争っている (略) 及び (略) が自ら各契約書及び確認書を作成していれば、日本の裁判所に証拠として提出されるものと知っているので慎重に作成するはずであり、期間につき誤って記載するはずがない。一審被告はかかる点を理由にこれらの各書証の成立を争うものであり、「書証の成立を積極的に争うものではない」とする原判決(77頁)の評価は明らかに不当である。 (エ) 一審被告は、(略)、(略)及び(略)の各楽曲につき、(略)への委任状の成立について争っている 一審被告は、(略)、(略)及び(略)の(略)に対する委任状(甲82の1ないし3)の成立について争っており、現に、甲82の1ないし3の(略)の印影は全て同じではなく異なっている。しかるに、一審原告は、(略)に対する委任状の成立については何ら立証していない。 なお、上記委任状に基づく委任行為は、仮にそれが存在すれば、文化観光部長官の著作権信託管理業許可(乙8)を得ない違法な行為であるところ、一審被告は、上記3名の作家がそのような違法行為を安易に行うはずがないという間接事実を指摘するものである。 加えて、これらの3名の確認書Bについては、本件訴訟において証拠提出されておらず(甲80の23ないし25は欠番である)、また、(略) に至っては、「原権利者・TMA契約」さえ証拠提出されていない(甲83の118は欠番である)。したがって、前記(アと同様の理由から、これらの作家に係る楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が一審原告に帰属すると認定することはできない。 なお、一審原告は、(略)の作成に係るとされる確認書D(甲152の1)を提出するが、受任者と称する者が委任を受けていることを意思表明したとしても、それは委託者の意思の証明の関係では、何の証拠価値もない。 また、一審原告は、(略)については確認書D(甲153)を提出することで委任行為を立証する意図のようであるが、(略)及び(略)については確認書Dを提出しておらず、両名が(略)に対して著作権管理を委任しているとはいえない。 (オ) 共作楽曲について共有者の同意が得られていない楽曲が存在する裁判所楽曲目録−作詞(認容)記載の作家のうち、(略)及び(略)については、前記(ア)のとおり、「原権利者・TMA契約」及び確認書Bが証拠提出されておらず、これらの作家の創作に係る楽曲の著作権管理権限が一審原告に帰属していたとは認められない。しかるに、裁判所楽曲目録−作詞(認容)記載の101番の楽曲は、(略)、(略)及び(略)の共作であることから、(略)の楽曲について一審原告に著作権管理権限を認めることができたとしても、当該楽曲に係る著作権の(略)の共有持分を一審原告に信託譲渡することについての(略)及び(略)の同意が立証されない限りは、当該楽曲の著作権管理権限を一審原告に認めることはできない。 キ 文書の成立の真正に関する一般論について一審原告の理解は完全に誤っている 2つの文書の筆跡を比較する場合、一方の文書については、文書作成者の筆跡であることが既に確定されたものでなければならず、両文書がいずれも同一人による無権限の代筆である可能性が残存するため、単に2つの文書の筆跡が同一であることのみを根拠として両文書の成立の真正が認められるなどと結論づけられるはずがない。 したがって、たとえ「原権利者・TMA契約」と確認書Bの筆跡が同一であっても、(略)、(略)及びP3作成に係る書証を除き、当該各書証の成立の真正について作成名義人本人の証人尋問による立証がされていないため、原判決において当該各書証の成立が否定されたのは当然である。 なお、一審原告は、原審裁判所が一審原告による「原権利者」の証人申請を不当に4名に限定したかのように主張し、原審裁判所の訴訟指揮は違法であると論難するが、実際には、原審裁判所は、弁論準備期日において、一審原告がいかなる者を何名証人申請するかは一審原告の立証戦略の問題である旨を明確に述べており、原審裁判所が原告の立証活動を制限したことはない。一審原告は、自らの立証戦略の過ちの責任転嫁を試みているだけであって、原審裁判所の訴訟指揮に何ら違法性はない。 ク 共作楽曲の著作権持分譲渡に当たっては他の共有者の同意が必要である 一審原告は、共作楽曲(作詞又は作曲が複数の作家によってなされ、一審原告がそのうちの一部しか管理していないと主張する楽曲)の著作権共有持分を著作権等管理事業法に基づき信託譲渡する場合は他の共有者の同意が不要であると主張するが、これは著作権法65条1項の明文に反し、独自の主張にすぎない。 たとえ著作権等管理事業法に基づく著作権共有持分の信託譲渡であっても、同著作権の円滑な行使を妨げるおそれがあるために他の共有者の意思に反する場合はあり得るから、他の共有者の同意が必要であり、同譲渡について無条件に他の共有者の黙示の同意を認定することはできない。 ケ 「直接契約」に関する「請求対象楽曲」における損害賠償請求権の帰属について、原判決の認定には誤りがある (ア) 「確認条項」に反する証拠提出は証拠能力を有しない P4の「直接契約」は、原審第10回弁論準備手続期日(平成18年2月1日。以下「確認基準日」という。)に確認した証拠提出時期に関する合意(確認条項)に反して提出されたから、証拠能力は認められない。仮に証拠能力が認められたとしても、一審被告は当該書証の成立を否認しているところ、当該書証の成立の真正は立証されていないから、同人の楽曲に関する損害賠償請求権は一審原告に帰属しない。よって、同人に関する「直接契約」が締結されたことが推認されるとした原判決の認定(80頁)は誤りである。 一審被告は、平成17年8月16日付けで直接契約書の最終頁のみを受領した(乙46)が、確認基準日までに他の頁が追完されず、平成21年4月24日付けでようやく残りの頁も提出された(甲123)。 一審原告が最終頁以外の頁を確認基準日までに提出できなかったのは、最終頁以外の頁がもともと存在しなかったからにほかならず、平成21年4月24日付けで提出された甲123は確認基準日以降に新たに作成した証拠であることが強く推認される。そのような新たな証拠を確認基準日以降に提出することは確認条項に反するため、甲123の証拠能力は否定されるべきである。 (イ) 証拠提出されていない「直接契約」を前提に事実認定がなされている 前述のとおり、一審被告が全ての「請求対象楽曲」について一審原告の著作権管理権限を争っているにもかかわらず、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)記載の作家のうちP5及びP6の「直接契約」は、本件訴訟において証拠提出されていない。なお、一審原告は、上記両名についての信託契約書(甲154及び155)を証拠提出するが、明らかに時機に後れた証拠提出であり、却下されるべきである。 また、P7についても「直接契約」は証拠提出されていない(甲49はP7のものではなく、P8のものである)。 したがって、これらの作家に係る楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が一審原告に帰属するとした原判決の事実認定は誤りである。 (ウ) 「直接契約」の成立の認定方法は経験則に反する 原判決は、「直接契約」の成立に争いがあっても、確認書AないしCのいずれかが存在し、その成立が立証されれば(又は争いがなければ)、「直接契約」の成立が推認されると判示する(原判決81頁)。 しかし、そもそも「直接契約」に係る作家は、確認書A及びBを全く提出しておらず、本件訴訟において確認書Cを証拠提出している「直接契約」に係る作家は、P9(甲81の41)、P10(甲81の42)及びP11(甲81の43)のみであるが、一審被告は、これらの確認書Cの成立を明確に争っている(確認書目録C参照)。しかるに、これらの確認書Cの成立につき何ら立証活動がされていないため、その成立は認められず、ひいては「直接契約」の成立も認めることができないはずである。 そもそも、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)に記載されている直接契約に係る作家について、当該直接契約の成立の真正に争いがないとして同目録に*印が付されているのは、P5(作詞)、P4、P6 作曲)のみであり、その他の作家は全て「直接契約」が証拠提出されているから、これらの「直接契約」の成立の真正に争いがあることは判決書の記載からみても明らかである。 また、裁判所楽曲目録−作詞(認容)及び作曲(認容)に記載されている他の「直接契約」に係る作家については、確認書Cさえも本訴において証拠提出されておらず、その具体的内容は明らかではないから、そのような確認書から「直接契約」の成立を推認することはできず、原判決のかかる推認手法は明らかに経験則に反し、違法である。 コ 権利濫用・禁反言の法理違反の主張は時機に後れていない 原判決は、一審被告の権利濫用及び禁反言の法理の主張につき、被告準備書面(12)(平成21年9月16日の第4回口頭弁論期日に陳述)で初めて主張されたとして、時機に後れた攻撃防御方法に該当すると判断した(原判決96頁)。 しかし、一審被告は、被告準備書面(4)において、社団法人音楽電子事業協会(AMEI)と一審原告間の本件訴訟提起前の交渉経過について詳述した上で、「平成15年6月より前の期間について著作権侵害を主張し損害賠償を求めることは、禁反言の法理に反し、また、権利濫用である」と明確に主張をしており、全く時機に後れてはいないから、かかる一審被告の主張を却下して実体判断しなかった原判決の判断は違法である。 (2) 損害論に対し ア 韓国の作家が相互管理契約に基づき現在受領している使用料を参考にすべきである (ア) 作家が受領すべき使用料は基本的に不変である JASRACとKOMCAは、2007年(平成19年)12月10日付け相互管理契約(2008年(平成20年)1月1日発効。以下「相互管理契約」という)を締結し、それぞれが管理する著作物についての相手国における使用につき使用料を相互に授受することとなった。同「相互管理契約」に基づき、2008年(平成20年)1月1日以降、韓国の作詞家及び作曲家(作家)は、KOMCAの会員になってさえいれば、JASRAC及びKOMCAを通じて自己の楽曲著作物の日本での使用につき使用料の分配を受けられるようになった。 本訴において、損害賠償請求主体は著作権等管理事業者たる一審原告であるものの、著作権管理事業者の徴収した使用料は結局のところ作家らに分配される。他方、作家らは、現在「相互管理契約」に基づき日本における業務用通信カラオケ利用に関する使用料の分配を受けている。 「請求対象楽曲」の業務用通信カラオケにおける使用の態様やカラオケ店舗からカラオケメーカーへの収入構造の実態は、「請求対象期間」と「相互管理契約」発効日以降とで何ら異なるところはないことからすれば、「請求対象期間」である平成14年6月28日から平成16年7月31日までの間の「請求対象楽曲」の業務用通信カラオケにおける1か月当たりの使用料額は、「相互管理契約」の発効日たる平成20年(2008年)1月1日以降現在分配されている1か月当たりの使用料額と比べて著しい差異が生じるべきではなく、著作権を行使する著作権等管理事業者に変動があったとしても同様である。 以上のとおり、一審原告の受けるべき「使用料相当損害金」の具体的な金額の目安としては、「請求対象楽曲」についての韓国の作家らが「相互管理契約」に基づいて日本におけるカラオケ使用に関して現在分配を受けている使用料の総額と大きく乖離すべきではない。 (イ) JASRACの業務用通信カラオケにおける使用料分配方式においては、業務用通信カラオケの分配対象使用料全体の72%がアクセス回数に応じて配分され、28%が全登録楽曲に均等に配分される。 また、後記の計算に用いるべき「侵害楽曲」については、以下の@ないしBのパターンを想定し、それぞれについて楽曲を具体的に特定した上で、当該「侵害楽曲」の総数やその総アクセス回数等を用いて、使用料相当損害金を算定している。 @ 原判決で認容された楽曲(作詞者のみが原権利者である楽曲、作曲者のみが原権利者である楽曲、及び原権利者が作詞者と作曲者を兼ねる楽曲の総体) A 原判決で認容された楽曲から、一審被告が控訴審で反証したJASRAC管理楽曲を控除したもの B 原判決で認容された楽曲から、一審被告が控訴審において反論・反証を行った楽曲の全てを控除したもの 以上の各パターンにおける「侵害楽曲」について、後記の計算に用いることとなる、(i)「請求対象期間」中の「侵害楽曲」数の延べ総計、(ii)「請求対象期間」中の各月における「侵害楽曲」数の平均値、及び(iii)「請求対象期間」中の「侵害楽曲」のアクセス回数の総計は、それぞれ以下のとおりである(別紙2、3参照)。 (i)「請求対象期間」中の「侵害楽曲」数の総計(延べ数) =パターン@の場合は6567曲 パターンAの場合は3861曲 パターンBの場合は1448曲 (ii)「請求対象期間」中の各月の「侵害楽曲」数の平均値 =パターン@の場合は253曲 パターンAの場合は149曲 パターンBの場合は56曲 (iii) 「請求対象期間」中の「侵害楽曲」のアクセス回数の総計 =パターン@の場合は51万4465回 パターンAの場合は27万5595回 パターンBの場合は10万3132回 なお、平成14年(2002年)10月17日(「TMA・一審原告間契約」締結日)より前に一審原告によって管理されていた「請求対象楽曲」は1曲も存在しないから、「請求対象期間」のうち一審原告が「請求対象楽曲」を管理していた期間は、平成14年(2002年)10月17日から平成16年(2004年)7月31日までの間に限られる(原判決はこの点を看過している。)