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【事件名】テレビ番組送信サービス事件(ロクラクU)(2)
【年月日】平成24年1月31日
 知財高裁 平成23年(ネ)第10011号 著作権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件
 (一審・東京地裁平成19年(ワ)第17279号、差戻前二審・知財高裁平成20年(ネ)第10055号、第10069号、
 上告審・最高裁平成21年(受)第788号)
 (平成23年10月12日 口頭弁論終結)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴を棄却する。
2 被控訴人(附帯控訴人)らの附帯控訴に基づき、第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人(附帯被控訴人)は、控訴人(附帯被控訴人)が運営する別紙サービス目録記載のサービスにおいて、別紙著作物目録記載1ないし4、4−2、5、5−2、6、7及び7−2の著作物を複製の対象としてはならない。
(2) 控訴人(附帯被控訴人)は、控訴人(附帯被控訴人)が運営する別紙サービス目録記載のサービスにおいて、別紙放送目録記載1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2、7−2、8−2、9−2、10−2及び11−2の放送に係る音又は影像を、録音又は録画の対象としてはならない。
(3) 控訴人(附帯被控訴人)は、別紙物件目録記載の器具を廃棄せよ。
(4) 控訴人(附帯被控訴人)は、別紙支払目録記載の各被控訴人(附帯控訴人)に対し、それぞれに対応する支払金額欄記載の各金員を支払え。
(5) 被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求(当審において変更された請求を含む。)をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1審、差戻前の第2審、上告審及び差戻後の当審(附帯控訴費用を含む。)を通じて、これを5分し、その3を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。
4 この判決は、第2項の(1)ないし(4)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
 当事者の表記について、控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)株式会社日本デジタル家電を「被告」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)日本放送協会を「原告NHK」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)日本テレビ放送網株式会社を「原告日本テレビ」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)株式会社静岡第一テレビを「原告静岡第一テレビ」と、脱退した被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)株式会社東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送)を「脱退原告TBS」と、その訴訟引受人株式会社TBSテレビを「原告TBS」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)静岡放送株式会社を「原告SBS」と、脱退した被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン)を「脱退原告フジテレビ」と、その訴訟引受人株式会社フジテレビジョンを「原告フジテレビ」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)株式会社テレビ静岡を「原告テレビ静岡」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)株式会社テレビ朝日を「原告テレビ朝日」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)株式会社静岡朝日テレビを「原告あさひテレビ」と、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)株式会社テレビ東京を「原告テレビ東京」といい、脱退原告TBSと脱退原告フジテレビを併せて「脱退原告ら」と、脱退原告らと原告日本テレビ、原告テレビ朝日、原告テレビ東京を総称して「脱退前原告東京局各社」と、原告日本テレビ、原告TBS、原告フジテレビ、原告テレビ朝日、原告テレビ東京を総称して「原告東京局各社」と、原告静岡第一テレビ、原告SBS、原告テレビ静岡及び原告あさひテレビを総称して「原告静岡局各社」と、原告NHK、原告東京局各社及び原告静岡局各社を併せて「原告ら」と、原告NHK、脱退前原告東京局各社及び原告静岡局各社を併せて「脱退前原告ら」という。第1審において用いられた略語は、特に断りのない限り、当審においてもそのまま用いる。
第1 請求
1 被告
(1) 第1審判決中、被告敗訴部分を取り消す。
(2) 原告らの請求(当審において変更された請求を含む。)をいずれも棄却する。
2 原告ら
 第1審判決主文第1項、第2項、第4項、第5項を次のとおり変更する(当審において請求を変更した部分を下線で示した。)。
(1) 被告は、被告が運営する別紙サービス目録記載のサービスにおいて、別紙著作物目録記載1ないし4、4―2、5、5―2、6、7及び7−2の著作物を複製の対象としてはならない。
(2) 被告は、被告が運営する別紙サービス目録記載のサービスにおいて、別紙放送目録記載1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2、7−2、8−2、9−2、10−2及び11−2の放送に係る音又は影像を、録音又は録画の対象としてはならない。
(3) 被告は、原告NHKに対し、5826万4260円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は、原告日本テレビに対し、2006万8705円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告は、原告TBSに対し、2006万8705円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告は、原告フジテレビに対し、1953万9352円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告は、原告テレビ朝日に対し、2006万8705円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8) 被告は、原告テレビ東京に対し、2006万8705円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9) 被告は、原告静岡第一テレビに対し、1179万8750円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(10) 被告は、原告SBSに対し、1179万8750円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(11) 被告は、原告テレビ静岡に対し、1179万8750円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(12) 被告は、原告あさひテレビに対し、1179万8750円及びこれに対する平成19年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要及び当事者の主張等
1 事案の概要
 第1審、差戻前の第2審、上告審、差戻後の当審の経緯は、以下のとおりである。
(1) 第1審
 原告らは放送事業者であり、脱退原告らは放送事業者であった者である。脱退前原告らは、被告が「ロクラクUビデオデッキレンタル」との名称で、インターネット通信機能を有する2台1組のハードディスクレコーダー「ロクラクU」のうち、1台を日本国内に設置し、テレビ放送に係る放送波をその1台に入力するとともに、これに対応する1台を利用者に貸与又は譲渡することにより、当該利用者をして日本国内で放送されるテレビ番組の複製又は視聴を可能にするサービス(別紙サービス目録記載のサービス。以下「本件対象サービス」という。)を行うことは、原告NHK及び脱退前原告東京局各社が著作権を有する別紙著作物目録記載の各テレビ番組(以下、番号順に「本件番組1」などといい、これらを総称して「本件番組」という。なお、後記のとおり、当審において本件番組には、本件番組4−2、5−2及び7−2が付け加えられた。)及び脱退前原告らが著作隣接権を有する別紙放送目録記載の放送(以下、番号順に「本件放送1」などといい、これらを総称して「本件放送」と、本件番組と本件放送を併せて「本件放送番組等」という。なお、後記のとおり、当審において本件放送には、本件放送1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2、7−2、8−2、9−2、10−2及び11−2が付け加えられた。)に係る音又は影像の複製に当たり、上記著作権(著作権法21条)及び著作隣接権(著作権法98条)を侵害するとして、本件番組を複製の対象とすること及び本件放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止め、本件対象サービスに供されているロクラクUの親機の廃棄を求めるとともに、損害賠償の支払を求めた。これに対し、被告は、本件サービス(親子機能を有する2台のロクラクUをセットにして、双方を有償で貸与するか、子機ロクラクを販売し、親機ロクラクを有償で貸与する事業。以下同じ)において、本件放送番組等の複製行為の主体は被告でないなどとして争った。
 第1審は、被告が本件放送番組等の複製行為を行っていることを認め、被告に対し、著作権(著作権法21条)及び著作隣接権(著作権法98条)に基づき、本件番組を複製の対象とすること及び本件放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止め、本件対象サービスに供されているロクラクUの親機の廃棄、並びに損害賠償請求の一部について認容し、その余の脱退前原告らの請求を棄却した。
 これに対し、被告が、第1審判決の取消しと脱退前原告らの請求の全部棄却を求めて控訴し、脱退前原告らが、第1審判決の脱退前原告ら敗訴部分の取消しと損害賠償請求の全部認容を求めて附帯控訴をした。
(2) 差戻前の第2審
 差戻前の第2審(知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10055号、第10069号事件)において、脱退原告フジテレビが脱退し、原告フジテレビが訴訟承継した。
 差戻前の第2審は、本件サービスは、利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な私的使用のための複製行為の実施を容易にするための環境、条件等を提供しているにすぎないものであって、被告が本件放送番組等の複製行為を行っているものとは認められないとして、第1審判決中、被告敗訴部分を取り消し、脱退前原告ら(ただし、脱退原告フジテレビが脱退し、原告フジテレビが訴訟承継人となっている。)の請求(附帯控訴部分を含む。)をいずれも棄却した。
 これに対し、上記脱退前原告らが、差戻前の第2審判決の取消しを求めて、上告(最高裁判所平成21年(オ)第680号)及び上告受理申立て(最高裁判所平成21年(受)第788号)をした。
(3) 上告審及び差戻後の当審
