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【事件名】測量ソフト「おまかせ君プロ」事件(2)
【年月日】平成24年1月31日
 知財高裁 平成23年(ネ)第10041号 損害賠償等請求控訴事件、平成23年(ネ)第10055号 同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成19年(ワ)第24698号)
 (口頭弁論終結日 平成23年11月28日)

判決
控訴人( 附帯被控訴人) 株式会社Y K S C
控訴人( 附帯被控訴人) 株式会社ワイケイズコーポレーション
控訴人( 附帯被控訴人) X1
上記3名訴訟代理人弁護士 大西洋一
同 村上雅彦
同 野中英樹
同 青山照雄
同 高田英治
同 久保和之
控訴人( 附帯被控訴人) X2
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社シーエスエス技術開発
上記訴訟代理人弁護士 島村和也


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
3 控訴人(附帯被控訴人)株式会社YKSC及び控訴人(附帯被控訴人)株式会社ワイケイズコーポレーションは、別紙被告製品目録記載のプログラムを製造し、使用し、又は譲渡してはならない。
4 控訴人(附帯被控訴人)株式会社YKSCは、別紙被告製品目録記載のプログラムの複製物(同プログラムを格納したCD−ROM等の記録媒体を含む。)を廃棄せよ。
5 控訴人ら(附帯被控訴人ら)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、連帯して3943万7062円及び内金1025万3719円に対する平成19年10月6日から、内金1317万7478円に対する平成20年8月31日から、内金714万9204円に対する平成21年8月31日から、内金885万6661円に対する平成23年11月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求(当審における拡張部分を含め)は、これを棄却する。
7 訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)は、第1、2審を通じてこれを3分し、その1を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人ら(附帯被控訴人ら)の負担とする。
8 この判決は、第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 控訴人ら(附帯被控訴人ら)
(1) 原判決中、控訴人ら(附帯被控訴人ら)敗訴部分をいずれも取り消す。
(2) 被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1審、第2審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
2 被控訴人(附帯控訴人)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人(附帯被控訴人)株式会社YKSC及び控訴人(附帯被控訴人)株式会社ワイケイズコーポレーションは、別紙被告製品目録記載のプログラムを製造し、使用し、又は譲渡してはならない。
(3) 控訴人(附帯被控訴人)株式会社YKSCは、別紙被告製品目録記載のプログラムの複製物(同プログラムを格納したCD−ROM等の記録媒体を含む。)を廃棄せよ。
(4) 控訴人ら(附帯被控訴人ら)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、連帯して9000万円及び内金3000万円に対する平成19年10月6日から、内金3000万円に対する平成21年3月7日から、内金3000万円に対する控訴人(附帯被控訴人)X2については平成23年9月29日から、その余の控訴人ら(附帯被控訴人ら)については同月28日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は、附帯控訴費用も含め、第1審、第2審とも控訴人ら(附帯被控訴人ら)の負担とする。
第2 事案の概要及び当事者の主張等
1 事案の概要
