判例全文 line
line
【事件名】「ウルトラマン」商品化事件(2)
【年月日】平成23年7月27日
 知財高裁 平成22年(ネ)第10080号 譲受債権請求承継参加申立控訴事件
 (原審 東京地裁平成21年(ワ)第6194号、被参加事件 平成18年(ワ)第10273号)
 (口頭弁論終結日 平成23年5月9日)

判決
控訴人・被控訴人(第1審脱退原告承継参加人) ユーエム株式会社
訴訟代理人弁護士 山崎順一
同 今村憲
同 酒迎明洋
被控訴人・控訴人(第1審被告) 株式会社円谷プロダクション
上記補助参加人 株式会社バンダイ
被控訴人・控訴人(第1審被告)及び補助参加人訴訟代理人弁護士 遠山友寛
同 塚原朋一
同 水戸重之
同 千葉尚路
同 柴野相雄
同 鈴木優
同 坂井はるか
被控訴人・控訴人(第1審被告)訴訟復代理人及び補助参加人訴訟代理人弁護士 原雅宣
第1審脱退原告 X


主文
1 原判決中被控訴人・控訴人(第1審被告)敗訴部分を取り消す。
 控訴人・被控訴人(第1審脱退原告承継参加人)の請求を棄却する。
2 控訴人・被控訴人(第1審脱退原告承継参加人)の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも控訴人・被控訴人(第1審脱退原告承継参加人)の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人・被控訴人(第1審脱退原告承継参加人)(以下「参加人」という。)の控訴の趣旨
(1) 原判決中参加人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人・控訴人(第1審被告)(以下「被告」という。)は、参加人に対し、更に3400万円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告の控訴の趣旨
 主文第1項と同旨。
第2 事案の概要
 以下、略語は、原判決と同様のものを用いる。また、原判決の別紙第一目録、第二目録及びウルトラマンキャラクター一覧表(別紙一覧表)を、いずれも引用する。
 本件は、参加人が、別紙第二目録記載の各著作物(本件著作物)の著作権者である被告に対し、@第1審脱退原告(脱退原告)は、別紙第一目録添付の契約書(本件契約書)に記載された内容の契約(本件契約)に基づき、被告から、本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(本件独占的利用権)の許諾を受けた、A被告は、日本以外の国において、第三者に対し、本件著作物や、同著作物の製作後に被告が製作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している、B上記Aの被告の行為は、本件契約に違反するものであり、被告は、脱退原告に対し、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記Aの第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う、C参加人は、脱退原告から、上記の損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた、と主張して、上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求(選択的請求)として、1億円及びこれに対する平成18年5月26日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は、民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。
 原判決は、参加人主張の被告の債務不履行のうち、被告が、バンダイ(当審における被告補助参加人。以下「補助参加人」という。)に対し、平成8年9月1日から平成9年12月31日まで、別紙一覧表記載(1)の各キャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)に属する5個のキャラクターについて韓国等の外国における利用権をライセンスし、当該ライセンス期間を現在に至るまで更新している行為が本件契約の債務不履行に当たり、脱退原告にライセンス料相当額の損害が発生しており、かつ、当該ライセンス料相当額について脱退原告に損失が生じ、被告が利得したと認定した上、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権については一部商事消滅時効が成立するため、不当利得返還請求権に基づく認容額の方がより高額であるとして、参加人の請求のうち、被告に対する不当利得返還請求に基づき1636万3636円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。
 参加人及び被告は、それぞれ控訴し、控訴の趣旨記載の判決を求めた。なお、参加人の控訴の趣旨(上記第1の1)は、原判決中参加人敗訴部分である損害賠償金又は不当利得金8363万6364円及びこれに対する年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は、年5分の割合による法定利息。)の請求のうちの一部である3400万円及びこれに対する年5分の割合による金員の支払請求についてのみ控訴するというものである。
1 争いのない事実等
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」(原判決3頁4行目から7頁26行目まで)記載のとおりであるから引用する。
2 争点
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 争点」(原判決8頁1行目から10行目まで)記載のとおりであるから引用する。
3 争点に対する当事者の主張
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点に対する当事者の主張」(原判決8頁11行目から39頁8行目まで)記載のとおりであるから引用する。
4 当審における当事者の主張
(1) 脱退原告と補助参加人との契約について
ア 被告及び補助参加人の主張
