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【事件名】“過払金回収解説書”の類似事件
【年月日】平成23年9月15日
 名古屋地裁 平成21年(ワ)第4998号 著作権侵害等に基づく損害賠償等請求事件

判決


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告Y1は、原告らに対し、各61万7118円及びこれに対する平成21年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y1は、原告らに対し、朝日新聞の全国紙朝刊社会面並びに自由と正義に、別紙謝罪広告文1(添付省略)記載のとおりの謝罪広告を2段2分の1頁の大きさで、標題部は20ポイント活字、その余の部分は10ポイント活字で、1回ずつ掲載せよ。
3 被告Y1は、自ら又は第三者をして別紙文献目録1(添付省略)記載の文献の発行、出版、販売、頒布並びに頒布のための広告及び宣伝をしてはならない。
4 被告Y2は、原告らに対し、各65万9315円及びこれに対する平成21年9月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告Y2は、原告らに対し、朝日新聞の全国紙朝刊社会面並びに自由と正義に、別紙謝罪広告文2(添付省略)記載のとおりの謝罪広告を2段2分の1頁の大きさで、標題部は20ポイント活字、その余の部分は10ポイント活字で、1回ずつ掲載せよ。
6 被告Y2は、自ら又は第三者をして別紙文献目録2(添付省略)記載の文献の発行、出版、販売、頒布並びに頒布のための広告及び宣伝をしてはならない。
7 被告らは、Y2のホームページに別紙謝罪広告文3(添付省略)記載のとおりの謝罪文を1か月間にわたって掲載せよ。
第2 事案の概要
1 本件は、原告らが、主位的に、被告らが、原告らの著作物を無断で複製又は翻案したと主張して、被告らに対し、原告らの著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害に基づき、原告ら各自に対する損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、著作権法115条に基づく謝罪広告の掲載及び同法112条に基づく書籍の発行等の差止めを求め、予備的に、被告らが原告らの著作物に依拠して被告らの書籍を執筆し出版したことが、他人の成果物を不正に利用して利益を得るもので不法行為に当たると主張して、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告ら各自に対する損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(争いがないか、後掲各証拠[書証番号は特記しない限り枝番を含む。以下同じ。]により容易に認められる事実である。)
(1) 当事者等
ア 原告らは、いずれもA弁護士会に所属する弁護士であり、Bの会員である。
イ 被告Y1は、C弁護士会所属の弁護士であり、被告Y2は、被告Y1を代表社員とするC弁護士会所属の弁護士法人である。
(2) 原告らが執筆した書籍
ア 株式会社Dは、平成18年2月16日付けで、原告らを含むB所属の弁護士ら19名が執筆した「E」(以下「原告書籍1」という。)を発行した。
 原告書籍1は、A5判、横書き、序文、目次等を除いて296頁で、消費者金融等の貸金業者から借入れをした消費者が利息制限法所定の利率を超える利率に基づく返済を行った結果生じるいわゆる過払金(以下、単に「過払金」という。)の回収方法について、弁護士、司法書士、民間団体の相談員等のみならず、過払金を回収する債務者本人をも対象として、いわゆる「Q&A」方式、すなわち項目ごとに質問とその回答を記載する方式により、図表や書式を用いながら平易な記述で解説する書籍であり、平成17年4月発行の初版に、主要な最高裁判所等の判決や金融庁事務ガイドライン改正による実務の変化を踏まえた改訂を加えたものである。その本文の章立ては、「第1章 過払金返還請求とは」、「第2章 相談から受任まで」、「第3章 取引履歴開示の請求」、「第4章 取引履歴の再現と引直計算」、「第5章 訴訟前の示談交渉」、「第6章 訴訟提起に向けて―訴状の作成―」、「第7章 訴訟提起後の攻防」、「第8章 訴訟での主張・反論」、「第9章 みなし弁済」、「第10章 信販会社・クレジット契約特有の問題」、「第11章 特定調停の活用法」という構成である(以上につき、甲1)。
イ 株式会社Fは、平成18年11月30日付けで、原告らを含むB所属の弁護士ら28名が執筆した「G」(以下、「原告書籍2」といい、また、原告書籍1と併せて「原告各書籍」という。)を発行した。
 原告書籍2は、A5判、縦書き、序文、目次等を除いて212頁で、過払金の回収方法について、消費者金融の利用者をはじめとする一般読者向けに、図表や書式を用いながら平易な記述で解説する書籍である。その本文の章立ては、「序章 あなたの借金はもうなくなっている!」、「第1章 サラ金に負けるな!あなたのお金を取り返せ!」、「第2章 やり方を知って、サラ金に「金返せ」と言おう!」、「第3章 ここが肝心!サラ金から取引経過を手に入れよう!」、「第4章 さあ、あなたの過払い金を計算してみよう!」、「第5章 過払い金が発生していた!いよいよ、返還請求だ!」、「第6章 払ってくれない!よし、裁判を起こそう!」、「第7章 自分じゃできない!弁護士に頼みたい!」、「第8章 それでも借金が残ったら、特定調停をやろう!」という構成である(以上につき、甲2)。
(3) 被告らが発行に関与した書籍
ア 株式会社Hは、平成19年5月19日付けで、「I」(以下「本件書籍1」という。)を発行した。本件書籍1は、B5判、縦書き、目次等を除いて73頁で、過払金の回収方法について、消費者金融の利用者をはじめとする一般読者向けに、冒頭に漫画形式での説明部分を設け、図表や書式に加えてイラスト等を用いながら、平易かつ簡潔な記述で解説する書籍である。その章立ては、「第1章 過払い金って何だ?」、「第2章 取引履歴を取り寄せよう」、「第3章 過払い金を請求しよう」、「第4章 訴状の作成 さあ、裁判だ!」、「第5章 裁判の流れ」、「第6章 やっぱり専門家に頼みたい」という構成である。
 本件書籍1の奥付には、編集兼発行人がJ、監修が被告Y2、執筆がK及び株式会社L(以下、Kと併せて「Kら」ということがある。)、編集が株式会社Lである旨が記載されている(以上につき、甲4)。
イ 株式会社Lは、平成20年2月10日付けで、被告Y1を著者として、「M」(以下、「本件書籍2」といい、また、本件書籍1と併せて「本件各書籍」という。)を発行した。
 本件書籍2は、A5判、縦書き、目次等を除いて201頁で、過払金の回収方法について、一般読者向けに、いわゆるケーススタディ方式、すなわち具体的事例を挙げて説明する方式を基本としつつ、冒頭には漫画形式での説明部分を設け、図表や書式に加えてイラスト等を用いながら、また、付録部分では借金問題に関して「Q&A」方式等による説明も行うなどして、平易かつ簡易な記述で解説する書籍である。その本文の章立ては、「第1章 あなたは払いすぎている!過払い金を取り戻せ」、「第2章 取引履歴を取り寄せよう」、「第3章 過払い金を請求しよう」、「第4章 訴状の作成!さあ、裁判だ!」、「第5章 過払い金裁判の流れ」、「第6章 和解が成立した!」、「第7章 やっぱり専門家に依頼したい」という構成である。
 本件書籍2の目次最終頁には、本件書籍1に大幅な加筆・増補を行って書籍化した旨が注記されている(以上につき、甲3)。
(4) 原告各書籍及び本件各書籍の記載内容
 原告各書籍には、別紙対比表1及び2(添付省略)の「原告著作物1」及び「原告著作物2」(なお、別紙対比表1及び2(添付省略)では、原告書籍1を原告著作物1と表記し、原告書籍2を原告著作物2と表記している。)の各欄に記載された文章、図表及び書式による各表現(以下、別紙対比表1(添付省略)の各番号に対応する原告書籍1又は原告書籍2の文章、図表及び書式の各表現を、順次「原告表現1−1」、「原告表現1−2」というように、また、別紙対比表2(添付省略)の各番号に対応する原告書籍1又は原告書籍2の文章、図表及び書式の各表現を、順次「原告表現2−1」、「原告表現2−2」というようにいい、これらを併せて「原告各表現」という。)があり、本件各書籍には、別紙対比表1及び2(添付省略)の「被告Y2書籍」及び「被告Y1書籍」(なお、別紙対比表1(添付省略)では、本件書籍2を被告Y1書籍と表記し、別紙対比表2(添付省略)では、本件書籍1を被告Y2書籍と表記している。)の各欄に記載された文章、図表及び書式による各表現(以下、別紙対比表1(添付省略)の各番号に対応する本件書籍2の文章、図表及び書式の各表現を、順次「本件表現1−1」、「本件表現1−2」というように、また、別紙対比表2(添付省略)の各番号に対応する本件書籍1又は本件書籍2の文章、図表及び書式の各表現を、順次「本件表現2−1」、「本件表現2−2」というようにいい、これらを併せて「本件各表現」という。)がある(甲1ないし4)。
(5) 本件訴状の送達
 本件訴状は、平成21年9月17日に被告Y2に、同月19日に被告Y1にそれぞれ送達された(顕著な事実)。
第3 争点及び当事者の主張
1 本件書籍1の執筆者について
(原告らの主張)
(1) 本件書籍1の執筆者は、被告Y2である。本件書籍1に、被告Y2が監修した旨記載されているとしても、被告Y2所属の弁護士である被告Y1が、被告Y2の発意に基づき執筆した以上、その執筆の主体は被告Y2である。
(2) 被告らは、本件書籍1は、Kが執筆したものであり、被告Y2は監修したにすぎない旨主張する。
