判例全文 line
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【事件名】自動連結システムの著作権確認事件(2)
【年月日】平成24年1月25日
 知財高裁 平成21年(ネ)第10024号 著作権確認等請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成17年(ワ)第2641号)
 (口頭弁論終結日 平成23年11月10日)

判決
控訴人兼被控訴人 セプロ株式会社(以下「1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 安倉孝弘
同 市村直也
被控訴人兼控訴人 JFEスチール株式会社(以下「1審被告スチール」という。)
同訴訟代理人弁護士 森本紘章
同 西尾亮平
同 松戸大介
同訴訟復代理人弁護士 山岸哲平
被控訴人兼控訴人 JFE物流株式会社(以下「1審被告物流」という。)
同訴訟代理人弁護士 大藤潔夫
同 太田尚成


主文
1 1審被告らの控訴に基づき、
(1) 原判決中、1審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の部分に係る1審原告の請求を棄却する。
2 1審原告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、1、2審とも、1審原告の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 1審原告
(1) 原判決中、1審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 1審被告らは、1審原告に対し、連帯して、15億円及び1審被告スチールについては、うち5億円に対する平成17年4月12日から、うち5億円に対する平成18年3月16日から、うち5億円に対する平成21年11月19日から、1審被告物流については、うち10億円に対する平成19年3月17日から、うち5億円に対する平成21年11月19日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、1、2審とも、1審被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 1審被告ら
(1) 原判決中、1審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の部分に係る1審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、1、2審とも、1審原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、1審原告において、1審被告スチールが使用している「混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置」(以下「本件装置」という。)に組み込まれた別紙プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)の複製物について、1審原告が湯浅通信機工業株式会社(以下「湯浅通信機」という。)から当該プログラムの著作権を譲渡されるなどして本件プログラムの著作権を取得したところ、1審被告スチールが本件装置を使用するに当たり、1審被告らとの間で、相当額の本件プログラムの使用料を支払う旨の合意があった、仮に合意がなかったとしても、1審被告スチールは本件プログラムの使用により不当に利得しているとして、これを争う1審被告らに対し、@本件プログラムの著作権が1審原告に帰属することの確認、A本件プログラムの使用料支払契約(1審被告らに対する主位的請求及び1審被告スチールに対する予備的請求1)ないし不当利得(1審被告スチールに対する予備的請求2)に基づき、連帯して、使用料ないし不当利得相当額15億円の支払(平成11年1月1日から平成16年12月31日まで6年間分合計18億円のうちの10億円及び平成17年1月1日から平成20年12月31日までの4年間分合計12億円のうちの5億円の一部請求。なお、遅延損害金は、1審被告スチールについては、平成11年1月1日から平成16年12月31日までの6年間分18億円のうち5億円につき訴状送達の日の翌日である平成17年4月12日から、うち5億円につき平成18年4月13日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同年3月16日から、平成17年1月1日から平成20年12月31日までの4年間分12億円のうち5億円につき平成21年9月3日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同年11月19日から、1審被告物流については平成11年1月1日から平成16年12月31日までの6年間分18億円のうち10億円につき平成19年3月16日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同月17日から、平成17年1月1日から平成20年12月31日までの4年間分12億円のうち5億円につき平成21年9月3日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同年11月19日から各支払済みまで年5分の割合)を求める事案である。
 原判決は、本件装置における車両の連結・解放・ブレーキ操作の方法・装置は、特許を取得する程度に新規なものであったことから、これに対応する本件プログラムも新規な内容のものであるということができ、しかも、本件プログラムは、その分量も多く、選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものということができるから、その表現には全体として作成者の個性が表れているものと推認することができるところ、本件プログラムの著作権は、著作権者である湯浅通信機から1審原告に遅くとも平成11年ころまでには譲渡されたものと認められるとして、上記@の本件プログラムの著作権に係る確認請求を認容した。
 しかし、Aの本件プログラムの著作権に係る金銭請求については、本件プログラムの使用料支払契約に係る合意が成立したとは認められず、また、1審被告スチールは適法に複製された本件プログラムの複製物を本件装置において使用しているにすぎない以上、1審原告には何らの損失が生じたものということはできないから、不当利得も成立しないとして、これを棄却した。
 1審原告及び1審被告らは、原判決を不服として、それぞれ控訴に及んだ。
2 前提となる事実
(1) 当事者等
ア 1審原告
 1審原告は、旧商号が平井電機株式会社であり、平成6年4月1日、現在の商号に商号変更した株式会社である。
イ 1審被告スチール
 1審被告スチールは、旧商号が川崎製鉄株式会社であり、平成15年4月1日、現在の商号に商号変更した株式会社である。
 本件装置の購入等については、1審被告スチール水島製鉄所工程部運輸管理課(当時の名称。以下「運管課」という。)が担当した。Aは、当時、運管課の掛員であった。
ウ 1審被告物流
 1審被告物流は、旧商号エヌケーケー物流株式会社が、平成16年4月1日、川鉄物流株式会社(平成6年7月1日の商号変更前の旧商号は川鉄運輸株式会社)を吸収合併すると同時に、現在の商号に商号変更した株式会社である。1審被告物流は、1審被告スチールの関連会社である。
 本件装置の購入等については、昭和53年5月1日に発足した1審被告物流水島支店第2業務部鉄道課(当時の名称。以下「鉄道課」という。)が担当した。鉄道課は、昭和62年9月、第2業務部運転整備課となり、平成4年7月、第2業務部運転業務課となった(丙45、47〜49)。
 昭和59年ころから昭和61年ころ当時、1審被告物流水島支店の支店長はB、次長はC、第2業務部長は、昭和58年4月1日から昭和60年3月末日まではDで、昭和60年4月1日から昭和62年3月末日まではC次長が兼務し、副部長はE、鉄道課長はF、鉄道課鉄道係長はG であった(甲208、233、丙170)。
エ JFE電制株式会社
 JFE電制株式会社(以下「JFE電制」という。)は、昭和48年にJFEスチールの電気部門が独立して設立された会社で、旧商号が川鉄電気設備工事株式会社であり、昭和62年1月1日、川鉄電設株式会社に商号変更し、平成16年4月1日、現在の商号に商号変更した(甲4の1・2、丙50)。
オ 湯浅通信機
 湯浅通信機は、昭和38年11月に設立され、平成10年8月28日、破産宣告を受けた会社である。
 設立当時の代表取締役はHであり、Hの息子であるI(現在の名前はI。以下「I専務」という。)は、昭和46年4月に湯浅通信機に入社し、昭和56年ころ専務取締役に就任し、昭和60年ないし61年当時は、実質的に代表取締役としての業務を行っており、昭和63年4月に名目上も代表取締役に就任した。なお、昭和60年ないし61年当時は常務取締役であったJが平成7年4月に代表取締役に就任し、平成8年11月、Hが代表取締役に就任した。
 K、L満及びMは、昭和59年ないし62年ころ当時、湯浅通信機の従業員であった。(甲210、211、233、丙90)
(2) 本件装置
ア 1審被告スチールは、その西日本製鉄所倉敷(旧川崎製鉄株式会社水島製鉄所)において、溶融状態の銑鉄を高炉出銑口で積み込み、所要の場所まで運搬するための貨車(それ自体は駆動力を備えていないもので、「台車」「TC車」「トピードカー」ともいう。)及びこれを牽引するディーゼル機関車(「動力車」「DHL車」ともいう。)を使用し、溶銑運搬の作業を行っている。
イ 前記の機関車及び貨車には、昭和61年3月から、「混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置」ないし「トレックス−PB装置(Train Remote Electric wave control System Parking Brake/列車遠隔電磁波制御方式停留制動装置)」(本件装置)が採用されている。本件装置は、無線遠隔指令によって任意の貨車のブレーキの緊締・緩解及び機関車と貨車、貨車相互の連結・解放を行うとともに、貨車の突放(逸走)等の緊急時にブレーキが自動的に作動するシステムである。
ウ 本件装置の代金として、JFE電制から、1審原告に対し、昭和61年3月31日に8038万2627円、同年5月2日に7009万4200円、同年6月5日に5979万9200円の合計2億1027万6027円が支払われた。
(3) 本件プログラムの複製
ア 湯浅通信機の従業員であるMは、同社の発意に基づき、遅くとも昭和60年4月ころから本件プログラムを職務上作成した(ただし、完成の有無・作成期間については争いがある。)。
イ 1審原告は、本件プログラムの複製物(本件プログラムが著作物性を認められるものであるか否かはともかく、本件プログラムが書き込まれた部品であるロム)を作成し、本件装置が被告スチールに納入される前に本件装置に設置した。
ウ 1審被告スチールは、昭和60年5月ころから本件装置の実験機の、同年11月ころからは本件装置の本番機の納入を順次受け、そのころから本件プログラムを使用している。
(4) 特許出願等
ア 本件装置の主要部分に係る発明は、昭和61年8月4日、出願人を1審被告スチール、1審被告物流、JFE電制及び1審原告とし、発明の名称を「車両の連結並びに解放方法及び装置」として特許出願され、平成5年11月26日、特許権の設定登録がされた(特許第1804586号)。
イ 本件装置のうち電気制御装置に係る発明は、昭和61年11月12日、出願人を1審被告スチール、1審被告物流、JFE電制及び1審原告とし、考案の名称を「低速車両の自己発電による電気制御装置」として実用新案登録出願がされ、平成6年10月21日、実用新案権の設定の登録がされた(登録第2036129号)。
3 本件訴訟の争点
(1) 1審原告提出の文書の形式的及び実質的証拠力の有無・程度(争点1)
(2) 本件プログラムの著作権に係る確認請求の当否(争点2)
ア 本件プログラムの著作物性
イ 本件プログラムの著作権の帰すう
ウ 1審被告らに対する対抗要件の要否
エ 1審原告の著作権の主張と信義則違反の成否
(3) 本件プログラムの著作権に係る金銭請求の当否(争点3)
ア 使用料支払契約の成否(1審被告らに対する主位的請求・1審被告スチールに対する予備的請求1・1審被告物流に対する予備的請求)
イ 不当利得の成否(1審被告スチールに対する予備的請求2)
ウ 使用料ないし不当利得の額
エ 使用料請求権の消滅時効の成否
オ 使用料請求に係る信義則違反の成否
第3 当事者の主張
1 争点1(1審原告提出の文書の形式的及び実質的証拠力の有無・程度)について
(1) 文書全般について
〔1審被告らの主張〕
ア 1審原告は、本件装置の開発経緯、1審原告と1審被告らとの間の本件プログラムに係る使用料支払契約の存在を立証するために各種文書を提出するが、そのうち、少なくとも以下の各文書(甲8、20、39、41、42、45、46、50、52、53、56、57、60、63、67〜69、73、74、76の1〜3、77〜80、84〜86、88、90、95、115、116、119〜123、192の2、195、198、212〜215、229、249、251〜253、258の1・2、260〜263、266、283の1・2、286の1〜7、315)については、1審原告により偽造・変造されたものであって、その形式的証拠力が否定されるか、およそ信用性に欠けるものであって、その実質的証拠力が否定されるというほかない。
 例えば、甲122は、このような書面を平成3年当時に1審原告が作成し、1審被告物流に提出したことを裏付けるような証拠は全く存在せず、逆に、他の客観的な事実関係に照らして全く信用できないものであることは明らかであり、その余の上記各文書についても、いずれも偽造・変造されたものであることは明らかである。
イ 原判決は、1審原告提出の文書中、議事録について、その量や外観、記載内容等の客観的事情から、これを後に偽造ないし変造することは到底不可能であるとするが、1審被告らは、これらの文書の全てについて、1審原告が一から偽造したものと主張するわけではない。これらの中には、実際に存在した正しい内容の文書に、偽造印影を付加顕出して体裁を整え、それらしく装ったもの、もともと存在していた文書に基づいて、一部虚偽の内容の記載を付加してもっともらしい文書として再生、変造されるに至ったものが相当数混在していると主張しているものである。
ウ 1審原告は、原審及び控訴審を通じて、その提出に係る文書の不備について1審被告らから指摘される都度、新たな文書を次々と提出した。
 例えば、1審原告は、控訴審に至り、原審において写しとして提出していた甲50、52、57及び84と同一内容の文書(原本)として、甲260ないし263を提出するが、1審原告は、「旧工場」「旧倉庫」「旧社屋」等の不明確な場所において、元社員の個別ホルダーにおいて私的文書として管理されていた上記文書を発見したなどと説明する。
 しかしながら、1審原告は、原審において、関係資料を必死に探索していたというのに、これを提出していなかったのであるから、控訴審において、突然、かつ、偶然、立証上必要な書類が発見されるとは到底解し難い。
 また、議事録のコピーを大量に保管していた1審原告において、将来のクレーム防止のために1審被告物流に懇願して獲得した大事な書類が杜撰に保管されていたものと解することもできない。
 同様に、控訴審に至って提出された甲252について、湯浅通信機及び1審原告において稼働した故人の遺族から資料の提供を受けたとする発見の経緯もまた、不自然であるというほかない。
エ 1審原告は、要するに、既に提出した文書について1審被告らから弾劾を受ける都度、1審原告にとって必要な証拠が偶然発見されたなどとして、新たな文書の提出を繰り返しているのであって、1審原告提出に係る各文書は、全体的に信用性を欠くものである。
オ 以上のように、1審原告が提出する文書の多くは偽造・変造されたもの等であり、少なくともその内容において信用性に欠けるものであるが、特に議事録は、以下に述べるとおり、不合理な点・事実と矛盾する点が数多く存在するものであるから、事後的に作成された偽造・変造文書である。
〔1審原告の主張〕
 1審被告らは、1審原告が提出する議事録等を偽造であるなどと主張するが、1審原告において、これだけ多量の議事録等を偽造することは不可能である。
 例えば、議事録は、原判決が指摘するとおり、その量、外見、作成に関与している者の人数、記述内容の複雑さ等からみて、到底これを偽造・変造できるようなものではないし、その内容は、偽造しようとする者が作出するはずのない記述がほとんどを占めているものである。
 また、1審原告は、本件訴訟提起前の交渉において、1審原告が保有する議事録等を全部提供し、これを1審被告らの保管している書面と突き合わせることによって早期解決を図ろうとしたのであって、突合せのために、わざわざ偽造・変造した書類を提供するはずがない。1審被告らは、1審原告があたかも1審被告らにおいて議事録等を保有していないことを周到に確認した上で議事録等を開示したかのように主張するが、事実経緯を無視した不当な主張である。1審原告は、本件訴訟の提起前の交渉段階から現時点まで、1審被告らが議事録に対応する書類を真実保有していないと考えたことはない。実際、1審被告らは、その主張する書類保管ルールによるならば保管しているはずのない書類につき、自己に有利な記載があるもののみを文書として提出しているものである。
 なお、1審被告らは、議事録が原本ではなく写しとして提出されていることについてるる主張するが、1審原告と1審被告らとは、1審原告が関与した船用自動ラックの作動不良について協議した際、議事録の改変が問題となったため、昭和59年3月7日の協議において本件装置の開発に関する議事録の作成ルールを取り決め(甲8)、1審原告は、これに従って協議の都度議事録を作成して1審被告らに提出したが、1審被告らは、当該ルールを無視し、1審原告が提出した議事録に確認印を押印したもののコピーを1審原告に返還していたのであり、本件訴訟に提出した議事録のほとんどが写しである原因は1審被告らにある。
 また、議事録は、担当者が作成した文案について、1審原告代表者が添削したものを事務員が手書き又はワープロで清書したものであり、作成責任者は同代表者となる。筆跡等からすると、筆記に関与したと推測される者は7名(原告代表者を含む。)、ワープロによる作成に関与したと推測される者は18名であり、従業員の定着率が低い1審原告において、約20年前の文書について具体的な担当者を特定することは不可能である。関与者を明らかにすると、1審被告らによる接触の危険性もあり、1審原告は、議事録を筆記した者、ワープロ打ちした者の氏名等を開示しないこととしたにすぎない。
(2) 議事録について
〔1審被告らの主張〕
ア 1審原告から文書として提出された、本件装置に関する1審被告らとの協議に関する会議記録等(議事録、打合覚、業務連絡表等。甲7ないし69、123。以下、総称して「本件議事録」という。)には、作成日とされる当時のワープロでは出力不可能な文字等が用いられているものであり、後日作成された可能性が高いものである。なお、甲123のみは、原本が文書として提出されているが、甲123に押印されている1審被告らの関係者の印影はいずれも偽造されたものというべきである。
 例えば、1審原告が昭和60年8月当時使用していたリコー製ワープロでは、ひと筆書きの「り」の字体は打ち出すことはできないものであり、ふた筆書きの字体が採用されていたものである(以下、「り」の字体について記載するときは、ふた筆書きの字体について述べる場合であっても、ひと筆書きの字体を用いる。)。当該字体は、昭和63年6月以降に発売された富士通製ワープロでなければ打ち出すことはできないから、同字体が出力されている議事録は、昭和63年6月以降に作成されたものである。
 「総」の文字も、つくり上部が部首の「ハ」の字体で打ち出されるものであり、つくり上部の「八」の2画目が異なる字体(部首の「几」に類似する字体)である「総」の文字は打ち出すことはできなかった(以下、便宜、「総」の字体を用いる。)。1審原告は、部首コード、仮名コードで入力すれば、上記各文字も出力可能であると弁解するが、リコー製リポート5600シリーズに登載されている明朝系フォントは1種類だけであるし、リコー製ワープロをOEM生産していた日立製作所において部首入力機能が採用されたのは、昭和62年4月以降である。通常の入力において手間のかかる部首コード入力は使用しない。
 また、半角の漢字も使用されているが、1審原告が使用したとするリコー製ワープロ「リポート350G」は、昭和60年当時、半角の漢字を作成し、印刷する機能を有しなかった。N倍角文字、スーパーアウトラインフォント機能等も当時のワープロには存在しない機能である。
 1審原告が昭和60年当時使用していた熱転写式プリンター(TP2600#506370)は、24×24ドットで12ポイントと10.5ポイントの文字の印字が可能だったが、40×40ドットでの印刷機能を有しないものである。
 また、やはり1審原告が使用していたとする「リポート5600」では作成できない罫線や中括弧、中抜き矢印も記載されている(甲68)。
 1審被告物流がワールドパルBW−450(昭和62年発売。日立製作所が設計製造販売。なお、同社はリコーにワープロをOEM供給していた。)とワイヤドット式プリンターPW10M1(昭和60年発売)により、甲号証の議事録や見積書と同一の書体の文書を作成することができるか再現試験を行ったところ、当該試験により作成された文書(以下、総称して「再現文書」という。)においては、甲50とは異なり、@ひらがなの「り」はひと筆書きではなく、ふた筆書きとなり、A1ページ以内に収まらず、B上部に広い余白が生じた。
 1審原告は、意図的に半角文字を混入させているなどとして、1審被告物流の再現テストは信用できないと主張するが、当該テストにおいては意図的な手法を用いてはいないのみならず、ワープロ本体が異なっても上位機種であれば印刷品位は同じであるし、解像度が同じプリンターであれば、熱転写式でもドットインパクト式でも同じ印刷結果になる。
 また、1審原告は、オートシートフィーダがあれば余白を調整できると主張するが、1審原告がオートシートフィーダを利用したという証拠はないし、ワープロ本体によってプリンターは制御されるので、プリンターにより紙送りを変更することはできない。
 なお、1審原告は、昭和60年3月11日にワープロのデモ機の貸与を受けたと主張するが、当該デモ機の製造銘板は「FD5600#504828」であり(甲192の2)、これは、昭和60年(1985年)4月に製作された828台目という趣旨であるから(乙17)、同年3月に使用することは不可能であった。
イ 本件議事録には、成果還元金についての記載があるが、成果還元制度は、作業を請け負った業者の自主的努力による作業効率の上昇あるいは当該業者の投資により1審被告スチールに利益が発生した場合に、その利益の一部を還元するものであるところ、本件装置を購入した1審被告スチール自身の投資による成果は還元の対象とはならない。
ウ 本件議事録には、「知的財産部」という記載がある(甲20、67)が、当時、1審被告スチールには知的財産部はなかった。
エ また、甲20の議事録には、1審被告スチールの「企画部技術総括室」という記載があるが、1審被告スチールに企画部技術総括室が設けられたのは昭和61年4月であって、甲20の作成日である昭和60年1月当時の名称は、「管理部技術総括室」であった。
オ 1審原告の主張を前提とすると、甲46及び63の議事録は、提出用、返却用及び保管用として3部作成されているはずであるが、確認印の位置・数・作成部数などに関して不自然な点がある。
カ 昭和60年ころのトナーの性能からすると、印刷された書面の文字が前ページの裏面に写るはずであるが、本件議事録にはそのような状態のものは存在しない。
キ 甲8の議事録中のG、Nの日付印は、印影の大きさが直径13mmであるが、従前使用されていた12mmの印から13mmの印に変更されたのは昭和62年9月以降であるから、昭和59年3月7日の協議の議事録である甲8に、13mmの印影が存在することは時期的に整合するものではない。また、日付欄の上下の間隔は真正な印影では4mmであるところ、6mmであり、字体も異なっている。
ク 甲123の議事録中のO の印影の課名欄は「管理」となっているが、Oは当時、管理部契約課長であったから、「管理」の印を使用することはあり得ない。
ケ 1審被告の鉄道課の受付印が押印された議事録があるが、当時、受付印があったのは管理部契約課のみである。契約課は、1審被告物流が1審被告スチールから請け負った作業につき、業務委託契約を締結して他の業者に継続的に実施させる事務を管掌していたので、たまたま受付印を使用していたにすぎない。当時使用されていない鉄道課の受付印による印影が顕出されることはあり得ない。
コ 1審被告物流の従業員で、昭和60年当時、鉄道課に所属していたPが保管していた文書には、湯浅通信機やJFE電制からの報告・連絡書面であっても鉄道課受領印は一切押印されていないし、1審原告の受領印もない。丙99及び111の議事録記載の会議には、1審原告代表者も出席しているが、その議事録は甲号証として提出されていない。
サ 甲69の議事録について、1審被告物流の鉄道課は、昭和62年9月に運転整備課に名称変更されたにもかかわらず、同議事録には「鉄道課」という記載がある。なお、真正な見積書である丙13ないし16には、宛先として正しく「運転整備課」と記載されている。
シ 甲68の議事録には、同日同時刻に1審原告における会議に出席していたG が出席していることになっており、事実(丙151)に反するものである。
ス 以上のほか、本件議事録について、甲123を除き、1審原告は原本を所持しておらず、写しを提出しているが、1審原告が主張する厳格な議事録ルールが定められていたとすれば、1審原告は原本を所持していたはずである。1審原告は、1審被告らが厳格な議事録ルールに違反し、1審原告に原本ではなく写しを返却したなどと主張するが、重要な契約書等ではなく、長期間にわたる本件装置開発過程において作成された全ての議事録について、担当者全員が全葉に押捺するなどという煩瑣なルールを遵守したというにもかかわらず、1審被告らがあえて原本の返還という点のみについてルール違反をするとは解し難いものである。そもそも、ルール制定の契機とされる船用自動ラックの作動不良が問題となったのは、ルール制定日とされる昭和59年3月7日以降である同年11月である。
 しかも、1審原告は、本件議事録の作成者を明らかにしない。また、全葉に押印している点、議事録として内容が異様に詳しい点など、その内容、表現、形式及び量の点で不合理かつ不自然である。
 さらに、1審原告は、本件訴訟提起前の事前交渉において、1審被告らが本件装置の開発に係る議事録等を保存していないことを周到に確認した上で、本件議事録を開示した。これは、1審被告らが保存する資料との照合により、偽造等の事実が判明することを1審原告がおそれていたからにほかならない。
セ 小括
 以上からすると、本件議事録は、偽造・変造されたものであるか、あるいは信用性に欠けるものであるというほかない。
〔1審原告の主張〕
ア 文書作成に使用したワープロの機種等について
 1審被告らは、本件議事録のワープロの印字について、@「り」「総」の字体が当時のワープロでは印字できないものであった、A印字の仕上がりが当時不可能であった40×40ドットの印刷によるものである、B1審被告物流の再現テストによると、同様の余白を有する文書は作成できなかったなどとして、これらはいずれも後日作成したものであるなどと主張する。
 しかしながら、@については、甲50等の議事録中の「り」の文字は、外字登録機能で作成していたものであり、甲78等の議事録中の「総」の字体の違いは、部首コード入力か、平仮名、片仮名コード入力かの違いによるものである。
 Aについては、1審原告は、一時期インクジェット式プリンターも使用していたこともあったが、昭和60年3月当時、極めて解像度の高い仕上がりの熱転写式プリンターを使用しており、当該プリンターで出力された文字は、解像度が極めて高い40×40ドット以上のドット式プリンターにより出力された文字と同等の質を有していた。
 Bについては、リコーが昭和59年にデモ機として提供したワープロ機とプリンターにオートシートフィーダを装着すれば同様の余白を出力することは可能である。あるいは、ワープロのB4サイズの画面に、A4サイズの範囲においてできる限り広く入力した上でA4サイズにより出力するか、B4用紙で出力してA4サイズに切断した可能性も高く、いずれかの方法によれば甲50その他の議事録と同じ書式・余白・印字の範囲での議事録の作成は可能であった。他方、1審被告物流による再現文書は、ワープロ本体及びプリンターの機種が異なるし、意図的に全角文字及び半角文字を混在させている。甲50等を作成した当時、1審原告が水島事務機からリポート5600及びそのインクジェットプリンターのデモ機を借り受けて使用していたことは、水島事務機の常務取締役として営業部門の責任者であったQの業務日誌(甲249、250)の記載からも明らかである。
イ 鉄道課受付印について
 1審被告物流は、本件議事録の鉄道課受付印は偽造であると主張するが、1審被告らが真正な文書として提出する丙39の6及び丙40の2には、それぞれ1審被告物流の契約課受付印、管理課受付印の印影があるから、当時、鉄道課にも受付印があったはずであって、鉄道課のみ受付印がなかったという主張は失当である。湯浅通信機のLが保管していた文書(甲212、213)にも鉄道課受付印が押印されており、甲50の議事録中の鉄道課受付印と一致する。
ウ 甲68の議事録について
 1審被告物流は、甲68の議事録は丙151の記載と矛盾するものであるなどと主張するが、むしろ丙151が事後に変造されたものである。1審原告の会社事務所に「シュミレーション機器」を設置したことはないから、1審原告で「自動ブレーキソフト変更後シュミレーション」をすることはできないし、1審原告の会社事務所で会議をしたのは、昭和60年6月25日の1回のみである。会社事務所で会議が開催されるのに、1審原告代表者が出席していないのも不自然である。
エ 小括
 以上からすると、1審被告らが指摘する本件議事録の疑問点は、いずれも邪推にすぎず、これらの成立の真正及び信用性は十分認められるものである。
(3) 決裁書について
〔1審被告らの主張〕