 脱退原告外2者と補助参加人とは、平成10年1月29日付けで、次の契約(以下、「平成10年契約」という。)を締結した。平成10年契約に基づき、タイ王国の法律に基づいて設立されたチャイヨ・シティ・スタジオ・リミテッド・パートナーシップ、同国の会社であるツブラヤ・チャイヨ・カンパニー・リミテッド及び脱退原告(以下、上記三者を「チャイヨ」という場合がある。)において、以下の@、Aを約し、その対価として、補助参加人から1億円を受領した。すなわち、
@ チャイヨ、その関連会社、子会社は、本件契約書記載の一切の権利(以下、「チャイヨ権利」という。)に関し、以下のとおり(@)現在又は将来に亘って、バンダイ・グループ(補助参加人、その関連会社、子会社、ライセンシー、サブライセンシー、契約者、製造業者、販売代理店、二次販売代理店、エージェント、代表者、役員、従業員、株主、権利承継人、譲受人、又はこれらのために仕事をしているその他一切の個人・法人を指す。以下同じ。)に対して想定されるいかなる権利の行使も放棄する。(第2.3条 権利の行使の放棄・免除)
A チャイヨは、平成10年契約の有効期間中、いかなる国・地域においても、チャイヨ権利をライセンスし、譲渡し、質入し、その他の担保に供し又は処分する行為をしないことを保証し表明する。(第2.6条 譲渡及び担保差入)
 平成10年契約が締結されたことにより、(ア)ないし(エ)のとおり、脱退原告から権利を譲り受けたと主張する参加人の被告に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求は、いずれも根拠を欠くに至った。すなわち、
(ア) 脱退原告に「損害」、「損失」が発生していない。
 平成10年契約が締結されたことにより、脱退原告は、本件契約上の権利に関し、第三者に対しライセンスを付与する権利を放棄した上、補助参加人がウルトラマンキャラクターを利用することを許諾し、その対価として1億円(ライセンス料を含むと解釈される。)を受領しているのであるから、補助参加人又はその他の第三者から、本件契約上の権利に関し、ライセンス料を受領する地位ないし根拠を失ったことになる。
 したがって、脱退原告において、被告の本件契約の債務不履行による「損害」又は被告の不当利得による「損失」は発生しない。
(イ) 被告がウルトラマンに関するライセンスを第三者に対して付与する行為は、債務不履行における違法性を欠くことになる。
 平成10年契約によれば、脱退原告は、「バンダイ・グループ」に対し、本件契約上の権利行使を一切放棄する旨を約しており、「バンダイ・グループ」とは、補助参加人のみならず、その関連会社、子会社、ライセンシー、サブライセンシー、契約者、製造業者、販売代理店、二次販売代理店、エージェント、代表者、役員、従業員、株主、権利承継人、譲受人、またはこれらのために仕事をしている一切の個人・法人を含むものとされている。被告は、平成10年契約締結当時から補助参加人と取引関係を有し、補助参加人は、同契約締結当時から被告の株式を一定割合保有していたから、被告も「バンダイ・グループ」に含まれると解するのが合理的である。そうすると、脱退原告は、平成10年契約の第2.3条(@)において、被告に対しても、本件契約上の権利の行使を一切放棄したと解するのが合理的である(なお、被告は平成10年契約の当事者ではないが、脱退原告による権利放棄の意思表示のみで、バンダイ・グループに含まれる被告との関係でも、債務免除の法的効果を生ずると解すべきである。)。
 したがって、被告がウルトラマンに関するライセンスを第三者へ付与する行為については、脱退原告が、本件契約上の権利に基づく責任追及をしない旨を表明し、権利を放棄したと解されるから、債務不履行の要件である「違法性」を欠く。
(ウ) 被告は、ウルトラマンキャラクターに関して、第三者からライセンス料を得ることに、法律上の原因を有することになる。
 本件契約上のウルトラマンキャラクターに関する著作権は、全て被告に帰属するから、被告は、ウルトラマンキャラクターに関し、第三者からライセンス料という「利得」を得るに当たって、著作権という正当な「法律上の原因」を有することになる。
 この点、参加人は、脱退原告が本件契約上の独占的利用権を有しているとして、被告が第三者へライセンスを付与する権利を有しないなどと主張するが、脱退原告は、平成10年契約の第2.3条(@)において、被告を含む「バンダイ・グループ」に対し、本件契約上の権利行使をすることを一切放棄しているから、脱退原告は、「独占的利用権」のみならず、通常の利用権を含めて何らの利用権も有しておらず、著作権者たる被告がライセンスを付与するに当たり、障害はない。
 したがって、本件契約を根拠として、被告のライセンス付与行為が「法律上の原因」に基づかないということはできない。
(エ) 脱退原告から参加人への権利譲渡は無効である。
 平成10年契約の第2.6条には、脱退原告が、チャイヨ権利を第三者へ譲渡しないことを約する譲渡禁止特約がある。
 本件の訴訟物は、被告が本件契約上の権利を侵害したことを根拠とする債務不履行に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権であり、脱退原告の本件契約上の権利(チャイヨ権利)に基礎づけられた請求権といえるから、上記譲渡禁止特約の効果は、上記各請求権にも及ぶ。また、参加人は、本件契約上の権利と一体のものとして上記各請求権を脱退原告から譲り受けたと解されるから、平成10年契約の譲渡禁止特約の効力は、本件契約上の権利のみならず、参加人がこれと一体として譲り受けた上記各請求権にも及ぶというべきである。
 したがって、脱退原告から参加人への上記各請求権の譲渡は、平成10年契約の第2.6条に定める譲渡禁止特約に反し無効であり(民法466条2項本文)、参加人は、補助参加人の承諾なしに上記各請求権を取得することはできず、これらを行使することは認められない。
 なお、平成17年ころ、本件の参加人代理人である山崎順一弁護士は、既に平成10年契約の存在及び内容を把握していたから、同弁護士は、脱退原告が参加人に上記各請求権を譲渡したとされる平成20年12月24日の時点では、平成10年契約に定められた譲渡禁止特約の存在及び内容について悪意であった。そうである以上、参加人は、民法466条2項ただし書により上記譲渡禁止特約の適用を免れないというべきである。
