判例全文 | ||
【事件名】テレビ番組送信サービス事件(まねきTV)(2) 【年月日】平成24年1月31日 知財高裁 平成23年(ネ)第10009号 著作権侵害差止等請求控訴事件 (一審・東京地裁平成19年(ワ)第5765号、差戻前二審・知財高裁20年(ネ)第10059号、 上告審・最高裁(三小)平成21年(受)第653号) (口頭弁論終結日 平成23年10月11日) 判決 当事者の表示は、別紙当事者目録記載のとおり。 主文 1 原判決を取り消す。 2 被告は、別紙サービス目録記載のサービスにおいて、別紙放送目録記載1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2及び7−2の放送を送信可能化してはならない。 3 被告は、別紙サービス目録記載のサービスにおいて、別紙放送番組目録記載1ないし7−2の番組を公衆送信してはならない。 4 被告は、原告NHKに対し、金50万9204円、及び、内金18万0994円に対する平成19年3月15日から、内金32万8210円に対する平成23年6月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は、原告日本テレビ、原告TBS、原告テレビ朝日及び原告テレビ東京の各原告に対し、それぞれ、金24万0663円、及び、内金8万5542円に対する平成19年3月15日から、内金15万5121円に対する平成23年6月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告は、原告フジテレビに対し、金20万6517円、及び、内金7万3364円に対する平成19年3月15日から、内金13万3153円に対する平成23年6月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 原告らのその余の請求(当審での拡張部分を含む。)をいずれも棄却する。 8 訴訟費用は第1審、差戻前の第2審、上告審、差戻後の第2審を通じて、これを5分し、その2を原告らの、その余を被告の負担とする。 9 この判決は、第2項ないし第6項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 原判決を取り消す。 2 主文第2項及び第3項と同旨。 3 被告は、原告NHKに対し、金647万9267円及びこれに対する平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告日本テレビ、原告TBS、原告テレビ朝日及び原告テレビ東京の各原告に対し、それぞれ、金421万7459円及びこれに対する平成19年3月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は、原告フジテレビに対し、金417万3110円及びこれに対する平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 はじめに (1) 本件は、放送事業者であり、別紙放送目録記載の各周波数で地上波テレビジョン放送(以下、別紙放送目録記載の各放送を総称して、「本件放送」ということがある。)を行っている原告らが、「まねきTV」という名称で、被告と契約を締結した者(以下「利用者」という。)がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができるようにするサービス(以下「本件サービス」という。)を提供している被告に対し、本件サービスが、本件放送について原告らが放送事業者として有する送信可能化権(著作隣接権。著作権法99条の2)を侵害し、また、別紙放送番組目録記載の各放送番組(以下、これらを総称して、「本件番組」ということがある。)について原告らが著作権者として有する公衆送信権(著作権。著作権法23条1項)を侵害している旨主張して、著作権法112条1項に基づき、本件放送の送信可能化行為及び本件番組の公衆送信行為の差止めを求めるとともに、民法709条、著作権法114条2項(当審において同条3項に基づく請求原因を追加主張)に基づき、著作権及び著作隣接権の侵害による損害賠償金並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 (2) 第1審(東京地方裁判所平成19年(ワ)第5765号)における争点は、@本件訴えは訴権の濫用によるものとして却下されるべきものか(本案前の答弁)、A本件サービスにおいて、被告は本件放送の送信可能化行為を行っているか、B本件サービスにおいて、被告は本件番組の公衆送信行為を行っているか、及び、C原告らの損害の有無及び損害額であった。 第1審は、本件訴えが訴権の濫用に当たるとの被告の主張は排斥したが、本件サービスにおける被告の行為は、送信可能化行為に該当しない、公衆送信行為に該当しないとして、原告らの請求をいずれも棄却したところ、これに対して、原告らは控訴した。 (3) 差戻前第2審(知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10059号)は、上記の争点について、本件訴えが訴権の濫用に当たるとは認められない、被告の用いた後記各ベースステーションは、あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有するにすぎず、自動公衆送信装置とはいえないから、ベースステーションに本件放送を入力するなどして利用者が視聴し得る状態に置くことは、本件放送の送信可能化には当たらず、送信可能化権の侵害は成立しない、本件番組を利用者の端末機器に送信することは自動公衆送信には当たらず、公衆送信権の侵害は成立しないとして、原告らの控訴を棄却したため、これに対して、原告らは上告受理を申し立てた。 (4) 上告審(最高裁判所平成21年(受)第653号)は、本件サービスにおいては、ベースステーションがインターネットに接続しており、ベースステーションに情報が継続的に入力されている、ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被告であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被告である、送信の主体である被告からみて、本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから、ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり、ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる、そうすると、インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は、本件放送の送信可能化に当たる、また、テレビアンテナからベースステーションまでの送信の主体は被告であり、ベースステーションから利用者の端末機器までの送信の主体についても被告であるから、テレビアンテナから利用者の端末機器に本件番組を送信することは、本件番組の公衆送信に当たるとして、被告による送信可能化権の侵害又は公衆送信権の侵害を認めなかった上記第2審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があると判示し、上記第2審判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため、事件を知的財産高等裁判所に差し戻す判決をした(以下、この判決を「上告審判決」という場合がある。)。 2 前提となる事実 (1) 原告らは、いずれも放送事業者である(当事者間に争いがない。)。 なお、原告フジテレビは、平成20年10月1日、脱退控訴人(第1審原告)株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン)の権利義務を承継したことにより、その訴訟を引受承継し(「原告フジテレビ」という場合、同日前であれば、株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン)を、同日以降であれば、承継後の株式会社フジテレビジョンを指す。)、また、原告TBSは、平成21年4月1日、脱退控訴人(第1審原告)株式会社東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送)の権利義務を承継したことにより、その訴訟を引受承継した(「原告TBS」という場合、同日前であれば、株式会社東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送)を、同日以降であれば、承継後の株式会社TBSテレビを指す。)。 (2) 被告は、コンピュータ及びコンピュータ付属機器の製造、販売、保守、管理及び修繕、放送設備の開発、設計、運用及びコンサルティング、並びに電気通信事業法に基づく電気通信事業等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 (3) 原告NHKは別紙放送目録記載1−2及び2−2の放送につき、原告日本テレビは同目録記載3−2の放送につき、原告TBSは同目録記載4−2の放送につき、原告フジテレビは同目録記載5−2の放送につき、原告テレビ朝日は同目録記載6−2の放送につき、原告テレビ東京は同目録記載7−2の放送につき、それぞれ放送事業者の権利として送信可能化権(著作隣接権)を有する(当事者間に争いがない。)。 