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【事件名】都議選候補の写真無断転用事件(2)
【年月日】平成23年10月31日
 知財高裁 平成23年(ネ)第10020号 損害賠償等、同反訴請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第25767号、平成23年(ネ)第36771号)
 (口頭弁論終結日 平成23年9月5日)

判決
控訴人 X(一審本訴被告・反訴原告)
被控訴人 Y(一審本訴原告・反訴被告)
訴訟代理人弁護士 外立憲和
同 若井広光
同 中條秀和
同 甲斐伸明


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 本訴事件につき
 被控訴人の請求を棄却する。
3 反訴事件につき
 被控訴人は、控訴人に対し、100万円及びこれに対する平成21年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(略称は原判決の例による)
1 本訴事件は、職業写真家である一審原告の撮影した公明党都議会議員の肖像写真を、同議員が広報用に開設したウェブサイトからダウンロードして、一審被告が平成21年6月に一審原告に無断で同写真を利用したビラを作成し又は自らのウェブサイトに掲載した等として、一審原告が一審被告に対し、著作権侵害を理由にその差止めと損害賠償金400万円及び遅延損害金の支払を求めたものであり、一方、反訴事件は、一審原告が平成21年6月24日になした刑事告訴及び本件訴訟提起が不法行為に当たるとして、一審被告が一審原告に対し、その損害賠償金100万円と遅延損害金の支払を求めた事案である(詳細は原判決記載のとおり)。
2 平成23年2月9日になされた原判決は、本訴事件については上記差止めと損害賠償金78万5000円及び遅延損害金の支払を命ずる限度で認容してその余は棄却し、反訴事件については、全て棄却したため、これに不服の一審被告が本件控訴を提起したものである。
第3 当事者の主張
 当事者双方の主張は、以下のとおり付加するほか、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。
1 当審における控訴人の主張
(1) 中立性・公平性を欠いた原判決
 本事件は創価学会とその支援を受ける公明党議員の行った犯罪行為を糾弾した控訴人の言論活動を妨害するために行われた、言論弾圧目的の訴訟である。
 公人である都議会議員・A(以下「A議員」という。)による選挙カーのガソリン代不正受給という詐欺行為(刑法246条)を追及、その事実を世間に公表し、創価学会と公明党の反社会的体質を訴えたことは、憲法21条(表現の自由)に則った行為であり、何ら規制されるべきものではない。
 原判決ではこういった根幹となる事件の背景に触れることを避けており、真理から目を背けているものである。
 原判決文の「(4)被告の行為」(5頁)においては、「被告は、平成21年6月ごろ、同年7月に行われる東京都議会議員選挙に立候補していた公明党所属のA議員について、同議員が平成17年7月の都議選の際、公費負担となる選挙カーのガソリン代を不正に水増し請求し、東京都から公費をだまし取っていた事実があると考え、これを有権者に訴えようと協力者らと共に街宣活動を行った。」と記述されている。
 この「事実があると考え」とは、いかなる意図を持っての表現であろうか。だまし取った事実に関しては乙1−1、同1−2、同1−3において都選管へ提出された証明書をもって、不正受給の事実を立証済みである。
 乙11−1、同11−2、同11−3の新聞報道を見ても分かるとおり、A議員の行った水増し請求は明確に詐欺罪という犯罪行為として、世間及び、司法においても認知されていることには、何ら疑う余地がない。
 ここではA議員が詐欺罪で逮捕されたか否かを問題としていない。
 「水増し請求によってだまし取った」、という事実を述べたものであり、何ら否定されるものではない。
 この件に関しては原審において、被控訴人からは何らの反論もなされていない。否定する論拠も提出されていない。
 にもかかわらず、原判決においては、あたかも控訴人の一方的な思い込みか、意図的な謀略宣伝であったと位置づけるかのごとき事実を歪曲した表現を用いている。
 中立公正な立場にあれば、「だまし取っていた事実を有権者に訴えようと、」と、記述するのが通例である。
 この点を取上げても、原判決がいかに控訴人を貶め、被控訴人を擁護する立場に立っているかを窺い知ることができる。
 よって、原判決を破棄して中立公正なる立場から審理がやり直されなければならない。
(2) 創価学会による言論封殺が目的である事実
ア 被控訴人が東京地裁に文書配布禁止等仮処分命令を申し立てたのは平成21年6月19日である。
 創価学会・公明党のA議員が街宣禁止の仮処分命令を申し立てたのと同一の日付であることは偶然ではない。
 被控訴人が本訴を提起したのが平成21年7月24日であるが、その直前の同年7月14日には、被控訴人が所属する創価学会(B代表幹事)が、 控訴人を被告として2640万円を請求する訴訟を提起している。
 被控訴人による文書配布仮処分命令の申立てと、本訴は常にA議員、創価学会による申立て・提訴と連動した一帯のものであり、控訴人に対する言論活動を妨害するために仕組まれたことは客観的時系列から見ても疑う余地はない。
 被控訴人は、陳述書(甲10)においては、自らが創価学会の信者であり公明党員である事実を述べていなかったが、原審の過程における控訴人の調査結果として、被控訴人が創価学会信者であり公明党員であることが判明している。被控訴人はこれを否定していない。
イ 原審における反訴原告第6準備書面の「三、原告証言における虚偽の可能性」(4〜6頁)において、実際には本件ビラの配布場所には行っていない被控訴人が創価学会からの依頼によって名義を貸して原告となった可能性を指摘したが、原審では、この重要なる事柄に対し、意図的に検証をさけている。
 公明党本部職員のCが乙21(仮処分申立の際の甲6と同一)において、ビラ取得までの経緯を詳細に陳述している。
 原告となる被控訴人はCからの連絡を受けて、中野駅前まで車を飛ばして街宣とビラ頒布の現場を確認したと証言しながら、甲10の陳述書においては、その肝心の件が一切記述されていないのは不自然。
 また、やましい所がなければC同様に公明党員、または創価学会信者である事実を陳述して差し支えないはずである。
 不自然である故、バランスを取るために、詳細なる記述を行ったCの陳述書を本訴においては提出しなかった、と考えられる。
 わざわざ代々木上原から車を運転して中野駅前まで来ながら、本件ビラを受け取ろうとしなかったというのも不自然である。
