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【事件名】CADプログラムの著作権譲渡事件(2) 【年月日】平成23年6月29日 知財高裁 平成22年(ネ)第10045号 著作権侵害差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成18年(ワ)第5689号(第1事件)、第24994号(第2事件)) (平成23年3月28日 口頭弁論終結) 判決 控訴人兼被控訴人(原審第1事件原告・第2事件被告) コンセプト・テクノロジー株式会社 訴訟代理人弁護士 藤田謹也 同 小林豊 同 鵜澤亜紀子 補佐人弁理士 小林正治 同 小林正英 控訴人(原審第1事件被告) コムネット株式会社 訴訟代理人弁護士 平野和宏 被控訴人(原審第2事件原告) アシュラ・インコーポレイテッド 訴訟代理人弁護士 山口孝司 同 松岡伸晃 同 籔本恭明 同 堀井昭暢 同 岩崎浩平 同 鈴木麻友 同 日高麗衣 主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用中、控訴人兼被控訴人コンセプト・テクノロジー株式会社と被控訴人アシュラ・インコーポレイテッドとの間に生じたものは、控訴人兼被控訴人コンセプト・テクノロジー株式会社の負担とし、控訴人コムネット株式会社と控訴人兼被控訴人コンセプト・テクノロジー株式会社との間に生じたものは、控訴人コムネット株式会社の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 控訴人兼被控訴人コンセプト・テクノロジー株式会社の控訴の趣旨 (1) 原判決中、原審第2事件の控訴人兼被控訴人コンセプト・テクノロジー株式会社の敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人アシュラ・インコーポレイテッドの請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人アシュラ・インコーポレイテッドの負担とする。 2 控訴人コムネット株式会社の控訴の趣旨 (1) 原判決中、原審第1事件の控訴人コムネット株式会社の敗訴部分を取り消す。 (2) 控訴人兼被控訴人コンセプト・テクノロジー株式会社の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人兼被控訴人コンセプト・テクノロジー株式会社の負担とする。 第2 事案の概要及び当事者の主張等 1 事案の概要 控訴人兼被控訴人(原審第1事件原告・第2事件被告)コンセプト・テクノロジー株式会社を「第1事件原告・第2事件被告コンセプト」と、控訴人(原審第1事件被告)コムネット株式会社を「第1事件被告コムネット」と、被控訴人(原審第2事件原告)アシュラ・インコーポレイテッドを「第2事件原告アシュラ」という。原審において用いられた略語は、当審においてもそのまま用いる。 原審の経緯は、以下のとおりである。 〔原審第1事件〕 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、CAD(コンピュータ支援デザイン)ソフトウェア(32ビットアプリケーションソフトウェア)であるAshlar-Vellum3.0のプログラムに係る著作権及びマニュアル(使用説明書)の著作権並びに別紙商標目録記載1、2の商標権(コンセプト商標1、2)に基づき、第1事件被告コムネットが販売する製品(別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェア)、マニュアルの販売等の差止め、廃棄等を求めるとともに、不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による損害賠償請求権に基づき、第1事件被告コムネットに対し、第1事件原告・第2事件被告コンセプトに発生した損害の一部請求として、1億2264万2447円の支払を求めた。 〔原審第2事件〕 第2事件原告アシュラが、CADソフトウェア(英語版の16ビットアプリケーションソフトウェア)であるAshlar-Vellum2.7及びこれを32ビット化(32ビットOS環境に搭載できるようにソースコードを書き換えること)する際に作成されたExtensionsのプログラムに係る著作権並びに別紙商標目録記載3の商標権(アシュラ商標)に基づき、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが販売する製品(別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェア)、マニュアルの販売等の差止め、廃棄等を求めるとともに、不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による損害賠償請求又は不当利得(第2事件原告アシュラの著作権、商標権の使用料相当額の不当利得)返還請求として、第1事件原告・第2事件被告コンセプトに対し、合計1億6186万9597円の支払を求めた。 〔原審の判断〕 原審は、第1事件について、第1事件被告コムネットは、 Vellum3.0のプログラムに係る著作権及びマニュアル(使用説明書)の著作権を侵害しているとして、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアの複製等の差止め及び廃棄、並びに454万5079円の損害賠償請求を認め、その余の請求を棄却した。また、原審は、第2事件について、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、Vellum2.7及びExtensionsのプログラムに係る著作権、アシュラ商標の商標権を侵害しているとして、別紙「原告コンセプト商品目録」記載3のCADソフトウェアの複製等の差止め及び廃棄、並びに5826万0284円の損害賠償請求を認め、その余の請求を棄却した。これに対し、第1事件原告・第2事件被告コンセプト及び第1事件被告コムネットは、原判決のうち各敗訴部分の取消しを求めて、本件控訴を提起した。 2 争いのない事実等及び争点 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」、「2 前提となる事実」、「3 争点」(原判決8頁18行目ないし18頁20行目)記載のとおりであるから、これを引用する。 3 争点に対する当事者の主張 次のとおり当審における主張を追加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「4 争点に関する当事者の主張」(原判決18頁22行目ないし75頁5行目)記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 争点(3)(Vellum3.0コードのプログラム著作権の帰属) [第1事件原告・第2事件被告コンセプト] ア Vellum3.0コードの制作経緯 (ア) ファモティクは、第2事件原告アシュラの依頼に基づき32ビットVellum3.0コードを開発したのであるから、Vellum2.7とVellum3.0との間で多数のディレクトリィ名(フォルダ名)が同一になるのは当然である。また、Vellum2.7コードとVellum3.0コードのソースコードを比較するためには、ソースコードが実行可能か否かについての証明を行わなければならないから、単にソースコード対比表(乙21の1〜7)により、Vellum3.0がVellum2.7オリジナル英語版ソースコードに依拠しているとはいえない。さらに、単独のモジュールで記述されたものが同一であるとしても、そのモジュールで記述されているすべてのコードと動作を実証しない限り、Vellum3.0コードがVellum2.7コードを一部改変して作成されたものと認めることはできない。 (イ) 第2事件原告アシュラは、1997年(平成9年)ころから、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードのプログラミング・メインテナンス作業を行なっていなかった。ところが、丙15には、2002年(平成14年)以降、Aによって、「Old−Vellum」との名称が付されて、新しい書き込みと32ビットVellum3.0からのコード移植がなされている上、全フォルダの更新日が、2006年(平成18年)4月22日となっている。 また、丙15のソース・コードには、多くのファモティク作業者の署名(「FAMOTIK」など)や32ビット関連の作業履歴及びコード(「Win32」、「Build32」、「DLL32」など)が多数混在している(甲55によれば、Vellum2.7コードに存在する643ファイル中、143ファイル(約22%)のコードないし履歴に32ビットを示す記述が存在する。)。しかし、第2事件原告アシュラがVellum2.7コードの32ビット化を試みたことはない。 以上の事実によれば、丙15は、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードではない。 (ウ) ファモティクは、所有していた漢字フォントを用いて、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードを日本語化するため、漢字フォント文字導入ファイルである「KANJI.SHX」を組み込んだのであって、16 ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードには、「KANJI.SHX」が全く存在していなかった。ところが、丙15、38には、「KANJI.SHX」ファイルが存在し(甲122の1及び2、甲123の1及び2)、2byteコードに対応している上、両コード中に複数の「6 MARCH 1993 FAMOTIK、LTD」との記載がある(甲123の1及び2)。そうすると、丙15、38は、ファモティクが、1993年(平成5年)ころ、漢字フォントの活用を目的として、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードに漢字フォント文字導入ファイルを組み込んだ、16ビットVellum2.7日本語版ソースコードであり、16 ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードではない。 これに対し、第2事件原告アシュラは、丙15について、日本語で入力しても表示が意味不明な記号等に変換され、日本語その他の2byte 言語には完全に対応できないが、英語には完全に対応するから英語版であると主張する。しかし、丙15は、不完全ながらも日本語その他の2byte言語に対応できるから、1byte言語しか表示することができない16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードではない。 イ 第1事件原告・第2事件被告コンセプトはVellum3.0コードの著作権を取得したか 修正契約書(甲2)の条項2.によれば、第2事件原告アシュラがファモティクに提供したソースコードは、Vellum2.7のすべてのソースコードではなく、試作された、Surfaces(表面表現ライン)、Rendering(色彩加工)、Hidden Line Removable(陰線処理)のモジュールに関するソースコードにすぎない。