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【事件名】商標“MONCHOUCHOU”侵害事件
【年月日】平成23年6月30日
 大阪地裁 平成22年(ワ)第4461号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成23年5月12日)

判決
原告 ゴンチャロフ製菓株式会社
同訴訟代理人弁護士 堅正憲一郎
同訴訟代理人弁理士 古川安航
同 三上真毅
同補佐人弁理士 角田嘉宏
被告 株式会社モンシュシュ
同訴訟代理人弁護士 小幡一樹
同訴訟代理人弁理士 永田元昭
同 大田英司
同補佐人弁理士 永田良昭


主文
1 被告は、その製造販売する洋菓子の包装に、別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。
2 被告は、別紙被告店舗目録記載1、2、4ないし7、9ないし17の各店舗の看板(店頭表示板)、案内板、外壁及び入口ガラス壁面に、別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。
3 被告は、その製造販売する洋菓子に関する車体広告、インターネット上のウェブ広告、チラシなどの広告もしくは取引書類に、別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。
4 被告は、会社案内及びその運営するホームページに、別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。
5 被告は、別紙被告店舗目録記載1、2、4ないし7、9ないし17の各店舗の看板(店頭表示板)、案内板、外壁及び入口ガラス壁面から、別紙被告標章目録記載の各標章を抹消せよ。
6 被告は、その所有する広告物及び取引書類、その運営するホームページその他の物件から、別紙被告標章目録記載の各標章を抹消せよ。
7 被告は、別紙被告標章目録記載の各標章を付した洋菓子の包装、広告物及び会社案内を廃棄せよ。
8 被告は、原告に対し、3562万2146円及びうち1844万1249円に対する平成22年2月18日から、うち1718万0897円に対する同年8月1日から、各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
9 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
10 訴訟費用は、これを5分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
11 この判決は、1項ないし4項、8項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 主文1項同旨
(2) 被告は、別紙被告店舗目録記載の各店舗の看板(店頭表示板)、案内板、外壁及び入口ガラス壁面に、別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。
(3) 主文3項同旨
(4) 主文4項同旨
(5) 被告は、別紙被告店舗目録記載の各店舗の看板(店頭表示板)、案内板、外壁及び入口ガラス壁面から、別紙被告標章目録記載の各標章を抹消せよ。
(6) 主文6項同旨
(7) 主文7項同旨
(8) 被告は、原告に対し、2億4380万9000円及びこれに対する平成22年2月18日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(9) 訴訟費用は被告の負担とする。
(10) 仮執行宣言
2 被告
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告
 原告は、昭和22年に設立された、菓子の製造販売等を業とする株式会社であり、株式会社ビアンクール(以下「ビアンクール」という。)は、その子会社である(甲70、71)。
イ 被告
 被告は、平成15年9月に、有限会社サンドゥルオンとして設立され、平成19年7月に、現商号に商号変更したことにより株式会社へ移行した、洋菓子の製造販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件商標
 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
 登録番号 第1474596号
 出願年月日 昭和52年6月29日
 登録年月日 昭和56年8月31日
 更新登録年月日 平成3年12月24日、平成13年4月24日
 指定商品及び役務の区分 第30類
 指定商品 菓子、パン
 登録商標 別紙本件商標目録記載のとおり
(3) 本件商標の使用状況
 原告は、昭和61年から平成16年までと平成19年以降、ビアンクールに対し、本件商標を付したチョコレート(以下「原告商品」という。)を販売し、ビアンクールは、バレンタイン商戦時期(毎年1月から2月中旬)において、これを小売販売している(甲72〜96)。
(4) 被告各標章の使用状況
 被告は、平成15年11月以降、その製造ないし製造委託に係る洋菓子(以下「被告商品」という。)を販売するにあたり、別紙被告標章目録記載1ないし9の各標章(以下、同目録の番号に従って「被告標章1」などといい、併せて「被告各標章」という。)を、次のとおり使用している(ただし、平成21年11月以降、被告標章1ないし6を包装箱、紙袋、保冷バッグに使用することについては、中止している。)。
ア 包装等における使用
 被告は、被告商品の包装に被告各標章を付している。
イ 店舗等における使用
 別紙被告店舗目録記載の店舗(以下、同目録の番号に従って「被告店舗1」などといい、併せて「被告各店舗」という。)において、看板(店頭表示板)、案内板、外壁及び入口ガラス壁面に、被告各標章が使用されいる。
ウ 広告等における使用
 被告は、被告商品に関する車体広告、インターネット上のウェブ広告、チラシなどの広告及び取引書類、被告の会社案内、被告の運営するホームページに、被告各標章を表示している。
(5) 本件商標と被告標章2ないし4の類似性
 被告標章2ないし4は、本件商標と類似する(争いがない。)。
2 原告の請求
 原告は、被告に対し、本件商標権に基づき、被告各標章の使用禁止、被告各標章の抹消ないし被告各標章を付した物の廃棄を求めると共に、不法行為(本件商標権侵害)に基づき、2億4380万9000円の損害賠償及びこれに対する平成22年2月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%による遅延損害金の支払を求めている。
3 争点
(1) 被告各標章は、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか (争点1)
(2) 被告標章1及び5ないし9は、本件商標に類似するか (争点2)
(3) 被告標章4は商標として使用されているか (争点3)
(4) 被告標章2ないし4は、被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか(商標法26条1項1号) (争点4)
(5) 仮に(4)が認められるとして、被告は、被告標章2ないし4を、不正競争の目的で用いたか(商標法26条2項) (争点5)
(6) 原告の損害の発生の有無 (争点6)
(7) 原告の請求は権利濫用か (争点7)
(8) 原告の損害額 (争点8)
第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1(被告各標章は、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか)について
【原告の主張】
 以下のとおり、被告各標章は、本件商標の指定商品の「菓子」に含まれる「洋菓子」に使用されている。
(1) 包装での使用について
 被告商品は、全て被告の製造又は製造委託に係る洋菓子であるところ、洋菓子については、商品の出所表示として製造者を指称する標章が表示されるのが一般的であるから、商品名ではなくとも、需要者である一般消費者が製造者を指称する標章と認識するのであれば、商品への使用にあたる。
 なお、洋菓子の販売にあたっては、顧客に商品を美味しく食べてもらうよう、店側が保冷バッグ等を提供することが慣例化しており、顧客もその事情を熟知しているから、保冷バッグについても、洋菓子とは別個独立の商品と認識されることはない。
(2) 店舗での使用について
 需要者は、店舗名及び看板等に付された標章で、洋菓子の出所を識別している。また、店舗名としての表示であっても、商品との具体的関係において使用されるものである限り、商品への使用というべきである。
 そして、被告各店舗における使用は、いずれも、被告商品に関し、その出所を表示して品質を保証するなど、商品標章の機能をもたせるためのものである。
 したがって、店舗での使用についても、商品への使用にあたる。
(3) 小売役務への使用ではないこと(被告の主張に対する反論)