 最高裁判所は、平成22年10月28日、上記上告を棄却するとともに、上記上告受理申立てについて、これを受理する(ただし、原告NHKの上告受理申立て理由第4及び原告日本テレビ、原告静岡第一テレビ、原告SBS、原告フジテレビ、原告テレビ静岡、原告テレビ朝日、原告あさひテレビ及び脱退原告TBSの上告受理申立て理由第4ないし第6については排除する。)との決定をした。そして、最高裁判所は、平成23年1月20日、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(以下『サービス提供者』という。)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下『複製機器』という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である」として、本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく、上記脱退前原告らの請求を棄却した差戻前の第2審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、差戻前の第2審判決を破棄し、親機ロクラクの管理状況等について更に審理を尽くさせるため、本件を知的財産高等裁判所に差し戻した。
 差戻後の当審において、脱退原告TBSが脱退し、原告TBSが訴訟承継した。また、原告TBS、原告フジテレビ及び原告テレビ東京は、それぞれ本件番組4−2、5−2及び7−2を複製の差止請求の対象に追加した。さらに、原告らは、平成23年7月24日に地上波アナログ放送が停波したことに伴い、本件放送1、2、3、4、5、6、7、8、9、10及び11(以下、これらを総称して「本件アナログ放送」という。)に係る音又は影像の録音又は録画の差止請求を取り下げ、地上波デジタル放送である本件放送1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2、7−2、8−2、9−2、10−2及び11−2に係る音又は影像の録音又は録画の差止請求を追加した。そして、原告NHK及び原告東京局各社は損害賠償請求額を拡張し、原告静岡局各社は損害賠償請求額を減縮した。
2 争いのない事実等及び争点
 次のとおり訂正するほかは、第1審判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」、「1 前提となる事実等」(第1審判決3頁20行目ないし6頁14行目)、「2 争点」(第1審判決6頁15行目ないし19行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
 第1審判決3頁22行目を次のとおり改める。
 「原告らは、いずれも放送事業者であり、脱退原告らは、放送事業者であった者である。原告フジテレビは、脱退原告フジテレビの平成20年10月1日会社分割により設立され、そのグループ経営管理事業を除く一切の事業に関する権利義務を承継した。また、原告TBSは、平成21年4月1日、会社分割により、脱退原告TBSから同社のテレビ放送事業及び映像・文化事業に関する権利義務を承継した(弁論の全趣旨)。」
 第1審判決3頁26行目ないし4頁10行目を次のとおり改める。
 「(2) 原告NHK及び原告東京局各社の著作権
 原告NHK、原告東京局各社及び脱退原告らは、以下のとおり、平成16年1月1日以前から(ただし、本件番組5―2については平成20年10月4日から、本件番組7―2については平成17年2月11日から)、本件番組についての著作権を有し、又は有していた(甲19の1〜19の6、62の1、62の2、79)。
 原告NHK 本件番組1、2
 原告日本テレビ 本件番組3
 原告TBS(平成21年4月1日以前は脱退原告TBS) 本件番組4、4−2
 原告フジテレビ(平成20年10月1日以前は脱退原告フジテレビ) 本件番組5、5−2
 原告テレビ朝日 本件番組6
 原告テレビ東京 本件番組7、7−2」
 第1審判決4頁11行目ないし25行目を次のとおり改める。
 「(3) 原告らの著作隣接権
 原告ら及び脱退原告らは、以下のとおり、平成16年1月1日以前から、本件放送(なお、本件アナログ放送は、平成23年7月24日に停波した。)に係る音又は影像について著作隣接権を有し、又は有していた(弁論の全趣旨)。
 原告NHK 本件放送1、1−2、2、2−2
 原告日本テレビ 本件放送3、3−2
 原告TBS(平成21年4月1日以前は脱退原告TBS) 本件放送4、4−2
 原告フジテレビ(平成20年10月1日以前は脱退原告フジテレビ) 本件放送5、5−2
 原告テレビ朝日 本件放送6、6−2
 原告テレビ東京 本件放送7、7−2
 原告静岡第一テレビ 本件放送8、8−2
 原告SBS 本件放送9、9−2
 原告テレビ静岡 本件放送10、10−2
 原告あさひテレビ 本件放送11、11−2」
 第1審判決5頁13行目ないし18行目を次のとおり改める。
 「本件サービスの利用者は、同サービスを利用することによって、手元に設置した子機ロクラクを操作して、離れた場所に設置した親機ロクラクにおいて、地上波アナログ放送又は地上波デジタル放送を受信してテレビ番組を複製させ、複製した番組データを子機ロクラクに送信させ、子機ロクラクに接続したテレビ等のモニタに、当該番組データを再生して、複製したテレビ番組を視聴することができる(弁論の全趣旨)。」
 第1審判決5頁19行目ないし6頁8行目を次のとおり改める。
 「(5) 仮処分事件
 脱退前原告らは、平成18年5月17日、被告が、本件対象サービスにおいて、原告NHK及び脱退前原告東京局各社が著作権を有する番組(本件番組1、2、4、5、6、7を含む。)の複製、並びに、原告NHK及び原告静岡局各社が著作隣接権を有する放送(本件アナログ放送から本件放送3ないし7を除いたもの)に係る音又は影像の複製をそれぞれ行っていると主張して、被告を債務者として、著作権及び著作隣接権に基づく侵害差止仮処分命令の申立てをした。これに対し、東京地方裁判所は、平成19年3月30日、被告は、本件対象サービスを提供し、上記番組や放送に係る音又は影像の複製行為を行っており、上記著作権及び著作隣接権を侵害するとして、被告に対し、本件対象サービスにおいて上記番組を複製の対象とすること、及び上記放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止めを命ずる仮処分決定(以下「先行仮処分決定」という。)をした(甲25、弁論の全趣旨)。」
3 争点に対する当事者の主張
 次のとおり付加訂正するほかは、第1審判決の「事実及び理由」欄の「3 争点についての当事者の主張」(第1審判決6頁20行目ないし48頁16行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
 第1審判決7頁12行目「ロクラクUで」から13行目「のみである。」までを削除する。
 第1審判決12頁6行目ないし14行目を次のとおり改める。
 「(ア) 複製行為の主体について
 被告が提供するサービスは、日本国外など、原告らの放送対象地域でない地域に居住している利用者が、複製物によって、原告らの放送を視聴できるようにすることを目的とする有料のサービスであり、放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスに当たる。このようなサービス提供者が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、サービス提供者は、その複製の主体であると解される。この点、被告は、平成16年初めころから現在まで親機ロクラクの設置場所を提供し、親機ロクラクを管理、支配し、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力しており、放送番組等の複製行為の主体といえる。」
 第1審判決15頁7行目「本件サービスで」から9行目「限定されている。」までを次のとおり改める。
 「本件サービスで録画可能な放送は、被告が設定した範囲内の放送(被告の管理する設置場所所在の静岡県又は東京都で受信された地上波アナログ放送又は地上波デジタル放送)に限定されている。」
 第1審判決16頁8行目「したがって、」から11行目末尾を次のとおり改める。
 「したがって、被告の上記複製行為は、原告NHK、原告東京局各社及び脱退原告らの本件番組についての複製権(著作権法21条)、並びに原告ら及び脱退原告らの本件放送に係る音又は影像についての著作隣接権としての複製権(著作権法98条)をいずれも侵害する。」
 第1審判決19頁17行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「(ウ) 平成19年5月以降の親機の管理状況について
 平成19年5月当時、利用者は、予約申込時に「日本側の親ロクラク設置住所」の記載を要求されていたが、実際には、上記「設置住所」に親機ロクラクが設置されていなくても、日本の放送番組が視聴可能であった。また、親機ロクラクの設置場所については、利用者と家主なるものが直接契約を行う形式となっていたが、実際にはこれが行われることはなく、利用者は家主がいかなる者かも知らなかった。また、被告は、平成19年5月ころ、利用者に対し、親機ロクラクの設置場所や代金の支払方法等が変更になるとの連絡をしたが、利用者とNS社(NUSTAR SUPPLY SDN.BHD.(以下「NS社」という。)との間で契約が締結されたことはなかった。
 さらに、被告は、本件サービスについて、被告代理店FLP London Ltd.(以下「FLP社」という。)と連名で、親機ロクラクを被告側が管理する旨の広告を掲載したり、自ら、親機ロクラクの設置場所提供サービスについて、「お得で便利なプランも誕生し、いろいろご紹介できます」との広告を掲載したりしていた。そして、FLP社は、平成23年6月23日ころ、親機ロクラクのレンタルの申込説明書に「法律上日本の住所をお持ちの方がテレビ受信できることになっているため、登録に必ず必要となります。ご実家などの日本の住所をご記入ください。ただし、実際は東京のアパートをご契約していただく形で、親機のメンテナンスは日本の本社でいたしますのでご安心ください。」と記載したり、広告に「日本での設置も不要なので、実家の両親に迷惑をかけることもないので安心です。」と記載したり、顧客に対し、「実際には日本のロクラク側の方で一括管理させていただいています。」と説明するなどして、被告側が親機ロクラクの設置場所の提供を行っており、利用者による親機設置が不要であることを明らかにしていた。
 以上のとおり、被告は、本件サービス開始以降、現在に至るまで、親機ロクラクの管理を実質的に行っている。
(エ) 被告の主張に対し
 被告は、現在、ロクラクUのレンタル契約数は510台であり、そのうち9割の親機ロクラクがホライズン社(ホライズンパリテートサービス株式会社)に設置されているが、ホライズン社は、被告とは別個独立にハウジング業務を行っているにすぎないと主張する。しかし、被告がレンタルする親機ロクラクの利用者は、その設置・保管について、通常料金よりも50%以上安い料金でホライズン社を利用することができる。また、被告の関与なしに、9割の親機ロクラクがホライズン社に集約されること自体、不自然である。そうすると、被告は、ホライズン社を補助的に利用しているか、ホライズン社と意を通じて共同で親機ロクラクを設置・管理しているものといえる。
 仮に、ホライズン社が複製行為の主体と評価されるとしても、被告は、ホライズン社に対して親機ロクラクの供給をしたり、違法な預かりサービスを提供又は紹介する代理店との契約を継続するとともに、預かりサービスの宣伝を共同で行ったり、預かりサービスに供給されている親機ロクラクのメンテナンスを行っているのであるから、被告のこのような行為は、複製権侵害行為の幇助に当たる。
 また、被告は、本件レンタル機器では、利用者が子機ロクラクによって具体的な録画指示の操作をすることによって、初めて親機ロクラクが稼動し、録画指示の対象番組の放送時間中に限り、当該放送番組に係る放送波が入力される仕組みになっているのであって、放送波を受信したテレビアンテナと親機ロクラクが接続されたとしても、親機ロクラクに放送番組等に係る情報が入力されたとはいえない、と主張する。しかし、原告らの放送波は、それぞれ周波数によって分離された電波であるところ、それらの各放送波が準備状態となり、外部入力用のチャンネルが他のチャンネルにセットされているとしても、原告らの放送波が親機ロクラクに入力されていることに変わりはなく、単に抽出や増幅がされていないにすぎず、被告の上記主張は失当である。
 さらに、被告は、条件次第ではテレビアンテナと接続しなくてもテレビ番組を視聴することが可能であり、アンテナ接続行為は重要なものではない、と主張する。しかし、放送番組については、通常、テレビアンテナを接続しなければ視聴することができず、テレビアンテナを通じて放送番組等の情報が確保、供給されるのであるから、被告の上記主張は失当である。
