判例全文 | ||
【事件名】学校向けパソコン教育ソフトのインストール事件 【年月日】平成23年9月16日 東京地裁 平成22年(ワ)第28148号 著作権損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成23年8月1日) 判決 原告 コンピュータエデュケーションシステム株式会社 同訴訟代理人弁護士 深井俊至 同 小林邦聡 被告 サンキッズシステム株式会社 同訴訟代理人弁護士 濱田真一郎 主文 1 被告は、原告に対し、1400万4684円及びうち616万7000円に対する平成20年12月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を、うち783万7684円に対する平成22年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、2921万5916円及びうち616万7000円に対する平成20年12月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を、うち2304万8916円に対する平成22年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、後記2(2)のソフトウェア(コンピュータ・プログラム)に係る著作権ないし日本国内における著作権の独占的利用権を有する原告が、被告が当該ソフトウェアを販売し、販売先である教育機関に設置されたコンピュータにインストールした行為は、原告被告間の和解契約上の許諾料の支払条項に該当する、原告の著作権(複製権、譲渡権)を侵害する不法行為に該当すると主張して、被告に対し、和解契約に基づく許諾料の支払請求権に基づく許諾料616万7000円及びこれに対する和解契約日の翌日である平成20年12月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償金2304万8916円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成22年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。) (1) 原告は、コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を業とする株式会社である。 被告は、コンピュータソフトウェアの販売等を業とする株式会社である。 (2) 本件ソフトウェア 「Neo Reborn」(以下「本件ソフトウェア1」という。)、「Netウィッチ」(以下「本件ソフトウェア2」という。)及び「アップデート・コントロール」(以下「本件ソフトウェア3」といい、本件ソフトウェア1ないし3を併せて「本件ソフトウェア」という。)は、いずれもWindows XPを動作環境とするコンピュータ・プログラムであり、プログラムの著作物である。本件ソフトウェアは、学校等の教育機関のコンピュータにインストールして使用されるものである。 原告は、平成16年(2004年)12月1日、台湾法人であるレンテン・テクノロジー・カンパニー・リミテッドより、同社が著作権を有する本件ソフトウェア1に係る著作権の日本国内における独占的利用につき許諾を受けた。(甲1) 原告は、本件ソフトウェア2及び3の著作権者である。 (3) 本件和解契約 被告は、平成16年頃から、原告から本件ソフトウェアの複製品の供給を受け販売していた。 平成20年10月頃、被告が本件ソフトウェア1を違法に複製し、「School Guardy」の商品名で販売していた事実が発覚した。被告は、本件ソフトウェア1の違法複製品を販売していた事実を認め、同年12月25日、原告被告間で和解契約(以下「本件和解契約」という。)が締結された。本件和解契約の概要は、以下のとおりである。(甲6) ア 被告は、原告に対し、原告の事前の許諾を得ることなく、本件ソフトウェア1を、岩手県一関市立の小学校に設置された354台のコンピュータにインストールしたことを認め、これを謝罪する。 イ 被告は、原告に対し、和解金(許諾料)として、インストール1件につき7000円の割合による金員の支払義務があることを認める。 ウ 被告は、原告に対し、上記アの354件のインストールにかかる和解金(許諾料)として247万8000円の支払義務があることを認め、これを平成21年1月31日限り原告に支払う。 