なお、平成23年7月24日をもってアナログ放送が停波し、デジタル地上波UHFテレビジョン放送が開始した(当事者間に争いがない。)。原告らは、当審において、アナログ放送波の送信可能化の差止めを求める訴えを取り下げ、訴えを追加変更しており、同目録記載1−2、2−2、3−2、4−2、5−2、6−2、7−2の各放送は、デジタル放送に係るものである(弁論の全趣旨)。 (4) 原告らは、別紙放送番組目録記載の各番組名の番組について、次の@ないしIのとおり、それぞれ、各回の放送分を自ら企画し、同企画に基づき自社内(協会内)で制作し、自らの「制作著作」である旨を表示して、放送し、又は、放送していた(甲1ないし甲6、甲44、甲45、甲53、弁論の全趣旨)。 @別紙放送番組目録記載1 「バラエティー生活笑百科」 企画・制作 原告NHK 放送開始時間 原則として毎週土曜日午後0時15分 放送時間 約23分間 昭和60年4月6日から全国放送され、現在も放送は続いている。 A同目録記載2 「福祉ネットワーク」 企画・制作 原告NHK 放送開始時間 原則として毎週月曜日から木曜日午後8時 放送時間 約30分間 平成15年4月7日から全国放送され、現在も放送は続いている。 B同目録記載3 「踊る!さんま御殿!!」 企画・制作 原告日本テレビ 放送開始時間 原則として毎週火曜日午後7時58分 放送時間 約1時間 平成9年10月28日から全国放送され、現在も放送は続いている。 C同目録記載4 「関口宏の東京フレンドパークU」 企画・制作 原告TBS(ないし株式会社東京放送) 放送開始時間 原則として毎週月曜日午後6時55分 放送時間 約1時間 平成6年4月11日から全国放送され、最終放送日は平成23年3月28日である。 D同目録記載4−2 「さんまのスーパーからくりTV」 企画・制作 原告TBS(ないし株式会社東京放送) 放送開始時間 原則として毎週日曜日午後7時 放送時間 約1時間 平成8年4月21日から全国放送され、現在も放送は続いている。 E同目録記載5 「MUSIC FAIR21」 企画・制作 原告フジテレビ(ないし株式会社フジテレビジョン) 放送開始時間 原則として毎週土曜日午後6時 放送時間 約30分間 平成15年4月7日から全国放送され、最終放送日は平成20年9月27日である。同年10月4日から、番組名が「MUSIC FAIR」となった。 F同目録記載5−2 「MUSIC FAIR」 企画・制作 原告フジテレビ(ないし株式会社フジテレビジョン) 放送開始時間 原則として毎週土曜日午後6時 放送時間 約30分間 平成20年10月4日から全国放送され、現在も放送は続いている。 G同目録記載6 「いきなり!黄金伝説。」 企画・制作 原告テレビ朝日 放送開始時間 原則として毎週木曜日午後7時(平成13年10月18日放送分より前は、原則として毎週火曜日午後7時) 放送時間 約1時間 平成12年4月18日から全国放送され、現在も放送は続いている。 H同目録記載7 「ハロー!モーニング。」 企画・制作 原告テレビ東京 放送開始時間 原則として毎週日曜日午前11時30分 放送時間 約1時間 平成12年4月9日から全国放送され、最終放送日は平成19年4月1日である。 I同目録記載7−2 「ガイアの夜明け」 企画・制作 原告テレビ東京 放送開始時間 原則として毎週火曜日午後10時 放送時間 約1時間 平成14年4月14日から全国放送され、現在も放送は続いている。 (5) 被告は、「まねきTV」という名称で、被告と契約を締結した利用者がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができるようにする本件サービスを有料で提供している。本件サービスにおいては、ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)製の商品名「ロケーションフリー」の構成機器であるベースステーションを用い、インターネット回線に常時接続する専用モニター又はパソコン等を有する利用者が、インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができる(甲11の1ないし5、甲28の3、弁論の全趣旨)。 3 当審における争点 (1) 訴えの利益の有無(本案前の主張) (2) 被告が送信可能化の主体か否か。 (3) 被告の過失 (4) 損害額 (5) 差止請求の可否 (6) 差止請求権の行使が権利の濫用に当たるか。 4 争点に対する当事者の主張 (1) 訴えの利益の有無(本案前の主張) ア 被告の主張 本件訴えのうち、本件サービスにおいて、別紙放送番組目録記載4、5及び7の番組に関する公衆送信の差止めを求める部分は、不適法である。すなわち、別紙放送番組目録記載4の番組「関口宏の東京フレンドパークU」、同目録記載5の番組「MUSIC FAIR21」及び同目録記載7の番組「ハロー!モーニング」は、既に放送が終了しているから、本件サービスを通じて利用者が番組を受信することはあり得ない。したがって、原告TBS、原告フジテレビ及び原告テレビ東京は、それぞれの番組に関する差止請求についての訴えの利益を有しない。 イ 原告らの反論 別紙放送番組目録記載4、5及び7の番組名の番組は、今後、デジタル放送において再放送又は部分利用される可能性があるから、原告TBS、原告フジテレビ及び原告テレビ東京は、訴えの利益を有している。 (2) 被告が送信可能化の主体か否か。 ア 原告らの主張 上告審判決は、自動公衆送信の主体は、「入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する」装置が、「受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う」者であり、当該自動送信装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、当該自動送信装置に継続的に情報が入力されている場合には、当該自動送信装置に情報を入力する者が、自動公衆送信装置が「受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う」者といえるので、情報入力主体が送信主体であるとの基準を示した。 その上で、差戻前第2審の確定した事実関係に基づき、ベースステーションは自動送信装置としての機能を有し、被告は「ベースステーションに本件放送の入力をしている者」すなわち情報入力主体であるから、ベースステーションを用いて行なわれる送信の主体は被告である、被告からみて本件サービスの利用者は公衆に当たり、ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる、インターネットに接続しているベースステーションに本件放送を入力する被告の行為は、本件放送の送信可能化に当たると判断した。 したがって、被告は、本件放送の送信可能化の主体というべきである。 イ 被告の反論 上告審判決は、「@各ベースステーションは、インターネットに接続することにより、入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり、本件サービスにおいては、ベースステーションがインターネットに接続しており、ベースステーションに情報が継続的に入力されている。A被上告人(被告)は、ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し、B当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上、Cベースステーションをその事務所に設置し、これを管理している。」との事実を前提として、ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被告であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被告であると判断した。 しかし、上告審判決が前提にした、差戻前第2審のした事実認定には誤りがある。誤りのない認定事実を基礎とするならば、被告は、送信可能化の主体ではない。すなわち、 (ア) ベースステーションには、情報が継続的に入力されているわけではない。 空間に伝播する電波は、アンテナで受信され、室内アンテナ端子を経由してベースステーションに流入したとしても、それだけでは渾然一体とした、合成された電波にすぎず、ユーザーがベースステーションを一定のチャンネルに合わせると、そのチャンネルの電波だけが同調・検波されて特定され、増幅装置、画像・音声変換装置に送られる。 送信可能化の要件である「情報」とは、特定の事柄を前提としたものであり、渾然一体となって合成された電波は、ユーザーにより特定されるまでは「情報」とはいえず、ベースステーションに情報が継続的に入力されているとはいえない。 (イ) 被告は、ベースステーションについて、分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続していない。 被告は、賃借している事務所に、既に設置されているアンテナ端子に分配機を介してベースステーションのアンテナコードを接続しているにとどまり、事務所のある建物にテレビアンテナはなく、上記アンテナ端子はケーブル会社のケーブルに接続されている。テレビアンテナの管理を行っているのは、被告でも建物所有者でもない。 したがって、被告は、テレビアンテナを自ら管理しているとはいえない。 (ウ) 被告は、当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定していない。 