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【事件名】商標“Chupa Chups”侵害事件(2)
【年月日】平成24年2月14日
 知財高裁 平成22年(ネ)第10076号 商標権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第33872号)
 (口頭弁論終結日 平成23年11月14日)

判決
控訴人(一審原告) ペルフェッティ ヴァン メッレ ソシエタ ペル アチオニ (Perfetti Van Melle S.p.A)
訴訟代理人弁護士 田中伸一郎
同 渡辺光
同 奥村直樹
訴訟代理人弁理士 東谷幸浩
被控訴人(一審被告) 楽天株式会社
訴訟代理人弁護士 北村康央
同 倉品愛美
同 柿田徳宏
同 荒瀬陽子
同 緒方延泰


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙商品目録記載の各商品(1 乳幼児用よだれかけ、2 帽子、3 携帯ストラップ、4 ボストンバッグ、5 マグカップ、6 ランチボックス)を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
3 被控訴人は、控訴人に対し、100万円及びこれに対する平成21年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要(略号は原判決の例による。)
1 一審原告である控訴人は、イタリア共和国法によって設立された会社であり、下記商標権(詳細は原判決別紙「原告商標目録」記載のとおり)の管理等を行う法人である。

・(商標)<各商標共通> (商標イメージ省略)
・本件商標権1
 登録番号 第4296505号
 出願日 平成10年8月17日
 登録日 平成11年7月16日
 指定商品 <第25類>
 洋服、コート(以下略)
・本件商標権2
 登録番号 第4371802号
 出願日 平成10年8月17日
 登録日 平成12年3月31日
 指定商品 <第9類>
 理化学機械器具(以下略)
・本件商標権3
 登録番号 第5188082号出願日 平成20年5月27日
 登録日 平成20年12月12日
 指定商品 <第18類>
 かばん金具(以下略)
2 一審被告である被控訴人は、各種マーケティング・小売業務の遂行及びコンサルティング、通信販売業務等を業とする株式会社であり、平成21年4月以前から、「http://www.rakuten.co.jp/」をトップページとするウェブサイト(以下「被告サイト」という。)において、「楽天市場」という名称で、複数の出店者から買物ができるインターネットショッピングモール(詳細は後記のとおり)を運営している。
 楽天市場では、出店者の各々がウェブページ(出店ページ)を公開し、当該出店ページ上の「店舗」(仮想店舗)で商品を展示し販売している。
3(1) ところが、一審被告の運営する楽天市場において、平成21年8月10日以前から、一審被告と上記ショッピングモールへの出店契約を締結した下記出店者が、原判決別紙標章目録記載の標章1〜4(本件標章1〜4)を付した下記商品を上記出店ページに販売のために展示した。

ア 乳幼児用よだれかけ(本件商品1) (画像省略)
 ・本件標章1
 ・出店者 有限会社ティキティキカンパニー
イ 帽子(本件商品2) (画像省略)<以下略>
 ・本件標章2
 ・出店者 株式会社SHELBY
ウ 携帯ストラップ(本件商品3) (画像省略)<以下略>
 ・本件標章3
 ・出店者 有限会社データリンク
エ ボストンバッグ(本件商品4) (画像省略)
 ・本件標章4
 ・出店者 株式会社S・Gノンファクトリー
オ マグカップ(本件商品5) (画像省略)
 ・本件標章1
 ・出店者 有限会社ティキティキカンパニー
カ ランチボックス(本件商品6) (画像省略)
 ・本件標章1
 ・出店者 A(エムズストア)
(2) なお、本件標章1〜4の内容は、次のとおりである。
・標章1
・標章2
・標章3
・標章4
 (以上、標章イメージ省略)
4 本件訴訟は、一審原告である控訴人が、一審被告である被控訴人に対し、一審被告の運営するインターネットショッピングモール(楽天市場)において、本件商品1〜6を展示又は販売することは、一審原告の上記商標権を侵害又は一審原告の商品を表示するものとして周知又は著名な「チュッパ チャプス」、「Chupa Chups」の表示を利用した不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号・2号)に該当すると主張して、商標法36条1項又は不正競争防止法3条1項に基づく差止めと、民法709条又は不正競争防止法4条に基づく損害賠償と遅延損害金の支払を求めた事案である。
5 平成22年8月31日になされた原判決は、被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)の主体は、当該出店ページの出店者であって、一審被告はその主体ではない等として、一審原告の請求を棄却した。
 そこでこれに不服の一審原告が本件控訴を提起した。
第3 当事者の主張 以下のとおり付加訂正するほか、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。
1 一審原告の当審における主張
(1) 一審被告が「譲渡のための展示」又は「譲渡」したことを要するとした原判決の誤り
ア 原判決は、一審被告の関与行為が「譲渡のための展示」又は「譲渡」行為に該当するかどうかについてのみ検討し、該当しない限り、一審被告に対して商標権侵害ないし不正競争防止法違反の責任を問うことはできないと判断している。
イ しかしながら、一審原告は、一審被告の関与行為それ自体が「譲渡のための展示」又は「譲渡」行為に該当するとのみ主張しているのではなく、また、商標法2条3項の規定する商標の「使用」がなければ商標権侵害は存在しないというものではない。
 すなわち、登録された商標に関する商標権について、商標法25条は、商標権者が指定商品又は指定役務について登録商標を使用する権利を専有する、と規定している。商標権者が独占的に与えられた権利は、当該登録商標を指定商品、指定役務に関して用いることであり、それを害する行為が商標権侵害である。そうすると、他者が無断で同商標を使用することが商標権侵害の典型であるが、その他の類型の行為であっても登録商標の識別力を害し、指定商品、指定役務の自他識別をできないようにする行為については、いずれも商標権侵害行為として差止めの対象となり、また行為者に故意ないし過失が存する場合には損害賠償義務を負うべきことは明らかである(註解商標法参照)。
ウ したがって、仮に本件における一審被告の関与行為が「譲渡のための展示」又は「譲渡」行為に該当せず、商標法2条3項の「使用」ではないとしても、本件各登録商標の識別力を害するものであるかが検討されなければならない。
 そうであるところ、後記エ、オのとおり、一審被告の行為が商標権侵害行為であることは明白であり、更に本件においては一審被告に故意又は過失が存する。
エ 本件においては、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2(5)項にまとめられた楽天市場での各商品の展示及び販売について出店者の行為が商標権を侵害するものであることは一審被告も争わない事実である。
 ところで、この楽天市場における商品の展示及び販売について、一審被告は次のとおりの関与をしている。すなわち、一審被告は、楽天市場をウェブサイト上の百貨店ないし総合スーパーとして運営しており、楽天市場を訪れた顧客にとって楽天市場は一つの店でそこに展示された全ての商品を、出店者が誰かとは全く関係なく、ウェブサイトに設けられた検索手段で探索し、そこから必要な商品を選択して、ウェブサイト上で発注することができるのである。楽天市場の運営者である一審被告は、更に出店者との契約によって各出店者を選定し、出店の停止、コンテンツの削除等の措置をなす権限をも有している。
 以上のとおり、たとえ出店者が販売に関しては所有権移転の主体であるとしても、一審被告が楽天市場の運営者として展示、販売の場を提供しなければ、「各商品が楽天市場で展示、販売」されることはなく、したがって一審原告が独占的に有する登録商標の出所表示機能が害されることもなかったのである。
 仮に、一審被告が楽天市場の運営者として真正品でない「各商品が楽天市場で展示、販売」をさせる各行為が、「譲渡のための展示」又は「譲渡」行為に該当せず、商標法2条3項の「使用」ではないとしても、一審原告が独占的に有する本件各登録商標の登録商標の出所表示機能、すなわち識別力を害するものであるから、商標権侵害行為である。
 原判決は明らかに、商標権侵害について、商標法2条3項の「使用」行為が存在しなければならないと誤って解釈し、法的判断を誤った。
 なお、一審被告は、「楽天市場のビジネスモデル上、そもそも一審被告に個別の商品を出品したり削除したりする権限はなく、システム上も個別の商品を対象とする削除を一審被告において行い得ない」等と主張するが、「権限」については契約上の問題であって、そのような「権限」を有する契約を出店者と締結すれば足り、システムについては、個別のウェブページを削除ないしアクセス禁止できるシステムを設計、構築すれば足りる。
 楽天市場と同様のインターネットモールであり、ヤフー株式会社が運営する「Yahoo!ショッピングストアシステム」において、同社は個別の商品について削除等する権限を有し、かつ、そのようなシステムを構築しているのであるから、一審被告が同様の権限を有し、システムを構築することは可能である。
オ 一審被告の商標権侵害行為について、一審原告は、平成21年4月3日及び6日付け英文メール、並びに同月16日付け内容証明郵便により、商標権侵害(及び不正競争防止法違反)の事実を通知し、その中止を要求した(甲34、35)。これに対して一審被告は、出店者の責任に関わるものである旨回答し、直接に指摘した出店者の問題商品については楽天市場のウェブサイトから削除されたが、明らかに同じ本件各登録商標と同一ないし類似の標章目録記載の標章が付された商品の展示は継続された。
 楽天市場のウェブサイト上における検索機能を用いてでさえ、「Chupa Chups」とでも打ち込んで検索すればこのような商品が楽天市場で展示、販売されていることは即時に確認できるのであり、一審被告において即時に確認できたことは明白である。それにもかかわらず、一審原告からの警告後においても楽天市場で商標権侵害品が展示、販売されたのであるから、本件について一審被告に故意又は過失が存在することは明らかである。
 なお、一審被告は、「一審原告自らの手による商標権侵害に対する現実的かつ容易な救済手段が十分に与えられている」として、一審被告に対する差止請求の不当性を主張するが、法は、保証契約の場合(民法452条、453条)と異なり、物権侵害に対して複数の救済手段があるときに、最も容易な救済方法を採るべきことを求めていない。
 したがって、一審原告が出店者に直接差止請求することが容易であることは、一審被告に対する差止請求権を否定する根拠とはならない。
 また、本件各商品は禁制品であり、販売することが許されない商品であるところ、そのような商品の売上げから利益を得ること自体が、権利者の利益を侵害することによって利益を得るものであり、およそ許されない。禁制品の売上げに基づいて出店者が「システム利用料」を一審被告に支払う義務を負っている点において、その限りで両者間の契約は公序良俗に反し無効であり、一審被告のこのような利益は法律上の原因を欠くと判断されるべきであるが、いずれにせよ、一審被告がこのような不当な利益を得ることを放置するのは、権利者の利益を不当に害するものにほかならない。
カ これまでの裁判例において、差止請求を認めるにおいて「譲渡」の主体であるかどうかについて判断しているものが存在するが、それらは要するに、対象となる行為を差し止めることが、侵害の停止又は予防に有効であるかどうかを判断している。
 本件についてみると、一審被告は楽天市場の運営者として展示、販売の場を提供し、それにより「各商品が楽天市場で展示、販売」されている。言い換えれば、一審被告が楽天市場の運営者として展示、販売の場を提供しなければ、「各商品が楽天市場で展示、販売」されることはなく、したがって正に一審被告の行為を差し止めることは商標権侵害の停止又は予防に有効である。
キ 最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決(民集65巻1号399頁、以下「ロクラクU判決」という。)につき
 法的評価において事実関係の存在が前提となることはいうまでもないが、他方で、法律の規定は規範であり、その規範に具体的事実が当てはめられるのであるから、事実が規範的に評価されることは当然である。
 最高裁は、ロクラクU事件において著作物の複製の主体を判断するに当たり、「複製」という事実行為についても、その行為主体性の判断において規範的評価を行うべきであることを明らかにした。
 これを本件商標権侵害行為についてみるに、一審被告は、その管理、支配下において、顧客に提供すべき情報を選別し、独自のフォーマットで検索結果を提供し、楽天市場内の商品として商品情報を提供するものであり、かつ、それに適した形式のデータを作成するよう出店者に指示するものであって、楽天市場における商品の展示における枢要な行為を行っている。これらの行為は、サーバの領域の一部を貸し出すだけのホスティングサービスとは全く異なるものである。
 したがって、本件各商品の展示の主体は一審被告というべきことは明らかである。
 以上のような本件各商品の展示行為に加え、一審被告は、顧客から商品購入の申込みを受け付け、これを受領し、出店者に転送する行為、顧客に「注文確認メール」を送信する行為、商品配送先情報を出店者に転送する行為、クレジットカードを用いた決済に際しカード会社に直接カード情報を送信し承認を得る行為等を行っている。これらの行為は、それがなければ本件各商品の譲渡はおよそ不可能であり、楽天市場における商品の譲渡における枢要な行為といえる。
 したがって、本件各商品の譲渡の主体も一審被告というべきである。
ク 以上のとおり、一審被告の行為が「主体」的なものでないからとして一審被告の責任を否定した原判決は明らかに誤りである。
(2) 「譲渡又は引渡しのための展示」といえるには一審被告が譲渡の主体でなければならないとした原判決の誤り
 一審被告の運営するインターネット上のウェブサイト「楽天市場」において、本件各登録商標の付された商標権侵害及び不正競争防止法違反商品の写真が販売のために展示されたことについては、当事者間において争いはない。 一審被告は、本件各登録商標の付された商標権侵害及び不正競争防止法違反商品の写真を具体的にアップしたのは出店者である旨を指摘しているが、その場所であるインターネット上のウェブサイト「楽天市場」は一審被告が管理運営するものであり、アップを誰が行おうと、一審被告が展示していることに変わりはない。
(3) 「被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行っ」ていないとした原判決の誤り
ア 原判決は、「被告が主体となって本件各出店者を介し、あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った」との一審原告の主張に対し、47頁11行〜48頁11行において8つの根拠事情(以下、各根拠事情を「判示事項@」ないし「判示事項G」という。)を示して、一審原告の主張を排斥した。
 しかし、上記各事実は、いずれも、一審被告の行為主体性ないし責任を否定する根拠にはならず、また、多くの重要な事実を看過している。
(ア) 判示事項@について
 同@は「被告が楽天市場において運営するシステム(RMS)には、出店者が出店ページに掲載する商品の情報がすべて登録・保存されているが、個別の商品の登録は、被告のシステム上、出店者の入力手続によってのみ行われ、出店者は、事前に被告の承認を得ることなく、自己の出店ページに商品の登録を行うことができ、また、実際上も、被告は、その登録前に、商品の内容の審査を行っていない」とするものであるが、これは、一審被告が営業上の判断からそのように運営しているだけであって、一審被告の行為主体性ないし責任を否定する根拠にはならない。
 一審被告は、出店者についてその内容を確認し、出店者との間で契約を締結することで初めて、出店者は楽天市場に商品を展示し、販売することが可能となるのである。出店者は契約により出店者として一審被告から確認を得た後、楽天市場における具体的な販売のためにまず販売商品のシステムへの入力手続を行うのであり、一審被告は、一定の事由が生じた場合においては、コンテンツ削除(商品登録の取消し)、出店停止等の手続を取ることが可能であって、商品登録は出店者が一応行っているが、あくまで一審被告の管理下の行為である。
 以上のとおり、判示事項@はおよそ主体が一審被告でないことの根拠になるものではない。
(イ) 判示事項Aについて
 同Aの「出店ページに登録される商品の仕入れは、出店者によって行われ、被告は関与しておらず、また、商店の販売価格その他の販売条件は、出店者が決定し、被告は、これを決定する権限を有していないこと」については原判決の認定したとおりであるが、商品の内容及び販売価格その他の販売条件は、一審被告のサーバに保管され、顧客の要望に応じて、一審被告のサーバにおいて検索し、検索の結果得られた複数の商品を見やすく配置した上で顧客に提示すると共に、特定の商品についての商品内容及び販売条件を一審被告が顧客に送信することにより提示するのであって、一審被告が商品の展示を行い、かつ、申出の誘因を行っている。
(ウ) 判示事項Bについて
 同Bのとおり「顧客の商品の購入の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は、当該商品の出店者が行い、被告は、一切関与しない」としても、一審被告は、顧客の商品購入の申込みを受信し、これを出店者に転送しており、これは売買契約の成立には欠かせない行為である。
 また、一審被告は、顧客の申込みを出店者に転送するのみならず、申込みを受信し、これを出店者に転送したことを、顧客に「注文確認メール」を送信することにより通知している。このような通知は、当該売買契約の成立のみならず、当該顧客のその後の一審被告及び当該出店者における購入を促進するものでもある。
(エ) 判示事項Cについて
 同Cのとおり「売買契約成立後の商品の発送、代金の支払等の手続は、顧客と出店者との間で直接行われる」ものではあるが、商品の発送に必要な情報(住所、氏名、電話番号等)は、一審被告を経由して出品者に提供される。顧客が商品をクレジットカードで購入する場合には、クレジットカード情報は一審被告から直接クレジットカード会社に送信され、出店者に知らされることはない。
 一審被告に会員登録していれば、顧客が自宅を指定するだけで、住所等を改めて入力するまでもなく、配送に必要な情報が一審被告のサーバから読み出されて出店者に送信される。また、顧客が予めクレジットカード番号等を登録すれば、その情報も、顧客がその都度番号等を入力しなくとも、一審被告サーバから読み出され、クレジットカード会社に直接送信される。
 このように、売買契約の締結及び履行に必要な情報は、多くの場合、一審被告のサーバに保管されている情報が読み出され、出店者に提供され、あるいはカード会社に送信される。また、それにより、顧客の入力の手間を省き、一審被告が出店者の集客力の向上を図っているのである。
(オ) 判示事項D及びEについて
a 原判決は、同Dにおいて、「被告は、出店者から、販売された商品の代金の分配を受けていない」と認定するが、一審被告は、同Eで認定するとおり、出店者の売上げに対して2〜4%という割合で、従量制で「システム利用料」を徴収しており、実質的に販売された商品の代金の分配を受けているのである。
 「システム利用料」は、名称こそシステムを利用したことの対価のように聞こえるが、実質は売上げの分配である。システムの利用の対価であるとすれば、一審被告サーバに保存したデータ量や、通信量といった、サーバ等のシステムに対する負荷に応じて課金すべきであるが、一審被告の「システム利用料」は、システムに対する負荷はほとんど考慮されていない。
b システム利用料は、原判決も同Eにおいて認定するように、「売上げに対する従量制」である以上、実質的に商品代金の一部である。
 原判決は、一審被告が同Eにおいて「出店者と同等の利益」を得ていないと認定するが、極めて偏った見方である。出店者は、在庫リスク等を有するのに対し、そのようなリスクがない一審被告が、定額の基本出店料に加え、出店者の売上げの2ないし4%の利益を得られていること自体、一審被告は出店者に劣らない利益を得ているというべきである。
 そして、出店者の出店及び出品によってより多くの顧客を引きつけることにより、一審被告の運営に係るモールの集客力が上がり、これにより、同モールに出店している全出店者の総売上げが増大し、これによってさらに一審被告の収入が増大するという関係にある。
 なお、受益の有無に関し、「商品の代金の一部」や「出店者と同等の利益」を得る必要がないことは、ファイルローグ事件(東京地裁平成15年12月17日判決、東京高裁平成17年3月31日判決)に係る各裁判例からも明らかである。