 しかし、本件書籍1と本件書籍2は類似している部分が多くあり、これらの本は同一人が執筆したからとしか考えられない。また、本件書籍1は、法律制度や判例の紹介、実務の取扱いの具体的な説明等を内容としており、過払金交渉や訴訟等に通じた専門家でなければ到底記し得ないような内容になっており、Kのように法律の専門家でもなく、法律の知識も乏しく、法律専門図書のライターとしての経験もない者が執筆できるような書籍でないことは明白である。仮に、Kが本件書籍1の原稿を執筆し、被告Y2がこれに手を加えたというのであれば、本件書籍1に関する原稿がメール通信の記録や紙媒体で残っていないのは不自然である。また、被告らは、Kが出廷に消極的であることを理由にKの住所等を明らかにせず、原告らは、Kの証人尋問をすることができなかったが、これは、Kが被告らに不利な発言をすることを知っていたからにほかならず、本件書籍1の執筆者はKではなく、被告Y2である。
(被告らの主張)
(1) 被告Y2は、本件書籍1の奥付記載のとおり、本件書籍1の監修をしたにすぎず、本件書籍1の執筆者は、K及び株式会社Lである。本件書籍1の企画・立案は、株式会社HのNが行い、株式会社LのOが記載事項を選択し、基本構成、章立て、項目立て、記載順序、各項目の分量を決めた上で、Kが基本的に執筆をし、Oが加筆・修正を行ったものである。
(2) 原告らは、本件書籍1と本件書籍2は類似している部分が多くあり、これらの本は同一人が執筆したからとしか考えられないと主張するが、両者の類似性は、本件書籍2が、本件書籍1に加筆したものであることによるだけでなく、本件各書籍の執筆を担当し、本件各書籍の制作、出版に大きな役割を果たしたのがOであったためである。
2 著作権侵害の有無について
(原告らの主張)
(1) 原告各表現の著作物性について
ア 原告書籍1は、弁護士・司法書士の過払金返還の実務での利用に耐え得るように著され、原告書籍2は、法律の専門家ではない一般読者向けに著されたという差異はあるが、いずれも、貸金業者から利息制限法所定の制限利率を超える利率を定めて貸付けを受けた債務者の過払金の回収方法について解説したものである。
 原告らは、Bに属する他の弁護士と共に原告らが実際に債務者の代理人として担当した過払金返還に関する種々の訴訟、交渉、過払金返還に関して独自の研究・調査を行った経験を通じて蓄積した知見やノウハウを各自が持ち寄り、同研究会等での議論を通じて得た成果をまとめて共同で原告各書籍を執筆したものであり、原告各書籍には、過払金返還請求の法的問題点、返還請求の根拠、裁判例とその分析、具体的な交渉手法、過払金返還請求に際しての手順や注意点が記され、各種文書の書式を一般読者にも十分理解可能なように平易な表現を具体例を用いて分かりやすく説明し、交渉や裁判の手続の流れについて図やフローチャート等を用いて効率的に理解できるよう創意工夫がされている。
 したがって、原告各書籍は、いずれも言語によって法的な問題に関する思想又は感情を創作的に表現したもので、学術の範囲に属するといえるから、言語著作物(著作権法2条1項1号、10条1項1号)として、著作物性を有することは明らかである。
 なお、近時、著作物性の中核をなす創作性については、「思想・感情の流出物としての個性ではなく、「表現の選択の幅」と捉えるべきである」との見解が有力であり、ある作品に著作物性があるか否かを判断するに際しては、「当該作品に著作権を付与したとしても、なお他の者には創作を行う余地が残されているか否か」を基準として創作性の有無を判断することが妥当であるところ、原告各書籍は、表現形式上の創意工夫を施した結果、原告ら独特の創作となって表れており、他の者の創作の余地が十分にあるといえる。すなわち、過払金返還請求の問題の中でも具体的にどのようなテーマを選択し、配列して構成するか、抽象的な表現を重視するか、具体的な事案を念頭において表現をするか、特にポイントとなるところに読み手の注意を喚起するような強調的表現を用いるか否かといった多くの諸点において、創作の余地が残されている。また、書式やチャート図等についても、重要な法律上の手続を適宜取捨選択してこれらに絞って記し、実務での交渉のポイント、過払金返還請求独特の手続の流れ、注意点やコメントを盛り込んで効率的に理解できるような創意工夫がされており、他の者の創作の余地が十分にあるといえる。
 したがって、原告各書籍は上記の観点からしても、著作物性があると判断されるべきである。
イ 原告各書籍は、全体として著作物性を有するが、こうした原告各書籍の著作物性を支える表現形式上の特性・特質は、以下のとおり、原告各表現においても如実に表れており、上述した表現形式上の創作性をいずれも十分に有しているから、原告各表現はそれぞれが著作物性を有する。
(ア) 原告表現1−1・2−1
 個人情報保護法に基づき、貸金業者が利用者に個人データを開示する義務を負っていること、最高裁平成17年7月19日判決(民集59巻6号1783頁)で信義則上開示義務があることを認めたこと、同判決を受けて、金融庁が開示しない業者への制裁措置を取り得ることといった情報開示に関する重要なファクターを簡潔に記載して法的根拠を端的に明示したという創作性が見られる。
(イ) 原告表現1−2・2−2
 原告らは、読者の便宜を考え、取引履歴の開示請求の方法、取引履歴の開示請求書の入手先ホームページ一覧を記載した。このような記載に注意を払った類書はなく、原告らの創意工夫である。
(ウ) 原告表現1−3・2−3
 貸金業者の中から大手の業者を選択してホームページアドレスを分かりやすく表示した点に、創作性がある。また、原告書籍2が発刊された当時、各貸金業者が開示請求の書式を取りそろえるようになったが、一般的に広く知られている状況ではなかったため、読者の便宜を考え、貸金業者のホームページで開示請求の書式がダウンロードできることを記載した点で、創意工夫がある。
(エ) 原告表現1−4・2−4
 取引履歴の開示請求書の書式において、FAXの宛先欄に貸金業者の担当者名を記載することは、送信したFAXが貸金業者の机の上に置いたままにならないよう原告らの経験から編み出された手法である。また、開示請求の回数の記載をすることは、複数回開示請求していることを担当者に訴え、開示を促すための工夫であり、借主の生年月日の記載は、貸金業者の借主の特定と検索の便宜を考えた工夫である。
 取引経過再開示依頼書は、開示請求をしたにもかかわらず取引履歴の開示がないという状況で取るべき方策として開示依頼書を送付する際の書式について、必要かつ重要な事項を端的に記したもので、利用しやすく効果的な依頼書として機能を発揮するような工夫がされている。
 これらは法令等の解釈によって当然に導かれる類のものではなく、原告らの実務経験に根ざした創意工夫である。
(オ) 原告表現1−5・2−5
 取引履歴の一部しか開示されなかったという状況があり得ること、消費者としては、最初の取引から全て開示されているかを十分に確認すべきことを具体的かつ分かりやすく注意喚起するという工夫がされている。これは、法令等の解釈によって当然に導かれる類のものではなく、原告らの実務経験に根ざした創意工夫である。
(カ) 原告表現1−6・2−6
 いわゆるゼロ和解の意味を分かりやすく説明し、ゼロ和解の提案があるということは過払金が発生しているという消費者にとって有利かつ重大な情報を端的に提供している点で創作性が見られ、単に法令、判例、学説を紹介したものでもなく、ありふれた表現でもない。
(キ) 原告表現1−7・2−7
 原告書籍1は、貸金業者が取引履歴を開示しない言い訳をした場合の対応策について、貸金業者の具体的表現を挙げた上で分かりやすく述べており、表現上の創作性が認められる。
(ク) 原告表現1−8・2−8
 貸金業者に対する行政指導を求める申告書の書式について、申告の理由、貸金業者の表示、債務者の表示、該当事実といった申告書に必要な事実が整然と整理され、申告の内容を端的に示すという工夫が施され、題目には、単に行政指導を求めるだけではなく、営業停止、登録の取消しの行政処分を求めることまで明記し、会社内での責任の所在を明確化すべく貸金業者の担当者名を記載したり、監督機関が不開示の期間を迅速に理解できるように不開示の期間を記載することは、いずれも原告ら独自の創意工夫である。
(ケ) 原告表現1−9・2−9
 取引履歴に基づいて引き直し計算を行った結果過払金が発生していた場合に、まずは貸金業者に返還請求をするという具体的な場面における具体的な手段を簡潔に分かりやすく記載している点に、表現形式上の創作性が認められる。
(コ) 原告表現1−10・2−10
 過払金返還請求書の送付先について、従前の取引先である支店がまず考えられるが、業者によっては支店で対応せず管理部門で対応する場合があること、分からないときは、両方に返還請求書を送付することを記載しており、貸金業者の本店所在地ではなく、送付先をあえて記載した点や、両方に返還請求書を送付することを丁寧に説明した点に、創意工夫がある。
(サ) 原告表現1−11・2−11
 過払金の返還を請求する際の通知書であるが、この種の通知書の記載内容は、法令、判例、学説から一義的に定まるものではなく、表現形式の選択の幅は極めて広い。原告表現1−11・2−11は、過払金の返還請求という重要な目的を達成するために必要な事項を端的に、また、交渉の相手方である貸金業者に対する礼を失しないように穏当かつ適切な表現を用いるという独自の工夫を凝らしており、創作性がある。そのうち、貸金業者に対するお礼のコメントは、貸金業者が取引履歴の開示に協力したことに対する謝意を示すための創意工夫であり、また、債務者の生年月日欄を記載した点は、ほとんどの貸金業者が氏名と生年月日で顧客を管理していることに着目した創意工夫である。
(シ) 原告表現1−12・2−12
 貸金業者からのゼロ和解の提案に対する対応策を具体的な問答形式で分かりやすく説明するなどの創意工夫を凝らしている。
(ス) 原告表現1−13・2−13
 過払金返還請求における法律の専門家の和解基準を説明している。これは、法令、判例、学説から当然に導かれる内容ではなく、原告らの実務経験から導かれる事項であり、創意工夫がある。
(セ) 原告表現1−14