。 よって、「請求対象期間」中の「侵害楽曲」のアクセス回数の総計(上記(iii))の割り出しに当たって、平成14年(2002年)10月に限っては、同月のアクセス回数を、同月17日から31日(15日間)における日割によって減じた。 ちなみに、分配金額には、KOMCAの管理手数料も含まれているが、本アプローチにおいては、一審原告とKOMCAの各管理手数料率がほぼ同率であると仮定して、その控除及び上乗せ計算を省略した。 本アプローチに基づく使用料相当損害金は、以下の計算式によって算定される。 S=(A×B)+(C×D) ここにおいて、 A=1アクセス当たりの分配額 =2008年(平成20年)4月〜6月における分配額(736万1285円。乙53の3参照)×72%÷当該期間の総アクセス回数(453万4794回。乙53の3参照)=約1.169円 B=「請求対象期間」中の「侵害楽曲」のアクセス回数の総計 =パターン@の場合は51万4465回 パターンAの場合は27万5595回 パターンBの場合は10万3132回 C=1か月当たりの1楽曲分の分配額 =2008年(平成20年)4月〜6月における分配額(736万1285円)×28%÷3(四半期) =約91.51円 D=「請求対象期間」中の「侵害楽曲」数の総計(延べ数) =パターン@の場合は6567曲 パターンAの場合は3861曲 パターンBの場合は1448曲 ゆえに、 S=パターン@の場合は120万2356円 パターンAの場合は67万5491円 パターンBの場合は25万3068円 イ 「個別課金方式」は「使用料相当損害金」の基準となり得ない (ア) 原判決が「原告規程」を排斥したのは妥当である a 一審原告は「原告規程」について利用者団体からの意見聴取努力義務をおよそ尽くしていない (a) 一審原告による「原告規程」に関する意見聴取の経緯からすれば、一審原告は意見聴取努力義務を尽くしたといえない 一審原告は、「原告規程」を定めるに当たって利用者団体であるAMEIから意見を聴取するよう努力したと主張するが、原判決認定のとおり、一審原告が著作権等管理事業法13条2項に基づく著作権等管理事業者としての意見聴取の努力義務を尽くしていないことは明らかであって、一審原告のこの点に関する対応は不十分な点が多く、一審原告の利用者団体からの意見聴取義務が十分に履行されたとはいえないとの原判決の判断は、極めて妥当である。 一審原告は、同法23条2項が「指定著作権等管理事業者」(JASRACはこれに該当する)について利用者代表から使用料規程に関する協議の求めがあった場合に当該協議に応じる義務を課す一方で、一審原告を含むその他の管理事業者については努力義務(同法13条2項)にとどめていることの趣旨を、「一般管理事業者の新規参入を容易にする」ためと主張する。 しかし、同法13条2項において著作権等管理事業者が使用料規程を定める場合における利用者や利用者団体からの意見聴取が「努力」義務とされているのは、「管理事業者の中には小規模で利用者への影響力が極めて小さい者もいることが想定されることや、使用料規程の内容に対する意見を申し述べることができる利用者または利用団体が存在しない場合も想定されることを踏まえてのもの」とされる。 このような立法趣旨にかんがみれば、一審原告が一般管理事業者であるからといって、利用者団体からの意見聴取がその違反を観念し得ない努力義務にとどまるかのように考えるのは形式的にすぎ、管理事業者が用いようとする使用料規程の利用者に対する影響の程度を踏まえて実質的に解釈されるべきである。 そして、報道によれば、一審原告は、平成14年7月当時において20億円もの著作権使用料の徴収を想定しており(乙2)、実際、本訴において「原告規程」に基づいて請求した金額も約10億円と極めて多額であることからすれば、利用者への影響力は大きく、努力義務の内容は極めて実質的なものであるべきである。 加えて、一審原告がAMEIに交付した一審原告の会社説明資料(甲1)において「NS企画は現在、韓国内において政府・文化観光部に認可された対海外における唯一の著作権管理団体です」などと虚偽の説明を行っていたこと等の本件の特有事情にかんがみれば、通信カラオケ業界に対するインパクトの大きさからみて、なおさら業界の意見を聴取する努力を尽くすべきである。 しかるに、一審原告は、「原告規程」案を一方的に交付してわずか1週間後を期限として回答を求め、その後もAMEIの要求する資料の提出や説明を十分に行うことなく、再要望書の送付を受けたにもかかわらずそれに応えることもなく、協議を一方的に打ち切ったものである。このような態度は、高い努力義務どころか、最低限の努力義務さえも尽くしていないというべきである。 (b) 一審原告は自己の努力義務違反の責任をAMEIに転嫁している 一審原告は、AMEIから具体的な意見を得られなかったのはAMEIの「交渉戦術」によるものであると主張するが、実際には、一審原告自らがAMEIから具体的な意見を得る努力を行うことなく、AMEIの合理的な要望に応えなかったからであるにすぎず、一審原告の上記主張は、自己の努力義務懈怠の責任をAMEIに転嫁するものである。 また、一審原告は、株式会社イーライセンス(AMEIとは別の管理事業者)との交渉が開始から少なくとも2年半経っても合意に達していないことにつき、同じくAMEIの交渉戦術によるものと主張するが、AMEIは、同社との協議を交渉戦術として引き延ばしたなどということはなく、一審原告の邪推である。 b 「原告規程」の内容は著しく不合理であって、使用料相当損害金の算定に用いることは極めて不当である (a) 原告規程の利用単位使用料は、カラオケメーカーの使用料負担能力に配慮しておらず、管理楽曲数に比して著しく高額である 原判決は、使用料相当損害金の算定に当たって「原告規程」の適用を排斥し、その際、「原告規程」の内容の不合理性について言及した(原判決93頁)が、原判決の同判断は極めて妥当である。 「原告規程」の「利用単位使用料」は、端末機の総数をベースとするスライディング・スケールによって端末機各1台につき1月ごとに定められた料率制であるのに対し、「JASRAC規程」では「情報利用料」の10%相当額という一定割合の料率制である。 「JASRAC規程」の「包括契約方式」における「利用単位使用料」は、端末機1台ごとにカラオケ店舗が支払う「情報利用料」の額と一定料率によって連動させることによって、カラオケメーカーの使用料負担能力ないしは使用料支払原資としてのカラオケメーカーがカラオケ店舗から得る収入について配慮されているといえるが、「原告規程」の「利用単位使用料」は、カラオケ店舗からカラオケメーカーに支払われる楽曲データ利用料という支払原資とは全く無関係に恣意的な任意の金額をもって定められた料率制であって、カラオケメーカー側の使用料負担能力について何の配慮もされていない、著しく不合理なものである。 また、一審被告の端末機に収載された一審原告管理楽曲数(原判決の認定によれば約290曲)は、JASRAC管理楽曲からの収載曲数(約9万7000曲)の約0.30%にすぎない。しかるに、「原告規程」の「利用単位使用料」は、「JASRAC規程」の「利用単位使用料」(毎月の端末機1台当たりの「情報利用料」の10%相当額、すなわち月額約1500円)に比べて、その33.33%(500円)ないし13.34%(200円)に上る。このように、収載楽曲数ベースでみた場合、一審原告管理楽曲数がJASRAC管理楽曲からの収載楽曲数のわずか約0.30%にすぎないことにかんがみれば、「原告規程」の「利用単位使用料」が異常に高額であることは明らかである。 さらに、管理楽曲数ベースでみた場合、JASRACの管理楽曲総数は約735万曲であり(乙36)、これを全て一審被告の端末機に収載したとしても、「JASRAC規程」の「利用単位使用料」は何ら増大しない。これに対し、一審原告管理楽曲数(原判決の認定によれば約290曲)は、JASRACの管理楽曲総数(約735万曲)のわずか0.0039%にすぎず、「原告規程」の「利用単位使用料」はより一層法外といえる。 以上のとおり、「原告規程」の「利用単位使用料」は暴利と評すべきくらいに法外に高額である。 (b) 収載楽曲数の増加は「基本単位使用料」においてのみ考慮され「利用単位使用料」においては考慮されない 一審被告を含むほぼ全てのカラオケメーカーが通信カラオケの店舗からの「情報利用料」として徴収する楽曲データの月々の利用料は、特定のモデルの端末機1台についてみた場合、毎月200曲前後のペースで収載楽曲数が増加を続けていくにもかかわらず、増額されることのない固定額の利用料となっている。 その実質的な理由は、一定の時間枠の中で1台のカラオケ端末機が実際に演奏しうる(利用客が歌唱しうる)楽曲数には自ずと制約があるために、抽象的な演奏可能楽曲数が飛躍的に増大し続けても、現実に端末機が稼動する時間も利用客による歌唱楽曲数も一定量以上は伸長することがあり得ないとの制約の存在である。 そして、一般的に収載楽曲数が増えるほど、追加楽曲1曲当たりの店舗売上貢献度という限界効用は逓減していくことになる上、韓国楽曲のようにほとんどの日本人利用客にとって存在すら知られていない楽曲については、収載数を増やしても、追加1曲当たりの限界効用は極めてノミナルなものでしかない。 そのため、実際問題としては、カラオケ店舗も収載楽曲数の逓増を理由として利用客からの利用料金を値上げすることは極めて困難であるし、同じ事情からカラオケメーカーが「情報利用料」を増額することも極めて困難となっているのが実情である。 それ故に、JASRACも、収載利用楽曲数の増大を使用料に反映させるのは、品揃え料としての1曲当たり月額100円ないし160円という「基本使用料」だけで、「利用単位使用料」には収載楽曲の増大というファクターは考慮せず、端末機1台当たり月額「情報利用料」の10%という一定の料率制を採用している。 (c) 一審原告に対して業務改善命令が出されていないことが「原告規程」の合理性を裏付けるものではない 著作権等管理事業法20条の業務改善命令は「命じることができる」と規定するにすぎず、同命令が出されていない場合でも利用者の利益を害するような不合理な規程はいくらでも存在し得る。 また、一審原告が文化庁に提出した疎明書面(甲43)には一審原告がAMEIから「原告規程」についての意見を受領したかのような虚偽の事実が記載されており、それによって文化庁による業務改善命令の行使が困難となったものである。このように、自ら不正に作出したというべき業務改善命令の不行使という事実をもって「原告規程」の合理性を導くことはできない。 (d) AMEI以外の団体・利用者が「原告規程」の内容に異議を述べないことも「原告規程」の合理性を裏付けるものではない 一審原告は、「AMEI以外の団体・各利用者は、原告規程の内容について一切異議を述べず、原告規程が有効な規程であることを前提に、現在も使用料の支払いを続けている」から、「原告規程」の内容は合理的であると主張するが、同主張はミスリーディングである。上記「AMEI以外の団体・各利用者」とは業務用通信カラオケ業者「以外」の団体・利用者を指し、また、上記「原告規程」とは通信カラオケ以外の当該業界における著作物の利用形態に関する一審原告の使用料規程を指す。したがって、上記一審原告の主張は、業務用通信カラオケ事業とは無関係な事業者が当該業界に関係する部分の使用料規程の内容に対して異議を述べなかったという事実を述べているにすぎない。そのような事業者が業務用通信カラオケに関する使用料に関する「原告規程」に対して特段異議を述べないのは当然であり、これが「原告規程」の有効性を何ら裏付けることになるものではない。 (e) 小括 以上のとおり、一審原告の主張する「原告規程」の合理性に関する論拠はいずれも理由がなく、また、「原告規程」の内容は利用者の著作権使用料負担能力に何ら配慮もせずに一方的かつ恣意的に決められた内容であって、その内容は暴利であり、著しく不合理なものである。原判決も「原告規程」の内容は不合理であると判示しており(原判決93頁〜94頁参照)、正当である。 c 一審被告が「原告規程」の不合理性を主張することは信義則に何ら違反するものではない 一審原告は、「一審被告が、原告規程を知りながら、一審原告の管理する著作物(楽曲)の利用を継続した」ことから、そのような一審被告が使用料相当損害金として「原告規程」を用いることを否定するのは信義則違反であると主張する。 しかし、一審被告は、「請求対象楽曲」を一審原告が管理していることを否認し、又は少なくとも不知であると主張するものであるから、一審原告の上記信義則違反の主張を行う前提を欠く。すなわち、AMEIは、一審原告が平成14年8月にAMEIにアプローチをしてきたときの説明が虚偽であったことから、一審原告の「請求対象楽曲」の管理権限について疑問を持ち、一審原告とAMEI間の交渉において一審原告が主張する管理楽曲についての権利関係を明らかにするよう一審原告に対して再三求めていた。しかるに、一審原告は、この点を明らかにすることができず、一方的に協議から離脱した。このような経緯にかんがみれば、一審被告が「請求対象楽曲」の利用を継続したからといって、一審被告が「原告規程」の効力や相当性を認めたことにはならない。 