被告は、ユーザーから送付されたベースステーションのアンテナコードを、分配機を介してアンテナ端子に当初一度接続させるだけであり、「設定」と評価できるような行為は行っていない。 (エ) 被告は、ベースステーションをその事務所に設置し、これを管理しているとはいえない。 被告は、ユーザーから送付されたベースステーションを、当初に、電源、アンテナ端子及びインターネット回線に接続し、ラックの上で保管ないし預かっているだけであり、その後格別の行為を行わないから、「管理」しているとはいえない。 (オ) 加えて、ユーザーは、本件サービスの中核である一般品たるベースステーションを市場で購入し、被告に接続と保管を依頼したこと、被告がベースステーションのような機器を製造したり、本件サービスの提供に不可欠な特別のソフトウエアを開発したりはしていないこと、本件サービスは、サーバーその他の特別の機器を利用していないこと、本件サービスの提供には、ユーザーが容易にできないような技術的困難さがないこと等の事実も考慮されるべきである。 (カ) 以上の事実関係を前提とすれば、被告は、送信可能化の主体とはいえない。 (3) 被告の過失 ア 原告らの主張 被告に、著作権及び著作隣接権侵害の不法行為に基づく損害賠償責任が認められるためには、被告に故意又は過失があることが必要である。ところで、本件サービスについて、原告らは、被告に対し、平成16年10月28日付け及び平成17年1月28日付けで、本件サービスの中止を求める「警告書」を送付しており、また、最初の「警告書」の時点で、テレビ番組の録画・転送サービスを違法とする裁判例も存在したから、被告は、遅くとも平成16年11月4日の時点で、本件サービスの違法性を認識し、又は、認識する可能性があった。 したがって、被告には少なくとも過失がある。 被告は、本件サービスが違法であるか否かの法律解釈について異なる見解が存在し、実務上の取扱いも分かれた旨主張するが、原告らが「警告書」を送付した時点で、そのような事実はなかった。また、本件訴訟に先立つ仮処分事件や本件訴訟の下級審において本件サービスが適法であると判断されたとしても、上告審でそれらの判断が覆ることは想定されるから、被告に過失がないことの根拠にはならない。 イ 被告の反論 被告に過失があるとの原告らの主張は争う。 法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合には、そのいずれかの解釈に従って行動しても過失はないというべきである。本件サービスは、被告が、ロケーションフリーのベースステーションの所有者から依頼を受けて、ベースステーションを所定のラックに置き、これに電源、インターネット回線及びアンテナ線を接続しただけであり、当該アンテナ線を介して受信した原告らの放送について、送信可能化に関する権利侵害の責任を問われないと考えることには、相当の根拠がある。 すなわち、我が国の著作権法の基本的文献には、「自動公衆送信装置の設置、管理、運営等を行う者については、情報の記録やネットワークへの接続等を単純に依頼を受けて機械的に行うだけであれば、・・・その限りにおいて、送信可能化に関する権利侵害の責任を問われるものではないと解される」と説明がされている。また、原告らが、本件訴訟に先立って申し立てた著作隣接権仮処分命令事件において、ベースステーションないしこれを含む一連の機器が「自動公衆送信装置」に該当せず、被告の行為が送信可能化行為、公衆送信行為に当たらない旨の判断が示され、本件においても、第1審及び差戻前第2審では、同様に、被告の行為は原告らの著作権及び著作隣接権を侵害しない旨の判断がされた。さらに、知的財産権法の専門家も、上記の判断を概ね肯定していた。 したがって、被告は、行為による加害結果を防止する措置を講じなかったことについて過失がなく、損害賠償責任を負わないというべきである。 (4) 損害額 ア 原告らの主張 (ア) 著作権法114条2項に基づく損害額 被告が本件サービスによって受けた利益が被告による著作権及び著作隣接権侵害行為により原告らが被った損害と推定すると、損害額の算定は以下のとおりとなる。 a 被告の受けた利益額 被告は、本件サービスを提供するに当たり、利用者から入会金として3万1500円、月額使用料として5040円をそれぞれ受け取っており、遅くとも平成16年9月から本件サービスの提供を開始し(甲11の1・5、乙19)、現在に至るまで本件サービスを提供し続けている。 平成16年9月から平成23年6月末までの本件サービスの売上高は、別紙「被告売上一覧」記載のとおり、3311万4060円を下らない。 本件サービスは、ひとたび顧客を獲得すれば、その後はさほどの経費等を必要としないから、その利益率は90%を下らないと考えられる。 したがって、本件サービスにより被告が受けた利益の額は、2980万2654円(=3311万4060円×0.9)を下らない。 b 著作隣接権侵害による損害 本件サービスが本件放送の受信を前提としており、本件サービスの提供に当たっては、本件放送に係る著作隣接権が重要な要素であることからすれば、著作隣接権侵害による原告らの損害は、被告が受けた利益の2分の1である1490万1327円を下らない。 そして、本件サービスにおいては、本件放送以外の放送の著作隣接権侵害は行われていないから、原告ら1放送波当たりの損害額は、212万8761円(=1490万1327円÷7)を下らない。 したがって、原告らの損害は別紙「損害一覧(著作権法114条2項)」の「著作隣接権侵害による損害」欄記載の金額を下らない。 c 著作権侵害による損害 本件サービスにより本件放送に係るテレビ番組の著作権者が被った損害は、被告が受けた利益の2分の1である1490万1327円を下らない。 このうち、いわゆる1時間番組の1番組当たりの損害額は、8万8698円(=1490万1327円÷24時間÷7日(小数点以下切り捨て))を下らない。そして、いわゆる30分番組の1番組当たりの損害額は、その2分の1である4万4349円を下らない。 本件番組のうち、別紙放送番組目録記載2の番組は毎週月曜日から木曜日までの4回放送されており、それ以外の番組は毎週1回放送されている。また、本件番組のうち、同目録記載1、2、5及び5−2の番組はいわゆる30分番組である。なお、同目録記載4と4−2、7と7−2は放送期間が重複するが、原告TBS及び原告テレビ東京は、当該重複期間については1番組分についてのみ一部請求として請求する。 したがって、原告らの損害の額は、別紙「損害一覧(著作権法114条2項)」の「著作権侵害による損害」欄記載の金額を下らない。 (イ) 著作権法114条3項に基づく損害額 著作権及び著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を、原告らが受けた損害の額とすると、その金額は以下のとおりとなる。 a 本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額 一般的なコンテンツの配信サービスにおいて、配信事業者から著作権者等の権利者に対して支払われる金額は、通常、当該権利者のコンテンツによって配信事業者が得た売上の70%を下らない(甲47ないし甲50)。 本件についてみると、本件サービスの売上高が3311万4060円であるから、「本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」は、上記売上高の70%である2317万9842円である。 b 本件放送に係る著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額 本件サービスの提供に当たっては、本件放送に係る著作隣接権が重要な要素であることからすれば、著作隣接権者である原告らの取り分(損害額)は、本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額の2分の1である1158万9921円を下らない。 そして、本件サービスにおいては、本件放送以外の放送の著作隣接権侵害は行われていないから、原告ら1放送波当たりの損害額(「受けるべき金銭の額」)は、165万5703円(=1158万9921円÷7)を下らない。 したがって、原告らの損害の額は、別紙「損害一覧(著作権法114条3項)」の「著作隣接権侵害による損害」欄記載の金額を下らない。 c 本件放送に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額 本件放送に係るテレビ番組の著作権者がその著作権の行使につき受けるべき金銭の額は、本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額の2分の1である1158万9921円を下らない。 このうち、いわゆる1時間番組の1番組当たりの損害額(「受けるべき金銭の額」)は6万8987円(=1158万9921円÷24時間÷7日(小数点以下切り捨て))を下らず、いわゆる30分番組の1番組当たりの損害額(「受けるべき金銭の額」)は、その2分の1である3万4493円を下らない。 本件番組のうち、別紙放送番組目録記載2の番組は毎週月曜日から木曜日までの4回放送されており、それ以外の番組は毎週1回放送されている。また、本件番組のうち、同目録記載1、2、5及び5−2の番組はいわゆる30分番組である。なお、同目録記載4と4−2、7と7−2は放送期間が重複するが、原告TBS及び原告テレビ東京は、当該重複期間については1番組分についてのみ一部請求として請求する。 