これに対し、Vellum3.0コードは、40万以上の行を持ち、16ビットVellum2.7リジナル英語版ソースコードには含まれていない新規な機能(甲43に記載の各種機能)を備え、それら新規な特徴が上記3つのモジュールの本質的な特徴に比してはるかに多く、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードの創作性のある特徴部分を感得し得ないほど独創性を備えたソースコードであるから、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードに依拠するものではない。そうすると、Vellum3.0コードの著作権は、ファモティクから権利を承継した第1事件原告・第2事件被告コンセプトが有している。 ウ 第1事件原告・第2事件被告コンセプトはAdditionsのプログラム著作権を取得したか 第1事件被告コムネットは、Autofaceを含むAdditionsすべてのプログラムをアルモニコスが単独又は共同で開発したと主張し、その根拠として、甲86〜89の記載を挙げている。しかし、甲86〜89の書面は、Additionsすべてのプログラムについて記載されているものではない。三次元図形表現ソフトウェアであるAutofaceに関するコンピュータプログラムは、アルモニコスが開発し、ファモティクによりVellum3.0及びドラフトボード用に改変されたものであり、その改変されたコンピュータプログラム(二次的著作物)の著作権はファモティクに帰属する。本件修正契約(甲2、甲18)及びソースコードライセンス契約(乙5の1、2)の規定、並びに、当時アルモニコスの開発担当取締役であったBの確認書(甲22)によれば、Vellum3.0コードのうち、Additionsのプログラム著作権はファモティクが取得したことは明らかである。第1事件被告コムネットの上記主張は失当である。 [第1事件被告コムネット] 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、甲86〜89の書面はAdditionsすべてのプログラムについて記載されているものではなく、三次元図形表現ソフトウェアであるAutofaceに関するコンピュータプログラムは、アルモニコスが開発し、ファモティクによりVellum3.0及びドラフトボード用に改変されたものであり、その改変されたコンピュータプログラム(二次的著作物)の著作権はファモティクに帰属すると主張する。しかし、上記主張は、乙55のファイルログ情報(左上に「About Vellum3D」と記載されたうえで、「Developed by Armonicos」と記載され、Autofaceだけでなく、Vellum3.0全体をアルモニコスが開発した旨の記載になっている。)と整合しない。また、プログラム開発委託契約においては、開発者が著作者であるため、委託者が著作権を取得するためには著作権を譲り受ける旨の契約がなければならないところ、アルモニコスがファモティクにAdditionsの著作権を譲渡したことを証する契約は存在せず、ファモティクがAdditionsの著作権又はその持分を取得することはない。 [第2事件原告アシュラ] ア Vellum2.7オリジナル英語版ソースコードは、Vellum2.14コードをバージョンアップしたものであるが、丙15は、丙17(Vellum2.14コード)と、多くのソースコード及びファイル構造が一致している(なお、Vellum3.0コードも、丙17(Vellum2.14コード)と、多くのディレクトリ名、ファイル名及びソースコードが一致している。)。また、Ontrackと題するCD−ROM(丙38)には、Vellum2.7オリジナル英語版ソースコードが記録されているが、ヘッダーのコメント記載等のわずかな部分を除いて、丙15のソースコードと一致している。丙15とOntrackコードのヘッダーのコメント記載等が一部異なるのは、第2事件原告アシュラのAが、2002年(平成14年)2月7日ころ、Vellum コード(Ontrackコード)の改変を防止するため、Vellumコードに係る履歴をソースコード管理データベースに保存し、その作業を明示するためコメントの記載を変更したためである。したがって、丙15は、Vellum2.7オリジナル英語版ソースコードである。 イ これに対し、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、@丙15には、32ビットコードが22%存在すること、A丙15は、不完全ながら2byte言語に対応していることから、丙15は、Vellum2.7オリジナル英語版ソースコードではないと主張する。 しかし、 丙15のソースコード内に、32ビットコードに対応するかのような部分が存在するのは、第2事件原告アシュラが、1994年(平成6年)ころ、Vellum2.7コードの32ビット化を試みた痕跡にすぎない(なお、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、第2事件原告アシュラにおいて、Vellum2.7コードの32ビット化が試みられていたことはないと主張し、これを裏付ける証拠として、C作成の報告書(甲118)を提出しているが、時機に後れた攻撃防御方法であり却下されるべきである。)。また、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが主張する32ビットコードの割合は、単なるファイルの割合にすぎず、Vellum2.7コードにおける16ビットと32ビットのソースコードの割合ではない。さらに、Vellum2.7オリジナル英語版ソースコードは、英語版であっても、地域化を予定するものとして、日本語等の2byte言語の表示に不完全ながら対応可能な状態にあった。 なお、Vellum3.0コードの開発が、本件修正契約に基づくことは、Vellum2.7コードとVellum3.0コードにおけるソースコードの一致等により明らかになるのであって、その動作を実証する必要はない。また、1991年(平成3年)8月31日付け代理店契約書(甲1)によれば、Vellum2.7日本語版のソースコードに係る著作権も、第2事件原告アシュラに帰属する。したがって、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの上記主張は、失当である。 (2) 争点(5)(第1事件被告コムネットが使用するマニュアルの著作権及びその侵害の有無〔原審第1事件〕) [第1事件原告・第2事件被告コンセプト] 第1事件被告コムネットとファモティクとの取引が終了したのは、第1事件被告コムネットが使用料の支払を勝手に中断したためであり、その後、ファモティクが第1事件被告コムネットに対してマニュアルの使用、販売続行を許諾するはずがない。 [第1事件被告コムネット] 第1事件被告コムネットは、ファモティクとの取引終了後も、甲6のマニュアルの使用許諾を受けていたのであり、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの著作権を侵害するものではない。第1事件被告コムネットは、ファモティクから請求のあった使用料を支払っていた。第1事件被告コムネットが取引終了後も甲6のマニュアルの使用許諾を受けたのは、ファモティクからVellumの取扱説明書の提供ができなくなるとの一方的な申出があったことによるものであって、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの上記主張は失当である。 (3) 争点(6)(別紙「被告コムネット商品目録」記載の各ソフトウェアは、Vellum3.0コードのプログラムに係る複製権ないし本案権を侵害するものであるか〔原審第1事件〕) [第1事件原告・第2事件被告コンセプト] ア 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアにはAdditionsが搭載されているか Vellum2.7、Vellum3.0及びGraphiteのファイルを比較すると、Graphite中には、Vellum3.0で新たに追加されたAdditionsに該当するファイルが119個存在する。また、Graphiteのみに存在するファイル名であっても、Additionsに該当する機能をキーワードとしたディレクトリのファイルは、Additionsに当たるところ、Graphite中には、このようなファイルが10個存在する。 なお、第1事件被告コムネットは、第1事件原告・第2事件被告コンセプトがAdditionsのうち創作的部分がどの部分であるか特定していないと主張するが、Vellum2.7に存在せず、Vellum3.0において創作されたAdditionsは、甲64で特定されている。 イ 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアからAdditionsが削除されているか 第1事件被告コムネットは、仮にAdditionsの一部がGraphiteコードに含まれていたとしても、Additionsの機能が利用できないのであるから、第1事件被告コムネットの行為はAdditionsの複製、翻案に該当しないと主張する。しかし、第1事件被告コムネットは、外部から見えるメニューにマスクを掛けるmaskingという単純な隠蔽行為を行ったにすぎず、第1事件被告コムネットの行為は、Additionsの複製、翻案に該当する。 ウ 差止めの必要性、許容性 第1事件被告コムネットは、Graphiteコードからサーフェス(表面加工用)機能を利用することはできないと主張する。 しかし、甲59、60によれば、Graphiteソースコード(乙31)の中にサーフェス(表面加工用)関係のフォルダとファイル及びBMI(トランスレーター関連プログラム)が存在する。第1事件被告コムネットは、自らBox-Vellumがサーフェス表面の図形表現が可能であることを前提として、256色もの多色彩加工性能を売り物の1つにしており、これらの機能は、サーフェス機能そのものであり、Additionsの一部である。 また、第1事件被告コムネットは、第1事件被告コムネット商品にサーフェス等のAdditions部分が存在するとしても、極めて単純な操作でAdditionsのファイル又はディレクトリを削除することができると主張する。 しかし、上記のとおり、第1事件被告コムネットは、外部から見えるメニューにマスクを掛けるmaskingという単純な隠蔽行為を行ったにすぎず、上記主張は失当である。 エ 第1事件被告コムネットに過失があったか 第1事件被告コムネットは、著作権の変動について第三者が確認することは容易ではない上、本件の場合、Additionsの範囲の特定及びその有無の確認、並びにAdditionsの著作権又はその持分を有するものが誰であるかを知ることは困難であったから、第1事件被告コムネットに過失はないと主張する。