判例全文 | ||
【事件名】商標“つつみのおひなっこや”侵害事件B(2) 【年月日】平成23年10月20日 知財高裁 平成23年(行ケ)第10188号 審決取消請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年9月29日) 判決 原告 X 同訴訟代理人弁護士 佐藤興治郎 同 金成有祐 被告 Y 同訴訟代理人弁理士 須田篤 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2010−890060号事件について平成23年5月10日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告の下記1のとおりの本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める原告の下記2の本件審判請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には、下記4のとおりの取消事由があると主張して、その取消しを求める事案である。 1 本件商標 商標登録番号:第5235047号 商標の構成:「堤人形」の文字と「つつみのおひなっこや」の文字を2段に横書きしてなる。 指定商品:第28類「堤人形」 出願日:平成18年11月10日 設定登録日:平成21年5月29日 2 特許庁における手続の経緯 審判請求日:平成22年8月5日(無効2010−890060号) 審決日:平成23年5月10日 審決の結論:本件審判の請求は、成り立たない。 原告に対する審決謄本送達日:平成23年5月19日 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審判の理由は、要するに、@本件審判の請求は、商標法56条1項において準用する特許法167条の規定に違反したものとはいえない、ツ本件商標は、商標法4条1項16号に違反して登録されたものではないから、同法46条1項の規定により無効とすることはできない、というものである。 (2) なお、被告は、平成17年9月29日、本件商標と同様に、「堤人形」の文字と「つつみのおひなっこや」の文字を2段に横書きしてなる商標について、第28類「土人形および陶器製の人形」を指定商品として登録出願し、同年12月9日に設定登録されたが(登録第4914397号、以下「先願商標」という。)、特許庁において、平成18年10月18日、先願商標に係る商標登録を無効とすることを求める原告の審判請求(無効2006−89031号)について、商標法4条1項16号違反を理由として、先願商標の登録を無効にすべき旨の審決がされ、同審決は同年11月29日に確定している。 4 取消事由 (1) 本件審判の請求が商標法56条1項において準用する特許法167条の規定に違反しないとした判断の誤り(取消事由1) (2) 本件商標の無効理由に係る判断の誤り(取消事由2) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件審判の請求が商標法56条1項において準用する特許法167条の規定に違反しないとした判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は、本件商標の指定商品が第28類の「堤人形」とするのに対し、無効審決が確定している先願商標の指定商品は第28類の「土人形および陶器製の人形」であり、両者の指定商品は相違するとして、先願商標に対する無効審決の効力は本件商標には及ばないとした。 しかし、本件商標は、先願商標に対する無効審決の確定直後に、同じ第28類を指定商品とし、先願商標を構成する「堤人形」自体を小分類の指定商品とすることにより、無効とされた先願商標の再生と無効審決を潜脱する不正な目的で出願されたものであり、本件審決の上記判断は、確定審決の一事不再理を定めた商標法56条1項において準用する特許法167条に反し、同時に、信義則違反と権利の濫用の無視も許されるものではなく、取り消されるべきである。 〔被告の主張〕 本件審判と同一の事実及び同一の証拠に基づいてされた無効審判はない。原告が主張する無効審決(甲1)は、先願商標に対するものであり、本件商標についてされたものではない。また、先願商標の指定商品は、「土人形および陶器製の人形」であり、本件商標の指定商品とは異なる。 したがって、本件審決の判断は、商標法56条1項において準用する特許法167条に反するものではない。 2 取消事由2(本件商標の無効理由に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 本件商標は、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法4条1項16号に違反する。 また、本件商標は、原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるから、商標法4条1項15号に違反し、さらに、原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであるから、同項19号にも違反する。 (2) また、本件商標の指定商品は、第28類7号に定める人形(一)の日本人形の大分類に属しているところ、その小分類には、おすわり人形、五月人形及びその付属品等が記載されているが、本件商標の指定商品である「堤人形」は記載されておらず、本件商標は、無効とされた先願商標の主要部分を指定商品に盗用し、また、盗用に係る指定商品それ自体を本件商標に持ち込むことにより、先願商標と同一の商標を出願したものである。 したがって、本件商標の出願は、およそ普通名称による指定商品の分類を定める商標法6条に違反する。 (3) さらに、「堤人形」は、原告の父Aが、昭和期に入り、自己の創作人形の製作販売に初めて用いた商品名であり、これが「人形の東の横綱」の名声を得て広く全国に周知され、自他商品識別力を確立した商標である。原告は、これを伝承し、さらなる創作に精進した結果、宮城県知事より「宮城県伝統工芸品・堤人形」の指定を受けるなどして、「堤人形」の周知性と自他識別力を不動のものとした結果、この人形の定冠詞である「堤」と「つゝみ」について商標登録を得たのである。 したがって、「堤人形」は、商品区分としての指定商品自体ではなく、まさに原告の商標権の要をなすものであり、本件審決がこれを単なる指定商品と解したのは、商標法4条、6条はもとより、36条以下の商標権侵害の規定の解釈適用を誤ったものである。 〔被告の主張〕 (1) 商標法4条等違反について 本件商標に関連する商標である「つつみのおひなっこや」(登録第4798358号)は、上告審(最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決)及びその差戻し審(知財高裁(平成20年(行ケ)第10348号同21年1月27日判決)を経て、登録の維持が確定している。