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【事件名】アトラクション“スペースチューブ”事件 【年月日】平成23年8月19日 東京地裁 平成22年(ワ)第5114号 損害賠償等請求反訴事件 (口頭弁論終結日 平成23年5月23日) 判決 反訴原告 A 同訴訟代理人弁護士 矢島邦茂 反訴被告 エクスプローラーズ・ジャパン株式会社 同訴訟代理人弁護士 山本隆司 同 井奈波朋子 同 永田玲子 主文 1 反訴原告と反訴被告との間で、別紙反訴原告装置目録記載の装置は、反訴原告が著作権を有することを確認する。 2 反訴原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを25分し、その23を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文1項同旨 2 反訴被告は、別紙反訴被告装置目録記載の装置を用いてイベントへの出展等の事業を行ってはならない。 3 反訴被告は、別紙反訴被告装置目録記載の装置を廃棄せよ。 4 反訴被告は、反訴原告に対し、1710万円及びこれに対するうち1300万円につき平成22年2月16日から、うち410万円につき同年3月20日から各支払済みに至るまで、年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は反訴被告の負担とする。 6 第4項につき仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は、別紙反訴原告装置目録記載の装置(以下「反訴原告装置」という。)の制作者である反訴原告が、別紙反訴被告装置目録記載の装置(以下「反訴被告装置」という。)を用いて、イベントへの出展等の事業を行っている反訴被告に対し、 1 反訴原告装置につき、反訴原告が著作権を有することの確認を求めるとともに、 2 反訴被告が反訴被告装置を用いてイベントへの出展等の事業を行うことは、(1)反訴原告装置についての反訴原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たり、かつ、(2)反訴原告の商品等表示として周知性を有する反訴原告装置と同一のものを使用して、反訴原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)、(3)反訴原告の商品形態である反訴原告装置を模倣した商品を譲渡等のために展示する行為(同法2条1項3号)及び(4)反訴原告の開示した反訴原告装置に関する営業秘密を、不正の利益を得る目的をもって使用する行為(同法2条1項7号)に当たると主張して、著作権法112条又は不正競争防止法3条に基づき、反訴被告装置を使用した前記事業の差止め及び反訴被告装置の廃棄を求め、 3(1) @前記著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害を理由として、民法709条に基づき、又はA前記不正競争行為による反訴原告 の営業上の利益の侵害を理由として、不正競争防止法4条に基づき、あるいは、B反訴被告の前記行為は、反訴原告と反訴被告との間の共同事業実施契約における秘密保持義務に反するものであるとして、債務不履行責任に基づき、損害賠償金2000万円のうち1000万円及びこれに対する反訴状送達日の翌日である平成22年2月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、かつ、 (2) 反訴被告は、反訴原告が制作管理するウェブサイト上に別紙ウェブページ目録記載の文書(以下「本件注意書」という。)をアップロードしたことが、競争関係にある反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に該当すると主張して、本件注意書の削除を求める仮処分命令を申し立て、同内容の仮処分決定を得たが、本件注意書は、反訴被告が前記2のとおり反訴原告の著作権及び著作者人格権を侵害する行為、不正競争行為又は秘密保持義務違反に及んだことをその内容とするものであり、虚偽の事実を流布するものではなく、反訴原告による本件注意書のアップロードは反訴被告に対する不正競争行為に該当するものではなかったから、前記仮処分決定は違法なものであると主張し、民法709条に基づき、損害賠償金710万円及びこれに対する内300万円については前記反訴状送達日の翌日である平成22年2月16日から、内410万円については「訴変更の申立書(訴の拡張)」送達日の翌日である同年3月20日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等(争いのない事実以外は、証拠等を末尾に記載する。) (1) 当事者等 ア 反訴原告は、「東京スペースダンス」の名称でダンス公演、デザイン、自由体験展示等を行う集団を個人として主催する者である(甲1の1ないし3)。 イ 反訴被告は、文化施設などのミュージアムマネージメント事業等を事業目的とする株式会社である(争いがない)。 (2) 反訴原告及び反訴被告間の共同事業実施契約 ア(ア) 反訴原告と反訴被告は、平成20年6月1日、反訴原告が従前「東京スペースダンス」において「スペースダンス・イン・ザ・チューブ」の名称で行っていた活動及び上記活動において「スペースチューブ」、「スペースチュービング」等の名称で使用されていた装置(以下「スペースチューブ」という。)の制作・活動・展示を、共同事業として実施することを内容とする契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲4)。 (イ) 本件契約書の第6条(秘密保持)には、「各当事者は、本契約に関して相手方から提供された業務上、営業上または技術上の情報を秘密として保持し、相手方の書面による事前の承諾なしに本契約の目的外に使用しまたは第三者に漏洩もしくは開示してはならない。」との条項がある。 イ 反訴被告は、平成21年3月10日付け内容証明郵便で、本件契約を解除する旨の通知書を発送し、上記通知書は、そのころ、反訴原告に到達した。反訴原告は、上記通知に対し、同年4月1日付けで、上記解除に異存はない旨回答した(甲6、7、弁論の全趣旨)。 (3) 反訴被告による反訴被告装置を使用した事業の実施 反訴被告は、本件契約を前記(2)イのとおり解除した後、「KooFlo」(クーフロ)との名称を付した反訴被告装置をイベント会場にレンタルするなどの事業(以下「反訴被告事業」という。)を開始した(甲3、11、乙1)。 なお、別紙反訴被告装置目録中のイメージ図は、反訴被告が、上記事業を開始した当初、その管理運営するウェブサイトにおいて、反訴被告装置を紹介するために掲載していたものであるが、その後、遅くとも平成21年8月ころには、反訴被告は、反訴被告事業において、同目録中の写真に示された形状の反訴被告装置を使用するようになった(甲3、乙1、15、反訴原告本人)。 (4) 反訴原告による本件注意書の掲示 反訴原告は、平成21年6月10日ころ、反訴原告が制作管理する「tokyospacedance 東京スペースダンス」との名称のウェブサイト(以下「反訴原告ウェブサイト」という。)上に、「ご注意」「エクスプローラーズ・ジャパンによる不正行為について」と題して、本件注意書をアップロードした(甲1の1ないし3、2の1、2)。 (5) 本件注意書に関する仮処分決定 ア 反訴被告は、平成21年6月23日、反訴原告と反訴被告は反訴被告事業に関し競争関係にあるところ、本件注意書は、反訴被告が反訴原告の権利を侵害したとする点並びに本件契約の解除及び同解除後の経緯に関して述べた点につき、虚偽の事実を含むものであり、本件注意書のアップロードは、反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に当たるとして、同法3条に基づく虚偽事実流布行為差止請求権を被保全権利として、本件注意書の削除を求める仮処分命令を当庁に対し申し立て(当庁平成21年(ヨ)第22040号仮処分命令申立事件)、150万円の担保を立てた上で、同年7月14日、本件注意書の削除を命ずる仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)を受けた(甲11、12、弁論の全趣旨)。 イ 反訴原告は、同月22日ころ、本件注意書を反訴原告ウェブサイト上から削除した(甲13)。 (6) 本件訴訟の経緯 ア 平成21年8月5日、反訴原告の申立てにより、起訴命令の決定がされ、反訴被告は、同月21日、本件仮処分決定に関し、反訴原告の反訴被告に対する損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めるとともに、反訴原告が反訴原告装置につき著作権を有しないことの確認等を求める訴訟(当庁平成21年(ワ)第29623号不正競争行為差止等請求事件)を提起した(甲14、当裁判所に顕著)。 イ 反訴原告は、平成22年2月10日、上記訴訟における反訴請求として本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著)。 ウ 反訴被告は、同年7月5日、前記アの本訴事件を全部取り下げ、反訴原告はこれに同意した(当裁判所に顕著)。 2 争点 (1) 反訴原告は、反訴原告装置につき著作権を有するか(反訴原告装置の著作物性の有無)。 (2) 反訴被告装置は、反訴原告装置の著作権侵害(複製権侵害)又は著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)に当たるか。 ア 反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものに当たるか(複製権侵害の成否)。 