 以上のとおり、被告は、現在も自ら親機ロクラクを設置、管理しているか、少なくともホライズン社と意を通じて共同で管理しており、本件放送番組等の複製の主体といえる。被告とその代理店及びホライズン社は、密接に関連しており、これらの者は、原告らに対する権利侵害に関し、共同不法行為責任を負う。」
 第1審判決24頁7行目から27頁22行目を次のとおり改める。
 「イ ロクラクUの設置場所等について
 本件サービスにおいては、利用者が自ら子機ロクラクを操作して録画指示を行うことにより、親機ロクラクで録画(複製)が行われることから、上記録画指示が録画(複製)の実現についての枢要な行為となっている。そうすると、本件において被告が複製の主体であるというためには、親機ロクラク及び子機ロクラクの両方、又は、少なくとも子機ロクラクを管理、支配下に置いていることが必要となる。この点、被告は、子機ロクラクについては本件モニタ事業開始当初から管理、支配下に置いていないし、親機ロクラクについては、下記のとおり、本件サービス開始以降、管理、支配下に置いていない。したがって、被告は、複製の主体であるとはいえない。
(ア) 平成16年初めころから平成17年3月まで
 被告は、平成16年初めころ、ロクラクUのレンタル事業化に先立つ無料モニタ事業を試験的に開始した。無料モニタ事業期間中、利用者に貸し出している親機ロクラクの9割程度が被告本社事業所内に設置されていた。
(イ) 平成17年3月以降
 被告は、平成17年3月、本件サービスを開始するに当たり、親機ロクラクの設置場所の提供を一切行わないこととした。このため、本件サービスの利用申込者は、親機ロクラクを、被告や取扱業者から送付ないし手渡しにより受け取り、その設置場所を、被告とは関係なく、任意に準備することとなった。また、被告は、無料モニタ事業時に被告本社事業所内に設置していた親機ロクラクについて、順次、利用者又は取扱業者から指示を受けた場所に移転した。
 なお、この当時、ロクラクUの取扱業者は、本件サービスの利用申込者から相談や希望があれば、親機ロクラクの設置場所を賃貸することができる不動産業者を紹介していたが、被告はこれに一切関与しておらず、設置場所に関する対価も得ていない。
(ウ) 平成18年1月10日の移動
 被告は、平成17年秋ころ、上記ビジネスモデルを徹底するため、利用者が親機ロクラクの移転先を指示せず、被告本社事業所内に親機ロクラクが残っているものについて、レンタル契約を終了することとした。これに対し、取扱業者は、上記利用者に係るレンタル契約の継続を望んでいたところ、平成18年1月10日、マレーシアの取扱業者であるDD社(DREAMS DELITE SDN.BHD.)の取りまとめにより、被告本社事業所内に残っていた親機ロクラクを全て搬出し、これを各取扱業者が提携した不動産業者であるNS社及びWORLD PROPERTIES & ASSET MANAGEMENT 社(以下「WP&AM社」という。)が準備した静岡県内の2か所に移動し、設置した。
(エ) 平成19年4月19日の移動
 東京地方裁判所は、平成19年3月30日、被告に対し、静岡県内の送信所を経由する放送を録画等の対象とすることを禁ずる先行仮処分決定をした。これを受けて、被告は、各取扱業者に対し、NS社等の不動産業者が静岡県内に準備した場所に設置している親機ロクラクについて、レンタル契約を解除するとの通知をした。DD社は、上記被告の通知を受けて、各取扱業者を取りまとめて、平成19年4月19日、静岡県内に設置されていた上記親機ロクラクを、被告とは無関係にNS社が借り受けて準備した東京都内の2か所(渋谷区内及び豊島区内)に移動し、設置した。
(オ) 平成19年10月以降
 NS社は、平成19年10月、親機ロクラクの上記設置場所(東京都内の2か所)の提供を終了することとしたが、DD社の斡旋で、上記設置場所の提供は、上記渋谷区内の物件の家主の関連会社であったホライズン社が引き継いだ。平成19年11月当時、ロクラクUのレンタル契約数743に対し、約700台の親機ロクラクがホライズン社に設置され、現時点においても、ロクラクUのレンタル契約数約510に対し、約450台の親機ロクラクがホライズン社に設置されている。このように、被告から利用者にレンタルされている親機ロクラクのうち約9割がホライズン社に設置されており、残りの約1割が利用者の自宅や他の不動産業者による設置場所に設置されている。
(カ) 以上のとおり、被告は、平成18年1月10日以降、親機ロクラクを設置、保管していない。このことは、平成18年4月当時、被告が開設したウェブサイト(以下「被告サイト」という。)上に、「弊社では親機のお預かりはいっさいできません。」と記載していたこと、利用者との間のレンタル契約書上で、「物件設置場所の確保は、お客様の責任において行うものとし、弊社は一切関与いたしません」と記載していたことなどからも明らかである。
 また、ホライズン社は、@平成11年10月に設立された株式会社(資本金1億4000万円)であり、その業務として、海外銀行との提携による金融業務等のほか、Slingbox、ロクラクなどのデジタル家電機器を利用者から預かり、機器の設置場所、テレビアンテナ、電源、高速ブロードバンド等を提供する有料の家電専用ハウジングサービスを行っていること、A被告とは、資本関係や人的関係のない別個独立の会社であること、B利用者との間でハウジング契約を締結し、自らハウジングに係る利用料を徴収しており、被告にはハウジングに係る利益の分配をしていないこと、C自ら賃借して管理権限を有する場所に親機ロクラクを設置していることからすれば、ホライズン社が、単独で親機ロクラクのハウジング事業を行っているのであって、被告がこれを管理、支配しているとはいえない。
 さらに、親機ロクラクは、設置作業自体が容易であること、稼動に必要なアンテナやインターネット環境が一般家庭等で十分に確保可能であること、特別な保守管理を必要としないことに照らすならば、ホライズン社が独自のハウジング事業によって占有保管している親機ロクラクについて、被告の管理支配性を認めることはできない。
 なお、原告らは、FLP社が作成した契約書や広告を根拠に、被告が親機ロクラクの設置場所の提供を実質的に行っている旨主張するが、FLP社は、被告とは別個独立にロクラクUに係るレンタルの勧誘等を行う取扱業者であり、上記契約書や広告はFLP社が独自に作成したものであって、これにより、被告が親機ロクラクの設置場所の提供を実質的に行っているとはいえない。」
 第1審判決31頁14行目の「なお、」から17行目末尾までを削除する。
 第1審判決32頁6行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「なお、最新のファームウェアに基づくプロトコルにおいては、Aの録画終了メールが省略され、録画終了メールを待たずに、子機ロクラクが番組データの移動を求めるメールを送信している。」
 第1審判決37頁2行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「キ 複製機器に対する情報の入力について
親機ロクラクは、通常時には、スタンバイ状態(電源は入っているが、消費電力や発熱を抑えるため、その機能の一部を停止している状態)になっており、この状態では、放送には使われていない外部入力用のチャンネル(関東地域の場合第2ch:96〜102MHz)に設定されている。スタンバイ状態では、親機ロクラクの受信装置(チューナー部)において、特定の放送波の抽出も、テレビ用のアナログ電気信号への変換も行われていない。他方、利用者が子機ロクラクにより録画指示をした放送番組の放送時間になると、子機ロクラクの当該指示によってMPU装置が始動し、その制御を受けて、親機ロクラクの受信装置(チューナー部)が録画指示対象の放送番組のチャンネルに設定される。上記のとおり、録画指示対象の放送番組の放送時間中だけ、受信装置(チューナー部)において当該放送番組のチャンネルの放送波が抽出され、テレビ用のアナログ電気信号に変換されて、アナログデジタル変換装置(NTSCデコーダ部)に送られることになる。そうすると、屋外アンテナに接続されたアンテナ端子と親機ロクラクがケーブルによって物理的に接続されていたとしても、これにより親機ロクラクに放送波が入力されるわけではなく、利用者が子機ロクラクによって具体的な録画指示の操作をすることによって初めて親機ロクラクが稼動し、録画指示の対象番組の放送時間中に限り、当該放送番組に係る放送波が入力されることになる。したがって、屋外アンテナによって放送波を受信することや、アンテナに接続されたアンテナ端子と親機ロクラクをケーブルによって物理的に接続する行為は、親機ロクラクに放送番組等に係る情報を入力するものではなく、放送波をアンテナで受信することやアンテナ接続行為は、放送番組等に係る情報の入力や複製の実現における枢要な行為には当たらない。さらに、テレビ放送は、受信装置(チューナー部)を屋外アンテナに接続しなくても、内蔵アンテナや屋内アンテナを利用することにより視聴が可能であるから、複製機器を屋外アンテナに接続することは、放送波を複製する準備行為の1つにすぎず、複製の実現における枢要な行為に当たらない。」
 第1審判決37頁3行目ないし44頁1行目を次のとおり改める。
 「(2) 争点2(原告らの損害の有無及びその金額)について
(原告らの主張)
ア 逸失利益
(ア) 著作権法114条2項に基づく請求
a 損害の発生
(a) 本件対象サービスは、原告らが行い、又は行っていた事業活動と競合するから、本件対象サービスにより、原告らに損害が発生しているといえる。
(b) 原告らを含むテレビ番組の著作権者及び著作隣接権者等合計15団体(原告NHK、原告東京局各社、日本民間放送連盟(原告NHKを除く原告らが会員となっており、脱退原告らも会員であった。)、日本映画製作者連盟、全日本テレビ番組製作社連盟、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、日本文藝家協会、日本音楽著作権協会、日本芸能実演家団体協議会及び日本レコード協会)は、共同して、放送番組著作権保護協議会(以下「放番協」という。)を設立し、放番協を通じて、在外邦人のために、原告らが日本国内で放送し、又は放送したテレビ番組を、低廉な使用料で視聴させる仕組み(以下「放番協認定ビデオ供給事業」という。)を構築している。
 その具体的な内容は、会員が権利を有するテレビ番組については、在外邦人向けのレンタルサービスの用に供するためであれば、レンタル用ビデオテープ1本当たり60円ないし120円の使用料の支払を受けることにより、当該ビデオの取扱業者に対して、認定ビデオとして許諾するものである。そして、放番協が集めた使用料は、予め定めた分配比率によって、会員に分配される。
 このように、放番協は、放番協認定ビデオ供給事業を通じて、在外邦人に対して適法にテレビ番組を視聴させることを可能として、そこから得られた使用料について、原告らを含む会員で分配するという一連のシステムを通じて、一定の利益を得ている。
 以上のとおり、被告が提供する本件対象サービスは、放番協認定ビデオ供給事業と競合関係にある。
(c) また、原告らは、第1審判決別紙「インターネット配信番組一覧表」のとおり、インターネットを通じて多数の番組を配信し、又は配信していた。さらに、原告らは、他のプロバイダその他の配信会社に有償で番組を提供しており、それらの配信会社等を通じてインターネット上で配信している番組もある。現時点では、これらの配信は、各放送局のウェブサイトへの誘導という広告目的で行われ、配信に対し課金をしていないものも少なくないが、技術的には課金制度を採用することができ、将来的には課金をすることが念頭に置かれている。
(d) この点について、被告は、著作権法114条2項が適用されるためには、著作権者が侵害者と同一の利用行為を現に行っていることが必要であると主張する。しかし、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があれば足りると解すべきであって、被告の上記主張は失当である。
b 損害額
(a) 著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害額