 同事件の控訴審判決は、ダウンロードの対価ではないことが明らかなウェブサイトのバナー広告の広告料をもって、「控訴人会社は広告料という直接の利益を得ている」と認定し、さらに「利用者が増えれば、将来的には、サービスの有料化ないし広告媒体としての活用等により、本件サービスの商業的価値を増すことは明らかである」と判示した。
c このように一審被告の利益の有無を判断するに当たって、本件各商品の販売による損益が誰に帰属するか、誰の計算で本件各商品の販売が行われているかは、「主体」性の判断に直接関係しない。
(カ) 判示事項Fについて
 原判決は、同Fにおいて「顧客が楽天市場の各店舗で商品の注文手続を行った場合、被告のシステムから顧客宛てに『注文内容確認メール』が自動的に送信され、これと同時に、同内容の『注文内容確認メール』が当該店舗の出店者にも自動的に送信されるが、これらの送信は、機械的に自動的に行われているものであり、被告の意思決定や判断が介在しているものとはいえないこと」と判示するが、いずれも一審被告が売買の主体であることを示すものである。
 すなわち、出店者宛てに送信される「注文内容確認メール」は、顧客の購入の申込みの意思表示を売主である出店者に伝達するものであって、売買における必須の行為である。また、顧客の注文は、出店者宛てに、一審被告を介さずに送信するように構成することも考えられるが、一審被告は、出店者の売上げを漏れなく把握するために、あえて一審被告が「注文確認メール」を出店者に送信するようにシステムを設計したのであり、一審被告が当該売買の主体というべきであり、かつ、一審被告が当該売買から直接的な利益を上げていることを示す。
 また、前記(ウのとおり、一審被告から顧客へ送信される「注文内容確認メール」も、売買契約締結の際に広く当事者間でやり取りされる内容であり、一審被告の行為主体性を基礎付けるものであると同時に、一審被告の利益増大のために行われるものであり、当該売買から利益を得ていることを示すものである。
 しかも、このようなメールの送信が「機械的に自動的に」行われるのは、コスト(人件費、システム費等)削減及び迅速性を目的として、一審被告が予め送信することを決定し、これを行うためのシステムを設計し、構築した結果である。
(キ) 判示事項Gについて
 原判決は、同Gにおいて「被告の出店者に対するRMSの機能、ポイントシステム、アドバイス、コンサルティング等の提供等は、出店者の個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼすものとはいえない」と判示するが、誤りである。RMSの機能は、出店し、商品を出品するために必要な機能を有しており、RMSを用いなければ、出店も、商品の出品もできない。特に、個別の商品のページは、商品の展示それ自体であり、申込みの誘因であるから、「個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼすもの」である。
 ポイントシステムについては、代金の支払いにおいて、一審被告が、購入者に代わって支払うものであり、個別の売買契約に基づいて生じた支払義務を一審被告が履行するものである。
 そもそも、「個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼす」か否かが一審被告が利益を得ているか否かと直接関係ないことは、カラオケ事件最高裁判決(昭和63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁)の判旨からも明らかである。
(ク) 以上、要するに、原判決が挙げた@ないしGの理由は、一審被告の行為主体性を否定する根拠にはならない。
イ そして原判決は、一審原告の指摘した事実等を顧みることなく、一審被告の行為主体性を否定しているが、以下の点をも考慮すれば、一審被告の行為主体性は、より明らかである。
(ア) 本件各商品にかかる情報(ウェブページ)を保管し、検索し、顧客に提供し、顧客の申込みの誘因を行っているのは、一審被告である。本件各商品にかかる情報が一審被告のサーバが提供したものであることは、本件各商品のページのインターネット上の住所を示すURLが、
「http://item.rakuten.co.jp」又は「http://www.rakuten.co.jp」から始まることから明らかである(甲7〜20の右上部)。
 また、一審被告の検索機能は、楽天市場に出店者ないし出品された中から検索し、これを顧客に提供するものであり、あいまいな検索でも商品を探し出し、顧客が商品等を選択しやすいように表示する点において、グーグルやヤフー等の一般的な検索機能とは異なるものである。
(イ) 一審被告は、購入者の氏名住所等、購入者を特定できる情報及び商品の納入先にかかる情報、並びにクレジットカード情報を保管し、これを出店者に提供している。
(ウ) 顧客が申込みをする前には、必ず、いったん「買い物かご」に商品を入れるが、その情報は全て一審被告サーバに記憶される。顧客のコンピュータ画面上の表示は出店者ごとに分けて表示されているが、いずれも一審被告のサーバに保管され、顧客が買い物かごの内容を確認する際には、出店者が関与することなく、顧客の要望に応じて、一審被告のサーバに保管されている情報を、一審被告が顧客に送信する。各出店者のサイトにも買い物かごへのリンクがあるが、一審被告のサーバに保管されている情報を提供するためのものであって、出店者が保有する情報を提供するものではない。さらに、一審被告は、顧客の購入履歴も一括して保存している。
(エ) 個別の商品のページを含む出店者の全てのページ(甲7〜20)、買い物かごのページ(甲44、45)、購入手続の各ページ(甲46、47)、納品書(甲48〜52)に、常に一審被告の商標等の表示がある。しかも、買い物かご及び購入手続の各ページは、一審被告が管理運営し、どの出店者から購入するかにかかわらず同一のフォームのページであって(甲44〜48)、一見すると同じである。出店者は、入力されたデータを、一審被告が保有するデータと共に一審被告から受領するだけであり、納品書のフォームも統一されている。
 さらに、一審被告は、自己の名義で、「キャンペーンニュース」を送信し、商品の宣伝を行っている(甲43)。
(オ) 本件各商品の出店者は、他の多くの出店者と同様、無名であり、インターネット上に独自に自己のサイトを構築しても、それが顧客の目に触れる機会は極めて乏しい。しかし、楽天市場に出店することにより、楽天市場の検索機能により、あいまいな、あるいは関連する何らかのキーワードを入力するだけで、当該出店者ないし商品が検索結果として表示される。
 さらに、楽天市場に出店した出店者においては、一審被告の信用を背景に、顧客が安心して購入することができる。そのような信用をさらに高めるために、一審被告は、購入した商品が顧客に届かない場合に、その購入額を補償する「楽天あんしんショッピングサービス」(甲39〜42)を提供している。
 一審被告がこれらの支援を行うことにより、顧客は、初めて本件各商品を購入するに至るのであって、これらの一審被告の行為は、本件各商品の売買契約の締結に直接的影響を与えている。
(カ) 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)の「販売業者」についての経済産業省の解説(甲55)からすれば、特定商取引法は、「売買」における商品を販売する行為は、権利主体の変更のための意思表示のみをいうのではなく、その法律的効果をもたらすための一連の行為をいうことを前提としている。売買契約当事者ないし所有権移転及び引渡しの債権者・債務者のみを権利主体と解すべきではない。
 本件では、一審被告が自ら構築した楽天市場という仕組みの上で販売等が行われており、顧客の要望に応じて商品情報を検索し、顧客に送信し、顧客からの申込みの意思表示や納品先情報を受領して出店者に転送し、クレジットカード決済の場合には顧客からカード情報を受領してカード会社に送信して承認の手続を行うなど、総合して一つの販売を形成していると評価することができる。
(キ) 以上の事実等に鑑みれば、一審被告の行為主体性は、直接的に認められるべきである。
ウ さらに、管理及び受益の事実からも、規範的に、一審被告の行為主体性は肯定されるべきである。
エ 一審被告の行為主体性は、上記事情から直ちに認められるべきであるが、そうでないとしても、一審被告と出店者とは、相手方の資産や行為を自己のために利用するという、非常に強い相互利用関係にあるため、一審被告は、本件各商品の販売を出店者と共同で行っていると評価すべきである。
(4) 一審被告の行為は場の提供にとどまらない
ア 一審被告は、自らの行為を「中立的な『場』の提供者としてなされるサービスや便宜」とするが、例えば、売主の使者は、その行為だけに着目すれば、一方から受け取った意思表示を他方に伝えるものであるが、売主との関係を含め全体的に考察すれば、売主側の行為で中立的なものではない。売主であれば行う行為、あるいは売主のために売主に代わって行う行為は、一審被告が、出店者と共に、あるいは出店者を介して、販売を行っていることを基礎付けるものである。
イ 一審被告は、楽天市場が、その個々の機能についてみれば、既存の他のサービスと類似すること等を根拠に、場を提供したにすぎず、売主と評価されるべきではない、あるいは差止めの対象となるものではない等と主張するが、一審被告の行為は、以下のとおり、一般的なショッピングモールやインターネット上のサービスと同列に論じられるようなものではない。
(ア) ショッピングモールとの相違
 一審被告は、いわゆるショッピングモールと異なり、顧客への具体的な売買等に関与している。一般的なモールはテナントの具体的な売買等に関係しておらず、出店者の売買等に関する商標権侵害の責任を負わないかも知れないが、楽天市場における一審被告は異なっている。
(イ) ホスティングサービスとの比較
 サーバの一部の領域を貸し出すホスティングサービスでは、ホスティングサービスを使用するか否か、使用するとしてどのホスティングサービスを使用するかはもちろんのこと、どのようにホスティングサービスを利用するか、自己のウェブサイトの構成をどのようにするか、いかなるURLを使用するかは、いずれもユーザが自由に決定できる。
 これに対し、一審被告は、全ての情報を一審被告の指定するサーバに保存することを求め、しかも、ウェブサイトないしウェブページは一審被告が定める規格に従って作成することが求められ、URLも指定されたものを使用しなければならず、出店者には、他のホスティングサービスを利用する選択肢は一切ない。
(ウ) 検索サービスとの比較
 一審被告の検索サービスは、全ての商品情報を「甲(一審被告)の定める規格」に従って一審被告のサーバに保管し、その商品情報についてのみ検索している。これにより、@楽天市場で販売されている全ての商品を網羅し、かつ、楽天市場以外の商品を含まず、Aカテゴリー別検索を可能とし、B写真、価格、消費税や送料について込み又は別の区別、カード等の利用可能の有無等を一覧表にして、ユーザが比較しやすい検索結果を提供でき、楽天市場を一つの店として顧客が便利に買い物をすることができるようになっている。
(エ) 通信事業者等との比較
 通信事業者、郵便事業者は様々な通信、親書を取り扱っており、その内容を積極的に知ろうとしなければ、自己の取り扱っている当該通信、親書の内容を知らない。そして、売主及び買主は、いずれの通信方法ないし通信事業者を使うかについて、完全に自由である。
 これに対し、一審被告の運営する楽天市場の場合、一審被告が提供する購入のページ以外から購入を申し込むことはできず(甲22)、出店者は、必ず一審被告を介して購入の申込みを伝えてもらうことになる。顧客や出店者が、一審被告を介さずに、任意の通信方法、通信事業者を用いて購入申込みの意思表示を授受することはできない。また、一審被告は、購入ページに入力され、出店者に送信される情報に基づいて、出店者の売上げを集計し、システム利用料を一審原告に請求するのであり、当該通信内容を積極的に取得している。
 したがって、顧客の購入の申込みの意思表示等を一審被告が伝達する行為について、「伝達」という機能だけに着目して、一般の通信事業者や郵便事業者と同等に扱うことはできない。
(オ) 一審被告のシステム利用料
a 一審被告は、楽天市場における一審被告の手数料はリアルショッピングモールの賃貸借契約における賃料の歩率に近く、むしろさらに低いのであって、販売者としての責任を負うことを前提にしたマージン率とはいえないと主張するが、不動産を取得し開発するのに莫大な費用を要し、固定資産税を負担し、更に朽廃等の問題もあるリアルショッピングモールと、これらの負担その他物理的な制約がなく拡張や縮小が極めて容易なバーチャルのインターネットモールについて手数料率等を単純に比較することは誤りである。
 なお、ホスティングサービスや通信事業者であれば、その事業者に支払うべき対価は、レンタル領域の容量ないし通信データ量に基づく従量制であり、売上げに比例することはありえず、しかも、絶対額としてもより少ない金額となるはずである。
b 一審被告は、「例えば店舗の賃貸者である不動産業者は、得てして売上げ歩合賃料での契約を締結していることが多いが、一審原告の論法によれば、このような事案における不動産業者は、当該店舗で販売される商標権侵害品の譲渡主体ということになる」と主張するが、一審原告は、利益を得ているだけであるいは第三者による商標権侵害行為に条件関係を有するだけで商標権侵害が成立すると主張するものでなく、失当である。一審原告は、一審被告のサービスないし行為を全体としてみれば、一審被告の展示、販売行為が本件商標権を侵害する「客観的に違法」な行為であると主張しているのである。
ウ 一審被告提供のサービスの一部を構成する機能を個別に取り出して、第三者の提供する一般的サービスと比較するのは不適切である
 一審被告のサービスは、複数の機能が有機的・一体的に構築されており、これらが結合して一体として出店者のためにサービスを提供するものであり、個々の機能のみを取り出して他のサービスと比較することは意味がない。
(5) 諸外国の判決等
ア 米国、欧州においては、商標権侵害物品がオークションサイトにおいて出品され、販売されたことについて、商標権者によるオークションサイトの運営者に対するいくつかの訴訟が提起されている。
 オークションにおいては、出品者とオークションサイトの運営者との間の関係は、出店契約が締結され継続的な関係が存在する本件の一審被告と出店者の関係とは異なり、およそ一時的なもので、オークションサイトの運営者はまさに単に場を貸しているだけで、もちろん所有権は出品者から顧客に移転するものである。しかしながら、これらオークションサイトの運営者に対する欧米の訴訟においては、どれだけ注意をすればオークションサイトの運営者は故意ないし過失の責任を免れるかが焦点であり、原判決のように、オークションサイトの運営者は売買の当事者でないからという形式的な理由で商標権者の訴えを認めなかったものは一つもない。
イ(ア) 米国第2巡回控訴裁判所のティファニー社対イーベイ社の判決(2010年4月1日判決)
 同判決は、イーベイ社の寄与侵害(Contributory Infringement)という責任に関する議論においてイーベイ社の責任を否定したものであり、イーベイ社の行為主体性を一切否定していない。
 同事案の事実関係の下では、イーベイ社が具体的な商標権侵害の事実を知らなかったことがやむを得ないとしても、本件において一審被告は、一審原告のような権利者から警告状が到達しても指摘された出店者に通知するほかには侵害品を排除するための何らの行為もしておらず、およそ事情が異なる。
(イ) 韓国
 韓国のソウル中央地方法院の2008年8月5日の判決(甲54の3及び4頁)の事案は、本件とほぼ同じで、商標権者が警告状を送付したところ当該事案についてはインターネットショッピングモールでの展示、販売が中止されたが、その後も同じ侵害品が出たために、商標権者が、インターネットショッピングモールの運営者に対して、訴訟を提起したというものである。裁判所は、商標権侵害の責任を認め、差止めについても幇助ではあるが、インターネットショッピングモールは商標権侵害行為を中止できる地位にあるということで認めている。
(ウ) フランス
a エルメス社対イーベイ社 トロア地方裁判所2008年6月4日判決
b ルイヴィトン社対イーベイ社 パリ商事裁判所2008年6月30日判決(商標権侵害ではなく、一般民事上の責任を認めたもの)
c フランスの上記2件の判決は、オークション出品者が出品した商品につき、商標権侵害か一般民事上の責任かの相違はあるものの、いずれも、イーベイ社(インターネットオークションの運営者)は単なるサービスプロバイダないし技術的な仲介者ではないとして、過失によって第三者に損害を与えた以上、その責任を負わなければならないとするものである。
(エ) ドイツ
a ロレックス社対リカルド社(ドイツ連邦通常裁判所2004年3月11日判決)
 本判決は、被告の運営するオークーションサイトにおいてロレックスの商標を付した侵害品が、侵害品であることを明示して販売された事案に関するものである。
 同判決は、被告がそのサイト上における第三者による明白な権利侵害に注意を引かれたときは、その特定の申出へのアクセスを遮断するだけでなく、被告は、そのような商標権侵害が可能な限り発生しないように保証もしなければならないと判示した。
b ロレックス社対イーベイ社 ドイツ連邦通常裁判所2007年4月19日判決
 同裁判所は、オークション出品者が侵害品の出品を阻止するために技術的に可能な手段を採ることを要請した。
c ストッケ社対イーベイ社 ハンザ高等裁判所2008年7月24日判決
 同判決は、イーベイ社が、侵害品の販売を防止するために、反応するだけではなく、積極的な手段を講じる必要があると説示し、さらに、イーベイのVeROプログラムは、この義務を果たすには不十分であると判断した。
d なお、一審被告は、上記bの事件がデュッセルドルフ高等裁判所に差し戻され、最終的にイーベイ社の責任が否定された(2009年2月24日判決)と主張するが、上記aないしcの判決で示された原則が否定されたものではなく、イーベイ社が、侵害品の出品を阻止するために技術的に可能な手段を採っていたことを理由とするものである。
(オ) ロレアル社対イーベイ社判決(英国高等法院2009年5月22日判決)
 同判決は、イーベイ社とオークションの出品者との共同不法行為を否定したものであり、イーベイ社の行為主体性については否定していない。
 なお、2004年4月29日付けEU指令(2004/48/EC)11条(第3文)は、EU加盟国に対し、第三者が仲介者のサービスを用いて知的財産権を侵害しているときに、権利者の当該仲介者に対する差止請求が認められるべきことを国内法で定めなければならないとする。ロレアル社は、同条項に基づいて、イーベイ社による侵害品のオークションの差止めを請求したところ、英国高等法院は、仲介者がウェブサイトの運営者である場合にも差止請求が認められるべきか否かについての判断を、欧州裁判所(ECJ:European Court of Justice)に求めた。
 これに対し、ECJは、後記(カ)のとおりの判断をした。
(カ) 欧州裁判所(ECJ)の事件番号C-324/09 における2011年7月14日判決(以下「ECJ判決」という。)
a オンライン市場において商標権侵害等の違法行為が行われたときに、いかなる場合に当該オンライン市場の運営者が当該商標権侵害等について責任を負うか、また、将来のオンライン市場における違法行為を抑止することを目的とするオンライン市場の運営者に対する差止めの是非について、欧州裁判所は、2011年(平成23年)7月14日、次の内容の判決(甲73)を下した。
b 一審被告の行為が2000/31/EC指令14条(1)の「ホスティング」に該当せず、同条項によって免責されるような行為ではないこと
 ECJは、オンライン市場の運営者が、問題になっている販売の申出の提示を最適化し、それらを促進することを伴う支援を提供するとき、積極的な任務を果たし、同条項による免責は受けられないと判断した。
 この点に関し、ECJは、さらに、「それに対し、運営者が、特に、問題になっている販売の申出の提示を最適化又はその申出の促進を伴う支援を提供した場合には、当該運営者は、関係する顧客−売り手と潜在的買い手の間における中立的な立場を採っているのではなく、これらの販売の申出に関するデータについての知識又は管理権限を当該運営者に持たせるような性質の、積極的役割を果たしているとみなさなければならない。」(段落116)と述べている。
 一審被告の出店者に対する様々な支援、特に、特定の店舗ないし商品を、その楽天市場のウェブページ上や電子メールに取り上げて宣伝している事実(甲43)、「ランキング市場」、「お買い物レビュー」、「商戦カレンダー」(甲24)などを通じて、顧客の購買意欲を高めるための活動を行っているという事実、そして各店舗及び商品が、楽天市場という市場の一要素を構成するという事実に鑑みれば、一審被告が、「関係する顧客−売り手と潜在的買い手の間における中立的な立場」にはなく、販売の申出に関するデータについての知識を持つような性質の積極的役割を有しているというべきである。
 なお、一審被告のように、個々の販売の情報をその都度把握して自己のコミッションを得るのは、催事場等で販売をさせて販売時点で消化仕入れあるいは売上仕入れを行う百貨店等と同じである。