d 「JASRAC規程」に関する一審原告の主張は誤りである 一審原告は、「JASRAC規程」のみを著作権法114条3項の基準とすることは管理事業者間の多様な自由競争を阻害するとして、原判決を論難する。 しかし、原判決は、あくまで使用料相当損害金の算定方式として「JASRAC規程」と「原告規程」のいずれがふさわしいかということを判断しているのであって、「請求対象楽曲」の現実の利用に当たって「JASRAC規程」の適用を強制するものではなく、「JASRAC規程」を著作権法114条3項の基準とした原判決の判断は、一審原告が主張するような「管理事業者間の多様な自由競争を阻害する」ことにはならない。 (イ) 原判決が「個別課金方式」を採用したのは不当である 他方で、原判決は、「使用料相当損害金」の基準として、「JASRAC規程」(乙40)第2章第10節1(1)及び2(1)に基づく包括的利用許諾契約方式(以下「包括契約方式」という。)によらずに、一審被告、一審原告ともに採用を主張していなかった「JASRAC規程」における個別課金方式(「JASRAC規程」第2章第10節1(2)及び2(2))(以下「個別課金方式」という。)を採用したが、これは誤りである。 a 「個別課金方式」は実務上適用された実績が一度もない まず、業務用通信カラオケに著作物を利用する場合の使用料算定の方法として、JASRACが「個別課金方式」を適用した実績は一度たりともなく(乙49の1及び2)、著作物の管理において実務上適用されているという視点は、「個別課金方式」には全く妥当しない。 b 「個別課金方式」は利用者の意見が全く反映されていない JASRACとAMEI全会員は、平成6年から9年にかけて業務用通信カラオケの使用料算定方式の策定に関する交渉及び協議を行ったが、かかる交渉及び協議に当たり、AMEIの全会員は、「包括契約方式」によって使用料を支払うことを当然の前提として、「包括契約方式」の内容だけを交渉の対象と考えて対処する一方で、「個別課金方式」を検討することや念頭に置くことは全くなかった。 「個別課金方式」は、交渉及び協議過程の終盤においてJASRACがAMEIに提示した平成9年5月30日付け「通信カラオケ規程案」(乙67の1)において初めて盛り込まれたものであるところ、JASRACは、当該案文の内容説明をするに当たり、AMEI全会員については、平成7年10月に遡って包括的利用許諾契約を締結してもらう考えであると述べていた。このように、JASRACも、業務用通信カラオケの使用料算定に当たって、「包括契約方式」のみが適用されることを前提とした交渉・協議を行っており、例外的な規定である「個別課金方式」については、交渉の相手方であるAMEI会員を対象としてのその適用を全く想定してすらいなかったのである。結局、JASRAC・AMEI間の平成9年9月26日付け「業務用通信カラオケによる管理著作物利用に関する合意書」においては、使用料算定に当たって「包括契約方式」だけを適用するものと明記された(第2条)(乙18の2)。 JASRACとAMEIとの間で、形式的には「個別課金方式」が含まれる「JASRAC規程」についての合意あるいは了解があったといい得る面があるかもしれないものの、実際には、上述のように、当該「個別課金方式」は利用者団体であるAMEIの見解を何ら反映したものではなかった。 したがって、「利用者の意見が一定程度反映されていること」という原判決の示した判断基準も、「個別課金方式」には妥当しない。 c 「個別課金方式」は内容自体も不合理である さらに、「個別課金方式」における「利用単位使用料」(リクエスト1曲1回につき40円)の考え方自体も著しく不合理である。 (a) 「情報利用料」との連動性の全くない「個別課金方式」による「利用単位使用料」の使用料算定方式としての合理性の欠如 業務用通信カラオケにおいては、カラオケ店舗が、カラオケコンテンツ利用の対価として、カラオケメーカーに対して月当たり定額の「情報利用料」を支払うことが商慣習となっている。 そして、現行の「JASRAC規程」によれば、「包括契約方式」における「利用単位使用料」は、端末機1台につき1ヵ月ごとに「情報利用料」の10/100(又は950円のいずれか多い額)とされ、「包括契約方式」における「利用単位使用料」は、かかる定額の月次「情報利用料」にほぼ連動する仕組みがとられている。 カラオケメーカーが、ビジネスとして楽曲データをカラオケ歌唱利用のために供与を行う以上、コストである著作物使用料の支払いが常に収入を下回る必要があり、それがビジネスとしての大前提となる。しかし、毎月一定額の「情報利用料」をカラオケ店舗からの収入源とするビジネスモデルを採用しているカラオケメーカーに対して「個別課金方式」が適用されると、「個別課金方式」による著作物使用料(「利用単位使用料」)の金額は「情報利用料」の額と連動していないため、著作物使用料の支払が常に収入を下回るべきとの図式が崩れてしまう。 このように、カラオケ店舗から一定額の「情報利用料」を徴収するというビジネスが確立している状況でのカラオケメーカーとしては、当該ビジネスモデルにかんがみて「包括契約方式」の適用以外には考えられず、「個別課金方式」の適用はおよそあり得ない。 なお、カラオケ店舗が端末機設置の際にカラオケメーカー等に支払う実勢小売価格は、同端末機自体の価格であり、楽曲データ等の情報を利用するための対価は一切含まれていない。 (b) 「個別課金方式」の「利用単位使用料」のリクエスト1回当たり40円という料率自体の不合理性 「個別課金方式」の1リクエスト当たり40円という料率のJASRACによる設定に当たっては、「社交場における演奏等」のレコード演奏使用料(1演奏当たり40円)が参照として援用されている(乙67の2)。 しかるに、このような利用形態は大人数の客に対してレコードを演奏して聞かせる場合の演奏使用料であって、カラオケのように個別に歌唱させる場合とは利用形態において著しい差異がある。 また、「個別課金方式」については、音楽ファイルのオンライン販売の場合に適用される平成9年当時の料率案1曲40円がJASRACによって援用されている(乙67の2)。 しかし、音楽著作物複製物についての所有権を取得させるビジネスと、単に利用客による歌唱のための演奏に供するために音楽著作物の複製物がカラオケ店舗に貸与されるだけの通信カラオケ事業とを同列に論じる考え方が、そもそも相当ではない。とりわけ、実演家の歌唱が含まれていない通信カラオケの音楽ファイルの複製物については、その配信によってCDの売上げを奪うという可能性が皆無であり、ボーカル入りの音楽ファイルのオンライン販売における複製物と同列に論じることには合理性がない。 以上の理由により、「個別課金方式」による「利用単位使用料」は、その内容自体が明らかに不合理である。 (c) なお、JASRAC規程の「個別課金方式」は、これを採用した JASRAC自身の見解(乙71の3)においてすら、極めて例外的で想定困難な小規模で特殊な通信カラオケ事業を営む事業者でない限り、算出される使用料が高額になりすぎ、その適用の妥当性、合理性がない規程である。 d 小括 以上のとおり、(i)原判決が「JASRAC規程」を合理性ありとして採用した2つの論拠に照らしても、また、(ii)「個別課金方式」の内容的な不合理性に照らしても、原判決が「使用料相当損害金」の基準として「個別課金方式」を採用したことは誤りである。 (ウ) 「包括契約方式」を採用すべきである a 「包括契約方式」は実務上唯一適用実績がある使用料算定方式であり、また、利用者の意見が反映されたものであること 「包括契約方式」は、@業務用通信カラオケの利用料算定方式として、これまで唯一実務上適用されている(乙49の1及び2)上、AJASRACとAMEI間の長年の交渉を通じて利用者(業務用通信カラオケ事業者)の意見が一定程度反映された方式でもある。 すなわち、これまで「包括契約方式」以外の使用料算定方式が業務用通信カラオケに適用されたことは一度もなく(乙49の1及び2)、同方式は、限られた楽曲数のレーザーディスクの販売供与というビジネスモデルから通信回線と半導体記憶装置を利用しての大量の音楽ファイルの提供というビジネスモデルへの移行期において、JASRACとAMEIとが平成6年から9年という長期にわたり協議と暫定合意を繰り返しながらようやく合意に至った算定方式である。 b 「包括契約方式」は内容において合理的である 「包括契約方式」の導入が初めて提案された平成9年当時の当該規程案(乙67の1)によれば、「包括契約方式」における「基本使用料」は、利用楽曲数(アクセスコード数)に応じて比例的に料率を増加させることによって、楽曲の「品揃え」の増大に応じての一定の逓増式課金を行い、それをもってカラオケ端末に収載される楽曲の作家の利益に配慮したものであることが窺える。 他方で、アクセスコード数が少ないカラオケメーカーには、新規参入に際しての負担軽減、コード数が多いメーカーには大量利用による数量割引を行い、利用者たるメーカーの便宜にも配慮している。 また、「包括契約方式」における「利用単位使用料」は、業務用通信カラオケが複製権や送信可能化権・公衆送信権の複合的な利用形態であって、究極的にはカラオケ店舗において利用客による歌唱のための演奏に供する楽曲データ複製物をカラオケ店舗に継続的に貸与するものであることを踏まえている。 以上のように、「包括契約方式」は、全体として業務用通信カラオケの利用料の方式として極めて合理的な内容を有している。 c 小括 以上のとおり、(i)@著作物の管理において実務上適用されていること、及びA利用者の意見が一定程度反映されたものであることが必要であるという原判決の論理、並びに(ii)方式そのものの内容的妥当性に照らしたとき、「使用料相当損害金」の算定の基礎とすべき規程としては、修正が必要ではあるが「包括契約方式」の方が「個別課金方式」よりはるかに妥当性を有する。 ウ 「包括契約方式」の適用方法 (ア) 「使用料相当損害金」の算定に当たっては、「包括契約方式」に基づく「利用単位使用料」を著作権等管理事業者の管理楽曲数又は現実の演奏楽曲数の割合に比例した基準を用いて修正すべきである 膨大な管理楽曲を有するJASRACとは異なり小規模の管理楽曲を有するにすぎない著作権等管理事業者に対して支払われる使用料相当損害金の算定に当たり「包括契約方式」を援用するためには、同方式を何らかの方法で合理的に修正する必要があることは当然である。 a 演奏ログ数による修正 「包括契約方式」に基づく「利用単位使用料」の具体的料率(「情報利用料」の10/100)につき、AMEI会員による応諾を得られたのは、JASRACが当時の「仲介業務法」に基づく音楽著作権についての唯一の仲介業者であり、業務用通信カラオケの分野において利用される楽曲のほぼ全てがJASRAC管理楽曲であり、JASRACに対して支払う使用料の他にカラオケメーカーには多大な追加使用料の負担は発生しないとの前提があったからである。 他方で、一審原告の管理楽曲はJASRACのそれよりも桁違いに少ないところ、端末機1台当たりの利用客からのカラオケ店舗の売上収入に対する寄与貢献度の観点(カラオケメーカーに対して店舗から支払われる「情報利用料」に対する寄与貢献度の観点)からみた場合、楽曲の実際の演奏利用頻度同士の相対的比率が問われるべきであるから、JASRACと一審原告による各管理楽曲数における一審被告による演奏利用数の規模的な違いが「使用料相当損害金」の算定において比例的に反映されるべきである。 したがって、一審原告にとっての「使用料相当損害金」の算定に当たっては、「包括契約方式」における「利用単位使用料」の料率をベースに、一審被告によって現に利用された一審原告の管理楽曲数をJASRACのそれで除した割合による料率を基準とすべきである。一審被告によって現に利用された一審原告又はJASRACの管理楽曲数は、それぞれ一審被告の通信カラオケシステムにおけるアクセス回数(演奏ログ数)によって割り出される。 b 著作権等管理事業者の管理楽曲数による修正 「包括契約方式」においては、収載された楽曲数の増加に応じて増額する比較的少額の「基本使用料」を支払いさえすれば、新たに追加収載される楽曲を「利用単位使用料」の追加支払なしに用いることができる。そうした全体としての「包括契約方式」の使用料構造の下での「利用単位使用料」における端末1台当たり「情報利用料」の金額の10/100という料率構造においては、端末1台についての「情報利用料」収入に対する寄与貢献度という意味で、著作権等管理事業者における管理楽曲数の規模が極めて重要なファクターである。 そうすると、JASRAC管理楽曲数735万曲と一審原告管理楽曲数(原判決の認定によれば約300曲)の相対的比率に応じて「包括契約方式」の「利用単位使用料」を修正する方法にも合理性を認めることができる。ちなみに、一審原告は、「請求対象楽曲」のほかに管理楽曲を保有している旨の具体的な主張立証をしたことはない。 c 具体的計算 以上のとおり、仮に前記アの方式を採用しないのであれば、本件における使用料相当損害金は、具体的には以下のいずれかの方法で算定されるべきである。 (a) 管理楽曲数に応じて修正する方法 上記のアプローチは、一審被告が「請求対象期間」中にJASRACに対して支払った使用料の金額を、JASRACの管理楽曲総数と一審原告の管理楽曲総数の相対的比率を乗じて算出するものであるが、一審原告の正確な管理楽曲数が明らかにされていない以上、上記の計算に当たっては、「侵害楽曲」を一審原告の管理楽曲と推定して、当該楽曲の数とJASRAC管理楽曲総数との相対的比率を用いざるを得ない。 なお、上記の計算に用いるべき「侵害楽曲」については、前記ア(イ)記載の@ないしBのパターンを想定し、それぞれについて楽曲を具体的に特定した上で、同「侵害楽曲」の総数やその総アクセス 回数等を用いて、使用料相当損害金を算定している。 以上を踏まえれば、同アプローチに基づく使用料相当損害金は、以下の計算式によって算定される。 S=A×(B/C) ここにおいて、 ・A=一審被告が「請求対象期間」中にJASRACに支払った使用料の金額 =52億1545万4394円(乙56) ・B=「請求対象期間」中の各月における「侵害楽曲」数の平均値 =パターン@の場合は253曲 パターンAの場合は149曲 パターンBの場合は56曲 ・C=JASRAC管理楽曲総数 =約735万曲 ゆえに、 ・S=パターン@の場合は17万9525円 パターンAの場合は10万5728円 パターンBの場合は3万9737円 (b) 演奏ログ数に応じて修正する方法 仮に、上記(a)の利用可能楽曲数の相対的規模による修正方法を採用しない場合には、楽曲が現実に利用されたアクセス回数(演奏ログ数)という、個々の楽曲の実際の利用の相対的頻度を反映するファクターを基準として修正するよりほかはない。 すなわち、一審被告が「請求対象期間」中にJASRACに対して支払った使用料の金額を、端末に収載された全楽曲の総アクセス回数と「侵害楽曲」の総アクセス回数の相対的比率を乗じて算出するアプローチであり、同アプローチに基づく使用料相当損害金は、以下の計算式によって算定される。 S=A×(B/C) ここにおいて、 ・A=一審被告が「請求対象期間」中にJASRACに支払った使用料の金額 =52億1545万4394円(乙56) ・B=「請求対象期間」中の「侵害楽曲」のアクセス回数の総計 =パターン@の場合は51万4465回 パターンAの場合は27万5595回 パターンBの場合は10万3132回 ・C=端末に収載された全楽曲の当該期間中の総アクセス回数 =39億5271万6703回(乙47参照) ゆえに、 ・S=パターン@の場合は67万8816円 パターンAの場合は36万3637円 パターンBの場合は13万6079円 d 一審被告の提出したアクセス回数の信用性に関する一審原告の主張は邪推にすぎない 一審原告は、「請求対象期間」におけるアクセス回数を正確に把握することは技術的に困難であった旨主張し、@一審被告は、正確なアクセス回数のデータを集めることが技術的に不可能であった旨、及びA一審被告は、JASRACに対して平成20年まではサンプル回数しか報告を行っていないことから、アクセス回数が適切に収集されていなかった旨を理由として挙げている。 しかし、一審原告の上記主張は全くの邪推であって、一審被告提出のアクセス回数の信用性を否定する理由となるものではない。 上記@の主張についていえば、甲127は、オンデマンド・サービス(大容量のコンテンツを演奏リクエストがあるごとに配信するサービス)の導入について記載されているもので、一審被告がいかなるデータに関しても「センターと各店舗を『双方向で』結ぶシステム」を有していなかったなどとは一切記載されていない。 オンデマンド・サービスは、各店舗のカラオケ端末にデータを蓄積することなく、リクエストがある度にデータをセンタ・サーバーから回線を通じて取得する方式であるのに対し、アクセス回数の集計は、演奏があった際の関連情報という極めて小さな容量のデータのみを送信するものであり、オンデマンドシステムが構築されていなければ送信できないものではない。したがって、ブロードバンドに対応したセンターシステム未構築及びそのようなサービスに対応した端末機の未整備を理由とする一審原告の主張は、事実に基づかないものである。 また、上記Aの主張について、サンプル報告を行う場合には全数を抽出することも可能であることが当然の前提で行われることは、統計の基本であって、理論的に全数を抽出できない場合には「サンプル抽出」ということもできない。当時アクセス回数をサンプル報告ですませていたのはJASRACの要請によるものにすぎず、一審被告としては全数報告することも技術的には可能であった。そもそもJASRACの業務用通信カラオケに係る使用料の著作権者への分配は演奏ログ数に応じてなされており、一審被告による報告がサンプル報告であるとの理由で信頼できないのであれば、JASRACはそれに依拠して分配することはしないはずである。 また、一審被告は、一審被告の業務用通信カラオケシステムを構築した東芝ソリューション株式会社からの書面(乙78の2)も取得し、その主張に沿う立証も行っている。 なお、カラオケ店舗において新規に業務用通信カラオケを開局する場合、当該カラオケ店舗に設置されたカラオケ端末機器からセンター・サーバーに信号を発することにより開局手続を行う。このようにカラオケ端末機器からセンター・サーバーに信号を発信していることから明らかなとおり、業務用通信カラオケが導入された当初から、センター・サーバーとカラオケ端末機器間は「双方向」で結ばれていた。同様に、アクセス回数の集計もブロードバンドの導入以前から行われている。 (イ) 一審被告の主張に対する原判決の誤解 原判決は、「被告が現実に支払った使用料の金額を、被告が損害賠償として著作権管理事業者に支払うべき使用料の上限とすることや、これを原告とJASRACで按分することについて、合理的な根拠を見出すことはできないから、被告の上記主張を採用することはできない」などとする(原判決94頁)。 しかし、一審被告は、そのような主張は全く行っておらず、JASRACに支払った額に加えて、これとは別に一審原告に支払われるべき使用料としては、「包括許諾方式は当然のことながらJASRACが管理する楽曲数が膨大であることを前提としているため、これをそのまま一審原告の管理する楽曲に適用することはできず、その主張するところによっても管理楽曲数が著しく少ない一審原告に適用する場合には、何らかの形で按分して適用・・・する必要がある」と主張するにとどまる。 エ 仮にJASRACの「個別課金方式」を基準に算定するにしても、演奏回数の算定方法が正確でない (ア) 楽曲数の按分による算定方法の不正確性 仮に、一審原告の受けるべき「使用料相当損害金」の算定に当たって「個別課金方式」が採用されたとしても、原判決は同方式の適用において誤りがあるため、算定された具体的な損害額が不正確である。 原判決が適用する「個別課金方式」においては、1楽曲当たり作詞、作曲のそれぞれにつき「基本使用料」は1か月各100円、「利用単位使用料」は各20円として算定するものであるため、一審原告が管理する楽曲のうちで現実に侵害された楽曲数を正確に特定する必要がある。 しかるに、原判決は、一審原告の管理権限を認めた楽曲(作詞289曲、作曲275曲)の実際の演奏回数を(演奏ログ数をベースにして)具体的に認定することなく、「請求対象期間」における「請求対象楽曲」の総演奏回数に対する一審原告の管理権限を認めた楽曲数の「請求対象楽曲」数全体に占める割合で按分することによって得られた数を当該演奏回数と擬制した(原判決95頁)。 しかし、「請求対象楽曲」中には、より多く歌われた楽曲もあれば、そうでない楽曲も当然あるはずであるところ、原判決の算定方法によれば全ての楽曲の演奏回数が均一となり、個々の楽曲の現実の管理期間がまちまちであることを併せて考慮すれば、明らかに不当である。 (イ) 管理期間を考慮しない不当性 原判決の認定によっても、平成14年10月17日(「TMA・一審原告間契約」締結日)より前に一審原告によって管理されていた「請求対象楽曲」は1曲も存在しない以上、この期間における演奏はそもそも算定の基礎とはならないはずであるが、原判決は、一審原告の管理権限を認めた「請求対象楽曲」数の演奏回数の算定に当たっては、平成14年6月28日から同年10月16日までの期間も含めた「請求対象期間」全体における演奏回数をベースに按分しており、各楽曲についての現実の管理期間を全く考慮に入れない点において誤りである。 (ウ) 演奏回数の正確な算定方法 以上のように、仮にJASRACの「個別課金方式」を採用したとしても、演奏回数の算定に当たっては、原判決のように大まかで不正確な算定方法を用いてはならず、一審原告に権利帰属が認められた個々の楽曲について、一審原告が管理していた期間を個々に特定し、その上で、当該期間におけるアクセス回数を個別に割り出す必要がある。 オ 複製権侵害を基準とした使用料相当損害金の算定方法は断じて採用すべきでない (ア) 業務用通信カラオケの特性 業務用通信カラオケには様々な形態があり、単純な例においても自動公衆送信装置への複製、公衆の求めに応じた公衆送信(及び送信可能化)、受信装置への複製といったように、複数の著作権支分権が複合的に関わってくるという特徴を有する。 これを支分権が関わってくるごとにその関与回数の累積度で評価しようとすると、音楽利用の目的・効果は同じであるにもかかわらず、システム形態により使用料の額が異なることになり、利用者にとって不合理な費用負担を招くことになる。そこで、当時「仲介業務法」の下での唯一の著作権管理団体であったJASRACは、業務用通信カラオケのかかる特性にかんがみ、AMEIとの協議の上で、個々の支分権ごとに使用料を定めるのではなく、一定の使用料率によって利用形態全体を評価する方式が合理的であると考え、そのような課金形態を「JASRAC規程」として採用し、かかる「JASRAC規程」が「仲介業務法」に基づき文化庁長官の認可を得たのである(乙71の1ないし3)。 このように、業務用通信カラオケにつき個々の支分権の行使ごとに使用料を定めない課金方式については、「仲介業務法」に基づく厳格な手続を経て文化庁長官の認可を得たものであるから、軽々にひっくり返されるべきではない。ましてや一審原告自身、「原告規程」において複製権侵害行為の回数を基準とした課金方式を採用することなく、「JASRAC規程」と類似の課金方式を採用し、業務用通信カラオケには複製権侵害行為の回数を基準とした課金方式はなじまないことを自認しているのであるから、なおさらである。 (イ) 複製権侵害を基準とした使用料相当損害金の算定方法の不合理性著作物使用料を複製行為1回当たりで算定するとなると、単なる品揃えとして利用されている状態の全楽曲についての全ての複製行為についてあまねく課金すべきこととなるところ、そのような課金方法は、各端末機における各楽曲の現実の利用の有無や頻度をあえて問うことなく品揃えを増加・充実させることによって利用客にとっての利便性(歌唱可能な楽曲の選択肢の増大というメリット)を高めるという、業務用通信カラオケのビジネスモデルに全くそぐわない。また、複製行為の回数を基準にすると、著作物使用料が、カラオケ店舗からカラオケメーカーが収受する「情報利用料」収入に連動しなくなり、カラオケメーカーの使用料負担能力が配慮されないので、カラオケメーカーが応分の利益を上げることが不可能となり、通信カラオケビジネスが成り立たないという著しく不合理な結果を招く。このように、複製行為を基準にする方式は、「JASRAC規程」の「個別課金方式」よりもさらに不当である。 また、複製行為1回当たりで使用料を課金する方式は、増加1曲当たりの限界効用が逓減するにもかかわらず、増加1曲当たりの使用料は不変であって、このような使用料課金方式には全く合理性がない。 (ウ) カラオケ用ICメモリーカードの使用料を援用すべきでない カラオケ用ICメモリーカードの使用料は、ユーザーによる所有を目的とする売り切りの、比較的少数の楽曲数のカラオケ装置商品を対象とすることが前提であって、収載楽曲数が著しく多く、歌唱可能な楽曲の品揃えをした当該楽曲全体をエンドユーザーの歌唱利用に供する業態であるという意味において、カラオケ用ICメモリーカードを用いたカラオケとは根本的に性質の異なる業務用通信カラオケにおける使用料の算定に用いることは、到底できない。 (エ) 「平成8年暫定合意」の締結は複製権侵害を基準とすべき根拠とはなり得ない 一審原告は、AMEIとJASRACが「平成8年暫定合意」を締結した事実を複製権侵害を基準とすべき根拠の一つとするが、当該暫定合意を締結した経緯に照らせば、かかる主張は明らかに誤りである。 業務用通信カラオケの業態にふさわしい使用料規程が協議中という状況で、同協議ないし交渉が長引いたところ、交渉の長期化による作家への精算未了の状態を解消することによって、作家にこれ以上迷惑をかけないようにする必要がある一方で、AMEI会員各社は、未払金に関する多額の引当金の長期にわたる計上又は場合によっては簿外債務の存在といった会計処理上の不安定・不確実な状況を解消する必要があった。そこで、AMEI会員各社は、「平成8年暫定合意」において、既往の使用分に関する精算方法として、旧来のパッケージ商品の販売において使用されていた1複製当たりの使用料算定方式を準用して算定することに暫定的に合意したにすぎない(乙68ないし70)。 一審原告は、「AMEIは、著作権者(又は著作権管理事業者)と著作権利用者との間に何ら合意がなく、著作権者(又は著作権管理事業者)の有効な規程がない場合には、複製権侵害を基準として損害額を算定することを前提に」「平成8年暫定合意」を行ったと主張するが、上述の経緯に照らして、そのような「前提」は全くない。 (オ) このほか、原権利者のほとんどは、現在「相互管理契約」に基づき、JASRAC規程に従って通信カラオケ事業者から徴収された使用料の分配を既に受けていることにかんがみれば、仮に使用料相当損害金の算定方法として複製回数を基準とすれば、少なくとも「相互管理契約」発効後の利用に関しては、通信カラオケ事業の使用料算定方法として相容れない2つの方法を同一楽曲について併用して重畳適用することになり、明らかに不合理である。 カ 「JASRAC規程」の「包括契約方式」における「利用単位使用料」を収載楽曲数の割合に比例して修正すべきとする一審原告主張の計算方法は不当である (ア) 一審原告は、「本件で問題となっているのは複製権侵害」であると主張するが、業務用通信カラオケにおけるカラオケメーカーによる楽曲の利用は、前述のとおり、「複製権等の個々の支分権利用」ではなく、「カラオケ店舗において利用客の歌唱に供する状態にしておくために楽曲データ複製物をカラオケ店舗に継続的に貸与するという、著作権の複合利用」に係る行為であり、その対価は当該複合利用の対価である。これはJASRAC自らが認めるところである(乙67の4)。 そのような利用方法の下では、カラオケメーカーは、個々の端末についてみれば、収載された楽曲数の増加に応じて増額する比較的少額の「基本使用料」を支払いさえすれば、新たに追加収載される楽曲についての「利用単位使用料」の追加支払なしに当該楽曲を使用することができる。したがって、「JASRAC規程」の「包括契約方式」における「利用単位使用料」を修正するに当たって考慮すべき要素は、個々の端末にたまたま収載されただけの楽曲の数ではなく、追加支払なく利用できる楽曲全体の数、すなわち管理楽曲数である。 また、使用料相当損害金の算定に当たっては、端末機1台当たりの利用客からのカラオケ店舗の売上収入に対する寄与貢献度が反映されるべきであるから、楽曲が現実に歌唱利用に供された回数(演奏ログ数)を考慮すべきである。 以上より、一審原告が主張するような、個々の端末に収載された楽曲数の比率によって「JASRAC規程」の「包括契約方式」における「利用単位使用料」を修正する計算方法が不当であることは明らかである。 (イ) なお、一審原告は、「JASRAC規程」の「包括契約方式」における「利用単位使用料」を計算するに当たり、一審被告の端末台数について甲92に記載された数を用いている。 しかし、甲92に記載された端末台数は、JASRACが管理する楽曲が収載されている端末台数を示したものであって、一審原告が管理する楽曲が収載されている端末台数を示したものではない。「利用単位使用料」の計算に当たって、一審原告が管理している楽曲が収載されていない端末までも、その数に含めるべき合理的理由はなく、安易に甲92記載の端末台数に依拠すべきではない。 この観点から、「侵害楽曲」を収載した端末機の「請求対象期間」における月ごとの台数を割り出すと、別紙4のとおりとなる(なお、現実の収載楽曲数は端末機の機種ごとに異なっており、全ての機種に同数の楽曲が収載されているわけではない。)。 また、「情報利用料」についても、一審原告が想定している1万5000円は不正確である。当該「情報利用料」は、現在において適用されている3種類の「情報利用料」(1万8000円、1万5000円、1万2000円)を単純平均したものにすぎない。 しかるに、「請求対象期間」における使用料相当損害金を算定しようとする以上、現在の「情報利用料」ではなく、「請求対象期間」における「情報利用料」を用いるべきである。また、「情報利用料」は端末ごとに異なるところ、端末ごとの「情報利用料」を加重平均すべきである。 以上を踏まえたとき、「請求対象期間」において適用されていた「情報利用料」の額は、現在の額(1万8000円、1万5000円、1万2000円)に比べて断然に安いものであるから、一審原告が何らの証拠に基づくこともなく勝手に想定する1万5000円を本件の使用料相当損害金の算定に用いるべきではない。 また、別紙1において、月額「基本使用料」が20万円の月があるが、「請求対象期間」において適用されるべき業務用通信カラオケの使用料規程であるJASRAC・AMEI間の平成9年9月26日付け「業務用通信カラオケによる管理著作物利用に関する合意書」(乙18の2)の別紙「業務用通信カラオケ規定」1(1)によれば、アクセスコード数が500コードまでの場合の月額「基本使用料」は5万円であるところ、「請求対象期間」における「侵害楽曲」数はいずれも500曲を下回るので(別紙2参照)、「基本使用料」は一律5万円で算定すべきである。 第4 当裁判所の判断 一審原告の本訴請求は、@韓国内の原権利者から韓国法人であるTMA社を通じて信託譲渡を受けた著作権及びA上記原権利者から直接に信託譲渡を受けた著作権に基づき、日本法人である一審原告が同じく日本法人である一審被告に対し、著作権侵害に基づく損害賠償金9億7578万6000円と平成16年9月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求めるものであるところ、当裁判所は、原判決同様、上記Aは概ね理由があるが、原判決と異なり、上記@は理由がないものと判断する。その理由の詳細は、以下に述べるとおりである。 1 本件における基本的な事実関係 証拠(甲1、甲46、甲67、甲75、甲80の1〜44(欠番部分を除く。)、甲86の1〜44(欠番部分を除く。)、甲145の1の1ないし甲145の62の1、甲150の1、甲151の1、甲152の1、甲153の1、甲158の1、甲160の1、甲161の1、乙1、乙7の1、乙7の2、乙15の1及び2、乙24)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1) 一審原告は、音楽著作物の著作権に関する著作使用料の徴収及び管理等を目的として平成14年4月15日に設立された株式会社であり、同年6月28日付けで、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として、文化庁長官の登録を受けた(甲1)。一審原告の設立時の旧商号は「株式会社韓日著作協会」であったが、平成15年5月1日付けで現商号の「株式会社アジア著作協会」に変更された。 一方、一審被告は、音楽機器のリース及び販売等を目的として昭和48年4月16日に設立された株式会社であって、カラオケ用楽曲データを著作権者から複製権又は公衆送信権の許諾を得て作成し、自らの製造に係る業務用通信カラオケ装置のデータベースに搭載するなどした上、通信カラオケリース業者に対し端末機の販売を行う、いわゆる通信カラオケ業者である(弁論の全趣旨)。 (2) 一審原告は、著作権等管理事業者の登録を得た後である平成14年(2002年)10月17日付け(ただし、受託者は「株式会社韓日著作協会」名義のもの。甲67)、及び平成15年(2003年)9月18日付け(ただし、受託者は「株式会社アジア著作協会」名義のもの。乙24)で、韓国法人である「株式会社ザ・ミュージックアジア」(日本語名)(英語名「The Music Asia」、前述した「TMA社」)との間で、著作権信託契約を締結した。 上記契約書(甲67と乙24)は、日本語とハングル語が併記されたもので、いずれもTMA社代表者・ P1 と当時の一審原告代表者 P13 の署名・押印があるものであり、その記載内容は大体一致するが、後の契約書である平成15年9月18日付けのもの(乙24)には、概ね以下の記載がある。 @ TMA社は、現在所有する全ての著作権および将来取得する全ての著作権を、本契約期間中、信託財産として一審原告に移転し、一審原告はその著作権を管理し、その管理によって得た著作権使用料等を受益者に分配する(第1条1項)、 A 一審原告は、信託著作権およびこれに属する著作物使用料等の管理に関し、告訴し訴訟を提起することができる(第13条)、 B TMA社は、信託期間内においても書面をもって一審原告に通知することにより本契約を解除することができる。この場合本契約は、通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって終了する(第19条1項)。 (3) 上記TMA社は、平成13年3月26日に韓国法に基づいて設立された、著作権信託管理等を目的とする株式会社である。 なお、請求にかかる韓国の作詞家・作曲家・音楽出版社等の著作者(原権利者)の著作権について、原権利者とTMA社間の音楽著作権譲渡契約の契約書のひな型(乙15の1、2)があり、同契約書には「本契約に基づいて、原権利者がTMA社に対して譲渡する音楽著作権は"本件作品"に属する一切の著作権及び本契約を締結するのに必要なすべての法的な地位、権利である。」(第5条1項)、「TMA社は本件作品に対する第1項に定めた権利に対する著作権侵害と関連する全ての民刑事上の権利救済に対する権利をもつ。」(第5条3項)、「第三者が本件作品の音楽著作権を侵害した場合、TMA社は該当の侵害事項に対する専門的な分析を通じ、適切な権利救済措置を取るものとし、原権利者に該当事項に対する処理状況を毎月定期的に電子メール等にて報告するものとする。並びに原権利者はTMA社の権利救済行為に対する協力は最大限に努めるものとする。」(第14条)との記載がある。 (4) また一審原告は、本件訴訟を提起した平成16年8月31日までの間に、原権利者からその有する著作権の信託譲渡を別に受けており、同契約においては、「原権利者は、現在所有する全ての著作権および将来取得する全ての著作権を、本契約期間中、信託財産として一審原告に移転し、一審原告はその著作権を管理し、その管理によって得た著作権使用料等を受益者に分配する。」(第1条1項)、「一審原告は、信託著作権およびこれに属する著作物使用料等の管理に関し、告訴し訴訟を提起することができる。」(第12条)との定めがある(甲46)。 (5) 原権利者が有する著作権(複製権、公衆送信権)は韓国法に基づく権利であるところ、韓国著作権法によればその譲渡の対抗要件は登録であるが、本件訴訟の対象となっている著作権については、上記対抗要件は経由されていない(弁論の全趣旨)。 (6) 一審原告は、上記のとおり、TMA社から再信託譲渡を受けた著作権及び原権利者から直接に信託譲渡を受けた著作権に基づき、同各著作権が一審被告により侵害されている等として、平成16年8月31日に至り、原審の東京地裁に、平成14年6月28日から平成16年7月31日までの分として、損害賠償金等の元本9億7578万6000円とこれに対する訴状送達の翌日(平成16年9月9日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める本件訴訟を提起した。 (7) ところが、原審係属中の平成18年7月14日に至り、TMA社が一審原告に対し、両者間で平成15年9月18日付けで締結された著作権信託契約(乙24)を、同契約第19条に基づき解約する旨の通知をして、その通知は、平成18年7月20日ころ発送され、間もなく一審原告に到達した(乙7の2)。 その結果、同契約の文言に従えば、その後6か月を経過した後最初の3月31日である平成19年3月31日をもって前記再信託契約の解除の効果が発生したことになる。 のみならず、TMA社は、平成18年10月4日付けで韓国法に基づき株式会社の解散決議を行い、平成19年3月28日付けで清算結了登記が経由された(乙7の1)。 (8) 一方、その後平成19年4月から6月にかけて、「私の楽曲の著作権に関連して原契約期間内に発生した日本での著作権使用料および関連する一切の費用等について、ACA(判決注:一審原告)が著作権の信託受託者として徴収および分配等の管理を行うために、訴訟を提議(判決注:「提起」の誤りと解される。)し、訴訟当事者として当該訴訟を続行する権限を有することを確認します。」との記載が存在する確認書B(甲75、甲80の1〜44(欠番部分を除く。))が作成され、まもなくそれが原審裁判所に書証として提出された。 一審原告は、このほか、平成18年2月から3月ころにかけて作成された確認書A(原権利者が、原権利者・TMA契約の対象となる楽曲を明確にする目的で作成したものであり、原権利者が、添付した楽曲リストの楽曲につきTMA社に著作権を譲渡したことが記載されている。甲79の1〜131(欠番部分を除く。))、平成17年7月から11月ころにかけて作成された確認書C(原権利者・TMA契約を締結していた原権利者が、TMA社に対して、自己の楽曲の著作権を包括的に信託譲渡していることを記載した甲81の1〜11(欠番部分を除く。)、及び直接契約を締結している原権利者が、一審原告に対し、著作権を信託譲渡していることを記載した甲81の41〜44の2(欠番部分を除く。))についても、原審裁判所に提出した。 なお、上記確認書AないしCの多くは、平成20年1月25日の第25回弁論準備手続期日に提出された。 平成22年2月10日になされた原判決は、本訴請求のうち、@TMA契約を経由した分のうち、確認書Bが提出され、かつ所定の条件を満たしたものを認容したが、その余は退け、A原権利者からの直接契約に係る分はその相当部分を認容した、というものである。 (9) 上記原判決に対し、一審原告と一審被告の双方が控訴を提起したが、一審原告は、控訴審たる当裁判所に係属中の平成22年7月及びその後において、前記確認書Bとは別の原権利者からの新たな確認書(確認書D)を提出し、そこには「私は、私が有する著作権(以下「著作権」といいます。)