 被告は、本件対象サービスの提供に関して、本件対象サービスが有料化された平成17年3月10日以降、初期登録料3000円、レンタル料1か月8500円、ロクラクアパート代1か月2000円を利用者から徴収している。また、本件対象サービスの利用者は、平成17年3月10日から現在に至るまで、平均して500人を下回ることはない。さらに、本件対象サービスは、一度顧客を獲得すると、その後の追加経費等は生じないから、その利益率は90%を下らない。そして、本件対象サービスは、本件放送の受信を前提としており、本件対象サービスの提供に当たっては、本件放送に係る著作隣接権の権利処理が必要不可欠であり、著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による原告らの損害額合計は、被告の利益の2分の1を下らない。なお、親機ロクラクは、平成16年初めころから平成19年4月18日までは、静岡県内に設置されており、同月19日から現在に至るまで、東京都又はその近郊に設置されている。これを前提にすると、原告らの著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害額は以下のとおりである。
@ 平成17年4月1日から平成19年4月18日までの間の原告NHK及び原告静岡局各社の損害額
 原告NHK 1959万7500円(2波分)
 原告静岡局各社 各979万8750円
 (計算式)
 初期登録料 3,000(円)×500(人)=1,500,000(円)…@
 1か月当たりの売上 10,500(円)×500(人)= 5,250,000(円)…A
 被告の利益額{@+A×24(月)+A×18/30(月)}×90%=117,585,000(円)…B
 1放送波当たりの損害額(原告NHKは2波として計算) B×1/2×1/6=9,798,750(円)
A 平成19年4月19日から平成23年6月30日までの間の原告NHK及び原告東京局各社の損害額(脱退原告らの損害額を含む。)
 原告NHK 3402万円(2波分)
 原告東京局各社 各1701万円
 (計算式)
 1か月当たりの売上 10,500(円)×500(人)=5,250,000(円)…@
 被告の利益額{@×12/30(月)+@×50(月)}×90%=238,140,000(円)…A
 1放送波当たりの損害額(原告NHKは2波として計算) A×1/2×1/7=17,010,000(円)
(b) 複製権(著作権法21条)の侵害による損害額
 平成17年4月1日から平成23年6月30日までの間の複製権(著作権法21条)の侵害による原告NHK及び原告東京局各社の損害額(脱退原告らの損害額を含む。)の合計は、下記のとおり、被告の利益額の2分の1である1億7786万2500円を下らない。そうすると、1時間番組1番組当たりの損害額は、以下のとおり、105万8705円を下らない。また、30分番組1番組当たりの損害額は、52万9352円を下らない。
 (計算式)
 初期登録料 3,000(円)×500(人)=1,500,000(円)…@
 1か月当たりの売上 10,500(円)×500(人)= 5,250,000(円)…A
 被告の利益額の2分の1 {@+A×75(月)}×90%×1/2=177,862,500(円)…B
 1時間番組1番組当たりの損害額 177,862,500(円)÷7(日)÷24(時間)=1,058,705(円)(1円未満切捨て)…C
 30分番組1番組当たりの損害額 C×1/2=529,352(円) (1円未満切捨て)
 また、本件番組1、2、5及び5−2は、30分番組であり、その余の本件番組は、いずれも1時間番組である。さらに、本件番組2は、毎週月曜日から木曜日まで4回放送されており、その余の本件番組は、いずれも週1回放送されている。なお、本件番組4と4−2、7と7−2は、それぞれ放送期間が重複することから、当該番組については1番組分についてのみ損害賠償を請求する。
 これを前提にすると、原告NHK及び原告東京局各社の複製権(著作権法21条)の侵害による損害額(脱退原告らの損害額を含む。)は以下のとおりである。
 原告NHK 264万6760円(30分番組、5番組)
 原告日本テレビ、原告TBS、原告テレビ朝日、原告テレビ東京 各105万8705円(1時間番組、1番組)
 原告フジテレビ 52万9352円(30分番組、1番組)
(c) 以上によれば、著作権法114条2項に基づく損害額は、以下のとおりとなる。
 原告NHK 5626万4260円
  (19,597,500+34,020,000+2,646,760=56,264,260)
 原告日本テレビ 1806万8705円
  (17,010,000+1,058,705=18,068,705)
 原告TBS(脱退原告TBS分を含む。) 1806万8705円
  (17,010,000+1,058,705=18,068,705)
 原告フジテレビ(脱退原告フジテレビ分を含む。) 1753万9352円
  (17,010,000+529,352=17,539,352)
 原告テレビ朝日 1806万8705円
  (17,010,000+1,058,705=18,068,705)
 原告テレビ東京 1806万8705円
  (17,010,000+1,058,705=18,068,705)
 原告静岡局各社 各979万8750円
(イ) 著作権法114条3項に基づく請求
a 著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害額
 コンテンツの配信サービスにおいて、配信事業者から著作権者等の権利者に対して支払われる金額は、通常、当該権利者のコンテンツによって配信事業者が得た売上の70%を下らない。本件対象サービスの提供に当たっては、本件放送に係る著作隣接権の権利処理が必要不可欠であり、著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による原告らの損害額合計は、上記使用料相当額の2分の1を下らない。また、親機ロクラクは、平成16年初めころから平成19年4月18日までは、静岡県内に設置されており、同月19日から現在に至るまで、東京都又はその近郊に設置されている。これを前提にすると、原告らの著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害額(脱退原告らの損害額を含む。)は以下のとおりである。
(a) 平成17年4月1日から平成19年4月18日までの間の原告NHK及び原告静岡局各社の損害額
 原告NHK 1524万2500円(2波分)
 原告静岡局各社 各762万1250円
 (計算式)
 初期登録料 3,000(円)×500(人)= 1,500,000(円)…@
 1か月当たりの売上 10,500(円)×500(人)= 5,250,000(円)…A
 合計売上 @+A×24(月)+A×18/30(月)=130,650,000(円)…B
 1放送波当たりの損害額(原告NHKは2波として計算) B×70%×1/2×1/6=7,621,250(円)
(b) 平成19年4月19日から平成23年6月30日までの間の原告NHK及び原告東京局各社の損害額(脱退原告らの損害額を含む。)
 原告NHK 2646万円(2波分)
 原告東京局各社 各1323万円
 (計算式)
 1か月当たりの売上 10,500(円)×500(人)= 5,250,000(円)…@
 合計売上 @×12/30(月)+@×50(月)=264,600,000(円)…A
 1放送波当たりの損害額(原告NHKは2波として計算) A×70%×1/2×1/7=13,230,000(円)
b 複製権(著作権法21条)の侵害による損害額
 複製権(著作権法21条)の侵害による原告NHK及び原告東京局各社の損害額(脱退原告らの損害額を含む。)の合計は、上記使用料相当額の2分の1を下らない。そうすると、1時間番組1番組当たりの損害額は、以下のとおり、82万3437円を下らない。また、30分番組1番組当たりの損害額は、41万1718円を下らない。
 (計算式)
 初期登録料 3,000(円)×500(人)=1,500,000(円)…@
 1か月当たりの売上 10,500(円)×500(人)= 5,250,000(円)…A
 合計売上 @+A×75(月)=395,250,000(円)…B
 1時間番組1番組当たりの損害額 B×70%×1/2÷7(日)÷24(時間)=823,437(円)(1円未満切捨て)…C
 30分番組1番組当たりの損害額 C×1/2=411,718(円) (1円未満切捨て)
 また、本件番組1、2、5及び5−2は、30分番組であり、その余の本件番組は、いずれも1時間番組である。さらに、本件番組2は、毎週月曜日から木曜日まで4回放送されており、その余の本件番組は、いずれも週1回放送されている。なお、本件番組4と4−2、7と7−2は、それぞれ放送期間が重複することから、当該番組については1番組分についてのみ損害賠償を請求する。
 これを前提にすると、原告NHK及び原告東京局各社の複製権(著作権法21条)の侵害による損害額(脱退原告らの損害額を含む。)は以下のとおりである。
 原告NHK 205万8590円(30分番組、5番組)
 原告日本テレビ、原告TBS、原告テレビ朝日、原告テレビ東京 各82万3437円(1時間番組、1番組)
 原告フジテレビ 41万1718円(30分番組、1番組)
c 以上によれば、著作権法114条3項に基づく損害額は、以下のとおりとなる。
 原告NHK 4376万1090円
  (15,242,500+26,460,000+2,058,590=43,761,090)
 原告日本テレビ 1405万3437円
  (13,230,000+823,437=14,053,437)
 原告TBS(脱退原告TBS分を含む。) 1405万3437円
  (13,230,000+823,437=14,053,437)
 原告フジテレビ(脱退原告フジテレビ分を含む。) 1364万1718円
  (13,230,000+411,718=13,641,718)
 原告テレビ朝日 1405万3437円
  (13,230,000+823,437=14,053,437)
 原告テレビ東京 1405万3437円
  (13,230,000+823,437=14,053,437)
 原告静岡局各社 各762万1250円
(ウ) 著作権法114条の5に基づく請求
 仮に、原告らによる損害額の立証が困難であるとされた場合であっても、本件訴訟の口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を総合し、著作権法114条の5の規定に基づき、原告らに生じた相当な損害額が認定されるべきである。
イ 弁護士費用
 被告の複製権(著作権法21条)及び著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害行為により、原告らが負担させられた弁護士費用は、本件訴訟の提起に至るまでの警告、仮処分命令申立等の経緯等に鑑みれば、各自200万円を下らない。」
 第1審判決46頁19行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「(エ) 原告らは、被告の利益額を2分し、その1を著作隣接権者の損害とし、その余を著作権者の損害とする。しかし、両者を同額とする理由がないこと、網羅的な放送波には、レコード製作者や実演家の著作隣接権も含まれていることからすれば、原告らの算定方法に、合理性はない。また、原告らの損害が均一であるとする理由もないし、被告の利益額を1週間の時間数で除して、放送1時間ないし30分当たりの利益額を算出し、そこから原告らの損害額を算定する理由もない。」
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告は、本件放送番組等の複製の主体か)について
 上記第2の1の(3)記載のとおり、最高裁判所は、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(サービス提供者)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(複製機器)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。」、「複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である」等と判示して、本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等について、更なる審理を尽くさせる必要があるとした。
 当裁判所は、審理の結果、本件サービスにおける、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮すると、被告は、放送番組等の複製物を取得することを可能にする本件サービスにおいて、その支配、管理下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合におけるサービス提供者に該当し、したがって、被告は、本件放送番組等の複製の主体であると認定、判断すべきであると解した。
