判例全文 line
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【事件名】取扱説明書の編集著作物・著作物性事件
【年月日】平成23年12月15日
 大阪地裁 平成22年(ワ)第11439号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成23年10月3日)

判決
原告 ニューメディカ・テック株式会社
同訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 辻村和彦
同 井口喜久治
同 川端さとみ
同 森本純
同 中村理紗
同 山崎道雄
同 辻淳子
同 藤野睦子
被告 ニューメディカ・テック販売株式会社(以下「被告NMT販売」という。)
被告 株式会社大倉(以下「被告大倉」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 川下清
同 今田晋一
同 高橋幸平


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告らは、別紙1ないし3の各取扱説明書を作成し又は頒布してはならない。
(2) 被告NMT販売は、原告に対し、283万2000円及びこれに対する平成22年8月13日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(3) 被告大倉は、原告に対し、168万6300円及びこれに対する平成22年8月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は、被告らの負担とする。
(5) 仮執行宣言
2 被告ら
 主文同旨
第2 事案の概要
1 前提事実(いずれも当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告
 原告は、浄水器・浄水装置等の輸入、製造、販売、設計及び取付工事並びに保守点検等を目的とする株式会社である。
イ 被告ら
 被告NMT販売は、浄水器・浄水装置等の輸出入、販売及び取付工事並びに保守点検等を目的とする株式会社である。
 被告大倉は、建設業、宅地造成業の外、浄水器のレンタル及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告各取扱説明書
 原告は、CV−1500EX(以下「原告製品1の1」という。)、CV−1500SR(以下「原告製品1の2」といい、原告製品1の1と併せて「原告製品1」という。)、CVQ−2000(以下、「原告製品2」という。)の各浄水器(以下、併せて「原告各製品」という。)を販売している。原告各製品の販売に際し、原告製品1の1には別紙4の取扱説明書(以下「原告取扱説明書1の1」という。)が、原告製品1の2には別紙5の取扱説明書(以下「原告取扱説明書1の2」という。)が、原告製品2には別紙6の取扱説明書(以下「原告取扱説明書2」という。)が、それぞれ付属している。
(3) 被告各取扱説明書
 被告らは、GW−1500EX(以下「被告製品1」という。)、CVQ−2000EX(以下「被告製品2」という。)の各浄水器(以下、併せて「被告各製品」という。)を販売ないし貸与している。
 被告各製品の販売・貸与に際し、遅くとも平成22年3月までは、被告製品1には別紙1の取扱説明書(以下「被告取扱説明書1」という。)が、被告製品2には別紙2の取扱説明書(以下「被告取扱説明書2」という。)が、それぞれ付属していた。
 また、現在、被告製品1の販売・貸与に際しては、別紙3の取扱説明書(以下「被告取扱説明書3」といい、被告取扱説明書1、2と併せて「被告各取扱説明書」という。)が付属している。
2 原告の請求
 原告は、被告取扱説明書1、3の作成・頒布が、原告取扱説明書1に係る編集著作権(主位的主張)、全体の著作権(予備的主張1)、各頁の著作権(予備的主張2)、法的に保護された利益(予備的主張3)を侵害し、被告取扱説明書2の作成・頒布が、原告取扱説明書2に係るこれらの権利・利益を侵害するとして、@被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告各取扱説明書の作成・頒布の差止めを、A被告NMT販売に対し、不法行為に基づき、283万2000円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を、B被告大倉に対し、不法行為に基づき、168万6300円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を、それぞれ求めている。
3 争点
(1) 原告各取扱説明書は編集著作物か(主位的主張関係)(争点1)
(2) 原告各取扱説明書は著作物か(予備的主張1・2関係)(争点2)
(3) 被告各取扱説明書は原告各取扱説明書に類似しているか(争点3)
(4) 被告取扱説明書1は原告取扱説明書1の2に依拠したものか(争点4)
(5) 被告取扱説明書2の作成者(争点5)
(6) 被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か(予備的主張3関係)(争点6)
(7) 原告の損害(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告各取扱説明書は編集著作物か)について