エ 本件和解契約後、和解書添付の一覧表記載以外のインストール先の存在が判明した場合、被告は、原告に対して、上記イと同様の基準により許諾料を支払うものとする(遅延損害金は本件和解契約日の翌日から起算する)。 (4) 前訴における訴訟上の和解 本件和解契約締結後、本件和解契約において認めた354本のほかにも、被告が本件ソフトウェア1の違法複製品を多数販売していた事実が新たに発覚した。 原告は、平成21年5月21日、被告に対し、被告が本件和解契約締結の際に申告しなかった本件ソフトウェア1の違法複製品について、本件和解契約に基づき許諾料の支払を求める訴訟を提起した(千葉地方裁判所木更津支部平成21年(ワ)第131号許諾料支払請求事件。以下「前訴」という。)。 平成22年1月27日、原告被告間において、前訴つき訴訟上の和解が成立した(以下「本件訴訟上の和解」という。)。本件訴訟上の和解の概要は、以下のとおりである。(甲11) ア 被告は、原告に対し、原告が日本国内における独占的利用権を有する本件ソフトウェア1を、原告から許諾を得ることなく、1199台のコンピュータにインストールしたことを認める(本件和解契約における354件のインストールとは別のもの)。 イ 被告は、原告に対し、和解金として839万3000円(上記アのインストール1件につき7000円)の支払義務があることを認め、これを分割して原告に支払う。 ウ 被告は、本件ソフトウェア1について、和解調書の別紙1(1199件)及び別紙2(354件)に記載されたもののほかに原告の許諾を受けずにインストールをしていないことを保証する。 (5) 証拠保全の実施 原告は、本件和解契約及び本件訴訟上の和解において認めたもののほかにも、被告が本件ソフトウェア1及び2を違法複製しているとして、平成22年4月19日、被告を相手方として、本件ソフトウェア1及び2に関する資料について証拠保全を申し立て(仙台地方裁判所古川支部平成22年(モ)第11号証拠保全申立事件)、同月28日付けの証拠保全決定に基づき、同年5月31日、被告の本店所在地において、本件ソフトウェア1及び2に関する資料についての検証が実施された。(甲12、13) (6) 本件ソフトウェアのインストール ア 被告は、平成19年から20年にかけて、岩手県一関市立の小中学校向けに本件ソフトウェア1の複製品を販売し、各小中学校に設置された1764台のコンピュータに本件ソフトウェア1をインストールした。このうちの211件のインストールは本件和解契約及び本件訴訟上の和解の対象外のものである(以下、この211件のインストールを「本件インストール1」という。)。 イ 被告は、平成20年、宮城県登米市立の小中学校向けに本件ソフトウェア1及び3の複製品を販売し、各小中学校に設置された220台のコンピュータに本件ソフトウェア1及び3をそれぞれインストールした(以下「本件インストール2」という。いずれも本件和解契約及び本件訴訟上の和解の対象外のものである。)。 ウ 被告は、平成19年、宮城県栗原市立の小中学校向けに本件ソフトウェア1ないし3の複製品を販売し、各小中学校に設置されたコンピュータに、本件ソフトウェア1を368件、本件ソフトウェア2を502件、本件ソフトウェア3を368件、それぞれインストールした(以下「本件インストール3」という。いずれも本件和解契約及び本件訴訟上の和解の対象外のものである。)。 エ 被告は、平成19年、宮城県黒川郡大和町立の中学校向けに本件ソフトウェア1及び2の複製品を販売し、各中学校に設置された82台のコンピュータに本件ソフトウェア1及び2をそれぞれインストールした(以下「本件インストール4」という。いずれも本件和解契約及び本件訴訟上の和解の対象外のものである。)。 オ 上記アないしエのとおり、被告は、本件ソフトウェア1を合計881本、本件ソフトウェア2を合計584本、本件ソフトウェア3を合計588本販売し、販売先のコンピュータにそれぞれインストールした。 3 争点 (1) 本件インストール2ないし4に対する原告の許諾の有無(争点1) (2) 本件和解契約に基づく許諾料の額(争点2) (3) 原告の損害額(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(本件インストール2ないし4に対する原告の許諾の有無)について (被告の主張) ア 本件インストール2及び3について 平成18年頃から原告において東北地方の営業を担当していたA(以下「A」という。)