判例全文 | ||
【事件名】TBS「愛の劇場」テーマ曲事件(2) 【年月日】平成23年8月9日 知財高裁 平成23年(ネ)第10030号 不当利得返還請求控訴事件 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第43011号) (口頭弁論終結日 平成23年6月15日) 判決 控訴人 X1 控訴人 X2 上記2名訴訟代理人弁護士 里見剛 被控訴人 株式会社TBSテレビ 訴訟代理人弁護士 大橋正春 同 村尾治亮 同 木嶋望 同 岡崎洋 同 前田俊房 同 渡邊賢作 同 新間祐一郎 主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人X1に対し、924万2100円及びうち別紙「利息一覧表」の「控訴人X1分」欄に記載の各金員に対する同別紙の「利息の起算日」欄に記載の各日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人X2に対し、396万0900円及びうち別紙「利息一覧表」の「控訴人X2分」欄に記載の各金員に対する同別紙の「利息の起算日」欄に記載の各日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言 第2 事案の概要及び当事者の主張等 1 事案の概要 (以下、控訴人(原審原告)X1を「原告X1」、控訴人(原審原告)X2を「原告X2」、被控訴人(原審被告)を「被告」といい、原審において用いられた略語は、当審においてもそのまま用いる。) 原告らは、東京放送の製作するテレビ番組のオープニングテーマとして使用された楽曲の作曲者である。原告らは、同楽曲の使用が開始された平成16年1月1日から平成18年3月31日までの間、原告らの許諾を得ずに本件楽曲が使用されたと主張して、会社分割により東京放送の権利義務を包括的に承継した被告に対し、上記楽曲の上記期間における使用に対する使用料相当額の不当利得の返還及びこれに対する民法704条所定の法定利息の支払を求めた。 原審が原告らの請求を全て棄却したため、これを不服とした原告らが、原判決の取消しを求めて、本件控訴を提起した。 2 争いのない事実等及び争点 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」及び「2 争点」(原判決2頁14行目ないし4頁8行目)の記載を引用する。 ただし、原判決3頁20行目の「本件使用に係る」を削除する。 3 争点に関する当事者の主張 次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「3 争点に関する当事者の主張」(原判決4頁9行目ないし10頁末行目)の記載を引用する。 原判決6頁15行目の後に、行を改めて、次のとおり付加する。 「ウ 東京放送が原告らに対して支払うべき使用料額は、専ら東京放送ないしケネック社と原告らとの契約によって定まる性質のものである。原告らが日音を通じて、本件楽曲の著作権をJASRACへ信託譲渡した後、平成18年4月1日から平成20年3月31日までの間に、原告らが約522万円(信託者である日音がJASRACから受領した著作権使用料1173万5997円から、JASRACの手数料を控除した額の2分の1)の著作権使用料を受領した経緯があったとしても、同金額は、本件楽曲の著作権がJASRACへ信託譲渡され、JASRACの著作権者に対する著作物使用料分配規程によって算定された結果、原告らが支払を受けることができたものであって、東京放送ないしケネック社と原告らとの間で締結した契約に係る使用料が不自然に低額であるということはない。」 原判決8頁6行目の後に、行を改めて、次のとおり付加する。 「オ 以下のとおり、原告らがケネック社から支払を受けた20万円に本件楽曲の使用料が含まれていると解することはできない。 (ア) 原告X1は、別紙実費一覧表記載のとおり、本件楽曲制作のために実費として約20万円支出しており、その支出項目は、楽曲制作の際に通常要する費用と合致している。 さらに、原告X1は、本件楽曲の制作に関して果たした役割からすれば、本来プロデューサー料、企画構成費、企画諸掛費も受領してしかるべきである。それにもかかわらず、原告X1がこれらを受領せずに本件楽曲を制作したのは、20万円とは別に、本件楽曲の使用料を受領する意思があったからである。 (イ) 楽曲の使用料は、楽曲の長短を基準に決定されるものではなく、作曲者の知名度や実績、楽曲の使用形態に基づき決定されるものである。 (ウ) 20万円に本件楽曲の使用料が含まれているとすると、原告X1が手がけた他の案件と比較しても、不自然なほど低額である。 (エ) ケネック社が原告らに支払う金員の額は、原告X1とケネック社のA(以下「A」という。)