 1審原告は、1審被告物流作成とされる甲119ないし121の各文書(以下、総称して、「本件決裁書」という。)を使用料支払契約成立の根拠とするが、次のとおり、不合理な点・事実と矛盾する点があるから、上記各文書はいずれも1審被告物流が作成した文書ではないし、記載内容の信用性もない。
ア 甲119の決裁書について
(ア) 1審被告物流が1審被告スチールに取引口座を有しないとの記載があるが、1審被告物流は1審被告スチールのグループにおける基幹子会社であって、取引口座を有している(乙4、5、丙162、163)。
(イ) F、G、E、C、B、R、S及びAの印影は真正な印影と相違している。また、Sは、昭和60年10月ころまで「運管」(運輸管理課)の表示のある印を使用していたので、甲119のような「運」の表示の印で決裁することはない。
(ウ) 作成日とされている昭和60年8月ころに予算が許可ないし認可された旨の記載があるが、1審被告スチールにおける本件装置購入のための予算認可は同年9月30日に本社決裁がされたものである。
(エ) 本件プログラムが「予想をはるかに越える大掛かりなソフト開発に成る」との記述があるが、当時の関係者にはそのような認識はなかった。
(オ) 表題に「開放」の記載があるが「解放」が正しい。単なる変換ミスとはいえない。
(カ) 書式が1審被告スチールにおける当時の決裁文書のものとは異なる。
(キ) 1つの文書において、1審被告スチールと1審被告物流の2つの会社に決裁を求めている点で、別々に決裁を求める通常の方式とは異なるものである。
(ク) 「Aさん」(通常は「As」ないし「A掛員」と記載)、「当支店B支店長他幹部皆様方」(通常は「当支店長」又は「当支店幹部一同」と記載)との記載は不自然である。
(ケ) Aの職印は乙3のA の職印とは異なり、真正の職印によるものではない。
(コ) 「本装置は当支店が企画部に売り込み」という表現があるが、1審被告物流の鉄道課がその監督部課である1審被告スチールの運管課を飛ばして、直接1審被告スチールの企画部に売り込むことは許されない。本件装置は、1審被告物流が企画して1審被告スチールに提案したものではなく、1審被告スチールの要請・要望に基づいて1審被告らが共同して行ったものである。「貴課と共に予算申請を行い」という表現も、1審被告物流の鉄道課が1審被告スチールの運管課とともに、1審被告スチールの企画課に予算申請をすることはあり得ないから、不自然である。
イ 甲120の決裁書について
(ア) 「本社知的財産部」の記載があるが、1審被告スチールに知的財産部が発足したのは、甲120の作成日とされる昭和62年1月13日より後である平成2年1月である。昭和62年当時は「特許部」であったことは「共同出願に関する覚書」(甲112)からも明らかである。
(イ) 複数回予算申請が禁じられている旨の記載があるが、実際には予算変更申請により不足予算の充足が可能である。
(ウ) 成果還元制度に関する記載があるが、先に述べたとおり、同制度は、1審被告スチール自身の投資による成果は還元の対象とはならない。
(エ) 作業単価の見直しは、業務部外注管理課の専権事項であり、その作業の業者や監督部課以外の部署の者が参加する場で検討される事項ではない。
(オ) 本件装置は1審被告スチールの運管課が自らのニーズにより購入を意図し、認可を得たものであり、1審被告スチールの製鋼部が要求元で予算執行の所管課を運管課としたという記載は誤りである。
(カ) 1審被告スチールでは、予算取得部署がその執行権限を有するのに、担当部署である運管課をさしおいて、子会社である1審被告物流の要請により1審被告スチールの他の部署が決裁することはない。
(キ) ソフト費用に関する認識が誤っているのみならず、本件装置のメリットについて過大評価している。また、運管課にソフト制作のための予算がないとか、ソフト使用料を支払う必要があるという認識はなかったし、リプレイス時に同じ業者から同じものを購入するとの言質を与えたに等しい発言をすることはない。技術総括室においても1審原告と交渉をしたことはない。
(ク) B、C、E、F及びGの印影は真正な印影と相違している。
ウ 本件決裁書について
(ア) 昭和60年ないし62年当時、1審被告物流の水島支店では、4台の富士通製オアシス100シリーズのワープロが使用されていたが、専ら帳票や定型的な資料等の作成に使用され、一般文書の作成には使用されていない。富士通製パソコン(FACOM9450U)が鉄道課にも設置されていたが、簡単な文書作成機能しかなく、本件決裁書のような複雑な文書の作成は不可能であったし、従業員が私物を持ち込むこともなかった。また、Gは昭和63年10月以降になってワープロを操作できるようになり、Fも昭和61年秋以降に練習を始めたので、昭和60年ないし62年当時にワープロで文書を作成することはできなかった。
(イ) 本件決裁書には、1審被告物流が1審被告スチールの依頼により本件装置の購入のための購買代行をする旨の記載があるが、1審被告スチールの購買代行とは、1審被告スチールが子会社の購買を代行するものであり、子会社が1審被告スチールの購買を代行するものではない。
(ウ) 本件決裁書は、1審被告物流の鉄道課から1審被告スチールの運管課に宛てた書面のようであるが、1審被告スチールにおいて原本を見た者がいない上に、1審原告は入手先を具体的に明らかにしない。
(エ) 報告書なのに決裁を依頼する記載もあるが、報告書に決裁文書を兼用するような書式・表現は、1審被告物流の関係者は使用しない。
エ 小括
 以上からすると、本件決裁書は、偽造・変造されたものであるか、あるいは信用性に欠けるものであるというほかない。
〔1審原告の主張〕
ア 1審被告らは、使用料支払契約成立の根拠である1審被告物流作成に係る本件決裁書の成立の真正、信用性を争うが、次のとおり、同主張は理由がない。
(ア) 1審被告らは、甲119の決裁書に「開放」の字が使用されている点が不自然であると主張するが、昭和60年当時は本件装置について使用される名称が様々であったため、1審被告物流のN作業長らの指示により統一することとなり、その後「解放」を使用することとされたにすぎない。
(イ) 1審被告らは、甲119の書式は1審被告らの当時の決裁文書の書式とは異なると主張するが、当時、1審被告らには定まった書式はなかった。
(ウ) 1審被告らは、甲119の決裁方法について、子会社である1審被告物流の支店長から親会社である1審被告スチールの担当者に決裁依頼が回されること、運管課のAについて、「Aさん」と記載することは不自然であると主張するが、いずれも不自然であるとまでいうことはできない。
(エ) 1審被告らは、当時、1審被告スチールには知的財産部がなかったにもかかわらず、甲120の決裁書に「知的財産部」の記載があると主張するが、「知的財産部」の記載は、議事録(甲20)にもあり、1審原告は同議事録について1審被告物流の確認を受けているが、担当者から訂正指示はなかったし、組織名について俗称ないし通称が使用されることもある。昭和60年は、米国の知的財産保護強化政策が打ち出された年であり、マスコミにおいても「知的財産」という言葉を耳にすることも少なくなかったから、1審被告らがことさらに「知的財産部門」等の用語を用いることも、1審原告においてそれを「知的財産部」と聞き間違えるといったことも十分あり得るものである。
(オ) 本件決裁書には、1審被告らの関係者でなければ知り得ない1審被告スチールの社内規定に関する記載があるから、到底偽造できるものではない。
(カ) 1審被告らは、本件決裁書の各人の印影が偽造であると主張するが、E は、昭和62年4月半ばころから同年5月初めころまで、旧印と新印とを並行して使用していたことがあり、E が当時使用していた印鑑の印影(甲202)と甲119ないし121のE 印の印影は一致するし、E 自身、甲119ないし121の文書は閲読の上押印した記憶があると説明している。
イ 以上からすると、1審被告らが指摘する本件決裁書の疑問点は、いずれも邪推にすぎず、これらの成立の真正、信用性は十分認められるものである。
(4) 契約書及び見積書について
〔1審被告らの主張〕
ア 契約書の提出の経緯について
 1審原告が提出した本件議事録等の文書のほとんどは偽造されたものであるから、プログラムについての湯浅通信機から1審原告への譲渡に係る契約書(甲74、115、214、252)も、1審原告とワールドシステム開発との間の契約書(甲116)も、また、湯浅通信機作成名義の見積書(甲234、288)も、その形式的証拠力自体、否定されるべきである。
 しかも、1審原告は、原審において提出した第1次契約書(甲214。甲74はその写し)、第2次契約書(甲115)の作成経緯について、1審原告代表者の陳述書(甲228)において詳細に説明しているが、控訴審において提出された契約書(甲252。以下「第3次契約書」という。)の存在については全く言及していない。このように、これらの契約書の作成経過は明らかに不自然である。
イ 収入印紙について
 1審原告が本件プログラムの著作権の承継に係る文書として提出した各契約書には、平成5年以降に使用開始された収入印紙が貼用されているもの(甲74、115、116)があるのみならず、本来、6万円の印紙を貼るべきところ、4000円しか貼付していないもの(甲214)もある。1審原告は、平成5年の税務調査において不貼付を指摘されたなどと説明するが、1審被告物流の水島支店は、平成5年に広島国税局から税務調査を受けていない。税務調査は、昭和59年、61年、63年、平成2年、9年に実施され、平成2年より後は大阪国税局が行うことになっていた。本件装置の売買に関し調査が入ったとしても、昭和61年又は63年の調査において既に指摘されていたはずである。
 また、印紙税の徴収権の消滅時効は5年又は7年であるから、昭和60年ないし61年の文書について、平成5年に税務署が貼付漏れを指摘して是正を求めることはない。契約書の信用性と収入印紙の貼付の有無とは無関係であるから、履行済みの契約書に関し、消滅時効経過後においても印紙を貼付したり、双方の代表者によって割印するように弁護士が助言をするはずもない。
ウ 湯浅通信機の代表者印及び会社印の印影について
(ア) 1審原告と湯浅通信機との間の第1次ないし第3次契約書(甲214、74、115、252)に顕出された1審原告及び湯浅通信機の代表者印の印影には、不審点が存在する。
 昭和60年ないし61年の誓約書(丙42、43)における湯浅通信機の各代表者印の各印影は、昭和52年11月29日付けの根抵当権設定契約証書の写し(丙88の2)の印影と一致するから、少なくとも昭和52年から61年にかけて、湯浅通信機は上記の印影の印鑑のみを使用していたものということができる。1審原告と湯浅通信機との間の第1次、第2次契約書(甲214、74、115)及び1審原告が提出する他の同時期に作成されたとする文書(甲220、221)の湯浅通信機の代表者印の印影はこれとは異なっているし、これらの印影は、平成4年又は5年に作成された契約書(丙89の2〜4)の湯浅通信機の代表者印の印影とも異なっている。
(イ) I専務は、原審における証人尋問において、1審原告が文書として提出する上記各契約書の作成自体を否定するほか、本件プログラムの著作権について、その譲渡契約などを口頭でも行なったことはなく、著作権の存在自体も意識していなかったと明言している。また、I 専務は、昭和60年代において、湯浅通信機には2種類の代表者印があった事実を否定しているのみならず、湯浅通信機から1審被告物流に提出された前掲誓約書(丙43)における湯浅通信機の代表者印の印影が真正なものであると述べているところ、特に、湯浅通信機から1審原告への著作権の譲渡に係る直接証拠ともいうべき第1次契約書(甲214)上の湯浅通信機の印影は、前掲丙43及び88の2に顕出されている湯浅通信機の真正な印影とは明らかに異なるものである。
(ウ) 湯浅通信機の真正な会社印(ゴム印)には、欠損があるはずだが、前記各契約書の印影には、欠損がみられないから、真正な印影とは明らかに異なるものである。
エ 契約書作成に使用したワープロの機種について
(ア) 「り」及び「総」の字体
 1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書(甲214、その写しである甲74)の「り」「総」の文字は、前記のとおり、リコー製ワープロでは打ち出すことができず、昭和63年6月以降発売の富士通製のワープロであれば打ち出し可能なものである。
 したがって、1審原告と湯浅通信機との間の契約書は、1審原告が湯浅通信機との契約があったとされる時期に使用していたリコー製ワープロ350G、5600シリーズによって作成されたものではないから、昭和60ないし61年に作成されたものではなく、後日、より高性能の富士通製ワープロで作成されたものである。
(イ) スーパーアウトラインフォント機能及びN×N倍角
 1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書(前掲)及び1審原告とワールドシステム開発との間の契約書(甲116)には、いずれも24×24ドットを上回る解像度のフォントの印字、N倍角文字、スーパーアウトラインフォント機能等、昭和60年ないし61年当時には、どのワープロにもなかった機能が用いられているから、後日に作成された可能性が高い。
オ 1審被告物流の担当者の確認印
 1審原告と湯浅通信機との間の契約書(甲217)の確認のために押印されたF、G印は、議事録の偽造印と同じ印影であるから、同様に偽造によるものである。1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書の写し(甲74)のF 印及びG 印は、貼付されている収入印紙からすれば平成5年以降に押印されたものであるが、平成5年当時、Fは鉄道課に所属していない。
カ 鉄道課受付印
 貼付されている収入印紙からすれば平成5年以降に作成されたことになる1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書の写し(甲74)には、鉄道課受付印が押印されているが、1審被告物流の鉄道課は昭和62年9月に運転整備課に名称変更されている。
キ 不審な見積書の存在
 1審原告は、湯浅通信機に対して約6000万円を支払った証拠として、湯浅通信機作成に係る見積書(甲234、288)を提出する。
 しかしながら、甲234は偽造文書であるところ、甲288も、その押捺された会社印の印影、その書式、ワープロ文字の形などの点において、甲234と同一であるから、同様に偽造文書であるというほかないし、個別の記載内容についても、不審な点が多数みられるものである。
 しかも、I 専務は、いずれの見積書も作成したことはなく、約6000万円の支払を受けたことはないと明言している。
ク ワールドシステム開発の関与の事実の不存在
 1審原告は、原審において、ワールドシステム開発の関与が重要な争点となっていたにもかかわらず、支払総額や明細等の文書を提出しなかった。1審原告代表者は、原審における代表者尋問において、ワールドシステム開発の領収書は破棄されているなどと説明していた。金銭の授受を直接立証する領収書や請求書等の重要書類が保存されていなかったにもかかわらず、甲286の1ないし7の報告書のような周辺的な文書のみが保存されており、しかも、それが当審の平成22年7月21日の第5回弁論準備手続期日において突然証拠申出されたこと自体、当該文書が偽造であることを推認させるものである。
ケ 小括
 以上からすると、前記契約書及び見積書も、偽造・変造されたものであるか、あるいは信用性に欠けるものであるというほかない。
〔1審原告の主張〕
ア 収入印紙について
 1審原告と湯浅通信機とは、昭和60年11月15日、第1次契約書(甲214)を作成し、双方で保管していたが、1審被告物流が1審原告と湯浅通信機との間の契約書の提出を強く求めたため、相談の上、取引金額等に関する箇所を削除した第2次契約書(甲115)を昭和61年3月3日に作成した。1審原告は、同月16日ないし17日ころ、同契約書の写しを1審被告物流の鉄道課に持ち込み、同月19日付けの鉄道課受付印、F、Gの確認印が押印されたものの写し(甲74の1ページ目を甲217に差し替えたもの)を受領して保管していた。
 1審被告らは、甲115及び116の各契約書に貼付された収入印紙について、平成5年以降に発行された収入印紙が貼付されていることを問題にするが、これは、1審被告物流の水島支店が平成5年8月ころから広島国税局による税務調査を受け、1審原告も、倉敷税務署から反面調査を受けた際、1審原告と湯浅通信機、ワールドシステム開発との間の各契約書(甲115、116)及びその他の書類について収入印紙を貼付していないことを指摘されたため、同年11月中旬ころ、必要な額の収入印紙を購入して貼付したからにすぎない。1審原告は、当時の顧問弁護士の助言により、同年11月下旬ころ、1審原告と湯浅通信機との間の第2次契約書(甲115)に貼付された収入印紙に1審原告と湯浅通信機の代表者印の割印をし、湯浅通信機保管分にも同様の処理をしてもらうなどの対応をした。また、1審原告とワールドシステム開発との間の契約書(甲116)についても、1審原告保管分の契約書に貼付された収入印紙に、1審原告の代表者印のみを押印していたが、平成6年1月か2月ころ、ワールドシステム開発のW 則正と面談し、代表者印の割印を得た。1審原告がJFE電制あてに提出していた注文請書(甲215)についても同様の処理を依頼したものである。
イ 湯浅通信機の代表者印等の印影について
 1審被告らは、1審原告と湯浅通信機との間の各契約書における湯浅通信機の会社印及び代表者印の各印影は偽造されたものであると主張するが、甲74及び115の会社印及び代表者印と湯浅通信機作成の他の文書(甲218)の会社印及び代表者印の各印影は一致するし、湯浅通信機は、当時、代表者印を数個有していた。
 したがって、上記契約書における湯浅通信機の会社印及び代表者印は真正な印鑑である。
ウ 契約書作成に使用したワープロの機種について
(ア) 「り」及び「総」の字体
 1審被告らは、1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書(甲214。甲74はその写し)の「り」及び「総」の文字は、昭和63年6月以降発売の富士通製ワープロでなければ打ち出し不可能なので、後日作成されたものであると主張する。
 しかしながら、1審原告において、「り」の字体は、外字登録機能により作成して登録し、出力していたし、「総」の字体は、部首コード入力、仮名コード入力と入力方法を使い分けるといずれの字体も出力可能であるから、後日作成したものではない。
 なお、1審被告らが指摘する中括弧、中抜矢印等も、リコー製ワープロにより作成可能である。
(イ) スーパーアウトラインフォント機能及びN×N倍角
 1審被告らは、1審原告と湯浅通信機との間の第1次契約書の写し(甲74)、第2次契約書(甲115)、1審原告とワールドシステム開発との間の契約書(甲116)には、スーパーアウトラインフォント機能及びN×N倍角が用いられ、これらの機能は平成2年6月以降のものであるから、上記各契約書はいずれも同月ころ以降に作成されたものであると主張する。
 しかしながら、1審原告は、昭和60年当時、1審原告と湯浅通信機との間の契約書(甲74、115)のような重要な書類等の表紙は印刷業者に依頼し、これをコピーして使用していたものである。
 1審原告とワールドシステム開発との契約書(甲116)は、ワールドシステム開発において作成したものであるし、昭和59年に富士通から発売されたワープロであるオアシス100GU又はオアシス100GSにレーザープリンターを組み合わせれば、平成2年以前であっても作成は可能である。
エ 各文書の提出の経緯について
 本件装置の開発から長期間が経過していること、1審原告の懸命な探索活動にもかかわらず、一部文書の発見が遅れたこと、K の遺族から資料の提供を受けたことなどはいずれも事実であって、1審原告は各文書を提出する際、その経緯について具体的に明らかにしている。
オ 小括
 以上からすると、1審被告らが指摘する契約書及び見積書の疑問点も、いずれも邪推にすぎず、これらの成立の真正、信用性は十分認められるものである。
(5) その他の文書について
〔1審被告らの主張〕
 1審原告提出の各文書には、前記(1)ないし(4)における指摘を含めてまとめると、概略、以下の不審点を指摘することができる。
ア 当該文書の作成日とされる時期には存在しなかった部署名(知的財産部、企画部技術総括室、運転整備課等)が記載されているもの(甲20、50、67、69、95、120)
イ 印影や筆跡が真正なものとは異なるもの(甲8、20、39、46、50、56、57、63、67〜69、74、76の1〜3、78、84、86、95、115、119〜121、195、212、213、252、253、258の1、261〜263)
ウ 1審原告の主張や他の証拠の内容と齟齬するもの、作成時期が不自然であるもの、客観的事実と反する記載があるもの、提出の経緯が不自然であるもの等(甲5、8、41、50、56、57、63、67〜69、73、76の1〜3、79、80、88、90、95、115、116、119〜121、123、192の2、195、198、214、229、249、251〜253、258の1・2、260〜263、266、283の1・2、286の1〜7)
エ 「り」等の文字、解像度等の点で、当時のワープロでは作成不可能と思われるもの(甲50、57、60、63、67、68、76の1〜3、77〜80、84〜86、115、195、214、251、252、260〜263、283の1・2)
オ 使用開始前の収入印紙が貼付されていたり、印紙額が異なるなど、収入印紙について不自然な点がみられるもの(甲74、115、116、214、215、266)
〔1審原告の主張〕
 1審原告が提出した文書は、いずれも偽造・変造等によるものではなく、その成立の真正が認められ、信用性も高いものである。
 1審原告が提出するそのほかの各文書についての1審被告らの主張も、同様に根拠のない非難にすぎず、各文書の成立の真正、信用性はいずれも十分認められるものである。
(6) 著作権シールについて
〔1審被告らの主張〕
 1審原告は、本件装置の開発当時から本件プログラムに対する著作権の成立を前提としていた根拠として、いわゆる著作権シールをCPU基盤に貼付していたなどと主張するが、その撮影時期は客観的事実(後記T 回答)に反し、虚偽のものであることは明白である。
〔1審原告の主張〕
 甲73の写真は、昭和61年1月20日に納入された旨を表示する著作権シールの写真であるが、基盤の撮影自体は平成3年以降にされたものである。当該基盤は、平成3年以後に1審原告の工場に修理のために戻されたところ、修理の際、一旦著作権シールは除去されたが、修理終了後、最初の納入年月日を記載したシールを基盤に貼付した上、改めてコーティングを施すのが通常の作業手順である。甲73の写真は、修理品に新たな著作権シールを貼付した後、コーティングを施す前にCPU基盤を撮影したものであるところ、1審原告は、これを最初の納入時の写真と取り違え、原審において文書として提出してしまったにすぎない。
 この点について、原判決は、著作権シール(甲73、198)の撮影時期に疑問があることから、昭和61年2月14日の会議において「ロムに「著作権法によりソフトの無断使用及びコピーを禁じます」との1審原告の社名が入ったシールが貼り付けてあるが、以前より話のあった著作権の件でそうしてあるのか!」との発言が記載されている議事録(甲63)の成立の真正を疑問視する。
 しかしながら、原判決の根拠となるロット番号表示ルールに関する回答(1審被告スチール訴訟代理人が行った弁護士照会に対する株式会社ルネサステクノロジ知的財産権統括部のT 作成の2通の回答書。乙20、23。以下、総称して「T 回答」という。)は内容虚偽のものであることなどからすると、昭和61年当時、1審原告がROMに著作権シールを貼付していた事実を否定することはできない。
 しかも、原判決は、T 回答に基づいて、甲198の写真につき、昭和63年の第44週以降に撮影されたものであるとするが、同回答は内容虚偽のものであり、信用性に乏しい。
(7) 文書の提出が時機に後れた攻撃防御方法の提出に該当するか否かについて
〔1審被告らの主張〕
ア 原告は、本件プログラムの創作性を立証するために、当審の平成23年4月19日の第8回弁論準備手続期日において、ソースコード(甲289〜292)を提出するが、これは、時機に後れた不適法なものであって、却下されるべきである。
 すなわち、1審被告らは、原審の平成17年7月11日の第2回口頭弁論期日において、1審原告に対し、ソースコードの提出を求めたところ、同期日において、1審原告は、当初のプログラムと修正後のソースコードを提出する旨陳述していたから、1審原告が、真実、湯浅通信機及びワールドシステム開発からソースコードを取得していたのであれば、速やかに提出することが可能であったはずであって、控訴審の段階に至って提出することは、明らかに時機に後れたものであるというほかない。
 しかも、1審原告は、一部について、ROMから逆アセンブルしてソースコードらしきものを作成したことを認めているのであるから、上記ソースコードは、1審原告が作成したものである可能性があるし、甲289及び290は、湯浅通信機の作成したプログラムの最終版とされるものであるから、1審原告が著作権の確認を求めている本件プログラムのソースコードですらない。また、甲291及び292が現に稼働している本件装置に格納されている本件プログラムである証拠もない。
イ 以上からすると、甲289ないし292、さらに、甲294(甲291及び292に基づく特徴表)については、民訴法157条により却下されるべきである。
 なお、同様に、その余の主張立証(甲315)についても、時機に後れた攻撃防御方法の提出であるというべきである。
〔1審原告の主張〕
 争う。
2 争点2(本件プログラムの著作権に係る確認請求の当否)について
(1) 本件プログラムの著作物性について
〔1審原告の主張〕
ア 1審原告は、本件プログラムの開発を湯浅通信機に担当させた。湯浅通信機は、当初、ベーシックを用いてプログラムを開発していたが、本件装置の実験機開発段階において、ベーシックでは処理速度等の理由により本件装置を的確に稼働させることができないことが判明した。そのため、本番機用のプログラムについては、アセンブリ言語を用いて作成し直すことになった。
イ 本件プログラムの開発は、搬送コイルによる電磁波通信における信号の制御、TC車における自己の車番を自動的に認識させる手法の開発等の点で困難を極めた。
 製鉄所内には高圧電線や電波による様々なノイズが存在するため、これらのノイズの影響を回避することが本件プログラムの開発における重要課題であり、湯浅通信機は、何度も実験を重ねては、その都度通信の制御に係るプログラムを書き換えて、送信されたデータの認識方法や動作の順番変更、タイミング調整等の変更を繰り返したが、不具合は解消されなかった。
 また、本件プログラムの最大の特徴は、DHL車にTC車が複数両一挙に連結された場合、何両のTC車が連結されたのかはDHL車にあらかじめ示されておらず、かつ、各TC車の連結操作番号も決められていない状態から、DHL車の最寄り側から順次整然と連結操作番号が決定される点にある。そのため、TC車のプログラムにおいて、DHL車との連結完了を確認後、DHL車からの問合せに対して自己の車番を自動的に認識した上でDHL車に報告するとともに自車のメモリに記憶するという動作を行わせる必要があるところ、この点のプログラミング及びそれに対応するシステム構築が、本件装置の開発における最も困難な問題であった。特に、実験機段階では2両のTC車の接続にすぎなかったが、本番機ではこれが6両に増加するため、プログラミングの困難さは飛躍的に増大したものである。
 湯浅通信機は、昭和60年4月ころから同年9月ころまでの間、1審原告とともに試行錯誤を重ねてプログラムの改良に努力したが、完成には至らなかった。甲289(DHL車用)及び290(TC車用)は、湯浅通信機が撤退時までに作成していた未完成のプログラム(以下、1審原告の主張する、この段階におけるプログラムを、便宜、「当初プログラム」という。)のソースコードである。
ウ 1審原告は、湯浅通信機の撤退後、ワールドシステム開発という名称の技術者集団に対し、当初プログラムを改良し、本件プログラムとして完成させることを依頼した。ワールドシステム開発の技術者4名は、1審原告の指揮監督により、その従業員に準じる立場で当初プログラムの改良に取り組み、遅くとも昭和61年3月ころまでにはこれを完成させた。甲291(DHL車用。作成日昭和62年1月ころ。なお、1審原告は、当初、証拠説明書において、作成日は昭和60年11月30日であるとしていたが、後に訂正した。)及び292(TC車用。作成日平成元年3月ころ)が、ワールドシステム開発が完成させた本件プログラムのソースコードであるところ、当初プログラムは、ロードされるメモリ上のアドレス(番地)が絶対的に定まったオブジェクト・プログラムを生成するアブソリュート・アセンブラを用いて作成されたものであるのに対し、本件プログラムでは、任意のアドレス(番地)にロード可能な形式のオブジェクト・プログラムを生成するリロケータブル・アセンブラを用いて作成されたものである。
 本件プログラムは、車両の連結数や信号のやり取りの秒数制限等につきカウンター機能を採用しているものの、その他には多くの命令機能を有している。本件プログラムは、搬送コイル方式を採用するなど、昭和60年当時としては画期的であった本件装置を円滑に作動させることを目的として、新規に開発、作成されたプログラムであるから、作成者によって表現が異なるものである。本件プログラムは、ジャンプテーブルが少ないが、ジャンプテーブルの多少によってプログラムの独創性の有無や程度を判断することはできない。
 なお、1審被告らは、ワールドシステム開発の関与の事実はないなどと主張するが、1審原告は、本件プログラムの開発当時、技術者に対する1審被告らの過剰な干渉を避ける目的でワールドシステム開発の関与自体を1審被告らに秘匿していた。
エ 本件プログラムの主要な特徴は、@DHL車にTC車が複数両一挙に連結された場合、当初は、何両のTC車が連結されたのかはDHL車にあらかじめ示されておらず、かつ各TC車の連結操作番号も決められていない状態から、DHL車の最寄り側から順次整然と連結操作番号が決定される点、A連結解放時に、必ずしも連結解放されるTC車の連結解放装置が作動するわけではなく、対向するTC車の連結解放装置が作動することにより連結解放が行われる場合もあり、その選択・判断は本件プログラムが行う点である。