したがって、原告らの損害(「受けるべき金銭の額」)は、別紙「損害一覧(著作権法114条3項)」の「著作権侵害による損害」欄記載の金額を下らない。 (ウ) 弁護士費用 被告の著作権及び著作隣接権侵害行為により、原告らは、本件訴訟の提起に至るまで、事前の警告及び仮処分命令申立等の弁護士による対応を余儀なくされた。被告の著作権及び著作隣接権侵害行為により原告らが負担した弁護士費用は、原告1社当たり200万円を下るものではなく、被告が全部負担すべきである。 イ 被告の反論 (ア) 著作権法114条2項に基づく損害額に対し a 本件では、著作権法114条2項を援用して損害額の推定を行うことができない。その理由は、以下のとおりである。 著作権法114条2項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害につき、侵害者が受けた利益額が立証されれば、これを損害額と推定することにより、権利者の主張立証責任の軽減を図ることをその趣旨とする。侵害行為の当時、権利者が自ら製品の販売を行っておらず、その準備もできていない場合には、権利者において将来製品の販売をする予定があったとしても、同項を適用することはできないと解すべきである。ここで、同項の適用の前提となる権利者により販売が行われているべき製品としては、同条1項と同様、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要すると解すべきである。 本件において、原告らは、公衆に対し、その有するベースステーションにアンテナ線を接続するというサービスや、その有するベースステーションを預かり保管するサービスを提供していないから、本件サービスと代替性のあるサービスを現実に提供しておらず、被告が本件サービスを行っていなかったとしても、被告が本件サービスにより得た利益に相当する利益を得ていた可能性はない。したがって、本件においては、著作権法114条2項による損害額推定の基礎を欠く。 なお、原告らのうち民放各社は、国外はもとより、関東広域圏外にも、その番組を自ら公衆送信しておらず、関東広域圏外に所在する顧客のために被告が本件サービスを提供している限りにおいては、原告らの放送事業と本件サービスとは競合していない。関東広域圏内に所在する顧客のために被告が本件サービスを提供している場合、本件サービスがなければその所在する建物等に設置されたテレビアンテナを介して受信した電波を直接用いて原告らの番組を視聴する顧客がいても、原告らは、別途料金を徴収することはできないから、仮に、本件サービスがなかったとしても、本件サービスにより被告が得た利益に相当する利益を原告らが受けることができた可能性はない。また、原告NHKについては、原告NHKの放送を受信可能な受信設備(ロケーションフリーの子機や、ベースステーションから送信されたデータを再生できる設定をしてあるパソコンを含む。)を設置している者に対しては、受信料を徴収することが可能であり(旧放送法32条1項)、法律上、放送を受信することのできる受信設備を設置した者が日本国内に所在するか否かで差異がないから、ロケーションフリーを使用して日本国外において原告NHKの放送を視聴する者に対しても、受信料を徴収することが可能であって、本件サービスにより被告が得た利益に相当する利益を原告NHKがさらに受けることができた可能性はない。 したがって、本件において、著作権法114条2項を適用する余地はない。 b 仮に、著作権法114条2項により損害額を推定するとしても、原告らの主張する損害額は否認する。 本件サービスによって被告が得た収入、及び、これから必要経費等を差し引いた粗利は別紙「(株)永野商店の損益」のとおりである。ただし、これは本件サービス全体から得た利益であり、著作権法114条2項により、著作権者等が受けた損害の額と推定されるのは「侵害の行為により」受けた利益の額に限られる。すなわち、様々なサービスが包括的に提供されその一部が著作権等を侵害する場合には、当該著作権侵害行為に対応する部分により得た利益相当分のみが損害額推定の対象となるのである。 本件において、被告は、その占有建物内にベースステーションを預かり、当該ベースステーションに電気を供給し、建物内LANを介してインターネット接続環境を提供している。このサービス部分は、原告らの著作権等を侵害する行為には当たらない。したがって、このようなサービスの提供により被告が得た利益は、著作権法114条2項による推定の対象とはならない。 また、被告は、その占有建物内に預かったベースステーションにアンテナ線を接続する作業をすることについて、特段の料金を徴収しておらず、最初の1回で終了する上記接続作業と、継続的に行うハウジングサービスとでは、後者の方がコストは大きい。本件サービスの月額利用料(4800円)は、ハウジングサービスにおける月額料金の相場(月額2万円前後)から見ても安価であるから、全額ハウジングサービスに対する対価であり、アンテナ回線とベースステーションを接続する作業に対する対価は含まれていないと解すべきである。 本件サービスにおいては、サービス開始時に入会金として金1万円を徴収し、被告は、顧客から預かったロケーションフリーの設置及び設定、設備料、ネット接続料金等を入会金の中から捻出する。被告は、顧客からの入会申込みを受けると、その顧客のロケーションフリーのベースステーションを設置するスペースを確保し、顧客から預かったロケーションフリーを上記スペースに設置して、用意しておいたアンテナ回線、インターネット回線及び電源に接続する。必要があれば、ロケーションフリーのベースステーションと顧客が利用する端末とを関連付ける作業を行う。これらの作業で、アンテナ回線をベースステーションに接続するという作業は、ごく短時間で行えるから、この作業に対応する報酬相当額はせいぜい1件200円程度である。そうすると、平成16年9月以降の新規入会者数は133人であるから、被告は上記接続作業を合計133回行ったものと考えられ、これによって被告が得た報酬は200円×133=2万6600円となる。 c 仮に、被告の行為により得られた利益(2万6600円)が、著作権法114条2項により、原告らが受けた損害の額と推定されるとしても、原告らの個別の損害額は妥当でない。 原告らは、本件サービスにより送信可能化される放送について著作隣接権を有する放送事業者らと、本件サービスにより公衆送信される著作物のうち番組(映画の著作物)についての著作権者らとが、上記利益額の各半分に相当する損害を蒙ったと推定される旨主張する。しかし、許諾を得て配信事業を行う場合には、配信する番組に係る著作権者から直接データを入手して公衆送信すれば足り、いったん受信した放送を再送信する必要はないから、本件放送に係る著作隣接権が重要な要素であるとはいえず、放送事業者の損害が上記推定損害の半分を占めるとする原告らの主張には理由がない。原告らは、推定損害の残部を放送番組の著作権者のみが独占できる理由について何ら主張をしない。 また、原告らは、本件放送に係るテレビ番組の著作権者が被った損害の全体を24時間×7日で割ることにより、1時間番組の1番組当たりの推定損害額を算出しており、この計算は、1年間、毎週同じ時間帯にその番組が放送され続けたことが前提となるが、そのような事実は立証されていないから、同計算方法は失当である。なお、別紙放送番組目録記載1の番組は23分番組である。 (イ) 著作権法114条3項に基づく損害額に対し 原告らは、一般的なコンテンツの配信サービスにおいて、配信事業者から著作権等の権利者に支払われる金額は通常、当該権利者のコンテンツによって配信事業者が得た売上げの70%を下らないと主張する。 しかし、原告らが提出する証拠(甲47ないし甲50)は、本件サービスとは、サービスの態様において異なる。 むしろ、原告らの放送を原告らの放送対象地域外に再送信するという意味において、ロケーションフリーを利用した放送番組の転送は地方放送局による原告らの放送の同時再放送に近く、原告らの放送する番組を原告らの許諾を受けた上で各地方放送局が同時再放送する場合に各地方局が原告らに支払うべきライセンス料を、各放送局の放送対象地域の世帯数で割った金額が、利用者1人当たりの利用料相当金となる。例えば、番組販売収入は、平成23年第1四半期で、原告テレビ朝日が30億1500万円、原告フジテレビが46億1900万円であり、関東地方以外で原告らの作成した番組が放送されることによる上記各原告らの売上げは、これを上回ることはない。そして、関東地方以外に居住する日本国民は8549万4836人であるから、ローカルテレビ局を介して、関東地方以外に居住する人1人に作成した番組が届くことにより四半期ごとに原告フジテレビがローカルテレビ局から得る収入は54円(≒46億1900万円÷8549万4836人)、原告テレビ朝日が得る収入は35円(≒30億1500万円÷8549万4836人)である。日本は、人口1億2761万9000人、総世帯数は4906万3000世帯であるから、1世帯当たりの人口は2.6人(≒1億2761万9000人÷4906万3000世帯)である。したがって、ローカルテレビ局を通じて関東地方以外に居住する世帯に放送番組を届けることによりローカルテレビ局から1か月間に得る対価は、原告フジテレビが46.8円(≒54円×2.6÷3)、原告テレビ朝日で30.3円(≒35円×2.6÷3)であり、平成16年9月から平成23年6月までの82か月間の本件サービスの利用者数は延べ5739人、月平均70人(≒5739人÷82か月)であるから、民放である原告らが被告から受けるべき月額利用料は、原告フジテレビで3276円、原告テレビ朝日で2121円を超えることはなく、他局についても同様である。