が、東北地方の自治体の教育委員会等への販売促進のため、宮城県登米市及び栗原市に対する営業の端緒として、インストール後の保守を被告が担当することを条件に、当初は被告が販売代金(ライセンス料)を支払うことなく、原告の販売促進費用を販売代金(ライセンス料)により肩代わりさせる形で、被告が本件ソフトウェアを譲渡、複製することを許諾したため、被告は、無償サンプルの提供として、登米市及び栗原市の一部の小中学校に設置されたコンピュータに本件ソフトウェア1ないし3を適法にインストールしたものである。 イ 本件インストール4について 本件インストール4は、被告が、本件ソフトウェア1及び2を原告から購入し、原告の許諾を得た上で適法に譲渡、インストールしたものである。すなわち、本件インストール4に係る本件ソフトウェア1及び2の売買契約は、宮城県黒川郡大和町から介在業者を介して注文を受けた被告が、納品時期が迫っていたため原告に対して電話で購入を申し込み、これを原告が承諾したことにより成立したものである。ただし、被告において注文書は作成されておらず、原告から納品書や請求書の交付もなく、原告からの仕入れと代金未払の事実が被告の社内データとして残されていなかったため、代金未払のまま長期間が経過している。 被告が、平成19年に、インストール先とインストール数を告げた上で、原告から、大和町立中学校用に各82本の本件ソフトウェア1及び2を購入したことは、原告が本件ソフトウェア2のインストール先とインストール数を了承した上で販売先に送付する「MySchool.nwl」ファイル(以下「ライセンスファイル」という。)及び「MySchool.pwd」ファイル(以下「パスワードファイル」という。)が原告から被告に送付されており(乙6の1、2)、これらのファイルを本件ソフトウェア2がインストールされたパソコンに上書きすると現れるログオン画面(乙7の1、2)に表示されるインストール数を示す数字が、大和町立の2中学校が平成17年と19年に購入した本件ソフトウェア1及び2の各合計数と合致することから明らかである。なお、大和町立中学校分の各82本の本件ソフトウェア1及び2については売買代金が未払であるため、被告は、原告に対し、本件ソフトウェア1については1本当たり7000円の、本件ソフトウェア2については1本当たり6500円の各未払代金債務を負っている。 (原告の主張) ア 本件インストール2及び3について 原告の従業員であったAが、被告に対し、本件インストール2及び3に係る本件ソフトウェアの譲渡、複製を許諾したことはない。 原告の従業員であったAは、被告が主張するような多数の本件ソフトウェアを無償のサンプルとして提供することを許諾するような職務権限を有していなかった。また、Aは、平成18年から被告への営業の担当者であったが、同年8月をもって原告を退職しており、平成19年及び20年に販売された本件ソフトウェアについて譲渡や複製を許諾することはあり得ない。さらに、Aが、具体的な案件の内容も分からないままに、平成18年8月に退職するまでの間に、平成19年及び20年の案件に係る譲渡や複製を事前にかつ包括的に許諾することもあり得ない。 被告が販売代金の支払遅延を繰り返したことから、原告は、被告に対し、平成19年2月5日までに取引の中止を通告し、同月までに原告被告間の取引を中止した。こうした状況の中、原告が、被告に対して、平成19年及び20年における本件ソフトウェアの譲渡、複製を無償で許諾することはあり得ない。 イ 本件インストール4について 原告は、本件インストール4に係る本件ソフトウェア1及び2を被告へ販売したことはなく、被告は、原告の許諾を得ることなく違法に譲渡、複製したものである。 本件ソフトウェア2は、学校等の教育機関におけるパソコン教育のために、指導者である教師用のパソコン1台及び各生徒用のパソコンのそれぞれにインストールされ、教師用のパソコンから各生徒用のパソコンに対する集中的な管理やコントロールを可能とする機能を有する。ログオン画面(乙7の1、2)は、本件ソフトウェア2を教師用のパソコンで起動した場合に現れる画面であるが、この画面に表示される数字(乙7の1では「55」、乙7の2では「53」)は、ライセンスファイル内に記録されたソフトウェアの管理可能最大端末数を示すものであり、当該ソフトウェアの管理可能能力値として、教師用パソコン1台とその管理可能な生徒用パソコンの最大数の合計を意味するものであって、本件ソフトウェア2の販売数を示すものではない。