【原告の主張】
(1) 取扱説明書の編集著作物性
 編集著作物は、素材の選択又は配列に個性があれば創作性が肯定され、創作性が否定されるのは、ありふれた表現の場合に限られる。単なる事実やデータ等を編集した事実的編集著作物でない限り、抽象的な編集体系の独創性は問題とならない。
 したがって、取扱説明書においても、作者の個性が素材の選択又は配列に何らかの形で現れていれば、広く編集著作物性が肯定される。
(2) 原告各取扱説明書の工夫
 原告各取扱説明書は、@製品の概要、設置方法・使用方法・メンテナンス方法につき、一般消費者であっても容易に理解できるよう、わかりやすく伝える、A製品の設置、使用、保管に起因する事故を防止し、安全性を図る、B製品のブランド価値の向上を図るといった目的を実現するため、以下のような創意工夫が施されたものである。
ア 消費者にわかりやすく伝えるといった観点から、図面、記号、マークを多用し、説明文には具体例を複数設けている。
イ 高品質であることを示すため、NASAで開発されたこと、アメリカ水質協会やFDA(米国食品医薬品局)に公認されていることを内容とする説明文を採用し、アメリカ水質協会のロゴマークも掲載している。
ウ 安全性確保の観点から、設置方法や使用方法の説明の前に、原告各取扱説明書の趣旨及び安全上の遵守事項を掲載している。
エ 特に強調したい事項は、文字を大きくする、四角線で囲む、下線を付す、インパクトのある単語やマークを見出しにするなどしている。
オ 図面は、正確性よりもわかりやすさを重視して、強調したい部分は拡大図を載せ、説明不要な箇所は省略し、その他、記号の使用、記載場所、大きさ等にも工夫が施され、イラスト図面の様相を呈している。
(3) 原告各取扱説明書の記載
 前記(2)の目的・工夫に基づいて、原告各取扱説明書には、具体的に、次のような表現がされている。
ア 表紙
 中央に製品の写真が掲載され、左右上部にブランドが表示されている。
イ 2頁目
 上段に「逆浸透膜浄水器」の説明を設け、中段では、原告各製品の特徴を、ダイヤグラムを使用することで視覚的に訴え、わかりやすく説明している。後段には、具体的適用例を挙げて、消費者にその効能を訴えかけている。
ウ 4頁目
 各部の説明を視覚的に理解できるよう、簡略化された図面が使用されている。
エ 8ないし10頁目
 原告取扱説明書1では、いずれの頁についても、左上部から中部にかけて図面を使用し、右上部から中部にかけて説明を行い、中部から下部にかけて注意事項を枠囲いして記載することで、統一感をとり、読みやすくなるよう工夫がされている。
 原告取扱説明書2では、図面を使用しているのは設置方法の説明のみであるが、いずれの頁についても、まず説明を行い、その後に注意事項を枠囲いして記載することで、統一感をとり、読みやすくなるよう工夫されている。
【被告らの主張】
(1) 取扱説明書の編集著作物性
 取扱説明書には一般に、製品の説明、使用方法、使用上の注意、メンテナンスに関する記載がされており、その素材の収集、選別、配列に特段の創作性が認められるものではない。
 特に、同様の機能を有する製品であれば、必然的に、その記載内容に大差がなく、記載方法(配列、分類等)も自ずと限定されてくるのであり、創作性が認められるものではない。
 しかも、原告各取扱説明書と被告各取扱説明書は、取り扱う素材(製品、製品名、製品の写真、シリーズ名など)が異なっており、編集著作物性を論じる前提を欠く。
(2) 原告各取扱説明書が編集著作物ではないこと
 以下では原告取扱説明書1の1について論じるが、原告取扱説明書1の2についても同様である。
 また、後記5で述べるとおり、被告取扱説明書2は、原告が作成したものであって、被告らによる著作権侵害は問題とならないから、被告取扱説明書2に対応する原告取扱説明書2については論じない。
ア 1頁目
 上段に製品名、中央に製品の写真、下段に注意書きという配列は、製品名及び製品の形態を際立たせるという観点からの、極めてありふれた配列方法であり、多くの取扱説明書で同様の配列がされている。
イ 2頁目
 上段の逆浸透膜システムの説明は、これ以外の内容はありえないし、下段の具体例は、浄水の効果を具体的に記載したものであるが、ありふれた内容である。
 中段については、素材が異なるため、著作権侵害を論ずる前提を欠く。製品の特徴、具体例という記載の配列方法も、取扱説明書としてありふれたものである。
ウ 3頁目
 取扱説明書の目次は概ね、製品各部の説明、安全上の注意、正しい使用方法、メンテナンス、トラブルへの対処方法が抽出され、配列についても、最初は製品各部の説明、最後はトラブルへの対処方法という順序であるから、極めてありふれた内容である。
エ 4頁目
 素材が異なるため、著作権侵害を論ずる前提を欠く。
オ 5頁目
 使用する前の注意書きは、どのような取扱説明書にも、ほぼ同様の記載がされる。
カ 6頁目
 「警告」として記載されている内容も、浄水器であれば、多少の表現の違いこそあれ、概ね同じ内容となる。
キ 7頁目
 「注意」事項の記載も、浄水器の性質上、必然的に同様の記載となる。
ク 8頁目
 浄水器の「正しい設置の仕方」は、必然的に同様の記載となる。
 また、製品図の素材が異なる。
ケ 9頁目
 同様の機器の説明としてありふれた内容である。
コ 10頁目
 浄水器のメンテナンス方法としてありふれた内容である。
サ 11頁目