が協議の上決定したものであるが、Aは、著作権に関する権利処理ないし著作権使用料に関する交渉は担当していない。 しかも、20万円というのは、本件楽曲の制作に要した費用(実費)を割り込まない金額ということで合意された。 (オ) 本件楽曲については本件譲渡契約が締結され、本件楽曲の全使用期間のうち平成18年4月1日から平成20年3月31日までの使用料は1173万5997円であった。平成16年1月1日から平成18年3月31日までの使用料が20万円に含まれているとすると、本件楽曲の使用形態・使用頻度は同一であるにもかかわらず、使用期間により使用料が大きく異なることとなり、不自然である。 (カ) 委嘱楽曲であっても、委嘱料の他に著作権使用料が発生することを前提とした合意が慣行としてなされている。」 第3 当裁判所の判断 当裁判所は、本件控訴はいずれも理由がなく、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」(原判決11頁1行目ないし15頁20行目)記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決11頁4行目の「38、」の後に「52、」を付加する。 原判決13頁26行目の「本件使用に関する使用料について」を「本件楽曲の使用に対する使用料として」と、14頁3行目の「本件使用に関する」を「本件楽曲の使用に対する」と、同頁4行目の「これを」を「その2分の1を」と訂正する。 原告判決14頁20行目の「部分があるが、これを裏付けるに足りる客観的証拠はなく、前掲各証拠に照らし」を「部分があり、また、Bの陳述書(甲50)には、原告X1が、本件楽曲の制作は買い取りではなく、印税が支払われるので条件がいいと説明していたという趣旨の記載がある。しかし、これを裏付けるに足りる客観的証拠はない上、Cは、原告X1からそのようなことを言われた記憶はない旨、上記主張に反する供述をしている(乙7、証人C)。また、原告X1は、本件楽曲の制作中及びその直後の時期には、Cに対し、何度も上記意向を伝え、念を押しており、平成16年4月ころには、Cに対し、東京放送に著作権使用料の話をしてもらえたかと聞いたこと、一方、ケネック社や東京放送に対して、一度も使用料の請求をしたことはないことを供述する。しかし、原告X1が、使用料の請求を一度もしたことがないにもかかわらず、何度もCに対して、上記意向を伝えて、念を押していたとは考えにくい。これらの事情を総合すると、本件楽曲制作時には上記意向を伝えていたという原告X1の供述部分は」と訂正する。 原判決15頁18行目の後に、行を改めて、次のとおり付加する。 「(3)ア 原告らは、平成16年1月から本件楽曲が使用されていることを認識していたにもかかわらず、平成20年12月までの5年間、東京放送に対し本件楽曲の使用料を請求しなかった理由として、使用料の件はケネック社から東京放送に伝わっていると考え、東京放送のような大企業が使用料を支払わないということはあり得ないと思い、また、使用料の話を急がせれば、東京放送から本件楽曲の使用を打ち切られてしまうのではないかと心配したからであると主張し、原告X1は、陳述書(甲38、53)及び本人尋問において、これに沿った供述をする。 しかし、原告X1の上記供述は、採用することができない。原告X1は、それまで、楽曲制作時に一括して著作権使用料を受領したことも、楽曲の著作権を譲渡した上で、使用に応じて著作権使用料の支払を受けたこともあり、楽曲制作の依頼を受ける際には、著作権の権利処理方法及び対価について必ず考え、相手方に対して、著作権の権利処理及び対価についての交渉をするなど(甲38)、著作権の権利処理や対価については高い関心があり、また、楽曲制作時に一括して著作権使用料が支払われることがあることも認識していたと認められる。原告X1が、上記のような知識、経験を有していた点に照らすならば、東京放送が本件楽曲の使用を開始した後、長期間にわたって、使用料の支払を受けなかったにもかかわらず、使用料の請求をすることも、支払の確認もしなかった理由は、原告X1とケネック社との合意の内容として、同原告が東京放送が本件楽曲を使用することを許諾し、その際に受領した前記の20万円の金額中に、本件楽曲の使用料が含まれていたことを認識していたからであると解するのが自然である。さらに、原告X1は、平成18年4月1日付けで本件譲渡契約を締結した際にも、それ以前の本件使用に対する使用料の支払について何の確認等も行っておらず、その後、同日以降の本件楽曲の使用に対する著作権使用料が日音から支払われた後においても、それより以前の本件楽曲の使用に対する使用料の支払について、使用料の請求や確認は、一切行っていない(甲38、原告X1本人)。