 したがって、一審被告の行為は、「場」を提供しているようなものでは決してなく、商品を販売する楽天市場で運営するものであり、およそ欧州において免責が認められるような行為ではない。
c オンライン市場の運営者は同種の権利侵害を未然に防止するための措置を採るべき義務を負うこと
 2004/48/EC 指令11条3文は、各加盟国がオンライン市場の運営者は将来の同種の権利侵害を防止するための措置を採るべき義務を負うべきであることを明らかにしている。この措置は、オンライン市場でいったん違法行為が行われた場合、繰り返される可能性があるので、未然に阻止されなければならないという要請に基づいて、オンライン市場の運営者に求められる義務であり、オンライン市場を運営し、利益を得ている一審被告のような者には信義則上も当然に求められる。
 本件においては、本件各商品が楽天市場において販売され、それが繰り返されるおそれがあるから、一審被告に対し、楽天市場で本件各商品の販売ないし販売の申出がなされないようにし、また、掲載された場合には速やかにその除去等の必要な措置を採ることが求められる。
 なお、本件各商品について、検索により容易に抽出できることは、甲74及び甲75のとおりである。
d ECJ判決の判示事項5項
 一審被告は、オンライン市場の運営者はサイト上において売買される商品の使用者ではないとの判断(ECJ判決の判示事項5項)を引用するが、我が国では、後記(6)イ(エのヤフー判決にもみられるように、行為主体性は規範的に判断されるものであって、オンライン市場の運営者であるから当然に行為主体性が否定されるものでない。上記判示事項5項の考え方は、我が国における裁判例と明らかに矛盾するものであり、我が国において採用される余地はない。
ウ 上記諸外国の裁判例についての考察
 上記諸外国の裁判例に共通の価値判断は、オークションサイト等の有用性を認めつつも、そこで行われる侵害行為は看過できないことから、合理的に可能な限り侵害行為を抑止すべき義務を認め、そのサイト上で発生した違法行為に関してオークションサイト等の運営者に過失がある場合には、その責任を認めている。商標権侵害行為について合理的に抑止が可能であるにもかかわらず、ウェブサイトの運営者が当該侵害行為を阻止しない場合には、商標権侵害の共犯等として責任を負うことを当然の前提とし、ウェブサイトの運営者に対して商標権侵害、不法行為等の責任を負わせているのである。
(6) 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)及びインターネット上における名誉毀損等に関するサイト運営者の責任との関係
ア プロバイダ責任制限法は、特定電気通信役務提供者(以下「プロバイダ」という。)の責任を制限するものであり、同法3条1項各号に該当するとしても当然にプロバイダの責任が認められるものではないが、同条項においてプロバイダの責任が制限される場合を規定したということは、同条項の適用がない場合にはプロバイダは責任を負うことは当然との認識に基づくものである。そして、同条項は、プロバイダが侵害の事実を知っていた場合(1号)又は侵害行為を知り得べき場合(2号)にはプロバイダの責任が制限されることはないことを定めているのであり、これらの場合に責任を負うべきとする前記(5)の外国の裁判例と方向性を同じくするものである。
 なお、同法に基づく責任制限は、「特定電気通信役務提供者」、すなわち「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者」(同法2条3号)に対して認められるものである。これに対し、一審被告は、単に他人の「通信」を媒介するにとどまらず、出店者を、一審被告の運営する楽天市場内の店舗であって、楽天市場を構成する店舗として扱い、顧客にはそのように紹介し、出店者が一審被告サーバにアップした商品データは、楽天市場を構成する商品として扱い、需要者に送信する。つまり、一審被告の行う商品データにかかる通信は、一審被告自身の通信であり、「他人の通信」ではない。
イ 一審被告は、自らがプロバイダ責任制限法上の「特定電気通信役務提供者」に該当し、場を提供するものにすぎず、その場における取引について極めて限定的な責任しか負わない旨主張するが、誤りである。
(ア) まず、一審被告のサービスは、インターネットへの接続や純粋に情報を転送することを目的とするインターネットサービスではない。また、サーバを管理、運営し、そこにコンテンツを保管し、ユーザからの要求に応じてこれらの情報を送信するサービス(ストレージサービス)は、一審被告により構築された楽天市場というサービスとは全く異なる。
 一審被告が楽天市場において行っているサービスにおいては、一審被告の管理するサーバにおいて、一審被告の定める形式で出店者から商品情報を受領し、当該情報を保管し、顧客に当該情報を提供するとともに、顧客への商品情報の提供において電子買い物かごを用意し、そこで購入フォームに入力させ、商品購入情報を取得して当該情報を保管し、楽天市場内の出店者に対して送信しているのであり、その行為は、およそストレージサービスの域を超えたものである。かかる行為は、販売者と契約している取次者が当該販売者の商品の広告を顧客に対して行い、電話を通じて聞き取った顧客からの注文を書き取り、これを販売者にFAXするようなものである。
 楽天市場の運営者である一審被告が、市場内に仮想店舗を出店する出店者を積極的に募集し、様々な面でサポートしており、それにより出店者が市場に提供する商品数を増やし、店舗数及び商品数の多さを楽天市場の特徴として宣伝していること、特定の店舗ないし商品を取り上げ、楽天市場内のウェブページ上や電子メールにおいて宣伝していること(甲43)、「ランキング市場」、「お買い物レビュー」、「商戦カレンダー」(甲24)などを通じて、顧客の購買意欲を高めるための活動を一審被告が行っていることなども、ストレージサービスとは相容れない行為である。
(イ) かかる行為は、「他人の通信を媒介」(プロバイダ責任制限法2条3号)ではなく、取引の媒介とでもいうべき行為である。
  しかも、顧客が指定した商品についての購入フォームの同顧客への送信、顧客により入力された情報の一審被告への送信、一審被告から顧客への確認メールの送信、一審被告から出店者への注文内容の送信は、いずれも1対1の通信であり、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)ではない(乙18)。
したがって、楽天市場という市場機能を担う部分において、一審被告は、「特定電気通信」を行う「特定電気通信役務提供者」ではなく、一審被告につき、プロバイダ責任制限法に基づいてその責任を否定する根拠はない。
(ウ) コンテンツプロバイダにおけるコンテンツ提供行為がプロバイダ責任制限法による免責の対象とならないことは、「そのほとんどの場合は自らの情報を発信しているのであり、『発信者』に該当するものと考えられる。」ことにも求められる(乙18、6頁8行以下参照)。
 すなわち、楽天市場に関する一審被告の前記各行為及び出店に対する定額の「基本出店料」及び販売に対する従量制の「システム利用料」を徴収している事実に鑑みれば、楽天市場内の出店者及び商品は、いずれも、一審被告自身のコンテンツとして発信するものであって、一審被告の行為は「場」を提供するにとどまるものではない。
 この点に関連し、知財高裁平成21年(ネ)第10078号事件(平成22年9月8日判決、判例時報2115号102頁)は、動画投稿サービスを管理する会社が、ユーザの投稿により提供された情報(動画)を「電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記憶媒体又は当該特定電気通信設備の送信」に該当するサーバに「記録又は入力した」と認定した。
 同判断は、同事件の控訴人(動画投稿サービスを管理する会社)がユーザによる動画ファイルの投稿及びユーザによるダウンロードを誘引、招来していること、これによって利益(広告収入)を得ていることに基づいて「発信者」性を認めるもので、行為主体性及び「発信者」性が極めて規範的判断であることを明らかにするものである。
 この点、本件では、出店者による店舗及び商品情報は、前記のとおり、楽天市場の不可欠の要素であること、楽天市場への出店、出品(情報の掲載)を誘引していること、これによって直接的な利益を得ていることに鑑みれば、一審被告は、楽天市場の店舗及び商品に対して、同事件の動画投稿サイトの管理会社よりもはるかに強い関与をしており、「発信者」とみなされる。
(エ) ところで、いわゆるロス疑惑の容疑者としてサイパンで身柄拘束され、留置場で自殺したB氏の遺族が、ヤフー社に掲載された産経新聞の記事及び写真により精神的苦痛を受けたとして両者に対し損害賠償を求めた事案において、裁判所は、写真を掲載したことによる精神的苦痛について産経新聞に不法行為を認め、ヤフー社については共同不法行為責任を肯定した(東京地裁平成22年(ワ)第5613号、平成23年6月15日判決、以下「ヤフー判決」という。)。
 同事件では、いわゆる「プロバイダ」であるヤフー社について、プロバイダ責任制限法上の責任制限は全く議論されていない。これは、ヤフー社も裁判所も、ヤフー社が「特定電気通信役務提供者」には該当しないこと、あるいは、少なくとも、同事件においてプロバイダ責任制限法に基づく責任制限が認められる余地がないことを認めるものである。
 本件においては、楽天市場の仮想店舗及び商品は、楽天市場の一部を構成するもので、一審被告はこれを楽天市場の一部として利用するものであり、これについて、プロバイダ責任制限法上の責任制限は認められるべきではない。
 なお、上記事案では、情報提供者が選択し、入稿したデータは、ヤフー社の選択、確認を経ることなく自動的にヤフー社のサイトにおいて、「ヤフーニュース」として公開されるものであり、かかる構成は、一審被告における商品の展示と全く同じである。そして、ヤフー判決では、情報提供者が入稿した記事の内容について、一審被告の主張するところの「認識可能性」がないにもかかわらず、その行為主体性が認められている。
 したがって、一審被告は、楽天市場の商品につき、少なくとも展示を行った主体と解されるべきである。
 ヤフー事件における写真の掲載が「相当性を欠く」か否かは一義的に決定されるものではない上に、遺族が掲載に同意している可能性や、遺族が全て死亡している可能性などを考慮すれば、遺族感情が害されるか否かの判断は容易ではない。他方で、本件において、商標権者が、事実でない場合には不正競争防止法上の責任が生ずる可能性をも認識して通知したという事実に鑑みれば、当該商品の展示販売が商標権を侵害することは「通常人であれば当然看取し得るような」ものというべきである。
ウ インターネット上の掲示板サイト2ちゃんねるの運営者に同サイト上の書込みの削除義務があるか争われた事件(動物病院事件(東京高裁平成14年12月25日判決)、女流雀士事件(東京地裁平成15年6月25日判決)他)においては、名誉毀損又は侮辱に該当する書込みについて、同サイトの運営者に対して書込みの削除命令が認められ、かつ、削除義務違反を理由とする損害賠償請求も認められた。
 なお、2ちゃんねるの各事件については、書込みをした者の特定が極めて困難であることから特別ではないかとの疑問も呈される可能性があるが、産能大学事件(東京地裁平成20年10月1日判決)は、書込みをした者の特定の困難性については全く触れることなく掲示板運営者の削除義務を認めている。以上のとおり、自ら書込みをした者ではないことを理由に当然に運営者の削除義務が否定され、また、当該書込みを削除しないことを理由とする不法行為に基づく損害賠償義務を否定されるものではないことは明らかである。
 したがって、商標権侵害事件においても、所有権者、あるいは売買契約の当事者でない者が、販売、展示等の商標権侵害行為について差止めの対象となり、また損害賠償責任を負うことは当然である。
(7) 新たな侵害行為
ア Dream ClosetことC
 Dream ClosetことCは、2010年(平成22年)3月24日に「Dream Closet」と称する仮想店舗を楽天市場に開店し(甲57の1)、その後、本件標章2の付された本件商品2(帽子)の展示を開始した。同人は、本件訴状の送達日(平成21年10月20日)以降、少なくとも平成22年7月30日ころ及び同年8月30日ころに、本件商品2を合計2個(各1380円、合計2760円)販売した(甲57の2)。また、本件商品2の展示は、少なくとも、平成22年7月30日から平成23年4月8日までの間、継続して行われた。
イ キャンディタワーことD
 キャンディタワーことDは、楽天市場において本件標章3の付された本件商品3(携帯ストラップ)の展示を行い、少なくとも平成22年10月16日ころ及び同年12月27日ころ、本件商品3を12個(6個で1セット1200円の商品を2セット、合計2400円)販売した(甲58)。本件商品3の展示は、少なくとも平成21年1月30日(甲58)から平成23年4月8日までの間、継続して行われていた。
ウ 有限会社愛来夢
 有限会社愛来夢は、平成23年4月8日ころまで(本件標章3の付された)本件商品3(携帯ストラップ)の展示を行った。同社がいつから本件商品3の展示を開始したかは必ずしも明らかではないが、6色中5色が売り切れ、残りの1色も在庫が1個しかないこと(甲59)に鑑みれば、相当長期間展示していたことは明らかであり、本訴の訴状送達(平成21年10月20日)以前から展示していたと推測される。
エ 株式会社なかや
 株式会社なかやは、平成23年4月8日ころまで、本件標章5の付された本件商品5(マグカップ)の展示を行った。同社がいつから本件商品5の展示を開始したかは必ずしも明らかではないが、ピンク、オレンジ、水色の全てが売り切れていること(甲60〜62)に鑑みれば、相当長期間展示していたことは明らかであり、本訴の訴状送達(平成21年10月20日)以前から展示していたと推測される。
(8) 差止請求権の存在についての主張の補完
 商標権侵害及び不正競争防止法違反行為の差止めを求めるためには、行為者に故意過失は必要ない(商標法36条、不正競争防止法4条)。
 そして、一審被告は、本件の訴状が送達され、本件各商品が侵害品であるとの認識を有するに至ったにもかかわらず、本件各商品の展示及び販売を阻止すべき義務を否定し、確信犯的に本件各商標権の使用を継続し、又は作為義務違反を継続したものであり、今後も本件各商標権を侵害し、あるいは作為義務に違反するおそれが極めて高い。
 したがって、一審被告に対し、本件各商品の展示、販売につき差止命令が認められるべきである。
 なお、一審被告は、「楽天市場に新たに出品される同様の商品」について、別途先使用権が成立する可能性がある等主張するが、出店者等に確認すればすむ。
 また、一審原告は、抽象的に一審原告の商標権を侵害する物品の展示、販売の差止めを求めるのではなく、本訴において商標権侵害品と判断された特定の物についてのウェブページの削除、アクセス禁止、販売禁止等を求めるものであるから、一審被告の反論は当たらない。
(9) 損害賠償義務についての主張の補完
ア 本件では、一審原告が一審被告に対し、本訴の訴状において、商品を特定した上で本件各商品の譲渡及び譲渡のための展示等が一審原告の商標権を侵害する旨を告知することにより、一審被告は本件各商品の譲渡等が一審原告の商標権を侵害することを認識するに至っている。したがって、以後、楽天市場において本件各商品が展示、販売等された場合には、当該販売等に関与することにより一審原告の商標権を侵害したことについて、損害賠償を含め責任を負うべきである。
イ 本件において、出品者が誰であっても本件各商品を販売等することにより商標権侵害が成立するのであり、一審原告は商品をもって侵害行為を特定したものであるから、一審原告が証拠として提出したウェブページにかかる出店者以外の者によって当該商品が販売等されていた場合であっても、当該商標権侵害について認識は可能であり、認識すべきであったというべきである。
 一審被告は、本件各商品情報を自己のサーバに保管し、顧客の求めに応じて検索し、提供することで楽天市場内に展示し、販売するものであって、本件各商品の存在について、規範的観点からも認識、把握していたことを否定できない。
 そして、楽天市場において本件各商品が展示販売されていることの認識があり、かつ、本件各商品が侵害品であるとの認識がある以上、楽天市場における本件各商品の展示販売等による商標権侵害行為についての認識があったと評価すべきこととなる。
ウ 仮に商標権侵害行為についての認識がないと評価されるとしても、本件各商品が侵害品であるとの認識を有するに至った以上、出店者が誰であるかにかかわらず、容易に本件各商品を検索し、抽出することができるのであるから、その展示、販売等による侵害行為を知りうる状況にあり、いずれにせよ商標権侵害について損害賠償を含めて責任を負うべきである。
エ 共同不法行為責任
(ア) 一審被告は、商標権侵害の場を提供するのみならず、楽天市場というインターネットモールを自ら設立し、運営し、本件各商品の譲渡及び譲渡のための展示に深く関与するものであり、かつ、これらのサービスの対価として商標権侵害行為によって生じた売上金の約2〜4%をシステム利用料名目で徴収している。そして、一審被告が侵害行為を発見した場合に、当該侵害行為を阻止することは、極めて容易である。
 また、プロバイダ責任制限法3条2項は、情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある場合などには、プロバイダが当該情報の送信を防止する措置を講じることによって情報の発信者に生じた損害についてプロバイダを免責するものであり、侵害品がインターネットを通じて拡散しないよう、適切な措置を講ずることを奨励するものである。
 このような事実関係及び法の趣旨の下では、一審被告は、条理上、楽天市場において本件各商品の販売等による商標権侵害が発生しないように、未然に防止すべき条理上の義務があり、この義務を怠って商標権侵害を惹起せしめた以上、少なくとも過失による幇助の共同不法行為責任に基づく損害賠償責任が認められるべきである。
(イ) 過失による幇助の共同不法行為責任に基づく損害賠償責任が認められた事案としては、ビデオメイツ事件(最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決・民集55巻2号185頁)を挙げることができる。
 同事件は、@カラオケ装置が著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置であること、A著作権侵害は犯罪行為であること、Bカラオケ装置のリース業者は、そのようなカラオケ装置を貸与することで利益を得ていること、Cカラオケ店経営者が著作物使用許諾契約を締結する率が必ずしも高くないことは公知の事実であって、カラオケリース業者としてはリース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結したこと等が確認できない限り、著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきであること、Dカラオケ装置のリース業者は著作権侵害回避のための措置を講ずることが可能であることを根拠に、カラオケのリース業者に、カラオケ店経営者による著作権侵害が行われることを未然に防止すべき注意義務を負うと判示した。
 要するに、@は結果発生の蓋然性、Aは結果の重大性、Bは受益、Cは予見可能性(予見義務)、Dは結果回避可能性を述べ、これらに基づいて結果回避義務を認めるものである。
 本件では、@とCにおいて状況が異なるものの、やはり一審被告に楽天市場内における本件各商品の展示、販売による本件各商標権侵害についての結果回避義務が認められるというべきである。
 すなわち、楽天市場において商標権侵害が行われる場合は多くないとはいえ、対面ではないというインターネットの性質上、商標権侵害行為に対するハードルは低く、認知できていないだけで現に何らかの商標権侵害が行われているであろうことは疑いの余地はない。そして、本件各商品については、現に楽天市場において展示、販売され、楽天市場内で商標権侵害が行われており、一審被告はその事実を認識したのであるから、楽天市場を運営し、そこから利益を受け取る一審被告には、楽天市場においてそのような侵害行為が再発しないような措置を講ずべきことが要請される。また、今後同一の商品が出品されて商標権侵害行為が行われる可能性は容易に予想できるし、その可能性も高い。
 カラオケ装置の場合、装置の管理支配はカラオケ店側に移転し、著作権侵害行為自体にリース会社が関与することはないのに対し、本件の場合、楽天市場を運営するサーバー及び楽天市場自体は一審被告の管理支配下にあり、かかるサーバーが顧客からの要請に応じて商品を検索し、商品情報を顧客に送信し、商品購入の申出を出店者に送信し、クレジットカードの承認を申請するなどして、楽天市場内での展示、商品の販売が行われる。また、楽天市場が一審被告の管理支配下にあるからこそ、出店者は、一審被告の信用を背景とする商売ができるのである。要するに、商標権侵害行為への関与の度合いは、カラオケ装置のリース業者よりも格段に大きい。
 さらに、本件各商品が侵害品であるとして特定されているのであり、他に紛らわしい商品は存在しないのであるから、フィルタリングを用いて自動的かつ容易に本件各商品を探し出すことができる。これは、「リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結したこと」を確認する作業よりも容易である。