イ 参加人の認否及び反論
 平成10年契約の締結及びそれに基づく金銭の授受の事実は争わないが、参加人の被告に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求は理由がないとする被告の主張は争う。
(ア) 脱退原告に「損害」、「損失」が発生していないとの主張に対し
a まず、被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約@を締結した平成8年9月1日から、平成10年契約締結日である平成10年1月29日の前日までの1年4か月間については、同契約の効力は及ばないから、脱退原告が本件契約上の権利に関しライセンス料を受領する機会を有しないとする被告の主張は妥当しない。
b 次に、平成10年契約締結日以降についても、以下のとおり、同契約の存在によって脱退原告に損害ないし損失が発生しないとはいえない。
(a) 平成10年契約により、脱退原告が補助参加人に対して負担した債務の内容は、補助参加人の事前の承諾なく他者にライセンスをしないとの義務にすぎない。平成10年契約は、そのような内容である以上、補助参加人が、予め一切の承諾を拒否する意思であったということはあり得ず、承諾を与える可能性があることを前提として、契約を締結したとものと解すべきである。したがって、脱退原告が、平成10年契約締結によって、本件契約に基づくライセンス権を放棄したとの被告の主張は根拠がない。
 また、平成10年契約は、脱退原告と補助参加人との間における債権契約であって、対世的ないし物権的な権利放棄ではないから、契約外の第三者たる被告はその効果を主張できない。
 さらに、平成10年契約においても、本件契約のうち、第1条1.1(ジャイアント対ジャンボ・エース)、1.2(ハルマン・アンド・ザ・セブンウルトラマン)、第3条3.2(Production Right 制作権)、3.3(3.3 Reproduction Right 複製権)、3.4(Copyright 著作権)、3.5(Trademark 商標)及び3.8(Transfer the rights mentioned above to the third person 上記の権利の第三者への譲渡)等は、平成10年契約による脱退原告の権利に対する制約から除外されており(第2.6条)、同契約が脱退原告による全面的権利放棄ではないことは明らかである。
 したがって、脱退原告が、本件契約に基づく日本国外における独占的利用権を争うことが許されない被告との関係において、第三者に対しライセンスを付与し、ライセンス料を得る機会を有していなかったとはいえない。
(b) 脱退原告が、平成10年契約に基づき補助参加人から受領した1億円は、補助参加人に対しウルトラマンキャラクターを利用することを許諾する対価ではない。
 補助参加人は、本件契約上の脱退原告の権利と抵触する権利の許諾を被告から受けているところ、上記金銭は、補助参加人が被告からの許諾による事業を行うことにつき、脱退原告が民事上・刑事上の制裁を求める行為を行わないことに対する対価として支払われたものである。すなわち、平成10年契約締結時に、脱退原告と被告との間のウルトラマンに関する著作物の著作権及び利用権に係る訴訟が日本とタイ王国の両国において係属中であり、補助参加人が被告から本件契約と抵触するライセンスを受けたとの事実関係が存在し、脱退原告が本件契約上の独占的利用権者であることが確定した場合、補助参加人は、ウルトラマンに関する著作物の日本国外での利用について被告から適法なライセンスを得ることができなくなり、脱退原告から具体的な許諾を得ない限り、著作物の利用行為を行う権原を失うことになるため、平成10年契約において、脱退原告が補助参加人に対して刑事・民事上の制裁を課す行為を行わないことを約束したものである。
 平成10年契約に基づいて脱退原告が受領した金銭は、脱退原告の補助参加人に対する不作為約束の対価という限りでライセンス料の性質を帯びるとしても、唯一の正当なライセンサーとして得られた著作物利用権についてのライセンス料ということはできないから、脱退原告としては、平成10年契約に基づく金銭の受領にかかわらず、被告が補助参加人から得たライセンス料に相当する金額を、補助参加人から更に得る機会がなかったとはいえない。
 したがって、脱退原告において、補助参加人(又はその子会社)から具体的な許諾品について改めてライセンス料を得る機会を失ったとはいえない。
(イ) 被告がウルトラマンに関するライセンスを第三者に対して付与する行為は、債務不履行における違法性がないとの主張に対し
 平成10年契約は、脱退原告と被告との間でウルトラマン著作物の著作権及び利用権に係る訴訟が日本とタイ王国の両国において係属している時に締結されたが、締結当時、補助参加人は既に被告の株主であり、かつ、被告と取引関係にあった。仮に、被告が「バンダイ・グループ」に該当するとすれば、平成10年契約締結と同時に、脱退原告が被告との間で係属中の訴訟において権利を主張することが、同契約に違反する行為となり、不合理であるから、被告が「バンダイ・グループ」に属するとの解釈が、平成10年契約の当事者の意思ではないことは明白である。
(ウ) 被告がウルトラマンキャラクターに関し、第三者からライセンス料を得ることは、法律上の原因があるとの主張に対し
 本件契約によれば、日本以外の国についてライセンスを付与する権利は脱退原告にあり、被告はその権利を有していないから、被告が著作権者か否かにかかわらず、被告が本件契約に反して第三者との間でライセンス契約を締結しライセンス料を取得したことが、脱退原告との関係で法律上の原因がないことは当然である。
 また、上記のとおり、脱退原告は、平成10年契約において、本件契約に基づく独占的利用権を放棄しておらず、被告は平成10年契約上の「バンダイ・グループ」に含まれないから、脱退原告は被告に対し権利不行使を約するものではなく、脱退原告が、平成10年契約によって、被告に対する関係で本件契約上の地位を失ったということはあり得ない。
 本件契約によれば、被告は、日本以外の国において旧ウルトラマンの著作物を利用する権原を有しておらず、日本以外の国において旧ウルトラマンの著作物の利用から経済的利益を得る権原を有しないから、独占的利用権者である脱退原告による利用行為や契約関係に対して、著作権者として権利ないし経済的利益を主張することはできないというべきである。
