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【事件名】小型USBメモリの類似事件(2) 【年月日】平成23年11月28日 知財高裁 平成23年(ネ)第10033号 損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地裁平成19年(ワ)第31965号) (口頭弁論終結日 平成23年9月5日) 判決 控訴人(一審原告) 承★(金偏に美)源數位科技股★(人偏に分)有限公司 訴訟代理人弁護士 鈴木五十三 同 山本晋平 同 尾野恭史 被控訴人(一審被告) ソニー株式会社 訴訟代理人弁護士 三好豊 同 上村哲史 同 佐々木奏 同 内田晴康 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1億円及びこれに対する平成20年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 第2 事案の概要(略号は原判決の例による。) 1 本件は、台湾法人で一審原告である控訴人が、日本法人で一審被告である被控訴人に対し、被控訴人が平成18年12月1日から同19年11月30日までの間に小型USBフラッシュメモリを台湾の会社に製造委託してこれを日本に輸入して販売したことに関し、 @上記小型USBフラッシュメモリは控訴人が製造する商品の形態を模倣したものであって、被控訴人による上記輸入・販売は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争行為に該当する、 A上記小型USBフラッシュメモリは被控訴人が控訴人から示された営業秘密を不正に使用して製造されたものであって、不競法2条1項7号の不正競争行為に該当する、 B被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造は、台湾の著作権法上、控訴人の著作物である小型USBフラッシュメモリの設計図の著作権(翻案権)を侵害する、 C被控訴人による上記小型USBフラッシュメモリの製造・販売は、控訴人の技術情報を使用して行われたものであって、民法709条の不法行為に該当する、 を理由として(上記@ないしCは選択的併合)、控訴人に生じた損害541億8000万円(逸失利益540億円及び弁護士費用1億8000万円)の一部である20億円(逸失利益19億円及び弁護士費用1億円)の賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 平成23年3月2日に言い渡された原判決は、上記@ないしCの理由に該当する事実は認められないとし、控訴人の請求を棄却したので、これに不服の控訴人が本件控訴を提起した。 3 本件控訴は、上記本訴請求のうち、損害賠償1億円と平成20年2月2日からの遅延損害金の支払を求める限度でなしたものである(一部控訴)。 第3 当事者の主張 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、「原告」は「控訴人」と、「被告」は「被控訴人」と、それぞれ読み替える。)。 1 当審における控訴人の主張 (1) 被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人商品(原告商品)の形態を模倣した ア 不競法2条1項3号の保護されるべき「商品」 不競法2条1項3号の「商品」として保護されるか否か、その保護対象となる始期の問題は、事業者間の公正な競争の実現という不競法の目的、とりわけ同法の他人の経済的成果へのただ乗りの防止という趣旨を踏まえて解釈すべきであり、事案によって販売前でも保護され得るのであって、試作品や設計図の完成段階であってもその模倣は違法と解すべきであるし、見本市や展示会でも出品があれば、当然その時点で保護対象となると解すべきである。また、日本で販売されていなかったとしても、外国商品の模倣も、ここにいう模倣に該当する。 ところが、原判決は、上記の点について何ら判断しておらず、誤りである。 すなわち、原判決は、「本件協議前に原告商品が開発済みであったとし て原告が主張する根拠は、いずれも理由がなく、かえって、本件協議が開始されるに当たって、被告から原告に対し小型USBフラッシュメモリの形態及び寸法を記載したインベンテック設計図が送付されていたと認められるから、本件協議前に、原告商品が、その回路構成等を含めて開発済みであったと認めることはできない。」(原判決69〜70頁)と判断する。 しかし、上記のとおり、この判示は、原告商品が開発済みであったか否かについてのみ着目しており、優に認められるべき控訴人が提供した技術情報の価値を正当に認定・評価しておらず、また、それゆえに、保護の始期の問題として、競業者にとって有用性があると認められるべきである商品の技術情報は、販売段階に至った製品の形に結実していない場合でも、不競法2条1項3号の問題としても、保護に値し得ることを看過した点で誤っている。 また、小型USBフラッシュメモリの形態及び寸法を記載したインベンテック設計図(乙8の2)が送付されていたという事実のみで開発済みであったことを否定できる事情として考えている点も、重大な誤りであり、控訴人は、基本的に乙8の2に基づいて作業を進めていない。 さらに、原判決は、インベンテック設計図1枚の送付をもって、その後の控訴人提供情報の価値を認めないという意味でも誤りである。控訴人が提供した本件技術情報の価値・独自性が否定され得ないことは、乙8の2とその後の控訴人の提供した本件技術情報を比較すれば一目瞭然である。 イ 控訴人における控訴人商品(原告商品)の先行開発 原判決は、控訴人における先行開発の事実を認めていないが(原判決54〜58頁)、以下のとおり、その事実認定は誤りである。 (ア) 控訴人は、メモリ(記憶媒体)関連製品の開発・製造について高い技術力を有していた。 (イ) そして、控訴人においては、被控訴人との接触以前の段階で、小型USBフラッシュメモリに関し複数のコントローラによる設計選択が存在していた。この経過は、次の3つの段階に分けて考えることができる。 a 平成16年(2004年)7月〜8月 内部構成も含めて初版製品の開発設計を終えた時期であり(甲21、甲40、甲49、甲50)、対応コントローラであるSMI社製SM321の設計図が最初に完成した時期と符合する(甲66)。 b 平成16年(2004年)11月 PDCアーキテクチャによって構成される小型USBフラッシュメモリについて、そのコントローラ周り・回路構成が開発・確定された(甲60、甲66、甲72、甲73)。 c 平成17年(2005年)1月〜3月 控訴人は、平成17年(2005年)3月10日〜16日にドイツ・ハノーバーで開催された展示会「CeBIT」に、コントローラとしてSM321、フラッシュメモリとしてTSOPを選択して設計した小型USBフラッシュメモリを出展した(甲33、甲27の3、甲47、甲48、甲59の2、甲60、甲61、甲62、甲63)。 (ウ) 以上の開発プロセスにおいて、「コントローラの用い方」(コントローラの配置場所、方向、ピン配置を含むコントローラ内部構成とコントローラ周りの部品配置・接続)の検討と、「コントローラ自体の開発設計」とが並行的に進んだこと、SM321が少なくとも設計当初段階では、控訴人商品(原告商品)としての小型USBフラッシュメモリ(PDC・SM321系小型USBフラッシュメモリ)における使用を想定したコントローラとして開発設計されるプロセスを経たこと、まず汎用性が高いSM321・LQFP−48が開発され、その上で、さらなる小型化を目指してLGA−44の開発がなされたこと、当時SM321を使用したUSBフラッシュメモリ製品は他に存在せず控訴人のノウハウの蓄積の結果が反映されたものであること、控訴人がSMI社によるこの開発過程をよく知っており深く関与していたこと、以上の事実は明らかである。 (エ) この点に関し、被控訴人はこれに反するかのような乙42(SMI社社長の陳述書)を提出しているが、同証拠には現場の技術者等による経過の詳細な説明があるわけでもなく、具体性が全くない。対照的に、控訴人の詳細かつ具体的な説明は、開発過程への深い関与なしにできるようなものではない。圧倒的な経済的地位を持つ重要な取引先との関係を優先せざるを得ないSMI社長が被控訴人に提出した、内容の極めて薄い陳述書は、控訴人の主張を否定できるような信用性を有するものではない。 したがって、その内容・信用性を詳しく検討することなく乙42に安易に依拠した原判決(55頁)の判断は誤りである。 (オ) また、原判決は、控訴人商品(原告商品)が既に開発済みであった証拠として控訴人が提出した甲61〜64について、フォルダ内に保存されたファイルの内容が不明であるとか、作成時期を示す客観的な証拠はないなどとして、これらの図面が本件協議開始前に作成されていたと認めることはできず、これをもって、控訴人が平成17年3月に製品の量産に必要な準備を行っていたということはできないと判示する(原判決56頁イ(イ )が、甲61〜63のデータが平成17年1月19日に、甲64が平成17年4月28日に、それぞれ控訴人において開発され存在していた事実は甲77及び甲78により明らかである。 ウ インベンテック社における開発・検討状況についての判断の誤り 原判決は、インベンテック社と被控訴人との間の検討状況を示すものとして@〜Eの事実(原判決61〜62頁)を指摘した上で、「以上のことからすれば、・・・小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸法と基本的な回路構成は、被告及びインベンテック社において検討済みであったと認められる。」(同62頁)と判示する。 しかし、実際には、被控訴人からは、回路構成を含む内部構造の問題が解決されたことやその内容、当該設計に基づいて製造が可能であったこと(例えば、ワーキング・サンプルに関する被控訴人による評価の内容)等を示す証拠は提出されていない。被控訴人は控訴人に手交したとするワーキング・サンプル(乙7)の稼動に関する報告書を提出しているが(乙52)、乙7の手交の事実自体証明されておらず、原判決も特段認定していない。原判決が認定するBCではワーキング・サンプルに触れているが、被控訴人がこれをどう評価していたか、商品化レベルの作動状況に達していたか否かに関する証拠はない。 このような証拠は、小型USBフラッシュメモリの「開発済み」の証拠とはいえないことはもちろんであるが、原判決が認定するような「基本的な回路構成」が検討済みであったことを示すものでもあり得ない。また、原判決が認定する@〜Eは、いずれも「回路構成」に関する検討状況を示すものではない。