 したがって、一審被告には、本件各商品が再び出店者によって展示され、販売されることによって商標権侵害が行われることを未然に防止すべき注意義務が認められるべきである。
(10) 損害額についての主張の整理
 一審被告は、上記のとおり訴状の送達日(平成21年10月20日)後に本件各商品を展示し、販売した。
 すなわち、一審原告が把握している限りでは、本件商品2(キャップ)が2個、合計2760円(1380円×2個、甲57の2)、本件商品3(携帯ストラップ)が12個、合計2400円(甲58)でそれぞれ販売されており、総額は5160円となる。
 一審原告が第三者に一審原告の商品表示の使用を許諾したとすれば、その料率は10%を下らない。したがって、一審原告が一審被告による本件各標章の使用に対し受けるべき金額は、上記販売額に10%を乗じた額である金516円であり、同額が一審原告の損害額となる(商標法38条3項)。また、一審原告は作為義務違反の不法行為によって同額の損害を被った。
 さらに、本件各標章は一審原告の商品表示と実質的に同一であること、長期間にわたり本件各商品の展示が継続されたこと、インターネットという性質上、また一審被告の会員数が6900万人であり、極めて多くの者の目に触れたであろうことに鑑みれば、上記商標権侵害行為により一審原告ないし一審原告の商標に対する信用が著しく毀損された。その損害を金銭的に評価すれば、100万円は下らない。
 さらに、一審原告は、一審被告の商標権侵害等により本件訴訟を提起せざるを得なくなり、弁護士費用の支出を余儀なくされた。その額は、少なくとも一審被告の侵害行為等による上記損害額の合計である100万0516円の10%であり、一審原告の弁護士費用相当損害額は10万0051円を下らない。
2 一審被告の当審における主張
(1) 楽天市場における一審被告の役割
ア 楽天市場における一審被告の役割は、出店者に対し、商品を出品し来集する顧客との取引を行い得る「場」を提供するものであり、各商品を出品するのはあくまでも各出店者である。一審被告は、楽天市場という出店者と顧客とが取引し得る「場」を提供し、取引が成立した場合にその場の利用料として手数料を得ているのである。
 一審原告は、楽天市場を百貨店や総合スーパー(以下、「百貨店等」という。)の運営するショッピングサイトと同様であると主張するが、楽天市場の仕組みは、以下に述べるとおり、百貨店等とは全く異なっている。
(ア) 楽天市場において、販売者は出店者である
 楽天市場においては、販売者は出店者であり、一審被告は、顧客が自らの求める商品を出品している出店者を検索し、当該出店者との取引を行い得るシステムを提供しているにすぎない。
 一方、百貨店等は、生産者及び卸業者等から商品を仕入れて自ら販売するものであり、顧客に対する関係で、まさに売買取引の当事者となる。
(イ) 売買契約成立のプロセス
 楽天市場において顧客から商品の注文があった場合、売買契約はあくまで顧客と出店者の間で、顧客が申し込み、出店者が承諾することにより成立する。楽天市場における売買契約成立のプロセスの詳細は、原判決第4の1(2)ウ(43頁〜45頁)において認定されている。
(ウ) 楽天市場における一審被告の手数料
 楽天市場における一審被告の手数料は、楽天市場において成立した売買契約の売上げの2〜4%であり、これは、リアルショッピングモールの賃貸借契約における賃料の歩率(売上げの5〜10%程度)に近く、むしろさらに低いのであって、販売者としての責任を負うことを前提にしたマージン率とはいえない。
(エ) 以上で述べた点からも、一審被告の業態は、百貨店等とは異なり、リアルショッピングモールの運営者と同様に、出店者に対して「場」を提供しているにすぎない。
イ 出店契約の際の審査
 一審被告は、出店者が楽天市場に新規出店する際に、被告規約に基づき一定の審査を行うが、あくまでも当該事業者が楽天市場という「場」を提供する相手としてふさわしいかどうかという観点からの審査である。
 まず、一審被告は、楽天市場への出店の申込みがあった場合、出店契約を締結するか否かの審査(規約2条)を行う。この審査は、上記のとおり楽天市場の出店者としてふさわしいか否かの審査であり、取扱商品については、取扱予定の商材の種類が禁止対象の商材に該当しないかという点を申告ベースで審査するにすぎない。この審査で問題がなければ、一審被告は当該出店希望者と出店契約を締結し、当該出店予定者のRMS(一審被告が出店者に対して提供する店舗運営のためのシステム。Rakuten Merchant Server の略)へのアクセスを認める。
 出店契約締結後、出店予定者は、RMSを用いて楽天市場に掲示するウェブページの作成を行った上で、当該ページ(「コンテンツ」)を一審被告に提出する。一審被告は、コンテンツをサンプリングした上で、当該ページについて、楽天市場にふさわしいか否かを審査し(規約6条3項)、問題がなければ、当該コンテンツを店舗ページに掲載して「出店」することを認める。この審査においても、商品については、あくまでもサンプリングしたコンテンツの中に、禁止対象の商材が含まれていないか否を審査しているにすぎない。
ウ 楽天市場における商品の出品
(ア) 商品の事前審査は行っていない
 出店希望者について、前記イの審査により出店が認められれば、出店者は、一審被告の事前承認を個別に得ることなく、各出店者が行う手続のみによって、自己の出店ページ上に自由に商品を掲載し、出品することができる。
 前記アのとおり、「楽天市場」のビジネスモデル上、商品を販売するのは出店者であり、店舗ページに商品を出品したり、出品した商品を削除したりするのもあくまで各出店者である。一審被告の役割は「場」を提供するものにすぎないから、そもそも一審被告は、楽天市場に商品を出品したり、出品された商品を削除したりする権限を有しない。
 システム上も、一審被告が楽天市場における特定の商品の出品を事前に差し止めることは不可能である。出店者による出品を事前に差し止めるシステムを構築することは、仮に試みるにしても、膨大なコストと時間を要し、かつ不完全なものにならざるを得ず、実際上は不可能である。
(イ) 出品された商品の事後的削除も困難である
 一審被告は、出店者が一審被告の出店規約等に違反したときは、出店者に対し、出店停止の措置をとることが規約上は可能である(規約21条)。ただし、この出店停止の措置は、一審被告のシステムにおいて、ある出店者の店舗ページ全体につき楽天市場への掲載を停止するものである。一審被告は、個別の商品についてのみの情報を閲覧停止としたり、削除したりする権限を有しておらず、システム上も個別の商品のみの削除をすることはできない。
 したがって、楽天市場のある店舗に商標権侵害品が出品されていることが判明した場合でも、一審被告として採りうる手段は、(i)出店者に連絡して自主的に当該商品の出品を停止させるか、そうでなければ(ii)当該出店者の店舗ページのウェブへの掲載を丸ごと停止すること、すなわち出店停止の措置によるしかない。
 出店停止の措置は、侵害品のみならず、当該出店者のありとあらゆる商品の販売を停止することになり、当該出店者に甚大な損害を与えることになる。一審被告が誤った判断により出店停止の措置を採った場合には、出店者に対して損害賠償義務を負いかねない。したがって、出店者が出店規約に違反しており、かつ、その違反が重大であることについて合理的な根拠を有しない限り、一審被告が出店停止の措置を採ることには著しい困難とリスクを伴うものである。
エ 小括
 楽天市場のビジネスモデル、そして楽天市場における一審被告の地位は、前記アないしウのとおりである。原判決は、かかる楽天市場のビジネスモデルを正確に認定した上で、本件各商品の「譲渡」ないし「譲渡のための展示」の主体は出店者であって、一審被告ではないと結論付けたのであり、原判決は正当である。
(2) 「商標の使用」でなくとも「商標の識別力を害する」行為であればおよそ商標権侵害であり、差止めの対象となるとの主張(一審原告の主張(1))に対し
 一審原告は、一審被告の行為が「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当せず、故に商標法2条3項の「使用」に該当しないとしても、「登録商標の識別力を害し、指定商品、指定役務の自他識別をできないようにする行為」は、いずれも商標権侵害として差止めの対象となると主張する。
 しかし、商標法36条により差止請求の対象とされているのは、「商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」である。
 商標権の侵害は、当然ながら、商標権者が専有する権利にかかる行為を行った者について成立する。しかるに、一審原告も認めるとおり、商標権者が専有している権利は、商標法25条により、「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利」とされている。そして、「登録商標の使用」は、商標法2条3項において、同項各号に掲げる「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」する行為等として限定列挙されている。 以上の商標法の定めからすれば、商標権侵害を理由とする差止請求の対象たる行為は、あくまでも「登録商標の使用」であり、本件では、商標法2条3項2号にいう「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」でなければならない。「登録商標の使用」に該当せずとも、「登録商標の識別力を害する」行為全てが「商標権侵害」となるとの一審原告の主張は、およそ商標法の条文の文言から乖離するものであり、実定法上の根拠を有しないものである。
 また、普通名称化という行為は登録商標の識別力を害する行為の一類型ではあるが、商標法改正時において、商標法36条の差止請求の対象外であるとの前提の下、法改正により差止請求の対象に含めるべきか否かが論じられたものの、普通名称化という行為の外延が不明確であるが故に、罪刑法定主義の見地から問題がある等の理由で、立法化が見送られた経緯がある。同経緯に照らしても、差止請求の対象につき「登録商標の使用」に限らないとする一審原告の主張は、現行商標法の解釈論として失当である。
(3) 「展示、販売の場の提供」がなければ各商品が展示、販売されることはなく、これにより「登録商標の出所表示機能が害され」たとの一審原告の主張に対し
 一審原告は、商標権侵害状態につき「展示、販売の場を提供」する等何らかの前提となる関与行為がなされている場合、当該関与行為を除去しさえすれば商標権侵害状態を除去する上で有効であるから、かかる関与行為一切が差止めの対象になると主張するものと解される。
 しかし、商標権侵害状態を除去するために有効となる行為の一切を商標権に基づく差止めの対象としてよいという主張は、明らかに暴論である。
 前記(2)のとおり、商標法は、商標権に基づく差止請求の対象につき、あくまでも、「登録商標の使用」という概念による枠を設けているのであって、侵害状態の除去に有効であればいかなる行為であっても差止対象となるわけでない。
 のみならず、仮に一審原告が主張するように、侵害状態の前提を形成している行為一切が差止請求の対象となるならば、例えば、商標権侵害品が販売されている店舗を賃貸している不動産事業者、商標権侵害品の売買成立のために必要な通信手段を提供している通信事業者、郵便事業者等は、全て、当該店舗賃貸や通信等サービスの提供を差し止めれば、売買を行い得なくなり、商標権侵害状態の除去を実現し得るのであるから、差止対象ということになってしまう。
 単に売買契約の成立によって受益する立場にあるインフラサービス提供者等にすぎない者についてまで、「商標権侵害」を認め、差止請求や不法行為による損害賠償請求の対象とすることは、実質的に、これらインフラサービス提供者等に対し「当該インフラを利用して成立するであろう売買契約における商品が商標権侵害を構成するか否かを検証すべき作為義務」を課するに等しいが、それでは、これらインフラサービス提供者等は、作為義務違反を問われるリスクを恐れ、もはや円滑にインフラサービスを提供することができなくなる。これらインフラサービスの提供者は、当該インフラを通じて成立するかもしれない売買契約等の個別の内容については、およそ法的責任を問われないが故にこそ、当該内容に関知せず、迅速かつ円滑にインフラサービスを提供することができるのである。一審原告の主張は、社会生活の基盤をなしているインフラの運営を、広範囲に激しく阻害する結果を招来するものである。
(4) 一審被告には、「楽天市場」に出品される商標権侵害品を事前に差し止めるべき作為義務はない
 前記(1)のとおり、楽天市場において、商品を出品したり削除したりするのは出店者であって、一審被告はその権限を有しないし、システム上も、個別の商品の出品は出店者のみで可能であるため、出店者による出品を事前に差し止めることは不可能である。
 にもかかわらず、一審原告は、一審被告が個別の商品の出品について事前審査を行わないことは一審被告の営業上の判断の結果にすぎず不当であり、一審被告において楽天市場の出品商品を審査し、商標権侵害品を排除すべきと主張する。すなわち、一審原告は、楽天市場に出品される商標権侵害品を事前に排除する作為義務を一審被告が負うべきと主張しているわけであるが、以下に述べる理由から、一審被告がこのような作為義務を負う理由はない。
ア 一審被告は、「楽天市場」に出品された商品が第三者の権利を侵害するか否かを判断することができない。すなわち、一審被告は、楽天市場の出店者に「場」を貸しているにすぎず、出品されている商品の仕入れ等に関与しているわけではなく、また当該商品の製造や仕入れ等についての情報も有していないから、楽天市場に出品された商品が第三者の権利を侵害するか否かを判断するに足りる情報を有しないのである。
 例えば、ブランド品や、本件で問題になっている「Chupa Chups」のような特定の表示が付された商品が出品されていたとしても、一審被告は、当該商品の製造や仕入れに関与していないため、当該商品が権利者から許諾を受けているか否か知る由もない。また、本件のように、我が国における使用開始から随分経過した後に商標権登録がなされたような場合には、先使用権が成立していることも考えられる。さらに、精巧に製造された偽造ブランド品と真正品とを見分ける能力は一審被告にはなく、おそらくそのような判断ができるのは、権利者自身か、権利者から十分な情報提供を受けたプロフェッショナルのみである。
 したがって、出品された商品が第三者の権利を侵害するか否かを一審被告が判断することは不可能であり、一審被告が楽天市場に出品される商品を「審査」して商標権侵害品を事前に排除することは不可能である。
 なお、一審原告は、楽天市場の検索機能において、適切なキーワードを選んで検索することにより、本件各商品を見つけ出すことは「いともたやすい」と主張するが、そもそも一審原告がこうした主張をすること自体が、一審原告の論理が破綻していることを示すものにほかならない。一審原告は、一審被告が「本件各商品について、検索により容易に抽出できる」というが、それは裏返せば、一審被告は「検索しなければ侵害品を発見できない」、すなわち「商品が楽天市場に出品された時点では、一審被告は当該商品が楽天市場に出品されていることを認識していない」ことを認めていることにほかならない。一審原告は、一審被告が商標権侵害の主体だというが、販売開始前に販売対象たる商品の存在を知らない販売主体(商標権侵害の主体)など、そもそも存在し得ない。
 また、実際問題としても、商品の内容、機能、特性等を知らない一審被告において、適切なキーワードを選択するのは容易ではない。
 なお、仮にパロディ商品についてまで権利侵害品として一審原告の主張するとおり一審被告が排除の当否について判断しなければならないとすれば、その探知の困難性はもちろん、さらに探知し得たとしても権利侵害の当否判断はあまりにも困難であり、一審被告にかかる過剰な困難を強いることになる。
イ 一方、一審原告は、本件各登録商標の権利者であるから、一審被告の「便利な」検索機能により商標権侵害品と疑われる商品を発見することができるであろうし、発見された商品が商標権侵害品か否かを判断できる。すなわち、一審原告が権利行使に熱心であれば、楽天市場において、例えば「chupa chups」というサーチワードで検索することにより、本件各登録商標を使った商品を探し、「楽天市場」において販売されている同商標を不当に付した商品を特定することは、困難ではない。そして、楽天市場に出店している各店舗は、特定商取引に関する法律11条及び同法施行規則8条に基づく「販売業者又は役務提供事業者」の表示として、事業所所在地、代表者名、電話番号等をウェブページ上に記載している。したがって、一審原告は、当該商品を販売する出店者、すなわち商標権の侵害者に対し、警告書を送付することも困難ではないし、電話や電子メールで連絡をしたり、現地に乗り込んで抗議したりすることも可能であり、最終手段として訴訟や仮処分を提起することもできる。
 また、現に、一審原告は、一審被告に対して本訴を提起する前の平成21年7月9日に、株式会社ライスフィールドに対して、自社のホームページにおいて一審原告の商標権を侵害する商品を展示、販売したとして、商品の譲渡、展示の差止め及び商品の廃棄、損害賠償の支払いを求めて訴訟提起し(東京地裁平成21年(ワ)第23652号事件)、同訴訟につき、平成22年9月10日に和解が成立している。
 このように、一審原告は、楽天市場に出店していない譲渡主体に対して、実際に直接権利行使を行い、実効的な解決をしており、楽天市場の出店者である譲渡主体について、同様の手段を採ることができない理由はない。
ウ 小括
 一審原告の主張は、出店者に対する権利行使が容易であるのに、商標権侵害品の探索、商標権侵害品であることの確認、商標権侵害状態の除去という、本来商標権者自らが行うべき措置を講じず、たまたま出店者が楽天市場に出店していることを奇貨として、一審被告に対し、商標権侵害状態を事前に除去せよと、およそ実行不能な行為、負担を求めるものである。
 一審原告の主張は、義務付けの均衡を著しく欠き、また一審被告に対し商標権侵害状態の除去を義務づけるべき合理的理由をも欠き、他方、一審被告に不可能を強いるものであり、およそ不当である。
(5) 一審被告に故意、過失はない
 特定の出店者が出品する特定の商品について、仮に商標権侵害の事実を確認できたとしても、他の出店者によるものを含め、楽天市場に新たに出品される同様の商品についても当然に商標権侵害が成立することにはならない(前記(4)ア参照)。したがって、特定の商標権侵害行為についての侵害事実の通知によって、その後新たに発生するであろう一切の商標権侵害疑義行為について、出店者を問わず、一審被告において「故意、又は過失」が認められるとの趣旨であれば、一審原告の主張は全く誤りである。
 また、前記(4)のとおり、一審被告には商標権侵害品を事前に審査して排除すべき作為義務はないから、過失が成立することもない。
 そもそも、一審被告が運営する楽天市場においては、出品物のほとんどは、商標権侵害品ではない。この点において、一審原告が援用するファイルローグ事件における交換ファイルとは、およそ性質を異にしており、楽天市場の運営自体が商標権侵害の蓋然性を高度に内在させているとはいえない。
 すなわち、一審被告においては、楽天市場の運営により、商標権侵害がなされるであろう高度の蓋然性についての認識もない。
(6) 出店者による展示及び販売が商標権侵害に該当するとする一審被告の主張に対し
 一審原告は、楽天市場の出店者による商品の展示、販売が、一審原告の商標権を侵害し、不正競争防止法違反に該当することについて、「両当事者間において争いのないところである」と主張するが、誤りである。
 一審被告は、原審から一貫して、出店者による商品の展示、販売が、一審原告の商標権を侵害するか否かについては、「不知」である旨答弁している。
 一審被告は、あくまでも、楽天市場という「場」、すなわちインフラを提供しているにすぎず、展示ないし販売される個別の商品の属性について、およそ知り得ない立場にある。
 他方、個別の商品が、第三者の商標権を侵害し、また不正競争防止法違反に該当しているか否かの評価判断は、ライセンス等の状況を管理している商標権者か、あるいは当該個別の商品を自ら製造し、仕入れた者でなければ、これを判断する上で必要なライセンスないし先使用権の成否等に関する情報を入手し得ず、故に評価判断をすることはできない。
 以上のとおり、一審被告は、楽天市場において出店者が展示している個別の商品が一審原告の商標権を侵害しているか否か等について、およそ「評価判断し得る立場」にはなく、その点に関する認否としては「不知」である。
 なお、一審原告による不正競争防止法上の主張については、周知ないし著名性の立証、周知ないし著名性獲得時期の立証が、未だなされていない。
(7) 一審被告が本件商品目録記載の商品の「譲渡主体」であるとの一審原告主張に対し
 一審原告は、原判決47頁以下で、一審被告の譲渡主体性及び出店者との共同主体性を否定する根拠として認定された判示事項@ないしGの事実につき、いずれも誤りであると主張するが、以下のとおり一審原告の主張に理由はない。
ア 判示事項@について