ソフトウェアの能力値を実際の販売数以上の数値とするのは、後に、同じ販売先から本件ソフトウェア2の追加注文があった場合、当該能力値の範囲内であれば、増加分だけ生徒用のパソコンに本件ソフトウェア2をインストールすれば足りるからである。 被告代表者は、平成19年4月中旬頃、大和町の教育委員会から本件インストール4に係る本件ソフトウェア1及び2の注文があり、原告へ発注して売買契約が成立した旨陳述するが(乙11)、被告が販売代金の支払遅延を繰り返したことから、原告は、被告に対し、同年2月5日までに取引の中止を通告し、同月までに被告との取引を中止したのであるから、同年4月中旬頃、原告が、被告からの本件ソフトウェア1及び2の注文を受注し、販売することはあり得ない。 (2) 争点2(本件和解契約に基づく許諾料の額) (原告の主張) 原告及び被告は、本件和解契約において、本件ソフトウェア1の無断インストールが発覚した場合、被告が原告に対して、インストール1件につき7000円の許諾料を支払う旨合意している。 被告は、以下のとおり、原告の許諾を得ることなく、各小中学校に設置されたコンピュータに本件ソフトウェア1を合計881本インストールしており、本件和解契約に基づき被告が支払義務を負う許諾料の額は、616万7000円(インストール1件当たりの許諾料7000円×881件)である。 ア 本件インストール1 211本 イ 本件インストール2 220本 ウ 本件インストール3 368本 エ 本件インストール4 82本 (被告の主張) 被告が、原告の許諾を得ることなくインストールした本件ソフトウェア1は、本件インストール1に係る211本のみであり、被告が本件和解契約に基づき支払義務を負う許諾料の額は147万7000円(インストール1件当たりの許諾料7000円×211件)である。 大和町立中学校における本件ソフトウェア1のインストールは、原告との売買契約に基づく適法なものであるが、売買代金が未払のため、未払代金として57万4000円(1本当たりの代金7000円×82本)の支払義務があることは認める。 (3) 争点3(原告の損害額)について (原告の主張) ア 本件ソフトウェア2について (ア) 原告の本件ソフトウェアの販売先には、特約店と呼ばれる取引先と、それ以外の通常の販売先が存在する。特約店とは、原告のソフトウェア製品を継続的に購入することを約束したソフトウェア販売業者である取引先のことであり、特約店以外の販売先とは、そうした原告との継続的な取引関係のない販売先である。特約店との取引の場合には、その継続的な取引の性質から一定の購入数量の達成が継続的に期待できるため、原告は特約店への販売価格を通常の販売価格よりもかなり低額に設定している。 (イ) 著作権侵害に基づく損害額の算定において、一定の継続的な取引関係の存在を前提とする特約店に対する本件ソフトウェアの販売価格を算定の基準とすることは妥当ではなく、原告との特殊な関係を有しない、通常の販売先への販売価格を基に算定すべきである。なぜなら、著作権を侵害した者が負うべき損害賠償の額を、原告との一定の継続的取引関係を有する特約店に対してのみ適用されるべき低廉に抑えられた販売価格を基に算出すると、著作権を侵害した者が負うべき損害賠償の額が、原告から本件ソフトウェアを特約店以外に適用される通常の販売価格で購入した者が支払うべき売買代金の額より著しく低くなり、法を侵した者が法を遵守した者より優遇される結果となってしまい正義と公平に反するからである。 (ウ) 本件ソフトウェア2の販売価格は、顧客との関係及び案件当たりの販売数量に応じて決定されるため一律ではなく、原告の過去の販売実績(特約店ではない通常の販売先への販売実績)から算出した本件ソフトウェア2の1本当たりの平均販売価格は3万2423円である。また、本件ソフトウェア2の製造及び販売に要する費用は1本当たり53円を上回らない。 したがって、本件ソフトウェア2の単位数量当たりの利益の額は、上記平均販売価格から費用を控除した3万2370円となり、被告による本件ソフトウェア2の譲渡、複製によって原告が被った損害の額は、1890万4080円(3万2370円×584本)である(著作権法114条1項)。 (エ) 被告が主張する原告被告間の販売価格は、原告被告間に本件ソフトウェアのOEM供給取引という特殊な関係があり、かつ、そのような特殊な関係の下で、被告が原告から継続的に多数の本件ソフトウェアを購入していたときのものである。この原告被告間の販売価格は、OEM製品として被告が得る利益分も考慮し、かつ、被告が原告から継続的に本件ソフトウェアを購入するということを前提に低廉に抑えられていたものであるから、このような販売価格をもって、原告の主張する本件ソフトウェア2の販売価格が高額であるという被告の主張の根拠とすることはできない。販売店様向け資料(乙5)も、上記の原告被告間の関係を前提として、平成16年4月28日現在における特定の入札案件のみに関するものとして原告から被告に渡されたものであって、一般的にこのような価格設定がされていたのではない。当該資料は、特定の入札案件が事前に対象となり、その案件の獲得競争その他を考慮し、原告が被告に対し当該入札案件のみに対するものとして特別に価格設定したものである。 イ 本件ソフトウェア3について 本件ソフトウェア3の販売価格は、顧客との関係及び案件当たりの販売数量に応じて決定されるため一律ではなく、原告の過去の販売実績(特約店ではない通常の販売先への販売実績)から算出した本件ソフトウェア3の1本当たりの平均販売価格は2000円である。また、本件ソフトウェア3の製造及び販売に要する費用は1本当たり53円を上回らない。 したがって、本件ソフトウェア3の単位数量当たりの利益の額は、上記平均販売価格から費用を控除した1947円となり、被告による本件ソフトウェア3の譲渡、複製によって原告が被った損害の額は、114万4836円(1947円×588本)である(著作権法114条1項)。 被告は本件ソフトウェア3には独立の損害はない旨主張するが失当である。本件ソフトウェア3は、本件ソフトウェア1に追加的機能を提供するための付属的ソフトウェアであり単独で動作するソフトウェアではないが、本件ソフトウェア3が付属的ソフトウェアであったとしても、本件ソフトウェア1とは別のソフトウェアであって独立の価値を有しており、独立の価値を有せず損害が発生しないということはない。 ウ 弁護士費用 被告の本件ソフトウェア2及び3の違法複製及び違法複製品の販売という不法行為により、原告は、本件訴訟を提起せざるを得ない状況となり、弁護士に訴訟の提起及び遂行を委任し、その費用を負担した。弁護士費用として被告に負担させるべき損害の額は300万円が相当である。 エ 被告の主張に対する反論(原告による販売可能数) 被告は、被告が培ってきた信頼関係、被告の営業努力、原告の特約店としての低廉な購入価格等の理由から、宮城県登米市等の各教育委員会等の入札で落札し本件ソフトウェアを販売することができたのであって、原告では、上記各教育委員会に対して本件ソフトウェアを販売することはできなかったと主張するが、複数の事業者が参入し入札により落札者が決定される案件において、信頼関係や営業努力のみで落札できるとは通常考えられない。また、平成19年の時点で被告は原告の特約店ではなかったのであり、本件ソフトウェアを低廉な価格で購入できたという事情はない。本件ソフトウェアに対する需要があり、原告には東北地方の担当者がおり、被告との取引終了後は別の企業を特約店として営業活動を継続していたのであるから、原告が上記各教育委員会に対して本件ソフトウェアを販売できなかったということはない。 (被告の主張) 原告の主張は否認ないし争う。 ア 本件ソフトウェア2について 原告が主張する本件ソフトウェア2の平均販売価格3万2423円は高額にすぎる。 本件ソフトウェア2は、小中学校向けのパソコン教育用ソフトであり、各自治体の教育委員会等の入札を経て小中学校に導入されるのが通常である。原告が主張する特約店に対する販売価格が5000円から1万5000円の間であるのに比して、特約店以外の販売先に対する平均販売価格は3万1091円(甲32の3)であり2倍から6倍も高額であるところ、他社の類似商品の価格と比較しても、特約店に対する販売価格で購入しなければ、入札における落札が困難であることは容易に推測される。このように、小中学校向けのパソコン教育用ソフトであり、入札を経て小中学校に導入されるのが通常であることに鑑みれば、本件ソフトウェア2の主たる購入者は、落札する蓋然性が高い原告の特約店であるというべきである。