イ 反訴被告装置は、反訴原告の意に反して反訴原告装置に改変を加えたものに当たるか(同一性保持権侵害の成否)。 (3) 反訴被告事業は、反訴原告の商品等表示として周知性を有する反訴原告装置と同一のものを使用して、反訴原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当するか。 (4) 反訴被告事業は、反訴原告の商品形態である反訴原告装置を模倣した商品である反訴被告装置を譲渡等のために展示する行為(同法2条1項3号)に該当するか。 (5) 反訴被告事業は、反訴原告の開示した反訴原告装置に関する営業秘密を、不正の利益を得る目的をもって使用する行為(同法2条1項7号)に該当するか。 (6) 本件契約に基づく秘密保持義務違反の成否 (7) 前記(2)の著作権若しくは著作者人格権侵害、前記(3)ないし(5)の不正競争行為又は前記(6)の秘密保持義務違反に基づく損害の有無及びその額 (8) 本件仮処分決定の違法性の有無(本件注意書のアップロードが、反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為〔不正競争防止法2条1項14号〕に該当するか。) (9) 本件仮処分決定による損害の有無及びその額 第3 争点に対する当事者の主張 1 反訴原告は、反訴原告装置につき著作権を有するか(反訴原告装置の著作物性の有無)(争点(1))。 (反訴原告の主張) (1) 反訴原告装置 ア 反訴原告装置は、別紙反訴原告装置目録記載のとおり、伸縮性と反発力のある繊維でできた2枚の布を合わせた筒状の布を本体部分とし、上記本体部分の中央が二重化されており、床からの高さを基本的には50センチメートルないし1メートルとし、ロープを使用した吊り式によって空間に浮遊させて設置される装置である。なお、反訴原告装置が「閉じた空間」であることに対する恐怖感を緩和するため、反訴原告装置の入口部分に使用するロープを1本増やして、入口部分が三角形になるように設営することがある。 イ 反訴原告装置の基本寸法は、縦(高さ)1.5メートル、横(長さ)3ないし9メートルであり、本体部分は長さ6メートルを標準としているが、会場のスペースに合わせて最大の長さを9メートルとすることもある。二重化されている部分は長さ3メートルを標準としている。 ウ 反訴原告装置は、東レの「素材番号:#TB3488」を使用している。上記素材は、120キログラムの人間の体重まで支えることができる強度を有し、布の寸法に対し、上下左右方向に1.5倍に伸びる伸縮性をもつ。 エ 反訴原告装置は、左右と下からの強い反力をもたせることで、「浮遊を可能にする空間」を作り、「新しいバランス」を与える空間とするため、その中央において反訴原告装置を曲げる角度を30度前後とし、ロープの設置角度を水平に対して30度前後としている。さらに、反訴原告装置の左右端の角度を垂直に対し10ないし30度の角度で上方向に広がるように傾けて調整されている。 オ なお、反訴被告は、反訴原告装置は空間の中で浮遊を体験できる装置であり、実用品であると主張するが、誤りである。 反訴原告装置は、そもそも、平成12年にマサチューセッツ工科大学における展示のための美術作品として誕生し、平成13年に国連本部において美術作品及び舞台装置として使用され、平成16年に体験装置を兼ねるようになったものであって、単なる実用品ではない。また、反訴原告装置は、体験者のバランスを崩し、次に、抵抗せずに身体を反訴原告装置に委ねる者に、反訴原告装置に働く反力により新しいバランスを与え、そのバランスの取り方がうまければ「浮遊」することもでき、これらの一連の動作を通じて体験者に全身的な身体感覚を回復させることを最大の目的とする装置であり、この点に大きな社会的意義があるものであって、単なる浮遊体験を目的とする装置ではない。反訴原告装置は、展示のための美術作品であり、かつ、舞台装置なのであって、このような美術作品又は舞台装置が実用の世界に持ち込まれ、社会的意義のある体験装置として成功した希有の例なのである。 (2) 反訴原告装置の創作的な特徴(著作物性) ア 空間装置としての創作性 スペースチューブは、反訴原告の独創的な空間構成力に基づいて、シンプルな形式において現実の空間に異次元空間を出現させることができる独自な空間装置として「表現」され、実際の空間装置として実現される。 その創作的な表現の内容は、次のとおりである。 (ア) 閉じた空間・やわらかい空間 反訴原告装置は、前記(1)アのとおり、2枚の布を合わせることにより「閉じた空間」とし、かつ、伸縮性・弾力性のある布を使用すること及びロープを使用して、床からの高さを50センチメートルないし1メートルとして、空間に浮遊させて設置することにより、「やわらかい空間」として構成されている。 なお、反訴原告は、既存の空間装置の世界では「ヘビーで硬い空間」が圧倒的に多かったことに舞踏家として感覚的な違和感があったことから、「やわらかい空間」を芸術家の感性において選択したものであり、反訴原告装置が「やわらかい空間」であることは、上記の文化的理由に基づくものである。 (イ) 浮遊を可能にする空間(宙吊り) 反訴原告装置は、左右と下からの強い反力を持たせて「浮遊を可能にする空間」とし、これによって「新しいバランス」を与え、「全身的な身体感覚の回復」を図るものである。反訴原告装置は、一般体験用に設置する場合、大人1人又は子供2ないし3人が装置内に入ったときにバランスの取り方次第で浮遊可能となるように布の張りを調整している。また、反訴原告装置は、筒状の布を二重化するのは、反力を確実に確保して「浮遊」を容易にするために行う措置である。 反訴被告は、宙吊りは「空間での浮遊」を体験させるための機能上不可避の形態であると主張するが、反訴原告は「全身的な身体感覚の回復」の精度を高めるための宙吊りとしたものであり、この点がまさに創作性にあふれているのである。 (ウ) 見た目の日本的美しさを持つ空間 反訴原告装置は、見た目が美しいことを必須要件としている。 反訴原告装置は、前記(1)エの布とロープの角度を調整するに当たり、入口付近と出口付近における上下のロープの張り方における「ずらし方」の微妙な調整により、神社の屋根や日本刀の曲線に似た、美しいくびれが発生するように調整されている。その結果、海外において、「空間の生け花」と称され、日本的な独特な表現であるとして評価されている。反訴原告装置の見た目の美しさ、体験者に「見たことがないもの」という印象を与える斬新さ及び反訴原告装置内に入ったときに体験者が感じる擬似的無重力環境という異次元空間の感覚が反訴原告装置の最大の特徴であり、このような独特な空間構成力によって、反訴原告装置は、国内外のどこにもない空間として成立している。 反訴原告は、「全身的な身体感覚の回復」の精度を高めるための調整の結果、反訴原告装置を、現在の構造及び床からの高さ(宙吊り)としているのであり、また、反訴原告装置のくびれをより容易に形成し、かつ、上記くびれにより生じる曲線を「神社や日本刀の曲線」により容易に似せやすくするために、二重構造を採用しているのであって、これらの選択は創作性にあふれたものである。 イ その他の創作性 (ア) 反訴原告装置の軽さ 反訴原告装置は、原則として全体の重量を30キログラム以内に収めているところ、これにより、反訴原告装置は、既存の「ハードで重い体験装置」に対するカウンターカルチャーとしての価値も有している。 (イ) 反訴原告装置の色 反訴原告は、体験者の心理的影響に配慮した結果、反訴原告装置につき白色を選択しており、上記選択には特別の意味がある。すなわち、反訴原告装置は「閉じた空間」であるため、体験者に特有の恐怖感を与える場合があるが、反訴原告は、白色に清潔感があること、装置内部から外部が透けて見え、体験者に恐怖心や不安感を与える可能性が一番低いことなどの理由から、白色を選択しているのであり、その意味において、まさに、当該選択は創作性にあふれているものである。 (ウ) 大きさ等 反訴原告装置の長さは、反訴原告が、芸術家としての感性により選択したものであり、創作性にあふれたものである。また、反訴原告装置は、前記のとおり、まず体験者のバランスを奪うことを目的とするものであり、そのためには縫い目のない丸縫いが理想であるところ、反訴原告は、縫い目の数を減らし、理想とする丸縫いに近付かせるため、2枚の布を接ぎ合わせた形状を採用するに至ったものであり、この点には創作性がある。 (3) 以上のとおり、反訴原告装置は、個人的感情と個人的センスが重要な役割を果たす作品として成立しており、世界初のものとして、世界中で非常に高い評価を得ているものであるから、反訴原告装置には著作物性が認められる。反訴原告は、反訴原告装置につき、@劇場等での「舞台装置」として、A科学館・美術館等での展示用の「美術作品」として、B子供たちを含む一般のための「体験装置(教育的教材)」として、著作権を有する。 (反訴被告の主張) (1) 反訴原告装置の著作物性 ア 反訴原告装置の性質(実用品性) 反訴原告装置は、空間の中で浮遊を体験できる装置という目的及び機能を実現するため、@装置内の人間に反力を与えるべく、装置を弾力性のある布で筒状(空間)に構成し、A浮遊状態を作るために装置をロープで吊り上げて宙吊り状態にし、B布による反力を確保して浮遊を容易にするために、布を二重にしているものであり、実用品である。 イ 実用品における美的表現は、その実用性や機能から独立して存在しなければならないところ、次のウのとおり、反訴原告装置において、その実用性や機能から独立して存在する特徴はないから、反訴原告装置の表現上の特徴に創作性はなく、反訴原告装置に美術著作物性は認められない。 ウ すなわち、反訴原告装置の形態のうち表現上の特徴といえる点は下記の@ないしEのとおりであるが、これらはいずれも反訴原告装置の実用性・機能性からの帰結であり、創作性は認められない。 (ア) @本体部分と二重化部分からなること 本体部分の形態は、装置内の人間に反力を与えて「空間での浮遊」状態を作るために必要な形態であって、反訴原告装置の機能に不可避の形態である。