 まず、一審原告は、出店者がアップロードする個別の出品物について、一審被告がコンテンツの削除をすることが可能だと主張する。しかし、前記のとおり、楽天市場のビジネスモデル上、そもそも一審被告に個別の商品を出品したり削除したりする権限はなく、システム上も個別の商品を対象とする削除を一審被告において行い得ない。また、商標権侵害の有無について確認検証し得ぬうちに出店自体を停止すること、さらには、一部の出品物について商標権侵害が認められたとしても、当該出品がなされた事情について精査することもなく出店全体を停止することは、一審被告がリスクを背負うことになる点も、前記のとおりである。一審被告が個別の出品物について事前審査し商標権侵害品を排除する作為義務を負わないことも前記のとおりである。
イ 判示事項Aについて
 一審原告は、販売価格その他の販売条件が一審被告のサーバに格納され送信されている事実、出品物が一審被告のサーバを通じて検索し得る事実をもって、「一審被告が商品の展示を行い、かつ、申出の誘因を行っている。」と主張する。
 しかし、一審被告が、商品の内容、価格及び販売条件等の決定には一切関与していないにもかかわらず、商品について検索機能を提供しているという事実、出品されている商品の内容及び販売条件を「顧客に」自動送信しているとの事実のみをもって、「一審被告が商品の展示を行い、かつ、申出の誘因を行っている。」との結論に至る根拠は不明である。
 情報をサーバに保管するサービスは、いわゆるホスティングサービスを含め、多くの事業者が広く提供している一般的サービスである。また、楽天市場における検索機能は、ユーザーが打ち込んだキーワードに対して、予め設定された一般的かつ客観的な指標に基づき、機械的・自動的に検索した結果を表示するものにすぎず、一般に存在する検索エンジンと同等のサービスが提供されているにすぎない。様々な商品情報と検索機能を組み合わせて提供するサービスは、「価格.com」のような商品比較サイトも実施している。また、商品に関する売買契約締結に関する顧客と出店者間の通信を媒介することは、一審被告ならずとも、様々な通信事業者が媒介しているところである。
ウ 判示事項Bについて
 一審原告は、一審被告のシステムが、顧客の商品購入申込みを自動的に出店者に転送し、かつ出店者に転送したことを顧客に伝える点をもって、「売買契約の成立には欠かせない行為である。」、「売買の成立のみならず、当該顧客のその後の一審被告及び当該出店者における購入を促進するものである。」と主張する。
 しかし、売買契約の成立に関与する行為がなされたり、売買契約後の顧客の後の購入を促進したからといって、あくまでも売買契約の当事者たる「譲渡主体」となるわけではない。
 また、出店者及び顧客に対する「注文内容確認メール」は、一審被告のシステムにおいて自動的に送信されるものであって、一審原告は単に出店者と顧客の間で情報の伝達をしているにすぎず、一審被告の意思的関与は一切なされていない。
 そして、売買契約の当事者である顧客と出店者の双方のために、商品申込みに関する情報を自動送信する立場は、売主側でも買主側でもあり得ない。
 さらに、前記のとおり、売買契約が成立するためには、様々なインフラ(店舗を賃貸する不動産事業者、通信事業者、郵便事業者)が貢献しており、それらなくして売買契約は成立し得ないが、このような貢献を理由に、これら事業主体が、当該店舗でなされる売買契約の主体であると評価することはできない。
エ 判示事項Cについて
 一審原告は、(i)商品の発送に必要な情報が一審被告を経由して出店者に提供されること、(ii)クレジットカード情報が一審被告からクレジットカード会社に送信され、出店者に知らされないことを指摘し、特に、(iii)一審被告に会員登録していれば、顧客が住所等、クレジットカード番号等の入力の手間が省かれ、一審被告が出店者の集客力の向上を図っていると主張する。
 しかし、(i)については、一審被告がデータ処理システムをASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)として提供している以上、情報が一審被告を経由するのは当然のことである。また、(ii)については、セキュリティーの観点から、クレジットカード情報は極力限られた当事者にしか開示してほしくないという顧客側のニーズに基づく措置というべきである。そして、(iii)は、顧客の便宜のため、顧客の委託に基づき提供されているサービスであり、直接的には顧客のための支援であって、出店者のための支援ではない。
 このように、一審被告が顧客側に対するサービスを行っているという事実は、一審被告が、決して譲渡者と一体と評価することができない、まさに「場」というインフラの提供者としての一審被告の中立的な属性を示すものにほかならない。
オ 判示事項D及びEについて 一審原告は、一審被告のシステム利用料が出店者の売上げに応じて決ま
ることをもって、「出店者の出店及び販売により、個別の商品の売上げにかかる直接的利益にとどまらない大きな利益を得ている」と主張し、著作権に関するファイルローグ事件判決(同判決では、広告収入が著作権侵害主体性を認定する上で斟酌された。)を引いている。
 しかし、そもそも間接侵害規定のない著作権における裁判例を商標権侵害における事案に援用することは、不適切である。
 また、売上げに応じた受益といえば、例えば店舗の賃貸者である不動産業者は、得てして売上げ歩合賃料での契約を締結していることが多いが、一審原告の論法によれば、このような事案における不動産業者は、当該店舗で販売される商標権侵害品の譲渡主体ということになり、およそ荒唐無稽である。
 のみならず、ファイルローグ事件においては、電子ファイル交換サービスがMP3形式の電子ファイルの交換を実現することにより、「具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり」、かつ被告が「それを予想しつつ本件サービスを提供」していたという事実を認定した上で判決がなされている。他方で、楽天市場は、商標権侵害の温床ではなく、当然ながら、出品されている圧倒的大多数の商品は、何ら違法性を有しない商品である。したがって、楽天市場というシステムが「具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な商標権侵害行為を惹起する」ものではなく、それ故に、一審被告が「それを予想しつつサービスを提供」しているということもない。さらに、ファイルローグ事件は直接的な権利侵害者である権利侵害ファイルのアップロード者の特定及びこれらの者に対する責任追及が困難な事案であるのに対し、前記(4)イのとおり、「楽天市場」においては権利者が出店者を特定してその責任を追及するのは容易である。著作権と商標権の法制度の相違を措いても、ファイルローグ事件判決は、本件において先例的価値を有しない。
カ 判示事項Fについて
 出店者に対し発注者である顧客の申込みの意思表示を伝達する行為は、顧客の意思表示の発信を補助する行為である。かかる取次行為は、当該売買契約にかかる申込みの受領者たる「出店者」以外の者の行為でしかあり得ない。
 譲渡主体性の認定において、意思決定や判断の介在が問われる対象は、個別の売買契約の内容や諾否等においてであり、この点につき一審被告は全く関与していない。
キ 判示事項Gについて
 原判決は、RMS等が、あくまでも売買成立のためのインフラや売買の成立を容易化するための支援にすぎず、「売買契約の成否に直接影響を及ぼす」ものではない以上、かかるインフラ的関与等をもってしては、譲渡主体と認定することはできないという点を指摘したものである。一審原告は、RMS等が出店及び商品の出品に必須であることから、その提供は「個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼす」と主張するが、RMSが出店用のソフトウェアである以上、それがなければ出店も出品もできないのは当然のことである。
 また、一審原告は、ポイントシステムにつき、一審被告が購入者に代わって代金を支払うものであり、売買契約の義務を履行するものであるとするが、例えばプリペイドカードの発行者が、小売店における商品の販売主体と認められ、商標権侵害等について責任を負うものではないのと同様、一審被告も、本件において責任を負うものではない。
(8) 著作権法と商標法との関係
ア 著作権における著作権侵害主体の規範的拡張による保護法理を商標権についても援用することは、商標法の趣旨に反する
 著作権法においては、著作権侵害は、原則として直接的侵害行為に限定されている。それ故、いわゆる間接侵害等や「幇助的行為」に対しても差止等の救済を及ぼすためには、著作権侵害主体を規範的に拡張せざるを得ず、また、著作権法の趣旨として、「幇助的行為」に対する差止等の救済範囲を一定の範囲に限定するとの趣旨は明確ではなく、当該救済の是非は著作権侵害主体の規範的拡張に委ねられていると解し得る余地がある。
 しかし、商標法においては、いわゆる間接侵害等や「幇助的行為」として商標権等侵害とみなされる行為は、著作権法のように手当がないわけではなく、商標法37条に限定列挙されている。すなわち、商標法においては、商標の「使用」として商標法2条3項各号に定義されている行為及び商標法37条に限定列挙されている侵害みなし行為をもって差止請求等権利行使の対象とする旨が明示されており、故に、当該明示された範囲を超えて差止等の権利行使を認めることは、商標法があえて拡張的な保護範囲を明示的に画した趣旨を無視し、当該趣旨に反するというべきである。
イ(ア) ロクラクU判決(最高裁平成23年1月20日判決)及び最高裁平成23年1月18日第三小法廷判決(民集65巻1号121頁参照、以下「まねきTV判決」という。)は本件に対し直接的な先例的価値を有するものではない。
 ロクラクU判決において、「複製」主体性の議論は、「私的複製として著作権侵害を構成せざるものであるか、それとも私的複製には該当せず、著作権侵害を構成するものであるか」を決するための争点たる位置づけを与えられている。
 まねきTV判決も同様である。サービス提供者をして「送信可能化」、「公衆送信」主体と評価し得ないならば、サービス利用者によるコンテンツの私的利用にすぎないことになり、やはり「そもそも侵害が存在するのか否か」という議論である。
 すなわち、ロクラクU判決及びまねきTV判決は、著作権の直接侵害者の有無自体を問う先例であって、著作権の直接侵害者の存在を前提として、さらに幇助的行為者をどこまで権利行使対象に含め得るかという問題に関する先例ではなく、「侵害主体A(出店者)が存在するとの仮定を前提として、さらにB(一審被告)をも侵害主体と評価すべきか」を判断すべき本件において先例的価値を有するものではない。
(イ) また、ロクラクU判決及びまねきTV判決は、コンテンツの「入力」行為を根拠に著作権侵害主体性を認定した判例である。
 ロクラクU判決及びまねきTV判決は、その背景に「著作権者がコンテンツの対価たる収益を得る機会を奪われたと認めるべきか否か」という評価が存在し、この評価が判断の帰趨を決している。そして、ロクラクU判決及びまねきTV判決は、コンテンツを「仕入れ、移転する」行為と同等の意義を有している「入力」行為に着眼して、サービス提供者を複製主体、あるいは送信可能化ないし公衆送信主体と評価している。現に、ロクラクU判決においては、「入力」というコンテンツの「仕入れ」に相当する行為こそが主体性認定の根拠であって、これに満たない単に複製を容易にするための環境等インフラの整備のみでは、主体性を認定するに足りない旨述べている。
 翻って本件を検討するに、一審被告は、単に「場の提供」をするにとどまり、商標権侵害品とされる商品の「仕入れ」をしてはいない。
 そもそも、ロクラクU判決及びまねきTV判決の事案において、サービス提供者が管理、支配し、コンテンツの「入力」を行っていた「複製機器」(親機ロクラク)ないし「ベースステーション」は、100%著作権侵害のために使用されているが、一審被告が運営する楽天市場というインフラは、ほとんど適法な商品が流通するために利用されており、商標権侵害品の販売はレアケースである。
 すなわち、ロクラクU判決及びまねきTV判決が侵害主体認定の基礎に据えた、コンテンツの「入力」に相当する「枢要」な関与行為が、一審被告には存在せず、さらに、そもそも楽天市場は、商標権侵害を「容易にするための環境等を整備している」わけではない。したがって、ロクラクU判決及びまねきTV判決の示した法理により、単に「場の提供」をするにとどまり、商品の「仕入れ」に関与せざる一審被告をもって、「譲渡」等主体であるとの結論を導くために少なくとも必要と考えられる「枢要な行為」を決定的に欠いており、「譲渡」等主体と認定することが不可能である旨が露呈する。
(ウ) そして、商標権侵害については、侵害の有無の判別がテレビ番組放送
 内容の著作権に比して著しく困難であるゆえに、商標権侵害主体性の認定は極めて慎重でなければならない。
 すなわち、テレビ局の番組放送内容については、著作権の存在及び帰属並びに複製や公衆送信等に関する抗弁の不存在は、一般的に明白である。この点、権利の存否及び帰属並びに抗弁の存否がにわかに判別し得ない商標権は、著作権とは様相を全く異にしている。つまり、コンテンツ(ないし商品)への関与者は、テレビ局の放送番組に関する著作権に関していえば、一見していかなる行為が誰の著作権を侵害するものであるのかが明白であるが、他方、商標権侵害疑義商品についていえば、いかなる行為が誰の商標権を侵害するものであるのか一見して明白ではない。
 故に、商標権侵害の主体性に関する議論においては、著作権におけるよりも、より当該商品について深くかつ高度な関与がなければ、商標権侵害行為の主体性を認めるべきではない。
(9) 特定商取引法との関係
 一審原告は、経済産業省の「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)」(甲55)における、「例えばリース提携販売のように、『契約を締結し物品や役務を提供する者』と『訪問して契約の締結について勧誘する者』など、一定の仕組みの上での複数の者による勧誘・販売等であるが、総合してみれば一つの訪問販売を形成していると認められるような場合には、これらの複数の者は、いずれも販売業者に該当する。」との記述をもって、一審被告を販売主体と評価できることの根拠の1つとして主張する。
 しかし、上記記述は、平成17年12月6日付けで経済産業省の通達「特定商取引に関する法律等の施行について」が改正された際に、同通達に追加されたところ、同改正は、当事横行していた悪質な電話機リース商法の被害者を救済することが目的であった(乙16の1)。提携型リース取引においては、本来の役務提供者はリース会社であるが、勧誘行為及び契約締結手続は専らサプライヤーが行うものであり、サプライヤーのリース契約への関与は極めて深い。
 上記記述にいう「一定の仕組みの上での複数の者による勧誘・販売等であるが、総合してみれば一つの訪問販売を形成していると認められるような場合」として、本来商品の販売又は役務の提供を行わない者が販売業者等と同視されるのは、このように販売業者等と同等の深い関与を行った場合を想定しているといえる。
 これに対し、本件では、一審被告は「楽天市場」という「場」ないしインフラを提供しているにすぎず、商品販売の勧誘及び売買契約の締結手続は販売者である出店者とユーザとの間で直接行われる。よって、「楽天市場」での商品販売について、特定商取引法上、一審被告が販売業者と評価されることはあり得ない。
 したがって、上記記述は、一審被告を販売主体と評価することの根拠とはならない。なお、上記記述の解釈は、特定商取引法の目的である消費者たる購入者の保護(同法1条)の観点から、同法の規制対象である販売業者又は役務提供業者の範囲を拡張するものであり、これがそのまま商標法上の侵害行為の主体の議論に当てはまるものでないことは、いうまでもない。
(10) 一審被告には商標権侵害に関する認識がなく、認識が可能でもない
 一審原告は、一審被告に対してある「商品」が侵害品であることを告知すれば、(i)一審被告は出品されている当該個別の商品に限らずその「商品」(例えば、同じ種類の商品全部)が侵害品であることを認識し又は認識すべきであり、(ii)その後同一商品を出店者(当該出店者に限らず、他の出店者も含む。)が出品すれば、その段階で一審被告には侵害についての認識が生じるか、少なくとも認識すべきである旨主張するものと解される。
 しかし、モール運営者にすぎない一審被告は、少なくとも「個別の具体的侵害行為に対する認識」、すなわち、特定の出店者が運営する店舗の特定のページ(URL)に掲載された特定の商品が権利侵害品であることの認識がない限り、何らの責任を負うことはない。
 一審原告は、その主張の根拠として、(1)外国の裁判例、(2)プロバイダ責任制限法、(3)インターネット上における名誉棄損等に関するサイト運営者の責任に関する裁判例を挙げているので、それぞれについて以下反論する。
ア 外国裁判例について
(ア) そもそも、商標権侵害についての法制度や救済制度が海外と我が国間では相違が大きいため、本件事案について、外国裁判例を参照することはほとんど意味をなさない。
 なお、米国及び英国等においては、オークションサイトであるイーベイ社につき、オークションサイト上における商標権侵害物品の販売に対する法的責任を否定する判例が主流である。
(イ) ネットマーケット等における商標権侵害に関する外国の裁判例について指摘すべきは、まず、これら裁判例において商標権侵害が争われているのは、ほとんどが「ティファニー」、「エルメス」、「ロレックス」、「ルイヴィトン」等、極めて著名なブランドであり、商標権の存在、その帰属主体、そして商標権者のライセンスポリシーが広く世間に知られたブランドばかりであり、かつ主としてデッドコピーというべき偽物商品たる商標権侵害品に関するネットマーケット等運営者の法的責任が問われた事案だという点である。この点、本件とは、事案を異にしている。
 2010年4月1日ティファニー高裁判決は、ティファニーのような極めて著名なブランドであるにもかかわらず、「特定の商品リストが現に商標権を侵害しており、あるいは将来において侵害するとの現実的な認識」がなければ、寄与侵害は成立しない旨判示し、イーベイ社の責任を否定した。当該判決に対する商標権者側の上告に対し、連邦最高裁判所は、2010年(平成22年)11月29日、上告を却下し、ティファニー高裁判決は確定した。
 つまり、米国判例は、「現実的かつ具体的な侵害の認識」なくして、寄与侵害の責任を問われることはない旨を明確にしており、これが、米国における現在の指導的裁判例である。
 また、一審原告は当該裁判例について、イーベイ社はオークションサイトで、特定物であり、また精巧なコピー品だから侵害の有無が判別困難なので、同社が現実的かつ具体的な侵害の事実を認識し得なかったとしても「やむを得ない」と主張する。しかるに、そもそも商標権の存否及び帰属は確認しなければ判然としない上、本件のように、極めて著名なブランドというわけではなく、必ずしもなじみのある標章ではなく、ブランドポリシー(ライセンスポリシー)や過去のライセンス活動の内容も不明であるため、並行輸入や先使用等の可能性が十分認められるという事案においては、特定物か否か、模倣が精巧であるか否かにかかわらず、侵害の有無を判別することが困難である。一審原告の主張を前提とした場合、本件における一審被告においても、やはり、個別の商品に関し、現実的かつ具体的な商標権侵害の事実について認識を欠いているとしても「やむを得ない」ということになる。
 英国においても、2009年(平成21年)5月22日ロレアル高等法院判決により、イーベイ社の責任は否定されている。少なくとも、ウェブサイト運営者に対する差止請求に関する国内法が制定されていない現状下において、イーベイ社の責任を認め得ない旨判示したものである。
 韓国の裁判例も、米国の上記裁判例と同様に、ウェブマーケット主催者の責任を認めるためには、少なくとも「現実的かつ具体的な侵害の事実」の認識が必須との判断を示している。さらにソウル高等法院は、2010年(平成22年)5月10日、偽造商品の販売等によるオープンマーケット上の商標権侵害行為につき、オープンマーケットの運営者には、これを事前に一般的、包括的に防止すべき法律上、条理上の積極的な作為義務は認め得ない旨の判決を下している(乙17)。
 ドイツ、フランスの裁判例においては、「エルメス」、「ルイヴィトン」のような極めて著名なブランドについて、侵害排除のためにある程度の技術的措置を講じることを求めたものが散見される。しかし、これら侵害排除のための技術的手段の程度に関する判示は一定していない。少なくとも明らかであるのは、一審原告が主張するように「排除し得なかったものについて、結果責任たる『譲渡』主体としての責任を負う」と判示したものはない。
(ウ) ECJ2011年(平成23年)7月14日判決(C-324/09)(甲73)(ECJ判決)は、楽天市場に出品される商品全てについて一審被告を譲渡主体と認めることはできないとの一審被告の主張を、明確に支持する内容の判決である。
a 一審原告は、ECJの判示事項の6項及び7項のみを引用している。しかし、判示事項5項は、EC指令89/104第5項(登録商標の保有者は、第三者による当該商標と同一又は類似の標章の「使用」を禁止する権限を有する等定めている。ECJ判決第12パラグラフ参照。)の解釈に関し、「オンライン市場の運営者は、そのサイト上に掲載される商品の売買に際し表示される登録商標と同一又は類似の標章について、(89/104EC指令第5条又は40/94EC規約第9条のいずれかの目的において)『使用』している者とは認められない。」と判示する。