実際にも、販売一覧表(甲32の2)によると、平成19年3月から20年8月までの合計239の販売先のうち特約店以外の販売先は5つのみであり、本件ソフトウェア2の主たる販売先は原告の特約店であるといえる。したがって、従たる販売先である特約店以外の販売先に対する販売価格をもって本件ソフトウェア2の販売価格とすることは、原告の得べかりし利益を超えて原告を不当に利するものであって妥当でなく、特約店である被告に対する販売価格の平均を本件ソフトウェア2の販売価格として、著作権法114条1項の「単位数量当たりの利益の額」を算定すべきである。また、「単位数量当たりの利益の額」とは、売上高から売上原価を控除し、更に販売数量に応じて増減する変動経費を控除した額であるところ、原告が費用として控除すべきと主張する53円は、製造原価と販売関係費用の一部のみであり、当然に想定されるべき仕入費や販売促進費が含まれておらず、費用控除に関する原告の主張は少額にすぎる。 原告の特約店である被告に対する本件ソフトウェア2の販売価格は、平成16年6月には2000円、平成17年4月には5000円、平成17年8月には1万1000円、平成18年9月には3600円であり、2000円から1万1000円までの幅がある。この被告に対する販売価格に鑑みると、本件ソフトウェア2の販売により原告が得る利益は、被告に対する販売価格の平均である6500円(1万1000円と2000円の平均)を超えることはない。 大和町立中学校における本件ソフトウェア2のインストールは、原告との売買契約に基づく適法なものであるが、売買代金が未払であるため、未払代金として53万3000円(1本当たりの代金6500円×82本)の支払義務があることは認める。 イ 本件ソフトウェア3について 本件ソフトウェア3については、本件ソフトウェア1とは別個独立の損害が生じていないというべきである。 本件ソフトウェア3(アップデート・コントロール/UPDATE機能付き)は、本件ソフトウェア1に付加されて販売されることが通常であり、被告との取引においても、本件ソフトウェア3は本件ソフトウェア1に付属して販売され、価格も本件ソフトウェア1の価格に包含されており、本件ソフトウェア3を付加しなければ他社製品(本件ソフトウェア3に係る機能が基本ソフトに含まれている。)との競合に勝てないのが現状である。よって、本件ソフトウェア3については本件ソフトウェア1の損害と別個独立の損害が生じているとはいえない。 原告作成の「販売店様向け資料」(乙5)によれば、本件ソフトウェア1の価格は6500円であり、他方、本件ソフトウェア1に係る許諾料(損害額)が7000円であることは原告被告間に争いがないところ、この差額である500円が本件ソフトウェア3の付加による上積み額であると考えられるため、本件ソフトウェア1の許諾料7000円の中で本件ソフトウェア3の損害は評価されているというべきであり、本件ソフトウェア3について独立の損害はない。 原告が販売価格から控除すべき費用として主張する53円が少額にすぎることは、上記アのとおりである。 ウ 原告による販売可能数 著作権法114条1項ただし書では、「譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除する」とされている。 @被告が長年にわたり培ってきた宮城県北部の自治体の各教育委員会との信頼関係、A地元に密着したきめ細かい被告の営業努力、B原告の特約店として低廉な価格で購入することができたこと等の理由から、被告は、各教育委員会による入札で落札し、多数の本件ソフトウェアを販売、導入することができたものである。しかしながら、東北地方に営業所がなく、少数の担当者が東北地方全域を担当している原告が、特約店向けでない高額の販売価格を提示したとすれば、本件の各小中学校に対して被告と同数の本件ソフトウェアを販売、導入できなかったことは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件インストール2ないし4に対する原告の許諾の有無)について (1) 本件インストール2及び3について 被告は、平成19年及び同20年に行われた本件インストール2及び3につき、原告の東北地方の営業を担当していたAから、本件ソフトウェアの譲渡、複製につき許諾を受けたと主張し、乙11(被告代表者B作成の陳述書)には同主張に沿う記載があるが、許諾があったことを裏付ける客観的な証拠は何ら提出されていない。 