 訴状に枠囲いで挿入された注意書き、コメントは法令解釈及び実務の重要なポイントについて極めて詳細なもので非常に実践的かつ分かりやすいものとなっていて、原告らの創意工夫がある。
(ソ) 原告表現1−15・2−14
 手持ち資料がなくても過払金返還請求訴訟が可能であるとしてその方策を示しており、借主にとって切実な問題を代表例として取り上げ、その具体的対応策を平易に述べるという実務経験に根ざした創意工夫を凝らしている。
(タ) 原告表現1−16・2−15
 手持ち資料がなくても、過払金返還請求訴訟が提訴できるかどうか、推定計算で提訴可能かどうかについて、具体的な方法を詳細に分かりやすく説明しており、その点に表現形式上の創作性が認められる。
(チ) 原告表現1−17・2−16
 過払金返還請求訴訟の提訴から和解、判決に至るまでの流れをフローチャートで記載しているが、訴訟がどのような過程を経て解決に至るのかについて細かい配慮のあるフローチャートは、他に見られず、簡易裁判所における「和解に代わる決定」について指摘するなど簡易裁判所での手続の特殊性にも配慮している点で、表現形式上の創作性が認められる。
(ツ) 原告表現1−18・2−17
 過払金返還請求訴訟につき、貸金業者が法的に認められない主張やみなし弁済の主張をして引き延ばし戦術をとることについて、現実の紛争例に基づいて具体的に問題点を説明し、業者の意図がどこにあるかを記載しており、これらは過払金返還請求訴訟に初めて取り組む読者に予備知識を与える有用な情報といえ、原告らの創意工夫がある。
(テ) 原告表現1−19・2−18
 地方裁判所に過払金返還請求訴訟を提訴する得失と共に、慰謝料や弁護士費用を上乗せして訴額が140万円以上になるようにして地方裁判所の管轄にするという方法を具体的に説明し、貸金業者に弁護士に依頼する負担を感じさせることで有利に運ぶスキルを具体的に説明している点等に、表現形式上の創意工夫が認められる。
(ト) 原告表現1−20・2−19
 本人訴訟で出廷したとき、法廷でどのようなことを聞かれ、どのように返事をすればよいか、原告本人が出廷しても戸惑うことのないような具体的なやり取りを、発問・応答の表現によって分かりやすく簡潔に記載している点に、表現形式上の創作性が認められる。
(ナ) 原告表現1−21・2−20
 裁判所の管轄、貸金業者の移送申立てに対する対抗方法について、ポイントを絞って分かりやすい平易な表現を用いて説明をしている点で、表現形式上の創作性が認められる。
(ニ) 原告表現1−22・2−21
 貸金業者が予め用意する定型的な契約書において本店所在地を専属的合意とする条項が設けられていた場合に、管轄の合意を否定するというその具体的対応策を分かりやすく詳細に述べている点で、表現形式上の創作性が認められる。
(ヌ) 原告表現1−23・2−22
 貸金業者が移送を目的として取引を一元管理している旨の主張をした場合の対策を具体的に説明しており、借主にとって切実な問題を代表例として取り上げるという実務経験に根ざした創意工夫がある。
(ネ) 原告表現1−24・2−23
 貸金業者との過払金返還請求の交渉について、過払金に対する利息が増大していくこと、訴訟に至ったら、利息を含んだ金額でしか和解しないという交渉姿勢をとることが有効であることを述べており、極めて具体的なアドバイスが分かりやすく記載されていて、創意工夫がある。
(ノ) 原告表現1−25・2−24・2−26
 文書提出命令の申立てをしたときの貸金業者の対応とその後の展開について、意見書の提出、貸金業者の取引履歴廃棄の主張、文書提出命令の期間等を具体的に記載しており、単に法令の解釈や実務の運用をそのまま記したものでなく、実務で起こり得る問題点を選択してその法律上の意義等について分かりやすく説明した点に、表現形式上の創意工夫が認められる。
(ハ) 原告表現1−26・2−25
 文書保存期間の一般的な説明に加え、対象文書の保存期間等、貸金業者側の対応への具体的な説明を記載している点で、表現形式上の創意工夫が認められる。
(ヒ) 原告表現1−27・2−27上段
 推定計算又は残高無視計算で過払金返還請求訴訟を提訴した後、全取引履歴が開示され、真実の過払金額が明らかになった場合、提訴後に請求金額を訂正することが許されるかなど、法律の素人である借主本人にとって不明、不安であるので、あえて留意的に記載したものであり、原告らの創意工夫がある。
(フ) 原告表現1−28・2−27下段
 過払金返還請求訴訟を提訴した後、実際の過払金額が多かったときは、訴えの変更をして全額回収を図ることについて、過払金返還請求訴訟に即して具体的かつ平易な説明をしている点で、表現形式上の創作性が認められる。
(ヘ) 原告表現1−29・2−28
 過払金返還請求訴訟を提訴した後、実際の過払金額が少なかったときの対応についても、訴えの変更という法的制度の解説にとどまらず、過払金返還請求訴訟に即して具体的かつ平易な説明を記載し、貸金業者の対応の予測も盛り込むという工夫を凝らすなど、表現形式上の創意工夫がある。
(ホ) 原告表現1−30・2−29
 訴えの変更申立書自体は法令に則した内容であるが、請求原因事実は、過払金返還請求訴訟でよくあるパターンを意識して現実の紛争に即したものとする工夫がされており、減額する場合と増額する場合とで異なることを盛り込むなど工夫を凝らし、貸金返還請求訴訟の特性に応じた注意書きやコメントを付すなどして、解説に際しての表現形式上の創意工夫をしている。
(マ) 原告表現1−31・2−30
 ゼロ和解の得失を具体的に説明し、借主が不当に低い金額での和解を選択しないよう、法令、判例、実務から当然に導かれる内容ではなく、原告らの経験・知識に基づいて、ゼロ和解に対する問題点と方策につき平易な表現で解説しており、表現形式上の創作性が認められる。
(ミ) 原告表現1−32・2−31
 訴訟になった場合の費用、労力の負担及び貸金業者との和解交渉における心構えを説明しており、法令、判例、実務から当然に導かれる内容ではなく、原告らの経験・知識に基づいて、負担や交渉に臨むに当たっての注意点を具体的対応策と共に平易な言葉で分かりやすく記しており、表現形式上の創作性が認められる。
(ム) 原告表現1−33・2−32
 過払金の回収方法として、交渉に頼るのではなく、早期に提訴して過払金を回収することが有利なことがあることを説明しており、提訴を逡巡することを避けて早期に提訴すべきこと、勝訴可能性が高いことといった具体的な方策を、原告らの経験・知識に基づいて、分かりやすく説得的に記載しており、こうした表現上の工夫に創作性が認められる。
(メ) 原告表現1−34・2−33
 過払金返還請求訴訟の第1回口頭弁論期日前に和解が成立した場合に、原告が訴えの取下書さえ提出すればそれで訴訟が終了することなどを訴訟提起後と比較しながら分かりやすく説明するなどの点で、表現形式上の創意工夫がある。
(モ) 原告表現1−35・2−34
 過払金返還請求における和解書に必要とされる条項が簡明でありながら必要かつ十分な形で記載され、法律の専門家でない読者であっても、いかなる条項がどのような解決・処理をもたらすかを直ちに認識できるような工夫を凝らしている。
(ヤ) 原告表現1−36・2−37
 多くの一般読者向けの民事裁判のマニュアル本では、訴えの取下げの解説や訴えの取下書の書式を掲載しているものは皆無に等しいところ、過払金返還請求訴訟については、提訴後に和解に至る件数が圧倒的多数であるとの原告らの実務上の経験に基づいて掲載した上で、具体的な対応策等を詳細かつ分かりやすく表現し、重要な点についてコメントを付すなどの創意工夫がある。
(ユ) 原告表現1−37・2−35、1−38・2−36
 手数料還付の解説や手数料還付申立書の書式を掲載している実務書が極めて少ない実情に鑑み、手数料の具体的な金額や手数料還付申立書の書式を記載するなどして、実際にどのような行動をとればよいのかを極めて詳しく記載している点に、表現形式上の創作性が認められる。
(2) 原告各表現と本件各表現の同一性、類似性について
 原告各表現は、法令、判例、実務から当然に導かれる事項ではなく、過払金回収の経験を積んだ結果、導かれる事項、原告らの実務経験に基づく有用な情報を前提として工夫して記載したものであって、本件各書籍の本件各表現を見ると、その同一性、酷似ぶりが顕著で、別紙対比表1及び2(添付省略)の各箇所について、いずれも同一ないし酷似の表現で記載されている。
 とりわけ、原告書籍1では、訴えの取下げについて、「第1回口頭弁論前の取下げ」と記載すべきであるのに、「第1回公判前の和解」と誤って記載されている部分があるが、本件書籍1は、原告書籍1の誤謬をそのまま踏襲し、「第1回公判前の和解」と記載しており、この記載は、本件書籍1が、原告書籍1をそのまま複製したことの明確な証拠というべきである。
 また、法令、判例、学説や実務の運用から当然に導かれる事項を普通に用いられる言葉で表現した場合であっても、同一性を有する表現が一定以上の分量にわたって記述されている場合には、複製権又は翻案権侵害に当たる場合があると解すべきであるところ、原告各表現と本件各表現は、上記のとおり、同一ないし酷似の表現で記載されており、一定以上の分量にわたって記述されているといえるから、複製権又は翻案権侵害に当たるというべきである。
(3) 権利侵害について
ア 原告らの著作権について
 原告各書籍は、いずれも、原告らと他の執筆者らとが、各自執筆を分担しつつも相互に意思を連絡し、表現方法や法的分析等について議論を重ね表現等を相互に助言し合い、工夫し、全体の統一性について意を用い、推敲を重ねたものであり、原告らと他の執筆者らが共同して創作した共同著作物であり、原告らは、原告書籍1については各19分の1の、原告書籍2については、各28分の1の持分割合でそれぞれ著作権を有する。
 なお、仮に、それぞれ全体について共同著作物であると認められなかったとしても、担当箇所の執筆担当者と編集者との間で共同著作物性が認められる。
イ 被告Y2による権利侵害について