本件商標のうち「堤人形」の部分は本件商標の指定商品と同一であり、本件商標のうち「つつみのおひなっこや」の部分は上記商標と同一である。また、「堤人形」は、本件商標の出願時及び査定時には、仙台市堤町で製造される堤焼の人形として、「土人形および陶器製の人形」の販売業者等の取引者にはよく知られていた普通名称である。 したがって、本件商標は、商標法4条又はその他の無効理由に反して登録されたものではない。 (2) 商標法6条違反について 原告は、本件審決の取消事由として、商標法6条違反を主張しているが、同条は、同法46条に列挙されている登録商標の無効理由に含まれない。 また、本件商標は、「堤人形」を指定商品としているところ、前記のとおり、本件商標の出願時及び査定時には、「堤人形」は、「土人形および陶器製の人形」の販売業者等の取引者にはよく知られていた普通名称であったから、本件商標は、商標法6条に反して登録されたものでもない。 (3) 本件商標の周知性について 被告の本家のB家は、かつて堤人形を製作していたC家の最後の継承者から古型の保存とその再興を託され、被告の曾祖父がB 家を分家してからは、分家のY家が本家の型を受け継ぎ、堤人形を制作している。「つつみのおひなっこや」の名称は、曾祖父の代から屋号として使用してきたものであり、Y家の屋号や商標として知れ渡っている。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件審判の請求が商標法56条1項において準用する特許法167条の規定に違反しないとした判断の誤り)について (1) 被告は、先願商標について商標登録を受けたが、先願商標については、前記第2の3(2)のとおり、平成18年10月18日、その商標登録を無効にすべき旨の審決を受け、同審決は同年11月29日に確定しているところ、これに対し、被告が本件商標について登録出願をしたのは、この審決を受けてから確定するまでの間の前記平成18年11月10日である。 (2) 原告は、以上の経緯を前提に、先願商標に対する無効審決の効力が本件商標には及ばないとした本件審決の判断は、商標法56条1項において準用する特許法167条に違反する旨主張するが、そもそも、特許法167条は、「何人も、特許無効審判の確定審決の登録があったときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」旨を規定し、特許無効審判等について無効審判の確定の登録があったときは、同一の事実等に基づいて審判の請求をすることを禁止したものにとどまるものであって、無効と判断された登録商標と構成を同じくする商標について、指定商品を異なるものとした上で再度出願することそれ自体を禁止するものではない。 もっとも、原告が本件において特許法167条違反をいうのは、併せて、信義則違反と権利の濫用とに言及していることに鑑みると、本件商標の登録出願は、先願商標を無効にすべき旨の審決を受けた後であることから、本件商標の出願は無効と判断された先願商標の再生と無効審決を潜脱する不正な目的でされたものであって、そのような商標の登録は認められるべきでないという趣旨に解されなくもない。 しかしながら、先願商標の商標登録を無効と判断した審決の理由(甲1)は、普通名称であるという「堤人形」の文字を含む先願商標をその指定商品中、「堤人形」以外の「土人形」及び「陶器製の人形」について使用するときは、これに接する需要者は、該商品があたかも堤人形であるかのように、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるとして、商標法4条1項16号に該当するというのである。その出願人である原告において、先願商標の指定商品を「堤人形」に限定した上で、先願商標と同じ構成に係る本件商標の登録出願をすることそれ自体は、止むを得ない措置であったというべきであって、それが当該商標登録の無効理由に当たる場合は格別、そうでない以上、本件商標の登録出願を直ちに不正な行為であるということはできないし、原告に対する関係でみても、これを信義則違反や権利の濫用に当たるものということもできない。 (3) したがって、原告主張の取消事由1は、理由がないというほかない。 2 取消事由2(本件商標の無効理由に係る判断の誤り)について (1) 商標法4条違反について ア 商標法4条1項16号違反について 原告は、本件商標は商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるとして、商標法4条1項16号に違反すると主張しているが、その具体的な理由については何ら主張、立証しておらず、これを採用することはできない。 イ 商標法4条1項15号及び同項19号違反について また、原告は、本件商標は商標法4条1項15号及び同項19号に違反するとも主張している。 しかしながら、本件審決は、本件商標の無効理由として、本件商標が商標法4条1項15号及び同項19号に違反するか否かは判断していないから、これらの各号に関する事項は、本件訴訟の審理の対象とはならないというべきである。したがって、原告の主張は失当である。 (2) 商標法6条違反について また、原告は、本件商標の出願は普通名称による指定商品の分類を定める商標法6条に違反するなどとも主張する。 しかしながら、商標法46条1項は、商標登録を無効とする審判を請求することができる事由を定めているところ、同項の定める無効理由に同法6条違反は含まれていないから、同法6条違反を理由として、本件商標の無効を求めることはできず、原告の主張は失当といわなければならない。 (3) その他の主張について また、原告は、「堤人形」は、商品区分としての指定商品自体ではなく、原告の商標権の要をなすものであり、本件審決がこれを単なる指定商品と解したのは、商標法4条、6条はもとより、36条以下の商標権侵害の規定の解釈適用を誤ったものであるなどとも主張する。 しかしながら、本件商標に対する原告の無効審判請求について、本件商標の指定商品が「堤人形」であることを前提としてその無効理由の有無を判断した本件審決それ自体にこれを取り消すべき違法があるとは認められないから、原告の主張は採用することができない。 (4) 小括 したがって、原告主張の取消事由2も、理由がないといわざるを得ない。 3 結論 以上の次第であるから、原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 部眞規子 裁判官 齋藤巌 |
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