被告も認めるように、Aは平成18年8月に原告を退職しており(甲35)、平成19年以降の原告の業務についてAが何らかの権限を有していたと認めることはできないのであるから、上記乙11の記載は採用することができず、平成19年及び同20年に行われた本件インストール2及び3に係る被告による本件ソフトウェアの譲渡、複製につき、原告の許諾があったと認めることはできない。 さらに、平成18年12月頃から、被告の売買代金の支払遅滞を原因として原告被告間の信頼関係が悪化し、原告被告間の取引は平成19年2月5日以降中止されたことが認められ(甲3、4)、このような状況において、被告による本件インストール2及び3につき原告が許諾することは通常あり得ないことと考えられる。この点、被告は、信用取引はできなくなったが、平成19年2月以降も原告被告間の取引は継続していたと主張し、平成19年11月の電子メール(乙12)を提出する。しかしながら、同電子メールは、過去に原告が被告へ販売した機器(RDSボード)の修理に関するものにすぎず、本件ソフトウェアに関する取引が継続していたことを示すものということはできないから、被告の上記主張を採用することはできない。 以上のとおり、本件インストール2及び3につき原告の許諾があったと認めることはできない。 (2) 本件インストール4について 被告は、本件インストール4に係る本件ソフトウェア1及び2を原告から購入し、原告の許諾を得た上で譲渡、インストールしたものであると主張し、乙11には同主張に沿う記載があるが、本件インストール4に係る本件ソフトウェア1及び2の売買契約の存在を裏付ける客観的な証拠は何ら提出されていない。 上記(1)で説示したように、平成18年12月頃から、被告の売買代金の支払遅滞を原因として原告被告間の信頼関係が悪化し、原告被告間の取引は平成19年2月5日以降中止されていることからすると、上記乙11の記載は採用することができず、原告被告間において、本件インストール4に係る本件ソフトウェア1及び2の売買契約が締結されたものと認めることはできない。 被告は、原告が販売先に送付するライセンスファイル及びパスワードファイルが被告に送付されており(乙6の1、2)、これらのファイルに係るログオン画面(乙7の1、2)に表示される数字が、本件インストール4に係る中学校が平成17年及び同19年に購入した本件ソフトウェア1及び2の各合計数と合致することから売買契約があったことは明らかであると主張する。しかし、ログオン画面に表示される数字は、ライセンスファイル内に記録された本件ソフトウェア2の管理可能最大端末数を示すものであり(争いのない事実)、教師用パソコン1台とその管理可能な生徒用パソコンの最大数の合計を意味するものであって、本件ソフトウェア2の販売数を意味するものではないから、当該数字が本件ソフトウェア1及び2の販売数と一致することを前提とする被告の主張は前提において理由がない。 以上のとおり、被告主張の売買契約を認めることはできないから、本件インストール4につき原告の許諾があったいうことはできない。 2 争点2(本件和解契約に基づく許諾料の額)について 上記1で説示したように、本件インストール2ないし4につき原告の許諾があったと認めることはできないから、被告は、原告の許諾を得ることなく、前記第2の2(6)のとおり、本件インストール1ないし4において本件ソフトウェア1を881件インストールしたものである。 したがって、被告が、本件和解契約に基づき原告に対して支払義務を負う許諾料の額は、616万7000円(1件当たり7000円×881本)となる。 3 争点3(原告の損害額)について (1) 原告は、被告による本件ソフトウェア2及び3の違法な譲渡、複製によって被った損害につき、著作権法114条1項に基づく損害額を主張する。 本件において、被告の侵害行為である本件インストール2ないし4がなければ、原告は、当該数量分の本件ソフトウェア2及び3を販売することができたものと認めるのが相当であるが、証拠(甲15〜27、32の2〜4、33、乙1〜4、8)によれば、本件ソフトウェア2及び3の販売価格は一定しておらず、購入者との関係、販売数量等に応じて決定され、個別の取引ごとに異なっている。そこで、本件においてはその平均販売価格に基づき単位数量当たりの利益の額を算定することとする。 