また、二重化部分は、人の体重を支え、「布による反力を確保して浮遊を容易にするため」という機能に不可避の構造である。したがって、これらの点に創作性は認められない。 (イ) A本体部分は、中央部分が垂直方向にややくびれていること 上記のくびれは、本体部分を宙吊りにするために、その四端をロープで固定することから必然的に生じるくびれである。そして、本体部分を宙吊りにすることは、「空間での浮遊」を体験させるという反訴原告装置の機能上不可避であるところ、複数のロープで本体部分の四端をそれぞれ別方向に引っ張って空中に固定することは、装置を宙吊りにするためのありふれた形態である。したがって、本体部分のくびれという形状は、上記の方法で装置を空中に固定することにより不可避的に生ずるものであるから、創作性は認められない。 (ウ) B二重化部分は、水平方向にややくびれていること 二重化部分は、人の体重を支えて十分な反力を持たせるための構造であるから、本体部分を覆うように二重化部分を宙吊りにする必要がある。複数のロープで二重化部分の四端をそれぞれ別方向に引っ張って二重化部分を空中に固定することは、装置を宙吊りにするためのありふれた形態である。水平方向にややくびれるのは、四端をロープで固定することから必然的に生ずるくびれである(なお、垂直方向のくびれは、本体部分によって防止されている。)。したがって、二重化部分のくびれという形状には、創作性は認められない。 (エ) C白色であること 本体部分及び二重化部分はいずれも白色であるが、これは布地の元々の色であり、布地を安価に入手するため、染色前に一反丸ごと購入し、そのまま使用しているためにすぎない。また、そもそも白色というのはありふれた色であるから、その色に創作性は認められない。 (オ) D大きさ 反訴原告装置の長さは、人間が内部に入って「浮遊」を体験することができ、かつ、多くの博物館等に展示可能な汎用性のあるサイズとして決められたものであり、反訴原告装置の機能を果たすありふれたものである。また、反訴原告装置の幅は、布地を安価に入手するため、工場で生産された布地を一反丸ごと(1.5メートル幅、50メートル尺)購入し、かつ、布地を最も簡便かつ安全に縫製するため、布地幅のサイズのまま2枚の布地を接ぎ合わせたことの結果にすぎない。したがって、これらの点に創作性は認められない。 (カ) Eロープ角度 反訴原告装置のロープ角度は、幅1.5メートルの筒状体を宙吊りにするために、その四端をそれぞれ別の方向に引っ張って、部屋のどこかに固定するという目的において制約されており、その制約条件の中でありふれたものであるから、創作性は認められない。 エ また、反訴原告は、反訴原告装置の創作的表現として、@「閉じた空間」になっていること、A「やわらかい空間」になっていること、B宙吊りになっていること、C二重構造になっていること、D見た目の日本的な美しさなどを挙げるが、@は、2枚の布地の両端を縫製しただけの縫製方法を採用した結果にすぎず、かつ、@ないしCは、いずれも、空間での浮遊を体験させるという反訴原告装置の機能上不可避の形態であり、また、Dは、上記浮遊を確保するために、相当強い力で引っ張って装置を設営することから生じる「布の張り具合」から必然的にもたらされる結果にすぎないから、これらに創作性は認められない。 (2) したがって、反訴原告装置には著作物性がなく、反訴原告は、反訴原告装置につき著作権を有しない。 2 反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものに当たるか(争点(2)ア)。 (反訴原告の主張) (1) 依拠 反訴原告は、本件契約に基づき、共同事業の一環として、争点(1)の反訴原告の主張(1)で述べた反訴原告装置の形態(形状、大きさ、材質〔使用している素材〕、布とロープの取る角度等)を反訴被告代表者に開示したものであるところ、反訴被告装置は、@筒状の布を中央部分で二重にしたものであり、とりわけ、本体部分の中央を二重化しているものであって、A本体部分の寸法が円周3メートル、長さ6メートル、二重化部分の寸法が円周3メートル、長さ3メートルであり、B1.5倍に伸縮する繊維を材質として使用しており、C布とロープが取る角度に関し、反訴原告装置と見た目がそっくりであり、反訴原告装置と近い角度に設営されているものとみられるなど、反訴原告の開示した反訴原告装置と同じ形態を取るものであり、反訴原告が開示した反訴原告装置に関する前記情報を利用して作成されたものであることが明らかである。 (2) 複製 前述のとおり、反訴被告装置は、「閉じた空間・やわらかい空間」として構成されていること及び宙吊りかつ二重構造であることという主要な点について反訴原告装置と共通している上、布とロープの取る角度、くびれ、「浮遊」が可能となる布の張り具合、色、大きさ、軽いことなど、反訴原告装置の創作的な特徴部分につき、そっくり又はそれに近いものとして構成されている。 なお、別紙反訴被告装置目録記載の写真によれば、反訴被告装置の入口は三角形に設営されているようであるが、反訴原告装置においても、入口部分を三角形に設営することがあることは前記のとおりである上、反訴被告装置は、中央部分の下部にロープが使用されておらず、中に入った体験者により空間の構造が決定付けられる「閉じた空間」であることには変わりないから、この点をもって、反訴原告装置と反訴被告装置が相違するということはできない。 また、反訴被告装置には、二重化部分の色、くびれの形状等において、反訴原告装置と微少な違いがあるが、これらは、反訴被告が、反訴原告装置を複製した上で、その発覚を避けるため、ごく一部の改変を加えたものにすぎない。 (3) 以上のことからすれば、反訴被告装置が反訴原告装置を複製したものであることは明らかである。 (反訴被告の主張) (1) 反訴被告装置は反訴原告装置と同一性がないこと ア 本体部分及び二重化部分のくびれについて 反訴原告装置の本体部分及び二重化部分にはくびれが存在するのに対し、反訴被告装置の本体部分及び二重化部分には、このようなくびれは存在しない。反訴被告装置においても、布自体の重みや固定ポイントの位置関係により、本体部分又は二重化部分に変形が生じることはあるが、反訴被告装置は、想定する利用者の多くが子供であるため、布地の伸張性を損なわない範囲で穏やかな弾力を持つように設営されており、反訴原告装置のように四端を強く引っ張って設営しないので、反訴原告装置に見られるような緊張感のあるくびれは生じない。 なお、反訴被告は、完全な浮遊よりも安全性を優先するため、装置の下の床に比較的柔らかいマットを敷き、マットに足が触れる程度の高さと布地の張り具合でしか宙吊りにしておらず、この点でも反訴原告装置と反訴被告装置は相違する。 イ 色について 反訴原告装置は本体部分及び二重化部分がすべて白色であるのに対し、反訴被告装置は、本体部分が白色、二重化部分が青色である。したがって、反訴原告装置と反訴被告装置は、この点について同一とはいえない。 ウ ロープ角度について 反訴原告は、反訴原告装置におけるロープ角度について、「水平に対して30度前後」と主張するが、反訴原告装置のロープ角度がそのような角度であるとは到底思われない。反訴被告装置では、ロープの角度に特に決まりはなく、設置場所の固定ポイントの位置によりその都度変化するが、水平に対し30度前後ではない。 エ 「閉じた空間」について 反訴原告装置の本体部分は2枚の布地を張り合わせて構成され、横から見るとほとんどふくらみのない板状になっており、反訴原告は、上記形状を「閉じた空間」と呼んでいる。 これに対し、反訴被告は、反訴被告装置の設営に当たり、ロープを多く使用して中を広げ、入口と出口の双方をできるだけ大きく広げており、入口から出口まで「閉じないで」中が見えるオープンな形状としているのであって、反訴原告装置と反訴被告装置は、この点でも同一とはいえない。 (2) 以上のとおり、反訴原告装置と反訴被告装置には同一性がないから、反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものではない。 3 反訴被告装置は、反訴原告の意に反して反訴原告装置に改変を加えたものか(同一性保持権侵害の成否)(争点(2)イ)。 (反訴原告の主張) 反訴被告は、反訴原告装置を再製して反訴被告装置を制作するに当たり、二重化部分の色を変えるなど、反訴原告装置に対し改変を加えたが、これは、反訴原告の意に反するものであって、反訴被告の上記行為は、反訴原告装置に関する反訴原告の同一性保持権の侵害に当たる。 (反訴被告の主張) 反訴原告の主張は争う。 4 反訴被告による反訴被告事業の実施は、反訴原告の商品等表示として周知性を有する反訴原告装置と同一のものを使用して、反訴原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当するか(争点(3))。 (反訴原告の主張) (1) 反訴原告装置は、国内外の需要者の間に広く認識され、外務省、国連等にも認知されており、その世界における有名商品となっているのであり、反訴原告の周知商品等表示に該当する。このことは、反訴原告が、芸術と科学の共同作業を行うイギリスの大組織として有名なArtOsphereから、平成23年から平成26年までの間、反訴原告装置を使用したイベントにより、ヨーロッパの複数の文化都市を巡回するよう招待されていることや、平成21年に日本の有名な建築家であるBによる展示場において、反訴原告装置を使用したイベントを実施したことなどから明らかである。 (2) 反訴被告は、反訴被告装置を使用して、イベントへの出展等の事業を行っているところ、争点(2)アに関する反訴原告の主張で述べたとおり、反訴被告装置は反訴原告装置と同一のものであるから、反訴被告は、上記事業を行うことにより、反訴原告の商品又は営業と混同を生じさせている。 (3) したがって、反訴被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。 (反訴被告の主張) 反訴原告の主張は否認し、争う。 5 反訴被告による反訴被告事業の実施は、反訴原告の商品形態である反訴原告装置を模倣した商品である反訴被告装置を譲渡等のために展示する行為(不正競争防止法2条1項3号)に該当するか(争点(4))。 (反訴原告の主張) (1) 不正競争防止法2条1項3号にいう「商品形態」とは、形状、模様、色彩、光沢の結合等の商品の有様をいうところ、反訴被告装置は、閉じた空間、やわらかい空間、宙吊り、二重構造、形状、くびれ、色、大きさ、ロープ角度等のすべての点において反訴原告装置と同一性が認められ、反訴被告装置が反訴原告装置を模倣したものであることは明らかである。 (2) 反訴原告装置は、その世界における有名作品であり、有名商品であるから、反訴原告装置が反訴原告の商品形態に当たることは明らかである。 (3) 反訴被告が、このような反訴被告装置を使用して、イベントへの出展等の事業を行うことは、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当する。 なお、反訴原告が反訴原告装置を商品化する意思をもったのは、平成16年におけるJAXAとの共同研究からであり、実際に反訴原告装置を「商品」として扱うようになったのは、本件契約締結時(平成20年6月1日)からであり、その着手に至ったのは、同年7月のイベント実施時からである。したがって、反訴原告装置が「最初に販売された日」(同法19条5項イ)は平成20年7月であり、形態模倣禁止行為の適用は除外されない。 (反訴被告の主張) 反訴原告の主張は否認し、争う。 6 反訴被告による反訴被告事業の実施は、反訴原告の開示した反訴原告装置に関する営業秘密を、不正の利益を得る目的をもって使用する行為(同法2条1項7号)に該当するか(争点(5))。 (反訴原告の主張) (1) 反訴原告は、本件契約に基づき、下記内容の営業秘密を反訴被告に対し開示した。 ア 反訴原告装置の長さ及び高さ 反訴原告装置の長さの基本は3メートルないし6メートル、最大で9メートルが妥当であり、高さは1.5メートル前後が妥当である。これは、体験者のバランス感覚をうまく開発し、その感覚をベースとして「浮遊」を可能にするために最適な長さ及び高さを検証した結果に基づく営業秘密である。この営業秘密を知らない者は、展示された反訴原告装置を見ても、上記寸法にする理由は分からず、反訴原告装置のように、「浮遊を可能にする空間」を作り出すことはできない。 イ 布の強度と伸縮性 反訴原告装置に使用する布は、原則120キログラムの人間の体重まで支えることができる強度を持ち、布の原寸に対して約1.5倍に伸びる伸縮性を有するものである必要がある。現在、反訴原告装置に使用している布は、東レの素材番号#TB3488であるが、展示されている反訴原告装置を見ただけでは、上記布が使用されていることは分からないし、仮に比較的簡単な解析により上記布が使用されていることが分かったとしても、上記布が使用されている理由までは分からないことである。 ウ 布の張り具合 反訴原告装置は、原則として体重60ないし70キログラムの者が装置の中に入り、装置の中央で体がわずかに浮くか、ぎりぎりで床面に着くかのところで調整している。この張り具合の調整により、反訴原告装置に十分な反力を持たせることができ、1人の大人又は2ないし3人の子供が「浮遊」することが可能になるのであって、この調整が未熟であれば、装置そのものが破損してしまう。これは、公開されている反訴原告装置を見ただけでは分からないものである。 エ 二重化構造 反訴原告装置は、反力を確保して「浮遊」を容易にしたい場合に布を二重化するものであるが、この二重化においても、上記ウの布の張り具合と同様に調整を要する。公開されている反訴原告装置を見ても、なぜ二重化する必要があるのか、なぜ二重化する部分は中央部分のみなのか、2枚の布の張り方の違いをどのように調整するのかという点を解析することはできない。 オ 布及びロープの総重量 反訴原告装置は、その総重量を30キログラム以内に収めている。これは、ロープが外れ、装置が体験者に倒れかかるなどした場合であっても、反訴原告装置の総重量が人間の体重より軽いため、大事に至る可能性が少ないという基本的安全性を確保するためであると同時に、既存のハードで重い体験装置に対するカウンターカルチャーとしての価値も有しているのであり、この点は公開されている反訴原告装置を見ただけでは分からないことである。 (2) 上記情報の非公知性について 例えば、営業秘密に係る技術を利用した商品が市販されていたとしても、当該営業秘密を取得するために、解析に特殊な技術や相当な期間を要する場合には、商品を市販したことをもって、当該営業秘密が公知のものになるとはいえない。 反訴原告装置はイベント等で公開の場で展示されるものであるが、前記(1)のとおり、反訴原告装置の営業秘密は、簡単な解析により知ることができるものではないから、非公知のものである。 (3) 反訴被告は、不正競業等の目的をもって、当該営業秘密を使用して反訴被告装置を作成し、これを反訴被告のイベント展開事業等に使用した。したがって、反訴被告の行為は、不正の利益を得る目的で反訴原告の営業秘密を使用する不正競争行為(不正競争防止法2条1項7号)に該当する。 (反訴被告の主張) (1) 反訴原告の主張は否認する。反訴原告が営業秘密であると主張する内容は、いずれも体験型の装置である反訴原告装置を見て触れて体験すれば、すべてその概要が判明するものであり、いずれも公知のものである。 (2) 反訴被告は、反訴被告装置を制作するに当たり、反訴原告の主張する営業秘密を使用したことはない。 7 本件契約に基づく秘密保持義務違反の有無(争点(6)) (反訴原告の主張) (1) 本件契約書第6条には、秘密保持義務の定めがあるところ、同契約書7条の2は、「前項の規定(有効期間の定め)にもかかわらず、前条(秘密保持)の規定は、有効に存続するものとする。」と定めており、本件契約が失効した後も、秘密保持義務が有効に存続するものされている。 (2) 上記秘密保持義務にもかかわらず、反訴被告は、本件契約解除後、争点(5)の反訴原告の主張のとおり、反訴原告の営業秘密を利用して反訴被告装置を作成し、反訴被告事業において使用しているのであり、これは、本件契約に基づく秘密保持義務に違反する行為に当たる。 (反訴被告の主張) 反訴原告の主張は争う。争点(5)の反訴被告の主張のとおり、反訴原告の挙げる情報は営業秘密に該当せず、かつ、反訴被告が当該情報を利用したこともない。 また、本件契約は解除されているのであるから、反訴被告が、本件契約に基づき反訴原告に対し秘密保持義務を負うこともない。 8 著作権若しくは著作者人格権侵害、各不正競争行為又は秘密保持義務違反に基づく損害の有無及びその額(争点(7)) (反訴原告の主張) (1) 反訴原告装置は、外務省、国連ウガンダ事務所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、日本宇宙少年団、未来工学研究所、地域交流センター等がその国内外のイベント実施を支援するという非常にブランド性の高いものであるところ、反訴被告の著作権若しくは著作者人格権侵害行為、各不正競争行為又は秘密保持義務違反により、関係者やクライアント候補者を混乱、誤解させ、反訴原告装置の「唯一性」という営業上の最大の価値が傷付けられた。 (2) 反訴原告は、反訴原告装置の利用許諾料を1か月当たり300万円、反訴原告装置の譲渡承諾料を1件当たり1000万円と定めているところ、これを基準とすれば、反訴被告の前記各行為により反訴原告の被った損害額は、少なく見積もっても2000万円を下ることはない。 (3) 反訴原告は、上記損害の一部請求として1000万円を請求する。 (反訴被告の主張) 反訴原告の主張は争う。 9 本件仮処分の違法性の有無(本件注意書のアップロードが、反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為に該当するか)(争点(8))。 (反訴原告の主張) (1) 本件仮処分は、反訴原告が反訴原告ウェブサイトに本件注意書をアップロードしたことが、反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為(同法2条1項14号)に当たるとして、反訴原告に、本件注意書の削除を命ずるものであるが、争点(1)ないし(6)に関する反訴原告の主張のとおり、反訴被告は、反訴原告の著作権若しくは著作者人格権を侵害し、又は不正競争行為若しくは債務不履行に当たる行為に及んでいるものであり、この点に関し、本件注意書の内容に虚偽の点はない。また、本件契約の解除の経緯についても虚偽の点はない。反訴原告が本件注意書をアップロードすることにより、反訴被告の違法行為を指摘し、差止め等を求めるとともに警告を発することは当然に許される行為である。 (2) したがって、本件注意書のアップロードは、反訴被告に対する不正競争行為に当たらず、本件仮処分は違法性を有する。 (反訴被告の主張) (1) 本件注意書が、反訴被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為に該当すること ア 反訴原告と反訴被告は、それぞれ、伸縮性のある布地を天井等から吊り下げて設置する装置を用いて、イベント出展等の事業を行っているから、両者には競争関係が存在する。 イ 本件注意書には、「エクスプローラーズ・ジャパン(以下EJ)という会社が、私(A)と東京スペースダンスの権利を侵害し、不正に受注しようとしています。」、「EJには、スペースチューブを使用したイベントを実施する権利などありません。それがあるかのように偽っています。」