原判決は、証拠上、どこにも存在しない事実を勝手に認定したものであって、極めて不合理である。 エ 乙1に関する認定・評価の誤り 被控訴人が乙8の1の添付ファイルと主張する乙8の2を控訴人が被控訴人から受領したか否かについての事実経過に関して、原判決は、乙1(電子メール)についての認定・評価を示したが、次のとおり、その認定・評価については、重大な事実誤認がある。 (ア) 事実誤認@ 原判決は、「また、前記アの被告とインベンテック社との間の小型USBフラッシュメモリの開発経過及び平成17年3月7日の時点でインベンテック設計図が存在していることに照らして、前記の同日午後2時39分付け電子メールの送付の時点で、ガーバーファイルが存在し、かつ、その交付を求めることも、何ら不自然ではない。」とする(原判決65頁)。 しかし、小型USBフラッシュメモリのガーバーファイルを控訴人がこの時点で被控訴人に送付を求めることなどあり得ない。すなわち、控訴人は、被控訴人がCOB技術による小型USBフラッシュメモリを開発していないと認識している以上、そのガーバーファイルの送付を求めることはあり得ないし、控訴人は被控訴人からCOB技術以外での小型USBフラッシュメモリを受託したとは認識していないのであるから、COB技術以外のメモリ実装に基づくガーバーファイルの送付を求めることもないからである。 以上からすれば、控訴人が乙1により求めたのは、通常サイズのUSBフラッシュメモリに関するガーバーファイルと認定すべきであって、原判決の上記認定は誤りである。 (イ) 事実誤認A 原判決は、上記事実誤認@の実質的な根拠について、「同電子メール中の『ご興味をお持ちのUSBフラッシュカード』、『ご心配されている規格の全部を強調するか、もしくは、我々より通常の規格とするように致します。』との記載からすれば、これは、『通常の規格』とは異なるUSBフラッシュメモリを話題にしているものとみるのが自然である。」(事実誤認A)とし、また、「・・・Aが原告から送付を受けることを期待していた見積書は、通常のUSBフラッシュメモリに関するものではなく、小型USBフラッシュメモリに関するものであったと認められる。」と判示する(原判決65頁)。 しかし、上記2つの文のうち、まず後者について、これ自体は正しい認定であるとしても、事実誤認@の根拠とはなり得ない事実である。すなわち、被控訴人が期待していたものと異なる見積書(通常サイズの小型USBフラッシュに関する見積書)を控訴人が送ったこと(甲27の1)は証拠上明らかであり(甲27の2)、原判決もそれを前提として認定しているのであるが、そこから導かれるのは、この点で控訴人の認識と被控訴人の認識がずれていたこと、そして、そうである以上、その一方(被控訴人)の認識を根拠として、他方の乙1(控訴人担当者の電子メール)の記載意図を同じ線で認定することは誤り、ということである。実際、甲27の1に関する経過から判明するのは、控訴人としては、まずは通常サイズのUSBフラッシュメモリについての製造委託が先行し、容易に送ることができる見積書を送るのが順序だと考えていた、ということである。このように、甲27の1は通常サイズの見積書であったから、その用意として乙1で小型USBのガーバーファイルを求めたはずはないのである。 上記のとおり、乙1が、甲27の1送付の見積書の用意を意識して送られたと理解できる以上(原判決65頁も、実はそのような論理に立っていると思われる。)、乙1は、通常サイズの小型USBフラッシュメモリのガーバーファイルを求めるものであった、というのが必然的な事実認定となるはずである。 そして、「もしくは、我々より通常の規格とするように致します。」という記載は、英語では「or we will follow as normal spec」であり、被控訴人による規格(仕様) の指定(ハイライト)がなければ、控訴人は通常の規格(仕様)で作業する旨を告げている文章である。市場に出ていない開発中の新製品であった小型USBフラッシュメモリについて「通常の規格(仕様)」などというものは存在しなかった。したがって、この一文のみをもってしても、乙1は、通常サイズのガーバーファイルを求めるもの、と認定するのが自然である。仮に百歩譲ったとしても、この記載自体から小型サイズに関する記載であると決定づけることは不可能である。「通常の規格(仕様)とするように致します。」という表現があるのに、原判決が「『通常の規格』とは異なるUSBフラッシュメモリを話題にしているものとみるのが自然である。」という認定をするのは、全く理解できない異常な認定である。 (ウ) 以上のとおり、原判決は、根拠薄弱の認定(事実誤認A)に基づいて、他の認定(事実誤認@)を積み重ねており、事実認定に誤りがあることは明らかである。 (2) 被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人から示された営業秘密を不正に使用した ア 控訴人が提供した本件技術情報の価値 原判決は、本件技術情報は公知であるか有用性がないと判示する。 しかし、控訴人が提供した技術情報の価値は、それ以前の控訴人における開発蓄積が認定されるか否かにかかわらず、以下のとおり、極めて価値の高いものであった。 (ア) 小型サイズについては、通常サイズにかかる見積りを受けた被控訴人がむしろ小型サイズについての技術情報の提供を求めたところから、控訴人に情報提供を求める電子メール上のやり取りが開始され(甲27の2、甲27の3)、以後、控訴人は専らその保有する開発・商品化ノウハウに基づいて小型サイズに関する技術情報を被控訴人に示し、被控訴人の要望を受けながら、控訴人がその技術情報を加工し提供していく、という経過をたどった(甲27の4〜甲27の73)。 つまり、小型サイズに関しては、被控訴人は控訴人に対し専ら技術情報の提供を求め、控訴人から無償で技術情報の提供を受け、その後に、控訴人の承諾なく当該技術情報を利用して被控訴人各商品(被告各商品)を開発・製造したということである。 (イ) 次に、具体的に小型USBフラッシュメモリに関する経過をみると、被控訴人側におけるCOB版小型USBメモリの未開発については争いがないと解されるところ、仮に被控訴人の主張に従うならば、被控訴人の送付にかかる乙8の2及び乙8の3(インベンテック設計図等)は、被控訴人とのやり取りを通じてインベンテック社が作成したものであるから、これらの図面等は、非COBメモリ実装を前提とした小型USBフラッシュメモリの開発設計情報ということになる(以下「被控訴人非COB情報」という)。 (ウ) 他方、その後、控訴人が被控訴人に送付したのは、4月18日ころまでは、被控訴人の依頼に応えたCOB技術を用いたメモリ実装を前提とした設計開発情報であった(以下「控訴人COB情報」という。)。 そして、控訴人が、COB技術以外のメモリ実装方法による容量増大について提起したのは平成17年4月中旬以降であるが、この時期以降、同年7月1日までの間、控訴人はCOB技術を前提とせずに容量増大の要請にも応える形で多くの技術情報を提供した(以下「控訴人非COB情報」という。)。これが被控訴人との接触以前の控訴人の開発蓄積に基づくものであったか否かは本件の争点であるが、被控訴人も、控訴人非COB情報の送付・提供の事実自体は争っていない。 (エ) 本件で、被控訴人は、控訴人が被控訴人に送付した情報については、控訴人COB情報も、控訴人非COB情報も、ことごとく被控訴人非COB情報に基づくものであったと主張し、それゆえ複製権侵害もなく、「他人の」ものでもなく、控訴人の営業秘密の利用もない、と主張している。また、原判決も、かなりの部分でこれに沿う認定をしている(原判決69〜70頁等)。 (オ) しかし、実のところ、被控訴人が控訴人に送った被控訴人非COB情報として主張しているのは、実質的に乙8の2(インベンテック設計図)にすぎない。なお、被控訴人の主張では、乙8の2だけでなく新製品の回路構成までも示す乙8の3まで同時に控訴人に秘密保持契約も締結せずに送ったとされているが、平成17年3月7日当時までの被控訴人とインベンテック社との連絡内容をみても(乙29の1〜乙29の26の2)、乙8の3は登場しない。つまり、乙8の2と同時に送付した書面であると被控訴人が主張する乙8の3は、小型USBフラッシュメモリの開発過程で平成17年3月7日までに被控訴人及びインベンテック社が保有するに至っていた小型USBフラッシュメモリに関する資料である、という証拠を被控訴人は提出していないのである。 (カ) インベンテック社における開発状況について、平成17年3月から7月当時、商品化可能な段階に至っていたという証拠は何ら提出されていないのであって、そのような不十分な検討状況であったからこそ、被控訴人は控訴人への接触・委託を進めようとしたのである。 (キ) 以上のとおり、そもそも被控訴人非COB情報と控訴人COB情報は、質的に異なる価値を有する。すなわち、被控訴人非COB情報は、非COB実装を前提とした1枚の図面にすぎないのに対して、控訴人COB情報は、控訴人が当初から設計に取り掛かり、控訴人のノウハウに基づいてCOB実装による小型USBフラッシュメモリのための各種情報(2D図面に限らない)を被控訴人の要望に応じて提供していったものである。 (ク) LEDの位置についても同様である。被控訴人は、LEDの設置や光線方向について、「アイディアを出したのは被控訴人」などと主張しているが、被控訴人の質問は単なる質問であって「アイディア」と呼べるようなものでは全くなく、分からないから控訴人に質問していた、という経過であったことは明らかである。 (ケ) 以上のような経過に照らせば、仮に控訴人が乙8の2(インベンテック設計図)を当時受領していたことを前提としても、また、仮にその内容をその後の検討において何らかの形で参照していたとしても、控訴人COB情報及び控訴人非COB情報に占める乙8の2の比重は僅かであること、逆に、控訴人の寄与・貢献度が極めて大きいことは明白である。 (コ) なお、以上のように、被控訴人にとって有用な情報を控訴人が提供できたのは、被控訴人による接触以前に控訴人において独自の開発設計がなされた蓄積があったからに他ならず、それ抜きには説明不可能といえる。仮にそうした控訴人の独自の開発蓄積が証拠上十分に認められないとしても、少なくとも前記の経過自体から、控訴人COB情報及び控訴人非COB情報に占める控訴人の寄与・貢献度が極めて大きいことは本件の証拠上明白であり、この点を無視するならば、その判断は採証法則に背くものであって誤りというべきである。 イ 本件PCBAサンプルの授受 (ア) 原判決(71頁以下)は、「確かに、本件協議においてやりとりされた原告と被告との間の電子メールの中には、これに触れたものとも解し得る記載があるものがある(甲27の36、甲27の43)。」