 この判示事項5項こそは、「オンライン市場の運営者」はサイト上において売買される商品における標章の使用者ではない、つまり我が国商標法に即していえば、「譲渡主体」ではないと断じる内容である。
b さらに、一審原告は、その引用した判示事項6項についても重大な判示要素を意図的に欠落させ、意図的に曲解している。
 判示事項6は、2000/31EC指令第14条(1)(情報社会サービスにおけるサービスプロバイダの免責を定める規定。ECJ判決第12パラグラフ参照。)の解釈に関するものである。
 ここでは、まず、@免責規定は、侵害品の売買について「積極的役割」を果たしていないオンライン市場の運営者についてのみ適用されると解した上で(主体属性の限定)、さらにAオンライン市場の運営者が、@により免責規定の適用を受け得る主体であっても、当該運営者が、売買の違法性を具体的根拠に基づき認識し、それにもかかわらず2000/31EC指令第14条(1)(b)により求められている適切な措置を講じていない場合には、結局免責規定の適用を受けることができないとの解釈が示されている。
 まず、「積極的役割」(@)とは、「格納されたデータについて認識ないし支配してしまうような」ものとされている。ここで「認識ないし支配」と叙述されているが、後述のAにおいても要件として「認識」が掲げられており、@の「認識」を有しないがAの「認識」を有する主体が想定されていることを考えれば、@の「認識」は、Aの「認識」よりもさらに積極的かつ能動的な具体的認識ないし支配(当該売買について、特段の主体的あるいはこれに準じるような積極的かつ能動的関与により、売買の詳細について通暁ないし支配しているような場合)を意味していると解さざるを得ない。
 さらに、対象となる売買について、そこまでの主体的関与が認められない場合であっても、「勤勉かつ経済的にみて合理性を有する運営者であれば当該売買の申出が違法であることを当然認識する根拠となるであろう事実や事情を認識し、かつ、(違法と認識していたにもかかわらず)2000/31EC指令第14条(1)(b)に従って即座に対応することを懈怠した場合」には、やはり免責規定の適用を受けられないとする(A)。ここで重視されるべきは、運営者における経済合理性(economic)が斟酌されるべき要素とされている点である。これは、ある事実の認識に基づき当該売買が「違法」であるか否かの判断をするにつき、運営者自らが事実関係を調査したり、専門家の評価を依頼したり等、自らコストをかけてまで吟味する必要はない旨を含意すべく掲げられた要素と解される。
 本件では、一審被告は、出店者の個別の出品について関与しておらず、単に出品の場を提供しているにすぎない。すなわち、本件訴訟において対象となっている各売買の経過及び内容に通暁ないし支配しておらず(@)、また、並行輸入の問題や先使用権の成否等を踏まえれば商標権侵害の有無について断定し得ない以上(A)、判示事項6項の解釈に照らしてみた場合、一審被告は、2000/31EC指令第14条(1)により免責を受けるべき立場にあることになる。
c さらに、一審原告は、その引用した判示事項7項についても重大な判示要素を意図的に欠落させ、意図的に曲解している。
 判示事項7項は、2004/48EC指令第11条(知的財産権のエンフォースメントに関する規定。ECJ判決第19パラグラフ参照。)の解釈に関するものであり、加盟国に対する制度創設に関する指令の解釈にかかるものであって、「かかる差止めは、効果的であり、侵害の態様に比例的であり、また抑止的なものであるべきだが、正当な商取引を決して阻害するものであってはならない。」という厳しい条件が付されている。
 前述のとおり、「楽天市場」に出品されている商品の圧倒的多数は権利侵害品ではなく、正当な商品である。また、仮に一度侵害品を扱った出店者であっても、出品物全てが侵害品という例は極めてまれであり、主として正当な商品を扱っていることが通例である。このような「楽天市場」において、将来において侵害品のみの出品を阻止し得るような措置を講じることは、技術的にみて現状不可能であり、司法機関が不可能を強いることができないことは明白である。したがって、判示事項7項の観点で本件を評価したとしても、「楽天市場」において、現状正当な売買を阻害せずに侵害のみを抑止し得るような措置を講じることは不可能であり、故に、判示事項7項に基づき、一審被告が何らかの具体的措置を講じるべきとの結論は導かれない。
イ プロバイダ責任制限法について
(ア) 総論
 一審原告は、プロバイダ責任制限法3条1項について、同条項の適用がない場合には、プロバイダは責任を負うことは当然との認識に基づくものであり、したがって、プロバイダが侵害の事実を知っていた場合(1号)又は侵害行為を知り得べき場合(2号)には、プロバイダは責任を負うべきとするが、同条項の文言及び趣旨を無視した暴論である。
 同条項は「次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。」と規定しており、その趣旨も特定電気通信役務提供者(プロバイダ)の損害賠償責任の「制限」について規定するものと説明されている(乙18:総務省「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律−逐条解説−」、以下「総務省解説」という。)。すなわち、同条項は、1号又は2号に該当しない場合にはプロバイダが責任を負わないことを明確にするものであって、1号又は2号に該当するからといって、直ちにプロバイダが責任を負うことを規定するものではないし、そのような「認識」に基づくものでもない。
(イ) 情報の流通に関する認識
 まず、1号及び2号いずれについても、「情報の流通に関する認識」が必要であり、この認識が認められるのは、当該情報が流通しているという事実を現実に認識していた場合に限られる。
 この「情報の流通に関する認識」があったといえるためには、プロバイダが、サイトの特定の場所に特定の情報が掲載されていることを認識していることを要する。楽天市場でいえば、権利者からの告知等により、特定の出店者の店舗の特定のページにおいて、特定の商品が出品されていることを認識していることを要するということである。この点、一審原告は、権利者がプロバイダであるモール運営者に対してある種類の「商品」が侵害であることを告知すれば、以後、モール運営者は同一種類の「商品」が出品されれば、それについて認識が生ずるか、認識すべきとの立場と推測されるが、かかる解釈は、プロバイダに網羅的な監視義務を求めるものであり、プロバイダ責任制限法3条1項の趣旨に反する。
 プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、プロバイダ責任制限法を踏まえ、プロバイダ(主としてネットオークションやインターネットショッピングモールの運営者)が、商標権侵害を理由に情報の削除等を求められた場合に、責任を負わずに採ることのできる対応を明らかにする目的で、「プロバイダ責任制限法商標権関係ガイドライン」(乙19。以下「商標権ガイドライン」という。)を作成している。そして、商標権ガイドラインは、プロバイダが送信防止措置を採るか否かを検討する前提条件として、権利侵害を申し出る者にURLその他の侵害情報の特定を求めている。
(ウ) 権利侵害の認識
 「情報の流通に関する認識」が認められる場合でも、プロバイダが責 任を問われる可能性があるのは、「権利侵害の認識」という観点から、@当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(1号)か、又は、A当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(2号)に限られる。「認めるに足りる相当の理由」とは、通常の注意を払っていれば知ることができたと客観的に考えられることである。プロバイダに与えられた情報だけでは当該情報の流通に違法性があるのかどうかが分からず、権利侵害に該当するか否かについて十分な調査を要する場合は、「相当な理由があるとき」には該当しないものとされている(乙18)。商標権ガイドラインにおいても、「権利侵害の蓋然性が高く、ネットオークション事業者等が、他人の商標権が不当に侵害されていることを容易に判断できる情報を対象とすることが好ましい」として、「(1)ウェブページ上で現に表示されている商品に関する情報が真正品に係るものでないと判断できること」及び「(2)商標権侵害であることが判断できること」のいずれにも該当する商品の情報を送信防止措置の対象とすることとされている(乙19)。
 本件では、例えば「Chupa Chups」の商標を付した商品が楽天市場に出品されていたとしても、当該商品が正当な許諾を受けた商品であったり並行輸入品である可能性もあるし、先使用権が成立していることもあり得る。製造にも仕入れにも関与していない一審被告は、当該商品に違法性があるかを判断することができない。一審被告が、ある程度の判断ができるのは、(i)信頼できる権利者から合理的な根拠が提示された場合か、(ii)一審被告から出店者に照会し、出店者が権利関係を調査したところ、侵害品であることが確認された場合のいずれかであって、少なくともこのいずれかの時点までは、一審被告は「権利侵害の認識」がないし、認識できたと認めるに足りる相当の理由もないのである。
 なお、商標権侵害については侵害の有無の判別が困難である。
(エ) 一審被告がプロバイダに該当すること
 一審原告は、一審被告は楽天市場において、単に他人の「通信」を媒介するにとどまらず、「特定電気通信役務提供者」(プロバイダ責任制限法2条3号)、すなわちプロバイダには当たらないと主張する。一審原告は、一審被告がプロバイダではなく、「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)である旨主張するものと推測される。
 「発信者」とは、「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者」と定義されている。すなわち、情報を記録し又は入力した者が「発信者」なのである。そして、誰が情報を流通過程に置いた者に該当するかは、当該情報を流通過程に置く意思を有していた者が誰かということにかかわる。
 そして、「楽天市場」においては、商品は、出店者の意思に基づき、出店者が入力することにより出品されるのであって、一審被告は関与していない。一審原告は、一審被告の関与行為を縷々挙げるが、これらは、「場の提供」ないしそれを充実させるための付加的サービスにすぎない。
 したがって、プロバイダ責任制限法の観点からみても、一審被告は、商品の売買契約、売買取引の当事者である顧客と出店者との間で、商品の買に関する情報を配信しているにすぎず、一審被告の行為は、「情報の媒介」の域を出ないため、一審被告は「特定電気通信役務提供者」に該当する。
 なお、プロバイダ責任制限法3条1項は、プロバイダの損害賠償責任を制限するものではあるが、その趣旨は、プロバイダに網羅的に監視する義務はないことを明確化し、プロバイダに過大な負担を負わせることやサービスの委縮を防ぐというものであるから、プロバイダに対して一審原告が求めるような差止請求が認められないことの根拠にもなる。
 このほか、一審原告は、一審被告が提供する機能の中に、確認メールの送信等の1対1の通信を含むことをもって、一審被告の提供するサービスが「特定電気通信」に該当しないと主張する。確かに、ウェブサイトを運営するプロバイダは、顧客に対するサポートその他の目的で、多かれ少なかれ必然的に送信フォームや電子メールを通じた1対1の通信をせざるを得ないが、これによりプロバイダは「特定電気通信役務提供者」に該当しないということにはならない。
ウ 名誉棄損等の裁判例について
(ア) 一審原告は、インターネット上における名誉棄損等に関するサイト運営者の責任に関する裁判例において、インターネット上の掲示板運営者に対して投稿の削除義務が認められたものがあることを指摘し、商標権侵害事件においても、所有権者、あるいは売買契約の当事者でない者が、販売、展示等の商標権侵害行為について差止めの対象となり、また損害賠償責任を負うことの根拠として主張する。しかし、掲示板サイトの運営者もプロバイダ責任制限法にいう「特定電気通信役務提供者」すなわちプロバイダであって、掲示板に名誉毀損等に該当する投稿がなされた場合でも、@当該投稿によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(同法3条1項1号)、又は、A当該投稿がなされたことを知っていた場合であって当該投稿によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(2号)以外は責任を負わないという枠組みに変わりはない。
(イ) 一審原告が紹介した動物病院事件(東京高裁平成14年12月25日判決)及び女流雀士事件(東京地裁平成15年6月25日判決)は、いずれもインターネット上の掲示板サイト「2ちゃんねる」に関する事案である。「2ちゃんねる」では、IPアドレス等の接続情報を保存していないことなどから、被害を受けた者が発言者を特定してその責任を追及することが事実上不可能であるという特徴があり、これら裁判例においても、こうした事情がサイト運営者による削除義務を肯定する積極的根拠として摘示されている。
 しかし、「違法な情報の流通を知り又は知り得た場合には直ちに削除義務がある」として広く削除義務を認める基準を採用した判決の多くでは、匿名掲示板の管理者がアクセスログを保存しないことを宣言する等により、違法な書き込みを助長・促進していたことが、厳しい基準の根拠として認定されている。
 したがって、動物病院事件及び女流雀士事件の基準が、上記のような事情がない本件にそのまま適用されることはあり得ない。さらに、そのような動物病院事件及び女流雀士事件においても、原告は、対象となる投稿を個別具体的に特定した上で、警告書や訴状により管理者に告知しているのであって、こうした告知を受領した時点をもって、「情報の流通に関する認識」が認定されている。
 一審原告は、一審原告がある種類の「商品」を告知すれば、以後、その種類の商品が出品されたときは、一審被告が商標権侵害の情報流通を認識しており又は認識すべきであって、削除すべきとするが、同主張は、「2ちゃんねる」に適用される基準をもってしても到底認められない。
(ウ) また、一審原告の摘示する産能大学事件(東京地裁平成20年10月1日判決)は、掲示板の管理体制が、@第三者による投稿が自動的に公開される体制(通常の掲示板に見られる体制である)から、A管理者による投稿内容の確認を経て公開される体制に変更されたという特殊な事案であり、判決は、Aの体制に移行した後においてのみ掲示板運営者の削除義務を認めている。逆に、@の体制の下においては、管理者が多数の投稿を常時監視してその都度削除の要否を検討することは事実上不可能であるとして、掲示板運営者が削除義務を負うには少なくとも投稿を具体的に知ることが必要であるとされている。
 楽天市場においては、出店者が一審被告の個別審査を経ることなく自由に商品を出品することができるのであって、@の体制に準ずるものといえる。
(エ) また、都立大学事件(東京地裁平成11年9月24日判決)においては、サイトの管理者が、文書が名誉棄損に当たるかどうかの判断をすることは困難なことが多いことを指摘し、「ネットワークの管理者が名誉棄損文書が発信されていることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、右発信を妨げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉棄損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるというべきである。」と判示し、ネットワークの管理者の文書削除義務は否定されている。
(オ) 知財高裁平成22年9月28日判決(以下「動画投稿サービス判決」という。)について、一審原告は、動画投稿サービスを管理運営する会社が、ユーザの投稿により提供された情報(動画)を「電気通信役務提供者の用いる通信設備の記憶媒体又は当該特定電気通信設備の送信装置」に該当するサーバに「記録又は入力した」ものであると認定し、プロバイダ責任制限法2条の「発信者」に該当するとされた判決と評価し、一審被告も同様に「発信者」とみなされると主張する。
 しかし、動画投稿サービスと「楽天市場」には本質的な違いがあるから、動画投稿サービス判決の結論を本件に援用することはできない。
 第1に、動画投稿サービス判決においては、同サービスが「匿名」を前提とし、「投稿者がその責任を問われにくいシステムとなっている」こと等から、「著作権侵害の蓋然性が高いサービス」である点が重視され、そうである以上、「発信者としての責任を負うことになっても、プロバイダ責任制限法の趣旨を没却するものではない。」とされている。
 しかるに、前記のとおり、「楽天市場」に出店している各店舗には「匿名性」がないばかりか、むしろ権利者は容易に出店者の連絡先等の情報を知ることができ、権利者が商標権の侵害者である出店者に対して差止請求等の権利救済を求めることは容易である。
 また、「楽天市場」に出品されている商品の圧倒的多数は権利侵害品ではなく、「楽天市場」は、「本来的に他人の権利を侵害する蓋然性の極めて高いサービス」などではなく、動画投稿サービス判決の事案のサービスとは性質が異なる。
 第2に、動画投稿サービス判決は、サービス運営者の侵害主体性を認定した上で、「著作権侵害を生じさせた主体、すなわち当の本人というべき者である」ことから、「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)に該当すると認められているものであり、プロバイダ責任制限法における「発信者」の外延そのものを論ずるものではない。
 以上のとおり、本件と動画投稿サービス判決の事案は全く異なる上、著作権と異なり、商標法においては同法37条により間接侵害の保護範囲が明示されているため、本件で一審被告に侵害主体性を認める余地はない。
(カ) 東京地裁平成23年6月15日判決(ヤフー判決)は、@ヤフー社が、情報提供に関する契約に基づきヤフーニュース欄に新聞社から配信された写真を掲載したこと、A同写真は、亡夫の20年前の手錠姿の写真であり、「遺族の思い」を伝えるサイト記事欄のかなりの部分を占める大きさであったことを踏まえて、ヤフー社が「共同不法行為者」(写真の掲載行為者(単なる不法行為者)ではない)と評価された事案である。
 ヤフーニュース欄は、ヤフー社自身がニュースの配信主体として、他の新聞社等からニュース原稿を仕入れ、配信しているものであり、ヤフー社自身が当該コンテンツの配信主体であることにつき争いはない。また、掲載された内容は、「亡夫の20年前の手錠姿の写真」であり、「遺族の思い」という記事に照らして相当性を欠く写真であって、これにより遺族感情が害されることは、通常人であれば当然看取し得る内容である。
 すなわち、同コンテンツについてヤフー社の配信主体性は明白であり、同コンテンツの違法性についても容易に看取できる事案であった。
 他方、「楽天市場」においては、出店者自身が出品されている商品の販売主体であることが明示されており、また、「楽天市場」そのものは、インターネットショッピングモールにすぎない。
 さらに、本件訴訟のように、商標権侵害が問擬される事案においては、明白な遺族感情の侵害とは異なり、果たして権利者の主張するとおり権利侵害であるのか否か、抗弁の有無等を吟味しなければ、違法行為の存否を判断し得ない。このように、ヤフー判決は、本件訴訟の事案と前提事情があまりにも異なり、およそ先例として価値を有しない。
 また、判決をみる限り、同事件においては、そもそもヤフー社から、プロバイダ責任制限法の「特定電気通信役務提供者」として損害賠償責任の制限を受ける(プロバイダ責任制限法3条1号)との主張がなされておらず、裁判所としても、民事訴訟における弁論主義の原則から、その点について判断を行わないのが当然である。
(キ) このように、一審原告が、一審被告が「特定電気通信役務提供者」に該当しないことの根拠として主張する裁判例は、いずれも、一審原告の主張の根拠とはなり得ない。
エ 小括
 以上より、幇助的行為について商標権侵害が成立するには、少なくとも個別の販売主体による個別の販売行為についての認識が必要である。また、個別の販売主体による個別の販売行為について侵害の通知を受けた場合であっても、商標権の場合、許諾の有無、先使用、並行輸入など個別の事情を知ることができなければ権利侵害の有無を認識することはできない。楽天市場で販売されている商品について、商品の所有者でも売買の当事者でもない一審被告が権利侵害の認識を生じるのは、個別の出店者の個別のページに掲載された個別の商品について、権利者から侵害の通知を受領し、これを出店者に通知し、販売主体である出店者が権利侵害品であることを確認してその旨を一審被告に通知するか、出店者自ら商品を削除し、これを一審被告が確認した時点となる。
 したがって、「一審原告が証拠として提出したウェブページにかかる出店者以外の者によって当該商品が販売等されていた場合であっても、当該商標権侵害について認識は可能であり、認識すべきであった」という一審原告の主張は、一審被告に不可能を強いるものであり、不当である。
