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【事件名】販促ツールのデザイン画事件 【年月日】平成24年1月12日 大阪地裁 平成21年(ワ)第3102号 著作権侵害差止等請求事件(本訴)、 平成22年(ワ)第2324号 損害賠償請求事件(反訴) (口頭弁論終結日 平成23年10月11日) 判決 本訴原告・反訴被告 株式会社ヴァズインク(以下「原告」という。) 同訴訟代理人弁護士 近藤剛史 同 武田大輔 本訴被告・反訴原告 プラスアイ シー オー株式会社(以下「被告プラスアイ」という。) 本訴被告 福助株式会社(以下「被告福助」という。) 上記2名訴訟代理人弁護士 木村雅史 同復代理人弁護士 黒田泰子 主文 1 原告及び被告プラスアイの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告に生じた費用の3分の2と被告プラスアイに生じた費用の4分の3と被告福助に生じた費用の全部を原告の負担とし、その余を被告プラスアイの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 (本訴請求1) (1) 被告らは、別紙デザイン画目録記載のデザイン画(以下「本件デザイン画」という。)について、複製、翻案してはならない。 (2) 被告らは、原告に対し、別紙ホームページ目録記載のホームページ上に、別紙謝罪広告目録記載の体裁及び内容の謝罪広告を3か月間掲載せよ。 (3) 被告らは、原告に対し、連帯して2356万5396円及びこれに対する、被告プラスアイについては平成21年3月24日から、被告福助については同月22日から、各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (本訴請求2:(3)の被告プラスアイに対する請求との選択的請求1) (4) 被告プラスアイは、原告に対し、1521万8274円及びこれに対する平成21年3月24日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (本訴請求3:(3)の被告プラスアイに対する請求との選択的請求2) (5) 被告プラスアイは、原告に対し、1015万9250円及びこれに対する平成21年3月24日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (本訴共通) (6) 訴訟費用は、被告らの負担とする。 (7) 仮執行宣言 (反訴請求) (8) 被告プラスアイの反訴請求を棄却する。 (9) 反訴費用は、被告プラスアイの負担とする。 2 被告ら (本訴共通) (1) 原告の請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は、原告の負担とする。 3 被告プラスアイ (反訴請求) (1) 原告は、被告プラスアイに対し、443万6230円及びこれに対する平成22年2月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 (2) 反訴費用は、原告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は、販売促進に関する情報・資料の収集・企画及び販売、店頭広告等の企画、設計、施工等を業務とする会社である。 被告プラスアイは、各種企業に対する販売促進活動の診断及び総合指導、会社・業務案内、チラシ、パンフレット、ホームページ等企画、制作、印刷等を業務とする会社である。 被告福助は、衣料繊維製品の製造加工ならびに売買、装身具・履物類及び皮革製品の製造ならびに売買等を業務とする会社である。 (2) 被告福助の販促ツールの制作、製造 被告プラスアイは、被告福助から、女性用ストッキング等の販促ツール(展示会や店頭において、商品を陳列する際に、商品を紹介、宣伝するためのポスターやトップボードなど、販売促進用に使用するものである。)の制作、製造(印刷)を請け負っていた。 被告プラスアイは、上記販促ツールのうち07AWツール(2007年秋冬用の販促ツール)について、制作を訴外ミヤビデザインに、印刷を訴外有限会社エスアート(以下「エスアート」という。)に、印刷の管理業務を訴外メインカラー(P1が担当)に、それぞれ請け負わせた。 さらに、被告プラスアイは、引き続き、08SSツール(2008年春夏用の販促ツール)及び08AWツール(2008年秋冬用の販促ツール)の制作、製造についても請け負うこととなった。 (3) 08SSツール ア 原告に対する発注 被告プラスアイは、08SSツールの制作をミヤビデザイン以外の業者に請け負わせることを検討していた。 被告プラスアイは、原告に対し、被告福助とは別の依頼者の案件について販促ツールの制作を請け負わせていたことから、上記08SSツールの制作についても原告に請け負わせることを考え、平成19年7月、8月ころから、交渉を始め、その結果、原告が、これを請け負うこととなった。 イ 原告による印刷管理 なお、07AWツールで印刷管理業務を行ったP1が、08SSツールでは行うことができなくなったことから、被告プラスアイは、製造(印刷)についても原告に請け負わせることとし、実際の印刷業務については、07AWツールに引き続き、エスアートに請け負わせることとした(原告は、印刷管理業務を行うこととなる。)。 その後、原告の希望により、08SSツールのうちf-ing コレクション、f-ing モテスト(ストッキングの商品名)、f-ing モテレギ(レギンスの商品名)の製造については、エスアートではなく、訴外株式会社イワモト(以下「イワモト」という。)に請け負わせることとなった。 ウ 08SSツールの制作、製造代金の交渉 被告プラスアイとしては、08SSツールについても、07AWツールと同等の予算で制作、製造することを考えていた。 原告が被告プラスアイから請け負った別の案件では、対価のうち13%の利益を取得していたので、当初は、その程度の利益を取得させる契約内容とすることが予定されていた。 ところが、08SSツールの予算が膨らみ、07AWツールの際の予算額を大幅に超えることとなったため、経費を圧縮する必要が生じ、原告と被告プラスアイは、製造費(印刷費)のコストダウンの協議を続けた。 原告と被告プラスアイは、平成19年12月ころ、製造費のうち8%を原告が取得できるよう価格交渉をしていたところ、原告からの要望により、同月30日、08SSツールの制作、製造についての契約書(甲11)を作成し、制作費、製造費の合計額として、2910万8730円が明記された。 エ 納品 原告は、その後、08SSツールの制作を完了し、エスアート及びイワモト(実際の印刷は別の業者が行った。)において印刷し、これを被告プラスアイに納入し、被告プラスアイは、被告福助に納入した。 なお、08SSツールの代金は、最終的に、制作費として1050万円(1122万9500円から協力金72万9500円を控除した金額)と、製造費として2047万0664円が支払われた(甲9の1・2)。 (4) 08AWツール ア 原告に対する発注 被告プラスアイは、被告福助の08AWツールについても、原告に請け負わせることとなり、制作費の見積書の提出を求め、原告は、平成20年1月31日、制作費の見積書を提出した(乙6)。 被告プラスアイは、原告に対し、上記見積りを前提として、08AWツールの制作を発注した。 イ 本件画像データの制作 原告は、被告プラスアイから提供を受けたデータをもとに、被告らと協議を重ねながら、次の販促ツールについてラフ案(本件デザイン画)を制作した(甲7。なお、本件デザイン画のデータを「本件画像データ」という。)。 エステサポート スタイリング満足 f-ing コレクション f-ing モテスト・モテレギ ウ 製造についての見積依頼 被告プラスアイは、原告に対し、08AWツールの製造費についても、見積書を提出するよう求めたが、原告は、なかなか見積書を提出せず、平成20年3月28日になって、ようやく、製造費についての見積書(乙8:単価を記載したもの)を提出した。 一方、被告プラスアイは、平成20年3月25日までに、訴外昌和印刷株式会社(以下「昌和印刷」という。)に対して、08AWツールの製造費の見積りをさせたところ(乙9の1・2)、原告の提出した上記見積書より低額であったため、原告に対し、見積りの詳細を明らかにするよう依頼するとともに、印刷業者として昌和印刷を使用することを提案した。 しかし、原告は、見積りの詳細を明らかにせず、また、印刷業者として昌和印刷を使用することを拒否した。 エ 製造についての発注をしないことの通告 被告プラスアイは、原告に対し、平成20年5月27日、08AWツールについては、ラフ案の制作までで、版下作成以降の作業の発注をしない旨通告した(甲23、乙12)。 オ 本件画像データの交付 原告は、被告プラスアイに対し、本件画像データを交付し、被告プラスアイは、平成20年8月11日までに、上記データ作成までの費用として226万5500円を支払った。 (5) 被告らによる本件画像データの使用 被告プラスアイは、原告から受領した本件画像データを使用し、昌和印刷に対し印刷を依頼し、印刷された完成品を被告福助に納入した。 被告福助は、自己の商品を扱う店舗において、上記印刷物である販促ツールを設置し、使用した。 