と述べながら、「原告と被告との間の電子メールのやりとりにおいては、当該PCBAサンプルを検討・評価したことをうかがわせる記載はないこと」「被告の原告に対する依頼は、COB技術を使用した小型USBフラッシュメモリの製造であったと認められるところ、同月28日付け電子メール(甲27の32、27の33)までCOB以外の他のメモリも検討対象に加えることをうかがわせる電子メールの記載はなく、それ以前にメモリとしてTSOPを使用したPCBAサンプルを交付するということは不自然であること」「他にPCBAサンプルの存在を示す証拠もないこと」の3点を挙げて、本件PCBAサンプルの交付の事実を否定した。 しかし、まず、原判決が第一に挙げる「原告と被告との間の電子メールのやりとりにおいては、当該PCBAサンプルを検討・評価したことをうかがわせる記載はない」との根拠が誤りであることは明白である。●(省略)●また、甲27の43(電子メール)でも「先月、私たちが渡したPCBAのサンプル品をBさんが持っています。それで配置位置を確認ください。」と記載されており、本件PCBAサンプルが控訴人の技術情報(部品の配置等)を提供する役割を担っていたことが分かる。 以上の事実から、両者間の電子メールの中で本件PCBAサンプルは明示的に言及されていることが確認できる。本件PCBAサンプルに機能上の問題がなく、控訴人保有の本件技術情報を被控訴人に提供する役割を果たしていたことは、これらの記載からも明らかである。 控訴人が平成17年4月20日に被控訴人に本件PCBAサンプルを手渡したことは、コントローラ配置の方向・場所、ピン配置その他のコントローラ周りの構成・配置を確認すること等が可能となるという実務的に重要な意味があり、他の情報交付(原判決別紙データ目録及び説明のための電子メール等)とあいまって、控訴人における小型USBフラッシュメモリの設計・製造に関して極めて重要な情報を、「現物」の形で提供したことを意味する。本件営業秘密が有機的に一体となって構成され「現実化」したものであり、そうしたまとまりのある技術情報が製品として機能している事実、そして、必要な性能で動作している状態をも示す資料であった。 特に重要なのは、本件PCBAサンプルがインジェクション成型前の筐体がない状態で被控訴人に提供されたことである。それゆえ、被控訴人にとっては、コントローラ配置の方向・場所、ピン配置その他のコントローラ周りの構成・配置を確認すること等が容易となり、完成製品を受け取るよりも一層役に立つ形で提供されたのである。 以上からすれば、本件PCBAサンプルの被控訴人における平成17年4月20日時点の受領は証拠上明白であるから、これを否定した原判決の認定は誤りである。 (イ) 本件PCBAサンプルについて、原判決は、「どのようなものであって、どのような回路構成とされていたかについて、PCBAサンプルの基となった図面を提出する等して、自らその内容・存在を明らかにすることができるにもかかわらず、何らこれを示す証拠を提出していないこと(・・・甲59ないし65の各図面等の作製時期について、原告の主張を採用することができないことは、前記2のとおりである。)」と判示する(原判決71頁)。 しかし、●(省略)●で設計・製造されており、筐体やLEDがない点を除けば、動作の状況を含めて、ほぼ完成した製品といえるものであった。なお、本件PCBAサンプルの内容については、ここで述べたほか、甲59の2、甲60ないし甲62、甲66、甲71ないし甲73に示されている。 なお、甲59ないし甲65に関する原判決の認定は誤りであり、また、本件PCBAサンプルの基となった資料は、既に提出済みのもの以上には控訴人の手元に残されていない。 ウ 別紙データ目録1−1ないし10(7−1を除く。) 原判決は、別紙データ目録1−1ないし10(7−1を除く。)について「具体的にどのような技術内容をもって営業秘密と主張するのか、明らかではない。」(原判決71〜72頁)とするが、次のとおり、誤りである。 (ア) 別紙データ目録1−1ないし5−2については、平成17年(2005年)4月26日以前に提供された情報であり、控訴人COB情報に該当する。 控訴人COB情報は、最終的に被控訴人各商品(被告各商品)の中で利用されていないとしてもなお営業秘密に該当する。なぜなら、情報が直接的にはバージョンアップ前製品の設計・製造に関するものである場合に、当該情報がバージョンアップ後の製品との関係でも、当該情報を利用して不必要な研究開発費用の投資を回避・節約できる等の意味で有用性が認められる場合には「有用性」を持つ情報に該当するものとして営業秘密に該当し得るからである。 そして、●(省略)●その商品化を可能にする貴重な情報であったものであり、また、商品化に必要な「結論」部分に加えて、メモリ実装方法と、サイズ、容量の増大の可否、コストとの関連性等(すなわち結論にたどり着く「プロセス」部分)に関する情報も被控訴人は得たのであって、被控訴人は、当初求めた技術成果が実務的に可能な形では実現できないことを学んだ上で最終的に別の技術成果を得た、というのが本件の特徴である。(ここで、前者の「技術成果」とはCOB技術による小型化で容量が大きい製品とするための技術情報を意味し、後者の「別の技術成果」とは●(省略)●の両方の技術情報を指す。)。 換言すれば、プロセス情報の内容の価値の高さ(高度の技術力を有する控訴人が被控訴人の個別具体的な要請等に応えながらたどり着いたものであるという事実)、なぜ価値(有用性)が高いか、なぜそのような内容の情報になっているのか(例えば、なぜCOB技術を用いないという設計選択がなされているのか)、という根拠情報をも被控訴人は得ていたのである。 こうした情報は、最終的な結果・結論部分だけの情報を得ることに比べて、実務上、格段に価値の高い情報である。また、それらは他の情報と組み合わされて全ての情報が有機的に一体となることにより、極めて高い価値を備えるものである。 かかる情報をも備えた本件技術情報のまとまった形での提供に有用性を認めないことは営業秘密保護法の立法趣旨に反するものであり、また、本件において、被控訴人がインベンテック社の作業に満足せず、あえて控訴人に開発・製造の委託を考えたという経過自体にも反するものである。 (イ) 別紙データ目録6−1、6−2及び7−2ないし7−4の外形・寸法情報については、後記エのとおりである。 (ウ) LEDに関する情報(別紙データ目録8ないし10)については、後記オ(イ) のとおりである。 エ 付随情報・補足情報 (ア) 原判決は、「具体的に、小型USBフラッシュメモリの寸法と容量とのどのような関係をもって営業秘密として主張するのか、明らかではなく、また、いかなる趣旨で被告が当該情報を使用していると主張するのかも明らかではない」(原判決73頁)、「小型USBフラッシュメモリの組立価格については、被告の原告に対する依頼が、小型USBフラッシュメモリの製造にある以上、当然に示されるべき情報であ」る(原判決75頁)と判示する。 しかしながら、控訴人において、サイズ・容量問題を解決したという事実、及びその解決結果としての形状・サイズ・容量・現物・コスト情報(原判決別紙データ目録、説明のための電子メール、本件PCBAサンプルによる部品配列や回路構成等)が一体的に提供されたならば、それがそのまま商品化に利用できる技術情報であることは明らかであって、また、証拠上、実際に被控訴人は控訴人が提供したこれらの技術情報を利用していると推認されるから、競業者にとっての有用性があったことは確実である。このことはまた、被控訴人がインベンテック社の作業に満足せず、あえて控訴人に開発・製造の委託を考えたという経過からも裏付けられる。 (イ) 原判決は、「このような被告が提供した寸法情報に基づき、公知であるメモリパッケージの寸法も考慮して容量の増大が可能か否かを検討するのは、その製造の委託を受けた者であれば、通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎないというべきであるから、有用性を欠くというべきである。」(原判決74頁)、「COBを用いた場合の容量と寸法との関係について、当業者であれば通常の創意工夫の範囲内で検討することができる設計的事項であ」る(原判決74頁)などと判示する。 しかし、まず、前記のとおり、控訴人は、「容量」とか「寸法」とかの 個別の情報をそれぞれ単独で営業秘密と主張しているのではない。容量+各種寸法+形状+部品選択+部品配列+回路構成+回路構造などの組み合わせ情報(そして、これによって技術課題が解決できていることや、他の方法と比較した場合の利害得失情報)があることによって、そのまま商品化できる技術情報であれば、有用性が認められなければならない。 もし、原判決が、製造委託を受けた者が創意工夫によって提供した一定の独自の価値を有する情報についてまで営業秘密性を否定する趣旨だとすれば、そのような判断は、営業秘密の要保護性として、特許権と同等の新規性ないし進歩性を要求するものであって、営業秘密保護法の意味を大きく失わせるものであって、立法趣旨に反するというべきである。 オ 本件技術情報 (ア) 原判決は、本件技術情報1ないし8について、それぞれを個別に検討することにより、公知である、技術常識である、あるいは当業者が通常の工夫によって選択する設計的事項にすぎない等と判示するが、誤りである。 すなわち、控訴人は、それぞれの個別の情報がそれ単独で営業秘密であると主張しているのではない。あらゆる営業秘密を分解していけば、それぞれの要素は公知であったり技術常識であったりする情報であって、それをどう組み合わせるかが有用性の鍵なのである。そして、控訴人は、各情報が組み合わさった形で、かつ、作動する現物とあわせて提供したのであるから、競業者にとって有用な情報であったことは確実である。また、有用性の要件として、特許と同等の新規性・進歩性を要求することも前記のとおり誤りである。 (イ) LEDの配置に関する情報の重要性 原判決は、「原告は、LEDの搭載の可否、搭載の位置、光線の方向、実装に関する情報が営業秘密であると主張する。しかしながら、USBフラッシュメモリには、LEDを搭載するのが一般的である(公知の事実)。なお、原告は、SDカードやメモリスティック等にはLEDは搭載されていないことを指摘するが、SDカード及びメモリスティックは、その使用態様に照らして、LEDを搭載しないのは当然であるから、原告の指摘は意味がないことは明らかである。」(原判決81頁)と判示している。 しかし、通常サイズのUSBフラッシュメモリにはLEDを搭載するのが一般的であるとしても、それが小型サイズでも同様に搭載できるか、その場合どのような条件・制約が生ずるか、といった問題は全く別の問題である。そして、平成17年3月当時、それは被控訴人において確定されていない問題だったとみられる。 