 本件装置は、任意のTC車を選択してその連結器を解放させたり、パーキングブレーキを緊締・緩解させる前提として、DHL車に連結されている各TC車に固有の識別符号(連結操作番号)を付す方法を採用しているところ、本件プログラムによる処理は、以下のとおりとなる。
(ア) 走行中のDHL車が新たなTC車に接近すると、当該TC車はDHL車の発するML命令に対応して自己の車番を「00」として応答する。
(イ) 接近してきたDHL車から発せられた通信キャリア(搬送波)を検出した新たなTC車は、そのキャリアがいずれの方向から発せられたものであるかを確認して、自車がDHL車から見て「F」側(前方)に位置するのか、それとも反対側の「R」側(後方)に位置するのかを自ら判断し、自車のメモリに記憶する。
(ウ) 新たなTC車がDHL車に連結されると、DHL車のプログラムは「MF命令」と称する命令(連結器のピンが降りることにより確実に連結が完了したかどうかを確認するよう指示する命令)を発し、連結完了を確認する。
(エ) MF命令により連結完了が確認されると新たなTC車は車番付けを受け得る状態となるので、DHL車は当該TC車に対して「NL命令」と称する命令(TC車の車番付けを命ずる命令)とその車両番号を発信して、新たに連結されたTC車に車番を付していく。複数のTC車が同時に連結された場合には、連結された車両台数と同数回この作業を繰り返し、全てのTC車に車番を付していくことになる。
 そして、NL命令の発信から0.2秒以内にどのTC車からも応答がないと、DHL車は全てのTC車への車番付けが完了したものと判断し、車番付け作業を終了する。当該部分のプログラムは、DHL車の最終リスト036C番地から0388番地までの12命令(甲188の1DHLフロー3中列上部が相当する)及び038B番地から03AC番地までの16命令(同フロー3中列中央部が相当する)により記述されている。
(オ) 前記(エ)のDHL車のプログラムの動作に対応して、TC車のプログラムは、DHL車との連結完了を確認後、自らを車番付けに対応できる状態とし、DHL車からのNL命令によって自車の車番を「F1」(DHL車のF側の1番目)、「R2」(DHL車のR側2番目)等と認識した上で、正常に車番が付されたことをDHL車に報告するとともに、その車番を自車のメモリに記憶する作業を自動的に行う。
 TC車が行う上記車番付け作業の動作に関するプログラミング及びそれに対応するシステム構築をどのように行うかが本件装置の開発において最も困難な点であり、湯浅通信機による開発段階では、その最終段階のプログラム(甲289、290)においても当該部分の不具合が残り、結局、本件装置を安定的に稼働させることができなかった。1審原告は、湯浅通信機がプログラム開発から撤退後、ワールドシステム開発にその完成を依頼した。そして、本件プログラムの開発を引き継いだワールドシステム開発は、様々な試行錯誤を重ねて、苦労の末、最終的に本件プログラムを完成させたものである。
 1審原告は、本件プログラムの核心部分である上記TC車における車番付け作業に係るシステムの内容を自社のノウハウとして秘匿し、これを管理している。当該部分の命令は、TC車の最終リスト(甲292)の0104番地から01F6番地までに記述されているところ、上記ノウハウに係る非公知性及び秘密管理性を確保する必要があるため、当該部分については開示しない。
 本件装置は、当時、特許権を取得できるほどに新規で進歩性を有する画期的な技術であった。全く新規な機能を有する本件装置を稼働させるための本件プログラムを、他の既存のプログラムの表現を模倣することにより作成することができないのは当然である。特に、上記中核部分であるTC車の車番付けを行わせる部分は、本件プログラムが有する多数の機能のうち最重要部分を実現するもので、新規のアイデアに基づき全くのゼロから開発されたものである。当該部分を構成する各パートは、それぞれ数十から百数十もの命令数により記述されている上、多数のサブルーチンを用いた構成となっているから、このような複雑なプログラムにつき、その表現(どのような命令をどのように組み合わせるか、どのような順序で命令を記述するか、どのようなサブルーチンを設けるか等)が1つ又は極めて限定された数しかなかったり、だれが記述しても大同小異のものとなったりすることは到底あり得ない。しかも、本件プログラムには、上記部分以外にも、他に多数の機能を実現するための部分が存在するのであり、それらが互いに有機的に組み合わされてひとまとまりのプログラムとなっているのである。
 したがって、本件プログラムは、本来そのソースコードの詳細な検討を行うまでもなく、著作権の保護を受けるプログラムの著作物に該当することは明らかである。
オ 当初プログラムは、本件装置の全てを安定的に稼働させる程度には至っていなかったものの、電子計算機を機能させて1つの結果を得ることができるように指令を組み合わせたものであって、著作者である湯浅通信機の思想感情を創作的に表現したものであるから、それ自体1個の独立したプログラムの著作物である。
 そして、本件プログラムは、当初プログラムに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより作成された、これに接する者が当初プログラムの表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物であるから、当初プログラムを原著作物とする2次的著作物に該当する。
 本件装置のシステムの核心部に当たるTC車に自動的に車番付けをさせるプログラム部分について、1審原告は、その内容をここで具体的に明らかにすることはできないが、ワールドシステム開発は、湯浅通信機が作成した当初プログラムを変更・修正することにより、当初プログラムでは不可能であった機能を実現させたのであるから、そのプログラムの変更行為に創作性が認められるのは当然である。
 そして、単純に変更された部分のプログラムの分量だけで比較しても、上記変更部分が含まれる本件プログラムの「LINK CAR」と名付けられたプログラム部分は、当初プログラム(甲290)において01AA番地から0264番地までの78行で記述されているのに対し、本件プログラム(甲292)においては00F7番地から0317番地までの271行(約3.5倍)の分量を費やして記述されているのであるから、この部分についてワールドシステム開発のプログラム変更行為に創作性があることを十分に推認することができる。
 なお、甲291の一部は、平成10年ころに本件装置のリプレイスが検討された際、1審原告が保有する本件プログラムのソースコードに欠落部分があったため、当該部分のマシン語をROMから読み出して逆アセンブラする方法で解析し、作成したものである。
カ 以上からすると、本件プログラムに著作物性が認められることは明らかである。
〔1審被告らの主張〕
ア 1審原告は、本件プログラムの著作権者であることの確認を求めているのであるから、その前提として、同プログラムの具体的な内容について特定して主張立証する責任があることは明らかである。
 しかしながら、1審原告は、機密保持を理由に、本件プログラムの最重要部分について主張立証しないのであるから、1審原告の当該確認請求はそのことのみをもって棄却されるべきである。
イ プログラムは表現の記号が限定され、言語体系も厳格であり、電子計算機を経済的、効率的に機能させようとすると、指令の組合せの選択が限定されるため、特定の機能を果たすプログラムの記述は類似する傾向にある。特に、産業用プログラムは、装置の仕様、システム、運転方案、使用環境等、プログラム作成者の知的活動外の条件から経済性・合理性を追求して作成されるものであるから、非常識に合理性を無視して作成しない限り、同一又は類似するものになりやすい。
 したがって、産業用プログラムについて安易に著作物性を認めると、プログラムが果たす機能やアイデアを保護・独占させる結果を招くおそれがあるため、プログラムの著作物性は、プログラムの具体的記述を観察し、「選択を容れる余地がある」のみならず、現に著作権法による保護を与えるに足る積極的な創作的活動が加えられたことを主張立証する必要がある。
ウ 本件プログラムは、フローチャート(丙5)に基づいて作成されたZ80という型式のCPU用のプログラムであるところ、1審原告が開示した部分でさえ、単純なカウンター機能しか用いておらず、ジャンプテーブルも小さく、複雑なものではないから、Z80のプログラミングに慣れた者が当該フローチャートに基づいてプログラムを作成すれば、本件プログラムと同様のプログラムは十分作成可能である。しかも、本件プログラムは、規模も小さく、その作成に多大な労力を要するようなものでもない。
 仮に、甲291及び292を民訴法157条により却下し得ないとしても、本件で確認の対象とされるプログラムは、「トレックス−PB装置(混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置)のうち、ディーゼル機関車(DHL)及び貨車(TC車)の各主制御装置に格納されたプログラム一式」であるから、それ自体では本件装置を動かすことができない不完全なプログラムにすぎない甲291及び292に基づいて、本件プログラムの著作物性を認定することはできない。
 しかも、本件プログラムは、@CPUに行わせる動作が単純である、A当該動作は1審被告らが定めた運転方案に決められている、Bシーケンシャル型の産業用プログラムで単純なカウンター機能しか用いておらず、ジャンプテーブルも小さく、意図的に不必要なことをしない限り指令の組合せの表現方法も限られたものになるにすぎず、到底、創作性を認めることができるものではない。1審原告も、1審被告らから、当該プログラムは「ごくありふれた表現」を用いたものにすぎないと指摘されながらも、創作性について具体的な主張をしない。
 原判決は、プログラムの行う作業自体が複数あり、段階・順序を踏んでいること、作業の方法が新規なものであること、ソースコードの行数が多いこと、フローチャートの表現自体に新規性があること、フローチャートの分量が多いことなどを理由として、本件プログラムの創作性を認めたが、これらはいずれもプログラムの創作性を認める根拠となるものではない。
エ 以上からすると、本件プログラムは、厳格なコンピュータープログラム体系(文法)下にコンピューターを機能させて一定の効果を得る必然的な指令の組合せを超えると認められるような高度の創作性を有するものではなく、著作物性を認めることはできない。
(2) 本件プログラムの著作権の帰すうについて
〔1審原告の主張〕
ア 当初プログラムについて
(ア) 湯浅通信機の従業員Mらは、同社の発意に基づき、同社の職務として、昭和60年9月ころに当初プログラムを作成したところ、これを公表するとすれば同社名義による公表が予定されていたものであるから、同社は、当初プログラムの著作者であり、著作権者でもある(昭和60年6月14日法律第62号による改正前の著作権法15条)。
 1審原告は、湯浅通信機との間で、当初プログラムの著作権の譲渡に関し、昭和60年2月25日付け、同年11月15日付け及び昭和61年3月3日付けの3通の契約書(甲115、214、252)を締結した。これらの契約書には、いずれも湯浅通信機が1審原告に対して当初プログラムの著作権を譲渡する旨が明記されている。各契約書に押捺された湯浅通信機代表者の印影は全て同社の真正な印章により顕出されたものであって、これらはいずれもその契約年月日の記載の日に真正に成立したものということができる。
 そして、当初プログラムの著作権譲渡の効果は、1審原告が湯浅通信機に対して著作権譲渡の対価を支払った後記昭和60年11月15日に発生したものと解すべきである。
(イ) 1審原告は、湯浅通信機に対し、完成したプログラムの納入後に代金を一括支払する予定であったが、I 専務から、昭和60年1月中旬ころ、本件プログラムの開発は当初予測していたよりも相当困難であり、完成までにはかなりの時間を要するから、プログラム開発作業の人件費を2、3か月毎に支払ってほしいとの要請を受けたため、本件プログラムの開発費として、開発作業を担当した湯浅通信機の従業員の人件費等について、湯浅通信機から提出される日報に基づき、2、3か月分ずつ支払うこととした。
 1審原告は、湯浅通信機が本件プログラムの開発に携わった昭和59年5月から昭和60年11月10日までの約1年6か月間において、同社が行った本件プログラムの開発作業の対価及び当初プログラムの著作権譲渡の対価の合計額として、5986万円を支払っている。
 なお、値引き前の当初請求額6182万2074円の内訳は、以下のとおりである(甲288)。
a 実験機用ソフト設計開発・作成に関連する各事前調査等に要した人件費等合計885万8969円
b 実験機用ソフト設計開発・作成関連部門 合計521万2000円
c 本番機用ソフト設計開発・作成関連部門 合計2396万8200円
d 本番機用原型ソフトによる現地川鉄構内での実車確認テスト及びソフトが完全に作動しない各種異常調査関係部門 合計585万4405円
e 各測定機器類レンタル料 合計197万8500円
f ソフトの動作説明書原稿作成費 合計53万2000円
g 本件原型ソフト関係の全てを譲渡する対価 合計1150万円
イ 本件プログラムについて
 ワールドシステム開発の技術者4名は、1審原告の発意に基づき、その従業員に準じる立場で、1審原告の職務として当初プログラムの修正・変更作業を行い、遅くとも昭和61年3月ころまでに最終的に当初プログラムを原著作物とする2次的著作物である本件プログラムを完成させた。1審原告は、その対価として、合計1537万8000円を支払った。
 したがって、1審原告は、2次的著作物としての本件プログラムの著作権を原始取得したものである(著作権法15条2項)。
 なお、1審原告は、本件プログラムの開発において、事前調査、テスト運転への立会など、全ての過程に関与しており、その人件費は合計1611万6413円にも及ぶものである。
ウ 小括
 以上からすると、1審原告は、湯浅通信機から当初プログラムの著作権を譲り受けた上、ワールドシステム開発の技術者に1審原告の職務としてその修正・変更作業を行わせ、本件プログラムを完成させたものである。
 よって、本件プログラムは、当初プログラムの2次的著作物に該当するものであるから、本件プログラムの著作権及びその原著作物である当初プログラムの著作権(著作権法28条)は、いずれも1審原告に帰属するものである。
 仮に、本件プログラムが当初プログラムの複製物にすぎないとしても、当初プログラムの著作権が1審原告に帰属するものである以上、結論に相違はない。
 なお、1審被告らは、湯浅通信機から当初プログラムの著作権を譲渡されていないし、湯浅通信機、1審原告、1審被告ら、JFE電制において、本件プログラムの著作権を準共有とする合意をしたこともない。1審被告らは、本件装置の本番機納入直前に、1審原告が提出した納入仕様書によって、本件プログラムにZ80というCPUを使用していることを知ったほどである。1審原告は、本件装置に関する知的財産について、全て1審被告らに取得されてしまう状況であったことから、せめて本件プログラムの著作権は確保しようと考えていた。1審原告は、昭和61年1月20日、本件装置のCPUに納入日を記載した著作権シールを貼付したが、これは、1審原告がそのころから本件プログラムの著作権の帰属について意識していたことを裏付けるものである。
〔1審被告らの主張〕
ア 本件プログラムについて
(ア) 1審原告及び湯浅通信機は、昭和60年2月付けで、本件装置の技術に関する発明考案等に係る工業所有権を出願する権利は、原則として1審被告物流に帰属することを承認し、その承諾を得ることなく各社名義で出願しないこと、当該技術に関する技術上の知識については堅く機密を保持すること、その他当該技術に関し1審被告物流が不利になるような行為をしないこと、製作、工事及び技術協力を他のメーカーに依頼する場合は1審被告物流の承認を得ること、当該誓約に違反した場合には一切の責任を負担することを内容とする誓約書を作成し、1審被告物流に提出した。
 湯浅通信機は、その上で、開発構想を策定し、引き続き動作実験を繰り返しながら社内討議を重ねてシステム設計と機器設計を進め、Mが本件プログラムを職務上作成するようになった。湯浅通信機では、昭和60年4月ころから、Kが担当して機器の製作を行い、プログラムを組み込んで、同年5月中旬ころには実験機の制御装置の納入を完了した。本件装置については、実機テスト等が行われたが、本件プログラムの開発において問題となったのは、専ら製鉄所構内で不可避的に発生する電磁波ノイズによる障害であって、本件プログラム自体の問題点が指摘されることはなかった。そのため、当該課題は、本件プログラムの修正・変更によってではなく、電波信号の電磁誘導コイルへの到達を阻害するノイズ対策として、電磁コイルのシールドを物理的に強化するというハードの改良により解決されたものであり、本件プログラムに対しては、ノイズ対策のための微修正等が加えられることはあったが、1審原告が指摘するような、湯浅通信機による開発が頓挫し、ワールドシステム開発が6か月もの時間を掛けて修正するような事情は生じなかった。実際、本件装置開発の全期間を通じて、湯浅通信機以外のプログラム開発業者が1審被告スチールの水島製鉄所構内に入ったことはなく、また、1審被告ら及び湯浅通信機のいずれの関係者も、1審原告からそのような業者の紹介を受けたこともない。
 なお、1審原告は、1審被告らに対し、本件装置の開発費及び本件プログラムの開発・制作費用の内訳、詳細を明らかにしたことはなかった。本件装置の開発に関与したI 専務、K、L、Mらは、開発期間中、これに専従していたわけではない。本件プログラムの開発費(フローチャートの作成など付随する作業の費用も含む。)としては、湯浅通信機に入社後2、3年程度しか経過していないMの約3か月分の人件費相当額程度(約100万円)にすぎず、湯浅通信機は、5台の実験機の製作代金として支払われた900万円の中に含めて、既に回収済みである。
(イ) 1審原告は、本件プログラムの開発は困難なものであり、開発費として、湯浅通信機に対して約6000万円を支払ったのみならず、ワールドシステム開発に対する依頼を余儀なくされ、さらに数千万円単位の支払をしたなどと主張する。
 しかしながら、実験機用の簡易ソフトなるものの存在及びその具体的な内容、ワールドシステム開発が完成させたという本件プログラムの該当部分についての具体的な主張立証は全くされていないし、ワールドシステム開発なるソフト開発グループは、その存在自体認めることはできない。実際、昭和60年10月以降も、湯浅通信機が本件プログラムを含めた本件装置の開発を継続し、メンテナンスも引き続き担当していた。1審原告は、開発費に関する領収書や請求書は残存していないと説明し、本件訴訟においても、原審では、文書として提出しておらず、控訴審に至って、突如として、その一部を提出したが、写しにすぎない議事録等の関連資料や記録については完璧に保存していることと比較すると、明らかに不自然である。
 なお、1審原告は、本件プログラムの使用料に関し、1審被告らと交渉を開始した当初、複数の「ソフトハウス」の関与により、多額の費用を要したと強調しており、ワールドシステム開発1社のみが関与したとは説明していなかった。
(ウ) 本件プログラムは、遅くとも昭和60年10月までに完成し、その後は利便性向上のための改良が行われていたが、ワールドシステム開発の関与を必要とする事情をうかがわせる証拠はない。I 専務、L のいずれもワールドシステム開発のメンバーに会ったことも、業務場所も、名称すら知らない。発注者であるはずの1審原告の代表者でさえ、業務場所に関しては岡山の知人宅というだけで具体的な場所を確認していない。携帯電話のなかった昭和60年ないし61年において、本件プログラムの完成が急がれていた状況で、ワールドシステム開発からの連絡を待つしかないという開発状況は、関与形態として明らかに不合理である。特に、本件プログラムの開発(不具合の解消)には、本件装置が稼働する現場を知り、テストに立ち会うことなどが不可欠であるが、ワールドシステム開発について、このような事実がないことに争いはない。1審原告は、ワールドシステム開発は現場に入ることを求められれば受託しないと述べたなどと主張するが、明らかに不自然である。しかも、1審被告らは、本件訴訟に至るまで、ワールドシステム開発の名称を全く聞いたことがなかった。仮に、1審原告主張のとおり、湯浅通信機によるプログラム制作が不可能となったとしても、1審原告が1審被告らに湯浅通信機の撤退・ワールドシステム開発の参加を秘匿する理由は全くない。
イ 本件プログラムの改変について
(ア) 1審原告がワールドシステム開発において作成したと主張する甲291及び292は、先に述べたとおり、極めて単純なプログラムであって、創作性を有するものではない。
(イ) 「SOSUBルーチン」について加えられた改変も、CPUの仕様という外的な要因により当然必要とされたもので、8080用ニーモニックをZ80用ニーモニックに変えたのみであり、機械語のレベルでは命令の構成・記述の順序は全く同一であるし、両ニーモニックの間には1対1の対応関係があり、その変換はだれが行っても同じものになる。
(ウ) 1審原告は、ワールドシステム開発が開発したソースコードとして、甲291及び292を提出するが、これらのソースコードも湯浅通信機が作成(改訂)したものである。
 すなわち、甲291(作成日昭和60年11月30日)は、本件プログラムのDHL車用のバージョン4のソースコードであるところ、湯浅通信機が開発した当初プログラムのDHL車用原型ソフトのソースコードであるとして1審原告が提出した甲289はバージョン3であるが、その作成日は同年12月とされているから、作成日に関し、明らかな矛盾がある。また、1審原告がワールドシステム開発に費用を支払った証拠であるとする甲286の1ないし7の報告書には、本件プログラムの修正(改訂)作業の開始日が同年10月25日とされているが、そうであるならば、1審原告が開発の困難性を強調する本件プログラムの改訂作業がわずか1か月で終了しながら、ワールドシステム開発は、その後5か月間(昭和61年4月20日まで)にもわたって、合計1285万8000円もの費用を1審原告に請求し、1審原告もその支払に応じたことになる。
 しかし、その後の昭和61年11月20日の時点でも、本件プログラムはバージョン3の段階に留まっており、バージョン4が存在しなかったことは明らかである。湯浅通信機は、本件装置の稼働後も引き続き1審原告経由でメンテナンスを請け負っており、同年12月21日ころ、DHL車用のプログラムのバージョン4を作成したものである。
 甲292についても、1審原告は、ワールドシステム開発が平成元年3月ころ作成したものであるとするが、ワールドシステム開発が本件プログラムの修正(変更)の業務に従事したとされる期間は、昭和60年10月から昭和61年4月までであるとする従前の説明と明らかに矛盾する。しかも、ワールドシステム開発は、昭和61年4月に完了したという本件プログラムの修正(変更)後、1審原告との接触は全くなく、そのため、平成5年に至って、1審原告が甲116に収入印紙を貼付してワールドシステム開発の消印を得ようとした際も、接触の手掛りはわずかに代表者W の昭和60年当時の大阪の電話番号のみであったというのであるから、ワールドシステム開発が本件プログラムを改訂した事実を認めることはできない。
ウ 本件プログラムの著作権の帰属について
(ア) 本件プログラムの作成当時(昭和60年ないし61年)、プログラムについて著作権が成立し、法的保護が与えられるということは、一般的に理解されていなかった。
 プログラムの法的保護については、昭和58年ころから昭和60年初めころまで、これを著作権法の改正によって実現すべきと主張する文化庁とこれを新法(プログラム保護法)の立法によってすべきと主張する通商産業省との間で、業界と日米両国を巻き込んだ激しい論争があり、昭和60年3月に至り、両省庁の間で著作権法の改正により対応することが合意され、同年4月11日に内閣より国会に法案が提出され、同年6月7日に参議院本会議にて可決、成立したものである(昭和60年6月14日法律第62号による改正著作権法。以下「改正後著作権法」という。)。
 実際に、本件装置開発に関与した1審被告らにおいても、湯浅通信機においても、プログラムの著作権という概念は特に意識していなかった。
 改正後著作権法が施行されたのは昭和61年1月1日であるから、本件プログラムの開発当時、その著作権の帰属が意識されなかったのはむしろ当然であるし、著作権を譲り受けたと主張する1審原告すら、平成14年2月21日に至って登録を行ったものであるから、1審原告も本件プログラムについて著作権が成立するという意識を有していなかったというべきである。
 したがって、本件プログラムに著作物性が認められるとしても、その著作権は、特に意識されずに、本件装置の所有権とともに1審被告スチールに移転したとみるのが自然であって、1審被告スチールに帰属している。
(イ) 仮に、本件プログラムの著作権が意識されていたとすれば、その著作権は湯浅通信機に帰属しているというべきである。
 すなわち、本件プログラムは、前記のとおり、湯浅通信機のMが、同社の発意に基づき、本件装置を制御するプログラムとして職務上作成したものである。そして、本件プログラムは、基本的に、湯浅通信機のみが、1審被告ら及び1審原告との間の共同開発業務として作成したものであって、ワールドシステム開発などと称する実体不明のプログラム開発グループなどといった他の開発業者が関与した事実はない。
 そして、湯浅通信機は、当初プログラム及び本件プログラムの著作権を1審原告に譲渡していないのであるから、1審原告が本件プログラムの著作権を有するものではないことは明らかである。
 1審原告は、本件プログラム開発の困難性を強調し、当初プログラムが不完全、未完成であったからこそ、ワールドシステム開発に委託したと主張しているが、当初プログラムが不完全、未完成であったならば、当初プログラムの複製物が本件プログラムであるはずがないのであるから、1審原告の主張は矛盾したものというほかない。
 仮に、本件プログラムが当初プログラムの2次的著作物であったとしても、ワールドシステム開発が関与した事実自体、認めることはできないし、1審原告は湯浅通信機から当初プログラムについて著作権法28条の権利を譲り受けていない(同法61条2項)から、1審原告が主張する湯浅通信機との著作権譲渡契約だけでは2次的著作物たる本件プログラムの著作権を取得しない。
 したがって、本件プログラムの著作権が1審被告スチールに移転していないとすれば、その著作権は湯浅通信機に帰属していることになる。
(ウ) 1審原告は、本件プログラムが当初プログラムの2次著作物であるとして、その著作権が1審原告に帰属すると主張するが、ワールドシステム開発と1審原告との間には指揮監督関係がなく、業務従事性を認めることができないから、職務著作に該当するものではない。
 ワールドシステム開発は、業務従事場所の指定を拒否しており、しかも、1審原告はその業務場所を具体的に把握していないのであるから、昭和60年当時の通信技術では業務の指揮監督などそもそも不可能である。
 したがって、1審原告が当初プログラムの改良によって本件プログムラムの著作権を取得する前提がなく、著作権が1審原告に帰属しているという1審原告の主張は失当である。
(エ) なお、仮に、湯浅通信機が1審原告に対して本件プログラムの著作権を譲渡したとしても、本件装置に係る特許権及び実用新案権について、製作に関与した1審被告ら、JFE電制及び1審原告の4社が共有し、その旨共同登録した取扱いと同様、開発に関与したこれら5社(湯浅通信機、1審被告ら、JFE電制及び1審原告)間で、著作権を準共有するとの了解が、昭和61年2月の納入直前の時期において、黙示的に成立していたものと解すべきであるから、本件プログラムについて、1審原告に単独の著作権が認められる余地はないというべきである。
(3) 1審被告らに対する対抗要件の要否について
〔1審被告らの主張〕
ア 著作権を第三者に主張するためには、対抗要件としての登録が必要である
(著作権法77条1号)。
イ 1審被告らは、1審原告が対抗要件を欠くことを主張できる法律上の利害関係を有する第三者である。
 すなわち、1審被告物流は、本件装置と一体となった本件プログラムを記憶した記憶装置(複製物)を、本件プログラムを作成した湯浅通信機及び1審原告の完全な承諾・了解の下に1審原告から引き渡しを受け、適法に取得しているから、その関係は、不動産賃貸借における賃貸人から賃借人に対して賃貸借契約の終了を主張する関係に類似するものであって、同様に、対抗要件が必要であると解すべきである。
 また、1審被告スチールは、本件プログラムの複製物の所有権を有しているから、同所有権に基づき、第三者に使用料を支払うことなく自由に本件プログラムの複製物を使用できる地位にある。
 1審原告の請求は、使用料を支払う義務のない1審被告らに対して使用料の支払を求めるものであるから、1審被告らは、1審原告が本件プログラムの複製物の使用料を請求できる正当な権利者であるか否かについて確知する必要がある。1審被告らが1審原告に使用料を支払った後、真実の権利者から不当利得返還請求等を受けた場合、1審原告に対する不当利得返還請求といった迂遠な方法による解決を強制される可能性があり、1審原告の支払能力によっては、1審被告らに経済的不公平を甘受させる危険がある。不動産賃貸借における賃貸人は、所有権の移転ないし賃貸人たる地位の移転について、賃借人の正当な利益(賃料の二重払回避)のために、登記を具備する必要があると解されている。本件においても、1審被告らの正当な利益を保護するために、対抗要件が必要であると解すべきである。
ウ したがって、1審原告は、湯浅通信機から本件プログラムの著作権の譲渡を受けたとしても、その旨の登録を具備していない以上、1審被告らにこれを対抗することはできない。
〔1審原告の主張〕
 著作権法77条の「第三者」とは、登録の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者をいうのであり、単に著作権の帰属を争っていたり、著作物の複製物を使用し、又は使用料の請求を受けたりしているだけの者がこれに当たらないことは明らかである。
 したがって、1審被告らの対抗要件欠缺に係る主張は失当である。
(4) 1審原告の著作権の主張と信義則違反の成否について
〔1審被告らの主張〕
 1審原告は、当初プログラムの著作権を湯浅通信機から譲り受けていない。仮に、湯浅通信機と1審原告との間の著作権譲渡契約が有効に成立していたとしても、契約書には著作権法27条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないので、同条の権利は湯浅通信機に留保されているものである(著作権法61条2項)。
