判例全文 | ||
【事件名】「着うたフル」違法配信事件 【年月日】平成23年11月29日 東京地裁 平成23年(ワ)第16905号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年11月1日) 判決 原告 一般社団法人日本音楽著作権協会 訴訟代理人弁護 藤原浩 同 市村直也 同 河野申二郎 住居所不明 最後の住所(住民票上の住所) 兵庫県加東市〈以下略〉 被告 A1 主文 1 被告は、原告に対し、1億7089万5700円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを30分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、1億7698万5270円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、著作権等管理事業者である原告が、原告が著作権を管理する音楽著作物のデータをレンタルサーバのハードディスクに蔵置し、携帯電話を使用してインターネットを利用する不特定多数の者の求めに応じて上記データをダウンロードさせた被告の行為が上記音楽著作物の複製権及び公衆送信権の侵害に当たる旨主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。 2 請求原因 別紙「請求の原因」記載のとおり。 第3 当裁判所の判断 1 被告は、公示送達による呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。 証拠(甲1ないし19(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、別紙「請求の原因」記載の第1ないし第4の事実が認められる。 そこで、被告の著作権侵害行為により原告が被った損害額について判断する。 (1) 使用料相当損害金 前掲証拠によれば、別紙「請求の原因」記載の第5の1(1)及び(2)の事実が認められる。 そうすると、原告の使用料相当損害金(著作権法114条3項の「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」)は、原告主張の別紙「請求の原因」の第5の1(3)のとおり、1億6089万5700円と認められる。 (2) 弁護士費用 本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経過、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、被告の著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の原告の損害額は、1000万円と認めるのが相当である。 (3) 小括 以上によれば、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として1億7089万5700円(上記(1)及び(2)の合計額)及びこれに対する不法行為の後である平成20年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 2 よって、原告の請求は、1億7089万5700円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容することとし、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 上田真史 裁判官 石神有吾 別紙 請求の原因 第1 当事者 1 原告 原告は、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づき著作権等管理事業者登録簿に登録された音楽著作権等管理事業者であり、内国著作物については管理委託契約により国内の多くの作詞者、作曲者、音楽出版者等の著作権者から著作権ないしその支分権につき信託を受け、外国著作物については我が国が締結した著作権条約に加盟する諸外国の音楽著作権管理団体との相互管理契約によるなどしてこれを管理し、国内の公衆送信事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から使用料を徴収するとともに、これを内外国の著作権者に分配することを主たる目的とする一般社団法人である。 2 被告ら (1) 被告は、インターネット上に「第B世界」という名称の携帯電話向けのウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を開設し、これを管理するとともに、原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を本件サイト上に大量にアップロードしていた者である。 (2) 分離前の相被告株式会社エーウォーカー(以下「エーウォーカー」という。)は、ホームページの制作・管理やインターネットを利用した広告事業等を目的として設立された株式会社であり、その事業としてインターネット上に「モバイルスペース」という名称の携帯電話用のホームページ作成サービス(以下、「エーウォーカーサービス」といい、エーウォーカーサービスによりインターネット上に提供されるホームページ作成用のスペースを「モバイルスペース」という。)を提供している。 (3) 分離前の相被告B1(以下「B1」という。)は、平成19年3月1日から平成20年12月3日まで、エーウォーカーの取締役を務めていた者であり、在任中、エーウォーカーサービスを利用する顧客の管理・運営等の責任者をしていた。 第2 本件サイトの内容・仕組み 1 本件サイト 本件サイトは、いわゆる「着うた」及び「着うたフル」の違法配信サイトである。 