本件では、小型USBフラッシュメモリを、長さ約29.8mmあるいは約31.8mmにした場合に、かかる寸法の小型化にもかかわらずLED搭載を犠牲にせずに実現できるか否か、どのようにするのが最も他の条件と整合的か、といったことはそれ自体が検討を要する事柄であった。 したがって、「LEDの搭載の可否、搭載の位置、光線の方向、実装に関する情報」もまた、それ自体でということではなく、小型化を実現する寸法・形状との関係で「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事実及びその方法」を伝える情報として、また、そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報として、全てが組み合わされることによって、そのまま商品化を可能にする技術情報として有用性を獲得するのである。個別の情報自体に大きな価値がなくとも、それら全部の情報がまとまっていることによって、独自の価値を帯び、営業秘密に該当するというべきである。 カ 本件技術情報の不正使用 控訴人が被控訴人に対し技術的成果を提供したことは前記のとおりであり、控訴人商品(原告商品)と被控訴人各商品(被告各商品)とは実質的に同一の形態である。このことは、被控訴人各商品(被告各商品)が控訴人が提供した技術情報に依拠していることを示すものである。そして、被控訴人各商品(被告各商品)はPDCアーキテクチャで構成されるものであって、甲66を前提に控訴人が提供した当時の部品・回路構成などの技術情報がなお被控訴人各商品(被告各商品)において一致する。 他方、控訴人が被控訴人に渡していない情報あるいは技術的に控訴人でなければ達成できない手法、例えばインジェクションによる成形(平成17年4月20日に渡した本件PCBAサンプルはインジェクションによる射出成型をしておらず、筐体がないものである)などは、被控訴人各商品(被告各商品)において利用されていない。 以上の事実によれば、被控訴人が控訴人の営業秘密を利用していることは明らかである。 しかるに、被控訴人は、約4か月間で控訴人から得た貴重な技術情報を利用して、控訴人に対する開発委託も関係解消の連絡もないまま無断で、平成18年12月ころ以降、自ら被控訴人各商品(被告各商品)を量産し、販売し、その利益を得るに至った。 不競法2条1項7号違反としての「不正利用」に該当するためには、被控訴人が控訴人提供の本件技術情報を利用することが信義則違反といえる態様のものであったか否かが問題となるが、上記のとおり、本件ではそのような意味での信義則違反が認められる。 したがって、不競法2条1項7号違反を認めなかった原判決は誤りである。 (3) 著作権侵害を理由する損害賠償請求権の準拠法 原判決は、法例11条2項又は通則法22条1項により、本件では、台湾法のみならず、日本法によっても不法となることが必要であると解した上で、かかる重畳適用について、日本法上、「単に翻案権侵害が違法とされればよいというものではなく、事実それ自体、すなわち、本件においては、原告設計図1及び2から被告各商品を製造する行為が、日本法上、不法であることを要すると解すべき」(原判決89頁)と判示する。 しかしながら、この判断は誤りである。学説の多数説によれば、日本法上の評価とは、同種の権利の侵害行為が日本法上も違法性を有し不法行為とされるか否かということであり、その権利は管轄権のある法律によって成立した権利であれば足り、同種の権利の侵害が日本法上違法であって不法行為と評価されれば足りるとされている。 被控訴人の行為は、著作権の一支分権たる翻案権の侵害であるところ、同種の権利たる日本法上の翻案権の侵害も不法行為であって損害賠償請求が認められることに異論はない。 したがって、本件の「被告の台湾著作権法違反行為」は、日本法上も「不法」であるから、台湾著作権法違反による損害賠償請求は本件において可能というべきである。 (4) 不法行為の成否 原判決は、「本件技術情報は、原告が保有するものではないか、又は、公知であるか、若しくは有用性を欠くものであって、かつ、仮に、被告がこれを使用していたとしても、そのことは、本件技術情報が提供された趣旨に反するものではなく、本件技術情報の不正使用ということはできないから、これが社会的相当性を逸脱した違法な行為ということはできない。」(94頁)と判示する。しかし、原判決の上記判断は、次の各理由により、誤りである。 ア 信義則違反 技術情報の提供者から入手した技術情報を、取得者が利用したからといって、直ちに、不競法2条1項7号所定の不正利用あるいは不法行為法上の違法行為に該当するわけではなく、信義則上の義務違反の有無が問われなければならないところ、本件においては、次のとおり、信義則違反の根拠となる事情が強く認められる。 (ア) まず、控訴人と被控訴人は、メモリ関連製品の開発・製造・販売という観点からは、本件のように垂直関係の委託先・委託元とならない限りは、基本的に水平関係の競争相手たる競業企業である。ただし、被控訴人の側に圧倒的というべき経済的優位性や社会的信用があった。 (イ) こうした状況下で、控訴人が提供した技術情報を、被控訴人が利用してしまうと、競業者としての控訴人には絶対に勝ち目がない。控訴人は特定の分野の技術力に限れば、被控訴人と同等の関係に立ちうるが、その源泉たる特定技術情報が被控訴人に渡ってしまえば、ブランド力その他の点で被控訴人の優位は圧倒的である。つまり、情報受領者たる被控訴人が当該技術情報を利用してしまうことによる控訴人の不利益は、致命的である。 (ウ) 他方、被控訴人は、控訴人が提供した技術情報を使わずに事業活動を行うことは当然に可能である。せいぜい特定の寸法・形状による小型USBフラッシュメモリの開発・製造ができないだけである。仮に被控訴人がそれを実行したいのであれば、控訴人に開発・製造を委託するか、ライセンス料等の対価を支払って開発・製造を行えばよいだけであり、被控訴人は、そのための資力も組織的資源も当然に有しており、控訴人が提供した技術情報の「不使用」を確保することが、現実問題として実務面で困難なわけでもない。 (エ) したがって、上記のような利益状況の下で、被控訴人が控訴人の技術情報を無断で利用することは信義則に反する行為である。 イ 契約締結上の過失における交渉破棄 取引を開始し、契約準備交渉段階に入った者は、一般市民間における関係と異なり、信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから、相互に相手方の人格、財産を侵害しない信義則上の義務を負うというべきところ、本件の経過に照らせば、技術情報の提供関係に入るに当たって、情報の取扱いに関する信義則上の義務又は黙示の合意・条件があったというべきである。そして、被控訴人は、控訴人に対して小型USBフラッシュメモリの開発・製造の委託を持ちかけたのであり、その目的のために、技術情報の提供を求めたことは明らかであるから、被控訴人としては、矛盾行為を避け、現実に委託をするか、そうでない場合には委託をせず対価の支払をする意思がないことを予め告げて誤解のないようにすべきであった。それさえも行わないのであれば、黙示の合意・条件又は信義則上、少なくとも提供された本件技術情報を控訴人の了解なく使用したり第三者に開示したりしないという不使用・秘密保持の義務に従うべきであった。さらに、本件では、被控訴人が極めて積極的かつ主導的に両者間のやりとりを推進したことも明白であるから、被控訴人には、より高度の是正・教示義務があったというべきである。 ところが、実際には被控訴人はその義務を果たさず、むしろ結果としては控訴人の信頼・期待を利用し、控訴人が販売活動を抑えている一方で、被控訴人は無断で被控訴人各商品(被告各商品)の製造・販売を行った。 以上によれば、本件においては、契約締結上の過失の観点に照らし、信義則違反型の不法行為が認められるべきである。 2 当審における被控訴人の主張 (1) 「被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人商品(原告商品)の形態を模倣した」との主張に対し ア 保護されるべき「商品」につき (ア) 控訴人は、販売される前であっても不競法2条1項3号の「商品」として保護されるべき場合があると主張し、この点について原判決は判断を示していないと主張する。 しかし、原判決は、本件において控訴人商品(原告商品)なるものが存在しないことを認定しているのであり、控訴人商品(原告商品)なるものが存在しない以上、それが販売されるはずもないのであるから、販売前の商品が保護されるかどうかを判断する必要などない。 したがって、原判決が販売前の商品が同号の「商品」として保護されるか否かに関して判断を示していないのは至極当然のことであって、控訴人の上記主張は失当である。 (イ) 控訴人は、「競業者にとって有用性があると認められるべきである商品の技術情報は、販売段階に至った製品の形に結実していない場合でも、不競法2条1項3号の問題としても、保護に値し得ることを看過した点で誤っている。」と主張する。 しかし、同号の保護対象は「商品の形態」であって「技術情報」ではないから、原告の上記主張は失当である。 (ウ) 控訴人は、原判決が乙8の2(インベンテック設計図)が送付されていたという事実のみで、「原告商品」が開発済みであったことを否定できる事情として考えている点が重大な誤りであると主張する。 しかし、積智科技らから被控訴人に送付された図面等はいずれも乙8の2に依拠していることは明らかであり、他方、控訴人は本件協議前から控訴人商品(原告商品)が開発済みであったことを客観的に示している証拠を何ら提出できていないのであるから、控訴人主張は理由がない。 (エ) 控訴人は、原判決は設計図1枚の送付をもって、その後の控訴人提供情報の価値を認めないという意味でも誤りであると主張する。 しかし、これについても「情報の価値」と「商品の形態」を混同するものであって失当である。 イ 「控訴人における先行開発」につき 控訴人の主張は、いずれも原審での主張の繰り返しにすぎず、控訴人が控訴人商品(原告商品)を開発していた事実を何ら立証するものではない。 この点に関し、控訴人は、甲61ないし甲64の各データの作成時期等を立証するものとして、甲77及び甲78を提出している。 しかし、甲77の添付1記載の作成日は控訴人において改ざんされている可能性があり、信用できない。加えて、甲62及び甲63の基板は、いずれも本体部分と端子部分の幅が同一のストレート形状のものであり、控訴人商品(原告商品)とは形状が全く異なっている。 また、甲77の添付2記載の作成日についても、控訴人において改ざんされている可能性があり、信用できない。仮に、甲77の添付2記載の作成日が事実であったとしても、その作成日は「2005年4月28日」であり、いずれにしても控訴人が主張するように、積智科技ら又は控訴人が平成17年3月ころに製品の量産に必要な準備を行っていた事実を証明するものではない。 