 その理由は、以下のとおりである。
(1) 事実認定
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア ロクラクUの親子機能を利用したテレビ番組の視聴方法
 被告は、ロクラクUを製造し、これを販売又は貸与している。ロクラクUは、2台の機器の一方を親機とし、他方を子機として用いることができる。親機ロクラクは、テレビチューナーを内蔵し、受信した放送番組等をハードディスクに録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して子機ロクラクに送信する機能を有し、子機ロクラクは、インターネットを介して、親機ロクラクにおける録画を指示し、その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け、これを再生する機能を有している。
 上記のとおり、ロクラクUの利用者は、親機ロクラクと子機ロクラクをインターネットを介して1対1で対応させることにより、親機ロクラクにおいて録画された放送番組等を親機ロクラクとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。その具体的な手順は、@利用者が、手元の子機ロクラクを操作して、親機ロクラクに対し、特定の放送番組等について録画の指示をする、Aその指示が、インターネットを介して対応関係を有する親機ロクラクに伝えられる、B親機ロクラクには、テレビアンテナで受信された放送が入力されており、上記録画の指示があると、指示に係る上記放送番組等が、親機ロクラクにより自動的にハードディスクに保存され、このデータがインターネットを介して子機ロクラクに送信される(送信後、このデータは、親機ロクラクから消去される。)、C利用者は、子機ロクラクを操作して、親機ロクラクから送信されてきた上記データを再生し、当該放送番組等を視聴することができる、というものである。
 ロクラクUの親子機能を利用するためには、親機ロクラク側において、テレビアンテナの接続環境、電源供給環境及び高速インターネットの接続環境が必要であり、子機ロクラク側において、電源供給環境及び高速インターネットの接続環境が必要である(甲2の1〜2の35、3の1〜3の28、4の1〜4の28、8の1〜8の15、21、24の1〜24の25、31、39、乙34)。
イ 本件モニタ事業
 被告は、平成16年初めころ、無料のモニタを募集し、これらのモニタを対象として、親子機能を有するロクラクUビデオデッキのセットをレンタルする本件モニタ事業を開始した。本件モニタ事業の具体的な内容は、@被告は、「ロクラクUビデオデッキレンタル」という名称の賃貸事業の試行のため、ロクラクU2台を無料で貸し出す、A利用者は、1台のモニタ機器(子機ロクラク)を日本国外の手元に設置し、他の1台のモニタ機器(親機ロクラク)を日本国内に設置する、Bこれにより、利用者は、日本国内のテレビ番組を録画し、手元のモニタ機器で再生することができる、C日本国内に設置するモニタ機器については、利用者から特段の申出がない限り、被告において設置場所を提供し、その場合、静岡県浜松市において通常受信できる放送のみが対象となる、Dこの設置場所の提供には、番組受信ないしインターネット接続のための設備の提供も含まれる、というものであり、利用者としては、日本国外在住の日本人が想定されていた。
 本件モニタ事業が行われていた当時、利用者が別途設置場所を申し出た例外的な場合を除き、ほとんどの親機ロクラクは、静岡県浜松市内の被告本社事業所内に設置、保管され、同所において、電源が供給され、高速インターネット回線に接続されるとともに、分配機等を介して、テレビアンテナに接続されていた(甲23、30、31、弁論の全趣旨)。
ウ 原告NHKによる警告等
 原告NHKは、平成16年6月16日付けで、被告に対し、本件サービスは、放送番組の複製行為に当たり、原告NHKの著作権及び著作隣接権を侵害するとして、本件サービスの中止、本件サービスに供している機器類の廃棄を求める内容証明郵便を送付した。これに対し、被告は、平成16年7月2日付け及び同月21日付け内容証明郵便で、原告NHKに対し、本件サービスは、借主個人が被告から貸与された機器を使用して放送番組を私的な目的で複製するものであり、被告は複製の主体ではないとの回答をした。その後も、原告NHKは、平成18年3月10日ころまで、被告との間で、代理人弁護士を介して、本件サービスの中止等に関する交渉を続けたが、解決に至らなかった。また、脱退前原告東京局各社も、平成17年6月9日、原告NHKと連名で、被告に対し、本件サービスの中止を求める内容証明郵便を送付した(甲6の1の1、6の1の2、6の2〜6の11、6の12の1、6の12の2、6の13、6の14、6の15の1、6の15の2、6の16〜6の21)。
エ 本件サービス開始前の告知
 被告は、平成16年8月ころ、被告サイト上に、「ロクラクUビデオデッキレンタル」を利用して、日本国外在住の利用者が日本のテレビ番組を視聴するサービスに関し、「日本のテレビ番組を録画する為に日本国内に設置するロクラクUにはアンテナ接続が必要です。海外のご自宅のロクラクUから番組の録画予約・転送をする為に日本国内で設置するロクラクUにはインターネット接続が必要です。日本国内に設置場所がないお客様には、日本国内のロクラクUの設置場所として、当社ハウジングセンターのご利用をおすすめします。」(甲4の1)、「オプショナル契約(設置場所の提供) レンタル機器を2台レンタルされるお客様のうち、特にご希望がある場合には、別途、レンタル機器1台の設置場所を提供する付加契約(オプショナル契約)を締結することができます。同契約の内容には、特にお客様から不要である旨の申し出がない限り、設置場所での番組受信ないしインターネット接続のための設備の提供も含まれますが、当社は、インターネット通信回線及びテレビ放送受信アンテナなどの提供される設備に関し、その品質や性能を何ら保証するものではありません。・・・オプショナル契約に基づきお客様に提供する設置場所において、お客様が地域的に受信できる放送は、静岡県浜松市において通常受信できる放送のみとなります。」(甲4の14)、「お客様には、日本のお預かりセンターに設置するお客様個人のロクラクUをレンタルしていただきます。この日本側のロクラクUは日本のお預かりセンターに設置し、インターネット接続やテレビ放送番組を受信するために必要な環境をご用意いたします。」(甲8の4)、「ロクラクU・レンタルサービスは、日本側ハウジングセンターのインターネット通信回線・テレビ番組受信の為のアンテナ等の設備及び、インターネット利用の為の費用に付きましては無償で提供されるものです。」(甲8の11)などと記載し、被告自ら親機ロクラクの設置場所を提供するサービスを予定している旨告知していた。
オ 本件サービスの開始等
(ア) 本件サービスの開始
 被告は、平成17年2月末ころ、本件モニタ事業を終了し、同年3月10日ころから、有料でロクラクUのレンタルを行う本件サービス(親機ロクラクと子機ロクラクの両方をレンタルする方法と、子機ロクラクを販売し親機ロクラクをレンタルする方法が用意されていた。)を開始した。この際、本件モニタ事業により、無料でロクラクUの貸与を受けていた者には、被告から子機ロクラクにメールが送信され、平成17年3月9日までに子機ロクラクを返却しない場合、有料の本件サービスへ自動的に移行する旨通知された(甲9、31)。
(イ) レンタル規約
 被告が作成したロクラクUのレンタル規約には、親機ロクラク及び子機ロクラクの双方をレンタルするサービスについて、@機器の設置場所の確保は利用者が行うが、被告において当該設置場所が不相当と判断した場合には別の設置場所を登録しなければならないこと、A被告は、性能や機能の維持向上のため、定期的に機器のメンテナンスを行うこと、B標準モデルでは、レンタル料金等として、初期登録料3000円、1か月のレンタル料8500円を要するほか、保証金(預かり金)として、子機ロクラク1台につき5万円、親機ロクラク1台につき10万円を要すること、C支払はクレジットカードで行うこと、Dただし、上記親機ロクラクの保証金は、設置場所の安全度が被告の基準に適合すれば不要であること、などが定められていた。また、子機ロクラクを販売し親機ロクラクをレンタルするサービスについては、標準モデルでは、レンタル料金等として、初期登録料3000円、1か月のレンタル料6500円を要するほか、保証金(預かり金)として、親機ロクラク1台につき10万円を要すること、ただし、上記親機ロクラクの保証金は、設置場所の安全度が被告の基準に適合すれば不要であることなどが定められているほか、上記@、A、Cと同様の規定がされていた(甲2の7、2の8、2の12、2の14、24の9)。
カ 取扱業者ないし代理店の役割
 本件サービスについては、取扱業者又は代理店と称される仲介業者(以下「取扱業者等」という。)が、主として日本国外において、本件サービスの利用を勧誘したり、親機ロクラクの設置場所を斡旋するなどしており、これに対し、取扱業者等は、被告から一定の金員を受領している(DD社の場合、仲介した利用者の月々のレンタル料の約20%を受領している。)。被告は、被告サイト内で、本件サービスの取扱業者等を募集しており、その募集地域は、日本のほか、ヨーロッパ、アジア、オセアニア、北米及び南米と広範囲にわたっている。取扱業者等は、日本国外の情報誌等に、単独名義又は被告と共同名義で本件サービスの広告を掲載しており、その際、被告が使用する「NYX」との標章を使用する取扱業者等もある(なお、NYX INTERNATIONAL PTE.LTD.(以下「NI社」という。)は、被告代表取締役が株主かつ取締役であるシンガポールの会社である。)。取扱業者等は、被告本社事業所に集まり、活動報告をすることもあった(甲1、2の1、2の17、4の16〜4の18、5の2〜5の7、10、12、31、39、74〜77、乙3)。
キ 親機ロクラクの設置に関する取扱いの変更等
 平成17年夏ころ(平成17年6月16日より後)、本件サービスの申込みをしたある者は、当初、取扱業者等から、親機ロクラクを静岡県内において預かる場合には保証金等が不要であるとの説明を受け、この取扱いに同意し、静岡県内で放送されるローカル番組を含むテレビ番組を視聴していた。その後、子機ロクラクの操作画面上にある「NYX からのお知らせ」に、「Nustar Supply 不動産よりお知らせ」として、親機ロクラクの設置場所用のアパート賃貸情報が送信された。上記利用者が、設置場所の賃借の申込みを子機ロクラクの操作により行うと、それ以降、レンタル料とは別に、賃料が、既に被告に提供していたクレジットカード情報に係るクレジットカードにより決済され、「Nustar Supply レントダイ」との支払先・費目の下に支払われるようになった。クレジットカード決済の収納代行サービス会社であるSBIベリトランス株式会社と収納代行サービス契約を締結した者は、当初は、「Nustar Supply レントダイ」との名称を用いた被告であったが、平成18年7月10日に株式会社日本コンピュータ(以下「日本コンピュータ」という。)に変更され、その後の平成19年3月31日に上記の契約は解約された。日本コンピュータは、本社事業所が静岡県浜松市●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●にあり、被告本社事業所とは同一フロアの隣り合わせであり(出入口は別であるが、喫煙室は共用であり、喫煙室を介して互いの往来は可能である。)、その代表取締役は、被告の代表取締役と同一であり、他の2名の取締役も被告の取締役及び監査役が務めるほか、被告にロクラクUのOEM 供給を行い、「録楽」、「ロクラク」、「ろくらく」及び「ROKURAKU」の横書きの4つの単語を上から4段に重ねた商標の商標権者である(甲10、13の1、13の2、14の1、14の2、15〜17、乙9、16)。
 なお、ハウジング業者は、特定の利用者とのレンタル契約に基づき、その者のために、親機ロクラクを管理、保管するが、当該レンタル契約が終了した後も、他の利用者が新規レンタル契約をすることに備えて、引き続き親機ロクラクの管理、保管を継続する例もある。そのような場合に、ハウジング業者が、被告ないし取扱業者から、賃料等の支払を受けたとの事実は認められない(乙37、弁論の全趣旨)。
ク 取扱業者等の顧客対応