 小売とは、物品を卸売から買い入れて、これを消費者に分けて売ることであるが、被告の営業は、単なる自社商品の製造販売である。
 そして、洋菓子店であっても、ブランド化した店舗名を付した自社商品しか販売しないのであれば、一般消費者は、店舗表示であっても、商品の出所標識と認識する。
 したがって、被告各標章の使用は、小売役務への使用ではない。
【被告の主張】
(1) 小売役務への使用であること
 被告各標章は、商品名とは別に使用されているし、被告の営業は、喫茶店営業から派生したものであるから、被告各標章は、店舗表示といえる。そして、一般消費者から見れば、製造販売であっても仕入販売であっても小売である。
 したがって、被告各標章は、洋菓子の小売という役務を示す標章として使用されているということができ、本件商標の指定商品を示す標章として使用されているのではない。
(2) 「洋菓子」という商品と「洋菓子の小売」という役務が類似しないこと 商品と役務の類似性については、出所混同のおそれが判断基準となり、その判断には、商品の製造、取引状況、質、用途のほか、商標の知名度なども考慮されるべきである。
 そして、主としてケーキや焼き菓子である被告商品は、チョコレートである原告商品とは需要者が異なるし、本件商標には知名度がない一方、被告の店舗名「モンシュシュ」は知名度が高いから、需要者に出所混同が生じるとは考えられない。
 したがって、本件においては、「洋菓子」という商品と「洋菓子の小売」という役務は類似しない。
(3) 保冷バッグについて
 保冷バッグは、洋菓子とは別個独立の商品として販売されるものであり、保冷バッグに付している標章は、洋菓子の包装として使用されているものではない。
2 争点2(被告標章1及び5ないし9は、本件商標に類似するか)について
【原告の主張】
(1) 被告標章1、5ないし7
 被告標章1、5ないし7は、本件商標の欧文字部分「MONCHOUCHOU」と、外観(文字構成)、称呼(モンシュシュ)、観念(フランス語で「私のお気に入り」)が同一であるから、本件商標に類似する。
(2) 被告標章8
 被告標章8の構成中、「baby」の部分は基本的な英単語である一方、「Monchouchou」の部分は一般的に知られていないフランス語であるから、需要者は、この2つを分離して認識する蓋然性が高い。また、「baby」の語は、他の語と結合して洋菓子に付された場合、小さい形状や可愛らしいデコレーション等を指称する語と認識されるから、洋菓子においては識別力が弱い。また、外観上も、「Monchouchou」の部分と切り離されて小さく表記されているから、被告標章8の要部は「Monchouchou」の部分である。
 そして、被告標章8の要部「Monchouchou」は、本件商標の欧文字部分「MONCHOUCHOU」と外観(文字構成)、称呼、観念が同一であるから、被告標章8は、本件商標に類似する。
(3) 被告標章9について
 被告標章9の構成中「ベビー」の部分は、被告標章8と同様、特に洋菓子においては識別力が弱いし、「ベビーモンシュシュ」は、「モンシュシュ」の姉妹ブランドとして、「モンシュシュ」との密接な関係を示す使用態様及び営業形態で展開されており、需要者もそのように認識しているから、被告標章9の要部は「モンシュシュ」の部分である。
 そして、被告標章9の要部「モンシュシュ」は、本件商標の片仮名部分「モンシュシュ」と、外観、称呼、観念が同一であるから、被告標章9は、本件商標に類似する。
(4) 出所混同のおそれ(被告の主張に対する反論)
 被告各標章の知名度は、商標の類否判断に無関係であるし、本件商標には、過去20年以上の使用実績により業務上の信用が化体しており、顧客吸引力が十分認められる。また、洋菓子が「ブランド名+商品名」で識別されている事実はなく、個別の商品名も重要視されている。
 また、被告各標章の著名性を示すものとして被告が提出した証拠は、いずれも本件商標の登録後のものであるし、ほとんどが、洋菓子(スイーツ)を特集した雑誌に他の洋菓子と同列程度に紹介されているもの、大阪市内のある地区に存在する店舗の一つとして広告的に紹介されたもの、関西地区限定の雑誌で紹介されたもの、被告の販売する堂島ロールが取り上げられたものであって、被告各標章の著名性を示すものではない。
【被告の主張】
(1) 外観・称呼・観念について
ア 被告標章1
 被告標章1は、花と文字がデザインされた、一体としてのマークであって、本件商標とは外観及び観念が異なる。
イ 被告標章8、9
 被告標章8は、花と文字がデザインされた形状となっており、本件商標とは外観及び観念が異なる。
 また、被告標章9の「ベビーモンシュシュ」を「ベビー」と「モンシュシュ」に区切る理由はなく、不可分一体のものとして本件商標と対比すべきである。
 特許庁も、被告のした商標登録出願(商願2009−060975、060976、063581)に関する拒絶査定不服審判において、「baby monchouchou」や「ベビーモンシュシュ」について、一種の造語であり、被告の店舗を表す標章として社会内で定着していることから、一体不可分のものであって、本件商標とは類似しないと判断している。
(2) 取引の実情について
 洋菓子業界では、店舗名がブランド化して消費者の信頼の対象となっており、一般的な名称が多い商品名ではなく、「ブランド名+商品名」で、他の商品との識別がされている。
 また、「モンシュシュ」は、洋菓子店、洋菓子ブランドとしての知名度が高く、被告を指すものとして著名である一方、原告商品としての知名度は低い。
 しかも、被告商品の中心は、ケーキ類や焼き菓子であり、直営店と百貨店で直接販売されているが、原告商品は、バレンタイン用チョコレートであり、スーパー等の量販店で小売販売されているから、被告商品は高級なイメージであり、原告商品は庶民的なイメージである。
(3) 出所混同のおそれ
 前記(1)、(2)からすれば、本件商標と被告各標章とは、出所混同のおそれがなく、類似性は否定されるべきである。
3 争点3(被告標章4は、商標として使用されているか)について
【原告の主張】
 被告標章4は、車体広告に大きく表示され、「Patisserie」の文字も近くに表示されるなど、商品の出所表示機能を営んでおり、商標として使用されているといえる。
【被告の主張】
 被告標章4は、被告のホームページアドレスである「mon-chouchou.com」の一部を切り取ったものであり、ホームページアドレスの表示であって、商標として使用されているものではない。
4 争点4(被告標章2ないし4は、被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか)について
【被告の主張】
(1) 著名な略称であること
 被告標章2は、被告の社名から「株式会社」を除いた略称であるところ、平成16年9月には、雑誌において被告の名称として使用され、一般に被告の名称と認識され、そのころまでに被告の略称として著名となった。仮にそうでないとしても、堂島ロールが雑誌で紹介されるようになった平成17年6月ころには、一般に被告の名称と認識され、被告の略称として著名となった。
 被告標章3、4は、被告標章2のフランス語表記であるから、被告標章2と同様、少なくとも平成16年9月には、被告の略称として著名となった。
(2) 普通に用いられる方法であること
 被告標章2は、特に装飾を施すことなく、通常のフォントを用いて表示されているし、使用方法も、洋菓子の販売元である被告を示すものであって、普通に用いられる方法といえる。
 被告標章3は、カード(甲31の2枚目)で使用されているが、イメージを大切にする洋菓子のカードの表記としては、普通に用いられる方法で使用されているといえる。
 被告標章4は、被告のホームページのアドレスの表記の一部として使用されているが、インターネットが普及した現代においては、被告を表す略称として普通に用いられる方法で使用されているといえる。
【原告の主張】
(1) 著名性について
 前記2【原告の主張】(4)のとおり、被告各標章は著名ではない。
(2) 普通表示性について
 商標法26条1項1号は、人格権あるいは人格的利益保護のために、特定人の自己同一性の表示を可能にする例外規定であって、必要最小限度の範囲で認めれば足りる。
 したがって、商標法26条1項1号が適用されるのは、書体、表示場所、位置、大きさ、他の文字との結合等の表示態様が、商品の製造者・販売者名等を示す方法として一般的な場合に限られるところ、以下のとおり、被告標章2ないし4の態様は、そのようなものとはいえない。
ア 被告標章2
 被告標章2は、「パティスリー」や「スウィートファクトリー」といった、社名に含まれない文字と一連に表示されたり、文字の大きさや位置が、一般消費者の注意を惹くように表示されている。
イ 被告標章3、4
 被告標章3、4は、被告の社名が記載されていない状況で、商品(洋菓子)と関連して使用されており、需要者は、洋菓子又は洋菓子店の出所表示・広告表示としか理解しない。
ウ 被告標章4
 被告標章4は、被告のホームページアドレスの一部を抽出したものであって、ホームページアドレスそのものではない。