 どこに車を止めて様子を眺めていたのか、街宣・ビラ配布を観察できる距離において駐車できるスペースがないことも反訴原告第6準備書面で指摘している。
 Cから電話をもらって15分で到着したという証言にも無理があり、被控訴人が自ら頒布現場を確認し、自らの意思で提訴したというのは信用できない。
 創価学会・公明党の依頼を受けて、控訴人の言論弾圧のために提訴したことは疑いの余地がない。
ウ 本来であれば、ガソリン代不正受給の当事者と名指しされたA議員が控訴人を名誉毀損及び肖像権の侵害で提訴したいところであったろうが、不正受給を行ったことは事実であり、公人たる都議会議員としては肖像権を主張しても、訴えが認められる可能性が皆無であることを考慮して、被控訴人を使ったとみるのが自然であり、この論を否定する論拠は存在しない。
 A議員は平成21年6月19日に名誉毀損罪で、被控訴人は同年6月24日に著作権法違反で、共に控訴人を警視庁に刑事告訴した。
 しかしながら両事件とも事件として立件されることはなかった。
 両事件においては公明新聞紙面、及び同ウェブ版において控訴人は一方的に刑事告訴されたというだけで、犯罪者のごとく敬称略で報道されたものである。
 よって、著しい人権侵害を受けたことは論を待たない。
(3) 差止めの理由が存在しない事実
ア 事件内容の告知のための転用であること
 原判決においては一律に本件写真の使用を禁止し、控訴人のインターネット上での掲載をも禁じているが、不当である。
 原判決の「4(1)差し止め請求」で、「平成22年2月4日には、インターネット上の被告のウェブサイト(ブログ)に本件写真の複製物と認められる写真が掲載されていること(甲19)等の事情を考慮すれば、被告が今後も被告写真1〜3を掲載したビラを作成して頒布し、被告写真4をインターネット上の自己のウェブサイトにアップロードするおそれがある」(28頁)と記述しているが悪意に満ちた憶測にすぎない。
 甲19は平成22年2月4日のブログの一部である。控訴人は全体像がわかるように乙20を提出している。
 ここでは、これがA議員のホームページである、旨を説明している。
 当グログは控訴人の活動に賛意と支持を寄せてくれる支持者に対する活動報告のための手段として開設しているものである。
 現在、控訴人が創価学会とその信者である被控訴人との間で裁判を戦っている件について、その内容を知らせるためには、このA議員のホームページにある写真が問題になっている、と説明しなければならない。
 そして、提訴の段階では入っていなかった「All rights reserved」の表記がある事実を知らせているものである。
 これこそ、正に寸分の狂いもない報道のための転用である。
 仮に、本事件が社会的に大きな注目を浴びることになるならば、テレビや商業新聞でも、A議員のホームページを写し出して、「このホームページにあるのが問題となっている写真です」、と報道することになる。
 現状では創価学会の圧力があり、大手マスコミは黙殺しているが、別の事案であれば、元となるホームページや写真を写し出すことは通常に行われている。
 分かり易い事例としては、支那(中国)の遊園地がデズニーランドのキャラクターを真似た縫いぐるみで客を接待している様を報道するに当たっては、本物のデズニーランドのキャラクターの写真をもって対比させているが、本家の承諾を得ている訳ではない。
 昨年の上海万博のテーマソングにおいて、Dの作曲歌「そのままの君でいて」が模倣された件については、テレビニュースでも連日、両曲が対比して流されたが、これとて作曲者・Dの承諾を取り付けた訳ではない。
 以上と、全くの同じケースである。
 「今、裁判で争われているのはこの写真です。」そして、「All rights reserved」の表記なのです、と説明するためには掲載することが不可欠なのである。
 原審の過程で被控訴人が甲19を提出し問題とした時点で、削除することは可能であったが、控訴人としては何ら咎められる理由が存在しないことを確信していたから、そのままにしている。
 原判決に従って、このような引用が違法であると差止めの理由付けになるようであれば、上述したようなニュース報道はすべて違法とならなければならなくなる。
 この事実をもって、「ビラを作成・頒布」「ウェブサイトにアップロードする」「おそれがあると認められる」というのは、どこにも根拠がない。写真4については、常にA議員のホームページにアップされているものであり、控訴人がビラ作成のために保持する必要など皆無である。
イ 廃棄請求について
 「被告が本件各ビラを全部破棄したと認めるに足る証拠はないから、被告に対し、本件各ビラの破棄を命じる必要がある」(28〜29頁)とあるが、被控訴人代理人が平成21年7月1日に、裁判所職員と共に控訴人宅へ上がりこんで家宅捜索を行った上で、残るビラ10枚ほどを強制的に持ち去ったものである。
 破棄してないとするならば、その立証責任は家宅捜索を実施した被控訴人の側にある。
 控訴人は仮処分通知受領直後に乙5のビラを作成したものであり、何ら甲3、5を保持する理由はない。
 また、平成22年7月の都議選を終了して以降は当該ビラを作成・頒布する必要性は消滅している。
ウ 写真目録2(甲4)カラー写真入りビラ
(ア) 作成・頒布に携わっていない事実
 写真目録2(甲4)のカラー写真入りビラの作成・頒布において控訴人は一切の関わりがないことを第1準備書面において陳述済みである。
 何らこの陳述を覆す論拠はないにもかかわらず、原判決では「協力者らが本件ビラ2を通行人に頒布するのを止めようとした形跡はない」(23頁)とあたかも控訴人がこれを容認したかの記述をしている。
 「街頭演説を終了した後に車の中に同じ物が1枚あったので、誰かがもって来たのだなァ」と認識したのである。
 「街頭演説をやっている最中ではない」
 やっている最中になど車内を見回すことは不可能である。
 これは控訴人が頒布を支持したものでもなければ頒布することを容認したものでもない。
 結果としては誰かが自腹でカラーコピーしてまで持ってきてくれたことに対し、その気持ちに感謝の意味で肯定的に捉えたにすぎない。
 原案として一部の支持者に送信した後に、文章に誤字があったことが判明したので、甲4を破棄して甲3に作り直したのである。
 最終副題、「創価学会の犯罪を許さない」の本文で4〜5行目、「要求」を「要望」へ。
 6行目E’をEへ訂正した。
 E・元公明党委員長においては著書の「黒い手帖」(講談社刊)82頁において、創価学会内部に殺人を請け負う機関が存在していた事実を記述した人物であり、創価学会の犯罪行為を糾弾する上においては、重要な人物名である。
 この事実を周知するビラにおいて変換ミスとはいえ、名前の記述を間違ったままで作成されたビラを頒布することはありえない。もし、控訴人が事前に分かっていれば、修正前のビラは頒布をやめさせていたはずである。