 Aは、被告サイトに掲載されていた電子メールアドレス宛てに、シンガポールにおける本件サービスについて問い合わせをしたところ、その回答は、NI社からされた。さらにその後、平成18年7月13日、上記Aは、本件サービスに関連して、NI社からの電話を受けたが、着信履歴に残された電話番号は、静岡県内にある被告事業所の電話番号と同一であった(甲11)。
 また、平成23年5月ころ、本件サービスについて、FLP社に電話で問い合わせをしたある者は、担当者から、日本側に置いてある親機ロクラクは、「日本のロクラクの方で一括管理」しており、その管理費は月々2100円であること、契約の際、親機ロクラクの設置場所として、利用者の日本における住所(実家等)を申告する必要があるが、実際には、被告側で一括管理するとの説明を受けた。そして、後日、FLP社から送付されて来た、ロクラクレンタルの申込説明書(甲71)には、「法律上日本の住所をお持ちの方がテレビ受信できることになっているため、登録に必ず必要となります。ご実家などの日本の住所をご記入ください。ただし、実際は東京のアパートをご契約していただく形で、親機のメンテナンスは日本の本社でいたしますのでご安心ください。」との記載がされていた(甲68〜73)。
ケ 親機ロクラクの販売等
 被告サイトには、第1審判決前、親機ロクラク及び子機ロクラクのセットを業務用(インターネットビデオ事業用)として販売するとの記載はあるが、一般利用者向けに販売するとの記載はなかった。また、第1審判決後の被告サイトには、親機ロクラク及び子機ロクラクのセットを販売する旨の記載はあるものの、その販売価格は39万8000円であった(甲2の35、60の4、乙36の1〜36の3、弁論の全趣旨)。
(2) 判断
 上記認定した事実に基づいて判断する。
 まず、ロクラクUは、親機ロクラクと子機ロクラクとをインターネットを介して1対1で対応させることにより、親機ロクラクにおいて受信した放送番組等を別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる機器であり、親機ロクラクは、設置場所においてテレビアンテナを用いて受信した放送番組等をハードディスクに録画し、当該録画に係るデータをインターネットを介して、子機ロクラクに送信するものであって、ロクラクUは、親子機能を利用するに当たり、放送番組等を複製するものといえる。
 また、被告は、上記のような仕組みを有するロクラクUを利用者にレンタルし、月々、賃料(レンタル料)を得ている(なお、被告は、第1審判決前の時点において、一般利用者に対し、親機ロクラクと子機ロクラクの双方を販売していたとは認められないのみならず、同判決後の時点においても、親機ロクラクと子機ロクラクのセット価格が39万8000円と高額に設定されていることからすれば、親機ロクラクと子機ロクラクの双方を購入する利用者は、ほとんどいないものと推認される。)。そして、日本国内において、本件サービスを利用し、居住地等では視聴できない他の放送エリアの放送番組等を受信しようとする需要は多くないものと解されるから、本件サービスは、主に日本国外に居住する利用者が、日本国内の放送番組等を視聴するためのサービスであると解される。
 さらに、本件サービスは、利用者が、日本国内に親機ロクラクの設置場所(上記のとおり、電源供給環境のほか、テレビアンテナ及び高速インターネットへの接続環境を必要とする。)を確保すること等の煩わしさを解消させる目的で、サービス提供者が、利用者に対し、親機ロクラクの設置場所を提供することを当然の前提としたサービスであると理解できる。
 そして、被告は、本件モニタ事業当時には、ほとんどの親機ロクラクを被告本社事業所内に設置、保管し、これに電源を供給し、高速インターネット回線に接続するとともに、分配機等を介して、テレビアンテナに接続することにより、日本国外に居住する利用者が、日本国内の放送番組等の複製及び視聴をすることを可能にしていたことが認められる。また、被告は、本件サービスにおいて、当初は、親機ロクラクの設置場所として、被告自らハウジングセンターを設置することを計画していたこと、ところが、被告は、原告NHKらから、本件サービスが著作権侵害等に該当する旨の警告を受けたため、利用者に対し、自ら或いは取扱業者等をして、ハウジング業者等の紹介をし、ロクラクUのレンタル契約とは別に、利用者とハウジング業者等との間で親機ロクラクの設置場所に係る賃貸借契約を締結させるとの付随的な便宜供与をしたこと、親機ロクラクの設置場所に係る賃料については、被告自ら又は被告と密接な関係を有する日本コンピュータにおいて、クレジットカード決済に係る収納代行サービスの契約当事者になり、本件サービスに係る事業を継続したことが認められる。
 上記の複製への関与の内容、程度等の諸要素を総合するならば、@被告は、本件サービスを継続するに当たり、自ら、若しくは取扱業者等又はハウジング業者を補助者とし、又はこれらと共同し、本件サービスに係る親機ロクラクを設置、管理しており、また、A被告は、その管理支配下において、テレビアンテナで受信した放送番組等を複製機器である親機ロクラクに入力していて、本件サービスの利用者が、その録画の指示をすると、上記親機ロクラクにおいて、本件放送番組等の複製が自動的に行われる状態を継続的に作出しているということができる。したがって、本件対象サービスの提供者たる被告が、本件放送番組等の複製の主体であると解すべきである。
(3) 被告の主張に対して
 被告は、本件サービス開始以降、親機ロクラクの設置、保管は、取扱業者等の仲介により、NS社、WP&AM社及びホライズン社等のハウジング業者が行っており(現在レンタルされている親機ロクラクの約9割がホライズン社に設置されている。)、被告は、本件モニタ事業時に被告本社事業所に設置された親機ロクラクが全て他所に移動された平成18年1月10日以降、親機ロクラクの設置、保管には関与しておらず、設置場所に関する対価も得ていないと主張する。
 しかし、被告の上記主張は、以下のとおり、採用することができない。
ア 被告は、先行仮処分決定を受けて、各取扱業者等に対し、NS社等のハウジング業者が静岡県内に設置、保管していた親機ロクラクについて、レンタル契約を解除する旨の通知をし、これを受けた、DD社の取りまとめにより、静岡県内に設置された親機ロクラクは、平成19年4月19日、被告とは無関係にNS社が借り受けて準備した東京都内の2か所(渋谷区内及び豊島区内)に移動、設置されたと主張し、これを裏付ける証拠として、被告作成名義の「静岡県内の親機ロクラクの移動について」と題する書面(平成19年4月6日付け、乙10)、DD社作成名義の「親機ロクラクの東京移動日程とお願い」と題する書面(同月13日付け、乙11)、スカッシュ社作成名義の「デジタル家電電器・取外し・移動・設置・報告書」(同月20日付け、乙13)、「親機ロクラク東京移動のご報告」と題する書面(同月24日付け、乙12)、取扱業者等5社作成名義の「親機ロクラクの静岡県内設置の有無についてのご照会」に対する回答書(乙15)等を提出する。
イ このうち、被告作成名義の「静岡県内の親機ロクラクの移動について」と題する書面(平成19年4月6日付け)には、「仮処分決定履行のため4月末までに、以下の徹底をお願いします。(再連絡)」、「依頼内容:静岡県内からの親機ロクラクの移動(すでに依頼済み内容です)」、「裁判所の差止め命令により、静岡県内の地上波アナログ放送を親機ロクラクで録画することが禁止されました。速やかに、静岡県内にあるすべてのお客様の親機ロクラクを静岡県外に移動させて下さい。」との記載がある(乙10)。また、DD社作成名義の「親機ロクラクの東京移動日程とお願い」と題する書面(同月13日付け)には、「弊社にて、静岡県内に設置されていると判明した、全ての親機ロクラクは、4月19日(木曜日)に、前回と同じ業者を使って東京都内に移動する予定です。今回は、業者に移動実施過程詳細な書面報告を委託しましたので、移動後8日以内に、移動実施の過程を書面にてご報告致します。従いまして報告期限の4月27日(金曜日)までは、一方的なレンタル契約の解約をされないことを強く要望致します。」との記載がある(乙11)。さらに、スカッシュ社作成名義の「デジタル家電機器・取外し・移動・設置・報告書」(同月20日付け)には、写真とともに、同月19日に、浜松においてレンタカーを手配し、浜松市内の2か所(判決注・有限会社スター電子工業とスカッシュ社)でロクラクUの取外し作業を行い、東京都内の2か所に移動、設置した旨の説明が記載されており(乙13)、DD社作成名義の「親機ロクラク東京移動のご報告」と題する書面(同月24日付け)には、東京都豊島区●●●●●●●●及び東京都渋谷区●●●●●●●●●に親機ロクラクを移動した旨が記載されている(乙12)。そして、DD社を含む取扱業者等5社が作成した「親機ロクラクの静岡県内設置の有無についてのご照会」に対する回答書には、平成19年4月23日ないし同月24日時点において、静岡県内に親機ロクラクを設置している利用者がいない旨記載されている(乙15)。
ウ しかし、上記各証拠は、いずれも被告とその関係者との間の内部的な文書にすぎず、仮にこれが作成名義人により作成日付の日に作成されたものであるとしても、その記載内容が直ちに事実であると推認することはできない上、上記各証拠に記載された内容は、以下のとおり、到底採用することができない。
 すなわち、原告TBSの従業員が、平成19年6月14日ころ、スカッシュ社作成名義の報告書(乙13)において、静岡県内で親機ロクラクを取り外した場所として記載された2か所を訪問したところ、スター電子工業の事務員は、ロクラクを製造したことは何度かあるが、預かったことはないなどと述べ、同社代表取締役Bは、「何も答えられない」、「いろいろなことがあるので、この場で回答はできないが、後で文書で質問して貰えば回答する」、「ロクラクを作ったことは認めるが、日本デジタル家電とは取引がないし、知らない」などと述べていた(なお、スター電子工業のホームページには、取引先として日本コンピュータが記載されている。)。また、スカッシュ社の代表取締役Cは、業務として行っているものは、同人がアルバイト的に請け負ったPTAの会報等の印刷くらいであり、コンピュータ機器の管理や運送等の業務については一切行っていない、夫であるDは、別の仕事をもっており、スカッシュ社としての仕事はしていない、スカッシュ社作成名義の「デジタル家電電器・取外し・移動・設置・報告書」(乙13)は全く知らない、ロクラクUを管理、保管したことはなく、被告やDD社も知らない、などと述べていた(甲32)。
 また、上記報告書(乙13)におけるレンタカーは、スカッシュ社名義で借りられているが、実際にレンタカーを借りたのは、上記のとおり被告と密接な関係を有する日本コンピュータの従業員であるEであった(甲34の1、34の2、35)。
 なお、スター電子工業は、被告代理人からの弁護士法23条の2第1項に基づく照会に対しては、同社は、平成18年1月から平成19年4月までの間、ニュースターサプライと名乗る会社に対して、事務所の一部を賃貸し、そこにロクラクUが置かれていたなどと回答している(乙33の1〜33の3)。また、スカッシュ社も、上記と同様の照会に対し、DD社からの要請でマレーシアの会社に自宅の一部を貸す仲介をし、平成18年1月から平成19年4月までの間、自宅にロクラクUが置かれていたなどと回答している(乙32の1〜32の3)。しかし、スター電子工業及びスカッシュ社の上記回答の内容は、原告TBSの従業員が訪問した際の状況等に照らすならば、採用することはできない。
 さらに、原告テレビ朝日の従業員は、平成19年12月21日、上記スカッシュ社作成名義の報告書(乙13)及びDD社作成名義の報告書(乙12)において、親機ロクラクの東京都内の設置場所として記載された2か所のうちの1つである豊島区●●所在のクロスワン社を訪問した。この際、クロスワン社の代表取締役Fは、平成19年6月ころに約1か月間、ロクラクUと思われる機器を50台ほど預かったが、箱から出して棚に並べていただけで、上記機器は電源やテレビアンテナに接続していない、などと述べていた(甲38)。
エ 以上によれば、被告提出の上記各証拠は、客観的な事実や関係者の供述と齟齬する部分があり、採用することができない。被告は、第1審において、脱退前原告らのみならず、裁判所からも、親機ロクラクの具体的設置状況について明らかにするよう求められながら、信用性に乏しい上記各証拠の提出を繰り返しており、このような不誠実な訴訟態度に照らしても、被告の親機ロクラクの設置場所に関する上記主張を採用することはできない。
(4) 小括