しかし、ファモティクが平成16年4月9日に破産宣告を受けたことは破産手続上公告されており、これによってVellum3.0コードに係る権利関係に変動があり得べきことは第1事件被告コムネットも知り得たこと、Vellum3.0 コードのプログラム著作権が第1事件原告・第2事件被告コンセプトに譲渡されたことはプログラム登録原簿に登録され、公示されていること(甲4)からすれば、上記主張は失当である。 また、第1事件被告コムネットは、第2事件原告アシュラから、Ashlar-Vellum Graphiteのプログラムについては、Additionsが削除済みであるとの説明を受けていたこと、Ashlar-Vellum Graphiteのプログラムのメニュー画面にサーフェスがないこと、既存のソフトウェアの実行環境では、サーフェス(表面加工用)機能の呼び出しはできず、アシュラから提供を受けた英文のマニュアルにもサーフェス機能の説明は記載されていなかったことからすれば、仮に第1事件被告コムネットが、Additionsに係る第1事件原告・第2事件被告コンセプトのプログラム著作権を侵害したとしても過失がないと主張する。しかし、第1事件被告コムネットが第2事件原告アシュラからAdditionsが削除済みであるとの説明を受けたとの証拠はないこと、32ビットコードで初めて可能になった図形上のサーフェス機能は、Ashlar-Vellum Graphiteにおいて自動的に生成されるものであり、使用者は32ビットCADには当然に備わっている機能と認識しており、説明は不要であったことからすれば、上記主張は失当である。 [第1事件被告コムネット] ア 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアにはAdditionsが搭載されているか プログラムのような技術的、実用的性格の強いプログラムにおいて、著作権が成立するためには、高度な創作性が必要であるというべきであって、プログラマーが誰でも作成し得る、ありふれたプログラムでは足りないというべきである。 この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、Vellum2.7に存在せず、Vellum3.0で新たに追加されたファイルは、Additionsに該当すると主張する。しかし、Vellum3.0は、16ビット対応のプログラムであるVellum2.7を32ビット対応のプログラムに改変したものであり、Additionsではないプログラムとして、Extensionsが存在するのであり、上記第1事件原告・第2事件被告コンセプトの主張は失当である。 また、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、Graphiteのみに存在するファイル名であっても、Additionsの機能を有するファイルは、Additionsに該当するとして、Graphite中の10個のファイルがAdditionsに該当すると主張する。しかし、上記ファイルは、Additionsの機能を有していない。そもそも、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、「Vellum3.0市場での必須項目」(甲43)に記載されている「新Vellum製品の機能」もAdditionsの機能に含むと主張するが、本件修正契約及びその基礎となったTERM SHEET(乙51の1、2添付資料)の規定に反するものであって、失当である。甲43は、1995年(平成7年)に第2事件原告アシュラにおいて、Additionsに限らずVellum3.0全体の単なる希望を示す文書として作成されたものであって、Additionsの定義はおろか、Additionsの文言さえないものであり、TERM SHEETや本件修正契約に引用も添付もなされていないものにすぎず、これを前提とした、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの主張は失当である。 また、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、Vellum3.0において創作されたAdditionsは甲64において特定されていると主張する。しかし、甲64は、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが表現を創作したか否かの観点から抽出したものではなく、単に、用語検索を行った結果にすぎないものであるから、これをもってAdditionsの範囲を特定することはできない。 イ 別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアからAdditionsが削除されているか 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、第1事件被告コムネットは、外部から見えるメニューのみにマスクを掛けるmaskingという単純な隠蔽工作を行ったにすぎないと主張する。しかし、第1事件被告コムネットは、Graphiteコードのソースコードに手を加えておらず、第2事件原告アシュラから提供を受けたものをそのまま利用していたものであり、Additionsの複製又は翻案は行っていない。プログラム著作権においては、機能が最も重要であり、仮にプログラムの一部の記述が残存しているとしても、プログラムとして求められる機能を果たさなければ、プログラムの複製又は翻案に当たらない。 ウ 差止めの必要性、許容性 Ashlar-Vellum GraphiteやBOX-Vellum Graphite5は、AutoSurfaceのコードが存在せず、AutoSurface機能、隠線処理機能及びレンダリング機能が利用できないことからして、その販売等を認めても、これらの購入者はAdditionsのプログラムを使用することはできず、第1事件原告・第2事件被告コンセプトによるAdditionsを含むプログラムの販売等の機会を奪うことはない。他方、第1事件被告コムネットは、Additionsのプログラムを利用することができないAshlar-Vellum GraphiteやBOX-VellumGraphite5の販売等ができないことにより多大な損害を被るものである。そして、ファイル又はディレクトリにより特定されるAdditionsについては、極めて単純な操作で当該ファイル又はディレクトリを削除することができるのであり、Additionsの可分性及びその容易性は明らかである。そうすると、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが著作権侵害に基づき第1事件被告コムネット商品の差止めを求めることは権利の濫用に当たり許されない。 エ 第1事件被告コムネットに過失があったか ファモティクについて破産宣告がなされたのだとしても、ファモティクが有していた権利は、二次的著作物であるAdditionsの著作権にすぎない。第1事件被告コムネットは、ファモティク破産後、Vellum2.7及びExtensionsの著作権を有し、プログラム開発の専門家である第2事件原告アシュラから、Ashlar-Vellum Graphiteについて、Additions部分は削除済みであるとの説明を受けていたこと、現にAdditionsの機能を利用できなかったことからすれば、第1事件被告コムネットが、これを複製、販売することが著作権侵害に該当すると予見することは困難であった。 また、一般的には著作権の移転登録がなされることはまれであり、著作権侵害については特許法103条のような過失の推定規定はない上、ファモティクから第1事件原告・第2事件被告コンセプトにVellum3.0に関する著作権譲渡が登録されたのは、破産宣告後1年以上経過した後である平成17年8月10日であること、ファモティクからフューテックに対する著作権譲渡については登録されていないこと(乙4)からすれば、Vellum3.0コードのプログラム著作権が第1事件原告・第2事件被告コンセプトに譲渡されたことがプログラム登録原簿に登録され、公示されているとしても、第1事件被告コムネットに過失があったということはできない。 (4) 争点(9)(第1事件原告・第2事件被告コンセプトの損害〔原審第1事件〕)著作権侵害による損害(著作権法114条2項) [第1事件原告・第2事件被告コンセプト] ア 第1事件被告コムネットは、 仮に第1事件被告コムネットの行為がAdditionsの複製、翻案に当たるとしても、Ashlar-Vellum GraphiteやBOX-VellumGraphite5では、Additionsの機能が利用できず、ユーザーにとってAdditionsの存在が購入動機に影響を与えないから、第1事件被告コムネットにGraphiteの販売を認めても第1事件原告・第2事件被告コンセプトのプログラムの販売等の機会を奪うこともなく、第1事件原告・第2事件被告コンセプトに損害は発生していないと主張する。 しかし、第1事件被告コムネットの販売する商品と第1事件原告・第2事件被告コンセプトの販売する商品が市場で競合する以上、第1事件被告コムネットにGraphiteの販売を認めれば、第1事件原告・第2事件被告コンセプトのプログラム販売等の機会を奪い損害が発生することは明らかであって、Additionsの機能が利用できるか否かは損害の発生と無関係である。また、第1事件被告コムネットは、外部から見えるメニューにマスクを掛けるmaskingという隠蔽行為を行ったにすぎず、Graphiteコード(乙31)の中には、サーフェス機能及びBMIのフォルダが存在する。さらに、第1事件被告コムネットは、Box-Vellumについて、サーフェス表面の図形表現が可能であるとし、256色もの多色彩加工性能を売り物の1つにしていた。したがって、第1事件被告コムネットの上記主張は失当である。 イ 第1事件被告コムネットは、第2事件原告アシュラとファモティクとの間において、ロイヤリティの支払がほぼ同一とされているのは、Additionsの機能を有するファイルすべてを含み、かつ、当該機能を利用できるソフトウェアであることが前提であるから、一部であれAdditionsが存在しない場合やその機能を利用することができない場合には、ロイヤリティの料率はより低いものとなるはずであり、Ashlar-Vellum Graphite BOX-Vellum Graphite5におけるAdditionsの寄与率はわずかであると主張する。 しかし、第1事件被告コムネットの上記主張は、GraphiteはAdditionsの機能を有するディレクトリないしファイルすべてを含むソフトウェアではないこと、及びAdditionsの機能を利用できないソフトウェアであることを前提とするものであるところ、上記のとおり、その前提に理由がなく失当である。甲64からすれば、Ashlar-Vellum GraphiteやBOX-Vellum Graphite5から、Additionsが削除されているということはできない。また、第2事件原告アシュラとファモティクとの間では、第2事件原告アシュラがファモティクに対して支払うべきロイヤリティと、ファモティクが第2事件原告アシュラに対して支払うべきロイヤリティとがほぼ同率と定められていることからすれば、Vellum3.0コードにおける、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードの寄与率とAdditions の寄与率は、同一というべきである。 なお、第1事件被告コムネットは、Additionsのうち新たに付与された創作的部分の寄与率が考慮されなければならないと主張するが、Additionsはすべて創作的部分であり、かつその著作権はすべて第1事件原告・第2事件被告コンセプトに帰属している。 [第1事件被告コムネット] ア Additionsの機能を有するディレクトリないしファイルすべてを含み、かつ、当該機能を利用できるソフトウェア(Vellum3.0)における、Vellum2.7基本コード及びExtensionsとAdditionsの寄与率を前提として、Additionsの機能を有するディレクトリないしファイルすべてを含むものではなく、かつ、当該機能を利用できないソフトウェア(Ashlar-Vellum Graphite、BOX-Vellum Graphite5)に係る損害額を算定することは失当である。仮に、第1事件被告コムネット商品において、Additionsの寄与が認められるとしても、当該寄与率は極めて低く、第1事件原告・第2事件被告コンセプトに賠償すべき損害はほとんどない。 イ 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないから、二次的著作物であるAdditionsの著作権に基づく損害賠償請求についても、上記創作的部分の寄与率が考慮されなければならない。この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、少なくともAdditionsのうちAutofaceの部分が二次的著作物であることを認めており、原著作物についての著作権はアルモニコスないしエリジオンが有している。Additionsのうち第1事件原告・第2事件被告コンセプトが著作権侵害を主張し得ない部分(二次的著作物において新たに付与された創作的部分以外の部分)が存することは明らかであり、Additionsのうち創作的部分がGraphiteコードに存するのでなければ、複製又は翻案に当たらない。 ウ 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、Graphiteコード(乙31)の中にサーフェス機能及びBMIフォルダが存在する、メニューにはmaskingをし隠蔽して外部から見えなくしてあるが、Graphite製品内部にはサーフェス・コードが存在している、第1事件被告コムネット自ら、BOX-Vellumがサーフェス表面の図形表現が可能であり、かつ256色もの多色彩加工性能を有することを売り物の1つにしている、と主張する。 しかし、上記第1事件原告・第2事件被告コンセプトの主張は、本件修正契約やその基礎となったTERM SHEETの規定に反するものまでAdditionsに含まれることを前提としており、失当である。 エ 著作権法114条2項が適用される場合であっても、権利者が現実に被った損害を超える賠償は認められない。この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプト商品目録記載1〜6のソフトウェア販売による1本当たりの利益は、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの第2事件原告アシュラに対する主張を前提にすると5315円であるから、これに第1事件被告コムネットの販売本数とAdditionsの寄与率を乗じた額を超える損害賠償請求は認められない。 (5) 争点(10)(第2事件原告アシュラの損害又は損失)について [第2事件原告アシュラ] 著作権侵害による損害(著作権法114条2項〜4項)又は損失(同条3項) ア 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、著作権法第114条第2項の「その利益の額」について、商品の売上額から仕入額を差し引いた粗利益の額ではなく、商品の売上額から仕入額、宣伝広告費用、人件費、店舗又は展示会場等の賃料等の売上げに要したすべての費用を差し引いた額をいうものと解すべきであると主張する。 しかし、著作権法114条2項は、権利者の立証責任を緩和する規定であるところ、一般管理費用等の控除項目は権利者にとっては証明困難であり、侵害者の方が証明しやすいことを考えれば、同項の「利益」は、権利者が最大限逸失する可能性のある「粗利益」であり、その主張、立証があれば、権利者は同項の推定を受けることができ、その上で、侵害者は、自己の一般管理費用等を立証するだけでは、推定額からの控除を受け得ないというべきである。 また、ソフトウェアは、開発された後はCD−ROMに複製して製造することが容易であり、部材費や輸送費も小さい(インターネットを通じた販売等の態様によれば部材費や輸送費が不要となる。)から、その製造及び販売に要する経費は少なく、利益率が高くなる。第1事件原告・第2事件被告コンセプトも、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売(平成16年5月18日から平成20年3月31日まで)に係る粗利益率について、売上げの68.30%であると主張しており、当該粗利益率をもって第2事件原告アシュラの損害額を算定すべきである。 なお、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの利益率が68.30%であるとの主張については、第2事件原告アシュラの(予備的な)援用により、裁判上の自白が成立し、かつ当該自白の撤回は許されない。また、仮に上記裁判上の自白が成立しないとしても、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、原審において売上げから更に控除されるべき費用について何ら主張、立証をしていない上、第1事件被告コムネットの利益率が70%であると主張していたのであるから、当審において、上記主張を撤回することは、訴訟上の信義則違反及び時機に後れたものとして却下されるべきである。さらに、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの著作権法114条2項の「利益」に関する新たな攻撃防御方法の提出は、時機に後れたものとして却下されるべきである。 イ 第1事件原告・第2事件被告コンセプトの個々の費用項目に関する主張も、失当である。すなわち、 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、部材費、開発費、販売支援費、販促経費について、第1事件原告・第2事件被告コンセプト作成に係る証拠(甲65、甲110〜115)を提出するのみであり、客観的な証拠は存在しない。 ウ 著作権侵害に基づく損害額の算定において、寄与率の認定は、複製部分の客観的数量割合のほか、当該侵害物における著作物の重要度も斟酌する必要がある。この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、甲26の電子メールを根拠として、Vellum2.7 base code及びExtensionsコードとAdditionsコードの寄与率が2500対4000であると主張する。しかし、Vellum2.7 base code及びExtensionsコードに係るロイヤリティ額は、第2事件原告アシュラがVellum3.0コードに係るソフトウェアを日本国外で販売でき、ファモティクからのロイヤリティ以外でも利益を得られること、ファモティクが第2事件原告アシュラの代理店であり、良好な信頼関係が継続する可能性があることなどを考慮して、極めて低額に設定されたものである。 したがって、著作権法114条2項に基づき算定される第2事件原告アシュラの損害額は、6500万円を下らないというべきである。 なお、著作権法114条2項又は3項による損害額の主張の区別を、弁護士費用相当額の損害の主張の有無と関連させて解釈することは相当でなく、本件において、著作権法114条2項に基づき著作権侵害に基づく損害賠償の算定をする場合であっても、弁護士費用相当額が認定されるべきである。 [第1事件原告・第2事件被告コンセプト] ア 著作権侵害による損害(著作権法114条2項〜4項)又は損失(同条3項) (ア) 第1事件原告・第2事件被告コンセプトの売上金額について 別紙「第1事件原告・第2事件被告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの売上金額は、平成16年9月1日から平成18年10月31日まで7353万6816円、同年11月1日から平成20年3月31日まで3633万4948円、平成20年4月1日から平成21年7月15日まで2435万8500円、合計1億3423万0264円である。また、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの売上金額は、平成16年5月18日から平成17年6月30日まで1934万8969円である。したがって、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売合計額は、合計1億5357万9233円である。 (イ) 第1事件原告・第2事件被告コンセプトの利益率について(主位的主張) 著作権法114条2項の「その利益の額」とは、商品の売上額から仕入額を差し引いた粗利益の額ではなく、商品の売上額から仕入額、宣伝広告費用、人件費、店舗又は展示会場等の賃料等の売上げに要したすべての費用を差し引いた純利益をいうものと解すべきである。 この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが、平成16年5月18日から平成21年7月15日までに販売した別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げに要した費用は、「月別利益一覧」(甲110)のとおり、合計金1億1736万3776円である。その内訳及び詳細は、以下のとおりである。 a 部材費 平成16年5月18日から平成21年7月15日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアそれぞれに使用されている部材及びその費用は、「部材費計算一覧」(甲111)のとおり、合計2423万7435円(税抜き)である。 b 開発費 ソフトウェアの開発には、開発に携わる人間への人件費あるいは業務委託費が不可欠の経費であるため、売上金額から控除するべきである。 この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプトにおいて、D及びEは勤務時間のうち30%を、F及びGは勤務時間のうち5%を、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの開発やバージョンアップ等の時間に費やしている。さらに、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアについてディ・アイ・アジア株式会社及び株式会社エリジオンに対し業務委託を行っている。 そうすると、平成16年5月18日から平成21年7月15日までに別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの開発等にかかった開発費は、「開発費計算表」(甲112)のとおり、2329万6915円である。 c 販売支援費 ソフトウェアの販売には、受注したソフトウェアの発注作業、顧客管理などの作業が不可欠であるため、これに従事する従業員の人件費は、売上金額から控除するべきである。 この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプトにおいて、D及びHは勤務時間のうち40%を、F及びGは勤務時間のうち65%を、E及びIは勤務時間のうち70%を、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの発注作業、顧客管理などの作業に費やしている。 そうすると、平成16年5月18日から平成21年7月15日までに別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの発注作業、顧客管理などの作業にかかった販売支援費は、「販売支援計算表」(甲113)のとおり、5776万5275円である。 d 販促経費 第1事件原告・第2事件被告コンセプトにおいては、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェア及びシャークシリーズの販売に、2933万2571円の販売経費がかかっている。このうち、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売に関係する販促経費は、「月別利益一覧」(甲110)「Draftboard経費一覧」(甲114)のとおり合計金1206万4152円であり、詳細は以下のとおりである。 @ 部材保管料(社内) 30% A 部材保管料(土谷商店) 100% B 部材保管料(デジタルパワーステーション) 100% C ホームページ費 100% D DM費用(発送、ビニール、ラベル) 70% E CD−R(体験版様CD) 70% F カタログ 70% G 展示会出店費用(会場小間料、交通費、工事費等) 70% H 販売業務委託費 70% I その他 以上によれば、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売に際してかかった販促経費は、合計金1206万4152円となる。 e 以上のとおり、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが、平成16年5月18日から平成21年7月15日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売によって得た「利益の額」は、売上合計1億5357万9233円から、部材費、開発費、販売支援費及び販促経費の合計1億1736万3776円を控除した残金3621万5457円となる。上記利益の額は、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの第1期から第5期の決算書からも、その妥当性が証明される。 なお、第2事件原告アシュラは、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが甲65において「粗利率」を「68.30%」と記載していたことをもって、第2事件原告アシュラの援用により、裁判上の自白が成立し、かつ当該自白の撤回は許されないと主張するが、法律の解釈に関する事項であるから、裁判上の自白は認められない。仮に裁判上の自白が成立するとしても、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの「粗利率」が「68.30%」であることについてのみであり、著作権法114条2項の「その利益の額」を算出する際の利益率が「68.30%」であることについて自白は成立しない。また、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、著作権法114条2項所定の「その利益の額」について、攻撃防御方法を適時に提出しており、時機後れていないし、かかる主張、立証が信義則に違反することもない。 (ウ) 第1事件原告・第2事件被告コンセプトの利益率について(予備的主張) 仮に著作権法114条2項所定の「利益」を「純利益」とすることが認められなかったとしても、侵害者が侵害製品の製造、販売のみに要する専用の設備や従業員を新たに設置し、あるいは雇い入れたといった例外的な事情がない限り、侵害製品の売上額から仕入れ、加工、梱包、保管、運送等の経費のうち侵害製品の製造、販売のみのために要した部分を控除した限界利益とすべきである。この点、本件では、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの販売支援費のうち、少なくともEについては、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの開発等及び発注作業等販売支援のために派遣会社に派遣を依頼したことから、その給与の全額が控除対象となり、売上金額から控除すべきである。また、販促経費についてはすべて、その他については別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上金額とシャークシリーズの売上金額の比率7対3に応じてそれぞれ分担した金額が直接固定費といえる。 したがって、著作権法114条2項所定の「利益」が限界利益と解した場合、売上金額1億5357万9233円から上記経費6431万9641円を控除した8925万9592円が第1事件原告・第2事件被告コンセプトの利益額となる。 (エ) Vellum3.0コードにおける寄与率について a 主位的主張 第2事件原告アシュラとファモティクが、互いに相手方に支払うロイヤリティは、料率が等しいことを意味しても、金額が等しいことを意味するものではないから、これをもってVellum2.7基本コード及びExtensionsコードの寄与率とAdditionsの寄与率が等しいということはできない。修正契約書(甲2)によれば、第2事件原告アシュラは、Vellum3.0について日本を除く全世界で販売できるのに対し、ファモティクは日本市場においてしか販売できないから、第2事件原告アシュラがファモティクに支払うロイヤリティの金額の方が、ファモティクが第2事件原告アシュラに支払うロイヤリティの金額よりも多くなることが予定されていたといえる。また、第2事件原告アシュラ代表者Jとファモティクの代表者であったKの2001年(平成13年)11月29日付けの電子メール(甲26)によれば、第2事件原告アシュラとファモティクの間で、ファモティクが使用する、第2事件原告アシュラ所有のVellum2.7基本コード及びExtensionsコードのロイヤリティが月2500ドルであり、他方、第2事件原告アシュラが使用する、ファモティク所有のAdditionsのロイヤリティが月4000ドルであったことは明らかである。 b 予備的主張 仮に前記aの主位的主張が認められないとしても、少なくともVellum3.0コードにおいて、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードの寄与率とAdditionsの寄与率がほぼ等しいと考えるのが相当である。 イ 商標権侵害による損害額について アシュラ商標は、日本国内において、第2事件原告アシュラによってもそのライセンシーによっても一切使用されていなかったから、顧客吸引力が全く認められない。したがって、仮に第1事件原告・第2事件被告コンセプトがアシュラ商標に類似する標章を使用していたとしても、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げに全く寄与していないことが明らかであるから、第2事件原告アシュラには、得べかりし利益としての使用料相当額の損害も損失も生じていない。 第3 当裁判所の判断 当裁判所は、本件各控訴はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり、付加訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」(原判決75頁7行目ないし115頁25行目)記載のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決87頁1行目の後に、行を改めて、次のとおり付加する。 「(4) 第1事件原告・第2事件被告コンセプトの主張について ア 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、丙15は、2002年(平成14年)以降、Aによって、新たな書き込みがされていること、32ビットを示す記載が存在すること、不完全ながらも日本語その他の2byte言語に対応していることから、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードではなく、これとVellum3.0コードを比較して、Vellum3.0コードは、Vellum2.7コードに依拠して作成されたものとすることはできないと主張する。 しかし、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの上記主張は、採用することができない。すなわち、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが、2002年(平成14年)以降の新たな書き込みと主張する部分は、「Old-Vellum」との名称が付された一部ヘッダーのコメント記載等であるが(丙15)、このような部分は、その内容及び形式からみて、ソースコードを履歴管理するためのシステムにより自動的に挿入されたものであり、ソースコードの改変と解することはできない。 また、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、丙15に存在する32ビットコードを整理したものとして、甲55を提出している。この点、確かに、甲55によれば、丙15に、「WIN32」,「WIN_32」とのコメント行ないし履歴管理用ヘッダー、「gosub32」との32ビット対応コードが存在することが認められる(なお、「Build32」及び「DLL_32」との記載は、いずれも32ビット対応であることを示すコードとはいえない。)。しかし、上記「WIN_32」等とのコメント行ないし履歴管理用ヘッダーには、「10Jan94」(「1994年1月10日」を示すものと解される)等と記載されているのに対し、第2事件原告アシュラとファモティクとの間の「ソースコードおよび開発ライセンス」契約(乙5の1、2)は、1995年(平成7年)7月14日に締結されたこと、それ以前において、ファモティクは、販売代理店契約(甲1)により、「英語版を日本語に翻訳するためにのみ、この製品(判決注・Vellum製品のことを示す。)を修正する権利を有する。」とされていたことなどに照らすと、上記32ビットコードへの対応は、ファモティクが行ったものとは認め難く、むしろ、第2事件原告アシュラによって32ビットコードへの対応が試された痕跡と解するのが相当である。そうすると、丙15は、一部32ビット対応コードが存在したからといって、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードではないと断定することはできない(なお、第2事件原告アシュラは、第1事件原告・第2事件被告コンセプト提出の甲118について、民訴法157条1項に基づき却下すべきであると主張するが、甲118の提出により、訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないから、上記申立てに理由はない。もっとも、甲118は、Cが、1993年(平成5年)に第2事件原告アシュラを退社するまでに経験したことを述べたものにすぎず、これにより上記認定を左右することはない。)。 さらに、証拠(甲122の1、2、甲123の1、2)によれば、丙15、38(甲124)において、「DISP.CLD」中のコメント行に「KANJI chars」との記述がなされたり、 「DELETE.C_V 」中に「IsKanjiByte(unsigned char*string,unsigned int offset)」との関数が定義されたりしていることは認められる。しかし、これらの記述が実際の処理において使用されていると認めるに足りる証拠は存在せず、これをもって、丙15が漢字に対応しているとか、16ビットVellum2.7オリジナル英語版でないということはできない(なお、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの平成20年2月6日付け準備書面(13)添付の別紙4、5は、同別紙を印刷する際に使用したパソコンが日本語対応WINDOWS及び日本語入力のための仮名漢字変換ソフトをインストールしたものであることを示すにすぎず、これをもって、丙15が漢字対応であると解することもできない。)。 以上に加えて、上記のとおり、丙15に記録されているコードは、@16ビットVellum2.7オリジナル英語版のソースコードが記録されたOntrackと題するCD−ROM(丙38、甲124)のコードと、一部ヘッダーのコメント記載等を除き同一であること、Aバージョンアップ前のVellum2.14 コード(丙17)ともよく一致していること、Bファイルの更新日付は、ファイルを媒体にコピーした日を示しているにすぎないことに照らすと、丙15は、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードであるものと認められる。そうすると、丙15に記録されているコードとVellum3.0コードを対比して、Vellum3.0コードは、Vellum2.7コードに依拠して作成されたと認定することができる。 イ 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、Vellum3.0コードが40万以上の行を持ち、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードには含まれていない新規な機能(甲43に記載の各種機能)を備えるなど、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードの創作的な表現の特徴を感得し得ないほど独創性を備えたソースコードであり、同ソースコードに依拠するものではないと主張する。 しかし、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの上記主張は、以下のとおり、採用することができない。すなわち、Vellum3.0コード(甲41)のディレクトリ中、ソースコードが含まれる「Granite」という名称のディレクトリについてみると、その下層ディレクトリ55個のうち40個(約72.7%)が丙15のディレクトリと名称が同一であり、この同一ディレクトリ内の多数のファイルは名称も同一にしていること(甲31、丙16、29、30)、Vellum2.7コードのファイルと名称を同一にするVellum3.0コードのファイル内のソースコードの総行数は27万6987行であるが、そのうち25万5623行(約92.3%)がVellum2.7コードのファイル内のソースコードと一致していること(乙21の1〜7、丙29、30)、ディレクトリ構成やファイル名は、プログラムを作成する際にプログラムを機能ごとにモジュール分割する作業を反映するものであるから、偶然に一致するということは通常は考え難いこと、既存のソースコードに依拠せずに開発されたソースコードの記述が、既存のソースコードの記述と偶然に一致するということは、通常考え難いことなどに照らすと、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの上記主張は採用することができず、Vellum3.0は、16ビットVellum2.7オリジナル英語版ソースコードの創作的な表現の特徴を感得し得ないほど独創性を備えたソースコードとはいえず、Additonsに該当する部分を除き、上記ソースコードに依拠するものと認められる。 (5) 第1事件被告コムネットの主張について 第1事件被告コムネットは、Vellum3.0全体の開発を行ったのは、アルモニコスであり、アルモニコスがファモティクに対しAdditonsの著作権を譲渡したことを裏付ける証拠も存在しないから、ファモティクがAdditonsの著作権又はその持分を取得することはないと主張する。 しかし、第1事件被告コムネットの上記主張は、採用することができない。 すなわち、アルモニコスは、Vellum3.0コードの開発に当たり、Autoface(3次元図形表現ソフトウェア)のプログラムを提供し、ファモティクはこれをVellum3.0コード用に改変して使用したが、他方、Vellumソフトウェアに関して第2事件原告アシュラとの間で「ソースコードおよび開発ライセンス」契約(乙5の1、2)を締結したのはファモティクであること、本件修正契約(甲2、18)においても、ファモティクは、第2事件原告アシュラとの間で、@ファモティクが、Vellum2.7の16ビットの基本コードを16ビットWindowsOS環境から32ビットのWindows95、WindowsNT、PowerMac 上の環境に搭載する作業を行っていること(2.1条)、Aファモティクは、独自に、Surfaces 及びInterfaceのプログラムコードを開発済みであり、またLightworksとの互換性のあるRendering 及びHidden Line Removalのモジュールを独自に開発中であること(2.2条)、Bファモティクは、Additionsを独占的に所有すること(3.2条)などが確認されている。そうすると、アルモニコスが、Vellum3.0コードの開発に当たり、Autofaceのプログラムを提供した事実があったとしても、Vellum3.0コードの開発を行ったのは、ファモティクであったと認定するのが相当であり、第1事件被告コムネットの上記主張は採用することができない。 (6) 小括 以上によれば、第1事件原告・第2事件被告コンセプト及び第1事件被告コムネットの上記各主張は、いずれも採用することはできない。したがって、Vellum3.0コードは、本件修正契約に基づき、ファモティクがVellum2.7コードに依拠して開発したものであるが、本件修正契約(甲2、18)及び「ソースコードおよび開発ライセンス」契約(乙5の1、2)の規程により、Vellum3.0コードのうち、Additionsのプログラム著作権は、ファモティク(ひいては第1事件原告・第2事件被告コンセプト)が取得し、その余のプログラム(Vellum2.7コード及びExtensionsコード)の著作権は、第2事件原告アシュラにおいて取得すると解するのが相当である。」 2 原判決90頁7行目の後に、行を改めて、次のとおり付加する。 「これに対し、第1事件被告コムネットは、ファモティクとの取引終了後も、甲6(乙34)のマニュアルの使用許諾を受けていたのであり、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの著作権を侵害しないと主張するが、本件全証拠によるも、これを認めるに足りる事実は存在しない。 したがって、第1事件被告コムネットの上記主張は、採用することができず、第1事件被告コムネットが、平成16年5月18日(第1事件原告・第2事件被告コンセプトがフューテックからVellum3.0コードのプログラム著作権及びそのマニュアルの著作権の譲渡を受けた日)以降、マニュアル(甲6、乙34)を複製、頒布した行為は、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが有する著作権を侵害する。」 3 原判決94頁4行目ないし8行目を以下のとおり改める。 「これに対し、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、Vellum2.7コードに存在せず、Vellum3.0コードで新たに追加されたファイルがAdditionsに当たるとして、その範囲は、甲64において特定されていると主張する。他方、第1事件被告コムネットは、甲64によりAdditionsの範囲を特定することはできず、Additionsの範囲は不特定であると主張する。しかし、上記第1事件原告・第2事件被告コンセプト及び第1事件被告コムネットの主張は、いずれも採用することができない。 すなわち、甲2、30によれば、Vellum3.0においては、「Autosurface」と記載された機能により、ワイヤフレームモデルで記述された対象に、「表面」の情報を追加するが、これを行うための表面の情報であるサーフェスデータを自動作成する機能を有するモジュールを総称して、Surface と表現しているものと理解することができる。また、甲30には明示されていないものの、一般的に、Renderingモジュールは、Shading(陰影処理)等を行って画像を描画する機能を指し、Hidden Line Removalモジュールは、見えないはずの表面や輪郭の線を消去する機能を示すものと理解することができる。さらに、Interfaceモジュールは、サーフェスデータを各種ファイルと入出力する機能を示すものであり、甲30によれば、Vellum3.0では、様々なファイル形式に対応した入出力を可能にすることが仕様として求められていたものと理解することできる。 したがって、Vellum2.7コードに存在せず、Vellum3.0コードで新たに追加されたファイルがAdditionsに当たるとの第1事件原告・第2事件被告コンセプトの主張、及びAdditionsの範囲が不特定であるとの第1事件被告コムネットの主張は、いずれも採用することができない。」 4 原判決94頁11行目の後に、行を改めて、次のとおり付加する。 「なお、第1事件被告コムネットは、複製又は翻案の判断に当たり、創作性のある部分を特定する必要があると主張する。しかし、Vellum3.0コードには、FE言語という特殊な専用言語を用いて表現されている部分がある上、その他の部分についても、Vellum2.7コードの一部がFE言語で作成されていることを前提として、これと協働するように、創作的な表現がされている部分が含まれていると推認することができるから、複製又は翻案の判断に当たり、モジュール単位の特定を超えて、個別に特定する必要はないというべきである。」 5 原判決96頁8行目の後に、行を改めて、次のとおり付加する。 「この点、第1事件被告コムネットは、仮に、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアに、Additionsの記述が残存しているとしても、プログラムとして求められる機能を果たさなければ、プログラムの複製又は翻案に当たらないと主張する。しかし、上記のとおり、別紙「被告コムネット商品目録」記載1、2のソフトウェアには、Additionsが含まれているのであって、これに対し、外部から見えるメニューにのみマスクを掛けるmaskingを行なっただけでは、Additionsを削除したとはいえず、これを複製、頒布すれば、プログラムに係る著作権侵害を構成する。」 6 原判決98頁7行目ないし23行目を次のとおり改める。 「この点、第1事件被告コムネットは、Vellum3.0コードのプログラム著作権が第1事件原告・第2事件被告コンセプトに譲渡されたことが、プログラム登録原簿に登録され、公示されているとしても、ファモティク破産後、Vellum2.7及びExtensions著作権を有する第2事件原告アシュラから、Ashlar-Vellum Graphite(英語版)のソースコードの提供を受ける際、Additions部分は削除済みであるとの説明を受けていたこと、現にAdditionsの機能を利用できなかったことからすれば、第1事件被告コムネットに過失があったということはできないと主張する。 しかし、第1事件被告コムネットの上記主張は、採用することができない。すなわち、第1事件被告コムネットは、コンピュータソフトウェアの研究開発、制作販売等を業とする会社であり、自己の開発、制作するソフトウェアが他者のプログラム著作権を侵害することがないように注意すべき義務を負うものと解される。また、ファモティクが平成16年4月9日に破産宣告を受けたことは、破産手続上公告されており、Vellum3.0コードのプログラム著作権が第1事件原告・第2事件被告コンセプトに譲渡されたことは、プログラム登録原簿に登録され、公示されていた(甲4)。そうすると、第1事件被告コムネットは、第2事件原告アシュラから、Ashlar-Vellum GraphiteからAdditions部分は削除済みであるとの説明を受けていたとしても、自らこれを確認するなどの措置を採ることなく、また、権利関係の変動について確認することなく、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが著作権を有するプログラムを利用した以上、その著作権侵害について過失があるというべきである。」 7 原判決111頁6行目ないし13行目を次のとおり改める。 「また、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが有するのはVellum3.0コードのうちAdditionsに係るプログラム著作権であるところ、第2事件原告アシュラとファモティクとの間で締結された修正契約(甲2、18)において、第2事件原告アシュラがファモティクに対して支払うべきロイヤリティと、ファモティクが第2事件原告アシュラに対して支払うべきロイヤリティとがほぼ同率と定められていること(5.1条、5.2条)を考慮すると、Vellum3.0コードにおいて、Vellum2.7基本コード及びExtensionsの寄与率とAdditionsの寄与率はほぼ等しいと考えるのが相当である。 これに対し、第1事件被告コムネットは、@「Additionsの機能を有するディレクトリないしファイルすべてを含み、かつ、当該機能を利用できるソフトウェア(Vellum3.0)におけるVellum2.7基本コード及びExtensionsの寄与率」と「Additionsの寄与率」とがほぼ等しいとの前提に立って、Additionsの機能を有するディレクトリないしファイルすべてを含むものではなく、かつ、当該機能を利用できないソフトウェア(Ashlar-Vellum Graphite、BOX-Vellum Graphite5)に係る損害額を認定することは不合理である、A仮にAdditionsの寄与率が認められるとしても、当該寄与率は極めて低く、第1事件原告・第2事件被告コンセプトに賠償すべき損害もほとんどない、B第1事件原告・第2事件被告コンセプトが二次的著作物であるAdditionsに関する著作権を有するとしても、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないから、第1事件原告・第2事件被告コンセプトによるAdditionsに関する著作権に基づく損害賠償請求についても、上記創作的部分の寄与率を考慮すべきである、C第1事件原告・第2事件被告コンセプトの第1事件原告・第2事件被告コンセプト商品目録記載1〜6のソフトウェア販売による1本当たりの利益は、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの第2事件原告アシュラに対する主張を前提にすると5315円であるから、これに第1事件被告コムネットの販売本数とAdditionの寄与率を乗じた額を超える損害賠償請求は認められない、と主張する。 しかし、上記第1事件被告コムネットの主張は、採用することができない。すなわち、上記のとおり、別紙「被告コムネット商品目録」記載1〜3、5、6のソフトウェアには、Additionsが含まれるのであって、これに外部から見えるメニューにマスクを掛けるmaskingを行なっただけでは、Additionsを削除したとはいえず、これを複製、頒布することにより、損害が発生しないとはいえない。また、上記のとおり、第2事件原告アシュラがファモティクに対して支払うべきロイヤリティと、ファモティクが第2事件原告アシュラに対して支払うべきロイヤリティとがほぼ同率と定められていること(5.1条、5.2条)に照らすと、Vellum3.0コードにおいて、Additionsの寄与率が極めて低いとか、第1事件被告コムネットが第1事件原告・第2事件被告コンセプトに賠償すべき損害がほとんどないとはいえない。さらに、AdditionsのうちAutofaceの部分が二次的著作物であるとしても、アルモニコスの開発担当取締役であったBの確認書(甲22)によれば、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、原著作物の著作者であるアルモニコスから、原著作者の権利の譲渡を受けたものと認められ、これに反する証拠は存在しないから、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの創作的部分の寄与率を考慮すべきとはいえない。なお、第2事件における第1事件原告・第2事件被告コンセプトの第2事件原告アシュラに対する主張を前提として、第1事件の損害額を算定しなければならない理由はない。」 8 原判決112頁3行目から115頁25行目を次のとおり改める。 「10 争点(10)(第2事件原告アシュラの損害又は損失)について (1) 著作権侵害による損害額(著作権法114条2項) ア 上記のとおり、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが販売する別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアは、第2事件原告アシュラが代理店である第1事件被告コムネットを通じて販売する別紙「被告コムネット商品目録」記載のソフトウェアと市場において競合し得るものであるから、必要な事項を考慮した上で、著作権法114条2項所定の規定により、第2事件原告アシュラの損害額を算定することが許される。 イ 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの売上額 (ア) 別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜3のソフトウェアの売上額は、別紙「月別売上一覧」記載のとおり、@平成16年9月1日から平成18年10月31日までの間が7459万3016円、A同年11月1日から平成21年7月15日までの間が6071万8448円、合計1億3531万1464円であったと認められる(甲66の5〜8、甲67の1〜12、甲68の1〜12、甲69の1〜12、甲70の1〜3、甲125)。 (イ) また、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの売上額は、別紙「月別売上一覧」記載のとおり、B平成16年5月18日から平成17年6月30日までの間、合計1829万2769円(平成17年3月及び6月の返品額合計13万7180円を控除した金額)であったと認められる(甲66の1〜8、甲67の1〜3、6)。 (ウ) 上記(ア)、(イ)によれば、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの販売により得た売上額は、合計1億5360万4233円となる。 ウ 第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、甲110〜115に基づき、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの経費として、部材費が2423万7435円、開発費が2329万6915円であり、更に、販売支援費5776万5275円、販促経費が1206万4152円であると主張する。しかし、上記部材費、開発費、販売支援費及び販促経費について、これを裏付ける資料が存在せず、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの開発ないし販売の実態も判然としないから、第1事件原告・第2事件被告コンセプト主張の上記経費を売上げからすべて控除することは妥当を欠く。そうすると、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが甲65において平均粗利益率であるとし、第2事件原告アシュラも第1事件原告・第2事件被告コンセプトの利益率として争わない68.30%をもって、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの利益を算定するのが相当である。上記認定に反する、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの主張は、これを認めるに足りる証拠が存在せず、採用することはできない。 また、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、第2事件原告アシュラが有しているプログラムに係る著作権の対象は、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードに係るものであるところ、「Vellum3.0コードにおけるVellum2.7基本コード及びExtensionsコードの寄与率」と「Additionsの寄与率」の比率は、2500:4000であると主張する。しかし、第1事件原告・第2事件被告コンセプトの上記主張を認めるに足りる証拠は存在しないから、上記のとおり、Vellum3.0コードにおいて、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードの寄与率とAdditionsの寄与率は、等しいと解するのが相当である。 エ 以上を前提として、Vellum2.7基本コード及びExtensionsコードのプログラム著作権侵害により、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが得た利益額を計算すると、次のとおり、合計5245万5843円となる。 (ア) 上記@の売上げによる利益 2547万3514円 (計算式)74,593,016×0.683×0.5 (イ) 上記Aの売上げによる利益 2073万5349円 (計算式)60,718,448×0.683×0.5 (ウ) 上記Bの売上げによる利益 624万6980円 (計算式)18,292,769×0.683×0.5 オ なお、第2事件原告アシュラは、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアについて、Vellum2.7コード及びExtensionsコードの使用料相当額が1本当たり2万5000円であることを前提として、著作権法114条3項に基づく損害又は損失額についても主張している。 しかし、本件修正契約(甲2、18)において、ファモティクがVellum3.0の販売により第2事件原告アシュラに支払うべきロイヤリティの額は純収益の12%とされているのであるから、Vellum2.7コード及びExtensionsコードに係る「著作権の・・行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法114条3項)については、この定めを一応の基準とするのが相当であり、第2事件原告アシュラの主張する使用料の額(ソフトウェア1本当たり2万5000円)は過大というべきである。 そして、上記使用料率によって算定した損害額が上記エの損害額を下回ることは明らかであるから、著作権法114条3項に基づく損害又は損失額については判断の限りでない。 カ 第2事件原告アシュラは、弁護士を選任して、第2事件において、著作権侵害(不法行為)による損害賠償請求をしているところ、当該事案の難易、上記認容額等諸般の事情を考慮すれば、上記弁護士費用のうち、少なくとも524万8343円が上記不法行為と相当因果関係のある第2事件原告アシュラの損害であると認められる(なお、第2事件原告アシュラが、第1事件原告・第2事件被告コンセプトに対し、著作権侵害による損害賠償として請求する弁護士費用は、著作権法114条3項に基づく請求のみにかかるものではなく、およそ第1事件原告・第2事件被告コンセプトの著作権侵害により認められる損害全体に関するものであり、同条2項に基づき損害を認定したからといって、判断が不要となるものと解することはできない。)。 キ 小括 以上によれば、第2事件原告アシュラの著作権侵害による損害額は、5770万4186円と認められ、本件全証拠によるも、他にこの認定を左右するに足りる証拠は存在しない。 (2) 商標権侵害による損害額(商標法38条3項、4項) ア 上記のとおり、別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6の名称でCADソフトウェア(電子応用機械器具)を販売することは、アシュラ商標権を侵害する。 イ 前記8(1)ア(オ)のとおり、第2事件原告アシュラがアシュラ商標権を取得したのは平成16年9月10日であるところ(丙10)、同日から平成17年6月30日までの別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6のソフトウェアの売上げは、別紙「月別売上一覧」記載のとおり、合計1018万8719円(平成17年3月及び6月の返品額合計13万7180円を控除した。)であったものと認められる(甲66の5〜8、甲67の1〜6、甲110)。 商標法38条3項の「登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額」は、当該商標の価値(自他識別力、顧客吸引力の強弱)やその侵害の態様、侵害者の得た利益、当事者間の競合関係その他の具体的事情を考慮して定められるべきである。この点、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、アシュラ商標は、日本国内において、第2事件原告アシュラないしそのライセンシーによって使用されておらず、顧客吸引力は認められず、別紙「原告コンセプト商品目録」記載1〜6のソフトウェアの売上げに全く寄与していないから、第2事件原告アシュラに得べかりし利益としての使用料相当額の損害は生じないと主張する。しかし、アシュラ商標は、第2事件原告アシュラの販売代理店であったアシュラジャパンなどを介して、一定の知名度を有しており、自他識別力、顧客吸引力を有していることが認められ(丙1、33〜35、37、59、60)、上記第1事件原告・第2事件被告コンセプトの主張は採用することができない。そして、第2事件原告アシュラと第1事件原告・第2事件被告コンセプトは競合関係にあること、第1事件原告・第2事件被告コンセプトによるアシュラ商標権の侵害期間が1年間にも満たないこと、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、第1事件原告・第2事件被告コンセプトが別紙「原告コンセプト商品目録」記載4〜6の名称でCADソフトウェア(電子応用機械器具)を販売したことによって第2事件原告アシュラに支払うべきアシュラ商標の使用料相当額は、上記売上額(1018万8719円)に5%を乗じた金額のうち、少なくとも50万6098円と認めるのが相当である。 また、第2事件原告アシュラは、弁護士を選任して、第2事件において、商標権侵害(不法行為)による損害賠償請求をしているところ、当該事案の難易、上記認容額等諸般の事情を考慮すれば、上記弁護士費用のうち5万円が上記不法行為と相当因果関係のある第2事件原告アシュラの損害であると認められる。 ウ 以上によれば、第2事件原告アシュラの商標権侵害による損害額は、55万6098円と認められ、本件全証拠によるも、他にこの認定を左右するに足りる証拠は存在しない。 (3) 小括 上記(1)、(2)の合計は、5826万0284円であり、これが第2事件原告アシュラの受けた損害額であると認められる。 なお、第1事件原告・第2事件被告コンセプトは、第2事件原告アシュラに対して有する損害賠償請求権(Additionsの不正使用による損害賠償請求権)を自働債権とし、第2事件原告アシュラが第1事件原告・第2事件被告コンセプトに対して有する不当利得返還請求権(Vellum2.7コード、Extensionsコードの不正使用及びアシュラ商標の不正使用による不当利得返還請求権)を受働債権として、両者を対当額で相殺する旨の意思表示をしているが(争点(10)イ)、前記第2の1(2)のとおり、原告アシュラは、第1事件原告・第2事件被告コンセプトに対し、不法行為による損害賠償請求権と不当利得返還請求権を選択的に主張しているところ、上記(1)、(2)において認容されたのはいずれも不法行為(著作権侵害、商標権侵害)による損害賠償請求権であるから、上記相殺の抗弁については判断の限りでない。」 9 原判決115頁25行目の後に行を改め、「その他、第1事件原告・第2事件被告コンセプト及び第1事件被告コムネットは、縷々主張するが、いずれも、理由がない。」を付加する。 10 結論 以上のとおり、原判決は結論において相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 知野明 裁判官 中平健は、転補につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官 飯村敏明 (別紙)被告コムネット商品目録 次の名称を有するCADソフトウェア(ただし、マニュアルを含まない) 1 BOX-Vellum Graphite 5 2 Ashlar-Vellum Graphite 3 BOX-Vellum 3.5 4 BOX-Vellum 4.0 5 BOX-Vellum 4.01 6 BOX-Vellum 4.03 (別紙)原告コンセプト商品目録 次の名称を有するCADソフトウェア(ただし、マニュアルを含まない) 1 DraftBoard Unlimited V1.0 for Mac OS X 2 DraftBoard Unlimited V1.0 for Windows 3 DraftBoard Ver.2.0 Hybrid 2D/3D CAD 4 VellumCAD Professional edition 5 VellumCAD standard 6.0J 6 Mac Vellum V1.0 (別紙)標章目録 1 ASHLAR−VELLUM 2 ドラフティング・アシスタント (別紙)商標目録 1 登録番号 第4904754号 出願年月日 平成16年11月2日 登録年月日 平成17年10月28日 商品及び役務の区分 第9類 指定商品 写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、測定機械器具、電線及びケーブル、電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、家庭用テレビゲームおもちゃ、携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM、レコード、メトロノーム、電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCDROM、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、電子出版物 登録商標 (商標イメージ略) 2 登録番号 第4904753号 出願年月日 平成16年11月2日 登録年月日 平成17年10月28日 商品及び役務の区分 第9類 指定商品 写真機械器具、映画機械器具、光学機械器具、測定機械器具、電線及びケーブル、電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、家庭用テレビゲームおもちゃ、携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM、レコード、メトロノーム、電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、電子出版物 登録商標 (商標イメージ略) 3 登録番号 第3174407号 出願年月日 平成5年9月16日 登録年月日 平成8年7月31日 商品及び役務の区分 第9類 指定商品 電子応用機械器具及びその部品 更新登録年月日 平成18年5月2日 登録商標 (商標イメージ略) |
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