 控訴人は甲4ビラの複製・頒布には関与していない。
(イ) 400〜500枚という悪意に満ちた過大評価
 原判決においては本件各ビラの作成枚数を1300〜1400枚程度と何の根拠もなく決め付けている。
 その中でビラ1を500枚程度、ビラ3を400枚程度としている。
 このとおりであるならば、ビラ2の枚数は400〜500枚ということになる。
 カラーコピー機など一般家庭にはないであろうから、文具屋等でコピーする場合は1枚50円ほどが普通である。
 そうすると、2万円〜2万5000円を費やしたことになる。平成21年6月17日の昼までにこれらを400〜500枚カラーコピーしたことになる。
 そして、控訴人が野方駅前で演説していた10数分の間に1枚を残して通行人に頒布したことになる。
 そのような人物が控訴人の支持者の中にいたとは考えられない。
 このような荒唐無稽の作り話をでっち上げているのが原判決であり、全てにおいて整合性がとれていない。原判決は信用できないことばかりである。
(4) 著作権侵害及び損害賠償の対象ではない事実
ア 著作権を侵害する意図がない事実
 著作権を侵害するというのは、一般的に当該する写真に対して無許可で使用する者がその芸術的価値を認めるとか、商業的な価値に着眼して、無断使用するものである。
 本件写真においては、被控訴人が著作権を有しているとしても、控訴人は、その事実を知らなかったものである。
 公人であり不正行為の当事者として、常に批判の対象となる政治家の顔写真を他に転載することが、金銭の授受を目的として公開されている商業写真と同一視して捉えることは困難であった。
 控訴人としては本件写真に対しては何らも芸術的、商業的価値を見出していない訳であるから、著作権を侵害するなどという意図は発生し得ないのである。
 であるからして、本件写真の使用を禁止した平成21年6月29日の「仮処分の決定」(甲9)が到着した時点で、何ら執着することなく、あっさりと本件写真の使用をとりやめ、東京都議会のホームページから転載した写真(乙4)を使用して別のビラ(乙5)を作成・頒布したものである。
 控訴人においては被控訴人の著作権を侵害しようとする意図が皆無であることは明白である。
 にもかかわらず、原判決では「A議員の他の写真によって代替えすることも可能であり、本件写真でなければならない理由はない」(26頁12行)と、控訴人と全く同じ主張を行う自己撞着を起こしている。
イ 都議会からの転用では問題になっていない事実
 控訴人が代わりに使用した都議会ホームページからの転用写真(乙4)については控訴人以外に撮影者がいるであろうことは憶測できることころであるが、著作権を主張して提訴された事実はない。
 都議会広報課のF主任においては、「新たに使用するのであれば、利用申請を出すように勧めるが、無断使用であっても提訴することはないであろう」との見解を示している。
ウ 被控訴人が賠償金を得る立場にない事実
 控訴人においては、被控訴人に著作権が存在する事実を知らずに本件写真を使用したものである。この転用が著作権の侵害にあたるとの司法判断がくだされた場合であったとしても、それは同一性保持権侵害によって形式上の慰謝料が発生する程度のものであり、A議員から報酬を得ての撮影という作業を終了し、以降は何ら商業的に利益を得ることを期待していない被控訴人に対し、「著作権侵害による賠償金」を支払えとの原審判断は極めて恣意的であり、取り消されるべきである。
エ 著作権の存在を明示しなかったA議員の過失
 本件写真が掲載された甲2においては著作権の存在を示す、「all rights reserved」の記述がないことを控訴人は原審理の過程で指摘した。これに対し被控訴人は「all rights reserved」の記述がなかったとしても、著作権が存在しないことにはならないとの反論を行った。
 しかしながら、控訴人の指摘を受けた直後において、A議員のホームページで全く同じ写真、同じ文章構成でありながら右下に「all rights reserved」の記述を追記している(乙12)。
 これは原審理を有利に進めるために被控訴人がA議員に頼んで追記してもらったことは明白であり、証拠の改ざんにも相当する悪質な行為である。
 控訴人はこの点を原審における第2準備書面の3頁において指摘しているが、原判決においては、この点について踏み込んだ判断を示していない。
 強いて取上げるならば、「本件サイト上には原告が著作権者である旨の表示はないが、被告は、本件写真が自分以外の者によって撮影されたものであることを認識しながら、その著作権の帰属について何ら調査することなく、無断でその画像データをダウンロードし、(中略)著作権(複製権、譲渡権)侵害について、少なくとも過失を認めることができる」(21頁未行〜22頁)と記述されている。
 この点、原審においては控訴人による本件写真の転用をここでは「過失」と認めているものであり、損害賠償を課するような悪質なものでないことは明白である。
 また、本件写真を自らのホームページに掲載したA議員本人においてさえも、著作権に対する認識が皆無であったから、著作権の存在を表す表示を怠っていたものであり、「過失」を論じるのであれば、本件写真を掲載したA議員に対してこそ、被控訴人は賠償請求をするべきである。
 著作権を示す記述がなくても被控訴人が著作権者であることに変わりはないとの主張を貫くのであれば、控訴人の前記第2準備書面における指摘があったとしても、著作権の存在を示す「all rights reserved」を慌てて追記する必要はない。
 控訴人の指摘によって急きょ追記したという指摘については、原審理を通じて被控訴人側からは、これを否定する一切の反論はなかったのである。
(5) 損害賠償額には根拠がない事実
ア 甲12・13を基準にすることの不当性
 原判決「(1)著作権侵害による損害額」(29頁)においては被控訴人側が提出した甲12及び13をもって、損害賠償請求金額の根拠を示しているが、何ら疑問も検証もなく被控訴人の主張を鵜呑みにし、隷従しているものであり、失当である。
 これは、より高額なる損害賭償金を奪取することを目的として被控訴人が任意で抽出した画像貸出業者の料金案内・写真利用規約を用いたものであり、公正なる判断を求められるべき裁判所においては、この料金案内・写真利用規約が当審理において、そのまま適用されることが適切であるか否かを判断すべきところ何らの検証も行われていない。
 イ 「ネイチャー・プロダクション」(甲12)
 平成23年5月12日、控訴人がネイチャー・プロダクションを訪問し、代表者・Gと、マネージャー・Hに面談し聞き取りを行った結果、明らかになった事実は以下のとおりである(乙30)。