(エ) 脱退原告から参加人への権利譲渡は無効であるとの主張に対し
 平成10年契約上、譲渡禁止特約の対象は「チャイヨ権利」、すなわち本件契約上の権利のライセンシーとしての地位であるが、本件の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権は平成10年契約に基づいて発生した債権ではないから、譲渡禁止の対象でない。
 仮に、平成10年契約において、本件の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権が譲渡禁止の対象であるとしても、本件の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権の債権者である脱退原告と、債務者である被告との間に、譲渡禁止特約は存在しないから、当該譲渡の効力が被告との間で問題となることはない。
 なお、平成10年契約の存在及び内容に関する参加人代理人の認識が、譲渡禁止特約や譲渡の効力に影響を与えるものではない。脱退原告から参加人への本件契約に基づく独占的利用権及び被告に対する損害賠償請求権ないし不当利得請求権の譲渡は、脱退原告と参加人代表者との間の長年の信頼関係を基礎として、脱退原告の意志を継いだAと参加人の協議により合意されたものであり、参加人代理人は当該合意形成の過程においていずれの側も代理していないため、その認識と、両当事者の認識とは関係がない。また、参加人代理人が、参加人の代理人となったのは、上記の譲渡が行われた後であり、本件の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を譲り受けた当時、参加人は平成10年契約の存在及びその内容について善意であった。
(2) 相殺(予備的抗弁)について
ア 被告の主張
(ア) 脱退原告は、直接又はチャイヨ社を通じて、タイ王国において新ウルトラマンキャラクターを用いた事業を長期間に亘り継続しており、これにより脱退原告が得たライセンス料の合計額は、日本円に換算すれば、控訴審における参加人の主たる請求金額(5036万3636円)を下らない。
 脱退原告は、新ウルトラマンキャラクターに係る著作権の使用について、何らの権原を有しないから、脱退原告が、著作権者である被告に無断で、第三者との間で新ウルトラマンキャラクターを対象とするライセンス契約を締結する行為は、被告の著作権を侵害する違法な行為である。したがって、被告は、脱退原告に対し、上記違法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を有する。
 そこで、被告は、仮に、脱退原告又は参加人の損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権が認められた場合に備え、脱退原告に対して有する上記損害賠償請求権を自働債権として、参加人の主たる請求金額(5036万3636円)の限度で、対当額において相殺することを予備的に主張する。
(イ) 参加人の主張に対する反論
 参加人は、被告の相殺の予備的抗弁の主張及び乙54ないし65の申出について、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである旨主張する(後記イ)。
 しかし、参加人の主張は失当である。相殺の抗弁は、請求原因が認められることを仮定した予備的な抗弁である。すなわち、相殺の抗弁は、請求原因事実の主張、立証がされた場合に備えて、反対債権の存在を主張することによって、請求金額を減殺するための主張であるから、その性質上早期に提出することが期待できない。本件は、請求原因事実において、参加人の権利者性が問題になっており、損害発生の点について立証がなされていない状況であるから、損害額を減ずるための相殺の抗弁を提出することは訴訟活動として得策ではないと考えるのは当然である。本件において、相殺の予備的抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当たらないことについての詳細な理由は、以下のとおりである。
a 「時機に後れた提出」の点に対し
 「時機に後れて」といえるか否かは、より以前の適切な時機にその攻撃防御方法を提出することが期待されたか否かによって決定され、当該攻撃防御方法を提出するより早期の適切な時機が存在したか否かは、いかなる争点が重点的に審理され、どのように審理が推移したかにより判断されるべきである。
 被告は、原審の第32回弁論準備手続期日において、参加人の請求は請求原因事実の主張、立証がなされているとはいえないと判断しつつも、念のため、相殺の予備的抗弁の主張をした。同期日に至るまでの審理経過では、損害論についての実質的な審理は全く行われておらず、参加人の原告適格性、すなわち債権譲渡行為の有効性、要件事実の主張、立証、2つの訴訟物の関係の整理、準拠法をめぐって争点整理がなされている状況であり、証人尋問等も行われておらず、参加人が請求権者であるか否か、その債権譲渡の要件事実の主張立証も果たされていなかったから、被告にとって実質敗訴を意味する相殺の予備的抗弁を提出することが期待できる審理状況になかった。したがって、原審における被告の相殺の予備的抗弁の提出が時機に後れたとはいえない。
 また、被告が原審において相殺の予備的抗弁の主張を提出した時点で、口頭弁論期日は1回しか行われておらず、弁論準備手続による争点整理の結果陳述も行われていなかった。民事訴訟法は、弁論準備手続終結後の攻撃防御方法の提出について、弁論準備手続の終了前に提出できなかった理由に関する説明義務を規定するが、弁論準備手続中に提出された攻撃防御方法については、失権効はもちろん説明義務も課していない。この点からも、弁論準備手続中に提出された相殺の予備的抗弁は、却下されるべきではなかった。
 さらに、相殺の抗弁における自働債権は、脱退原告のタイ王国における違法ライセンス行為に基づく損害賠償請求権であり、被告にとって、脱退原告の違法行為は外国で行われているため、その事実関係の調査、証拠収集、損害賠償額の算定、翻訳、法律上の検討等に多大な労力と時間を要するところ、本件訴訟は、相殺を待たずに脱退原告ないし参加人の請求が棄却される可能性が大いにあったから、敢えて相殺の予備的抗弁の提出を早期に準備すべき状況にあったとはいえない。