 頻繁に起こりうる浄水器のトラブル事象には限りがあり、その対処法も、同様の機能を有する浄水器である以上、必然的に同様の記載となる。
シ 12頁目
 保証範囲外の事項のうち、@〜Bは、類似する機能を有する製品であれば、同様の記載となる内容である。C〜Kは、多くの製品で共通する一般的な内容であるし、Lは、素材が異なる。
ス 13頁目
 素材が異なるため、著作権侵害を論ずる前提を欠く。
2 争点2(原告各取扱説明書は著作物か)について
【原告の主張】
(1) 全体としての著作物性(予備的主張1)
 浄水器の取扱説明書において、個々の文章、写真又は図形の表現は、多種多様なものを想定できる。そして、原告各取扱説明書は、相当程度の分量にわたり、原告各製品の取扱方法等を説明するべく、文章、写真、図面等が掲載されている。
 加えて、原告各取扱説明書は、前記1【原告の主張】(2)の目的を実現するべく、個々の表現においても、インパクトのある表現、わかりやすい表現、読み手の注意を惹く表現が選択されている。
 したがって、原告各取扱説明書には創作性が認められ、その全体が単体の著作物にあたる。
(2) 各頁の著作物性(予備的主張2)
 原告各取扱説明書の以下の頁には、それぞれ、前記1【原告の主張】(2)の目的を実現するための創意工夫が施されており、当該頁は、創作的表現として、著作物にあたる。
ア 原告取扱説明書1の1
(ア) 2頁目
 上段では、「逆浸透膜浄水器とは」と大きく記載して、読み手の注意を惹きつけ、その上で、「逆浸透膜浄水器」という聞き慣れない用語をわかりやすく説明しつつ、高品質であることを際立たせるため、NASAで開発されたこと、アメリカ水質協会やFDA(米国食品医薬品局)に公認されていることが記載されている。また、アメリカ水質協会公認であることが一目でわかるようにするため、そのロゴマークが掲載されている。
 中段では、製品の特徴を、浄水力、ミネラルバランス、衛生的というインパクトある単語で簡潔にまとめ、ダイヤグラムを使用することで視覚的に訴え、わかりやすい文章で説明している。
 後段では、浄水効果につき具体的適用例を挙げ、消費者に対しその効能を訴えかけている。
(イ) 4頁目
 上方に、正面図、正面カバーを取り外した状態を示す図、背面カバー図を並べて記載し、製品の全体像が瞬時に把握できるよう工夫されている。
 また、説明に不要な部材は省略し、重要部材については部分拡大する等の工夫がされている。
 さらに、各部材に記号を付した上、図面と同じ頁で部材名を記載することで、各部材の名称を覚えやすくしている。
(ウ) 5頁目
 上段で、説明文に枠囲いをし、三角形の中に「!」を配したマーク及び「警告」という大きな文字からなる見出しを付すといった方法で、読み手の注意を惹きつけるよう工夫がされている。
(エ) 6頁目
 冒頭には、読み手の注意を惹きつけるべく、「必ずお守りください。」というインパクトのある見出しが、大きな文字で記載され、枠囲いされている。
 中段の各表示及びマークの説明も、大きな文字で記載し、枠囲いする等して、読み手の注意を惹くよう工夫されている。
 下段の厳守事項及び禁止事項の説明文も、枠囲いされ、三角形の中に「!」が配されたマーク及び「警告」の文字からなる見出し、円形の中に「!」が配されたマーク及び「厳守」の文字からなる見出し、円形の中に斜線が配されたマーク及び「禁止」の文字からなる見出しが付されており、読み手の注意を惹くよう工夫されている。
(オ) 7頁目
 冒頭には、三角形の中に「!」を配したマーク及び「注意」という大きな文字からなる見出しがあり、上方には円形の中に「!」を配したマーク及び「厳守」の文字からなる見出し、中段には円形の中に斜線を配したマーク及び「禁止」の文字からなる見出しがあり、読み手の注意を惹くよう工夫されている。
 説明文は、枠囲いされ、事故原因として多いものについては書体を太字に変更し、下線を付す等の工夫がされている。
(カ) 8頁目
 Aでは、説明文が理解しやすいようにイラスト図でサポートしており、個性が十分に現れている。
 中段には、説明に必要な部分のみを選択し、矢印等を用いるなど工夫された図面が記載されている。
 下段には、設置に際しての注意事項について、安全性確保等の観点から、三角形の中に「!」を配したマーク及び「注意」の文字からなる見出し、円形の中に斜線を配したマーク及び「禁止」の文字からなる見出しを付し、読み手の注意を惹きつけるよう工夫した記載がされている。
(キ) 11頁目
 トラブル事例、その原因及び対処法につき、表形式を採用するといった工夫がされている。
(ク) 12頁目
 説明文を枠囲いし、三角形の中に「!」を配したマーク及び「注意」の文字からなる見出しを付し、特にトラブルの多い案件は、書体を変更し文字を大きくする等、読み手の注意を引く工夫がされている。
イ 原告取扱説明書1の2
(ア) 2、4〜8、11、12頁目
 原告取扱説明書1の1と同様である。
(イ) 9頁目
 上段から中段にかけて、使用方法の説明に必要な部分のみを選択し、矢印を用いるなどわかりやすく工夫された図面を記載している。
 設置に際しての注意事項の説明には、円形の中に「!」を配したマーク、「厳守」の文字及び「必ず実行して下さい」という大きな文字で記載された文章からなる見出しがあり、読み手の注意を惹きつけるよう工夫されている。
(ウ) 10頁目