(11) 新たな侵害行為(当審における一審原告の主張(7))に対する認否
ア Dream ClosetことCが平成22年3月24日に楽天市場に「Dream Closet」を開店した事実、平成23年4月8日ころに楽天市場の「Dream Closet」に本件標章2の付された本件商品2が展示されていた事実は認め、その余は不知。
イ キャンデイタワーことDが、平成23年4月8日ころに本件標章3の付された本件商品3の展示を行っていた事実は認め、その余は不知。
ウ 有限会社愛来夢が平成23年4月8日ころに本件標章3の付された本件商品3の展示を行っていた事実は認め、その余は不知。
エ 株式会社なかやが平成23年4月8日ころに本件標章1の付された本件商品5の展示を行った事実は認め、その余は不知。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所は、原判決と同じく、一審原告の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 出店者による本件商標権の侵害
(1) 一審原告が前記第2.1記載のとおりの本件商標権1〜3(指定商品は原判決別紙原告商標目録(1)〜(3)の各「指定商品」のとおり)を有していることは、当事者間に争いがない。
(2) また、本件訴えが提起される前の平成21年8月10日当時、一審被告の運営する「楽天市場」に、@出店者である有限会社ティキティキカンパニーが本件標章1を付した本件商品1(乳幼児用よだれかけ)を、A同じく出店者である株式会社SHELBYが本件標章2を付した本件商品2(帽子)を、B同じく出店者である有限会社データリンクが本件標章3を付した本件商品3(携帯ストラップ)を、C同じく出店者である株式会社S・Gノンファクトリが本件標章4を付した本件商品4(ボストンバッグ)を、D同じく出店者である有限会社ティキティキカンパニーが本件標章1を付した本件商品5(マグカップ)を、E同じく出店者であるA(エムズストア)が本件標章1を付した本件商品6(ランチボックス)を、それぞれ販売のために展示していたことも、当事者間に争いがない。
(3) さらに、本件控訴審係属中の平成23年4月8日当時、一審被告の運営する楽天市場に、F出店者であるDream ClosetことCが本件標章2を付した本件商品2(帽子)を、G同じく出店者であるキャンディタワーことDが本件標章3を付した本件商品3(携帯ストラップ)を、H同じく出店者である有限会社愛来夢が本件標章3を付した本件商品3(携帯ストラップ)を、I同じく出店者である株式会社なかやが本件標章1を付した本件商品5(マグカップ)を、それぞれ販売のために展示していたことも、当事者間に争いがない。
(4) そして、本件商品1〜6に付された本件標章1〜4が前記第2.3(2)のとおり(原判決別紙標章目録(1)〜(4)参照)であることも当事者間に争いがないところ、本件商標権1〜3と本件標章1〜4の付された本件商品1〜6を対比すると、以下のとおりの検討により、本件標章1〜4及び本件商品1〜6は本件商標権1〜3の商標及び指定商品と類似すると認められるから、前記出店者による「楽天市場」への出店は、「商品・・・に標章を付したものを・・・譲渡若しくは引渡しのために展示した」(商標法2条3項2号)ものとして、一審原告の上記商標権を侵害することになる(同法37条)。
 すなわち、本件商標権1〜3の商標(本件商標)と本件標章1を比較すると、本件商標は黄色地の花柄風の輪郭の中に英文字で赤く「Chupa Chups」を二段に表記してなるものであり、その商標からは「チュッパチャプス」との称呼が生じるものであるところ、本件商品1・5・6に付された本件標章1も、黄色地の花柄風の輪郭の中に英文字で赤く「Chupa Chups」を二段に表記し、小さく記号を付したものであって、外観は本件商標とほぼ同一であり、称呼も同じく「チュッパ チャプス」と発音され、両者は類似すると認めるのが相当である。本件商標と本件標章2〜4も、ほぼ同様の理由により、類似と解される。
 また、本件商品1〜6は、以下のとおり本件商標権1〜3の指定商品(詳細は原判決別紙原告商標目録(1)〜(3)記載のとおり)と同一ないし類似すると認められる。
番号 対象商品 指定商品
1 本件商品1 (乳幼児用よだれかけ) 本件商標権1
(第25類)
寝巻き類, 下着, エプロン, 布製幼児用おしめ
2 本件商品2 (帽子) 本件商標権1
(第25類)
帽子
3 本件商品3 (携帯用ストラップ) 本件商標権2
(第9類)
電気通信機械器具
4 本件商品4 (ボストンバッグ) 本件商標権3
(第18類)
かばん類, 袋物
5 本件商品5 (マグカップ)
本件商品6 (ランチボックス)
本件商標3
(第21類)
食器類
(5) 小括
 以上の検討によれば、前記(2)(3)の@〜Iの各出店者が一審被告の運営する楽天市場に対してなした出品は、一審原告が権利者である本件商標権1〜3を侵害する「譲渡又は引渡しのための展示」に該当することになる。
2 一審被告による「楽天市場」の運営は一審原告の本件商標権侵害となるか
(1) 一審被告によるインターネットショッピングモールの運営
 証拠(甲21ないし23、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、一審被告による「楽天市場」の運営は次のとおりであったことが認められる。
ア 一審被告は、「http://www.rakuten.co.jp/」をトップページとするウェブサイト(被告サイト)において、「楽天市場」という名称で、複数の出店者から買物ができるインターネットショッピングモール(「楽天市場」)を運営している。
 楽天市場には、出店者の各々がウェブページ(出店ページ)を公開し、当該出店ページ上の「店舗」(仮想店舗)で商品を展示し、販売している。個々の出店者は、それぞれ特定のジャンルの限られた商品を取り扱っているが、楽天市場全体としてみたときには、膨大な種類の商品(3800万件余)が販売されている。
イ 一審被告は、楽天市場の出店申込者ないし出店の申込みを承諾した出店者との間で、「楽天市場出店規約」(被告規約、甲21)記載の契約関係を有している。被告規約の主なものは、次のとおりである(甲21)。
・「第1条(総則)
 本規約は、楽天株式会社(以下「甲」という)がインターネット上で運営するショッピングモール「楽天市場」(以下「モール」という)への「スタンダードプラン」および「メガショッププラン」での出店に関し、甲と出店申込者(以下「乙」という)との間の契約関係(以下「本契約」という)を定めるものである。」
・「第2条(出店の申込)
 1.乙は、モールにおいて物品の販売および役務の提供(以下「販売等」という)を行うこと(以下「出店」という)を希望する場合、甲所定の方法により申込を行わなければならない。
 2.甲は、前項の申込を承諾した場合、乙に対し、甲が管理するサーバ(以下「サーバ」という)内の乙の出店用のページ(以下「出店ページ」という)、販売等に必要となる甲所定のWebサイトの枠組みおよびデータベースシステム、ならびにモールおよび出店ページを構成するソフトウェアを、乙が本規約および甲乙間で適用される他の規約、ガイドラインその他の合意事項(以下あわせて「本規約等」という)に従って使用することを許諾する。(以下略)」
・「第6条(コンテンツの表示)
 1.乙は、出店ページ上に、甲の定める規格に従い、販売する商品ないし提供する役務(以下「商品等」という)についての情報等(以下「コンテンツ」という)をアカウント発行日から合理的期間内に制作する。
 2.乙は、前項のコンテンツの制作にあたり、次の事項を遵守する。
 (1) 第18条その他本規約等に反する表示をしないこと
 (2) わいせつ、グロテスクその他一般人が不快感を覚える表示をしないこと
 (3) 商品等に特定商取引に関する法律が適用されるか否かにかかわらず、同法11条および同法施行規則8条により表示を義務づけられた事項について表示すること
 (4) 前号のほか、以下の事項について表示すること
 ア.出店ページの管理責任者の氏名、電話番号および電子メールアドレス
 イ.営業時間、定休日等
 ウ.商品等についての問合わせおよび苦情は乙宛に行うべきこと
 エ.甲指定のユーザ店舗評価ポイント画面
 オ.その他甲所定の事項
 3.甲は、第1項の規程に基づき乙の制作したコンテンツにつき審査を行うものとし、そのコンテンツがモールにふさわしいと認めた場合には、当該コンテンツを利用した出店を許可し、その旨を乙に通知するとともに、当該出店ページをモール上に公開する。乙は当該通知を受領したときから、当該出店ページを利用して販売等を行うことができる。ただし、甲が最初の基本出店料の入金を確認できない場合はこの限りでない。
 4.乙は、出店後、第2項その他本規約等により認められる範囲内で、出店ページ上のコンテンツを改訂し、表示することができる。乙は、コンテンツについては、常に最新の情報をユーザに提供するよう、定期的に更新を行う。
 5.甲は、乙の作成したコンテンツがモールにふさわしくないと判断した場合には、その内容および表示を変更するよう求めることができ、乙はこれに従うものとする。(以下略)」
・「第7条(販売方法)
 1.乙は、出店ページを閲覧した者から商品等の注文・懸賞への応募・問い合わせ等その他出店ページの利用があった場合には、その者(以下「顧客」という)との間で、商品等の送付、代金の決済その他販売に必要な手続きを直接行う。
 2.乙は、顧客との代金決済手段としてクレジットカードを利用するときは、甲が別途定める「楽天市場クレジットカード決済規約」の定めに従うものとする。
 3.乙は、顧客に対し、取引の当事者は乙と顧客であり、販売等に伴う権利・義務は乙と当該顧客との間で発生することを明確に表示する。
 4.乙は、販売等を行うにあたり、特定商取引に関する法律、割賦販売法、不当景品および不当表示防止法、その他関係法令を遵守する。
 5.乙は、顧客との間で、商品等の不着、到着遅延、瑕疵その他の紛争が生じた場合、またはコンテンツに関し第三者との間で著作権、商標権等の知的財産権もしくは人格権等に関する紛争が生じた場合には、すべて乙の責任と負担において解決するものとする。また、甲が顧客その他の第三者に損害賠償等の支払を余儀なくされた場合には、乙はその全額を甲に支払うとともに、その解決のために要した弁護士費用その他一切の諸経費を甲に支払う。
 (以下略)」
・「第9条(著作権等)
 1.出店ページにかかる著作物については、甲が制作したものは甲が、乙が制作したものは乙が、それぞれ著作権を有する。
 2.乙は、乙以外の第三者が著作権を有する著作物を出店ページに掲載する場合、事前に当該第三者から当該著作物を甲および乙が使用することについて許諾を受けなければならない。
 3.乙は、甲に対し、前2項の乙または第三者の著作物について、甲がモールのプロモーションのため、楽天市場内または提携サイトからのハイパーリンク、楽天市場のOEM供給等、甲が妥当と判断する方法により無償で使用することを許諾する。」
・「第12条(基本出店料)
 1.乙は、甲に対し、基本出店料として別表(※ライトプラン特約、プレミアムライトプラン特約、がんばれ!プラン特約あり)に定める出店形態毎の金額を支払う。
 2.乙は、基本出店料の6か月分を甲の定める期日までに前払いするものとする。ただし、最初の6か月分の基本出店料については、アカウント発行日から20日以内に前払いするものとする。」
・「第13条(システム利用料)
 1.乙は、甲に対し、本契約に基づき乙が利用する甲のデータベースシステムの利用料(以下「システム利用料」という)として、本条に基づき算出される出店ページにおける販売形態(通常商品・オークション・共同購入・RMS全商品モバイルなど甲所定の販売方法をいう。以下同じ)毎の月間の売上高(以下「基準売上高」という)に、別表(※ライトプラン特約、プレミアムライトプラン特約、がんばれ!プラン特約あり)の料率を乗じた金額の合計額を支払う。
 2.基準売上高は、乙が買い物かごに登録した商品等の代金を基準として計算され、消費税および送料は含まれない。ただし、乙が消費税または送料を商品等の代金に含めて買い物カゴに登録していた場合は、この限りではない。
 3.基準売上高は、販売形態別に以下の日を基準日として、当月1日から当月末日までの期間について計算される。
 (1) 通常購入、モバイル全商品コマース、モバイルコマース:購入日
 (2) 共同購入:開催期間終了日
 (3) スーパーオークション:結果発表メール送信日
 4.基準売上高は、計算対象となる月の翌月末日(以下「締め日」という)に確定する。乙は、締め日までの間、売上の変更または取消を甲所定の方法によりサーバに登録することができ、乙がこの登録をしたときは、当該変更または取消は基準売上高に反映される。乙は、締め日の翌日以降は、基準売上高を変更することができない。
 5.甲は、乙による前項の変更または取消の内容に疑義がある場合には、乙に対し、必要な説明および資料提供を求めることができる。
 6.月の途中で本契約が終了した場合、最終月の基準売上高の締め日は契約終了日とし、その後の変更は行わない。
 7.基準売上高は、サーバ上のデータをもとに、甲が算定するものとする。乙は、毎月末日時点において、甲所定の方法により当該月の基準売上高を確認し、その内容に異議がある場合には、甲に対し、甲所定の期限までに、所定の方法によりこれを通知しなければならない。乙がこの通知をせず甲所定の期限が経過した場合には、基準売上高は、甲算定の数値で確定する。
 8.甲は、乙に対し、締め日の翌月末日までに、基準売上高により計算された対象月のシステム利用料を請求するものとし、乙は、甲に対し、締め日の翌々月末日までに、甲が定める方法によりこれを支払う。
 9.乙が出店ページ上でまたは出店ページを端緒とする顧客とのやりとりにおいて、モール外での取引を行うよう誘導し、モール外での取引を行った場合、乙は、甲に対し、当該取引から生じる売上高についても、システム利用料を支払わなければならないものとする。」
・「第15条(出店料等の支払い)
 1.基本出店料、システム利用料、資料請求等受付料その他本契約に関して乙から甲に支払われる金銭(以下「出店料等」という)の支払いについて必要となる費用は、乙の負担とする。
 2.乙は、出店料等の支払いを期限までにしない場合、甲に対し、当該期限日から完済日まで年利14.5%の遅延損害金を支払うものとする。
 3.乙が甲に対して支払った出店料等は、途中で本契約が終了した場合、その他事由のいかんを問わず返還しないものとする。」
・「第16条(顧客情報)
 1.甲は、顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、性別、年齢、在学先・勤務先の名称・住所その他の属性に関する情報(以下「属性情報」という)およびモールにおける購入履歴その他モールの利用に関する情報(以下「利用情報」といい、属性情報とあわせて「顧客情報」という)の取扱いにつき、顧客から以下の承諾を得る。
 (1) 甲および顧客から顧客情報の共有につき許諾を受けた甲のグループ会社(以下「甲ら」と総称する)は、メールマガジンの送付等、自己の営業のために顧客情報を利用することができる。
 (2) 乙は、顧客の属性情報および乙の出店ページにおける利用情報を、モールの出店ページ運営のために必要な範囲で利用することができる。
 2.甲は、甲が管理する顧客情報につき、顧客のプライバシー保護およびモールの信頼性維持の観点から、乙に開示する種類、範囲等について、甲が適当と判断する制限措置を講じることができる。
 3.乙は顧客情報(甲から開示された情報のほか出店ページの運営に関連して乙が直接取得した情報を含む。以下同じ)を、本規約によって認められかつ第1項により顧客の承諾が得られた範囲に限り、顧客のプライバシーおよびモール全体の利益に配慮して利用しなければならない。また、乙は、第三者に顧客情報を有償、無償を問わず漏洩・開示・提供その他取り扱わせてはならない。ただし、乙は、決済業務および配送業務を委託している決済業者および配送業者に対して、本条と同等の守秘義務を課した上で、代金決済および商品等の配送に必要な範囲で、顧客情報を開示することができる。
 4.乙は、本契約終了後、甲が書面で特に承諾した場合を除き顧客情報を利用することはできない。また、乙は契約終了にあたって甲の管理下にある顧客情報を抽出してはならない。
 5.乙は、乙が個人情報の保護に関する法律上の個人情報取扱事業者に該当するか否かを問わず、同法に定める個人情報取扱事業者としての義務等を遵守しなければならない。
 6.乙は、顧客情報の漏洩が楽天市場の信用を毀損する等、その他楽天市場全体に重大な影響を及ぼすおそれがあることを十分認識し、顧客情報の適切な保存および廃棄方法の確立、情報管理責任者の選任、従業員教育の実施等、顧客情報が外部に漏洩しないよう必要な措置をとらなければならない。万一、乙より顧客情報が他に漏洩した場合は、乙は、故意または過失の有無を問わず、これにより甲らにおいて生じた一切の損害および費用負担(顧客へのお詫びに要した費用および弁護士費用を含む)を賠償する責に任ずる。
 7.第4項ないし前項の規定は、本契約終了後においても引続きその効力を有するものとする。」
・「第18条(禁止事項)
 1.乙は、以下の行為を行ってはならない。
 (1) 法令の定めに違反する行為またはそのおそれのある行為
 (2) 公序良俗に反する行為
 (3) 日本通信販売協会が定める広告に関する自主基準に違反する行為
 (4) 消費者の判断に錯誤を与えるおそれのある行為
 (5) 甲、他の出店者または第三者に対し、財産権(知的財産権を含む)の侵害、名誉・プライバシーの侵害、誹謗中傷、その他の不利益を与える行為またはそのおそれのある行為
 (6) 第6条第3項の出店許可の前に出店ページを第三者に公開する行為(出店ページの宣伝広告およびそのURLの告知を含む)または出店ページを利用した販売等を行う行為
 (7) モール外の店舗の宣伝、外部Webサイトへのハイパーリンク、電話・FAX・電子メールなどを利用したサイト外取引についての優遇措置の表示、その他の方法により顧客をモール外の取引に誘引する行為
 (8) モールの利用を通じて取得した電子メールアドレスに対し、R−Mail以外の方法により広告・宣伝を内容とする電子メールを配信する行為
 (9) 本契約終了後に、モールの出店ページ運営に関連し取得したメールアドレスその他の顧客情報を利用する行為(広告・宣伝を内容とする電子メールの配信その他の勧誘を含むが、これに限られない)
 (10) 甲と同種または類似の業務を行う行為
 (11) 甲のサービス業務の運営・維持を妨げる行為
 (12) モールに関し利用しうる情報を改ざんする行為
 (13) 有害なコンピュータプログラム、メール等を送信または書き込む行為
 (14) サーバその他甲のコンピュータに不正にアクセスする行為
 (15) 甲が別途禁止行為として定める行為
 2.乙は、法令により販売が禁止されている商品等、第三者の権利を侵害するおそれのある商品等、甲が別途販売禁止として乙に通知した商品等またはモールのイメージに合致しないと甲が判断した商品等の販売をすることができない。」
・「第20条(サービスの一時停止)
 乙は、第2条第2項記載の甲が提供するサービス(以下「サービス」という)について、以下の事由により乙に事前に通知されることなく一定期間停止される場合があることをあらかじめ承諾し、サービス停止による基本出店料等の返還、損害の補償等を甲に請求しないこととする。
 (1) 甲のサーバ、ソフトウェア等の点検、修理、補修、改良等のための停止
 (2) コンピュータ、通信回線等の事故、障害による停止
 (3) 甲、顧客、他の出店者その他の第三者の利益を保護するため、その他甲がやむを得ないと判断した場合における停止」
・「第21条(出店停止等)
 1.甲は、乙が以下のいずれかの事由に該当する場合には、乙の出店の停止、乙が表示したコンテンツの削除、出店停止理由の公表その他の必要な措置を取ることができる。この場合、乙は速やかに甲の指示に従い、改善措置をとらなくてはならない。なお、本条の定めは第26条に定める甲による本契約の解除・解約を妨げない。
 (1) 第26条第1項に定める事由が生じたとき
 (2) 乙の店舗において商品等を購入した顧客から商品等の不着、到着遅延または返金等に関する苦情が頻発したとき
 (3) その他甲が消費者保護の観点などから出店停止等の措置が必要と判断したとき」
・出店者が一審被告に支払うべき具体的金額は、契約内容(プラン)及び売上額等によって異なるが、出店者は、一審被告に対し、基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)を支払う(被告規約12条、13条)。
 下記別表は、被告規約の定める「スタンダードプラン」(10,000 品目まで)等における基本出店料及びシステム利用料の一部である(甲21、9頁)。

 スタンダードプランおよびメガショッププラン別表
 登録可能な商品数と月額基本出店料(税別)
出店形態 商品数 月額出店料(税別)
スタンダード出店 10,000品目 50,000円
メガショップ出店 上限無し 100,000円

 「通常商品およびオークションにかかるシステム利用料(税別)」
  月間販売額
平均バスケット単価 百万円迄分 2百万円迄分 3百万円迄分 5百万円迄分 1千万円迄分 3千万円迄分 3千万円超分