これは、被告が、民放である原告らの許諾を得て、その放送を同時再送信する場合に支払うべき利用料の金額の上限というべきである。 また、原告NHKについては、テレビ受信機の有無に応じて受信料を徴収することができるため、受信者が地上波を直接受信するか、本件サービスを利用するかによって収入に変動はなく、同時再送信に関しては利用料相当損害金が発生しない。 したがって、原告ら主張の損害額は過大である。 (ウ) 弁護士費用に対し 被告の行為と相当因果関係を有する弁護士費用は、各原告ごとに、損害賠償請求認容額の1割を超えることはない。 (5) 差止請求の可否 ア 原告らの主張 原告らは、公衆送信権(著作権)及び送信可能化権(著作隣接権)を専有するから、その差止請求は認められるべきである。著作権に基づく差止請求が認められるべきであるとする理由は、以下のとおりである。 (ア) 本件番組のうち、別紙放送番組目録記載4、5及び7以外の番組は、今後、制作された場合に、その全てが著作物性を有することになる。そして、被告が本件サービスを継続している以上、今後、放送される番組について、被告による著作権侵害行為が継続することは確実に予測される。 (イ) 本件番組のうち、既に放送が終了したもの(同目録記載4、5及び7の各番組)についても、再放送される可能性があり、具体的な侵害のおそれはある。 イ 被告の反論 原告らの著作権に基づく差止請求は、以下のとおり、失当である。 (ア) 本件番組のうち、既に放送が終了した別紙放送番組目録記載4、5及び7以外のものは、現存する著作物を指すものではない。著作物として創作される前には著作権は存在せず、各番組について、著作物として保護されるに値する創作性が存在するかどうかは、番組が制作されてみなければ判断できないから、未だ制作されていない各番組について、著作権の権利行使としての差止請求は認められない。 また、仮に、将来放送される予定の番組が著作物であり、著作権侵害のおそれがあるとしても、被告にとって、本件番組のみをサービス提供の対象としないような選別を行うことは困難であり、差止めが認められると、被告は、全ての電波がベースステーションに流入しないようにすることを強制される。これは、原告らの請求の範囲を過度に超えた行為制限となり不当である。 (イ) 本件番組のうち、同目録記載4、5及び7の各番組は、既に放送が終了しており、本件サービスによる具体的な権利侵害のおそれがないから、これらの番組に関する差止請求には理由がない。 (6) 差止請求権の行使が権利の濫用に当たるか。 ア 被告の主張 原告らの著作権及び著作隣接権に基づく本件サービスについての差止請求は、権利の濫用(民法1条3項)として許されない。 権利の濫用に該当するか否かは、権利の濫用に当たるとした場合における権利者の不利益と、権利行使を認めた場合における相手方の不利益を比較衡量し、かつ、権利行使を認めた場合における不利益が社会的にも広範囲に及ぶか等を考察して、総合的に判断されるべきである。すなわち、 (ア) ベースステーションは合法的な機器であり、ベースステーションの寄託を受けるだけの本件サービスが原告らに不利益を生じさせることはなく、本件サービスを通じて原告らの放送番組を視聴する者がいたとしても、原告NHKの受信料収入や他の原告らの広告料収入が減少することもない。また、本件サービスの利用者数は、原告らのテレビ番組の視聴者数(数千万人)に比べれば極めて限定されており(多くとも百名余り)、ベースステーションの販売は現在中止され、今後、利用者の増加はあり得ない。したがって、本件サービスによって原告らに不利益が生じることはない。 (イ) 一方、原告らの権利行使が認められた場合、本件サービスが差し止められ、被告は、経済的に大きな不利益を受ける。 (ウ) 加えて、本件サービスが差し止められると、海外に在住する本件サービスの利用者は、他にベースステーションの預かり先がなければ、これを利用することができず、日本のテレビ番組を視聴することができなくなる。また、ベースステーションのように、従前にない便利な機能を有する機器の利用が著作権侵害に当たるとして容易に差止めが認められるならば、日進月歩で技術的発展が進むデジタル・ネットワーク社会において、利用者の利便性を不当に損ない、新たな技術開発やビジネスを阻害し、市場を縮小させて、広範囲の社会的不利益を生じる。 (エ) したがって、原告らによる本件サービスについての差止請求は、権利の濫用に当たるというべきである。 イ 原告らの反論 争う。原告らによる著作権及び著作隣接権の行使は、以下のとおり権利の濫用に該当しない。 (ア) 原告NHKは、放送受信料により制作された放送番組について、国民の利益にかなうように適正に管理保全し提供する責務を負うところ、本件サービスは、同原告が放送番組を有効活用するために行っている事業(インターネットによる有料コンテンツ配信サービス等)と競合し、又は、将来において競合するおそれがある。原告NHK以外の原告らは、広告料収入のほか、インターネット配信、ビデオ・DVD等のパッケージ商品の販売及びレンタル、海外の放送事業者に対する番組の販売等を行うことにより収入を得ており、本件サービスは、このような収益事業と競合し、又は、将来において競合するおそれがある。また、被告は、本件サービスの利用者が原告らのテレビ番組の視聴者数に比べて些少である旨主張するが、正規の放送事業者である原告らの視聴者数と違法事業である本件サービスの利用者数を対比することは無意味である。百名余りという本件サービスの利用者数は他の事案と比較しても大規模なものである。 (イ) 本件サービスの差止めによって不利益を被るとしても、被告が本件サービスにより得ている利益は、著作権侵害行為による不正な利益であるから、法的に保護されるべきものではない。 (ウ) 本件サービスの差止めにより、海外に在住する本件サービスの利用者が原告らの放送番組を視聴できなくなったとしても、不当に不利益を被ることはない。ソニーのロケーションフリーの使用方法についての説明によれば、ベースステーションの設置場所は「自宅」と説明されており(甲7の3、甲8、甲9)、被告のような事業者の下に設置して利用することは想定されていないから、そのような利用方法のみを禁じたとしても、ロケーションフリー所有者の正当な利用行為を妨げることはなく、また、技術の発展も阻害しない。むしろ、権利者に対価を支払わず、権利処理を行わない再送信サービスの存続が許容されれば、健全な著作権秩序が破壊され、社会的な不利益が生じるといえる。 (エ) したがって、原告らによる差止請求は権利の濫用に該当しない。 第3 当裁判所の判断 当裁判所は、本件放送の送信可能化行為及び本件番組の公衆送信行為の各差止めを求める原告らの請求には理由があり、被告に対し、著作権及び著作隣接権侵害による損害賠償の支払を求める原告らの請求も一部理由があるから、原判決は取り消されるべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 争点(1) (訴えの利益の有無・本案前の主張)について 被告は、本件訴えのうち、本件サービスにおいて、既に番組が終了した別紙放送番組目録記載4、5及び7の番組に関する公衆送信の差止めを求める部分は、訴えの利益がなく、不適法である旨主張する。 しかし、被告の主張は失当である。 本件においては、既に終了した番組であっても、将来、その番組の全部又は一部が再放送ないし部分利用される可能性はあり、その場合、本件サービスを通じて利用者に送信される可能性も認められるから、これらの番組を放送した原告らにおいて、本件サービスの差止めを求める訴えの利益がないとはいえない。 2 争点(2) (被告が送信可能化の主体か否か)について (1) 上告審判決は、概要、次のように判示する。 公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は、これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置に当たる。また、自動公衆送信の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり、当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。 本件について、各ベースステーションは、インターネットに接続することにより、入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり、本件サービスにおいては、ベースステーションがインターネットに接続しており、ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被告は、ベースステーションを自ら管理するテレビアンテナに接続し、当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上、ベースステーションをその事務所に設置し、管理しているから、ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被告であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被告である。そして、何人も、被告との関係等を問題にされることなく、被告と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができ、送信の主体である被告からみて、本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから、ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり、ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。