 当事者の表記については、控訴人(附帯被控訴人、原審被告)株式会社YKSCを「被告YKSC社」、同株式会社ワイケイズコーポレーションを「被告ワイケイズ社」、同X1を「被告X1」、同X2を「被告X2」、被控訴人(附帯控訴人、原審原告)を「原告」という。また、原審において用いられた略語を、当審においてもそのまま用いる。
 原審の事案は、以下のとおりである。すなわち、「おまかせ君プロVer.2.5」という名称の測量業務用の原告ソフトを製造し、これを使用して測量業務等を行っている原告が、被告ソフトを製造し、これを使用して測量業務等を行っている被告YKSC社、同社の関連会社である被告ワイケイズ社、被告YKSC社の代表取締役である被告X1、及び原告の元従業員で、被告YKSC社の従業員である被告X2に対し、被告プログラムは原告プログラムを複製又は翻案したものであり、共同して被告ソフトを製造し、これを複製、使用、譲渡する被告らの行為は、原告の原告プログラムに対する著作権(複製権又は翻案権)を侵害すると主張して、@被告YKSC社及び被告ワイケイズ社に対して、著作権法112条1項に基づいて被告プログラムの製造等の差止め、及び同条2項に基づいて被告プログラムの複製物等の廃棄を、A被告らに対して、著作権侵害に基づく損害賠償として6000万円及び内金3000万円に対する訴状送達日の翌日である平成19年10月6日から、内金3000万円に対する訴え変更の申立書送達の日の翌日である平成21年3月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めて、訴訟を提起した。
 原審は、@被告YKSC社及び被告ワイケイズ社に対し、被告プロクラムの製造等の差止めを、被告YKSC社に対し、被告プログラムの複製物等の廃棄を命じ、また、A被告らに対し、損害賠償として連帯して3227万3664円及び内金983万3716円に対する平成19年10月6日から、内金998万3927円に対する平成21年3月7日から、内金509万2587円に対する平成21年8月31日から、内金736万3434円に対する平成23年2月25日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じ、原告のその余の請求を棄却する旨の判決をした。
 被告らは、これを不服として控訴を提起し、原告は、損害賠償の請求について附帯控訴を提起し、併せて被告らに対する損害賠償の請求を9000万円に拡張すると共に、拡張部分3000万円に対する「附帯控訴及び訴変更申立書」の送達日の翌日である、被告X2については平成23年9月29日から、その余の被告については同月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2 争いのない事実等及び争点
 以下のとおり訂正する他は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」及び「2 争点」(原判決3頁22行目ないし5頁3行目)の記載を引用する。
 原判決4頁8行目の「被告ワイケイズ社の取締役」を「被告ワイケイズ社の代表取締役」に訂正する。
3 争点に関する当事者の主張
 以下のとおり付加・訂正する他は、原判決の「事実及び理由」欄の「3 争点に関する当事者の主張」(原判決5頁4行目ないし46頁5行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決26頁17行目から22行目までを、次のとおり改める。
 「オ 小括
 原告が被告らの侵害行為により被った損害は、4億6588万1073円を下ることはなく、仮に、被告らに有利な算定をしたとしても、3億4397万3741円を下ることはない。
 よって、原告は、被告らに対し、損害賠償の一部請求として、連帯して9000万円の支払を求める。
 カ 被告らの主張に対する反論
 原告は、原告ソフトを利用して、測量業務のサービスを提供することを業としている。被告YKSC社は、原告ソフトを複製翻案した被告ソフトを使用して、原告ソフトを使用したサービスと同様のサービスを提供することで原告と競業し、その結果、原告は、原告ソフトを使用したサービスを提供する機会を失い、被告YKSC社が被告ソフトを使用したサービスの提供により得た利益と同額の得べかりし利益を獲得し得なかったことによる損害を被っている。したがって、原告は、著作権法114条2項に基づき、上記損害に相当する額を損害賠償として請求することができる。
