判例全文 line
line
【事件名】「キミへ続く空」改変事件
【年月日】平成23年6月29日
 東京地裁 平成22年(ワ)第16472号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成23年6月17日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 多湖章
被告 有限会社エスジーケー
被告 B
被告ら訴訟代理人弁護士 河野力丸


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して60万円及びこれに対する平成21年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の、その余を被告らの各負担とする。
4 この判決は、1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して110万円及びこれに対する平成21年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Bは、自ら開設するインターネットウェブサイトのトップページに、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を30日間掲載せよ。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、芸能プロダクションである被告有限会社エスジーケー(以下「被告会社」という。)及びその取締役かつ所属する歌手である被告B(以下「被告B」という。)に対し、原告が、作詞作曲し著作権・著作者人格権を有すると主張する音楽の著作物について、被告らが共同して、原告の許諾を受けずに、@同著作物を演奏、歌唱して、原告の演奏権(著作権法22条)を侵害した、A被告Bの管理するブログに同著作物を掲載し、原告の公衆送信権(送信可能化権を含む)(同法23条)を侵害した、B同掲載に当たり、作詞作曲者を「C」と表示し、原告の氏名表示権(同法19条)を侵害した、C同掲載に当たり、題名・歌詞の一部を改変し、原告の同一性保持権(同法20条)を侵害したと主張して、著作権及び著作者人格権の侵害に基づく損害賠償請求(民法709条、710条、719条、著作権法114条3項)として、連帯して、@、Aについて使用料相当額5万円、B、Cについて慰謝料95万円及び弁護士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する最終の不法行為日である平成21年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告Bに対し、名誉回復等の措置(同法115条)として、上記ブログへの謝罪文の掲載を求める事案である。
2 前提となる事実(争いのない事実以外は、証拠を項目の末尾に記載する。)
(1) 当事者等(甲8、11、乙2、5、6)
ア 原告は、「A1」名で作詞作曲をしたり、「A2」名で歌手活動をする者である。
イ(ア) 被告会社は、芸能プロダクションであり、被告会社の代表者代表取締役は、C(以下「被告会社代表者」という。)である。
(イ) 被告Bは、被告会社の取締役であり、被告会社に所属する歌手である。
(ウ) Dは、被告会社の取締役である。
ウ Eは、音楽活動をする者である。
(2) 「キミへ続く空」と題する歌(甲1、13、14)
ア 本件において、原告が、著作権及び著作者人格権を有すると主張する音楽の著作物は、「キミへ続く空」と題する歌(以下「本件著作物」という。)である。
イ 本件著作物の歌詞は、別紙1−1に記載のとおりである。
ウ 本件著作物の楽曲は、別紙1−2に記載のとおりである。
(3) 「僕たちにできる事〜キミへ続く空〜」と題する歌(甲2、14)
ア 被告Bは、平成18年12月2日、神奈川県横須賀市所在の横須賀芸術劇場において行われた「エイズチャリティコンサート」において、「僕たちにできる事〜キミへ続く空〜」と題する歌(以下「被告楽曲」という。)を演奏、歌唱した。
イ 被告楽曲の歌詞は、別紙2に記載のとおりである。
ウ 被告楽曲の楽曲は、別紙1−2に記載のとおりであり、本件著作物の楽曲と同一である。
(4) ウェブサイトへの掲載
ア 被告らは、平成21年11月16日、被告楽曲を演奏、歌唱した映像及び被告楽曲の歌詞(別紙2)を、被告Bの名義によるウェブサイト(以下「被告ブログ」という。)に掲載した。
イ 被告らは、上記掲載の際、被告楽曲の題名を「僕たちにできる事〜キミへ続く空〜」と、被告楽曲の著作者を「作詞作曲:C」とそれぞれ記載した。