 メンテナンスに際しての注意事項、禁止事項の説明文には、安全性確保等の観点から、三角形の中に「!」を配したマーク及び「注意」の文字からなる見出し、丸印の中に斜線を配したマーク及び「禁止」の文字からなる見出しが付され、四角線で囲む、使用禁止薬品の簡単なイラストを記載するなど、読み手の注意を惹きつける工夫がされている。
ウ 原告取扱説明書2
(ア) 2、5、7頁目
 原告取扱説明書1と同様である。
(イ) 1頁目
 いかなる製品に関する取扱説明書であるかを瞬時に判断できるよう、上段には、比較的大きな文字で、取扱説明書であること、製品の種類、製品名、型番が記載されており、中段には、製品の写真が大きく掲載されている。
 また、ブランド価値を高めるため、左上には製品名及び製品名のロゴが配され、右下には原告名及び原告を示すロゴが配されている。
 さらに、中段に掲載されている写真は、製品を美しく高品質に見せるため、被写体の選定、角度、光量の調節、背景、照明等に工夫がされている。
(ウ) 4頁目
 断面図(正面カバーを取り外した図)と正面図を並べて記載しており、製品の全体像が瞬時に把握できるよう工夫されている。また、図面では、説明に重要な部材を選定し、不要な部材は省略している。さらに、各部材に記号を付した上、図面と同じ頁で部材名を記載することで、各部材の名称を覚えやすくするよう工夫している。
(エ) 8頁目
 上段には、説明に必要な部分のみを選択し、矢印等を用いるなど工夫された図面を記載している。
 下段には、設置に際しての注意事項について、安全性確保等の観点から、三角形の中に「!」を配したマーク及び「注意」の文字からなる見出し、円形の中に斜線を配したマーク及び「禁止」の文字からなる見出しを配し、枠囲いをするといった、読み手の注意を惹きつける工夫がされている。
(オ) 11頁目
 水道水から専用蛇口まで水が流れる複雑な仕組みにつき、わかりやすいフロー図で説明がされている。読み手にわかりやすく伝えるために、記載事項の選定、説明文章の内容、イラストのいずれにも工夫がされており、個性が現れている。
【被告らの主張】
(1) 全体としての著作物性について
 取扱説明書の記載内容は、製品の各種情報の説明であるから、必然的にありふれたものにならざるを得ず、同種機能を有する製品であれば、なおさらである。
 原告各取扱説明書には、原告各製品特有といいうる記載(逆浸透膜の説明、ピュアウォーターの作り方、メンテナンス方法など)が若干あるものの、原告各製品と被告各製品は、同じ逆浸透膜浄水器であり、同種の機能・構造を有するから、そうした説明が共通するのは当然である。
 また、その余の記載は、他種の製品にも一般に共通するような、ごくありふれた表現である。
 したがって、原告各取扱説明書が著作物であるとはいえない。
(2) 各頁の著作物性について
 各頁の記載は、製品の説明や注意書きとして、一般的なレイアウト、表現、図柄であり、非常にありふれたものである。
 さらに、同種機能を有する浄水器であれば必然的に、注意すべき点、よくあるトラブル、機能の説明なども、同様のものとなる。
3 争点3(被告各取扱説明書は原告各取扱説明書に類似しているか)について
【原告の主張】
 以下のとおり、被告各取扱説明書は原告各取扱説明書のデッドコピーであり、原告各取扱説明書に類似する。
(1) 被告取扱説明書1
ア 原告取扱説明書1の1との対比
 3、5、6、13頁目において原告取扱説明書1の1と一致するほか、次の点が一致している。
(ア) 1頁目
 右上最上段に「逆浸透方式による高性能浄水器」、その下にシリーズ名、その下に「取扱説明書」、製品名の記載があることが一致する。
 中央に製品の写真を使用していることが一致する。
 下段の記載内容が一致する。
(イ) 2頁目
 上段は、逆浸透膜浄水器の説明内容が、「クリスタル・ヴァレーは米国宇宙局NASAで開発された最先端の逆浸透膜を取り入れた浄水器です。」の表現の有無以外は一致する。
 中段は、製品の特徴の記載内容及びダイヤグラムの形式が一致する。
 下段は、効果の具体的適用例の内容が一致する。
(ウ) 4頁目
 各部の名称の説明のために、上段に図面を使用し、下段に各部の名称を3列に分けて記載していることが一致する。
(エ) 7頁目
 上段1段落目の「電源を抜き、」及び下段5段落目の「ACアダプターには、絶対に水をかけないでください。」以外の記載内容が一致する。
(オ) 8頁目
 左中段(図−A)の本体筐体の図と左中段注意事項の記載のうち「ACアダプターは煮こぼれ、ふきこぼれ等のお湯又は水がかかるような場所には設置しないでください。故障の原因となります。」以外の記載内容が一致する。
(カ) 9頁目
 フラッシング洗浄及び造水モードに関する記載以外の記載内容が一致する。
(キ) 10頁目
 フラッシング洗浄に関する記載及び図面以外の記載内容が一致する。
(ク) 11頁目
 症状「動かない」に関する原因・対処の記載のうち「ACアダプターのヒューズ切れ」及び「ヒューズ」の有無以外の記載内容が一致する。
(ケ) 12頁目
 「ご注意」の記載のうちLのフィルター名以外の記載内容が一致する。
(コ) 裏表紙
 項目や構成が一致する。
イ 原告取扱説明書1の2との対比
 以下のとおり、原告取扱説明書1の2は、原告取扱説明書1の1と被告取扱説明書1とが多少相違する9、10頁目のフラッシングに関する表現及び構成さえも、ほぼ同一である。
(ア) 9頁目
 左図の番号CとDが入れ替わっていること及び当該箇所の図示が異なっていること以外の記載内容が一致する。