 原告は、原告ソフトを、一般測量及び成果業務(データ作成、図面・他成果)に使用している。また、原告の業務には、土木工事や造成工事の丁張測量業務を多く含んでいる。したがって、被告YKSC社が被告ソフトを使用してこれらの業務を行うことにより得た利益も、損害額算定の基礎となる『原告の得べかりし利益』であるといえる。
 被告らは、被告ソフトは新製品にすべて切り換えた旨主張するが、被告らの主張には根拠がない。」
(2) 原判決36頁23行目の後に、行を改めて、以下のとおり加える。
 「エ 損害額の算定評価等について
 侵害者が市販されているソフトウェアを著作権者に無断で複製等して自己の業務に使用した場合に、当該複製権等の侵害行為により侵害者が受けた利益は、侵害者が当該市販ソフトの購入を免れたことにより得た、当該市販ソフトの正規品の小売価額相当額に限定されると解すべきであって、当該市販ソフトを使用した自己の業務により得た利益にまで及ばない。
 原告は、原告ソフトを15万円で販売しており、被告YKSC社は、35台のPDAに被告ソフトをインストールして自己の業務に使用していたのであるから、被告YKSC社が複製権等の侵害行為により得た利益、すなわち原告ソフトの購入を免れたことによる利益は、最大でも525万円である。
 15万円×35台=525万円
 著作権法114条2項は、侵害者による侵害行為がなければ、侵害者が当該侵害行為により得た利益を著作権者が得られたはずであるという経験則があることを前提として、侵害者が侵害行為により得た利益を著作権者等の損害(逸失利益)と推定する規定であるから、このような経験則が成立しない場合には、同項を適用して損害額を推定することはできない。
 本件では、@原告ソフトは、一般測量及び成果業務(データ作成、図面・他成果)に不可欠である、計測した基準点からの距離や角度を保存、記録する機能を有していない以上、原告がこれらの業務に原告ソフトを使用していることはあり得ないこと、A原告は、造園工事の一般測量業務が多く、丁張業務を受注することはほとんどなかったこと、B被告YKSC社は道路や造成工事に係る測量業務が多いのに対し、原告は造園工事の一般測量業務が多く、原告と被告YKSC社とでは、主要な取引先が異なっていること、C被告YKSC社の受注は専ら被告ワイケイズ社経由であるところ、原告が被告ワイケイズ社経由で業務を受注する可能性はないこと等に照らすならば、被告YKSC社が被告ソフトを使用して一般測量、丁張業務、成果業務(データ作成、図面・他成果)を行っていたとしても、これらの業務で得た利益を原告の逸失利益とする経験則は認められない。
 また、被告YKSC社は、被告ソフトを順次新製品に切り換え、平成22年9月中には全ての被告ソフトについて切換えを終了した。新製品は原告プログラムを複製又は翻案するものではないから、少なくとも平成22年10月以降は、被告YKSC社は被告ソフトにより利益は得ておらず、原告には損害が生じていない。」
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、本件各控訴はいずれも理由がなく、本件附帯控訴は一部につき理由があると判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」(原判決46頁6行目ないし67頁22行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決49頁20行目ないし24行目を以下のとおり訂正する。
 「原告プログラムは、ル・クローンという業務アプリケーション開発ソフトを利用して作成されたこと(弁論の全趣旨)、ル・クローンには、式、項を含め、記述の規則が細かく定められており、プログラムを作成するためには、同規則に従わなければならない制約があることが認められる(甲70、71、乙8、31)。しかし、前記のとおり、原告プログラムは、測量業務を行うためのソフトウェアに係るプログラムであり、39個のファイルからなり、実際に使用されている35個のファイルには合計で数百個を超えるブロックが設けられ、これらのブロックの中には合計で数千行を超えるプログラムのソースコードが含まれている。そして、上記の制約の下でも、測量業務に必要な機能を抽出・分類した上で、これをどのようなファイル形式に区分し、どのように関連付けるか、どのような関数を使用するか、各ファイルにおける処理機能のうち、どの範囲でサブルーチン化し、共通処理のためのソースコードを作成するか、各ファイル内のブロック群で受け渡しされるどのデータをデータベースに構造化して格納するかなどの点については、作成者の個性の表現が発揮されているから、原告プログラムは、創作性を有するといえる。また、上記の各点については、原告プログラム中にこれらの創作性を有するファイルの区分や関連付けなどが、ソースコードの具体的記述として表現されており、単なるアイデアや『解法』ではない。」