ウ なお、上記掲載は、平成21年11月27日、削除された。
(5) 関連事実(甲8)
ア 原告は、平成18年8月12日及び同年11月11日、東京都豊島区所在のライブハウス「大塚ウェルカムバック」において行われたライブで、本件著作物を歌唱した。
イ 被告会社代表者及び被告Bは、上記ライブ(被告会社代表者は双方のライブ、被告Bは同年11月11日のライブ)において、原告が本件著作物を歌唱するのを聴いたことがあった。
ウ 原告、被告会社代表者、被告会社の取締役のD及びEは、平成18年10月ころ、東京都目黒区中目黒(以下「中目黒」という。)所在のダーツバーにおいて、本件著作物の使用に関する協議をしたことがあった。
3 争点
(1) 本件著作物の著作者
(1)−1 本件著作物の歌詞の著作者
(1)−2 本件著作物の楽曲の著作者
(2) 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否
(2)−1 依拠性
(2)−2 包括的許諾
(3) 故意過失
(4) 損害
(5) 名誉回復等の措置請求の成否
4 争点に対する当事者の主張
(1) 本件著作物の著作者、(1)−1 本件著作物の歌詞の著作者
(原告)
 本件著作物の歌詞を著作したのは、原告である。
(被告ら)
 原告の主張する事実は、知らない。
(1) 本件著作物の著作者、(1)−2 本件著作物の楽曲の著作者
(原告)
ア 本件著作物の楽曲を作曲したのは、原告である。
イ 原告は、亡くなった祖母のことをイメージして本件著作物の歌詞を構想し、携帯電話に打ち込んで、平成18年4月下旬ないし同年5月中旬ころ、これをEにメロディラインと共に伝え、コード譜面を作成してもらい、@同年8月12日及びA同年11月11日のライブ等でEの伴奏に合わせて歌唱した。そして、Aのライブでは、本件著作物が「オリジナル」であること、「上京してきた時に初めて創った曲」であること等を明示した(甲8、10)。
ウ Eは、機材の提供、場所の準備等の物理的な協力、コード進行という素材を提供したが、本件著作物の制作については、原告が、E宅において、頭の中で思い浮かべたメロディラインを歌唱しながら伝え、これを同人が、物理的・機械的にパソコンのソフトを使って打ち込んだにすぎず、同人が伴奏・イントロ部分を作成したものとしても、メロディライン自体の創作を現実に行ったのは原告であるから、本件著作物の作曲者は原告である。楽譜(乙1)の「E’」のクレジットは、Eが記載したものではない。
(被告ら)
ア 原告の主張する事実は否認し、法的主張は争う。
イ 本件著作物の作曲者は、Eである。楽譜(乙1)の最終小節の下部に「E’」という署名が記載されている。Eは、被告会社代表者に対し、コード譜(乙3)を交付したが、同譜面(乙3)には、手書きで、「キミへ続く空」の題名の右横に「作曲・編曲:E”」と記載されている。Eは、被告会社代表者に対し、ピアノ伴奏用の譜面(乙4)のデータも送信している。
(2) 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否、(2)−1 依拠性
(原告)
 被告楽曲は、本件著作物に依拠したものである。
(被告ら)
ア 原告の主張は争う。
イ 被告楽曲は、本件著作物と歌詞が異なる楽曲である。
(2) 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否、(2)−2 包括的許諾
(原告)
ア 被告らによる本件著作物の無断使用行為
 被告らは、次のとおりの、本件著作物の無断使用行為により、原告の著作権(各支分権)を侵害した。
(ア) 被告らは、被告Bにおいて、平成18年12月2日、エイズチャリティコンサートにおいて、被告楽曲を演奏、歌唱し、原告の本件著作物の演奏権(著作権法22条)を侵害した。
(イ) 被告らは、平成21年11月16日、被告楽曲を演奏、歌唱した映像及び被告楽曲の歌詞(別紙2)を、被告ブログに掲載して公開し、自動公衆送信が可能な状態に置き、もって、原告の本件著作物の公衆送信可能化権(同法23条)を侵害した。
(ウ) 被告らは、上記掲載の際、「作詞作曲:C」と記載し、もって、原告の本件著作物の氏名表示権(同法19条)を侵害した。
(エ) 被告らは、上記掲載の際、本件著作物の題名、歌詞の内容の一部を改変しており、原告の本件著作物の同一性保持権(同法20条)を侵害した。
(オ) 被告Bと被告会社は、@被告Bが、被告会社に所属する歌手であること、A被告Bは、被告会社の役員であり、両者は親密な関係にあること、B被告会社は、被告Bに歌わせることを前提に原告と楽曲使用の交渉をしたことがあったこと等からすると、被告らには主観的関連共同又は少なくとも客観的関連共同性が認められる(民法719条1項前段)。