したがって、インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は、本件放送の送信可能化に当たる。 (2) 被告は、上告審判決が前提とした事実関係には誤りがあり、正しく認定された事実関係に基づくならば、被告は、送信可能化の主体ではない旨主張するので、本件の事実関係について検討する。 ア 「ロケーションフリー」の機能、利用手順等、本件サービスの目的、仕組み及び利用手順等に関する事実認定ついては、原判決の「事実及び理由」欄の「第4当裁判所の判断」の「2 事実認定」(原判決70頁26行目から84頁24行目まで)記載のとおりであるから引用する。 なお、ベースステーションはアナログ放送波をデジタルデータ化する機能を有するものであるところ、アナログ放送が停波し、デジタル地上波の放送が開始されたため、被告は、デジタル−アナログ変換機器を設置して、引き続き本件サービスが利用できるようにしている。(甲46の2、弁論の全趣旨)。 イ 上記ア認定の事実によれば、ベースステーションは、電源、アンテナ端子及びインターネット回線と接続され、テレビアンテナからアンテナ端子を経由して受信したアナログ放送波をデジタルデータ化してインターネット回線に送信することができる機器であり、デジタルデータ化された放送データは、対応する専用モニター又はパソコン等からの指令に応じて、インターネット回線を通じて当該専用モニター又はパソコン等へ送信されるものといえる。そうすると、「ベースステーションは、インターネットに接続することにより、入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり、本件サービスにおいては、ベースステーションがインターネットに接続しており、ベースステーションに情報が継続的に入力されている」ということができる。 これに対し、被告は、ベースステーションには、アンテナで受信された渾然一体の合成された電波は流入するが、情報が継続的に入力されているとはいえない旨主張する。しかし、被告の主張は、以下のとおり失当である。すなわち、被告の主張を前提としても、アンテナで受信されるのは、様々な周波数の電波であって、ベースステーションを一定のチャンネルに合わせることにより、そのチャンネルの電波が同調・検波されて映像化、音声化され、更にデジタルデータ化されるというのであるから、アンテナで受信される電波には、ベースステーションにおいて映像化、音声化するために必要なすべての情報が当然に含まれている。したがって、テレビアンテナからアンテナ端子を経由してベースステーションに流入する電波には情報が含まれているといえる。したがって、ベースステーションには情報が継続的に入力されているといえる。 ウ また、上記ア認定の事実によれば、被告は、データセンターと称する事務所を賃借し、同所に、高速インターネット回線を準備し、ベースステーションを載置するラック、ルーター、ハブ、ケーブル及び分配機、ブースター等(いずれも汎用品)を調達したこと、本件サービスの申込者からロケーションフリーのベースステーションが送付されると、これを同所内に設置し、ブースター及び分配機を介してアンテナ端子に接続し、ハブ及びルーターを介してインターネット回線に接続するほか、ベースステーションにポート番号を割り当てる等の設定作業も行い、ベースステーションに専用モニター又はパソコン等からの指令さえあれば自動的に放送データを送信し得る状態になったことを確認した後、申込者に対し、設置、設定の完了等を通知すること、本件サービスの利用者は、被告の「サポートデスク」を通じて問い合わせができることが認められる。そうすると、被告は、ベースステーションをアンテナ端子に接続し、アンテナ端子を経由してテレビアンテナから本件放送が受信できるようにし、「テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上、ベースステーションをその事務所に設置し、これを管理している」ということができる。 これに対し、被告は、ベースステーションを「自ら管理するテレビアンテナ」に接続していないと主張する。確かに、被告が自らテレビアンテナを管理している事実は認められないが、被告の事務所内のアンテナ端子を経由してテレビアンテナから放送波を継続的に受信できる状態にしていることに変わりはないから、テレビアンテナを被告自身が管理しているかどうかは、本件における結論を左右するものではない。 また、被告は、本件放送がベースステーションに継続的に入力されるようにする「設定」やベースステーションの「管理」を行っていない旨主張する。しかし、被告の主張は失当である。上記認定の事実に加え、被告は、事務所内にベースステーションを設置した後、電源が入っているかを確認し、夏季に空調を28℃に設定する(乙19)等の行為をしているから、被告は、「設定」や「管理」を行っていると評価すべきである。 エ したがって、ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被告であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被告であり、本件放送の送信可能化の主体は被告というべきである。そして、被告の本件サービスによる本件放送の送信可能化は原告らの送信可能化権(著作隣接権)を侵害し、本件番組の公衆送信は原告らの公衆送信権(著作権)を侵害するものと認められる。 3 争点(3) (被告の過失)について 証拠(甲51の1・2、甲52の1・2)によれば、原告らは被告に対し、平成16年10月28日付け(同年11月4日配達)及び平成17年1月28日付け(同月29日配達)で警告書を送付し、本件サービスが原告らの公衆送信権・送信可能化権の侵害に該当し、著作権及び著作隣接権を侵害するものである旨、本件サービスと同種のサービスの運営会社に対し、東京地裁が平成16年10月7日付けでサービスの差止めを命じている旨、被告に対し、本件サービスの中止を要求するとともに、書面による回答を求める旨を通知したことが認められるから、被告において、遅くとも平成16年11月4日の時点で、本件サービスが公衆送信権及び送信可能化権の侵害に該当するとの法律解釈もあり得ると認識できる状況であったというべきである。そうすると、本件サービスのような事業について、その適法性に関する法律解釈や実務上の取扱いが分かれ、直ちに違法であるとの認識を持つことが期待できるような状況ではなかったとしても、被告は、上記の時点以降は、少なくとも本件サービスが違法とされる可能性があることを認識し得たものであり、それによる著作権及び著作隣接権の侵害行為を中止しなかったことについて過失が認められる。 これに対し、被告は、著作権法の基本的文献に、本件サービスは適法であると解されるような記述があり、上記の時点後の本件サービスに関する仮処分事件では、ベースステーションないしこれを含む一連の機器が「自動公衆送信装置」に該当しない旨判断され、本件訴訟の第1審及び差戻前第2審でも、被告の行為が原告らの著作権及び著作隣接権を侵害しない旨判断され、知的財産権法の専門家も上記の判断を概ね肯定していたとして、被告には、本件サービスの違法性を認識する可能性はなく、過失がない旨主張する。しかし、被告の主張は、以下のとおり失当である。すなわち、被告主張の事実を前提としても、本件サービスのような態様の行為が著作権及び著作隣接権を侵害するかについて法律解釈に争いがあり、これを争点とする訴訟が係属する以上、裁判所が最終的に著作権及び著作隣接権の侵害に当たると判断する可能性があることは、被告においても容易に認識することができ、又は、認識していたであろうと理解される。したがって、被告の主張する諸事情が存在したことは、被告に過失がないとする根拠とならないというべきである。 4 争点(4) (損害額)について (1) 著作権法114条2項に基づく損害額について 原告らは、平成16年9月から平成23年6月末までに、被告が本件サービスによって受けた利益が、原告らの損害額と推定される旨主張する。 上記3のとおり、被告は、平成16年11月4日以降、本件サービスが原告らの公衆送信権・送信可能化権の侵害に該当し、著作権及び著作隣接権を侵害するものであることを認識し、又は、認識し得たと認められる。そこで、同日以降、平成23年6月末までに、被告が本件サービスにより受けた利益の額を検討する。 なお、被告は、原告らは本件サービスと代替性のあるサービスを現実に提供しておらず、被告が本件サービスにより得た利益に相当する利益を得ていた可能性はないから、著作権法114条2項による損害の推定を行う基礎がない旨主張する。しかし、被告の主張は、以下のとおり採用できない。すなわち、原告らは、本件番組等の提供を含む放送事業を継続することを通じて、利益を得てきたとの経緯に照らすならば、被告が本件サービスを提供することは、原告らに対して、そのような利益を得る機会を喪失させた可能性を否定することはできない。したがって、被告主張に係る、原告らが本件サービスと全く同種の役務を提供していないとの事実のみによっては、同条同項の規定の適用を排除することはできないというべきである。 ア 被告の利益 原告らは、平成16年9月から平成23年6月末までの間の本件サービスの売上高は別紙「被告売上一覧」のとおりであると主張し、被告は、平成18年3月期から平成23年3月期までの売上高は別紙「(株)永野商店の損益」の「売上」欄のとおりであると主張する。