5 争点5(被告は、被告標章2ないし4を、不正競争の目的で用いたか)について
【原告の主張】
 以下のような被告の態度からすれば、被告は、被告標章2ないし4を、不正競争の目的で用いたといえる。
(1) 本件商標の設定登録後に、被告標章2ないし4の使用を開始した。
(2) 提訴前の交渉過程において、商標権侵害の事実を認めていたにもかかわらず、これと反する態度をとった。
(3) 従前は「サンドゥルオン」だった社名を、「モンシュシュ」に変更した。
(4) 洋菓子類を販売していたにもかかわらず、平成17年9月に、商品「ケーキ、洋菓子」ではなく、あえて役務「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供」を指定して、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」を商標出願しており、この時点で、本件商標の存在を知っていたといえる。
【被告の主張】
 争う。
6 争点6(原告の損害の発生の有無)
【被告の主張】
 登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである。
 そして、原告商品はバレンタイン商戦時期のみに販売されているし、本件商標の知名度は著しく低く、原告自身も使用を中断したほどである上、中断によって売上げも影響を受けていないから、本件商標に顧客吸引力は全くない。
 他方、被告商品の売上げは、堂島ロールや他の人気商品の販売など、被告の営業努力によりもたらされたものであり、本件商標は何ら寄与していない。
 したがって、原告には損害が発生していない。
【原告の主張】
 被告各標章は、「登録商標に類似する商標」ではなく、本件商標とほぼ「同一の商標」である。
 また、本件商標は過去20年以上に及ぶ使用により業務上の信用が化体しており、顧客吸引力は十分にある。
7 争点7(原告の請求は権利濫用か)について
【被告の主張】
 以下の事情からすれば、原告の差止請求・損害賠償請求は、いずれも権利の濫用である。
(1) 権利行使の時期
情報伝達のスピードが速い現代においては、消費者の信頼は短期間に形成されるから、商標権侵害の事実に対し、速やかに権利行使を行う社会的要請は高い。
 そして、原告は、被告が雑誌で紹介された平成16年末には被告の存在を知っており、遅くとも、被告の知名度が全国的になり始めた平成18年には権利行使が可能であった。
 ところが、原告は、被告各標章の使用を知りながら放置し、被告の業務が拡大し、売上額が増加するのを待って、権利行使をしてきた。
(2) 本件商標の知名度
 本件商標は、それ自体出所識別力の強いものではないし、現実にも知名度は低い。
 他方、「モンシュシュ」は、被告の店舗名として一般に認知され、著名となっている。
 したがって、被告各標章の使用を差し止めれば、需要者を混乱させ、被告の取引先にも損失を及ぼす一方、本件商標と被告各標章を併存させても、需要者に出所混同は生じないし、原告にも実害は生じない。
(3) 本件商標の使用状況
 原告は、昭和61年から使用していた本件商標を、平成17年と平成18年は使用しておらず、被告各標章が著名となった平成19年になって、再び使用するようになった。原告のこのような行為は、被告各標章にフリーライドするものであるし、不正競争防止法に違反する可能性もある。
【原告の主張】
 以下の事情からすれば、原告の請求が権利の濫用であるとはいえない。
(1) 権利行使の時期
 原告は、平成18年時点で、被告各標章の使用を知らなかったのであり、権利行使を怠っていない。
 そして、原告は、平成21年5月21日には、被告代表者に対し、被告への申入れを検討中であったことを伝え、原告商品のパンフレットを提示し、本件商標の使用状況の説明を行っていた。
 被告は、交渉経緯において、商標権侵害を認めていたにもかかわらず、原告が本件商標権の譲渡に応じないことが判明した途端に態度を変えたことから、原告は、やむを得ず権利行使を行ったものである。
(2) 本件商標の使用状況
 原告は、本件商標について、設定登録後間もなく使用を開始し、過去20年以上、ほぼ継続して使用していた。
 平成17年及び平成18年に本件商標の使用を中断したのは、本件商標と併記して使用していた「ビアンクール」の認知度を高めるためであったが、量販店向け商品のシリーズ名が必要となったため、平成19年に、既に定着していた本件商標の使用を再開したものである。再開後も、原告商品はバレンタイン用チョコレートであり、使用態様やパッケージデザイン、商品コンセプト、販路も変更がない。
(3) 被告各標章の使用
 被告各標章は、違法行為によって信用が蓄積されたものであるから、不正競争防止法で保護されることはない。
8 争点8(原告の損害額)について
【原告の主張】
 平成18年度から平成21年度(平成18年8月〜平成22年7月)までの被告の売上げは、121億9045万円であるところ、本件商標の使用料相当額は、その2%である。
 したがって、原告は、被告の侵害行為により、本件商標の使用料相当額である、2億4380万9000円(計算式:121億9045万円×0.02)の損害を被った(商標法38条3項)。
【被告の主張】
(1) 洋菓子以外の売上げについて
 平成18年度から平成21年度までの被告の売上げは、121億9080万2578円であるところ、その全てが洋菓子の売上げではなく、下記アからエの合計5億5366万0117円は除外されるべきであるから、上記期間における被告の洋菓子の売上げは116億3714万2461円である。
ア 喫茶店売上げ 1億3147万7608円
 被告は、指定役務を「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供」として、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」の商標登録を受けており、被告店舗6では喫茶店を営業している。
イ ウエディング部門の売上げ 2624万8810円
 被告は、平成21年から、結婚披露宴で使用される洋菓子につき、総合的に企画立案、商品の提供を行う事業を展開しているところ、その売上げは、単に洋菓子のみの売上げではない。
ウ 保冷バッグの売上げ 2億1065万8441円
 保冷バッグは、洋菓子とは別に販売されているものである。
エ ロイヤリティ売上げ 1億8527万5258円
 被告店舗3及び8は、被告とは別法人が、喫茶形式での営業を行っており、これに係るロイヤリティは、喫茶店としての商標の使用権や、堂島ロールなどの名称の使用権に基づくものである。
(2) 洋菓子の売上げについて
 下記の事情を考慮すると、洋菓子の売上げ全てを本件商標の使用料相当額算定の基礎とすることはできず、チョコレートの売上げ5190万8176円のみが基礎とされるべきである。
ア 本件商標の使用態様
 本件商標は商品名として使用されているに過ぎないから、店舗名として使用されている被告各標章に係る売上げ全てを、使用料相当額算定の基礎とすることは、原告に不当な利益をもたらす。
イ 堂島ロールの知名度
 被告の販売する堂島ロールは高い知名度を有しており、他のロールケーキの売上げも、ここから派生したものであるから、被告商品のうちロールケーキ類の売上げ94億8460万3538円について、本件商標の寄与はない。
ウ 競業関係
 本件商標はバレンタイン用チョコレートに使用されているところ、被告がチョコレートを販売するのもバレンタイン商戦時期のみであるから、競業関係にあるのは、被告商品のうちチョコレートのみである。
(3) 使用料率等について
 下記の事情を考慮すると、本件商標の使用料率は極めて低く、2%とすることはできない。
ア 本件商標の顧客吸引力
 本件商標の顧客吸引力は、ゼロ又は極めて低いものである。
イ 被告の知名度
 被告商品の売上げは、堂島ロールの大ヒットに伴う被告の知名度の上昇によるものであり、本件商標の寄与度はないに等しい。
ウ 対象商品
 前記(2)ウのとおり、本件商標が使用されているのは、バレンタイン商戦時期に販売されるバレンタイン用チョコレートのみである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告各標章は、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか)について
(1) 被告各標章が使用されているもの
 被告各標章について、原告は、商品である「洋菓子」に使用されていると主張し、被告は、役務である「洋菓子の小売」に使用されていると主張する。
 証拠(甲3〜9、乙208、213、220)及び弁論の全趣旨によると、被告は、ロールケーキなどの洋菓子を製造し、被告各店舗(後記8(1)ウのとおり、被告店舗3、8を除く。)で販売しているところ、同店舗で取り扱われる商品は、箱や紙袋等に包装されて販売されていたことが認められ(弁論の全趣旨)、少なくとも、これらに使用された被告各標章については、商品である「洋菓子」に使用されていたということができる。
(2) 商品「洋菓子」と役務「洋菓子の小売」の類似性