に関連して発生した日本国での著作権使用料及び関連する一切の費用等について、株式会社アジア著作協会が、著作権の信託受託者として徴収及び分配等の管理を行うため、当事者として訴訟を追行する権限を有することを認めます。」との記載がある(甲145の1の1ないし甲145の62の1、甲150の1、甲151の1、甲152の1、甲153の1、甲158の1、甲160の1、甲161の1)。 2 一審原告による本件著作権の管理権限の有無について (1) TMA・原告契約によるもの ア 平成15年(2003年)9月18日付けでなされたTMA・原告契約につき、一審被告は、平成18年(2006年)7月14日付けでTMA社代表者(P1)から一審原告に対してなされた著作権信託契約の解除(約)通知により同契約はその約定期限である平成19年(2007年)3月31日限りで終了した旨主張し、これに対し一審原告は、前記信託契約に基づく一審原告の管理権限はまだ存続している等と主張して、争っている。 イ TMA社は韓国法人であるが一審原告は日本法人であり、上記争点は平成15年9月18日になされたTMA・原告契約という法律行為の効力に関する問題であるから、平成18年7月14日付けでなされた上記解除通知の効力を判断するには、まずその根拠法令について検討する必要がある。 平成19年1月1日に施行された「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」という。)によれば、法律行為の効力については、同附則第2条により通則法が適用されるところ、通則法7条は「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。」と定め、乙24(著作権信託契約書)の第32条には「本契約は日本国法に準拠するものとする」と記載されていることから、日本国法によりその効力が判断されることになる。そして、上記のような信託契約について適用がある信託法は、平成18年法律第108号により改正がなされたが、上記信託契約は平成15年9月18日に締結されているから、同契約につき適用される信託法は上記改正前の信託法(大正11年法律第62号、以下「旧信託法」という。)であることになる。 そして、旧信託法56条は「信託行為ヲ以テ定メタル事由発生シタルトキ・・・ハ信託ハ之ニ因リテ終了ス」とし、63条は「信託終了ノ場合ニ於テ信託財産カ其ノ帰属権利者ニ移転スル迄ハ仍信託ハ存続スルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ帰属権利者ヲ受益者ト看做ス」と定めている。 ウ ところで、前記1の認定事実によれば、平成15年(2003年)9月18日付けでなされた著作権信託契約書(TMA・原告契約、乙24)の第19条には「甲は、信託期間内においても書面をもって乙に通知することにより本契約を解除することができる。この場合本契約は、通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって終了する」旨記載され、その後上記契約書の甲であるTMA社代表者P1は当時の一審原告代表者P13宛てに、平成18年(2006年)7月14日付けの書面(乙7の2)により、「本件契約第19条に基づき、貴社に対し契約の解約を通知致します」との通知を同年7月20日ころ発し、まもなく一審原告に到達しているのであるから、TMA・原告契約は、上記通知が到達した平成18年(2006年)7月20日すぎころから6か月を経過した後最初の3月31日である平成19年3月31日を以て終了したものというべきである。 上記終了により、一審原告の受託財産である原権利者の有する著作権(複製権・公衆送信権)は直ちに委託者であるTMA社に移転したというべきであり(TMA社が平成19年(2007年)3月28日付けで清算結了登記を経由していたとしても、返還を受けた著作権との関係では依然として法人格を有すると解される。)、上記著作権の侵害を理由とする一審被告に対する損害賠償債権(請求権)もTMA社に移転すると解するのが相当である。 もっとも、一審被告に対する著作権侵害を理由とする損害賠償債権(請求権)は、一審原告が一審被告に対し原審の東京地裁にその支払を求める民事訴訟を提起し現に係属中であったから、その移転時期はいつかという問題がある。しかし、TMA社からの解約(解除)通知が発せられたのが平成18年(2006年)7月20日ころであり、契約終了時とされたのがそれから8か月余を経過した平成19年(2007年)3月31日であるから、係属中の損害賠償請求訴訟を一審原告からTMA社に承継させるための猶予期間としては十分であると解することができ、一審原告は平成19年3月31日の経過により、TMA・原告契約に基づく本件著作権と一審被告に対する損害賠償債権(請求権)の管理権限を全て失ったと認めるのが相当である。この結論は、その後一審原告が、原権利者の一部の者から確認書B(甲75、甲80の1〜44(欠番部分を除く。))及び確認書D(甲145の1の1ないし甲145の62の1、甲150の1、甲151の1、甲152の1、甲153の1、甲158の1、甲160の1、甲161の1)を取得したことを考慮しても、影響を受けるものではない。 一審原告は、平成19年(2007年)3月31日を経過しても上記管理権を失わないと主張するが、これを採用することができない。 エ 一審原告の主張に対する判断 (ア) 一審原告は、本件では、残存信託財産中に未収財産のある原信託の受益者が帰属権利者に該当するから、訴訟の係属中か否かを問わず、本件での各信託契約が終了した後の法定信託は「復帰信託」ではなく「原信託の延長」となり、その場合、受託者の職務権限は、通常の信託契約とほぼ同様である旨主張するが、前記ウのとおり、一審原告は、平成19年3月31日の経過により、TMA・原告契約に基づく本件著作権と一審被告に対する損害賠償債権(請求権)の管理権限を全て失ったと認めるのが相当であり、信託契約が終了した後の法定信託の性質をどのように解するかによって、上記結論に直ちに影響が及ぶものとは解されない。 また、一審原告は、本件において、帰属権利者(原権利者)による、使用料相当額を早く回収したいとの意思を尊重すべき旨主張するが、前記ウのとおり、原権利者はTMA・原告契約の当事者ではないのみならず、TMA・原告契約につき解除(約)通知がされてから同契約の終了の効果が発生するまでに8か月以上の期間があったことからすれば、一審原告の上記主張は採用することができない。 このほか、一審原告は、法的安定性については時効の制度があり、時効が成立しないにもかかわらず権利者の権利行使の方法の選択を妨げることは、むしろ法秩序を害するなどと主張するが、消滅時効制度は、存在する権利が一定期間行使されないことにより消滅するという制度であって、信託契約終了後において受託者が有する権利義務の範囲とは関係がなく、一審原告の上記主張は採用することができない。 (イ) 一審原告は、自身はTMA社を経由せずとも原権利者と容易に連絡を取ることができる状況にあり、また、原権利者が外国において訴訟を提起することは非常に困難であるから、一審原告が当然に著作権使用料の回収に当たるのが原権利者の合理的意思に合致する旨主張する。 しかし、前記のとおり、TMA・原告契約の終了(平成19年3月31日の経過)により、一審原告は、TMA・原告契約に基づく本件著作権と一審被告に対する損害賠償債権(請求権)の管理権限を全て失ったものであって、この点は、一審原告が主張する上記事情によって影響を受けるものではなく、一審原告の上記主張は理由がない。 オ 以上によれば、本件著作権の管理権限については、本件訴訟の対象たる損害賠償請求権も含め、TMA・原告契約によるものは、一審原告はこれを一切有しないというべきである。 (2) 一審原告と原権利者との直接契約によるもの ア 以下のとおり付加・訂正するほか、原判決79頁下6行〜81頁下3行記載のとおりであるから、これを引用する。 イ 一審被告の主張に対する判断 (ア) 契約期間満了楽曲(被告楽曲目録3)につき a 一審被告は、被告楽曲目録3記載の契約期間満了楽曲(本訴提起時において、既に信託契約の期間が満了していた楽曲である。)については、契約期間満了時に本訴がまだ係属していなかったから、著作権と同様に、既発生の損害賠償請求権についても原権利者に返還済みであり、一審原告は著作権を管理していない旨主張するが、後記のとおり、直接契約は更新されたものと認められ、また、仮にそうでないとしても、一審原告と直接契約を締結していた原権利者は、少なくとも契約期間満了前に発生していた損害賠償請求権の行使を一審原告にゆだねたものと解されるから、一審被告の上記主張は採用することができない。 b なお、原判決が既に「時機に後れた攻撃防御方法」であると判断して却下した部分のうち、一審被告による、原権利者・一審原告間の直接契約の更新条件が成就していない旨の主張については、その判断に誤りがあるとは認められない。 もっとも、原権利者・一審原告の信託契約(甲46参照)における、「本契約は、甲に次の各号に定める事由がなく、また信託契約期間満了の六ヶ月前までに書面により乙に対して更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前と同一条件で更新するものとする。 1.著作物使用料等の分配実績が別に定める信託契約の期間に関する取扱規準に規定する額に満たない場合。 2.著作権の侵害行為を行うなど本契約の継続を困難とさせる事由があった場合。」(第6条(契約の更新)) との定めからすれば、上記信託契約は更新されることが原則であると解すべきであり、この点に関する一審被告の主張は採用することができない。 (イ) JASRAC管理楽曲(被告楽曲目録1)につき a 一審被告は、請求対象期間の末日(平成16年7月31日)時点でのJASRACによる「請求対象楽曲」の著作権の管理状況についての回答書(乙75の3)を証拠提出し、同日時点で、JASRACが管理していた楽曲が相当数存在する旨主張する(被告楽曲目録1参照)。 これに対し、一審原告は、同回答書は信用性が低い上、いずれにしても同日時点での管理状況が示されているにすぎない旨主張する。 この点につき、確かに乙75の3は、請求対象期間の末日時点でのJASRACによる「請求対象楽曲」の著作権の管理状況を示すものにすぎず、それ以前の管理状況については、乙75の3は何ら証明するものではない。 このほか、証拠(甲89の1)によれば、JASRACは、外国の楽曲については、音楽出版社からの保証等をもって管理しており、1曲ずつ原著作権者に対して管理状況につき確認しているものではないことが認められる上、「作品データベース検索サービス」(J−WID、JASRACが作成した楽曲の各権利に関する管理状況等を示すデータベース)の画面(甲149の1〜152)において、請求対象期間当時の通信カラオケに関する支分権の欄に「♯」(権利者とJASRACとの間に直接的な管理委託契約が存在しなかったことを示す記号、乙59の2参照)が記載されていることから、上記JASRACの回答書の信用性が高いとはいえず、JASRACの回答書によって、JASRACが請求対象期間内に請求対象楽曲を管理していた事実を認めることはできない。 b なお、原判決が既に「時機に後れた攻撃防御方法」であると判断して却下した部分のうち、一審被告による債権の準占有者(JASRAC)に対する弁済の抗弁については、時機に後れたものと判断した原判決の判断に誤りがあるということはできない。 (ウ) 一審被告は、原審における証拠提出時期に関する合意日以降に裁判所に提出された P4 にかかる直接契約の契約書(甲123の1)につき、証拠能力はなく、仮に、その証拠能力が認められても、一審被告はその成立を否認しているから、同人に関する直接契約の締結を認定した原判決は誤りであり、上記契約書のうち、最終頁以外の部分については、確認基準日以降に新たに作成されたものである旨主張する。 しかし、原判決も認定するとおり、上記契約書のうち最終頁だけが先に提出されたもので(乙46参照)、残りの頁の提出が遅れたにすぎないものと解され、このように、一審原告が、不十分ながら契約書を一審被告に示していた上、確認書Cの成立につき当事者間に争いがなく、ひいては直接契約が締結されたものと推認できるから、残りの頁が後で作成されたとの一審被告の主張は採用することができない。 (エ) 一審被告は、P5、P6につき、「直接契約」が本件訴訟において提出されていない旨、また上記両名についての信託契約書(甲154、155)の提出は明らかに時機に後れた証拠提出である旨主張するが、これまでの審理経過に鑑みて、採用することができない。 (オ) 一審被告は、P7の直接契約につき、「P8」と「P7」とは異なるから、甲49は P7 名義の契約書ではなく、その結果、同人名義の契約書は提出されていない旨主張し、これに対し、一審原告は、甲49は芸名の「P7」ではなく本名の「P8」名義で作成されている旨主張する。 P7の直接契約については、一審被告は原審においても争ってきたものであるところ、「P8」とP7は明らかに異なっており、P7の本名が「P8」であることを認めるに足りる証拠はないから、P7については契約書は提出されていないとみるべきである。 