原告X1が、同原告と東京放送ないしケネック社との間の合意によって、平成16年1月1日分から使用料の支払を受けられる権利を有していたと認識、理解していたのであれば、東京放送ないしケネック社側の認識を確認することすらしなかった点について、合理性な説明がなされていないというべきである。上記の事実経緯に照らすならば、前記のとおり、東京放送を信用したために使用料の請求をしなかったという原告X1の供述は採用することができない。また、20万円とは別途に使用料を支払うことが許諾の停止条件になっていたと解することもできない。 また、原告X1は、本件楽曲の使用を打ち切られてしまうのではないかと心配して、東京放送に使用料の請求を行わなかったと供述する。しかし、上記供述は、原告らの主張と相容れない供述であって、到底採用の限りでない。すなわち、原告らの主張によれば、原告X1とケネック社ないし東京放送と締結した合意の内容は、停止条件が成就しない限り、東京放送には本件楽曲を使用する権限がないというものであるから、原告らの主張を前提にする限り、打ち切られてしまうことを配慮する余地はないというべきである。結局、使用料の請求をしなかった理由は、原告X1は、東京放送が本件楽曲を使用することを許諾していたからであると解するのが合理的である。 イ 原告らは、本件楽曲制作のための実費として別紙実費一覧表記載のとおり約20万円支出していることから、ケネック社から支払を受けた20万円に本件楽曲の使用料も含まれていると解することはできないと主張する。 原告X1が、@平成15年12月29日にDに3万円、A平成16年1月28日にEに1万1000円、B同年3月12日に原告X2に7万円、C同月19日に株式会社モリダイラ楽器に1万8795円、D同年4月3日にFに3万円支払っていることは認められる(甲17ないし21、34、35、53)。@は中古の録音用機材の購入代金、Aは中古のバックアップ用機材の購入代金、Cはバックアップ用機材の整備費ということであり(甲20、34、53)、これらの機材を購入又は整備した契機が本件楽曲の制作であったとしても、原告X1はこれらの機材をその後も楽曲の制作等に使用したり、さらに第三者に売却したりすることが可能である点を考慮するならば、その購入代金や整備費用全額が本件楽曲制作に要した金額とはいえない。原告提出の音楽制作費御見積書(甲39)にも、機材の購入代金や整備費用は見積もりの項目として列記されていない(なお、機材の購入代金は「録音テープ料」には当たらない(甲40)。)。 以上のとおり、本件楽曲制作のために約20万円の全額を要したと認めることはできない。 ウ また、原告らは、本件楽曲は7 秒程度のものであるが、楽曲の使用料は楽曲の長さを基準に決められるものではないこと、本件楽曲の使用料がケネック社から支払われた20万円の一部として含まれるとすると、低額にすぎることから、本件楽曲の使用料は、いまだ支払われていないと主張する。 しかし、原告らの主張は、以下のとおり採用の限りでない。すなわち、原告X1がイベント用音楽を制作した際に合意した使用料の事例(111万円余から177万円余)(甲41ないし45、49)は、楽曲の長さや演奏された回数等は明らかではないものの、7秒より長い楽曲であり、イベント会場において通常の態様で繰り返して演奏されることを想定していたものと推測される。 そして、本件楽曲が7秒程度のごく短いものであること、本件楽曲が毎週月曜日から金曜日まで、タイトルバック音楽としてテレビ放送されるものであること等を総合考慮するならば、20万円は、上記の他の楽曲制作の事例と対比して、本件楽曲の使用料を含めた金額として不当に低額であるともいえない。 エ 原告らは、平成16年1月1日から平成18年3月31日までの使用料が20万円に含まれているとすると、本件楽曲の使用形態・使用頻度は同一であるにもかかわらず、平成18年3月31日までとその翌日以降とで使用料が大きく異なることとなり、不自然であると主張する。 しかし、平成18年3月31日までの本件使用に対する使用料は原告らと東京放送との合意内容により決まるのに対し、その翌日以降の使用料は、JASRACの定める著作物使用料分配規定に基づいて分配されるものであり(乙8)、その金額が異なるとしても、必ずしも不合理とはいえない。 その他、原告らは縷々主張するが、前記認定事実等に照らし、いずれも採用できない。」 第4 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件各請求はいずれも理由がない。よって、原告らの本件請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 知野明は差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官 飯村敏明 別紙 利息一覧表
別紙 実費一覧表
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