 したがって、1審原告が当初プログラムの改変行為により2次的著作物たる本件プログラムの著作権を取得したとしても、それは湯浅通信機の著作権及び著作者人格権を違法に侵害した結果によるものにすぎない。
 違法な行為により権利を取得した者が第三者にその権利を主張することは、クリーン・ハンズの原則に反し、許されない。
〔1審原告の主張〕
 否認ないし争う。
 湯浅通信機は、1審原告が、当初プログラムの不具合を解消する目的で、当初プログラムに必要な修正を加えることにつき承諾していたものというべきである。1審原告が湯浅通信機の著作権及び著作者人格権を違法に侵害したものではない。
3 争点3(本件プログラムの著作権に係る金銭請求の当否)について
(1) 使用料支払契約の成否(1審被告らに対する主位的請求・1審被告スチールに対する予備的請求1・1審被告物流に対する予備的請求)について
〔1審原告の主張〕
ア 使用料支払契約の成立経緯について
(ア) 本件装置の開発は、当初、予算の上限を定めない方針で開始されたところ、1審被告らの要求に応じるうちに本件プログラムは当初の予想よりも大規模なものとなり、昭和60年6月には、本件装置の開発について1審被告らが計上している予算額では本件プログラムの開発費が不足することが明らかとなった。
 そこで、1審被告らは、同年8月19日、本件装置の購入に関し、以下の内容で1審被告ら内部の決裁手続を行った(甲119)。
a 本件装置の購入は、1審原告がJFE電制に納入し、JFE電制から1審被告スチールに納入するという商流で行う。
b 本件装置は1審被告スチールの予算で購入するが、1審被告物流が価格交渉・納入スケジュール等の交渉を代行する。
c 本件装置のソフトが予想を上回る大規模なものとなり、期限までに見積書を提出させることが無理な状況である上、プログラム開発費が予算額を超えるため、1審原告にはソフトに関する諸費用(本件プログラムの開発費等)を除外した見積書を提出させる。
d 見積書から除外させたソフトに関する諸費用については、プログラム使用料を(代替措置にて)支払うという方法によることで1審原告を納得させる。
e その上で、約5年ないし7年後に予定される制御装置のリプレイス時にソフトに関する費用の問題の根本的解決を図ることにする。
(イ) 1審被告らは、このような内部決裁に基づいて、昭和60年8月27日、 1審原告に対し、プログラム制作費を一括で支払うことができないことから、本件プログラム開発の対価の支払につき、以下の方法(本件5項目の代替措置)により支払うことを提案した。なお、1審被告らは、この方法は、関係各部署において調整済みであるが、1審原告がこれに応じない場合は、本件装置の開発費全体の支払が大幅に遅れることになると説明した。
a 1審原告と1審被告スチールとが外注契約を締結した上で、1審被告スチールから1審原告に対し、1審被告物流の下請として、本件装置の常駐体制によるメンテナンス業務を発注する。
b 上記aの外注契約を締結すれば、1審被告スチールから成果還元金の支給を受けることができる。
c 本件装置の故障品のメンテナンスにつき、JFE電制を経由して全て1審原告に発注する。
d 1審被告物流の起重機部門からも1審原告に対し相当額の発注をするよう配慮する。
e 予定している1審被告物流の省力化のための設備投資の際、1審原告に相当額の発注をする。
(ウ) 1審原告は、本件5項目の代替措置によってどの程度の使用料を回収できるか不明であり、不満ではあったものの、開発費全体の支払が遅れることを危惧し、上記方法により相当額がクリアできるまでは我慢するという趣旨の回答をした。
(エ) 1審被告物流は、昭和62年1月13日、本件プログラム開発の対価につき、本件5項目の代替措置を用いることに対する1審被告スチールの理解を得るため、以下の報告を行い、改めて1審被告ら内部において承認決裁された。
a 本件装置は、1審被告スチールの設備投資物件であり、要求元は1審被告スチール製鋼部であったが、予算執行の所管課を1審被告物流の監督部課である運管課とした。
b 本件装置は、運管課が1審被告物流に購買代行依頼を行ったが、その対価支払を1審被告物流が1審原告に使用料を支払う方法で行うことにつき、すでに運管課の承認決裁がある。
c 1審被告物流は、1審被告スチールから支払われる成果還元金又は作請単価見直し分の金額から使用料を支払うことになるので、実質的には1審被告スチールが使用料を支払うことになる。
d 本件5項目の代替措置によるソフト使用料の支払という異例の処理を長期間続けるのは好ましくないので、5ないし7年後に予定される本件装置の制御部分のリプレイス時に、ソフトの対価に関する問題を根本的に解決すべきである。
(オ) 本件プログラム開発の対価につき使用料支払の形式をとり、その履行につき本件5項目の代替措置を講じる方法によるという内容の使用料支払契約は、1審被告ら内部の決裁手続により意思決定がされ、これに基づき1審被告らから1審原告に提案され、1審原告が最終的にこれに応諾したことによって成立し、1審被告ら内部における事後的な再確認もされている。
イ 使用料支払契約の内容について
(ア) 前記使用料支払契約は、開発協議の場においてされた口頭の合意であり、その具体的内容及び法律構成は双方が内容を承認した上で作成した本件議事録等に記載されているところ、a 本件装置が1審被告スチールの予算で購入されること、b 1審被告物流が価格交渉、納入スケジュール等の交渉を代行していること、c 本件5項目の代替措置実施のために1審原告と1審被告スチールとの間で直接の外注契約の締結が予定されていること(実際には、1審被告らの都合により、1審被告物流との間で締結することになった。)、d 本件5項目の代替措置は1審被告物流の下請の形式で1審被告物流から講じられること、e 使用料支払契約の内容は1審被告物流において発案し、その後1審被告ら内部における事前及び事後の決裁を得たものであること等の事情からすると、その内容については、1審原告と1審被告スチールとの本件装置の購買業務を自ら担当し、1審被告スチールの代理人でもある1審被告物流との間で、1審原告が1審被告スチールに本件プログラムの使用を許諾し、その対価として1審被告らがそれぞれ1審原告に相当額の使用料支払義務を負う旨を約定した上で、その履行については本件5項目の代替措置によるものであり、同措置により使用料に相当する経済的利益が現実に供与されている限り使用料を請求しないが、同措置が履行されなくなった場合には、1審被告らは、1審原告に対し、相当額の使用料を支払うという合意をしたものと解するのが最も合理的かつ自然な解釈である。
 したがって、1審原告は、主位的主張として、昭和60年8月27日、1審被告スチールの代理人であった1審被告物流との間で、本件プログラムの業務上の使用について、上記合意が成立した旨(1審被告らに対する主位的請求に係る使用料支払契約。以下「本件使用料支払契約1」という。)を主張するものである。
 なお、上記合意が成立した昭和60年8月時点では、1審原告は、次々に生じるトラブルの対応に追われており、本件プログラム完成のめどが立っていなかったのであるから、到底、本件プログラムの具体的な使用料額を確定できるような状況ではなかったものである。もっとも、当時、1審被告らの取引先には、本件装置のような無線通信設備を得意とする業者はほとんど存在せず、当該分野の業務は1審原告の強みとなっていたから、1審原告が1審被告らから受注した他の通信システムの受注における粗利率は約100ないし150%であった。したがって、本件プログラムの開発費としては、原価額9135万円に100%強の粗利を付加した約2億円前後の請求となったものと思われる。
(イ) 仮に、本件使用料支払契約1の成立が認められなかったとしても、1審原告は、昭和61年3月ころ、1審被告スチールの代理人であった1審被告物流との間で、又は直接1審被告スチールとの間で、1審被告スチールの本件プログラムの使用につき、1審被告スチールは1審原告に対し、相当額の使用料を支払うとの合意をしたもの(1審被告スチールに対する予備的請求1に係る使用料支払契約。以下「本件使用料支払契約2」という。)というべきである。
 また、1審原告は、昭和60年8月27日、1審被告物流との間で、1審被告スチールの本件プログラムの使用について、その使用料は本件5項目の代替措置を履行することによって弁済することとし、同措置が履行されなくなった場合には、1審被告物流が相当額の使用料を支払うことを合意したもの(1審被告物流に対する予備的請求に係る第三者のためにする契約。以下「本件第三者のためにする契約」といい、本件使用料支払契約1、同2と合わせて「本件使用料支払契約」という。)というべきである。
 1審原告は、昭和61年3月から同年6月までの間、本件プログラムの複製を含む本件装置を1審被告スチールに納入し、1審被告スチールは、上記納入を受けることにより、受益の意思表示をした。
(ウ) 以上のとおり、1審原告は、本件使用料支払契約(本件使用料支払契約1及び2、本件第三者のためにする契約)に基づいて、本件プログラムの使用料を1審被告らに対して請求する。
 なお、本件使用料支払契約は、1審被告らが、1審原告に対し、@本件プログラムの開発・制作の対価につき、開発費ではなく、本件プログラムの使用料の形式で支払うこと、A本件プログラムの使用料は、金銭ではなく、本件5項目の代替措置を講じる方法で行う旨の提案をし、1審原告がこれを承諾したことにより成立した契約である。
 したがって、使用料支払合意の成立が認められれば、商行為の有償性(商法512条)により、1審原告は当然に相当額の使用料の支払を請求することができるものであるから、上記Aの合意が成立したこと及びその履行の事実は、むしろ1審被告らが主張立証すべき事項である。
ウ 本件5項目の代替措置の履行について
 1審被告物流は、本件使用料支払契約に沿って、平成元年9月1日、1審原告との間で作業外注基本契約書を取り交わし、設備投資物件の納入業者を1審原告に変更するなどして本件5項目の代替措置の履行に努めたため、平成6年ころまで、1審原告に対するメンテナンス業務、設備工事、物品の購入等の下請業務の取引発注額は急増していた。同措置の履行としての下請業務の飛躍的増大は、その請負代金に別途プログラム使用料が加算されたわけではないが、他の下請業者との間で受注競争をしていた1審原告にとってはそれ自体が大きな利益であったため、1審被告らが同措置の履行を行っていた期間、1審原告は1審被告らに対して本件プログラムの使用料の支払を請求しなかった。もっとも、同措置の実施について契約書が作成されていないため、その確実な履行に不安を抱いた1審原告は、平成3年ころから1審被告らに対して、未精算の本件プログラムの開発費に係る問題につき抜本的な解決を図ってほしい旨を再三にわたり申し入れていた。
 しかしながら、1審被告らは、平成7年ころから急激に発注額を減少させ、平成10年以降は、その取引額は本件装置の納入時ないし上記作業外注基本契約書を取り交わす以前の水準まで低下しており、本件5項目の代替措置は、遅くとも平成10年12月末までには履行されなくなったものというべきである。
エ 小括
 以上からすると、1審原告は、本件使用料支払契約に基づき、1審被告らに対し、本件プログラムの著作権に係る使用料を請求することができるというべきである。
 なお、1審原告は、1審原告が本件プログラムの著作権を有することを前提として、本件使用料支払契約が成立したと主張するものであって、1審原告が著作権を有すると認められない場合についてもなお、1審被告らとの間に使用料支払に係る合意が成立したとまで主張するものではない。
〔1審被告らの主張〕
ア 本件使用料支払契約の成立経緯について
(ア) 1審被告スチールは、1審被告物流やJFE電制に対し、使用料支払契約締結について代理権を与えたことはない。本件装置は、1審原告からJFE電制、1審被告物流へと順次納入されたものであり、1審被告スチールと1審原告との間に直接の契約関係はなく、本件プログラムの使用料支払契約だけをわざわざ1審被告スチールと1審原告との間で締結する理由はない。
 1審原告も認めるとおり、1審原告は、1審被告スチールとの取引に必要な取引口座の登録をしておらず、1審被告スチールの取引の相手方になることはできない。1審被告物流は、1審被告スチールの物流を担う基幹的子会社であり、1審被告スチールに物品を納入することが可能であるが、1審被告スチールの「購買代行制度」は、1審被告スチールが購買交渉力の弱い子会社に代わって購買を行うための制度であって、1審被告物流が1審被告スチールのために購買を代行することはあり得ない。
 また、F及びGは、本件5項目の代替措置を定めたり、本件使用料支払契約を締結する権限を有してはいなかったものである。
(イ) 1審原告は、本件プログラムを開発する際、多額の費用を要したことを前提として、本件使用料支払契約が成立したと主張するものであるが、本件プログラムの開発に要した費用は、湯浅通信機におけるプログラム作成担当者であったMの人件費である約100万円程度にすぎず、ワールドシステム開発なる実態不明のグループの関与も認められないから、1審原告の主張は、その前提自体が誤りである。
 1審原告は、1審被告らに対し、本件装置の開発において、1審原告の受注額だけでも3億円をかなり超える金額になる見通しであるなどと説明したと主張するが、真実、1審原告が1審被告らに対してそのような説明をしたのであれば、1審被告らは、1審原告に対し、その内訳資料の提出を求めたはずである。その上で、本件装置の開発費が1審被告らの定めた予算額を大幅に超えるような事態に至ったことが確認されれば、その超過額(1審原告の主張によれば、9000万円程度)を確定した上で、増加した開発費を支出してでも本件装置の開発を継続するか否かについて検討し、継続する場合の支払方法について別途協議したはずである。
 しかしながら、1審原告も自認するとおり、1審原告は、本件訴訟に至るまで、開発費の超過額について1審被告らに明らかにしていないのであるから、1審原告が主張する開発費(湯浅通信機関係約5986万円、ワールドシステム開発関係1537万8000円、1審原告自身の1537万8000円)は、虚偽のものであるというほかない。
(ウ) 1審原告は、昭和61年3月から同年6月まで、本件プログラムの複製を含む本件装置を1審被告スチールに納入し、1審被告スチールは、昭和61年3月ころから、本件プログラムを使用していることについて、当事者間に争いはない。
 1審被告スチールの使用は、1審原告からJFE電制、1審被告物流を経て1審被告スチールに納入された、著作権ないし本件プログラムの使用に係る必要な権利、権限を何らの留保なく譲渡された、本件プログラム入りのロムを含む本件装置の適法な取得に基づくものである。いずれにしても、当該使用は、適法な権原に基づいてされているものであり、著作権の使用料なるものを支払わなければならないようなものではないことは明らかである。
 しかも、本件装置は、あくまでも1審被告らの生産設備の一部を構成する、特殊かつ特定された汎用性を有しないものであり、本件プログラムは本件装置を動かすための従たるものにすぎない。本件装置のハード本体自身の対価が、開発費に適正な利益を加えた形の代金支払で処理されているにもかかわらず、本件プログラムの場合だけ、これと異なる不合理かつ異常な代価を決定して支払うことはあり得ない。
(エ) 1審原告は、本件装置の全代金として支払われた合計2億1027万6027円の支払経緯について、偽造・変造された文書(甲29、30、57、60、81、84、86)に基づいて、見積書や請求書には、「本件プログラム開発の対価」や「ソフト制作の対価等」「CPU装置のソフトに関する諸費用及びソフト書き込み部品(ロム)代金」が除外されていたなどと主張するが、そもそも1審原告が多額の費用を負担し、湯浅通信機やワールドシステム開発から本件プログラムの著作権を譲り受けたとの事実は存在しないから、1審原告の主張は失当である。
イ 本件使用料支払契約の内容について
(ア) 1審原告が主張する「相当額」を支払う旨の使用料支払契約は、およそ契約が成立するために不可欠な要素を満たしていない。
 本件プログラムについて、使用料支払契約(使用許諾契約)の成立を主張するのであれば、プログラムの使用許諾に対して支払うべき対価の内容が具体的に主張されなければならないことは当然である。1審原告は、1審被告スチールが本件装置を使用することにより得た利益の25%について請求するのであるから、当該金額について使用料支払合意の内容とされていなければならないはずであって、単に「相当額」と合意したにすぎないのであれば、契約の要素が確定していないものというほかない。
 なお、商法512条は、有償契約の要素の欠如を補充する規定ではないし、本件に関しては、「他人のために行為をしたとき」との要件を充足するものではないから、適用の余地はない。
(イ) 1審原告は、本件プログラムの開発が難航したことを契機として、本件装置とは別途に開発費を使用料として支払う旨の合意に至ったと主張するが、先に述べたとおり、本件プログラムの開発費は人件費約100万円程度にすぎないこと、昭和60年6月ないし7月の段階において実機テストの不具合の原因は電磁波ノイズと確定されており、ソフト面に問題はなく、本件プログラムの制作費が予算を大幅に超えたという経緯は存在しないこと、ワールドシステム開発が本件プログラムの開発に携わった事実がないこと、湯浅通信機、ワールドシステム開発に対する1審原告の支出についての領収書及び請求書が原審において提出されなかったこと(なお、1審原告は時間の経過により処分したと主張するが、本件議事録、用済みの電話連絡票や借用証等は存在していることと矛盾するのみならず、控訴審に至ってワールドシステム開発によるとされる日報書や湯浅通信機の見積書等が提出された経緯は明らかに不自然である。)、1審原告の開発費約1500万円はそのほとんどが人件費であるところ、プログラム制作に関与した従業員はおらず、代表者の休日時間外などの不自然な集計がされ、プログラム制作以外の作業との区別もされていないなど、算出の根拠に合理性がないことなどからすると、開発が難航した事実自体、認めることができない。
(ウ) あるプログラムによる制御下で稼働する装置全体を購入した場合、装置全体からプログラムのみを分離して使用の対価を別途支払うというのは極めて特異な契約である。特に、プログラムに関する権利が不確実であった昭和60年代においては、プログラムに著作権が発生すること自体、一般に周知されておらず、当事者双方においてもこのような認識はなかったものである。
 仮に、1審原告主張のとおりプログラムの開発費が確定しなかったとしても、その確定を待って「制作費」を一括又は分割の後払にすれば足りるものであり、「制作費」を「使用料」に変更してプログラムを使用する限り金銭を支払う旨の合意をする理由はない。汎用性のない本件プログラムは、制作依頼者以外からの対価は見込めないのであるから、1審原告の主張する本件プログラム「使用料」の実質は「制作費」にすぎないところ、既に本件装置の費用に含まれて支払済みである。
(エ) しかも、プログラム使用料を決定する時点においては当該プログラムがどの程度の利益を生むのか不明である以上、これを使用料の基準とすることはない。特に巨大な設備を持つ1審被告スチールの場合、本件プログラムの使用により生じた利益を抽出することは困難である。仮に、使用による利益に基づいて使用料を算定するのであれば、利益額をどのようにして把握するかを含め、後日の争いを回避するために、利益の算出方法を詳細かつ明確に決定しておく必要があるから、あらかじめ何らの算出方法も定めずに使用料の支払を約することなどあり得ない。
 1審被告スチールとしては、使用料を利益により算定する場合、自社の収益構造等の企業機密を開示しなければ具体的な金額が決定できないのであるから、利益額を基準とすることは通常は行わない。制作者側からしても、利益が出なければ制作コストすら回収できないリスクが常に生じるのであるから、やはり使用料相当額の算定方法として合理的ではない。
(オ) そもそも、1審原告主張のように、本件装置を使用する限り毎年億単位の金銭を支払うという高額かつ長期にわたる重要な合意が成立したというのであれば、役員の決裁・合意書の作成が必須であるが、そのような事実はない。本件議事録等がおよそ信用性に欠けるものであることは、先に争点1について述べたとおりである。昭和61年に1審被告スチールが本件装置の使用を開始した後、平成14年まで、1審原告は一度も使用料の請求をしていない。1審原告は、平成15年2月5日付けの電子メール(甲135の2)において、当初請求していなかった使用料を請求する理由として4点を挙げているが、使用料支払合意に関する指摘はない。
(カ) 1審原告と1審被告物流との間において、本件プログラムの使用料を本件装置のその余の部分と切り離して処理することについて合意が成立したという事実自体存在しないから、同様の趣旨を前提とする本件第三者のためにする契約の成立もまた、認められないことは明らかである。
ウ 本件5項目の代替措置の履行について
(ア) 本件5項目の代替措置は、そもそも合意の内容が極めて不明確であり、企業取引の現場においてこのような不明確な合意が成立することはあり得ない。
 1審原告は、平成11年ころから、1審被告らに対し、発注高の減少等についてのクレームを開始したが、1審被告物流に対しては、担当者の態度等を批判するのみであって、同措置の履行が滞っていることを端的に指摘しなかったし、平成14年5月13日の協議までの間、1審被告らに対し、本件プログラムの著作権を有していることを主張したり、その使用料を請求することもなかった。その間に作成された文書(甲125〜128)にさえ、1審原告の主張によれば既に本件5項目の代替措置に係る重大な不履行状態が発生していたにもかかわらず、同措置に関する合意のことも、使用料の支払のことも全く記載されていない。発注高の減少を契機として、使用料支払の問題が発生した旨の電子メール(甲135の2)すら存在するものである。1審原告は、平成14年に至るまで、同措置について言及しておらず、1審被告物流による「当社との取引実績に対する既得権があるように勘違いしているのではないか」との質問に対し、「既得権があるとは決して思いません」と回答しているのであって、真実、このような措置について合意がされていたのであるならば、既得権として当該合意が存在する旨回答したはずである。
 仮に、1審原告が主張するような本件使用料支払契約、本件5項目の代替措置に関する合意が本件装置の開発時点から真に成立していたのであれば、事前交渉における1審原告の交渉態度は明らかに不自然である。
 したがって、このような合意の成立を認めることはできないから、その履行・不履行を論じる余地はない。
(イ) 原判決は、取引量の増加から、「利益供与の約束」を認定したが、その根拠となった文書(甲101〜103)は、原資料が提出されたものではなく、信用性に欠けるものであるし、本件5項目の代替措置との関連性も不明である。仮に1審被告物流と1審原告との間に取引量の増加があったとしても、1審原告に対する特別の利益供与ではなく、1審被告物流の全体的な設備投資の絶対量の増加や本件装置の納入等により1審原告の実績が認められたことの結果であって、取引量の増加は利益供与の約束を推認させるものではない。しかも、1審被告物流と1審原告との間に何らかの「利益供与の約束」があったとしても、合意の内容自体についてまで推認できるものではなく、同措置との同一性も明らかではない。
(ウ) 1審原告の主張する本件5項目の代替措置のうち、@及びAは、1審被告スチールとの間で直接外注契約を締結できることが前提となるところ、1審被告スチールに取引先口座を有しない1審原告には不可能であって、このような合意が1審被告らとの間に成立する余地はない。BないしDについても、これらの条件を充足したか否かを判断する客観的な基準(明示的な発注、取引量、金額等の提示など)が全く存在しない内容であり、およそ企業取引の現場でこのような条項が設定されることはあり得ない。1審原告は、同措置の不履行について、いかなる基準に基づいて主張しているのか自体、不明である。さらに、同措置は、本件プログラムの巨額な使用料に相当する出捐を、当該プログラムの使用による受益者たる1審被告スチールではなく、1審被告物流が行う内容になっているところ、これに見合うような1審被告スチールからの1審被告物流への補償的な給付などは一切存在しないから、1審被告スチールのみ一方的に利益を取得し、1審被告物流は逆に一方的に損失を被るだけということになるが、このような行為は、法的には別個独立の会社である1審被告らの企業活動の上で到底なし得ないことは明らかである。
(エ) 1審原告は、平成14年ころ、本件プログラムの著作権に着目し、本件プログラムに係る著作権登録を経由した上で、本件使用料支払契約について主張するようになったにすぎない。
 そもそも、本件使用料支払契約において、本件プログラムの使用・利用の対価の内容については、1審原告が主張立証すべきである。仮に、未特定の「使用の対価」を支払う旨の合意が成立したと解するとしても、本件5項目の代替措置において、1審原告がどの程度の利益を得るかについて、1審原告が具体的に主張立証すべきである。
 1審原告は、使用料支払に係る合意が認められれば、商行為の有償性(商法512条)により、当然に1審原告には相当額の使用料を請求する権利が認められるなどと主張するが、独自の見解にすぎない。
(オ) 1審原告は、本件5項目の代替措置が定められたことを前提に、一部、その履行がされたかのように主張しているが、先に述べたとおり、1審原告と1審被告物流との取引量が昭和60年前半から増大したとしても、それは当時の経済情勢と1審被告物流の事業の拡大に1審原告が適応したこととが相まって生じた現象であり、本件5項目の代替措置に関する合意が存在したからではない。そのため、バブル経済の崩壊により、平成10年ころからは取引量が減少した。
 本件装置に必要な日常的なメンテナンス業務を1審原告に委託したのは、納入業者である1審原告が他の業者より本件装置に詳しく、作業遂行能力もあると判断されたからにすぎず、利益供与の目的で、およそ必要のない業務を作出してまで発注するなどということはあり得ない。しかも、1審原告に対し、発注した業務の対価を支払ったにすぎないのであるから、本件プログラムの使用料相当額を支払ったことにはならない。1審原告は、下請業務を通常の取引で行ない、通常の利益を得たにすぎない。
 以上からすると、1審原告と1審被告物流との間には、法的な拘束力を有するような「利益供与の約束」の事実も、その「一時期」の「履行」の事実も、到底認めることはできないというべきであって、本件5項目の代替措置が履行されたということはない。
(2) 不当利得の成否(1審被告スチールに対する予備的請求2)について
〔1審原告の主張〕
ア 仮に、本件使用料支払契約の成立が認められなかったとしても、1審被告スチールは、正当な理由なく、かつ、対価の支払なしに本件プログラムの使用料に相当する額の利得をし、1審原告は同額の損失を被ったものである。また、1審被告スチールは、1審原告から本件プログラムの複製の提供を受けた際、その対価が精算されておらず、将来にわたって、少なくとも本件プログラムの使用料の支払又は本件5項目の代替措置の履行が必要であるが、遅くとも平成10年12月末当時には同措置の履行が全く行われない状態になっていたことを十分認識していたのであって、平成11年1月1日以降、相当額の対価を支払うことなく本件プログラムを業務上使用し、使用料相当額の利得を得た。
 1審被告スチールの上記不当利得と、1審原告の損失(逸失利益)との間に因果関係があるのは明らかであるから、不当利得返還請求権の目的である公平の実現のためには、1審被告スチールに対して、その利得の返還を命じる必要がある。
イ 以上からすると、仮に本件使用料支払契約の成立が認められなかったとしても、1審被告スチールは、1審原告に対し、平成11年1月1日以降の本件プログラムの使用について、使用料相当額を不当利得として返還する義務があるものというべきである。
〔1審被告スチールの主張〕
ア 1審被告スチールは、本件プログラムの複製物を含む本件装置を所有権又はその他の使用権原に基づき使用することができるのであるから、本件装置の使用によって得る利益はその権原に基づくものである。
 すなわち、1審被告スチールは、本件プログラムの複製物の所有権を、以下のいずれかに基づいて取得しているものということができるから、1審被告スチールの利得は法律上の原因を有するものである。
(ア) 昭和61年2月末ころの売買による1審被告物流からの承継取得
(イ) 1審被告物流との本件装置の売買による即時取得
(ウ) 昭和61年ころからの占有による遅くとも平成9年までに完成した短期取得時効(1審被告スチールは、1審原告に対し、原審の平成17年9月2日の第1回弁論準備手続期日において、上記時効を援用する旨の意思表示をした。)
(エ) 昭和61年ころからの占有による遅くとも平成19年までに完成した長期取得時効(1審被告スチールは、1審原告に対し、原審の平成20年3月25日の第6回口頭弁論期日において、上記時効を援用する旨の意思表示をした。)
(オ) 本件プログラムの複製物は本件装置に格納され、その従物に該当するから、1審被告スチールは、主物である本件装置の所有権を取得したことにより、従物たる本件プログラムの複製物の所有権も取得した。
(カ) 1審原告は、本件プログラムの著作権を取得していないが、仮に、1審原告が本件プログラムの著作権を取得したとしても、湯浅通信機、1審原告、1審被告ら及びJFE電制において共有とする旨の合意がされているから、1審被告スチールは、本件プログラムの共有者としての使用権原を有する。
イ 1審被告スチールは、複製物の所有者として本件プログラムを自由に使用できる以上、著作権侵害となるものではなく、同被告が本件プログラムの使用料を支払わずに使用したとしても、1審原告に損失があるということはできない。
 また、著作権は無体物に対する財産権であるから、1審被告スチールの本件プログラムの使用によっても、1審原告の著作権の行使に影響を及ぼすものではない。1審原告は、本件プログラムについて、第三者と使用許諾契約を締結し、使用料を得ることができるから、利益を得る機会を失っておらず、損失を被っているともいえない。
ウ 民法703条の「利益」とは、他人の財産又は労務によって生じたものである必要があるところ、1審被告スチールは、本件プログラムの複製物の所有権を取得し、その対価(本件装置全体で約2億9000万円)を支払済みであるから、他人の財産によって得る利得はない。