両者の平成18年3月期から平成23年3月期(平成17年4月から平成23年3月)までの売上高(合計)を比較すると、後者の方がむしろ高額であるから、別紙「(株)永野商店の損益」記載の売上高には相応の信頼性があると認められる(弁論の全趣旨)。 一方、別紙「(株)永野商店の損益」記載の各費用のうち、「外注費」、「賃借料」、「通信費」、「水道光熱費」及び「消耗品費」の各7割程度を本件サービスに係る経費と認めるのが相当である(甲28の4、弁論の全趣旨)。 そこで、被告の平成18年3月期から平成23年3月期までの利益額を算定すると、売上高(合計額)は3420万6678円(=363万1896円+407万2223円+618万1240円+524万1255円+666万9882円+841万0212円)であり、経費(合計額)は1435万3102円(≒(263万6038円+300万3626円+344万2572円+315万1474円+464万7688円+362万3034円)×0.7)であるから、上記期間の利益額は1985万3576円(=3420万6678円−1435万3102円)と算定され、1か月当たりの利益額(平均)は27万5744円(≒1985万3576円÷6÷12)となる。 したがって、平成16年11月4日から平成23年6月末までの間に、被告が本件サービスにより得た利益額(合計額)は2203万1945円(≒27万5744円×(79+27/30)か月)となる(平成16年11月は日割計算)。 イ 著作隣接権侵害による損害 送信可能化行為は、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなどして、自動公衆送信し得るようにする行為であり(著作権法2条1項9号の5)、自動公衆送信の前段階の行為とも評価できる。また、送信可能化が行われたとしても、自動公衆送信される対象や機会に制約があり得るなど諸事情によって、著作権侵害に対する危険の程度は一様ではないから、送信可能化行為による著作隣接権侵害の損害額の算定に当たっても、このような事情が考慮されるべきである。 本件について検討すると、被告の送信可能化行為により本件サービスの利用者に対して自動公衆送信し得るようになるが、その相手方は本件サービスの利用者という一応の限定があり、利用者は契約において受信した番組の同時再送信ないし再分配が禁止されている(上記2(2) ア認定のとおり)。また、本件サービスの利用者に限定があることから、自動公衆送信行為が無数に行われる可能性も認められない。これらの事情を考慮すると、被告の送信可能化行為によって生じた原告らの著作隣接権侵害による損害は、被告が本件サービスにより得た利益額の5%である110万1597円(≒2203万1945円×0.05)と認めるのが相当であり、原告らの1放送波当たりの損害額は15万7371円(=110万1597円÷7)となる。 この点、原告らは、本件サービスの提供に当たっては、本件放送に係る著作隣接権が重要であるとして、著作隣接権侵害による原告らの損害額は被告が受けた利益の2分の1に相当する旨主張する。しかし、本件放送に係る著作隣接権が重要であるとしても、本件サービスにより送信可能化される本件放送について著作隣接権を有する放送事業者らと、本件サービスにより公衆送信される著作物のうち番組についての著作権者らとが同等の損害を被ったと擬制すべき理由はなく、原告らの主張は失当である。 ウ 著作権侵害による損害 本件サービスにより本件放送に係るテレビ番組の著作権者が被った損害は、全体として、被告が本件サービスにより得た利益における送信可能化による利益分を除外した部分である2093万0348円(=2203万1945円−110万1597円)と認められる。 さらに進んで、このうち、原告らの主張に係る別紙放送番組目録記載の各番組の全放送番組に対する割合をも考慮して、当該各番組の著作権侵害による損害額を検討する。 平成16年11月4日から平成23年6月末までの間に、毎週継続して同じ番組が放送された場合、いわゆる1時間番組の1番組当たりの金額は12万4585円(≒2093万0348円÷24時間÷7日)、いわゆる30分番組の1番組当たりの金額は6万2292円(≒2093万0348円÷24時間÷7日×30/60)、23分間の番組の1番組当たりの金額は4万7757円(≒2093万0348円÷24時間÷7日×23/60)と、一応算定される。ただし、本件サービスの利用者が別紙放送番組目録記載の各番組を実際に視聴する可能性等の諸事情も勘案し、別紙放送番組目録記載の各番組の著作権侵害による損害額としては、上記金額の5割程度を認めるのが相当である。 そうすると、別紙放送番組目録記載の各番組のうち、いわゆる1時間番組である同目録記載3、4、4−2、6、7、7−2の1番組当たりの損害額は6万2292円、いわゆる30分番組である同目録記載2、5、5−2の1番組当たりの損害額は3万1146円、23分間の番組である同目録記載1の損害額は2万3878円となる。 なお、本件番組のうち、別紙放送番組目録記載2の番組は毎週月曜日から木曜日までの4回放送されており、それ以外の番組は毎週1回放送されている。また、原告TBS及び原告テレビ東京は、同目録記載4と4−2、7と7−2の放送の重複期間については1番組分についてのみ一部請求している。 エ 弁護士費用 被告の著作権侵害、著作隣接権侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用は、各原告について、上記イ、ウにおいて認容された損害額の10%程度とするのが相当である。 オ まとめ 以上によれば、被告の著作権侵害、著作隣接権侵害行為による各原告の損害額は、次のとおり算定される。 (ア) 原告NHK 著作隣接権侵害による損害額 31万4742円 著作権侵害による損害額 4万8462円 弁護士費用 4万6000円 合計 50万9204円 (イ) 原告日本テレビ 著作隣接権侵害による損害額 15万7371円 著作権侵害による損害額 6万2292円 弁護士費用 2万1000円 合計 24万0663円 (ウ) 原告TBS 著作隣接権侵害による損害額 15万7371円 著作権侵害による損害額 6万2292円 弁護士費用 2万1000円 合計 24万0663円 (エ) 原告フジテレビ 著作隣接権侵害による損害額 15万7371円 著作権侵害による損害額 3万1146円 弁護士費用 1万8000円 合計 20万6517円 (オ) 原告テレビ朝日 著作隣接権侵害による損害額 15万7371円 著作権侵害による損害額 6万2292円 弁護士費用 2万1000円 合計 24万0663円 (カ) 原告テレビ東京 著作隣接権侵害による損害額 15万7371円 著作権侵害による損害額 6万2292円 弁護士費用 2万1000円 合計 24万0663円 (2) 著作権法114条3項に基づく損害額について 原告らは、著作権法114条2項に基づく損害額と同条3項に基づく損害額とを選択的に主張するものと解されるが、その趣旨は、本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額は、本件サービスの売上高の70%であり、当該金銭の額を基礎として、同条2項に基づいて主張された損害額の算定方法と同様の方法で、著作隣接権侵害による損害額、著作権侵害による損害額等を算定するというものである。 しかし、原告らが、一般的なコンテンツの配信サービスにおいて、配信事業者から著作権者等の権利者に対して支払われる金額が、当該コンテンツによって配信事業者が得た売上の70%を下らないことの根拠とする証拠(甲47ないし甲50)は、配信されるコンテンツの内容、配信のしくみ、利用状況等が本件サービスとは異なるサービスに関するものであるから、これらの証拠から、本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額が、本件サービスの売上高の70%であるとは認められない。 本件サービスの売上高の一部が著作権者等に支払われるべきであるとしても、その額は、上記(1) において認定された金額を上回らないものと認めるべきである。 (3) したがって、被告の著作権侵害、著作隣接権侵害行為による原告らの損害の額は、上記(1) のとおり認定される。 ところで、原告らは、被告の著作権侵害、著作隣接権侵害行為による損害賠償金に対する訴状送達の日の翌日(平成19年3月15日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求するところ、上記(1) 認定の損害の額は、平成16年11月4日から平成23年6月30日までの損害の額として算定されたものであり、平成19年3月15日より後に発生した損害をも対象としている。そこで、上記(1) 認定の損害の額を、平成16年11月4日から平成19年3月15日までの期間と、同月16日から平成23年6月30日までの期間の長さに応じて分け、前者の期間に発生した損害賠償金(原告NHKにつき18万0994円、原告フジテレビにつき7万3364円、その余の原告らにつき8万5542円)については平成19年3月15日から、後者の期間に発生した損害賠償金(原告NHKにつき32万8210円、原告フジテレビにつき13万3153円、その余の原告らにつき15万5121円)については平成23年6月30日から各支払済みまで、年5分の割合の遅延損害金の支払請求を認容するのが相当である。 