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【事件名】ピンク・レディのパブリシティ権事件(3)
【年月日】平成24年2月2日
 最高裁(一小) 平成21年(受)第2056号 損害賠償請求事件
 (一審・東京地裁平成19年(ワ)第20986号、二審・知財高裁平成20年(ネ)第10063号)

判決


主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

理由
 上告代理人中村稔ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は、上告人らが、上告人らを被写体とする14枚の写真を無断で週刊誌に掲載した被上告人に対し、上告人らの肖像が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利が侵害されたと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1)ア 上告人らは、昭和51年から昭和56年まで、女性デュオ「ピンク・レディー」(以下、単に「ピンク・レディー」という。)を結成し、歌手として活動をしていた者である。ピンク・レディーは、子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その曲の振り付けをまねることが全国的に流行した。
イ 被上告人は、書籍、雑誌等の出版、発行等を業とする会社であり、週刊誌「女性自身」を発行している。
(2) 平成18年秋頃には、ダイエットに興味を持つ女性を中心として、ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法が流行した。
(3)ア 被上告人は、平成19年2月13日、同月27日号の上記週刊誌(縦26p、横21pのAB変型版サイズで約200頁のもの。以下「本件雑誌」という。)を発行し、その16頁ないし18頁に「ピンク・レディー de ダイエット」と題する記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。
イ 本件記事は、タレント(以下「本件解説者」という。)がピンク・レディーの5曲の振り付けを利用したダイエット法を解説することなどを内容とするものであり、本件記事には、上告人らを被写体とする14枚の白黒写真(以下「本件各写真」という。)が使用されている。
(4)ア 本件雑誌16頁右端の「ピンク・レディー de ダイエット」という見出しの上部には、歌唱している上告人らを被写体とする縦4.8p、横6.7pの写真が1枚掲載されている。
イ 本件雑誌16頁及び17頁には上下2段に分けて各1曲の振り付けを、同18頁の上半分には残りの1曲の振り付けをそれぞれ利用したダイエット法が解説されている。上記の各解説部分には、それぞれのダイエット効果を記述する見出しと4コマのイラストと文字による振り付けの解説などに加え、歌唱している上告人らを被写体とする縦5p、横7.5pないし縦8p、横10pの写真が1枚ずつ、本件解説者を被写体とする写真が1枚ないし2枚ずつ掲載されている。
ウ 本件雑誌17頁の左端上半分には、ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法の効果等に関する記述があり、その下には水着姿の上告人らを被写体とする縦7p、横4.4pの写真が1枚掲載されている。また、同頁の左端下半分には、本件解説者が子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたなどの思い出等を語る記述がある。
エ 本件雑誌18頁の下半分には「本誌秘蔵写真で綴るピンク・レディーの思い出」という見出しの下に、上告人らを被写体とする縦2.8p、横3.6pないし縦9.1p、横5.5pの写真が合計7枚掲載されている。その下には、本件解説者とは別のタレントが上記同様の思い出等を語る記述があり、その左横には、上記タレントを被写体とする写真が1枚掲載されている。
(5) 本件各写真は、かつて上告人らの承諾を得て被上告人側のカメラマンにより撮影されたものであるが、上告人らは本件各写真が本件雑誌に掲載されることについて承諾しておらず、本件各写真は、上告人らに無断で本件雑誌に掲載された。
3(1) 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき、最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁、肖像につき、最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、@肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、A商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、B肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると、前記事実関係によれば、上告人らは、昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その当時、その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから、本件各写真の上告人らの肖像は、顧客吸引力を有するものといえる。
 しかしながら、前記事実関係によれば、本件記事の内容は、ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく、前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき、その効果を見出しに掲げ、イラストと文字によって、これを解説するとともに、子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして、本件記事に使用された本件各写真は、約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上、いずれも白黒写真であって、その大きさも、縦2.8p、横3.6pないし縦8p、横10p程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば、本件各写真は、上記振り付けを利用したダイエット法を解説し、これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって、読者の記憶を喚起するなど、本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
 したがって、被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は、専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、不法行為法上違法であるということはできない。
4 以上によれば、本件各写真を本件雑誌に掲載する行為が不法行為法上違法であるとはいえないとした原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官金築誠志の補足意見がある。
 裁判官金築誠志の補足意見は、次のとおりである。
 パブリシティ権の侵害となる場合をどのような基準で認めるかについては、これまでの下級審裁判例等を通じいくつかの見解が示されているが、パブリシティ権が人の肖像等の持つ顧客吸引力の排他的な利用権である以上、顧客吸引力の無断利用を侵害の中核的要素と考えるべきであろう。
 もっとも、顧客吸引力を有する著名人は、パブリシティ権が問題になることが多い芸能人やスポーツ選手に対する娯楽的な関心をも含め、様々な意味において社会の正当な関心の対象となり得る存在であって、その人物像、活動状況等の紹介、報道、論評等を不当に制約するようなことがあってはならない。そして、ほとんどの報道、出版、放送等は商業活動として行われており、そうした活動の一環として著名人の肖像等を掲載等した場合には、それが顧客吸引の効果を持つことは十分あり得る。したがって、肖像等の商業的利用一般をパブリシティ権の侵害とすることは適当でなく、侵害を構成する範囲は、できるだけ明確に限定されなければならないと考える。また、我が国にはパブリシティ権について規定した法令が存在せず、人格権に由来する権利として認め得るものであること、パブリシティ権の侵害による損害は経済的なものであり、氏名、肖像等を使用する行為が名誉毀損やプライバシーの侵害を構成するに至れば別個の救済がなされ得ることも、侵害を構成する範囲を限定的に解すべき理由としてよいであろう。こうした観点については、物のパブリシティ権を否定した最高裁平成13年(受)第866号、第867号同16年2月13日第二小法廷判決・民集58巻2号311頁が、物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては、商標法等の知的財産権関係の法律が、権利の保護を図る反面として、使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないよう、排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしていることに鑑みると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に排他的な使用権等を認めることは相当でないと判示している趣旨が想起されるべきであると思う。
 肖像等の無断使用が不法行為法上違法となる場合として、本判決が例示しているのは、ブロマイド、グラビア写真のように、肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、いわゆるキャラクター商品のように、商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する場合、肖像等を商品等の広告として使用する場合の三つの類型であるが、これらはいずれも専ら顧客吸引力を利用する目的と認めるべき典型的な類型であるとともに、従来の下級審裁判例で取り扱われた事例等から見る限り、パブリシティ権の侵害と認めてよい場合の大部分をカバーできるものとなっているのではないかと思われる。これら三類型以外のものについても、これらに準ずる程度に顧客吸引力を利用する目的が認められる場合に限定することになれば、パブリシティ権の侵害となる範囲は、かなり明確になるのではないだろうか。
 なお、原判決は、顧客吸引力の利用以外の目的がわずかでもあれば、「専ら」利用する目的ではないことになるという問題点を指摘しているが、例えば肖像写真と記事が同一出版物に掲載されている場合、写真の大きさ、取り扱われ方等と、記事の内容等を比較検討し、記事は添え物で独立した意義を認め難いようなものであったり、記事と関連なく写真が大きく扱われていたりする場合には、「専ら」といってよく、この文言を過度に厳密に解することは相当でないと考える。

最高裁判所第一小法廷
 裁判長裁判官 櫻井龍子
 裁判官 宮川光治
 裁判官 金築誠志
 裁判官 横田尤孝
 裁判官 白木 勇
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