2 原判決53頁4行目の「プログラムとして機能する上で、その名称の違いに意味のないものであり、」を「ソースコードの記述において、変数名、フォーム名等にどのような名称を付するかは、プログラムとして機能する上で、それほど意味を持たないものであることからすると、」と訂正する。
3 原判決53頁10行目ないし13行目を以下のとおり訂正する。
 「(2) 上記事実関係によれば、被告プログラムのうち36個のファイルが原告プログラムの35個のファイルとほぼ1対1で対応し、かつ、被告プログラムの上記36個のファイルにおけるソースコードが原告プログラムの35個のファイルにおけるソースコードと、記述内容の大部分において同一又は実質的に同一である。このように、測量業務に必要な機能を抽出・分類し、これをファイル形式に区分して、関連付け、使用する関数を選択し、各ファイルにおいてサブルーチン化する処理機能を選択し、共通処理のためのソースコードを作成し、また、各ファイルにおいてデータベースに構造化して格納するデータを選択するなど、原告プログラムのうち作成者の個性が現れている多くの部分において、被告プログラムのソースコードは原告プログラムのソースコードと同一又は実質的に同一であり、被告プログラムは原告プログラムとその表現が同一ないし実質的に同一であるか、又は表現の本質的な特徴を直接感得できるものといえる。」
4 原判決54頁11行目の後に、行を改めて次のとおり加える。
 「また、被告らは、原告が、原告プログラムのソースコードと被告プログラムのソースコードに実質的な同一性があるなどと主張する部分は、そのほとんどが作成ソフト等による制約上、他の記載方法がない部分であり、複製又は翻案には該当しないと主張する。しかし、被告らの主張は、以下のとおり失当である。すなわち、被告プログラムのソースコードと原告プログラムのソースコードとを対比して、被告プログラムが原告プログラムと同一ないし実質的に同一である、又は表現の本質的な特徴を直接感得できる部分は、被告プログラムのソースコードを細分化した上で、作成ソフト等による制約上、記載方法の選択の余地のない部分のみに存在するのではなく、被告プログラムのソースコード中の、作成者において、記載方法における選択の余地があり、その個性を表現することが可能な部分においても存在するから、被告らの主張は理由がない。」
5 原判決56頁25行目の後に、行を改めて次のとおり加える。
 「なお、被告らは、被告YKSC社では、平成22年4月以降、被告ソフトを順次新製品に切り換えており、同年9月には全製品について切換えが完了し、現在『位置郎』という製品名で販売されているものの全てが新製品に変更されており、新製品は原告の著作権を侵害するものではないから、新製品に対する差止請求は認めるべきではないと主張する。
 証拠(乙28、29、40)によると、被告YKSC社は、被告ソフトとは別個の工事測量ソフトウェアを開発したことが推認されないではない。しかし、被告の主張に係る新製品について、被告ソフトと同一名称である『位置郎』として販売がされることは、社会通念に照らしても不自然であって、到底認めることはできないから、『位置郎』の製品名で販売している製品は全て被告ソフトに該当すると認めるのが相当である。」
6 原判決58頁4行目の「売上高を」を「売上高のうち、『位置郎リース』又は『データ作成』の項目が計上されている現場の売上高(黄色シート部分)及び『図面・他成果』の項目が計上されている現場の売上高(緑色シート部分)を」に訂正する。
7  原判決59頁20行目ないし60頁6行目を、次のとおり訂正する。