2 当事者の請求 (本訴請求1) 原告は、被告らが、本件デザイン画の著作権や同一性保持権を侵害しているとして、被告らに対し、著作権に基づき、本件デザイン画の複製、翻案の差止めと、著作者人格権に基づき、謝罪広告を求め、著作権侵害を理由に、2356万5396円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。 (本訴請求2) 原告は、被告プラスアイが、08AWツールの製造にかかる契約を途中解除したことに伴い、解除による原告の損害(契約が継続された場合の得べかりし利益)を賠償する義務があるとして、被告プラスアイに対して、1521万8274円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。 (本訴請求3) 原告は、仮に、本訴請求2が認められない(08AWツールの製造契約の成立が認められなかった場合)としても、被告プラスアイが、08AWツールの製造契約が締結されないかも知れないことについての説明を怠ったため、原告は08AWツールの製造契約も締結されると信じ、不要なディスカウントをしたとして、被告プラスアイに対して、契約締結上の過失に基づき、1015万9250円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。 (反訴請求) 被告プラスアイは、原告に対し、原告が虚偽の利益率を報告し、不当に高額な製造費を支払わせたなどとして、付随義務違反や二次下請禁止義務違反などを理由とする債務不履行(選択的請求1)、又は、虚偽の利益率を報告したことなどを理由とする不法行為(選択的請求2)に基づき、443万6230円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。 3 争点 (1) 本訴請求1(著作権侵害に基づく損害賠償請求等) ア 本件デザイン画の著作物性、著作権の帰属(争点1−1) イ 著作権の譲渡、使用許諾の有無(争点1−2) ウ 著作権侵害による損害(争点1−3) エ 著作者人格権の侵害(争点1−4) (2) 本訴請求2(民法641条の解除に伴う損害賠償請求) ア 民法641条に基づく解除の成否(争点2−1) イ 解除による損害(争点2−2) (3) 本訴請求3(契約締結上の過失に基づく損害賠償請求) ア 契約締結上の過失の有無(争点3−1) イ 契約不成立による損害(争点3−2) (4) 反訴請求1(08SSツールにおける原告の債務不履行に基づく損害賠償請求) ア 原告の債務不履行の有無(争点4−1) イ 原告の債務不履行による損害(争点4−2) (5) 反訴請求2(08SSツールにおける原告の不法行為に基づく損害賠償請求) ア 原告の不法行為(08SSツールの利益率に関する虚偽報告)の有無 (争点5−1) イ 原告の不法行為による損害(争点5−2) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(著作権侵害に基づく損害賠償請求等) 1−1 争点1−1(本件デザイン画の著作物性、著作権の帰属) 【原告の主張】 (1) 著作物性 本件デザイン画は、写真、背景の色や文字について、創作者である原告が、商品のイメージ、アイデア、コンセプト等に合わせて、独自の発想に基づいてデザイン(各パーツのデザインやフォント選択なども含む。)、レイアウト(図形などが重なる部分の処理なども含む。)、配色(グラデーションなどを含む。)、仕上げ作業(バランスやトーンの統一なども含む。)等を行って制作したものであり、創作者たる原告の思想や感情を創作的に表現した絵画(著作権法10条1項4号)ないし図表(同項6号)などに例示されるデザインの著作物であるということができる(甲4)。 よって、本件デザイン画は著作物である。 (2) 著作権の帰属 本件デザイン画は、原告が被告プラスアイからの依頼を受け、原告の代表者であるP2が、その職務として作成したものであるから、職務著作として、本件デザイン画の著作権は原告に帰属する。 【被告らの主張】 (1) 著作物性 本件デザイン画は、原告がレイアウト作業を行ったものに過ぎず、少なくとも原告の「思想または感情を創作的に表現したもの」には当たらない。また、本件デザイン画は、大量生産を予定する被告福助の商品(女性用ストッキング等)の販促ツールとして作成されたものであるから、販促ツールを見る者(消費者)がその形象に現れた美的創作性を鑑賞することは考えられず、「美術の範囲」にも属さない。したがって、本件デザイン画は、著作権法2条1項1号の著作物とはいえない。 (2) 著作権の帰属(予備的主張1) 本件デザイン画が著作物であったとしても、同デザイン画におけるロゴマーク、写真、パッケージデザイン、文字列の配置には、被告福助に著作権が発生している。 原告代表者のP2が行った作業はレイアウトだけであり、レイアウトルールを策定したのは被告らである。 また、08AWツールにかかる本件デザイン画の表現方法についても、被告らが決定し、これを原告に伝え、指示し、これらに基づいて本件デザイン画が作成された。 したがって、原告代表者のP2の独創性が発揮される場面はなく、P2は著作者ではないから、原告に著作権は発生しない。 (3) 共同著作(予備的主張2) また、仮に、原告に本件デザイン画の著作権が帰属するとしても、本件デザイン画は被告らとの共同著作物であり、しかも、原告の寄与率は5%程度である。したがって、著作権法64条1項の適用はなく、被告らは、原告の承諾なく、本件デザイン画の複製、翻案をすることができる。 1−2 争点1−2(著作権の譲渡、使用許諾の有無) 【被告らの主張】 (1) 仮に、原告が本件デザイン画について著作権を有していたとしても、次のとおり、原告は、被告らに対し、上記著作権を譲渡し、又は本件デザイン画の複製、翻案の許諾をした。 (2) 著作権の譲渡 原告が、被告プラスアイに対し、平成20年5月26日、本件デザイン画の画像データ(PDFファイル形式のもの)を納品したことによって、原告は、被告らに対し、本件デザイン画の著作権を譲渡した。 PDFファイルを使用したのは、原告と被告らとでは異なるPC環境を使用していたため、異なるPC環境の下でも、正確な表示のできるPDFファイルを使用したにすぎない。 また、被告プラスアイが原告に対し支払った226万5500円は、本件デザイン画の対価として妥当な金額である。08SSツールと比較して低額なのは、数量が少ないためである。 (3) 複製、翻案の許諾 原告が、被告プラスアイに対し、平成20年5月26日、本件デザイン画の画像データ(PDFファイル形式のもの)を納品したことによって、原告は、被告らに対し、本件デザイン画の複製、翻案を許諾した。 【原告の主張】 (1) 本件デザイン画の著作権を譲渡していないこと 次の事情によると、原告が被告らに対し、本件デザイン画の著作権を譲渡したとはいえない。 ア 原告が提供したファイルの形式 原告は、被告プラスアイに対し、本件デザイン画をPDFファイルの形式で提案・提供しているが、デザインの提案をしたに過ぎず、本件デザイン画の著作権を譲渡したわけではない。原告がデザイン画等の著作権をデータで譲渡する場合は、イラストレータファイル(アドビ社の画像ファイル形式であり、修正を加えることができる。)にて交付している。 イ 08SSツールの制作費との比較 08SSツールの制作費は1122万9500円であったが、原告が、被告プラスアイから受領した08AWツールの制作費は、その20.1%である226万5500円である。 08AWツールの本来の制作費は974万9750円であり(甲16:1242万4750円から版下データ作成費267万5000円を控除したもの)、上記226万5500円は、08AWツールのイメージ、アイデア、コンセプトについて提案するための作業に対する対価であり、本件デザイン画の著作権譲渡の対価ではない。 原告は、被告プラスアイに対し、その旨を述べた上で、上記金額を請求し、その支払を受けた。 ウ 08SSツールについて作成された契約書(甲11)から推測される08AWツールの契約内容 08SSツールについて作成された契約書(甲11)は、複製物の売買、使用許諾という形をとっており、著作権の譲渡を前提としていない。 08AWツールも同様の契約内容であった。 (2) 本件デザイン画の使用を許諾していないこと 前記(1)ア、イの事情によると、原告が被告らに対し、本件デザイン画の使用を許諾したとはいえない。 (3) 制作と製造が一体となった契約であること 08AWツールにおいても、08SSツールと同様、制作と製造が一体となった契約であった。 後述するとおり(後記2)、08AWツールでは、被告プラスアイが仕事の完成前に契約を解除したのである。原告は、製造についても請け負っていると信頼していたのであって、被告プラスアイが、その信頼を裏切り、原告の制作の成果である本件デザイン画の使用をすることは許されない。 1−3 争点1−3(著作権侵害による損害) 【原告の主張】 (1) 被告らが本件デザイン画を使用したことにより、原告は、次のとおり、得べかりし利益を失うという損害を被った。 (2) 得べかりし制作費 08AWツールの制作費は、08SSツールの制作費を基準に算定すると1242万4750円であり、08AWツールの制作において、原告の得べかりし利益は、既払金226万5500円を控除した1015万9250円となる。 (3) 得べかりし製造費 08AWツールの製造数は、07AWツールの製造数から推計すると1万5681個である。08SSツールの製造数は6905個であり、製造費は1794万5480円(前提事実(3)エの一部である。)