エ 以上からすると、1審原告の不当利得に係る主張は失当である。
(3) 使用料ないし不当利得の額について
〔1審原告の主張〕
ア 使用料算定方式
 1審原告と1審被告らとの間で締結された本件使用料支払契約は、本件プログラム開発の対価として相当額の使用料を本件5項目の代替措置により支払う(同措置が講じられなくなったときは、使用料を請求できる。)という契約であるから、同措置の履行がされなくなった平成11年1月以降、1審被告らは相当額の使用料を支払うべき義務を負うものである。
 当事者間において相当額の使用料を支払う合意をした場合において、使用後に相当額に当たる金額の合意ができないときは、裁判所がその具体的な金額を決するほかないが、その際、当事者が当該財産の使用につき得た利益額に準拠して具体的な金額を定めるのは当然のことである。著作権等の知的財産権の使用に係る財産的価値は、開発・作成したコストで推量することはできないから、1審被告らにおいて、本件プログラム開発の対価につき、使用料支払の形式を選択した以上、たとえその使用料の額が本件プログラムの開発費を上回る額となったとしても、後になってそれを不当であるということができないことは明らかである。
イ 1審被告スチールの利益と使用料ないし不当利得の額
 1審被告らの各担当者は、本件装置の本番機稼働後である昭和61年8月1日から4か月間の実績データを共同分析した結果、本件装置の導入による月間平均総メリット算出額は9180万円であり、以後のオペレーターの運用上達に伴う効率の向上により、そのメリット額は約13ないし16%増加することが確実であるとの認識を示していた。そこで、昭和63年以降の月間メリット額は、少なくとも9180万円の14%増に当たる1億0465万円となる。
 したがって、1審被告スチールは、本件装置を導入することにより、少なくとも年12億円を利得したが、このうち本件プログラムの寄与に係る部分は、少なくともその50パーセントの年6億円であり、本件プログラムの使用料は、その2分の1に当たる年3億円とするのが相当である。そうすると、平成11年1月1日から平成19年12月31日までの9年間における本件プログラムの使用料相当額は合計27億円となる。
 よって、1審被告らは、1審原告に対し、平成11年1月1日から平成20年12月31日までの間の1審被告スチールによる本件プログラムの使用について、本件使用料支払契約(本件使用料支払契約1は1審被告ら、本件使用料支払契約2は1審被告スチール、本件第三者のためにする契約は1審被告物流について)ないし不当利得(1審被告スチールについて)に基づき、使用料ないし不当利得の返還として、合計30億円を支払う義務があるところ(連帯債務)、1審原告は、1審被告らに対し、そのうち15億円を請求するものである。
〔1審被告らの主張〕
ア 本件使用料支払契約自体、その成立が認められないのであるから、これに基づく使用料の請求自体、認められるものではない。
 1審被告スチールに対する不当利得に係る請求についても、同様である。
イ 1審被告スチールの水島製鉄所において、溶銑運搬作業の安全性と効率が向上したのは、溶銑管理システム全体についての総合的な合理化対策を実施した効果によるものであり、本件装置の導入は当該対策のごく一部であって、その寄与は極めて小さい。1審原告が使用料(利得額)を裏付ける資料として提出する文書は、いずれもその成立の真正自体が認められないものであり、年額3億円という莫大な使用料を裏付ける証拠は、存在しない。
ウ プログラムの使用料支払契約を締結する目的は、プログラム制作に要した合理的な費用・制作者が求める合理的な利益につき、複製物を使用する第三者から回収するためであるから、使用料相当額は最大でも制作費に合理的な利益を加えた額を超えないものである。利益を基準に対価を決するのは、企業が当該知的財産権を実施し、第三者に複製物を頒布すること等による収入があらかじめ想定し得る場合であって、本件のように特定の企業が製品の納入を受け、自社で使用する場合には、このような対価決定方法を採用することはない。一般的には、当該製品の購入代価の支払の問題であるにすぎない。
 プログラムの使用料について、使用する企業の収益あるいは損失によって決定されるとすれば、巨額な使用料を負担する危険性がある一方で、予想された収益を上げ得なかった場合には、支払を免れるという不合理な結果が生じるおそれがあるから、このような合意がされるはずがない。
 本件プログラムの使用料を仮に観念するならば、それは制作者である1審原告がそのリース代金相当額として合理的に請求し得る金額にすぎず、開発費に合理的な利益を上乗せした数額となることは明らかである。本件プログラムの開発・制作費は、湯浅通信機における人件費相当額100万円程度であったのであるから、これに湯浅通信機自体の適正利益を加え、更に1審原告自身の適正利益を上乗せしても、一括代金額としてせいぜい数百万円程度が相当であることは明白である。
 したがって、この程度の開発費及び適正利益は、下請である湯浅通信機のみならず、元請である1審原告においても、実験機、更には本番機の納入代金の中に含めて既に支払済みであるというほかない。年3億円の使用料の請求は、荒唐無稽な根拠のないものというほかない。
(4) 使用料請求権の消滅時効の成否について
〔1審被告物流の主張〕
ア 本件使用料支払契約に基づいて、仮に1審原告の1審被告物流に対する使用料請求権が存在するとしても、当該請求権については、1審原告の請求の趣旨変更申立書の1審被告物流に対する送達の日である平成19年3月16日から2年前の日である平成17年3月17日以前の使用料に係る部分は、民法173条1号の2年の短期消滅時効により、消滅していると解すべきである。
 また、1審原告が主張する本件使用料支払契約は、1審原告、1審被告物流のいずれにとってもそれぞれの事業としてする行為ないしその事業のためにする行為であることは明らかであり、商行為に該当する(会社法5条)。上記契約によって発生したとされる1審原告の使用料請求権は、商行為によって生じた債権であるから、5年の消滅時効(商法522条)の適用があるところ、上記送達の日から5年前の日である平成14年3月17日以前の使用料に係る部分は、商事消滅時効が成立している。
イ 1審被告物流は、1審原告に対し、原審の平成19年7月9日の第15回弁論準備手続期日において、前記各時効を援用する旨の意思表示をした。
 なお、1審原告は、1審被告らとの本件プログラムの使用料精算の交渉経緯から、権利行使が取引通念上不可能又は著しく困難であったので、消滅時効は進行しないと主張するが、法律上の障害ではないから、失当である。
 また、1審原告は、1審被告らは信義則上、消滅時効の援用は許されないとも主張するが、長期間を経過した後に突如使用料請求をされた本件については、1審被告らの法的安定の保護の要請、証拠保全の困難性の救済の要請、1審原告が時効中断の措置をとることが法的に極めて容易な立場にあったことなどからすると、1審被告らの時効の援用が信義則違反となるものではない。
ウ 1審原告は、1審被告スチールに対する裁判上の請求が1審被告物流についての時効中断事由となるとも主張するが、1審被告らに対する使用料請求権の相互関係について、当事者間に連帯債務とする合意があったことを主張立証していないから、当該請求権は、当初1審原告が主張していたとおり、不真正連帯債務と解すべきであって、時効中断の効力は1審被告物流には及ばない。
〔1審被告スチールの主張〕
ア 1審原告の1審被告スチールに対する使用料請求権は、本件プログラムの複製物を使用する都度発生するのであり、その弁済期は、本件プログラムの複製物の使用日ごとに到来する。
 使用料請求権は、民法173条1号の短期消滅時効にかかるので、本件訴訟が提起された平成17年3月22日より2年前である平成15年3月22日より前に発生した1審原告の1審被告スチールに対する使用料請求権は消滅時効が完成している。
 また、1審原告も1審被告スチールも株式会社であるから、本件訴訟が提起された平成17年3月22日より5年前である平成12年3月22日より前に発生した1審原告の1審被告スチールに対する使用料請求権は、商事消滅時効が完成している。
イ 1審被告スチールは、1審原告に対し、原審の平成19年7月9日の第15回弁論準備手続期日において、前記各時効を援用する旨の意思表示をした。
 なお、1審原告は、1審被告らとの本件プログラムの使用料精算の交渉経緯から、権利行使が取引通念上不可能又は著しく困難であったので、消滅時効は進行しないと主張するが、法律上の障害ではないから、失当である。
 また、1審原告は、1審被告らは信義則上、消滅時効の援用は許されないとも主張するが、長期間を経過した後に突如使用料請求をされた本件については、1審被告らの法的安定の保護の要請、証拠保全の困難性の救済の要請、1審原告が時効中断の措置をとることが法的に極めて容易な立場にあったことなどからすると、1審被告らの時効の援用が信義則違反となるものではない。
〔1審原告の主張〕
ア 本件の使用料請求権は、民法713条1号が定める「生産者又は商人が売却した産物又は商品の代価」には該当せず、これらに準ずべき性質のものでもないことは明らかである。
イ 1審原告が主張する平成11年1月1日から平成16年12月31日までの間に発生した使用料請求権については、以下の事情からすると、少なくとも平成16年12月21日までは、1審被告らに対する行使が取引社会の通念上、不可能又は著しく困難な状況にあり、その行使に障害があったというべきであるから、同日まで消滅時効は進行しない。したがって、1審被告らに対する本件訴訟の提起に係る裁判上の請求の日において、消滅時効は完成していない。
 また、このような経緯、事情に照らせば、1審被告らの消滅時効に関する主張は、著しく信義則に反し、許されない。
(ア) 1審原告は、昭和60年8月27日、1審被告らとの間で、本件プログラムの使用料の精算につき、その支払に代わって本件5項目の代替措置を講じる旨の合意をしたから、その代替措置が基本的に履行されない状況にならない限り、1審被告らに対して使用料を請求することはできなかった。
(イ) 本件5項目の代替措置は、本件装置の納入後、数年間は順調に履行されていたが、平成8年ころまでに徐々に履行が不十分となり、平成10年ころにはほとんど履行されない状況となった。
(ウ) 1審原告は、平成8年ころから、1審被告ら、特に1審被告物流に対し、本件5項目の代替措置の履行をしばしば申し入れたが、応じられなかった。
(エ) 平成13年4月、1審原告と1審被告らとの間で、本件装置の更新に関する協議が開始され、1審原告は、本件プログラムの使用料の精算に関する件を協議の対象として持ち出し、平成16年12月21日まで、1審被告らとの間で、断続的に協議・交渉を重ねたが、1審被告物流から、1審被告物流及びその関係会社と1審原告との取引関係を打ち切る旨を通告されたことから、やむなく本訴訴訟を提起した。
ウ 1審被告スチールに対する使用料請求権の裁判上の請求(平成17年3月22日付けの本訴提起及び平成18年4月13日付けの請求の趣旨変更申立書の送達)は、これと連帯債務である1審被告物流に対する使用料請求権の消滅時効の中断事由に該当するものというべきである。
(5) 使用料請求に係る信義則違反の成否について
〔1審被告スチールの主張〕
ア 自ら違法な行為を行った上で権利を取得した1審原告が第三者に対してその権利主張を行うことはクリーン・ハンズの原則に反して許されないことは、先に争点2について述べたとおりである。
イ 1審被告スチールは、遅くとも昭和61年ころには、本件プログラムの複製物の使用を開始している。他方、1審原告が、1審被告らに対して、本件プログラムの使用料の請求を最初にしたのは、平成15年になってからである。1審原告は、1審被告らに対する本件プログラムの複製物の使用料請求権を昭和61年ころに行使することができたところ、権利行使可能時期から20年近く経過しても一切権利行使しなかった。1審被告スチールは、本件プログラムの使用開始後、17年間にわたり本件プログラムの使用を継続し、その間1審被告らは使用料の支払を請求されなかったから、1審被告らの使用料の支払を請求されないという信頼は保護に値する。
 したがって、1審原告が、1審被告らに対し、本件プログラムの使用料を請求することは、権利失効の原則に反し、信義則違反であるというべきであって、許されない。
〔1審原告の主張〕
 争う。1審原告の主張がクリーン・ハンズの原則に違反するという主張は、その前提において誤りである。権利失効の原則に反するという点については、その交渉経緯に照らし、理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所は、1審原告の本件請求のうち、本件プログラムの著作権に係る確認請求については、本件プログラムに著作物性があると認めるに足りる証拠がなく、したがって、その余の点について判断するまでもなく、理由がなく、また、本件プログラムの著作権に係る金銭請求については、原告が本件プログラムの著作権を有すると認められない以上、その余の点について判断するまでもなく、理由がないと判断するものである。以下、その理由を分説する。
2 本件プログラムの著作物性の有無に係る証拠の採否について
(1) 当審における文書の提出が時機に後れた攻撃防御方法の提出に該当するか否かについて
ア 1審原告は、当審の平成23年4月19日の第8回弁論準備手続期日において、本件プログラムのソースコード等として、甲289ないし292及び294を提出したため、1審被告らは、これらは時機に後れた攻撃防御方法の提出であり、民訴法157条により却下されるべきであると主張する。
イ 原審において、本件プログラム全体のソースコードは文書として提出されておらず、原判決は、特許を取得する程度に新規なものであった本件装置に対応する本件プログラムも新規な内容のものであるということができ、しかも、同プログラムは、その分量も多く、選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものということができるから、その表現には全体として作成者の個性が表れているものと推認することができることなどから、一部分のソースコード(甲117の1・2、丙62)及びフローチャート(甲188の1〜甲190の2、丙5、6)に基づいて、本件プログラムの著作物性を認めている。
ウ 1審原告は、当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続期日における受命裁判官の求釈明により、本件プログラム全体のソースコードを文書として提出するか否かについて検討し、同年7月5日付けで、甲289及び290の副本を1審被告らに直送し、1審被告スチールは同月6日付けで、1審被告物流は同月7日付けで、それぞれ受領書を1審原告に対しファックス送信している。また、1審原告は、同年10月1日付けで、甲291、292及び294の副本を1審被告らに直送し、1審被告らは、同月4日付けで、それぞれ受領書を1審原告に対しファックス送信している。
エ 本件プログラムの著作物性の審理において、同プログラム全体のソースコードが開示されなければ、同プログラムの内容を確定することは困難である。
 したがって、本来であれば、原審において、本件プログラム全体のソースコードが開示されることが望ましいものであったことは明らかである。
 しかしながら、原判決は、前記のとおり、本件プログラム全体のソースコードが開示されていないことを前提に、本件プログラムの著作物性を認めており、甲289ないし292及び294は、当審における受命裁判官の求釈明を契機として提出されたものであって、1審被告らは、平成22年10月4日までにはこれらの副本の直送を受け、内容について検討することが可能であったところ、当審の平成23年11月10日の第2回口頭弁論期日において弁論終結がされるまで、審理が継続していたのであるから、上記各文書の提出により、訴訟の完結が遅延したものということはできない。
オ 以上からすると、甲289ないし292及び294については、時機に後れた攻撃防御方法の提出として、これを却下することはできない。
 なお、1審被告らは、その余の立証(甲315)についても、時機に後れた攻撃防御方法の提出であると主張するが、同様に、これについても却下することはできない。
(2) 本件プログラムの著作物性を立証するために提出された文書の形式的証拠力の有無について
ア ソースコード及びフローチャートについて
 本件訴訟において、文書として提出されているソースコード(甲117の1・2、289〜291)及びフローチャート(甲188の1〜190の2)については、弁論の全趣旨により、その成立(写しについては、原本の存在を含む。)を認めることができる。また、ソースコード(丙62)及びフローチャート(丙5、6)については、原本の存在を含め、その成立に争いはない。甲294(甲291及び292に基づく特徴表)についても、同様である。
イ その他の文書について
 甲5、71、72及び110の1については、原本の存在を含め、その成立に争いはない。
 丙9、145及び147ないし149については、弁論の全趣旨により、その成立(写しについては、原本の存在を含む。)を認めることができる。
3 本件プログラムの著作物性の有無について
(1) 本件プログラムの概要
ア 本件プログラムは、DHL車の部分とTC車の部分とに分かれており、本件訴訟において文書として提出されているソースコードは、DHL車の部分については、甲117の1、289、291及び丙62であり、TC車の部分については、甲117の2、290及び292である。
イ 本件において文書として提出されている本件プログラムのフローチャートは、DHL車の部分については、甲188の1(昭和60年9月12日作成)、甲189の1及び丙5(昭和61年12月21日作成)、甲190の1(昭和62年11月20日作成)であり、TC車の部分については、甲188の2(昭和60年9月12日作成)、甲189の2及び丙6(昭和61年12月21日作成)、甲190の2(昭和62年11月20日作成)である。昭和61年12月21日作成版では、本件プログラムのフローチャートのDHL車の部分は、1ページ当たりのチャートの箱の数が70以上で、合計10ページある(甲189の1、丙5)。同TC車の部分も、1ページ当たりのチャートの箱の数が70以上で、合計8ページある(甲189の2、丙6)。
ウ 本件装置は、次のとおりのものであって、本件プログラムは、その一部の作業(下線を引いた部分)を行わせるものである(甲5、71、72、110の1、弁論の全趣旨)。
(ア) DHL車とTC車の動き
@ DHL車は、複数のTC車を牽引して高炉付近に向かい、出銑作業を行うTC車を指定された停止位置において停止させる。出銑作業を行うTC車にブレーキがかけられ、DHL車とTC車との連結が解除される。連結が解除されたTC車において出銑作業が開始され、他方、DHL車は他のTC車とともに移動して別の高炉に向かう。
A 出銑作業が終了すると、迎えに来たDHL車が、出銑作業を終えたTC車に近づき、DHL車にTC車が連結され、TC車のブレーキが解放されて、DHL車はTC車を牽引して走行移動する。
(イ) 連結のときの手順
@ オペレーターがDHL車を無線で操作してTC車に近づける。
A TC車が自動落下方式によりDHL車に連結される。
B DHL車と各TC車は通信が可能となるので、各TC車に通信可能を示す緑のランプが点灯する(緑のランプは、Cの番号決定後一旦消灯し、Dのブレーキ解放時に再び点灯する。丙9)。
C DHL車は、その連結状態において、各TC車に対し、任意の連結操作番号を電磁信号として与え、これらの各番号は各TC車において記憶される(その番号決定に要する時間はTC車1両あたり約1.4秒である。)。TC車がDHL車の一方側(リア側)に接近・連結した場合、各TC車がどのような順で並んでいても、各TC車の固有の車輌番号には関係なく、常にDHL車リア側の最寄りより順に連結操作番号がDHL車及び各TC車のCPUにおいて決定、記憶される。また、DHL車リア側とは逆側(フロント側)に各TC車の固有の車輌番号が異なる順で連結されても、やはり同様にDHL車フロント側の最寄りより順に連結操作番号がDHL車及び各TC車のCPUにおいて決定、記憶される。
D TC車のブレーキを自動制御装置により解放する。
E ブレーキの解放動作中は、各TC車にブレーキ解放動作中であることを示す赤のランプが点灯し、ブレーキ解放動作が完了すると、緑と赤のランプが点滅する。これらの一連の動作に要する時間は約14秒である。
(ウ) 連結解放のときの手順
@ オペレーターが、各TC車に緑のランプが点灯中であること(通信可能状態にあること)を確認の上、無線により、連結操作番号を用いて解放するTC車の指示をDHL車の無線受信装置に送信する。
A 解放指示がされた連結操作番号は、DHL車の無線受信装置から、電磁信号として搬送コイルを介して、DHL車の直後に連結されているTC車に送信され、後続のTC車にも順次転送される。
B 各TC車において、各TC車が所有する連結操作番号と照合される。
C 照合の結果、解放指示された連結操作番号を持つTC車は、緑のランプを点滅させて、選択されたTC車であることをオペレーターに示す。
D 解放指示された連結操作番号を有するTC車につきブレーキを締める動作が行われ、ブレーキ作動中は赤のランプが点灯し、動作が完了するとブレーキを締めたTC車の緑と赤のランプが同時に点滅する。
E 当該TC車に隣接する他のTC車との間の連結が解放される。
F 当該TC車の連結操作番号自体は、連結が解放されて、TC車同士が離れることにより車両間の搬送コイルが離間し、信号が中断することにより解除される。
G DHL車も、上記TC車の連結操作番号を消去し、TC車の数を更新する。
(エ) DHL車がTC車を牽引走行時の手順
@ DHL車は、各TC車に対し、所定の電磁信号を常時送受信させ、各TC車の電磁信号の送受信状態を制御装置により継続して監視する。
A 送受信信号の中断の有無により、連結器の途中解放・破損などによるDHL車からのTC車の突放といった連結異常を検知する(応答なし5回で搬送異常とする。丙8)。
B TC車からの確認信号の返送がなく、信号が中断したときは、DHL車は、返送されてこない連結操作番号を有するTC車が離脱したと判断して、警笛を鳴らし(赤のランプも点灯する。丙9)、当該TC車のブレーキを自動制御装置により作動させて当該TC車を約3秒で停止させる。
C TC車は、DHL車からの確認信号を受信したとき、自分の連結操作番号の場合は返送し、自分のものではない連結操作番号の場合は、後続のTC車に転送する。TC車は、確認信号を一定時間以上受信しないときは、自分の連結操作番号の記憶を消去し、ブレーキをかける。
(オ) 異常時
 線路上に停留されているTC車が独走を始めた場合、本件プログラムのTC車の部分において、ブレーキを更に強く締める操作の指令を行い、緑と赤のランプを点滅させつつ、ブレーキを更に締めて、約1、2秒でTC車を停止させる(赤のランプはブレーキ増締・停止後10秒で消灯する。丙9)。
(カ) 搭載装置
@ 搬送コイル
 DHL車と各TC車のフロント側とリア側のそれぞれに搬送コイルが搭載されている。搬送コイルは、銅線を巻線にしたコイルを信号の送受端子として用いるもので、一方のコイルに信号電流を流して励磁すると、対向する他方のコイルに電磁誘導によって発生する誘導電流により非接触の方法で通信を行う電磁信号送受信装置である。通信速度は、ノイズに対処するために調節され(本件プログラムのうちTC車部分では「7EH」というパラメーターを使用)、ブレーキを解放する信号を出した後7秒以内にTC車が停車することを確認する(本件プログラムのうちTC車部分では、3つのパラメーターをかけて7×166×255=296310回繰り返している。)。
A ブレーキ機構
 DHL車と各TC車のフロント側にはブレーキモーターによるブレーキ機構が搭載されている。
B 連結解放装置
 DHL車と各TC車のリア側には、連結解放シリンダーによる連結解放装置が搭載されている。連結の解放は、連結解放用のパワーシリンダーにより連結器解放レバーが引き上げられることにより行われるが、連結解放装置は、各TC車の一方(リア側)にしか搭載されていないため、必ずしも連結解放されるTC車の連結解放装置が作動するわけではなく、対向するTC車の連結解放装置が作動することにより連結解放が行われる場合もあり、その選択・判断は本件プログラムが行う。
(キ) 本件装置及び本件プログラムの特徴
@ 従来技術
 従来の車両の連結解放の方法としては、車両の連結順に各車両に固有の電圧値を所有させ、解放の際、被解放車両の電圧値と合致する指令電圧を指令信号として与えることにより、隣接する車両の連結を解放するもの(特公昭56−42505号公報)、車両の連結順に一定規制の変調を行い、各車両に固有の被変調波信号を所有させ、解放に際して被解放車両の被変調波信号と同調する信号を指令信号として与えることにより連結を解放するもの(特公昭56−42506号公報)があった。
A 従来技術の問題点
 従来技術においては、各車両に固有の符号を与える指定線、操作用機器への電源などの接続・切離しを自動化する必要があり、連結器の連結解放操作に別途圧力空気を用いるなど、比較的簡素化されている製鉄所用車両には高価とならざるを得ないという問題があった。
 また、指定線、操作機器への電源、これらの各線における接点の保守、維持のために、環境の悪い場所における使用による制約があった。すなわち、ジョイントコンセントや給電リング等による接触型の信号送受信装置を用いた場合、空気中の水分、粉塵、ガス等により接触部に錆が発生したり、接続・切離し時、振動などによりスパークし、接触面を荒らすので、伝達性能が著しく低下し、これを防止するためのガイド・シールドを設けるとコストがかかるという問題があった。
 さらに、連結器の解放指令を無線送信器によって送信し、無線指令により連結器の解放を行うと、指令のための入力線である指令線を省略して装置が経済的となるが、各車両に無線の受信器を必要とするので、搭載機器が高価とならざるを得ないという問題があった。
B 本件装置の特徴
 本件装置は、各車両に付与する車両固有の符号・連結解放信号等を非接触方式で与え、車両固有の符号や連結解放信号等の送受信を全て牽引車両に搭載した制御機器・無線によって行うことにより、環境が悪い場所においても安価で車両の連結・解放を行うことができる点に特徴を有するものであり、前記第2の2(4)アのとおり、出願人を1審被告スチールら、JFE電制、1審原告とし、発明の名称を「車両の連結並びに解放方法及び装置」として特許出願され、平成5年11月26日、特許権の設定登録(特許第1804586号)がされたものである。
C 本件プログラムの特徴
 本件プログラムは、本件装置の一部の作業を行わせるのもので、これにより本件装置の特徴である操作を可能にするものであるが、特に、DHL車にTC車が複数両一挙に連結された場合に、当初は、何両のTC車が連結されたのかはDHL車にあらかじめ示されておらず、かつ各TC車の連結操作番号も決められていない状態から、DHL車の最寄り側から順次整然と連結操作番号が決定される点(前記ウ(イ)Cの点)が重要な特徴の1つである。また、連結解放時に、必ずしも連結解放されるTC車の連結解放装置が作動するわけではなく、対向するTC車の連結解放装置が作動することにより連結解放が行われる場合もあり、その選択・判断は本件プログラムが行う点(前記(カ)B)も重要な特徴の1つである。
(2) 本件プログラムのソースコード
ア 1審原告は、本件プログラムが、@DHL車にTC車が複数両一挙に連結された場合に、当初は何両のTC車が連結されたのかはDHL車にあらかじめ示されておらず、かつ各TC車の連結操作番号も決められていない状態から、DHL車の最寄り側から順次整然と連結操作番号が決定されるという点についてのDHL車側のプログラム(以下「DHL車側プログラム」という。)及びTC車側のプログラム(以下「TC車側プログラム」という。)を含み、これらのプログラムが「DHL車とそれに連結されるTC車との間で電磁信号による通信を行うことにより各TC車に固有の識別符号(車番ないし連結操作番号)を与え、その識別符号を用いて連結された複数車両のうち任意の箇所で連結解放を行い、任意のTC車のパーキングブレーキを緊締・緩解させるという本件装置の新規な機能を実現するものであると主張しているが、DHC車をTC車に連結した後に各TC車に車番付けを行う処理を含む甲291及び292のプログラムのうち、以下の部分を特定した上で、この部分について創作性が認められる旨を主張する趣旨に解される。
(ア) DHL車側プログラムのうち、「NL」「NL1」の処理(TC車の車番付けを命ずる命令に関する処理を行うための部分・甲291の8頁ないし12頁(0286番地〜0427番地)
(イ) TC車側プログラムのうち、「LINK」の処理(TC車側における車番が付くまでの処理)を行うための部分・甲292の4頁ないし9頁(00F7番地〜0317番地)
イ 1審被告らは、甲291及び292は、本件訴訟の対象となる本件プログラムとの同一性は不明であると主張するのに対し、1審原告は、本件プログラムは遅くとも昭和61年3月に完成したと主張していたが、甲291及び292の提出後は、これらは同年12月に改良後の本件プログラムのソースコードであり、本件訴訟において確認の対象として主張するに至った。
 この点について、湯浅通信機により開発された当初プログラムを用いたシステムにおいて、突放ヒヤリ(丙145)、電源破壊不具合(丙147)、不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない(丙148、149)等の異常が発生したところ、このうち、「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という異常に対して、ソフトの改訂(つまりプログラムの変更)を含む対策が講じられたものとされている(丙148、149)。
 すなわち、昭和61年12月8日の協議において、「不連結防止」のために「DHL停車後」の「ブレーキ一斉開放」と「車両番号メモリー(DHL、TC通信)」の両処理の順序を入れ換えること、「流動時G、Rランプ消灯」のために、流動処理後に消灯すること等が協議されており(丙148)、翌日の午後に、「不連結防止用変更ソフト」によるテストが実施されている(丙149)。当該テスト結果(プログラムの変更前後の制御のタイミングを示す信号図)によると、制御のタイミングがプログラムの変更によって大幅に異なったことが明らかにされている。