 以上のとおり、被告は、本件サービスを継続するに当たり、自ら、若しくは取扱業者等又はハウジング業者を補助者とし、又はこれと共同し、本件サービスに係る親機ロクラクを設置、管理しており、その管理支配下において、テレビアンテナで受信した放送番組等を複製機器である親機ロクラクに入力していて、本件サービスの利用者が、その録画の指示をすると、上記親機ロクラクにおいて、本件放送番組等の複製が自動的に行われる状態を作出しているということができる。したがって、本件対象サービスの提供者たる被告が、本件放送番組等の複製の主体であると解すべきである。
 本件においては、被告は、利用者から親機ロクラクの設置場所に関する対価を、直接的に受領しているか否か、また、本件対象サービスに係る親機ロクラクの設置場所がどこであるか、必ずしも確定的に認定することはできないが、そのような事情は、前記の認定、判断を左右するものではない。また、仮に、親機ロクラクの多くが、ホライズン社に設置されているとしても、被告の管理支配下にあるものとみることができる。
2 争点2(原告らの損害の有無及びその金額)について
(1) 上記1のとおり、本件対象サービスを提供して、本件放送番組等の複製行為を行う被告の行為は、原告NHK、原告東京局各社及び脱退原告らの複製権(著作権法21条)、並びに原告ら及び脱退原告らの著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものであり、同行為は、少なくとも過失により行われたものといえる。
 そして、上記侵害行為により原告ら及び脱退原告らに生じた損害額は、以下のとおりと認められる。
(2) 逸失利益について
ア 著作権法114条2項に基づく請求について
 原告らは、複製権(著作権法21条)又は著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害について、著作権法114条2項に基づき、被告が平成17年4月1日から平成23年6月30日までの間、利用者500人から、初期登録料3000円のほかに、1か月当たりレンタル料8500円及びアパート代2000円の合計1万0500円の支払を受けており、これに対する利益率が90パーセントであるとして、これを根拠として算定した金額が、原告らに生じた損害額であると主張する。
 しかし、本件全証拠によるも、本件対象サービスにおいて、親機ロクラクと子機ロクラクの双方がレンタルされているサービスと、親機ロクラクがレンタルされ子機ロクラクが販売されているサービスとの比率や、本件対象サービスに係る経費等は判然とせず、被告が本件対象サービスによって受けている利益額を算定することはできないから、原告らの著作権法114条2項に基づく損害額の主張は採用することができない。
イ 著作権法114条3項に基づく請求について
 原告らは、複製権(著作権法21条)又は著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害額について、予備的に、著作権法114条3項に基づき、被告が平成17年4月1日から平成23年6月30日まで、利用者500人から、初期登録料3000円のほかに、1か月当たりレンタル料8500円及びアパート代2000円の合計1万0500円の支払を受けており、コンテンツ配信サービスにおいて、配信事業者から著作権者等の権利者に対して支払われる金額は、当該権利者のコンテンツによって配信事業者が得た売上の70パーセントを下らないとして、これを根拠として算定した金額が、原告らに生じた損害額であると主張する。
 しかし、上記のとおり、本件全証拠によるも、本件対象サービスにおいて、親機ロクラクと子機ロクラクの双方がレンタルされているサービスと、親機ロクラクがレンタルされ子機ロクラクが販売されているサービスとの比率は、判然としない。また、原告NHK及び原告東京局各社が主張する、複製権(著作権法21条)の侵害による損害については、本件番組の複製の回数等について、主張立証がされていないから、著作権法114条3項に基づき損害額の算定をすることはできない。さらに、原告らが主張する、著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害についても、親機ロクラクは、上記のとおり、子機ロクラクから指示を受けた場合に、放送に係る音又は影像をハードディスクに保存するものであり、常時、放送に係る音又は影像の複製をしているわけではなく、本件放送に係る音又は影像の複製の回数等についての主張立証はないから、著作権法114条3項に基づき損害額の算定をすることはできない。
 したがって、原告らの著作権法114条3項に基づく損害額の主張は採用することができない。
ウ 著作権法114条の5(相当な損害額の認定)に基づく請求について
 被告による本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為により、原告ら及び脱退原告らに複製権(著作権法21条)ないし著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害が生じていることが認められるところ、上記ア及びイのとおり、本件放送番組等の複製の回数等の事実関係が立証されておらず、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるから、著作権法114条の5により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて、損害額を認定するのが相当である。
 なお、被告は、本件対象サービスは、主に海外居住者に日本国内の放送を視聴する機会を確保するものにすぎず、日本国内においてタイムシフトによる視聴をする場合と異ならないから、原告らに財産的損害は発生しないと主張する。しかし、被告による本件放送番組等の複製を、個人的なタイムシフトによる視聴のための複製と同視することはできず、被告の上記主張は採用することができない。
(ア) 事実認定
a 本件番組の1回の放送時間は、本件番組1が23分、本件番組2が29分、本件番組3が60分、本件番組4が59分、本件番組5が30分、本件番組6及び7が54分である。
 また、本件番組2は、原則として毎週月曜日から木曜日まで週4回放送されており、その余の本件番組は、原則として週1回放送されている。本件番組の、平成16年1月1日から平成19年4月18日まで(本件番組3については平成20年3月31日まで)の放送回数は、本件番組1が161回、本件番組2が488回、本件番組3が143回、本件番組4が163回、本件番組4−2が95回、本件番組5が166回、本件番組6が146回、本件番組7が139回、本件番組7−2が16回である。なお、本件番組5は、平成20年10月4日放送分から番組名が「MUSIC FAIR21」から「MUSIC FAIR」に変更されたものである(甲41〜46、62の1、62の2、79、弁論の全趣旨)。
b 本件番組の、平成16年1月1日から平成19年4月18日まで(本件番組3については平成20年3月31日まで)の平均視聴率は、以下のとおりである(甲41〜46、62の1、62の2)。
 本件番組1 10.0パーセント
 本件番組2 0.7パーセント
 本件番組3 15.9パーセント
 本件番組4 16.0パーセント
 本件番組4−2 15.1パーセント
 本件番組5 7.4パーセント
 本件番組6 13.2パーセント
 本件番組7 8.6パーセント
 本件番組7−2 3.4パーセント
c 原告東京局各社は、インターネットを通じて、テレビ番組を有償又は無償で配信しており、視聴が有償である場合の料金は、1話につき105円ないし1050円である。上記配信を受ける場合、番組ごとに、視聴可能時間が設定され、その時間内で何回でも視聴できる契約がされる事例がある(甲47、48の1〜48の4、49、50の1〜50の4、51、52の1〜52の3、53〜55、56の1〜56の3、57〜59)。
d 株式会社ビデオリサーチ作成による「テレビ視聴率・広告の動向 テレビ調査白書2006」(甲40)によれば、平成18年度の1世帯当たりのテレビの1日の平均視聴時間は、平日が7時間41分、土曜日が8時間5分、日曜日が8時間43分、週平均が7時間54分であった。また、野村総合研究所が平成17年4月に実施した調査では、HDDレコーダー保有者が1週間にテレビをリアルタイムで見る時間は平均18.0時間であり、録画番組を見る時間は7.5時間であったとの報告がされている(乙31)。
e 被告は、平成17年4月から平成23年6月までの間の本件対象サービスの契約数について、少なくとも、平成17年4月が270、平成18年4月が511、平成19年4月が674、平成20年4月が731、平成21年4月が599、平成22年4月が632、平成23年4月が535、同年6月が約510であることは認めている(乙44)。
(イ) 複製権(著作権法21条)の侵害に係る損害額
 上記諸事情を総合考慮すれば、本件対象サービス開始後の平成17年4月1日から平成23年6月30日までの複製権(著作権法21条)侵害に係る損害(脱退原告らの損害分を含む。)として、以下の金額を認めるのが相当である(本件番組4と4−2、7と7−2は、それぞれ放送期間が重複するとして、1番組分について損害賠償請求がされているものである。また、上記のとおり、本件番組5と5−2は、番組名が変更されたものである。)。
 本件番組1 15万円
 本件番組2 3万円
 本件番組3 24万円
 本件番組4(4−2) 24万円
 本件番組5(5−2) 12万円
 本件番組6 18万円
 本件番組7(7−2) 12万円
(ウ) 著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害に係る損害額
 上記諸事情を総合考慮すれば、本件対象サービス開始後の平成17年4月1日から平成23年6月30日まで(ただし、静岡局各社については、平成19年4月18日まで)の著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害に係る損害(脱退原告らの損害分を含む。)として、以下の金額を認めるのが相当である。
 原告NHK 400万円
 原告東京局各社 各120万円
 原告静岡局各社 各80万円
エ 小括
 したがって、原告らの逸失利益の額は、以下のとおりであり、被告は、以下の金額について、それぞれ賠償する義務を負う。
 原告NHK 418万円
  (150,000+30,000+4,000,000=4,180,000)
 原告日本テレビ 144万円
  (240,000+1,200,000=1,440,000)
 原告TBS(脱退原告TBS承継分を含む。) 144万円
  (240,000+1,200,000=1,440,000)
 原告フジテレビ(脱退原告フジテレビ承継分を含む。) 132万円
  (120,000+1,200,000=1,320,000)
 原告テレビ朝日 138万円
  (180,000+1,200,000=1,380,000)
 原告テレビ東京 132万円
  (120,000+1,200,000=1,320,000)
 原告静岡局各社 各80万円
(3) 弁護士費用
 原告らが、本件訴訟の提起及び追行を、原告ら代理人に委任したことは当裁判所に顕著であり、本件での逸失利益額、事案の難易度、審理の内容等本件の一切の事情を考慮し、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、以下のとおり認めるのが相当である。
 原告NHK 42万円
 原告日本テレビ 14万円
 原告TBS(脱退原告TBS承継分を含む。) 14万円
 原告フジテレビ(脱退原告フジテレビ承継分を含む。) 13万円
 原告テレビ朝日 14万円
 原告テレビ東京 13万円
 原告静岡局各社 各8万円
(4) まとめ
 以上から、被告は、以下の金額について、それぞれ賠償する義務を負う。
 原告NHK 460万円
  (4,180,000+420,000=4,600,000)
 原告日本テレビ 158万円
  (1,440,000+140,000=1,580,000)
 原告TBS(脱退原告TBS承継分を含む。) 158万円
  (1,440,000+140,000=1,580,000)
 原告フジテレビ(脱退原告フジテレビ承継分を含む。) 145万円
  (1,320,000+130,000=1,450,000)
 原告テレビ朝日 152万円
  (1,380,000+140,000=1,520,000)
 原告テレビ東京 145万円
  (1,320,000+130,000=1,450,000)
 原告静岡局各社 88万円
  (800,000+80,000=880,000)