(イ) 10頁目
 一致する。
(2) 被告取扱説明書2
 2、4、5、7、10(原告取扱説明書2では11)頁目において原告取扱説明書2と一致するほか、次の点が一致している。
ア 1頁目
 上段の製品番号、中段のJAXAマークとその説明内容、下段の2番目の■の表示以外は、記載内容が一致する。
イ 3頁目
 メンテナンスのページ数、「アフターサービス(保証)」及び「ご注意」の有無以外は一致する。
ウ 6頁目
 中段は、「禁止」、「厳守」の順番が異なる以外、記載内容が一致する。
 下段は、厳守及び禁止マークの有無、各●の記載順序、廃棄水に関する記載のうち「体調を損なうことがあります」の有無以外の記載内容が一致する。
エ 8頁目
 中段のCの記載の有無以外は一致する。
オ 9頁目(原告取扱説明書2では9、10頁目)
 「お願い」の記載内容が一致する。
 「ピュアウォーターの作り方」の注意事項は、表記の仕方が若干異なるが、記載内容は一致する。
 「メンテナンス」は、「1 お手入れ」の表記の有無以外、記載内容が一致する。
カ 11頁目(原告取扱説明書2では13頁目)
 注意事項の枠内の記載が一致する。
キ 12頁目(原告取扱説明書2では15頁目)
 仕様の記載中、型名及び付属品のうち「保証書請求ハガキ」の有無以外の記載内容が一致する。
【被告らの主張】
(1) 被告取扱説明書1について
ア 原告取扱説明書1の1との対比
(ア) 2ないし8、11ないし13頁目について
 原告の主張を認める。
(イ) 1頁目について
 原告取扱説明書1の1の「浄水器は‥‥必要といたします。」との記載が、被告取扱説明書2には存在しない。
 その余の点については、原告の主張を認める。
(ウ) 9頁目について
 フラッシング洗浄及び造水モードに関する記載、@、Aの配列、図面の番号、「ストッパーリング」の絵、図面中の「排水バルブを反時計方向にゆるめる」との記載以外の記載内容が一致しているという限度で、原告の主張を認める。
(エ) 10頁目について
 原告の主張を認めるが、原告取扱説明書1の1では、図面が用いられ、枠書きの注意事項が1つ多いなど、配列や内容に違いがある。
(オ) 裏表紙について
 項目のうち「型名」以外の部分及び構成が一致するという限度で、原告の主張を認める。
 なお、「仕様」における数字、付属品の内容も異なる。
イ 原告取扱説明書1の2との対比
(ア) 9頁目について
 原告の主張を認める。
(イ) 10頁目について
 記載内容は同一であるが、枠囲いの大きさや字の大きさは異なる。
(2) 被告取扱説明書2について
 原告の主張を認める。
4 争点4(被告取扱説明書1は原告取扱説明書1の2に依拠したものか)について
【原告の主張】
 被告取扱説明書1は、原告取扱説明書1の2のデッドコピーである。
 また、オートフラッシング機能は、原告製品1の2の販売が開始された平成13年2月から、オプションとして用意されていたところ、原告は、平成20年3月25日に原告取扱説明書1の2を作成し、同月28日には被告NMT販売の取締役に交付している。
 これらのことからすれば、被告取扱説明書1は、原告取扱説明書1の2に依拠したものといえる。
【被告らの主張】
 以下のとおり、被告取扱説明書1は原告取扱説明書1の2に先行して発行されており、これに依拠していることは、論理的にありえない。
(1) 原告取扱説明書1の2の発行時期
 原告製品1の2の旧型機はオートフラッシング機能を装備しておらず、平成21年9月以降、オートフラッシング機能を装備した原告製品1の2の販売が開始された。したがって、原告取扱説明書1の2の発行時期は、同年8月から9月頃である。
 なお、原告と被告らとの間に取引があった頃、原告の製品にオートフラッシング機能を装備したものはなかった。
(2) 被告取扱説明書1の発行時期
 被告NMT販売は、平成21年6月頃に、被告製品1の製造、販売を開始した。そして、被告取扱説明書1の発行時期は、同年5月である。
5 争点5(被告取扱説明書2の作成者)について
【原告の主張】
 被告製品2は原告製品の模倣品であり、これに添付されている被告取扱説明書2は、被告らが作成したものである。
【被告らの主張】
 被告取扱説明書2は、原告から購入した被告製品2に添付されたものであり、原告が作成したものである。
6 争点6(被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為となるか)について
【原告の主張】(予備的主張3)
 費用や労力をかけて作成した表現物を用いて営業活動が行われている場合に、当該表現物をそのままデッドコピーした上で、競合する地域において営業活動に供する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法律上保護される営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為(民法709条)を構成する。
 そして、原告各取扱説明書は、前記1【原告の主張】(2)の目的を実現するため、様々な創意工夫が施され、多大な時間と労力を費やして作成されたものであるところ、被告らは、これをデッドコピーした被告各取扱説明書を、原告が営業活動を行う近畿地方において頒布していた。
 したがって、被告らの行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして、不法行為を構成する。