「着うた」及び「着うたフル」とは、いずれも携帯電話向けに音楽CDを音源とする音楽データを配信するサービスをいう。「着うた」は、楽曲のいわゆる「サビ」の部分のみの音楽データを配信するのに対し、「着うたフル」は、その楽曲の最初から最後までの全部の音楽データを配信するという点で両者は異なる。しかし、いずれもその音源である音楽CDに収録された音楽著作物が複製された電子ファイルをインターネット回線を経由して配信するサービスである(以下、「着うた」のサービスと「着うたフル」のサービスを併せて「着うた等サービス」といい、着うた等の音楽データで構成される電子ファイルを「着うたファイル等」という。)。 2 本件サイトの仕組み 本件サイトは、エーウォーカーサービスと、訴外SRインターネット株式会社(以下「訴外SRインターネット」という。)がインターネット上で提供しているレンタルサーバサービスとの2つのサービスを利用して運営されていた。 訴外SRインターネットから借り受けたレンタルサーバ上には、本件サイトのトップページ(本件サイトの入り口に当たるページ)が設けられるとともに、ユーザに送信する着うたファイル等が記録・蔵置されていた。他方、エーウォーカーから提供されたモバイルスペースには、本件サイトにアクセスしたユーザが本件サイトからダウンロードする着うたファイル等を選択し、送信の指示等をするためのページ(以下「ダウンロードページ」という。)が設けられていた。 本件サイトで着うたファイル等をダウンロードしたいと欲するユーザは、まず、自己の携帯電話からインターネットを経由して訴外SRインターネットのレンタルサーバ上に設けられた本件サイトのトップページにアクセスする。本件サイトのトップページには、「着うた」、「着うたフル」等のサービスの種類別にリンクボタンが設けられており、ユーザがこれらのリンクボタンを押下すると、ユーザの携帯電話の画面はモバイルスペース上に設けられたダウンロードページに遷移する。ユーザは、ここで希望するファイル形式を選択した上でパスワードの入力や認証手続きを行い、画面上に表示された項目に従ってダウンロードを希望する楽曲を選択する。そして、ダウンロードボタンを押下すると、訴外SRインターネットのレンタルサーバに対してダウンロードを指示する信号が送信され、これを受けた訴外SRインターネットのレンタルサーバからユーザの携帯電話に対して、ユーザの指示に係る着うたファイル等が自動的に送信されるという仕組みになっていた(以上につき甲第1号証1・2頁、別紙1を参照)。 第3 被告の行為 1 本件サイトの構築と着うた等サービスの開始 被告は、平成17年の年末ころ、エーウォーカーサービスを発見し、本件サイトにおける着うた等の配信に利用することにした。ただし、エーウォーカーサービスはホームページ作成のサービスであり、大量の着うたファイル等を蔵置することができなかったため、被告は、大量の着うたファイル等の蔵置場所として別途訴外SRインターネットからレンタルサーバを借り受けることとした。そして、被告は、これら2つのサービスを利用して、前述した内容の本件サイトを構築し、平成18年3月ころから着うた等サービスを開始するに至った(以上につき甲第2号証参照)。 2 着うたファイル等のアップロードとアクセスの拡大 被告は、本件サイトにアップロードするための着うた等ファイルにつき、他のサイトからダウンロードしたり、レンタルCD店から借り受けた音楽CDをリッピング(音楽CDに記録されているデジタル形式の音声データを抽出し、パソコンで処理できるファイル形式に変換して保存すること)した上で、携帯電話専用のファイル形式に変換する等の方法で調達し、これを自宅のパソコンから本件サイトにアップロードしていった。 さらに、被告は、インターネット上での募集に応じてきた訴外C1(以下「訴外C1」という。)にもアップロード作業を手伝わせることとして、平成18年3月の配信開始から平成20年9月までに、少なくとも約1万8000件の着うたファイル等を本件サイトにアップロードし(被告自身がアップロードしたファイルが少なくとも約1万5000件、訴外C1にアップロードさせたファイルが約3000件)、これを不特定多数の公衆にダウンロードさせた(甲第3号証、甲第4号証)。 第4 被告の責任 1 着うたファイル等を訴外SRインターネットのレンタルサーバのハードディスクに蔵置する行為は、音源とされた音楽CDに収録されている音楽著作物を有形的に再製する行為(著作権法2条1項15号)であるとともに、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録する行為(同項9号の5イ)に当たり、著作物の複製行為及び送信可能化行為に当たる。 また、上記着うたファイル等を本件サイトにアクセスしてきた不特定多数のユーザにダウンロードさせる行為は、公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと。同項7号の2)のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(同項9号の4)に当たり、自動公衆送信行為に該当する。 したがって、原告の利用許諾を受けずに、被告が、自ら又は訴外C1に手伝わせる等して管理著作物の着うたファイル等を本件サイトのサーバにアップロードし、不特定多数のユーザにダウンロードさせた行為は、管理著作物の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害する行為に該当する。 2 被告は、その行為が原告の管理著作物の著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害になることを知りながら、アフィリエイト広告による収益を増大させるために敢えて着うた等の配信サービスを開始し、上記のとおりの著作権侵害行為に及んだものであるから、故意の著作権侵害者である。 