判例全文 | ||
【事件名】“マイケル・ジャクソン”肖像事件 【年月日】平成23年10月11日 東京地裁 平成21年(ワ)第45807号 広告差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年7月28日) 判決 原告 トライアンフ インターナショナル インコーポレーテッド 同訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎 同 宮川美津子 同 関真也 同訴訟代理人弁理士 廣中健 被告 株式会社イーシービズジャパン 主文 1 被告は、別紙被告表示目録記載の各表示を被告の営業に係るウェブサイトその他の広告宣伝物に使用してはならない。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 本件は、音楽家であった故マイケル・ジャクソン(以下「マイケル」という。)の氏名及び肖像について、これを独占的に使用すること及び独占的に第三者に使用を許諾することの許諾を得た原告が、知的財産権の実施、使用及び利用許諾等を業とする被告において、有効な上記許諾を得て国内の独占的権利を取得していないにもかかわらず、ウェブサイト上に被告が上記独占的権利(使用許諾権)を取得したなどと役務の質・内容について誤認させるような表示をしており、これによって原告の営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあるとして、不正競争防止法3条1項、2条1項13号に基づき、被告に対し、ウェブサイトその他の広告宣伝物への上記表示の使用差止めを求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は、音楽家で平成21年6月25日に死亡したマイケルの氏名及び肖像に関し、これを独占的に使用すること及び第三者に対し使用を独占的に許諾することについて、マイケル本人から許諾を受け、マイケルの死後はマイケル・ジョセフ・ジャクソン遺産財団から許諾を受け、これに基づきマイケルの氏名及び肖像の使用許諾等を業としている米国法人である(遺産財団からの許諾につき甲3)。 イ 被告は、著作権、商品化権等の知的財産権の実施、使用、利用許諾、維持、管理等を業とする株式会社である。 (2) 被告による使用許諾契約の締結とウェブサイト上の表示等 ア 被告は、平成16年11月23日、独国法人のMJネット・エンターテインメント・アー・ゲー(以下「MJネット」という。)及びMJマーケティング(アジア/パシフィック)ピーティーイー・リミテッド(以下「MJマーケティング」という。)との間で、マイケルの氏名及び肖像を使用した商品化につき、許諾期間を同年7月1日から平成22年6月30日までとして、MJネットがMJマーケティングに対して許諾し、MJマーケティングが被告に対して再許諾する旨の商品化許諾契約を締結した(甲12)。 イ 被告は、平成22年6月24日まで、その開設するウェブサイト(http://以下省略。以下「本件ウェブサイト」という。)上に、別紙被告表示目録記載の各表示(以下「本件各表示」という。)をするとともに、「弊社への日本国内・アジア全域及び他の国々へのLicenseに関連する、お問い合わせ等に関しましては、下記Contact UsフォームかE−mail(以下省略)にてお願い申し上げます。」との表示をしていた(終期につき甲32)。 ウ 被告は、株式会社ダイブや株式会社ノビーカンパニー、株式会社やのまん、RAKIA株式会社、株式会社エイチ・エヌ・アンド・アソシエイツ、株式会社LOVEGG−CUBEといった業者に対し、マイケルの氏名及び肖像を使用した商品化を許諾し、上記各業者によってマイケルの氏名や肖像を使用した雑貨や文具、玩具、服飾品等が販売されている。 2 争点及び当事者の主張 本件の争点は、@被告がマイケルの氏名及び肖像に関する有効な許諾を得て使用許諾権(以下「本件使用許諾権」という。)を取得しておらず、本件各表示が役務の質・内容について誤認させるような表示となっているといえるか、A本件各表示によって原告の営業上の利益が侵害されているか、又は侵害されるおそれがあるか、である。 (原告の主張) (1) 原告及びマイケル本人は、被告に対し、マイケルの氏名及び肖像の使用を許諾していない。 原告は、平成12年9月30日、MJネットとの間で、シグナチュアズ・ネットワーク・インコーポレーテッド(以下「シグナチュアズ」という。)との間のマイケルの氏名及び肖像を使用する商品化許諾契約が終了したことを停止条件とする商品化許諾契約を締結した。しかし、MJネットが条件成就前に商品化事業を開始したために紛争が生じ、原告は、平成14年11月15日、MJネット等との間で、互いに一切の請求等を放棄して免責する旨の和解契約を締結したから、MJネットは、被告との間で商品化許諾契約を締結した平成16年11月23日当時、本件使用許諾権を有していなかった。仮にMJネットが本件使用許諾権を有していたとしても、上記契約の締結当時、被告との間で商品化許諾契約を締結したMJネットのA取締役は、退任済みであったし、同社自身も、既に解散して事業目的の契約を締結することができなかったから、被告が本件使用許諾権を取得することはなかった。 被告は、平成17年11月8日にマイケルの家族やジャクソン家の顧問弁護士に被告の事業を報告して了解を得た旨主張するものの、そのこと自体、認め難い上、仮にそのような事実があったとしても、そのことによって原告やマイケルが許諾したことになるわけではない。また、被告は、平成19年3月10日にマイケルから被告の事業について相談に乗る旨の手紙を渡された旨も主張する。