(ア) 被告Y2の代表者である被告Y1は、原告各書籍に依拠して本件書籍1を執筆し、原告各表現を複製又は翻案した。したがって、被告Y2は、法人それ自体において原告らの複製権、翻案権の侵害行為という不法行為を行ったものであり、仮に、被告Y2自体に不法行為を認めることができないとしても、被告Y1の侵害行為について、使用者責任を負う。
(イ) 仮に、Kが本件書籍1を執筆したとしても、本件書籍1が原告各書籍に酷似していること、Kにとって、原告各書籍にアクセスすることが十分可能であったこと、この当時、過払金返還に関する本格的な解説書は、原告各書籍以外には数えるほどしかなかったこと、Kが法律の専門家ではなく、法律書籍執筆の経験もなかったこと等の事実からして、Kが、原告各書籍に依拠して原告各表現を複製又は翻案して本件書籍1を執筆したことは疑問の余地がない。
 そして、被告Y2は、Kの原稿を真っ赤になるほど修正したという以上、原告各書籍を原著作物とする二次的著作物であるKの原稿を複製、翻案したことになる。
(ウ) 原告各書籍が刊行された時期や、当時、この分野の専門図書が少なかったこと、被告Y1も過払金返還訴訟等を専門分野として視野に入れており、被告Y2の事務所でも原告各書籍を購入していたことからすると、被告Y2の代表社員である被告Y1には、著作権侵害につき、故意がある。
 また、仮に、故意が認められなかったとしても、全く付き合いのなかったフリーライターにすぎないKが持ち込んだ原稿について、他の著作権を侵害していないか法律の専門家として十分注意し、関連書籍を渉猟するなどして著作権侵害がないように十分に注意すべきであり、こうした注意を全く払わなかったというのであるから、被告Y2ないし被告Y1に過失が認められることは明らかである。
(エ) 仮に、被告Y2が、本件書籍1の法的監修をしたにすぎないとしても、著作権侵害行為を防止する立場にある者は、何らかの対応を図るべき作為義務があるというべきである。そして、被告Y2は、法律の専門家であるから、本件書籍1の監修を行うに当たっては、少なくとも、Kらが他人の著作物を違法に複製、翻案していないかどうかを確かめ、違法な複製、翻案をしないように注意を喚起するなど、違法な複製、翻案を防止する対応を図るべきであるといえる。
 しかしながら、被告Y2はKらの違法な複製、翻案を防止する何らの対応も図っていないから、被告Y2は、Kらの著作権侵害行為を防止する義務を怠り、Kらの著作権侵害行為を幇助したことに過失があり、共同不法行為の責任を負うというべきである。
ウ 被告Y1による権利侵害について
(ア) 被告Y1は、原告各書籍に依拠して本件書籍2を執筆し、原告各表現を複製又は翻案した。すなわち、本件書籍2には、別紙対比表1(添付省略)のとおり、原告各書籍の表現との類似性・同一性が見られ、とりわけ、貸金業者が取引履歴を開示しない言い訳について、「探すのに時間がかかる」「古いものは見つからない」「廃棄した」など多様な言い訳が考えられるのに、原告書籍1と同様に、「返済の都度、ATMで伝票が発行されているのだからそれでよい。紛失したのはあなたの責任だ」という言い訳を記載しており、被告Y1が、原告各書籍に依拠して、本件書籍2の複製等に及んだことは明白である。
(イ) 仮に、被告Y1が主張するとおり、本件書籍2が本件書籍1を加筆したものであるとしても、被告Y1は、Kの執筆した二次的著作物である本件書籍1に基づいて本件書籍2を執筆しているのであるから、やはり依拠性が認められ、原告各表現を複製又は翻案したことになる。
(ウ) 被告Y1に、著作権侵害の故意又は過失が認められることは前記イ(ウ)記載のとおりである。
(被告らの主張)
(1) 原告各表現の著作物性について
ア 著作権は、創作性のある具体的な表現を保護するものであるから、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分は、著作物として保護されないところ、原告らが、原告各書籍で著作物性を主張する部分は、単なるアイデア、ノウハウ、裁判手続等の事実など表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分といえる。
イ 原告各表現は、過払金返還請求のやり方を一般人に説明する際の通常の方法の域を出ず、表現の工夫としては、普通に考えられる範囲のものであり、各記述は、法令の内容や判例、実務の運用から導かれる当然の事項を普通に用いられる言葉で表現したものにすぎず、創作性は認められず、著作物性は否定される。
ウ 原告らは、原告各表現に著作物性がある旨主張するが、それらは、用語や法令の解説、法令、判例、学説から当然に導かれる事項の説明や過払金返還請求事件の実務上の経験に基づく知識、技術、ノウハウ又はそれらに属する一般的な知見にすぎず、創作性は認められない。また、表やフローチャートを用いて見やすくするなどの工夫は、ありふれた工夫であり、創作性は認められない。さらに、過払金返還請求事件のノウハウ、訴状等作成の留意点などについては、特定の者に独占権を認めると実務上弊害が大きいというべきであり、かかる観点からしても著作物性は認められないというべきである。
 なお、原告らは、書式に著作物性があると主張しているが、訴訟実務において定型的に使用される書式、行政機関に提出する申告書、債務整理の際に弁護士が用いる取引履歴開示依頼書、過払金返還請求通知書などは、どの弁護士が作成しても同じ内容になるもので、書式の著作物性は否定される。書式以外の図表についても、創作性がなく、著作物性は否定される。
(2) 原告各表現と本件各表現の同一性、類似性について
 原告各表現と本件各表現との間に、同一性、類似性は認められない。
 原告各表現と本件各表現は、最高裁判例、ガイドライン、開示請求の方法・ノウハウ・アイデアの紹介など、表現それ自体ではない部分について同一性が認められるにすぎないし、類似性は、同一の判例、ガイドラインの内容等を簡潔に紹介するための表現の幅が狭いことによる類似性である。
 なお、原告各表現は、表現の幅が狭く、仮に、著作物性が認められるにしても、著作権侵害になるのは、デッドコピー又はそれに類似する場合に限られるべきである。
(3) 権利侵害について
ア 原告らの著作権について
 原告書籍1の執筆者は19名、原告書籍2の執筆者は28名の多数であり、各章の執筆担当者と編集者及び他の執筆担当者との間には、執筆と企画、助言、指導、編集、校正という役割の違いがあったと考えられ、全部の章に全員が同じように創作的に寄与して表現行為をしたとは認められない。
 したがって、仮に、原告各書籍に著作物性が認められたとしても、各章の執筆担当者が各章の共同著作者になるにとどまり、原告各書籍全体の著作者とはいえないというべきである。
イ 被告Y2による権利侵害について
(ア) 前記1の被告らの主張のとおり、被告Y2は、本件書籍1を執筆していないから、著作権侵害の責任を負わない。
(イ) 本件書籍1には、独立した出版社が2社も関与していた。また、執筆者の1人である株式会社LのOは、25年以上の出版経験を有しており、過払金回収事件を多数処理している法律事務所で出版物の制作の仕事を2年ほどしており、同法律事務所の所長の本の執筆を途中まで行った経験があり、その際に同法律事務所において弁護士から話を聞いていたり、過払金返還請求に関する資料を見ており、専門家向けではない一般人向けに過払金の説明ができるということであった。なお、Kも、法律書籍執筆の経験はないものの、本件書籍1のコンセプトが、難しい複雑な争点がある事件は専門家である弁護士等に依頼することを勧め、簡単な過払金請求を自分で処理できるように法律の素人である一般人にも分かりやすく説明するというものであったため、素人的視点を有するKを執筆者に選ぶのは合理的である。
 したがって、本件では、著作権侵害を疑うような事情もなく、被告Y2に著作権侵害の責任はない。
(ウ) 弁護士が書籍の法的監修を依頼されたとしても、著作権関係事件を取り扱っていない弁護士にとって、著作権侵害に当たるか否かの判断は困難であり、監修を依頼された弁護士も、監修を依頼した者も、著作権侵害の有無までが依頼された監修の仕事に含まれると考えていないのが一般的である。
 被告Y2は、本件書籍1の監修をしたが、法的観点からみて誤りがないかチェックするということを依頼されたと考えており、本件書籍1の著作権侵害の有無の調査までが監修の仕事に含まれるとは考えていなかったし、株式会社Lにおいても、類書がないことのチェックを含むものとは考えていなかった。
 そうすると、一般的な義務としても、契約上の義務としても、著作権侵害を疑う特別な事情がない場合、監修を依頼された弁護士に著作権の有無を調査する義務はない。
 そして、被告らは、著作権関係事件を主な取扱業務としていなかったし、本件では、出版社が2社も関与しており、書籍の制作・出版の経験の豊富なO及び同人が実績等を考慮して選任したKが執筆を担当しており、著作権侵害を疑う特別の事情もなかったので、著作権侵害を調査する義務はなかったというべきである。
ウ 被告Y1による権利侵害について
(ア) 被告Y1は、本件書籍1の執筆者であるKらの了承を得て、本件書籍1の加筆・増補を行って本件書籍2を書籍化したのであり、被告Y1は、原告各書籍に依拠したわけではない。
(イ) また、上記イ(イ、(ウ記載のとおり、Kらの著作権侵害を疑うような事情はないから、被告Y1は著作権侵害の責任を負わない。
3 著作者人格権侵害(同一性保持権、氏名表示権)の有無について
(原告らの主張)
(1) 被告Y2は、原告各書籍の記載内容を変形し、著したのであるから、故意又は過失により、原告らの同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものである。
 また、被告Y1は、原告各書籍の記載内容を変形し、自己の著作名義の下に著したのであるから、故意又は過失により、原告らの同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものである。