 そして、「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という異常については、当該プログラムの変更により改善したものであり、その後、新たな問題が発生する等により同程度の変更がされたことをうかがわせる証拠は存しない。
 そうすると、本件プログラムは、同月9日にテストが実施された変更後のプログラムをもって、完成したものと推認されるところである。
 実際、本件プログラムに係る昭和60年9月12日作成のフローチャート(甲188の1・2、丙5。DHL車用のものとTC車用のもの。以下、それぞれ「変更前DHLフローチャート」「変更前TCフローチャート」という。)と、昭和61年12月21日作成のフローチャート(甲189の1・2、丙6。以下、同様に「変更後DHLフローチャート」「変更後TCフローチャート」という。)をそれぞれ比較すると、@変更前DHCフローチャートと変更後DHCフローチャートとの対比において、NL1という新たなサブルーチンが追加されているところ、変更後DHCフローチャートの備考欄には、「86.11.25修正、86.12.20修正」と記載されていること、A変更前TCフローチャートと変更後TCフローチャートとの対比において、変更前においては「LINK」処理の中で「SCSUB(ブレーキ開放)」を行った後に「NL」処理によって「LINK」処理が終端しているのに対して、変更後においては、「LINK」処理の中で「NL1」という処理が行われた後に「SCSUB(ブレーキ開放)」が行われ、その後「NL」処理によらずに「LINK」処理が終端しているものであり、変更後TCフローチャートの備考欄には、「86.12.20修正」と記載されている。すなわち、「DHL停車後」の「ブレーキ一斉開放」と「車両番号メモリー(DHL、TC通信)」の両処理の順序を入れ換える旨の変更が加えられたものということができるところ、これは、丙149の記載内容と整合する。
 なお、昭和62年11月20日作成のフローチャート(甲190の1・2)においては、上記@及びAの記載に関連する部分について機密保持のために開示されていないが、「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しないという異常」を防止するために、変更後のタイミングによってシステムを制御する必要があることからすると、非開示部分のフローチャートにおいては、変更後DHCフローチャート及び変更後TCフローチャートの内容が維持されているものと推認される。
ウ 1審原告が本件プログラムのソースコードとして提出した甲291及び292は、おおむね変更後DHCフローチャート(甲189の1)及び変更後TCフローチャート(甲189の2)と整合しているものということができる。
エ 以上からすると、「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という異常を防止するために、昭和62年12月、プログラムの変更が行われたところ、甲291及び292のソースコードは、このプログラムの変更が反映されたものであるということができる。そして、当該プログラムに対し、タイミングの変更等の修正が加えられた事情は証拠上うかがわれないから、本件装置は、当該変更後のプログラムによって制御されているものと推認されるところである。
 したがって、甲291及び292は、1審原告が著作権を有することの確認を求めている本件プログラムのソースコードであると認めることができる。
 なお、本件プログラムの完成時期は、上記各ソースコード提出前における1審原告の当初主張とは異なるが、そのこと自体は、上記認定を左右するものではない。
(3) プログラムの著作物性の判断基準
 ところで、プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピューターに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合わせ、どのような表現順序とするかなどについて、著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
 したがって、プログラムに著作物性があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない。
(4) 本件プログラムの表現上の創作性
ア DHL車側プログラム(甲291)について
 DHL車側プログラムのうち、「NL」「NL1」の処理(TC車の車番付けを命ずる命令に関する処理)を行うための部分(甲291の8頁〜12頁(0286番地〜0427番地))に関する部分は、200行前後のうちプログラムの実行順序に係る制御を行う命令(JP命令とCALL命令)の行数が50行前後、つまりステップ数で全体の4分の1前後が実行順序制御に係る命令に用いられている(甲291、294)。
 DHL車側プログラムには、ソースコード上では、「JP、・・・##」と示される、飛び先の番地が指定されず、結果として0000番地が指定された場合と同様の動作を行うJP命令(CA0000)が含まれている(なお、甲291及び後述する甲292においては、上述したもの以外のJP命令については飛び先となるメモリのアドレス(番地)の値が具体的に示されており、甲289及び290と同様に、ロードされるメモリ上のアドレス(番地)及びJP命令の飛び先となるアドレスが絶対的に定まったものとされている。)。
 これらの命令は、変更後DHCフローチャート(甲189の1)や変更前のソースコード(甲289)には含まれているものではないから、本件装置を動作させるための最低限の機能を実現するために必要不可欠なものであったか否かは不明である。もっとも、昭和61年12月に「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という異常への対処としてプログラムが変更されたことからすると、変更を行ったプログラム作成者は、何らかの意図、たとえば、当該プログラムの変更による変更後の制御のタイミングを維持すべきであること等に基づいて、ほかに選択肢があるにもかかわらず、あえて上記部分を挿入したままとしたものと推測されなくもない。
 そうすると、DHL車側プログラムには、上記命令が存在することにより、創作性が認められる余地がないわけではない。
 もっとも、1審原告は、本来、ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく、本件プログラムは著作物性を有するなどと主張して、当初、本件プログラムのソースコードを文書として提出せず、当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続期日における受命裁判官の求釈明により、本件プログラム全体のソースコードを文書として提出するか否かについて検討し、DHL車側プログラムについては、ソースコードを提出したものの、本件プログラムのいかなる箇所にプログラム制作者の個性が発揮されているのかについて具体的に主張立証しない。
 したがって、DHL車側プログラムに挿入された上記命令がどのような機能を有するものか、他に選択可能な挿入箇所や他に選択可能な命令が存在したか否かについてすら、不明であるというほかなく、当該命令部分の存在が、選択の幅がある中から、プログラム制作者が選択したものであり、かつ、それがありふれた表現ではなく、プログラム制作者の個性、すなわち表現上の創作性が発揮されているものであることについて、これを認めるに足りる証拠はないというほかない。
 以上からすると、DHL車側のプログラムには、表現上の創作性を認めることはできない。
イ TC車側プログラム(甲292)について
 TC車側プログラムのうち、「LINK」の処理(TC車側における車番がつくまでの処理)を行うための部分(甲292の4頁〜9頁(00F7番地〜0317番地))は、294行中88行がプログラムの実行順序に係る制御を行う命令であるとされている(甲294)ところ、当該部分の相当程度について、ソースコードが開示されていない。
 DHL車側プログラムとTC車側プログラムとは、各プログラムが機能することによって、本件装置を制御するものであるから、「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しないという異常」を防止するために本件装置を制御するためには、両者について同様の配慮が必要となると推測されることから、TC車側プログラムにも、DHL車側プログラムと同様に、本件装置を動作させるための最低限の機能を実現するために必要不可欠なものであったか否かは明らかではない命令が挿入されている可能性は否定できない。
 もっとも、仮に、このような命令が挿入されていたとしても、DHL車側プログラムと同様に、当該命令部分の存在が、プログラム制作者の個性、すなわち表現上の創作性が発揮されているものであることについて、これを認めるに足りる証拠はないというほかない。
 したがって、TC車側プログラムにも、表現上の創作性を認めることはできない。
ウ 1審原告の主張について
 1審原告は、本件装置は、特許権を取得できるほどに新規で進歩性を有する画期的な技術であり、新規な機能を有するものであるから、当該装置を稼働させるための本件プログラムも、他の既存のプログラムの表現を模倣することにより作成することはできないところ、特に、中核部分であるTC車の車番付けを行わせる部分は、本件プログラムが有する多数の機能のうち最重要部分を実現するもので、新規のアイデアに基づき全くのゼロから開発されたものである、当該中核部分を構成する各パートは、それぞれ数十から百数十もの命令数により記述されている上、多数のサブルーチンを用いた構成となっているところ、このような複雑なプログラムにつき、その表現が1つ又は極めて限定された数しかなかったり、だれが記述しても大同小異のものとなったりすることは到底あり得ないし、他にも多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされてひとまとまりのプログラムとなっているのであるから、本件プログラムは、本来、ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく、著作権の保護を受けるプログラムの著作物に該当することは明らかであるなどと主張する。
 しかしながら、本件装置が新規性を有するからといって、当該装置を稼働させるためのプログラムが直ちに著作物性を有するということができないことは明らかである。
 また、先に述べたとおり、プログラムに著作物性があるというためには、プログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要するのであるから、新規のアイデアに基づきゼロから開発されたものであること、多くの命令数により記述されていることから、直ちに表現上の創作性を認めることはできない。本件プログラムが多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされているとしても、当該プログラムに表現上の創作性があることについて具体的に主張立証されない以上、当該プログラムにより実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎない。
 さらに、1審原告は、TC車側プログラムのうち、SOSUBサブルーチン(072F〜0792番地)のソースコードを例として、甲290及び292が機械語レベルでほぼ同一の命令構成となっているにもかかわらず、ソースコードレベルでの具体的表現が異なること、SOSUBルーチンの行う仕事は、@連結器のピンを外すパワーシリンダを作動させる部分、Aパワーシリンダが正常に作動したか否かをチェックする部分、Bパワーシリンダの作動状況及びそのチェックの結果を操作者に知らせるため表示灯の点・消灯を行う部分の3つに大別できるところ、本件プログラムの極めて小さな一部分であるSOSUBルーチンのソースコードにおける具体的表現だけをみても、多数の選択肢の中から開発者の個性により選択された表現が用いられているなどとも主張する。
 しかしながら、甲290及び292におけるソースコードレベルでの具体的表現の相違は、CPUの機種変更に応じて必然的に定まる変更に基づくものにすぎず、創作性の基礎になり得るものではない。
 また、上記@ないしBの機能を実現するそのほかの表現に係る選択肢が存在する可能性があるからといって、直ちに本件プログラムにおけるSOSUBルーチンの具体的表現について、創作性が認められるものでもない。1審原告が具体的に指摘する各事項は、いずれも本件装置が要求する仕様や機能を単にプログラムとして実現したものにすぎず、表現上の創作性を基礎付けるものではない。
 1審原告の主張は採用できない。
(5) 小括
 以上からすると、本件プログラムには、著作物性を認めることができない。
4 使用料支払の要否について
 1審原告は、本件プログラムの著作権を有することを前提として、本件使用料支払契約が成立したことを主張するものであり、1審原告が著作権を有しない場合についても使用料支払に係る合意が成立したものと主張するものではない。
 したがって、1審原告が本件プログラムの著作権を有するものと認めることができない以上、1審原告の1審被告らに対する使用料支払に係る請求はその前提を欠くものであって、失当といわざるを得ない。
 また、そうである以上、1審原告の1審被告スチールに対する使用料相当額の不当利得返還請求もその前提を欠くものであって、失当といわざるを得ない。
5 以上によれば、1審原告の請求は、本件プログラムの著作権に係る確認請求も、当該著作権に係る金銭請求も、いずれもその理由がないといわなければならない。なお、事案に鑑み、以下のとおり、付言する。
6 1審原告提出の文書の形式的及び実質的証拠力の有無・程度について
 1審原告は、原審及び当審において、本件プログラムの著作物性及び本件使用料支払契約の成立を立証するため多数の文書を提出しているが、その採否は、既に判断を示したほか、以下のとおりである。
(1) 議事録について
 1審被告らは、本件議事録について、1審原告と1審被告らとの交渉経緯、提出の経緯、形式・内容のいずれについても不自然であることなどから、これらの各文書は偽造・変造されたものであるなどと主張するので、以下、上記各事項について検討する。なお、以下に挙示する文書のうち、議事録以外の文書については、弁論の全趣旨により、その成立(写しについては、原本の存在を含む。)を認めることができる。
ア 本件プログラムの使用料請求に至る経緯について
(ア) 1審原告と1審被告物流の水島支社とは、平成10年4月17日ころから、1審原告が1審被告物流の水島製鉄所内において担当しているメンテナンス業務について協議を行っていたところ、同年7月17日、同支社のU 支社長なども出席して協議が行われた(弁論の全趣旨)。甲125(申し入れ及び協議内容記録)によると、この協議は、1審原告が1審被告物流の車両関係電装品のメンテナンス業務から排除されるのではないかとの危惧を抱いたことから開始されたものであり、1審原告代表者は、1審原告が派遣した従業員に対し、1審被告物流の従業員が様々な難しい要求をすることにより、苦痛を受けた従業員が退職に追い込まれたことなどに対して抗議するなどしたことが認められる。同メモの追記として、1審被告物流の水島支社V 重役との面談記録が作成されており、これによれば、同重役は、1審原告代表者に対し、1審原告は1審被告物流との間の取引実績に対する既得権があるように勘違いしているのではないか、今までの面談の中で、1審原告の仕事量が大幅に減少すると、何かアクションを起こすようないい方をしているが、それが何を意味するかはっきり言ってはどうか、1審原告は本件装置についていろいろと問題があるなどというが、何のことだか分からないし、一度調べておくがそんなことで1審被告物流が1審原告に対して仕事量をある程度出さないといけないとは決して思わない、そんな昔のことが1審被告物流にいつまでも通用すると思うことは大きな間違いであるなどと指摘し、1審原告代表者は、これに対し、1審原告としては、既得権を有しているとは決して思っていない、本件装置に関するいろいろな事情もあり、1審原告が1審被告物流より仕事量を多くいただいているという事情があるが、その点を無視され、発注量を激減されるのであれば、1審原告としてはそれなりのことを考えるなどと述べたことが認められる。
(イ) また、甲126(申し入れ書)によると、1審原告は、平成10年10月14日、1審被告物流の水島支社に対し、本件装置のCPUBOXのリプレイスを提案するとともに、同BOX内に貼付された著作権シールを除去しないように求めたことが認められる。甲127の1(書面送付案内書)及び甲128(面談記録)によれば、その後、1審原告は、同支社に対し、受注金額の落込みに関する協議を求める通知を発するなどしたことが認められるが、当該通知には本件5項目の代替措置に関する記載はない。
(ウ) 1審原告と1審被告物流とは、遅くとも平成14年4月10日ころから、件装置のCPUBOXのリプレイスに関し、協議を行っていたが(弁論の全趣旨)、甲129の1ないし5(議事録)には、その際、鉄道課から、リプレイス前のプログラムについて、著作権の帰属ないし使用料支払の有無に関する質問がされたところ、1審原告代表者は、1審原告が著作権を有しているが、当初はメンテナンスもしていたので使用料については請求していないと回答した旨の記載がある。また、甲130の1及び2(契約締結願い)によると、1審原告は、同年5月20日及び6月12日、1審被告物流の知的財産部等に対し、1審被告らなどとの間で本件装置に関し様々な知的財産権を共有しているが、海外企業からの引き合いもあるから、実施契約を締結する必要があること、本件装置に関する全てのケースでハード及びソフトは今後1審原告が納入すること、本件プログラムの使用料をDHL車及びTC車1台当たりの金額として協議決定し、月額又は年額で支払うことなどを求めたことが認められる。
 1審原告と1審被告物流との間では、その後も本件プログラムの使用料についての協議が継続していたところ(弁論の全趣旨)、甲135の1及び2(1審原告と1審被告スチールとの間の電子メール)によれば、1審原告は、本件プログラムの使用料の支払を求める理由として、平成15年2月5日、@本件プログラムに係る高額な開発費については、本件装置のメンテナンス業務について外注していたので、その売上げから回収できていたこと、成果還元金が支払われるという説明を受けていたこと、補充部品について当初は全て納入していたこと、1審被告物流の役員から今後の良い仕事の見通しに関する話があり、事実大変お世話になったことから、今までは開発費を請求していなかったが、現在はそのような事情は存在していない、A現在、プログラムの使用料が大きくクローズアップされているところ、税務調査において使用料の請求をしていない理由について厳しく追及された、Bプログラムの更新に多額の費用が必要となったなどと回答したことが認められる。
 なお、甲163(議事録)には、1審原告と1審被告らとの間の協議において、本件5項目の代替措置が明確に言及されたのは、本件議事録等が開示された後の平成15年11月21日における協議からである旨の記載がある。
(エ) 以上の経緯ないし記載(なお、当該記載部分を採用し得ることは、後述するとおりである。)からすると、1審原告は、平成10年4月17日ころから断続的に1審被告物流とメンテナンス業務の受注量減少や本件プログラムの更新等について交渉していたが、1審原告の主張する本件5項目の代替措置について明確に言及したのは、約5年経過後である。1審原告は、使用料を請求していなかった理由として、相当程度の業務を受注していたこと等を指摘しているが、平成15年2月5日の電子メール(甲135の2)は、本件5項目の代替措置が講じられていたというよりか、1審被告物流から業務を受注することができていたことなどからして、1審原告の判断において本件プログラムの開発費の請求を控えていた趣旨と解されるにとどまる。しかも、1審原告は、当初、既得権の存在を明確に否定し、使用料請求を検討する契機として、税務調査における指摘等も理由としているのである。
 仮に、本件5項目の代替措置について1審被告らとの間で、1審原告が主張するように、既に合意が成立していたというのであれば、上記の交渉開始時において端的にこれを指摘すれば足りたはずであるし、本件装置に関する一切の納入等の独占や本件プログラムの使用料支払に関する契約を締結するよう求める理由も存在しなかったはずである。特に、前掲甲135の2においては、メンテナンス業務等の「上記のすべてが現在では存在していません事が、今回ソフトの使用料を請求致す動機のひとつになっている事も事実です。」と回答しているが、これは、本件5項目の代替措置に関する合意が成立していたとの1審原告の主張と整合しない。また、前掲甲125によれば、1審原告は、交渉開始当初から、「我社としても今後それなりの考えで事を進めないといけないと考えます。」と伝えていたこと、前掲甲127の1によれば、「このような状況が今後も続くようなら、弊社としても根本的に色々な面で更なる対策を考えざるを得ない。貴支社長にももう少し時間をお取りいただき、本音の話合いをしたい」との趣旨を伝えていたことが認められ、そのようなやり取りからは、1審原告が、下請としての立場上、円満解決を目指すため、交渉当初においては自らの権利について強調しないというような方針を採用していたとも解し難いところである。
 特に、1審原告は、平成3年10月1日、1審被告物流のG などと協議を行い、本件5項目の代替措置に関する書面化を要求し、数年後に1審被告らの担当者の多くが交代し、そのような合意については知らないといわれることを危惧していると伝えた旨の記載がある議事録(甲123。1審被告物流の関係者の作成部分については、その成立に争いがある。)を文書として提出するほか、1審被告らに対し、再三書面を作成するように要求していたと主張しているのであるから、平成10年7月17日の協議におけるV 重役の発言は、まさに1審原告が危惧したとおりの事態が生じたことを意味するはずである。それにもかかわらず、1審原告が直ちに本件5項目の代替措置に関する合意の存在を主張し、それまでの間に書面化を求めていた証拠であるという甲124(お願い事項)を改めて提示するなどの対応がされていないことは、不自然であるというほかない。
 したがって、本件プログラムの使用料請求に至る経緯における1審原告の言動は、本件議事録の記載内容と整合しないものというほかはない。
イ 本件議事録の開示に至る経緯について
(ア) 甲139の議事録には、1審原告は、平成15年3月24日の協議において、1審被告物流から、本件プログラムの著作権に係る費用は本件装置の購入代金の中に含まれている、本件プログラムの著作権は湯浅通信機が有すると思われる、1審原告が著作権を有することを証明できる証拠はあるのかと質問されたのに対し、本件プログラムの著作権も含めて本件装置を販売したのではなく、ソフトに関する費用は完全に別で取引した証拠となる各書面が確実に残っており、後日提示すると回答した旨の記載がある。甲140の議事録には、1審原告は、同月28日の1審被告物流との協議においても、「提示が必要な時期が来れば提示します」と回答した旨の記載がある。
(イ) また、甲146の議事録には、1審原告は、平成15年5月12日の1審被告スチールとの協議において、1審原告にはソフト関係諸費用を含む金銭授受はなかったことの記録が明確にある、1審被告スチールにも記録が残っているであろうから調査し、記録が残っていれば是非提示してもらって照合すれば、明確に解決すると思うと述べたため、1審被告スチールは、1審原告が述べた記録が存在するか調査し、後日回答すると返答した旨の記載がある。
 甲148の1及び2(前同電子メール)によれば、1審被告スチールの西日本製鉄所の担当者は、同月19日、1審原告に対し、ソフト使用料が別である旨の書類が残っているということであるが、1審被告スチールの本社との間でそのようなやり取りがされたのか否か等に関し、問合せをした。これに対し、1審原告は、1審被告らの担当者と1審原告との3者間の協議録や1審原告が1審被告物流に提出した各種見積書等が存在する旨を回答したことが認められる。
(ウ) そして、甲150(前同電子メール)によれば、1審原告は、平成15年7月2日、1審被告スチールの交渉担当者に対し、前回の協議において、次回の協議において提出すると約束した議事録等については、懸命な努力によりそのほとんどが発見されたが、一部未発見のものがあり、2週間程度をかけて再発見に努める予定であるから、準備完了次第、次回の協議開催を依頼する、1審被告スチール担当者から、1審被告スチールには協議記録が存在しない旨の電話連絡を受けた際、その旨を記載した書面の提出は不要であると回答したが、代理人弁護士と相談したところ、書面による回答を求めることになったので、近日中に書面で連絡してほしいとの通知をしたことが認められる。
(エ) 甲152の議事録には、1審原告は、平成15年8月8日の1審被告スチールとの協議において、「ソフトに関する費用をいただいていないという証明ができる見積書等、関係書類のコピー」を提示した。1審被告スチールは、関連会社を含めて当時の議事録が全く残っていないので、1審原告が保存する議事録のコピーを提示するよう求めたところ、1審原告は、現在準備中であり、近日中に持参すると回答した旨の記載がある。
(オ) 甲156ないし158(前同電子メール)によれば、1審原告は、平成15年8月25日、1審被告スチールの担当者に対し、同月14日付け書面において、記録等が存在しない旨の回答を得たが、その後、1審被告らは、当時の担当者と面談し、事情聴取をしたか否か、面談したのであれば、担当者は、当時、議事録のやり取りを1審原告との間で行ったが、現在、1審被告物流には記録が存在していないと回答したのか、それとも、議事録のやり取り自体を行っていないと回答したのか、1審原告の代理人弁護士から質問するよう依頼されたので回答してほしいこと、残りの書類については、代理人弁護士が精査中であるので、同年9月8日の週ころに提出する予定であることを通知したこと、1審原告は、同月16日、上記質問の回答が未了であるが、特に、議事録のやり取りに関する質問は重要であるから、メールでも構わないので速やかに回答するよう求めたこと、1審被告スチールは、同月24日、事情聴取は行った、やり取りに関する記録はなく、見積書は書類の保存期間が10年のため存在していない、担当者は、議事録は受け取ったであろうが、中身については記憶がないと述べている旨を回答したことが認められ、甲159の2(提出書類確認書)によると、1審原告は、同月30日、1審被告スチールに対し、本件議事録を開示したことが認められる。
(カ) 以上の経緯ないし記載(なお、当該記載部分を採用し得ることは、後述するとおりである。)からすると、1審原告は、平成15年3月ころの協議において、本件プログラムの使用料と本件装置の販売費用とは別であることを裏付ける書類の存在を示唆し、更に、同年5月ころ、議事録の存在について示唆しているところである。
 しかしながら、1審原告は、同年8月に見積書を提示したものの、議事録については提示せず、1審被告物流の担当者が議事録の存在自体を否定しているのか等についての回答を得た上で、同年9月30日に至り、ようやくこれを開示したものである。
 先に述べたとおり、1審原告と1審被告らとは、平成10年ころから本件プログラムの更新に関して断続的に協議を行っており、特に平成15年ころからは、本件プログラムの使用料に関し、双方の見解が対立した状態での議論が継続していたところ、1審被告らは、当初から本件装置開発当時の資料が存在しない旨を指摘し、1審原告に対して開示を求めていたものである。もちろん、関係書類の探索中、検討中などの理由で開示が遅れること自体は不自然ではなく、交渉内容に係る資料を、いつ、どの程度開示するかは各交渉主体の判断に委ねられるものではあるが、1審原告は、1審被告らに対し、双方が保存しているであろう書類等と照合すれば、解決を図ることができるなどと述べているのであるから、1審被告らに対し、関係書類を保存しているか否かについて書面により回答するように求めるなど、関係資料の探索を促すのであれば、それとは別に、1審原告が自ら保存している議事録や見積書の一部を進んで開示するか、少なくとも1審原告が本件訴訟において強調する厳格な議事録作成ルールの存在等、議事録に係る経緯を説明するなどしてもおかしくなく、そのような1審被告らに対する資料の探索や記憶喚起の便宜を図ることがされなかったことは、かえって、不自然であるということができる。先に指摘したとおり、本件5項目の代替措置や厳格な議事録作成ルールなど、仮に、そのような合意が当事者間でされていたのであれば、交渉の初期段階において、その旨の指摘がされることが通常であって、本件議事録についても、その例外ではなく、厳格な議事録作成ルールに基づいて作成された議事録を1審被告らが保存しているはずであることを端的に指摘すれば足りたのであって、議事録に関する担当者の認識に関する事情聴取内容について回答を得た上で、ようやくこれを開示するということは、1審被告らが指摘するとおり、本件議事録が偽造・変造されるなど、内容虚偽のものであるとの疑念を想起させる一事情といわざるを得ない。もちろん、1審被告物流の担当者の認識については、1審原告の重大な関心事であることは明らかであるから、1審原告がこれを明らかにするよう求めること自体は当然であるが、その回答を催促し、これに対する回答があるまで、1審原告が所持していた本件議事録を先行的に開示しなかったことに合理的な理由は看て取れない。
 そうすると、本件議事録が開示されるに至る経緯についても、1審被告ら指摘の不自然さは否定できないというほかない。
ウ 議事録作成ルールの有無について
(ア) 本件議事録には、いずれも各葉に1審原告代表者のほか、鉄道課、N、F、Gなど、当時の1審被告らの担当部署及び担当者名による印影がみられるところである。
 1審原告は、この点について、1審原告が開発に関与したビレット輸送船用自動ラックに生じた不具合の対応について、1審被告らから、議事録の2頁以降を差し替えたのではないかとの指摘を受けたことから、昭和59年3月7日の協議(甲8)において、1審原告が作成した議事録については、1部を1審原告が保存し、1部を1審被告物流に提出後、1審被告物流の各担当者が各葉に確認印を押印した上で1審原告に返還し、1審原告がこれを保管するとのルールが制定されたなどと主張する。