、「現在私の手元にもある『Kooflo』のイラストについて・・(中略)・・これがスペースチューブからの盗作である」、「EJによる著作権侵害の行為」、「不正な盗作である」、「スペースチューブは『先使用権』に守られた私と東京スペースダンスの権利である」との記載があるが、争点(1)及び(2)に関する反訴被告の主張のとおり、反訴原告装置につき反訴原告に著作権はなく、かつ、争点(3)ないし(6)に関する反訴被告の主張のとおり、反訴被告事業の実施は、反訴原告に対する不正競争行為又は債務不履行を構成するものでもないから、本件注意書の前記記載内容は虚偽のものである。なお、前記記載内容のうち、「『Kooflo』のイラスト」との記載部分をクリックすると、イラストが表示されるが、当該イラストは、反訴原告・反訴被告間の共同事業の一環として平成20年11月27日に実施されたイベントの際、C氏が反訴被告の依頼を受けて撮影し、イラストに描き起こしたものであり、同氏が著作権を有するものであって、反訴被告は同氏から許諾を受けて上記イラストを使用しているものであるから、同イラストが反訴原告からの盗作であるとする点も虚偽である。 また、本件注意書には、本件契約の解除の経緯に関し、「EJは、既に、今年3月、『ぐんまこどもの国児童会館』に対し同様の不正行為を行いました。」、「EJ単独では実施する権利がないにも拘らず、今回のケースと同様に、あるかのように館を欺きました。そして、EJにとって都合のいい勝手な実施契約を結んでいました。私は撤回を求めましたが、EJが聞き入れないため・・(後略)」、「EJは逆に居直り、弁護士を立て私に脅しをかけてきた」、「アーティストを法律に無知と甘く見て弁護士を立て脅した」、「私の側で弁護士を立て・・(中略)・・契約を解除すると共に」、「EJに対しては・・(中略)・・スペースチューブを『Kooflo』等の名称で偽装し不正な受注を図ることは許されないこと・・(中略)・・を、弁護士を通じて通告」との記載があるが、反訴原告は反訴被告が本件契約に基づき進めていた「ぐんまこどもの国児童会館」の企画につき、反訴被告が無断で進めたものなので中止するよう先方に申し入れるなどの業務妨害を行ったものであって、反訴被告は、これによって反訴原告に対する信頼を失い、反訴原告に対し、本件契約の解除を通知したものであるから、本件注意書の前記記載内容は虚偽である。 ウ 以上のとおり、本件注意書は、反訴被告が反訴原告の権利侵害行為等を繰り返しているなどと非難する内容のものであるが、これらの事実はいずれも客観的真実に反する虚偽のものである。また、これらの事実は、いずれも反訴被告装置又は反訴被告事業に関する反訴被告の信用を失わせるものであることが明らかである。 エ 反訴原告は、このような内容の本件注意書を反訴原告ウェブサイトにアップロードして不特定多数の者が閲覧可能な状態においたものであり、これは「流布」(同法2条1項14号)に該当する。 オ したがって、反訴原告の上記行為は、不正競争行為(同法2条1項14号)に該当する。 (2) 反訴被告は、反訴原告の行為が、以上のとおり不正競争行為(同法2条1項14号)に該当するものであったことから、虚偽事実流布行為差止請求権(同法3条)に基づき本件仮処分命令を申し立て、同決定を受けたものであり、本件仮処分に違法な点はない。 10 本件仮処分決定による損害の有無及びその額(争点(9)) (反訴原告の主張) (1) 合計6件のイベント見送りによる損害 反訴原告は、反訴被告との間の紛争が勃発した後、釧路市こども遊学館、島根県立三瓶自然館サヒメル、はまぎんこども宇宙科学館、財団法人東京都公園協会から各1件、NPO法人地域交流センター(草加市役所、高野町役場)から2件のイベントの打診を受けたが、いずれも見送りとなっている。 日本宇宙少年団、未来工学研究所、文化総合研究所等、反訴原告との間で既に信頼関係のある相手方との間では、現在も企画が継続的に検討されていることからすれば、前記6件のイベントが見送りとなった理由は、反訴原告ウェブサイトに一旦掲示された本件注意書が、本件仮処分決定により削除されたことにより、反訴原告と反訴被告との間の紛争を知って嫌気がさしたこと以外には考えられない。 反訴原告は、反訴原告装置によるイベント1件につき、会期7日間の予定で体験展示一式50万円の収入を見込んでいたから、前記6件のイベントの見送りによる反訴原告の損害は300万円である。 (2) 千葉市科学館における反訴原告装置展示イベントのキャンセルによる損害 ア 千葉市科学館では、平成22年1月に反訴原告装置の展示イベントが予定されていたが、平成21年10月ころ、延期が伝えられ、その理由につき、担当者から、「反訴原告の事業は反訴原告のオリジナルで、他のどこにもないとの宣伝だったので興味をもった。しかし、反訴原告のホームページに掲載された本件注意書により、反訴被告が同様の事業を展開していること及び反訴原告・反訴被告間に紛争があることを知った。反訴原告の主張が真実でなければ、反訴原告の事業は反訴被告に限らず他のどこでもできるものになるが、そのような種類のものを実施したいとは思わない。本件注意書は削除されたようだが、一度掲載したものを削除したのは、その内容が真実ではないからではないのか。その後も本件注意書が削除されたままのため、今回の企画の延期又は中止を考えることになった。」との理由を示唆された。 イ 担当者からの上記示唆によれば、千葉市科学館におけるイベントのキャンセルは、本件仮処分に基づき本件注意書が削除されたことを直接の原因とするものであることが明らかである。 ウ 反訴原告は、当該展示による収入として50万円を見込んでいたから、上記キャンセルによる反訴原告の損害は50万円である。 (3) 三重県いなべ市における反訴原告装置の展示イベントのキャンセルによる損害 ア 三重県いなべ市では、平成22年4月から平成23年3月までの間、反訴原告装置の展示イベントの実施が内定していたが、担当者から、反訴原告装置の独自性が疑われるならば実施することができないとの理由を示唆され、本件注意書の掲載が再開されるまで様子を見るとして内定が取り消された。 イ 担当者からの上記示唆によれば、当該展示イベントのキャンセルも、本件仮処分に基づき本件注意書が削除されたことを直接の原因とするものであることが明らかである。 ウ 当該展示については、1年間で360万円の報酬が予定されていたから、当該キャンセルによる反訴原告の損害は360万円である。 (反訴被告の主張) 反訴原告の主張はいずれも争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(反訴原告は、反訴原告装置につき著作権を有するか。)について (1) 前提事実 後掲の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。 ア 反訴原告は、平成13年ころ、伸縮性のある布を筒状になるように成形し、5ないし6本のロープを使用して、床面から浮かせた状態で固定することにより、筒状の布の中に人が入ったときに、左右方向及び下方向からの反力を体感することができる構造物を考案し、これを「スペースチューブ」等と名付け、反訴原告が個人として主催する「東京スペースダンス」の公演における舞台装置として使用し始めた(甲1の1ないし3、11、17、乙9、反訴原告本人)。 イ 反訴原告は、上記「スペースチューブ」の中に入った人の体が左右方向及び下方向からの反力により支えられた状態となることを「浮遊」又は「無重力状態」などと呼び、平成13年ころから、中に人が入り「浮遊」又は「無重力状態」を体験することで、全身的な身体感覚を回復することができる装置として、上記「スペースチューブ」をイベント等で展示するようになった(甲1の1ないし3、乙15、20、23の1)。 ウ 反訴原告装置の形状等 (ア) 上記「スペースチューブ」は、中に入った人の体に働く反力の強さ、中に入ることに対する恐怖心の程度等の観点から、布の色、筒状になる布を何重に重ねるか、何か所をロープで固定するかなどの点で試行錯誤を経た上で、平成20年ころ、別紙反訴原告装置目録記載のとおり、本体部分と、その中央部を覆う部分(以下「二重化部分」という。)から構成される形状となるに至った(乙20、23の1、反訴原告本人)。 (イ) 別紙反訴原告装置目録における写真中の反訴原告装置は、平成21年7月から8月までの間、埼玉県川口市所在のイオンモールで、中に人が入ることのできる体験型展示物として展示されたものであるが(乙15、反訴原告本人)、反訴原告装置としては、人が中に入らない状態での展示物として主張するものである。 反訴原告装置は、@水平方向の幅最大9メートル、垂直方向の幅約1.5メートルの白色の布を2枚重ね合わせて、その上縁と下縁を接ぎ合わせ、左右端は開放して人が出入りできるようにした部分(本体部分)と、A本体部分の中央部分に、水平方向の幅3メートル、垂直方向の幅約1.5メートルの白色の布を本体部分を覆うように2枚重ね合わせて、その上縁と下縁を接ぎ合わせ、左右端は開放し、本体部分をこれに貫通させた部分(二重化部分)とを主要な構成とし、本体部分及び二重化部分の各左右端の上下隅をロープで引っ張ることにより、これを空間中に配置するものである。本体部分及び二重化部分とも、人が中に入らない状態では、布に膨らみがなく、平面的な構成となっている。本体部分を空間中に配置するに際しては、本体部分の左右端が垂直方向から10ないし30度傾いて下から上に布が広がっていくような形とするため、左右端の上隅と下隅につながれたロープの固定位置を前後にずらして固定し、さらに、二重化部分については、左右端の上下隅をロープで固定し、本体部分及び二重化部分の布の下辺が床面から50センチメートルないし1メートル程度の高さとなるよう設置される。このロープでの固定により、本体部分の中央部分の幅が上下に引っ張られた左右端に比べて狭まるとともに(以下、上記のとおり本体部分の中央部分が狭まった形状となっていることを「くびれ」ともいう。)、反訴原告装置全体が斜め上方向に強く引っ張られ、本体中央部分の上辺がやや下にくぼんだような反った形となり、装置全体として「く」の字に似た曲線を描いている。二重化部分もその四隅で上下斜め方向に引っ張られているが、その上辺の線はほぼ本体部分の上辺の線に沿う形となっている(乙15、18、20、反訴原告本人)。 (ウ) 反訴原告が、前記のとおり本体部分の布の左右端を固定する際に、左右端の上隅と下隅の固定位置をずらすことにより、反訴原告装置の左右端が垂直に対し10ないし30度に傾いて上方向に広がり、かつ、上辺部分が「く」の字に似た反った曲線を描くように調整しているのは、反訴原告装置が日本刀や神社の屋根の曲線に似た曲線を描くようにすることで、反訴原告装置に日本的美しさをもたせるためである(乙15、反訴原告本人)。実際、反訴原告装置の本体部分の上辺(水平方向の部分)は、二重化部分を含めて全体が白色の同色で構成されているところから、二重化部分を含めて全体を一体の形状として把握することができ、神社の屋根の曲線を思わせるような形状となっており、また、本体部分の両端部分のそれぞれは、垂直に対してやや傾いて上方向に広がり、それが平面的な布で構成されているところから、上辺部分の反りと合わせて、日本刀の刃の先端部分を思わせるような形状となっている。 (2) 検討 以上を前提に、反訴原告装置の著作物性について検討する。 ア そもそも、著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には、当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては、著作物に該当せず、同法による保護の対象とはならないとするものと解される。 イ そこで検討すると、反訴原告装置は、前記第4の1(1)の前提事実でみたとおり、人が中に入り、布の反力によって体が支えられる状態を体験することができる装置として考案されたものである。反訴原告装置は体験装置として使用され、人が中に入った状態では、様々な形態をとるし、また、中に入った人は日常生活では感じることのできない感覚を味わうことができる。このように、反訴原告装置は、体験装置として独創的なものと考えられるが、反訴原告が本訴において著作物として主張するのは、上記のような動的な利用状況における創作性ではなく、反訴原告装置目録において示された静的な形状、構成(反訴原告装置)の創作性である。 したがって、以下では、反訴原告装置目録において示された反訴原告装置の著作物性について検討する。 反訴原告は、反訴原告装置の創作性として、@「閉じた空間・やわらかい空間」であること、A「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であること、B「見た目の日本的美しさをもつ空間」であること、を主張する。 この反訴原告の主張には、「閉じた空間・やわらかい空間」、「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」、「見た目の日本的美しさをもつ空間」であることそのものを創作性の内容として主張する部分と、それらの主張を基礎付ける反訴原告装置の形状、構成の具体的な点を主張する部分の双方が含まれていると解されるので、以下では、この2つの部分を分けて検討することとする。 (ア) まず、反訴原告装置によって形成される空間の性質そのものの創作性を主張する部分について検討する。@の「閉じた空間・やわらかい空間」のうち「閉じた空間」とは、装置が使用されている際の人によって広げられていない部分の空間の性質を示すものであり、使用時において中に入った人によって開かれていくという構想は、反訴原告が反訴原告装置で実現しようとした、反訴原告装置によって構成された空間の性質に関する思想ないしアイデアである。著作物としての表現は、そのような思想ないしアイデアそのものではなく、それらが具体的に表現された反訴原告装置の形状、構成に即して把握すべきものであるから、「閉じた空間」という空間の性質を創作性の根拠とする反訴原告の主張は採用することができない。また、「やわらかい空間」とは、反訴原告装置の中に人が入った使用状態において、中に入った人が周囲の空間が固定的ではなく、自在に変形するものと感じられる空間であるという思想ないしアイデアであり、この点も反訴原告装置の創作性の根拠とすることはできない。次に、Aの「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であることのうち、「浮遊を可能にする空間」であることは、反訴原告が本件において著作物であると主張する反訴原告装置そのものに表現されたものではなく、反訴原告装置の中に人が入ってこれが使用されたときに、中に入った人が浮遊していると感じる状態になることを示すものであり、反訴原告装置の機能を示すものである。したがって、これは反訴原告装置自体に表現されたものではない。したがって、これを反訴原告装置の創作性の根拠とする反訴原告の主張は採用することができない。また、「宙吊り」は、反訴原告装置の空間における配置を示すものであるが、それ自体では反訴原告装置が空間に存在するという抽象的な観念を示すものにすぎず、具体的な表現を示すものとはいえないから、この点も反訴原告装置の創作性の根拠とすることはできない。さらに、Bの「日本的美しさをもつ空間」であることは、それ自体は、反訴原告の思想又はアイデアを示すものであって、創作性の根拠とはならない。 (イ) 次に、反訴原告が主張する、「閉じた空間・やわらかい空間」、「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」、「日本的美しさをもつ空間」のそれぞれについて、反訴原告がそれらを基礎付けると主張する具体的な点について検討する。 a 「閉じた空間・やわらかい空間」について 反訴原告は、2枚の布を合わせることにより「閉じた空間」としたことに創作性があると主張する。しかし、この2枚の布を合わせたという平面的な構成は特徴のある表現ということはできず、創作性を認めることはできない。 反訴原告は、伸縮性・弾力性のある布を使用し、ロープを使用して床からの高さを50センチメートルないし1メートルとして、空間に浮遊させて設置することにより、「やわらかい空間」としたことに創作性があると主張する。このうち、「やわらかい空間」自体は思想又はアイデアにすぎないことは前記のとおりであり、伸縮性・弾力性のある布を使用していることは、実際に反訴原告装置が使用される際に機能を発揮する構成にすぎず、反訴原告装置の創作性を基礎付けるものとはいえない。 b 「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」について 反訴原告は、左右と下からの強い反力を持たせて「浮遊を可能にする空間」とし、これによって「新しいバランス」を与え、「全身的な身体感覚の回復」を図るものであり、バランスの取り方次第で浮遊可能となるように布の張りを調整していると主張する。 しかし、浮遊を可能とすることや、新しいバランスを与えること、全身的な身体感覚の回復を図ることは、いずれも反訴原告装置の使用時における機能であって、反訴原告装置に表現されたものとはいえない。また、布の張り方自体は布の形状を形成し、その機能を発揮させるための方法にすぎず、そこに創作性を認めることはできない。 「宙吊り」についても、装置の機能を発揮させるための構成であって、創作的表現と認めることはできない。 c 「見た目の日本的美しさをもつ空間」について 反訴原告は、ロープの「ずらし方」に創作性があると主張するが、それは、本体部分の布の形状を形成するための方法にすぎず、表現と認めることはできないし、張られたロープ自体の形状に創作性を認めることもできない。 しかし、反訴原告装置の前記(1)ウの形状、構成は、次に述べるとおり、創作性を基礎付ける要素となっているものと考えられる。 d 反訴原告装置の創作性 反訴原告装置の上辺部分の形状は本体部分及び二重化部分が一体となって、中央部分から両端部分にかけて反った形状として構成されており、神社の屋根を思わせる形状としての美観を与えている。さらに、反訴原告装置の左右両端部分は、垂直に対しやや傾いて上の方へ広がり、上辺の反りの部分と合わせて日本刀の刃先の部分を思わせる形状となっている。 反訴原告装置は、これらの点に独自の美的な要素を有しており、美術的な創作性を認めることができる。 ウ なお、反訴原告は、前記の各点に加えて、反訴原告装置の軽さ、色、大きさ等を創作性のあるものと主張する。しかし、反訴原告装置の軽さは、素材の性質であって、反訴原告装置の創作物として鑑賞するときに、その創作性の対象として認識されるものではない。また、反訴原告装置の本体部分及び二重化部分が白色の素材で構成されていることについては、その色の選択について創作性を認めることはできない。原告は、恐怖感や不安感を低下させるために色の選択をしているのであって、当該選択には創作性があると主張するが、それは反訴原告装置の使用時にその機能を十分発揮させるための色の選択の根拠を述べるのみであって、反訴原告装置自体の創作性の根拠となるものではない。さらに、反訴原告は反訴原告装置の大きさにも創作性があると主張する。しかし、反訴原告が大きさについての選択の根拠として挙げる反訴原告の芸術家としての感性については、その具体的な内容が不明であり、そこから創作性を根拠付けることはできない。このほか、反訴原告は2枚の布を接ぎ合わせた形状についても主張するが、そこに製法としての特殊性があるとしても、それが反訴原告装置の創作性を根拠付けるものとはいえない。 