であるから、08AWツールの製造費は4073万6239円と推計される。 〔計算式〕17,945,480×(15,681÷6,905)=40,736,239 また、08SSツールの製造費のうち原告の利益率は29.7%であるから、原告は、08AWツールの製造において、少なくとも28%の利益を得ることができた。 したがって、08AWツールの製造において、原告の得べかりし利益は、1140万6146円と推計される。 〔計算式〕40,736,239×0.28=11,406,146 (4) 弁護士費用 上記損害の賠償請求の提訴にかかる弁護士費用は、少なくとも200万円である。 (5) 合計 本件デザイン画の著作権侵害による損害合計は2356万5396円となる。 〔計算式〕10,159,250+11,406,146+2,000,000=23,565,396 【被告らの主張】 (1) 原告の主張をいずれも否認する。 (2) 08AWツールの制作費 08AWツールの制作費は226万5500円であり、全て既払いである。 (3) 08AWツールの製造費 被告プラスアイは、08AWツールの製造を昌和印刷に依頼したが、製造点数は4844個、製造費は1185万1000円であった。 1−4 争点1−4(著作者人格権の侵害) 【原告の主張】 被告らが、本件デザイン画を複製、翻案した行為(前提事実(5))は、本件デザイン画についての原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものである。 よって、原告は、被告らに対し、謝罪広告の掲載を求める。 【被告らの主張】 前記1−1【被告らの主張】のとおり、本件デザイン画は著作物ではないので、著作者人格権も発生せず、その侵害もない。 仮に、原告に同一性保持権があるとしても、被告らの行為は、やむを得ない改変に当たる。 2 争点2(民法641条の解除に伴う損害賠償請求) 2−1 争点2−1(民法641条に基づく解除の成否) 【原告の主張】 (1) 08AWツールにかかる契約(以下「08AWツール契約」といい、08SSツールにかかる契約を「08SSツール契約」という。)は、次のとおり、08AWツールの制作だけでなく、08AWツールの製造(印刷)も含む、一体のものであった。 ア 08SSツール契約との対比 08AWツールは、08SSツールの継続案件であった。08SSツール契約は、制作と製造が一体となったものであり、これに引き続き行われた08AWツールの作業についても、特段の合意のない限り、08SSツールと同様、制作と製造が一体となった契約として締結された。 なお、08SSツール契約が、制作と製造が一体となった契約であることは、契約書(甲11)の記載からも明らかである。 イ 一部履行に着手したこと 一方、原告は、平成20年1月7日から、08AWツールのうちエステサポートに関する製造を開始している。 また、原告は、08AWツールのうちf-ing モテスト・モテレギについても、制作段階から、製造に向けた作業に着手していた。 さらに、制作段階で使用する画像データは低解像度のもので足りるが、原告は、平成19年12月26日、実データ(原寸大での印刷を行うための高解像度の画像)を受け取っていた。 これらの事実から、原告が、08AWツールの製造についても請け負う旨の契約が成立していたといえる。 ウ 制作費をディスカウントしたこと 原告は、08AWツールの制作費について、08SSツールの制作費用に比べ、80%減のディスカウントをしたが、これは、08AWツール契約が、制作だけでなく、製造も含んでいるからである。 エ 見積りが確定していないこと たしかに、被告プラスアイが08AWツール契約を解除した時点で、製造費の見積りは確定していなかった。しかし、見積りの確定の有無と契約の成否には関係がない。 (2) 08AWツール契約の解除 被告プラスアイは、原告から、本件デザイン画の画像データ(ラフ案)を受け取ると、08AWツールの製造費の調整を放棄し、08AWツール契約を一方的に解除した。 08AWツール契約は請負契約であるから、注文主である被告プラスアイは、仕事が完成しない間は、上記契約をいつでも解除することが可能であるが、民法641条に基づき、原告に対し、解除に伴う損害を賠償すべきである。 【被告プラスアイの主張】 (1) 08AWツールの製造にかかる契約の不存在 08AWツール契約は、08AWツールの制作にかかる請負契約であり、製造(印刷)を含んではいなかった。被告プラスアイは、原告に対し、製造を発注しない旨通告しただけのことであり、製造にかかる契約を解除したわけではない。 すなわち、原告と被告プラスアイは、平成20年1月31日、原告が制作の見積書(乙6)を提出したことにより、08AWツールの制作について契約を締結したが、製造についての契約を締結した事実はない。 なお、原告の主張に対する反論は次のとおりである。 ア 08SSツール契約との対比 たしかに、08SSツールでは、制作と製造について契約を締結し、これを1本の契約書(甲11)にまとめている。しかし、上記契約書は、あくまで08AWツールとは別の08SSツールについてのものであり、しかも、上記契約書は、契約が成立した後、事後的に作成されたものである。 イ 一部履行に着手したとの主張について 原告の主張は、提訴後2年も経過した後の主張であり信用できない。 そもそも、印刷作業は1か月あれば間に合うものであり、原告が主張する時期に、製版作業に着手するということはありえない。 ウ 制作費のディスカウントについて 08AWツールの制作費の見積りをする時点では、製造によって見込まれる利益は全く未知数であり、制作それ自体において自己の採算が合うように、原告自身において考慮すべきである。 また、後記3−1【被告プラスアイの主張】(1)のとおり、08SSツールと比較した08AWツールの制作費のディスカウント率は20%に過ぎない。 エ 見積りが未確定であること 被告福助用の販促ツールの制作及び製造については、個別の見積りを経て受注(契約)がなされるので、十分な受注が得られなければ製造を行わない(発注されない)ものもある。 原告は、平成20年3月28日、見積書を提出したが、あまりに高額であったため、被告プラスアイは、被告福助に参考単価として提示することができず、見積りの詳細を検討し、参考単価を下げる必要があったが、2か月にわたって、原告が製造費についての見積りの詳細を明らかにしなかった。 (2) 08AWツールの製造を原告に発注しなかった事情 前記(1)エのとおり、08AWツールの製造では、被告福助の予算に合致することが前提であったが、原告が、被告福助営業部に提示できないような高額の製造費の見積書を提出したため、被告プラスアイは、原告に対し、製造費の見積りの詳細を明らかにするよう再三要求した。 それにもかかわらず、原告は、2か月にわたり無視したため、被告プラスアイは、原告が製造を受注する意思がないものと判断し、当初の予定を変更し、別の業者に製造(印刷)を発注することにし、08AWツール契約を解除した。 (3) 債務不履行による解除 仮に、08AWツール契約が、制作と製造を一体としたものであったとしても、被告プラスアイのした解除は、次のとおり、債務不履行を理由とする解除であって、民法641条に基づく解除にはなり得ない。 すなわち、08AWツールの制作にかかる版下作成の履行期は平成20年5月末であったにもかかわらず、原告は、版下データを引き渡さないばかりか、同年5月26日、印刷作業に必要となるイラストレータデータの引渡を拒絶した。 (4) 08AWツール契約の解除 なお、上記(1)のとおり、08AWツール契約は、制作に関する契約であるが、上記契約は、被告プラスアイによって、平成20年5月27日、原告の債務不履行を理由に解除された。 仮に、原告に債務不履行がなかったとしても、同月27日、原告からの契約内容に関する照会のメールに被告プラスアイが回答したことにより、上記契約は合意解除された。 2−2 争点2−2(解除による損害) 【原告の主張】 被告プラスアイは、08AWツール契約を途中解除したが、民法641条に基づき被告プラスアイが賠償すべき損害は、次のとおりである。 (1) 制作費のディスカウント分(得べかりし利益その1) 本来、08AWツールの制作費は、1242万4750円であり、既払いの226万5500円を控除した残額1015万9250円を得ることができたはずである。 〔計算式〕12,424,750−2,265,500=10,159,250 (2) 製造費(得べかりし利益その2) 08AWツールの製造費は、07AWツール、08SSツールの実績などから、少なくとも2304万9177円が見込まれ、原告は、08AWツール契約が解除されなければ、原告の通常の利益率28%(前記1−3【原告の主張】(3))を乗じた645万3769円の利益を得ることができた。 〔計算式〕23,049,177×0.28=6,453,769 (3) まとめ 被告プラスアイが08AWツール契約を解除したことにより、原告は、上記利益を得ることができなくなり、1661万3019円の損害を被った。 〔計算式〕10,159,250+6,453,769=16,613,019 原告が被告プラスアイに対し請求する1521万8274円は、上記損害の一部である。 【被告プラスアイの主張】 争う。 原告は、製造(版下作成作業)を行っておらず、損害は発生していない。原告に何らかの損害が発生したというのであれば、制作に関する見積書(乙6)によって算定されるべきであるが、上記見積書の対価である226万5500円は支払済みである。 