(ア) ネイチャー・プロダクションにおいては写真家である被控訴人の存在を知らない。創価学会とも一切の関わりを持っていない。
(イ) 被控訴人がネーチャー・プロダクションのホームページから料金案内(甲12の1)と写真利用規約(甲12の2)をダウンロードして裁判証拠として提出した事実を知らないし、これを許可した事実はない。
(ウ) ネーチーャ・プロダクショシは、社名であるネイチャー(自然)のごとく、主として自然風景や生物等の写真を貸し出している(乙31)。
(エ)自然風景や生物等写真の貸出しは、一般写真に比べて利用料金は割高となっている。
(オ) 同一の写真を同一の顧客に貸し出す際の料金として1回目は100%を頂くが、2回目は70%、3回目は50%の料金で済ませている。
(カ) 写真料金規約の5及び7に明記された無断使用及び無断コピーに対し当該使用料の10倍を申し受けます、との記述は、あくまでも無断使用を牽制するためのものであり、実際に請求したことはない。
 無断使用を確認した上で、複数回の警告を発し、それでもやめない場合には罰則的に請求することもありうる。
ウ 宝泉堂・I写真家事務所(甲13)
(ア)北海道札幌市に存在する写真事務所である。
 主宰する写真家・Iは主に風景写真を撮影している。
(イ) Iは自らが撮影した風車の写真を、NHKが無断で改変し、出所を明らかにしないでNHKの著作物として報道ニュースに使用した。
 これに対しIはNHKを提訴した(乙32)。
 札幌地裁民事第5部1係:平成21年(ワ)第3924号判決ではNHKとそのカメラマンの雇用会社に対し、著作権侵害で10万円、慰謝料として30万円を連帯で支払えとの判決が下されている。
エ ネイチャー・プロダクションと宝泉堂に対する考察
(ア) 2社共に映像を貸し出して収益を得ることを目的として、ホームページを開設し事前に料金を掲示しているものであり、本事件における損害賠償請求額の基準とはなりえない。
 被控訴人はA議員の写真を撮影し終えたことで、報酬を受け取っており、その後、いかなる形であれ本件写真の存在によって、第三者から収益を得ることを期待していなかったからである。
(イ) 2社共に自然風景や生物を扱うことを専門としており、貸出し料金は一般写真に比べて割高に設定されている。
 被控訴人はそういった現状を熟知した上で、数ある映像貸出し業者のなかから2社をサンプルとして抽出したものであり、公正なる比較ではない。
(ウ) 宝泉堂を主宰するIは風車の写真をNHKのテレビ放映で無断使用されたことで、提訴するほどに著作権に対する意識の強い人物である。
 宝泉堂の貸出料金表(2009年10月17日)はNHKを提訴した以降に作成されたものであり、自らの著作物の無断使用に対し、神経質になり、厳格さを表すために明示した金額である。
(エ)a 甲12の利用規約に従って使用料を算出することは不当ではあるが、あえて被控訴人の主張と原審の判断に則って使用料を算出するとしても、上記「イの(オ) 」のとおり、同一の写真を複数回使用すれば4万円(100%)と2万8000円(70%)と2万円(50%)の合計で8万8000円となる。
 原審(29頁)における「4万円×3枚=12万円」という計算は成り立たない。
 加えて、控訴人は写真目録2記載のカラー写真を掲載したビラを作成していないのであるから(上記「(3) のウ)、作成したビラは2種類であり4万円と2万8000円で、6万8000円にしかならない。
b ただし、ネイチャーズ・プロダクションの説明によれば、同一の写真を複数回使用する場合において、街頭配布用ビラとインターネット、そして車載看板などといったふうに3回の使用を行えば、100%、70%、50%といった料金を請求するが、本件写真のように、同一内容のビラにおいては厳密に2回分とは計算しないこともありうるとの見解を示している。
 よって、A4版の写真目録1(甲3)とA3版の写真目録3(甲5)においては同一の物とみなすことができる。
 甲5は本件写真を掲載した甲3と同一の物に対し、右側に公明新聞ウェブ版の記事等を貼り付けたものであり、本件写真を掲載したA4版部分については、内容に何ら手を加えたものではない。
 本件写真の扱いにおいては、1回と捉えるべきである。
c 「本件各ビラにおける本件写真の使用態様が原告の意に反することが明らかであること等、本件において認められる諸般の事情を考慮すれば、本件各ビラにおける本件写真の使用料相当額は、上記12万円の1.5倍である18万円と認めるのが相当である」との原判決は極めて不当である。
 ここで、原判決における損害金額の算定は、甲12を元に計算されている。ここでは「原告の意に反する」ことで、1.5倍に上乗せするなどといった規定はどこにも示されていない。
 また、「本件における諸般の事情」とは何を指すのかも不明である。
 恣意的かつ一方的に控訴人に不利な判決を導き出すことを使命として課せられた原審判事においては、控訴人による「公明党都議の不正を追及」「創価学会による犯罪行為を批判」したことが、「諸般の事情」と考えているようであるが、これら控訴人の政治的主張が、1.5倍に上乗せすることを正当化させるための「諸般の事情」とされるのであれば、司法の公正さを逸脱した暴挙といわなければならない。
d 本件ブログによる損害を甲12の料金表をもとに7万円としているが、ネイチャー・プロダクションの見解によるならば、2回目の使用であるから、70%の4万9000円となる。また、上記「c」と同じく1.5倍とする根拠は存在しない。
e 本件看板による損害として使用料を20万円と算出しているが、ネイチャー・プロダクションの見解によれば3回目の使用であるから、50%の10万円となる。
 料金案内は1年間の使用を前提としたものであるが、控訴人が使用したのは、20日間にも満たない。これは1年間の12分の1にも満たない期間であり、日割り計算すれば1万円未満である。
 上記「c」と同様に1.5倍とする根拠は存在しない。
 そもそも、本件写真の使用は著作権の侵害には該当しない。そして、損害賠償請求の対象とならないことは明確である。
 しかし、原判決における金額算定基準があまりにも常軌を逸した暴論であるために、仮に損害賠償支払いの対象となった場合を想定して金額算出の誤りを正したものである。
2 当審における被控訴人の反論
(1) 「中立性・公平性を欠いた原判決」に対し
 控訴人は、原判決がA議員が公費を騙し取ったとの事実を認定しないなどとして、原判決は中立性・公平性を欠く旨主張する。
 しかしながら、控訴人の上記主張は、本件の争点と無関係な事実について独自の見解を述べるものにすぎず、原判決に対する非難としておよそ失当である。
(2) 「創価学会による言論封殺が目的である事実」に対し