(2) 被告らは、共同著作物に係る著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求については、共同著作者全員で行わなければならないと主張するが、著作者人格権侵害によって苦痛を受けるのは、個々の著作者であること、個別請求を肯定しても特段の不都合は発生しないと考えられることからすれば、各共同著作者による損害賠償請求等の単独行使を認めるべきである。
(被告らの主張)
(1) 被告Y2は、本件書籍1を執筆していないし、被告Y1は、本件書籍1の執筆者であるKらの了承を得て、本件書籍1の加筆・増補を行ったにすぎないから、被告らが故意又は過失により、原告らの同一性保持権及び氏名表示権を侵害したとはいえない。
(2) 著作権法117条1項は、損害賠償について「著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求」と規定し、「著作権及び著作者人格権の侵害に係る」と規定していないから、特段の事情のない限り、共同著作物に係る著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求については、共同著作者全員で行わなければならない。
4 他人の成果物の不正利用による不法行為の成否について
(原告らの主張)
 他人の文献に依拠して別の文献を執筆・発行する行為が、営利の目的により、記述自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価されるときは、かかる行為は社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成する。
 本件各書籍は、原告各書籍とその基本的構成が類似しているにとどまらず、文章や図表が類似する部分が相当程度を占め、本件各書籍の記述内容、記述の順序やチャート図、具体的な交渉や訴訟手続で弁護士としての経験を踏まえた独自の工夫を記載した部分の多くが類似点として認められる。
 したがって、被告らが本件各書籍を執筆した行為は、社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成する。
 なお、被告らは、かかる不法行為の成立は、デッドコピーやそれに近い場合に限定される旨主張するが、本件各表現は、原告各表現とほぼそっくりそのままの表現が多く見られ、デッドコピーと見るほかない。
(被告らの主張)
 被告Y2は、本件書籍1を執筆していないし、被告Y1は、本件書籍1の執筆者であるKらの了承を得て、本件書籍1の加筆・増補を行ったにすぎないから、被告らが故意又は過失による不法行為を行ったとはいえない。
 また、著作権は、特許権等と異なり、特に登録等の手続を踏む必要がないものであること、法的問題や法的手続を一般人向けに分かりやすく解説した実用書や実務書等は、有用な情報が多く含まれているものであるところ、このような情報を表現する方法は大体限定されており、既存の著作物と類似するにすぎない場合に不法行為が成立するとしてしまうと、当該著作物の表現者の過度の保護になる一方、有用な情報が広く拡散されなくなり社会文化の発展を阻害するおそれがあることからすれば、著作権侵害とはならないのに不法行為が成立する場合は、デッドコピーやそれに近い場合に限定すべきである。
 そして、本件各書籍と原告各書籍とは、本のサイズ、頁数も大幅に異なっており、内容についても類似する部分もあるが、類似する部分は、同一の事実、法令、実務の実情、手続、ノウハウを記述的に簡潔に分かりやすく表現する際の表現の幅の狭さから生じる類似性にすぎない。本件各書籍の1つの頁に記述されている原告各書籍の文章は幾つかの部分に分かれ、離れた頁に記載されていたり、分量がかなり異なっているなど、記載順序や具体的な個々の表現の違いも多い。
 したがって、デッドコピーやそれに近い場合には当たらず、不法行為は成立しない。
5 差止めの必要性について
(原告らの主張)
 被告らは原告各書籍の著作物性、著作権侵害を全面的に争っており、過払金返還訴訟の専門家として大々的に事務所を展開してスタッフを増やすなどの活動を継続している以上、更に著作権侵害が拡大するおそれは高い。
 したがって、差止めの必要性はある。
(被告Y2の主張)
 本件書籍1は、絶版状態であり、今後増刷する予定はなく、被告らが発行、出版、販売のいずれもすることはない。また、被告Y2は、本件書籍1を数冊所持しているのみであり、不特定又は多数人に譲渡・貸与することはなく、当然、頒布のための広告及び宣伝のいずれもしていない。
 したがって、被告Y2は、本件書籍1について、今後発行、出版、販売等の頒布、頒布のための広告及び宣伝をするおそれはなく、差止めの必要性がないことは明らかである。
(被告Y1の主張)
 被告Y1は、本件書籍2について、現在、発行、出版、販売等の頒布及び頒布目的の所持のいずれも行っておらず、将来的にも行うことはない。また、被告Y1は、今後、本件書籍2を頒布目的で所持することはなく、頒布しない以上、頒布のための広告及び宣伝のいずれもすることはない。
 したがって、被告Y1は、本件書籍2について、今後発行、出版、販売等の頒布、頒布のための広告及び宣伝をするおそれはなく、差止めの必要性がないことは明らかである。
6 謝罪広告の要否について
(原告らの主張)
 被告Y1が頻繁にマス・メディアに登場していることとあいまって、本件各書籍が宣伝され注目を浴びて長期間にわたって多数販売・流通し、その結果、原告各書籍がむしろ本件各書籍に依拠したものではないかとの誤解を多くの読み手に与えた。
 したがって、原告らの社会的声望名誉が毀損されたことは明らかである。
(被告らの主張)
 被告らは、前記のとおり、故意又は過失により、原告らの著作者人格権を侵害したとはいえないから、謝罪広告を求める原告らの請求は失当である。
 なお、謝罪広告が認められるためには、原告らの社会的声望名誉が毀損されたことが必要である。しかし、原告各書籍は本件各書籍よりも先に発行されているから、原告各書籍が本件各書籍に依拠しているなどの誤解が生じるとは考えられないこと、原告各書籍と本件各書籍とは全体的な印象が異なることなどからすると、原告らの社会的声望名誉が毀損された事実はない。
7 損害額について
(原告らの主張)
(1) 本件各書籍の複製及び翻案による損害
ア 本件各書籍は、いずれも発行部数が少なくとも5万部を下らず、被告らが原告らの著作権を侵害することによって得た利益はそれぞれ1部当たり少なくとも200円を下らないから、被告らは、それぞれの侵害行為によって、各1000万円の利益を得たことになる。
イ 本件書籍1は82頁から成り、そのうち、原告書籍1を複製又は翻案したのは16頁、原告書籍2を複製又は翻案したのは13頁あり、原告らの著作権の持分は、原告書籍1については各自19分の1、原告書籍2については各自28分の1であるから、以下の計算式のとおり、原告らの損害額は、各15万9315円となる。
 1000万円×16頁/82頁×1/19=10万2695円
 1000万円×13頁/82頁×1/28=5万6620円
 10万2695円+5万6620円=15万9315円
ウ 本件書籍2は208頁から成り、そのうち、原告書籍1を複製又は翻案したのは30頁、原告書籍2を複製又は翻案したのは24頁あり、原告らの著作権の持分は、原告書籍1については各自19分の1、原告書籍2については各自28分の1であるから、以下の計算式のとおり、原告らの損害額は、各11万7118円となる。
 1000万円×30頁/208頁×1/19=7万5910円
 1000万円×24頁/208頁×1/28=4万1208円
 7万5910円+4万1208円=11万7118円
エ 以上によれば、本件各書籍の複製及び翻案による損害は、原告1人当たり27万6433円である。
(2) 不法行為による損害((1)の予備的請求)
 仮に、被告らの行為が著作権侵害とはいえず、不法行為に当たるとしても、原告らの損害額は、原告1人当たり上記金額と同額の27万6433円を下らない。
(3) 同一性保持権、氏名表示権による侵害
 被告らの各行為による原告らの同一性保持権、氏名表示権侵害による損害を填補するには、被告らの各行為につき、原告1人当たり25万円が相当である。
(4) 弁護士費用
 原告らは、本件に関する請求を代理人に委任するに当たり、各被告との関係で各自25万円を支払う約束をした。
(5) 損害額合計
 以上のとおり、被告Y2は、65万9315円、被告Y1は、61万7118円を、それぞれ、各原告に支払う義務を負う。
(被告らの主張)
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件書籍1の執筆者について
(1) 認定事実
 前記前提事実、証拠(甲3、4、乙3、6、9ないし12、証人O、被告Y1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 株式会社LのOは、株式会社HのNから、普段は本屋で本を購入しない者にも読んでもらえるような外観・内容のいわゆる雑誌コードの過払金回収の書籍を出版する企画の相談を受け、その企画に従って、ライターを探した。
 Oは、当時、出版の経験が25年ほどあり、そのうち2年ほど過払金回収事件を多数処理している法律事務所で広報の手伝いをしていた経験を有していた。
イ Kは、法律の専門家ではなく、法律書籍の執筆の経験もなく、債務整理や過払金回収について勉強しているといったような事情もなかったが、Oは、それまでのKの仕事内容を踏まえ、当該書籍が法律の専門書ではなく一般向けの書籍であることや、Kに物事を分かりやすく書くことができる能力があることに加えて時間的な問題もあったことから、Kに上記企画の書籍の執筆を依頼した。
 N、O及びKは、上記アのコンセプトに基づき、過払金について既に出版されていた類書も参考にした上で、一般の書籍を普段読まない者でも手にとってパラパラとページをめくって読みたくなるような人目をひき、誰でも時間をかけずに簡単に読める分量・内容の本にするように本の構成を考え、本の仕様、ターゲット、イラストや図解を多用した紙面構成等を考案した。