ウ 「インベンテック社における開発・検討状況」につき 控訴人は、「小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸法と基本的な回路構成は、被告及びインベンテック社において検討済みであった」との原判決の事実認定が誤りであると主張するが、原審での主張の繰り返しにすぎない。 被控訴人は、平成16年8月、インベンテック社に対し小型USBフラッシュメモリの製品化を打診し、平成17年3月までにその基本的部分について共同で設計・検討済みであり、最終的に平成18年4月に被控訴人各商品(被告各商品)を販売するに至っているのであって、控訴人の上記主張は失当である。 エ 「乙1に関する認定・評価の誤り」につき 控訴人は、自らが乙8の2(インベンテック設計図)を受領したか否かに関連して、乙1(電子メール)に関する原判決の認定・評価に誤りがあると縷々主張する。 しかし、乙8の2(インベンテック設計図)は、平成17年3月1日付け電子メール(乙8の1)の添付ファイルとして積智科技らに対して送信されている以上、積智科技らがこれを受領していることに疑う余地はないから、そもそも控訴人の上記主張は失当であるが、念のため、反論する。 (ア) 事実誤認@に対し 控訴人は、USBフラッシュメモリに関する技術情報の開発・保有についての平成17年3月当時の控訴人の認識を前提として、控訴人が、この時点で小型USBフラッシュメモリのガーバーファイルを被控訴人に対し送付を求めることはあり得ないとし、この点で原判決に事実誤認があると主張する。 しかし、被控訴人は、平成17年3月4日、被控訴人現地法人社内にて積智科技らに対しインベンテック社が製造したワーキングサンプル(乙7)を見せ、積智科技らにおいてもこのような小型USBフラッシュメモリの製造が可能かどうかを検討してほしい旨伝え、その際、被控訴人は積智科技らに対し、製造が可能かどうか判断する資料として、小型USBフラッシュメモリの設計図面を送る旨を約束していた。 かかる約束に基づき、積智科技らが被控訴人に対し、平成17年3月7日に設計図面の送付を求めたのであり、それゆえ原判決も判示するとおり、「被告とインベンテック社との間の小型USBフラッシュメモリの開発経過及び平成17年3月7日時点でインベンテック設計図が存在していることに照らして、前記同日の午後2時39分付け電子メールの送付の時点で、ガーバーファイルが存在し、かつ、その交付を求めることも何ら不自然ではない」(原判決65頁)のである。 したがって、原判決には、控訴人が主張するような事実誤認は存在しない。 (イ) 事実誤認Aに対し 控訴人は、原判決が「Aが原告から送付を受けることを期待していた見積書は、通常のUSBフラッシュメモリに関するものではなく、小型USBフラッシュメモリに関するものであったと認められる。」(原判決65頁)と認定したことについて、甲27の1(電子メール)添付の見積書が通常サイズのものであることから、乙1(電子メール)で求めたのも通常サイズのガーバーファイルのはずであると主張する。 しかし、控訴人の主張は、乙1と甲27の1の各電子メールを無理やりに関連付けるものであって誤りである。 すなわち、控訴人は、乙1(電子メール)が甲27の1(電子メール)添付の見積書の用意を意識して送られたとの理解を前提にしているが、かかる理解は誤りである。甲27の1(電子メール)は、その後に送信した甲27の3下段の3月29日11時38分の電子メールにおいて、C氏が、Aに対し、「説明をさせて下さい。あなた方のオフィスでの話し合いの後、私たちのプロジェクトマネージャーがあなた方の現在のUSB製品のため、D氏に会いにあなた方のオフィスを訪れました。つまり、貴方が手にした価格表はその現在のUSB製品用のものであって、みなさんと話し合った際のものではありません。」と述べていることからも明らかなとおり、被控訴人台湾法人社員のD氏に会って「現在のUSB製品」についての話をしたことを踏まえて、後日、D氏に対して送信した電子メールである。したがって、甲27の1(電子メール)は、船橋に送られている乙1(電子メール)とは関係がない。 また、控訴人は、原判決が、「同電子メール中の『ご興味をお持ちのUSBフラッシュカード』、『ご心配されている規格の全部を強調するか、もしくは、我々より通常の規格とするように致します。』との記載からすれば、これは、『通常の規格』とは異なるUSBフラッシュメモリを話題にしているものとみるのが自然である。」(原判決65頁)と認定した点について、「異常な認定」であると主張している。 しかし、乙1(電子メール)を素直に読めば、小型USBフラッシュメモリの規格について、被控訴人の指示がない部分については通常の規格で作業を行うことを述べていることは明らかであって、控訴人の上記主張は失当である。 (2) 「被控訴人各商品(被告各製品)は控訴人から示された営業秘密を不正に使用した」との主張に対し ア 「控訴人が提供した本件技術情報の価値」につき 控訴人は、控訴人が提供した本件技術情報の価値は極めて価値の高いものであるとして縷々主張するが、これらの主張は原審での主張の繰り返しにすぎない。 そもそも、被控訴人は控訴人又は積智科技らからモックアップやPCBAサンプルの交付を受けていないため、それに関する技術情報の提供を受けた事実はない。また、原判決も認定するとおり、本件技術情報は、「その内容も公知であるか、又は、有用性を欠くものであって、本件各情報を一体としてみても、公知のものを組み合わせたにすぎないもの」(原判決87頁)であり、また、「被告が提供した情報・条件を基礎として検討されたもので、本件協議以前に、原告が、その固有の情報として有していたものとは認められない情報であ(る)」(原判決87頁)から、控訴人が主張するような価値はなく、控訴人の主張はおよそ失当である。 イ 「本件PCBAサンプルの授受」につき (ア) 被控訴人が、PCBAサンプルなるものを控訴人及び積智科技らから受領した事実は存在しない。 この点、控訴人は、甲27の36(電子メール)で言及されているサンプルがPCBAサンプルであるとも主張するが、ここでいうサンプルは、積智科技らが被控訴人に交付したと主張する「PCBAサンプル」ではなく、被控訴人が保有していたインベンテック社によって開発されたサンプルである(同電子メールでは単に「サンプル」となっており、「PCBAサンプル」とはなっていない。)。 また、控訴人は、甲27の43(電子メール)にて、C氏が、「先月、私たちが渡したPCBAのサンプル品をBさんが持っています。それで配置位置を確認ください。」と述べたことをもって、被控訴人がPCBAサンプルを受領していることの根拠であると主張する。 しかし、前記のとおり、被控訴人はPCBAサンプルなるものを受領していない。すなわち、原判決も判示するとおり、当時の事実経過からすれば、「PCBAのサンプル品」を被控訴人従業員船橋に渡したというのは、C氏の勘違いである。 (イ) また、控訴人は、PCBAサンプルの基となった資料に関する原判決の認定は誤りであり、既に提出済みのもの以上に控訴人の手元には残されていないと主張する。 しかし、原判決が認定するとおり、控訴人が既に提出済みであると主張するPCBAサンプルに関する資料(甲59〜甲65)は、その作成時期が立証されていないから、被控訴人との協議開始以前に存在したものとはいえず、いずれもPCBAサンプルなるものの存在を推測させるものではない。 ウ 「別紙データ目録1−7ないし10(7−1を除く)」につき 控訴人は、別紙データ目録1−1ないし5−2については、平成17年(2005年)4月26日以前に提供された情報であり、控訴人COB情報に該当するとし、情報が直接的にはバージョンアップ前製品の設計・製造に関するものである場合であっても、当該情報がバージョンアップ後の製品との関係において、当該情報を利用して不必要な研究開発費用の投資を回避・節約できる等の意味で有用性が認められるとし、●(省略)●を、被控訴人が得て使用している等と主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、原審での主張の繰り返しにすぎないところ、原判決は、控訴人の上記主張に関して、「被告が原告に委託したのは、COB(これ自体は、公知の事実であると認められる。)を用いた小型USBフラッシュメモリの製造の可否であることからすれば、COBを使用して被告が希望するサイズ・容量の小型USBフラッシュメモリを製造することができるか否かということは、そもそも、被告にこれを開示し、被告がこれを使用することを前提に検討されたものであるから、仮に、被告が、原告が提供したCOBによっては被告が希望するサイズ・容量の小型USBフラッシュメモリを製造することができないという情報に基づき、被告各商品ではCOBを使用しなかったとしても、それは、被告の原告に対する委託の趣旨に反するものではなく、技術情報の不正な使用に該当するものでもない」(原判決74頁〜75頁)と正当に判断しているのであって、控訴人の上記主張にはおよそ理由がない。 エ 「付随情報・補足情報」につき (ア) 控訴人は、その引用する原判決の判断部分が誤りであるとした上で、サイズ・容量問題を解決したという事実、及びその解決結果としての形状・サイズ・容量・現物・コスト情報(原判決別紙データ目録、説明のための電子メール、PCBAサンプルによる部品配列や回路構成等)が一体的に提供されたならば、それがそのまま商品化に利用できる技術情報であって、有用性が認められると主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、上記引用箇所で原判決が示した疑問に何ら回答するものではない。加えて、控訴人が主張する「サイズ・容量問題を解決したという事実、及びその解決結果としての形状・サイズ・容量・現物・コスト情報(原判決別紙データ目録、説明のための電子メール、本件PCBAサンプルによる部品配列や回路構成等)」なるものが具体的にはどのような内容なのか明らかではなく、営業秘密としての特定性を欠く。さらに、「サイズ・容量問題を解決したという事実、及びその形状・サイズ・容量・コスト情報」は、いずれも、フラッシュメモリ製造メーカーにフラッシュメモリのサイズを聞けば容易に分かる公知の事項にすぎないのであり、結局のところ、控訴人が主張する上記情報は公知情報と設計的事項の組合せにすぎないものであり、有用性を欠くものである。 (イ) また、控訴人は、控訴人が指摘する判決の判断部分を誤りとした上で、容量+各種寸法+形状+部品選択+部品配列+回路構成+回路構造などの組み合わせ情報(そして、これによって技術課題が解決できていることや、他の方法との比較した場合の利害得失情報)があることによって、そのまま商品化できる技術情報であれば、有用性が認められなければならないと主張する。 