 控訴人は、創価学会員・公明党員である被控訴人が、実際には本件ビラの配布場所に行っていないのに、創価学会・公明党の依頼を受けて控訴人に対する言論弾圧のために本件訴訟を提起した旨主張する。
 しかしながら、かかる主張も、事実的根拠を欠くうえ、控訴人の著作権及び著作者人格権侵害の責任を糊塗しようとする詭弁にすぎず、失当である。
 すなわち、被控訴人は、控訴人による反対尋問において、中野駅前で行われた街宣活動の現場に赴き、本件ビラ(甲3)の配布や街宣車の看板の写真を目撃した状況を詳細に供述しており(原告本人調書8〜10頁)、人から頼まれたものではなく自らの意思で提訴した旨明確に答えている(同7頁)。また、被控訴人は、主尋問においても、本件訴訟を提起するなどした理由につき、「写真を勝手に使われたということと、自分の写真がデフォルメされて使われたということに、非常に苦痛を感じたからです。」(同4頁)と供述している。このように、控訴人による著作権侵害及び著作者人格権侵害の事実を目の当たりにした被控訴人が自らの意思で本件訴訟を提起したことは紛れのない事実であり、控訴人の上記主張は事実的根拠を欠くものである。 控訴人は、自らの不法行為責任を免れようとして、苦し紛れの弁解を弄しているにすぎない。
(3) 「差止めの理由が存在しない事実」に対し
ア 控訴人は、原判決が「被告が今後も被告写真1〜3を掲載したビラを作成して頒布し、被告写真4をインターネット上の自己のウェブサイトにアップロードするおそれがあると認められる。」(原判決28頁)と認定したことを悪意に満ちた憶測であると非難し、原判決が上記認定の理由の1つとして挙げた被告のブログ(甲19)における本件写真の使用につき種々主張している。
 しかしながら、控訴人の主張は、原判決に対する非難の理由となる余地がなく、失当である。
 すなわち、著作権法112条1項にいう「侵害するおそれ」の判断については、学説上も「過去に侵害をなした者は様子見をしているだけということがあり得るから、現に侵害行為がなされていないという一事をもって、将来も二度と侵害行為をなさないであろうと即断することはできない。」(田村善之『著作権法概説』第2版〔有斐閣〕311頁)と論じられており、また、多くの裁判例は、著作権侵害の成否を争っていること自体が「侵害のおそれ」を判断する一考慮要素となるとしている(東京高判平成10年2月12日判時1645号129頁、東京地判平成10年10月29日知裁集30巻4号813頁、東京地判平成7年10月30日判時1560号24頁など)。原判決は、控訴人が本件写真の画像データを有している可能性や原審における控訴人の主張を踏まえて、「侵害するおそれ」を認定したのであって、極めて正当である。原判決が控訴人のブログ(甲19)に言及したのは、控訴人が今後も当該画像データを使用するおそれを判断するための一考慮要素として述べられているのであり、控訴人の主張は、原判決の判示を正解せずに論難するものであって、失当である。
イ 控訴人は、原判決が「被告が本件各ビラを全部廃棄したと認めるに足りる証拠はない」(原判決28〜29頁)として、被告に対し本件各ビラの廃棄を命じたことについて、被控訴人代理人が仮処分執行に同行したことなどを理由に本件各ビラは存在しないと主張する。
 しかしながら、控訴人が仮処分決定送達後に別の写真を用いたビラ(乙5)を作成したことも、都議選が終了したことも、本件各ビラが存在しない根拠とはならない。また、控訴人は、その主尋問において、仮処分決定があった時点で上記別のビラ(乙5)にすぐに差し替えて、「甲3号証、甲5号証の写真入りのビラはすべて廃棄いたしました。」(被告本人調書2頁)、甲5のビラは「選挙が告示になる前に、すべて配り終わっていますね。」(同7頁)と供述したが、実際には、同決定送達後に実施された仮処分執行の際にも、現に乙5のビラの外に甲3等のビラが9枚発見され、これら9枚は執行官保管となっている(同15頁、控訴理由書5頁)。また、上記仮処分執行は控訴人の自宅で行われただけであり、控訴人は本件各ビラを10〜20人の協力者に委ねて配布していたのであるから(被告本人調書12頁)、執行官保管とされたもの以外にも、これらの協力者が控訴人から預かった本件各ビラを保管している可能性を否定できない。したがって、本件各ビラについての廃棄命令は不可欠であって、原判決の判断は正当である。
ウ 控訴人は、本件ビラ2(甲4)につき、街頭演説終了後に車の中に1枚あったのを認識しただけであると主張して、作成、頒布についての関与を否定し、作成枚数についても原判決の認定を悪意に満ちた過大評価であると非難する。
 しかしながら、控訴人は、原審での本人尋問においては、本件ビラ2につき、「野方駅前で、街頭演説をやってる最中に、同じ、カラーのビラが私の車の中に入っていたんで、だれか、それをプリントして持ってきてくれた人がいたんだなというふうに感じたんで、分かったわけですが。」(被告本人調書14頁、原判決23頁)と、控訴人の街宣車の中に本件ビラ2が置いてあったことを「街頭演説をやっている最中」に確認した旨明確に供述していたのであり、確認したビラの枚数にも1枚などという限定は付していなかった。今般の控訴人の主張は、原判決の認定を意識した上で、原審での供述を変遷させたものであり、到底信用できない。
 また、本件各ビラの作成枚数についても、控訴人は、都議会議員選挙を前にしてA議員が都議会議員に相応しくないことを中野区内の有権者に周知させる目的で本件各ビラを作成、頒布したものであるところ(被告本人調書2頁、甲3〜5)、当時の中野区内の有権者数は26万2397人であり(甲26)、被告自身もそのブログにおいて、「これから区内に頒布するン万枚のチラシですが、政経調査会と書いた部分を黒塗りしなければなりません。大変な作業となります(汗 」と記載している(甲11)。このン万枚のチラシが本件各ビラ以外のものではあり得ないことは、原審における原告第8準備書面(15頁)で論証したとおりであり、こうしたことからすれば、本件各ビラの作成枚数に関する原判決の判断は、むしろ控えめなものであって、悪意に満ちた過大評価であるなどとは到底いえない。原判決に対する控訴人の非難は、全く当たらない。
(4) 「著作権侵害及び損害賠償の対象ではない事実」に対し
ア 控訴人は、「著作権侵害というのは、一般的に当該する写真に対して無許可で使用する者がその芸術的価値を認めるとか、商業的な価値に着眼して、無断使用するものである。」と述べ、控訴人において、被控訴人が本件写真の著作権を有することを知らないか、又は本件写真の芸術的若しくは商業的価値を認めていなければ、無許可で使用しても著作権侵害の意図がなく、損害賠償責任を負わないかのように主張する。