【被告らの主張】
 「営業活動」のような抽象的利益は、法律上保護された利益ではない。
 また、取扱説明書は製品の付属物であり、単体で頒布しても経済的利益を生み出さないから、やはり法的保護に値する利益とはいえない。
 さらに、被告製品1は原告各製品とは異なるし、被告らが、積極的に原告の事業活動を妨害している事実もないから、原告各取扱説明書がデッドコピーされたとして、原告の営業活動において、どのような利益が、どのように侵害されたのか不明である。
 しかも、消費者は、製品を購入した後に取扱説明書を見るに過ぎず、取扱説明書が製品の売上げに貢献している事実はないから、具体的な損害や被告らの行為との因果関係も不明である。
 したがって、不法行為は成立しない。
7 争点7(原告の損害)について
【原告の主張】
(1) 被告NMT販売の行為による損害
 著作権法114条2項によれば、原告の損害と推定される被告NMT販売の利益は、次のとおり、少なくとも283万2000円となる。
ア 売上げ 2億8320万円
 被告NMT販売は、平成20年9月から平成22年6月までの22か月間に、被告各製品を次のとおり売り上げた。
(ア) 被告製品1 1億6250万円
 被告NMT販売は、上記期間中、被告大倉に単価13万7500円以上で1000台、その他の取引先に単価25万円以上で100台を販売した。
 〔計算式〕137,500×1,000+250,000×100=162,500,000
(イ) 被告製品2 1億2070万円
 被告NMT販売は、上記期間中、被告大倉に単価18万7000円以上で100台、その他の取引先に単価34万円以上で300台を販売した。
 〔計算式〕187,000×100+340,000×300=120,700,000
イ 利益率
 被告NMT販売の利益率は、20%を下らない。
ウ 寄与率
 取扱説明書は製品と一体でしか頒布されないし、取扱説明書がなければ製品の使用に支障が生じるから、被告各製品の販売により原告が被った損害は、被告NMT販売の著作権侵害行為と相当因果関係がある。
 そして、被告各製品の販売に対する被告各取扱説明書の寄与率は、5%を下らない。
エ 被告NMT販売の利益(原告の損害)
 前記アないしウによれば、被告NMT販売の得た利益は283万2000円となるから、これが原告の損害となる。
 〔計算式〕(162,500,000+120,700,000)×0.2×0.05=2,832,000
(2) 被告大倉の行為による損害
 著作権法114条2項によれば、原告の損害と推定される被告大倉の利益は、次のとおり、少なくとも168万6300円となる。
ア 売上げ 1億6863万円
 被告大倉は、平成20年9月から平成22年6月までの22か月間に、被告各製品を次のとおり貸与した。
(ア) 被告製品1 1億3860万円
 被告大倉は、上記期間中、1か月6300円の賃料で1000台を貸与した。
 〔計算式〕6,300×22×1,000=138,600,000
(イ) 被告製品2 3003万円
 被告大倉は、上記期間中、1か月1万3650円の賃料で100台を貸与した。
 〔計算式〕13,650×22×100=30,030,000
イ 利益率
 被告大倉の利益率は、20%を下らない。
ウ 寄与率
 取扱説明書は製品と一体でしか頒布されないし、取扱説明書がなければ製品の使用に支障が生じるから、被告各製品の貸与により原告が被った損害は、被告大倉の著作権侵害行為と相当因果関係がある。
 そして、被告各製品の貸与に対する被告各取扱説明書の寄与率は、5%を下らない。
エ 被告大倉の利益(原告の損害)
 前記アないしウによれば、被告大倉の得た利益は168万6300円となるから、これが原告の損害となる。
 〔計算式〕(138,600,000+30,030,000)×0.2×0.05=1,686,300
【被告NMT販売の主張】
 被告NMT販売が被告大倉に被告各製品を販売している事実は認めるが、その余は否認ないし争う。
【被告大倉の主張】
 被告大倉が被告各製品を貸与している事実と、被告製品1のレンタル価格は認めるが、その余は否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告各取扱説明書は編集著作物か)について
(1) 編集著作物性
ア 編集著作物の要件
 編集著作物とは、「編集物で、素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」であるから(著作権法12条1項)、編集著作物として著作権法の保護を受けるためには、素材の選択、配列に係る具体的な表現形式において、創作性のあることが必要である。
イ 取扱説明書の編集著作物性
 もっとも、本件のような製品の取扱説明書においては、その性質上、次のような内容や表記方法が要求され、かつ、広く採用されていると考えられる。したがって、製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するにあたっては、これらの内容や表記方法は、原則としてありふれた表記であるということができる。
(ア) 製品の概要(機能、構造、部品やその名称)、取扱方法、発生しうるトラブルやその対処方法、注意ないし禁止事項などを、文章や図面・イラストによって説明する。