3 争点3(原告の請求は権利の濫用といえるか)について
 被告は、原告らの本件請求は権利の濫用に当たると主張するが、上記1、2によれば、本件請求が権利を濫用するものであるとはいえず、被告の主張は失当である。
4 結論
 以上によれば、被告の本件控訴は理由がない。また、@原告NHK及び原告東京局各社の、本件番組を複製の対象とすることの差止請求、A原告らの、本件放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止請求、B原告らの、本件対象サービスに供されている親機ロクラクの廃棄請求、C原告らの、複製権侵害(著作権又は著作隣接権)に基づく損害賠償及び遅延損害金請求は、主文第2項の(1)ないし(4)掲記の限度において、それぞれ理由があるからこれらを認容することとし(なお、遅延損害金の起算点は、原告NHK及び原告東京局各社の損害については、損害額を算定する基礎となった期間の最終日である平成23年6月30日とし、原告静岡局各社の損害については、損害額を算定する基礎となった期間の最終日の後であり第1審の訴状送達の日の翌日である平成19年8月4日とした。)、その余の請求は、当審において追加的に変更された部分を含めて理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 知野明


(別紙)当事者目録
控訴人(附帯被控訴人) 株式会社日本デジタル家電
訴訟代理人弁護士 岩崎政孝
同 六波羅久代
同 岡邦俊
同 小林克典
同 瀧谷耕二
被控訴人(附帯控訴人) 日本放送協会
訴訟代理人弁護士 梅田康宏
同 秀桜子
同 宮武泰暁
被控訴人(附帯控訴人) 日本テレビ放送網株式会社
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社静岡第一テレビ
上記両名訴訟代理人弁護士 松田政行
同 齋藤浩貴
同 山元裕子
同 吉羽真一郎
同 上村哲史
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送)訴訟引受人株式会社TBSテレビ
被控訴人(附帯控訴人) 静岡放送株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 岡崎洋
同 大橋正春
同 前田俊房
同 渡邊賢作
同 村尾治亮
同 新間祐一郎
同 木嶋望
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン)訴訟引受人株式会社フジテレビジョン
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社テレビ静岡
上記両名訴訟代理人弁護士 前田哲男
同 中川達也
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社テレビ朝日
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社静岡朝日テレビ
上記両名訴訟代理人弁護士 伊藤真
同 平井佑希
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社テレビ東京
訴訟代理人弁護士 尾崎行正
同 飯塚孝徳
同 上杉雅央
同 岩知道真吾
同 佐藤淳子
訴訟復代理人弁護士 木村清仁
同 井上毅
同 岡本雅美
脱退被控訴人(附帯控訴人) 株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン)
脱退被控訴人(附帯控訴人) 株式会社東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送)

(別紙)サービス目録
 控訴人(附帯被控訴人)の製造に係るハードディスクレコーダー「ロクラクU」の親機を日本国内の保管場所に設置し、同所で受信するテレビジョン放送の放送波を同親機に入力するとともに、同親機に対応する子機を利用者に貸与又は譲渡することにより、当該利用者をして、日本国内で放送される放送番組の複製及び視聴を可能ならしめるサービス

(別紙)著作物目録
1 番組名 「バラエティー生活笑百科」
2 番組名 「福祉ネットワーク」
3 番組名 「踊る!さんま御殿!!」
4 番組名 「関口宏の東京フレンドパークU」
4−2 番組名 「さんまのスーパーからくりTV」
5 番組名 「MUSIC FAIR21」
5−2 番組名 「MUSIC FAIR」
6 番組名 「いきなり!黄金伝説。」
7 番組名 「ペット大集合!ポチたま」
7−2 番組名 「ゴッドタン」

(別紙)放送目録
1 被控訴人(附帯控訴人)日本放送協会が、日本国内において、放送事業者として、「NHK総合テレビジョン」の名称で行う全ての地上波テレビジョン放送(ただし、次に掲げる放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送を含み、かつ、これに限られない)
1−2 被控訴人(附帯控訴人)日本放送協会が、日本国内において、放送事業者として、「NHKデジタル総合テレビジョン」の名称で行う全ての地上波テレビジョン放送
2 被控訴人(附帯控訴人)日本放送協会が、日本国内において、放送事業者として、「NHK教育テレビジョン」の名称で行う全ての地上波テレビジョン放送(ただし、次に掲げる放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送を含み、かつ、これに限られない)
2−2 被控訴人(附帯控訴人)日本放送協会が、日本国内において、放送事業者として、「NHKデジタル教育テレビジョン」の名称で行う全ての地上波テレビジョン放送
3 被控訴人(附帯控訴人)日本テレビ放送網株式会社が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 周波数:映像171.25MHz、音声175.75MHz
3−2 被控訴人(附帯控訴人)日本テレビ放送網株式会社が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 デジタル周波数:545.142857MHz
4 被控訴人(附帯控訴人)株式会社TBSテレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 周波数:映像183.25MHz、音声187.75MHz
4−2 被控訴人(附帯控訴人)株式会社TBSテレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 デジタル周波数:527.142857MHZ
5 被控訴人(附帯控訴人)株式会社フジテレビジョンが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 周波数:映像193.25MHz、音声197.75MHz
5−2 被控訴人(附帯控訴人)株式会社フジテレビジョンが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 デジタル周波数:521.142857MHz
6 被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ朝日が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 周波数:映像205.25MHz、音声209.75MHz
6−2 被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ朝日が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 デジタル周波数:539.142857MHz
7 被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ東京が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 周波数:映像217.25MHz、音声221.75MHz
7−2 被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ東京が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
 デジタル周波数:533.142857MHz
8 被控訴人(附帯控訴人)株式会社静岡第一テレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
8−2 被控訴人(附帯控訴人)株式会社静岡第一テレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
9 被控訴人(附帯控訴人)静岡放送株式会社が、次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
9−2 被控訴人(附帯控訴人)静岡放送株式会社が、次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
10 被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ静岡が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
10−2 被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ静岡が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
11 被控訴人(附帯控訴人)株式会社静岡朝日テレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
11−2 被控訴人(附帯控訴人)株式会社静岡朝日テレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
(以上、放送周波数の表はすべて省略)

(別紙)物件目録
 別紙サービス目録記載のサービスに供されている控訴人(附帯被控訴人)の製造に係るハードディスクレコーダー「ロクラクU」の親機

(別紙)支払目録
被控訴人(附帯控訴人) 支払金額
被控訴人(附帯控訴人)日本放送協会 460万円及びこれに対する平成23年6月30目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
被控訴人(附帯控訴人)日本テレビ放送網株式会社 158万円及びこれに対する平成23年6月30目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
被控訴人(附帯控訴人)株式会社TBSテレビ 158万円及びこれに対する平成23年6月30目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
被控訴人(附帯控訴人)株式会社フジテレビジョン 145万円及びこれに対する平成23年6月30目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ朝目 152万円及びこれに対する平成23年6月30目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
披控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ東京 145万円及びこれに対する平成23年6月30目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
被控訴人(附帯控訴人)株式会社静岡第一テレビ 88万円及びこれに対する平成19年8月4目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
披控訴人(附帯控訴人)静岡放送株式会社 88万円及びこれに対する平成19年8月4目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
被控訴人(附帯控訴人)株式会社テレビ静岡 88万円及びこれに対する平成19年8月4目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
被控訴人(附帯控訴人)株式会社静岡朝日テレビ 88万円及びこれに対する平成19年8月4目から支払済みに至るまで年5分の割合による金員
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