ウ Kは、平成19年2月末ころ、被告Y2に対し、本の内容の法的正確性を期すために、上記書籍の法的な監修をしてもらえるか打診し、同月28日、被告Y2の従業員であったPに対し、上記書籍の仕様、ターゲット、企画趣旨、紙面構成の内容を具体的に記載したメールを送信した。
エ 被告Y2は、上記書籍の監修をしたことが広く知れ渡れば、過払金回収事件処理について知識を有する法律事務所であるという信頼が得られ、宣伝効果もあると判断し、同年3月1日、Kに対し、監修の依頼について協力したいこと、監修した場合に、上記書籍を監修著書としてホームページ等で紹介したいことなどを記載したメールを送信した。
オ 被告Y1及びPは、同月、N、O及びKと話し合い、執筆はK及びOが担当し、被告Y2は出来上がった原稿の法的監修だけを行うことや、上記書籍の中に被告Y2の名称を出して宣伝になるような内容にすることを約束してもらえたことから、被告Y2は監修料をもらわずに監修することで合意した。その際、被告Y2は、Kに対し、被告Y2がした過払金回収事件の記録や実際の書式、被告Y2の事務所にある過払金回収の書籍を参考にすることについて同意した。当時、被告Y2の事務所には、東京三弁護士会編著の「クレジット・サラ金処理の手引」などの過払金回収に関する本があり、また、被告Y1は、原告書籍1を事務所ないし個人で購入していた。
カ Kは、過払金回収に関する本等を参考にした上、本件書籍1の第1次原稿を作成し、それに、Oが、日本語として分かりにくい部分、説明が不足している部分を加筆・修正した原稿について、被告Y2は、1回目は、語尾等の字句について、ほぼ真っ赤になるくらい修正を行い、さらに、その修正原稿についても、再度修正をした。
キ 本件書籍1は、同年5月19日付けで発行され、5000部発売されたが、50%以下しか売れなかった。
ク 被告Y1は、本件書籍1をきっかけとして被告Y2に過払金回収事件の依頼が来るなど、一定の宣伝効果があったので、同月末、その増刷をできないか確認したところ、株式会社Hでは、再版の予定はないとのことだったので、Oと相談し、株式会社Lに金員を支払い、書籍形式で新たに被告Y1名義で本を出版してもらうこととした。
ケ 被告Y1は、過払金回収が債務整理事件処理の全てではないことから、Oの協力を得て、本件書籍1に、破産、民事再生、任意整理の説明を追加するとともに、用語や概念等の解説の追加、本件書籍1の分かりにくいと思われる部分を分かりやすい表現の説明に変更するなどして、本件書籍1の加筆・増補を行い、本件書籍2を作成した。
コ 本件書籍2は、平成20年2月10日付けで発行された。
(2) 前記(1)の認定事実によれば、本件書籍1の執筆者は、その奥付に執筆者として記載されているK及び株式会社Lであると認められる。
 本件書籍1の執筆者につき、原告らは、本件書籍1は、法律制度や判例の紹介、実務の取扱いの具体的な説明等、過払金交渉や訴訟等に通じた専門家でなければ到底記し得ないような内容になっており、Kのような法律の専門家でもなく、法律の知識も乏しく、法律専門図書のライターとしての経験もない者が執筆できるような書籍でないことは明白であるとして、本件書籍1の執筆者は被告Y2である旨主張する。
 しかしながら、Kは、被告Y2の事務所内にある書籍・文献や過去の事例等も含めて、過払金に関する書籍等を参考にして、本件書籍1の原稿を作成したということに加え、共同執筆者であるOは、かつて過払金回収事件を多数処理している法律事務所で広報の手伝いをしていた経験を有していたのであるから(前記認定(1)ア、オ、カ)、Kが法律専門図書のライターの経験がないことなど原告ら指摘の点を考慮しても、Kらが本件書籍1を執筆していないと認めることはできない。
 さらに、原告らは、本件書籍1と本件書籍2は類似している部分が多くあり、これらの本は同一人が執筆したとしか考えられないところ、本件書籍2の執筆者は被告Y1とされているから、本件書籍1の執筆者は被告Y2である旨主張するが、被告Y1は、本件書籍1を加筆・増補して本件書籍2を作成したことが認められ(前記認定(1)ケ)、本件書籍1と本件書籍2が類似しているとの点も含めて原告らが主張する諸点は、Kらが本件書籍1の執筆者であるとの認定を左右するものではない。
(3) 以上のとおり、被告Y2は、本件書籍1の執筆者とは認められず、本件書籍1は、その奥付記載のとおり、K及び株式会社Lがこれを執筆したものと認められる。
2 著作権侵害の有無について
(1) 著作物の複製(著作権法21条)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
(2) ところで、本件における原告各書籍及び本件各書籍のような法律問題の解説書においては、関連する法令の内容や法律用語の意味を整理して説明したり、法令又は判例、学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈や実務の運用等を解説するなどし、それらを踏まえた見解を記述することが不可避である。しかるに、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が、法令や通達、判決、決定等である場合には、これが著作権の目的とすることができないものである以上(同法13条参照)、当該法令等の記述そのものが複製、翻案となることはないのはもちろん、同一性を有する部分が、法令や判決等によって当然に導かれる事柄である場合にも、創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから、当該部分に係る記述も複製、翻案には当たらないと解すべきである。
 また、手続の流れや法令の内容等を法令の規定や実務の取扱いに従って図示したり図表にすること、さらには、手続上通常用いられる書面の書式を掲載することはアイデアの範ちゅうに属することであり、これを独自の観点から分類し、整理要約したなどの個性的表現がされているといった格別の場合でない限り、そのような図示、図表や書式は、創作的に表現した部分において同一性を有するものとはいえないから、複製、翻案に当たらないと解すべきである。
 さらに、同一性を有する部分が、ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合にも、思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、一般の法律書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で通常用いられる表現にとらわれず、独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り、複製、翻案に当たらないと解される。
 そして、ある法律問題について、関連する法令等の内容や法律用語の意味を説明し、一般的な法律解釈や実務の運用等を記述する場合には、確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し、法令等又は判例等によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのため、これらの事項について説明する場合に、条文の順序にとらわれずに、独自の観点から分類し、通常用いられる表現にとらわれず、独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り、筆者の個性が表れているとはいえないから、著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできず、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。
(3) 原告各書籍は、前提事実、証拠(甲1、2、12、13)及び弁論の全趣旨によれば、過払金の回収方法を、弁護士、司法書士や、過払金を回収する債務者本人等を対象として、過払金の説明、法的問題点、裁判例の分析、貸金業者との交渉方法、過払金返還請求訴訟の開始から終わり方等の説明に加えて、実務にのっとった説明を盛り込み、フローチャート、表、書式等を用いるなどして、効率的に理解できるようにしたものであり、これらのことを踏まえれば、原告各書籍を全体として見れば、著者の思想を創作的、個性的に表現した著作物であると認めることのできるものとなっている。しかし、法律問題の解説書については、表現上の創作性について制約があるのは前記(2)のとおりであり、以下、前記(2)の観点から、本件各表現が原告各表現の複製又は翻案に当たるか否かを検討する。
ア 原告表現1−1・2−1、本件表現1−1、2−1
 原告表現1−1・2−1のうち、最高裁平成17年判決の説明及び金融庁のガイドラインについての説明は、判決及びガイドラインから当然に導かれる事項の説明であり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であり、著作物としての創作性が認められない。原告らは、重要なファクターを簡潔に記載して法的根拠を端的に明示するという創作性があると主張するが、表現上格別の工夫があるとまではいえない。
 また、上記表現のうち、個人情報保護法により、貸金業者が開示義務を負うとの説明は、ある法律問題に関する見解であって、思想ないしアイデアに当たり、表現上の格別の工夫があるとは認められないから、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−1、2−1は、複製又は翻案に当たらない。
イ 原告表現1−2・2−2、1−3・2−3、本件表現1−2、2−2、1−3、2−3
 原告表現1−2・2−2、1−3・2−3は、貸金業者に対する取引履歴の開示請求の方法に関する実務の運用や貸金業者の取引履歴の入手先ホームページ一覧であり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であり、著作物としての創作性が認められない。