原告の平成19年及び同20年の全販売実績における本件ソフトウェア2の平均販売価格は●省略●、本件ソフトウェア3の平均販売価格は●省略●と認められる(甲32の1〜4)。 また、本件ソフトウェア2及び3の製造販売に係る変動費用は1本当たり53円(CD−ROM代、紙箱代、製品マニュアル代、送料の合計)と認められる(甲2)。被告は、控除すべき変動費用が少額すぎると主張するが、コンピュータ・プログラムのパッケージ商品の通常の製造販売において、上記のほかに控除すべき変動費用を想定することは困難であるから、被告の主張を採用することはできない。 そうすると、本件ソフトウェア2の単位数量当たりの利益の額は●省略●−53円)、本件ソフトウェア3の単位数量当たりの利益の額は●省略●−53円)となる。 したがって、前記第2の2(6)のとおり、被告は、本件ソフトウェア2を合計584本、本件ソフトウェア3を合計588本譲渡、複製したのであるから、被告が本件ソフトウェア2を違法に譲渡、複製したことにより原告が被った損害は●省略●(584本×●省略●)、被告が本件ソフトウェア3を違法に譲渡、複製したことにより原告が被った損害は●省略●(588本×●省略●)となる。 また、原告は弁護士を選任して本件訴訟を遂行しているところ、本件事案の性質、上記認容額その他諸般の事情を考慮すると、その弁護士費用のうち100万円を被告の著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 以上より、被告の著作権侵害の不法行為により原告が被った損害額は783万7684円となる。 (2) 原告の主張について 原告は、本件ソフトウェア2及び3の単位数量当たりの利益の額は、原告と特殊な関係を有しない通常の販売先に対する販売価格を基に算定すべきであると主張する。 しかし、本件ソフトウェアの販売先には、原告と一定の継続的な取引関係を前提とする特約店と、継続的な取引関係のない特約店以外の取引先があるところ、平成19年及び同20年における本件ソフトウェア2の全販売185件のうち、特約店以外の取引先は5件(甲32の2、3)にすぎないことからすると、特約店以外の取引先に対する販売価格のみに基づいて著作権法114条1項の「単位数量当たりの利益の額」を算定することは相当ではなく、原告の上記主張を採用することはできない。 (3) 被告の主張について ア 被告は、東北地方に営業所がなく、少数の担当者が東北地方全域を担当している原告では、宮城県北部の自治体の各教育委員会との信頼関係もないため、本件インストール2ないし4における各小中学校に対して被告と同数の本件ソフトウェアを販売、導入できなかったはずであるとして、著作権法114条1項ただし書の「譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情」があると主張する。 しかし、原告には東北地方の営業を担当する従業員がおり、被告との取引を中止した後に別の会社を販売代理店として指定し、東北地方における本件ソフトウェアの販売活動を続けていることからすると(甲34)、原告において、本件インストール2ないし4における各小中学校に対して被告と同数の本件ソフトウェアを販売、導入することができなかったと直ちに認めることはできず、他に被告の上記主張を認めるに足りる証拠もない。 イ また、被告は、本件ソフトウェア3は本件ソフトウェア1に付加されて販売されており独立の価値がないため、本件ソフトウェア3については独立の損害は生じないと主張するが、本件ソフトウェア3は、本件ソフトウェア1とは別の商品として個別に販売されているのであるから(甲24〜26、32の1〜4)、独立の損害が生じないという被告の主張は失当である。 4 結論 よって、原告の請求は、和解契約に基づく許諾料の支払請求権に基づく許諾料616万7000円及びこれに対する和解契約日の翌日である平成20年12月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償金783万7684円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成22年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 坂本康博 裁判官 寺田利彦 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |