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【事件名】ビジネスプラン説明図面の著作物性事件
【年月日】平成23年6月10日
 東京地裁 平成22年(ワ)第31663号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成23年4月22日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 小林芳男
同 加藤悟
同 平石喬識
同 一杉昭寛
同 大岡雅文
被告 株式会社ヒノデ
同訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 井奈波朋子
同 山田雄介
同 永田玲子


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、900万円及びこれに対する平成22年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、2つの図及び説明文から成る「バイナリーオートシステム」との表題が付された別紙1記載の図面(ただし、赤字、赤枠部分を除く。同部分は原告主張の被侵害部分を特定するための表示であって、同図面を構成するものではない。以下、同図面を「原告図面」という。)について第一発行年月日の登録を得た原告が、被告のプラウシオン・エージェントクラブ契約書面(甲3。以下「被告契約書面」という。)は原告図面と同一又は類似の表現を用いており、これを作成、使用する被告の行為は原告が有する原告図面の著作権(複製権、二次的著作物の利用権)を侵害するとして、被告に対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益3億円のうち900万円及びこれに対する平成22年9月19日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を掲記したもののほかは当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、平成15年4月25日、文化庁長官に対し、原告図面について次のとおり第一発行年月日登録を申請し、平成15年5月13日付けで登録がされた。(甲2の1、2、甲5)
ア 著作物の題号
 「バイナリーオートシステム」
イ 著作物の種類
 「編集著作物」
ウ 著作物の内容又は体様
 「本著作物はA4版の表と文で、バイナリーオートシステムについての概要を表したものである。
 バイナリーオートシステム
 1.二つに分かれて自動的に振り分けて下につけていくシステム
 2.図1表 左右小数の方で計算して支払いを決める。
 3.図2表 左右大数の方で計算して支払いを決める。」
エ 第一発行年月日
 「平成十二年十月十日」
(2) 被告は、健康器具の販売等を業とする株式会社であり、「プラウシオン・エージェントクラブ」という名称の事業(以下「被告事業」という。)を行っている。
 被告事業は、バイナリーと呼ばれるビジネスプランを採用したものであり、特定商取引に関する法律33条1項所定の連鎖販売取引に当たる。連鎖販売取引においては、一定の場合に契約の内容を明らかにする書面を契約の相手方に交付しなければならないものとされており(同法37条2項)、被告は、本件訴訟が提起される前の一定期間、被告契約書面を同項の書面として作成、使用していた。
(甲3、弁論の全趣旨)
3 争点
(1) 原告図面の著作物性
(2) 著作権(複製権、二次的著作物の利用権)侵害の成否
(3) 損害及びその額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 原告図面の著作物性
〔原告の主張〕
 バイナリーオートシステムは、ある物品やサービス等を購入又は販売する人の集団内における報酬の算出方法を定めたものであり、Aが紹介した2人の人物B、Cを必ず左右2つのグループに振り分け、更にB、Cを起点とする2つのグループにA、B又はCが紹介した人物D、E、F、G…を振り分けていき、各人の下に2つのグループの形成を繰り返していくことで、最初に形成された左右2つのグループを維持していき、最終的に同2グループ内のメンバー全員が一定期間内に購入して得られたポイントを合計し、同2グループを比較して合計の少ない方又は多い方のポイントを基準としてAに支払われる報酬額を決めるシステムである(以下「本件システム」という。)。
 本件システムのうち、左右2つのグループ内の合計ポイントのうち少ない方のポイントを基準にしてAが得られる報酬を算出する方法を採ることによって、グループ内の各メンバーに対して支払う報酬の原資が確保されることになり、物品の販売又はサービスの提供が続く限り、各メンバーに対する報酬の支払原資に不足を来すことなく報酬を支払うことができるようになる(以下、この少ない方のポイントを基準にして報酬を算出する方法を「本件ビジネスプラン」という。)
 原告図面のうち向かって左側部分(「1.図1表」の部分)に掲載された図(別紙1において赤字、赤枠で図Aと表示されている部分。以下「図A」という。)及び説明文(別紙1において赤字、赤枠で文Aと表示されている部分。以下「文A」という。)は、本件システム及び本件ビジネスプランの内容を一般人でも理解できるよう、視覚的にも文章でも分かりやすく説明、図示したものであり、図Aは図形の著作物(著作権法10条1項6号)として、文Aは言語の著作物(同項1号)としてそれぞれ著作物性が認められる。
 すなわち、図Aは、自分自身を示す頂点の円を起点にピラミッド状のグループ大小を左右に分けて形成することで、図全体で自分を起点に拡大していくグループ全体(大小合わせたグループ)を表現するとともに、左右の大小のグループのうち小さい方のグループを大きい方のグループと対比できる形で、小さい方のグループの人数と一致する範囲を略三角形の図形で囲むことにより、小さい方のグループが報酬計算の算出基準となることを表現している。このように大のグループと小のグループの対比を視覚的に作り出し、この図に合わせて文章(文A)の上でも「小数」の表現を使用することで、グループの視覚的な大小の比較を作出し、@グループ全体が自分を起点に拡大していくこと、他方で、A幾ら多数の人数がグループを形成しても報酬の計算方法については小グループ(人数が少ない方のグループ)を基準にすることを視覚的、直感的に感得できるように工夫されている。
 図A及び文Aの表現により、これらの事項が瞬時に視覚的、直感的に感得でき、理解を促し、また、誤解やトラブルを防止する等の非常に重要な役割を果たしている。人数を数として「少数・多数」で表現するのではなく、図形と文共に合わせて視覚的に「小数・大数」と表現することで、本件ビジネスモデルの根幹の理解を飛躍的に促進させる非常に重要な意味を持っており、高い創作性があるといえる。
〔被告の主張〕
ア 図Aについて
 図Aは、@19個の円と18本の直線を使用した組織図様の図形、Aこの組織図様の図形の頂点にある円から下方向に伸びた1本の点線、B組織図様の略上半分を覆うように描かれた略三角形状の図形という3種類の図形を組み合わせたものである。
 上記@の組織図様の図形においては、頂点に位置する1つの円から2本の直線がそれぞれ左右斜め下方向に伸び、その先でそれぞれ円と接している。そして、それらの円から再び2本の直線がそれぞれ左右斜め下方向に伸び、その先でそれぞれ新たな円と接する。このようにして円と直線がつながっていく形状が繰り返されることにより、大きく分けて左右に2つのツリー状の図形が描かれている。円とそこから伸びる左右斜め下方向への2本の直線を1段と捉えると、向かって右側のツリーは2段、左側のツリーは4段である。
 このような図形は、本件システムの内容(以下「本件アイデア」という。)を消費者に理解させるために作成される図面を具体的に表現する際には誰でも行うありふれた表現である。すなわち、原告によれば、本件アイデアは、「Aが紹介した2人の人物B、Cを必ず左右2つのグループに振り分け、更にB、Cを起点とする2つのグループにA、B又はCが紹介した人物D、E、F、G…を振り分けていき、各人の下に2つのグループの形成を繰り返していくことで、最初に形成された左右2つのグループを維持していき、最終的に同2グループ内のメンバー全員が一定期間内に購入して得られたポイントを合計し、同2グループを比較して合計の少ない方又は多い方のポイントを基準としてAに支払われる報酬額を決めるシステム」というものであるが、図Aは、次のとおり本件アイデアを表現するためには誰しもが行うであろう必然あるいは当然のありふれた表現を用いているにすぎない。
(ア) 本件アイデアのうち「Aが紹介した2人の人物B、Cを必ず左右2つのグループに振り分け、更にB、Cを起点とする2つのグループにA、B又はCが紹介した人物D、E、F、G…を振り分けていき、各人の下に2つのグループの形成を繰り返していくことで、最初に形成された左右2つのグループを維持(する)」というアイデアを具体的に表すために、左右2つのツリー状の図形から成る組織図様の図形を描くのはごくありふれている。そして、組織図様の図形において、円が人物を表し、円と円を結ぶ直線が人物相互の関係性を表すというのは、古今東西どこにでも見られる極めてありふれた表現である。
 また、上記アイデアは数学及び数学を利用した情報処理技術における二分木(バイナリーツリー)を基にしているが、その表現は典型的な二分木グラフの表現と同一であるから、その意味でもありふれた表現である。
(イ) 本件アイデアのうち「同2グループを比較して合計の少ない方又は多い方のポイントを基準としてAに支払われる報酬額を決める」というアイデアを消費者に分かりやすく表現するために、組織図様の図形の左右2つのツリー状の図形のうち、一方を短く他方を長くすることはごくありふれている。そして、長い方が左右のうち左に来ることは2分の1の確率であるから、これもまたありふれたものである。
 また、2グループがどこで分かれるかを示すために、頂点から左右を分けるように縦線を引くこともありふれた表現である。そして、この縦線について、組織図様の図形における直線と区別するために点線を用いることもありふれている。
 さらに、2グループを比較するために、左右いずれか短いツリー状図形の長さのところで両グループを囲ってしまうこともありふれた表現方法である。そして、この囲う形状が略三角形状となることは、ここでの組織図が頂点を山頂とした裾広がりになる以上、当然のことである。
 なお、原告は、文Aと合わせて報酬の計算方法については小グループ(人数が少ない方のグループ)を基準にすることを視覚的、直感的に感得できるように工夫されていると主張するが、左右の各グループのうち少ない方を基準にするということを視覚的に分かりやすく表現する手法は限られるのであって、頂点から下方に向けて引かれた点線で左右のグループ分けを視覚的に明確にした上で、左右両グループに共通する段を略三角形で囲って大小を比較する手法など、単純でありふれた手法といわざるを得ない。
 したがって、図Aは創作性がなく著作物とはいえない。
イ 文Aについて
 文Aは「左右小数の方で計算し支払いを決める。」という短い一文であり、本件アイデアのうち「同2グループを比較して合計の少ない方又は多い方のポイントを基準としてAに支払われる報酬額を決める」という部分を消費者に説明するために、これを具体的に表現した図Aを用いて図Aに表示されている左右2つのツリー状図形がそれぞれ表す2グループのうち「合計の少ない方」を基準に計算して、図Aの頂点の円が表す人物Aに支払われる報酬額を決める、ということを文章で表現したものである。
 文Aはアイデアそのものといえる簡潔な文章であり、上記説明を文章で表そうとすれば誰が書いても文Aのような文章にしかならないのであるから、そこに創作性など認めようがない。
 したがって、文Aは創作性がなく著作物とはいえない。
(2) 著作権(複製権、二次的著作物の利用権)侵害の成否
〔原告の主張〕
 原告は、原告図面の印刷物を平成12年10月10日に少なくとも100人に頒布した。被告は、原告図面の表現に依拠して、平成18年1月1日以降、被告契約書面の中に原告図面の表現に類似する図と文を記載するに至った。すなわち、被告は、被告事業における報酬の算出方法として本件ビジネスプランを採用しており、被告契約書面においてメンバーに支払われるボーナスの決定方法を説明しているが、被告契約書面の2枚目裏面「2.デイサイクルボーナス」の欄に掲載された図(別紙2において赤字、赤枠で図B1と表示された部分。以下「図B1」という。)並びに同3枚目表面の「5.タイトルボーナス」の欄に掲載された「このボーナスは左右ラインのどちらか小さいグループ人数によってタイトルが確定し、タイトル獲得された方を対象に支払われるボーナスです。」の文(別紙3において赤字、赤枠で文Bと表示された部分。以下「文B」という。)及び図(別紙3において赤字、赤枠で図B2と表示された部分。以下「図B2」という。)は、それぞれ原告図面の図A及び文Aの表現と同一であるか類似している。
 これらは正に本件ビジネスプランの最も基本的な仕組みの部分を表現したものであり、被告が独立して創作したものではない。なぜなら、原告が本件システムを考案し、図解、説明等を平成12年10月10日までに多数頒布し、ここから急速に本件システムを解説する原告図面の表現が世間に拡大していったからである。日本における本件システムの黎明期である平成12年末頃から平成13年前半にかけて本件システムの採用を開始した会社は、原告の図解、説明等を参考にパンフレットを作成するしか方法がなかったというのが実情である。被告は、平成13年4月の会社設立に際し、また、平成14年10月以降の被告契約書面の作成(被告契約書面の1枚目裏面の下から2行目に「2002年10月に…」という記載があることから、被告契約書面は平成14年10月以降に作成されたことが分かる。)に当たっては、原告図面の表現にアクセスして模倣するしか方法がなく、独自に表現を考案したとは考えられない。
 被告が図A及び文Aの表現を原告に無断で模倣することは、正に原告の創作等知的活動の上に無償で依存する行為であり、原告の著作権(複製権、二次的著作物の利用権)を故意に侵害するものである。
 仮に被告に故意がなかったとしても、上記各表現の著作権は必ず一旦は誰かに帰属するのであるから、被告は本件ビジネスプランを専門的に表現する会社として上記各表現の著作権が誰に帰属するものであるかを最低限調査すべき立場にあり当該調査義務を負う。よって、当該最低限の義務を果たすことなく漫然とこれと同一又は類似する表現を行った被告の行為は、過失以外の何物でもない。
〔被告の主張〕
ア 同一性、類似性の欠如
(ア) 図Aと図B1、B2との同一性について
 図Aは、前記のとおり、@19個の円と18本の直線を使用した組織図様の図形、Aこの組織図様の図形の頂点にある円から下方向に伸びた1本の点線、B組織図様の略上半分を覆うように描かれた略三角形状の図形から成る。
 このような図Aにおける表現上の特徴は、(@) 頂点となる円を基準に左右に明確に分けられた2つの組織が存在すること、(A) 2つの組織はそれぞれ1人の人物から2人の人物に分かれていくというツリー状の階層構造を採ること、(B) 左右の組織の大きさがアンバランスであること、(C) 頂点、小さい方の組織、大きい方の組織のうち小さい方の組織と一致する人数までの部分という3つの部分が略三角形状の図形で囲まれていることの4点に集約される。
a 図B1との対比
 図B1の要素のうち図Aの具体的表現と一致するのは、頂点の円とここから下に伸びた1本の点線のみである。また、上記4つの表現上の特徴においても(@)としか一致しない。これら一致する部分はいずれも頂点を基準とした2つに分かれる組織を図に描く際には、多くの者が行うありふれたものであって、そこに創作性など存在しない。しかも、図B1が消費者に伝えようとしている内容(アイデア)は、当該組織における「フルサイクル」という設定(人数と金額の達成)であって、これは図Aのアイデア(本件アイデア)とすら一致しない。
 したがって、図B1には、図Aとの同一性は存在しない。また、図B1は図Aの本質的な特徴を直接感得できるものではないから、図B1には類似性も存在しない。
b 図B2との対比
 図B2の要素のうち図Aの具体的表現と一致するのは、頂点にある円のみである。また、図Aの上記4つの表現上の特徴においても(@)としか一致しない。これらの一致する部分は、頂点を基準とした2つに分かれる組織の図形を描く際にはほぼ不可避の形態といえ、あまりにもありふれたものであって、そこに創作性など存在しない。しかも図B2が消費者に伝えようとしている内容(アイデア)は、当該組織におけるタイトルの類型であるが、これは図Aのアイデア(本件アイデア)とは異なる。
 したがって、図B2には、図Aとの同一性は存在しない。また、図B2は、図Aの本質的な特徴を直接感得できるものではないから、図B2には類似性も存在しない。
(イ) 文Bについて
 文Aは、「左右小数の方で計算し支払いを決める。」という一文である。これに対し、文Bは、「ボーナスは、左右ラインのどちらか小さいグループ人数によってタイトルが確定し、タイトル獲得された方を対象に支払われるボーナスです。」というものである。
 文Bのうち文Aと具体的表現において同一である部分は「左右」という1つの単語のみである。前記のとおり文Aはアイデアそのものといえるほど簡潔な文章であるから、文Aと僅か1つの単語しか同一でない文章がその形式と内容について文Aと同一性があることなどあり得ない。実際、文B全体から覚知できる文意は、概要、「左右のグループのうち人数が少ない方のグループの人数を基準に、まずタイトルが確定する。そして、獲得したタイトル内容によってボーナスが支払われる。」というものであり、文Aの文意とは、人数が基準であることを明確にしている点、報酬額が決まる前にタイトルが決定する点、獲得タイトル内容に応じて報酬額たるボーナスが支払われる点の各点で大きく相違している。
 したがって、文Bには文Aとの同一性は存在しない。また、文Bの文意が文Aの文意と一致しない以上、文Bは文Aの本質的な特徴を直接感得できるものはないから、文Bには類似性も存在しない。
イ 依拠性の欠如
 被告は、本件訴訟を提起されるまで、原告が作成した図A及び文Aを見たことがなく、その存在すら認識していなかったので、被告契約書面を作成する際これらに依拠などしようがない。また、被告契約書面における図B1、B2及び文Bと、図A及び文Aとの間には、依拠性を推認し得る特徴的な同一性も存在しない。
 したがって、依拠性は認められない。
(3) 損害及びその額
〔原告の主張〕
 被告は、前記の著作権(複製権、二次的著作物の利用権)侵害により合計30億円の売上げがあり、経費等を差し引いてもどんなに少なくとも合計3億円の利益を上げているから、その利益の額が原告が受けた損害額と推定される(著作権法114条2項)。
〔被告の主張〕
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告図面の著作物性)について
(1) 図Aについて
ア 図Aは、19個の円と18本の直線を組み合わせた組織図様の図形(以下「@部分」という。)と、この組織図様の図形の頂点にある円から下方向に伸びた1本の破線(以下「A部分」という。)と、組織図様の図形の略上半分を囲むように描かれた略三角形状の図形(以下「B部分」という。)から成る図形である。
 組織図様の図形(@部分)は、頂点に位置する1つの円を起点にして、円から2本の直線が左右に分かれて斜め下方向に伸びていき、その先でそれぞれ円と接することを繰り返しており、頂点の円を第1世代とすると、破線部分(A部分)を挟んで左側に第5世代まで、右側に第3世代までそれぞれツリー状の図形を形成している。
 破線部分(A部分)は、頂点の円から組織図様の図形である@部分を左右のグループに分けるように破線が真下に引かれている。
 略三角形状の図形(B部分)は、上記第1世代から同第3世代まで左右全体を囲むように形成されている。
イ 原告は、図Aは文Aと共に、(ア)本件システム及び本件ビジネスプランの内容を一般人でも理解できるよう、視覚的にも文章でも分かりやすく説明、図示したものであり、自分自身を示す頂点の円を起点にピラミッド状のグループ大小を左右に分けて形成することで、図全体で自分を起点に拡大していくグループ全体(大小合わせたグループ)を表現するとともに、左右の大小のグループのうち小さい方のグループを大きい方のグループと対比できる形で、小さい方のグループの人数と一致する範囲を略三角形の図形で囲むことにより、小さい方のグループが報酬計算の算出基準となることを表現している、(イ)大のグループと小のグループの対比を視覚的に作り出し、この図に合わせて文章(文A)の上でも「小数」の表現を使用することで、グループの視覚的な大小の比較を作出し、グループ全体が自分を起点に拡大していくこと、他方で、幾ら多数の人数がグループを形成しても報酬の計算方法については小グループ(人数が少ない方のグループ)を基準にすることを視覚的、直感的に感得できるように工夫されているから、図形の著作物として著作物性が認められると主張する。
 原告の上記主張によれば、図Aは本件システム及び本件ビジネスプランの内容を図示したものであり、@部分及びA部分は、「自分自身を示す頂点の円を起点にピラミッド状のグループ大小を左右に分けて形成することで、図全体で自分を起点に拡大していくグループ全体(大小合わせたグループ)」を、B部分は、「左右の大小のグループのうち小さい方のグループを大きい方のグループと対比できる形で、小さい方のグループの人数と一致する範囲を略三角形の図形で囲むことにより、小さい方のグループが報酬計算の算出基準となること」をそれぞれ図示しているものと認められる。しかし、著作権法上の保護を受ける著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、アイデアや着想がそれ自体として著作権法の保護の対象となるものではない。そして、本件システム及び本件ビジネスプランや、その内容である「自分を起点にグループ全体が拡大していくこと」及び「小さい方のグループが報酬計算の算出基準となること」は、アイデアないし着想というべきであるから、それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とはならない。
 次に、図Aの図形としての著作物性について検討する。
 @部分のうち、複数の構成員から成る組織の構成を図式化するのに各構成員を円で表現し、構成員相互の結び付きを直線で図示している点は、ごくありふれた表現形式であって(原告図面の第一発行年月日である平成12年10月10日より前に発行された株式会社サイエンス社昭和52年10月5日発行の「アルゴリズムの設計と解析T」〔乙5〕、株式会社近代科学社平成2年9月25日発行の「アルゴリズムとデータ構造」〔乙7〕にも同様の図が掲載されている。)、それ自体何ら個性ある表現とはいえない。また、1人の構成員の下に必ず2人の構成員が割り振られる本件システムの内容を前提とする限り、その内容を図式化して表現しようとすれば、自ずと@部分のように1つの頂点を基に順次2本ずつ枝分かれしていく二分木(バイナリーツリー)のような表現形式を採らざるを得ないのであって、この点においても@部分は何ら個性ある表現とは認められない。
 A部分は、「自分自身を示す頂点の円を起点にピラミッド状のグループ大小を左右に分けて形成」することを視覚的に表現するために、組織全体を左右2つのグループに分けるように頂点の円から真下に破線を引いたものであるが、これも通常用いられるごくありふれた表現形式である。
 B部分は、@部分及びA部分の存在を前提に本件ビジネスプランの内容である「左右の大小のグループのうち…小さい方のグループが報酬計算の算出基準となる」ことを図式化して表現したものであるが、その内容を図式化して表現するために、大小2つのグループのうち世代が共通する部分を略三角形の形状をした図形で囲むことは、やはりありふれた表現形式であって、何ら個性ある表現とは認められない。
ウ したがって、図Aに図形の著作物としての創作性を認めることはできない。
(2) 文Aについて
 文Aは、「左右小数の方で計算し支払いを決める。」というものである。
 原告は、文Aは図Aと共に、本件システム及び本件ビジネスプランの内容を一般人でも理解できるよう、視覚的にも文章でも分かりやすく説明、図示したものであり、文章(文A)の上でも「小数」の表現を使用することで、グループの視覚的な大小の比較を作出し、人数を数として「少数・多数」で表現するのではなく、図形と文共に合わせて視覚的に「小数・大数」と表現することで、本件ビジネスモデルの根幹の理解を飛躍的に促進させる非常に重要な意味を持っているから、高い創作性があると主張する。
 しかしながら、本件システム及び本件ビジネスプランの一内容である、大小2つのグループのうち小さい方のグループが報酬計算の算出基準となること自体は、アイデアないし着想であるから、それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とはならないことは、上記(1)イに説示したとおりである。
 また、文Aの言語の著作物としての創作性についてみても、文Aは極めて短い1文であり、かつ、一般に使用されるありふれた用語で表現されたものにすぎない。人数が少ないことを「小数」と表現している点についても、「小数」の用語自体は「小さい数。わずかな数。」(広辞苑第6版)を意味するから、当該用語を通常の意味で用いたにすぎず、何ら創作性ある表現とは認められない。
 したがって、文Aに言語の著作物としての創作性を認めることはできない。
(3) 以上のとおり、原告図面のうち原告が図形の著作物であると主張する図A及び言語の著作物であると主張する文Aは、いずれも創作性を認めることはできないから、著作物と認めることはできない。
 したがって、被告が被告契約書面を作成する行為が、原告図面の複製権侵害に当たるとすることはできない。
 また、原告は、二次的著作物の利用権侵害を主張しているが、被告のいかなる行為が原告の二次的著作物(被告契約書面をいうものと解される。)の利用に関するいかなる権利を侵害するのかを特定しない。しかしながら、図A及び文Aが著作物とは認められない以上、図A及び文Aが被告契約書面の原著作物であるということはできず、被告契約書面の利用に関する被告の行為が図A及び文Aの著作権を侵害するということはできないから、この点について更に検討するまでもなく、原告の上記主張は理由がないことが明らかである。
2 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 岡本岳
 裁判官 坂本康博
 裁判官 寺田利彦
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日本ユニ著作権センター
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