0〜7千円 4.0% 3.0% 3.0% 2.8% 2.8% 2.6% 2.4%
7千円超〜1.5万円 3.0% 2.8% 2.8% 2.6% 2.4% 2.4%
1.5万円超〜2.5万円 2.8% 2,8% 2.6% 2.4% 2.4% 2.2%
2.5万円超〜3.5万円 2.8% 2.6% 2.4% 2.4% 2.2% 2.2%
3.5万円超〜5万円 2.6% 2.4% 2.4% 2.2% 2.2% 2.0%
5万円超 2.4% 2.4% 2.2% 2.2% 2.0% 2.0%
ウ 楽天市場における商品の購入手続の流れは、次のようなものである。
(ア) 顧客は、楽天市場で商品を購入しようとする場合、被告サイトの検索手段により、全ての楽天市場の出店者の商品について一度に検索し、表示された内容を比較して商品を選択することができる。
 そして、顧客は、購入を希望する商品について出店者の出店ページの「買い物かごに入れる」をクリックし、「買い物かご」に商品を入れる。
 顧客が「買い物かご」に入っている商品の注文手続を行う際には、「http://order.step.rakuten.co.jp/rms/mall/basket/vc」から始まるページにおいて顧客が必要な情報を入力し、入力された購入者の氏名、住所、電話番号等、全ての情報は一審被告から出店者に提供される。
 具体的には、顧客が一審被告の会員である場合には、一審被告に保管されている情報が「個人情報保護方針」に従って、一審被告から出店者に提供される。顧客が一審被告の会員ではない場合には、顧客は、被告サイトにおいて自身の氏名、住所、電話番号等の情報を入力し、一審被告に送信し、これを受信した一審被告が、「個人情報保護方針」に従って出店者に提供する。
 注文手続が完了すると、「【楽天市場】注文内容ご確認(自動配信メール)」と題する電子メールが、一審被告(「order@rakuten.co.jp」)から顧客に送信される。
 出店者が出店ページ内に被告サイト外にリンクを張ることやURLを記載する行為は禁止され、また、「メール、電話、FAXでも注文を受け付けると表示する」など、システム料金等の課金を回避することを目的とする行為は禁止されている(甲22<出店ガイドブック>、58頁「4.禁止行為について」)。
(イ) 顧客が楽天市場において出店者から商品を購入した場合、購入額に応じたポイント(「楽天スーパーポイント」、通常は購入額の1%)が顧客に付与される。顧客は、1ポイントを1円として換算した金額の商品を購入することができる。
 このポイントは、顧客が商品を購入した出店者が付与するのではなく、一審被告が顧客に付与するものであり、ポイントを利用した商品の購入は、ポイント付与の対象となった取引に係る店舗に限らず、一審被告に出店している全ての店舗で可能である。ポイントを利用した商品の購入に係る精算金は、一審被告から出店者に対し、口座振込みの方法で支払われる(甲21「被告規約」中の「楽天スーパーポイント利用規約」第8条1、2項)。
エ 一審被告が楽天市場において提供するシステム等の概要は、次のとおりである。
(ア) 運営システム「RMS」の提供
 一審被告は、楽天市場で仮想店舗を運営するために、「RMS」(Rakuten Merchant Server)を独自に開発し、出店者に利用させている。
 RMSは、下記のとおり、「店舗運営をするうえで必要な集客・販促のしくみはもちろん、多彩な決済・配送サービスによって店舗様をバックアップ」することを目的としており、「店舗をつくる」ための「店舗構築機能」(R-Storefront)、「店舗を運営する」ための「受注管理機能」(R-Backoffice)、「店舗のデータを分析する」ための「売上・アクセス分析機能」(R-Datatool)、「ユーザーをフォローする」ための「メール配信機能」(R-Mail)、「カード自動決済処理機能」(R-Card Plus)等の機能がある。
a 店舗構築機能(R-Storefront)
 店舗構築機能は、「店内レイアウト、商品配置(商品棚)、目玉商品の決定、値札貼り等々の作業をWEB上で行える機能」であり、高度な専門知識を要することなく、ページ編集を可能にする。例えば、出店者は、与えられたID、パスワードを利用してRMSメインメニューにログインし、その中の「商品ページ設定メニュー」から、個別の商品を登録するために必要な所定の事項を入力することにより、即時に楽天市場の当該出店者の出店ページに当該商品が登録される仕組みとなっている(乙1)。
b 受注管理機能(R-Backoffice)
 受注管理機能は、「注文の受付から商品の受け渡し、レシート発行、売上帳票作成等々の作業をWEB上で行」う機能である。具体的には、被告サイト上で受注情報の一覧を表示できるほか、顧客への受注確認、商品発送及びお礼のメールを簡単に送信することができる。
 また、顧客に届ける購入明細書や商品の梱包、発送作業をサポートする受注明細票、入金サポートのための帳票を印刷する機能も備わり、顧客からの注文を丁寧に、効率よく処理することができる。さらに、受注管理機能のデータ抽出も可能であり、これにより、「運送業者への伝票や納品書の処理、宛名ラベル印刷、自社の販売管理システムとの連動」も可能となる。
c 売上・アクセス分析機能(R-Datatool)
 売上・アクセス分析機能は、「日々のアクセス(来店)人数、時間帯別の売上げ、商品別の売上げ、顧客属性分析等々の作業をWEB上で行える機能」であり、「自店舗の強み・弱みを分析」することで「さらなる売上アップを目指」すことを可能とする。同機能は、出店者の月別の実績データを被告が出店者に提供するものであり、「売上高、アクセス人数、転換率(購買率)など、店舗運営に必要な基本のデータ」を確認することができる。また、毎日の売上げをグラフで確認することもできる。さらに、店舗へのアクセス数、各種ページ(商品ページや商品棚ページ)毎のアクセス数の確認や、出店者のページにたどり着いた方法(どの検索サイトから来たか、どのようなキーワードが用いられたか)も確認できる。
 この機能により、効率的なメールマガジンの配信や販売企画の開催、顧客層に適した商品の選別等が容易となる。
d メール配信機能
 メール配信昨日は,「ユーザーとのコミュニケーションをつくりですDM(ダイレクトメール)の機能」であり、「店舗の紹介、目玉商品紹介等々の作業をWEB上で行うこと」を可能とする。この機能は、さらに、「ターゲットを絞り込んでメール送信ができるセグメント配信機能」を有しており、「ユーザーの特性ごとにメール内容を変えたり、配信するタイミングを変えたりしてアプローチすることが簡単にでき」ることにより、より確度の高いアプローチが可能となる。
e 決済サービス
 カード自動決済処理機能(R-Card Plus)は、「各カード会社との面倒な加盟店契約を、(一審被告)がまとめて代行」するとともに、「カード会社に個別に問い合わせなくても受注と同時に自動でカード認証(オーソリ処理)が可能」な機能である。これにより、「面倒な作業が一気に簡素化」する。また、「(出店者)がユーザーのクレジットカード番号にふれることなくクレジットカード決済をご利用できるから安全」である。
 さらに、一審被告は、「楽天会員認証だけでお買い物ができる決済(口座振替)システム」も提供している。
f 梱包、発送、物流に関するサービス
 一審被告は、「梱包資材サービス」として、「商売繁盛!楽天販促市場」において、「インターネット通販に必要な段ボールや撥水加工の宅配用バッグ、楽天ロゴ入りビニールテープなどを店舗様限定で小ロットから」格安価格で販売している。
 配送に関しても、一審被告は、配送会社各社による「配送プログラム」を出店者に提供している。
 一審被告は、物流代行サービス「楽天物流」も提供している。同サービスでは、「eコマースに精通した物流のプロ」が、「楽天市場出店店舗様の事情を熟知した細やかな対応」により、「商品の受け入れ、保管、梱包、発送、お届けまで一貫して代行」する。
(イ) 顧客情報収集に関する機能の提供
 一審被告は、「アドレス収集に高い効果のあるプレゼントやモニター企画が簡単に開催できて、応募後の処理もスピーディーに行える機能」として、「プレゼント・無料モニター募集企画開催機能」を(甲23)、また、「『その商品に興味を持つお客様』のリスト集めにも最適な機能」として「オークション開催機能」を(甲22、23)、出店者に提供している。
(ウ) ランキング、顧客の情報発信の場の提供
 一審被告は、「ランキング市場」において、「楽天市場内の売上、販売個数、取扱い店舗数等のデータ、トレンド情報などを参考に、独自に集計したランキングを日ごと、週ごと、月ごとに発表」している。
 「お買い物レビュー」の機能は、実際に購入した顧客の生の声が掲載されることから、「お客様がお客様を呼ぶ! 口コミでお客様の輪が広がる!」という、他の顧客の購入を促進する効果がある。その他、一審被告は、「友達にメールですすめる」機能、ブログを提供している。
(エ) ノウハウ、トレンド情報の提供
 一審被告は、「楽天大学」と称して、「楽天市場に蓄積した成功や失敗の事例を分析して体系化し、どの業種にもヒントとなるようにまとめたノウハウの枠組み(フレームワーク)」を、「ネットショップ運営を体系的に学べる」として、出店者に提供している(甲22)。
 また、「ランキング市場」は、顧客に対し情報を発信するだけでなく、「トレンド情報」を出店者に提供するものである。
(オ) アドバイス、コンサルティング
 一審被告は、一審被告の「出店コンサルタント」、「ショップアドバイザー」及び「ECコンサルタント」(甲22)等を通じ、「楽天に出店されている、またはこれから出店される企業(店舗)へ目標(ビジョン)を共有し、目標達成のための戦略をアドバイス」するサービスを提供している。
(カ) 顧客情報の提供
 一審被告は、「顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、性別、年齢、在学先・勤務先の名称・住所その他の属性に関する情報」(顧客の属性情報)を一審被告のサーバを介して出店者に提供している。すなわち、楽天市場における全ての売買取引に際し、当該売買取引に係る顧客情報は、顧客の操作に従って自動的に、全件が被告のASPサーバを経由して売買の当事者である出店者に対し提供される。
(2) 一審原告と一審被告との間の交渉経緯
 証拠(甲7の1、甲8ないし20、33ないし36、甲57の1、甲58ないし62、76、77、乙10、15の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば、本件に関する一審原告と一審被告との間の交渉の経緯は、次のとおりであったことが認められる。
ア 一審原告は、平成21年ころから、一審原告が権利者である本件商標権を侵害する商品が、一審被告の運営するインターネットショッピングモールである「楽天市場」(被告サイト)に販売等のため展示されるようになったことに気づき、一審被告に対し、後記1・2の出店者(有限会社キャニオン・クレスト及び下北万雑貨店)につき、平成21年4月3日及び4月6日には英文の電子メールにて(甲33)、4月7日には英文の郵便にて(甲34)、それぞれウェブサイトを通した広告及び販売申出の停止を申し入れたが、回答がなかったため、同年4月16日に、後記2の出店者(下北万雑貨店)につき代理人弁護士名による内容証明郵便で侵害写真の削除等を申し入れ、同郵便は同年4月20日に到達したところ(甲35の1ないし3)、同年4月20日付けでこれを拒否する回答がなされた(甲36)。その理由の要旨は、楽天市場に掲載されている出店ページの内容は、出店者の責任において決定されており、出店ページを契機になされる売買契約も購買者と出店者との間でなされているものであるから、広告画像等に問題があるのであれば出店者と直接に交渉等すべきであって、サイトを運営する一審被告は関知しない、等とするものであった。
イ そこで一審原告は、平成21年9月25日に本件訴訟を提起した(同事件の訴状は、同年10月20日に一審被告に送達された。)が、その前後に本件商標権を侵害する商品を被告サイト(楽天市場)に展示していた出店fは、次のとおりである。
番号 展示日 出店者 展示商品
1 平成21年4月2日ころ 有限会社キャニオン・クレスト キーホルダー
(甲76)
2 平成21年4月2日ころ 下北万雑貨店 乳幼児用よだれかけ
(甲35の1,2,甲77)
3 平成21年8月10日ころ 有限会社ティキティキカンパニー 同上
(甲7の1,甲8,本件商品1)
4 平成21年8月10日ころ 株式会社SHELBY 帽子
(甲9〜11,本件商品2)
5 平成21年8月10日ころ 有限会社データリンク 携帯ストラップ
(甲12〜14,甲15の1,甲16,17,本件商品3)
6 平成21年8月10日ころ 株式会社S・Gノンファクトリー ボストンバッグ
(甲18,本件商品4)
7 平成21年8月10日ころ 有限会社ティキティキカンパニー マグカップ
(甲19,本件商品5)
8 平成21年8月10日ころ A
(エムズストア)
ランチボックス
(甲20,本件商品6)
ウ その後、平成22年8月31日に原判決がなされ、これに不服の一審原告が本件控訴を提起したのは平成22年10月12日であるが、被告サイト(楽天市場)への出店者で本件商標権を侵害している展示者のうち、その後において出品を確認できた者は、次のとおりである。
番号 展示日 出店者 展示商品
9 平成23年4月6日ころ DreamClosetことC 帽子
(甲57の1,本件商品2)
10 平成23年4月6日ころ キャンディタワーことD 携帯ストラップ
(甲58,本件商品3)
11 平成23年4月6日ころ 有限会社愛来夢 同上
(甲59,本件商品3)
12 平成23年4月6日ころ 株式会社なかや マグカップ
(甲60〜62,本件商品5)
エ 上記各出店者のなした被告サイトへの展示は、一審原告からの警告又は一審被告の措置等により、上記1、2は平成21年4月20日ころまでに(甲36、弁論の全趣旨)、上記3〜8は平成21年10月28日ころまでに(乙10、弁論の全趣旨)、上記9〜13は平成23年4月12日ころまでに(乙15の1〜4、弁論の全趣旨)、それぞれ削除されている。
(3)  検討
ア 本件における被告サイトのように、ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し、これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において、上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは、商標権者は、直接に上記展示を行っている出店者に対し、商標権侵害を理由に、ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが、そのほかに、ウェブページの運営者が、単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。けだし、(1)本件における被告サイト(楽天市場)のように、ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は、販売者・購入者の双方にとって便利であり、社会的にも有益な方法である上、ウェブページに表示される商品の多くは、第三者の商標権を侵害するものではないから、本件のような商品の販売方法は、基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること、(2)仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても、出店者が先使用権者であったり、商標権者から使用許諾を受けていたり、並行輸入品であったりすること等もあり得ることから、上記出品がなされたからといって、ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと、(3)しかし、商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり、ウェブページの運営者であっても、出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識、認容するに至ったときは、同法違反の幇助犯となる可能性があること、(4)ウェブページの運営者は、出店者との間で出店契約を締結していて、上記ウェブページの運営により、出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること、(5)さらにウェブページの運営者は、商標権侵害行為の存在を認識できたときは、出店者との契約により、コンテンツの削除、出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり、これらを併せ考えれば、ウェブページの運営者は、商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは、出店者に対しその意見を聴くなどして、その侵害の有無を速やかに調査すべきであり、これを履行している限りは、商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが、これを怠ったときは、出店者と同様、これらの責任を負うものと解されるからである。
 もっとも商標法は、その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが、商標権は「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」権利であり(同法25条)、商標権者は「自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから、侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず、社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり、商標法が、間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって、商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。
イ そこで以上の見地に立って本件をみるに、一審被告は、前記(1)のようなシステムを有するインターネットショッピングモールを運営しており、出店者から出店料・システム利用料等の営業利益を取得していたが、前記(2)イの番号1、2の展示については、展示日から削除日まで18日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは代理人弁護士が発した内容証明郵便が到達した平成21年4月20日であり、同日に削除されたことになる。また、前記(2)イの番号3〜8の展示については、展示日から削除日まで約80日を要しているが、一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり、同日から削除日までの日数は8日である。さらに、前記(2)ウの番号9〜12の展示については、展示から削除までに要した日数は6日である。
 以上によれば、ウェブサイトを運営する一審被告としては、商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。
(4) 以上によれば、本件の事実関係の下では、一審被告による「楽天市場」の運営が一審原告の本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないということになる。
3 一審被告による「楽天市場」の運営が一審原告に対する不正競争行為となるか 一審原告は、「Chupa Chups」の表示等は、遅くとも平成20年には一審原告の商品を表示するものとして需要者の間に周知又は著名となっており、同表示等と類似する本件各標章が付された本件各商品が、一審原告の製造販売ないしライセンスに係る商品であるとの誤認、混同が現に生じており、少なくともそのおそれがあるとして、不正競争防止法2条1項1号及び2号に基づく不正競争行為がある旨主張する。
 しかし、前記2同様、一審被告の本件での対応を前提とすれば、一審被告による「楽天市場」の運営が一審原告に対する不正競争行為に該当するとはいえず、上記主張は理由がない。
4 その他の一審原告の主張に対する判断
 一審原告は、「楽天市場」における諸事情を根拠として、本件での一審被告の行為は、単なる場の提供にとどまらないと主張するが、本判決は、一審原告主張の事実を含め本件での一切の事情を考慮した上で、一審被告には商標権侵害の責任はないと判断するものであるから、一審原告の上記主張は理由がない。
 このほか、一審原告は縷々主張するが、いずれも判断の必要がない。
5 結論
 以上のとおり、一審原告の請求は理由がなく、原判決は結論において誤りがない。
 よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所 第1部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 東海林保
 裁判官 矢口俊哉
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