3 争点3(契約締結上の過失に基づく損害賠償請求) 3−1 争点3−1(契約締結上の過失の有無) 【原告の主張】 仮に、08AWツール契約が、08AWツールの制作のみで、製造を含まないものであったとしても、次のとおり、被告プラスアイは、契約締結上の過失により生じた原告の損害を賠償すべきである。 (1) 不要なディスカウント 原告は、平成19年12月6日から平成20年1月16日ころまでに、本件デザイン画の制作を開始したが、そのころから、製造についても契約の締結に向けた交渉に入っていた。 原告は、08AWツール契約締結以前、上記契約が制作と製造を一括した制作物供給型の請負契約ではなく、制作と製造が個々に独立した契約であることについて、被告プラスアイから全く説明を受けておらず、製造まで一体となった契約であり、製造についても請け負うことができると考えていた。 このため、原告は、08AWツールの制作費について、前年比80%減のディスカウントを行った。 (2) 故意・過失 契約当事者は、取引の相手方に不測の損害を与えないよう信義則上注意を与える必要がある。すなわち、契約交渉が一定の段階に達すると、一方的に契約を打ち切ってはならない義務、相手方の安全に配慮するべき義務など、契約に付随する義務が生じる。 被告プラスアイは、原告が、08AWツールの制作だけでなく、製造も受注できることを期待して、制作費のディスカウント(08SSツールに比して80%減のディスカウント)を行っていたことを知悉していた。したがって、制作と製造が別契約であるため、制作費をディスカウントしても、製造を発注されない場合は、ディスカウントした分の利益を確保することができないことを説明すべきであった。 それにもかかわらず、被告プラスアイは、これらの説明をしないまま、製造についての契約を締結することなく、原告に隠れて見積りをとっていた昌和印刷に発注し、原告の利益を侵害した。 【被告プラスアイの主張】 (1) ディスカウントの有無、割合 原告は、08AWツールの制作費について、08SSツールの制作費に比べ、80%減のディスカウントをしたと主張するが、もともと、08SSツールの制作費が高額に過ぎた上、1アイテム当たりの単価を比較すると、08AWツールは、08SSツールの制作費と比較して20%減少したに過ぎなかった。 しかも、08AWツールは08SSツールを踏襲する部分が多いため、安価に制作することが可能であった。 (2) 08AWツールの製造を原告に発注しなかった事情 前記2−1【被告プラスアイの主張】(2)と同じ (3) 故意・過失 上記(1)、(2)の経緯からすると、被告プラスアイに故意・過失はなく、むしろ、製造についての契約締結に至らなかったのは、2か月間にわたり、コストダウン協議の予定を無視し、再三の要求にもかかわらず、製造についての見積りの詳細を明らかにしなかった原告にある。 3−2 争点3−2(契約不成立による損害) 【原告の主張】 原告は、前記3−1【原告の主張】(1)のとおり、不要なディスカウントを行い、その結果、1015万9250円の損害を被った(金額の算定については、前記1−3【原告の主張】(2)と同じ)。 なお、上記損害は、履行利益に相当する損害ではなく、製造にかかる契約を受注することができると信頼したことにより、不要なディスカウントを行った結果発生したものであるから、信頼利益に相当する損害である。 【被告プラスアイの主張】 争う。 なお、ディスカウント分は前記3−1【被告プラスアイの主張】(1)のとおり、08SSツールと比較して20%減に過ぎない。 4 争点4(08SSツールにおける原告の債務不履行に基づく損害賠償請求) 4−1 争点4−1(原告の債務不履行の有無) 【被告プラスアイの主張】 次のとおり、原告は、債務の本旨を履行せず、又は付随義務違反の行為をした。 (1) 印刷管理費の約定、報告義務違反 前提事実(3)イのとおり、被告プラスアイは、原告に対し、平成19年11月ころ、08SSツール作成について、印刷工程の管理業務(仕入原価を適正化するための調整業務及び納期管理業務)を委託し、原告の管理業務の報酬は、製造費(印刷費)全体のうち13%と定められた。 したがって、原告は、印刷原価及び原告の利益率について、被告プラスアイに対し報告すべき付随義務を負っていた。 それにもかかわらず、原告は、被告プラスアイに対し、原告の印刷管理費の割合を報告せず、製造費のうち29.7%を印刷管理費として取得した。 (2) 二次下請の禁止義務違反 被告プラスアイは、08SSツールの印刷業者をエスアートと指定していた。しかし、原告が、「日本全国でイワモト以外にできない加工方法をさせるためにイワモトを使いたい」と申し出たために、イワモトを印刷業者として用いることを容認した。したがって、イワモト以外に印刷業務をさせることは許されなかった。 それにもかかわらず、原告は、イワモトが印刷業務を第三者に請け負わせることを許し、その結果、被告プラスアイから請け負った印刷工程管理業務を無断でイワモトに下請けさせ、イワモトに下請代金のうち15%の利益を取得させた。 (3) わざと価格調整を遅らせて、高い金額で受注させたこと 原告は、08SSツールの製造費の見積りを納期直前まで提出せず、さらに、イワモト下請分について、被告プラスアイがコストダウンのため業者を変更して見積りすることを依頼したが(乙34)、これを無視して、十分な価格調整の時間を奪った上、納期間際の平成19年12月26日になって最終見積を提出した(甲55の16、乙35の3枚目、乙42)。 (4) 梱包発送費、追加製造費の騙取 原告は、梱包発送費や追加製造費を実費として請求しながら、これを下請に支出させ、自らはこれを利益として取得した。原告の上記行為は、本件印刷工程管理業務の義務の不履行又は付随義務違反というべきものである。 【原告の主張】 (1) 印刷管理費の約定、報告義務の有無 08SSツールについて、原告は、被告プラスアイとの間で、印刷工程の管理を含む契約を締結したが、原告の取得すべき印刷管理費の額についてまで合意したわけではない。 したがって、原告の取得する印刷管理費の額を被告プラスアイに対し報告する義務もない。 なお、原告は、被告プラスアイに対して、平成19年12月26日、最終価格を提示した。これによると、原告の利益率は約8.26%であった。この価格提示をもとに、08SSツールにおける販促ツールの製造価格が確定し、同月30日、08SSツールの契約書(甲11)が作成された。 原告は、08SSツールの契約が締結された後の平成20年1月31日、イワモトらとの間で、価格交渉を行った。その営業努力の結果、原告の取得する管理費の割合(利益率)が上昇したにすぎない。 (2) 二次下請禁止義務 そもそも、二次下請禁止の特約はなかった。 (3) 価格調整を遅らせたか否か 原告は、平成19年12月30日の契約書作成まで、できるかぎりの交渉を行っており、価格調整を故意に遅らせた事実はない。 (4) 梱包発送費、追加製造費 上記(1)のとおり、利益率についての合意はなく、原告の取得すべき制作費及び印刷管理費は、契約書(甲11)によって定まる。 4−2 争点4−2(原告の債務不履行による損害) 【被告プラスアイの主張】 08SSツールにおける本来の製造原価は1265万0862円である。製造費(印刷費)のうち13%を原告の印刷管理費とすると、原告が被告プラスアイに対し請求できる製造費は1454万1221円となる。 〔計算式〕12,650,862÷(1−0.13)=14,541,221 原告は、被告プラスアイに対し、1899万5870円を請求し、被告プラスアイは上記金額を支払ったのであるから、被告プラスアイは上記の差額445万4649円の損害を被った。 被告プラスアイが原告に対し請求する443万6230円は、上記損害の一部である。 【原告の主張】 争う。 08SSツールの最終的な発注者は被告福助であって、被告プラスアイは、08SSツールの制作、製造を請け負っている立場にある。したがって、被告プラスアイには、その報酬を超えて損害が発生することはない。 5 争点5(08SSツールにおける原告の不法行為に基づく損害賠償請求) 5−1 争点5−1(虚偽報告の有無) 【被告プラスアイの主張】 前記4−1【被告プラスアイの主張】と同じ すなわち、被告プラスアイは、原告に対し、08SSツールについて、印刷工程の管理業務を請け負わせ、原告が、製造費のうち13%を管理費として取得する旨合意した。 しかし、原告は、自己の取得する管理費は製造費のうち8%であると虚偽の事実を述べ、実際には、製造費のうち29.7%を取得し、また、被告プラスアイに無断でイワモトに印刷管理業務を下請させ、印刷代金のうち15%を取得させ、さらに、梱包発送費、追加製造費名目で、被告プラスアイに支出させた費用を騙取した。 【原告の主張】 前記4−1【原告の主張】と同じ すなわち、08SSツールについて、原告と被告プラスアイとの間で、印刷管理業務の費用について合意があったわけではなく、原告が被告プラスアイに対し、印刷管理費の額を報告する義務もない。 また、二次下請の禁止の特約もなかった。 イワモトが印刷代金のうち15%を取得することについて、被告プラスアイの承諾を得なければならない根拠もない。 そうすると、原告の取得する印刷管理費は製造費のうち8%であり、その旨通知したことは虚偽ではない。 5−2 争点5−2(原告の不法行為による損害) 【被告プラスアイの主張】 前記4−2【被告プラスアイの主張】と同じ 【原告の主張】 前記4−2【原告の主張】と同じ 第4 当裁判所の判断 1 紛争を巡る経緯 前提事実、証拠(甲4、70、71、乙82、83、87、証人P3、同P4、同P1、原告代表者本人、被告プラスアイ代表者本人、後掲のもの)及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。 (1) 当事者 前提事実(1)のとおり。 (2) 被告福助の販促ツールの制作、製造についての経緯 被告プラスアイは、被告福助から、女性用ストッキング等の販促ツールの制作、製造を請け負っていた。 被告プラスアイは、上記販促ツールのうち07AWツールの制作をミヤビデザインに、印刷についてはエスアートに請け負わせ、印刷の管理業務については、P1に依頼した。 被告プラスアイは、引き続き、08SSツール及び08AWツールについても請け負うこととなった。 (3) 08SSツール ア 原告に対する発注 被告プラスアイは、ミヤビデザインとの取引について支障があると考え、08SSツールのいくつかについては、別の業者に請け負わせることを検討していた。 被告プラスアイは、被告福助とは別の依頼者の案件について、原告に対し、販促ツールの制作を発注していたことから、上記08SSツールの制作を原告に請け負わせることを考え、平成19年7月、8月ころから、交渉した結果、原告がこれを請け負うこととなった。 イ 原告による印刷管理 07AWツールでは、エスアートが印刷業務を行い、これを株式会社メインカラーが管理し、同社に在籍していたP1が担当していたが、08SSツールでは、引き続きエスアートが印刷業務を行うことになっていたものの、P1がメインカラーから独立し、印刷管理業務を担当することが困難となった。 このため、被告プラスアイは、平成19年9月ないし10月ころ、原告に対し、08SSツールの製造についても請け負わせることとした(乙82、87)。 ウ 08SSツールの内容 販促ツールは、商品毎に制作、製造され、08SSツールでは、エステサポート、スタイリング満足、f-ing コレクション、f-ing モテスト、f-ing モテレギなどの商品に関するものであった(甲9の1)。 エ 原告の予定利益と見積書の提出依頼 被告プラスアイとしては、08SSツールについても、07AWツールと同等の予算で制作、製造することを考えていた。そこで、被告プラスアイは、上記アの交渉の際、原告に対し、07AW製造実績(製造数と単価)の一覧表を見せて、08SSの予算も同じ程度にする必要があると伝えた。 被告プラスアイとしては、製造単価が高すぎると、被告福助からの発注が少なくなる可能性もあるため、適正な価格調整をするため、早期の見積りが必要であると考え、原告に対し、見積書を提出するよう、再三にわたって説明していた。 その一方で、被告プラスアイは、原告が、それまでに担当した案件で13%の利益を取得していたので、当初は、その程度の利益を取得させる契約内容とすることを予定していた(乙71、乙72の1〜3)。 オ 印刷業者の変更 当初、08SSツールの製造(印刷)では、07AWツールと同様、エスアートが印刷業務を行うことが予定されていたが(原告は、印刷管理業務を行うこととなる。)、原告が、08SSツールのうち、f-ing のコレクション、モテスト、モテレギについては、エスアートではできない印刷手法を使用したいので、その技術を有するイワモトに請け負わせたいと申し出た。このため、被告プラスアイは、原告に対し、見積書を提出するよう指示した(乙82)。 カ 見積書の提出 被告プラスアイは、原告に対し、平成19年10月19日ころ、概数でよいから見積書を提出するよう、電子メールで伝え(乙46の1・2)、その後も提出の依頼を続けた(乙47)。 それにもかかわらず、原告は、なかなか見積書を提出しようとはせず、製造開始予定の1か月前である、同年12月4日ころになってようやく見積書を提出した(甲55の1、甲57、乙48、乙49の1〜10、乙58の1〜18、乙82)。 キ コストダウンの要請 原告が提出した見積書に従うと、08SSツールの予算は、単価にして07AWツールの単価の2倍以上となり、07AWツールの費用を大幅に超えることとなったため、被告プラスアイとしては、被告福助に提示することができず、経費を圧縮する必要があると考え、原告との間で、コストダウンの協議を始めた(甲19、甲55の2〜18、甲60、乙37、乙51、52、乙53の1・2、乙54〜56、乙57の1〜4、乙59の1・2、乙60、61、63〜68)。 コストダウンに関する協議の中で、被告プラスアイは、イワモトに請け負わす予定であった印刷業務を再びエスアートに戻すよう指示したが、原告は、これに応じなかった(乙34、35、82、被告プラスアイ代表者本人12頁以下)。 原告は、平成19年12月27日、被告プラスアイに対し、08SSツール(エスアートが関与しないもの)の最終的な見積表を提出した(甲55の17)。その際、原告が製造費のうち取得する利益の割合は約8%であると説明した。 これに対し、被告プラスアイは、納期が迫るに至り、被告福助が了承できる代金に抑えるため、自己の取得する利益を抑えることとし、原告に対しても同様の努力を要請した(甲19)。 ク 契約書(甲11)の作成 原告は、被告プラスアイから度重なるコストダウンの要請を受けるに至り、請負代金を確定させておく必要があると考え、被告プラスアイに対し、契約書を作成するよう求めた(甲55の16、乙42)。その結果、原告と被告プラスアイは、平成19年12月30日、08SSツールについて、契約書(甲11)を作成し、被告プラスアイの従業員であるP4が上記契約書の代金について連帯保証する旨の覚書を原告に差し入れた(甲11)。 上記契約書には、08SSツールの請負代金合計として2910万8730円と記載されていた。平成20年1月13日付の見積書(甲9の1)によると、上記代金の内訳は、制作費が1050万円(1122万9500円から協力費を控除した金額で、消費税を除く。)、製造費が1681万3250円(消費税を除く。)、差額の残金は諸経費であることがわかる。 なお、被告プラスアイ代表者のP5は、上記契約書の金額欄は後日記載されたと述べるが(被告プラスアイ代表者本人21頁)、仮に上記供述どおりであったとしても、遅くとも、上記見積書(甲9の1)が提出されたころまでには記入されたと認めることができる。また、上記契約書作成の動機が上述したところにあることには変わりないというべきである。 ケ 製造の開始 原告は、08SSツールの制作を終了し、製造に着手したが、イワモトが印刷する予定のものについては、実際には、イワモトではなく、イワモトから下請した大興トップス株式会社が印刷をした(甲61。イワモトは、印刷管理をしたことになる。)。 コ 双方の認識 被告プラスアイとしては、製造費については、原告の取得分が製造費のうち8%となるよう、コスト削減に協力してもらったと認識していた。 一方、原告は、08SSツールの製品を納品すれば、上記契約書(甲11)の合意通りの代金を受領できると認識していた。 サ 納品と支払(原告の取得した利益) 原告は、平成20年2月末ころまでに、08SSツールの印刷を終え、これを被告プラスアイに納入し、被告プラスアイは、被告福助に納入した(甲9の2)。 一方、前記クのとおり、原告と被告プラスアイは、上記契約書(甲11)を作成し、08SSツールの制作費について1050万円、製造費について1681万3250円(いずれも消費税を除く。)と合意したが、実際に製造を終えた後、原告は、被告プラスアイから、製造費として2047万0664円の支払を受けた(甲9の2)。 ところで、イワモトから原告に対する請求額は940万9281円(甲20の1)であり、エスアートからの請求額は498万7500円(甲20の2)であり、原告は、製造費として支払を受けた上記2047万0664円との差額607万3883円を取得した。その割合は、製造費全体の29.7%となるが、被告プラスアイは、本訴が提起されるまで、上記割合を知らなかった。 〔計算式〕(20,470,664−9,409,281−4,987,500)=6,073,883 6,073,883÷20,470,664=0.297 (4) 08AWツール ア 原告に対する発注 被告プラスアイとしては、08SSツールの発注に際し、予算を大きく超えたことから、08AWツールでは、08SSツールの予算額より下げる必要があった。しかし、新たな業者に依頼をするより、引き続き原告に依頼した方が、コストを抑えることができると考え、そのまま原告に依頼した。 イ 08AWツールの制作費の見積り もっとも、08SSツールが予定した予算を超えたため、被告プラスアイや被告福助としては、08AWツールについて、08SSツールで要した費用と同程度の予算では発注できないという認識でいた。 このため、被告プラスアイは、原告に対し、イワモトを使用することはしない旨、予め伝えるとともに、とりあえず、制作と製造を分け、制作についての見積書を提出するよう依頼した。 原告は、平成20年1月31日、制作費の単価についての詳細な見積書(乙6)を提出した(乙39)。 被告プラスアイとしては、上記見積りに異議はなく、原告は、08AWツールの制作作業を開始した。 ウ 08AWツールの制作過程 平成19年12月末ころ、被告福助の担当者と被告プラスアイとの間において、08AWツールのうち、翌年3月5日の展示会が予定されているエステサポートとスタイリング満足の販促ツールの打合せが行われた(乙83)。 その後、被告プラスアイは、被告福助や原告との間で、打合せを重ね、これに従い、原告において08AWツールの制作を行い、平成20年2月末ころまでには、版下データの作成を残し、制作の作業を終えた(乙1〜4、14、15、証人P4)。 原告が制作した08AWツールは、次の商品に関するものであった。 エステサポート スタイリング満足 f-ing コレクション f-ing モテスト f-ing モテレギ エ 08AWツールの製造の発注 被告プラスアイとしては、製造についても、新たな印刷業者に依頼するより、引き続き、原告に印刷管理を行わせる方がコスト的には有利と考えた。 このため、被告プラスアイは、原告に対し、08AWツールの製造費の見積書を速やかに提出するよう依頼するとともに、自らも、昌和印刷に対し、相見積りをするよう依頼した。 原告は、平成20年3月28日に08AWツールの製造費の見積書を提出したが(乙8)、その金額は、昌和印刷の提出した見積書(乙9の1・2)の金額と比べ極めて高かった。 このため、被告プラスアイは、原告に対し、上記見積りの詳細を明らかにするよう求めたが、原告は、「数量を教えてくれないと出せない。」と返答し、基準となるようなものの提出もなかった。 オ 相互の不信感 原告は、製造費のコストダウンを要求する被告プラスアイの態度に対し、支払が確実になされるかについて不安を感じ、被告プラスアイに対し、資金繰りを開示するよう要請した上、個人保証をつけるよう依頼した(乙10)。 一方、被告プラスアイとしては、08SSツールと同様、製造費が膨らむおそれを感じ、このまま原告に印刷管理業務を委託していると、08SSツールの際と同様、予算を超過してしまうと判断し、原告に対し、平成20年5月27日、08AWツールについては、ラフ案の制作までで、版下作成以降の作業の発注をしない旨通告した(甲23、乙12)。 その間、原告は、平成20年5月26日、08AWツールの制作の見積書(甲12)を提出した(甲54)。上記見積書の金額(請求額)は226万5500円であり、提出時点までに既に終了した作業(ラフ案の制作までで、版下入稿データの提供を含まない。)に対する金額である。 カ 引渡の拒否 被告プラスアイは、原告に対し、08AWツールの製造(印刷)を発注しない旨伝えたところ、原告は、当初、交付できるデータの内容を特定するメールを送付した(乙5)。 しばらくした後、原告は、被告プラスアイに対し、08AWツールのデータを引き渡さないと述べたが、結局、次のとおり、平成20年5月16日分までの制作分を引き渡した(甲4)。 エステサポート 4点 スタイリング満足 10点 f-ing コレクション 2点 f-ing モテスト 5点 f-ing モテレギ 3点(合計24点) (5) 複製禁止の通告 原告は、被告プラスアイに対し、平成20年6月27日付の書面(甲8)により、同年5月に送付した08AWツールに関する本件デザイン画についての著作権が原告にあると認識していること、及び原告の許諾なく、複製等を行うことはできない旨を通告した。 2 本訴請求1(著作権侵害に基づく損害賠償請求等)について (1) 原告の行った作業 08AWツールの制作作業について、もう少し詳しくみると、次の過程を経て作業が行われたことが認められる(乙83、証人P4)。 ア 販促ツールの作成過程(乙87) 被告福助において、販促ツールの作成過程は、次のようなものであった。すなわち、販促ツールの作成過程は、制作過程と製造過程とからなっており、制作過程は、さらに企画、制作(レイアウト)、版下データの作成に分かれ、製造過程は、製版、印刷、加工(印刷した紙の表面にフィルムを貼ったり、型抜きをしたりして完成させる作業)に分かれる。 イ 08AWツールの企画 平成19年12月末ころ、被告プラスアイと被告福助との間で、エステサポートとスタイリング満足の販促ツールの打合せが行われた。 次に、平成20年1月22日、被告プラスアイが作成、提出した08AWツールについての企画書(乙18)に基づき、被告プラスアイと被告福助との間で、f-ing コレクションのPOP 仕様が提案され、企画書どおり実施することが決められた。 その後、被告プラスアイから、原告に対し、後記ウのとおり、被告福助との間で打ち合わされた販促ツールのレイアウトの概要等が指示された。 ウ 08AWツールのラフ案(本件デザイン画)の提供 原告は、次のとおり、08AWツールにおいて、それぞれの商品類型の販促ツールの制作を行い、被告プラスアイに対し、ラフ案を提供した。 (ア) エステサポートについてのラフ案の提供 原告は、平成20年1月16日から同年2月15日までの間、被告福助から提供を受けたデータ(モデルの写真)を加工し、これを用いたラフ案を複数回にわたり提供した(甲7、24〜26、28、29)。 その間、原告と被告らとの間で意見が交換され、被告らの指示に従って、修正が施された(乙1)。 (イ) スタイリング満足についてのラフ案の提供 原告は、上記(ア)と同様に、平成20年1月16日から同年2月19日までの間、被告福助から提供を受けたデータ(モデルの写真)を加工し、これを用いたラフ案を複数回にわたり提供した(甲7、30〜32、甲33、34の各1・2、甲35)。 その間、原告と被告らとの間で意見が交換され、被告らの指示に従って、修正が施された(乙2)。 (ウ) f-ing コレクションについてのラフ案の提供 原告は、上記(ア)と同様に、平成20年2月13日から、被告らから提供を受けた企画書やデータをもとに、ラフ案を数回にわたり提供した(甲7、甲36の1〜4、甲38〜44、49、乙7)。 その間、原告と被告らとの間で意見が交換され、被告らの指示に従って、修正が施された(甲37、乙3、14、15、18、24、乙25の1・2、乙44)。 (エ) f-ing モテスト・モテレギについてのラフ案の提供 原告は、f-ing モテスト・モテレギのイメージマップ(甲45)を制作、提供した上、上記(ア)と同様、平成20年4月12日ころから、被告福助から提供を受けたデータ(モデルの写真)を加工し、これを用いたラフ案を数回にわたり提供した(甲47の1〜4、甲48の1〜5)。 これに先立ち、原告は、08SSツールで用いたデータを使用して、モデルの撮影について意見を述べたり、被告らからの指示に従って修正を施したりした(甲46の1・2、乙4、16、26、45)。 (2) 著作物性 ア 原告は、本件デザイン画について、これらは著作物性を有し、これを創作したのは原告の従業員であるから、原告に本件デザイン画にかかる著作権が帰属すると主張する。 また、原告は、本件デザイン画の著作物性の根拠について、写真、背景の色や文字を、商品のイメージ、アイデア、コンセプト等に合わせて、独自の発想に基づいてデザイン、レイアウト、配色、仕上げ作業等を行って制作したことを理由として述べる。 しかし、商品イメージやキャッチフレーズ、モデルの写真などの素材は、被告らから提供されたものであって、原告が制作過程において行った作業(製造過程における作業を除く。)は、デザイン、レイアウト(素材のレイアウト)、配色、仕上げの各作業に過ぎず、本件デザイン画に著作物性を認めることはできない。 イ これをもう少し詳しく述べると、次のとおりである。 (ア) エステサポート、スタイリング満足について 原告は、エステサポートに関する08AWツールのデザインポイントとして、@ ブランド名を強調し、棚に飾った際に見やすい位置にしたこと、A デニール数(繊維の太さ)を見やすい位置にしたこと、B 部分的にマットニス仕上げを使用するなどして、上質感を出したこと、C さらには、透明感や品質(締め付け感)を演出するほか、いろいろな画像処理を施したことなどを挙げる。 また、スタイリング満足に関する08AWツールのデザインポイントについても、上記@、Aのほか、D Rラインに擬似的に銀色に見える処理をするなどして、高級感を出したこと、E 脚が美しく見えるよう写真の角度を調整したことなどを挙げる。 しかし、これらはいずれも、もっぱら顧客の注意を引き、購入意欲を喚起するために、被告らから提供された素材をどのようにレイアウトしたかということや、仕上がりに高級感を持たせるためにいかなる処理をしたかをいうものに過ぎない。また、レイアウト自体は、他の同種の販促ツールと比べ、特徴的なものがあるとはいえない。 さらに、本件デザイン画において、いかなる思想や感情が表現されているのか、どの点をもって、これが美術の範囲に属するといえるのか、明らかとはいえない。 しかも、これらの商品についての08AWツールにおける企画は被告らが立案したものであり、上記各商品にかかる08AWツールに使用した写真は被告らが原告に対し提供したものであり、パッケージデザインやロゴなども、いずれも被告らが原告に提供したものである(前記2(1))。 以上によると、本件各デザイン画のうちエステサポート、スタイリング満足に関する部分の作成に際し、原告の行った作業の結果について、著作物性を認めることのできる表現部分があるとはいえず(原告が主張する上記デザインポイントを、著作権を理由に原告に独占させるべき表現方法ということはできない。)、他に著作物性を認めることのできる表現部分の主張、立証はない。 (イ) f-ing コレクションについて 原告は、f-ing コレクションに関する08AWツールのデザインポイントとして、@ 上質感を加えた表現と、豊富な商品群のコーディネートの楽しさの表現、A 見やすく、ロンドンの地下鉄路線図を使用したこと、ロゴに金ホットスタンプを用いて立体感を出し、高級感を演出したこと、B コーディネートBook をプラスチック製のリングファイルで取り付け、インデックス機能も取り付けたことなどを挙げる。 しかし、これらも上記(ア)と同様、いずれも顧客の注意を引き、購入意欲を喚起するために、被告らから提供された素材をどのようにレイアウトし、見やすさを工夫したかをいうものに過ぎない。 他に、本件デザイン画のうちf-ing コレクションに関する部分の作成に際し、原告の行った作業の結果について、著作物性を認めることのできる表現部分の主張、立証はない。 (ウ) f-ing モテスト・モテレギについて 原告は、f-ing モテスト・モテレギに関する08AWツールのデザインポイントとして、@ モデルの年齢やエレガントかつキュート、それでいて大人の装いが着こなせるイメージを考慮し、グランドカラーとして落ち着いて華やかな色を選び、モデルの年齢を意識した「等身大」のイメージを表現することとしたこと、モテストについては、A 秋冬感を演出するためにマスタードイエローとボルドーレッドをテーマカラーとしたこと、B ブラックやゴールドの帯を用いたり、星のモチーフを用いたりすることで、訴求点を演出し、C 無駄なデザイン要素や色目を省くことにより、上質な大人っぽさを表現し、D 売り場での可視性を考慮し、モテレギについては、上記Cのほか、E 秋冬感を演出するためシルバーとスノーホワイトをテーマカラーとしたこと、F モテストに比べ、カジュアル用であることを考慮し、結晶のモチーフを用いることとしたことなどを挙げる。 しかし、これらも上記(ア)と同様、いずれも顧客の注意を引き、購入意欲を喚起するために、被告らから提供された素材をどのようにレイアウトし、テーマカラーやモチーフの選択をしたかをいうものに過ぎない。 他に、本件デザイン画のうちf-ing モテスト・モテレギに関する部分の作成に際し、原告の行った作業の結果について、著作物性を認めることのできる表現部分の主張、立証はない。 ウ 被告らの指示 そもそも、本件デザイン画は、原告と被告らとの間の契約関係に基づき、被告福助の販促ツールとして制作されたものであるから、原告は、本件デザイン画を制作するに当たっては、契約上の義務として、被告プラスアイ及び被告福助の指示に、当然に従わなければならないものであることが明らかである。現に、前記(1)のとおり、原告は、被告らの指示に従って本件デザイン画を制作している。 これらのことからすれば、原告は、被告らの指示に従って本件デザイン画を制作しなければならず、少なくとも被告らの意向に反して創作性を発揮することはおよそ許されない関係にあったものといえる。 エ まとめ 以上によると、本件デザイン画に著作物性を認めることはできず、仮に、素材の中に著作物性を認めることのできるものがあるとしても、原告の作業によって、新たな創作がされたと認めることはできない。 したがって、原告は、本件デザイン画について、著作権を有しているとはいえない。 (3) 著作権の譲渡、複製等の許諾 被告らは、仮に、本件デザイン画が著作物と認められるとしても、原告から著作権の譲渡を受けたか、複製等の許諾を得ていると主張するところ、念のために、上記主張について検討しておくこととする。 ア 著作権の譲渡 著作権の譲渡を認めるに足りる証拠はないというべきである。 被告らは、著作権の譲渡を受けたと解するべき事情として、本件デザイン画の画像データの納品を受けたことを挙げるが、これは、著作物の複製等を許諾した場合の事情とも解することができ、これのみをもって、著作権譲渡を認めることはできない。 イ 著作物の複製等の許諾 被告らは、07AWツールでは、ミヤビデザインに制作させ、販促ツールのデータの交付を受け、これをエスアートに印刷させ、販促ツールのデザイン画を複製している。しかし、これらの印刷に際し、別途、ミヤビデザインに金銭を支払ったり、明示の許諾を受けたりしたことを示す証拠はない。 そうすると、被告プラスアイとミヤビデザインとが締結した07AWツールの制作にかかる契約では、販促ツールの製造(複製)は当然の前提となっていたことが窺える。 そして、08SSツールは、制作と製造を共に原告が担当したため、もともと、許諾行為が予定されていないが(複製行為については、製造契約に基づき、原告が行うことになる。)、08AWツールでは、07AWツールと同様、制作と製造は別の者が担当するところ、販促ツールのデータについても、07AWツールと同様、被告らが、これを使用して、複製等をすることは当然の前提となっていたと解するべきである。 そもそも、前記(2)のとおり、原告は、被告らの指示に従って本件デザイン画を制作しなければならず、少なくとも被告らの意向に反して創作性を発揮することは許されない関係にあったものである。そうすると、原告と被告らとの間では、原告が、少なくとも被告らに対しては、本件デザイン画について著作物性を主張したり、著作権を行使したりしない合意があったものということもできる。 なお、前記1(5)のとおり、原告は、本件デザイン画のデータを被告プラスアイに交付するに当たり、複製等の禁止を伝えている。 しかし、既に、08AWツールについて、上記のとおり、提供したデータを使用して複製等することが当然の前提となっている合意が成立している以上、これに従って、本件デザイン画の画像データを交付した場合、同データを使用して、本件デザイン画を複製等することを拒むことはできないというべきである。 原告としては、複製等を回避するために、上記画像データの交付をしなければ、08AWツール契約(制作)について、履行遅滞による債務不履行の責任を負うことになると考える。 (4) 著作者人格権の成否 上記(2)のとおりであるから、本件デザイン画について著作者人格権が発生することもないというべきである。 また、上記(3)で述べた事情からすると、仮に、本件デザイン画について著作権及び著作者人格権が発生したとしても、被告らにおいて、本件デザイン画の複製だけでなく、翻案も許諾されていたと解する以上、同一性保持権を行使することは予定されていなかったということができる。 3 本訴請求2(民法641条の解除に伴う損害賠償請求)について (1) 原告は、08AWツールの製造にかかる契約が締結され、これを被告プラスアイが解除(民法641条)したと主張する。 しかし、08AWツールの制作については請負契約が成立しているが、同ツールの製造については、原告と被告プラスアイの間に、請負契約が締結されたとは認められず、したがって、その解除を認めることもできない。 (2) すなわち、前記1(2)のとおり、07AWツールでは、制作と製造は別の業者が行っていた。08SSツールで、原告が制作だけでなく、製造(印刷)を請け負うに至ったのは、前記1(3)イのとおり、07AWツールの印刷管理を行っていたP1が関与できないという事情があったからで、制作を請け負った業者が、製造についても請け負うとは限らないというべきである。 しかも、前記1(3)のとおり、被告プラスアイとしては、08SSツールの製造に際し、07AWツールの予算と同程度に抑えようとしたにもかかわらず、08SSツールの製造費が、予算を大幅に超えた。このため、被告プラスアイとしては、08AWツールの製造に当たっては、予算を超えないように、他の業者に対しても相見積りを出させ、製造を担当させる業者の選定を慎重に進めていた。その結果、前記1(4)のとおり、被告プラスアイは、見積りの詳細を説明しようとしない原告に対し、このまま納期の関係から他の業者へ発注することが困難になってから、高い製造費を請求されては困ると考え、相見積りをさせていた昌和印刷に製造を発注することとしたのであって、被告プラスアイが08AWツールの製造を原告に対し発注したと認めるに足りる証拠はない。 (3) 原告の主張について ア 08SSツール契約との対比 原告は、08SSツール契約については制作と製造が一体であったことから、08SSツールの継続案件である08AWツール契約も、制作と製造が一体となった契約であると主張する。 しかし、前記(2)で述べたとおり、07AWツールでは、制作と製造は別の業者が請け負ったこと(前記1(2))、08SSツールにおいても、制作と製造を同一の業者が行うことが当然に予定されていたわけではなく、同一の業者が行うこととなったのは、印刷管理を担当していたP1が、08SSツールでは担当することができなかったことによる。 また、08AWツールでは、08SSツールで作成した契約書(甲11)のような契約書が作成された事実はなく、また、原告が08AWツールの製造を請け負うことを明示的に示す合意を認める証拠もない。 イ 一部の履行着手 原告は、製造の一部を履行していたことから、08AWツールの製造にかかる請負契約が成立していたと主張する。 しかし、製造の一部履行を認めるに足りる証拠はなく、また、仮に、履行の一部に着手していたとしても、直ちに、08AWツールの製造にかかる請負契約の締結を認めることはできない。そもそも、一部の履行着手があったとする原告の主張は、本訴提起後2年以上も経過してから提出された原告代表者の陳述書において突如述べられたものであって、それ自体、相当に疑わしいものというべきである。 なお、前記1(4)ウのとおり、展示会用の販促ツールについては、平成20年3月の時点で製造されているはずであるが、誰が製造したかは不明である(甲12には上記製造にかかる費用の請求はされていない。)。いずれにしても、上記展示会のための販促ツールの製造が、残りの製造についての契約の成否を決定づけるものとはいえない。 ウ 制作費のディスカウントについて 原告は、08AWツールの制作費を08SSツールに比べディスカウントしており、その理由は、08AWツール契約が制作だけでなく、製造を含んでいたからであると主張する。 