しかし、「容量+各種寸法+形状+部品選択+部品配列+回路構成+回路構造などの組合せ情報(そして、これによって技術課題が解決できていることや、他の方法と比較した場合の利害得失情報)」や「そのまま商品化できる情報」とは具体的にどのような内容を指すのか明らかではなく、営業秘密としての特定性を欠いているし、結局のところ、公知情報と設計的事項の組合せにすぎないものであり、有用性も欠いている。 (ウ) さらに、控訴人は、原判決の判断は特許権と同等の新規性ないし進歩性を要求するものであり、有用性の解釈として誤りであると主張する。 しかし、原判決は、通常の創意工夫の範囲内で検討することができる設計的事項に関して有用性を欠くと判示したにすぎず、特許権と同等の新規性ないし進歩性を要求するものではない。そして、当業者において適宜に選択される設計的事項に有用性が認められないことは多くの裁判例が示すところであるから、控訴人の上記主張は失当である。 オ 「本件技術情報」につき (ア) 控訴人は、それぞれ個別の情報がそれ単独で営業秘密であると主張しているのではなく、各情報が組み合わさった形で、かつ、作動する現物と合わせて提供したのであるから、競業者にとって有用な情報であったと主張する。 しかし、原判決が、「小型USBフラッシュメモリの寸法は、被告において決められていたのであり、その寸法に応じて、公知の技術をどのように組み合わせて各部品を配置するかは、当業者であれば、通常の工夫の範囲内において適宜選択・決定する設計的事項であるということができ、当該組合せによって、予想外の格別の作用効果を奏するものとも認められない。したがって、これらの情報を一体としてみたとしても、有用性があるとは認められず、営業秘密であると認めることはできない。」(原判決85頁〜86頁)と正当に判断するとおり、控訴人の上記主張は失当である。 (イ) 「LEDの配置に関する情報の有用性」に対し 控訴人は、LEDの配置に関する情報について、小型化を実現する寸法・形状との関係で「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事実及びその方法」を伝える情報として、また、そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報として、全てが組み合わされることによって、そのまま商品化を可能にする技術情報として有用性を獲得すると主張する。 しかし、そもそも控訴人主張の「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事実及びその方法」なるもの、「そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報」なるものが具体的にどのような内容なのかが明らかではなく、営業秘密としての特定性を欠いている。控訴人の主張を善解しても、結局のところ、単なるLEDの位置に関する情報にすぎず、例えば、配置したLEDへの電力供給のための回路構成等の設計上の工夫などに関しては何ら具体的な主張はなされていない。 いずれにせよ、LEDは、USBフラッシュメモリが通電状態にあることをユーザーに表示する目的で設置されるものであり、かかる目的に照らせば、接続端子部分(差込部分)ではなく、本体部分の末端部分(接続端子の反対側)に設置せざるを得ないものである。そして、小型USBフラッシュメモリを製造するためには、各部品を近接させて配置し余分なスペースをできる限り少なくしなければならないところ、本体部分の末端部分のどこにLEDを配置するかは、およそ右端、中央及び左端ぐらいしか選択肢がないのである。したがって、このようなLEDの配置は当業者であれば容易に思い付くものであり、有用性を欠く情報にすぎない。 カ 「本件技術情報の不正使用」に対し (ア) 控訴人は、形態の実質的同一性や基本アーキテクチャの一致という主張をして、被控訴人による本件技術情報の使用を推認させる事情があると主張する。 しかし、控訴人が上記項目で指摘する内容はいずれも控訴人の営業秘密ではないから、控訴人の主張は失当である。 (イ) 仮に、被控訴人各商品(被告各商品)に控訴人の主張と同様の情報が使用されていたとしても、被控訴人各商品(被告各商品)は、控訴人又は積智科技らとは無関係に、インベンテック社に開発委託した結果、同様の情報が使用されて、開発、設計されたものであり(乙43、乙49)、控訴人又は積智科技らから示された情報を使用したわけではないから、控訴人の上記主張は失当である。 (3) 「著作権侵害を理由する損害賠償権の準拠法」に関する主張に対し 控訴人は、法例11条2項又は通則法22条1項の「不法」の意味について、原判決の判断が誤っているとし、その根拠として、「日本法上の評価とは、同種の権利の侵害行為が日本法上も違法性を有し不法行為とされるか否かということであり、その権利は管轄権のある法律によって成立した権利であれば足り、同種の権利の侵害が日本法上違法であって不法行為と評価されれば足りるとされている。」としつつ、「被控訴人の行為は、著作権の一支分権たる翻案権の侵害であるところ、同種の権利たる日本法上の翻案権の侵害も不法行為であって損害賠償請求が認められることに異論はない。」と主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、原判決で否定された原審での主張の繰り返しにすぎない。 また、控訴人の引用部分である「同種の権利の侵害が日本法上違法」であるとは、同種の具体的な権利侵害行為が日本法上も違法であることを意味することは明らかである。 そして、原判決は、原告設計図1及び2について、インベンテック設計図を複製したものであり、控訴人が著作権を有するとは認められないとした上で(原判決89頁以下)、控訴人の著作権侵害に基づく損害賠償請求の準拠法が台湾法であり、控訴人の請求が認められるためには、被控訴人の行為が日本法上も不法であることが必要であるところ、被控訴人の行為は台湾法上著作権侵害に該当せず、日本法上も不法ではないとしたものであって(原判決91頁以下)、その判断はいずれも正当なものである。 (4) 「不法行為の成否」に関する主張に対し 控訴人は、信義則違反型の不法行為が成立する旨縷々主張する。 しかし、次のとおり、控訴人が主張するような信義則上の義務が生じることはなく、仮に、被控訴人が控訴人主張の本件技術情報を使用したものと評価されたとしても、信義則違反型の不法行為が成立する余地はない。 ア まず、原判決(70頁〜71頁)が認定するとおり、そもそも被控訴人はモックアップ及びTSOPを使用したPCBAサンプルの交付を受けていないから、これらに関する情報の提供を前提として不法行為の成否を議論することは誤りである。 イ 次に、本件技術情報が控訴人の主張するように極めて価値が高いものであるならば、秘密保持契約を締結したうえで提供するのが自然であり、控訴人としては秘密保持契約を締結しなければ情報を提供しないという選択肢もあった。しかし実際には、積智科技らは秘密保持契約を締結することなく本件技術情報を提供しているのであり、このような事実からすれば、本件技術情報は、積智科技らにとってもその程度の価値しかない情報と認識されていたものである。 ウ また、本件では、被控訴人は本件協議前に既に小型USBフラッシュメモリのワーキングサンプル(乙7)を保持しており、より安価で製造する目的から、積智科技らに対してCOB技術を用いた小型USBフラッシュメモリの製造が可能か否かを打診したものであるところ、この段階では、被控訴人は積智科技らに小型USBフラッシュメモリの製造を委託できるかどうかを検討していたにすぎず、控訴人が主張するような信義則上の義務が発生するような関係にはなかった。すなわち、被控訴人は、積智科技らの提供した情報によってCOB技術では256MB以下の容量の小型USBフラッシュメモリしか製造できずコスト面でのメリットがないことが分かり、COB技術を用いた小型USBフラッシュメモリの製造の委託を断念したものであって、実際、被控訴人各商品(被告各商品)ではCOB技術を使用していない。万一、被控訴人のかかる行為が、控訴人が主張するように本件技術情報の使用に当たるとしても、それは、積智科技らの被控訴人に対する情報の提供の趣旨に反するものでもない。 エ さらに、被控訴人は、控訴人に対してインベンテック社との協議継続の事実を告げていないが、積智科技らに独占的に製造委託をすることを打診したわけではなく、ましてそのような契約を締結したわけでもないから、これまで小型USBフラッシュメモリの開発を続けていたインベンテック社との間の協議を中止すべき理由は存在しない。他方で、製造委託の打診に際しては、特定の一社のみに打診することは少なく、製造コストの削減等の観点から、複数の候補に対して打診がなされるのが通常であり、委託を受ける側としても当然それを承知している。 オ 本件の場合、契約締結前の段階にあったため、一般論として契約関係継続中あるいは契約終了後と比較して両当事者間の信頼関係の程度は低かったし、しかも、被控訴人と控訴人又は積智科技との関係は基本的に水平関係の競争相手たる競業企業であるから、両者の信頼関係は相当程度希薄なものであった。 カ 控訴人は、被控訴人が極めて積極的な情報入手の姿勢を貫いていた旨主張するが、被控訴人は、小型USBフラッシュメモリのワーキングサンプル(乙7)を見せた上、自ら乙8の2(インベンテック設計図)を積智科技らに提供し、積智科技らはそれをもとに商品の検討を進めていたにすぎないのであるから、被控訴人が一方的に積極的な情報入手の姿勢を貫いていたなどという事実はない。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の本訴請求は、結論において理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正・付加するほか、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。 2 原判決の訂正 (1) 原判決65頁10行目の「同電子メールの中の『ご興味を・・・』」から下6行目の「USBフラッシュメモリに関するものであったと認められる。また、」までを削除する。 (2) 原判決87頁11行目の「仮に、本件技術情報に原告の」から14行目の「に対して提供された趣旨に合致こそすれ、これに反するものではなく、」までを削除した上、これを「仮に、被控訴人が本件技術情報を使用していたとしても、それは、被控訴人が控訴人に対して提供した情報・条件を基礎とした公知の情報若しくは公知の情報の組合せを使用したにすぎないから、」と改める。 