 原告らは、貸金業者が開示請求の書式を取りそろえるようになったことは一般的に広く知られている状況にはなかったなどと主張するが、この点に関する記載をすることは、アイデアにすぎず、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であるから、原告らの上記主張は失当である。
 したがって、本件表現1−2、2−2、1−3、2−3は、複製又は翻案に当たらない。
ウ 原告表現1−4・2−4、本件表現1−4、2−4
 原告表現1−4・2−4は、取引履歴の開示請求書の書式及びその留意点であるところ、原告らは、貸金業者の担当者氏名の記載、開示請求の回数の記載、借主の生年月日の記載などは、原告らの実務経験に根ざした創意工夫であると主張する。しかしながら、当該部分はアイデアであって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であり、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−4、2−4は、複製又は翻案に当たらない。
エ 原告表現1−5・2−5、本件表現1−5、2−5
 原告表現1−5・2−5は、貸金業者が廃棄などの理由で、途中からの取引履歴しか開示してこない場合があること、最初からの取引履歴が開示されているかを確認すべきことを記載している。これらは、事実ないしアイデアに属する部分であって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であり、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−5、2−5は、複製又は翻案に当たらない。
オ 原告表現1−6・2−6、1−12・2−12、1−24・2−23、1−31・2−30、本件表現1−6、2−6、1−12、2−12、1−24、2−23、1−31、2−30
 原告表現1−6・2−6、1−12・2−12、1−24・2−23、1−31・2−30のうち、ゼロ和解に関する説明は、用語の説明にすぎず、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であり、著作物としての創作性が認められない。また、上記表現のうち、業者からゼロ和解を提案された場合に過払金が発生している可能性が高いこと、ゼロ和解の提案に対する対応、和解交渉が継続している場合の対応策は、実務上の経験に基づくアイデア又は著者の見解であって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であり、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−6、2−6、1−12、2−12、1−24、2−23、1−31、2−30は、複製又は翻案に当たらない。
カ 原告表現1−7・2−7、本件表現1−7、2−7
 原告表現1−7・2−7は、貸金業者が取引履歴の開示請求を拒否する場合の具体例であり、実務上の経験に基づく知見であって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であるから、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−7、2−7は、複製又は翻案に当たらない。
キ 原告表現1−8・2−8、本件表現1−8、2−8
 原告表現1−8・2−8は、行政指導及び行政処分を求める申告書の書式であるところ、申告書として必要かつ有益なことを普通に使用される言葉で表現したものであって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−8、2−8は、複製又は翻案に当たらない。
ク 原告表現1−9・2−9、本件表現1−9、2−9
 原告表現1−9・2−9は、取引履歴に基づいて引き直し計算を行った結果、過払金が発生していた場合にまずは貸金業者に返還請求をするということを記載しているが、これは実務上の運用を説明したにすぎず、表現上格別の工夫があるとはいえず、著作物としての創作性が認められない。
 この点に関し、原告らは、簡潔に分かりやすく記載している点に表現形式上の創作性が認められるなどと主張するが、ある事項を簡潔に要約する場合には、同じような表現にならざるを得ず、結局、著者の個性が表れているとは認められない。
 したがって、本件表現1−9、2−9は、複製又は翻案に当たらない。
ケ 原告表現1−10・2−10、本件表現1−10、2−10
 原告表現1−10・2−10は、過払金返還請求書の送付先として、支店と管理部門の2つに送付することなどを説明している。これらは、著者の見解又は実務上の経験に基づくアイデアであって、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−10、2−10は、複製又は翻案に当たらない。
コ 原告表現1−11・2−11、本件表現1−11、2−11
 原告表現1−11・2−11は、過払金の返還請求をする場合の通知書であるところ、過払金の返還請求をする場合のごく普通の通知文であり、そこに記載された内容、表現は、過払金の返還請求をするに当たって必要かつ有益なことを普通の言葉で表現したものにすぎず、いずれも思想又は感情を創作的に表現した部分とはいえず、著作物としての創作性が認められない。
 原告らは、過払金の返還請求という重要な目的を達成するために必要な事項を端的に、また、交渉の相手方である貸金業者に対する礼を失しないように穏当かつ適切な表現を用いるという独自の工夫があると主張するが、交渉の相手方に対して礼を失しないような表現で記載することは、一般的な記載方法の枠を超えるものではなく、表現上格別の工夫があるとまでは認められない。
 したがって、本件表現1−11、2−11は、複製又は翻案に当たらない。
サ 原告表現1−13・2−13、本件表現1−13、2−13
 原告表現1−13・2−13は、過払金返還請求における法律の専門家の和解基準を説明しているところ、弁護士が過払金の回収をする場合、どの程度の金額で和解するかは、事実に属する部分であり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−13、2−13は、複製又は翻案に当たらない。
シ 原告表現1−14、本件表現1−14、
 原告表現1−14は、過払金返還請求訴訟の訴状であるところ、原告らは、訴状に枠囲いで挿入された注意書き、コメントは法令解釈及び実務の重要なポイントについて極めて詳細なもので非常に実践的かつ分かりやすいものとなっていて、創意工夫があると主張する。
 しかし、これらの個々の注意書き、コメントは、法令や実務の運用から導かれる事項の説明として、簡潔に要約したものにすぎず、誰が作成しても同じような表現にならざるを得ないから、結局、著者の個性が表れていると認めることはできず、いずれも、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−14は、複製又は翻案に当たらない。
ス 原告表現1−15・2−14、1−16・2−15、本件表現1−15、2−14、1−16、2−15
 原告表現1−15・2−14、1−16・2−15は、過払金返還請求に当たって重要な証拠がない場合の方策について説明している。これらは、過払金返還請求の際の実務上経験に基づく知識、アイデアであり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−15、2−14、1−16、2−15は、複製又は翻案に当たらない。
セ 原告表現1−17・2−16、本件表現1−17、2−16
 原告表現1−17・2−16は、過払金返還請求訴訟の流れをフローチャートで説明したものであるが、その内容は、法令や実務の運用から導かれる事項を手続の流れに沿って説明したものであり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎない。また、フローチャートを用いた点についても、一般的に考えられる表現形式の1つといえ、表現上格別の工夫があるとまで認めることはできない。そうすると、上記表現は、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−17、2−16は、複製又は翻案に当たらない。
ソ 原告表現1−18・2−17、1−19・2−18、本件表現1−18、2−17、1−19、2−18
 原告表現1−18・2−17、1−19・2−18のうち、簡易裁判所や地方裁判所の違いについての説明は、法令及び実務の運用から導かれる事項の説明であり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 また、上記表現のうち、貸金業者が裁判所において訴訟の引き延ばし戦術をとることや、慰謝料や弁護士費用を上乗せして訴額を140万円以上にして地方裁判所の管轄にするという方法は、実務上の経験に基づく知識又はアイデアであって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−18、2−17、1−19、2−18は、複製又は翻案に当たらない。
タ 原告表現1−20・2−19、本件表現1−20、2−19
 原告表現1−20・2−19は、法廷におけるやり取りについての説明であって、これらは、実務の運用又は実務上の経験に基づく知識であり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。原告らは、発問・応答の表現形式によって分かりやすく簡潔に記載している点で、表現形式上の創作性があると主張するが、法廷におけるやり取りを発問・応答の形式で表現することは、一般的に考えられる表現形式の1つであり、表現上格別の工夫があるとは認められない。
 したがって、本件表現1−20、2−19は、複製又は翻案に当たらない。