 これに対し、1審被告らは、上記自動ラックに係る不具合は、議事録作成ルールが制定されたとされる当時、発生しておらず、全葉に確認印を押印するなどという不合理なルールが策定されるはずがないなどと主張するところであるが、自動ラックに係る不具合の発生時期についてはおくとしても、このような厳格なルールが制定されたと1審原告が主張する時期以前の同年2月15日の協議に係る議事録(甲7)にも、同月17日付けの鉄道課受領印が押印されているのみならず、全葉に各担当者の確認印が押印されているものであって、これは議事録作成ルールの経緯に係る1審原告の主張と明らかに矛盾するものである。
 1審原告は、本件装置の開発に着手した当初から、1審被告らに対し、同様の確認を求めていたところ、昭和59年3月7日の協議において、それまでの1審原告の要求が受け入れられ、当該ルールが採用されたなどとも主張する。
 しかしながら、仮に、1審原告主張のとおりの議事録作成ルールが存在したというのであれば、甲8(昭和59年3月7日の議事録)ではなく、既に全葉に確認印を押印するという異例の確認方法が採用されている甲7(同年2月15日の議事録)において、当該ルールに関する記載がされるのが自然である。
 しかも、甲8(前掲)の記載は、自動ラックのトラブルについて、協議記録の記載を参考に、1審原告の責任が否定されたことを参考として、むしろ1審被告らから当該ルールを提案したかのような内容とされているものであって、1審原告に上記トラブルの責任を押し付けようとしたとされる1審被告らから、むしろ厳格な議事録作成ルールを採用するように求めたかのような上記記載は、1審原告の主張とは整合しないものである。
(イ) また、1審原告は、本件議事録について、原本ではなく、写ししか存在しない理由として、1審被告物流は、議事録作成ルールに反し、コピーしか返却しなかったからであるなどと主張する。
 しかしながら、本件議事録の中には、1審原告代表者が場合によっては本件装置の開発から脱退すると述べたこと(甲39、46)、Aに対し、議事録を確認するように求めたこと、後日のために、大切な事項はできる限り詳細に議事録に記載することとしていると述べたこと、自動ラックの件で議事録は正確であるべきことは、1審被告らも体験したはずであると述べたこと(甲46、50、61)など、1審原告が1審被告らとそれなりの立場で交渉し、また、議事録の参照を求める記載がみられるのみならず、1審被告物流の担当者も、自らこのようなルールの作成を提案したものとされているほか、議事録をお互いに交わしているので、議事録はとても有力なものである、今までかなり厳格に協議録を検収し、残しているので、正式見積書に追加項目を入れる必要はない、全ての会議の議事録を作成することは絶対に必要である、非常に大切な会議内容であるからワープロ議事録を送ってほしいなどと発言した旨の記載(甲48、50、60、61)もみられるところである。このように、1審原告代表者は、結果として採用されなかった1審被告らに対する要望に係る自らの発言についても本件議事録に多数記載しているのであるから、本件議事録記載のとおり、議事録の重要性について1審被告らも同様の認識を有していたと1審原告が主張するのであれば、原本を返還するというルールが遵守されていないことについて、1審原告が指摘した旨の記載が本件議事録に存しないことは、不自然であるというほかない。当該ルールでは、1審被告物流には、1審原告に対する「返却用」のほか、後日の照合に備えて保管用の正本も交付されることになっていたというのであるから、1審原告において、1審被告物流が確認印を押印した返却用の議事録をそのまま1審原告に返却すれば足りるので、当該ルールに違反してまで、あえてコピーした上で写しを返却する必要性がない旨を端的に1審被告物流に指摘することが格別に困難であったとは解されない。
 この点について、1審原告は、当審の平成23年4月19日の第8回弁論準備手続期日において、「ご返却用」ではなく、「ご承認用」の朱印が押印された議事録(甲261、262。記載内容は、甲52、57とそれぞれ同一である。)を文書として提出した上で、甲256(陳述書)をもって、これは、鉄道課のC 次長に対し、鉄道課から報復を受けることを覚悟のもと、議事録に関するルールを遵守するよういわば直訴し、さらに、業務連絡票(甲258の1)を提出したところ、承認を得られたものであるなどと説明する。
 しかしながら、1審原告の「直訴」を受けて、2通の議事録について別途「承認」の手続をするなどの対応を1審被告物流が行ったというのであれば、その後の協議に係る議事録(甲60〜69)において、1審被告物流から写しが返却されるという従前と同様の処理が繰り返されていることは不自然であるというほかない。
(ウ) 1審原告は、平成3年10月1日における協議の議事録として、甲123を提出するが、同証には、1審原告代表者が、1審被告物流のG及びOに対し、「本日の会議は大切な会議なので正式に議事録を作成し、2部持参しますので、1部に確認印を押印下さり、返却願えませんか!」と述べたところ、G及びOは、「基本的には下請会社との協議ではその様な事を行った例はあまりないが、1審原告がそう希望するのであれば結構である。後日、議事録を提出すれば、内容をチェックし、正確であれば確認印を押印し、1部を返却する。」と回答した旨の記載がある。しかし、Gは、本件議事録作成当時、担当者として協議に参加していたのであるから、仮に1審原告が主張する厳格な議事録ルールが存在していたならば、Gが同席する協議であれば、議事録について上記記載のような提案をすることは考え難いところであるし、下請会社との議事録のやり取りを否定した1審被告物流の担当者に対し、1審原告代表者が議事録ルールに関する指摘をしていないのも不自然である。しかも、当該議事録には、1審原告が各葉に対する押印を求めていないにもかかわらず、「管理 O」の印が各葉に押印されている(ただし、Gの確認印は表紙のみである。)ことも不自然であるというほかない。
(エ) したがって、本件議事録において、厳格な作成ルールが定められていたこと、1審被告物流が当該ルールに違反し、コピーのみを返却していたとの1審原告の主張は、当該ルールの存在自体を認めることができないといわざるを得ないのであって、その前提を欠くものというほかない。
エ 本件議事録の記載内容について
(ア) 「り」及び「総」のフォント並びに用紙の余白等について
a 1審被告らは、昭和60年8月27日付けの1審原告作成の議事録(甲50)における「り」の字体は、1審原告が昭和60年8月当時使用していたリコー製ワープロで打ち出すことはできず、昭和63年6月以降に発売された富士通製ワープロでなければ作成できないことなどを、本件議事録が偽造・変造された根拠として主張する。
 この点について、1審原告は、本件議事録を作成した当時に使用していたワープロの機種について、原審において、当初リコー製リポート350Gであると説明したところ、1審被告らから、同ワープロには半角漢字の機能がないとの指摘を受け、更に、昭和60年5月1日に発売されることが決定していたリポート5600シリーズのデモ機を貸与されていたと主張していた。
b 証拠(乙6、12、丙16、33の1〜丙35)によれば、1審原告が平成2年3月13日付で1審被告物流に提出した見積書(丙16)は、「リポート5600G」で作成可能であり、このころ1審原告は「リポート5600」シリーズを使用していたこと、リコーが販売していたワープロ「リポート5600G」は、日立製作所が設計製造販売するワープロ「ワードパルBW−800」の外観に関する製品仕様を一部変更してリコーブランドでOEM供給していたものであって、日立製作所「ワードパルBW−800」とワープロとしての機能は同一であること、「ワードパルBW−800」の後継機種として、同じ字体、印刷機能を持つ「ワードパルBW−450」が現在も日立アプライアンス多賀家電本部に保管されていることが認められる。そして、当該保管に係るワープロにより甲号証の議事録や見積書の再現試験を行ったところ(乙6、丙35)、@甲50についてひらがなの「り」の字体が違うこと、A証拠(甲194)によれば、リコーのワープロ「リポート5600」シリーズは印字ドット数が24×24であることが認められるところ、その再現文書(乙6、丙35。リポート5600Gと同一機能を有するワールドパルBW−450により作成されたもの。したがって、印字ドット数は24×24であると考えられる。)は、甲50よりも文字の印刷品位(ドット数)が劣ること、B甲50については、行間隔の取り方が異なり、余白についても再現文書では文章の部分が短くなりすぎる(余白部分が多くできてしまう)か、又は1ページ以内に収まらず、上部の余白が広くなる点が異なってしまい、同様の書式で再現できないことが認められる。さらに、上記@に関し、リコーのリポート5600シリーズのカタログ(乙16)によれば、同ワープロの「り」の字体は、ふた筆書きであって、ひと筆書きの「り」が記載されている甲50(議事録)のものとは異なり、ふた筆書きの「り」が記載されている乙6、丙35(再現文書)のものに近いことが認められる。
 そうすると、1審原告の主張に係るワープロで本件議事録を作成することができたかについては、疑問が残るというほかない。
 この点について、1審原告は、昭和60年3月11日にデモ機の貸与を受けたと主張するが、当該ワープロの製造銘板は「FD5600#504828」であり(甲192の2)、これは、昭和60年4月に製作された828台目という趣旨であると解されることからすると(乙17)、当該デモ機の使用自体も認め難いものであって、これに反する文書(甲249、250)は採用できない。
c 1審原告は、「り」及び「総」の文字について、外字登録機能で作成していた、仮名コードで入力していたなどと主張する。
 しかしながら、確かに1審原告主張のとおりの方式で出力可能であったとしても、その字体にこだわらなければ、「り」及び「総」のいずれも普通に入力できる文字であって、それにもかかわらず、外字を作成してまで、当該字体をあえて用いる必要があった理由について具体的に主張立証がなく、1審原告の主張には、相当程度疑問が残るといわなければならない。
 また、証拠(甲95、丙16)によれば、1審原告は、平成2年3月には、前掲再現文書(乙6、丙35)の文字と同一(したがって、甲50とは異なる字体)の「り」及び「総」を用いた見積書(丙16)を作成して1審被告物流に提出していること、同年10月16日付けの表示のある同種の見積書(甲95)の「り」の文字は、甲50のものと同一字体(したがって、乙6、丙16、35とは異なる字体)であることが認められる。これらの成立年代が全て当該書面に表示されている作成日付のとおりであるとすると、1審原告は、ある時には普通の「り」、ある時には外字登録した「り」を使用し、また、ある時には手間のかかる部首コード入力の「総」、ある時には普通の入力ないし仮名コード入力の「総」を使用していたことになるが、そのような方法をとらなければならない合理的な理由も見いだせない。
d 1審原告は、1審原告が使用していた熱転写式プリンターで出力された文字は、解像度が極めて高い40×40ドット以上のドット式プリンターにより出力された文字と同等の質を有していたなどと主張するが、証拠(甲193、194、乙9、12、16)によれば、リコーリポート5600シリーズの熱転写式プリンターも24×24ドット(24ドット)であり、カタログ(乙16)では印字例について「熱転写・ワイヤドットプリンタ」として両者を区別せず表示されていること、甲50の「い」「り」「も」「な」「タ」の各文字は滑らかであり、リポート5600シリーズないしこれと同等である丙16や1審被告らによる前掲再現文書(乙6のほか、丙33の1及び2(これも再現文書である。)の文字(24ドット)とはドット数が異なるのみならず、字体も異なることがそれぞれ認められる。したがって、甲50の議事録の見積書の文字がリポート5600シリーズにより作成されたものと認めることはできない。なお、前掲乙6によれば、「ワードパルBW−800」は(「リポート5600」シリーズも同様)、パソコンとの差別化を図るため、フォントROMを持ったプリンターには接続できない製品仕様であり、どのようなプリンターで印刷しても字体が異なることはないことが認められるから、1審原告が使用していた熱転写式プリンターがリポート5600シリーズのものではなかったとしても、上記結論は左右されるものではない。むしろ、乙9(貴社ワープロ文書確認のお願いについて(ご回答))によれば、甲50の議事録は、富士通製ワープロで作成可能であること、同ワープロで印刷する場合には、48ドット文字の文字印刷機能を有する機種が必要であること、48ドット文字(48ドット熱転写式プリンター)を初めて搭載した機種は発売時期が昭和63年6月であることが認められる。もっとも、前掲乙9は、甲50が他社のワープロにより作成されている可能性を否定していないが、昭和60年9月印刷のリポート5600シリーズのカタログ(乙16)では、32×32ドットのインクジェット式プリンターさえ「美人」「魅力たっぷりの高画質」と記載されており、高性能ビジネス用日本語ワードプロセッサOASYS100GS(昭和59年5月発表。甲205)のレーザー方式のものでも最大40×40ドットであることからすると、昭和60年当時、48ドット文字という高品位のプリンターは希少であったものと推測されるところである。
 したがって、甲50の文書の作成は昭和63年6月以降であると推認せざるを得ない。
e 1審原告代表者は、本件議事録の余白に関しては、B4の枠の画面を呼び出して、そこにA4の枠を一杯に打ち込むという方法を1審原告の社員が採用していたなどと説明する(原審における1審原告代表者)ほか、これと同旨のリコーのワープロインストラクターの陳述書を提出する(甲248)。
 しかしながら、本件議事録のうち、ワープロにより作成されたものについて、全て印刷されたB4用紙を裁断等して作成するという作業の負担を負ってまで、書式や余白を調整する合理的な理由は存在するものではない。
(イ) 中括弧、中抜き矢印等について
 1審被告らは、昭和61年12月22日付けの1審原告作成の議事録(甲68)には、1審原告が当時使用していたワープロ(リポート5600)では作成できない中抜き矢印や中括弧が記載されているなどと主張する。なお、中括弧については、甲63についても同様である。
 この点について、1審原告は、テンプレート定規を用いて記入した可能性がある、プロット入力で作成した中括弧を保存し、必要に応じて読み出した、「通常ケイ線」を半角単位で引いたり消したりすることが可能であるため、中抜き矢印と重ならないようにすることは簡単であるなどと主張するが、1審原告主張の方法で作成すること自体は可能であったとしても、リポート5600では、相当程度困難であり(甲246、乙49)、それなりの時間を要してまでも、内容の正確性が最も要求される協議の議事録においてあえて用いたとは解し難い。
(ウ) 知的財産部及び企画部技術総括室の記載について
 本件議事録には、1審被告スチールの「知的財産部」に係る記載がある(甲20、67)が、1審被告スチールに知的財産部が発足したのは平成2年1月からであることからすると(乙11)、本件議事録作成当時における名称である「特許部」との記載がされていないことは不自然といわざるを得ない。
 1審原告は、「知的財産」という用語は当時から存在しており、1審被告らの担当者がそのような用語を用いたことなどから誤記された可能性を指摘するものであるが、1審被告らの担当者が自ら担当部署の名称を誤るとは考え難いし、1審原告も、本件プログラムの著作権について協議相手が確認した担当部署については、重大な関心を抱いていたものと解されるところである。しかも、昭和60年当時、「知的財産」という用語は一般に周知されるに至っておらず(乙53、54)、1審原告と1審被告らとの間の誓約書においても「工業所有権」なる用語が用いられていることからすると、1審原告の主張を採用することはできない。
 また、同様に、1審被告スチールに企画部技術総括室が発足したのは昭和61年4月であり(乙11)、昭和60年1月10日に作成されたとされる議事録(甲20)に、同室に係る記載があることも不自然である。
(エ) 著作権に係る記載内容について
 本件議事録には、プログラムに係る権利が著作権により保護されることを前提とした記載が随所にみられるところである。
 しかしながら、プログラムに係る権利については、1審被告らが主張するとおり、通商産業省が従来の著作権や特許権等による保護ではなく、新規立法による保護を主張し、著作権法による保護を主張する文化庁との間で見解が対立していたところ、改正後著作権法により、プログラム著作権として保護されるものと定められたものである。
 これに対し、本件議事録の記載によると、1審原告は、プログラムに係る権利の保護が著作権によることが法律により定められる前に、本件プログラムの著作権について再三主張していたことになる。
 例えば、昭和60年1月10日に作成したとされる議事録(甲20)には、1審被告物流が、しきりに1審原告が主張する著作権について、「知的財産部」に問い合わせたところ、工業所有権と著作権とは明らかに別であるが、システム発注時にソフト制作費を納入業者から請求され、支払うのであれば問題ではないとの見解であったと回答した旨が記載されている。しかし、仮に、真実、1審被告物流が本社の知的財産に関する部署に問合せをしたならば、プログラムに係る権利の具体的保護態様についていまだ確定していない状況において、著作権による保護を前提とするような回答がされるとは解し難いところである。
 しかも、昭和61年2月14日に作成されたとされる議事録(甲63)には、1審被告物流の担当者が「ロムに「著作権法によりソフトの無断使用及びコピーを禁じます」と言う1審原告の社名が入ったシールが張りつけてあるが、以前より話のあった著作権の件でそうしてあるのか!」と発言した旨の記載があるところ、後記のとおり、著作権シールが貼付された状態を撮影した写真(甲73、198)については、いずれも、昭和61年1月当時に撮影されたものではないとすると、その写真は何か別の目的のために意図的に撮影されたものではないかという疑念が生じ、著作権シール・日付シールが昭和61年1月当時貼付されていたことに疑問が生じるのみならず、ひいては甲63の上記記載内容についても、実際に1審被告物流の担当者がそのような発言をして、その旨が記載された議事録が1審被告物流の確認を受けたものであるか否かにつき、疑問を挟まざるを得ない。
 したがって、本件議事録中の著作権に関する記載は、不自然であるというほかはない。
(オ) 湯浅通信機との契約に係る記載内容について
 本件議事録には、後に詳述するとおり、1審原告の主張によれば、湯浅通信機と契約書を作成していたはずであるにもかかわらず、外注先との話合いがほぼ完了している、湯浅通信機とは近々書面で合意するなどと回答している旨の記載(甲50、63)、湯浅通信機ではどうにもならないので、現在他のソフトハウス2社を入れている旨の記載(甲56。ただし、1審原告が依頼したとされるワールドシステム開発の存在が秘匿されている。)があるなど、内容面においても1審原告の主張と矛盾する点が存在する。
(カ) 本件議事録の作成者について
 1審原告は、1審被告らから本件議事録は偽造されたものであるなどとの主張を受け、さらに、実際に清書したり、ワープロ入力を担当した者について、具体的な氏名等を明らかにするよう求められたが、これを明らかにしていない。1審原告は、その理由として、作成に関与した者が多数にわたるのみならず、既に退職した者もいることや1審被告らによる接触の可能性などを挙げるが、1審被告らが実際の作成を担当したとされる者に対して偽造・変造の有無について確認することはむしろ当然であって、一部の者ですら開示に応じないことは、なお不合理であるというほかない。
オ 小括
 そのほか、1審被告らは本件議事録の不審な点についてるる指摘するが、以上において指摘した事情に加え、後に詳述するとおり、1審原告が提出する湯浅通信機との間の契約書等についても、その作成の真正が認め難いことなどを併せ考慮すると、本件議事録のうち、原本が提出されているものについて、その成立はともかく、写ししか提出されていないものについては、これに対応する原本の存在を認めることはできず、当該写しそれ自体の成立を認め得るとしても、その信用性は極めて低いものというほかなく、前記記載部分のほか、以下の認定に供する部分を除き、1審原告の主張を裏付ける証拠としてこれを採用することはできないといわざるを得ない。
 また、これと同様に、プログラム制作費用については内容に含まない旨を明記した見積書(甲78、84)についても、採用することはできない。
(2) 決裁書について
ア 1審原告は、1審被告物流作成とされる本件決裁書(甲119〜121)を文書として提出し、本件使用料支払契約成立の根拠とする。
イ しかしながら、1審被告物流が1審被告スチールに取引口座を有しないとの記載は誤りであるところ(乙4、5、丙162、163)、1審被告物流が、グループ企業間における事項につき、決裁文書で誤記するとは解し難い。同様に、本件装置については、昭和60年9月30日になって1審被告スチールにおいて本社決裁されたところ(乙1、丙2)、甲119において、それ以前の同年8月19日には既に認可済みであるかのような記載をするとも解し難い。
 また、本件プログラムが「予想をはるかに越える大掛かりなソフト開発に成る」との記載については、1審被告らが当時そのような事実を認識していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。本件議事録が採用できないことは先に述べたとおりである。仮に、そのような大掛かりなソフト開発費について、プログラム使用料名下に本件5項目の代替措置を講じることについて、本件決裁書において決裁を求めるのであるならば、後に詳述するとおり、開発費の概算すら1審被告らが把握していないことは明らかに不自然である。
ウ そのほか、発足前の「本社知的財産部」との記載があること、1つの文書において1審被告スチール、1審被告物流の2つの会社に決裁を求めている点など、不自然な記載がみられること、1審原告は、本件決裁書の写しの入手先を明らかにしないことなどからすると、これに対応する原本の存在を認めることはできず、当該写しそれ自体の成立を認め得るとしても、その信用性は乏しいものというほかなく、これらを1審原告の主張を裏付ける証拠として採用することができない。この点に関する原審における証人E の供述についても同様である。
(3) 1審原告と湯浅通信機との間の契約書及び見積書について
 1審原告は、湯浅通信機から当初プログラムの著作権について譲渡を受けたと主張し、湯浅通信機との間の契約書(甲115、214、252)及び見積書(甲288)を提出するところ、1審被告らは、これらの各文書も偽造・変造されたものであるなどと主張するので、以下、検討する。
ア 契約書について
(ア) 各契約書の印影について
 1審原告が文書として提出する1審原告と湯浅通信機との間の当初プログラムに関する第1次ないし第3次契約書(甲115、214、252)には、いずれも湯浅通信機が1審原告に対して当初プログラムの著作権を譲渡する旨が明記されているところ、各契約書に押印された湯浅通信機の代表者印は、いずれも同一の印影であるものと認められる。
 また、甲220(湯浅通信機と労働組合との間の昭和60年6月14日付け和解協定書)に押印された湯浅通信機の代表者印とも同一の印影であると認められる。L は、同印影について、湯浅通信機の真正印の印影であると述べる(原審における証人L)。
 しかるところ、上記各文書の湯浅通信機の代表者印とされる印影と、1審被告らが湯浅通信機の真正な印影であると主張し、1審原告も真正な印影であると認める丙43(誓約書)における湯浅通信機の印影とを比較すると、外周円と文字との間隔が明らかに異なる(丙44、77)。しかも、その差異は、原判決が指摘する印面への朱肉のつき方、押印の際の圧迫の力の程度等の違いによって生じる程度の微差であるということはできず、また、当時、湯浅通信機に代表印が2つあったことを認めるに足りる証拠もない。反対に、I 専務は、原審における証人尋問において、むしろ代表印が複数存在することを否定しているところである。さらに、丙43の印影と、弁論の全趣旨によって成立が認められ、1審被告らも湯浅通信機の真正な印影であると主張する丙88の2(根抵当権設定契約証書)の印影とは同一であると認められるところ、丙88の2における湯浅通信機の代表印の印影と、第1次ないし第3次契約書における印影との比較においても、同様に、相違が認められる。
 以上からすると、上記各契約書における各印影のうち、少なくとも湯浅通信機の代表印の印影は、湯浅通信機の真正な印章によって顕出されたものと認めることはできない。
(イ) 各契約書の作成経緯について
 1審原告と湯浅通信機との間の取引契約書は、当初プログラムの著作権の譲渡という同一内容(細部については相違がある)の契約書であるにもかかわらず、3通作成されたものとして、それぞれ提出されている。
 1審原告は、原審において、前記各契約書の作成経緯について、1審原告と湯浅通信機とは、昭和60年11月15日、第1次契約書(甲214)を作成し、双方で保管していたが、1審被告物流が1審原告・湯浅通信機間の契約書の提出を強く求めたため、相談の上、取引金額等に関する箇所を削除した第2次契約書(甲115)を昭和61年3月3日に作成し、1審原告は、同月16日ないし17日ころ、同契約書の写しを1審被告物流の鉄道課に持ち込み、同月19日付けの鉄道課受付印、F、G の確認印が押印されたものの写し(甲74の1ページ目を甲217に差し替えたもの)を受領して保管していたなどと主張していた。
 しかし、1審原告は、当審においてに、さらに、作成日付としては最も古い昭和60年2月25日付けの第3次契約書(甲252)を提出した。1審原告は、同契約書について、湯浅通信機における本件装置の開発責任者であったK(平成20年3月12日死亡)の遺族が、同年8月30日、1審原告を訪れ、K の遺品の中に湯浅通信機における資料が残されていたので、役立つものがあれば利用してほしいとして段ボール1箱分の資料を持参したところ、その中から発見したと主張し、これと同旨の1審原告代表者の陳述書(甲254)を提出した。
 もとより、1審原告は、当審において甲252に関する上記主張をするまで、このような契約書が存在する旨について主張していない。しかも、K が保管していたという書類は、平成10年8月ころ、湯浅通信機が破産した際に持ち帰ったもののようであるが(甲277)、これに関与したL は、平成18年10月10日、自らが保管していたとする本件装置に関する資料を1審原告代表者に手渡している(甲210)。また、Kは、平成9年7月から1審原告において制御技術部門の担当課長として勤務していたところ、平成14年ないし15年ころに本件装置の新規制作において心労を重ねていたからか、平成16年2月4日に脳梗塞を発症したということである(甲254)。そうすると、平成14年ころに本件装置の改良について苦労していたKが、自ら保管していた開発過程に関する記録を活用しなかったとは考えられないところ、1審原告及び1審被告らは、遅くとも平成10年ころから1審原告が受注するメンテナンス業務等に関して協議を続けていたのであるから、1審原告において湯浅通信機における本件装置の開発責任者であるK が勤務していたにもかかわらず、交渉において、Kが持ち帰っていたはずの当該資料の利用が検討されなかったとは解し難い。しかも、1審原告及び1審被告らは、その後、本件装置に関する関係者に対する事情聴取を行っていたのであるから(甲210)、いかにKが平成16年ころから脳梗塞により重篤な状況であったにせよ(甲210、254、原審における証人L)、本件装置の開発に深く関与していたKが保管していた資料について、その死後、遺族が持参するまで、探索が行われなかったなどということは、不自然であるというほかない。
 また、1審原告が主張する上記各契約書の作成経緯は、1審原告が提出する本件議事録等の文書の記載内容とも整合しない。
 例えば、昭和60年11月5日に作成されたとする1審原告と湯浅通信機との協議記録(甲229)には、I 専務が、「しきりに1審原告代表者が言及するソフトの著作権という権利についてはよくわからないが、湯浅通信機としては著作権などどうでもよく、要するに名より実を取りたい。今まで湯浅通信機が要した制作費用全額を1審原告が支払えば権利の全てを譲渡する。8月に湯浅通信機より1審原告に提出している契約書(案)は、以前より1審原告代表者が主張していた著作権を全面的に譲渡することを含んだものであり、これを届けているものである。1審原告も早急に検討し、早く締結すればいい。」と発言した旨が記載されているが、甲252(第3次契約書)は、上記協議に先立つ同年2月25日付けの契約書であり、改正後著作権法によりプログラムに係る法的権利が著作権として保護されるものと定められる前の段階で、既に著作権の譲渡について明記されているのであるから、上記協議記録と上記契約書の記載内容とは明らかに矛盾するものといわなければならない。
 また、昭和60年5月13日に作成されたとする議事録(甲39)、同年8月27日に作成されたとする議事録(甲50)には、湯浅通信機との契約の事実について説明がされた形跡はなく、昭和61年2月14日に作成されたとする議事録(甲63)には、G から湯浅通信機との間の権利処理について質問された際、1審原告代表者は、「近いうちに書面で明確にする」旨回答した旨が記載されている。1審原告は、本件装置の開発当初から、1審被告らに対し、プログラムの著作権については1審原告が保有すると繰り返し述べていたと主張しているところ、湯浅通信機がプログラムの開発を行っていたことは1審被告らも十分認識していたのであるから、1審原告と湯浅通信機との間の契約について、これを秘匿したり、虚偽の事実を回答する必要性は乏しいものである。特に、甲39において、I 専務は、プログラムの開発は湯浅通信機が単独で行い、その権利は同社が保有することについて1審原告を通じて1審被告らの了解を得ているから、権利を取得できた場合の処理については1審原告と十分協議することにしているなどと述べたとされているほどである。
 さらに、1審原告は、本件プログラムの開発費が予想以上に高騰し、開発費を使用料等の何らかの形で支払ってもらわなければ本件装置の開発から手を引くなどと述べていながらも(甲46)、I 専務と相談して、当初は契約書作成の事実すら秘匿したのみならず、金額を秘匿するために、取引金額等に関する箇所を削除した第2次契約書(甲115)を作成したなどと主張する。しかし、1審被告らの担当者を説得するためには、湯浅通信機における開発費ですら約6000万円にものぼることを、契約書等の参考資料を提示するなどして説明するなどの対応を講じることがむしろ自然であると解される。しかも、取引金額が明示されていない第3次契約書(甲252)は既に存在していたのであるから、あえて取引金額を秘匿するために第2次契約書(甲115)を作成する必要があったとも解されない。