 「そうすると、被告YKSC社が実施した『一般測量』の一部は、被告ソフトを使用して行われたと認めるのが相当である。なお、被告ソフトを使用した一般測量には、被告ソフトを顧客にリースした後顧客に依頼されて一般測量を行う場合と、当初から一般測量を受注し、被告ソフトを使用して一般測量を行う場合とがあると考えられる。そして、前者の場合には『位置郎リース』の項目に売上が計上されるが、後者の場合には、通常は、測量費の中に位置郎の使用料も含まれており、『位置郎リース』の項目に、別途売上が計上されることはない。被告YKSC社の会社案内(甲16)6頁にも、『位置郎』解析サービスの説明中に、『『位置郎』のレンタル料金は、現場の測量費に含まれます。』と記載されている。上記諸事情からすると、被告ソフトを使用した被告YKSC社の一般測量業務による売上高は、別紙売上集計表の黄色シート部分及び緑色シート部分の一般測量欄記載の金額を合計した金額を基礎として、その20%を下らないと認めるのが合理的である。
 したがって、被告ソフトを使用した被告YKSC社の一般測量業務による売上高は、1926万2690円((32,802,150+63,511,300)円×0.2=19,262,690 円)を下らないと認められる。」
8 原判決60頁6行目の後に、行を改めて、次のとおり加える。
 「なお、被告らは、被告YKSC社の会社概要(甲16)には、被告ソフトを使用して現況測量を行うことができる旨の説明はなく、むしろ、被告ソフトは丁張業務において使用される旨の説明があり、また、被告ソフトは、測量結果のうち距離と角度を記憶する機能を有していないことから、一般測量を行っても、後に測量結果をデータ化したり、図面を作成したりすることができないのであって、被告YKSC社は、一般測量では被告ソフトは使用していないと主張する。
 しかし、被告らの上記主張は、以下のとおり採用できない。すなわち、被告YKSC社の会社概要(甲16)によると、被告ソフトを使用した『位置郎』解析サービスの内容として『ご要望に合わせて、丁張測量・縦横断測量・検査書類・電子納品など様々な場面でご協力いたします。』と記載されており、被告YKSC社のホームページ(甲17)には、『現場丁張システム『位置郎』 現場丁張・施工図 仮設設計・書類作成など・・多方面から建設現場をサポートします!』と記載され、また、同社のホームページ(甲75の1ないし75の4)にも、被告ソフトを使って構造物座標計算サービスを行う旨掲載され、被告ソフトについて『位置郎とは、施工現場に必要な工事測量(丁張など)の為の、測量システムのことです。』と、『位置郎PDAの特徴』として、『位置出ししたい点の角度と距離と高さや、機械を設置した位置と高さ・プリズムの高さなど、必要な情報が1画面に納まっており、いつでも簡単に設定を確認・変更できます。』と説明されており、以上によると、被告ソフトは、丁張測量において有効であるとしても、一般の測量を行い、その測量結果をデータ化したり、図面を作成したりする機能も有していると認められる。そうすると、一般測量の機能も有している被告ソフトを、一般測量では一切使用しないというのは不自然であり、一定割合で一般測量にも被告ソフトが使用されていたと認めるのが相当である。
 (d) 一般測量においては、事前の打合せや現地の確認、測量結果の検証等も行われることを斟酌すると(甲16)、「被告ソフトを使用したことによる売上高」は、「被告ソフトを使用した一般測量業務による売上高全体」に対する70%程度の寄与率をもって算定した額であると評価するのが相当である。したがって、被告ソフトを使用した一般測量業務中の被告ソフトを使用したことによる売上高は、1348万3883円(19,262,690 円×0.7=13,483,883 円)となる。」
9 原判決60頁21行目から61頁5行目までを、次のとおり訂正する。
 「(c) そこで検討するに、上記a認定の『『位置郎』解析サービス』の概要や、被告YKSC社による同サービスの宣伝において、同サービスは地形が複雑で、設置する丁張の数も多い現場に特有のサービスであるなどの説明は特段されていないことなどを考慮すると、被告YKSC社が行った丁張業務の大部分において、被告ソフトが使用されたと認められる。なお、丁張業務についても、被告ソフトを顧客にリースした後顧客に依頼されて丁張業務を行う場合と、当初から丁張業務を受注し、被告ソフトを使用して丁張業務を行う場合とが想定される。ところで、一般測量と同様に、前者の場合には『位置郎リース』の項目に売上が計上されるが、後者の場合には、通常は、丁張業務の費用に位置郎の使用料も含まれており、『位置郎リース』の項目には、売上が別途計上されることはないと認めるのが相当である。上記諸事情に照らすと、被告ソフトを使用した被告YKSC社の丁張業務による売上高は、少なくとも別紙売上集計表の黄色シート部分及び緑色シート部分の丁張業務欄記載の金額の合計額の80%を下らないと認めるのが相当である。
 したがって、被告ソフトを使用した被告YKSC社の丁張業務による売上高は、2425万1040円((22,427,800+7,886,000)円×0.8=24,251,040 円)を下らないと認められる。」
10 原判決61頁5行目の後に、行を改めて、次のとおり加える。
 「そして、丁張業務には、事前の打合せ等のほか、くい打ち等の作業も含まれることからすると(甲16、乙19、32)、被告ソフトを使用した作業による上記丁張業務売上高に対する寄与率は、一般測量業務の場合よりも低い60%と評価するのが合理的といえる。そうすると、上記売上高のうち被告ソフトの寄与による売上高は1455万0624円(24,251,040 円×0.6=14,550,624 円)を下らないと認められる。」
11 原判決61頁9行目の「黄色シート部分」の後に「及び緑色シート部分」を加える。
12 原判決62頁23行目から63頁3行目までを、次のとおり訂正する。
 「c しかし、被告らの主張は、以下のとおり失当である。すなわち、上記(アa認定の『『位置郎』解析サービス』の内容や、被告ソフトの構成、機能等に鑑みると、被告YKSC社は、上記成果業務を行う際に、一定程度被告ソフトを使用していたと認められる。なお、前記のとおり、『位置郎』解析サービスにおいて現況測量を行った場合には、被告ソフトのレンタル料金は改めて計上されないことからすると、『位置郎リース』の項目には売上が計上されていない場合でも、被告ソフトを使用して成果業務が行われている場合もあり得る。上記諸事情を考慮すると、別紙売上集計表の黄色シート部分及び緑色シート部分の成果業務による売上高のうちの少なくとも20%については、被告ソフトが使用された成果業務の売上高であると認めるのが相当である。」
13 原判決63頁4行目から7行目までを、次のとおり訂正する。
 「d したがって、被告ソフトを使用した被告YKSC社の成果業務(データ作成)による売上高は、黄色シート部分及び緑色シート部分のデータ作成欄記載の金額の合計額の20%である256万8800円((11,596,000+1,248,000)円×0.2=2,568,800 円)を下らないものと認められる。」
14 原判決63頁9行目の「黄色シート部分の図面・他成果欄記載の合計額の20%(19,936,300 円×0.2=3,987,260 円)」を、「黄色シート部分及び緑色シート部分の図面・他成果欄記載の金額の合計額の20%である1115万2113円((19,936,300+35,824,265)円×0.2=11,152,113 円)」に訂正する。
15 原判決63頁15行目の「199万3630円(3,987,260 円×0.5=1,993,630 円)」を「557万6056円(11,152,113 円×0.5=5,576,056(1円未満切り捨て)円)」に訂正する。
16 原判決63頁16行目の後に、行を改めて、次のとおり加える。
 「被告らは、成果業務においては、CADソフトウェア等のソフトや作業行為が相当程度寄与していると主張する。
 しかし、被告ソフトの構成、機能等に鑑みると、被告ソフトを使用した場合、成果業務(データ作成)は、主に被告ソフトの操作により行われると認められ、他のソフトウェアや作業行為も寄与していると認めるに足りる証拠はない。また、成果業務(図面・他成果)については、前記のとおり、他のソフトウェア等による寄与も考慮した上で、被告ソフトの貢献割合は50%を下らないと認めているのであって、他のソフトウェア等の寄与がそれ以上であると認めるに足りる証拠もない。」
17 原判決65頁12行目から13行目にかけての「2264万5665円(( 6,560,430 + 17,942,240 + 3,535,450 + 2,319,200 + 1,993,630 ) 円× 0.7 =22,645,665 円)」を、「2780万0369円((13,483,883+14,550,624+3,535,450+2,568,800+5,576,056)円×0.7=27,800,369(1円未満切り捨て)円)」と訂正する。
18 原判決65頁15行目の後に、行を改めて、次のとおり加える。
 「なお、被告らは、いわゆる限界利益を算定するに当たり、新たな人員の雇用や、その者に対する訓練、新たな機器の購入等に要する費用も斟酌すべきであると主張する。
 しかし、被告YKSC社は、被告ソフトを使用した業務以外にも、測量業等を行っており、そのために一定の人員や機器を備える必要があるのであって、被告ソフトを使用した業務を行うに当たり、上記の点に関して変動経費として費用を支出する必要性があると認めるに足りる証拠はない。
 また、被告らは、変動経費の認定に当たり、測量業務と土木工事業務とで区別すべきであると主張するが、前記認定の変動経費が測量業務に関する経費か土木工事業務に関する経費であるかを区別するに足りる証拠はなく、また、一般的には測量業務よりも土木工事業務の方が変動経費が大きいと考えられることからすると、測量業務に関して売上高から控除すべき変動経費を売上高の30%と認めるのは相当である。」
19 原判決65頁18行目から19行目にかけての「2264万5665円」を「2780万0369円」と訂正する。
20 原判決65頁21行目から22行目にかけての「662万7999円(22,645,665÷41×12=6,627,999 円)」を「813万6693円(27,800,369 円÷41×12=8,136,693(1円未満切り捨て)円)」と訂正する。
21 原判決65頁23行目ないし25行目を、次のとおり訂正する。
 「なお、被告らは、平成22年9月中にはすべての被告ソフトを新製品に切り換えたので、少なくとも同年10月以降は、被告YKSC社は被告ソフトにより利益は得ておらず、原告には損害が生じていないと主張する。しかし、前記のとおり、被告らが新製品を製作したことは推認されるものの、同年10月以降、新製品のみを使用し、被告ソフトは使用していないと認めるに足りる証拠はない。のみならず、仮に、同月中に被告ソフトが新製品に切り換えられているとしても、前記のとおり、上記の金額は平成21年9月1日から1年間に生じたと認められる損害額に相当するものであり、被告らは、平成21年9月1日から少なくとも1年程度は、被告ソフトを使用することにより、利益を得ていたと認められる。したがって、被告らの主張は理由がない。
 (ク)a 原告は、被告YKSC社は被告ソフトを使用したサービスを提供すること等を業とする会社であるから、被告ソフトの使用と無関係な業務による収益があることを立証しない限り、その収益は被告ソフトを使用したことによる収益であると認定すべきであると主張する。
 しかし、原告の主張は、以下のとおり採用できない。すなわち、被告YKSC社の会社案内(甲16)やそのウエブサイト(甲75の1ないし75の4)において、被告ソフトを中心とした宣伝広告をしていることや、前記認定の被告YKSC社の設立経緯等を斟酌したしてもなお、被告YKSC社の収益の全てが被告ソフトを使用したことによる収益であると認めることはできない。
 b 被告らは、侵害者が市販されているソフトウェアを著作権者に無断で複製等して自己の業務に使用した場合に、原告の損害と因果関係のある当該複製権等の侵害行為により侵害者が受けた利益は、当該市販ソフトの正規品の小売価額相当額に限定されるべきである旨主張する。
 しかし、被告らの上記主張は、以下のとおり失当である。すなわち、原告ソフトは、電子野帳で現況測量を行い、測量したデータを基に現況図、設計図を作成することを可能とする測量用ソフトであり、原告は、原告ソフトの販売のほか、原告ソフトをインストールした測量用機器の賃貸、原告ソフトを使用した測量業務(一般測量と丁張測量を含む。)や成果業務(データ作成、図面・他成果)等の業務を実施している(甲2、9、14、80ないし82)。したがって、被告らが、原告ソフトを複製又は翻案して被告ソフトを作成し、これを被告YKSC社の業務に使用したり、リース等をすることは、原告の上記業務に影響を与えるものと認められるから、被告YKSC社が被告ソフトを業務に使用したり、リースしたりしたことにより得た利益も、著作権法114条2項所定の「利益」に該当すると解するのが合理的である。
 また、被告YKSC社は被告ワイケイズ社の測量解析部を分社化した経緯等も総合考慮すると、被告YKSC社の受注が専ら被告ワイケイズ社によるものであることは、上記認定を覆すに足りる事情といえない。
 (ケ) 小括
 よって、被告YKSC社の利益の合計額は、3593万7062円となる。」
22 原判決67頁7行目の「300万円」を「350万円」に訂正する。
23 原判決67頁9行目から10行目にかけての「3227万3664円」を「3943万7062円」に訂正する。
24 原判決67頁13行目冒頭から14行目末尾を次のとおり訂正する。
 「1025万3719円(算定根拠については、別紙損害額算定表訂正分記載のとおり。以下同じ。)」
25 原判決67頁15行目冒頭から17行目末尾を次のとおり訂正する。
 「イ 平成20年8月31日を起算日とするもの
 1317万7478円」
26 原判決67頁19行目を次のとおり訂正する。
 「714万9204円」
27 原判決67頁20行目ないし22行目を次のとおり訂正する。
 「エ 平成23年11月28日(本件訴訟の口頭弁論終結日)を起算日とするもの
 885万6661円」
第4 結論
 以上のとおり、本件各控訴はいずれも理由がなく、本件附帯控訴は主文第5項の限度で理由があり、その余は当審で拡張した分を含めて理由がないので、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 知野明


別紙 被告製品目録
 製品名「位置郎」として製造、使用されているソフトウェア
  以上

別紙 損害額算定表訂正分
1 1期(平成18年8月31日終了事業年度)及び2期(平成19年8月31日終了事業年度)について
(1) 被告YKSC社の利益相当額
 ・ 一般測量業務 (1,405,000+10,321,150+2,870,000+11,559,050)×0.2×0.7×0.7=2,563,209(円)(1円未満は切り捨て。以下同様とする。)
 ・ 丁張業務 (800,000+8,620,250+510,000+2,197,000)×0.8×0.6×0.7=4,074,756(円)
 ・ 位置郎リース (160,000+2,126,400)×0.5×0.7=800,240(円)
 ・ データ作成 (1,020,000+4,205,000+160,000+545,000)×0.2×0.7=830,200(円)
 ・ 図面・他成果 (630,000+6,384,300+890,595+7,140,220)×0.2×0.5×0.7=1,053,158(円)
 ・ 小計 9,321,563(円)
(2) 弁護士費用相当額 932,156(円)
(3) 合計 10,253,719(円)
2 3期(平成20年8月31日終了事業年度)について
(1) 被告YKSC社の利益相当額
 ・ 一般測量業務 (11,559,000+26,998,550)×0.2×0.7×0.7=3,778,639(円)
 ・ 丁張業務 (9,567,550+4,519,000)×0.8×0.6×0.7=4,733,080(円)
 ・ 位置郎リース (2,561,500+24,000)×0.5×0.7=904,925(円)
 ・ データ作成 (4,446,000+300,000)×0.2×0.7=664,440(円)
 ・ 図面・他成果 (8,183,500+18,937,100)×0.2×0.5×0.7=1,898,442(円)
 ・ 小計 11,979,526(円)
(2) 弁護士費用相当額 1,197,952(円)
(3) 合計 13,177,478(円)
3 4期(平成21年8月31日終了事業年度)について
(1) 被告YKSC社の利益相当額
 ・ 一般測量業務 (9,517,000+22,083,700)×0.2×0.7×0.7=3,096,868(円)
 ・ 丁張業務 (3,440,000+660,000)×0.8×0.6×0.7=1,377,600(円)
 ・ 位置郎リース 2,199,000×0.5×0.7=769,650(円)
 ・ データ作成 (1,925,000+243,000)×0.2×0.7=303,520(円)
 ・ 図面・他成果 (4,738,500+8,856,350)×0.2×0.5×0.7=951,639(円)
 ・ 小計 6,499,277(円)
(2) 弁護士費用相当額 649,927(円)
(3) 合計 7,149,204(円)
4 5期以後(平成21年9月1日から本件訴訟の口頭弁論終結時まで)について
(1) 被告YKSC社の利益相当額 8,136,696(円)
 (3593万7062円から上記1〜3の利益相当額を控除した額)
(2) 弁護士費用相当額 719,965(円)
 (350万円から上記1〜3の弁護士費用を控除した額)
(3) 合計 8,856,661(円)
  以上
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