チ 原告表現1−21・2−20、1−22・2−21、1−23・2−22、 本件表現1−21、2−20、1−22、2−21、1−23、2−22
 原告表現1−21・2−20、1−22・2−21、1−23・2−22のうち、裁判所の管轄、合意管轄、移送などの説明は、法令の用語の説明や実務の運用の説明であり、上記表現のうち、移送申立てに対する対処方法は、実務上の経験に基づく知識又はアイデアであって、いずれも、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−21、2−20、1−22、2−21、1−23、2−22は、複製又は翻案に当たらない。
ツ 原告表現1−25・2−24・2−26、1−26・2−25、本件表現1−25、2−24、2−26、1−26、2−25
 原告表現1−25・2−24・2−26、1−26・2−25のうち、文書提出命令に従わない場合の真実擬制、貸金業者の文書保存義務については、法令から当然に導かれる事項の説明であり、上記表現のうち、文書提出命令の申立てがあった場合の審理の流れは、法令及び実務上の経験に基づく知識であって、いずれも、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−25、2−24、2−26、1−26、2−25は、複製又は翻案に当たらない。
テ 原告表現1−27・1−28・2−27、1−29・2−28、本件表現1−27、1−28、2−27、1−29、2−28
 原告表現1−27・1−28・2−27、1−29・2−28は、過払金返還請求訴訟を提起後に、取引履歴が開示され、過払金額が明らかになった場合に、訴えの変更又は請求の減縮をすること、それに対する貸金業者の対応の説明であり、これらは、法令の用語や実務上の経験に基づく知識であり、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−27、1−28、2−27、1−29、2−28は、複製又は翻案に当たらない。
ト 原告表現1−30・2−29、1−35・2−34、1−36・2−37、本件表現1−30、2−29、1−35、2−34、1−36、2−37
 原告表現1−30・2−29、1−35・2−34、1−36・2−37は、過払金返還請求訴訟における訴えの変更申立書、和解書及び訴えの取下書であるが、これらの書式として必要かつ有用なことを普通に使用される言葉で表現したものにすぎず、表現上格別の工夫があるとはいえない。そうすると、これらは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−30、2−29、1−35、2−34、1−36、2−37は、複製又は翻案に当たらない。
ナ 原告表現1−32・2−31、1−33・2−32、本件表現1−32、2−31、1−33、2−32
 原告表現1−32・2−31、1−33・2−32のうち、訴訟を提起する際に印紙や資格証明書の取得が必要なことについての説明は、法令から導かれる事項の説明にすぎず、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分であって、著作物としての創作性が認められない。また、上記表現のうち、和解交渉の際の姿勢、過払金返還請求訴訟の実情などのその他の表現は、実務上の経験に基づくアイデア又は著者の見解であって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−32、2−31、1−33、2−32は、複製又は翻案に当たらない。
ニ 原告表現1−34・2−33、本件表現1−34、2−33
 原告表現1−34・2−33は、第1回口頭弁論期日前に和解した場合に訴えの取下書を提出すること、この場合に被告の同意が不要なことを説明しているところ、これらは、法令又は実務の運用から当然に導かれる事項についての説明であって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−34、2−33は、複製又は翻案に当たらない。
ヌ 原告表現1−37・2−35、1−38・2−36、本件表現1−37、2−35、1−38、2−36
 原告表現1−37・2−35、1−38・2−36は、手数料還付の申立てができる場合の説明及びその方法であり、法令から当然に導かれる事項についての説明であって、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず、著作物としての創作性が認められない。
 したがって、本件表現1−37、2−35、1−38、2−36は、複製又は翻案に当たらない。
(4) 以上のとおり、原告各表現と本件各表現とは、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから、本件各表現は、いずれも原告各表現を複製、翻案したものとは認められない。
 なお、原告らは、法令、判例、学説や実務の運用から当然に導かれる事項を普通に用いられる言葉で表現した場合であっても、同一性を有する表現が一定以上の分量がある場合には、複製権侵害となる旨主張する。
 しかしながら、前記前提事実、前記認定事実、証拠(甲1ないし4、11)及び弁論の全趣旨によれば、@原告書籍1は、消費者の立場から、その利益を図るという方向で記載し、法律の議論のみならず、実務に直結した内容で、多重債務の救済に取り組む弁護士、司法書士等を対象に、過払金返還請求のマニュアルとして作成されたものであること、A原告書籍2は、一般の消費者を対象として、難しい議論をあえて割愛し、過払金を回収するための手順を分かりやすく解説したものであること、B本件書籍1は、普段本屋で本を買わないような読者にも読んでもらえるような外観、内容の、コンビニに置いてもらえるような雑誌コードの過払金回収の本を出版するという企画の下に、簡単に読める分量、内容の本にするように構成を考え、漫画、イラスト、図表、書式を用いて作成されたものであり、難しい事項を避け、難しい内容については、下部の四角いコーナーで説明し、「弁護士から一言コメント」や「弁護士解説」のコーナーを設け、弁護士から説明・コメントをつけるという構成になっていること、C本件書籍2は、本件書籍1に加筆・増補して書籍化したものであり、同様に漫画、イラスト、図表、書式を用いて作成された上、原告各書籍と異なり、自己破産、任意整理、個人再生など、過払金回収方法のみならず、過払金とならない残債務の整理を一般人向けに分かりやすく説明したものであり、本件書籍1と同様、難しい内容については、「弁護士解説」のコーナーを設ける構成になっていること、D原告各書籍と本件各書籍とは、その対象とする主な読者、執筆の目的・方針が異なる上、記載順序、章立て、項目立てがそれぞれ異なること、E原告らが同一性、類似性を指摘する部分は、本件各書籍の5分の1にも満たないものであることなどが認められる。これらの事実関係に鑑みれば、本件各書籍は、いずれも、当該書籍を全体として見れば、著者の思想を創作的、個性的に表現した著作物と認められるものであって、原告各表現と本件各表現につき、同一性を有する表現が一定以上の分量があるということもできないから、本件各書籍が原告らの複製権を侵害するものであるということはできない。
 したがって、原告らの上記主張は採用できない。
(5) 以上によれば、被告らが原告らの著作権を侵害したとは認められない。
3 著作者人格権侵害の有無について
 原告らは、被告らが原告各書籍の記載内容を変形し、著したとして、著作者人格権を侵害された旨主張するが、前記2のとおり、本件各表現が原告各表現を複製、翻案したものとはいえない以上、被告らが原告らの著作者人格権を侵害したとは認められない。
4 不法行為の成否について
(1) 原告らは、被告らが本件各書籍を執筆した行為は、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得る不公正な行為として社会的に許容される限度を超え、不法行為が成立する旨主張する。
(2) 前記認定事実によれば、本件書籍1の執筆者であるKは、過払金返還請求訴訟をしたことのない素人であり、過払金に関する本を参考にして本件書籍1を執筆したこと、Kが原告各書籍を参考にする機会があったことが認められる。また、別紙対比表2(添付省略)のとおり、原告各書籍と本件書籍1とでは、各表現部分において相当程度の同一性、類似性が認められる上、本件書籍1は、原告書籍1の「第1回公判前の和解」という誤った記載と全く同一の記載をしていることからすれば、Kは、原告各書籍に依拠して本件書籍1を執筆したものと推認せざるを得ない。
 また、前記認定事実のとおり、被告Y1は、本件書籍1の加筆・増補を行って本件書籍2を作成したものと認められるから、結局、本件書籍2は、原告各書籍に依拠した本件書籍1に依拠したものというべきである。
(3) しかしながら、前記2記載のとおり、本件各書籍は、原告各書籍とは異なる部分が相当程度あり、その基本的構成、章立て等も含めて見ると、原告各書籍とは、全体的な印象も含めて基本的に異なる書籍ということができること、そして、本件各表現と原告各表現で表現の同一性、類似性を有するとされている部分は、過払金や訴訟の仕組み等を読者向けに説明する際の表現として、創作性の認められないものであることに鑑みると、被告Y2が本件書籍1を監修した行為、被告Y1が本件書籍1に依拠して本件書籍2を作成した行為が、公正な競争として社会的に許容される限度を逸脱した不公正な行為として不法行為を構成するとまで認めることはできない。
 したがって、原告らの上記主張は採用できない。
5 結論
 以上の次第で、原告らの請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部
 裁判長裁判官 増田稔
 裁判官 松本明敏
 裁判官 山田亜湖
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