また、反訴原告本人は、反訴原告本人尋問において、反訴原告装置の上辺中央付近が1本のロープにより斜め上方向に向かって引っ張られており、これにより、反訴原告装置は後方に向かって曲がった形状となっているところ、上記曲線も反訴原告装置の創作性を基礎付ける要素を構成する旨の供述をするが、本件において反訴原告が反訴原告装置として特定する別紙反訴原告装置目録図面には、反訴原告装置の中央付近を引っ張るロープは記載されておらず、反訴原告本人のいう「曲線」の具体的形状が明らかではない上、上記曲線が反訴原告装置の創作性を基礎付けることになる具体的理由も主張されていないのであって、この点を反訴原告装置の創作性を基礎付ける要素に当たるとみることはできない。 エ したがって、反訴原告装置は、前記イdでみた点における限りで創作性があるものとして、著作物性が認められ、反訴原告は、反訴原告装置の制作者として反訴原告装置について著作権を有する。 オ この点に関し、反訴被告は、反訴原告装置は実用品であって、著作物として保護されるためには、その機能性又は実用性から独立した美的創作性を有することを要するが、反訴原告装置の表現上の特徴として挙げることのできる点は、いずれも機能性又は実用性からの帰結にすぎないと主張する。 確かに、前記のとおり、反訴原告装置は人が中に入り反力を体験することができる装置として考案されたものであり、この意味で実用性を有するものということができる。しかし、前記第4の1(1)前提事実ウでみた反訴原告装置の制作過程に照らすと、反訴原告装置は、各別にその形態(傾き、くびれ、曲線等)を調整して制作されるものと認められ、画一的かつ機械的な大量生産を予定しているものではないということができる上、反訴原告装置の具体的表現のうち、創作性が認められる部分は、反訴原告装置の機能又は目的から不可避の結果として生じたものではなく、その表現に選択の幅が認められるものであって、前記1ウ(ウ)のとおり、反訴原告自身が「日本的な美しさ」を表現するためにそのような形状を選択している旨述べるなど、美的表現の追求の結果として生じたものとみることができるものであるから、反訴被告の主張は当たらず、前記エの認定は左右されない。 2 争点(2)ア(反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものに当たるか)について 反訴被告装置についてみると、甲3、11、乙1、15、18、20及び弁論の全趣旨によれば、反訴被告装置は、別紙反訴被告装置目録記載のとおりであり、水平方向の幅6メートルの伸縮性と反発力のある繊維でできた筒状となる布で構成され、左右端は開放して人が出入りできるものであり、本体部分の中央部分に本体部分を覆うように設けられた水平方向の幅約3メートルの二重化部分が存在し、ロープを使用して天井から吊り下げるとともに、布の下端を床面から引っ張ることにより、空中に浮かせて設置するものである点において、反訴原告装置と共通する。 しかし、反訴被告装置は、別紙反訴被告目録中の写真又はイメージ図のとおりの形状のものであり、本体部分の両端部分は、それぞれ、上部に1本、下部に2本のロープを使用し、引っ張って固定することにより、下部を底辺とする三角形状に開いた形状の開口部となっており、また、正面から見た時の両端の線はほぼ垂直であって、下から上へ向かって布が広がっていくような形状とはなっていない。さらに、その上辺部分には、反訴原告装置のような明確な反りは見られない。加えて、本体部分は白色の布が使用されているのに対し、二重化部分については青色の布が使用されていることにより、本体部分の形状が二重化部分を挟んで2つの部分に分かれて観察され、本体部分の上辺を一体の形状として把握することを困難にしている。 以上の反訴被告装置の形状、構成からは、装置の上辺部分について神社の屋根のような美観を感じとることはできない。また、反訴被告装置の両端部分は、開口部が三角形の形状となっていること、正面から見た時に布が上へ向かって広がっていくような形状ではなく、両端線はほぼ垂直の線となっていること及び上辺部分に反りがみられないことから、日本刀の刃先を思わせるような形状とは見られない。 したがって、反訴被告装置は、反訴原告装置の創作性の認められる部分(上辺部分の神社の屋根のような美観及び両端部分の日本刀の刃先のような美観の部分)において、これと異なっており、反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものとは認められない。 反訴原告は、反訴被告装置は、「閉じた空間・やわらかい空間」として構成されていること及び宙吊りかつ二重構造であることという主要な点で反訴原告装置と共通している上、布とロープのとる角度、くびれ、「浮遊」が可能となる布の張り具合、色、大きさ、軽いことなど、反訴原告装置の創作的な特徴部分につき、そっくりであるなどと主張するが、反訴原告装置に創作性が認められる部分は、前記のとおり、その上辺部分の神社の屋根を思わせる形状、上辺部分及び両端部分から構成される日本刀の刃先を思わせる形状であって、原告が主張する部分のうち上記の限度で創作性を認めることができるにすぎない。したがって、その余の原告の主張は理由がない。 また、反訴原告は、反訴被告装置の布の両端が開いた形状になっていることに関し、反訴原告装置においても、入り口部分を三角形に設営することがあるし、両端が開いた形状でも閉じた空間に変わりはないと主張する。しかし、本件において、具体的に特定された反訴原告装置においては、布が両端部分においても重なったままの状態(平面的な構成)となっていることは前記認定のとおりであり、そのことにより、原告が創作性の根拠として主張する日本刀の刃先を思わせるような形状が形成されているのであるから、反訴原告が反訴原告装置として特定していない形状についての侵害を認めることはできない。また閉じた空間か否かは思想又はアイデアにすぎないことは前記のとおりであるから、この点についての反訴原告の主張も理由がない。 したがって、反訴被告装置は反訴原告装置を複製したものには当たらない。 3 争点(2)イ(同一性保持権侵害の成否)について 反訴被告装置は、上辺部分に反りが見られず、青色の二重化部分により本体部分が分断されたように見える構成であること、両端部分が三角形状に開口され、正面から見た時にほぼ垂直に構成されたものであることから、反訴原告装置の表現の本質的特徴を直接感得することができず、反訴被告装置は反訴原告の同一性保持権を侵害するものには当たらない。 4 争点(3)(反訴被告事業は、反訴原告の商品等表示として周知性を有する反訴原告装置と同一のものを使用して、反訴原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為〔不正競争防止法2条1項1号〕に該当するか。)について (1) 前記2(争点(2)アに関する当裁判所の判断)でみたとおり、反訴原告装置と反訴被告装置は、その色、曲線やくびれの形状、布の形状等、その外観の主要な点において相違しており、上記相違点が存在することにより、各装置から受ける印象は相当異なるものであることが認められるのであるから、反訴被告装置を使用して反訴被告業務等を行うことをもって、反訴原告装置と同一又は類似のものを使用し、反訴原告の営業と混同を生じさせる行為に当たるということはできない。 (2) したがって、その余の点について検討するまでもなく、反訴被告事業は不正競争防止法2条1項1号にいう不正競争行為には該当しない。 5 争点(4)(反訴被告事業は、反訴原告の商品形態である反訴原告装置を模倣した商品である反訴被告装置を譲渡等のために展示する行為〔同法2条1項3号〕に該当するか。)について (1) 前記2(争点(2)アに関する当裁判所の判断)及び前記4(争点(3)に関する当裁判所の判断)でみたとおり、反訴原告装置及び反訴被告装置は、その外観の主要な点において相違していることが認められるのであるから、反訴被告装置は、反訴原告装置を模倣したものには当たらない。 (2) したがって、その余の点について検討するまでもなく、反訴被告事業は不正競争防止法2条1項3号にいう不正競争行為には該当しない。 6 争点(5)(反訴被告事業は、反訴原告の開示した反訴原告装置に関する営業秘密を、不正の利益を得る目的をもって使用する行為〔同法2条1項7号〕に該当するか。)について (1) 不正競争防止法において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいうところ(不正競争防止法2条6項)、反訴原告装置が、平成21年7月から8月までの間、埼玉県川口市所在のイオンモールで、中に人が入ることのできる体験型装置として展示されたものであることは、前記第4の1(1)ウでみたとおりである。そして、反訴原告が営業秘密であると主張する反訴原告装置に関する情報(@反訴原告装置の長さ及び高さ、A布の強度と伸縮性、B布の張り具合、C二重化構造、D布及びロープの総重量)は、いずれも、その性質上、展示されている反訴原告製品の中に入り、又はこれに触れ、あるいは外部から観察した者が容易に認識し得る情報であるということができる。そうすると、反訴原告が営業秘密であると主張する前記情報は、反訴原告装置が前記のとおり展示されたことにより、非公知性を欠くに至ったものというべきである。 なお、反訴原告は、反訴原告装置が上記@ないしDの構造を採っている理由又は文化的意義も反訴原告の営業秘密に該当すると主張するが、反訴原告装置の制作等に当たり、技術上有用となるのは、前記@ないしDの構造に係る情報であって、これらの構造を採っている理由又は文化的意義は、その背景事情にすぎないものというべきであるから、これらの点が反訴原告の営業秘密に該当するということはできない。 (2) したがって、反訴原告の列挙する反訴原告装置に関する情報は、いずれも営業秘密に該当しないから、その余の点について検討するまでもなく、反訴被告による反訴被告事業の実施は不正競争防止法2条1項7号にいう不正競争行為に該当しない。 7 争点(6)(本件契約に基づく秘密保持義務違反の成否)について 本件契約書6条においては、反訴被告は反訴原告から提供された技術上の情報を本契約外の目的に使用しないこととされている。