5 争点(5) (差止請求の可否)について (1) 上記2のとおり、被告は、利用者に本件サービスを提供することにより、原告らの著作権及び著作隣接権を侵害していることが認められるから、原告らの著作隣接権(送信可能化権)に基づく本件放送の差止請求及び著作権(公衆送信権)に基づく本件番組の公衆送信の差止請求は、いずれも認められるべきである。 (2) これに対し、被告は、本件番組のうち、別紙放送番組目録記載4、5及び7の各番組以外のものは、現存する著作物ではなく、未だ制作されていない各番組について、公衆送信の差止めが認められるべきではない旨主張する。確かに、上記の番組については、未だ制作、放送されていないものをも含むと解されるが、従前から継続的に、原則として毎週、一定の曜日及び時間帯に、同一番組名で、著作物性を有する番組が放送されており、特段、放送を中止しなければならない事情は認められないから、今後も同様の形態、構成で企画・制作され、少なくともある程度の期間は放送が続けられる蓋然性が高く(甲1、甲2、甲5、甲44、甲45、甲53)、また、将来、それらの番組が制作された場合に、いずれも著作物性を有するものと推認される。そして、それらの番組が制作、放送された後に差止請求をするのでは、違法状態を排除することができないというべきである。したがって、同目録記載4、5及び7の各番組以外の番組については、将来、制作、放送されるものについても、具体的に著作権侵害のおそれがあると認められる。 また、被告は、同目録記載4、5及び7の各番組は、既に放送が終了しているから、本件サービスによる具体的な権利侵害のおそれがない旨主張する。しかし、これらの番組についても、一部又は全部の再放送ないし部分利用される可能性があり、本件サービスによる著作権の具体的な侵害のおそれがあるといえる。 さらに、被告は、本件番組のみをサービス提供の対象としないような選別を行うことは困難であり、差止めが認められると、結局、全ての電波がベースステーションに流入しないようにすることを強制されるから、原告らの請求の範囲を過度に超えた行為制限となる旨主張する。しかし、そのような事情は、本件差止請求を否定する理由とはならない。 被告の主張は、いずれも、採用の限りでない。 6 争点(6) (差止請求権の行使が権利の濫用に当たるか。)について 被告は、ベースステーションは合法的な機器であり、本件サービスによって原告らには不利益が生じないこと、原告らの権利行使が認められた場合、本件サービスが差し止められ、被告は、経済的に大きな不利益を受けること、本件サービスが差し止められれば、広範囲の社会的不利益が生じることを理由として、原告らの著作権ないし著作隣接権に基づく差止請求権の行使は権利の濫用に当たる旨主張する。 しかし、被告の主張は採用できない。 著作権法112条が、著作権等を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができると規定する趣旨は、著作権等が無体物に関する権利であり、かつ、独占的な権利行使を内容とすることから、著作権等の侵害の救済のためには、損害賠償だけでは不十分であり、侵害行為を直ちに停止させる必要があることに由来する。したがって、著作権、著作隣接権の侵害又は侵害のおそれが認められるならば、著作権者等は、差止請求権を行使できると解することが法の趣旨に沿うというべきである。 被告は、本件サービスの差止めにより、被告と本件サービスの利用者が経済的ないし社会的不利益を被る旨主張する。しかし、本件において、そのような不利益が生じたとしても、それは法が当然に想定している不利益の範囲を超えないものと解されるから、原告らによる差止請求権の行使が権利の濫用に当たるとはいえない。 第4 結論 以上のとおり、原告らの請求は、被告に対し、本件放送の送信可能化及び本件番組の公衆送信の各差止めを求め、被告の著作権及び著作隣接権侵害行為による損害賠償について、原告NHKにつき50万9204円、原告日本テレビ、原告TBS、原告テレビ朝日及び原告テレビ東京につき各24万0663円、原告フジテレビは20万6517円、並びに、これらに対する上記第3の4の(3) のとおりの遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。被告は他にも縷々主張するが、いずれも結論を左右しない。 よって、原判決を取り消し、原告らの請求を上記の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 池下朗 裁判官 武宮英子 別紙 当事者目録 控訴人(第1審原告) 日本放送協会(以下「原告NHK」という。) 訴訟代理人弁護士 梅田康宏 同 秀桜子 同 宮武泰暁 控訴人(第1審原告) 日本テレビ放送網株式会社(以下「原告日本テレビ」という。) 訴訟代理人弁護士 松田政行 同 齋藤浩貴 同 山元裕子 同 吉羽真一郎 同 上村哲史 控訴人(第1審原告)株式会社東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送)承継人 株式会社TBSテレビ(以下「原告TBS」という。) 訴訟代理人弁護士 岡崎洋 同 大橋正春 同 前田俊房 同 渡邊賢作 同 村尾治亮 同 新間祐一郎 同 木嶋望 控訴人(第1審原告) 株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン)承継人 株式会社フジテレビジョン(以下「原告フジテレビ」という。) 訴訟代理人弁護士 前田哲男 同 中川達也 控訴人(第1審原告) 株式会社テレビ朝日(以下「原告テレビ朝日」という。) 訴訟代理人弁護士 伊藤真 同 平井佑希 控訴人(第1審原告) 株式会社テレビ東京(以下「原告テレビ東京」という。) 訴訟代理人弁護士 尾崎行正 同 飯塚孝徳 同 上杉雅央 同 岩知道真吾 同復代理人弁護士 木村清仁 同 井上毅 同 岡本雅美 被控訴人(第1審被告) 株式会社永野商店(以下「被告」という。) 訴訟代理人弁護士 藤田康幸 同 志村新 同 水口洋平 同 小倉秀夫 同 速水幹由 同 椙山敬士 同 上沼紫野 同 市川穣 同 曽根翼 同 片山史英 同 加藤剛毅 脱退控訴人(第1審原告) 株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号・株式会社フジテレビジョン) 脱退控訴人(第1審原告) 株式会社東京放送ホールディングス(旧商号・株式会社東京放送) 別紙 サービス目録 東京都内の被告の事業所内において、顧客から受け取ったソニー株式会社製「ロケーションフリー」のベースステーションを設置し、これを、ブースター及び分配機等を介して、テレビアンテナと接続されている同所のアンテナ端子と接続し、かつ、ハブ及びルーター等を介してインターネット回線に接続することにより、同所で受信できるアナログ地上波VHFテレビジョン放送番組またはデジタル地上波UHFテレビジョン放送番組を、顧客が視聴できるようにするサービスであって、被告が「まねきTV」との名称により運営を行っているもの 別紙 放送目録 1−2 原告NHKが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送 デジタル周波数:557.142857MHz 2−2 原告NHKが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送 デジタル周波数:551.142857MHz 3−2 原告日本テレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送 デジタル周波数:545.142857MHz 4−2 原告TBSが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送 デジタル周波数:527.142857MHZ 5−2 原告フジテレビが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送 デジタル周波数:521.142857MHz 6−2 原告テレビ朝日が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送 デジタル周波数:539.142857MHz 7−2 原告テレビ東京が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送 デジタル周波数:533.142857MHz 別紙 放送番組目録 1 原告NHK 番組名 「バラエティー生活笑百科」 2 原告NHK 番組名 「福祉ネットワーク」 3 原告日本テレビ 番組名 「踊る!さんま御殿!!」 4 原告TBS 番組名 「関口宏の東京フレンドパークU」 4−2 原告TBS 番組名 「さんまのスーパーからくりTV」 5 原告フジテレビ 番組名 「MUSIC FAIR21」 5−2 原告フジテレビ 番組名 「MUSIC FAIR」 6 原告テレビ朝日 番組名 「いきなり!黄金伝説。」 7 原告テレビ東京 番組名 「ハロー!モーニング。」 7−2 原告テレビ東京 番組名 「ガイアの夜明け」 別紙 被告売上一覧
※前の四半期と比較して利用者数が増加している場合にはその数を新規入会者数として計算 ※前の四半期と比較して利用者数が減少している場合には新規入会者は0として計算 ※平成23年3月28日以降は利用者数が変化していないことを前提として計算 別紙 損害一覧(著作権法114条2項)
別紙 損害一覧(著作権法114条3項)
別紙(株)永野商店の損益
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