そして、仮に確認書Cの成立について争いがないとしても、契約書の名義人が異なることは、極めて重大な瑕疵であるから、P7に係る楽曲(作曲6曲分)については、一審原告に著作権の管理権限が認められないというべきである。 (カ) また、一審被告は、P9、P10、P11については、確認書A、Bは証拠提出されておらず、確認書Cについても、その成立を争う旨主張する。 確かに、一審被告は、上記3名については、原審においても争ってきたものであり、直接契約の契約書、確認書Cのいずれについても成立に争いがあるので、原判決が、上記3名の楽曲につき「不知楽曲」と整理した点は誤りである。 ただし、P10については、同人が作成した書面(甲35の1、2)により、同人が一審原告を通じて損害賠償請求権の回収を望んでいることが認められるため、同人分については一審原告に著作権の管理権限が帰属するものと認められるが、その余の2名については、このような意思を確認することができない。 したがって、上記2名分( P9 につき作詩2曲分、P11につき作詩2曲分、作曲4曲分)については、一審原告に著作権の管理権限を認めることはできない。 (キ) 一審被告は、権利濫用・禁反言の法理違反の主張については、全く時機に後れていない旨主張するところ、確かに、一審被告の平成20年10月30日付け準備書面(4)において、既に同主張がされていたことからすれば、同主張が「弁論準備手続終了後であり、かつ、証拠調べ終了後である平成21年9月16日の本件第4回口頭弁論期日において・・・初めて主張された」との原判決の認定は誤りである。 しかし、いずれにしても、一審原告が、AMEIに対する連絡文書(甲16)における「2.韓国の株式会社NS企画社の件」と題する項目において、平成14年ころにつき「準備期間中」と記載したことをもって、一審原告が同期間中の損害賠償請求権を放棄したものと解することはできないから、一審原告が、同期間中(平成15年6月より前の期間)の損害賠償請求権を行使することが、権利濫用であるとか、禁反言の法理に反するということはできない。 ウ 一審原告の主張に対する判断 (ア) 共作楽曲の扱いにつき 一審原告は、日本法、韓国法のいずれにおいても、いわゆる共作楽曲の著作権の共有持分の信託譲渡については、信託受託者が著作権の円滑な行使を妨げることは考えられないため、他の共有者の同意は不要と解すべきであり、仮にこれが必要であるとしても、著作権等管理事業者の役割に鑑みれば、著作権等管理事業者に対する著作権の共有持分の信託譲渡については、他の共有者の黙示の同意があったと解すべき旨主張する。 しかし、著作権の共有持分の譲渡については、日本、韓国両国において、他の共有者全員の同意が必要とされており(日本国の著作権法65条1項、韓国の著作権法48条1項)、この点は、著作権等管理事業法に基づく著作権の共有持分の信託譲渡であっても、どの著作権等管理事業者にどのような条件で信託譲渡するかにつき全ての共有者が同じ意見であるとは限らないから、共有者の同意が不要であるとか、黙示の同意があったと解することはできないので、一審原告の上記主張は採用することができない。 (イ) 一審原告は、原判決は、共作楽曲を除き、全て原権利者ごとに権利帰属の有無を判断しているところ、却下理由のない原権利者(P12)につき、その一部の楽曲につき請求を認め、その余の楽曲につき訴えを却下した点が不当である旨主張する。 確かに、P12については、一審原告と直接契約を締結しており(甲66参照)、その一部の楽曲についてのみ一審原告に著作物の管理権限がないとすべき理由はないから、この部分(作曲23曲分)につき、請求を認容することとする。 エ その他についての判断 (ア) いわゆる「不知楽曲」のうち直接契約により一審原告に信託譲渡された楽曲(2曲の共作楽曲並びにP9及びP11の楽曲を除く全ての「不知楽曲」)については、直接契約に係る契約書も提出されており、審理経過にも鑑みて、一審原告にその著作権の管理権限を認めることとする。 そして、その楽曲数は、作詩につき12曲、作曲につき24曲である(別紙5、6で緑色に塗られた部分であり、前記イ(カのとおり、P10の楽曲(作曲5曲分)を含む。)。 (イ) なお、原判決は、P3及びP14の楽曲につき、TMA社を介した楽曲であると認定した上で、一審原告の請求を認容したものと解される。 しかし、上記両名については直接契約の契約書が提出されており(P3につき甲85の58、甲85の58の2、P14につき甲48)、上記両名は、一審原告と直接契約を締結したものと認められるため、本判決においても、P3につき作詩9曲、作曲14曲、P14につき作詩1曲、作曲12曲分の請求を認容することとする。 オ 小括 以上を前提とした場合、本件において、一審原告が著作権の管理権限を有すると認められる直接契約に関する楽曲は、作詩・作曲別にみると、以下のとおりとなる。 @ 作詩 37楽曲(原判決が認めた15楽曲+9楽曲(P3)+1楽曲(P14)+12楽曲(不知楽曲)) A 作曲 123楽曲(原判決が認めた56楽曲−6楽曲(P7)+23楽曲(P12)+14楽曲(P3)+12楽曲(P14)+24楽曲(不知楽曲)) 3 損害額について (1) 前記2によれば、一審原告は、TMA・原告契約による本件著作権の管理権限はこれを有しないが、一審原告と原権利者との直接契約によるものは、その大部分につきこれを有することになるので、以下、本件著作権侵害となる部分の損害額について検討する。 (2) 一審被告により侵害されたとする原権利者の著作権は韓国法に基づく権利であり、その権利が、本件では平成14年6月28日から平成16年7月31日までの間、日本において一審被告により侵害された、というものである。 ところで、原権利者の有する著作権は韓国法に基づく権利であるが、日本と韓国は、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(昭和50年3月6日条約第4号)」の同盟国であるから、原著作者が創作した著作物は日本においては日本著作権法の保護を受け(同法6条3号)、本件における損害額の算定に当たっては、不法行為に関する日本の法律(民法等)に基づきこれを行うべきこととなる(平成19年1月1日から施行された前記「通則法」によっても、その附則3条4項により、施行日前に加害行為が発生した不法行為によって生じる債権の成立及び効力については旧法である「法例」によるところ、不法行為について定めた「法例」11条によれば原因発生地の法がその準拠法となるから、結局、一審被告による侵害行為がなされた日本の法がその準拠法となる。)。 そこで、以下、日本の法律(民法、著作権法)に基づき、損害額を算定する。 (3) 原告規程の適用の可否につき ア 事実関係については、原判決90頁14行目から93頁11行目までを引用する。 イ 一審原告は、まず、原告規程を用いて損害額を算定すべき旨主張するが、原告規程については、原判決が詳細に認定するとおり、一審原告とAMEI間の交渉において、一審原告が必ずしも十分な情報を提供せず、一審原告の管理楽曲のリストなどがAMEIに対して開示されなかったことなどもあり、両者間で原告規程につき合意に至っていないことからすれば、原告規程を基準として損害額を算定するのは相当でない。 この点につき、一審原告は、一審原告のような一般管理事業者に対する著作権等管理事業法13条2項所定の意見聴取義務は努力義務にすぎず、仮にこれが尽くされなくても使用料規程の法的効力は妨げられないとか、一審原告・AMEI間で合意に至っていないのは、一審原告の努力が足りないためではなく、むしろ、AMEIを構成する利用者団体の交渉戦術によるものであり、AMEIを構成する利用者団体は、使用料を支払わずに使用料規程に関する交渉を長引かせて、自己に有利な結果を引き出そうとしている旨主張する。 しかし、同条2項所定の義務が、形式的には努力義務にすぎないとしても、著作権等管理事業者が利用者から相当額の著作権使用料を徴収する以上は、その使用料規程につき、利用者との協議を経て、その内容を周知させ、さらには利用者の納得を得る必要があると解すべきであり、一審原告の上記主張は採用することができない。 なお、同条2項所定の義務が努力義務とされたのは、「管理事業者の中には小規模で利用者への影響力が極めて小さい者もいることが想定されることや、使用料規程の内容に対する意見を申し述べることができる利用者又は利用団体が存在しない場合も想定されることを踏まえてのもの」と解されている(乙14(逐条解説著作権等管理事業法)参照)ところ、一審被告も指摘するとおり、一審原告は、本件訴訟において、約10億円の著作権使用料相当損害金を請求するものであって、小規模で利用者への影響力が極めて小さいなどといえないことは明らかである。また、原告規程の内容に対する意見を申し述べることができる利用者や利用団体は観念できる(AMEI等)ものであるから、いずれにしても、本件において、一審原告につき、著作権等管理事業法13条2項所定の義務が努力義務にすぎないと形式的に解するのは相当でない。 また、一審原告とAMEIとの交渉が決裂したのは、一審原告の当初の説明内容が十分ではなかったことも原因となっているものであり、必ずしもAMEIの交渉戦略によるものともいえない。 このほか、一審原告は、原告規程はその内容も合理的なものである旨主張するが、前述のとおり、原告規程については、実質的にみれば、著作権等管理事業法所定の手続を十分に経ていないものであるから、原告規程の内容の合理性について検討する必要はない。 なお、一審原告は、著作権等管理事業においては、自由競争の枠を超えるような場合には、文化庁による業務改善命令(著作権等管理事業法20条参照)が出されるところ、一審原告はそのような業務改善命令を一切受けていない旨主張するが、同命令を受けていないからといって、原告規程の内容が合理的であるとまで認められるものではない。 また、一審原告は、AMEI以外の団体・各利用者が原告規程の内容に一切異議を述べていないとも主張するが、「AMEI以外の団体・各利用者」とは、業務用通信カラオケ業者以外の団体・利用者であるから、これらの者が原告規程に異議を述べないからといって、原告規程(業務用通信カラオケ事業に関する部分)の内容の合理性を裏付けるものではない。 さらに、一審原告は、一審被告が原告規程の内容を知りながら著作物(楽曲)の利用を継続したものであり、このような事業者につき、原告規程の内容の不合理性を主張するのを認めるのは信義誠実に反する旨主張するが、前述のとおり、一審原告は、AMEIとの交渉において、必要な情報を十分に開示しないなどの事情があったものであるから、一審原告の上記主張は採用することができない。 (4) 複製権侵害を基準とする損害額の算定の可否につき 一審原告は、仮に損害額算定において原告規程を用いないのであれば、両者間に何ら合意がなく、著作権等管理事業者の定める有効な規程がない場合であるから、原則に戻り複製権侵害を基準として損害額を計算すべき旨主張するが、一審被告も主張するように、業務用通信カラオケにおいては、自動公衆送信装置への複製、公衆の求めに応じた公衆送信及び送信可能化、受信装置への複製といった、複数の著作権支分権が複合的に関わってくることが明らかであり、実際に、原告規程(甲5)においても、複製権侵害回数を基準とした課金方式を採用していない。 また、証拠(証人P2、乙37)及び弁論の全趣旨によれば、カラオケ業界においては、記憶媒体の変化に伴い、現在では極めて多数の楽曲が各端末機において歌唱可能になったものの、売上高は一定程度以上には上がらない(すなわち、多くの楽曲が単なる品揃え的な意味で歌唱可能な状態となっているにすぎない。)という実態があるものと認められる。 以上からすれば、カラオケ業界において、単純に複製権侵害回数を基準として著作権使用料相当損害金を算定するのが適切とはいえない。 この点につき、一審原告は、JASRAC・AMEI間の平成8年合意(甲144参照)においては、複製権侵害を基準として損害額を算定したと主張するが、同事実が存在したとしても、上記のとおり、カラオケ業界において、単純に複製権侵害回数を基準として使用料相当損害金を算定するのが実態にそぐわないことに変わりはない。 また、一審原告は、一審被告をはじめとするカラオケメーカーは、カラオケ設置店舗からの情報利用料を毎月受領するほか、通信カラオケ端末機の高額な販売代金を受領しており、同代金には、プレインストールされている楽曲データの複製についての著作権使用料を支出し得るに十分な楽曲利用の対価が含まれている旨主張するが、同主張を認めるに足りる的確な証拠はない。 (5) JASRAC規程につき ア JASRAC規程(乙40)の第2章、第10節「業務用通信カラオケ」には、以下の定めがある。 「放送及び有線放送以外の公衆送信及びそれに伴う複製により業務用通信カラオケ(通信カラオケのうち、カラオケ施設、社交場等の事業所を対象としたもの。以下本節において同じ。)に著作物を利用する場合(ただし、受信先における演奏・歌唱は除く。)の使用料は、次の1及び2によりそれぞれ算出した金額を合算して得た金額に、消費税相当額を加算した額とする。本節において、使用料には複製(ただし、映像とともに複製される場合を除く。)及び公衆送信に係るものを含むものとする。 1 基本使用料 (1) 基本使用料に関する包括的利用許諾契約を結ぶ場合 業務用通信カラオケ事業者が設定しているアクセスコード数によって1ヵ月ごとに定めるものとし、その月額使用料は、下表のとおりとする。