 しかしながら、著作権侵害の不法行為が成立するためには、自己の行為が他人の著作権を侵害するものであることにつき故意又は過失があれば足りるのであり、行為者が著作権侵害の意図を有することは必要でない。故意又は過失が認められるためには、当該作品が他人の著作物であることを認識し又は認識し得たのであれば十分であって、著作権が誰に帰属しているかの認識は必要でない。また、著作物性は客観的に判断されるものであり、控訴人において芸術的又は商業的価値を認めていなければ責任が生じないなどというのは「目を瞑れば世界がなくなる」と同様の議論であって、およそ失当である。
 本件において、控訴人は、インターネット上にあった本件写真を本件各ビラ等に複製した旨供述しているのであるから(被告本人調書2頁)、控訴人が本件写真に依拠したことは明白であり、故意又は少なくとも過失が認められることは明らかである。
 控訴人の主張は独自の見解を述べるものであって、失当である。
イ 控訴人は、都議会ホームページからの転用写真(乙4)については著作権侵害で提訴された事実がなく、都議会広報課の担当者も無断使用しても提訴することはない旨の見解を示したと主張する。
 控訴人が上記主張をいかなる理由で著作権侵害を否定する根拠として挙げているのか不明であるが、他の著作物に対する控訴人の著作権侵害行為が提訴されていないことが本件の著作権侵害を否定する根拠にはならないし、都議会広報課担当者の見解なるものによって被控訴人の権利行使が制約されないことも明らかである。控訴人の主張は、原判決の判断を左右するものではない。
ウ 控訴人のウの主張は、著作権の侵害と著作者人格権に属する同一性保持権の侵害とを混同している。また、被控訴人が撮影報酬を得ていることを理由に、「以降は何ら商業的に利益を得ることを期待していない」として原判決の著作権侵害による賠償金の支払命令を「極めて恣意的であり、取り消されるべきである。」と主張している点は、著作権法114条の理解を誤るものにすぎない。
エ 控訴人は、当初A議員のホームページ(甲2)に「All rights reserved」の記述がなかったのはA議員の過失であり、控訴人による本件写真の転用は過失であって「損害賠償を科するような悪質なものでない」、「本件写真を掲載したA議員に対してこそ、被控訴人は賠償請求をするべきである」などと主張する。
 しかしながら、原判決が指摘するとおり、「著作権が成立するためには、いかなる方式の履行も必要ではなく(著作権法17条2項)、著作権者であることを表示する必要はない」(原判決20頁)のであるから、「All rights reserved」の表示の有無によって控訴人の著作権侵害による損害賠償責任が消失することはない。また、A議員に賠償請求すべきとの控訴人の主張は、およそ的外れである。
(5) 「損害賠償額には根拠がない事実」に対し
ア 控訴人は、原判決がネイチャー・プロダクションの料金表(甲12)等の基準を参照して損害額を認定したことに対し、「この料金案内・写真利用規約が当審理において、そのまま適用されることが適切であるか否かを判断すべきところ何らの検証も行われていない。」と非難する。
 しかしながら、著作権法114条3項が規定する「著作権(中略)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」については、「その算定のベースはまず過去の使用料や相場」(半田正夫ら編『著作権法コンメンタール3』〔勁草書房〕463頁)であり、「業界の相場が用いられることも少なくない」(田村善之『著作権法概説』第2版〔有斐閣〕332頁)とされている。したがって、写真貸出業界の相場をもって写真の著作権行使につき受けるべき金銭の額を算定することには合理性がある。加えて、改正前の条文が「通常受けるべき金銭の額」と規定していたのに対し、現行法は、「通常」という文言を削除することにより、それぞれの著作権侵害事件の具体的事情を考慮して適正な使用料相当額を算出することを可能にしているのであるから、業界の相場といっても、それが平均的な使用料相場である必要はなく、当該事案における具体的な事情を勘案して使用料相当額を認定することが認められている。
 原判決は、以上の理解を前提に、「原告は、約15年の経験を有する職業写真家であるが、原告が撮影した写真の使用料については、特に基準は設けておらず、その都度、交渉によって決定している」、「本件各ビラにおける本件写真の使用態様が原告の意に反することが明らかである」(原判決29頁)等の具体的事情を踏まえつつ、写真貸出業者であるネイチャー・プロダクションの基準(甲12)を参照して本件の使用料相当額を認定したものである。こうした原判決の判断は十分に合理的なものであって、その判断手法にも判断内容にも何ら問題はない。
イ 控訴人は、ネイチャー・プロダクションの料金表(甲12)及び宝泉堂(I写真家事務所)の料金表(甲13)について種々述べたうえで、@被控訴人は写真撮影を終了して報酬を受け取っており第三者から収益を得ることを期待していなかった、A上記各料金表は一般写真に比べて割高に設定されている、B宝泉堂の料金表(甲13)は無断使用に対する厳格さを表した金額であるなどと主張し、さらには、Cネイチャー・プロダクションが同一写真の複数回使用につき貸出料金を逓減させていることを理由に本件の損害額を逓減させ、D無断使用の回数についても独自の数え方を提示し、E原判決が本件写真の使用料相当額につき参照した基準の1.5倍と認定したことを極めて不当と非難している。
 しかしながら、著作権法114条3項は、著作権者等が最低限の賠償額として使用料相当額を請求することができる旨を定めた規定であって、「著作権者が自ら著作物を利用していなかったとしても、2項(現行の3項)の賠償を請求しうる」(田村善之・前掲328頁)とするものであり、また、「権利者は、自分がどれだけの損害を受けたかということには関係なしに、何らの立証を要しないで、社会的な相場の金額だけは請求できるということ」(加戸守行『著作権法逐条講義』五訂新版〔著作権情報センター〕679頁)であるとされている。
 したがって、被控訴人が本件写真によって第三者から収益を得ることを期待していたかどうかは損害額の算定に無関係であり、上記@は失当である。また、上記A及びBは、その事実的根拠の信用性に疑問がある上、上記アで述べた同条同項の理解と原判決の判断過程に照らして原判決に対する非難として失当であり、この点は上記Eについても同様である。さらに、上記Cも、事実的根拠の信用性に疑問があるばかりか、ネイチャー・プロダクションが適法に利用許諾を得た場合の基準を無断使用の場合に適用しようとするものであり、上記Dも独自の見解を述べるにすぎないものであって、いずれも我田引水の誹りを免れない。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は原判決が認容する限度で正当であってその余は棄却すべきであり、控訴人の反訴請求は全て棄却すべきであると判断する。その理由は、以下において付加・訂正するほか、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の「中立性・公平性を欠いた原判決」及び「創価学会による言論封殺が目的である」との主張について