(イ) 説明内容を示すタイトルを付けたり、説明内容の重要度に応じて、文字の大きさや太さに変化を付ける、強調のための文字飾りを付す、注意を促すマークを付すなどする。
(ウ) 説明内容を理解しやすくするため、説明文の近くに、製品を簡単にデフォルメしたイラストや、製品そのものの写真を掲載する。
(2) 原告各取扱説明書の創意工夫について
 原告は、原告各取扱説明書に表現された創意工夫として、@ 図面、記号、マーク、具体例の使用、A 各種団体公認の表記、B 取扱説明書の趣旨及び安全上の遵守事項の記載の先行、C 文字サイズ、文字飾り、インパクトのある単語、マークによる強調、D イラスト図面・記号の使用、記載場所、大きさ等の工夫を挙げる。
 しかしながら、取扱説明書においては、一般に、わかりやすく伝える、安全性を図るといった点が要求されるため、前記(1)イのような内容・表記が広く採用されているものであるから、上記@、C、Dの工夫は、通常行われているありふれたものといえる。また、上記@及びCと、Dのうち記載場所以外の要素は、既に選択・配列された要素に係る表記上の工夫であって、そもそも、「素材の選択」にも「素材の配列」にも該当しない。
 また、上記Aについては、原告各製品のアピールポイントの1つであるが、アピールすべきポイントが限られると、これらの要素を取扱説明書に記載する素材として選択することやその配列は、自ずと限定されることになり、創作性があるとは認められない。
 さらに、上記Bについては、設置方法、使用方法、取扱説明書の趣旨(取扱説明書の説明)、安全上の遵守事項を、どのような順序で配列するかについてであるが、まず、取扱説明書の趣旨が最初に述べられることは当然である。取扱説明書の中心となるべき、設置方法と使用方法については、製品は使用の前に設置する必要があることから、上記の順に配列されるべきである。安全上の遵守事項の記載位置については選択の余地があるが、通常、設置方法、使用方法の前か後という選択しか考えられず、しかも、その内容が重要であることから、前に記載されることはむしろ普通であると考えられる。したがって、原告各取扱説明書について、その順序に原告の権利を発生させるような創作性は認め難い。
(3) 原告各取扱説明書の記載について
 原告各取扱説明書に係る、素材の選択・配列の創作性を示す具体的表現として原告が主張する箇所のうち、前記(2)のとおりありふれた表記といえる部分以外のものは、レイアウト上の工夫をいうものにすぎない。
 また、原告各取扱説明書の各頁を見ても、写真、図面、説明文の配置については、製品の取扱説明書として一般的なものであるといえ、これを超えた創作性を認めることはできない。
(4) 結論
 以上のとおりであるから、原告各取扱説明書は、編集著作物とは認められない。
2 争点2(原告各取扱説明書は著作物か)について
(1) 全体としての著作物性
 原告が、原告各取扱説明書全体が著作物であるとする根拠は、個々の表現において、インパクトのある表現、わかりやすい表現、読み手の注意を惹く表現が選択されているというものである。
 しかしながら、原告各取扱説明書に記載されている内容は、逆浸透膜浄水器の説明、各部の名称、取扱説明書の説明、安全上の注意、設置方法、使用方法、メンテナンス、トラブル対処法、保証の範囲外となる場合についての説明である。
 そして、上記各事項は客観的事実に係るものである上、原告各取扱説明書においては、これらの客観的事実について、箇条書きあるいは短い文章により、正確を期した説明がされている。そのため、その表現は、必然的にありふれたものとならざるを得ないところ、原告は、これを超える表現上の特徴が存在すること、それが創作的表現であることについて、具体的に主張しない。
 したがって、原告各取扱説明書が、全体として著作物であるとは認められない。
(2) 各頁の著作物性
 以下、原告が著作物性を有するという各頁について、個別に著作物性の有無を検討する。
 なお、著作物といえるためには、具体的な表現上の創作性が必要であるところ、原告が、著作物性の根拠として、「わかりやすい」、「簡潔」といった抽象的工夫について主張している部分は、具体的な表現について述べるものではなく失当であるので、以下では取り上げない。
ア 原告取扱説明書1の1
 上記取扱説明書の具体的記載内容は、別紙4のとおりであるが、そのうち、原告が、著作物性があると主張する点については、次のとおりである。
(ア) 2頁目
 大きく記載すること(上段)、ダイヤグラムの使用(中段)、具体的適用例の列挙(後段)は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
 また、浄水力、ミネラルバランス、衛生的といった単語の使用(中段)をもって、表現に創作性があるということはできない。
 なお、NASAで開発されたことや、アメリカ水質協会やFDA(米国食品医薬品局)に公認されていることの記載、公認団体のロゴマークの掲載(上段)は、表現上の創意工夫について述べるものでなく、失当である。
(イ) 4頁目
 図を並べて記載すること、説明に不要な部材の省略、重要部材の部分拡大、記号の使用、図面と同じ頁における部材名の記載は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(ウ) 5頁目
 枠囲い、マーク、大きな文字等の使用や、「警告」という見出しの掲載は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(エ) 6頁目