しかしながら、当該手紙には米国人ならば誤るはずのない文法上の誤りが複数存在し、署名も本人のものではないことから、その成立の真正に疑義がある上、仮にマイケル本人の手紙であったとしても、上記手紙を渡されたという事実だけではマイケルが被告に対してマイケルの氏名及び肖像に関する使用を許諾していたということはできない。 したがって、本件各表示は、商品化の許諾という役務の質・内容につき、被告が有効な許諾を得て本件使用許諾権を取得していないにもかかわらず、これを取得した旨誤認させるような表示となっている。 (2) 原告と被告のいずれもが行っているマイケルの氏名及び肖像を使用した商品化の許諾事業は、日本において競合する関係にある。そして、被告との間で商品化許諾契約を締結していた業者があり、被告は原告の本件請求を争っているから、被告が本件ウェブサイト上に本件各表示を再び行うおそれがあり、そうなれば、各業者が再び被告との間で商品化許諾契約を締結するおそれも生じる。したがって、本件各表示によって原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある。 (被告の主張) (1) 被告は、かねて、マイケル本人から、その氏名及び肖像の使用及び第三者に対し使用を独占的に許諾することについて許諾を受けていた。 被告代表者は、平成17年11月8日には、ジャクソン家を訪問し、マイケルの家族やジャクソン家の弁護士であるBに被告の事業を報告して了解を得た上、平成19年3月10日には、来日したマイケルから被告の事業について相談に乗る旨の手紙を渡された。これらの事実は、被告が本件使用許諾権を有していたことを裏付けるものである。 したがって、被告が有効な許諾を得て本件使用許諾権を取得している以上、本件各表示は、商品化の許諾という役務の質・内容につき、被告が有効な許諾を得て本件使用許諾権を取得していないにもかかわらず、これを取得した旨誤認させるような表示であるとはいえない。 (2) 本件各表示によって原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあることは争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点@(被告が有効な許諾を得て本件使用許諾権を取得しておらず、本件各表示が役務の質・内容について誤認させるような表示となっているといえるか)について ア 証拠によれば、次の事実が認められる。 (ア) 原告は、平成6年8月3日、シグナチュアズの被承継人であるソニー・シグナチュアズ・インコーポレーテッドとの間で、マイケルの氏名及び肖像を独占的に使用すること及び第三者に対し独占的使用を許諾することを認めることを内容とする商品化許諾契約を締結した(甲82)。 (イ) 原告は、平成12年9月30日、MJネットとの間で、ソニー・シグナチュアズ・インコーポレーテッドを承継したシグナチュアズとの間の前記商品化許諾契約が終了したことを停止条件とする商品化許諾契約を締結した。ところが、MJネットは、シグナチュアズの商品化許諾契約が終了する前に商品化事業を開始した(甲11、131)。 このため、原告が、平成13年9月4日付けで、MJネットに対し、同社との商品化許諾契約を終了させる旨を通知したことから、原告・MJネット・シグナチュアズ間の紛争となり、訴訟等で争った結果、原告は、平成14年11月15日、MJネット及びシグナチュアズとの間で、互いに一切の債権や合意等を放棄・免除して相手方を免責する旨の和解及び免責契約を締結した(甲31、82、131)。 (ウ) 被告は、遅くとも平成15年7月ころには、MJマーケティングからマイケルの氏名及び肖像を使用した商品化について許諾を受けるとともに、紳士服の製造・販売等を業とするワキタ株式会社ほか2社に対してマイケルの氏名及び肖像を使用した商品化を再許諾し、同月7日付けの繊研新聞に今後服飾品や雑貨、文具等のライセンス事業を本格化させる旨の広告を掲載した(乙1)。 (エ) ワキタ株式会社は、平成15年7月31日、マイケルの代理人弁護士から、マイケルの氏名や肖像を無断で使用しないようメールで警告を受け、その旨を被告に伝えた(乙2、4)。 (オ) MJネットは、資産の不足を理由として破産手続の開始が拒絶されたため、平成16年9月3日、裁判所の命令によって解散した。この命令は、遅くとも同年11月10日に効力が発生し、MJネットは、清算のみの目的で存在することとなった。(甲33ないし35) (カ) 被告は、平成17年11月14日ころ、マイケルの代理人弁護士に対し、商品化許諾契約の締結をファクシミリで申し入れた(甲118)。 (キ) 被告は、平成18年11月20日、マイケルの代理人弁護士から、マイケルの氏名や肖像を無断で使用しないようメールで警告を受けた(甲119)。 イ 検討 (ア) 被告がマイケルの氏名や肖像につきその使用許諾権限を有する者から独占的使用を許諾されたことや、独占的に第三者に対し独占的使用を許諾する権利を与えられたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲131)によれば、原告もマイケルも被告に対してマイケルの氏名や肖像に関する使用を許諾していないことが認められる。 また、前記認定によれば、平成12年9月30日には、原告がMJネットに対してマイケルの氏名及び肖像を使用した商品化を許諾し、平成16年11月23日には、MJネットがMJマーケティングに対し、MJマーケティングが被告に対し、上記商品化を順次許諾しているものの、被告がMJマーケティングから許諾を得るより2年以上前である平成14年11月15日に、原告とMJネット等の間で互いに一切の債権や合意等を放棄・免除して相手方を免責する旨の和解及び免責契約を締結していたのであるから、被告がMJネットを経由し、有効な許諾を得て本件使用許諾権を取得したものということもできない。 (イ) この点につき、被告は、マイケルからその氏名及び肖像の独占的使用や第三者に対し独占的に使用を許諾することについての許諾を受けていた根拠として、平成17年11月8日にマイケルの家族やジャクソン家の顧問弁護士に被告の事業を報告して了解を得たことを挙げ、このことを裏付ける証拠として、被告代表者とワキタ株式会社のC常務がマイケルの父Dと面会してスーツを贈った際の写真(乙7ないし13)やB弁護士の名刺(乙23)を提出する。 しかしながら、そもそも被告の提出する前記各証拠だけでは、被告がマイケルの家族やジャクソン家の顧問弁護士に被告の事業を報告して了解を得たことを認めるに足りない。また、仮にそのような事実があったとしても、マイケルがその家族やジャクソン家の顧問弁護士に許諾権限を与えていたことを認めるに足りる証拠はないから、被告がこれらの者からマイケルの氏名及び肖像の使用の許諾を得たと認めることもできない。 したがって、前記の各証拠によっては、被告がマイケルの氏名及び肖像の使用を許諾されたと認めることはできない。 (ウ) また、被告は、平成19年3月10日にマイケルから被告の事業について相談に乗る旨の手紙を渡された旨主張する。 証拠(乙27)によれば、同手紙には「It seems that my MJ business was successful. Consult about anything freely. Is health said? …Shortly,it will meet and talk in a loss or Vegas again.」(僕のMJビジネスは成功していたようだね。気軽に何でも相談してよ。体の調子は良いのかい。…今度またロスかベガスで会って話そうよ。)との記載があることが認められる。しかしながら、上記手紙が真正に成立したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(甲131)及び弁論の全趣旨によれば、同手紙の記載中には、「Is health said?」や「a loss」など、米国人ならば誤るとは考え難い文法上の誤りが存在すること、同手紙は被告がマイケルから直接渡されたものではないことが認められることに照らすと、上記手紙の成立の真正には疑義があるというべきである。したがって、被告の提出する上記手紙によっては、被告がマイケルから同人の氏名や肖像の独占的使用や第三者に対し独占的に使用を許諾することについての許諾を受けていたことを認めることはできない。 ウ 以上のとおりであって、被告が有効な許諾を得て本件使用許諾権を取得していたとはいえないから、被告が有効な許諾を得てマイケルの氏名及び肖像についての独占的権利ないし本件使用許諾権を取得した旨の本件各表示は、業者等の需要者に対し、被告が本件使用許諾権を取得しており、被告との間で商品化許諾契約を締結すれば、有効な営業上の地位を得てマイケルの氏名や肖像を使用した商品を販売することができる旨誤認させるような表示であるといえる。したがって、本件各表示は、被告によるマイケルの氏名及び肖像を使用した商品化の許諾という役務の質又は内容について誤認させるような表示となっているというべきである。 2 争点A(本件各表示によって原告の営業上の利益が侵害されているか、又は侵害されるおそれがあるか)について 原告は、マイケル本人及びマイケル・ジョセフ・ジャクソン遺産財団から許諾を受けており、マイケルの氏名及び肖像を使用した商品化の許諾事業につき、営業上の利益を有しているというべきである。 ところが、前記第2の1(前提事実)(1)ア、(2)イ・ウのとおり、原告と被告のいずれもが行っているマイケルの氏名及び肖像を使用した商品化の許諾事業は、競合しており、実際、複数の業者が被告との間でマイケルの氏名及び肖像を使用する商品化許諾契約を締結している。また、証拠(甲41、42)によれば、一部の業者は、本件ウェブサイト上の本件各表示を見て、被告が本件使用許諾権を有しているものと誤信したことにより、被告との間で商品化許諾契約を締結し、被告に対してロイヤリティーを支払っていたことが認められる。 なお、弁論の全趣旨によれば、被告は、平成22年6月25日以降、本件ウェブサイトから本件各表示を削除しているものの、なお原告の本件請求を争っているから、本件ウェブサイト上に本件各表示を再び行うおそれがあり、そうなれば、業者が再び被告との間で商品化許諾契約を締結するおそれが生じる。 したがって、本件各表示によって原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるというべきである。 3 結論 以上によれば、原告の請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 山門優 裁判官 志賀勝 (別紙)被告表示目録 1 弊社は、日本国内において米国アーティスト『Michael Jackson』の肖像及び名前に関連するマーチャンダイズ権(著作権/隣接権/商標権/営業表示権/競争上の地位の保護/人格権)において独占的権利『Merchandising License Agreement』を契約締結し、国内で権利を有する唯一の企業であります。 2 Ecbizz Japan Co.,Ltd Exclusive and Authorized Merchandising and Licensing Agents for Michael Jackson |
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