 本件全証拠を精査しても、原判決が中立性・公平性を欠いた判断をしたと認めるに足りる証拠はなく、また職業写真家である被控訴人が著作権侵害等を理由に差止め・損害賠償等を求めた本訴請求が「創価学会による言論封殺が目的である」とまで認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、「中立性・公平性を欠いた原判決」及び「創価学会による言論封殺が目的である」とする控訴人の主張は理由がないことになる。
2 「差止めの理由が存在しない」との主張について
(1) 控訴人は、原判決が、甲19(控訴人のブログ)等の事情を考慮した上、「被告が今後も被告写真1〜3を掲載したビラを作成して頒布し、被告写真4をインターネット上の自己サイトにアップロードするおそれがある」(28頁18〜20行)と認定した点につき、甲19(控訴人のブログ)では、A議員のウェブサイトを掲載することが不可欠であり、掲載に当たりその旨きちんと説明を加えているから報道のための転用であって何ら問題がないにもかかわらず、上記事実をもって、本件各ビラの作成・頒布やインターネット上の自己サイトにアップロードするおそれがあるとした原判決の認定・判断には何の根拠もない旨主張する。
 しかし、控訴人は著作権侵害の事実を争っており、また、控訴人が現在もなお控訴人各写真の画像データを保有している可能性が十分に認められる以上、現在侵害行為がなされていないとの一事をもって、将来二度と侵害行為を行わないと断定することはできないから、控訴人には、著作権法112条1項にいう「侵害のおそれ」が存すると認めるのが相当である。
 また、原判決が甲19(控訴人のブログ)に言及したのは、控訴人が今後も当該画像データを使用するおそれのあることを示す1つの事情として考慮したにすぎず、控訴人の主張する事実があったとしても、原判決の認定・判断に影響を及ぼすものではない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 控訴人は、被控訴代理人が残るビラを強制的に持ち去っており、もはや本件各ビラは存在しない、また、控訴人は仮処分通知受領直後に新たに乙5のビラを作成しており、もはや本件ビラ1(甲3)及びビラ3(甲5)を保持する理由はなかったし、都議選が終了した以降は本件各ビラを作成・配布する必要性は消滅しているのであるから、廃棄を命じた原判決は不当であると主張する。
 しかし、控訴人は、原審における本人尋問の主尋問において、仮処分決定があった時点で上記別のビラ(乙5)にすぐに差し替えて本件ビラ1(甲3)及びビラ3(甲5)についてはすべて廃棄した旨供述しているところ(原審における被告本人調書2頁)、それにもかかわらず、実際には、同決定送達後に実施された仮処分執行の際に現に乙5のビラの外に本件ビラ1が9枚発見され、これら9枚は執行官保管となっている(同15頁)から、乙5のビラを作成したことをもって、本件各ビラを全部廃棄した理由にはならないというべきである。
(3) 次に、控訴人は、当時街頭演説が終了した後に車の中に同じビラが1枚あったので誰かが持ってきたものと認識したにすぎず、街頭演説をやっている最中に認識したものではないことを理由として、控訴人写真2が掲載されている本件ビラ2(甲4)の作成・頒布には一切かかわっていないと主張する。
 しかし、被控訴人が指摘するように、控訴人は、原審の本人尋問において、「野方駅前で、街頭演説をやってる最中に、同じ、カラーのビラが私の車の中に入っていたんで、だれか、それをプリントして持ってきてくれた人がいたんだなというふうに感じたんで、分かったわけですが。」(原審における被告本人調書14頁)と供述し、本件ビラ2の存在を街頭演説の最中に認識していたことを認めているのであるから、控訴人の上記主張は信用することができない。
 そして、原判決が認定するとおり、本件ビラ2は、控訴人が代表を務める政治団体が平成21年6月17日に西武新宿線野方駅前付近等で街宣活動を行った際に、控訴人の協力者らによって通行人に頒布されたものであること、控訴人は、当該街宣活動の前日、自ら本件ビラ2の元となる電子データを作成し、そのコピーをメールに添付して複数の協力者に対し送信したこと、控訴人は、前記街宣活動の当日、自ら現場に赴いて街宣活動に参加していたという一連の経緯を考慮すれば、控訴人が本件ビラ2を作成・頒布した協力者の行為を認識・認容していたと認められるのであり、原判決も単に「協力者らが本件ビラ2を通行人に頒布するのを止めようとした形跡がない」ことのみを理由とするものではない。
(4) また、控訴人は、本件ビラ2の原案を一部の支持者に送信した後に、文書に誤字があったことが判明したので、本件ビラ2(甲4)を破棄して本件ビラ1(甲3)を作り直したという経緯があり、控訴人が事前に頒布の事実を知っていれば、修正前のビラである本件ビラ2の頒布をやめさせていたはずであることを控訴人が本件ビラ2の作成・頒布に関与していない根拠として主張する。
 しかし、仮に控訴人が主張する上記事実があったとしても、それは単に本件ビラ2を誤字に気が付かないまま頒布したというにすぎず、本件ビラ2の作成・頒布を控訴人が認識・認容していたことと矛盾するものではないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
(5) 次に、控訴人は、原判決は本件各ビラの作成枚数を1300〜1400枚程度と何の根拠もなく認定しているが、同認定は悪意に満ちた過大評価であると主張する。
 しかし、そもそも控訴人が指摘する原判決の判示部分(30頁1行〜5行)は、本件各ビラの合計枚数が少なくとも1万枚を下らないとの被控訴人の主張に対し、それを認めるに足りる証拠がないことを説明するために付加された記述であって、損害額を算定する前提として本件各ビラの作成枚数を1300〜1400枚程度と積極的に認定したものではない。
 また、控訴人は、原審における本人尋問において、本件ビラ1の作成枚数は500枚程度、本件ビラ3の作成枚数は400枚程度であると供述しているのであるから(原審における被告尋問調書6〜7頁)、それとの対比において、本件ビラ2も同程度作成されたと推認することには合理性があり、本件ビラ2がカラー刷りであることは、同推認を覆すに足りる事情とはいえない。
 以上のとおり、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 「著作権侵害及び損害賠償の対象ではない」との主張について