 「必ずお守りください。」、「警告」、「厳守」、「禁止」といった見出しの掲載、大きな文字、枠囲い、マーク等の使用は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(オ) 7頁目
 「注意」、「厳守」、「禁止、」といった見出しの掲載、マーク、大きな文字、枠囲い、太字体、下線等の使用は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(カ) 8頁目
 イラスト図、矢印、マーク等の使用、「注意」、「禁止」といった見出しの掲載は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(キ) 11頁目
 表形式の採用は、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(ク) 12頁目
 枠囲い、マークの使用、「注意」という見出しの掲載、書体の変更や文字を大きくするといった手法は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
イ 原告取扱説明書1の2
 上記取扱説明書の具体的記載内容は、別紙5のとおりであるが、そのうち、原告が、著作物性があると主張する点については、次のとおりである。
(ア) 2、4〜8、11、12頁目
 原告取扱説明書1の1に係る判断と同様である。
(イ) 9頁目
 必要部分のみを選択した図面の掲載、矢印、マーク、大きな文字等の使用、「厳守」、「必ず実行して下さい」といった見出しは、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(ウ) 10頁目
 マークの使用、「注意」、「禁止」といった見出しの掲載、四角線で囲む、イラストの掲載といった手法は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
ウ 原告取扱説明書2
 上記取扱説明書の具体的記載内容は、別紙6のとおりであるが、そのうち、原告が、著作物性があると主張する点については、次のとおりである。
(ア) 2、5、7頁目
 原告取扱説明書1に係る判断と同様である。
(イ) 1頁目
 大きな文字の使用、製品写真の掲載は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
 また、取扱説明書であること、製品の種類、製品名、型番、ロゴ等の記載については、表現上の創意工夫を述べるものではなく、失当である。
 なお、掲載された写真の撮影に係る工夫については、本件で原告が主張している著作権が、取扱説明書(冊子)の各頁に係る著作権であって、写真の著作権ではないことからして(そのため、当該写真の撮影者も、写真の著作権が原告にあることも、主張立証されていない。)、意味のない主張である。
(ウ) 4頁目
 図面を並べて掲載したり、説明に重要な部材の選定や不要な部材の省略、記号の使用、図面と同じ頁で部材名を記載するといった手法は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(エ) 8頁目
 必要部分のみ選択した図面の掲載、矢印、マーク、枠囲い等の使用、「注意」、「禁止」といった見出しの掲載は、いずれも、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
(オ) 11頁目
 フロー図の使用は、取扱説明書において頻繁に利用される、ありふれた表現形式である。
エ まとめ
 以上のとおりであるから、原告各取扱説明書の各頁も、著作物であるとは認められない。
3 争点6(被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か)について
 原告は、原告各取扱説明書が、様々な創意工夫をし、多大な時間と労力を費やして作成されたものであるから、これらをデッドコピーした被告各取扱説明書を、原告が営業活動を行う地域で頒布することは、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものだと主張する。
 しかしながら、被告各取扱説明書は、対象製品から独立して頒布されるものではなく、その点は原告各取扱説明書も同様であるところ、被告らが、既に取引が成立した製品に取扱説明書を付して交付することが、同様の行為を行っている原告との関係において、自由な競争の範囲を超える行為であるとは認めがたい。
 また、原告は、被告各取扱説明書が原告各取扱説明書のデッドコピーであるというが、仮にそうであるとしても、既に述べたとおり、原告各取扱説明書の表現形式はありふれたものであって、著作権法上の保護を受けられず、その利用は許されるものである。したがって、たとえ、原告各取扱説明書の作成において、創意工夫がされ、時間・労力が費やされていたとしても、その表現形式を利用する行為が、不法行為法上違法になるとは認めがたい。
 したがって、原告の上記主張は認められない。
第5 結論
 以上のとおりであるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 達野ゆき
 裁判官 西田昌吾
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