(2) (1)によらない場合 カラオケ施設、社交場等の事業者が利用できる状態におかれている著作物の数によって1ヵ月ごとに定めるものとし、その月額使用料は、再生されるべき時間が5分までの著作物1曲につき200円とする。 2 利用単位使用料 (1) 利用単位使用料に関する包括的利用許諾契約を結ぶ場合 サーバー、端末機械等(以下名称を問わず「受信装置」という。)1台につき1ヵ月ごとに定めるものとし、その月額使用料は、情報料を課すべき受信装置1台あたりの月間の情報料の10/100の額又は950円のいずれか多い額とする。ただし、情報料の14/100の額が950円を下回る場合は、その額又は650円のいずれか多い額とする。 (2) (1)によらない場合 業務用通信カラオケ事業者が、カラオケ施設、社交場等の事業所に設置された受信装置へのアクセスコードの入力に応じ、演奏に供する著作物を1曲1回提供する(公衆送信であるか複製物によるかを問わない。)ごとに定めるものとし、その使用料は、再生されるべき時間が5分までの著作物1曲につき40円とする。 (業務用通信カラオケの備考) @ 1(1)の規定の「アクセスコード数」とは、業務用通信カラオケにおいてそのリクエストのために1データごとに付与しているコードの総数をいい、使用料の算出にあたっては、当該コード数に97/100を乗じた数とする。 A 1(1)及び2(1)の規定を適用する場合において、月間の利用単位使用料の総額の25/100の額が月額基本使用料を下回る場合の月額基本使用料は、アクセスコード数にかかわらず、その利用単位使用料の総額の25/100の額とする。 B Aを適用する場合において、月額基本使用料と月間の利用単位使用料の総額の合算額が50000円を下回るときは、50000円を当該月の使用料とする。 C 2(1)の規定の「情報料」とは、業務用通信カラオケを利用するにあたり受信先において通常支払うことが必要とされる受信等に伴う対価(消費税を含まないもの。いずれの名義をもってするかを問わない。)をいう。 D 情報料が不明の場合は、業務用通信カラオケ事業者が得る受信装置1台当たりの情報料収入(いずれの名義をもってするかを問わない。)に170/100を乗じた額を情報料とすることができる。 E 1(2)又は2(2)の規定を適用する場合において、次のいずれかに該当するときは、それぞれ次のとおりとする。 (ア) 再生されるべき時間が5分を超える場合は、5分までを超えるごとに、5分までの使用料に1(2)の規定の場合は200円、2(2)の規定の場合は40円をそれぞれ加算する。 (イ) 歌曲において楽曲に著作権がない場合又は本協会の管理外の場合は、1 曲の使用料の6/12の額とする。 (ウ) 歌曲において歌詞が本協会の管理外の場合は、1曲の使用料の6/12の額とする。 F 著作物の利用形態など特別の事情により本料率により難い場合の使用料は、本料率の範囲内で、利用者と協議のうえ定めることができる。」 イ 現在、通信カラオケ事業に関しては、上記内容のJASRAC規程(乙40)が存在し、同規程の内容は、JASRAC・AMEI間で長期間議論・検討された結果、業界において広く知られており、その内容の合理性も担保されているといえるから、損害の賠償を求める事案である本件においては、同規程を用いて損害額を算定するのが相当である。 ウ もっとも、本件においてJASRAC規程の包括契約方式(第2章第10節、1(1)、2(1))を適用するとした場合、JASRACと一審原告の管理楽曲数やその実績等の違いからすれば、何らかの方法で同方式を修正する必要性が生じる(本件での同方式の適用につき、修正の必要はないとする一審原告の主張は採用できない。)。 他方、JASRAC規程の個別課金方式は、使用料につき、管理事業者や使用者の規模等による影響を受けないような算定方法が採られているため、特段の修正は必要ないものであって、本件においてこのように特段の修正の必要がない個別課金方式を採用することは一定の合理性がある。 エ なお、一審原告は、原判決が、JASRAC規程の個別課金方式を採用した上で、一審被告が提出した各楽曲のアクセス回数に関する証拠に基づいて損害額を算定したことにつき、一審被告が請求対象期間においてアクセス回数を正確に把握することは技術的に不可能であったので、一審被告の提出にかかる各楽曲アクセス回数の信用性は欠如しており、このようなアクセス回数を損害額(利用単位使用料)算定に用いた原判決の認定は不当である旨主張する。 この点、証拠(甲127、乙53の3)によれば、一審被告は、平成15年、ブロードバンド対応の通信カラオケシステムを構築して、ユーザーにオンデマンドサービスを提供できる環境を整えたものであり、従来のアナログ回線を前提としたセンターシステムでは、容量の大きいデータをスムーズに配信できなかったこと、通信カラオケ事業者のJASRACへの利用回数報告は、平成20年3月利用分まではサンプリング報告(抽出した端末機における利用回数報告)であったことが認められる。 しかし、一審被告も主張するとおり、アクセス回数の集計は、演奏があった際の関連情報という極めて小さい容量のデータのみの送信によるものであり、オンデマンド・サービス(各店舗のカラオケ端末にデータを蓄積することなく、リクエストがある度にデータをセンタ・サーバーから回線を通じて取得する方式)システムが構築されていなければ送信できないものでないことは明らかである。また、一審被告がJASRACに対してサンプル報告を行っていたことについても、サンプル報告を行う場合には全数を抽出することも可能であることが前提であり、以上からすれば、一審被告が提出したアクセス回数の信用性に関する一審原告の上記主張は、憶測にすぎないといわざるを得ない。 オ 他方、原判決は、一審原告の管理権限を認めた楽曲の実際の演奏回数を具体的に認定せず、請求対象期間における請求対象楽曲の総演奏回数に対する一審原告の管理権限を認めた楽曲数の「請求対象楽曲」数全体に占める割合で按分することによって得られた数を当該演奏回数と擬制したところ、一審被告は、請求対象楽曲中には、より多く歌われた楽曲もそうでない楽曲もあるはずであり、全ての楽曲の演奏回数が均一であるかのような原判決の計算方法は不正確である旨主張する。 しかし、原判決は、損害額を算定するに当たり、提出された証拠等に基づいて、現実の損害額に最も近い金額を算定しようとしたものであって、必ずしも正確でない部分があるとしても、このような計算方法が不相当とまでいうことはできない。 (6) JASRAC規程の個別課金方式につき ア 一審被告は、JASRAC規程の個別課金方式は実務上全く適用されておらず、利用者の意見が全く反映されていない旨主張する。 しかし、JASRACとAMEI間においては、個別課金方式も含め、JASRAC規程(乙40)について全体として合意に至っているのであるから、少なくとも、自らの代表取締役をAMEIの副会長として据えてきた一審被告は、個別課金方式についても十分認識しているものといわざるを得ない(甲143参照)。 そして、JASRACと包括契約を締結する利用者については、個別課金方式が適用されないとしても、JASRAC規程の中に個別課金方式が定められている以上、その適用があり得ることは自明であり、仮にこれまで使用実績がないとしても、全てのケースで個別課金方式を一切利用できないと解するのは不合理である。 イ このほか、一審被告は、個別課金方式においては、その「利用単位使用料」が、カラオケメーカーがカラオケ店舗から毎月受領する「情報利用料」と連動していない点で不当であり、さらに、「利用単位使用料」のリクエスト1回あたり40円という料率自体が不合理である旨主張する。 しかし、前述のとおり、一審被告(の代表取締役)は、AMEIのメンバーとして、JASRACと協議した際に、JASRAC規程の内容につき意見を述べる機会を有していたものであるから、その段階で意見を述べずに、現時点で、個別課金方式の内容が不当であると主張することは許されないというべきである。 いずれにしても、一審被告が、現に一審原告が管理する楽曲の著作権を侵害し、かつ、JASRAC規程の内容を認識していた以上、一審原告の損害を賠償するに当たり、「利用単位使用料」が「情報利用料」と連動しないなどの不都合があるとしても、JASRAC規程の個別課金方式の適用を甘受すべきである。 (7) KOMCAとJASRACとの相互管理契約に基づく一審被告の主張につき 一審被告は、平成19年以降、JASRACとKOMCAとの間で相互管理契約が締結されたこと、請求対象楽曲の業務用通信カラオケにおける使用の態様やカラオケ店舗からカラオケメーカーへの収入構造の実態が請求対象期間と相互管理契約発効日以降とで変わらないこと等を理由に、現時点で、韓国の原権利者がKOMCAとJASRACとの間の相互管理契約に基づいて受領している使用料に基づき本件の請求対象期間において原権利者が受領すべきであった使用料を算定すべき旨主張する。 しかし、一審原告も主張するとおり、現在と請求対象期間とでは、原権利者の契約締結の相手方が異なる以上、同契約の内容に応じて、原権利者が受領すべき著作物の使用料が異なるのは当然である。 また、本件訴訟における使用料相当損害金の算定は、著作権等管理事業者である一審原告が、カラオケ事業者である一審被告から使用料を徴収する段階での使用料相当損害金の額の問題であり、一審原告が各原権利者にどのように分配するかとは直接関係がない。 以上のとおり、一審被告の上記主張は理由がない。 (8) 具体的計算 以上を前提として、本件において一審原告が管理する楽曲の著作物使用料相当損害金額を計算すると、以下のとおりとなる。 ア まず、JASRAC規程(乙40)の個別課金方式を適用するに当たり、楽曲ごとに、かつ作詞、作曲別に算定するのが相当であり、1楽曲当たり、作詩、作曲それぞれにつき、基本使用料は月額各100円、利用単位使用料は各20円とする。 そして、前記2(2)のとおり、一審原告が管理していると認められる楽曲数は、作詩が37曲、作曲が123曲である。 なお、一審原告の管理楽曲のうち、再生されるべき時間が5分を超える楽曲があるとは認められない。 ところで、前述のとおり、一審被告は、請求対象楽曲中には、より多く歌われた楽曲もそうでない楽曲もあるはずであり、全ての楽曲の演奏回数が均一であるかのような原判決の計算方法は不正確である旨主張し、控訴審において、アクセス回数についての証拠(乙83)を提出する。 しかし、一審被告は、TMA・原告契約の締結日(平成14年10月17日)以前には、一審原告によって管理されていた「請求対象楽曲」は1曲も存在しない旨主張し、平成14年6月28日から同年10月16日までのアクセス回数をゼロとし、同年10月分については同月17日から同月31日における日割計算をしたと主張する。 このように、一審被告は、独自の見解に基づいて、アクセス回数についてほぼ4か月間の証拠を提出していないことになり、乙83に記載されたアクセス回数を採用しても、請求対象期間の全期間について、本判決が一審原告の請求を認める部分について適切な使用料相当損害金を算定することはできないため、一審被告が提出したアクセス回数を採用することはできない。 そこで、当審においても、原審同様の計算方法を採ることとする。 イ(ア)基本使用料相当損害金 a 作詞 3万6476円 b 作曲 12万5092円 なお、各楽曲の管理期間について、1か月あたり100円を乗じて算定した金額(1か月に満たない期間については、日割り計算をする。)を合計した金額である(詳細は、別紙5、6のとおり)。 (イ) 利用単位使用料相当損害金 証拠(乙47)によれば、一審被告において、請求対象期間における請求対象楽曲1297曲の総アクセス回数は253万9241回であったと認められる。 253万9241回×(37+123)/1297曲×20円=626万4896円(1円未満切り捨て) (ウ) 合計 642万6464円 4 その他の争点について (1) 過失相殺(原判決の争点(4)−2)につき 原判決96頁7を引用する。 (2) 不当利得返還請求(原判決の争点(6))につき 原判決96頁9を引用する。ただし、同頁下2行〜下1行の「原告適格を欠く」を「請求することができない」と改める。 5 結論 以上のとおり、一審原告の本訴請求のうち、直接契約に係る部分については、直接契約の締結が認められた部分につき請求を認容し、TMA社を介した部分については、一審原告が対象楽曲の著作権の管理権限を失ったものと認められるため、この部分に関する請求を棄却することとし、その損害額の算定方法については、JASRAC規程の個別課金方式を採用することとする。 そうすると、一審原告の本訴請求のうちその認容金額は原判決より少ないこととなるので、一審原告の控訴(A事件)は全て理由がなく、逆に、一審被告の控訴(B事件)は一部理由があることになる。 よって、A事件についての一審原告の控訴を棄却し、B事件について一審被告の控訴に基づき原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所 第1部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉 (以下別紙省略) |
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