 以上からすると、1審原告が提出する上記各契約書は、いずれも、その作成経緯、発見の経緯などが不自然であるというほかない。
(ウ) 収入印紙について
 1審原告が当初プログラムの著作権の承継に係る文書として提出した第2次契約書(甲115)には、平成5年以降に使用されている収入印紙が貼用されているほか、本来、6万円の印紙を貼るべきところ、4000円しか貼付していない第1次契約書(甲214)もある。このように、各契約書に貼付された収入印紙については、不自然な点がみられる(丙36の1〜6、76の1・2)。
 この点について、1審原告は、平成5年の1審被告物流の税務調査に対する反面調査において不貼付を指摘されたため、顧問弁護士の助言により、印紙を貼付した上で関係者の割印を得たなどと主張する。
 しかしながら、1審被告らは、税務調査の事実自体を否定するものであって(丙79)、1審被告らに対する税務調査とこれに関連する1審原告に対する反面調査が行われたこと自体、これを認めるに足りる的確な証拠はない。
 しかも、印紙税の消滅時効期間(5年又は7年)からすると、税務署において貼付漏れを指摘するか疑問であるのみならず、税務署の指導や顧問弁護士の助言を受けたのにもかかわらず、印紙税額の誤りについて指摘や是正がされなかったことは明らかに不自然である(乙15)。
 これに反する収入印紙に関する1審原告の主張も、採用することができない。
(エ) ワープロの字体等について
 第1次契約書(甲214)の作成日付である昭和60年11月15日及び第2次契約書(甲115)の作成日付である昭和61年3月3日ころに1審原告が使用していたワープロは、リポート5600シリーズ及びリコー350Gであるところ(甲192の1・2)、各契約書に印字されている「り」の字体(ひと筆書きのもの)は、リポート5600を含むリコーのワープロをOEM製造していた日立製作所の製造するワープロによっては作成することができないこと(乙6、11、12、16)、富士通の調査によると、富士通製のワープロについては、甲214の「り」の字体は昭和63年6月以降の機種で作成可能であること(乙9、11)、甲115に使用されている文字フォントは、24×24ドットを上回る解像度のフォントであるが、これらのフォントの印字、N倍角文字、スーパーアウトラインフォント機能等は、昭和60年ないし61年当時のワープロには存在しなかった機能であること(乙6、9、11、12、16)からすると、本件議事録と同様に、その作成時期については、なお疑問が残るものである。
 1審原告は、原審において、上記契約書の作成経緯について、前記(イ)のとおり主張するにとどまり、原判決がその可能性を指摘する日付を遡らせて作成したことについて、当審において明確に主張していない。また、1審原告は、「り」の字体は、外字登録機能により作成して登録し、出力していたし、「総」の字体は、部首コード入力、仮名コード入力と入力方法を使い分けるといずれの字体も出力可能である、重要な書類等の表紙は印刷業者に依頼し、これをコピーして使用していたなどと主張する。
 しかしながら、「り」及び「総」の字体については、その主張が不自然であることは、先に指摘したとおりである。そのほか、1審原告が主張する各種方法については、そのような方法によればそのような出力が可能であるという余地が認められる程度にすぎず、当時、実際に当該方法が採用されていたかは不明であり、上記各契約書は、当時、1審原告が使用していたワープロでは作成困難であった可能性が高いというべきである。
 また、契約書の表紙のみを外注する合理的理由も乏しく、このような主張は不自然であるというほかない。
イ 見積書について
 1審原告が文書として提出する湯浅通信機名義の各見積書(甲234、288)に押印された湯浅通信機の会社印は、いずれも同一の印影である認められる。
 弁論の全趣旨によって成立が認められ、1審被告らも真正な印影であると主張する湯浅通信機の領収証(甲236の1・2)の印影と各見積書の印影とを比較すると、外周線と各文字がそれぞれ一致しないものであり、特に、甲288の印影の各文字は領収証の印影と比較して縦長であり、「会」の文字は明らかに異なるものである(丙221の1・2)。そして、その差異は、印面への朱肉のつき方、押印の際の圧迫の力の程度等の違いによって生じる程度の微差であるということはできない。I専務も、同見積書(甲288)の形式、内容のいずれも虚偽のものであり、湯浅通信機が作成したものではないとする(丙205、222)。
 以上からすると、上記見積書における湯浅通信機の会社印の印影は、湯浅通信機の真正な印章によって顕出されたものと認めることはできない。
 そして、同見積書は、当審において文書として提出されたものであるところ、1審被告らは、原審から一貫して、本件プログラムの開発に多額の費用を要したことを否認し、湯浅通信機に対しても多額の開発費が支払われたものではないと主張していたところ、1審原告は、原審におけるI 専務の証人尋問の際、弾劾証拠として湯浅通信機の請求書(甲235の1・2)及び領収証(甲236の1・2)を提出しながらも、同見積書については、当審に至るまで文書として提出していない。しかも、21万4250円(甲235の1、236の1)及び57万2000円(甲235の2、236の2)という比較的少額の請求については、請求書及び領収証が保存されているのに、1審原告が何としてでもその著作権を確保したかったプログラムに関する領収証などが保存されていないのは、不自然であるというほかない。
 また、本件プログラムの開発費がかさんだことを裏付けるために、1審原告が1審被告らに対し、上記見積書を提示した形跡がないことは、1審原告と湯浅通信機との各契約書について先に指摘したことと同様に、不自然であるというほかない。
 この点について、1審原告は、1審被告らが本件プログラムの開発費に係る見積書の提出を許さなかったなどと主張し、本件議事録には、1審原告代表者が、3社もソフトハウスを使って完全なソフトにしようと努力し、ほぼめどが立っているが、その費用は莫大なものであると説明したところ、見積書を至急提出させたらどうかという意見が出たが、F が、見積書を提出させた場合、支払をしなければならないということになるし、今後の取引等で、徐々に使用料のつもりで支払う以外は当面考えていないなどとしてこれを制した旨の記載もある(甲63)。
 しかしながら、本件議事録の記載を前提とすると、1審被告らの担当者は、本件装置については事情により他社の競合見積書を取得できないから、1審原告の見積りが適正か厳しくチェックする必要があると述べたとされているものであり(甲46、52)、また、1審原告は、プログラムに係る法的権利は1審原告又は湯浅通信機において確保するために、1審被告らからのプログラマーの派遣を拒絶したものとされているものである(甲39)。本件装置の開発を発注した1審被告らが、本件プログラムの開発費に重大な関心を抱くことは当然であるところ、1審被告らによるプログラム開発に関する協力要請を1審原告が拒絶するなど、1審被告らとしては、1審原告におけるプログラム開発の実情について必ずしも正確に把握していたものともいえない状況において、1審原告が一方的かつ抽象的に莫大であると述べるのみで納得し、具体的な開発費の詳細について口頭での説明すら求めなかったとは到底解し難いところである。
ウ 小括
 以上からすると、湯浅通信機との当初プログラムの取引に係る第1次ないし第3次契約書(甲115、214、252)及び見積書(甲288)については、そのうち湯浅通信機作成部分についてはいずれもその成立の真正を認めることができず、1審原告作成部分については、当該原本の成立は認められるとしても、その信用性はいずれも乏しいものというほかなく、これらを1審原告の主張を裏付ける証拠として採用することはできない。
(4) 1審原告とワールドシステム開発との間の契約書等について
 1審原告は、ワールドシステム開発が当初プログラムの改良に関与したと主張し、ワールドシステム開発との間の契約書、報告書、誓約書を提出するところ、1審被告らは、これらの各文書も偽造・変造されたものであるなどと主張するので、以下、本件プログラムの完成時期を踏まえ、検討する。
ア 本件プログラムの完成時期について
(ア) 1審原告は、当初プログラムの改良をワールドシステム開発に依頼し、遅くとも昭和61年3月ころまでに最終的に当初プログラムを原著作物とする2次的著作物である本件プログラムを完成させたと主張し、昭和60年10月1日付けソフトプログラム開発・製作及び修正契約書(甲116)、同年11月から昭和61年4月までの日報集計報告書(甲286の1〜7)、昭和61年4月25日付けの誓約書(甲266)を文書として提出する。
 しかしながら、1審原告は、当審において、1審原告が著作権を有することの確認を求める本件プログラムのソースコードとして、昭和61年12月に改良し、完成したと推認されるソースコード(甲291、292)を提出するところ、これは、ワールドシステム開発が関与していたと1審原告が従前主張していた時点においては、いまだに完成していなかったものである。
(イ) 1審原告は、Xという者からの紹介でワールドシステム開発に依頼した、連絡先については代表者であるWの大阪の電話番号しか知らない、ワールドシステム開発は、本件装置が稼働する予定の現場に立ち会う必要があるなら依頼を受けないなどと述べたため、製鉄所に来たことはなかった、プログラムの開発場所は主として1審原告の旧工場跡の事務所で、岡山市内の知人宅において開発を行っていたこともあったようであるが、場所まではわからないなどと説明し(原審における
1審原告代表者)、実際、誓約書(甲266)には、Xを通じて連絡が取れるようにする旨の記載があるが、1審原告の主張を前提とすると、約6000万円を投じたという湯浅通信機における当初プログラムの修正を迫られるという重大な状況において、取引実績もなく、素性や開発場所すら不明な技術者集団に対して当初プログラムの改良を依頼し、その対価として、合計1537万8000円も支払ったことになるが、このような経緯は明らかに不自然であるというほかない。
(ウ) 1審原告は、本件装置を稼働させる現場におけるノイズなどの異常が原因で、本件プログラムの開発は困難を極めたなどと主張しており、実際、現場において実験機を用いた実験が繰り返された。1審原告が昭和61年12月19日に作成したとする社内工数実績集計表(甲287)においても、昭和59年7月11日から昭和61年2月22日までの間における「現場での各種事前調査及び各パターンでのソフトによるテスト運転、並びに異常発生調査実施の部」において、合計1227万9549円が計上されている。
 そうすると、当初プログラムの改良においては、現場における作業が必要不可欠であったと推認されるところ、従前の開発業者では解決困難な問題を解消するためにプログラムの改良を依頼された業者が当該現場における作業を拒否するなどとはおよそ考え難いし、本件議事録において、複数のソフトハウスの存在について言及している1審原告が現場における立会を拒否する業者に依頼をするとも考え難いところである。また、上記1審原告に係る本件プログラムに関連する社内工数実績集計表(甲287)において、開発費(総額1611万6413円)のうち、ワールドシステム開発のソフト制作立会い及びシュミレーション立会い費用(昭和60年11月1日ないし昭和61年3月31日までの約5か月間)として、1審原告代表者に関して、昼間の立会い及び打合せにつき、68.75時間(1時間当たり5375円として36万9531円)、深夜の立会い及び打合せにつき115.75時間(1時間当たり7190円として83万2243円)の合計120万1774円が計上されているが、ワールドシステム開発の作業場所自体を十分には把握していなかったという1審原告が、同開発との間で、これほど長期間の立会い及び打合せを行うことができたかはなはだ疑問であるというほかない。しかも、1審原告代表者は、ワールドシステム開発は、誓約書(甲266)記載のとおり、1年間は若干のトラブルに対応してくれたなどと説明するが(甲256)、本件プログラム完成後の昭和61年12月19日に作成したとされる社内工数実績集計表において、同年4月1日以降、1審原告代表者がワールドシステム開発と協議、打合せをしたことは記載されておらず、少なくともワールドシステム開発が同年12月における本件プログラムの改良に関与したものとは認め難いといわざるを得ない。
(エ) さらに、1審原告は、プログラマーに対する過剰な干渉を避けるために、1審被告らにはワールドシステム開発の関与を秘匿しており、1審被告らに対する報告はMを通じて行った(丙8)などと主張するが、1審原告は、湯浅通信機ではどうにもならないので、現在、他のソフトハウス2社を入れているとする昭和60年10月23日に作成されたとする議事録(甲56)を提出しているし、そのほか、本件プログラムの著作権については1審原告が保持すると再三主張していたなどと主張するのであるから、1審原告自身が連絡すらままならず、開発場所も不明確なワールドシステム開発が開発に関与していることを1審被告らに伝えたとしても、1審被告らの過剰な干渉を招くおそれはないというべきである。実際、甲39の議事録には、1審原告が1審被告らのプログラマー派遣要請を拒絶したとされているものである。開発費の高騰を主張するのであれば、むしろ委託先への支払を要した費用を明らかにすることが自然であることは、先に湯浅通信機に関して述べたとおりである。
(オ) 以上からすると、ワールドシステム開発に当初プログラムの改良を依頼したという経緯や関与形態に関する1審原告の説明は、不自然であるというほかない。
 Lも、本件装置の開発に携わっていたにもかかわらず、ワールドシステム開発の関与や湯浅通信機との引継ぎなどについて、当時、プログラム開発を引き継ぐ業者がワールドシステム開発であることは知らされておらず、引継ぎはKが行ったものと思われるが、プログラム制作を担当していたM は、引継ぎの現場には立ち会っていないなど、原審における証人尋問においてあいまいな供述をするにすぎない。
イ ソフトプログラム開発・製作及び修正契約書について
 1審原告は、ワールドシステム開発の関与を裏付ける文書として、ソフトプログラム開発・製作及び修正契約書(甲116)を提出する。
 しかしながら、同契約書には、ワールドシステム開発の代表者ほか4名の署名押印があるほか、代表者印が押印されているものの、ワールドシステム開発の住所及び連絡先が記載されていない。また、同契約書には、平成5年以降に使用されている収入印紙が貼用されている(丙36の1〜6、76の1・2)。
 この点について、1審原告は、湯浅通信機との間の契約書と同様に、平成5年の1審被告物流の税務調査に対する反面調査において不貼付を指摘されたため、顧問弁護士の助言により、印紙を貼付した上で関係者の割印を得たなどと主張する。
 しかしながら、反面調査が行われたこと自体が不明であること、印紙税の消滅時効期間からすると、税務署において貼付漏れを指摘するかが疑問であることは、先に湯浅通信機との間の契約書について指摘したとおりである。
 また、1審原告代表者は、ワールドシステム開発の代表者であるとされるWから割印を取得した経緯について、W の電話連絡先に連絡をしたが通じず、連絡が取れなかったところ、平成6年7月ないし9月ころ、1審原告の取引先が外注を依頼した会社にワールドシステム開発のメンバーを見つけてWの消息を聞き、他のメンバーを通じるなどして当時横浜で仕事をしていたWと連絡を取り、横浜市内でワールドシステム開発の代表者印の割印を得たなどと説明するが(甲219)、このような複雑な経緯を裏付ける証拠は存在しない。
 そうすると、同契約書は、平成5年以降に作成された可能性を否定できず、その信用性は乏しいものというほかない。
ウ 小括
 以上からすると、ワールドシステム開発との当初プログラムの取引に係る契約書、報告書及び誓約書(甲116、286の1〜7、266)についても、少なくとも1審原告作成部分については当該原本の成立は認められるとしても、その信用性が乏しいものというほかなく、これらを1審原告の主張を裏付ける証拠として採用することはできない。
(5) その余の文書について
 1審被告らは、以上の文書のほかにも、1審原告の提出する文書について、偽造・変造されたものであるなどと主張して、その形式的及び実質的証拠力を争うが、次の著作権シールに関する文書を除き、原本あるいは写しとしての形式証拠力を認めることができ、かつ、その認定の限度で実質的証拠力も認められるので、1審被告らの主張は採用しない。
(6) 著作権シールについて
ア 1審原告は、本件プログラムの著作権を有していることを示すために、本件装置の納入時から、本件プログラムの複製物であるロムが格納されているCPUボックスに、「著作権法によりソフトの無断使用及びコピーを固く禁じます。」などと記載した1審原告の著作権を明示する及び日付を明記したシールを貼付していたなどとして、当該シールの写真を文書として提出する(甲73、198)。
イ しかしながら、1審原告が当初提出した写真(甲73)については、1審被告らから、当該写真に写っている水晶発振器は、その表示からして平成3年の第9週以降に製造されたものであるから、甲73はそれ以後の写真であるとの指摘がされたため、1審原告は、記録写真の数が多いので甲73は誤って提出したものであると説明し、同様の写真である甲198を提出し、甲198は数多い記録写真の中から昭和61年1月に撮影された真正なる写真を発見したものであると説明した。これに対し、T回答(乙20、23)によると、上記各写真はいずれも1審原告が説明する作成日付には存在しない部品が写っているものであり、その当時、著作権シールが貼付されていたことを認めることはできない。
 この点について、1審原告は、当該部品であるICチップの番号表記について文書(甲237の1、238の3)を提出するとともに、1審被告らと取引関係がある会社によるT 回答は信用性に乏しいなどと主張するが、同回答は、被写体たるICチップを製造したメーカーの事業を承継した会社が、当該ICチップの情報管理を現在も行っているという立場でした回答であり、これを誤りとする根拠は見当たらない。
 しかも、1審原告は、甲73の写真は、平成3年以降撮影されたものであるが、その撮影の際に、「61年1月20日」というシールを貼付して撮影したところ、同写真を昭和61年1月撮影の写真と取り違えたと主張するが、この点について、1審原告代表者の陳述書(甲199)によれば、「数多い記録写真の中から…発見するに至った」と説明する一方で、原審における同代表者尋問においては、現在残っている写真について、2枚以外にはわずかしか残っていないのではないかと思う、ネガも残っていないなどと述べているものであって、わずかしか残存していない写真を取り違えた経緯、どのようにして真正な撮影年月日を確認したのかについても疑問が残る。1審原告は、メンテナンスの際に一旦シールを取り外すが、納入日を明らかにするために、納入日を記載したシールを貼付したなどとも主張するが、1審原告代表者の上記説明に照らすと、採用することはできない。
ウ 以上からすると、著作権シールが昭和61年1月20日当時、本件装置に貼付されていたものと認めることはできない。
7 本件使用料支払契約の成否について
 1審原告は、1審原告が本件プログラムの著作権を有することを前提に、1審被告らとの間で本件使用料支払契約が成立したと主張するが、その主張が失当であることは前記説示のとおりであるが、本件においては、本件プログラムの著作物性の有無はさておき、以下のとおり、1審原告主張の本件使用料支払契約に係る合意の成立それ自体を認めることができないものである。
(1) 本件使用料支払契約の締結に至る経緯
ア 1審原告は、本件プログラムの開発費が多額(約9135万円)にも及んだため、1審被告らから本件プログラムの開発費について支払を受けられないのであれば、使用料という形式での支払を求めたところ、1審被告らから本件5項目の代替措置について提案され、仕方なく合意したなどと主張する。
 本件プログラムの開発費については、前記6のとおり、湯浅通信機との間で当初プログラムについて約6000万円での契約が成立したこと及びワールドシステム開発による関与について原告が提出した各文書(甲115、116、214、252、286の1〜7、288)については、その信用性が乏しいものというほかなく、これらを1審原告の主張を裏付ける証拠として採用することはできず、これを前提とする1審原告の人件費等に係る費用を含め、本件プログラムの開発費として真実約9000万円が必要であったかは不明である。
 また、1審原告が提出する昭和60年6月26日に作成されたとされる議事録(甲46)には、本件プログラムの開発費の総額は不明であるが、1審原告の受注額だけでも3億円をかなり超える金額になるのではないかとの見通しを述べているが、本件プログラムの開発費に関する見積書などが1審被告らに提出された形跡はないことは、前記6のとおりである。
 この点について、本件議事録には、1審被告らから1審原告に対し、プログラムの開発費を除外した上で見積書を提出するように指示された旨の記載があるが(甲39、46、51、52、57、60、63)、1審原告がプログラムに係る開発費が多額に及び、場合によっては本件装置の開発から手を引くなどと主張したことを受けて、1審被告らが本件5項目の代替措置を講じたのであるならば、見積書に記載しないまでも、1審被告らとの協議において、1審原告から開発費に関する具体的な説明がされてしかるべきであるが、そのようなことがされた形跡は、偽造・変造のおそれが否定できない本件議事録にすら、記載されていない。
イ 特に、本件議事録には、昭和60年6月26日の協議において、1審原告代表者が、「専門家に聞くと、ソフト諸費用についてはソフト使用料として毎月又は年間額で支払っていただく方法もあるとの事である。」と発言したものとされ(甲46)、さらに、同年8月27日の協議において、1審被告物流から一括してソフトの制作費を支払う状況にないことから、本件5項目の代替措置について提案があり、1審原告代表者も、「提案の5項目で具体的にどの位のソフト使用料が回収出来るのかさっぱり具体性がないが…本日提案の5項目中で、かなりの金額がクリア出来る期間については我慢をする事とする。」などと回答したとされている(甲50)。
 しかしながら、甲46及び52の議事録に、1審原告の見積りが適正か厳しくチェックする必要があると述べたと記載されている1審被告らの担当者が、先に述べたとおり、本件プログラムの開発費が予想外に高騰していることについて、1審原告が一方的かつ抽象的に莫大であると説明するのみで了承し、開発費について口頭における説明すら求めなかったとは到底解し難い。仮に1審原告が主張するとおり、本件プログラムの開発が予想以上に難航し、開発費が高騰したとしても、1審被告らとしては、その原因が1審原告及び湯浅通信機にあるのであれば、当然、開発費の増加分は1審原告にその負担を求めることが通常であると推測される。実際、1審原告は、議事録ルール制定の契機となったビレット輸送船自動ラックに生じた不具合について、オイルレスメタルを選択したことに関する責任の所在等が問題となったところ、1審原告の反対にもかかわらず、1審被告スチールがオイルレスメタルを使用するように指定したことが原因であると1審原告が説明したが、1審被告らは、これを1審原告の責任であるとして、1審原告が責任を負うように要求したなどと主張するものである。
 そうすると、湯浅通信機では不具合に十分対応できなかったことが、本件プログラムの開発費が高騰した要因として挙げられたのであれば、当然、同社に開発を委託したこと自体が適切であったか否かを含めて検討されるべきものと推測される。
ウ また、1審原告は、本件プログラムの開発費について、使用料の支払という形式で支払を受けることとし、当該支払に代えて本件5項目の代替措置が履行されていたところ、1審被告らは、5ないし7年後のリプレイス時においてプログラムに関する費用については根本的な解決をするものとされていた(本件決裁書)と主張する。
 そうすると、1審被告らとしては、本件5項目の代替措置を講じる前提として、本件プログラムの開発費の総額を確定した上で、使用料相当額を定め、少なくともこれと見合う程度の本件5項目の代替措置を提供し、さらに、リプレイス時において精算されるべき費用見込みを確定させる必要があるものということができる。本件議事録には、1審被告物流担当者が本社の「知的財産部」に問い合わせたところ、工業所有権と著作権とは明らかに別であるが、システム発注時にソフト制作費を納入業者から請求されて支払うのであれば問題はないとの見解であったと述べていたり(甲20)、1審原告がソフトの法的権利云々について主張しているが、1審被告物流がソフトの開発費を支払えばそのような権利については問題にならないと考えていると述べている旨が記載されているのである(甲39、48)。そうすると、本件議事録の記載によると、1審被告らは、開発費を支払わなければ1審原告との間でプログラムに関する権利問題が生じる可能性があることを十分認識していたことになるのであって、開発費の概算すら要求しなかったとは考え難い。本件議事録及び本件決裁書には、本件プログラムの開発が難航していることにより、開発費の総額が不明である旨の記載が散見されるが、少なくとも一定時期における開発費が明らかにならなければ、使用料相当額を支払う旨の合意をすることは困難であるし、1審被告らにおいて内部決裁を求めることすら不可能であると解される。
 しかも、本件プログラムの使用料の支払を求めた平成10年以降の協議においては、開発費の総額は確定していた(1審原告主張によると、約9000万円)というのであるから、当該協議においてすら、当初から具体的な説明がされていないのは不自然であるというほかない。
(2) 本件装置の納入代金と1審原告主張の使用料額との対比について
ア 本件プログラムは、本件装置の制御に係るプログラムであるところ、1審原告は、本件装置全体の納入について受注し、合計2億1027万6027円の支払を受けている。
イ 前記金額について、1審原告は、1審被告らから不当に値引きされた金額であると主張するところであるが、仮にそうであったとしても、特にプログラムの著作権の概念が明確化されていない時期において、製鉄所や工場等で稼働するシステム全体を納入する際における通常の当事者の意思としては、当該システムを制御するプログラムについては、当該システムに従たる無体物であるとして、その著作権あるいは包括的な実施権を含めて譲渡するものと解するのが相当であって、年度ごとにシステムの使用者が得られる利益に基づいて使用料を算定するという方式は、通常は採用されるものではないというべきである。
ウ そうすると、本件プログラムの使用料として、本件装置により1審被告スチールが得られる利得である年間6億円の2分の1に相当する3億円であるとする1審原告の主張は、本件装置全体の納入価格を超える使用料を1審被告らが毎年継続して支払うことを意味するのであるから、このような使用料について何らの契約書も作成されることなく支払合意がされ、それを前提に本件5項目の代替措置に係る合意が成立したとは到底解し難い。
(3) 本件5項目の代替措置の内容について
ア 1審原告の主張する本件5項目の代替措置は、本件プログラムの開発費を本件プログラムの使用料として1審被告らが支払うべきところ、これを本件5項目の代替措置により履行されるものというのである。
 そうすると、先に述べたとおり、本件プログラムの開発費の総額がどの程度か、使用料は年額どの程度として換算するか、代替措置によって1審原告が回収し得る金額は年間どの程度かを検討した上でなければ、合意に至ること自体、困難であると解される。
 しかも、開発費を一時的に支払うことができないことを理由に、使用料の支払を求め、さらにそれを代替措置による方式で支払うというのであるならば、開発費総額と支払われる使用料額との権衡についても考慮する必要があるはずである。1審原告は、本件プログラムの開発費として、1審被告らに粗利100パーセントを加えた2億円前後を請求することになったものと思われると主張するのであるから、仮に本件5項目の代替措置が履行されない場合に、年間3億円もの使用料の支払が可能となるというのであれば、明らかに対価的権衡を欠くものといわざるを得ない。それにもかかわらず、1審原告と1審被告らとの間で、このような検討がされた経緯は何らうかがわれない。
イ この点について、1審原告は、他の下請業者との間で受注競争をしなくてもよいだけで1審原告にとってはメリットがあったなどと主張するが、1審被告らから支払われる対価に開発費が上乗せされていたわけではないと1審原告も主張しているのであるから、これでは実質的に開発費の回収すら実現していなかったのであって、本件プログラムの開発に当たり、開発費の支払を強く求めていたという1審原告の態度と矛盾するものというほかない。
ウ 1審原告は、そのほか、本件5項目の代替措置は、平成10年12月末ころまでは実際に講じられていたなどとも主張する。
 しかしながら、本件装置は1審原告が納入したものであるから、メンテナンス等についてはノウハウを有する1審原告に発注したとしても不自然ではない。
 また、本件装置の開発に係る1審原告の貢献に考慮して、1審被告らが1審原告を事実上優遇したとしても、やはり不自然ではない。もとより、1審原告が主張する内容の本件5項目の代替措置に係る合意が1審被告らとの間で成立していたというのであれば、担当者レベルの口頭における合意ではなく、代表権限を有する者による正式な契約書が作成されてしかるべきであることは、むしろ当然である。
エ したがって、1審原告の主張は、いずれも採用できない。
8 結論
 以上の次第であるから、原判決中、本件プログラムの著作権に係る確認請求を認容した部分は、相当でなく、1審被告らの控訴に基づき、取り消されるべきものであり、また、本件プログラムの著作権に係る金銭請求を棄却した部分は、相当であって、1審原告の控訴は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 滝澤孝臣
 裁判官 井上泰人
 裁判官 荒井章光


(別紙)プログラム目録
 トレックス−PB装置(混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置)のうち、ディーゼル機関車(DHL車)及び貨車(TC車)の各制御装置に格納されたプログラム一式
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