(1) 控訴人は、被控訴人が本件写真の著作権を有することを知らないか、又は本件写真の芸術的若しくは商業的価値を認めていないから、無許可で使用しても著作権侵害の意図がなく、損害賠償責任を負わないと主張する。
 しかし、著作権侵害につき不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには、行為者に自己の行為が他人の著作権を侵害するものであることにつき故意又は過失があれば足り、また、故意又は過失が認められるためには対象となる著作物が他人の著作物であることを認識し又は認識し得れば十分であって、著作権の帰属に関する行為者の認識の有無、行為者が著作権侵害の意図を有していたか否か、さらには対象となる著作物に対して行為者が芸術的若しくは商業的価値を認めていたか否かは不法行為が成立するための要件ではない。
 本件においては、原判決が認定したとおり、控訴人が本件ビラ1及びビラ3を作成・頒布し、本件看板を作成・掲示したこと、控訴人が控訴人写真4を自らが管理するインターネット上のウェブサイトにアップロードして本件ブログを掲載したことが認められ、また、本件ビラ2についても、控訴人が協力者の行為を自らの行為として利用することにより、本件ビラ2を作成・頒布したものと認められるのであって、控訴人には著作権侵害に対し少なくとも過失があるというべきであるから、控訴人は賠償責任を免れない。
 なお、控訴人は、都議会ホームページからの転用写真について主張するが、本件著作物とは別の著作物に関する主張であって、上記判断に影響を及ぼすものではない。
(2) また、控訴人は、原判決も控訴人の行為を「過失」と認めており、損害賠償を課するような悪質なものでないことは明白であると主張するが、上記のとおり、過失があれば不法行為が成立することは明らかであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 次に、控訴人は、本件写真が掲載されていたA議員の本件サイト(甲2)には、当初「All rights reserved」との記述がなかったが、控訴人が指摘した直後に、上記サイトに「All rights reserved」との記述が追記されていることを問題とする。
 しかし、著作権が成立するためにはいかなる方式の履行も必要ではなく(著作権法17条2項)、著作権者であることを表示していなければ権利行使ができないものではないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
4 「損害賠償額には根拠がない」との主張について
(1) 甲12及び甲13を基準にすることにつき
 控訴人は、甲12及び甲13の各料金表は自然風景や生物の写真を専門とした業者の料金表であるから一般写真に比べて割高に設定されているとか、甲13の料金表は無断使用に対する厳格さを表した金額であるなどとして、原判決が甲12及び甲13の各料金表を基準として損害額を認定したのは不当であると主張する。
 しかし、そもそも甲12及び甲13の各料金表が一般写真に比べて割高に設定されていることや甲13の料金表は無断使用に対する厳格さを表した金額であると認めるに足りる的確な証拠はない。
 また、被控訴人の著作権侵害を理由とする損害賠償請求は著作権法114条3項を根拠とするものであるところ、同法に規定する「著作権・・・の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とは、損害賠償額として適正な使用料相当額をいい、過去における著作物の使用料や業界における著作物の利用に関する料金の相場そのものではなく、それらを参考としつつ、その実質が不法行為に基づく損害賠償であることを考慮して、同料金額にとらわれることなく裁判所が適正な使用料相当額を認定するものである。
 そして、原判決は、甲12及び甲13の各料金表を参酌しつつ、被控訴人が約15年の経験を有する職業写真家であること、被控訴人は写真の使用料について特に基準を設けていないこと及び本件における著作権侵害の態様等を総合考慮した上で、控訴人に対する使用料相当額を認定していることが明らかである。
 したがって、原判決が甲12及び甲13の各料金表を参酌して上記使用料相当額を算定したことにつき不当な点を見出すことはできない。
(2) 「ネイチャー・プロダクション」につき
 控訴人は、ネイチャー・プロダクション社が同一写真の複数回使用につき貸出料金を100%、70%、50%と逓減させていることを理由に本件の損害額も逓減されるべきと主張し、また、無断使用の回数についても同一内容のビラにおいて複数回使用する場合は厳密には複数回とは計算しないとの数え方を提示して、原判決の損害額の認定を不当であると主張する。
 しかし、控訴人の主張する貸出料金の逓減措置や複数回使用する場合の計算方法について、これを認めるに足りる的確な証拠はない。
 また、仮に控訴人の主張するような貸出料金の逓減措置や複数回使用する場合の計算方法をネイチャー・プロダクション社が行っていたとしても、それは正常な取引におけるいわば値引きにすぎないから、その計算方法を著作権侵害に基づく使用料相当額の算出において直ちに参酌しなければならない理由はない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 損害額を1.5倍としたことにつき
 控訴人は、原判決が本件写真の使用料相当額につき参照した基準の1.5倍と認定したことを極めて不当であると主張する。
 しかし、前記のとおり、著作権法114条3項を根拠とした請求においては、過去における著作物の使用料や業界における著作物の利用に関する料金の相場を参考としつつも、その実質は不法行為に基づく損害賠償請求であることを考慮して、同料金額にとらわれることなく裁判所が適正な使用料相当額を認定するものである。
 そして、本件写真の性質及び著作権侵害の態様等の原判決が認定した具体的な事情を総合考慮すれば、甲12における通常の料金額の1.5倍の額をもって著作権侵害に基づく損害額とした原判決の認定は相当である。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
5 結論
 以上のとおり、被控訴人の本訴請求を一部認容し、控訴人の反訴請求を全部棄却した原判決は結論において正当である。
 よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 東海林保
 裁判官 矢口俊哉
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日本ユニ著作権センター
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