 加えて、脱退原告は、被告に秘して、タイ王国において違法とされるライセンス行為を行っており、違法行為に基づく損害賠償債務を免れるために、時機に後れた攻撃防御方法を主張することは、訴訟上の信義則に反し、かつ、権利濫用である。
 証拠についても、タイ王国から多数の関係者を経由して取り寄せ、かつ、タイ語を翻訳して内容を精査する必要があった。このような証拠の所在の把握の困難性、入手、証拠化に時間を要する点に鑑みれば、相殺の予備的抗弁に関する証拠の申出についても、時機に後れたものとはいえない。
 したがって、原審における被告の相殺の予備的抗弁の主張及びこれを証する証拠の申出は「時機に後れた提出」といえないことは明白である。
b 「故意・重過失」の点に対し
 相殺の抗弁は、反対債権の犠牲の下に当該請求債権を消滅させるものであり、提出する者にとっては実質敗訴を意味するから、相殺以外の理由で訴求債権の存在を争うことが合理的であると認められる限り、相殺の予備的抗弁を提出しないことにつき重過失はない。原審において、相殺の予備的抗弁の主張は弁論準備手続の結果陳述前になされており、相殺の予備的抗弁の特質、証拠収集の難易性、損害論は実質的な審理が行なわれておらず脱退原告及び参加人が損害及び利得の発生自体の具体的な立証を行っていない状況を勘案すると、被告の相殺の予備的抗弁の提出時期に十分な合理性があることも明らかである。
 したがって、被告に故意・重過失がないことも明白である。
c 「訴訟完結の遅延」の点に対し
 被告は、原審から証人尋問を申請しており、相殺の予備的抗弁の提出当時、証拠調べも行われていない段階にあったため、原審での相殺の予備的抗弁提出当時においても訴訟完結を遅延するものではなかった。また、控訴審における証拠提出についても、今後、文書提出命令による文書の提出、これに基づく主張・立証及び証人尋問等の証拠調べも必要となり得るため、当該主張及び証拠提出が訴訟完結を遅延するものではない。被告は、相殺の抗弁において、新ウルトラマンキャラクターについての脱退原告の無断使用行為を問題にするが、原判決でも脱退原告及び参加人が新ウルトラマンキャラクターについては無権利であると判示されており、新旧ウルトラマンキャラクターの区分は原審においても審理対象の重要な一部であったから、当該相殺の自働債権の発生原因となる新ウルトラマンキャラクターの使用に関して、更なる審理を必要とするものでもない。
 なお、仮に、相殺の予備的抗弁が時機に後れた攻撃防御方法として却下されれば、被告は別訴を提起せざるを得ず、紛争全体の解決はさらに遅延し、抜本的な紛争解決にならないことは明白である。
d 「被告の不利益のないこと」の点に対し
 参加人は、被告の相殺の予備的抗弁を却下しても、被告は別訴により脱退原告に請求すれば足りるとして、被告が不利益を被ることはない旨主張する。
 しかし、脱退原告は外国の個人であり、その資産の把握が著しく困難であることから、事実上強制執行手続ができず、回収できない状況である。そうすると、脱退原告を相手方として損害賠償請求訴訟を別途提起し、勝訴判決を得たとしても、これを回収することは事実上不可能であるから、被告としては、本件訴訟において脱退原告側の主張する請求権の存在が認められた場合には、当該請求権と対当額において相殺する方法により、被告の有する損害賠償請求権を回収する必要性が高く、逆に、本件訴訟において相殺の予備的抗弁が認められない場合、被告は、損害賠償請求権の回収の途を事実上絶たれ、極めて不公平な結果となる。
 また、仮に、被告が脱退原告に対し、別訴で請求する場合、準拠法等について、従前の主張立証を繰り返さなければならないこととなり、訴訟経済に反するのみならず、当事者にも二重に主張の負担を強いることとなり、不当である。
 さらに、本件においては、日本、タイ王国及び中国において、本件契約の効力に関して異なる判決が出されており、本件訴訟の当事者間においては、今後も本件と同様の紛争が発生し、訴訟が繰り返されることが予想されるから、同一訴訟手続内で、複数の請求を一回的に解決することが要請される。
イ 相殺の抗弁に対する参加人の反論(時機に後れた攻撃防御方法の却下)
 被告の相殺の予備的抗弁(上記ア(ア) )の主張及び相殺の自働債権の存在を立証する証拠方法とされる乙54ないし65は、以下のとおり、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
 なお、被告は、原審において、平成22年5月20日付け被告第22準備書面で、上記相殺の抗弁と同様の相殺の予備的抗弁を主張したが、裁判所は、参加人の申立てにより、同年6月24日の第2回口頭弁論期日において、時機に後れた攻撃防御方法として却下した。当審における被告の相殺の予備的抗弁の主張及び抗弁事実を立証するための書証の申出は、原審における相殺の予備的抗弁より更に後れたものであり、当然に時機に後れている。
(ア) 時機に後れた提出
 乙54ないし65に記載される最も過去の「契約日」は平成15年12月23日である。本件訴訟は、平成18年5月23日に脱退原告が提起したものであるが、訴訟提起前から、ウルトラマンの著作物を巡り、被告と脱退原告との間で紛争を生じていたことからすれば、被告は、訴訟提起前から相殺の自働債権と主張する損害賠償請求権の発生を認識し、書証も容易に入手できたはずである。
 したがって、被告の相殺の予備的抗弁の主張及び乙54ないし65の提出は、早期にすることが期待できる客観的状況にあったにもかかわらず、それがなされず、時機に後れたものであることは明白である。
(イ) 故意又は重過失
 被告において、相殺の予備的抗弁及び乙54ないし65の提出を妨げる事情はなく、時機に後れたことを正当化する合理的な理由は何ら認められない。
 したがって、被告は時機に遅れて提出したことについて故意であって、少なくとも重過失がある。
(ウ) 訴訟完結の遅延
 本件訴訟は、控訴審の第1回口頭弁論期日に、本来終結することのできる時機にあった。その時点では、補助参加申出人が補助参加の申出を行っていたが、当該申出は、被告代理人と同じ者が補助参加申出人を代理していたから、補助参加の許否の判断のための若干の時間的猶予が生じたとしても、それをもって相殺の予備的抗弁及び乙54ないし65の提出が訴訟完結の遅延をもたらさないとはいえない。