3 当審における控訴人の主張に対する判断 (1) 「被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人商品(原告商品)の形態を模倣した」との主張について ア 不競法2条1項3号において保護されるべき「商品」につき (ア) この点に関する控訴人の主張は、原審における主張の繰り返しにすぎず、引用されている証拠によっても控訴人商品(原告商品)の存在した事実が認められないことは、原判決(53頁(1))が説示するとおりである。 (イ) 控訴人は、事案によっては販売前でも保護され得るのであって、試作品や設計図の完成段階であってもその模倣は違法と解すべきであるし、見本市や展示会でも出品があれば、当然その時点で保護対象となると解すべきであると主張する。 しかし、本件において控訴人商品(原告商品)に関する完成段階にある試作品や設計図の存在及び展示会への出品の事実が認められないことは原判決(54頁〜57頁イ、ウ)の認定したとおりであるから、控訴人の上記主張は理由がない。 (ウ) 控訴人は、原判決は、保護の始期の問題として、競業者にとって有用性があると認められるべき商品の技術情報は、販売段階に至った製品の形に結実していない場合でも不競法2条1項3号の問題としても保護に値し得ることを看過したと主張する。 しかし、不競法2条1項3号はその文言記載のとおり商品の形態を保護する規定であって技術情報を保護する規定ではないから、控訴人の主張は失当であるが、本件協議前に控訴人商品(原告商品)に関する有用な技術情報が存在していたと認めるに足りる証拠がないことは原判決(53頁〜54頁ア)の認定したとおりであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。 イ 控訴人商品(原告商品)の先行開発につき (ア) この点に関する控訴人の主張は、原審における主張の繰り返しにすぎず、控訴人が平成16年7月ないし8月の段階で内部構成を含めて、初版製品の開発設計を終えていたこと、平成16年11月にPDCアーキテクチャーによって構成される小型USBフラッシュメモリーのコントローラー周り・回路構成が開発・確定されていたこと、及び平成17年3月10日からドイツで開催されたCeBITに控訴人が小型USBフラッシュメモリを出品していたこと、以上の事実はいずれも認めるに足りないことは、原判決(54頁〜57頁イ、ウ)のとおりである。 (イ) 控訴人は、乙42(SMI社長の陳述書)に関し、圧倒的な経済的地位を持つ重要な取引先との関係を優先せざるを得ないSMI社長が被控訴人に提出した内容の極めて薄い陳述書であって、控訴人の主張を否定できるような信用性を有するものではないにもかかわらず、その内容・信用性を詳しく検討することなく乙42に安易に依拠した原判決は誤りであると主張する。 しかし、全証拠を精査しても控訴人が主張するような事情を窺わせる証拠はなく、SMI社長が圧倒的な経済的地位を持つ重要な取引先との関係を優先せざるを得なかったとの控訴人の主張は憶測にすぎないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 (ウ) 控訴人は、甲61ないし甲63のデータが平成17年1月19日に、甲64のデータが平成17年4月28日に、それぞれ控訴人において開発され存在していた事実は甲77及び甲78により明らかであると主張する。 しかし、甲77及び甲78は、データファイルを専用ソフトで展開したところ甲61ないし甲64と同じファイルが展開されたことを確認した旨の陳述書とデータファイルであるが、そのデータファイル自体当時作成されたものであるか否かを確認することはできないから、控訴人の上記主張を証明するに足りる証拠と認めることはできない。仮に、甲77の添付1記載の日付によって甲61ないし甲63のデータが平成17年1月19日に作成されたものであったとしても、そもそも甲62及び甲63の基板はいずれも本体部分と端子部分の幅が同一のストレート形状のものであって、控訴人が先行開発したと主張する控訴人商品(原告商品)とは形状が異なっているから、上記証拠をもって、控訴人が控訴人商品(原告商品)を先行開発したことを認めるに足りない。また、同様に、仮に甲77の添付2記載の作成日が事実であったとしても、その作成日は「2005年(判決注:平成17年)4月28日」であるから、上記証拠によっても、控訴人が平成17年3月以前に控訴人商品(原告商品)を先行開発していた事実を証明するものではない。 以上のとおり、控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ 「インベンテック社における開発・検討状況」につき 控訴人は、原判決が「小型USBフラッシュメモリの基本的な形態・寸法と基本的な回路構成は、被告及びインベンテック社において検討済みであったと認められる。」(同62頁)と判示した点について、原判決の掲げる証拠は、小型USBフラッシュメモリの「開発済み」の証拠とはいえないことはもちろん、原判決が認定するような「基本的な回路構成」が検討済みであったことを示すものでもあり得ず、原判決が認定する@〜Eは、いずれも「回路構成」に関する検討状況を示すものではない等と主張する。 しかし、ここで重要な点は、平成16年8月当時インベンテック設計図が作成済みであったか否か及び同設計図に依拠したサンプルが存在したか否かであるところ、原判決の採用した証拠によれば、被控訴人及びインベンテック社においてインベンテック設計図(乙6の2、乙8の2)が作成済みであったこと、複数個のワーキングサンプルがインベンテック社から被控訴人に対して送付されていたことからすれば、本件協議当時、既に乙7(サンプルの写真)のような小型USBフラッシュメモリが開発済みであったと認めることができるから、乙7が手交されていたか否かにかかわらず、小型フラッシュメモリの基本的な形態・寸法及び回路構成は、被控訴人及びインベンテック社において検討済みであったとの原判決の判断に誤りはなく、控訴人の上記主張は採用することができない。 エ 「乙1に関する認定・評価の誤り」につき (ア) 事実誤認@の有無 控訴人は、平成17年3月7日の時点で小型USBフラッシュメモリのガーバーファイルを控訴人が被控訴人に送付を求めることなどあり得ず、控訴人が乙1(電子メール)により求めたのは、通常サイズのUSBフラッシュメモリに関するガーバーファイルであって、原判決の認定は誤りであると主張する。 しかし、被控訴人とインベンテック社との間における小型USBフラッシュメモリの開発経過、インベンテック設計図の存在並びに甲27の1及び2(電子メール)におけるやりとりからすれば、乙1(電子メール)記載の「ガーバーファイル」は小型USBフラッシュメモリに関するものであったと認めるのが相当であるから、原判決の認定に誤りがあるとはいえず、控訴人の上記主張は採用することができない。 (イ) 事実誤認Aの有無 控訴人は、原判決が「同電子メール中の『ご興味をお持ちのUSBフラッシュカード』、『ご心配されている規格の全部を強調するか、もしくは、我々より通常の規格とするように致します。』との記載からすれば、これは、『通常の規格』とは異なるUSBフラッシュメモリを話題にしているものとみるのが自然である。」と認定したことに関し、甲27の1(電子メール)に記載されている見積書が通常サイズのものであることから、乙1(電子メール)で求めたものも通常サイズのガーバーファイルであるから、原判決の認定は誤りであると主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、乙1と甲27の1の各電子メールを関連付け、乙1(電子メール)が、甲27の1添付の見積書の用意を意識して送られたとの理解を前提にしているが、そもそも、乙1と甲27の1の各電子メールはそれぞれの日付及びその内容並びに被控訴人が指摘する甲27の3(電子メール)下段の内容に照らし、相互に関連しているものとは認められない。したがって、控訴人の上記主張は、その前提において誤っており採用することができない。 また、控訴人は、乙1(電子メール)にある「we will follow as normal spec」(訳文:「我々はより通常の規格とするように致します。」)との記載を捉えて、市場に出ていない開発中の新製品であった小型USBフラッシュメモリについて「通常の規格(仕様)」などというものは存在しなかったとして、乙1(電子メール)記載のガーバーファイルとは通常のサイズのガーバーファイルであったと主張する。 しかし、乙1(電子メール)の冒頭の「Regards the USB flash card you are interested is no problem for PDC 」(訳文:「ご興味をお持ちのUSBフラッシュカードは、PDCにとって問題ありません。」)との記載からすれば、「ご興味をお持ちのUSBフラッシュカード」とは、小型USBフラッシュメモリを意味することは明らかであり、文章全体の脈絡からすれば、上記の「通常の規格」とは、被控訴人から小型USBフラッシュメモリの規格の全部を指示しない場合は、控訴人の方で通常の規格とするように作業を進めるという意味であることは明らかであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。 (2) 「被控訴人各商品(被告各商品)は控訴人から示された営業秘密を不正に使用した」との主張について ア 「控訴人が提供した本件技術情報の価値」につき 控訴人は、控訴人が提供した控訴人COB情報及び控訴人非COB情報の価値は極めて高いものである旨主張する。 しかし、控訴人が被控訴人に対して提供したと主張する控訴人COB情報及び控訴人非COB情報というものが具体的にどのような情報であり(なお、控訴人は、別紙データ目録1−1ないし5−2が控訴人COB情報に該当するとも主張するがそれが全てと主張するものではない。)、何をもって営業秘密というのか特定を欠いていること、控訴人が具体的に主張する技術情報の内容も公知であるか、又は、有用性を欠くものであって、各技術情報を一体としてみても、公知のものを組み合わせたにすぎないものであって、極めて価値が高い情報とはいえず、仮に価値のある情報があったとしても、それは被控訴人が提供した情報・条件を基礎として検討されたものであって控訴人の固有の情報とはいえず、それらの技術情報に占める控訴人の寄与・貢献度が極めて大きいとも認められないことは原判決認定のとおりであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。 イ 「本件PCBAサンプルの授受」につき 控訴人は、PCBAサンプルが控訴人から被控訴人に交付されたと主張し、これを否定する原判決の判断は誤りである旨主張する。 