しかし、その単価を比較すると、ディスカウント率は原告の主張するほど大きくはないと考えられる(甲9の1・2、乙6)。たしかに、制作費の総額は低くなっているが、その理由は、08AWツールでは、08SSツールに比べ、アイテム数を減らしたことによるものであり、単価自体に大きな違いはない(内容が同一でないため、正確な比較は困難であるが、上記見積書の単価を比較すると、デザインレイアウトの単価が低くなっているほかは、それほど大きな違いは見られない。なお、アイテム数を減らしたのは、予算を抑えるためであったことが推測される。)。 しかも、08SSツールの継続案件であるからこそ、08AWツールの制作については、08SSツールの際のノウハウを活かすことができ、制作時間等を短縮できることから、単価を下げることは、むしろ、当然のことと考えられていたことが窺え(だからこそ、被告プラスアイは、これを期待して、原告に制作を請け負わせたと考えられる。)、原告が、単価を下げたことにより、特別な見返りを期待していたとはいえない。 仮に、原告が、何らかの見返りを期待していたとしても、それは期待に過ぎず、08AWツールの製造にかかる契約締結の成立を根拠付けるものとはならない。 4 本訴請求3(契約締結上の過失に基づく損害賠償請求)について (1) 原告は、08AWツール契約は、製造も一体となった契約であると考え、08AWツールの制作費を前年比80%減のディスカウントをしたものであり、被告プラスアイは、そのことを知悉していたのであるから、被告プラスアイとしては、08AWツール契約が制作にかかるものであって、製造を含まないことを説明し、ディスカウントが製造契約の締結に影響がないことを説明すべきであったと主張する。 たしかに、原告は、08AWツールについて、製造についても請け負うことができると期待していたと認めることはできるが、前記1(4)オのとおり、被告プラスアイが08AWツールについて、原告に製造を発注しなかった理由は、原告が製造費の見積りの詳細を明らかにしなかったことによるものであり、契約締結上の過失が被告プラスアイにあったと認めることはできない。 (2) たしかに、前記1(4)エのとおり、原告が、08AWツールの製造についても、これを請け負うことを期待していただけでなく、被告プラスアイも、これを予定していたことが認められる。 それにもかかわらず、被告プラスアイが、08AWツールの製造を原告でなく、他の業者に請け負わせることとしたのは、前記3(2)のとおり、被告プラスアイとしては、08SSツールの製造費が予算を大幅に超えたため、08AWツールの製造に当たっては、予算を超えないようにする必要があったところ、原告が見積りの詳細を明らかにしなかったことによるものである。被告プラスアイにとって、契約締結を見送らざるを得なかった事情があったというべきである。 また、上述したとおり、原告や被告プラスアイが、08AWツールの製造を原告が請け負うことについて期待や予定をしていたとしても、被告プラスアイに、原告の上記期待を保護しなければならない義務が生じるとはいえない。 (3) 不要なディスカウントの有無について 原告は、被告プラスアイが、08AWツール契約が製造を含まないことを説明しなかったことにより、不要なディスカウントをしたと主張する。 しかし、前記3(3)ウのとおり、ディスカウント率は大きくなく、しかも、継続案件であるため、前回の単価を下回ることは当然のことと考えられていた(だから、被告プラスアイは、原告に再び発注することとした。)。 また、原告が08AWツールの制作費をディスカウントすることによって、08AWツールの製造についての発注を期待していたからといって、被告プラスアイが、その期待に必ず応えなければならないわけでもない。 したがって、08AWツールの制作費の見積りの内容をもって、契約締結上の過失の成否に影響を及ぼす事情とみることはできない。 5 反訴請求1(08SSツールにおける原告の債務不履行に基づく損害賠償請求)について (1) 被告プラスアイは、原告が、利益率についての報告義務を怠り、また、二次下請の禁止義務に違反して、二次下請を用いたことにより、損害を被ったと主張する。 たしかに、前記1(3)のとおり、当初、原告は、08SSツールの製造費のうち13%の利益を取得することが予定され、その後、コストダウンの要請があり、原告から約8%の利益を取得することになる見込みが示されたが、実際には、29.7%の利益を取得していたことが認められる。 (2) 報告義務違反の有無について 被告プラスアイは、原告が、08SSツール契約上の債務として、被告プラスアイに対する報告義務を負う根拠として、印刷管理費の約定があったと主張する。 たしかに、前記1(3)エのとおり、08SSツール契約において、製造費のうち13%を原告の利益とすることが予定されていたことが認められるが、13%とする旨の合意が成立したわけではない(その後、コストダウン交渉が頻繁に行われている。)。 しかも、その後、前記1(3)クのとおり、原告と被告プラスアイは、平成19年12月30日、契約書(甲11)を作成し、制作費及び製造費を確定させた(金額が後日記載されたとしても、前述したとおり、遅くとも平成20年1月13日ころまでには記載されたと認められる。)。 そして、前記1(3)サ及び証拠(甲20の1・2)によると、最終的に原告の利益率が確定したのは、上記契約書作成の後、下請業者からの請求額が確定したと考えられる同年2月ころであったと認められる。 以上によると、原告に、被告プラスアイに対して、利益率を報告する義務を認めることは困難である。そもそも、代金額について合意をした後に経費を削減した結果、当初よりも高い利益率を得られたからといって、そのことを契約の相手方に報告する義務があるとまでは言い難い。 (3) 二次下請の禁止 被告プラスアイは、08SSツール契約において、二次下請の禁止が合意されていた旨主張する。 たしかに、前記1(3)オのとおり、原告は、08SSツールの印刷業者をエスアートからイワモトに変更するに際し、イワモト以外にできない加工方法をさせるためであると説明した。 しかし、イワモトが請け負った印刷業務を、さらに他の業者に下請に出すこと自体を禁止するものとまでいうことはできないと考える(イワモトの実際に行った管理業務がどのようなものであったかは不明であるが、管理業務の内容によっては、上記説明と矛盾するものとはいえない。)。 (4) 価格調整を遅らせたか否か 被告プラスアイは、原告がわざと価格調整を遅らせて、高い金額で受注させたと主張する。 しかし、前記1(3)カ、キのとおり、原告は、08SSツールの製造費の見積りを放置していたわけではなく、被告プラスアイとコストダウンの協議を行っており、これに伴って、イワモトらとの価格交渉も行っていたことが推認される。 その後、平成19年12月30日に契約書を作成し、本件08SSツール契約の代金を確定させたものであるところ、故意に価格調整を遅らせたということはできない(前記1(3)クのとおり、原告としては、むしろ、度重なるコストダウンの要請に対し、不信感を募らせていた結果、契約書の作成や連帯保証の覚書の差し入れを要請するに至ったと考えられる。)。 (5) 梱包発送費、追加製造費 被告プラスアイは、原告が、梱包発送費や追加製造費を実費として請求しながら、下請に負担させて、自らこれを利益として取得していると主張する。 たしかに、これが望ましい行為ということはできないものの、上記(2)で検討した経緯からすると、上記行為が被告プラスアイに対する関係で債務不履行に当たるとまでいうことは困難である。 (6) まとめ 以上のとおり、被告プラスアイが主張する事由をもって、08SSツール契約上の債務不履行を認めることはできない。 6 反訴請求2(08SSツールにおける原告の不法行為に基づく損害賠償請求)について 被告プラスアイは、原告が、08SSツールについて、虚偽の製造費を報告したことなどにより、被告プラスアイに損害を与えたと主張する。 しかし、前記5のとおり、原告に、08SSツールの製造費についての報告義務を認めることはできず、また、二次下請禁止の特約や、梱包発送費等の名目で費用を騙取したと認めることもできない。 第5 結 論 以上のとおり、原告の本訴請求1ないし3、被告プラスアイの反訴請求1、2は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 達野ゆき 裁判官 西田昌吾 (別紙)デザイン画目録 フクスケ2008AW販促物 ラフ制作リスト 1.エステサポート
(別紙)ホームページ目録 被告プラスアイシーオー株式会社 ドメイン名 <省略> のドメイン名及びそのサブドメイン名に表示されるホームページ 被告福助株式会社 ドメイン名 <省略> のドメイン名及びそのサブドメイン名に表示されるホームページ (別紙)謝罪広告目録 当社らは、貴社の著作物である「福助08AWデザイン」につき、貴社に無断で複製、翻案し、あたかも当社らの著作物かのように説明を行って頒布し、貴社の著作権、著作者人格権を侵害し、貴社に多大な御迷惑をお掛けしたことを、ここに謝罪し、あわせて今後再びこのような行為を行わないことを誓います。 平成 年 月 日 大阪市<以下略> プラスアイシーオー株式会社 代表取締役 P5 東京都渋谷区<以下略> 福助株式会社 代表取締役 P6 株式会社ヴァズインク殿 |
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