 また、上記書証は、本件訴訟において何ら審理されていない事実を立証趣旨とするものであり、かつ、専らタイ王国において発生したとされる事実に係るものであるから、更なる主張・立証、これに対する参加人の反論に多大な時間と作業及び費用負担を要することは明らかである。
 さらに、相殺の予備的抗弁は、判決執行についての相互保証がないタイ王国における損害賠償請求権に関するものであるところ、日本の裁判所において審理できるのか、一般に、相殺の抗弁についても国際裁判管轄が必要か否かについては見解が対立しており、準拠法についても争いがあり、これらの点についても、双方がさらに主張・立証を尽くさなければならないことになる。被告が主張する損害賠償請求は、既にタイ王国での裁判においても請求されているはずであり、既請求部分については二重起訴の問題も生じ得る。
 加えて、上記書証は、タイ王国における脱退原告と被告との間の訴訟において、被告が受訴裁判所に書証として提出した契約関係書類とみられるが、被告が本件訴訟においてタイ王国の受訴裁判所の判決を証拠として提出していないから、タイ王国における訴訟は係属中であると考えられる。そうすると、被告はタイ王国において長期に亘り訴訟が係属中の紛争について、上記書証のみから被告の主張する損害賠償請求権の存在を認定するよう当審裁判所に求めていることになり、審理に相当長期間を要することは自明である。
 したがって、被告の相殺の予備的抗弁の主張及び乙54ないし65の提出を認めた場合、本件訴訟の大幅な完結の遅延をもたらすことは明白である。
(エ) 被告に不利益のないこと
 被告の相殺の予備的抗弁の主張及び乙54ないし65の提出が、時機に後れた攻撃防御方法として却下されたとしても、被告は別訴で脱退原告に対して損害賠償を請求することができるし、タイ王国において脱退原告と被告との間の訴訟が係属しているならば、被告が訴え提起に困難を来たすという事情もない。
 したがって、相殺の予備的抗弁の主張及び乙54ないし65の申出が却下されたとしても、被告に格別の不利益はない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、原判決が認容した部分も含め、参加人の請求には理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「1 争点1(本件訴訟の国際裁判管轄)について」ないし「5 争点4(被告の債務不履行及び不当利得の有無)について」(原判決39頁10行目から54頁18行目まで)記載のとおりであるから引用する。
(1) 原判決46頁25行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「参加人は、本件契約の第3条3.2にいう制作権(Production Right)に、本件著作物の二次的著作物を制作する権利ないし翻案権が含まれることを前提として、被告が、本件契約に基づき、本件著作物及びそこに登場するウルトラマンキャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)に類似するキャラクター(新ウルトラマンキャラクター)の利用を第三者に許諾してはならない義務を負う旨主張する。しかし、参加人の主張は失当である。制作権(Production Right)の通常の語義からすれば、本件著作物の二次的著作物を制作する権利ないし翻案権が含まれると理解することは困難であり、本件契約において、特に、『制作権(Production Right)』の語にそのような権利が含まれると解すべき事情があるとも認められない。また、本件契約の第3条3.4に著作権(Copyright)と記載されているところ、『著作権(Copyright)』の語に著作権の支分権である翻案権が含まれるとするならば、同3.3に『複製権』と記載されていることと整合しないから、上記『著作権(Copyright)』に支分権である翻案権が含まれるとは解されない。したがって、被告が、本件契約に基づき、新ウルトラマンキャラクターの利用を第三者に許諾してはならない義務を負うとはいえない。」
(2) 原判決47頁22行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「イ 脱退原告の損害
 被告による本件契約の債務不履行は認められるものの、後記のとおり、それにより脱退原告に損害が発生したとは認められない。
ウ 被告の不当利得
 後記のとおり、被告が本件ライセンス契約@を締結しライセンス料を得たことにより脱退原告に損失が発生したとは認められない。」
(3) 原判決47頁23行目から50頁3行目までを削る。
(4) 原判決52頁8行目の後に、行を改めて、次のとおり挿入する。
 「参加人は、本件ライセンス契約H、I、K、M、Nについては、ライセンス対象物の一部に本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターが含まれていることを被告も認めており、上記各ライセンス契約締結行為は本件契約に違反し、脱退原告に、ライセンス料を得る機会を失うという損害が生じたことは明白であるから、『損害が生じたことが認められる場合』(民事訴訟法248条)に該当し、『損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき』として、脱退原告に生じた損害について『相当な損害額』が認定されるべきである旨主張する。しかし、参加人の主張は失当である。上記各ライセンス契約のライセンス対象物の一部に本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターが含まれるとしても、それらの内容、ライセンス対象物全体に占める割合、ライセンス期間、ライセンス料等について明らかにする証拠はない。そうすると、脱退原告がいかなるライセンス料を得る機会を失ったのかが不明であり、脱退原告に損害が生じたとの事実自体を認定するに足りないというべきである。したがって、民事訴訟法248条に基づいて相当な損害額を認定すべきであるとの参加人の主張は採用できない。」
(5) 原判決53頁13行目から54頁18行目までを削る。
2 当審における当事者の主張についての判断(脱退原告と補助参加人との契約について)
(1) 脱退原告に「損害」、「損失」が発生していないとの主張について
ア 認定事実
 丁1ないし3及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 脱退原告、チャイヨ・シティ・スタジオ・リミテッド・パートナーシップ及びツブラヤ・チャイヨ・カンパニー・リミテッドは、補助参加人との間で、平成10年1月29日付けで平成10年契約を締結した。平成10年契約は、次の内容の契約条件を含むものである。
a 平成10年契約は、チャイヨ・補助参加人間の現在の紛争を排除し、かつ、両当事者間における将来の紛争を回避することを唯一の目的に締結された。平成10年契約は、補助参加人が、被告・チャイヨ間で争いになっている本件契約の有効性を確認するものではなく、かつ、そのように解釈されるべきものでもない。(第1条)
b チャイヨは、次のとおり表明し保証する。
 平成10年1月29日現在、チャイヨ、その関連会社及び子会社は、バンダイ、その関連会社、子会社、ライセンシー、サブライセンシー、契約者、製造業者、販売代理店、二次販売代理店、エージェント、代表者、役員、従業員、株主、権利承継人、譲受人、またはこれらのために仕事をしているその他一切の個人・法人(すなわち、「バンダイ・グループ」)に対して、タイその他の世界中のいかなる国・地域においても、被告に対する訴訟以外には、民事・刑事を問わず、あらゆる訴訟を同契約書別紙C記載の訴訟を除くほか一切提起しておらず、またいかなる第三者を通じても提起していないことを表明し保証する。(第2.1条)
c チャイヨ、その関連会社、子会社は、チャイヨ権利(本件契約書記載の一切の権利)に関し、以下のとおり(@)現在又は将来に亘って、バンダイ・グループに対して想定されるいかなる権利の行使も放棄する。(A)現在又は将来に亘って、想定される全世界における一切の法律又は規則に基づく、司法上・非司法上、及び刑事上・民事上のあらゆる訴訟及び請求原因からバンダイ・グループを解放する。(第2.3条)
d チャイヨは、平成10年契約締結日現在及び将来に亘り、本件契約の1.3(ウルトラマン1 “ウルトラQ”(28本×30分))、1.4(ウルトラマン2(39本×30分))、1.5(ウルトラマンセブン(50本×30分))、1.6(帰ってきたウルトラマン(51本×30分))、1.7(ウルトラマンエース(51本×30分))、1.8(ウルトラマンタロウ(54本×30分))、1.9(ジャンボーグエース(50本×30分))、3.1(配給権)、3.6(ラジオ、テレビなどのあらゆるメディアを介した放送、および全ての新聞による広告権)及び3.7(第1条記載のフイルムの制作において使用されたオリジナルのモデル及びキャラクターについて、商業上の目的のためにする複製)に定めるチャイヨ権利に基づく商品を製造せず、使用せず、販売せず、かつ、平成10年契約の有効期間中、いかなる国・地域においても、チャイヨ権利をライセンスし、譲渡し、質入し、その他の担保に供し又は処分する行為をしないことを保証し表明する。ただし、補助参加人から事前に書面による承諾を得た場合はこの限りではない。上記にかかわらず、チャイヨは、タイ国内において、チャイヨ権利に基づき、玩具以外の商品を製造、販売することができる。(第2.6条)
e 補助参加人はチャイヨに対し、所管官庁の承認を得た上で、下記の時点で下記金額をチャイヨ指定の銀行口座に支払う。チャイヨに支払われた金額は、返還されない。
(1)3千万円 平成10年契約時
(2)3千万円 別紙C記載の全ての訴訟につき確定的に取り下げられた旨の管轄裁判所又は所管の行政機関が発行し、正式なものとしてB弁護士が納得するに足る文書の写しが、同弁護士に提供された時。
(3)4千万円 (2)の3千万円の支払から30日以内。(第3.1条)
f 別紙C(翻訳)の記載は次のとおりである。
 「警察
1.犯罪抑止部:偽証。虚偽の陳述を記録させた行為
 相手方−1.B.K.C. Trading Co, Ltd, Mr.C及びMr.Dが個人として、及び会社の代表者として起訴
2.経済犯罪調査部:著作権侵害
 相手方−1.K. Charoen, Mr.Eが起訴
 B.K.C.Trading Co, Ltd, Mr.C及びMr.Dが個人として、及び会社の代表者として、上記二社の社員とともに起訴
3.その他、チャイヨがバンダイ・グループを相手方として提起しまたは提起された(可能性がある)訴訟」
(イ) 脱退原告を含むチャイヨは、平成10年契約に基づき、平成11年2月ころまでに、補助参加人から合計1億円の支払を受けた。
イ 判断
(ア) 上記ア認定の事実によれば、脱退原告は、平成10年契約において、補助参加人との間で、チャイヨ権利、すなわち本件契約上の一切の権利に関し、現在又は将来に亘って、バンダイ・グループに対して想定されるいかなる権利の行使も放棄するとともに、現在又は将来に亘って、想定される全世界における一切の法律又は規則に基づく、司法上・非司法上、及び刑事上・民事上のあらゆる訴訟及び請求原因からバンダイ・グループを解放することを約し(第2.3条)、平成10年契約締結日現在及び将来に亘り、事前に補助参加人から書面による承諾を得ない限り、本件契約の「1.3」、「1.4」、「1.5」、「1.6」、「1.7」、「1.8」、「1.9」、「3.1」、「3.6」及び「3.7」に定めるチャイヨ権利に基づく商品を製造せず、使用せず、販売せず、かつ、平成10年契約の有効期間中、いかなる国・地域においても、チャイヨ権利をライセンスし、譲渡し、質入し、その他の担保に供し又は処分する行為をしない(ただし、チャイヨ権利に基づき、タイ国内で玩具以外の商品の製造、販売はできる。)ことを約した上で(第2.6条)、補助参加人から、平成10年契約に基づき合計1億円の支払を受けたことが認められる。
 上記の平成10年契約第2.3条の内容からすると、脱退原告は、同契約時以降、本件契約上の一切の権利に関し、補助参加人との間で、平成10年契約とは別にライセンス契約を締結してライセンス料を得ることはできないと解されるのみならず、仮に、平成10年契約以前に、補助参加人が脱退原告の承諾なく本件契約上の権利を利用したために脱退原告がライセンス料を得る機会を逸していたとしても、平成10年契約において、そのライセンス料相当額の損害ないし損失を全て精算する意思の下に、平成10年契約を締結したものと解される。そして、平成10年契約に基づいて脱退原告が受領した1億円は、同契約の有効期間中、脱退原告が原則として本件契約上の権利に基づく商品の製造、使用、販売をせず、いかなる国・地域においても、同権利のライセンス、譲渡、質入等の処分をしないことの対価であるほか、同契約以前に、補助参加人の行為により脱退原告の本件契約上の権利に関し何らかの損害ないし損失が発生していた場合は、その補償をも含む趣旨であったと考えるのが合理的である。
 そうすると、脱退原告は補助参加人との間で別途ライセンス契約を締結してライセンス料を得る機会を有しないと解されるから、そうである以上、被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約@(そのライセンス期間の更新を含む。)を締結したとしても、脱退原告に、上記債務不履行による損害、又は被告のライセンス料取得による損失が発生したことを認めることはできない。
(イ) 参加人の主張について
a 参加人は、被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約@を締結した平成8年9月1日から、平成10年契約締結日である平成10年1月29日の前日までの1年4か月間については、同契約の効力は及ばず、脱退原告が本件契約上の権利に関しライセンス料を受領する機会を有していなかったとはいえない旨主張する。
 しかし、参加人の主張は失当である。上記(ア) のとおり、平成10年契約は、その経緯及び内容に照らすと、平成10年契約の前のライセンス行為を含め、ライセンス料相当額の損害ないし損失の全てを対象として、包括的に精算する合意であったと解するのが合理的であるから、脱退原告に損害ないし損失が発生しているとは認められない。
b また、参加人は、脱退原告が平成10年契約において、本件契約に基づく権利を全面的に放棄したものではない、平成10年契約は脱退原告と補助参加人との間の債権契約であるから、脱退原告による権利放棄の効果を被告は主張できないなどと主張する。
 確かに、被告は、脱退原告によるバンダイ・グループに対する権利放棄の法的効果を直接的に受ける者ではない。しかし、前記平成10年契約第2.3条の規定のとおり、脱退原告はバンダイ・グループに対し、本件契約書記載の一切の権利に関して、現在又は将来に亘って、想定されるいかなる権利も行使しない旨を約している以上、脱退原告には、補助参加人の行為による損害ないし損失が生じない結果として、脱退原告の被告に対する請求権の根拠は、失われたものというべきであるから、この点の参加人の主張は、失当である。
c 参加人は、平成10年契約により、脱退原告が補助参加人に対して負担した債務の内容は、補助参加人の事前の承諾なく他者にライセンスをしないとの義務にすぎず、平成10年契約が、そのような内容である以上、補助参加人が、予め一切の承諾を拒否する意思であったということはあり得ず、承諾を与える可能性があることを前提として、契約を締結したものと解すべきであると主張する。
 しかし、参加人の主張は失当である。補助参加人が脱退原告に対し、脱退原告が第三者にライセンスをすることについて、承諾をし、また承諾する予定があったとの事実は認められないから、脱退原告において第三者からライセンス料を得る機会があったとはいえない。
d 参加人は、平成10年契約に基づき脱退原告が補助参加人から受領した1億円は、本件契約上の脱退原告の権利と抵触する権利の許諾を被告から受けていた補助参加人が、被告から許諾を受けた事業を行うことに対し、脱退原告が民事上・刑事上の制裁を求める行為を行わないことの対価として支払ったものであり、脱退原告が補助参加人に対しウルトラマンキャラクターを利用することを許諾する対価ではないから、脱退原告としては、被告が補助参加人から得たライセンス料に相当する金額を補助参加人から更に得る機会がなかったとはいえない旨主張する。
 しかし、参加人の主張は失当である。平成10年契約において、1億円の支払が参加人主張の趣旨でされたことを窺わせる文言はない。上記のとおり、同契約第2.3条の定めからすると、脱退原告はバンダイ・グループに対し、本件契約書記載の一切の権利に関し、現在又は将来に亘って、ライセンス契約に基づくライセンス料の支払請求も含め、想定されるいかなる権利も行使しないとしたことは明らかであるから、脱退原告において、補助参加人から別途ライセンス料を得る機会はなかったというべきである。
e したがって、参加人の主張はいずれも理由がない。
(2) 以上のとおり、脱退原告において、本件契約に基づく被告の債務不履行による損害ないし被告の補助参加人からのライセンス料取得による損失が発生したとはいえないから、脱退原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権は認められない。
3 小括
 以上のとおりであり、被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約@を締結し更新したことが本件契約の債務不履行に当たるとしても、それによる脱退原告の損害の発生ないし被告のライセンス料取得による脱退原告の損失の発生は認められない。また、被告が本件ライセンス契約AないしGを締結したことは本件契約の債務不履行に当たらず、被告が法律上の原因なく利益を得たとも認められない。さらに、本件ライセンス契約HないしSに係る参加人の主張は理由がない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、参加人の被告に対する本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求はいずれも認められない。参加人は、その他縷々主張するが、いずれも上記認定判断を左右しない。
第4 結論
 よって、被告の控訴は理由があるから、原判決中被告敗訴部分を取り消し、参加人の請求を棄却し、参加人の控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 池下朗
 裁判官 武宮英子
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/