イ 包括的承諾の不存在
(ア) 被告らの主張する事実は、いずれも否認する。
(イ) 原告は、被告会社から、エイズチャリティコンサートにおいて本件著作物を使用させて欲しいとの申入れに対し、他人が歌唱する形での使用を承諾したことはない(甲8、11)。
(ウ) 原告は、歌詞の改変を承諾したことはない。最愛の祖母に対する想いを元に、丹精こめて作り上げた歌詞について、他人が自由に改変することを、原告が承諾することはあり得ない。
(被告ら)
ア 原告の主張する被告らの行為に関する法的主張は争う。
イ 包括的承諾
(ア) 前提となる事実(5)ウのとおり、平成18年10月ころ、原告、被告会社代表者、D及びEは、中目黒所在のダーツバーにおいて協議し、同年12月のエイズチャリティーコンサートにおける、被告Bによる本件著作物の使用について話し合った。
(イ) 被告会社代表者は、(ア)の協議の際、原告及びEから、本件著作物を、被告Bの楽曲としてCD販売するなどの営利目的では使用しないことを条件として、同コンサートで使用すること及び同コンサートの性質に応じた歌詞の改変をすることを含む、本件著作物の使用に関する包括的な承諾を得た。
(3) 故意過失
(原告)
 被告らは、@平成18年8月12日及びA同年11月11日に「大塚ウェルカムバック」で行われたライブにおいて、被告会社代表者は@、Aを、被告BはAをそれぞれ訪れて、原告による本件著作物の歌唱を聴いており、謝罪文(甲5、6)の「伴和弥氏にかかる『キミへ続く空』」との記載からも、本件著作物が原告の著作物であることを認識していたのであるから、被告らは、故意過失により、(2)、(2)−2(原告)アの各行為に及んだものである。
(被告ら)
 原告の主張は争う。
(4) 損害
(原告)
ア 被告らによる原告の著作権(演奏権、公衆送信権(送信可能化権を含む))侵害により、使用料相当額の損害が生じているところ(民法709条、719条1項、著作権法114条3項)、本件著作物の演奏時間は1回当たり5分程度であり、被告ブログによる公衆送信可能化権侵害期間は12日間であること、原告は、仮にインターネットウェブサイトに本件著作物を掲載許可する場合には1日当たり2500円程度の掲載料を予定していたこと、原告自身がコンサート、ライブに出演し、本件著作物を歌唱する場合には1回当たり2万円程度の出演料を予定していたこと等からすると、被告らによる著作権侵害行為により生じた損害は、5万円(2500円×12日+2万円)である。
イ 被告ブログの読者数は、平成22年4月16日時点で173人であり(甲3)、読者以外からのアクセスはその数倍以上と推測されること、被告Bの知名度、本件著作物の性質その他の諸事情に鑑みると、被告らによる著作者人格権侵害行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、少なくとも95万円である。
ウ 弁護士費用10万円
 原告に生じた弁護士費用のうち、被告らによる著作権及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある損害額は、ア、イの合計額100万円の10%程度である10万円を下らない。
エ 損害額の合計は110万円である。
(被告)
 原告の主張する事実は不知であり、法的主張は争う。
(5) 名誉回復等の措置請求の成否
(原告)
ア 原告の名誉・声望が害されていること
(ア) 原告は、本件著作物を、自らのライブにおいて数度歌唱しており、前提となる事実(5)アのライブにおいても、不特定多数の者に対し、マイクパフォーマンスにより、本件著作物が自分の著作物であること及び大切な人を亡くした体験を元に制作したものであることを述べて、歌唱しているから(甲8)、上記不特定多数の者には、本件著作物が原告の作品であること、原告の上記思いを元に制作された楽曲であることが周知されていた。
(イ) 他方、被告Bは、被告ブログにおいて、本件著作物と酷似する歌詞(甲2)を、「親友に対して捧げた唄」、「作詞作曲:C」と記載して掲載し、かつ、被告Bが歌唱している映像を掲載したが、被告Bが、平成18年12月のエイズチャリティコンサートに出演し、各種イベントにおいても出演・歌唱の経験を持つなど知名度の高い歌手であることや、インターネットの性質等に鑑みれば、被告ブログの掲載期間(平成21年11月16日〜同月27日)中に、被告ブログに接した不特定多数の読者(平成22年4月16日時点では173人)には、本件著作物が、被告B又はその関係者の作品であり、被告Bの上記思いを元に制作された楽曲であるとの誤解を与えた形で周知された。
(ウ) そして、少なくとも当時は、被告Bの方が、原告より歌手としての知名度が高かったことに鑑みると、むしろ原告の方が被告会社代表者又は被告Bの作品を改変したとの誤解を与えてしまう可能性が高い。
(エ) よって、被告ブログの記事等により、原告の社会的名誉声望が害されるに至っている。
イ 原告が本件著作物の著作者であることを確保する必要性
(ア) 本件著作物の著作者が誰であるかについては、不特定多数の者において、誤解を与えたまま周知されており、誤解は継続している。
(イ) 被告らは、原告のライブを聴いていたにも拘わらず、エイズチャリティコンサートにおいて本件著作物を改変の上、歌唱し、被告ブログに掲載しており、また、本件訴訟において、原告が本件著作物の著作権者であること自体を否認するなど、不誠実な態度である。
(ウ) よって、原告が本件著作物の著作者であることを確保する必要性は高い。
ウ 謝罪広告という救済手段の必要性・相当性
(ア) 被告ブログでは、上記掲載を削除した上「ご関係者の方々には、深くお詫び申し上げます。」と掲載しただけで(甲3)、原告の社会的名誉・声望を回復するため及び著作者であることを確保するための適切な措置を取っていない。
(イ) 被告らは、被告ブログにおいて、上記誤解を与えており、かかる誤解を解消し、原告が著作者であることを周知させるためには、当該ブログにおいて、原告が作詞作曲したことを内容とする著作者の表示の訂正を含む謝罪広告を掲載させることが、直接かつ実効的な手段である。
(ウ) 上記措置は、被告Bが管理する被告ブログであり、掲載期間も30日間と比較的短期であるから、謝罪広告の手段・方法として容易かつ相当である。
(被告)
 原告の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1) 本件著作物の著作者、(1)−1 本件著作物の歌詞の著作者について
 前提となる事実に加え、証拠(甲1、8、11、乙3、証人E、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は、亡くなった祖母への思いから、本件著作物のメロディラインを構想するとともに、本件著作物の歌詞を制作し、携帯電話に打ち込むなどしていたこと、平成18年5月ころ、E宅において、同人に本件著作物のメロディラインを伝えるとともに、メロディラインに合わせて歌詞を完成させたこと、Eは、歌詞の制作には何ら関与しなかったこと、原告は、ライブにおいては、雰囲気に応じて、歌詞を少し変えて歌唱すること等があるものの、歌詞の内容としては、別紙1−1に記載したとおりであること、本件著作物のコード譜(乙3)には、作詞者として、原告が当時音楽活動をする際に使用していた「Louistar」との表示があることがそれぞれ認められる。
 以上の事実に加え、被告らも、原告が本件著作物の作詞者であることを積極的には争っていないことに照らせば、本件著作物の歌詞の著作者は、原告と認めるのが相当である。
2 争点(1) 本件著作物の著作者、(1)−2 本件著作物の楽曲の著作者について
(1) 前提となる事実に加え、証拠(甲1、8、11、13、14、乙1、3、4、証人E、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は、平成18年5月ころ、E宅において、同人に本件著作物のメロディラインを伝え、同人において、これをパソコンの音楽ソフトに入力したこと、Eは、コード譜やピアノ伴奏その他の部分を制作したが、メロディラインを制作することはなかったことがそれぞれ認められる。
 以上の事実によれば、本件著作物の楽曲の著作者は、原告と認めるのが相当である。
(2) この点について、被告らは、本件著作物の楽曲の著作者はEであると主張し、コード譜(乙3)に作曲者として「E”」との表示があることや、ピアノ伴奏の譜面(乙1)の末尾に「E’」との表示があること、平成18年10月ころ、中目黒所在のダーツバーにおいて、原告、被告会社代表者、D及びEで協議した際、本件著作物の作曲者について、原告とEが争っていたこと(乙5、被告会社代表者)等を指摘する。しかしながら、上記ピアノ伴奏の譜面(乙1)の表示(E’)は、Eが通常使用する表示(E”)と異なっていること(証人E)、E自身、メロディラインの制作はすべて原告が行ったことを認めていること(甲11、証人E)、中目黒所在のダーツバーにおける協議の際も、原告とEは、作曲の経緯について冗談交じりに話していた程度であったこと(被告会社代表者)等からすると、上記証拠中の上記(1)の認定事実に反する部分はにわかに信用することはできず、被告らの上記主張を採用することはできない。
3 争点(2) 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否、(2)−1 依拠性について
(1) 前提となる事実に加え、証拠(甲1〜3、5、6、8、10〜14、乙1〜6、証人E、原告本人、被告会社代表者、被告B本人)及び弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。
ア 本件著作物と被告楽曲の歌詞の対比
 本件著作物の歌詞と被告楽曲の歌詞は、次の(ア)ないし(テ)のとおり、被告楽曲の歌詞37行のうち21行について、本件著作物の歌詞と同一又はほぼ同一であり、(ト)で述べる点等において異なるものである。
(ア) 「季節は流れ 人間(ひと)はいつしか気付く」(本件著作物5行目及び被告楽曲5行目)
(イ) 「儚い夢や 散りゆく願いさえ」(本件著作物6行目及び被告楽曲6行目)
(ウ) 「言葉は もう届かなくても」(本件著作物7行目)及び「言葉は 届かなくても」(被告楽曲8行目)
(エ) 「ありがとう 優しさも忘れない」(本件著作物8行目)及び「ありがとう 優しさを忘れない」(被告楽曲9行目)
(オ) 「想いは ここに在り続ける」(本件著作物9行目及び被告楽曲10行目)
(カ) 「最期に見せた涙がキミの」(本件著作物13行目)及び「あの時君が見せた涙が」(被告楽曲12行目)
(キ) 「頬に一滴流れ落ちた」(本件著作物14行目及び被告楽曲13行目)
(ク) 「静かに迎える 朝を彩る花たち」(本件著作物15行目及び被告楽曲16行目)
(ケ) 「共に旅立つ 新しい世界へ」(本件著作物16行目及び被告楽曲17行目)
(コ) 「交差する時のなか」(本件著作物18行目及び被告楽曲19行目)
(サ) 「過ごした記憶は ずっと消えやしない」(本件著作物19行目)及び「過ごした記憶は 消えない」(被告楽曲20行目)
(シ) 「誰も終わり持つ この命の「花」を」(本件著作物21行目及び被告楽曲24行目)
(ス) 「咲かせるために」(本件著作物22行目及び被告楽曲25行目)
(セ) 「僕ら生きる喜び悲しみ 受け止めながら」(本件著作物23行目及び被告楽曲26行目)
(ソ) 「言葉はもう届かなくても」(本件著作物26行目及び被告楽曲27行目)
(タ) 「ありがとう優しさも忘れない」(本件著作物27行目)及び「ありがとう 優しさを忘れない」(被告楽曲32〜33行目)
(チ) 「この想いは ここに在り続ける」(本件著作物28行目)及び「想いは ここに在り続ける」(被告楽曲29行目)
(ツ) 「いつまでも歌うよ キミへ続く空から」(本件著作物29行目)及び「いつまでも唄うよ 君へ続く空から…」(被告楽曲35〜36行)
(テ) 「また会える日まで...」(本件著作物30行目及び被告楽曲37行)
(ト) 被告楽曲においては、冒頭の4行(「こんなに美しい 地球(ほし)に生まれ堕ち生きてきた なんにも知らず僕たちは 希望に向かって走り続け」)の部分において、本件著作物の冒頭の4行(「あんなに無邪気だった キミの笑顔にはもう会えない 幾度と辛いときを越え 生き抜いたんだろう 小さな手よ」)と異なるほか、被告楽曲の途中の歌詞においても、本件著作物と異なり、「最後に差し伸べた手のひらに 大きな温もり感じていた」、「いつの日も君のため 僕たちにできる事 いつも守り続けて」など、エイズチャリティコンサートを意識したとみられる部分が存在する。
イ 本件著作物と被告楽曲の楽曲の対比
 本件著作物の楽曲と被告楽曲の楽曲が同一であることは、当事者間において争いがない。
ウ 本件の経緯等
(ア) 原告は、平成18年5月ころ、本件著作物を完成させ、前提となる事実(5)アのとおり、同年8月12日及び同年11月11日、ライブハウス「大塚ウェルカムバック」において行われたライブで、本件著作物を歌唱した。
(イ) 被告会社代表者は、(ア)の2回のライブを、被告Bは、(ア)の平成18年11月のライブをそれぞれ訪れ、原告が本件著作物を歌唱するのを聴いていた。
(ウ) 被告会社は、平成18年夏〜秋ころ、原告が本件著作物を歌唱し録音した音源を複製したCD−Rの提供を受けた。
(エ) 原告は、平成18年10月ころ、被告会社から、同年12月のエイズチャリティコンサートに出演して、本件著作物を歌唱するよう申入れを受けたため、面会して話を聞くこととし、原告、被告会社代表者、D及びEは、平成18年10月ころ、中目黒所在のダーツバーにおいて面会した。被告会社は、原告に対し、原告が上記コンサートに出演できない場合には、原告以外の者に本件著作物を歌唱させることを申し入れたが、原告は、本件著作物を他人が歌唱することに抵抗を感じ、これを断った。協議の結果、原告及びEは、被告会社に対し、本件著作物については、上記コンサートのエンディングにおいて、メロディラインのない伴奏部分を使用することを許諾したが、それ以外は何らの許諾をしなかった。
(オ) 被告会社は、その後、Eから、本件著作物のコード譜(乙3)の提供を受けるとともに、メロディラインのないピアノ伴奏部分のみの譜面(乙1、4)のデータの送信を受けた。
(カ) 被告会社は、平成18年11月ころには、本件著作物の歌詞を入手していた。
(キ) 被告B、被告会社代表者及びDは、上記により入手した本件著作物の音源の複製物(CD−R)、歌詞、コード譜、ピアノ伴奏の譜面に基づいて、エイズチャリティコンサートの準備をした。本件著作物の歌詞については、上記コンサートの趣旨に沿うよう、被告会社代表者が中心となり、被告Bの承諾を得る方法等により、歌詞の文言及び順序を変更するなどして改変を加え、被告楽曲の歌詞を制作した。
(ク) 前提となる事実(3)のとおり、被告Bは、平成18年12月2日、エイズチャリティコンサートにおいて、被告楽曲を演奏、歌唱した。
(ケ) 被告会社は、平成19年3月ころ、原告に対し、被告Bが被告楽曲を歌唱する映像を示した。原告は、被告Bがエイズチャリティコンサートのリハーサルで音合わせのために歌唱している様子である旨の説明を受けたが、(エ)の許諾した内容と異なると思い、以後、両者間の関係は悪化した。
(コ) 前提となる事実(4)のとおり、被告会社は、平成21年11月16日、被告B名義による被告ブログに、被告Bが被告楽曲を歌唱する映像及び被告楽曲の歌詞を掲載した。被告会社は、掲載の際、被告楽曲の題名を「僕たちにできる事〜キミへ続く空〜」と、被告楽曲の著作者を「作詞作曲:C」とそれぞれ記載した。なお、被告Bは、掲載後間もなく、上記著作者の記載が不適切であると感じて、その旨を指摘し、被告会社においても、当該掲載を削除する方針を決定した。その後、原告からも苦情が寄せられたため、被告会社は、同月27日、当該掲載を削除した。以後、被告ブログには、少なくとも平成22年4月16日ころまで、「世界エイズデーチャリティーコンサート〜僕たちにできる事〜(一部修正済)」の表題の下に、「〈所属事務所より〉この記事は、権利関係等の諸事情により、後半部分を11月27日に削除しました。Bファミリーの皆様をはじめ、ご関係者の方々には、深くお詫び申し上げます。」との文章が掲載された。
(サ) 被告らは、原告及び原告の依頼を受けていた行政書士に対し、平成21年12月8日付け「謝罪文」と題する書面(甲5、6)を送付し、「伴和弥氏にかかる『キミへ続く空』楽曲の著作権等の件で多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。」と記載するとともに、被告ブログへの被告楽曲等の掲載について謝罪した。
(2) 以上の認定事実によると、本件著作物と被告楽曲の歌詞は、被告楽曲の歌詞37行のうちの21行について、本件著作物の歌詞と同一又はほぼ同一であること、本件著作物と被告楽曲の楽曲が同一であることは、当事者間において争いがないこと、被告らは、本件著作物の使用を希望し、原告又はEから提供された本件著作物の音源の複製物(CD−R)、歌詞、コード譜(乙3)、ピアノ伴奏の譜面(乙1、4)等を資料として、被告楽曲を制作したものであり、被告楽曲の歌詞については、本件著作物の歌詞に基づき、エイズチャリティコンサートの趣旨に沿うよう、被告会社代表者が中心となり、被告Bも関与する方法等により、本件著作物の歌詞を使用、改変して被告楽曲の歌詞とし、被告楽曲のメロディラインについては、上記音源の複製物に基づき、これを使用したことがそれぞれ認められるから、被告楽曲は、本件著作物に依拠したものと認めるのが相当である。そして、被告楽曲は、楽曲部分については、本件著作物を複製したものであり、歌詞部分については、亡くした人への鎮魂と感謝及び亡くした人とつながりながら生きていく希望を歌ったものとして、本件著作物の表現形式における本質的な特徴を感得させるものとなっており、これに部分的に、本件著作物にない新たな創作性のある部分を付加したものとして、本件著作物を翻案したものということができる。
 被告らは、被告楽曲は、本件著作物と歌詞の異なるものであると主張し、これは本件著作物とは別個の著作物であると主張する趣旨とも解されるが、上記のとおり、被告楽曲と本件著作物の歌詞は、被告楽曲の歌詞の半分以上が、本件著作物の歌詞と同一又はほぼ同一であること、被告楽曲の歌詞は、本件著作物の歌詞に基づき、被告らにより、本件著作物の歌詞の文言や順序の変更がされたことが認められるから、被告楽曲と本件著作物の歌詞に異なる部分があるとしても、被告楽曲の歌詞が、本件著作物の歌詞に依拠して改変されたことを覆すことはできないというべきである。したがって、被告らの上記主張を採用することはできない。
4 争点(2) 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否、(2)−2 包括的許諾について
(1) 前提となる事実及び上記第3、3(1)の認定事実によると、@被告らは、平成18年12月2日、エイズチャリティコンサートにおいて、原告著作物に依拠した被告楽曲を被告Bにおいて演奏、歌唱したこと、A被告らは、平成21年11月16日、本件著作物に依拠した被告楽曲を演奏、歌唱した映像及びかかる被告楽曲の歌詞を、被告B名義による被告ブログに掲載したこと、B被告らは、被告ブログへの上記掲載の際、「作詞作曲:C」と記載し、また、C本件著作物の題名、歌詞の内容の一部を改変したことがそれぞれ認められるところ、被告らは、本件著作物については、平成18年10月ころ、中目黒所在のダーツバーにおいて原告及びEと協議した際、被告Bの楽曲としてCD販売するなどの営利目的での使用をしないことを条件に、エイズチャリティコンサートでの使用や、同コンサートの性質に応じた歌詞の改変を含む本件著作物の使用について包括的な承諾を得たと主張し、同旨の証拠(乙2、5、6、被告会社代表者)を提出する。
 しかしながら、上記第3、3(1)の認定事実のとおり、原告及びEは、平成18年10月ころに中目黒所在のダーツバーで協議した際、本件著作物については、被告会社に対し、上記コンサートのエンディングにおいて、メロディラインのない伴奏部分を使用することについて許諾したものの、それ以外は何らの許諾をしなかったものであり、原告は、平成19年3月ころ、被告Bが上記コンサートにおいて被告楽曲を歌唱する映像を示された際も、上記許諾の内容と異なると認識していたものであるから、被告らの提出する上記証拠をにわかに信用することはできないといわざるを得ない。そして、その他、被告らの主張する包括的許諾の事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) したがって、被告らは、本件著作物について著作権及び著作者人格権を有する原告の許諾を得ることなく、上記@〜Cの行為に及んだものであるから、被告らは、@平成18年12月2日、エイズチャリティコンサートにおいて、本件著作物に依拠した被告楽曲を演奏、歌唱したことにより、原告の本件著作物の演奏権(著作権法22条、28条)を侵害し、A平成21年11月16日、本件著作物に依拠した被告楽曲を演奏、歌唱した映像及びかかる被告楽曲の歌詞を、被告ブログに掲載し、自動公衆送信したことによって、原告の本件著作物の公衆送信権(送信可能化権を含む)(同法23条、28条)を侵害し、B被告ブログへの上記掲載の際、「作詞作曲:C」と記載したことにより、原告の本件著作物の氏名表示権(同法19条1項前文、後文)を侵害し、C本件著作物の題名、歌詞の内容の一部を改変したことにより、原告の本件著作物の同一性保持権(同法20条)を侵害したと認めるのが相当である。
(3) そして、前提となる事実及び上記第3、3(1)の認定事実に加え、証拠(乙2、5、6、被告B、被告会社代表者)及び弁論の全趣旨によると、被告Bは、被告会社に所属する歌手であり、被告Bによる芸能活動及びこれに付随する活動は、同被告及び被告会社双方の了解に基づいて行われていることが推認されること、被告Bは、被告会社代表者のC及び取締役のDとともに、被告会社の役員であること、本件において、被告Bは、エイズチャリティコンサートにおいて、本件著作物に依拠した被告楽曲を歌唱するとともに、被告Bの名義による被告ブログにおいて、上記の歌唱の映像及び被告楽曲の歌詞の掲載に関与したものであり、被告会社も、本件著作物の使用が可能となるよう、著作権及び著作者人格権を有する原告との間で交渉を行ったり、被告ブログの掲載等の管理に関与していたこと、本件著作物の歌詞の改変においては、被告B、被告会社代表者及びDが関与していたことがそれぞれ認められるから、被告らの前記各行為には、客観的関連共同性(民法719条1項前段)が認められる。
5 争点(3) 故意過失について
 本件において、被告会社は、芸能プロダクションであるから、他人の著作物を利用する際には、その著作権及び著作者人格権を侵害することのないよう、その著作権及び著作者人格権の帰属を調査の上、事前に、演奏することや公衆送信が可能な状態に置くこと、(原)著作者名を表示すること、表題や歌詞を改変すること等について許諾を得るよう注意を尽くす義務があるところ、被告会社代表者は、中目黒のダーツバーにおいて原告及びEと協議した際、本件著作物の著作権及び著作者人格権の帰属について、歌詞は原告が著作者であることを認識し、楽曲については、原告及びEが作曲の経緯について話していたにもかかわらず、著作権等の権利の帰属について十分に聴取等しなかったものであり、また、本件著作物については、エイズチャリティコンサートのエンディングにおいて、メロディラインのない伴奏部分のみを使用することの許諾を得ただけであったにもかかわらず、包括的な許諾を得たものと軽信し、漫然と本件著作物を使用して、第3、4(2)の各行為に及んだのであるから、被告会社には、少なくとも過失があったというべきである。
 また、被告Bについては、被告会社に所属する歌手であるとともに、被告Bの名義による被告ブログの管理に関与していたものであり、被告会社の役員として、自らが使用する他人の著作物について、被告会社が負う上記注意義務に関して、被告会社代表者が行う業務執行一般について監視する義務を負うものと解されるところ、被告Bは、被告会社が本件著作物の音源の複製物、歌詞及び伴奏の譜面等(乙1、3、4)の提供を受けたことのみから、許諾を得たものと軽信し、本件著作物を使用して、第3、4(2)の各行為に関与したものであるから、被告Bにおいても、少なくとも過失があったと認めるのが相当である。
6 争点(4) 損害について
(1) 演奏権の侵害による損害
 証拠(甲8、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は、ライブに出演する場合には、ソロ活動では、多くの場合、30〜40分で6、7曲の楽曲を観客30〜40人程度の前で歌唱していたものであり、観客が購入するチケットの代金は1人当たり2500円〜3300円であり、観客数に応じた報酬を得ていたこと、原告は、ライブでは、1回当たり10万前後〜20万円程度の報酬を得ることがあり、1曲のみを歌唱する場合でも、2〜3万円程度の報酬を得ていたことがそれぞれ認められるから、本件著作物の演奏権侵害による損害は、本件著作物の演奏による使用料相当額である2万円(=2万円/回×1回)と認めるのが相当である。
(2) 公衆送信権の侵害による損害
 証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によると、インターネットへの楽曲のアップロードについては、許諾料が1日当たり2500円であることが認められるから、本件著作物の公衆送信権(送信可能化権を含む)侵害による損害は、3万円(=2500円/日×12日間(平成21年11月16日〜同月27日)と認めるのが相当である(甲8)。
(3) 氏名表示権及び同一性保持権の侵害による損害
 本件著作物は、原告が慕っていた亡祖母をイメージし、亡祖母に対する思いを歌ったものであり、原告の強い思い入れのある楽曲であったものであり、原告には、その歌詞が本来の趣旨とは異なるチャリティー活動のための歌詞として改変され使用されたことによる精神的苦痛が認められるほか、その作詞、作曲者の表示についても、亡祖母とは関係の認められない「C」と表示されたことによって、精神的苦痛が発生したものと認められる。したがって、原告の本件著作物の作詞作曲について氏名表示権の侵害及び歌詞の同一性保持権の侵害により、原告が被った精神的損害を慰謝するには、50万円の支払をもってするのが相当である。
(4) 弁護士費用
 本件において、被告らによる侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、(1)〜(3)の合計額55万円の約10%相当額である5万円と認めるのが相当である。
(5) 以上により、損害額は60万円と認められる。
7 争点(5) 名誉回復等の措置請求の成否について
 本件においては、上記の損害賠償が認められること及び本件訴訟提起前に被告会社において原告に対し謝罪文を送付していること(甲5、6)などの事情を考慮すると、損害賠償に加えて名誉回復措置を命じるまでの必要は認められないから、名誉回復等の措置請求については、理由がないというべきである。
第4 結論
 以上により、原告の請求は、本件著作物の著作権及び著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求として60万円及びこれに対する最終の不法行為日である平成21年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから、その限度で請求を認容し、その余の原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 菊池絵理
 裁判官 森川さつき
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/