しかし、控訴人の主張するPCBAサンプルの具体的な内容は必ずしも明らかでなく、また、その存在を示す的確な証拠がないことは原判決(70頁〜71頁(1))の指摘するとおりであって、控訴人から被控訴人に対しPCBAサンプルが交付されたと認めることができないとした原判決の判断に誤りがあるとは認められないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ 「別紙データ目録1−1ないし10(7−1を除く)」につき 控訴人が、別紙データ目録の技術情報のうち、具体的にどのような技術内容をもって営業秘密と主張するのか明らかでなく、また、これらの情報が営業秘密に該当しないことは、原判決(71頁〜73頁(2))の認定のとおりである。 この点に関し、控訴人は、別紙データ目録の技術情報につき、控訴人提供の技術成果はCOB技術による小型化及びCOB以外のメモリ実装方法による小型化の両方について、その商品化を可能にする貴重なものだったのであり、また、商品化に必要な「結論」部分に加えて、結論にたどり着く「プロセス」部分に関する情報も被控訴人は得たのであって、こうした情報は、最終的な結果・結論部分だけの情報を得ることに比べて、実務上格段に価値の高い情報であり、それらは他の情報と組み合わされて全ての情報が有機的に一体となることにより極めて高い価値を備えるものであって、かかる情報をも備えた本件技術情報のまとまった形での提供に有用性を認めないことは営業秘密保護法の立法趣旨に反するものである等と主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、控訴人の主張する営業秘密の外延を不明確にするものであって、控訴人の主張のとおりだとすると、控訴人主張の有機的一体となった技術情報の範囲はどこまでか、それらの情報が営業秘密の要件を具備していることをどのように確定するのかがますます不明になるといわざる得ない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 エ 「付随情報・補足情報」につき (ア) 控訴人は、控訴人においてサイズ・容量問題を解決したという事実、及びその解決結果としての形状・サイズ・容量・現物・コスト情報が一体的に提供されたならば、それがそのまま商品化に利用できる技術情報であることは明らかである等と主張するが、そのような主張が失当であることは、前記ウで判断したとおりである。 (イ) また、控訴人は、製造委託を受けた者が創意工夫によって提供した一定の独自の価値を有する情報についてまで営業秘密性を否定するならば、営業秘密の要保護性として特許権と同等の新規性ないし進歩性を要求するものであって、営業秘密保護法の意味を大きく失わせる等と主張する。 しかし、「製造委託を受けた者が創意工夫によって提供した一定の独自の価値を有する情報」が営業秘密といえるためには営業秘密の内容が特定され、営業秘密と認められるための要件を具備していることが必要であるところ、原判決は控訴人の主張する技術情報がそれらの条件を満たしていないと判断しているにすぎず、営業秘密の要保護性として特許権と同等の新規性ないし進歩性を要求するものではないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 オ 「本件技術情報」につき (ア) 控訴人は、本件技術情報1ないし8について、それぞれの個別の情報がそれ単独で営業秘密であると述べているのではなく、各情報が組み合わさった形で、かつ、作動する現物とあわせて提供したのであるから、競業者にとって有用な情報であったことは確実であると主張する。 しかし、上記主張が失当であることは、前記ウのとおりである。 (イ) また、控訴人は、LEDに関する情報について、小型化を実現する寸法・形状との関係で「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事実及びその方法」を伝える情報として、また、そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報として、全てが組み合わさることによって、そのまま商品化を可能にする技術情報として有用性を獲得すると主張する。 しかし、「そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報として、全てが組み合わさ」った情報とはどのような情報なのか不明であり、営業秘密としての特定性を欠くといわざるを得ないばかりか、原判決(81頁〜82頁オ(イ))が説示するとおり、控訴人が提供したとするLEDの搭載の可否、搭載位置、光線の方向及びLEDの実装に関する情報は、被控訴人から提案された選択肢及び条件を満たすために適宜控訴人において部品や搭載位置を選択したものであって、その内容は、当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎないものと認められるから、控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) 「本件技術情報の不正使用」に関する主張について 控訴人は、控訴人商品(原告商品)と被控訴人各商品(被告各商品)とは実質的に同一の形態であること、技術情報についても両者が一致することなどを理由として、被控訴人が控訴人の営業秘密を利用していることは明らかであると主張する。 しかし、前記のとおり、控訴人が営業秘密であると主張する技術情報は営業秘密とは認められないから、形態が実質的に同一であり、被控訴人各商品(被告各商品)に控訴人が主張する技術情報が含まれていたとしても、被控訴人が控訴人の保有する技術情報を不正に使用したことにはならない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (4) 「著作権侵害を理由とする損害賠償請求権の準拠法」に関する主張について 控訴人は、法例11条2項又は通則法22条1項の解釈に関し、これらの条項が適用されるためには、その権利は管轄権のある法律によって成立した権利であれば足り、同種の権利の侵害が日本法上違法であって不法行為と評価されれば足りると解釈すべきとした上で、その解釈によれば、本件では、被控訴人の行為は台湾法上の著作権の一支分権たる翻案権の侵害であるところ、同種の権利たる日本法上の翻案権の侵害も不法行為であって損害賠償請求が認められると主張する。 控訴人の著作権侵害を理由とする本訴請求は、被控訴人がなした平成18年12月1日から同19年11月30日までの行為を理由とするものであるところ、その根拠となる準拠法の決定方法に関する定めは、平成18年12月31日までは「法例」(明治31年法律第10号)により、平成19年1月1日からは「法の適用に関する通則法」によることになる(上記「通則法」の施行期日に関する平成18年政令289号参照)。 ところで、本件のような不法行為の準拠法について上記「法例」はその11条で、「通則法」では17条(不法行為)と22条(不法行為についての公序による制限)で、それぞれ定めているが、法例11条2項又は通則法22条1項による「不法」とは、控訴人が主張するとおり、同種の権利の侵害が日本法上違法であって不法行為と評価される場合をいうと解釈されるところ、その意味は、同種の具体的な権利侵害行為が日本法上も違法であるということであり、本件についていえば、原判決が指摘するように、設計図から工業製品を製造するという具体的な行為が日本法上も翻案権その他の著作権侵害として違法であるという意味であることは明らかである。これを「被告の台湾著作権法違反行為は日本法上も『不法』であるから、台湾著作権法違反による損害賠償請求は本件において可能というべきである」とする控訴人の解釈は、独自の解釈にすぎず、採用することはできない。 なお、原判決は、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の準拠法を台湾法であるとした上で、本件では、台湾法上、設計図から工業製品を製造する行為は翻案権及びその他の著作権侵害になると認めることはできないとし、さらに、重畳適用される日本法上も、設計図に従って工業製品を製造することは日本法上も翻案権及びその他の著作権の侵害行為には該当しないと判断するものであるから、いずれにしても、控訴人の上記主張は原判決の判断に影響を及ぼすものではなく、失当である。 (5) 「不法行為の成否」に関する主張について 控訴人は、被控訴人の行為が不法行為に該当する根拠として、さらに、被控訴人の信義則違反や契約締結上の過失を主張する。 しかし、そもそも、本件では、本件協議前に控訴人商品(原告商品)が開発済みであったとは認められず、また、その時点で控訴人設計図面1及び2も存在したとはいえないこと、その後の交渉においても、控訴人からモックアップや本件PCBAサンプルが交付されたものとは認められず、控訴人が提供したと主張する本件技術情報も営業秘密とは認められないものであったこと、かえって、本件協議の直後に、被控訴人から控訴人に対し、インベンテック設計図(乙8の2)が交付されたこと、それによって小型USBフラッシュメモリの寸法情報等が提供され、それを前提としてその後電子メール等のやりとりが進行したこと、被控訴人は控訴人に対しCOB技術を用いた小型USBフラッシュメモリの製造が可能か否かを打診したものであったところ、この段階では、被控訴人は控訴人に小型USBフラッシュメモリの製造を委託できるかどうかを検討していたにすぎなかったこと、しかし、結局、COB技術ではコスト面でのメリットがないこと等が分かり、COB技術を用いた小型USBフラッシュメモリの製造の委託を断念し、被控訴人各商品(被告各商品)ではCOB技術を使用しなかったという原判決の認定した事実関係の下では、控訴人の主張する信義則違反や契約締結上の過失を適用する前提事実自体が存在しないというべきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。 4 結論 以上のとおりであるから、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がない。そうすると、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結論において誤りがなく、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所 第1部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉 |
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