3 よって、被告は、上記著作権侵害行為により原告が受けた損害を賠償する責任を負う(民法709条)。 第5 原告の被った損害 本件サイトにアップロードされた上記1万8000件の着うたファイル等のうち、少なくとも90%は原告の管理著作物を複製した電子ファイルである(甲第1号証別紙3、甲第3号証、甲第4号証、甲第9号証)。 1 被告に対する使用料相当損害金 (1) 著作権者は、故意又は過失によりその著作権を侵害した者に対し、その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求できる(著作権法第114条3項)。 原告の管理著作物についての使用料規程(甲第10号証)には、個人が広告料等収入のみを得て、ダウンロード形式のインタラクティブ配信で管理著作物を利用する場合の使用料につき、同時に送信可能化する曲数10曲までにつき月額6000円とし、曲数が10曲を超える場合は10曲までを超えるごとに6000円を加算した額とする旨が規定されている(商用配信規定の取扱いの特例)。 (2) しかるところ、前述のとおり、本件サイトにアップロードされていた1万8000件の着うたファイル等(被告が直接にアップロードした分1万5000件、訴外C1に手伝わせてアップロードした分3000件)のうち90%(被告分1万3500件、訴外C1分2700件)は、原告の管理著作物を無断複製した著作権侵害ファイルである(甲第1号証別紙3参照)。 (3) 被告らは、これらの着うたファイル等につき、そのアップロードに関与した期間中(被告につき平成18年3月から平成20年9月までの31ヶ月間、訴外C1につき平成18年6月から平成20年9月までの28ヶ月間)、毎月ほぼ均等の割合でアップロードしていたものと推認できるから、本件サイトへの着うたファイル等のアップロードにより原告が被った使用料相当損害金の額は、別紙使用料相当損害金算定書記載(甲第1号証別紙2参照)のとおり、少なくとも合計金1億6089万5700円に上る。 2 弁護士費用 原告は、著作権違反を理由とする本件訴訟の提起・追行を弁護士に依頼することを余儀なくされた。その弁護士費用は、被告に関しては、第5の1(3)の金1億6089万5700円の10%である金1608万9570円を下らない。 3 まとめ したがって、被告は、原告に対し、金1億7698万5270円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める。 別紙 使用料相当損害金算定書 (1) 本件サイトにおいて被告の依頼を受けて、訴外C1が自動公衆送信可能にしていた音楽著作物について 総音楽著作物数:約3,000曲 原告の管理著作物数:約2,700曲(約3,000曲×90%)(※1) (2) 本件サイトにおいて、被告が自動公衆送信可能にしていた音楽著作物について 総音楽著作物数:約15,000曲 原告の管理著作物数:約13,500曲(約15,000曲×90%)(※2) (3) 本件サイトの開設期間 平成18年3月頃から平成20年9月頃までの31ヶ月間(訴外C1は、平成18年6月頃から平成20年9月頃までの28ヶ月間) (4) 自動公衆送信可能化した曲数10 曲までの使用料相当額 月額6,000円 (※3) (5) 本件サイトにおいて、自動公衆送信可能化された管理著作物累計曲数16,200 曲に関して、被告が31ヶ月(訴外C1に関しては28ヶ月)の比率に応じた曲数を毎月送信可能化していたと推認して算定した各月の月額使用料相当額の合計 使用料相当損害金:160,895,700円(153,234,000円+7,661,700円(消費税相当額)(※4) ※1 訴外C1が「tsukasa」というハンドルネームでアップロードした音楽ファイルである3,000曲について、「投稿者名「tsukasa」がアップロードしたファイルの抽出について」(甲第9号証)より明らかとなった1,226曲について、原告の管理著作物であるか否かを調査したところ、別紙3「「投稿者名「tsukasa」がアップロードしたファイル一覧表」における管理著作物判定表」のとおり、少なくとも1,104曲(90.05%)が明らかに原告の管理著作物であることを確認した。 なお、上記調査においては、原告の管理著作物である可能性が極めて高いものの、ファイル名だけからでは管理著作物と確定することができないもの(例えば、1193番の「映画/卒業サウンド・オブ・サイレンス」等)については、「不明」扱いとし、管理著作物に含めていないこと等の事情からすれば、実際の管理著作物の割合はこれよりも高いものと考えられる。 ※2 約15,000曲のうち、少なくとも約90%が原告の管理著作物であったと推認した。 ※3 使用料規程(甲第10号証)第11節「インタラクティブ配信」(インタラクティブ配信の備考)B商用配信規定の取扱いの特例 「非営利団体または非営利の任意のグループもしくは個人が広告料等収入のみを得てダウンロード形式により利用する場合(インタラクティブ配信の備考@(イ)イ(○印にイ)に該当するデータとしての利用を除く。)で、1(1)、1(2)または1(3)の各表により難いときは、当分の間、同時に送信可能化する曲数10曲までにつき年額60,000円とすることができる。なお、送信可能化する日数が1年に満たない場合は、同時に送信可能化する曲数10曲までにつき月額6,000円に予め定める利用月数を乗じて得た額とすることができる。いずれの場合も同時に送信可能化する曲数が10曲を超える場合は10曲までを超えるごとに10曲までの場合の額にその額を加算した額とする。」 ※4 使用料相当損害金算定表 1.被告
2.訴外C1
153,234,000円+7,661,700円(消費税相当額)= 160,895,700円 以上 |
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