 また、商品と役務であっても、互いに類似することがあり(商標法2条6項)、本件商標の指定商品「菓子、パン」に含まれる「洋菓子」(甲52)と、「洋菓子の小売」が類似するかについても検討する。
 商品と役務の類否については、両者に同一又は類似の商標を使用したときに、需要者において、商品又は役務について出所の混同を招くおそれがあるかどうかを基準にして判断するのが相当である。そして、この判断にあたっては、取引の実情において、商品の製造販売と役務の提供が同一事業者によって行われるのが一般的か、商品と役務の用途、商品の販売場所と役務の提供場所、需要者の範囲等が一致するかなどの事情を、総合的に考慮すべきである。
 これを、「洋菓子」と、「洋菓子の小売」についてみるに、洋菓子は、製造と販売が同一事業者によって行われるのが一般的であるし(争いがない。)、その用途(飲食)、商品の販売場所と小売役務の提供場所(店舗)、需要者の範囲(一般消費者)は、いずれも一致するといえる。
 そして、上記事情からすれば、洋菓子という商品に使用される標章と同一又はこれに類似する標章を、洋菓子の小売という役務に使用した場合、一般には、商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え、出所の混同を招くおそれがあるといえることになる。
(3) 出所混同のおそれを否定する事情の有無
ア これに対し、被告は、「モンシュシュ」は、被告の店舗名として知名度が高い一方、原告商品としての知名度は低いし、原告商品はチョコレートである一方、被告商品はケーキ類や焼き菓子であるから、需要者に出所の混同が生ずるおそれはないと主張する。
イ 知名度について
 被告あるいは被告商品が、これまで多くのメディアで取り上げられてきたことについては、多数の証拠が提出されている。
 しかしながら、平成21年10月に甲南大学で開催された講演会において、同大学教授から、「堂島ロールという商品名が有名すぎて、モンシュシュというブランド・店名は陰に隠れがちである。」「今後の課題は企業ブランドをどう上げていくかである。」「堂島ロールのイメージが強すぎて、ブランドイメージが埋もれている。」といった指摘を受けている(乙96、97、101、104)。
 また、平成22年9月に実施したアンケートにおいて、週に1回以上スイーツ(洋菓子)を食べる(購入する)20代から50代の女性に対し、「モンシュシュ」という言葉からイメージするものはという質問をしたところ、回答は次のとおりであった(乙206)。
 すなわち、被告店舗が複数存在する京浜地区(東京・千葉・埼玉・神奈川)でも、「特になし・知らない・聞いたことがない」との回答が15.80%と最も多く、次いで、「堂島ロール」が14.40%、「ロールケーキ」が11.00%である。そして、大阪(被告店舗が複数存在する。)・京都・兵庫(神戸市除く)では、「堂島ロール」が26.20%、「ロールケーキ」が15.20%と、京浜地区よりは高いものの、「特になし・知らない・聞いたことがない」との回答も10.40%存在する。さらに、堂島ロールの認知度が、京浜地区で82.2%、大阪・京都・兵庫(神戸市除く)で96.0%と高いのに対し、その中で、「モンシュシュ」が堂島ロールを製造販売する会社であると認識できるのは、それぞれ、46.2%、56.7%と、半数程度である。
 したがって、「モンシュシュ」は、洋菓子に比較的関心が高いといえる需要者層においてすら、被告の店舗名として一律に被告を想起させるほどの知名度を有していないといえる。
ウ 商品について
 チョコレートとケーキ類や焼き菓子は、同一の営業主体が販売することも多いし、需要者においても、同じ「洋菓子」のカテゴリにあるこれらの商品を区別して、その出所を判断しているとは認め難い。
 しかも、被告は、バレンタイン商戦時期にチョコレートを販売しており(争いがない。)、必ずしも商品が異なるわけでもない。
エ 以上のとおり、需要者に出所の混同が生ずるおそれがないとする被告の主張は採用できない。
(4) 結論
 以上のとおりであるから、被告各標章は、洋菓子について使用される場合であっても、洋菓子の小売について使用される場合であっても、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているといえる。
2 争点2(被告標章1及び5ないし9は、本件商標に類似するか)について
(1) 本件商標
ア 外観
 本件商標の外観は、別紙本件商標目録記載のとおりであり、楷書体で、欧文字の「MONCHOUCHOU」を横一列に記載し、その下段に、片仮名の「モンシュシュ」を横書きで併記したものである。
イ 称呼
 本件商標からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる。
ウ 観念
 「mon chouchou」とは、フランス語で「私のお気に入り」との意味であり、本件商標からは、「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。
(2) 被告標章1
ア 要部
 被告標章1の外観は、別紙被告標章目録記載1のとおりであり、欧文字の「Mon chouchou」を飾り文字で「Mon」と「chouchou」を上下2段に分けて横書きし、その左側に、バラと思われる花の図形を配置したものである。原告は、その主張において、被告標章1を欧文字部分のみからなるものとして論じている。たしかに、「M」の文字の左端をリボン状に延ばした部分の延長が、花の曲線状の茎と重なっており、花の図形自体が、「M」の文字の一部を構成するようにも見えるが、左端のリボン状は、先にいくに従って細くなっており、必ずしも「M」の文字の一部が花の図形であるとはいえず、被告標章1は欧文字と花の図形を組み合わせた結合商標と解される。
 ところで、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
 この点、被告標章1の図形部分は、花というオーソドックスなモチーフを使用したデザインであって、出所表示となるような特段の意味づけがされているとは認められないし、被告の使用する標章に一律に使用されているものでもない。したがって、被告標章1は、全体が1つのマークとして認識されるのではなく、図形部分は飾りであると認識されると考えられ、図形部分からは、出所識別標識としての称呼、観念は生じないと認められる。
 以上のとおりであるから、被告標章1の要部である「Mon chouchou」の部分だけを抽出し、本件商標と比較して類否を判断すべきである。
イ 外観
 被告標章1の要部の外観は、欧文字の「Mon chouchou」を2段に分け、「Mon」を上段に、「chouchou」を下段に、いずれも筆記体で記載したものである。このうち「M」の文字は、文字の端がリボン状に延びた飾り文字になっている。
ウ 称呼
 被告標章1の要部からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる(明らかな争いはない。)。
エ 観念
 被告標章1の要部からは、「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。
(3) 被告標章5
ア 外観
 被告標章5の外観は、別紙被告標章目録記載5のとおりであり、欧文字の「Mon chouchou」を、筆記体で横一列に記載したものである。このうち「M」の文字は、文字の端がリボン状に延びた飾り文字になっている。
イ 称呼
 被告標章5からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる(明らかな争いはない。)。
ウ 観念
 被告標章5からは、「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。
(4) 被告標章6
ア 外観
 被告標章6の外観は、別紙被告標章目録記載6のとおりであり、欧文字の「Mon chouchou」を2段に分け、「Mon」を上段に、「chouchou」を下段に、いずれも筆記体で記載したものである。このうち「M」の文字は、文字の端がリボン状に延びた飾り文字になっている。
イ 称呼
 被告標章6からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる(明らかな争いはない。)。
ウ 観念
 被告標章6からは、「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。
(5) 被告標章7
ア 外観
 被告標章7の外観は、別紙被告標章目録記載7のとおりであり、赤色欧文字の「Mon chouchou」を、筆記体で横一列に記載したものである。このうち「M」の文字は、文字の端の一部がリボン状に延びた飾り文字になっている。
イ 称呼
 被告標章7からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる(明らかな争いはない。)。
ウ 観念
 被告標章7からは、「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。
(6) 被告標章8
ア 要部
 被告標章8の外観は、別紙被告標章目録記載8のとおりであり、文字と図形とを組み合わせた結合商標と解されるところ、原告は、その要部は「Monchouchou」の部分であると主張するので、前記(2)アで述べた基準に沿って検討する。
 被告標章8は、被告標章1のうち、図形の花をつぼみに変え、茎を増やした上(なお、被告標章1に比べ、花の茎は、「M」の文字の左端と明確につながっているが、一見したところでは、両者の違いはほとんど目立たない。)、蝶などの図形と、「baby」の文字、「from Tokyo」の記載を付加したものであって、被告標章1をアレンジしたものといえる。
 そのうち「baby」の部分は、筆記体で記載された「Mon chouchou」の部分とは異なって楷書体で記載され、記載態様も、飾り文字である「M」の左上に、小さく付加された形であるため、「Mon chouchou」の部分が、強く印象づけられているといえる。
 また、「baby」は、その意味内容が広く知られ、日常的に使用されている英単語であるところ、形容詞として使用される場合は、「ミニ」や「プチ」などと同じく、小さいものを表す修飾語として、他の言葉と組み合わせて使用されており、単独で出所識別標識としての称呼や観念を生じるものではない。「from Tokyo」の部分も、地域を示す表示であるから、やはり、単独で出所識別標識としての称呼や観念を生じるものではない。
 そして、花や蝶などの図形部分は、被告標章1と同様、飾りとして認識されると考えられ、そこから出所識別標識としての称呼や観念は生じない。
 以上のとおりであるから、被告標章8は、「Mon chouchou」の部分が、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えており、「Mon chouchou」以外の部分から、出所識別標識としての称呼、観念は生じないと認められる。
 したがって、被告標章8の要部である「Mon chouchou」の部分だけを抽出し、本件商標と比較して類否を判断すべきである。
イ 外観
 被告標章8の要部の外観は、欧文字の「Mon chouchou」を2段に分け、「Mon」を上段に、「chouchou」を下段に、いずれも筆記体で記載したものである。このうち「M」の文字は、文字の端がリボン状に延びた飾り文字になっている。
ウ 称呼
 被告標章8の要部からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる(明らかな争いはない。)。
エ 観念
 被告標章8の要部からは、「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。
(7) 被告標章9
ア 要部
 被告標章9の外観は、別紙被告標章目録記載9のとおりであるところ、原告は、その要部は「モンシュシュ」の部分であると主張するので、前記(2)アで述べた基準に沿って検討する。
 被告標章9は、片仮名の「ベビーモンシュシュ」を横一列に記載したものである。そして、被告標章9は、全ての文字が、同一の大きさ・書体・間隔で表記されており、「モンシュシュ」の部分だけが強く支配的な印象を与えるとは言い難い。
 しかしながら、被告標章9のうち「ベビー」の部分は、被告標章8について述べたように、単独で出所識別標識としての称呼や観念を生じないと認められる。
 また、被告標章9は、被告店舗7及び17の店舗名であるところ、被告店舗7の開設日は平成21年6月17日、被告店舗17の開設日は平成22年12月15日である。他方、被告は、平成15年に「パティシェリーモンシュシュ」の店舗名で洋菓子の販売を開始し、平成18年3月に現店舗(本店:被告店舗1)に移転した後、被告店舗7の開設日までに12店舗を開設している(甲3。うち、被告店舗3については、別法人による経営である。)。そして、被告店舗7は、被告のウェブサイトにおいて「姉妹ブランド」と紹介され(甲3)、雑誌等でも、同様に紹介されている他(乙92、乙78、178、181、182、188、191、195、201、203)、「モンシュシュ」の新コンセプト店(甲13、乙178)、新ブランド(店)(乙179、187、193、198)と扱われている。被告店舗17の雑誌での紹介文も、「大丸東京店で展開しているモンシュシュのケーキショップ」であり(甲119)、「モンシュシュ」の存在を前提としている。
 さらに、被告標章9の使用態様を見ても、被告のウェブサイト(甲118)では「モンシュシュ」と共に表記されているし、被告作成のチラシ(甲129、130、148)においても、被告標章8の文字部分を、「baby」と「Monchouchou」との間にスペースを空けた上で、一列に記載したものと共に表記されている。しかも、被告店舗7で使用されているショッピングバッグでは、被告標章9が、スペースを設けることにより「ベビー」、「モン」、「シュシュ」に区切られて表記されている。
 このように、取引の実情において、被告標章9は、「モンシュシュ」に「ベビー」を付加したものとして扱われており、需要者もそのように認識していると考えられ、被告標章9は、「ベビー」と「モンシュシュ」の結合商標であり、前記(6)アで述べたことも併せ考えると、その出所識別力は「モンシュシュ」にあるということができる。
 したがって、被告標章9の要部である「モンシュシュ」の部分だけを抽出し、本件商標と比較して類否を判断すべきである。
イ 外観
 被告標章9の要部の外観は、片仮名の「モンシュシュ」を横一列に記載したものである。
ウ 称呼
 被告標章9の要部からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる。
エ 観念
 被告標章9の要部からは、「私のお気に入り」との観念が生じる(明らかな争いはない。)。
(8) 取引の実情
ア 被告は、本件商標と被告各標章について、洋菓子業界の実情、知名度の違い、販売形態(商品・販路)の違いなどを根拠に、出所混同のおそれがないと主張するので、以下検討する。
イ 洋菓子業界の実情について
 被告は、本件商標は原告商品の商品名として使用され、被告各標章は被告のブランド名として使用されているところ、洋菓子業界では、一般的な名称が多い商品名ではなく、ブランド名こそが信頼の対象となっていると主張する。
 しかしながら、被告商品のうちロールケーキだけを見ても、「プリンセスロール」、「シンデレラロール」、「ミファ」、「チュナ」、「ピンクローリー」など、決して一般的な洋菓子の名称とはいえない商品名が使用されている(甲3、130、乙92、181等)。
 また、被告のウェブサイト(甲35)やパンフレット(甲44、133)など、被告自身が情報発信しているものを含め、被告商品を紹介する文章には、堂島ロールのクリーム・生クリームを使用していること(甲35、44、133、乙49、89、120、175)、堂島ロールのチョコレート生地・スポンジ生地を使用していること(乙84、99)などが記載されており、堂島ロールという商品名が、需要者の注意を惹いていることが窺われる。
 しかも、本件商標は、特定の商品ではなく、ビアンクールが販売するチョコレートのシリーズ名のひとつとして使用されている(甲72〜94)。このように、被告の上記主張は、その前提となる事実を欠くものといえる。
ウ 知名度の違いについて
 前記1(3)イで述べたとおり、「モンシュシュ」は、洋菓子に比較的関心が高いといえる需要者層においてすら、被告の店舗名として一律に被告を想起させるほどの知名度を有していない。
 そして、「モンシュシュ」について、ビアンクールのチョコレートの商品商標として認識される割合よりも、被告の店舗名として認識される割合の方が、相対的に高かったとしても、それだけでは、必ずしも洋菓子への関心が高くない、一般消費者という広範囲な需要者における、出所混同のおそれを否定することはできないといえる。
エ 販売形態(商品・販路)の違いについて
(ア) 商品
 被告は、原告商品はバレンタイン用チョコレートであり、被告商品の中心はケーキ類や焼き菓子であって、商品が異なっていると主張する。
 しかしながら、これが出所混同のおそれを否定する事情とならないことは、前記1(3)で述べたとおりである。
(イ) 販路
 被告は、原告商品は量販店で小売販売され、被告商品は百貨店や直営店で直接販売されているため、原告商品は庶民的なイメージであり、被告商品は高級なイメージであると主張する。
 しかしながら、原告商品は、これまで、百貨店においても販売されていたと認められる(甲74、78〜81、83〜87、113)。
 また、バレンタイン商戦時期のように、量販店においてもプレゼント用の高額商品を置き、百貨店においても常設の店舗以外でチョコレートを販売する時期には、同一の営業主体が、量販店と百貨店の両方の販路を用いて販売活動を行うことは、十分考えられる(甲137によれば、大丸神戸店において、ビアンクールがチョコレートの販売を行っている。)。実際、原告商品も、平成23年においては、百貨店と量販店のいずれにおいても販売が予定されていたのであり(甲115)、両方の販路が利用されていたといえる。
 さらに、被告商品については、インターネットを利用した通信販売も行われており(甲35、44)、被告商品の販路が、百貨店や直営店での直接販売に限られているわけでもない。
オ 以上のとおりであるから、本件においては、出所混同のおそれを否定するような取引の実情は存在しないといえる。
(9) 類否の検討
 前記(8)のとおり、本件においては、出所混同のおそれを否定するような取引の実情は存在しないので、以下、外観、称呼、観念の対比によって、類否判断を行う。
ア 被告標章1、5ないし8
(ア) 外観
 被告標章1の要部、被告標章5ないし7、被告標章8の要部は、いずれも、欧文字の「Mon chouchou」を、飾り文字(被告標章7については、さらに赤色文字)を使用した筆記体で、2段に分けて(被告標章1の要部、被告標章6、被告標章8の要部)、あるいは横一列(被告標章5、7)に記載したものであり、本件商標は、欧文字の「MONCHOUCHOU」を楷書体で横一列に記載し、その下段に、片仮名の「モンシュシュ」を横書きで併記したものであるから、その外観は本件商標の上段と類似し、その結果、被告標章1、5ないし8と本件商標は、外観において類似する。
(イ) 称呼
 被告標章1の要部、被告標章5ないし7、被告標章8の要部、本件商標からは、いずれも「モンシュシュ」との称呼が生じるから(明らかな争いがない。)、その称呼は同一である。
 なお、本件商標の上段の「MONCHOUCHOU」、被告標章1、8の要部、被告標章5ないし7の「Mon chouchou」をフランス語で「モンシュシュ」と発音することを知る需要者がどの程度いるか必ずしも明らかとはいえず、また、フランス語以外の読みとして、いかなる称呼が生じるか、必ずしも明らかとはいえないが、本件商標上段の「MONCHOUCHOU」と当該被告各標章における「Mon chouchou」は、同じスペルであることから、異なる称呼が生じることはないといえる。
(ウ) 観念
 被告標章1の要部、被告標章5ないし7、被告標章8の要部、本件商標からは、いずれも「私のお気に入り」との観念が生じるから(明らかな争いがない。)、その観念は同一である。
 なお、本件商標が、フランス語で「私のお気に入り」を意味することを理解できる需要者がどの程度いるか、必ずしも明らかとはいえないが、本件商標上段の「MONCHOUCHOU」と当該被告各標章における「Monchouchou」は、同じスペルであることから、異なる観念が生じることはないといえる。
(エ) 結論
 以上のとおり、被告標章1の要部、被告標章5ないし7、被告標章8の要部は、いずれも、称呼・観念において、本件商標と同一であり、外観の違いも、本件商標をデザインし、文字装飾を施したと認識される程度のものといえるから、被告標章1、5ないし8は、本件商標と類似すると認められる。
イ 被告標章9
(ア) 外観
 被告標章9の要部は、片仮名の「モンシュシュ」を横一列に記載したものであり、本件商標は、欧文字の「MONCHOUCHOU」を楷書体で横一列に記載し、その下段に、片仮名の「モンシュシュ」を横書きで併記してなる1個の商標であるから、被告標章9の要部は、本件商標の下段と同一であり、外観において、本件商標と類似する。
(イ) 称呼
 被告標章9の要部と本件商標からは、いずれも「モンシュシュ」との称呼が生じるから、両者の称呼は同一である。
(ウ) 観念
 被告標章9の要部と本件商標からは、いずれも「私のお気に入り」との観念が生じるから(明らかな争いがない。)、両者の観念は同一である。
 仮に、一部の需要者が「モンシュシュ」の意味を理解できないとしても、異なる観念を生じることはない。
(エ) 結論
 以上のとおり、被告標章9の要部は、称呼・観念が本件商標と同一であり、外観も本件商標と類似しているから、被告標章9は、本件商標と類似すると認められる。
3 争点3(被告標章4は商標として使用されているか)について
(1) 被告は、被告標章4は、ホームページアドレスを表示したものであり、商標として使用されているものではないと主張するので、以下検討する。
(2) ドメイン名自体の広告的機能
 被告標章4は、被告のホームページアドレスそのものではないものの、ホームページアドレスを構成するドメイン名(mon-chouchou.com)の一部である(甲10)。
 しかしながら、上記ドメイン名は、被告商品の保冷バッグ(甲9)や包装用紙袋(甲132)に表記されているほか、被告のテーマカラーであるオレンジとブラウンで(乙168)、被告商品の包装箱風に着色されたトラックの車体広告に、被告自身が商標的使用であること(役務標章であること)を認めている被告標章1と共に記載されており(甲32)、被告商品ないし被告の営む洋菓子販売業に係る広告的機能を発揮しているといえる。
(3) 出所識別標識としての重畳的使用
 被告は、被告標章4を、被告の略称であると主張している。
 そして、社名を冠したドメイン名を使用して、ウェブサイト上で、商品の販売や役務の提供について、需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し、あるいは注文を受け付けている場合、当該ドメイン名は、当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能を有しており、商標として使用されているといえるところ、被告は、ウェブサイト上で、被告商品の情報を提供し、注文を受け付けている(甲10、35、44)。
 そうすると、被告のドメイン名は、単にホームページアドレスの一部として使用されているものではなく、出所識別標識としても使用されているといえる。
(4) 出所識別標識としての使用
 被告標章4と同じ、「mon」と「chouchou」の間に「-」を記載した態様は、被告店舗15の店舗名表記にも使用されている(甲114)。
(5) 以上のことからすれば、被告標章4は、商標として使用されていると認められる。
4 争点4(被告標章2ないし4は、被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか)について
(1) 著名性について
 被告標章2ないし4が被告の略称であることは、原告もこれを争うものではないところ、被告は、この略称が著名であるとして、商標法26条1項1号に基づく抗弁を主張する。
 しかしながら、本件訴訟提起を報じた平成22年1月21日付け新聞記事の見出しのうち被告に関する記載は、読売新聞が「堂島ロール製造 モンシュシュを提訴」(乙207の1)、産経新聞が「堂島ロール販売元を損賠提訴」(乙207の2)、毎日新聞が「堂島ロールのモンシュシュを訴え」(乙207の4)、日刊スポーツ新聞が「『堂島ロール』の会社を提訴」(乙207の5)、神戸新聞が「『堂島ロール』社を提訴」(乙207の6)、日本経済新聞が「『堂島ロール』の会社を提訴」(乙207の7)というものである。このように、全国紙を含む各紙が、見出しにおいて、被告を「堂島ロールの会社」あるいは「堂島ロールを製造販売しているモンシュシュ」として扱っていることからは、この時点で、「モンシュシュ」が、被告を指す名称として一般には認知されていなかったことが窺われる。日本経済新聞の記事には、堂島ロールとの関連づけを行うことなく「モンシュシュ」の名称が見出しに出ているものも存在するが(乙72、170)、これらは経済界向けの記事であり、需要者である一般消費者向けの記事ではない。
 また、前記1(3)イで述べたとおり、平成22年9月段階で行われた、週に1回以上スイーツ(洋菓子)を食べる(購入する)20代から50代の女性を対象とするアンケートの結果(乙206)によれば、「堂島ロール」を知っている人の中でも、「モンシュシュ」という名前を知らない人は、京浜地区で42.6%存在し、大阪・京都・兵庫(神戸市除く)においてすら31.9%存在する。また、同年10月段階で行われた同様のアンケートの結果(乙211)においても、洋菓子の営業標章としての「モンシュシュ」の認知度は、札幌市(被告の店舗が存在する。)で23.7%、仙台市(被告の店舗が存在しない。)で21.0%、名古屋市(被告の店舗が存在する。)で57.0%、広島市(被告の店舗が存在する。)で31.0%、福岡市(被告の店舗が存在しない。)で17.3%である。この数字は、同じアンケート結果において、これら全市で、モロゾフが95%前後、ゴディバが90%前後、ユーハイムが85%前後の認知度であるのに比べて、かなり低いといえる。
 これらのことからすれば、「モンシュシュ」が、被告の略称として著名であるとは認められない。
(2) 結論
 以上のとおりであるから、被告標章2ないし4が「普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するかについて判断するまでもなく、商標法26条1項1号に基づく被告の抗弁には理由がない。
5 争点6(原告の損害の発生の有無)について
(1) 登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである(最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
 そして、被告は、本件商標について、顧客吸引力が全く認められず、被告商品の売上げに全く寄与していないことが明らかであるから、原告には損害が生じていないと主張するので、以下検討する。
(2) 本件商標の顧客吸引力
 本件商標が付されたバレンタイン用チョコレート(原告商品)は、ビアンクールが販売するバレンタイン用チョコレートの主力商品であり(甲72〜94)、売上げの6割前後を占めていたと認められる(甲96、113)。
 そして、ビアンクールのバレンタイン商戦時期の売上げは、原告商品の販売が開始された昭和61年こそ3107万9000円であったものの、昭和62年は1億2508万円、昭和63年は1億8029万7000円と増加しており、平成元年から本件商標の使用が中断される直前の平成16年までの間、少ない年(平成12年、13年)でも1億7000万円を超え、多い年(平成3年)では3億1000万円を超えていたものである(甲96)。これは、被告商品のうちチョコレート(バレンタイン商戦時期のみ販売)の売上げが、平成18年度(当年8月〜翌年7月。以下同じ。)において32万4996円、平成19年度において353万7346円、平成20年度において1063万5000円、平成21年度において3741万0834円であったことや(乙213)、被告の年間売上げが、被告や被告商品がメディアで頻繁に紹介され、新たに3店舗がオープンするなど(甲3)、業績が伸びていた平成18年度でさえ、4億円程度であったことと比較しても、十分多額であるといえる。
 また、証拠(甲71〜95)によると、本件商標は、原告商品の包装やそのパンフレットに使用され、しかも、比較的目立つ位置に表示され、原告商品の購入者の注意は、本件商標に自然と注がれることが認められる。
 確かに、本件商標の使用が中断された平成17年及び平成18年に、ビアンクールの売上げが減少した事実は認められず(甲113)、原告商品の売上げに対する寄与が、本件商標の使用のみによるものであるとは考えられない。
 しかしながら、本件商標は、上述したとおり、本件訴訟提起以前から、原告商品を示すものとして使用されており、その使用態様や、売上げに照らすと、原告商品の売上げに本件商標の寄与がないとは認め難く、本件商標に顧客吸引力が全く認められないということはできない。
(3) 被告商品の売上げへの寄与
 前記1(1)のとおり、被告各標章は、チョコレートを含む洋菓子である被告商品の包装、被告各店舗の表示、被告商品ないし被告の宣伝広告など、被告商品の販売にあたって広く使用されていることが認められる。
 そうすると、本件商標に類似する被告各標章を使用することが、被告商品の売上げに全く寄与していないことが明らかであるとはいえない。
(4) 以上のとおりであるから、被告の抗弁は採用できない。
6 争点7(原告の請求は権利濫用か)について
(1) 登録商標の商標権者であっても、登録商標の商標権の侵害を主張することが、客観的に公正な競争秩序を乱す場合は、権利の濫用に当たり許されないというべきである(最高裁平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。
 そして、被告は、@ 原告の権利行使が速やかに行われなかったこと、A「モンシュシュ」は一般に被告の店舗名として認知されていること、B 原告が被告各標章にフリーライドしていることなどを理由に、原告の請求が権利濫用であると主張する。
 しかしながら、上記Aの事実が認められないことについては、これまで述べたところであるので、以下、上記@、Bの点について検討する。
(2) 権利行使時期(上記@)について
 本件訴訟前において、原告と被告が交渉を行ったのは、平成21年5月以降であるところ(争いがない。)、被告は、原告は、平成16年末には被告の存在を知り、遅くとも、平成18年には権利行使が可能であったと主張する。
 しかしながら、上記被告の主張を認めるに足りる証拠はない。
 また、平成18年に、原告の権利行使が可能になったとしても、実際の権利行使までには3年ほどしか経過していないのであり、この程度の期間経過をもって、権利行使が遅延したということも困難である。そして、被告に係る業務拡大、売上増、消費者の信頼形成が、短期間のうちに行われたからといって、それ以前に権利行使を行う必要があり、それ以後に行われた権利行使が濫用的なものであるということはできない。
(3) 本件商標の使用状況(上記B)について
 原告は、本件商標について、昭和56年8月31日に登録を受け、昭和61年から平成16年まで継続使用していたところ、平成17年及び平成18年に使用を中断し、平成19年から使用を再開している(前提事実(2)、(3)、前記5(2))。
 もっとも、バレンタイン商戦時期に商品を販売するためには、前年の3月ころから準備を行う必要があると認められるから(甲115)、平成19年のバレンタイン商戦時期に原告商品を販売するにあたり、原告は、平成18年3月ころには、本件商標の使用再開を決定していたと考えられる。
 そして、平成18年というと、被告が、同年1月に、従業員を大幅に増やして、新たに開設した工場での製造を開始し、同年3月に、現在の本店(被告店舗1)に移転し、洋菓子の販売を本格的に開始した時期であるが(甲3)、このころ、被告各標章に、原告によるフリーライドが行われるほどの知名度があったとは認められない。
(4) 以上のとおりであるから、被告の権利濫用の抗弁には理由がない。
7 争点8(原告の損害)について
(1) 被告の総売上げ
 平成18年度から平成21年度までの被告の総売上げは、以下のとおり合計121億9080万2578円である。
ア 平成18年度 4億0388万6123円(乙212の1)
イ 平成19年度 18億8793万2174円(乙212の2)
ウ 平成20年度 40億3464万0954円(乙212の3)
エ 平成21年度 58億6434万3327円(乙212の4)
(2) 被告の総売上げから控除すべき売上げ
 前記(1)の売上げには、喫茶、ウエディング部門、保冷バッグ、ロイヤリティに係る売上げが含まれているところ(乙213)、被告は、これらは洋菓子の売上げではないから、本件商標権の侵害によるものではないと主張するので、以下検討する。
ア 喫茶について
 喫茶に係る売上げは、平成20年度に初めて発生しているところ(乙213)、平成20年11月10日にオープンした被告店舗6では、実際に喫茶営業が行われている(乙58)。
 そして、喫茶営業では、飲み物のほか菓子類を提供することが通常であるとしても、その主たる役務の中心はサービスの提供にあり、流通を前提とした商品「菓子、パン」に類似する役務とは認められない。
 また、本件商標は、商品を製造販売する主体を表示する商標としてではなく(主体を表す商標としては「ビアンクール」が使用されている。)、ビアンクールが販売をしているチョコレートの商品名(シリーズ名)を表示する商標として使用されていることからすると、本件商標を付した商品を製造販売する主体と、本件商標と類似する標章を使用する喫茶店営業の主体とを混同するおそれは低いというべきである。
 したがって、喫茶に係る売上げは、本件商標権の侵害によるものであるとは認められない。
イ ウエディング部門について
 被告は、ウエディング部門は、結婚披露宴で使用される洋菓子につき、総合的に企画立案、商品の提供を行う事業であり、その売上げは、単なる洋菓子の売上げではないと主張する。
 しかしながら、被告の主張する上記「総合的に企画立案、商品の提供を行う事業」が、具体的にどのようなものであるか、また、洋菓子の販売とどこが違うのかは明らかでない。
 また、被告は、パンフレット(甲4)において、ウエディングケーキは1万5000円〜8万円(40p×45pであれば1万5000円)で作られること、引き菓子は、焼き菓子の詰め合わせ(1260円〜5250円)など、予算に応じて詰めることができ、箱を2色から選べることなどを記載しているところ、その内容が、洋菓子販売の域を出るものとは認め難い。実際、同パンフレットには、サイズ(12p〜30p)ごとに設定された値段(2300円〜1万0500円)で、丸形・角形のケーキを販売していることや、焼き菓子の詰め合わせ(1260円〜5250円)を販売していることなど、洋菓子の販売に係る記載が行われているところ、その内容は、上記ウエディングケーキや引き菓子に係る記載と異ならないといえる。
 したがって、ウエディング部門に係る売上げも、本件商標権の侵害によるものであると認められる。
ウ 保冷バッグについて
 被告は、保冷バッグについて、洋菓子とは別に販売されているものであり、保冷バッグに係る売上げは、洋菓子の売上げではないと主張する。
 しかしながら、洋菓子の販売にあたり、保冷が必要な洋菓子は、保冷剤で足りなければ、別売りの保冷バッグで包装するのが一般的である。また、洋菓子の販売にあたっては、包装用の箱代が別途必要となる場合も多いが(被告も、フィナンシェやバームクーヘンについて、箱の有無により値段を変えている[甲4]。)、この箱代が、洋菓子の売上げでないとは言い難い。
 そして、箱と同じく洋菓子商品の包装に使用される保冷バッグについて、箱とは異なった扱いをする理由はないといえる。
 したがって、保冷バッグに係る売上げも、本件商標権の侵害によるものであると認められる。
エ ロイヤリティについて
 被告は、ロイヤリティについて、喫茶店としての商標の使用権や、「堂島ロール」などの名称の使用権に基づくものであると主張する。
 そして、被告は、平成18年3月24日に、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」について、指定役務を「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供」とする商標登録を受けているところ(甲46)、この指定役務は、本件商標の指定商品と類似するものではない(前記ア)。また、このロイヤリティのうち、被告各標章を付した持ち帰り用の商品の売上げに関するものがどの程度含まれているかは不明である。
 したがって、ロイヤリティに係る売上げは、本件商標権の侵害によるものであるとは認められない。
(3) 使用料相当額算定の対象となる売上げ
 前記(1)、(2)からすれば、平成18年度から平成21年度における、本件商標権の侵害による被告の売上げは、次のとおり、総売上げから、喫茶に係る売上げ及びロイヤリティ収入(乙213)を控除した額となる。
 なお、喫茶店では、持ち帰り用の商品を販売していることが認められるが、この売上げは喫茶による売上げには計上されていない(乙213、220)。
ア 平成18年度
 総売上げ 4億0388万6123円
 ロイヤリティ収入 889万9457円
 対象売上げ 3億9498万6666円
イ 平成19年度
 総売上げ 18億8793万2174円
 ロイヤリティ収入 4202万4529円
 対象売上げ 18億4590万7645円
ウ 平成20年度
 総売上げ 40億3464万0954円
 喫茶に係る売上げ 5504万7048円
 ロイヤリティ収入 7340万4482円
 対象売上げ 39億0618万9424円
エ 平成21年度
 総売上げ 58億6434万3327円
 喫茶に係る売上げ 7643万0560円
 ロイヤリティ収入 6094万6790円
 対象売上げ 57億2696万5977円
(4) 使用料率
ア 原告は、本件商標の使用料は、売上げの2%を下らないと主張する。
 もっとも、商標権は、特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではなく、業務上の信用が付着し顧客吸引力が発生することによって財産的価値を生ずるものであるから、以下、本件商標の顧客吸引力について検討し、併せて、それが被告の売上げにどの程度寄与しているかを検討する。
イ 本件商標の顧客吸引力
 ビアンクールが、バレンタイン用チョコレートについて、平成元年から平成16年までの間、毎年2億円程度から3億円程度を売り上げており、このうち本件商標を付したもの(原告商品)が、売上げの6割前後を占めていたことは、前記5(2)認定のとおりである。また、平成19年以降も、原告商品は、平成19年に2億0382万7000円、平成20年に2億1913万8000円、平成21年に2億3278万8000円を売り上げており(甲96)、本件商標権には、業務上の信用が付着し顧客吸引力が発生しているといえる。
 もっとも、前記5(2)のとおり、本件商標の使用を中断することによって、ビアンクールの売上げが減少した事実は認められないし、本件商標の認知度は低い(乙206、211)。
 したがって、本件商標権のバレンタイン用チョコレートの売上げに対する寄与は大きいとはいえず、その顧客吸引力も高いとはいえない。
ウ 被告の売上げへの寄与
 被告の総売上げは前記(1)のとおりであり、約4億円であった平成18年度を基準にすると、平成19年度は約4.7倍、平成20年度は約10倍、平成21年度は約14.5倍と、急激に増加している。そして、この売上げの増加は、堂島ロールの販売によるところが大きい(乙208、213)。
 ところが、平成18年度から平成20年度まで被告の売上げの80%以上を占めていた、堂島ロールを含むロールケーキ類の売上げは、平成21年度には73.5%に低下し、逆に、13%前後を占めていたに過ぎない他の洋菓子(ロールケーキ類・チョコレート以外)の売上げは、21.6%に上昇している(乙213)。これは、堂島ロールが頻繁にメディアに取り上げられた結果、その製造販売元である被告の知名度が上がり、店舗数も増えたため、堂島ロール以外の被告商品も、多く購入されるようになったからと考えられる。
 したがって、被告の売上げについては、平成18年度から平成20年度までは、堂島ロールの知名度が大きく寄与しており、平成21年度以降も、堂島ロールの製造販売元である菓子店としての、固有の顧客吸引力が寄与していたといえる。
 また、被告商品は、原告商品とは異なり、洋菓子全般であって、通年販売されていたものであるから、需要者が被告商品を購入する場合、被告各標章がその購買動機の形成に寄与することは、それほど多くないと考えられる。
エ 前記イ、ウの事情及び本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、使用料相当額を算定するにあたって採用すべき本件商標の使用料率は、0.3%と認めるのが相当である。
(5) 損害
 前記(3)、(4)からすれば、被告の支払うべき使用料相当額は、次のとおり、合計3562万2146円となり、これが原告の損害であると認められる。
ア 平成18年度 118万4959円(円未満切り捨て。以下同じ。)
 計算式:3億9498万6666円×0.003
イ 平成19年度 553万7722円
 計算式:18億4590万7645円×0.003
ウ 平成20年度 1171万8568円
 計算式:39億0618万9424円×0.003
エ 平成21年度 1718万0897円
 計算式:57億2696万5977円×0.003
8 まとめ
(1) 差止め、廃棄等(主文1項〜7項)について
ア 以上のとおり、被告各標章は、洋菓子又は洋菓子の小売について使用される場合、本件商標権を侵害するものといえる。
イ なお、前記7(2)アのとおり、被告店舗6では喫茶営業が行われているが、同時に持ち帰り用として被告商品の販売も行われているところ、前記1で検討したところによると、被告店舗6において被告各標章を使用する行為は、被告商品の販売のために行うという側面を否定することができず、本件商標権を侵害する行為というべきである。
ウ 一方、原告は、被告店舗3、8について、被告が経営していることを前提とした主張をしているが、被告は、上記2店舗については、別法人が経営しており、被告はこれらの店舗からロイヤリティ収入を得ていると主張しているところ、証拠(甲15、乙213)によれば、被告店舗8の営業主体はトラベルカフェであり、被告はロイヤリティ収入を得ているに過ぎないと認められる。また、被告店舗3については、被告が同店舗を経営している証拠はない。
 したがって、被告店舗3、8に係る請求は認められない。
エ さらに、被告店舗15は、現在は営業を行っていない可能性もあるが(甲114)、仮にそうであったとしても、将来にわたって本件商標権を侵害するおそれがなくなったとまでは認められない。
オ したがって、被告各標章の差止請求は、被告による、洋菓子の包装への使用(主文1項)、洋菓子の販売を行う被告店舗1、2、4ないし7、9ないし17での使用(主文2項)、洋菓子に関する広告への使用(主文3項)、洋菓子の販売業を営む被告の広告への使用(主文4項)について認められる。
 また、被告各標章の抹消請求は、被告が洋菓子の販売を行う被告店舗1、2、4ないし7、9ないし17からの抹消(主文5項)、洋菓子ないし洋菓子の販売業を営む被告の広告からの抹消(主文6項)について認められる。
 さらに、被告各標章を付した物の廃棄請求は、洋菓子の包装及び広告物並びに洋菓子の販売業を営む被告の広告物(主文7項)について認められる。
(2) 損害賠償(主文8項)について
 本件商標権の侵害(不法行為)に基づく原告の損害は、3562万2146円と認められる。
 遅延損害金の起算日は、平成18年度ないし平成20年度分の損害合計1844万1249円については、不法行為の後である平成22年2月18日(訴状送達の日の翌日)となり、平成21年度分の損害1718万0897円については、同年度分の損害額が確定した平成22年8月1日とするのが相当である。
第5 結論
 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、主文記載の限度において理由がある(なお、主文5項ないし7項に係る仮執行宣言は相当でないから、これを付さないこととする。)。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 達野ゆき
 裁判官 西田昌吾
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