同条に定める技術上の情報の範囲については、本件契約書上必ずしも明らかではないが、同条の「秘密として保持し」の文言からみて、非公知の情報に限定する趣旨と解される。そして、前記6(争点(5)に関する当裁判所の判断)でみたとおり、反訴原告が営業秘密に当たると主張する反訴原告装置に関する情報は、いずれもその情報が非公知ではないとの理由で不正競争防止法2条6項に定める営業秘密に該当しないものであるから、同様の理由により、反訴原告が反訴被告に開示した技術的事項に非公知性は認められず、反訴被告に本契約書6条に定める秘密保持義務違反は認められない。 8 小括 したがって、反訴被告装置を使用した反訴被告事業の実施は、反訴原告に対する著作権(複製権)若しくは著作者人格権(同一性保持権)侵害、不正競争行為又は秘密保持義務違反(債務不履行)のいずれにも当たらないから、反訴原告の請求のうち、反訴被告装置を使用した反訴被告事業の差止め、反訴被告装置の廃棄及び前記著作権・著作者人格権侵害、不正競争行為又は債務不履行を理由とする損害賠償を求める部分は、争点(7)(損害の有無及びその額)について検討するまでもなく、理由がないことに帰着する。 9 争点(8)(本件仮処分決定の違法性の有無)について (1) 認定事実 後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 反訴原告と反訴被告は、前記第2の1(2)(争いのない事実等)でみたとおり、平成20年6月1日、本件契約を締結し、反訴原告と反訴被告との共同事業として、福岡県北九州市、三重県、東京都等において、「スペースチューブ」を使用したイベントを実施した(甲4、11、乙15、反訴原告本人)。 イ 反訴被告は、これらのイベントに引き続き、「ぐんまこどもの国児童館」において、平成21年3月20日から同年4月5日までの間、「スペースチューブ」を使用したイベントを開催することを企画し、同館との間で契約交渉を進め、平成21年2月ころ、同館との間で実施契約を締結したが、反訴原告は、反訴被告から示された上記企画内容が反訴原告の考えに沿わないものであると考えたことなどから、同年3月ころ、反訴被告に対し、上記企画の中止又は大幅な見直しを要求し、反訴被告は、反訴原告の上記要求を受けて、同月11日に、同館館長、反訴原告及び反訴被告代表者による打合せの機会を設定した。しかし、反訴原告は、同月8日ころ、同館の企画担当者に宛てて、「このままでは盗作に当たるチュービング・イベントについて。」と題し、上記企画は反訴原告に無断で進められたものであるとして企画の白紙撤回などを求める内容の電子メールを送付した(甲9の1、2、11、乙6、15)。 同館は、これを受けて、上記企画を中止した(甲11)。 ウ 反訴被告は、反訴原告に対し、同月10日付けで、反訴被告代理人弁護士名により、@上記イの経緯により反訴原告と反訴被告との間の信頼関係が破壊されたため本件契約を解除すること、A上記イで反訴原告が上記館に宛てて送付したメール中に反訴被告代表者の名誉を毀損する表現があることについて、反訴原告の謝罪を求めること、B謝罪がない場合には法的措置を執らざるを得ないことなどを記載した「通知書」を送付した(甲6)。 反訴原告は、反訴被告に対し、同年4月1日付けで、反訴原告代理人弁護士名により、上記解除には異存がないこと、反訴被告が謝罪するのであれば和解の用意があることなどを記載した上記通知書に対する回答を送付した(甲7)。 エ 反訴被告は、その後、前記第2の1(3)のとおり、反訴被告事業を開始した。 オ 反訴原告は、同年6月10日ころ、前記第2の1(4)のとおり、その管理運営するウェブサイト上に本件注意書をアップロードした。 本件注意書には、次の記載がある(甲2の1)。 (ア) エクスプローラーズ・ジャパン(以下EJ)という会社が、スペースチューブ(別名スペースチュービング)を使用したイベントを、「Kooflo」という名称を使用し、私(A)と東京スペースダンスの権利を侵害し、不正に受注しようとしています。 (イ) EJには、スペースチューブを使用したイベントを実施する権利などありません。それがあるかのように偽っています。 (ウ) 現在私の手元にもある「Kooflo」のイラストについて、スペースチューブについて知る者なら、これがスペースチューブからの盗作であることは誰にも一目瞭然です。 (エ) 私は、このようなEJによる著作権侵害の行為を許すわけにはいきません。 (オ) 「ぐんまこどもの国児童会館」に対し、EJ単独では実施する権利がないにも拘らず、今回のケースと同様に、あるかのように館を欺きました。そして、EJにとって都合のいい勝手な実施契約を結んでいました。 (カ) しかし、EJは逆に居直り、弁護士を立て私に脅しをかけてきたのです。 (キ) 私の側で弁護士を立て・・(中略)・・契約を解除すると共に、「正式な謝罪」を求める通知書をEJに送付しました。 (ク) EJの場合、不正な盗作であることは、この間の事情を知る者にとっては誰にも明白なことです。 (ケ) EJに対しては、スペースチューブは「先使用権」に守られた私と東京スペースダンスの権利であること、スペースチューブを「Kooflo」等の名称で偽装し不正な受注を図ることは許されないこと・・(中略)・・を、弁護士を通じて通告しています。 カ なお、前記(ウ)の「『Kooflo』のイラスト」との文言は、赤字で記載されており、同文言をクリックすると、4人の子供及びその指先や膝先、手首の先などに曲線が描かれ、左下に「Kooflo」の文字が記載されたイラスト(甲2の2。以下「本件イラスト」という。)が表示される(甲2の2、弁論の全趣旨)。 キ 反訴被告は、前記第2の1(5)アのとおり、本件注意書の上記(ア)ないし(ケ)の記載は虚偽のものであり、本件注意書のアップロードは不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当すると主張して本件仮処分命令を申し立て、同年7月14日、反訴原告に対し、本件注意書の削除を命ずる本件仮処分決定がされた(甲11、12)。 (2) 検討 ア 前記前提事実オの本件注意書の記載内容のうち、(ア)、(イ)、(エ)、(ク)及び(ケ)の記載は、反訴被告による反訴被告事業の実施が、反訴原告装置に関する反訴原告の著作権等の権利を侵害する違法なものであることを内容とする記載であると解されるところ、反訴被告による反訴被告事業の実施が、反訴原告の著作権若しくは著作者人格権侵害、不正競争行為又は秘密保持義務違反(債務不履行)のいずれにも当たらないことは前記のとおりであるから、前記(ア)、(イ)、(エ)、(ク)及び(ケ)の記載は虚偽の部分を含むものである。 イ また、本件注意書の記載内容のうち、前記オ(ウ)の記載中で「スペースチューブからの盗作である」と記載された本件イラストは、反訴原告と反訴被告の共同事業として実施された前記前提事実ア記載のイベントにおいて撮影された写真を基に、反訴被告の依頼に基づき描かれたものであると認められるが(甲10の1・2)、本件イラストの表現内容が前記前提事実カのとおりのものであることに照らし、本件イラストが反訴原告装置を複製したものに当たらないことは明らかであり、他に本件イラストが反訴原告の権利を侵害するものであることを認めるに足りる証拠はない(なお、反訴原告は、本件イラストが上記のとおり反訴原告装置を撮影した写真を基にして描かれたものであることから、本件イラストが反訴原告の反訴原告装置についての著作権を侵害する旨主張するものであると解されるが、本件イラストは、前記前提事実カのとおり、4人の子供及びその指先や膝先、手首の先などに曲線が描かれたものであり、本件イラストは反訴原告装置を有形的に再製したものでも、反訴原告装置の本質的特徴を感得することができるものでもないことは明らかである。)。したがって、前記(ウ)の記載も虚偽のものに当たる。 ウ さらに、前記オ(オ)、(カ)及び(キ)に記載された本件契約の解除の経緯等に関する記載のうち、反訴被告が反訴原告を脅した旨の記載は、前記前提事実イ及びウの反訴原告と反訴被告との間における通知及び回答の各内容に照らし、事実経過に沿わないものであるというべきである。 エ 反訴原告と反訴被告は、体験型の展示装置を使用したイベントの実施を行う点で競争関係にあるものと認められるところ、以上のとおり、本件注意書は、前記アないしウの点で、虚偽の内容を含むものであると認められる。そして、本件注意書の前記記載は、反訴被告事業が反訴原告の権利を侵害する違法なものであり、又は、反訴被告が反訴原告を脅すなど不当な経緯により事業をするに至った旨を、本件注意書を見る不特定多数の者に印象付けるものであって、反訴被告の営業上の信用を害するものである。よって、反訴原告による本件注意書のアップロードは、虚偽の事実を流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に当たるものであると認められる。 オ そうすると、反訴被告の本件仮処分命令申立てを相当と認め、反訴被告に150万円の担保を立てさせて、本件注意書の削除を命じた本件仮処分命令に違法な点はないものと認められる。 10 小括 したがって、反訴原告の請求のうち、本件仮処分の違法性を理由として損害賠償を求める部分は、争点(9)(本件仮処分決定による損害の有無及びその額)について検討するまでもなく、理由がないことに帰着する。 第5 結論 以上のとおり、反訴原告の請求は、反訴原告装置につき著作権が存在することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余についてはいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋 裁判官 小川雅敏 裁判官 森川さつき |
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